説明

波長可変フィルタ及びそれを備えたマイクロマシン用デバイス

【課題】振動板と対向電極との間の残留電荷影響の低減を実現して、安定した駆動が可能な静電アクチュエータを得ること。
【解決手段】一方の電極として作用する可撓性を有した振動板12と、振動板12にギャップ10を隔てて対向し振動板12との間で電圧が印加される対向電極17とを備え、振動板12の対向電極17との対向面に絶縁膜16Bが形成されている静電アクチュエータであって、絶縁膜16Bが形成された振動板12と対向電極17との対向面の少なくとも一方の面に、ダイヤモンドライクカーボンなどのカーボン材料からなる表面層16Cを形成している静電アクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電アクチュエータ、それを利用した液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び静電デバイス、並びに静電アクチュエータの製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法に関連し、特に波長可変フィルタ及びそれを備えたマイクロマシン用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式記録装置におけるインク吐出方法として、駆動手段に静電気力を利用した、いわゆる静電駆動方式のインクジェット記録装置が知られている。静電駆動方式のインクジェット記録装置は、振動板と固定電極である対向電極との間で電圧を供給/遮断することにより、振動板を対向電極に吸引、隔離させる動作を行わしめ、それによって生じる圧力変化を利用してインクを吐出している。従って、振動板と対向電極はインクが貯えられた圧力室の圧力を変動させる静電アクチュエータとして作用している。このような静電アクチュエータを適用した装置では、一般的に帯電した振動板と対向電極との間に、絶縁破壊やショートを防止するためのシリコン酸化膜の絶縁膜が形成されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−165413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の絶縁膜は、絶縁膜表面での残留電荷影響により静電吸引圧力が安定せず、アクチュエータの安定駆動が確保できないという課題があった。また、絶縁膜が厚くなると静電吸引力が低下し、静電アクチュエータの小型化や高密度化が難しくなるという課題があった。
【0005】
本発明は上記課題に対応してなされたもので、振動板と対向電極との間の残留電荷影響の低減を実現して、安定した駆動が可能な静電アクチュエータを得ることを第1の目的とする。また、アクチュエータ駆動電圧の低電圧化を可能にして、小型でしかも駆動耐久性に優れた静電アクチュエータを得ることを第2の目的とする。さらにこれらに併せて、上記静電アクチュエータを備えた液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、静電デバイスを得ること、及びそれらの製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の静電アクチュエータは、一方の電極として作用する可撓性を有した振動板と、前記振動板にギャップを隔てて対向し前記振動板との間で電圧が印加される対向電極とを備え、前記振動板の前記対向電極との対向面に絶縁膜が形成されている静電アクチュエータであって、前記絶縁膜が形成された前記振動板と前記対向電極との対向面の少なくとも一方の表面にカーボン材料からなる表面層が形成されていることを特徴とする。なお、前記カーボン材料は、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンド、フラーレンC60またはカーボンナノチューブのいずれかであることが好ましい。
このように、振動板と対向電極との対向面の少なくとも一方の表面に、ダイヤモンドライクカーボンなどのカーボン材料からなる表面層を形成することにより、振動板の最表面の水酸基密度が極めて小さくなり、振動板最表面の電荷密度や、水分吸着に起因する表面残留電荷が抑制されて、静電アクチュエータの安定駆動及び耐久性向上が可能となる。
【0007】
前記表面層は、駆動により前記振動板と前記対向電極が当接する面に区画形成されていることが好ましい。このようにすることで、最小限の膜応力により振動板の対向電極への吸着を防止でき、静電アクチュエータの安定駆動が実現できる。
また、対向電極側に表面層を形成する場合には、対向電極の表面に誘電体の保護膜が形成され、その保護膜上にカーボン材料が形成されていることが好ましい。これにより、絶縁耐圧の向上を図るとともに、基板に成膜されたカーボン材料を所定の形状にパターニングする際における電極の酸化が防止できる。
【0008】
本発明の液滴吐出ヘッドは、上記いずれかに記載の静電アクチュエータを備え、前記振動板が液滴を貯えて吐出させる圧力室の底面を構成しているものである。この液滴吐出ヘッドによれば、アクチュエータの残留電荷影響が抑えられ、安定した駆動が可能となるため、高精度で安定したインク吐出特性を確保し、高い印刷特性が得られる。
また、本発明の液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを備えたものである。
さらに、本発明の静電デバイスは、上記いずれかに記載の静電アクチュエータを備えたものである。
【0009】
本発明の静電アクチュエータの製造方法は、シリコン基板の表面に絶縁膜を成膜し、その絶縁膜の上にカーボン材料からなる表面層を積層する工程と、電極基板に溝を形成し、その溝内に電極を形成する工程と、前記シリコン基板と前記電極基板とを、前記表面層と前記電極をギャップを介して対向させて接合する工程と、前記シリコン基板の前記表面層との対向部を可撓性を有した振動板に加工する工程とを備える。
この方法により製造された静電アクチュエータは、アクチュエータの残留電荷影響が抑えられ、安定した駆動が可能となる。
【0010】
また本発明の静電アクチュエータの製造方法は、シリコン基板の表面に絶縁膜を成膜する工程と、電極基板に溝を形成し、その溝内に電極を形成し、その電極面上にカーボン材料からなる表面層を積層する工程と、前記シリコン基板と前記電極基板とを、前記絶縁膜と前記表面層をギャップを介して対向させて接合する工程と、前記シリコン基板の前記表面層との対向部を可撓性を有した振動板に加工する工程とを備える。この場合には、残留電荷影響の抑制効果が得られることに加えて、振動板に表面層を形成しなくてよいため振動板の製造工程が簡素化できる。
なお、前記電極基板の電極の表面に誘電体の保護膜を成膜した後、その保護膜上に前記表面層を積層してもよい。これにより、絶縁耐圧の向上が図れるとともに、基板に成膜されたカーボン材料を所定の形状にパターニングする際における電極の酸化が防止できる。
また、前記表面層の積層は、カーボン材料を前記基板の表面層形成面に成膜し、その成膜面に対してレジストパターニングを行った後、酸素プラズマにより不要な部分の前記成膜をエッチング除去して行うのが好ましい。表面層のパターニングを酸素プラズマに行うことで、炭素材料を効率良く酸化して除去することが可能となる。
【0011】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記いずれかの製造方法を利用して静電アクチュエータを製造し、前記シリコン基板の振動板を液滴を貯えて吐出させる圧力室の底面とするものである。この方法によって得られた液滴吐出ヘッドは、アクチュエータの残留電荷影響が抑えられ、安定した駆動が可能となるため、高精度で安定したインク吐出特性を確保し、高い印刷特性が得られる。
【0012】
本発明の波長可変フィルタは、可動反射面を有し、該可動反射面の面方向と垂直な方向に変位することで所定の波長の光を透過させ所定の波長以外の光を反射させる可動体と、前記可動体に静電ギャップを有して対向配置され、前記可動体とともに静電アクチュエーターを構成する駆動電極と、前記可動反射面と光学ギャップを有して配置され、前記可動反射面で反射された光をさらに反射する固定反射面とを有し、前記可動体の前記駆動電極との対向面、または前記駆動電極の前記可動体との対向面に、絶縁層が形成され、該絶縁層の上に、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンド、フラーレンC60またはカーボンナノチューブで成膜された表面層が形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1に係る静電アクチュエータの縦断面図。
【図2】本発明の実施形態2に係る液滴吐出ヘッドの縦断面図。
【図3】図2の液滴吐出ヘッドの実施例1に係る圧力室付近拡大断面図。
【図4】図2の液滴吐出ヘッドの実施例2に係る圧力室付近拡大断面図。
【図5】図2の液滴吐出ヘッドの実施例3に係る圧力室付近拡大断面図。
【図6】上記実施例1に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を示すフローチャート。
【図7】上記実施例2に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を示すフローチャート。
【図8】本発明に係る静電アクチュエータを搭載した本発明の実施形態3に係る液滴吐出装置の一例を示す外観図。
【図9】本発明に係る静電アクチュエータを搭載した本発明の実施形態4に係るデバイスの一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態1(静電アクチュエータ)
図1は本発明の実施形態1に係る静電アクチュエータの縦断面図である。本実施形態1に係る静電アクチュエータは、一方の電極として作用する可撓性を有した振動板12と、振動板12とギャップ10を介して対向する対向電極17が溝内に形成された電極基板3と、振動板12と対向電極17にパルス電圧を印可する駆動回路20(図1ではブロック表示)と、を備える。
【0015】
振動板12はシリコン基板からなり、対向電極17に対向する面には、絶縁膜16Bと表面層16Cが積層されている。
絶縁膜16Bは、振動板12の駆動時、振動板12と対向電極17との間での絶縁破壊やショートを防止する作用を果たす。絶縁膜16Bとしては酸化シリコンが利用できる。ただし、絶縁膜16Bとして、酸化シリコンの比誘電率(3.2)より大きな比誘電率を有する、酸化アルミニウム、酸窒化シリコン、酸化タンタル、窒化ハフニウムシリケート、または酸窒化ハフニウムシリケートのいずれかを用いると、酸化シリコンより厚くして同等の静電吸引圧力を確保した上でより高い耐絶縁性を確保できる。換言すれば、酸化膜換算厚み(EOT)を薄くして必要な耐絶縁性を確保できる。
【0016】
一方、表面層16Cは、振動板12の最表面の帯電を防止する作用を果たす。表面層16Cとして好ましい成膜材料は、ダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと称する)、ダイヤモンド、フラーレンC60またはカーボンナノチューブなどのカーボン材料である。なお、フラーレンC60は直径0.7nm程度の超微粒子を絶縁膜16Bや対向電極17の表面に付着させることにより、カーボンナノチューブは絶縁膜16Bや対向電極17の表面に植毛させることにより表面層16Cを形成することができる。
表面層16CにDLCなどを用いることにより、振動板12の最表面の水酸基密度が極めて小さくなり、振動板12の表面電荷密度や、水分吸着による表面残留電荷が抑制されて、振動板12の安定駆動が可能となる。特に、振動板12と対向電極17が当接する面にこの表面層16Cを設けることにより、最小限の膜応力により、安定した駆動を実現できる。また、振動板12と対向電極17の接触面の硬度が上がるため、それらの真実接触面積が小さくなり、接触帯電量すなわち表面残留電荷も低減される。
【0017】
電極基板3は例えばホウ珪酸ガラスからなり、その溝内に、振動板12とギャップ10を隔てて対向する複数の対向電極17が形成されている。ギャップ10は例えば100〜300nmの間に設定される。対向電極17は、例えばITO(Indium Tin Oxide)をスパッタすることにより形成できる。
【0018】
ここで上記静電アクチュエータの動作について説明する。駆動回路20を制御して振動板12と対向電極17の電極間に電圧の供給/遮断を行うことにより、振動板12を撓ませて対向電極17に接触させる動作と、振動板12を対向電極17から離して元の位置に戻す動作を行わせる。振動板12のこのような動作を利用した静電アクチュエータは、各種の装置やデバイスに適用することができる。
【0019】
上記静電アクチュエータによれば、表面層16Cにより、振動板12の最表面での電荷密度や、表面残留電荷が抑制される。従って、振動板12の対向電極17への吸着が防止されて、静電アクチュエータの安定駆動が可能となる。
また、絶縁膜16Bとして、酸化シリコンの比誘電率より大きな比誘電率を有する酸化アルミニウムなどを成膜すれば、酸化膜換算厚み(EOT)を薄くして絶縁耐圧を確保することができ、静電圧力を高めることができる。これにより、アクチュエータ駆動電圧の低電圧化を可能にして、小型でしかも駆動耐久性に優れた静電アクチュエータを得ることができる。
なお、表面層16Cを、振動板12の表面ではなく、対向電極17の表面に形成する構成としても、同様の効果を奏することができる。
【0020】
実施形態2(液滴吐出ヘッド)
次に、実施形態1の静電アクチュエータを適用した液滴吐出ヘッドについて説明する。
実施例1
図2は本発明の実施形態2の実施例1に係る液滴吐出ヘッドを示す縦断面図、図3は図2の液滴吐出ヘッドを90度向きを変えた方向からみた圧力室付近の断面図である。この液滴吐出ヘッド1は、キャビティ基板2、電極基板3、及びノズル基板4が積層されて接合されており、キャビティ基板2に形成された可撓性を有する振動板12と、電極基板3に形成された固定電極である対向電極17とが静電アクチュエータを構成している。対向電極17は、対応する圧力室毎に形成されているため個別電極とも称される。なお図2では、振動板12の対向電極17との対向面には絶縁膜16Bのみ表示し、表面層(図1の符号16Cに対応するもの)の図示は省略している。
【0021】
キャビティ基板2は例えば単結晶シリコンからなり、底壁が振動板12として形成され、吐出液を貯えて吐出させる圧力室(吐出室ともいう)13となっている凹部が複数形成されている。圧力室13は図2の紙面手前側から紙面奥側にかけて平行に並んで形成されており、圧力室13の底面を構成する振動板12は、シリコン基板表面からボロン(B)を拡散させたボロンドープ層として形成されている。また、キャビティ基板2には、各圧力室13にインク等の液滴を供給するためのリザーバ14となる凹部と、このリザーバ14と各圧力室13を連通する細溝状のオリフィス15となる凹部が形成されている。また、リザーバ14は単一の凹部から形成されており、オリフィス15は各圧力室13に対して1つずつ形成されている。オリフィス15はノズル基板4の方に形成しても良い。
【0022】
キャビティ基板2の電極基板3が接合される側の面には、実施形態1で説明した絶縁膜16Bと表面層16Cとが形成されている。一方、キャビティ基板2のノズル基板4が接合される側の面には、耐液滴保護膜19が形成されている。この耐液滴保護膜19は、圧力室13やリザーバ14の内部の液滴によりキャビティ基板2がエッチングされるのを防止するためのものである。
【0023】
電極基板3は例えばホウ珪酸ガラスからなり、キャビティ基板2の振動板12に対向するように接合されている。電極基板3には、振動板12とギャップ10を隔てて対向する複数の対向電極17が形成されている。ギャップ10は封止材11で封止されている。対向電極17は、例えばITO(Indium Tin Oxide)をスパッタすることにより形成できる。電極基板3には、リザーバ14と連通する吐出液供給口18が形成されている。この吐出液供給口18は、リザーバ14の底壁に設けられた孔と繋がっており、リザーバ14にインク等の液滴を外部から供給するために設けられている。
【0024】
ノズル基板4は圧力室に対応した複数のノズル8を備えた基板であり、キャビティ基板2の電極基板3が接合された面と反対側の面に接合されている。ノズル基板4はシリコン等からなり、そのノズル8は、例えば円筒状の第1のノズル孔と、第1のノズル孔と連通し第1のノズル孔よりも径の大きい円筒状の第2のノズル孔とからなる。
【0025】
この液滴吐出ヘッド1のアクチュエータ部では、表面層16Cを形成するDLC膜は、振動板12と対向電極17が吸着する部分に設けられていて、吸着部分に多く残留する残留電荷を効率的に抑制すると共に、電極基板3とキャビティ基板2の陽極接合等による接合強度と、気密性といった接合品質も確保している。
なお、図3に示す例では、それぞれの膜厚を、絶縁膜(SiO2)16Bが80nm、表面層(DLC膜)16Cが10nmとし、絶縁耐圧が優れたSiO2膜の厚み割合を大きくしている。そして、ギャップ10の距離は110nmとしている。さらに、効率良く振動板12を対向電極17に吸引するために、振動板12の幅と各対向電極17の幅はほぼ等しく設定し、表面層16Cの幅は振動板12よりも狭く設定している。このように、表面層16Cの幅を振動板12の幅よりも狭く設定することにより、表面層16CのDLC膜の大きな膜応力により振動板12が撓む不具合を解消している。
【0026】
DLC膜は硬く、振動板12が対向電極17に吸着したときの真実接触面積が小さいため、絶縁膜16Bの接触帯電による残留電荷を低減できる。また、ダイヤモンドライクな膜であるため、結晶を構成するSP3混成軌道の全ての軌道に電子が充填された状態で表面に水酸基が形成され難いため、水分子(吸着水)の付着による帯電による残留電荷も低減できる。なお、DLC膜の代わりに、同じく硬く、表面に水酸基を形成しないCVDで成膜されるダイヤモンド薄膜を成膜してもよい。ダイヤモンド薄膜によれば、より硬く緻密な表面層を形成可能であるため、残留電荷の低減などの目的のためにはDLC膜よりも優れた表面層16Cとなる。ただし、DLC膜はダイヤモンド薄膜より簡便に所望の表面層を形成できる。
【0027】
次に図3に示した液滴吐出ヘッド1の作用について説明する。キャビティ基板2と個々の対向電極17には駆動回路20が接続されている。駆動回路20によりキャビティ基板2と対向電極17の間にパルス電圧が印加されると、振動板12が対向電極17に引き寄せられて、その表面層16Cが対向電極17に吸着する。これにより圧力室13の内部に負圧が発生し、リザーバ14の内部に溜まっていたインク等の液体が圧力室13に流れ込む。流れ込んだ液体により圧力室13の内部の圧力が上昇に向かうタイミングで、キャビティ基板2と電極17の間に印加されていた電圧が解除されると、振動板12が元の位置に戻って圧力室13の内部の圧力が更に上昇して高くなるため、ノズル8から液滴が吐出される。
【0028】
実施例2
ここでは、振動板12の表面に代えて、固定電極である対向電極17に表面層16Cを成膜した液滴吐出ヘッドの例を説明する。図4は図3に対応する実施例2の液滴吐出ヘッドの圧力室付近拡大図である。なお、この液滴吐出ヘッドは、表面層16Cが対向電極17に成膜されている点を除いて、図2の液滴吐出ヘッドと同じ構成とする。
ここでは、絶縁膜(SiO2)16Bを80nm、表面層(DLC膜)16Cを10nmとしている。絶縁膜16Bと表面層16Cの間の距離で決まるギャップは110nmとしている。また、振動板12が対向電極17に当接する幅が、対向電極17の幅よりも狭くなることから、表面層16Cの対向電極17に対するパターニングによる区画形成の位置合わせズレを考慮し、表面層C16の幅は対向電極17の幅よりも狭く設定している。
DLCは硬く、振動板12が対向電極17に吸着したときのDLC膜とSiO2膜の真実接触面積が小さいため、同構成においても絶縁膜16Bの接触帯電による、残留電荷を低減できる。なお、実施例2の液滴吐出ヘッドは、キャビティ基板2には絶縁膜(誘電体層)を設けるだけでよいので、キャビティ基板2の製造が容易となっている。
【0029】
実施例3
ここでは、実施例2の表面層16Cの配置態様を更に変更した例を示す。図5は図3に対応する実施例3の液滴吐出ヘッドの圧力室付近拡大図である。なお、この液滴吐出ヘッドは、表面層16Cが対向電極17に成膜された誘電体層上に成膜されている点を除いて、図2の液滴吐出ヘッドと同じ構成とする。
実施例3は、対向電極16表面に、保護膜16Dを成膜しその保護膜16Dの上に表面層16Cを成膜したものである。保護膜16Dとしては誘電体と絶縁体の両方の機能も同時に有するものが好ましく、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸窒化シリコン、酸化タンタル、窒化ハフニウムシリケートなどを成膜する。これにより、対向電極17上に表面層16Cを酸素プラズマなどを利用して区画形成する際に、対向電極17の酸化を防止できる。なお、実施例3の場合、各膜厚は、例えば絶縁膜16Bを60nm、表面層16Cを10nm、保護膜16Dを30nmとしている。
【0030】
ところで図3から図5では、振動板12と対向電極17の対向面の何れか一方の表面に表面層16Cを設けているが、それらの対向面の双方に表面層16Cを設ける構成としてもよい。この場合には、振動板12と対向電極17が当接した際の真実接触面積はより小さくなるため、接触帯電による残留電荷とそれによる駆動電圧の変動への影響は更に低減することができる。
【0031】
(液滴吐出ヘッドの製造方法−図3に示す液滴吐出ヘッドの場合)
図6は上記実施例1に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を示すフローチャートである。
(a)まず、電極基板3を製作する(S0)。電極基板3は、例えばホウ珪酸ガラス基板に金・クロムのエッチングマスクを施し、該ガラス基板をフッ酸水溶液等でエッチングして凹部(または溝部)を形成した後に、凹部内にスパッタ等によりITOからなる対向電極17を形成することで製作することができる。
(b)次に、キャビテキ基板となる例えば厚さが525μmのシリコン基板を用意する。シリコン基板はその両面を鏡面研磨し、その片側表面にボロンをドープして、例えば2μm程度の厚さのボロンドーブ層を形成する。このボロンドーブ層は、後に振動板12となるものである。さらに、シリコン基板のボロンドーブ層が形成されている表面に絶縁膜(又は誘電体層)16Bを形成する(S1)。絶縁膜16Bの形成は、TESOプラズマCVDにより緻密で絶縁性に優れた酸化シリコン膜を成膜するのが好ましい。また、絶縁膜16Bは、酸化アルミニウムや酸窒化シリコンを、ALD(Atomic Layer Deposition)法、ECRスパッタまたはプラズマCVDにより成膜してもよい。
(c)続いて、絶縁膜16Bの表面に表面層16Cを形成する。表面層16Cの形成は、RFプラズマCVD等により、DLCやダイヤモンドを成膜する(S2)。また、フラーレンC60の超微粒子を絶縁膜16Bの表面に付着させる方法や、カーボンナノチューブを絶縁膜16Bの表面に植毛させる方法によっても表面層16Cを成膜してもよい。
さらに、表面層16Cをドライフィルムレジストでパターニングして、対向電極17との接触部分に対応する部分を保護した後(S3)、酸素プラズマにより余分なDLCを酸化して除去する(S4)。酸素プラズマを利用すれば、DLCやダイヤモンド薄膜等のカーボン材料を効率良く酸化して除去し、区画形成することができる。
なお、成膜された表面層16Cの表面は、工程S3の前に硝酸系やフッ酸系の洗浄液による洗浄とリンス等による表面処理により表面を水素終端させることにより、表面の水酸基を低減し、撥水性としておくのが良い。
【0032】
(d)以上のようにして絶縁層16Bが形成されたシリコン基板と、対向電極17が形成された電極基板3とを接合する(S5)。ここでは、電極基板3を例えば360℃に加熱し、シリコン基板に陽極、電極基板3に陰極をそれぞれ接続して800V程度の電圧を印加して陽極接合により接合する。なお、シリコン基板と電極基板の接合は接着剤による接合も可能である。また、それらの接合の後には、残留電荷の蓄積を抑制する目的で、シリコン基板と電極基板とにより形成されたギャップ10の内壁面を、シラン系またはフッ素系の処理剤で疎水化処理しておくのが好ましい。
(e)続いて、電極基板3に接合されたシリコン基板の全体を、例えば機械研削によって、厚さ140μm程度になるまで薄板化する(S6)。なお、機械研削を行った後には、加工変質層を除去するため水酸化カリウム水溶液等でライトエッチングを行うのが望ましい(S7)。機械研削の代わりに、水酸化カリウム水溶液によるウェットエッチングによってシリコン基板の薄板化を行っても良い。
(f)それから、シリコン基板の上面(電極基板3が接合されている面の反対面)の全面にTEOSプラズマCVDによって例えば厚さ1.5μmの酸化シリコン膜を形成する。そして、この酸化シリコン膜に、圧力室13となる凹部、リザーバ14となる凹部及びオリフィスとなる凹部となる部分を形成するためのレジストをパターニングし、この部分の酸化シリコン膜をエッチングして除去する(S8)。
【0033】
(g)その後、シリコン基板を水酸化カリウム水溶液等で異方性ウェットエッチングすることにより、圧力室13となる凹部、リザーバ14となる凹部(図示せず)及びオリフィスとなる凹部(図示せず)を形成し、その後酸化シリコン膜を除去する(S9)。このウェットエッチングの工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用する2段階のエッチングを実施するのが好ましい。これにより、振動板12の面荒れを抑制することができるからである。以上のエッチング処理においては、先に形成していたボロンドープ層がエッチストップとして作用し、残ったボロンドープ層が振動板12として形成される。
この後、シリコン基板の圧力室13となる凹部等が形成された面に、例えばCVDによって酸化シリコン等からなる耐液滴保護膜を例えば厚さ0.1μmで形成する。また、シリコン基板の振動板12と電極基板の対向電極との間に形成されているギャップを封止する(S10)。
(h)次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)放電によるドライエッチング等によってノズル8が形成されたノズル基板4を、シリコン基板(キャビティ基板2と同じ)の電極基板3が接合されている側と反対側に接着剤等により接合する(S11)。
(i)最後に、例えばキャビティ基板2、電極基板3、及びノズル基板4が接合された接合基板をダイシング(切断)により分離して、液滴吐出ヘッド1が完成する(S12)。
【0034】
図6の工程による液滴吐出ヘッドの製造方法によれば、振動板12の表面を構成している表面層16Cでの残留電荷影響の抑制が可能となり、安定した駆動を可能とする液滴吐出ヘッドが製造できる。また、絶縁膜16Bとして酸化シリコンより比誘電率の高い材料を成膜することにより、絶縁膜の厚さを薄くしても振動板12と対向電極17との間に必要な絶縁耐圧を確保することが可能となるため、アクチュエータ駆動電圧の低電圧化が実現された、小型でしかも駆動耐久性に優れた液滴吐出ヘッドが製造できる。
【0035】
(液滴吐出ヘッドの製造方法−図4に示す液滴吐出ヘッドの場合)
図7は上記実施例2に係る液滴吐出ヘッドの製造工程を示すフローチャートである。
(a)まず、電極基板3を形成する。電極基板3は、例えばホウ珪酸ガラス基板に金・クロムのエッチングマスクを施し、該ガラス基板をフッ酸水溶液等でエッチングして凹部(または溝部)を形成した後に、凹部内にスパッタ等によりITOからなる対向電極17を形成する(S01)。
(b)続いて、電極基板3の対向電極17が形成された側に表面層16Cを形成する。表面層16Cの形成は、プラズマCVDにより、DLCやダイヤモンドを成膜する(S02)。なお、実施例3の液滴吐出ヘッドを製造する場合には、対向電極17面に誘電体層16Dを形成してから、DLCやダイヤモンドを成膜する。
(c)さらに、表面層16Cをドライフィルムレジストでパターニングして、対向電極と接触部分に対応する部分を保護する(S03)。なお、DLC膜の対向電極17に対するパターニングによる区画形成の位置合わせのずれを考慮し、DLC膜は図4に示すように、対向電極17の幅より少し狭くするのが好ましい。
(d)そして、酸素プラズマにより余分なDLCを酸化して除去し、その後ドライフィルムレジストを剥離する(04)。
(e)その後、電極基板3に吐出液供給口をドリルなどを利用して開口する(S05)。
(f)一方、キャビテキ基板となる例えば厚さが525μmのシリコン基板を用意する。シリコン基板はその両面を鏡面研磨し、その片側表面にボロンをドープして、例えば2μm程度の厚さのボロンドーブ層を形成する。このボロンドーブ層は、後に振動板12となるものである。さらに、シリコン基板のボロンドーブ層が形成されている表面に絶縁膜16Bを形成する。絶縁膜16Bの形成は、TESOプラズマCVDにより緻密で絶縁性に優れた酸化シリコン膜を成膜できる。また、絶縁膜16Bは、酸化アルミニウムや酸窒化シリコンを、ALD法、ECRスパッタまたはプラズマCVDにより成膜してもよい(S1)。
(g)そして、S01〜S05の工程が終了した電極基板3と、S1の工程が終了したシリコン基板とを、表面層16Cが形成された面と絶縁膜16Bが形成された面とを対向させて陽極接合する(S5)。この後は、図6のS6〜S12と同じ工程を経て、液滴吐出ヘッドが完成する。
【0036】
図7の上記方法によっても、図6の方法とほぼ同様の効果が得られる。加えて、図7の方法によれば、キャビティ基板に表面層16Cを形成しないため、その分キャビティ基板の加工が簡素化される。
【0037】
実施形態3(液滴吐出装置)
図8は実施形態2の液滴吐出ヘッドを備えた本発明の実施形態3に係る液滴吐出装置の一例を示した外観図である。図8に示す液滴吐出装置100は、液滴としてインクを吐出するインクジェットプリンタである。この液滴吐出装置100は、そこに採用されている液滴吐出ヘッドの作用により、静電アクチュエータ部分の残留電荷影響が低減されるため、安定した駆動による高精度のインク吐出が可能となる。さらに、液滴吐出装置100は、低電力駆動が可能となり小型で駆動耐久性に優れたものとなる。
なお、実施形態2の液滴吐出ヘッドは、ここに示したインクジェットプリンタの他に、吐出する液滴を種々変更することで、カラーフィルタのマトリクスパターンの形成、有機EL表示装置の発光部の形成、生体液体試料の吐出等を行う液滴吐出装置にも適用することができる。
【0038】
実施形態4(静電デバイス)
図9は実施形態1の静電アクチュエータを備えた本発明の実施形態4に係る静電デバイスの一例を示す斜視図である。図9に示す静電デバイスは波長可変フィルタ200であり、これは、駆動電極部210、可動部220及びパッケージ部230を備え、可動部220の位置変動を利用して、入射した光から特定の波長の光をフィルタリングして、それを出射させるものである。
【0039】
可動部220は、可動反射面223を有し、可動反射面223の面方向と垂直な方向に変位することで所定の波長の光を透過させ所定の波長以外の光を反射させる可動体221aと、可動体221aを変位可能に支持する連結部221b及び支持部221c,221dと、可動反射面223の反対側に空間を形成するスペーサ221eとが一体形成されている。可動体221aは、例えば厚さが1μm〜10μmのシリコン活性層からなる。
駆動電極部210は、可動体221aと静電ギャップをEGを有して配置され、可動体221aに対向してもう一方の電極を構成している駆動電極212と、可動反射面223と光学ギャップOGを有して配置され、可動反射面223で反射された光をさらに反射する固定反射面218とを有し、可動反射面223と固定反射面218とが対向するように、スペーサ221eを形成した側と反対側で可動部220と接合されている。駆動電極部210の基材には、例えばガラス基板を用いることができる。
パッケージ部230は、可動部220のスペーサ221eにより形成された空間を塞ぐように、スペーサ221eの先端に接合されている。
【0040】
以上の構成の波長可変フィルタ200において、可動体221aは実施形態1の振動板12に、駆動電極212は実施形態1の対向電極17にそれぞれ対応しており、それらが静電アクチュエータを構成している。従って、可動体221aの駆動電極212側表面に、実施形態1の絶縁層16に相当する絶縁層を形成することで、静電アクチュエータの残留電荷影響が低減されて、可動体221aの動作が安定し、高精度の光フィルタリングが可能となる。また、静電アクチュエータの絶縁耐圧及び静電圧力も向上し、波長可変フィルタ200を小型でしかも駆動耐久性に優れたものとすることができる。
【0041】
このように、本発明に係る静電アクチュエータは各種のデバイス、特にマイクロマシンのアクチュエータとしての利用が可能である。それらの例を挙げれば、マイクロポンプのポンプ部、光スイッチのスイッチ駆動部、超小型のミラーを多数配置しそれらのミラーを傾けて光の方向を制御するミラーデバイスのミラー駆動部に、更にレーザプリンタのレーザ走査ミラーの駆動部等に本発明に係る静電アクチュエータを適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 液滴吐出ヘッド、2 キャビティ基板、2a シリコン基板、3 電極基板、4 ノズル基板、8 ノズル、10 ギャップ、11 封止材、12 振動板、13 圧力室、14 リザーバ、15 オリフィス、16B 絶縁膜(又は誘電体膜)、16C 表面層、16D 絶縁膜(又は誘電体膜)、17 対向電極、18 吐出液供給口、19 耐液滴保護膜、20 駆動回路、100 液滴吐出装置、200 波長可変フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動反射面を有し、該可動反射面の面方向と垂直な方向に変位することで所定の波長の光を透過させ所定の波長以外の光を反射させる可動体と、
前記可動体に静電ギャップを有して対向配置され、前記可動体とともに静電アクチュエータを構成する駆動電極と、
前記可動反射面と光学ギャップを有して配置され、前記可動反射面で反射された光をさらに反射する固定反射面とを有し、
前記可動体の前記駆動電極との対向面、または前記駆動電極の前記可動体との対向面に、絶縁層が形成され、該絶縁層の上に、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンド、フラーレンC60またはカーボンナノチューブで成膜された表面層が形成されていることを特徴とする波長可変フィルタ。
【請求項2】
前記可動体に前記絶縁層と前記表面層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の波長可変フィルタ。
【請求項3】
前記駆動電極に、前記絶縁体として誘電体と絶縁体の両方の機能を有する保護膜が形成されており、該保護膜上に前記表面層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の波長可変フィルタ。
【請求項4】
前記カーボン材料を含む表面層が、駆動により前記可動体と前記駆動電極とが接触する部分に区画形成されたものであることを特徴とする請求項2または3に記載の波長可変フィルタ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の波長可変フィルタを備えていることを特徴とするマイクロマシン用デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−59718(P2011−59718A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276023(P2010−276023)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【分割の表示】特願2005−333867(P2005−333867)の分割
【原出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】