説明

治癒過程の調節

【課題】生体での創傷治癒過程を調節する際、損傷、外科手術、火傷などの物理的外傷や炎症に起因する癒着および/または瘢痕組織の形成を防止する際に用いる製品を製造するにあたっての、医薬活性を有する公知の化合物の使用を可能にする医薬製品を提供する。
【解決手段】生体内での創傷の治癒過程を調節する際に使用する製品を製造するためのトロンビン阻害物質の使用が提供され、特に、フィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成の防止または阻害、ならびに、多糖(たとえば、キトサン)および低分子量ペプチド系トロンビン阻害物質を含有する、生体での創傷治癒過程調節用の製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体での創傷治癒過程を調節する際、具体的には、損傷、外科手術、火傷などの物理的外傷や炎症に起因する癒着および/または瘢痕組織の形成を防止する際に用いる製品を製造するにあたっての、医薬活性を有する公知の化合物の使用に関するものであり、また、生体での創傷の治癒過程を調節する際に使用する医薬製品にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒト生体内で、多くの臓器が相対的に移動しうる状態にあることは、それらの臓器が最適なかたちで機能するうえで必須である。その意味で、各臓器が、隣接した臓器、および/または、その臓器が収容されている体腔に対して相対的に移動ならびに摺動しうることが重要である。たとえば、食道、胃、腸、肝臓、泌尿生殖器が、隣接臓器ならびに腹壁、横隔膜に対して少なくとも部分的にも移動可能でなかったとすれば、呼吸時の移動の制約、腹腔内各種構造の移動の制約、腸閉塞および/または不妊状態といった機能不全が生じるはずである。
【0003】
臓器が損傷、外科手術、火傷、あるいは電気ショックなどの物理的外傷を被ったり、疾患性原因によって炎症を生じたりした場合、その後の治癒ならびに炎症過程の帰結として避けられないものの一つに、癒着および瘢痕組織の形成があり、その際には、上述の臓器の可動性が結果的におのずと制限されることとなる。
【0004】
癒着や瘢痕組織は、物理的外傷および疾患性炎症の後にフィブリン−血小板網状構造が形成され、さらにこの網状構造が再形成されたり肉芽組織で置き換わったりする結果として形成されるものである。
【0005】
外傷後、あるいは炎症の結果として早い段階で形成される、複雑で通常高度に不規則な構造を有するフィブリン−血小板網状構造は、あらゆる創傷の治癒過程の帰趨を決する重要な意味を有している。物理的構造、具体的にはフィラメントと膜は、その外郭が曖昧であっても明確であっても、侵入してくる肉芽組織を導く役目を果たす。こうして新たに形成される組織が、上述の機序にしたがって、線維性ストランドあるいは膜として編成された瘢痕組織として最終的に再構築されることになる。実際には、侵入した肉芽組織細胞が、もとの細胞と完全に置き換わることは決してなく、したがって、組織が再生することも決してなく、組織は補修されるにとどまることになる。このことは、皮膚についても、体腔表面の粘膜についても、筋肉、鍵腱、神経などの他の構造についてもそうである。さらに、こうして形成された瘢痕組織は、時間の経過とともに拘縮し、拘縮したまま残り、損傷領域の変形ならびに組織崩壊を生じる。
【0006】
通常、癒着を生じるうえでは、2、3個の肉芽組織細胞(血管形成細胞を含む)が増殖し、フィブリン糸に侵入するだけで十分である。血餅のフィブリン−血小板網状構造で個々のフィブリン糸が有している方向、密度、編成のされ方が情報となって、侵入肉芽組織細胞ならびに特定の細胞、たとえばシュバン細胞の軌跡が決定される。細胞外フィブリンが蓄積、接着して、隣接する構造体との間に異常な連結構造を形成する場合もある。
【0007】
このように、フィブリン−血小板網状構造は、侵入肉芽組織を導くうえで、したがって、癒着ならびに瘢痕組織が形成されるうえで、きわめて重要な意味を有する。
【0008】
欧州特許出願 EP 0 051 354 には、多糖であるキトサンによってコーティングされたポリマー基質が記載されており、このキトサンには、抗血栓物質であるヘパリンが付加されている。
【0009】
米国特許第 5,116,824 号には、N−アシルキトサンとコラーゲンを含有し、創傷を覆うのに適した複合材料が記載されている。ヘパリンは、抗血栓剤として含有させることができる。
【0010】
これらの従来技術文献のいずれも、損傷または外科手術のような物理的外傷や疾患性炎症の後の癒着および/または瘢痕組織の形成を防止するにあたって、当該従来技術文献に記載されたデバイスを使用することを開示していない。また、トロンビン阻害物質、特に、低分子量トロンビン阻害物質の使用は示唆されていない。
【0011】
また、繊維素溶解性物質と多糖を組み合わせて使用することが、癒着および/または瘢痕組織の形成を防止するうえで有用であることについても、開示も示唆もない。
【発明の開示】
【0012】
我々は、驚くべきことに、トロンビン阻害物質が、物理的外傷または疾患性炎症後の癒着および/または瘢痕組織の形成を有意に防止または阻害するものであり、そして、生体での創傷治癒過程を調節する際に使用しうるものであることを見いだした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1の態様では、生体での創傷の治癒過程を調節する際に使用する製品を製造するにあたってのトロンビン阻害物質の使用を提供する。
【0014】
より具体的には、トロンビン阻害物質が、物理的外傷または疾患性炎症の結果としてのフィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成を防止または阻害するうえで使用しうるものであることを見いだしたものである。
【0015】
「フィブリン関連の癒着」とは、上述のような物理的外傷または疾患性炎症後に、フィブリン−血小板網状構造(すなわち、フィブリンと血小板を含む細胞との網状構造)が形成された結果として生じた癒着を意味するものである。
【0016】
我々は、トロンビン阻害物質が、皮膚または内部臓器に対する物理的損傷、たとえば事故による損傷;外科手術、たとえば、腹腔鏡による外科手術、「開腹」をともなう通常の胃腸科、婦人科の外科手術、癌の手術、整形外科手術(たとえば、骨折の治療、補綴材の埋設、腱、筋肉、靭帯の外科手術)、神経外科手術、心臓および胸部の外科手術、あるいは外傷の外科手術、ならびにカテーテルの挿入;熱による外傷、たとえば火傷;薬品による外傷、たとえば腐食性物質、酸性物質またはアルカリ性物質との接触;ならびに電気ショックなどの物理的外傷の後に生じるフィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成を防止および/または予防するうえで使用しうるものであることを見いだした。
【0017】
我々は、また、トロンビン阻害物質が、疾患性炎症、たとえば、リウマチ疾患、全身性炎症反応、自己免疫疾患のような医学的状態の結果として生じた炎症に起因するフィブリン関速の癒着および/または瘢痕組織の形成を防止および/または阻害するために使用できることも見いだした。
【0018】
本発明の別の態様では、フィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成を防止または阻害する方法を提供するものであり、該方法は、そうした癒着の防止または阻害を必要としている患者への、トロンビン阻害物質の投与を行うことを含む。
【0019】
外科手術または疾患性炎症の場合には、その外科手術または医学的状態が発症する前、後、または最中に、適宜「投与」を行うことができる。
【0020】
トロンビン阻害物質は、トロンビン阻害物質を製剤学的に許容される剤形の製剤としたうえで、局所投与または全身投与することができる。局所または全身投与を行うにあたって用いることのできる剤形としては、たとえば Lachman ら(「Theory and Practice of Industrial Pharmacy(産業製剤の理論と実践)」、Lea & Febiger,1986)に記載されているような当業者に周知の剤形がある。
【0021】
「製剤学的に許容される剤形」とは、無菌状態であって、好ましくは発熱物質非含有の剤形のことを意味するものである。
【0022】
特に、多糖とトロンビン阻害物質の同時投与を行うと、多糖単独投与の場合と比較して、フィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成が防止または阻害されることを見いだした。
【0023】
したがって、本発明の別の態様では、フィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成を防止または阻害する方法を提供するものであり、該方法は、こうした防止または阻害を必要としている患者に、多糖とトロンビン阻害物質の同時投与を行うことを含む。
【0024】
トロンビン阻害物質の多糖との同時投与は、局所投与でも全身投与でも可能である。また、同時投与にあたっては、トロンビン阻害物質と多糖とを別々に投与することもでき、すなわち、トロンビン阻害物質を多糖の前、後、同時に独立して投与することもできる。その際には、適当な手段、たとえば局所投与の場合には、トロンビン阻害物質の溶液を多糖製品を介して投与あるいは注入することが可能である。また、局所投与の場合には、トロンビン阻害物質を多糖に、適当な手段、たとえば含浸または物理的/化学的結合によって固定しておくこともできる。
【0025】
フィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織を防止または阻害する際に使用することのできる適当なトロンビン阻害物質としては、ヒルジンおよびヒルジン断片(すなわち、ヒルジンのカルボキシ末端のアミノ酸を端から少なくとも8個含むもの、たとえば、ヒルジンの既知配列のC末端のアミノ酸からなる断片)、ヒルジンの生合成類似物質(たとえば、アミノ酸10−12個以下のもの、市販されているものもある)、プロテインNAPc2、ならびに低分子量ペプチド系トロンビン阻害物質がある。
【0026】
トロンビン阻害物質として好適なのは、低分子量ペプチド系トロンビン阻害物質である。「低分子量ペプチド系トロンビン阻害物質」という用語が、1〜4個のペプチド結合を有し、そして/または分子量が1000以下であるトロンビン阻害物質を含むものであり、また、Claesson による Blood Coagul.Fibrin. (1994)5,411の総括論文、ならびに米国特許第 4,346,078 号、国際特許出願WO93/11152、WO95/23609、WO95/35309、WO96/25426、WO94/29336、WO93/18060 およびWO95/01168、欧州特許出願第 648 780、468 231、559 046、641 779、185 390、526 877、542 525、195 212、362 002、364 344、530 167、293 881、686 642、669 317 および 601 459 号に記載されたトロンビン阻害物質を含むものであることは、当業者であれば十分理解できよう。
【0027】
低分子量ペプチド系トロンビン阻害物質としては、「ガトラン(gatrans)」として知られる一群の物質が好適である。具体的なガトランとしては、HOOC-CH2-(R)Cha-Pic-Nag-H(イノガトランとして公知、国際特許出願 WO93/11152およびその明細書中の略称リストを参照のこと)、HOOC-CH2-(R)Cgl-Aze-Pab-H(メラガトランとして公知、国際特許出願 WO94/29336 およびその明細書中の略称リストを参照のこと)が挙げられる。トロンビン阻害物質として特に好適なのは、メラガトランである。
【0028】
フィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成を防止または阻害するうえで適当なトロンビン阻害物質の用量は、使用するトロンビン阻害物質、治療対象の障害の重篤度、治療対象患者の性質、投与経路に依存する。適当な用量とは、平均血漿濃度が、治療が必要とされる期間にわたって、0.001〜100μモル/リットル、好ましくは0.005〜20μモル/リットル、特に 0.009〜15μモル/リットルの範囲となる用量である。イノガトランの用量として適当なのは、平均血漿濃度が 0.1〜10μモル/リットル、好ましくは 0.5〜2μモル/リットルの範囲となる用量であり、メラガトランの用量として適当なのは、平均血漿濃度が 0.01〜5μモル/リットル、好ましくは0.1〜1μモル/リットルの範囲となる用量である。
【0029】
出願人の知る限り、イノガトラン、メラガトランをはじめとするいずれの低分子量ペプチド系トロンビン阻害物質についても、血小板の活性化および凝集、したがって、瘢痕組織の形成および結合組織の癒着に影響を及ぼすことはこれまで報告されていない。
【0030】
本発明のさらに別の態様では、血小板の活性化および凝集を防止または低減するにあたっての、低分子量ペプチド系トロンビン阻害物質の使用を提供するものである。
【0031】
我々は、トロンビン阻害物質に加えて、またはトロンビン阻害物質のかわりに繊維素溶解性物質を適用した場合でも、フィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成が防止または阻害されることも見いだした。具体的には、トロンビン阻害物質に加えて、またはトロンビン阻害物質のかわりに繊維素溶解性物質を多糖と同時に投与した場合でも、フィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成が防止または阻害されることを見いだした。
【0032】
使用が可能な繊維素溶解性物質の例としては、プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、ストレプトキナーゼおよびウロキナーゼがある。
【0033】
使用が可能な適当な多糖としては、創傷治癒過程を調節するうえで適当なもの、たとえば、後述の物理形状への製造が可能で、多糖を創傷に適用しうると当業者によって認められるものを挙げることができる。多糖の具体例としては、キトサン、ヒアルロナン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、およびヘパラン硫酸を挙げることができる。多糖としては、キトサンが好適である。
【0034】
多糖は、当業者に周知の各種技術によって、治療対象部位に応じた種々の物理形状として製造することができる。物理形状の例としては、任意の寸法のフィルム、膜、ゲル、溶液、糸、棒、あるいはチューブを挙げることができる。しかし、多糖の形状として好適なのは、フィルム、膜またはゲルである。
【0035】
本発明のさらに別の態様では、多糖と、低分子量ペプチド系トロンビン阻害物質とを含む医薬製品を提供する。
【0036】
本明細書で定義する製品は、後述するように、フィブリン関連の癒着および/または瘢痕組織の形成を有意に防止および/または阻害するという利点を有するものである。これらの製品は、また、従来の技術において公知の類似製品と比較して、効果が高い、副作用が少ない、あるいは製剤として有用なもっと別の特性を有するといった利点を有しうるものである。
【0037】
本発明を、以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。表1は、トロンビン阻害物質であるイノガトランを使用した、フィブリン関連の癒着の防止について例示するものである。
【実施例】
【0038】
動物実験は、ゴーセンベルグ (Gothenberg) 大学動物実験倫理委員会より付与された倫理許可番号0 68/95、69/95および70/95にしたがって実施した。
【0039】
実施例1
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させることによって損傷を誘導したところ、強固かつ広範な癒着が形成され、胃が、小腸、網、肝臓、場合によっては脾臓に連結され、堅く固定された。
【0040】
実施例2
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。その後、この領域を、緩衝食塩水で洗浄し、損傷領域より数mm径が大きいキトサン膜、別の実験ではキトサンゲルで覆った。その結果、肝臓、小腸、網との間で生じる癒着の数ならびに寸法が低減するのが観察された。
【0041】
実施例3
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。その後、この領域を緩衝食塩水で洗浄し、損傷領域より数mm径が大きいキトサン膜、別の実験ではキトサンゲルで覆った。トロンビン阻害物質 HOOC-CH2-(R)Cgl-Aze-Pab-H(メラガトラン、100〜500μg/ml、リン酸緩衝食塩水に溶解)100μリットルを膜上に毎日滴下した。全ての場合において、その後2〜5日にわたって、胃と肝臓、小腸、網との間に連結組織、すなわち肉芽組織でフィブリンストランドが置換されたことによる癒着は、全く形成されなかった。
【0042】
実施例4
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたつて接触させた。その後、この領域を緩衝食塩水で洗浄し、浸透ミニポンプ (Alza 2001、容量約 220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(PaloAlto,CA,USA)、メラガトランの2〜100 μg/ml溶液をあらかじめ充填)を腹膜腔に埋設して、100μlの溶液を約1週間にわたって送達した。全ての場合において、治療後10日以内の観察期間には、胃と肝臓、小腸、網との間で、フィブリン、血小板、他の血球の弱い接着がところどころに形成され、新たに形成された肉芽組織がわずかに癒着し、肉芽組織の大きな塊がところどころに散見される のみであった。
【0043】
実施例5
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。その後、この領域を緩衝食塩水で洗浄し、浸透ミニポンプ (Alza 2001、容量約 220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA)、トロンビン阻害物質であるメラガトランの2〜100 μg/ml溶液をあらかじめ充填)を腹膜腔に埋設して、100μlの溶液を約1週間にわたって送達し、ポンプの出口を、損傷領域より数mm径が大きいキトサン膜、別の実験ではキトサンゲルに接続した。10日以内の観察期間中、胃と肝臓、小腸、網との間には、フィブリン網状構造も肉芽組織のストランドも検出されなかった。
【0044】
実施例6
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。その後、この領域を緩衝食塩水で洗浄し、浸透ミニポンプ (Alza 2001、容量約 220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(PaloAlto,CA,USA)、トロンビン阻害物質であるメラガトランの2〜100 μg/ml溶液をあらかじめ充填)を腹膜腔に埋設して、ポンプの出口は開いたままとし、その内容物を腹腔に送達した。創傷領域を、損傷領域より数mm径が大きいキトサン膜、別の実験ではキトサンゲルで覆った。10日以内の観察期間中、胃と肝臓、小腸、網との間には、フィブリン網状構造も肉芽組織のストランドも検出されなかった。
【0045】
実施例7
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。この領域を緩衝食塩水で洗浄した後、創傷領域を、損傷領域より数mm径が大きいキトサン膜、別の実験ではキトサンゲルで覆った。
浸透ミニポンプ(Alza 2001、容量約220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA)、トロンビン阻害物質であるメラガトランの 2〜100 μg/ml溶液をあらかじめ充填)を皮下に埋設して、ポンプの出口は開いたままとし、その内容物を隣接組織に送達した。14日以内の観察期間中、胃と肝臓、小腸、網との間には、フィブリン網状構造も肉芽組織のストランドも検出されなかった。
【0046】
実施例8
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。この領域を緩衝食塩水で洗浄した後、創傷領域を、損傷領域より数mm径が大きいキトサン膜、別の実験ではキトサンゲルで覆った。
浸透ミニボンプ (Alza 2001、容量約220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA);Sigma Chemical Co,(St.Louis,Mo,USA)から購入したストレプトキナーゼ溶液をあらかじめ充填)を腹膜腔に埋設して、ポンプの出口は開いたままとし、キトサン膜表面に連結した。10日以内の観察期間中、胃と肝臓、小腸、網との間には、フィブリン−血小板網状構造も肉芽組織のストランドも検出されなかった。
【0047】
実施例9
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。この領域を緩衝食塩水で洗浄した後、創傷領域を、損傷領域より数mm径が大きいキトサン膜、別の実験ではキトサンゲルで覆った。
浸透ミニポンプ(Alza 2001、容量約220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA);Sigma Chemical Co,(St.Louis,Mo,USA)から購入したストレプトキナーゼ溶液をあらかじめ充填)を腹腔に埋設して、ポンプの出口は開いたままとし、どこにも連結しなかった。10日以内の観察期間中、胃と肝臓、小腸、網との間には、フィブリン網状構造も新たに形成された肉芽組織のストランドも検出されなかった。
【0048】
実施例10
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。この領域を緩衝食塩水で洗浄した後、創傷領域を、損傷領域より数mm径が大きいキトサン膜で覆った。浸透ミニポンプ(Alza 20O1、容量約 220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA);
アクティライス(Actilyse(登録商標)、組換えヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター、Boehringer Ingelheim)溶液をあらかじめ充填)を腹腔に埋設して、ポンプの出口は開いたままとし、どこにも連結しなかった。10日以内の観察期間中、胃と肝臓、小腸、網との間には、フィブリン網状構造も新たに形成された肉芽組織のストランドも検出されなかった。
【0049】
実施例11
麻酔した成熟ラットの大腿を皮膚から筋組織にかけて切開し、所定面積(約10x15mm)の筋膜を外科的に取り出した。創傷を縫合し、10日後に開いて検査したところ、数多くの癒着が認められ、損傷領域が肉芽組織によって隣接した筋肉、筋膜、血管、神経、ならびに皮膚に連結されているのが観察された。
【0050】
実施例12
麻酔した成熟ラットの大腿を皮膚から筋組織にかけて切開し、所定面積(約10x15mm)の筋膜を外科的に取り出した。筋膜を、キトサン膜、別の実験ではキトサンゲルで覆い、皮下に埋設しておいた浸透ミニボンプ(Alza 2001、容量約 220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA)、トロンビン阻害物質であるメラガトランの0.2〜100μg/ml溶液をあらかじめ充填)のチューブを連結した。次に、創傷を縫合し、10日後に開いて検査したところ、隣接する構造体との間に形成された癒着の程度ならびに寸法が著しく低減していた。上記実施例11に記載した非処置動物と比較すると、肉芽組織の範囲ならびに分布はほぼ正常であり、損傷領域が肉芽組織によって隣接した筋肉、筋膜、血管、神経、ならびに皮膚に連結されているということも、ほぼなかった。
【0051】
実施例13
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。その後、この領域を緩衝食塩水で洗浄し、1台以上の浸透ミニポンプ(Alza 2001、容量約 220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA)、あるいは Alza 2ML1、容量約 2000μl、ポンプ速度約 10μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA)、トロンビン阻害物質であるイノガトランの65.86 μg/μl溶液をあらかじめ充填)を腹膜腔に1週間埋設し、ボンプの出口を、腹膜腔中の損傷領域に隣接して、連結せずに載置した。血漿濃度を 0.5μモル/リットル以上とした場合、10日以内の観察期間中、胃と肝臓、小腸、網との間には、フィブリン網状構造も肉芽組織のストランドも検出されなかった(表1)。従って、癒着形成は、用量−応答相関的に防止された。
【0052】
実施例14
麻酔した成熟ラットの胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。この領域を緩衝食塩水で洗浄した後、創傷領域を、損傷領域より数mm径が大きいヒアルロナンまたはキトサン膜で覆った。浸透ミニポンプ(Alza 2001、容量約 220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA);Sigma Chemical Co,(St.Louis,Mo,USA)から購入したトロンビン阻害物質であるヒルジン溶液をあらかじめ充填)1台/動物1匹を腹膜腔に1週問埋設した。ポンプの出田ま、腹膜腔中で、損傷領域ならびに損傷領域を覆っている多糖膜に隣接するよう載置した。10日以内の観察期間中、胃と肝臓、小腸、網との間には、フィブリン網状構造も肉芽組織のストランドも検出されなかった。
【0053】
実施例15
麻酔した成熟ラット6匹の胃の漿膜表面の直径7mmの領域を、80%酢酸に60秒にわたって接触させた。この領域を緩衝食塩水で洗浄した後、創傷領域を、損傷領域より数mm径が大きいヒアルロナンまたはキトサン膜で覆った。浸透ミニポンプ(Alza 2001、容量約 220μl、ポンプ速度約1μl/h、Alza Corp.(Palo Alto,CA,USA);Sigma Chemical Co,(St.Louis,Mo,USA)から購入したヒルジン断片(ヒルジンの既知配列のC末端側配列からなる断片)溶液をあらかじめ充填)を腹膜腔に1週間埋設し、ポンプの出口は、腹膜腔中で、損傷領域ならびに損傷領域を覆っている多糖膜に隣接するよう載置した。いずれの動物についても、10日以内の観察期間中、胃と肝臓、小腸、網との間には、フィブリン網状構造も肉芽組織のストランドも検出されなかった。
【表1】


全ての事例において、溶液中のイノガトラン濃度は、65.85 μg/μlとした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜4個のペプチド結合を有し、そして/または分子量が1000以下である低分子量ペプチド系のトロンビン阻害物質を含む、生体内での創傷の治癒過程を調節するための医薬製剤。
【請求項2】
1〜4個のペプチド結合を有し、そして/または分子量が1000以下である低分子量ペプチド系のトロンビン阻害物質を含む、フィブリン関連の癒着を防止または阻害するための医薬製剤。
【請求項3】
1〜4個のペプチド結合を有し、そして/または分子量が1000以下である低分子量ペプチド系のトロンビン阻害物質を含む、瘢痕組織の形成を防止または阻害するための医薬製剤。
【請求項4】
多糖をさらに含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項5】
繊維素溶解性物質を、低分子量ペプチド系のトロンビン阻害物質と一緒に含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記繊維素溶解性物質が、プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼまたはウロキナーゼであることを特徴とする請求項5に記載の医薬製剤。
【請求項7】
前記多糖が、任意の寸法のフィルム、膜、ゲル、溶液、糸、棒またはチューブの形状で製造されることを特徴とする、請求項4、または請求項4の従属項である請求項5または6に記載の医薬製剤。
【請求項8】
前記多糖が、フィルム、膜またはゲルの形状で製造されることを特徴とする請求項7に記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記多糖がキトサンであることを特徴とする、請求項4、請求項4の従属項である請求項5または6、請求項7または8のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項10】
多糖および1〜4個のペプチド結合を有し、そして/または分子量が1000以下である低分子量ペプチド系のトロンビン阻害物質を含む医薬製品。
【請求項11】
前記トロンビン阻害物質がガトランであることを特徴とする請求項10に記載の製品。
【請求項12】
前記トロンビン阻害物質がイノガトランまたはメラガトランであることを特徴とする請求項11に記載の製品。
【請求項13】
前記トロンビン阻害物質がメラガトランであることを特徴とする請求項12に記載の製品。
【請求項14】
前記多糖がキトサンであることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の製品。
【請求項15】
前記多糖がフィルム、膜またはゲルの形状であることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の製品。
【請求項16】
前記低分子量ペプチド系のトロンビン阻害物質を、多糖を介して注入することを特徴とする請求項10〜15のいずれかに記載の製品。

【公開番号】特開2008−163036(P2008−163036A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33125(P2008−33125)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【分割の表示】特願平9−525917の分割
【原出願日】平成9年1月16日(1997.1.16)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】