説明

治療薬の経口投与のための製剤および関連する方法

本出願は、1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステルおよび1つまたは複数のPEG修飾されたリン脂質または脂肪酸エステルを含む製剤である、アンホテリシンBおよび他の治療薬の経口製剤に関する。本製剤は、胃液中で認められる低pHでの、治療薬の向上した生物学的利用能および/または増大した安定性をもたらす。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年5月25日に提出された米国仮出願第60/940,307号、2007年10月1日に提出された米国仮出願第60/976,708号、および2008年4月1日に提出された米国仮出願第61/041,478号の恩典を主張する。各出願はその全体が参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
インド亜大陸だけでも毎年500,000人以上が、マクロファージを侵し、重要臓器に急速に浸潤して、最終的には内臓細網内皮系の重症感染症を招く潜伏性寄生生物であるドノバンリーシュマニア(Leishmania donovani)の宿主となっている。内臓リーシュマニア症はカラアザールとしても知られ、集団内の虚弱者や若齢者で最も有病率が高い。治療しないまま放置すると、ほとんどすべての感染個体が死亡する。内臓リーシュマニア症には62カ国の2億人以上が罹患している。リーシュマニア属に対する治療上の武器は、五価アンチモン化合物の毎日の注射により非経口的に投与される少数の薬剤に限られる。アンチモン化合物よりも高価であるが、アンホテリシンB(AmpB)は治癒率が97%であり、耐性も報告されていない。しかし、薬物療法は30〜40日にわたるIV投与を要し、注入に関連する副作用(発熱、寒気、骨痛、血栓静脈炎)を伴う。治癒を達成する能力にさえも影響する可能性のある、用量を規定する毒性は、腎障害である。加えて、法外に高いコストおよび薬物投与経路の困難さが理由となって、アンホテリシンBは多くの患者には届いていない。
【0003】
先進国では、カンジダ症、ヒストプラスマ症、コクシジウム症およびアスペルギルス症などの播種性真菌感染症が増加中であり、これらに癌の患者、臓器移植レシピエント、糖尿病患者およびHIV/AIDSを有する者が罹患している。これらの患者において、侵襲性真菌感染症は死因の30%もを占めることがある。数多くの新たな抗真菌薬の開発にもかかわらず、IV投与されるミセルおよびリポソーム分散体として製剤化されたアンホテリシンBは、全身性真菌感染症の治療において最も有効な薬剤の1つであり続けている。加えて、種々の非経口製剤のアプローチがAmpBに関して検討されている。有効である半面、アンホテリシンBのこれらの非経口製剤の限界は、投与に伴う安全性の問題(留置カテーテルの感染、RBC溶血に起因する患者の寒気およびふるえ、用量依存的な腎毒性)、遠隔部位への非経口製品の投与の実施可能性、および薬物コストの高さである。
【0004】
アンホテリシンBの有効で安全な経口製剤の開発は、播種性真菌感染症の治療において重要な用途があると考えられ、かつ内臓リーシュマニア症の治療への利用機会(access)を劇的に拡張すると考えられる。しかし、AmpBの生物学的利用能は、水溶性の低さおよび胃液中で認められる低pHでの不安定性が原因で、無視しうるほどに低い。そのような限界はまた、経口製剤が望まれる種々の他の治療薬にも当てはまる。
【0005】
胃液中で認められる低pHでの、関心対象の治療薬の向上した生物学的利用能および/または増大した安定性をもたらす、アンホテリシンBならびに多くの他の治療薬の有効でかつ安全な経口製剤に対しては需要が存在する。本発明は、これらの需要を満たすことを目指しており、さらなる関連した利点をも提供する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、治療薬を製剤化するための組成物、その組成物を基にした治療薬製剤、その製剤を用いて治療薬を投与するための方法、ならびにその製剤を用いて病状および疾患を治療するための方法を提供する。
【0007】
1つの局面において、本発明は、以下のものを含むアンホテリシンB製剤を提供する:
(a)アンホテリシンB;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(c)1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル。
【0008】
1つの態様において、アンホテリシンBは製剤中に約0.5〜約10mg/製剤mLの量で存在する。1つの態様において、アンホテリシンBは製剤中に約5mg/mLで存在する。もう1つの態様において、アンホテリシンBは製剤中に約7mg/mLで存在する。
【0009】
1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは脂肪酸モノグリセリドを約32〜約52重量%含む。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは脂肪酸ジグリセリドを約30〜約50重量%含む。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは脂肪酸トリグリセリドを約5〜約20重量%含む。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルはオレイン酸モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを、約60%を上回る重量比で含む。
【0010】
1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、ホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩のC8-C22飽和脂肪酸エステルを含む。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩を含む。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール350塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール550塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール750塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール1000塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000塩およびそれらの混合物からなる群より選択される。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は製剤中に、製剤の体積ベースで1mM〜約30mMの量で存在する。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩はアンモニウム塩またはナトリウム塩である。
【0011】
1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、C8-C22飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、C12-C18飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステルおよびそれらの混合物からなる群より選択される。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、平均分子量が約750〜約2000であるポリエチレンオキシドを含む。
【0012】
1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は約20:80〜約80:20 v/vである。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は約60:40 v/vである。
【0013】
1つの態様において、本製剤はさらに、グリセロールを約10重量%未満の量で含む。
【0014】
1つの態様において、本製剤は自己乳化性(self-emulsifying)薬物送達システムである。
【0015】
もう1つの局面において、本発明は、アンホテリシンBを投与するための方法であって、本発明のアンホテリシンB製剤を、それを必要とする対象に投与する段階を含む方法を提供する。1つの態様において、製剤は経口的に投与される。もう1つの態様において、製剤は局所的に投与される。
【0016】
もう1つの局面において、本発明は、アンホテリシンBの投与によって治療しうる感染症を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、本発明のアンホテリシンB製剤の治療的有効量を投与する段階を含む方法を提供する。1つの態様において、製剤は経口的に投与される。もう1つの態様において、製剤は局所的に投与される。
【0017】
本製剤によって治療しうる疾患には、真菌感染症、内臓リーシュマニア症、皮膚リーシュマニア症、シャーガス病、アルツハイマー病、または発熱性好中球減少症が含まれる。本製剤によって治療しうる真菌感染症には、アスペルギルス症、ブラストミセス症、カンジダ症、コクシジオイデス症、クリプトコッカス症(crytococcosis)、ヒストプラスマ症、ムコール菌症、パラコクシジオイデス症、またはスポロトリクム症が含まれる。
【0018】
もう1つの局面において、本発明は、
(a)治療薬;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(c)1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル
を含む、治療薬の送達のための製剤を提供する。
【0019】
1つの態様において、治療薬は製剤中に、約0.1mg/mL〜約25mg/mL製剤の量で存在する。
【0020】
ある態様において、治療薬は、抗癌薬、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗プリオン薬、抗アメーバ薬、非ステロイド性抗炎症薬、抗アレルギー薬、免疫抑制薬、冠血管薬(coronary drug)、鎮痛薬、局所麻酔薬、抗不安薬、鎮静薬、睡眠薬、片頭痛緩和薬、乗り物酔いに対する薬物、および制吐薬からなる群より選択される。
【0021】
ある態様において、治療薬は、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、アシクロビル、イドクスウリジン、トロマンタジン、ミコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、エコナゾール、グリセオフルビン、アンホテリシンB、ニスタチン、メトロニダゾール、安息香酸メトロニダゾール、チニダゾール、インドメタシン、イブプロフェン、ピロキシカム、ジクロフェナク、クロモグリク酸ナトリウム、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ベラパミル、ニフェジピン、ジルチアゼム、ジゴキシン、モルヒネ、シクロスポリン、ブプレノルフィン、リドカイン、ジアゼパム、ニトラゼパム、フルラゼパム、エスタゾラム、フルニトラゼパム、トリアゾラム、アルプラゾラム、ミダゾラム、テマゼパムロルメタゼパム、ブロチゾラム、クロバザム、クロナゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、ブスピロン(busiprone)、スマトリプタン、エルゴタミン誘導体、シンナリジン、抗ヒスタミン薬、オンダンセトロン、トロピセトロン、グラニセトロン、メトクロプラミド、ジスルフィラム、ビタミンK、パクリタキセル、ドセタキセル、カンプトテシン、SN38、シスプラチン、およびカルボプラチンからなる群より選択される。
【0022】
1つの態様において、本製剤はさらに、第2の治療薬を含む。
【0023】
1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは脂肪酸モノグリセリドを約32〜約52重量%含む。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは脂肪酸ジグリセリドを約30〜約50重量%含む。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは脂肪酸トリグリセリドを約5〜約20重量%含む。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルはオレイン酸モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを、約60%を上回る重量比で含む。
【0024】
1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、ホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩のC8-C22飽和脂肪酸エステルを含む。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩を含む。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール350塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール550塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール750塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール1000塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000塩およびそれらの混合物からなる群より選択される。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は、製剤中に、製剤の体積ベースで1mM〜約30mMの量で存在する。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩はアンモニウム塩またはナトリウム塩である。
【0025】
1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、C8-C22飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、C12-C18飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステルおよびそれらの混合物からなる群より選択される。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、平均分子量が約750〜約2000であるポリエチレンオキシドを含む。
【0026】
1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は約20:80〜約80:20 v/vである。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は約60:40 v/vである。
【0027】
1つの態様において、本製剤はさらに、グリセロールを約10重量%未満の量で含む。
【0028】
1つの態様において、本製剤は自己乳化性薬物送達システムである。
【0029】
もう1つの局面において、本発明は、本発明の治療薬製剤をそのような薬剤を必要とする対象に投与する段階を含む、治療薬を投与するための方法を提供する。1つの態様において、製剤は経口的に投与される。もう1つの態様において、製剤は局所的に投与される。
【0030】
もう1つの局面において、本発明は、
(a)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(b)1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル
を含む、治療薬を製剤化するための組成物を提供する。
【0031】
1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは、脂肪酸モノグリセリドを約32〜約52重量%含む。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは脂肪酸ジグリセリドを約30〜約50重量%含む。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは脂肪酸トリグリセリドを約5〜約20重量%含む。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは、オレイン酸モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを約60%を上回る重量比で含む。
【0032】
1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、ホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩のC8-C22飽和脂肪酸エステルを含む。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩を含む。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール350塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール550塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール750塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール1000塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000塩およびそれらの混合物からなる群より選択される。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は、製剤中に、製剤の体積ベースで1mM〜約30mMの量で含む。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩はアンモニウム塩またはナトリウム塩である。
【0033】
1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルはC8-C22飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルはC12-C18飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステルおよびそれらの混合物からなる群より選択される。1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは平均分子量が約750〜約2000であるポリエチレンオキシドを含む。
【0034】
1つの態様において、本組成物はさらに、グリセロールを約10%重量未満の量で含む。
【0035】
もう1つの局面において、本発明は、治療薬を製剤化するために治療薬を本発明の組成物と組み合わせる段階を含む、治療薬を製剤化するための方法を提供する。
【0036】
添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるようになるのに伴い、本発明の前述の諸局面およびその付随的な利点の多くは、より容易に正しく理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1A】アンホテリシンB(AmpB)の化学構造を図示している。
【図1B】ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000アンモニウム塩(DSPE-PEG-2000)の化学構造を図示している。
【図2】AmpB/PECEOL(登録商標)製剤、ならびにDSPE-PEG-2000を5、10および15mMの濃度で含む本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000)におけるAmpB濃度(μg/mL)を比較している。
【図3A】擬似胃液(SGF)中でインキュベートした、本発明の代表的なAmpB製剤(PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG)のさまざまな濃度(0.5〜15μg/ml)での経時的なUV吸光スペクトルを比較している。
【図3B】AmpB吸光度と濃度とを対比した標準曲線を構築するために、407nmでのピーク高を用いてまとめた図2A中のデータからの標準曲線を比較している。DSPE-PEG分子量が異なる各製剤について異なる標準曲線を作成した。
【図4】37℃の擬似胃液中での、本発明の代表的な製剤(PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG 350、550、750および2000)におけるAmpBの安定性を、時間の関数(10、30および120分)として、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤と比較している。
【図5】図5AおよびBは、37℃の空腹状態擬似腸液(FSSIF)中での、レシチンの非存在下(5A)およびレシチンの存在下(5B)における、本発明の代表的な製剤(PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG 350、550、750および2000、それぞれPEG 350、550、750、2000と命名)におけるAmpBの安定性を、時間の関数(10、30、60および120分)として、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤と比較している。
【図6】37℃の擬似腸液(SIF)中での、パンクレアチン酵素の存在下における、本発明の代表的な製剤(PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG 350、550、750および2000、それぞれPEG 350、550、750、2000と命名)におけるAmpBの安定性を、時間の関数(10、30、60および120分)として、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤と比較している。
【図7】カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、対照、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(10mg/kg)、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、AmpB/DSPE-PEG-2000と命名、10mg/kg)および静脈内ABELCET(登録商標)(ABLCと命名、5mg/ml)による処置を受けたラットの腎臓における、カンジダ-アルビカンス濃度(CFU/ml)を比較している。
【図8】カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、対照、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(10mg/kg)、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、AmpB/DSPE-PEG-2000と命名、10mg/kg)および静脈内ABELCET(登録商標)(ABLCと命名、5mg/ml)による処置を受けたラットの諸臓器における、カンジダ-アルビカンス濃度(CFU/ml)を比較している。
【図9】カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、対照、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(10mg/kg)、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、AmpB/DSPE-PEG-2000と命名、10mg/kg)および静脈内ABELCET(登録商標)(ABLCと命名、5mg/ml)(ブランク、0時間および48時間)による処置を受けたラットにおける血漿クレアチニン(mg/dl)を比較している。
【図10】図10A〜10Cは、さまざまなPECEOL(登録商標):GELUCIRE(登録商標)比(60:40;50:50;および40:60 v/v)での、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14;AmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)50/13;およびAmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)53/10)における、2、4および24時間の時点でのAmpB濃度(mg/mL)を比較している。
【図11】AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(PECEOL(登録商標)と命名)および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50;およびAmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、15mM DSPE-PEG-2000)に関する、経時的(0、1、5、7、15、21、28、36、43、49および56日)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している。
【図12】擬似胃液(SGF)中での、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50;およびAmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、15mM DSPE-PEG-2000)に関する経時的(10、30、45、60、90および120分)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している。
【図13】AmpB/PECEOL(登録商標)製剤および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50)に関する、摂食状態擬似腸液(FeSSIF)における経時的(10、30、45、60、90、120および240分)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している。
【図14】摂食状態擬似腸液(FeSSIF)中での、酵素の存在下におけるAmpB/PECEOL(登録商標)製剤および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50)に関する経時的(10、30、45、60、90、120および240分)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している。
【図15】空腹状態擬似腸液(FaSSIF)中での、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50)に関する経時的(10、30、45、60、90、120および240分)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している。
【図16】室温および43℃で7日後の、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、15mM DSPE-PEG-2000)のAmpB濃度(元の濃度である10mg/mLに対する%)を比較している(AmpBは指定時間後の遠心処理試料のUV吸光度により測定)。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
本発明は、治療薬を製剤化するための組成物を提供する。本組成物は、治療薬、特に難溶性の治療薬を可溶化するために有効である。本組成物は、治療薬の生物学的利用能を有利なように向上させる。本発明はまた、治療薬の送達、特に治療薬の経口投与のために有効な組成物を基にした治療薬製剤も提供する。本明細書ではアンホテリシンB製剤をプロトタイプ的な例として用いるが、当業者はそのような製剤を種々の治療薬に対して適用しうることを正しく理解するであろう。したがって、1つの局面において、本発明は、本組成物を基にしたアンホテリシンB製剤を提供する。アンホテリシンB製剤はアンホテリシンBを効果的に可溶化することで、アンホテリシンB濃度の上昇した製剤を与え、それと同時に、アンホテリシンBの向上した生物学的利用能も与える。
【0039】
アンホテリシンB製剤
1つの局面において、本発明は、アンホテリシンB製剤、それらの製剤を製造するための方法、それらの製剤を用いてアンホテリシンBを投与するための方法、および、それらの製剤を投与することによってアンホテリシンBにより治療しうる疾患を治療するための方法を提供する。
【0040】
アンホテリシンBは有効な抗真菌薬であり、現在のところ、重篤な全身性真菌感染症のほとんどを治療するために選択される薬剤である。この薬物は、真菌膜の主要なステロール成分であるエルゴステロールと強く結合して、膜に孔を形成させ、膜の破壊、細胞透過性および溶解を引き起こす。
【0041】
アンホテリシンBは、いくつかの不都合な特性のために臨床投与において制約がある。第1に、アンホテリシンBはほとんどの哺乳動物細胞膜に存在するステロールであるコレステロールと強い結合親和性で結合し、それ故に宿主細胞を破壊する恐れがある。これはイヌの腎毒性を招く。第2に、アンホテリシンBは胃の酸性環境に対するその貧溶性および敏感さのために胃腸管(GIT)では吸収されない。この問題を克服するために、アンホテリシンBは、ある種の全身性真菌感染症の治療のために、リポソーム(AMBISOME(登録商標))として、またはコロイド分散体(FUNGIZONE(登録商標)、ABELCET(登録商標))として、非経口的に用いられる(Arikan and Rex, 2001. Lipid-based antifungal agents: current status. Curr. Pharm. Des. 5, 393-415)。
【0042】
しかし、アンホテリシンBの静脈内注射および注入には重大な欠点がある。第1に、アンホテリシンBの静脈内注射および注入は、血中の薬物濃度のかなりの変動、および腎毒性などの副作用を伴う(Muller et al., 2000, Nanosuspensions for the formulation of poorly soluble drugs-rationale for development and what we can expect for the future. In: Nielloud, F., Marti-Mestres, G. (Eds.), Pharmaceutical emulsions and suspensions. Plenum Press/Marcel Dekker, New York, pp. 383-408)。第2に、コストが高いことに加えて、アンホテリシンBの注射用および注入用製剤はコンプライアンスの低さ、および流行国における投与に伴う技術的問題も呈する。
【0043】
1つの態様において、本発明は、経口的に投与することのできるアンホテリシンB製剤を提供することによってこれらの欠点を克服する。本発明の経口アンホテリシンB製剤は、患者コンプライアンスを改善し、薬物の薬物動態を改善し、かつGI管におけるアンホテリシンB吸収を増加させると期待される。
【0044】
アンホテリシンBは、ストレプトマイセス-ノドサス(Streptomyces nodosus)M4575から得られた抗真菌性ポリエン抗生物質である。アンホテリシンBは化学的には、[1R-(1R*,3S*,5R*,6R*,9R*,11R*,15S*,16R*,17R*,18S*,19E,21E,23E,25E,27E,29E,31E,33R*,35S*,36R*,37S,)]-33-[(3-アミノ-3,6-ジデオキシ-β-D-マンノピラノシル)オキシ]1,3,5,6,9,11,17,37-オクタヒドロキシ-15,16,18-トリメチル-13-オキソ-14,39-ジオキサビシクロ-[33.3.1]ノナトリアコンタ-19,21,23,25,27,29,31-ヘプタエン-36-カルボン酸と命名される。アンホテリシンBの化学構造は図1Aに示す。結晶性アンホテリシンBは水に不溶性である。
【0045】
1つの局面において、本発明は、アンホテリシンB製剤を提供する。本発明のアンホテリシン製剤は。以下を含む:
(a)アンホテリシンB;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(c)1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル。
【0046】
代表的な製剤において、アンホテリシンBは、約0.5〜約10mg/mL製剤の量で存在する。1つの態様において、アンホテリシンBまたはその薬学的に許容される塩は、製剤中に約5mg/mLで存在する。1つの態様において、アンホテリシンBまたはその薬学的に許容される塩は、製剤中に約7mg/mLで存在する。
【0047】
アンホテリシンB製剤は、1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル、典型的には、脂肪酸グリセロールエステルの混合物を含む。本明細書で用いる場合、「脂肪酸グリセロールエステル」という用語は、モノ-エステル、ジ-エステル、およびトリ-エステルを含む、グリセロールと1つまたは複数の脂肪酸との間で形成されるエステル(すなわち、グリセリド)のことを指す。適した脂肪酸には、8個〜22個の炭素原子を有する飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸(すなわち、C8-C22脂肪酸)が含まれる。ある態様において、適した脂肪酸にはC12-C18脂肪酸が含まれる。
【0048】
本製剤において有用な脂肪酸グリセロールエステルは、販売元によって提供されうる。脂肪酸グリセロールエステルの代表的な供給源は、一般的には「オレイン酸グリセリル」または「モノオレイン酸グリセリル」と呼ばれる、PECEOL(登録商標)(Gattefosse, Saint Priest Cedex, France)として市販されているモノ-エステル、ジ-エステル、およびトリ-エステルの混合物である。PECEOL(登録商標)を、製剤における脂肪酸グリセロールエステルの供給源として用いる場合には、脂肪酸グリセロールエステルは脂肪酸モノグリセリドを約32〜約52重量%、脂肪酸ジグリセリドを約30〜約50重量%、および脂肪酸トリグリセリドを約5〜約20重量%含む。脂肪酸グリセロールエステルは、オレイン酸(C18:1)モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを、約60%を上回る重量比で含む。他の脂肪酸グリセロールエステルには、パルミチン酸(C16)(約12%未満)、ステアリン酸(C18)(約6%未満)、リノール酸(C18:2)(約35%未満)、リノレン酸(C18:3)(約2%未満)、アラキジン酸(C20)(約2%未満)およびエイコセン酸(C20:1)(約2%未満)のエステルが含まれる。PECEOL(登録商標)はまた、遊離グリセロール(典型的には約1%)も含みうる。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルは、脂肪酸モノグリセリドを約44重量%の、脂肪酸ジグリセリドを約45重量%、および脂肪酸トリグリセリドを約9重量%含み、脂肪酸グリセロールエステルはオレイン酸(C18:1)モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを約78重量%含む。他の脂肪酸グリセロールエステルには、パルミチン酸(C16)(約4%)、ステアリン酸(C18)(約2%)、リノール酸(C18:2)(約12%)、リノレン酸(C18:3)(1%未満)、アラキジン酸(C20)(1%未満)およびエイコセン酸(C20:1)(1%未満)が含まれる。
【0049】
ある態様において、本発明の製剤は、グリセロールを約10重量%未満の量で含みうる。
【0050】
アンホテリシンB製剤:ポリエチレンオキシド含有リン脂質(DSPE-PEG)
本アンホテリシンB製剤は、1つまたは複数のポリエトキシ化(polyethoxylated)脂質を含む。1つの態様において、ポリエトキシ化脂質は、ポリエチレンオキシド含有リン脂質、またはポリエチレンオキシド含有リン脂質の混合物である。もう1つの態様において、ポリエトキシ化脂質は、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル、またはポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルの混合物である。
【0051】
したがって、1つの態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、以下を含む:
(a)アンホテリシンB;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(c)1つまたは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質。
【0052】
本明細書で用いる場合、「ポリエチレンオキシド含有リン脂質」という用語は、典型的にはカルバメート結合またはエステル結合を介してリン脂質と共有的に連結した、ポリエチレンオキシド基(すなわち、ポリエチレングリコール基)を含むリン脂質のことを指す。リン脂質はグリセロールに由来し、これは1つのリン酸エステル基および2つの脂肪酸エステル基を含みうる。適した脂肪酸には、8個〜22個の炭素原子を有する飽和および不飽和脂肪酸(すなわち、C8-C22脂肪酸)が含まれる。ある態様において、適した脂肪酸には飽和C12-C18脂肪酸が含まれる。代表的なポリエチレンオキシド含有リン脂質には、ホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩のC8-C22飽和脂肪酸エステルが含まれる。ある態様において、適した脂肪酸には飽和C12-C18脂肪酸が含まれる。
【0053】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質のポリエチレンオキシド基の分子量は、製剤中の治療薬(例えば、アンホテリシンB)の溶解性を最適化するためにさまざまでありうる。ポリエチレンオキシド基についての代表的な平均分子量は、約200〜約5000(例えば、PEG 200〜PEG 5000)でありうる。
【0054】
1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩である。代表的なジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩には、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール350(DSPE-PEG-350)塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール550(DSPE-PEG-550)塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール750(DSPE-PEG-750)塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール1000(DSPE-PEG-1000)塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール1500(DSPE-PEG-1500)塩、およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000(DSPE-PEG-2000)塩が含まれる。混合物を用いることもできる。上記のジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩に関して、数字(例えば、350、550、750、1000および2000)は、ポリエチレンオキシド基の平均分子量を指定している。本明細書で用いられるこれらの塩に関する略号は、上記のものでは括弧内に提示されている。
【0055】
適したジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩には、アンモニウム塩およびナトリウム塩が含まれる。
【0056】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000(DSPE-PEG-2000)アンモニウム塩の化学構造は、図1Bに図示されている。図1Bを参照すると、ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、1つのリン酸エステル基および2つの脂肪酸エステル(ステアリン酸)基、ならびにカルバメート結合を介してホスファチジルエタノールアミンのアミノ基と共有的に連結されたポリエチレンオキシド基を含む。
【0057】
上述したように、ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、製剤が治療薬を可溶化する能力に影響を及ぼす。一般に、ポリエチレンオキシド含有リン脂質の量が多いほど、難溶性治療薬に対する製剤の可溶化能力は大きくなる。ポリエチレンオキシド含有リン脂質は、製剤中に、製剤の体積ベースで約1mM〜約30mMの量で存在する。ある態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は、製剤中に、製剤の体積ベースで1mM〜約30mMの量で存在する。1つの態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は、製剤中に、製剤の体積ベースで約15mMで存在する。
【0058】
図2は、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(ポリエチレンオキシド含有リン脂質もポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルも含まない)、ならびにDSPE-PEG-2000を5、10および15mMの濃度で含む本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000)におけるアンホテリシンB濃度(μg/mL)を比較している。AmpBは、45℃での24時間後の遠心処理試料のUV吸光度により測定した。
【0059】
1つの態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、以下を含む:
(a)アンホテリシンB;
(b)オレイン酸グリセロールエステル;および
(c)ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩。
【0060】
1つの態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、アンホテリシンB、PECEOL(登録商標)およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩を含む。この態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は最大で約30mMまでの量で存在する。
【0061】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質を含む本発明の代表的なアンホテリシンB製剤の調製および特性決定は、実施例1に記載されている。
【0062】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質を含むアンホテリシンB製剤は、一部は可溶化され(溶解し)、かつ固体粒子としても存在して微細な固体分散体を与えるアンホテリシンBを含む。水性媒質中にある製剤の分散体は、サイズが約50nm〜約5μmの範囲にわたるエマルション液滴を有するナノ-/マイクロ-エマルションをもたらす。
【0063】
ポリエチレングリコール分子量は、37℃での2時間の期間にわたる混合後の擬似腸液中のエマルション液滴サイズに対して明らかな影響を及ぼさなかった(表3)。極めて広い多分散性を備える300〜600nmの範囲にあるサブミクロンの平均直径が観察された。二峰性の粒径分布も生じ、小さい部分集団(約20%)はサブミクロンの範囲(150〜300nm)を中心とし、もう一方は1〜2μmの範囲を中心とした(約80%)。PECEOL(登録商標)のみの中にあるAmpBも、擬似腸液中で類似したサイズおよび分布の液滴を形成した。
【0064】
経口投与される製剤としてのそれらの有効性を判定するために、本発明の代表的なアンホテリシンB製剤の安定性を擬似胃液中で評価した。図3Aは、擬似胃液(SGF)中でインキュベートした、本発明の代表的なAmpB製剤(PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG)のさまざまな濃度(0.5〜15μg/ml)での経時的なUV吸光スペクトルを比較している。いずれの濃度でも、最長60分間までのインキュベーション時間の関数としてピーク高さにもピーク比にも変化はみられなかった。図3Bは、AmpB吸光度と濃度とを対比した標準曲線を構築するために、407nmでのピーク高を用いてまとめた図2A中のデータからの標準曲線を比較している。DSPE-PEG分子量が異なる各製剤について異なる標準曲線を作成した。図4は、37℃の擬似胃液中での、本発明の代表的な製剤(PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG 350、550、750および2000)におけるAmpBの安定性を、時間の関数(10、30および120分)として、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤と比較している。データは、3回の独立した実験の平均±SDを表しており、そのそれぞれは3件ずつ行った。評価した本発明の代表的な製剤のそれぞれは、評価した時間枠にわたって擬似胃液中での安定性を示した。
【0065】
本発明の代表的なアンホテリシンB製剤の安定性を、レシチンの非存在下およびレシチンの存在下にある空腹状態擬似腸液(FSSIF)中、ならびにパンクレアチン酵素の存在下にある擬似腸液中でも評価した。図5Aおよび5Bは、37℃の空腹状態擬似腸液(FSSIF)中での、レシチンの非存在下(5A)およびレシチンの存在下(5B)における、本発明の代表的な製剤(PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG 350、550、750および2000、それぞれPEG 350、550、750、2000と命名)におけるAmpBの安定性を、時間の関数(10、30、60および120分)として、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤と比較している。データは、3回の独立した実験の平均±SDを表しており、そのそれぞれは3件ずつ行った。図6は、37℃の擬似腸液(SIF)中での、パンクレアチン酵素の存在下における、本発明の代表的な製剤(PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG 350、550、750および2000、それぞれPEG 350、550、750、2000と命名)におけるAmpBの安定性を、時間の関数(10、30、60および120分)として、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤と比較している。データは、3回の独立した実験の平均±SDを表しており、そのそれぞれは3件ずつ行った。評価した本発明の代表的な製剤のそれぞれは、評価した時間枠にわたって擬似胃液中での安定性を示した。
【0066】
GI液中での代表的なアンホテリシンB製剤の安定性は、経口投与される製剤としてのそれらの適性を実証している。
【0067】
PECEOL(登録商標)中のAmpBは安定化され、その溶解性は15mM DSPE-PEGの組み入れによって50倍に増大し、その際にPEG平均分子量は350〜2000の間でさまざまであった。胃内および腸内での薬物安定性は、GI管における薬物吸収を促進するためには決定的に重要である。AmpBは比較的安定であるが低pHでは相対的に不安定であることが周知であり、このため製剤の脂質成分によって付与される任意の防御が、AmpBの経口生物学的利用能を高めることに対して大きな利点となりうる。また、薬物溶解性ならびにインビボ活性に影響することが以前に示されているAmpBの超凝集状態に、脂質ベシクルが影響するか否かを知ることも重要である。擬似胃液または腸液中でのインキュベーションの前および後での、本明細書に記載した脂質ベシクル中のAmpBのUVスペクトルパターンは、モノマー性AmpBと合致した(図3A参照)。UVスペクトルパターンの変化は、大気温度貯蔵(21℃)では4週間の期間にわたっていずれも認められなかった(非提示データ)。しかし、AmpBと非希釈製剤(アッセイ溶媒の非存在下)中の脂質成分との間の相互作用は、インビボでの経口吸収後では異なる可能性がある。
【0068】
2時間にわたる擬似胃液中での本発明の代表的な製剤の安定性は優れており、さまざまなDSPE-PEGと共に、またはPECEOL(登録商標)のみで調製した製剤間でのばらつきは驚くほどわずかであった(図4〜6参照)。そのすべてが半透明な外観を示し、沈殿物は出現しなかった。胆汁酸塩を含む擬似空腹状態腸液中では、安定性についてより多くの変動が観察された(図5Aおよび5B参照)。パンクレアチン中での胆汁酸塩、レシチンおよびホスホリパーゼの乳化特性は、製剤安定性に影響しうると考えられ、それ故にこれらの成分を含む擬似腸液中で薬物安定性を評価した。レシチンは擬似腸液中に含めた場合には脂質混合物中に組み入れられる可能性が高いと考えられ、それはアンホテリシンBと脂質添加剤との会合を改善するか、またはそれを排除するかのいずれかの能力を有していた。しかし、レシチンの存在は、分解の速度または程度にも、2時間の終了時点での分解の順位にも認めうる差異をもたらさなかった(図5B参照)。明らかに、DSPE-PEG 350を含む製剤は、より長鎖のPEGを含むものよりも低い薬物安定性をもたらした。レシチンの非存在下では、DSPE-PEGミセルに、例えばDSPE-PEG350が自己会合して別個のミセル集団となった場合に合致すると考えられる50nm未満の有意な集団はサブミクロン粒径分析によって示されなかった(図5A参照)。さらに、DSPE-PEGの存在またはポリエチレングリコール分子量のいずれかに起因する、粒径に対する有意な影響もみられず、このことは乳化特性が主としてPECEOL(登録商標)成分に由来することを示唆する。しかし、DSPE-PEG製剤のいずれについても、擬似腸液中でミセルのわずかな割合が脂質添加剤/薬物混合物との平衡下で存在するという可能性を否定することはできないが、それは主要な要素ではないように思われる。このため、PECEOL(登録商標)/比較的高分子量のDSPE-PEG中でのAmpBの安定性の改善は、粒径分布との直接的な関連はみられないとはいえ、親水性ポリエチレングリコール鎖が水界面に向かって配向する一方で、PECEOL(登録商標)/AmpB画分は内部油相に留まり、それによってAmpBを封鎖するとともに分解から防御するような形で、エマルション液滴それ自体の表面特性と関係している可能性がある。このように、PEG分子量750および2000は350および550と比較して安定性が高い傾向があった。AmpBとPECEOL(登録商標)/DSPE-PEGとの相互作用は、凝集性AmpBではなくモノマー性AmpBに合致するUVスペクトル形状をもたらした(図3A)。
【0069】
アンホテリシンB製剤:ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル
上述したように、アンホテリシンB製剤は、ポリエチレンオキシド含有リン脂質などの1つもしくは複数のポリエトキシ化脂質、または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル、典型的には、ポリエチレンオキシド含有リン脂質の混合物またはポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルの混合物を含む。
【0070】
したがって、1つの態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、以下を含む:
(a)アンホテリシンB;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(c)1つまたは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル。
【0071】
本明細書で用いる場合、「ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル」とは、エステル結合を介して脂肪酸と共有的に連結したポリエチレンオキシド基(すなわち、ポリエチレングリコール基)を含む脂肪酸エステルのことを指す。ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルには、ポリエチレングリコールのモノ-およびジ-脂肪酸エステルが含まれる。適したポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、8個〜22個の炭素原子を有する飽和および不飽和脂肪酸(すなわち、C8-C22脂肪酸のポリエチレンオキシドエステル)を含む脂肪酸に由来する。ある態様において、適したポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、12個〜18個の炭素原子を有する飽和および不飽和脂肪酸(すなわち、C12-C18脂肪酸のポリエチレンオキシドエステル)を含む脂肪酸に由来する。代表的なポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルには、飽和C8-C22脂肪酸エステルが含まれる。ある態様において、適したポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルには飽和C12-C18脂肪酸が含まれる。
【0072】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルのポリエチレンオキシド基の分子量は、製剤中の治療薬(例えば、アンホテリシンB)の溶解性を最適化するためにさまざまでありうる。ポリエチレンオキシド基についての代表的な平均分子量は約350〜約2000である。1つの態様において、ポリエチレンオキシド基についての平均分子量は約1500である。
【0073】
この態様において、アンホテリシンB製剤は、1つまたは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル、典型的には、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル(ポリエチレングリコールのモノ-およびジ-脂肪酸エステル)の混合物を含む。
【0074】
本製剤において有用なポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、販売元によって提供されうる。代表的なポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル(モノ-およびジ-エステルの混合物)は、GELUCIRE(登録商標)(Gattefosse, Saint Priest Cedex, France)という名称で市販されている。適したポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、GELUCIRE(登録商標)44/14、GELUCIRE(登録商標)50/13およびGELUCIRE(登録商標)53/10によって提供されうる。これらの名称における数字はそれぞれ、これらの材料の融点および親水性/親油性バランス(HLB)を指す。
【0075】
GELUCIRE(登録商標)44/14、GELUCIRE(登録商標)50/13およびGELUCIRE(登録商標)53/10は、(a)グリセロールのモノ-エステル、ジ-エステル、およびトリ-エステル(グリセリド)、ならびに(b)ポリエチレングリコールのモノ-エステルおよびジ-エステル(マクロゴール)の混合物である。GELUCIREは遊離ポリエチレングリコール(例えば、PEG 1500)を含むこともできる。
【0076】
ラウリン酸(C12)は、GELUCIRE(登録商標)44/14におけるグリセリドおよびポリエチレングリコールエステルの主たる脂肪酸成分である。GELUCIRE(登録商標)44/14は、グリセリルジラウレート(グリセロールとのラウリン酸ジエステル)およびPEGジラウレート(ポリエチレングリコールとのラウリン酸ジエステル)の混合物であり、PEG-32グリセリルラウレート(Gattefosse) ラウロイルマクロゴール-32グリセリドEP、またはラウロイルポリオキシルグリセリドUSP/NFとして一般的に知られている。GELUCIRE(登録商標)44/14は、硬化パーム核油とポリエチレングリコール(平均分子量1500)との反応によって生成される。GELUCIRE(登録商標)44/14は、約20%がモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリド、約72%がポリエチレングリコール1500のモノ-およびジ-脂肪酸エステル、ならびに約8%がポリエチレングリコール1500で構成される。
【0077】
GELUCIRE(登録商標)44/14は、ラウリン酸(C12)エステル(30〜50%)、ミリスチン酸(C14)エステル(5〜25%)、パルミチン酸(C16)エステル(4〜25%)、ステアリン酸(C18)エステル(5〜35%)、カプリル酸(C8)エステル(15%未満)およびカプリン酸(C10)エステル(12%未満)を含む。GELUCIRE(登録商標)44/14はまた、遊離グリセロール(典型的には約1%未満)を含んでもよい。1つの代表的な製剤では、GELUCIRE(登録商標)44/14は、ラウリン酸(C12)エステル(約47%)、ミリスチン酸(C14)エステル(約18%)、パルミチン酸(C16)エステル(約10%)、ステアリン酸(C18)エステル(約11%)、カプリル酸(C8)エステル(約8%)およびカプリン酸(C10)エステル(約12%)を含む。
【0078】
パルミチン酸(C16)(40〜50%)およびステアリン酸(C18)(48〜58%)は、GELUCIRE(登録商標)50/13におけるグリセリドおよびポリエチレングリコールエステルの主たる脂肪酸成分である。GELUCIRE(登録商標)50/13は、PEG-32グリセリルパルミトステアリン酸(Gattefosse)、ステアロイルマクロゴールグリセリドEPまたはステアロイルポリオキシルグリセリドUSP/NF)として知られる。GELUCIRE(登録商標)50/13は、パルミチン酸(C16)エステル(40〜50%)、ステアリン酸(C18)エステル(48〜58%)(ステアリン酸エステルおよびパルミチン酸エステルで約90%を上回る)、ラウリン酸(C12)エステル(5%未満)、ミリスチン酸(C14)エステル(5%未満)、カプリル酸(C8)エステル(3%未満)およびカプリン酸(C10)エステル(3%未満)。GELUCIRE(登録商標)50/13はまた、遊離グリセロール(典型的には約1%未満)を含んでもよい。1つの代表的な製剤では、GELUCIRE(登録商標)50/13は、パルミチン酸(C16)エステル(約43%)、ステアリン酸(C18)エステル(約54%)(ステアリン酸エステルおよびパルミチン酸エステルで約97%)、ラウリン酸(C12)エステル(1%未満)、ミリスチン酸(C14)エステル(約1%)、カプリル酸(C8)エステル(1%未満)およびカプリン酸(C10)エステル(1%未満)を含む。
【0079】
ステアリン酸(C18)は、GELUCIRE(登録商標)53/10におけるグリセリドおよびポリエチレングリコールエステルの主たる脂肪酸成分である。GELUCIRE(登録商標)53/10は、PEG-32グリセリルステアリン酸(Gattefosse)として知られる。
【0080】
1つの態様において、ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステルまたはステアリン酸エステル(すなわち、ポリエチレングリコールのモノ-およびジ-ラウリン酸エステル、ポリエチレングリコールのモノ-およびジ-パルミチン酸エステル、ポリエチレングリコールのモノ-およびジ-ステアリン酸エステル)である。これらのエステルの混合物を用いることもできる。
【0081】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルを含む態様に関して、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は、約20:80〜約80:20 v/vである。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は、約30:70 v/vである。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は、約40:60 v/vである。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は、約50:50 v/vである。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は、約60:40 v/vである。1つの態様において、脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比は、約70:30 v/vである。
【0082】
1つの態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、以下を含む:
(a)アンホテリシンB;
(b)オレイン酸グリセロールエステル;および
(c)ポリエチレングリコールのラウリン酸エステル。
【0083】
もう1つの態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、以下を含む:
(a)アンホテリシンB;
(b)オレイン酸グリセロールエステル;ならびに
(c)ポリエチレングリコールのパルミチン酸エステルおよびステアリン酸エステル。
【0084】
1つのさらなる態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、以下を含む:
(a)アンホテリシンB;
(b)オレイン酸グリセロールエステル;および
(c)ポリエチレングリコールのステアリン酸エステル。
【0085】
1つの態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、アンホテリシンB、PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)44/14を含む。もう1つの態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、アンホテリシンB、PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)50/13を含む。1つのさらなる態様において、本発明のアンホテリシンB製剤は、アンホテリシンB、PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)53/10を含む。これらの態様において、PECEOL(登録商標)とGELUCIRE(登録商標)との比は、20:80〜80:20(例えば、20:80、30:70;40:60;50:50;60:40;70:30;および80:20)でありうる。
【0086】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルを含む本発明の代表的なアンホテリシンB製剤の調製および特性決定については、実施例1に説明している。
【0087】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルを含むアンホテリシンB製剤は、一部は可溶化され(溶解し)、かつ固体粒子としても存在して微細な固体分散体を与えるアンホテリシンBを含む。水性媒質中にある製剤の分散体は、ナノ-/マイクロ-エマルションをもたらす。
【0088】
アンホテリシンBの予備的なSEDDS製剤(実施例1参照)は、生理食塩水中への分散後に、自己乳化および小さな液滴サイズを生じた。CAPTEX(登録商標)355を基にした製剤の分散特性は、PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14または50/13の混合物を基にしたものに類似しており、サブミクロンまたは1μmの範囲(表1および2を参照)にあるエマルション液滴の複数の部分集団を生じさせた。この粒径は、吸収を最も良く促進させるためにGI管内に薬物を分散させるために適切であると考えられる。
【0089】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルを含む代表的なアンホテリシンB製剤の溶解性を、図10A〜10Cに図示する。図10A、10Bおよび10Cは、さまざまなPECEOL(登録商標):GELUCIRE(登録商標)比(60:40;50:50;および40:60 v/v)での、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14;AmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)50/13;およびAmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)53/10)における、2、4および24時間の時点でのAmpB濃度(mg/mL)を比較している(AmpBは45℃での指定時間後の遠心処理試料のUV吸光度により測定)。図11は、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(PECEOL(登録商標)と命名)および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50;およびAmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、15mM DSPE-PEG-2000)に関する、経時的(0、1、5、7、15、21、28、36、43、49および56日)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している(AmpBは43℃での指定時間後の遠心処理試料のUV吸光度により測定)。評価した製剤のうち、AmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50製剤は、最長21日間にわたって最も高い安定性を示した。
【0090】
経口投与される製剤としてのそれらの有効性を判定するために、本発明の代表的なアンホテリシンB製剤の安定性を擬似胃液中で比較した。
【0091】
図12は、擬似胃液(SGF)中での、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50;およびAmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、15mM DSPE-PEG-2000)に関する経時的(10、30、45、60、90および120分)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している(AmpBは、SGF、30mM NaCl、pH 1.2中、37℃での指定時間後の遠心処理試料のUV吸光度により測定)。
【0092】
図13は、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50)に関する、摂食状態擬似腸液(FeSSIF)における経時的(10、30、45、60、90、120および240分)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している(AmpBは、塩化カリウム(15.2g/L)、タウロラウレートナトリウム(sodium taurolaurate)(15mM)、卵ホスファチジルコリン(3.75mM)を含み、酢酸でpH 5.0に調整したFeSSIF中での4時間後の遠心処理試料のUV吸光度により測定)。本発明の代表的な製剤は、最長2時間にわたって一貫したAmpB濃度を示している。
【0093】
図14は、摂食状態擬似腸液(FeSSIF)中での、酵素の存在下におけるAmpB/PECEOL(登録商標)製剤および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50)に関する経時的(10、30、45、60、90、120および240分)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している(AmpBは、塩化カリウム(15.2g/L)、タウロラウレートナトリウム(7.5mM)、卵ホスファチジルコリン(2.0mM)、グリセリルモノオレエート(5.0mM)、オレイン酸ナトリウム(0.8mM)、パンクレアチン(1000uリパーゼ/L)を含み、酢酸でpH 5.8に調整したFeSSIF中での4時間後の遠心処理試料のUV吸光度により測定)。本発明の代表的な製剤は、最長2時間にわたって一貫したAmpB濃度を示している。
【0094】
図15は、空腹状態擬似腸液(FaSSIF)中での、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤および本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)GELUCIRE(登録商標)44/14、50/50)に関する経時的(10、30、45、60、90、120および240分)なAmpB濃度(元の濃度である5mg/mLに対する%)を比較している(AmpBは、塩化カリウム(7.7g/L)、リン酸水素二カリウム(3.9g/L)、タウロラウレートナトリウム(3.0mM)、卵ホスファチジルコリン(0.75mM)を含み、酢酸でpH 6.5に調整したFeSSIF中での4時間後の遠心処理試料のUV吸光度により測定)。本発明の代表的な製剤は、最長2時間にわたって一貫したAmpB濃度を示している。
【0095】
評価した本発明の代表的な製剤のそれぞれは、評価した時間枠にわたって擬似液中での安定性を示した。GI液中での代表的なアンホテリシンB製剤の安定性は、経口投与される製剤としてのそれらの適性を実証している。
【0096】
自己乳化性薬物送達システム
本発明のアンホテリシンB製剤は、自己乳化性薬物送達システムでありうる。自己乳化性薬物送達システム(SEDDS)は、油、界面活性物質、溶媒および共溶媒/共界面活性剤(co-solvent/surfactant)の等方性混合物である。SEDDSは、アンホテリシンBのように親油性の高い薬品化合物の経口吸収を改善する目的で、製剤の設計のために用いることができる。SEDDS組成物が消化管の内腔に放出されると、薬物が消化管内で溶液中に残るように組成物が分散して微細エマルションを形成することから、疎水性薬物の結晶状態からの吸収の速度を制約することの多い溶解段階が回避される。SEDDSの使用は通常、生物学的利用能の改善、および/または消化管からの吸収のより一貫した時間的プロフィールを導く。SEDDSの組成の記載は、C.W. Pouton, Advanced Drug Delivery Reviews 25: 47-58 (1997)に見ることができる。
【0097】
本発明のアンホテリシンB製剤は、軟または硬ゼラチンカプセル内にある状態で経口投与することができ、胃腸液の穏やかな撹拌によって水中希釈(aqueous dilution)されると、微細な比較的安定な油中水(o/w)型エマルションを形成する。SEDDSからの薬品化合物の経口吸収の効率は、製剤の成分、エマルションの極性、液滴のサイズおよび電荷といった製剤に関連した多くのパラメーターに依存し、そのすべてが自己乳化能力を実質的に決定する。したがって、効率的な自己乳化系を導くのは、極めて特異的な医薬添加剤の組み合わせのみであると考えられる。
【0098】
アンホテリシンBによる投与および治療のための方法
静脈内へのAmpBの投与は、血漿中および/または血清中の薬物濃度をモニターすることによっては予測することができていない、その用量依存的な腎毒性によって制限されてきた。数多くの研究が、メタノール中に可溶化されたAmpBは胃腸(GI)管からほとんど吸収されず、それ故に一般的には経口投与されずに静脈内投与されることを報告しているが、それは前記の腎毒性を招く恐れがある。しかし、今日までに、経口AmpB製剤の開発を検討し、その抗真菌活性を評価した研究はわずかしか報告されていない。
【0099】
真菌感染症を治療する上での、ポリエチレンオキシド含有リン脂質を含む本発明の代表的なアンホテリシンB製剤の有効性を、実施例2で説明している。アスペルギルス-フミガーツス(Aspergillus fumigatus)およびカンジダ-アルビカンス(Candida albicans)を治療するためのこれらの製剤の有効性が、動物試験で実証された。
【0100】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質を含む本発明の代表的なアンホテリシンB製剤による、アスペルギルス-フミガーツスに感染したラットの処置は、全臓器で回収されたものを合算した総真菌CFU濃度を非処置対照と比較して80%有意に低下させ(表4)、これは血漿クレアチニンレベルの有意な変化を伴わなかった(表5)。ABELCET(登録商標)処置は、全臓器で回収されたものを合算した総真菌CFU濃度を非処置対照と比較して88%有意に低下させ(表4)、これは血漿クレアチニンレベルの有意な変化を伴わなかった(表5)。
【0101】
カンジダ-アルビカンスに関する結果は、アスペルギルス-フミガーツスに関するものと同様である。本発明の代表的なAmpB製剤による処置を受けたカンジダ-アルビカンス感染ラットの腎臓の真菌分析は、対照と比較して有意に低下した総真菌CFU濃度を実証している。図7は、カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、対照、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(10mg/kg)、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、AmpB/DSPE-PEG-2000と命名、10mg/kg)および静脈内ABELCET(登録商標)(ABLCと命名、5mg/ml)による処置を受けたラットの腎臓における、カンジダ-アルビカンス濃度(CFU/ml)を比較している。図8は、カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、対照、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(10mg/kg)、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、AmpB/DSPE-PEG-2000と命名、10mg/kg)および静脈内ABELCET(登録商標)(ABLCと命名、5mg/ml)による処置を受けたラットの諸臓器における、カンジダ-アルビカンス濃度(CFU/ml)を比較している。カンジダ-アルビカンス濃度を低下させることに関しての代表的なAmpB製剤の有効性は、ABELCET(登録商標)と同等であった。代表的なAmpB製剤による処置は、腎臓で回収された総真菌CFU濃度を有意に低下させ、これは血漿クレアチニンレベルの有意な変化を伴わなかった。図9は、カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、対照、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(10mg/kg)、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、AmpB/DSPE-PEG-2000と命名、10mg/kg)および静脈内ABELCET(登録商標)(ABLCと命名、5mg/ml)(ブランク、0時間および48時間)による処置を受けたラットにおける血漿クレアチニン(mg/dl)を比較している。腎毒性は、血漿クレアチンレベルによる測定では全く観察されなかった。
【0102】
もう1つの局面において、本発明は、アンホテリシンBの投与によって治療しうる感染症を治療するための方法を提供する。本方法では、本発明のアンホテリシンB製剤の治療的有効量を、それを必要とする対象に投与する。1つの態様において、製剤は経口的に投与される。もう1つの態様において、製剤は局所的に投与される。
【0103】
本明細書で用いる場合、「治療すること」および「治療」という用語は、症状の重症度および/または頻度の低下、症状および/または基礎をなす原因の排除、症状および/または基礎をなす原因の発生の尤度の低下、ならびに傷害の改善または矯正を指す。したがって、本明細書で提供するような活性薬剤によって患者を「治療すること」は、臨床症状のある個体における治療のほかに、感受性のある個体における特定の病状、疾患または障害の予防も含む。本明細書で用いる場合、「有効量」とは、治療的有効量および予防的有効量の両方を対象として含む量のことを指す。本明細書で用いる場合、「治療的有効量」とは、所望の治療成績を達成するために有効な量のことを指す。ある所与の活性薬剤の治療的有効量は、典型的には、治療しようとする障害または疾患の型および重症度、ならびに患者の年齢、性別および体重といった要因に応じて異なると考えられる。
【0104】
本発明の方法および製剤によって治療しうる感染症には、真菌感染症(アスペルギルス症、ブラストミセス症、カンジダ症、コクシジオイデス症、クリプトコッカス症、ヒストプラスマ症、ムコール菌症、パラコクシジオイデス症およびスポロトリクム症)、内臓リーシュマニア症、皮膚リーシュマニア症、シャーガス病および発熱性好中球減少症が含まれる。アンホテリシンBは、アミロイドと結合して、原線維の形成を防止することが示されている。アンホテリシンBは、アルツハイマー病の治療のために有用なものとして指し示されている。したがって、本発明のアンホテリシンB製剤はアルツハイマー病の治療に用いることができる。
【0105】
以上を総合すると、1つの局面において、本発明は、経口的に投与しうるアンホテリシンB製剤を提供する。本発明のアンホテリシンB製剤は、擬似胃液および腸液における優れた薬物可溶化性、薬物安定性をもたらすとともに、アンホテリシンBの非経口製剤に関して周知である用量を規定する腎毒性を伴うことなく有意な抗真菌活性を有する。
【0106】
治療薬製剤
もう1つの局面において、本発明は、治療薬の送達のための製剤、それらの製剤を製造するための方法、およびそれらの製剤を用いて治療薬を投与するための方法を提供する。
【0107】
1つの局面において、本発明は、治療薬の送達のための製剤を提供する。治療薬製剤は、以下を含む:
(a)治療薬;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(c)1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルなどの1つまたは複数のポリエトキシ化脂質。
【0108】
上記の治療薬製剤において、脂肪酸グリセロールエステル、ポリエチレンオキシド含有リン脂質およびポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、アンホテリシンB製剤に関して上述した通りである。上記の治療薬製剤におけるこれらの成分の量も、アンホテリシンB製剤に関して上述した通りである。治療薬は製剤中に、約0.1mg/mL〜約25mg/mL製剤の量で存在することができる。ある態様において、製剤はさらに、グリセロールを約10重量%未満の量で含むことができる。
【0109】
本発明の治療用薬物製剤は、難溶性の治療用薬物を有利なように可溶化する。本発明の製剤および方法によって有利なように製剤化および送達を行うことができる代表的な治療薬には、抗癌薬、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗プリオン薬、抗アメーバ薬、非ステロイド性抗炎症薬、抗アレルギー薬、免疫抑制薬、冠血管薬、鎮痛薬、局所麻酔薬、抗不安薬、鎮静薬、睡眠薬、片頭痛緩和薬、乗り物酔いに対する薬物、および制吐薬が含まれる。
【0110】
本発明の製剤および方法によって有利なように製剤化および送達を行うことができる具体的な治療薬には、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、アシクロビル、イドクスウリジン、トロマンタジン、ミコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、エコナゾール、グリセオフルビン、アンホテリシンB、ニスタチン、メトロニダゾール、安息香酸メトロニダゾール、チニダゾール、インドメタシン、イブプロフェン、ピロキシカム、ジクロフェナク、クロモグリク酸ナトリウム、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ベラパミル、ニフェジピン、ジルチアゼム、ジゴキシン、モルヒネ、シクロスポリン、ブプレノルフィン、リドカイン、ジアゼパム、ニトラゼパム、フルラゼパム、エスタゾラム、フルニトラゼパム、トリアゾラム、アルプラゾラム、ミダゾラム、テマゼパムロルメタゼパム、ブロチゾラム、クロバザム、クロナゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、ブスピロン、スマトリプタン、エルゴタミン誘導体、シンナリジン、抗ヒスタミン薬、オンダンセトロン、トロピセトロン、グラニセトロン、メトクロプラミド、ジスルフィラム、ビタミンK、パクリタキセル、ドセタキセル、カンプトテシン、SN38、シスプラチンおよびカルボプラチンが含まれる。
【0111】
ある態様において、本発明の治療薬製剤は、第2の治療薬を含むことができる。
【0112】
治療薬製剤は自己乳化性薬物送達システムであることができる。
【0113】
1つの態様において、治療薬製剤は、以下を含む:
(a)治療薬;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル(例えば、オレイン酸グリセロールエステル);および
(c)1つまたは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質(例えば、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩)。
【0114】
1つの態様において、本発明の治療薬製剤は、治療薬、PECEOL(登録商標)およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩を含む。この態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は最大約30mMまでの量で存在する。
【0115】
もう1つの態様において、治療薬製剤は、以下を含む:
(a)治療薬;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル(例えば、オレイン酸グリセロールエステル);および
(c)1つまたは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル(例えば、ポリエチレングリコールのラウリン酸、パルミチン酸および/またはステアリン酸エステル)。
【0116】
1つの態様において、本発明の治療薬製剤は、治療薬、PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)44/14を含む。もう1つの態様において、製剤は、治療薬、PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)50/13を含む。1つのさらなる態様において、製剤は、治療薬、PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)53/10を含む。これらの態様において、PECEOL(登録商標)とGELUCIRE(登録商標)との比は、20:80〜80:20(例えば、20:80、30:70;40:60;50:50;60:40;70:30;および80:20)であることができる。
【0117】
2つの代表的な治療薬であるエコナゾールおよびドセタキセルの製剤について、それぞれ実施例3および4で説明している。
【0118】
もう1つの局面において、本発明は、治療薬を投与するための方法を提供する。本方法では、治療薬の治療的有効量を、上記の治療薬製剤を用いて投与する。1つの態様において、製剤は経口的に投与される。もう1つの態様において、製剤は局所的に投与される。
【0119】
さらなる局面において、本発明は、本発明に従って製剤化された治療薬によって治療しうる病状および疾患を治療するための方法を提供する。本方法では、本発明の治療用薬物製剤の有効量を、それを必要とする対象に投与する。病状および疾患を治療するための方法は、本明細書で開示した治療薬系統および特定の治療薬の製剤を用いる。
【0120】
治療用薬物担体
1つのさらなる局面において、本発明は、治療薬を製剤化するための組成物、その組成物を製造するための方法、およびその組成物を用いた送達のために治療薬を製剤化するための方法を提供する。
【0121】
1つの局面において、本発明は、送達のために治療薬を製剤化するための組成物を提供する。本組成物は、以下を含む:
(a)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(b)1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質などの1つもしくは複数のポリエトキシ化脂質、または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル。
【0122】
上記の組成物において、脂肪酸グリセロールエステル、ポリエチレンオキシド含有リン脂質およびポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルは、アンホテリシンB製剤に関して上述した通りである。上記の組成物におけるこれらの成分の量も、アンホテリシンB製剤に関して上述した通りである。ある態様において、製剤はさらに、グリセロールを約10重量%未満の量で含むことができる。
【0123】
本組成物は、難溶性の治療用薬物をそれらの送達のために有利なように可溶化する。治療薬の組み入れにより、本組成物は自己乳化性薬物送達システムを提供することができる。
【0124】
1つの態様において、組成物は、以下を含む:
(a)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル(例えば、オレイン酸グリセロールエステル);および
(b)1つまたは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質(例えば、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩)。
【0125】
1つの態様において、組成物は、PECEOL(登録商標)およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩を含む。この態様において、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩は最大約30mMまでの量で存在する。
【0126】
もう1つの態様において、組成物は、以下を含む:
(a)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル(例えば、オレイン酸グリセロールエステル);および
(b)1つまたは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル(例えば、ポリエチレングリコールのラウリン酸、パルミチン酸および/またはステアリン酸エステル)。
【0127】
1つの態様において、組成物は、PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)44/14を含む。もう1つの態様において、組成物は、PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)50/13を含む。1つのさらなる態様において、組成物は、PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)53/10を含む。これらの態様において、PECEOL(登録商標)とGELUCIRE(登録商標)との比は、20:80〜80:20(例えば、20:80、30:70;40:60;50:50;60:40;70:30;および80:20)であることができる。
【0128】
もう1つの局面において、本発明は、治療薬製剤を製造するための方法を提供する。本方法の1つの態様では、治療薬を上記の組成物と組み合わせる。本方法のもう1つの態様では、治療薬を組成物の成分の1つ(例えば、1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル)と組み合わせて第1の組み合わせを得た上で、続いてその第1の組み合わせを組成物の他の成分(例えば、1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル)と組み合わせる。
【0129】
本明細書に記載した本発明の製剤および組成物は、列挙した成分を含む(すなわち、それらで構成される)。ある態様において、本発明の製剤および組成物は、列挙した成分と、製剤および組成物の特性に影響を及ぼさない他の追加の成分とを含む(すなわち、製剤および組成物は本質的には列挙した成分からなる)。製剤の、および組成物の特性に影響を及ぼす追加の成分には、製剤または組成物の治療プロフィールおよび効力に不利なように改変または影響を及ぼす追加の治療薬、製剤および組成物が列挙した治療薬成分を可溶化する能力に不利なように改変または影響を及ぼす追加の成分、ならびに製剤および組成物が列挙した治療薬成分の生物学的利用能を高める能力に不利なように改変または影響を及ぼす追加の成分が含まれる。他の態様において、本発明の製剤および組成物は、列挙した成分のみを含む(すなわち、それらからなる)。
【0130】
以下の実施例は、本発明を限定するためではなく、例示する目的で提供される。
【0131】
実施例
材料
以下の材料を、以下の実施例で説明した通りに用いた。
【0132】
アンホテリシンB(ストレプトミセス属(Streptomyces sp.)由来、Calbiochem、純度86%超)を、EMD Biosciences(San Diego, CA)から購入し、それ以上は精製せずに用いた。デオキシコール酸ミセル分散体(FUNGIZONE(登録商標))として販売されているアンホテリシンBを、Vancouver General Hospital pharmacyから購入した。リン脂質およびポリ(エチレングリコール)-脂質はすべて、Avanti Polar Lipids(Alabaster, AL)から購入した。HPLC等級溶媒はFlukaからのものとした。PECEOL(登録商標)(オレイン酸グリセリル)、LABRASOL(登録商標)(カプリロカプロイルマクロゴールグリセリド)およびGELUCIRE(登録商標)44/14、GELUCIRE(登録商標)50/13およびGELUCIRE(登録商標)53/10は、Gattefosse Canada(Mississauga, Ontario)から入手した。CAPTEX 355(登録商標)およびCAPMUL(登録商標)はAbitechから入手した。酵素を伴わない擬似胃液(SGF)は、1N HClでpH 1.2に微調整した30mM NaClで構成した。パンクレアチン酵素を伴う擬似腸液(SIFe)は、Vertzoni et al., Dissolution media simulating the intralumenal composition of the small intestine: physiological issues and practical aspects, J. Pharmacy and Pharm. 56(4):453-462 (2004)による改変を加えた上で、米国薬局方の方法(USP28)に従って調製し、これはNaOHでpH 7.5に調整した0.2M NaOH、6.8g/Lのリン酸二水素カリウムおよび10g/Lのパンクレアチン(Sigma)で構成した。胆汁酸塩を伴う空腹状態擬似腸液(FeSSIF)(Vertzoni et al.)は、0.75mMレシチンの存在下または非存在下のいずれかの水中にある3mMタウロコール酸ナトリウム(Sigma)、3.9g/Lのリン酸二水素ナトリウム、6.2g/LのNaClで構成し、続いてNaOHでpH 6.5に微調整した。水は使用前に逆浸透システムによって精製して濾過した(0.2μm)。他のすべての化学物質は、Sigrma Aldrichから購入した試薬等級のものとした。
【0133】
実施例1
代表的なアンホテリシンB製剤の調製および特性決定
この実施例では、本発明の代表的なアンホテリシン製剤の調製および特性決定について説明する。
【0134】
自己乳化性薬物送達システム(SEDDS)の調製
アンホテリシンB(AmpB)とSEDDS脂質ベシクルとを、遮光下にて薬物粉末を脂質と組み合わせ、続いて温和加熱および撹拌(45℃で1〜2時間)を行うことによって混合した。視認しうる残存性の薬物微粒子はすべて、10,000×gでの15分間の遠心によって除去した。
【0135】
AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG製剤の調製
AmpBを、95%エタノール(1:3 v/v)、さらには15mMジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)-ポリ(エチレングリコール)n(PEG)(ここでnは平均PEG分子量であり、350、550、750または2000である)を添加した、5mg/mLのPECEOL(登録商標)の混合物中に完全に溶解させた。最初の混合物中での完全な薬物可溶化を可能とするためのAmpB濃度は、それぞれエタノール中では3mg/ml、PECEOL(登録商標)中では5mg/mLであった。この溶液を遮光下にて40℃で1時間撹拌してAmpBおよび脂質を溶解させ、続いてロータリー蒸発装置内での減圧下(65mbar)に40℃で数時間おくことによって溶媒蒸発を行った。エタノールの添加の直前に測定した、AmpB、PECEOL(登録商標)および脂質を含む試料の元の重量を達成することにより、エタノールは完全に除去されたものとみなした。微粒子を伴わない半透明な黄色の混合物が形成された。この処理後にはAmpBの分解もスペクトル形状の変化も観察されなかった。
【0136】
アンホテリシンBの安定性の特性決定
薬物濃度は、逆相HPLC/UVにより、またはUV分光測定法(λ=407nm)により測定した。AmpBのHPLC分析に関しては、試料をDMSO中の20%(v/v)メタノールで希釈し、20μLを30℃のLuna 5μm(2.0×150mm)C18カラム(Phenomenex)に注入した。移動相は、Waters 996HPLCシステムの勾配プログラムを用いた10mM酢酸ナトリウムおよびアセトニトリルとし、Watersフォトダイオードアレイ検出器(λ=408nm)によって検出した。泳動時間は13分であり、保持時間はおよそ8.5分であった。薬物可溶化の間の脂質ベシクルの温和加熱および14日間の貯蔵(21℃)による解体または超凝集に対するAmpBの安定性は、Thermoscan UV/可視光分光光度計をλ=250〜500nmとして用いるUVスペクトルシフト分析によって評価した。
【0137】
溶解性、物理的安定性および自己乳化
SEDDS(自己乳化性薬物送達システム)製剤のAmpB溶解度は、HPLCによる測定では100〜500μg/mLの範囲であり、これは水性希釈溶液(pH 7)中での無視しうる程度の溶解度とは対照的であった。被験自己乳化性脂質混合物に関しては、3mgのAmpB粉末を0.3ml(10mg/mL)の種々の脂質の組み合わせと組み合わせて、その混合物を1mLアンバーガラスバイアル内にて37℃で2時間撹拌した。混合の後に、残存性の薬物微粒子をすべて除去するために、試料を10,000×gで15分間遠心した。この手順では脂質成分は沈降しなかった。続いて試料を、150mM NaCl中にて37℃で30分間激しく混合することで、1:1000(v/v)希釈物として分散させた。
【0138】
CAPTEX(登録商標)355を基にしたAmpB SEDDSに関する結果は表1にまとめられている。PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)を基にしたAmpB SEDDSに関する結果は表2にまとめられている。
【0139】
(表1)CAPTEX(登録商標)355を基にしたアンホテリシンBの予備的SEDDS

粒子の分級(sizing)は、混合物を150mM NaCl中にて37℃×30分間かけて1:1000(v/v)に分散させた後に行った。相対比率は粒径の累積分布に基づく。
【0140】
(表2)PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)を基にしたアンホテリシンB SEDDS

粒子の分級は、混合物を150mM NaCl中にて37℃×30分間かけて1:1000(v/v)に分散させた後に行った。相対比率は粒径の累積分布に基づく。
【0141】
表1および2に示されているように、有効流体力学的直径は、CAPTEX(登録商標)355/CAPMUL(登録商標)MCM/Tween 80(表1)に関しては平衡下で168〜237nmであり、PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14(表2)に関しては58〜396nmであったが、ダイズ油、PECEOL(登録商標)/LABRASOL(登録商標)またはPECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)50/13を基にした製剤についてはそうではなかった(>1μm、非提示データ)。重要なこととして、エマルション液滴サイズに関して複数の部分集団が観察された。CAPTEX(登録商標)355を基にしたSEDDSに関しては、これらの部分集団はミセルのサイズに合致する直径(例えば、20〜50nm)を含み、すべての集団がサブミクロンの範囲に留まった(表1)。PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14混合物に関しては、3つの部分集団が観察され、これには20〜50nm、1000〜200nmの範囲のもの(より少ない方の集団)および直径1μmに近いものが含まれた。非常に小さい液滴および大きい液滴の比率は、成分の比によって異なった。PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)50/13の場合にも、PECEOL(登録商標)/GELUCIRE(登録商標)44/14のものと同程度の液滴サイズ範囲にある3つの部分集団が観察されたが、最大直径の部分集団では液滴が幾分大きい傾向がみられ、それはまたGELUCIRE(登録商標)50/13の比率が増すのに伴っても増加した(表2)。代表的な個別の試料について表に詳細に記載しているが、反復試験試料がその有効直径および部分集団の粒径範囲について一貫性を示したことには注目すべきである。大気温度(21℃)で数日間にわたり、混和性、相分離および沈殿に関して目視観察を行った。いくつかのSEDDS製剤は、透明性および均質性を保った。例えば、CAPTEX(登録商標)を基にしたSEDDS製剤はすべて、150mM NaClとの混合後に半透明な混合物を生じ、それらはCAPTEX(登録商標)、Tween 80およびリン酸ナトリウムのすべての組み合わせ比について均質であった(表1)。PECEOL(登録商標)およびGELUCIRE(登録商標)44/14の70/30〜30/70(v/v)の範囲での組み合わせは、微細エマルションを生じたが、PECEOL(登録商標)をGELUCIRE(登録商標)50/13とともに用いた場合には、21℃で24時間の経過中にある程度の部分的な固化が観察され、これはGELUCIRE(登録商標)50/13の高い融点(50℃)と合致した。
【0142】
空腹状態擬似腸液中でのPECEOL(登録商標)/DSPE-PEG製剤におけるAmpBの溶解性および乳化
PECEOL(登録商標)と、PEGの平均分子量を350から2000までの間で変化させたDSPE-PEGnとの組み合わせは、予備的なSEDDS製剤と比べて、AmpBのさらに大きな可溶化(5mg/mL)を示した。10mg/mL以上の濃度では、大気温度(21℃)での24時間の静置中にAmpBのある程度の沈殿が起こった。37℃のSGF中に0.5mg/mLで分散させ、続いて30分間撹拌したところ、PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG2000 AmpB製剤は、粒径が300〜500nmで視認しうる沈殿物を伴わない半透明なエマルションを生じた。場合によっては、直径が一方では100nmでもう一方では数百nmである、サブミクロン粒子の2つの集団があるように見えた。
【0143】
擬似胃液および腸液中でのAmpBの安定性
アンホテリシンBがPECEOL(登録商標)/DSPE-PEG製剤(5mg/mL)中にあるものを3つずつ調製し、1:10(v/v)希釈物としての擬似胃液(SGF)中で、または1:50(v/v)希釈物として、レシチンの存在下もしくは非存在下または酵素の存在下で(上記の通りに)調製した擬似腸液中で、37℃にて激しく撹拌しながらインキュベートした。インキュベーション時間は0、10、30または120分間とした。各時点で、試料を澄明化し、それによってさらに試料をUVアッセイの直線的範囲に希釈するための95%エタノール中での完全な可溶化の後に、吸光度(407nm)の3回ずつの測定を用いて、AmpB濃度を分光測定法によって決定した。その値を330nmでのベースラインに対して標準化し、各液体の種類毎に作成したアンホテリシンB標準曲線に基づいて濃度を算出した(r2>0.99)。PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG中に調製した標準物質の標準曲線の直線性および濃度範囲は、擬似GI液の種類によってもインキュベーション時間によっても影響されなかったが、さまざまな分子量のDSPE-PEG(350、550、750または2000)を各製剤に関して別々の3つずつの標準曲線を作成した。
【0144】
AmpBの化学的安定性および凝集状態(モノマー性か自己会合性か)を、USP擬似胃液、ならびに胆汁酸塩およびパンクレアチンの存在下および非存在下における空腹状態擬似腸液中で評価した。上記の通り、PECEOL(登録商標)のみの中、またはPECEOL(登録商標)/DSPE-PEG製剤(PEG分子量=350、550、750または2000)中にあるAmpBを5mg/mLで調製し、擬似GI液中で合計2時間の期間にわたってインキュベートした。30分間隔でAmpB濃度およびUVスペクトルを評価した。AmpBは、UV範囲内にある5つの主要な分光光度ピークを呈した。ピーク4および5はモノマー性AmpBで振幅が最も大きく、一方、AmpBが自己会合性になった場合には左方シフトがみられた。図3Aは、UVアッセイの直線的範囲にわたる、PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG中のAmpBの典型的なUVスペクトルを示しており、モノマー性AmpBが優勢であることを表している。このパターンは、PEG分子量を350から2000に変化させた場合にも維持された(非提示データ)。同じスペクトルパターンがSGF中でのインキュベーション後にも観察され、図3Bに示されているように、さまざまなAmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEGn調製物についてほぼ同一な標準曲線が得られた。
【0145】
化学的安定性に関しては、DSPE-PEG 350または550とともに調製した製剤の方が、DSPE-PEG 750または2000と比較して薬物安定性が幾分低い傾向がみられた。AmpB単独(例えば、純粉末)ではこれらの媒質中に溶解せず、それ故に、経時的な溶解と分解との増加という交絡因子のために、同等な濃度での対照として適正に用いることはできないと考えられる。他の点では同様に調製した、PECEOL(登録商標)のみの中にあるAmpBを、製剤中のDSPE-PEGの影響を安定化するための陰性対照として含めた。AmpB/PECEOL(登録商標)は、図4に示されているように、DSPE-PEG 350または2000を含む製剤よりもSGF中での薬物安定性が幾分低い傾向を示した。図5は、レシチンの非存在下(図5A)またはレシチンの存在下(図5B)で胆汁酸塩を含む擬似腸液中でのAmpBの安定性は、PECEOL(登録商標)のみの中、またはPECEOL(登録商標)/DSPE-PEG 350中にあるAmpBの方が、より高いPEG分子量を用いた製剤と比較して低いことを示している。
【0146】
図6は、分解酵素を含むパンクレアチンを伴う擬似腸液中でのAmpBの安定性を図示している。これらのデータは、DSPE-PEG 750または2000を含む製剤の安定性が、350もしくは550を含むもの、またはPECEOL(登録商標)のみの中と比較してより良好であることを示唆する。しかし、PECEOL(登録商標)のみの中でのAmpBの分解を評価した際には、重要なことに、擬似GI液におけるAmpB/PECEOL(登録商標)の混合性の乏しさが観察された;この製剤は浮遊する傾向があった。本明細書に記載したさまざまな媒質中でのインキュベーション完了後に、UVスペクトルの特定のピークの高さの比または全体的パターンの違いといった、モノマー形態と凝集性AmpBとの変換に伴う変化は観察されなかった(非提示データ)。
【0147】
粒径分析
動的光散乱(ZetaPALS instrument, Brookhaven Laboratories, New York, 650nmで動作)による粒径分析を、自己乳化特性の評価に用いた。生理食塩水(150mM NaCl)中でのエマルション液滴サイズを、37℃での30分間のインキュベーション後に測定した。PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG AmpB製剤に関して、予備的な実験で平均直径を37℃で10分毎に測定したところ、平均直径は1時間までに平衡に達し、安定なまま保たれることが見いだされた。薬物安定性は2時間後に測定しており、このため、擬似腸液中でインキュベートした試料に関して報告した粒径分析に用いた時点は2時間であった。ZetaPALSソフトウエア(バージョン3.88)では2種類のデータ解析モードが利用可能であり、それは対数正規分布に基づいて加重平均有効流体力学的直径を算出するとともに、多峰性分布に基づいて2つまたはそれ以上の平均直径を中心とする部分集団を同定する。二峰性または多峰性分布が検出された場合には両方の値が報告され、各部分集団の比率は累積分布分析に基づいて報告される(ZetaPALSソフトウエア、バージョン3.88)。
【0148】
DSPE-PEG分子量を変化させることは、37℃での2時間の期間にわたる混合後の擬似腸液中でのエマルション液滴サイズに対して明らかな影響を及ぼさなかった(表3)。極めて広い多分散性を備える300〜600nmの範囲にあるサブミクロンの平均直径が観察された。二峰性の粒径分布も生じ、小さい部分集団はサブミクロンの範囲(150〜300nm)を中心とし、もう一方は1〜2μmの範囲を中心とした。PECEOL(登録商標)のみの中にあるAmpBも、擬似腸液中で類似したサイズおよび分布の液滴を形成した。これらの粒径測定は、用いた混合条件下で極めて大きなエマルション液滴を形成させて試料を不透明化したレシチンの非存在下で行った。その結果は表3に提示されている。
【0149】
(表3)PECEOL(登録商標)/DSPE-PEGアンホテリシンB製剤の粒径

PEGの分子量を350から2000までの間で変化させたPECEOL(登録商標)/DSPE-PEG中にあるAmpBの、0.5mg AmpB/mLの擬似空腹状態腸液(pH 6.8)中での2時間のインキュベーション後の動的光散乱による粒子の分級。相対比率は粒径の累積分布に基づく。
【0150】
実施例2
真菌感染症の治療における代表的なアンホテリシンB製剤の有効性:アスペルギルス-フミガーツスおよびカンジダ-アルビカンス
この実施例では、真菌感染症の治療における本発明の代表的なアンホテリシンB製剤の有効性について説明する。アスペルギルス-フミガーツスまたはカンジダ-アルビカンスに感染したラットの治療における本発明の代表的なアンホテリシンB製剤の有効性を判定するために、動物試験を実施した。
【0151】
1.アスペルギルス-フミガーツス(2.7〜3.3×107コロニー形成単位[CFU])を、頸静脈を介して注射した;48時間後に雄性アルビノSprague-Dawleyラット(350〜400g)に対して、モノグリセリド-DSPE/PEG2000を基にしたAmpB(10mg AmpB/kg;n=7)の単回強制経口投与を1日2回ずつ2日連続して行うか、ABELCET(登録商標)(5mg AmpB/kg;n=4)または生理食塩水(非処置対照;n=9)の単回静脈内(i.v.)投与を1日1回ずつ2日連続して行った。諸臓器を殺処理時(第3日)に収集して、処理した(以下参照)。血漿クレアチニン分析のために、接種前(ブランク)、投薬前(0時間)および処置48時間後に血液を採取した。雄性アルビノSprague-Dawleyラット(350〜400g)は、Charles River Laboratories(Wilmington, MA)から購入した。ラットには、ウサギに対して用いるのと同様の方法により、ポート(Access Technologies)およびカテーテルを外科的に植え込み、静脈血へのアクセスを得た。ラットは、12時間毎の明暗サイクル下にあって温度および湿度が制御されている動物管理施設で飼育した。試験期間を通じてラットには水および標準ラット飼料(Purina Rat Chow)を自由に摂取させた。ポートには閉塞を防ぐために生理食塩液およびヘパリンによるプライミングを毎日行った。動物は、カナダ動物管理委員会(Canadian Council on Animal Care)およびブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)によって公布された規範(principal)に従って管理した。
【0152】
アスペルギルス-フミガーツス接種物
A.フミガーツス(A. fumigatus)は、いずれかの播種性アスペルギルス症の患者のプール(BC Centre for Disease Control)から収集した。培養物をサブローデキストロース寒天培地上で、37℃で48時間増殖させた。発熱物質非含有食塩水で寒天を洗浄することにより、分生子(conidium)を単離した。ガラスビーズとともにボルテックス処理することによって分生子を懸濁させ、発熱物質非含有食塩水で希釈して、食塩水300μl中に2.7〜3.3×107個の分生子を得た。分生子を血球計算器を用いて算定し、100μlアリコートを段階希釈した上で、生きている分生子の数および接種物の純度を決定するために、アリコートをサブローデキストロース寒天培地にプレーティングして37℃で48時間おいた。接種物中の生きている分生子の平均パーセンテージは62%±19であった。どの胞子懸濁液にも他の微生物の混入はなかった。アスペルギルス症を発症させるために、処置開始の48時間前にラットに対して留置ポートを通して300μlを接種した。
【0153】
2.カンジダ-アルビカンス(1〜1.35×106コロニー形成単位[CFU])を、頸静脈を介して注射した;48時間後に雄性アルビノSprague-Dawleyラット(350〜400g)に対して、モノグリセリド-DSPE/PEG2000を基にしたAmpB(10mg AmpB/kg;n=7)の単回強制経口投与を1日2回ずつ2日連続して行うか、ABELCET(登録商標)(5mg AmpB/kg;n=3)または生理食塩水(非処置対照;n=9)の単回静脈内(i.v.)投与を1日1回ずつ2日連続して行った。諸臓器を殺処理時(第3日)に収集して、処理した(以下参照)。血漿クレアチニン分析のために、接種前(ブランク)、投薬前(0時間)および処置48時間後に血液を採取した。雄性アルビノSprague-Dawleyラット(350〜400g)は、Charles River Laboratories(Wilmington, MA)から購入した。ラットには、ウサギに対して用いるのと同様の方法により、ポート(Access Technologies)およびカテーテルを外科的に植え込み、静脈血へのアクセスを得た。ラットは、12時間毎の明暗サイクル下にあって温度および湿度が制御されている動物管理施設で飼育した。試験期間を通じてラットには水および標準ラット飼料(Purina Rat Chow)を自由に摂取させた。ポートには閉塞を防ぐために生理食塩液およびヘパリンによるプライミングを毎日行った。動物は、カナダ動物管理委員会およびブリティッシュコロンビア大学によって公布された規範(principal)に従って管理した。
【0154】
カンジダ-アルビカンス接種物
カンジダ-アルビカンスは、いずれかの播種性カンジダ症の患者のプール(BC Centre for Disease Control)から収集した。培養物をサブローデキストロース寒天培地上で、37℃で48時間増殖させた。発熱物質非含有食塩水で寒天を洗浄することにより、分生子を単離した。ガラスビーズとともにボルテックス処理することによって分生子を懸濁させ、発熱物質非含有食塩水で希釈して、食塩水300μl中に2.7〜3.3×107個の分生子を得た。分生子を血球計算器を用いて算定し、100μlアリコートを段階希釈した上で、生きている分生子の数および接種物の純度を決定するために、アリコートをサブローデキストロース寒天培地にプレーティングして37℃で48時間おいた。接種物中の生きている分生子の平均パーセンテージは62%±19であった。どの胞子懸濁液にも他の微生物の混入はなかった。アスペルギルス症を発症させるために、処置開始の48時間前にラットに対して留置ポートを通して300μlを接種した。
【0155】
3.動物に関する方法
感染前(ブランク)、投薬前(0時間)および処置48時間後(48時間)に、1mlの全血試料を小児用収集チューブ(3.6mgのK2 EDTA)中に採取した。すべての全血試料を反転して混合し、血漿を遠心(15分間、3000RPM、4℃)によって分離した。血漿試料はクレアチニン分析のために-20℃で保存した。48時間時の血液標本の収集後に、EUTHANYL(登録商標)(ペントバルビタールナトリウム240mg/ml)の静脈内過量投与(1ml)によってラットを安楽死させた。脾臓、右腎、肝臓、肺、心臓および脳の組織試料を収集し、秤量した上で滅菌容器に入れた。生理食塩液を添加し、1ml/gの標本をホモジネートした(Heidolph diax 900)。臓器ホモジネートのアリコートをプレーティングまで室温で保存し、残りの試料はHPLC分析まで-80℃に置いた。
【0156】
抗真菌活性の指標として臓器のコロニー形成単位(CFU)を選んだのは、以前に発表された研究(K.M. Wasan et al., Assessing the antifungal activity and toxicity profile of Amphotericin B Lipid Complex (ABLC; ABELCET(登録商標)) in combination with Caspofungin in experimental systemic aspergillosis, Journal of Pharm. Sci. 2004; 93(6):1382-1389)に基づく。100μlのそのままの強度の臓器ホモジネートおよび1:10希釈物(滅菌食塩水による)のアリコートをそれぞれ2つずつ、サブローデキストロース寒天平板培地に塗沫プレーティングした。37℃での48時間のインキュベーション後に、その結果生じたA.フミガーツスまたはC.アルビカンス(C. albicans)のコロニーを算定し、2つずつのプレートについて平均した。アッセイの検出限界は0.1×102 CFU/mlホモジネートであった。
【0157】
腎毒性は、以前に記載された通りに(K.M. Wasan et al., Assessing the antifungal activity and toxicity profile of Amphotericin B Lipid Complex (ABLC; ABELCET(登録商標)) in combination with Caspofungin in experimental systemic aspergillosis, Journal of Pharm. Sci. 2004; 93(6):1382-1389)、市販のキット(Sigma Chemicals Co.)を用いて血漿中のクレアチニン濃度を決定することによって間接的に評価した。ベースラインはブランク試料中のクレアチニン濃度を測定することによって求め、それを0時間(投薬前)、48時間の試料における血漿クレアチニン濃度と比較した。この試験の目的では、ベースラインとの比較による血漿クレアチニン濃度の50%またはそれ以上の上昇を腎毒性の徴候とみなした。
【0158】
4.統計学的分析
処置投与の前および後の臓器におけるCFUの数値および血漿クレアチニン濃度を、分散分析(INSTAT2;GraphPad Inc.)により各群間で比較した。臨界差(critical difference)はTukey事後検定によって評価した。Tukey事後検定を伴う反復測定ANOVAを用いて、血清クレアチニン値を処置前と処置48時間後で比較し、臨界差を求めた(Prism 4;Graphpad Inc.)。差は、結果を説明する偶然の確率が5%未満(p<0.05)に低下したならば有意であるとみなした。データはすべて平均±平均の標準誤差として表記した。
【0159】
アスペルギルス-フミガーツスに感染したラットにおける抗真菌活性および腎毒性
PECEOL(登録商標)/DSPE/PEG2000を基にした経口AmpBの処置は、全臓器で回収されたものを合算した総真菌CFU濃度を、非処置対照と比較して80%有意に低下させ(表4)、これは血漿クレアチニンレベルの有意な変化を伴わなかった(表5)。ABELCET(登録商標)処置は、全臓器で回収されたものを合算した総真菌CFU濃度を非処置対照と比較して88%有意に低下させ(表4)、これは血漿クレアチニンレベルの有意な変化を伴わなかった(表5)。
【0160】
(表4)アスペルギルス-フミガーツスに感染させた上で、生理食塩液(非処置対照)、PECEOL(登録商標)中に組み入れたアンホテリシンDSPE-PEG200(10mg/kgを1日2回×2日)の経口強制投与、またはABELCET(登録商標)の単回静脈内投与(ABLC;5mg/kgを1日1回×2日)による処置を受けた雄性Sprague Dawleyラットの真菌分析
すべてのラットを、処置開始の前に2.9〜3.45×107生存コロニー形成単位(CFU)/0.3ml/ラットのアスペルギルス-フミガーツスに感染させた。

a スチューデントのT検定を用いた非処置対照との比較でp<0.05;すべてのデータは平均±SEMとして提示されている。
* 注:以前の諸研究は、本明細書で用いた用量のAmpBのみでは、測定しうる蓄積が生じないことを示している。ABLC:アンホテリシンB脂質複合体。
【0161】
(表5)感染前(ブランク)、投薬前(0時間)および処置48時間後(48時間)での血漿クレアチニン濃度

データは平均±SEMとして提示されている。
【0162】
カンジダ-アルビカンスに関する結果は、アスペルギルス-フミガーツスに関するものと同様である。カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、本発明の代表的なAmpB製剤による処置を受けたラットの腎臓の真菌分析は、対照と比較して有意に低下した総真菌CFU濃度を実証している。図7は、カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、対照、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(10mg/kg)、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、AmpB/DSPE-PEG-2000と命名、10mg/kg)および静脈内ABELCET(登録商標)(ABLCと命名、5mg/ml)による処置を受けたラットの、腎臓におけるカンジダ-アルビカンス濃度(CFU/ml)を比較している。図8は、カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、対照、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(10mg/kg)、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL(登録商標)/DSPE-PEG-2000、AmpB/DSPE-PEG-2000と命名、10mg/kg)および静脈内ABELCET(登録商標)(ABLCと命名、5mg/ml)による処置を受けたラットの諸臓器における、カンジダ-アルビカンス濃度(CFU/ml)を比較している。カンジダ-アルビカンス濃度を低下させることに関しての代表的なAmpB製剤の有効性は、ABELCET(登録商標)と同等であった。代表的なAmpB製剤による処置は、腎臓で回収された総真菌CFU濃度を有意に低下させ、これは血漿クレアチニンレベルの有意な変化を伴わなかった。
【0163】
図9は、カンジダ-アルビカンスに感染させた上で、対照、AmpB/PECEOL(登録商標)製剤(10mg/kg)、本発明の代表的なAmpB製剤(AmpB/PECEOL/DSPE-PEG-2000、AmpB/DSPE-PEG-2000と命名、10mg/kg)および静脈内ABELCET(登録商標)(ABLCと命名、5mg/ml)(ブランク、0時間および48時間)による処置を受けたラットにおける血漿クレアチニン(mg/dl)を比較している。腎毒性は、血漿クレアチンレベルによる測定では全く観察されなかった。
【0164】
実施例3
代表的なエコナゾール製剤
この実施例では、本発明の代表的なエコナゾール製剤の調製および特性決定について説明する。エコナゾールの水への溶解度は<1mg/mLであり(19〜66゜F)、アルコールへの溶解度は20mg/mLである。
【0165】
硝酸エコナゾール製剤(硝酸エコナゾール10mgおよび15mg/mL製剤)を、実施例1に記載したアンホテリシンB製剤を調製するための方法と同様の方法によって調製した。硝酸エコナゾール(Sigma)およびDSPE-PEG2000(15mM)粉末に対して45℃のPECEOL(登録商標)を添加し、その結果得られた混合物を振盪インキュベーターにて45℃で2〜4時間振盪させた。エタノールは用いなかった。可溶化されなかった材料を可視化するために、試料を遠心処理した。続いて混合物を経時的な澄明性について評価した。
【0166】
生成物である硝酸エコナゾール製剤を、乳化特性を評価するために、擬似胃液(1:100 v/v希釈)中、ならびにパンクレアチンの存在下および非存在下にある空腹状態擬似腸液および摂食状態擬似腸液(すべて1:500 v/v希釈)中で、37℃で2時間インキュベートした。エマルション液滴サイズを動的光散乱(Zetasizer, Malvern Instruments)によって直ちに評価した。
【0167】
これらの製剤を経時的な澄明性に関して評価した。その結果は表6にまとめられている。
【0168】
(表6)エコナゾール製剤の外観

【0169】
エマルション液滴サイズ分析を、擬似胃液および腸液(SGF、FaSSIF、FeSSIFおよびFeSSIFe)中でエコナゾール製剤(10mg/mL)に対して行い、平均を体積別ピーク分析に基づいて求めた。表中のエマルション液滴サイズは、各部分集団に関する平均、および範囲の1つであるピーク半値幅を指している。その結果は表8にまとめられている。
【0170】
(表7)エコナゾール製剤に関するエマルション液滴サイズ

SGF:擬似胃液
FaSSIF:空腹状態擬似腸液
FeSSIF:摂食状態擬似腸液
FeSSIFe:膵酵素(Sigma)を伴う摂食状態擬似腸液
【0171】
エコナゾール製剤に対する乳化試験に用いた擬似胃液/腸液(1L)の組成
SGF(擬似胃液):
蒸留水:1L
塩化ナトリウム:30mM(1740mg/L)
塩酸:pH 1.2に調整するために必要な分.
FaSSIF(空腹状態擬似腸液):
リン酸水素二カリウム:3.9g
蒸留水:1L
タウロコール酸ナトリウム:3mM(1613.04mg/L)
卵ホスファチジルコリン:0.75mM(570.07mg/L)
塩化カリウム:7.7g
塩酸:pHを6.5に調整するために必要な分
FeSSIF(摂食状態擬似腸液):
蒸留水:1L
酢酸:8.65g=9.073ml
タウロコール酸ナトリウム:15mM(8065.2mg/L)
卵ホスファチジルコリン:3.75mM(2850.34mg/L)
塩化カリウム:15.2g
塩酸または水酸化ナトリウム:pHを5.0に調整するために必要な分
膵酵素を伴うFeSSIF:
蒸留水:1L
タウロコール酸ナトリウム:7.5mM(4032.6mg/L)
卵ホスファチジルコリン:2.0mM(1520.18mg/L)
グリセリルモノオレエート:5.0mM(1782.72mg/L)
オレイン酸ナトリウム:0.8mM(241.96mg/L)
パンクレアチン:1000uリパーゼ
酢酸:9.073ml
塩化カリウム:15.2g
塩酸または水酸化ナトリウム:pHを5.8に調整するために必要な分
【0172】
実施例4
代表的なドセタキセル製剤
この実施例では、本発明の代表的なドセタキセル製剤の調製について説明する。ドセタキセルの水への溶解度は約10〜25μg/mLである。
【0173】
ドセタキセル(Fluka)粉末をDSPE-PEG2000粉末と組み合わせ、組み合わせた粉末を意図する最終体積の10% v/vとなる100%エタノールで湿潤させることによって、ドセタキセル製剤(ドセタキセル10mg/mL製剤)を調製した。エタノールは粉末を可溶化しなかった。この湿潤粉末に対して、50℃に予め加熱したPECEOL(登録商標)を添加し、続いてボルテックス混合を2分間行って、澄明溶液を得た。エタノールは除去しなかった。
【0174】
エタノールは、溶解性を最大限に高めるためのこの製剤中での共溶媒としてドセタキセルとともに用いた。ドセタキセルは水に貧溶性であるが、極性領域を有する。
【0175】
この製剤を経時的な澄明性について評価した。その結果は表8にまとめられている。
【0176】
(表8)ドセタキセル製剤の外観

* PECEOL(登録商標)のみを用いた場合に、50℃でこの時間の長さについて観察された色調変化に合致する。
【0177】
本発明のドセタキセル製剤は、上記のものがエタノールを含んでいない点を例外として、上記の通りのものを含む。
【0178】
例示的な態様を例証および説明してきたが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、その中にさまざまな変化を施しうることは正しく理解されるであろう。
【0179】
排他的な所有権または権利が請求される本発明の諸態様は、以下の通りに定義される。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アンホテリシンB;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(c)1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル
を含む、アンホテリシンB製剤。
【請求項2】
アンホテリシンBが、製剤中に製剤1 mL当たり約0.5〜約10mgの量で存在する、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
アンホテリシンBが、製剤中に約5mg/mLで存在する、請求項1記載の製剤。
【請求項4】
アンホテリシンBが、製剤中に約7mg/mLで存在する、請求項1記載の製剤。
【請求項5】
約10重量%未満の量でグリセロールをさらに含む、請求項1記載の製剤。
【請求項6】
脂肪酸グリセロールエステルが、脂肪酸モノグリセリドを約32〜約52重量%含む、請求項1記載の製剤。
【請求項7】
脂肪酸グリセロールエステルが、脂肪酸ジグリセリドを約30〜約50重量%含む、請求項1記載の製剤。
【請求項8】
脂肪酸グリセロールエステルが、脂肪酸トリグリセリドを約5〜約20重量%含む、請求項1記載の製剤。
【請求項9】
脂肪酸グリセロールエステルが、約60重量%を上回るオレイン酸モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドを含む、請求項1記載の製剤。
【請求項10】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩のC8-C22飽和脂肪酸エステルを含む、請求項1記載の製剤。
【請求項11】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩を含む、請求項1記載の製剤。
【請求項12】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール350塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール550塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール750塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール1000塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000塩、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項11記載の製剤。
【請求項13】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩が、製剤中に、製剤の体積ベースで1mM〜約30mMの量で存在する、請求項11記載の製剤。
【請求項14】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩が、アンモニウム塩またはナトリウム塩である、請求項12記載の製剤。
【請求項15】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、C8-C22飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む、請求項1記載の製剤。
【請求項16】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、C12-C18飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む、請求項1記載の製剤。
【請求項17】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステルおよびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1記載の製剤。
【請求項18】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、平均分子量が約750〜約2000であるポリエチレンオキシドを含む、請求項1記載の製剤。
【請求項19】
脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比が、約20:80〜約80:20 v/vである、請求項1記載の製剤。
【請求項20】
脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比が、約60:40 v/vである、請求項1記載の製剤。
【請求項21】
自己乳化性(self-emulsifying)薬物送達システムである、請求項1〜20のいずれか一項記載の製剤。
【請求項22】
アンホテリシンBを投与するための方法であって、請求項1〜21のいずれか一項記載の製剤を、それを必要とする対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項23】
製剤が経口的に投与される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
製剤が局所的に投与される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
アンホテリシンBの投与によって治療しうる感染症を治療するための方法であって、それを必要とする対象に、請求項1〜21のいずれか一項記載のアンホテリシンB製剤の治療的有効量を投与する段階を含む、方法。
【請求項26】
製剤が経口的に投与される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
製剤が局所的に投与される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
感染症が、真菌感染症、内臓リーシュマニア症、皮膚リーシュマニア症、シャーガス病、または発熱性好中球減少症である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
真菌感染症が、アスペルギルス症、ブラストミセス症、カンジダ症、コクシジオイデス症、クリプトコッカス症、ヒストプラスマ症、ムコール菌症、パラコクシジオイデス症、またはスポロトリクム症である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
(a)治療薬;
(b)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(c)1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル
を含む、治療薬の送達のための製剤。
【請求項31】
治療薬が、製剤中に製剤1 mL当たり約0.1mg/mL〜約25mgの量で存在する、請求項30記載の製剤。
【請求項32】
治療薬が、抗癌薬、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗プリオン薬、抗アメーバ薬、非ステロイド性抗炎症薬、抗アレルギー薬、免疫抑制薬、冠血管薬(coronary drug)、鎮痛薬、局所麻酔薬、抗不安薬、鎮静薬、睡眠薬、片頭痛緩和薬、乗り物酔いに対する薬物、および制吐薬からなる群より選択される、請求項30記載の製剤。
【請求項33】
治療薬が、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、アシクロビル、イドクスウリジン、トロマンタジン、ミコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、エコナゾール、グリセオフルビン、アンホテリシンB、ニスタチン、メトロニダゾール、安息香酸メトロニダゾール、チニダゾール、インドメタシン、イブプロフェン、ピロキシカム、ジクロフェナク、クロモグリク酸ナトリウム、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ベラパミル、ニフェジピン、ジルチアゼム、ジゴキシン、モルヒネ、シクロスポリン、ブプレノルフィン、リドカイン、ジアゼパム、ニトラゼパム、フルラゼパム、エスタゾラム、フルニトラゼパム、トリアゾラム、アルプラゾラム、ミダゾラム、テマゼパムロルメタゼパム、ブロチゾラム、クロバザム、クロナゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、ブスピロン、スマトリプタン、エルゴタミン誘導体、シンナリジン、抗ヒスタミン薬、オンダンセトロン、トロピセトロン、グラニセトロン、メトクロプラミド、ジスルフィラム、ビタミンK、パクリタキセル、ドセタキセル、カンプトテシン、SN38、シスプラチン、およびカルボプラチンからなる群より選択される、請求項30記載の製剤。
【請求項34】
第2の治療薬をさらに含む、請求項30記載の製剤。
【請求項35】
約10重量%未満の量でグリセロールをさらに含む、請求項1記載の製剤。
【請求項36】
脂肪酸グリセロールエステルが、脂肪酸モノグリセリドを約32〜約52重量%で含む、請求項30記載の製剤。
【請求項37】
脂肪酸グリセロールエステルが、脂肪酸ジグリセリドを約30〜約50重量%含む、請求項30記載の製剤。
【請求項38】
脂肪酸グリセロールエステルが、脂肪酸トリグリセリドを約5〜約20重量%含む、請求項30記載の製剤。
【請求項39】
脂肪酸グリセロールエステルが、約60重量%を上回るオレイン酸モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドを含む、請求項30記載の製剤。
【請求項40】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩のC8-C22飽和脂肪酸エステルを含む、請求項30記載の製剤。
【請求項41】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩を含む、請求項30記載の製剤。
【請求項42】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール350塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール550塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール750塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール1000塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000塩、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項41記載の製剤。
【請求項43】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩が、製剤中に製剤の体積ベースで1mM〜約30mMの量で存在する、請求項41記載の製剤。
【請求項44】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩が、アンモニウム塩またはナトリウム塩である、請求項41記載の製剤。
【請求項45】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、C8-C22飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルである、請求項30記載の製剤。
【請求項46】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、C12-C18飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む、請求項30記載の製剤。
【請求項47】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項30記載の製剤。
【請求項48】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、平均分子量が約750〜約2000であるポリエチレンオキシドを含む、請求項30記載の製剤。
【請求項49】
脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比が、約20:80〜約80:20 v/vである、請求項30記載の製剤。
【請求項50】
脂肪酸グリセロールエステルとポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルとの比が、約60:40 v/vである、請求項30記載の製剤。
【請求項51】
自己乳化性薬物送達システムである、請求項30〜50のいずれか一項記載の製剤。
【請求項52】
治療薬を投与するための方法であって、請求項30〜51のいずれか一項記載の製剤を、そのような薬剤を必要とする対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項53】
製剤が経口的に投与される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
製剤が局所的に投与される、請求項52記載の方法。
【請求項55】
(a)1つまたは複数の脂肪酸グリセロールエステル;および
(b)1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有リン脂質または1つもしくは複数のポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステル
を含む、治療薬を製剤化するための組成物。
【請求項56】
約10重量%未満の量でグリセロールをさらに含む、請求項55記載の組成物。
【請求項57】
脂肪酸グリセロールエステルが、脂肪酸モノグリセリドを約32〜約52重量%含む、請求項55記載の組成物。
【請求項58】
脂肪酸グリセロールエステルが、脂肪酸ジグリセリドを約30〜約50重量%含む、請求項55記載の組成物。
【請求項59】
脂肪酸グリセロールエステルが、脂肪酸トリグリセリドを約5〜約20重量%含む、請求項55記載の組成物。
【請求項60】
脂肪酸グリセロールエステルが、約60重量%を上回るオレイン酸モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドを含む、請求項55記載の組成物。
【請求項61】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質が、ホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩のC8-C22飽和脂肪酸エステルを含む、請求項55記載の組成物。
【請求項62】
ポリエチレンオキシド含有リン脂質が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩を含む、請求項55記載の組成物。
【請求項63】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール350塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール550塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール750塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール1000塩、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000塩、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項62記載の組成物。
【請求項64】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩が、製剤中に製剤の体積ベースで1mM〜約30mMの量で存在する、請求項62記載の組成物。
【請求項65】
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール塩が、アンモニウム塩またはナトリウム塩である、請求項62記載の組成物。
【請求項66】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、C8-C22飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む、請求項55記載の組成物。
【請求項67】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、C12-C18飽和脂肪酸のポリエチレンオキシドエステルを含む、請求項55記載の組成物。
【請求項68】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項55記載の組成物。
【請求項69】
ポリエチレンオキシド含有脂肪酸エステルが、平均分子量が約750〜約2000であるポリエチレンオキシドを含む、請求項55記載の組成物。
【請求項70】
治療薬を製剤化するための方法であって、治療薬を請求項55〜69のいずれか一項記載の組成物と組み合わせる段階を含む、方法。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−527940(P2010−527940A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508677(P2010−508677)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000975
【国際公開番号】WO2008/144888
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(300066874)ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア (24)
【Fターム(参考)】