説明

波長選択波長板、波長選択回折素子および光ヘッド装置

【課題】波長帯が異なる3つの直線偏光が入射して1つの波長帯の直線方向に対して他の2つの波長帯の直線偏光が略直交して出射する波長選択波長板を提供する。
【解決手段】光学軸が平面に平行で、厚さ方向に揃った2つの波長板を光学軸が交差するように重ね、入射する直線偏光の方向と第1の波長板および第2の波長板の光学軸とがなす角度であるプレチルト角α、αおよび、3種の波長λ、波長λおよび波長λに対する、第1の波長板のリタデーション値Rd(λ)、Rd(λ)、Rd(λ)および、第2の波長板のリタデーション値Rd(λ)、Rd(λ)、Rd(λ)を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長が異なる複数の光を選択的に位相変調させる波長選択波長板および、これらの光を選択的に透過または回折させる波長選択回折素子、光ストレージを扱う光学系として、CD、DVD、光磁気ディスクなどの光記録媒体および、「Blu−ray」(登録商標:以下BD)などの高密度光記録媒体(以下、「光ディスク」という)に情報の記録および/または再生(以下、「記録・再生」という。)を行う光ヘッド装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
BD、DVD、CD等の複数の光ディスクに対応した光ヘッド装置では、異なる規格の光ディスク毎に、波長の異なる半導体レーザ等の光源が用いられ、開口数NAの異なる対物レンズにより光ディスクの情報記録面に光源からの出射光が集光され、その反射光をビームスプリッタにより分岐して光検出器にて受光することで、電気信号に変換して情報の記録・再生を行う。具体的には、BDでは395nm〜420nmの波長範囲に対応した405nm波長帯の光を出射する半導体レーザ、DVDでは640nm〜680nmの波長範囲に対応した660nm波長帯の光を出射する半導体レーザ、そして、CDでは765nm〜805nmの波長範囲に対応した785nm波長帯の光を出射する半導体レーザが用いられる。
【0003】
ここで、光ヘッド装置を、BD、DVD、CDの光ディスク毎、個別に空間配置した部品を用いて構成する場合、光ヘッド装置が大形化し、重量が増加するとともに、光学部品の部品点数が増えるという問題がある。とくに、薄型のノートパソコン等に、BD、DVD、CDを記録・再生できる光ヘッド装置を搭載する場合、より小型化、軽量化が要求される。そこで、光学部品の部品点数を増やすことなく小型化、軽量化を実現するために、BD用、DVD用、CD用の各波長帯の光の光路、とくに3つの光路を共通化し、これらの波長帯の光に対して所望の光学特性を得る光学部品を備える構成とすることが有効である。具体的には、これら3種類の波長帯(以下、「3波長」という。)に対応した光源からの出射光を合波して共通化し、その光路中に光学部品を備えことができる。または、光ディスクの情報記録面で反射した信号光を受光する光検出器を、3波長の光に対して共通化することもできる。
【0004】
既に、DVDとCDと、の両方を記録・再生する光ヘッド装置において、DVD用の光を発射する半導体レーザとCD用の光を発射する半導体レーザと、が集積化された2波長用半導体レーザが製品化されたものが用いられている。また、DVDで反射される信号光とCDで反射される信号光と、を共通の単一パッケージで受光する光検出器も用いられている。さらに、光源として、DVD用、CD用を含む2波長用半導体レーザに、BD用半導体レーザが一体化された3波長用半導体レーザも開発されている。
【0005】
また、光ヘッド装置の記録・再生において、半導体レーザなどの光源から発射されたレーザ光を光ディスクの情報記録面のトラック上にトレースさせるために、トラッキングサーボ信号の検出機能が要求される。つまり、半導体レーザから光ディスクに至る往路の光路中に回折素子を配置し、回折素子を直進透過する直進透過光(0次回折光)と±1次回折光に分岐した3ビームの光を用いてトラッキングサーボ信号とする3ビーム方式が用いられることが多い。また、光ディスクから光検出器に至る復路の光路中に、入射光束に対して格子パターンが異なる複数の領域に分割された回折素子(「ホログラム回折素子」ともいう。)を配置し、信号光を複数の回折光に分岐してトラッキングサーボ信号を生成するホログラム方式も用いられる。
【0006】
このとき、3ビーム方式では、BD用、DVD用、およびCD用の各半導体レーザの光源から出射され、例えば、これら3波長の光が共通する光路中に回折素子を配置し、各光ディスクの情報記録面の規格に適合した±1次回折光を生成することが望ましい。この場合、回折素子としては、格子ピッチや格子の長手方向といった回折格子のパターンを調整し、例えば、特定の波長の光に対してのみ所望の回折効率となる±1次回折光を発生させ、他の波長の光に対して±1次回折光を発生させない波長選択性の回折素子を用いることが考えられる。
【0007】
同様に、ホログラム方式においても、3波長の光が共通する光路中にホログラム回折素子を配置することが考えられる。例えば、ホログラム回折素子は、入射光束に対して回折方向や回折角が異なる複数の領域を有し、単一パッケージの光検出器に含まれる受光面に対して、複数の波長の回折光が共通に入射できるように、回折格子のパターンを調整する。例えば、特定の波長の光に対してのみ所望の回折光を発生させ、他の波長の光に対して回折光を発生させない波長選択性の回折素子として用いることが考えられる。これにより、光検出器の受光面の数を少なくしたり、受光面の面積を小さくしたりする効果が期待できる。
【0008】
なお、光ヘッド装置は、記録・再生する光ディスクの種類に応じて、上記の3ビーム方式とホログラム方式と、が使い分けられる設計であったり、あるいは、トラッキングサーボ信号の検出を3ビーム方式で行い、フォーカスサーボ信号の検出をホログラム方式で行う設計であったりしてもよい。例えば、DVDとCDを記録・再生する場合は3ビーム方式を用い、BDを記録・再生する場合はホログラム方式を用いるものであってもよい。いずれの場合も、これら3波長の光に共通する光路中に配置される回折素子を、特定の波長の光に対してのみ回折する波長選択性の回折素子とすることにより、本来回折すべきではない波長の光について、光量損失や迷光の発生が低減されるので安定した記録・再生が実現できる。また、復路においてこれら3波長の光が共通する光路中にホログラム回折素子として配置することで、光検出器の受光面の数および受光面の面積を低減できるため、小型化が期待できる。
【0009】
このように、3波長の光が入射する波長選択性の回折素子としては、波長板と回折格子と、が交互に複数層積層された回折光学素子が報告されている(特許文献1)。そして、この回折光学素子に含まれる波長板は、例えば、TM偏光で入射する3波長の光のうち、特定の1種類の波長帯の光に対して1/2波長板として機能させるとともに、それ以外の波長帯の光に対して全波長板として機能する位相差を有する。そして、特定の1種類の波長帯の光のみが、偏光方向を90°回転させてTE偏光の光とし、TE偏光の光のみを回折させるとともに、TM偏光の光は回折させない、偏光性の回折格子が備わっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−353225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の回折光学素子に用いられる波長板は、3つの波長を400nm、650nm、780nmの組み合わせとし、偏光方向を90°回転させる対象の波長を650nmとする例が記載されている。そして、このとき、波長板は、400nmの光に対して2π×4の位相差、650nmの光に対してπ×4.92、そして780nmの光に対して2π×2.05の位相差を発生させるように調整されている。しかし、このような波長板は、特定の位相差を発生するために、複屈折性を有する材料の厚さを調整して実現しており、この場合、入射する光の波長が特定の値に対して変動してしまうと、位相差も大きく変動してしまうという問題がある。つまり、本来、波長板をTE偏光の光として出射させるべき光が、TM偏光の光の成分も含み、また、TM偏光の光として出射させるべき光が、TE偏光の光の成分も含み、かつ、波長の変動に対してこれらの偏光成分が安定しないという問題があった。これより、例えば、回折格子に入射するTE偏光の光の光量も安定せず、このため、回折光学素子としては回折効率も安定しないという問題があった。
【0012】
さらに、特許文献1の回折光学素子は、3波長の光のうち、例えば、任意の2つの波長の光を回折させる場合、1つの波長板と1つの回折格子との組み合わせを、2つ以上備えなければならない。さらに、この場合、3波長の光は、2つの波長板を透過することになるので、入射する波長が変動することで、所望の位相差に対する変動がより大きく、安定した特性を得ることが困難となるという問題点もあった。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、とくに波長が異なる3つの波長の光が入射するとき、1つの波長の光の偏光方向と他の2つの光の偏光方向とが互いに直交する波長選択波長板を提供するとともに、偏光成分によって透過または回折を制御する偏光回折素子を組み合わせ、少なくとも1つの波長の光に対して回折せず、また、少なくとも1つの波長に対して所望の回折効率を得ることができ、さらに、回折効率の波長依存性の小さく、光利用効率の高い波長選択回折素子およびそれを用いた光ヘッド装置、レーザプロジェクタなどの表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、所定の異なる帯域を有する3種の波長λ、波長λ、波長λ(λ<λ<λ)で入射する直線偏光の光のうち少なくとも1種の波長の直線偏光の光の偏光状態を変える波長選択波長板において、前記波長選択波長板は、光が入射する側から順に第1の波長板と第2の波長板と、が備えられ、前記第1の波長板および前記第2の波長板は、光学軸が各波長板面に平行であるとともに、厚さ方向に揃っており、前記第1の波長板に入射する前記波長λの光、前記波長λの光および前記波長λの光が同一方向の直線偏光の光であって、入射する前記直線偏光の光の偏光方向を基準として、前記第1の波長板の遅相軸と前記第2の波長板の遅相軸との組み合わせ、または、前記第1の波長板の進相軸と前記第2の波長板の進相軸との組み合わせからなる角度をそれぞれ、プレツイスト角α[°]、α[°]とするとき、前記波長選択波長板から出射する前記波長λの光、前記波長λの光および前記波長λの光の楕円率がいずれも0.5以下であり、さらに、第1の方向と、前記第1の方向と直交する第2の方向を与えるとき、前記第1の方向に対して、いずれか1つの波長の光の最も振動が大きい成分の偏光方向とがなす角度が−26〜26[°]の範囲にあって、この波長で出射する光の全成分のうち前記第1の方向の光成分の割合が80%以上となるとともに、前記第2の方向に対して他の2つの波長の光の最も振動が大きい成分の偏光方向とがなす角度が−26〜26[°]の範囲にあって、これらの波長で出射する光のそれぞれの全成分のうち前記第2の方向のそれぞれの光成分の割合が80%以上となるように、前記α、前記α、前記第1の波長板のリタデーション値Rdおよび前記第2の波長板のリタデーション値Rdが設定されている波長選択波長板を提供する。
【0015】
また、前記第1の波長板の前記波長λの光に対するリタデーション値をRd(λ)、前記第2の波長板の前記波長λの光に対するリタデーション値をRd(λ)とするとき、Rd(λ)の値がλの値の2以上の略整数倍であるとともに、Rd(λ)の値がλの値の0.5の略整数倍である上記の波長選択波長板を提供する。
【0016】
また、前記波長λは395〜420nmの範囲である405nm波長帯であり、前記波長λは640〜680nmの範囲である660nm波長帯であり、前記波長λは765〜805nmの範囲である785nm波長帯である上記の波長選択波長板を提供する。
【0017】
また、前記波長λは420〜480nmの範囲である450nm波長帯であり、前記波長λは520〜560nmの範囲である533nm波長帯であり、前記波長λは610〜670nmの範囲である645nm波長帯である上記の波長選択波長板を提供する。
【0018】
また、透明基板上に常光屈折率n、異常光屈折率nとなる複屈折性を有する複屈折性材料層からなって凹凸が形成され、前記複屈折材料層の凹部に前記nまたは前記nと等しい光学材料が形成された偏光回折素子と、上記の波長選択波長板のうちの少なくとも1つと、が備えられた波長選択回折素子を提供する。
【0019】
また、前記複屈折性材料層の凹凸の断面は、フレネルレンズ形状である上記の波長選択回折素子を提供する。
【0020】
さらに、異なる3種の波長の光を出射する少なくとも一つの光源と、前記光源から出射する光を光記録媒体上に集光する対物レンズと、前記光記録媒体から反射される光を検出する光検出器と、前記光源から前記光記録媒体へ向かう光を透過するとともに、前記光記録媒体から前記光検出器へ向かう光を反射するかまたは、前記光源から前記光記録媒体へ向かう光を反射するとともに、前記光記録媒体から前記光検出器へ向かう光を透過するビームスプリッタと、備えた光ヘッド装置であって、前記光源と前記ビームスプリッタとの間の光路中および/または、前記ビームスプリッタと前記光検出器との間の光路中に上記の波長選択回折素子が配置された光ヘッド装置を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、少なくとも3つの異なる波長帯である波長λ、波長λおよび波長λで入射する直線偏光に対し、これら3波長の光のうち1つの波長帯の光と他の2つの波長帯の光とが互いに直交する偏光状態で出射させる波長選択波長板を提供することができる。また、波長選択波長板を出射した光を偏光方向によって回折効率が異なる偏光回折素子を、波長選択波長板とともに配置する波長選択回折素子を提供することができる。さらに、この波長選択波長板、波長選択回折素子を用いた光ヘッド装置やレーザプロジェクタなどの表示装置に適用させることで、安定した光学特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】波長選択波長板の光学的機能の例を示す模式図。
【図2】波長選択波長板および波長選択回折素子の断面模式図および入射する直線偏光の偏光方向と光学軸との関係を示す平面模式図。
【図3】波長選択波長板を出射する光の方位角誤差ΔΨと楕円率κによる利用効率ηの分布を示すグラフ。
【図4】偏光状態を表すポワンカレ球の説明図。
【図5】設計例に係る波長選択波長板の偏光透過率の波長(Λ)依存性を示すグラフ。
【図6】比較例に係る波長選択波長板の偏光透過率の波長(Λ)依存性を示すグラフ。
【図7】設計例に係る波長選択波長板のプレツイスト角に関するパラメータを変更した際における、偏光透過率の波長(Λ)依存性の変化を示すグラフ。
【図8】波長選択波長板を透過する各波長の偏光状態をポワンカレ球上の軌道により示す説明図。
【図9】光ヘッド装置に係る第1の実施の形態の模式図。
【図10】光ヘッド装置に係る第1の実施の形態に用いられる波長選択回折素子のレンズ作用の説明図および波長選択回折素子の断面模式図。
【図11】光ヘッド装置に係る第2の実施の形態の模式図。
【図12】光ヘッド装置に係る第2の実施の形態に用いられる波長選択回折素子の断面模式図。
【図13】光ヘッド装置に係る第3の実施の形態の模式図。
【図14】光ヘッド装置に係る第3の実施の形態に用いられる波長選択回折素子の断面模式図。
【図15】表示装置用光学系に係る実施の形態の模式図。
【図16】実施例1〜6に基づく波長選択回折素子の断面模式図および入射する直線偏光の偏光方向と光学軸との関係を示す平面模式図。
【図17】実施例1の波長選択波長板に係る楕円率および方位角の波長依存性を示すグラフ。
【図18】実施例1の波長選択回折素子に係る波長選択波長板における光の利用効率の波長依存性を示すグラフ。
【図19】実施例2の波長選択回折素子に係る波長選択波長板における光の利用効率の波長依存性を示すグラフ。
【図20】実施例3の波長選択回折素子に係る波長選択波長板における光の利用効率の波長依存性を示すグラフ。
【図21】実施例4の波長選択回折素子に係る波長選択波長板における光の利用効率の波長依存性を示すグラフ。
【図22】実施例5の波長選択回折素子に係る波長選択波長板における光の利用効率の波長依存性を示すグラフ。
【図23】実施例6の波長選択回折素子に係る波長選択波長板における光の利用効率の波長依存性を示すグラフ。
【図24】実施例6の波長選択回折素子に係る波長選択波長板において、第1の波長板の厚さ(d)および第2の波長板の厚さ(d)によってプレツイスト角αが取り得る値の分布を示す図。
【図25】実施例6の波長選択回折素子に係る波長選択波長板において、第1の波長板の厚さ(d)および第2の波長板の厚さ(d)によってプレツイスト角αが取り得る値の分布を示す図。
【図26】実施例7の波長選択回折素子に係る波長選択波長板における光の利用効率の波長依存性を示すグラフ。
【図27】実施例8の波長選択回折素子に係る波長選択波長板における光の利用効率の波長依存性を示すグラフ。
【図28】実施例9の波長選択回折素子に係る波長選択波長板における光の利用効率の波長依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明に係る波長選択波長板に入射する波長λの光、波長λの光および波長λの光(λ<λ<λ)に対して、出射する光の偏光状態を示す模式図である。ここで、それぞれの波長の光は同じ偏光方向となる直線偏光の光、つまり図1では、いずれもX方向の直線偏光の光がZ方向に進行する様子を示したものである。図1(a)は、波長λの光は偏光方向を変えず、波長λの光および波長λの光は、波長λの光と直交する直線偏光の光となって出射する波長選択波長板1を示す。また、偏光状態を変えない光の波長と、偏光状態を直交する直線偏光に変える光の波長の組み合わせとしては、これに限らず、例えば、図1(b)の波長選択波長板2のように、波長λの光および波長λの光と、波長λの光と、の組み合わせであったり、図1(c)の波長選択波長板3のように、波長λの光と、波長λの光および波長λの光と、の組み合わせであったりしてもよい。
【0024】
また、図1は、3波長の光のうち少なくとも1つの波長の光は、入射する直線偏光の光の偏光方向と、出射する直線偏光の光の偏光方向と、が一致する例として説明しているが、これに限らない。後述するように、波長選択波長板を出射する光のうち、X−Y平面からみた偏光方向が必ずしも1つはX方向とY方向に一致していなくてもよく、その場合であってもX−Y平面内で出射する3波長の光のうち、2つの波長の光と、もう1つの波長の光とが互いに直交する関係にあればよい。
【0025】
このように、入射する、3波長の光のうち2つの波長の光と、もう1つの波長の光とを直交させて出射する機能を有する波長選択波長板は、後述するように、偏光方向によって回折効率が異なる偏光回折素子と組み合わせたり、偏光ビームスプリッタと組み合わせたり、入射する光の波長毎に異なる機能を持たせる光学系に用いることができる。図1に示す波長選択波長板1、2および3は、遅相軸または進相軸に対応した複屈折性材料の光学軸方向が、波長選択波長板の平面に平行でかつ、厚さ方向に揃った複屈折性材料層からなる複数枚の波長板によって構成される。そして、各々の波長板のリタデーション値および光学軸方向が異なるとともに所定の範囲に設定されることによって、所望の特性を得ることができ、かつ、入射する光の波長変動に対して光学特性が大きく変化しない、つまり、波長依存性が低い安定した光学特性を得ることができる。
【0026】
以下、具体的な波長選択波長板の構成について説明する。とくに、以下では、波長選択波長板の機能を利用する複合的な光学素子として、波長選択波長板と、偏光方向によって回折効率が異なる特性を有する偏光回折素子と、を備えた波長選択回折素子について説明する。
【0027】
(波長選択波長板および波長選択回折素子の実施の形態)
図2(a)は、本実施の形態に係る波長選択回折素子の基本構成を示す断面模式図である。波長選択回折素子20は、波長選択波長板23と偏光回折素子12とを含む構成を有する。波長選択波長板23は、第1の波長板21と第2の波長板22と、を有し、波長λの光、波長λの光および波長λの光(λ<λ<λ)が入射し、後述するように入射する各波長の光に対して、それぞれ所望の位相差を発生させる機能を有する。偏光回折素子12は、透明基板13上に複屈折性材料層14aが周期的なピッチを有して回折格子14が形成され、回折格子14の凹部に透明材料15が形成されてなる。また、回折格子14の凸部は、この複屈折性材料層14aに相当し、凹部は複屈折性材料層14aの間の部分を指す。透明材料15は、この少なくとも凹部に形成されていればよいが、等方性材料であれば図2(a)に示すように凸部を覆う部分に形成されていてもよい。
【0028】
波長選択波長板23は、波長選択波長板23の平面に平行でかつ、厚さ方向に光学軸が揃った複屈折性材料からなる波長板が2枚以上、これらの光学軸が交差するように重ねられて構成されている。具体的には、第1の波長板21と第2の波長板22と、を有し、後述するように各波長板の厚さ、入射光と光学軸との角度などのパラメータを設定して所望の光学特性が得られるようにしたものである。また、波長板の光学軸を厚さ方向に揃える手法については、用いる複屈折性材料によって異なるが、公知の手法を用いることができる。
【0029】
波長選択波長板23を構成する、第1の波長板21および第2の波長板22は、水晶やLiNbOなどの複屈折結晶や、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステルなどの有機材料を延伸させることにより延伸方向に光学軸が揃った複屈折性の膜を用いることができる。また、これに限らず、液晶や高分子液晶からなる液晶層を有する波長板、構造性複屈折を有する波長板、斜方蒸着により形成される波長板、フォトニック結晶などを利用することができる。
【0030】
波長選択波長板23は、入射する波長λの光、波長λの光および、波長λの光のうち、任意の2つの波長の光に対し、残りの1つの波長の光が略直交するように、設定される。そして、波長選択波長板23を出射する光の光軸に直交する平面において互いに直交する第1の直線偏光方向と第2の直線偏光方向と、を与えたとき、例えば、特定の2つの波長の光は第1の直線偏光方向の光の成分のみ、残りの1つの波長の光は第2の直線偏光方向の光の成分のみ、となるのが理想である。つまり、波長選択波長板23を透過した光の所望の方位角Ψに対してずれる角度、即ち、方位角誤差ΔΨが0[°]であり、かつ、偏光状態が直線偏光であって、楕円率κが0であることが理想である。
【0031】
このような理想的な透過光の場合、特定の偏光方向の成分の光を利用する場合、それと直交する偏光方向の成分の光が無いので、光量を損失する成分がなく、後述する偏光回折素子において、透過または回折に用いる光の利用効率は100%となる。つまり、波長選択波長板を透過した全ての光のうち、所望の直線偏光方向の成分を100%として利用効率ηを定義することができる。
【0032】
本発明の波長選択波長板23は、このような光の利用効率ηが80%以上であると、光学系として損失する光成分が少なくて好ましく、利用効率ηが90%以上であるとより好ましく、95%以上であるとさらに好ましい。図3は、波長選択波長板23を透過した光について、横軸に方位角誤差ΔΨ[°]、縦軸に楕円率κを与え、このときの利用効率ηの分布を示したものである。なお、楕円偏光となって透過した場合、楕円の長軸方向を透過した光の方位角としている。図3では、利用効率η=80%、90%および95%となる組み合わせとなる条件を繋いだ線を示している。これより、利用効率ηが80%以上となる領域はη=80%と示した線の内側の(ΔΨ=0を含む)領域となる。利用効率ηが90%以上、95%以上となる領域も同様の考え方で示される。したがって、所望の利用効率ηを得る場合は、波長選択波長板23を透過する光のΔΨおよびκを図3の組み合わせに基づいて設定し、実現できる。
【0033】
図3より、例えば、波長選択波長板23を出射する光の光軸に直交する平面において互いに直交する第1の方向と第2の方向を与え、入射する波長λの光、波長λの光および波長λの光のうち、波長選択波長板23を出射する1つの光が第1の方向を基準としたとき、ΔΨは−26〜26[°]の範囲であると、利用効率ηが80%以上となる解を有する。また、楕円率κが大きい値であっても、ΔΨの絶対値が小さい値であると利用効率ηは80%以上となる。一方、他の2つの波長の光が第2の方向を基準としたとき、ΔΨがいずれも−26〜26[°]の範囲であると、利用効率ηが80%以上となる解を有する。このように、3つの波長の光のうち、1つは第1の方向に対して利用効率ηが80%以上、かつ、他の2つは第2の方向に対して利用効率ηが80%以上となる特性を有する、波長選択波長板23を構成する各波長板の条件を設定する。
【0034】
このように波長選択波長板23は、入射する各波長の光に対して所望の偏光状態となるように、第1の波長板21と第2の波長板22の各パラメータを設定する。具体的に、ポワンカレ球を用いた設計の原理を説明する。ここで、入射する光の波長近傍の波長λにおける第1の波長板21のリタデーション値をRd(λ)、第2の波長板22のリタデーション値をRd(λ)とし、波長λの光に対する、第1の波長板21の位相差と第2の波長板22の位相差を、それぞれΦ、Φとするとき、
Φ=Rd(λ)/λ=(m/2)λ ・・・ (1a)
Φ=Rd(λ)/λ=(m/2)λ ・・・ (1b)
(ただし、m,mは自然数)、
が成立する特性を有するものとする。
【0035】
このとき、波長選択波長板23を透過する光の偏光状態をストークスパラメータSで表し、後述するミュラー行列を解くことによって、Rd(λ)およびRd(λ)の条件を求めることができる。なお、ストークスパラメータSは、通常(S、S、S、S)の4次元ベクトルで表すことができ、Sは光の強度、Sは例えばX軸方向を基準に0°方向に振動する電場の強度、Sは45°方向に振動する電場の強度、そしてSは円偏光の強さを意味するものである。以降、ストークスパラメータSは光の強度Sを省略して(S,S,S)の3次元ベクトルとして説明をする。
【0036】
ここで、完全偏光状態のストークスパラメータを用いて入射する光のストークパラメータSを、S=(S,S,S)とし、この光が第1の波長板21、第2の波長板22の順にZ方向に進行して入射するものとする。図2(b)は、波長選択波長板23の平面を示す模式図であり、波長選択波長板23に入射する直線偏光の偏光方向24をX軸方向とし、これを基準にして第1の波長板21の光学軸25とのなす角度をα[°]、第2の波長板22の光学軸25とのなす角度をα[°]、とする。角度の符号の考え方は、光が入射する面から見て、入射する直線偏光の偏光方向24を基準に反時計回りにプラス(+)、時計回りにマイナス(−)とする。また、第1の波長板21の光学軸25と第2の波長板の光学軸26とは、互いに遅相軸同士、または互いに進相軸同士のいずれかの組み合わせであって、以下、とくに説明がない場合は、互いに遅相軸同士の組み合わせであるものとする。なお、このαおよびαはプレチルト角ともいう。
【0037】
さらに、入射する互いに異なる波長の光の数をn個(n≧2の整数)とし、kを1〜nの間のいずれか1つの整数として、波長λの光が第1の波長板21で発生する位相差をΦ1kとしたとき、第1の波長板21を出射する光の偏光状態を表すストークスパラメータSkb=(S1kb,S2kb,S3kb)は、以下の式(2)で表すことができる。
【0038】
【数1】

【0039】
ここで、波長λの光(k=1)が入射するとき、第1の波長板の常光屈折率no1(λ)と異常光屈折率ne1(λ)との差の絶対値で表される屈折率異方性をΔn(λ)、第1の波長板21の厚さ(ギャップ)をdとすると、
Δn(λ)×d=p×λ ・・・ (3)
(ただし、p≧2の整数)、
となるように厚さdを調整する。また、波長λの光が入射するとき、第1の波長板21を出射する光のストークスパラメータは、上記の式(2)においてk=2として表すことができる。したがって、この場合、位相差はΦ12で表すことができる。
【0040】
また、図4は、ポワンカレ球を示すものであって、任意の偏光状態である点Aを与えたときのポワンカレ球上の偏光の緯度をθ2bS1、ポワンカレ球上の偏光の緯度をθ2bS3とすると、これらは以下の式(4a)および式(4b)で表すことができる。ここで例えば、角度θ2bS1の「2bS1」のうち、「2」は「k」番目の波長を表し、「b」は(第1の波長板を)出射した光という意味で、「S1」はS軸に関するものとする。なお、式(4a)において、S12bは任意の点AにおけるS軸の成分、S22bは任意の点AにおけるS軸の成分、そしてS22bは任意の点AにおけるS軸の成分を表す。
【0041】
【数2】

【0042】
ただし、θ2bS1は、S22b<0となる場合、符号がマイナスとなる。また、波長λおよび波長λといずれも異なる波長である波長λの光についても同様に、ポワンカレ球を用いてθ3bS1、θ3bS3を求めることができる。
【0043】
次に、第2の波長板22を透過する光の偏光状態の変化について説明する。第2の波長板22に波長λの光が入射するとき、常光屈折率no2(λ)と異常光屈折率ne2(λ)との差の絶対値で表される屈折率異方性をΔn(λ)、第2の波長板22の厚さ(ギャップ)をdとすると、
Δn(λ)×d={(2q+1)/2}×λ ・・・ (5)
(ただし、q≧0の整数)、
となるように厚さdを調整する。
【0044】
ここで、波長λの光に対して、第2の波長板22で発生する位相差をΦ2kとするとき、波長λの光の位相差Φ22および波長λの光の位相差Φ23を用いて、
Φ22±θ2bS3≒iπ ・・・ (6a)
Φ23±θ3bS3≒jπ ・・・ (6b)
(ただし、i,jは整数)、
を満たし、さらに、波長λの光、波長λの光および波長λの光うち、いずれか1つの波長の光の偏光状態が、他の波長の光の偏光状態と異なるようにすることによって、出射する光の偏光状態の波長選択性を与えることができる。このとき、とくに、屈折率異方性Δn(λ)の波長依存性、つまり波長分散特性を調整することによって、上記の特性となるように調整することができる。
【0045】
また、第2の波長板22を出射する光のうち、波長λの光の偏光状態と、波長λの光の偏光状態および/または波長λの光の偏光状態と、を直交させるため、第1の波長板21に入射する直線偏光の偏光方向と、第2の波長板22の光学軸とがなす角度であるプレツイスト角α[°]は、
45+(θ3bS1/4)−10≦α≦45+(θ3bS1/4)+10
・・・(7a)
45+(θ2bS1/4)−10≦α≦45+(θ2bS1/4)+10
・・・(7b)
−45+(θ3bS1/4)−10≦α≦−45+(θ3bS1/4)+10
・・・(7c)
−45+(θ2bS1/4)−10≦α≦−45+(θ2bS1/4)+10
・・・(7d)
のいずれかを満足するとよい。
【0046】
また、波長選択波長板23は、αおよびαが取り得る範囲をそれぞれ、−180[°]<α≦+180[°]、−180[°]<α≦+180[°]としたとき、α、αの値がそれぞれ、元の値に対してさらに180[°]加えるかまたは、差し引いた値(角度)であっても利用効率ηの値は変化しない。
【0047】
また、α、αの値をそれぞれ、元の値に対して符号を変えた場合も、利用効率ηは変化しない。さらに、α、αの値をそれぞれ、元の値に対してさらに90[°]加えるかまたは、差し引いた値(角度)であれば、これまで光学軸を遅相軸同士として説明していた関係を、進相軸同士として表すことに相当するので、利用効率ηは変化しない。
【0048】
また、これまで、光が入射する順に第1の波長板21、第2の波長板22として説明したが、入射する光の偏光方向を基準としたとき、第1の波長板21の光学軸とがなす角度、および第2の波長板22の光学軸とがなす角度をそれぞれ同じように配置すると、光が入射する順が逆(第2の波長板22、第1の波長板21の順)になっても同様の光学特性を有する波長選択性を発生する。なお、第1の波長板21および第2の波長板22は、それぞれ、入射する光の屈折率の波長分散特性を満足すれば互いに同一の材料で構成されていても、異なる材料で構成されていてもよい。同一の材料で構成されていれば、例えば、温度変化に対する変形が生じてもこれらの波長板間で大きな歪みなどが発生しないので、構造上好ましい。
【0049】
次に、入射する光の波長と第1の波長板21の厚さ、第2の波長板22の厚さと、固有である複屈折性材料の屈折率の波長分散特性との関係を一般化することを考える。ここで、任意の波長をλ、特定の波長をλとし、波長λの光に対する波長板の常光屈折率をn(λ)、異常光屈折率をn(λ)とし、波長λの光に対する波長板の常光屈折率をn(λ)、異常光屈折率をn(λ)とすると、それぞれの波長の光に対する屈折率異方性Δn(λ)、Δn(λ)は、
Δn(λ)=|n(λ)−n(λ)| ・・・ (8a)
Δn(λ)=|n(λ)−n(λ)| ・・・ (8b)
となる。
【0050】
また、それぞれの波長の屈折率異方性Δn(λ)、Δn(λ)を用いて、波長選択波長板23に入射する光の波長依存性を表すパラメータΛを、
Λ={Δn(λ)・λ}/{Δn(λ)・λ} ・・・ (9)
で与える。
【0051】
次に、厚さdの第1の波長板21に、特定の波長λの光が入射したとき、波長λを基準とした厚さをd(λ)とし、厚さdの第2の波長板22に、特定の波長λの光が入射したとき、波長λを基準とした厚さをd(λ)とすると、
(λ)=Δn(λ)・d/λ ・・・ (10a)
(λ)=Δn(λ)・d/λ ・・・ (10b)
となる。なお、ここでは、第1の波長板21と、第2の波長板22はいずれも同じ材料、つまり、同じ屈折率異方性を有するものとする。
【0052】
このとき、第1の波長板21と第2の波長板22から構成される波長選択波長板23のd(λ)およびd(λ)を、下記の表1の設計例1に示すようにそれぞれ2、1とし、プレツイスト角α、αをそれぞれ設定した。なお、比較例1として、第2の波長板22を設けない場合についての条件も示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の条件において、波長選択波長板23へ入射する直線偏光の光の偏光方向を0°(図2のX軸方向)とし、出射側に直線偏光の透過偏光方向が0°となるように偏光子を設置した際の透過率特性を考える。図5は、設計例1の条件において、式(9)で定義したΛに対する、偏光透過率Tp[%]を示したものである。なお、波長選択波長板23へ入射する0°方向の直線偏光の光強度を100%としたものである。
【0055】
図5より、偏光透過率Tpが100%付近の帯域と0%付近の帯域は出射偏光が直交している状態を表している。つまり、波長選択波長板23へ入射する直線偏光の偏光方向がX軸方向である場合、偏光透過率Tpが100%付近では、出射する光の偏光方向がほぼX軸方向となるが、一方、偏光透過率Tpが0%付近では、出射する光の偏光方向がほぼY軸方向となる。そのため、波長選択波長板23に入射する複数の波長帯の光のうち、例えば、2つの光を互いに直交した直線偏光の光として出射させる場合、それぞれの光の波長帯が、偏光透過率Tpが0%となる1/2波長板として機能させる波長帯と、Tpが100%となる波長板(λ板)として機能させる波長帯となるように、d、dを調整することで任意の波長域に対して選択的に機能する波長選択波長板とすることができる。
【0056】
なお、図5は、偏光透過率Tpが約100%となるΛの値、偏光透過率Tpが約0%となるΛの値が得られる。波長選択波長板に入射する3つの光の波長の組み合わせを考えたとき、3波長のうち、1つはTpが約100%、他の2つはTpが約0%の組み合わせとなるようにするかまたは、2つはTpが約100%、他の1つはTpが約0%の組み合わせとなるように設計するとよい。なお、偏光透過率Tpと上記の利用効率ηとの関係を考えたとき、上記の説明のように利用効率ηが80%以上であれば好ましいので、Tp=100%が理想となる波長帯の光に対してTp≧80%であるとともに、Tp=0%が理想となる波長帯の光に対してTp≦20%が実現できると好ましい。
【0057】
また、Tp=100%が理想となる波長帯の光に対してTp≧90%であるとともに、Tp=0%が理想となる波長帯の光に対してTp≦10%が実現できるとより好ましく、Tp=100%が理想となる波長帯の光に対してTp≧95%であるとともに、Tp=0%が理想となる波長帯の光に対してTp≦5%が実現できるとさらに好ましい。このように波長選択波長板に入射する3波長の光の組み合わせに対して、以降の設計例においても、それぞれ利用効率ηを80%以上となるように設計することが好ましい。
【0058】
具体的な設計手法として、例えば、波長λの光に対して、第1の波長板21のリタデーション値Rd(λ)がs・λ、そして、第2の波長板22のリタデーション値Rd(λ)がs・λと設定(s,s≧1の整数)して、第1の波長板21および第2の波長板22それぞれが、λの整数倍の波長板となる条件において設計の中心値を定める。そして、Λ全体に対して、利用効率ηが80%以上、つまりTp≧80%、Tp≦20%となるΛの範囲が大きくなるように繰り返し計算をし、さらに、3波長の光に対して、所望のTpが得られるようにすることで、第1の波長板21および第2の波長板22の各設計条件を求めることができる。
【0059】
図6は、比較例1の条件において、式(9)で定義したΛに対する、偏光透過率Tp[%]を示したものである。図5と図6とを比較すると、設計例1の条件における図5は、偏光透過率Tpが100%付近の帯域と、0%付近の帯域が広がり、その間の過渡領域の帯域が狭まっていることがわかる。一方、比較例1の条件における図6は、偏光透過率Tpが100%付近の帯域と、0%付近の帯域が狭まっており、設計例1に比べて波長選択の任意性が低い。つまり、設計例1に比べると比較例1では、Tp=0%とする波長の光と、Tp=100%とする波長の光との組み合わせを多数得ることができないため、一方の波長の光のTpを所望の値(0%または100%)にすると、他方の波長の光のTpが中間的なレベルになってしまうことがある。このように、設計例1は波長選択波長板として機能する波長域が広帯域化されており、比較例1に対して波長依存性の特性が大きく改善されていることがわかる。
【0060】
このように、設計例1において、プレツイスト角α、αがそれぞれ16°、−43°で図5のように、それぞれの波長帯の光に対して波長選択波長板23を出射する光を互いに直交させる例を示したが、任意の波長帯の組み合わせにおいて、波長選択波長板23を出射する光を互いに直交させる場合は、設計例1のα、αを基準として、プレチルト角α´、α´を、
α´=α+θ ・・・ (11a)
α´=α+k・θ ・・・ (11b)
として(kは係数、θは角度[°])調整するとよい。図7は、k=1.5と固定し、θ=0、5、10、15、20、25[°]と変化させたときにおける、式(9)で定義したΛに対する、偏光透過率Tp[%]を示したものである。
【0061】
図7に示すように、θの値を変化させることで特定の波長帯における偏光透過率Tpは変化する。このように、プレツイスト角を調整する方法で、波長選択する波長帯の組み合わせを制御することができる。また、kの取り得る範囲は、1〜2の範囲となり、1から2へ変化すると、帯域の制御範囲が広がるが、Λの変化に対するTpの変化が緩やかとなるので、波長選択する波長帯の組み合わせが互いに近い波長帯、比較的遠い波長帯である場合など、目的とする仕様に応じてkの値を設定するとよい。また、θの取り得る範囲は、0〜20°の範囲と0〜−20°の範囲でも成立し、総じて−20°〜+20°程度となる。
【0062】
以下に、上記に示した設計例1を初期値に設定して、対象となる3つの波長帯の光について実際に設計し、最適化した場合の各パラメータ値の取り得る範囲の一例を示す。想定している3つの波長の組み合わせは、405nm、660nm、790nm、もしくは、460nm、530nm、660nm付近とする。最適化の方法としては、偏光透過率が所望の値に近づくように各パラメータを個別に変化させることを繰り返せば容易に可能である。
【0063】
ここで、波長λに依存するパラメータとしてW(λ)を、
W(λ)=Δn(λ)・d/λ ・・・ (12)
として与える。また、対象となる3つの波長は、それぞれλ、λ、λとして与え、波長λは、他の2つの波長λ、λの偏光と出射光が直交する波長であるものとする。また、例えば、式(12)を用いて、2つの波長λ、λに対して得られる値の差分ΔWabは、ΔWab=W(λ)−W(λ)で表すものとする。なお、W(λ)とする場合、上記の式(12)に基づき、波長λの光に対する第1の波長板22のパラメータに相当する。
【0064】
ここで、対象となる3つの波長の大小関係を、λ<λ<λとして考える。ΔWba、ΔWcbを変数として考え、第1の波長板21のプレツイスト角α、第2の波長板22のプレツイスト角α、波長λの光における第1の波長板のW(λ)、波長λの光における第2の波長板のW(λ)の条件を計算すると以下の結果を得た。
【0065】
後述するように、3つの波長を光ヘッド装置用の波長の組み合わせ、投射型表示装置用の波長の組み合わせとして考えたとき、使用する複屈折性材料を考慮すると、実用的な範囲では以下のように設計すればよい場合が多い。ここで、α、α、W(λ)およびW(λ)をパラメータとして、以下、
α=20°、
α−α=55°、
(λ)=2.0、
(λ)/W(λ)=2.0、
をパラメータの中心値として波長選択波長板23を設計することで最適値を容易に得ることができる。
【0066】
また、上記の各パラメータを変更する範囲として、αに対して変化させるΔαの値は、−10°〜+10°の範囲、(α−α)に対して変化させるΔ(α−α)の値は、−10°〜+10°の範囲、W(λ)に対して変化させるΔW(λ)の値は、−0.15〜+0.15の範囲、そして、{W(λ)/W(λ)}に対して変化させるΔ{W(λ)/W(λ)}の値は−0.15〜+0.15の範囲を想定しておけばよい。
【0067】
次に、対象となる3つの波長の大小関係が、λ<λ<λとなる場合を考える。そして、α、α、W(λ)、W(λ)を計算により求めると、0.25<W(λ)/W(λ)≦0.75、の場合は、上記のように実用的な範囲では、
α=20°、
α−α=55°、
(λ)=1.9、
(λ)/W(λ)=2.0、
と設計すればよい場合が多い。
【0068】
もしくは、
(λ)=2.2、
(λ)/W(λ)=3.0、
をパラメータの中心値として波長選択波長板23を設計することで最適値を容易に得ることができる。
【0069】
また、上記の各パラメータを変更する範囲としては、αに対して変化させるΔαの値は、−10°〜+10°の範囲、(α−α)に対して変化させるΔ(α−α)の値は、−10°〜+10°の範囲、W(λ)に対して変化させるΔW(λ)の値は、−0.2〜+0.2の範囲、そして、{W(λ)/W(λ)}に対して変化させるΔ{W(λ)/W(λ)}の値は−0.15〜+0.15の範囲を想定しておけばよい。
【0070】
また、0.75<W(λ)/W(λ)<1.25の場合は、上記のように実用的な範囲では、
α=40°、
α−α=45°、
(λ)=2.0、
2.0<W(λ)/W(λ)<3.0、
をパラメータの中心値として波長選択波長板23を設計することで最適値を容易に得ることができる。
【0071】
また、上記の各パラメータを変更する範囲としては、αに対して変化させるΔαの値は、−10°〜+10°の範囲、(α−α)に対して変化させるΔ(α−α)の値は、−10°〜+10°の範囲、そして、W(λ)に対して変化させるΔW(λ)の値は、−0.15〜+0.15の範囲を想定しておけばよい。
【0072】
次に、対象となる3つの波長の大小関係が、λ<λ<λとなる場合を考える。そして、α、α、W(λ)、W(λ)を計算より求めると、W(λ)/W(λ)≦0.5の場合は、上記のように実用的な範囲では、
α=20°、
α−α=55°、
(λ)=2.0、
(λ)/W(λ)=2.0、
をパラメータの中心値として波長選択波長板23を設計することで最適値を容易に得ることができる。
【0073】
また、上記の各パラメータを変更する範囲としては、αに対して変化させるΔαの値は、−10°〜+10°の範囲、(α−α)に対して変化させるΔ(α−α)の値は、−10°〜+10°の範囲、W(λ)に対して変化させるΔW(λ)の値は、−0.15〜+0.15の範囲、そして、{W(λ)/W(λ)}に対して変化させるΔ{W(λ)/W(λ)}の値は−0.15〜+0.15の範囲を想定しておけばよい。
【0074】
また、W(λ)/W(λ)>0.5の場合は、上記のように実用的な範囲では、
α=30°、
α−α=37°、
(λ)=1.7もしくは、2.7
(λ)=1.0
をパラメータの中心値として波長選択波長板23を設計することで最適値を容易に得ることができる。
【0075】
また、上記の各パラメータを変更する範囲としては、αに対して変化させるΔαの値は、−10°〜+10°の範囲、(α−α)に対して変化させるΔ(α−α)の値は、−10°〜+10°の範囲、W(λ)に対して変化させるΔW(λ)の値は、−0.15〜+0.15の範囲、そして、{W(λ)/W(λ)}に対して変化させるΔ{W(λ)/W(λ)}の値は−0.15〜+0.15の範囲程度を想定しておけばよい。
【0076】
次に、波長λの光、波長λの光および波長λの光を光ヘッド装置に対応した波長の光として、具体的にそれぞれ波長λ=405nm、波長λ=660nm、そして波長λ=785nmとして考える。そして、波長λの光の偏光状態と、波長λの光の偏光状態および波長λの光の偏光状態とを直交させるための第1の波長板21および第2の波長板22の各パラメータを設定するものとする。各パラメータに関しては、前記のλ<λ<λの場合を用いた。また、395nm〜420nmの波長範囲を405nm波長帯、640nm〜680nmの波長範囲を660nm波長帯、そして、765nm〜805nmの波長範囲を785nm波長帯と定義する。
【0077】
このとき、波長λの光に対して、第1の波長板21のリタデーション値Rd(λ)が2λ(=810nm)、そして、第2の波長板のリタデーション値Rd(λ)が約λ(≒406nm)と設定されたものを組み合わせることによって波長選択性を有する波長選択波長板23とすることができる。このとき、第1の波長板21および第2の波長板22を形成する材料としては、一般的な複屈折性を有する材料を用いることができ、405nmの波長の光に対する屈折率異方性Δn(405)に対する、660nmの波長の光に対する屈折率異方性Δn(660)の比率で定義される分散比が、例えば1.0〜1.3の範囲にある材料において実現することができる。
【0078】
なお、波長λの光に対して、第1の波長板21のリタデーション値Rd(λ)が、2λとしたが、Rd(λ)はλの3以上の整数倍とほぼ同じ値であってもよい。さらに、波長λの光に対して、第2の波長板のリタデーション値Rd(λ)が約λとしたが、λの0.5の整数倍とほぼ同じ値であってもよい。
【0079】
次に、具体的に波長選択波長板23に、波長λの光、波長λの光および波長λの光が入射して出射するまでの偏光状態の変化について説明する。図8は、各波長の光の偏光状態の変化を表すポワンカレ球であり、図8(a)は波長λの光、図8(b)は波長λの光、そして図8(c)は波長λの光に対するものである。そして、波長選択波長板23の入射するいずれの波長の光ともS軸成分、つまりX軸方向に振動方向を有する直線偏光の光である。
【0080】
また、図8(a)、図8(b)および図8(c)は、それぞれ波長選択波長板23を出射する光の偏光状態に至るまでのポワンカレ球上の軌跡について模式的に示している。波長λ(=405nm)の光は、第1の波長板21におけるポワンカレ球上の軌跡41aを経て、その後、第2の波長板22におけるポワンカレ球上の軌跡42aを経て出射されるが、図8(a)に示すように、第1の波長板21に入射するX軸方向の直線偏光の光となって出射される。
【0081】
波長λ(=660nm)の光は、第1の波長板21におけるポワンカレ球上の軌跡41bを経た後、第2の波長板22におけるポワンカレ球上の軌跡42bを経て出射されるが、図8(b)に示すように第1の波長板21に入射するX軸方向の直線偏光の光と直交するY軸方向の直線偏光の光となって出射される。波長λ(=785nm)の光も、図8(c)に示すように第1の波長板21におけるポワンカレ球上の軌跡41cおよび、第2の波長板22におけるポワンカレ球上の軌跡42cを経てY軸方向の直線偏光の光となって出射される。
【0082】
このように各波長の光によってそれぞれポワンカレ球上で軌跡を有するが、この中で、とくに波長λの光に対し、第1の波長板21は位相差が2λ発生する2λ板として機能し、さらに第2の波長板22は位相差がλ発生するλ板として機能するので、入射するときと同一の位置に戻るような軌跡を辿る。また、図8より、波長λの光は、波長λの光および波長λの光の軌跡に比べて、ポワンカレ球上での移動距離が長くなっている。これは、波長λの光が第1の波長板21を透過する際に移動した軌跡に対して、第2の波長板22を透過する際に移動する軌跡によって元の位置に戻るように配置することで、波長λの光および波長λの光に対して大きな波長依存性を有することなく波長λの光の偏光方向に対して直交した偏光方向としているからである。
【0083】
また、波長λを405nmとしたが、395〜420nmの波長帯域とする405nm波長帯のいずれかの波長の光であっても、波長選択波長板23を出射する光の偏光状態が大きく変わらず安定する。同様に、波長λを640〜680nmの波長帯域とする660nm波長帯のいずれかの波長の光、波長λを765〜805nmの波長帯域とする785nm波長帯のいずれかの波長の光としても、波長選択波長板23を出射する光の偏光状態が大きく変わらず安定する。
【0084】
上記では、波長選択波長板23を出射する波長λの光の偏光方向と、波長選択波長板23を出射する波長λの光の偏光方向および波長λの光の偏光方向と、がなす角度を90°とするようにしたがこれに限らない。波長選択波長板23に入射する光の偏光方向と第1の波長板21の光学軸とがなす角度、第1の波長板21の光学軸と第2の波長板22の光学軸とがなす角度を調整することによって、例えば同じ偏光方向で入射する波長λの光、波長λの光、波長λの光に対して、波長選択波長板23を出射する波長λの光の偏光方向と、波長選択波長板23を出射する波長λの光および波長λの光の偏光方向との差を任意に与えるような設計ができる。このような場合でも、第1の波長板21および第2の波長板22を構成する材料の屈折率の分散特性を利用するものであるが、同じ材料で構成されても異なる材料で構成されてもよい。
【0085】
また、これまで波長λの光、波長λの光および波長λの光は具体的に光ヘッド装置に用いられる波長を具体的に例示したが、これに限らない。例えば、このほかに3色のレーザ光を用いた投射型表示装置(プロジェクタ)用として用いられるBlue(420〜480nm)となる450nm波長帯、Green(520〜560nm)となる533nm波長帯およびRed(610〜670nm)となる645nm波長帯をそれぞれ、これら波長λ、波長λおよび波長λとして設計するものであってもよい。
【0086】
次に、偏光回折素子12の機能について説明する。図2(a)に、例として波長λの光と波長λの光、波長λの光とが、X方向の直線偏光の光として第1の波長板21からZ方向に進行し、波長選択波長板23によって、波長λの光はX方向の直線偏光の光、波長λの光および波長λの光はY方向の直線偏光の光となって偏光回折素子12に入射する場合について考える。ここで、偏光回折素子12は、X方向の直線偏光の光で入射する波長λの光は直進透過させ、波長選択波長板23によってY方向の直線偏光の光に変化して入射する波長λの光、波長λの光は回折させる機能を有する。
【0087】
この場合、例えば、回折格子14を形成する複屈折性材料層14aは、常光屈折率n、異常光屈折率nを有し、透明材料15が等方性屈折率nであってnと略等しい屈折率を有するもので構成されており、さらに、複屈折性材料層14aの異常光屈折率となる方向が回折格子14の長手方向であるY方向とする。このとき、X方向の直線偏光の光で入射する波長λの光は屈折率nと常光屈折率nとの間で屈折率の差が発生しないので直進透過し、Y方向の直線偏光の光で入射する波長λの光、波長λの光は屈折率nと異常光屈折率nとの間で屈折率の差を有するので、回折する。
【0088】
また、偏光回折素子12は、X方向の直線偏光の光を透過し、Y方向の直線偏光の光を回折するとしたが、波長選択波長板23の機能によって、この透過/回折する偏光方向が変わってもよい。例えば、波長選択波長板23に3波長の光がいずれもX方向の直線偏光の光として入射し、波長λの光がX方向より25°の直線偏光の光となって出射、波長λの光および波長λの光が−65°の直線偏光の光となって出射するものであって、回折格子14の凹凸の長手方向が例えば−65°の方向に一致していていれば、同様に波長λの光が高い効率で透過し、波長λの光および波長λの光は高い効率で回折する。また、図2(a)に示す回折格子14は回折格子構造を模式的に表したものであって、凹凸の長手方向がY方向としているが、波長選択波長板23の機能に応じて凹凸の長手方向を調整した構造であってもよい。
【0089】
偏光回折素子12は、波長選択回折素子20に要求される機能によって様々な形態が考えられるが、例えば、図2(a)のように回折格子14の断面が周期的なピッチを有する矩形状の凹凸を有する場合、回折によって±1次回折光、±2次回折光、・・・、を発生させることができる。また、回折によって0次回折光(直進透過光)を発生させないようにしたり、0次回折光と±1次回折光との光量比を一定の割合で発生させたりすることもできる。例えば、複屈折性材料層14aの高さをhとし、屈折率異方性Δn(=|n−n|)、hとΔnとの積からなる複屈折性材料層14aのリタデーション値を調整することによって、0次回折光の回折効率η、±1次回折光の回折効率η±1などを調整することができる。
【0090】
また、回折格子14の断面が矩形状のものとして説明したが、これに限らない。例えば、+1次回折光のみの回折効率を高くするために断面がブレーズ形状であったり、ブレーズ形状を階段状に近似させた疑似ブレーズ形状のものであったりしてもよい。さらに、入射する光の光軸を中心として平面が同心円状の凹凸を有するフレネルレンズ形状を有するものであってもよく、この場合、入射する光の偏光方向によってレンズ機能を発生し、進行する光の発散状態を変えることができる。なお、複屈折性材料層14aとして、液晶、高分子液晶、フォトニック結晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、水晶など利用できる。
【0091】
また、透明材料15は、入射する光において透明であればいずれの材料であってもよく、複屈折性がない等方性材料を用いることができるが、これに限らない。例えば、複屈折性材料で構成する場合、複屈折性材料層14aに用いる材料の光学軸方向における屈折率および屈折率の波長分散が一致するような材料であるとよい。特定の光学軸方向となって偏光回折素子12に入射する波長λの光について、複屈折性材料層14aと透明材料15との間の屈折率の差をΔnとすると、回折格子14におけるこれらの材料を透過する波長λの光の光路差Δn・hを、0.1λ以下とすることで直進透過率(=0次回折効率:η)が80%以上となるので好ましい。さらにΔn・hを、0.05λ以下とすることでηが90%以上となるのでより好ましい。
【0092】
また、偏光回折素子12に入射する光のうち回折させる波長の光の偏光方向は、偏光回折素子12で回折する偏光方向と一致すると高い回折効率で回折させることができる。例えば偏光回折素子12において回折格子14の凹凸の長手方向に相当するY方向が、回折する偏光方向とすると、偏光回折素子12に入射する光のうち回折させる波長の光の偏光方向がY方向を基準に10°以内(−10°〜+10°の範囲内)であると好ましく、5°以内(−5°〜+5°の範囲内)であるとより好ましい。
【0093】
つまり、このことは図3に示す利用効率ηと関係があり、Y方向を基準に10°以内であれば、楕円率κが0.45以下であっても利用効率ηが80%以上となり、さらに5°以内であれば、楕円率が約0.5以上であっても利用効率ηが80%以上となる。また、この角度(方位角ΔΨ)が25°以内であっても、楕円率κが0.15以内であれば、利用効率ηが80%以上となる。
【0094】
(光ヘッド装置に係る第1の実施の形態)
本実施形態は、3波長のレーザ光が共通する光路中に波長選択回折素子を配置した光ヘッド装置である。また、光ヘッド装置の構成によって、要求される波長選択回折素子の機能、それに基づく構造が異なるので、光ヘッド装置の構成と関連させて、波長選択回折素子についても説明する。
【0095】
図9は、3波長の光を用い、それぞれの規格の光ディスクの記録・再生を行う互換性のある光ヘッド装置100の模式図である。半導体レーザ等の光源101aからX方向に発射された405nm波長帯の光は、グレーティング素子102aで回折されて3ビームとなり、ダイクロイックプリズム103、104、そして偏光ビームスプリッタ105を透過し、コリメータレンズ106で平行光となって、ミラー107によってZ方向に偏向され1/4波長板108を透過して対物レンズ109によって集光されて光ディスク110の情報記録面に集光する。なお、光源から光ディスクに至るまでの光路を「往路」とし、(反射して)光ディスクから光検出器に至るまでの光路を「復路」とする。
【0096】
ダイクロイックプリズム103は405nm波長帯の光を透過し、660nm波長帯の光を反射する機能を有する。また、ダイクロイックプリズム104は、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光を透過し、785nm波長帯の光を反射する機能を有する。また、対物レンズ109は、これら3波長の光に対して互換性があり、とくにCD用の785nm波長帯の光を発散しながら入射させることで光の利用効率が高くなる。
【0097】
光源101bから発射された660nm波長帯の光は、グレーティング素子102bで回折されて3ビームとなり、ダイクロイックプリズム103を反射し、ダイクロイックプリズム104および偏光ビームスプリッタ105を透過する。光源101cから発射された785nm波長帯の光は、グレーティング素子102cで回折されて3ビームとなり、ダイクロイックプリズム104を反射し、偏光ビームスプリッタ105を透過する。偏光ビームスプリッタを透過した660nm波長帯の光および785nm波長帯の光は、405nm波長帯の光と同様に光ディスク110に到達する。
【0098】
光ディスク110を反射した各波長帯の復路の光は、対物レンズ109を透過し、1/4波長板108を透過した際に往路の直線偏光の光と直交する直線偏光の光となり、反射ミラー107で反射され、コリメータレンズ106を透過し、偏光ビームスプリッタ105を反射する。そして、シリンドリカルレンズ111を透過し、後述する波長選択回折素子50を透過して光検出器112に到達する。ここで、3つの波長の光は、光検出器112のいずれも同じ位置に到達するように、波長選択回折素子50によってCD用の785nm波長帯の光に対してのみ凹レンズ機能を発生させ、復路の光の焦点距離を調整している。なお、図9では、BD用の405nm波長帯の光およびDVD用の660nm波長帯の光の軌道は実線、CD用の785nm波長帯の光の軌道は点線で示す。
【0099】
次に、具体的に波長選択回折素子50について説明する。図10(a)は、波長選択回折素子50の構成を示す断面模式図であり、波長選択波長板51と偏光回折素子52から構成されている。波長選択波長板51は、波長選択波長板の実施の形態で説明したように、光学軸が厚さ方向に揃った波長板を、光学軸を交差させて2層に積層した構成のものを用いる。偏光回折素子52は、透明基板53上に複屈折性材料層54aが、断面がフレネルレンズ形状をした回折格子54として形成され、回折格子54の凹部に透明材料55が形成されてなる。また、回折格子54の凸部は、この複屈折性材料層54aに相当し、凹部は複屈折性材料層54aの間の部分を指す。透明材料55は、この少なくとも凹部に形成されていればよいが、等方性材料であれば図10(a)に示すように凸部を覆う部分に形成されていてもよい。
【0100】
次に、フレネルレンズの形状について説明する。フレネルレンズは、光軸を中心に同心円状のブレーズ形状をなしており、各ブレーズ形状の頂点を結んでできる円をブレーズ輪とする。そして、断面のブレーズ形状は、階段状に近似した形状の疑似ブレーズ形状であってもよい。図10(b)は、凹レンズ作用を発生させるフレネルレンズの形状について説明するための図であり、図10(b)の曲線αは、レンズを通過した後の光が受ける位相の変化量の差分の分布を示すものである。ここで、凹レンズの機能とする場合、位相の変化量の差分の分布は式(13)で表される。
φ(r)=a+a+a+a+・・・ ・・・ (13)
ここで、rは光軸からの半径方向の距離であり、a(i=1、2、3、4、・・・)は定数であり、φ(r)は距離rにおける位相の変化量の差分の分布である。
【0101】
そして、凹レンズ機能を発生させたい波長の光、ここでは波長785nm(=波長λ)であって、曲線αに対して、波長λの整数倍の位相差を差し引いても分布は変化しないため、フレネルレンズは等価的に曲線βまたは曲線γのような形状とすることができるものである。複屈折性材料層54aは波長λ(=785nm)の光に対する常光屈折率をn(λ)、異常光屈折率をn(λ)とし、波長λの光に対する透明材料55の屈折率n(λ)がn(λ)と一致させるようにする。
【0102】
ここで、光ヘッド装置100において、光ディスク110から反射された各波長帯の復路の光は、Y方向の直線偏光の光となって波長選択回折素子50に入射するので、CD用の785nm波長帯の光に対してのみ凹レンズとして機能するように波長選択回折素子50を構成するとよい。
【0103】
図10(c)は、波長選択回折素子50を透過する785nm波長帯(波長λ)の光の様子を示したものである。ここで、波長選択波長板51は、405nm波長帯(波長λ)の光および660nm波長帯(波長λ)の光の偏光状態を変えずに透過させ、785nm波長帯(波長λ)の光の偏光状態を直交させる(方位角Ψ=90°)機能を有するものとする。そして、偏光回折素子52は、複屈折性材料層54aの遅相軸方向がX方向となるフレネルレンズ形状を有する回折格子54を有するものとする。
【0104】
このとき、波長λの光と波長λの光は、偏光回折素子52ではレンズ作用が生じずに発散状態を変えずにそのまま透過するのに対し、波長λの光は図10(c)に示すように偏光回折素子52で凹レンズとして機能するので、発散状態が変わる(拡がる)ため焦点距離が変化し、光ヘッド装置100の光検出器112に集光させることができる。また、この場合、波長選択波長板51は、波長λの光および波長λの光の偏光状態を変えるものであってもよく(方位角Ψ、Ψ≠0)、その場合であっても波長λの光の偏光状態と直交する関係にあり、さらに、複屈折性材料層54aの遅相軸方向が波長λの偏光方向と平行となるようにすればよい。
【0105】
また、透明材料55の屈折率n(λ)は、複屈折性材料層の常光屈折率n(λ)と一致させる場合に限らず、異常光屈折率n(λ)と一致させ、複屈折性材料層54aの進相軸方向が波長λの偏光方向と平行となるようにしてもよい。このように光ヘッド装置100のうちこれらの波長の光が共通する光路中に波長選択回折素子50を配置することによって複数(3以上)の波長の光に対して1つの光検出器を共有することができ、光ヘッド装置の小型化が実現できる。
【0106】
(光ヘッド装置に係る第2の実施の形態)
光ヘッド装置において上記と異なる機能を持たせるための波長選択回折素子の形態について説明する。図11は、本実施形態に基づき、3波長の光を用いてそれぞれの規格の光ディスクの記録・再生を行う互換性のある光ヘッド装置200の模式図である。光ヘッド装置200が光ヘッド装置100と大きく異なるのは、3波長の光を発射する半導体レーザ等の光源が、1つの光源201として配置されているところである。
【0107】
光ヘッド装置200の場合、それぞれ機能が異なる波長選択回折素子60および/または波長選択回折素子70を配置することができる。まず、光源201からX方向に発射された405nm波長帯の光は、入射する光の波長によって選択的に3ビームを発生させる波長選択回折素子60を透過する。これより、光ヘッド装置200において、光ディスクの規格に応じた記録・再生について1ビーム法を用いたり、0次回折光と±1次回折光を用いる3ビーム法を用いたり切り替えることができる。波長選択回折素子60の具体的な構成は後述する。
【0108】
波長選択回折素子60を直進透過または回折透過した405nm波長帯の光は、偏光ビームスプリッタ202を透過し、コリメータレンズ203で平行光となる。そして、コリメータレンズ203を透過した405nm波長帯の光は、ダイクロイックプリズム204で反射されてZ方向に偏向され、1/4波長板206aを透過して対物レンズ207aによって集光されてBDなどの光ディスク208aの情報記録面に集光する。また、ダイクロイックプリズム204は、405nm波長帯の光を反射し、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光を透過する機能を有する。
【0109】
次に、光源201から発射された660nm波長帯の光および785nm波長帯の光は、波長選択回折素子60を直進透過または回折透過し、偏光ビームスプリッタ202を透過し、コリメータレンズ203で平行光となり、ダイクロイックプリズム204を透過し、ミラー205で反射されてZ方向に偏向され、1/4波長板206bを透過して対物レンズ207bによって集光されてDVDやCDなどの光ディスク208bの情報記録面に集光する。
【0110】
光ディスク208aまたは208bを反射した各波長帯の復路の光は、1/4波長板206aまたは206bを往復した際に往路の直線偏光と直交する直線偏光となり、偏光ビームスプリッタ202まで往路と同じ光路で進む。そして、偏光ビームスプリッタ202で反射されて、波長選択回折素子70で直進透過または回折透過してシリンドリカルレンズ209を透過して光検出器210に到達する。
【0111】
次に、具体的に波長選択回折素子60の構成について説明する。図12(a)は、波長選択回折素子60の構成を示す断面模式図であり、波長選択波長板61と偏光回折素子12、そして波長選択波長板62から構成されている。波長選択波長板61および62は、波長選択波長板の実施の形態で説明したように、光学軸が厚さ方向に揃った波長板を、光学軸を交差させて2層に積層した構成のものを用いる。
【0112】
例えば、光ヘッド装置200において、405nm波長帯の光に対してのみ1ビーム法を用い、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光に対して回折させて3ビームを発生させる3ビーム法を用いる場合に適応させる波長選択回折素子60として考える。このとき、図12(a)に示す波長選択回折素子60に対してZ方向の偏光方向でX方向に進行する直線偏光の光が入射するものとして説明する。波長選択波長板61は、405nm波長帯(波長λ)の光のみZ方向の直線偏光の光のまま透過させ、660nm波長帯(波長λ)の光および785nm波長帯(波長λ)の光はY方向の直線偏光の光として透過する機能を有するものを用いる。
【0113】
偏光回折素子12は、Z方向の直線偏光の光に対して回折光を発生させY方向の直線偏光の光に対してのみ直進透過させる機能を有するので、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光について、回折光を含む3ビームが発生する。そして、波長選択波長板61と同じ機能を有する波長選択波長板62を配置することで、偏光回折素子12を透過した660nm波長帯の光および785nm波長帯の光が、再びZ方向の直線偏光の光とすることができる。また、波長選択波長板62は、405nm波長帯のZ方向の直線偏光の光に対して、偏光状態を変えずにそのまま透過する。したがって、波長選択回折素子60を透過するこれらの光は、特定の波長帯の光のみを回折する機能を有する。
【0114】
このように、波長選択回折素子60を透過した各波長の直線偏光の光の偏光方向を揃えることによって、光ヘッド装置200の偏光ビームスプリッタ202に入射する各波長の往路の光と復路の光とで偏向分離ができるので、光ヘッド装置の小型化が実現できる。また、波長選択回折素子60は、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光を回折させる例を示したが、この機能を有する構成に限らず、405nm波長帯の光に対してのみ回折させてもよく、3つの波長帯の光のうち選択的に2つの波長帯の光を回折させるものであってもよい。
【0115】
次いで、波長選択回折素子70について説明する。波長選択回折素子70は、光ヘッド装置200のうち、これら3つの波長の光の復路において共通する光路中に配置される。光ヘッド装置200において波長選択回折素子70の機能としては、2つ挙げられる。1つは、光検出器210に各波長帯の光がそれぞれ受光する受光エリアが設けられている場合、波長選択回折素子70に入射する3つの光の進行方向をそれぞれ異なるように調整する分波機能を与えるものである。
【0116】
もう1つの機能としては、光ヘッド装置の構成上で発生する各波長帯の光の光軸を補正するものである。例えば、光源201は3波長の光を発射するがその発光点が物理的に異なるために生じるわずかな光軸のずれを補正する機能を有し、これによって光検出器210において光ディスクからの信号光を高精度で検出する効果を得ることができる。波長選択回折素子70の位置は、復路のみの光路中に限らず、往路のみの光路中であってもよいが、復路のみの光路中に用いると光ディスク208aおよび208bへの到達する光の利用効率を高めることができる。また、復路のみの光路中に波長選択回折素子70を用いる場合、シリンドリカルレンズ209と光検出器210との間の光路中に配置してもよい。
【0117】
次に、具体的に波長選択回折素子70の構成例について説明する。図12(b)は、波長選択回折素子70の構成を示す断面模式図であり、2つの波長選択回折素子を重ねるように配置した構成である。偏光回折素子72aは、透明基板73上に複屈折性材料層74aが周期的なピッチを有して断面がブレーズ形状となる回折格子74が形成され、回折格子74の凹部に透明材料75が形成されてなり、偏光回折素子72a上に波長選択波長板71aが形成される。同様にして、偏光回折素子72bは、透明基板76上に複屈折性材料層77aが周期的なピッチを有して断面がブレーズ形状となる回折格子77が形成され、回折格子77の凹部に透明材料78が形成されてなり、偏光回折素子72b上に波長選択波長板71bが形成される。なお、回折格子の断面形状はブレーズ形状を階段状に近似した疑似ブレーズ形状であってもよい。また、断面形状が矩形のものであってもよいが、回折させる光利用効率の優位性から、ブレーズ形状または疑似ブレーズ形状が好ましい。
【0118】
波長選択波長板71aおよび71bは、波長選択波長板の実施の形態で説明したように、光学軸が厚さ方向に揃った波長板を、光学軸を交差させて2層に積層した構成のものを用いる。また、図12(b)では、回折格子74および回折格子77のブレーズ形状は異なるものとしたが、ブレーズ形状は同じもので、例えばピッチが互いに異なって、回折させる波長の光に対するそれぞれの回折角が異なるように設計してもよい。ここでは、偏光回折素子72aおよび72bの遅相軸方向はY方向となり、透明材料75は複屈折性材料層74aの常光屈折率と同等の屈折率を有し、透明材料78は複屈折性材料層77aの常光屈折率と同等の屈折率を有するものとする。
【0119】
ここで、波長選択回折素子70の最初の機能として説明した分波機能について説明する。光ヘッド装置200の偏光ビームスプリッタ202で反射した各波長の光はY方向の直線偏光で波長選択回折素子70に入射する。このとき、波長選択波長板71aは、405nm波長帯(波長λ)の光に対して偏光状態を変えずに透過させ660nm波長帯(波長λ)の光および785nm波長帯(波長λ)の光に対してX方向の直線偏光の光とする機能を有するものを用いる。
【0120】
波長選択波長板71aを透過した各波長帯の光のうち、Y方向の直線偏光の光である405nm波長帯の光のみ回折格子74で回折し、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光は直進透過する。そして、波長選択波長板71bは、405nm波長帯の光をX方向の直線偏光の光とし、785nm波長帯の光をY方向の直線偏光の光とし、660nm波長帯の光は偏光状態を変えずにそのまま透過させる機能を有するものを用いる。そして、波長選択波長板71bを透過した各波長帯の光のうち、Y方向の直線偏光の光である785nm波長帯の光のみ回折格子77で回折させ、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光は直進透過させることによって、各波長帯の光の進行方向を分離させることができる。これによって、光検出器210に各波長帯の光に対する受光エリアを設けてそれぞれの波長帯の光信号を検出することができる。
【0121】
また、波長選択回折素子70は、各波長帯の光を分波する機能について説明したが、合波させるものであってもよい。つまり、波長選択回折素子70に入射する405nm波長帯の光、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光の進行方向(光軸)が互いに異なるが、出射する光の光軸を揃えて出射させる場合であって同じ構成で機能させることができる。この場合、例えば、光検出器210の受光エリアが各波長帯の光を共通で使用する場合であっても精度よく各光ディスクからの信号光を到達させることができ、光検出器210および光ヘッド装置200の小型化を実現できる。
【0122】
なお、図12(a)および図12(b)において、波長選択回折素子60および70は、説明のためにそれぞれX−Z平面に沿って回折するように示したが、これに限らず、各波長選択波長板が有する各波長帯の光に対するそれぞれの方位角に合わせて回折格子の凹凸の長手方向を決定すればよい。したがって、例えば、波長選択回折素子70の回折格子74の凹凸の長手方向と回折格子77の長手方向を平行としない構成であってもよい。また、波長選択回折素子70は、回折格子74、77が例えば、複数の領域に分割された構造を有するホログラム回折素子としてもよい。この場合、分割された領域毎に回折格子の長手方向や形状が設定されていてもよい。
【0123】
(光ヘッド装置に係る第3の実施の形態)
図13は、本実施形態に基づき、3つの異なる波長の光を用いてそれぞれの規格の光ディスクの記録・再生を行う互換性のある光ヘッド装置250の模式図であって、光ヘッド装置200と共通する部分には同じ番号を用いて説明の重複を避ける。また、光ヘッド装置250が光ヘッド装置200と異なるのは、往路の光路中に3ビームを発生させる(波長選択)回折素子を備えないことで、光源201から発射される、405nm波長帯の光、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光は、いずれも1ビーム法を用い、復路の光路中に配置された波長選択回折素子80で回折をさせるところである。
【0124】
次に、具体的に波長選択回折素子80の構成について説明する。図14は、波長選択回折素子80の構成を示す断面模式図であり、2つの波長選択回折素子を重ねるように配置した構成である。偏光回折素子82aは、透明基板83上に複屈折性材料層84aが周期的なピッチを有して断面がブレーズ形状となる回折格子84が形成され、回折格子84の凹部に透明材料85が形成されてなり、偏光回折素子82a上に波長選択波長板81が形成される。同様にして、偏光回折素子82bは、透明基板86上に複屈折性材料層87aが周期的なピッチを有して断面がブレーズ形状となる回折格子87が形成され、回折格子87の凹部に透明材料88が形成されてなる。なお、回折格子の断面形状はブレーズ形状を階段状に近似した疑似ブレーズ形状であってもよい。また、断面形状が矩形のものであってもよいが、回折させる光利用効率の優位性から、ブレーズ形状または疑似ブレーズ形状が好ましい。
【0125】
波長選択波長板81は、波長選択波長板の実施の形態で説明したように、光学軸が厚さ方向に揃った波長板を、光学軸を交差させて2層に積層した構成のものを用いる。また、図14では、回折格子84および回折格子87のブレーズ形状は異なるものとしたが、ブレーズ形状は同じもので、例えばピッチが互いに異なって、回折させる波長の光に対するそれぞれの回折角が異なるように設計してもよい。ここでは、偏光回折素子82aの遅相軸方向はY方向となり、透明材料85は複屈折性材料層84aの常光屈折率と同等の屈折率を有するものとする。さらに、偏光回折素子82bの遅相軸方向はX方向となり、透明材料88は複屈折性材料層87aの常光屈折率と同等の屈折率を有するものとする。
【0126】
ここで、波長選択回折素子80の分波機能について説明する。光ヘッド装置250の偏光ビームスプリッタ202で反射した各波長の光はY方向の直線偏光で波長選択回折素子80に入射する。このとき、波長選択波長板81は、405nm波長帯(波長λ)の光および660nm波長帯(波長λ)の光に対して偏光状態を変えずに透過させ、785nm波長帯(波長λ)の光に対してX方向の直線偏光の光とする機能を有するものを用いる。
【0127】
波長選択波長板81を透過した各波長帯の光のうち、Y方向の直線偏光の光である405nm波長帯の光および660nm波長帯の光を回折格子84で回折し、785nm波長帯の光は直進透過する。そして、偏光回折素子82aを透過した各波長帯の光のうち、回折格子87は、X方向の直線偏光の光である785nm波長帯の光のみ回折させ、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光は直進透過させる。このとき、例えば、660nm波長帯の光と785nm波長帯の光が回折して光検出器210の図示しない受光エリアに共通して受光させることもできる。
【0128】
具体的に図14の波長選択回折素子80の回折格子84の格子ピッチをPとし、回折格子87の格子ピッチをPとすると、Pは、P×λ/λに略等しくなるように調整すると、660nm波長帯の光と785nm波長帯の光の回折方向が略同一となり、これらの波長帯の光を同一の受光エリアにて受光させることができる。また、受光エリアを共通化する波長帯の組み合わせは、これに限らず、405nm波長帯の光と660nm波長帯の光であったりしてもよく、さらには、これら3つの波長帯の光すべてに共通化するように設定するものであってもよい。
【0129】
なお、図14において、波長選択回折素子80は、説明のためにそれぞれX−Z平面に沿って回折するように示したが、これに限らず、各波長選択波長板が有する各波長帯の光に対するそれぞれの方位角に合わせて回折格子の凹凸の長手方向を決定すればよい。したがって、例えば、波長選択回折素子80の回折格子84の凹凸の長手方向と回折格子87の長手方向を平行としない構成であってもよい。また、波長選択回折素子80は、回折格子84、87が例えば、複数の領域に分割された構造を有するホログラム回折素子としてもよい。この場合、分割された領域毎に回折格子の長手方向や形状が設定されていてもよい。
【0130】
(表示装置用光学系に係る実施の形態)
これまで、波長が異なる3つの光を、405nm波長帯の光、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光を用いる光ヘッド装置について説明したが、これ以外の波長帯の光の組み合せとして投射型表示装置用の光学系に波長選択波長板を用いることができる。図15は、赤色となる645nm波長帯(610〜670nm)の光を出射する光源301R、緑色となる533nm波長帯(520〜560nm)の光を出射する光源301G、そして青色となる450nm波長帯(420〜480nm)の光を出射する光源301Bを扱う表示装置用光学系300の模式図である。
【0131】
表示装置用光学系300では、これら3つの光源301R、301Gおよび301Bからの光を合成して映像とすることができるが、これら3つの波長帯の光を合波させるための構成について説明する。光源301Rから出射する赤色の光はZ方向の直線偏光の光でX方向に進行し、光源301Gから出射する緑色の光はY方向の直線偏光の光でZ方向に進行する。偏光ビームスプリッタ302はZ方向の直線偏光の光を透過させ、Y方向の直線偏光の光を反射させる機能を有し、赤色の光および緑色の光を合波させ、これらの光をX方向へ偏向させる。波長選択波長板303は、赤色の光に対して偏光状態を変えずに透過させ、緑色の光に対して入射する直線偏光の光の方向と直交した直線偏光の光、つまりZ方向の直線偏光の光に変換する。
【0132】
また、光源301Bから出射する青色の光はY方向の直線偏光の光でZ方向に進行する。偏光ビームスプリッタ304は、偏光ビームスプリッタ302と同様にZ方向の直線偏光の光を透過させ、Y方向の直線偏光の光を反射させる機能を有する。これより、赤色の光および緑色の光を直進透過させるとともに、青色の光を反射させてこれら3つの光を合波する。偏光ビームスプリッタ304を出射したこれら3つの光のうち、赤色の光および緑色の光の偏光方向と青色の光の偏光方向とが直交した状態で波長選択波長板305に入射する。
【0133】
波長選択波長板305は、赤色の光および緑色の光に対して入射する直線偏光の光の方向と直交した直線偏光の光、つまりX方向の直線偏光の光に変換し、青色の光に対して偏光状態を変えずに透過させる。これによって、コリメートレンズ306に入射するこれら3色の光は同じ方向の直線偏光の光、つまり、Y方向の直線偏光の光となる。このように直線偏光の方向を揃えることによってコリメータレンズ306から映像表示に至るまでの光学系において、光の映像信号を偏向しやすいなど制御性が向上する。
【実施例】
【0134】
(波長選択波長板および波長選択回折素子に基づく実施例)
本実施例は、波長選択波長板20の構成に基づくものである。図16(a)は、実施例1に基づく波長選択波長板400の構成を示すものであり、製造方法および設計の例について説明する。
【0135】
水平配向処理をした配向膜402aが片面に形成された透明基板401a上に、配向膜402aの配向処理方向に高分子液晶が配向され、その膜厚が約8.6μmとなる高分子液晶層403aを形成する。形成された高分子液晶層403aの屈折率異方性Δnは波長405nmの光において約0.092、波長660nmの光において約0.077、そして波長785nmの光において約0.075である。
【0136】
次に、同様の製造方法において、同じ高分子液晶材料からなる膜厚約4.3μmの高分子液晶層403bを、水平配向処理をした配向膜402bが片面に形成された透明基板401b上に形成する。なお、図2における波長選択波長板20の第1の波長板21および第2の波長板22が、それぞれ、図16(a)における、高分子液晶層403a、403bに相当する。
【0137】
次に、高分子液晶層403aの液晶分子の配向方向と高分子液晶層403bの液晶分子の配向方向とが62°の角度をなすように対向させ、透明接着剤404を用いて接着することにより、波長選択波長板407を形成する。
【0138】
そして、まず作製した波長選択波長板407の光学特性を調べる。図16(b)に示す入射する直線偏光の偏光方向410を基準としたとき、第1の波長板である高分子液晶層403aの遅相軸411に相当する配向方向とがなす角度αが+18°、第2の波長板である高分子液晶層403bの遅相軸412に相当する配向方向とがなす角度αが−44°、となるように偏光方向を調整する。また、上記各パラメータの条件における実施例を実施例1とし、整理して表2に示す。なお、高分子液晶層403a、403bは、光学軸が厚さ方向に揃っているので、ツイスト角に関するパラメータβおよびβは、それぞれ0[°]である。
【0139】
【表2】

【0140】
実施例1の条件で、入射する直線偏光の光の偏光方向を変えず、入射する光の波長を変化させたときの光学特性を計算した。図17は、このとき、波長選択波長板407を出射する光の楕円率κおよび方位角Ψの連続的な波長(λ)依存性を計算したものである。なお、方位角Ψは、入射する直線偏光の光の偏光方向に対して、出射する直線偏光の光の偏光方向または、出射する楕円偏光の光の長軸方向がなす角度であり、符号の考え方も同じように光が入射する面から見て入射する直線偏光の光の方向を基準に左回りにプラス(+)、右回りにマイナス(−)である。
【0141】
この結果より、405nm波長帯の光は楕円率κおよび方位角Ψともほぼ0であり、出射する光の偏光方向と入射する直線偏光の光の偏光方向とはほぼ同じであった。そして、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光は、楕円率κがほぼ0であるが、方位角Ψが約90°となって出射する。したがって、これらの波長帯で出射する光は、方位角Ψが約90°となる直線偏光の光、つまり、入射する直線偏光の光の偏光方向とほぼ直交した直線偏光の光を得ることができる。
【0142】
また、図18は各波長帯(λ)の光に対する光の利用効率ηを示したものである。図18(a)は、405nm波長帯において波長選択波長板407を出射した光強度のうち、使用する光の偏光方向である方位角Ψ=0[°]における光強度の割合(成分)に相当する利用効率ηを示すものである。図18(b)および図18(c)は、それぞれ660nm波長帯の光および785nm波長帯の光において波長選択波長板407を出射した光強度のうち、使用する光の偏光方向である方位角Ψ=90[°]における光強度の割合(成分)に相当する利用効率ηを示す。この場合、いずれも波長依存性が小さく、かつ、高い利用効率を得ることができる。
【0143】
ここで、波長405nmの光に対する方位角をΨ[°]、波長660nmの光に対する方位角をΨ[°]、波長785nmの光に対する方位角をΨ[°]としたときの実施例1の結果を整理して表3に示す。また、波長選択波長板407を出射する光の方位角に合わせて、後述する偏光回折素子408(回折格子405)の光学軸との位置関係についても、併せて表3に示す。
【0144】
【表3】

【0145】
次いで、偏光回折素子408を含む波長選択回折素子400の製造方法を説明する。高分子液晶層403a、403bと同様の製造方法にて高分子液晶が特定方向に配向した膜厚約1.2μmの高分子液晶層を透明基板401c上に形成する。得られた高分子液晶層の屈折率異方性Δnは波長405nmの光において約0.173、波長660nmの光において約0.147、そして波長785nmの光において約0.144である。
【0146】
次に、フォトリソグラフィーとエッチングを利用した微細加工プロセスにて、高分子液晶からなる凸部の高さが約1.2μmの回折格子405を形成する。なお、ここでは、回折格子405の凹凸の長手方向が配向方向、つまり回折格子405の遅相軸と、平行になるように凹凸を形成する。
【0147】
そして、回折格子405側と透明基板401bの配向膜402bと反対側の面に、高分子液晶層403aの遅相軸と回折格子405の長手方向(回折格子405の遅相軸方向)が44°となるように対向させる。つまり、波長選択波長板407の透明基板401a側からみたとき、高分子液晶層403aの遅相軸を基準に右回りに18°の方向に回折格子405の長手方向(遅相軸)が位置するようにする。そして、回折格子405を形成する高分子液晶の常光屈折率(n)と略等しい均一屈折率の透明接着剤406を用いて回折格子405の凹部を充填し、偏光性回折素子408を含む波長選択回折素子400を形成する。
【0148】
作製した波長選択波長板407に、図16(b)に示すように、偏光方向410となる405nmの直線偏光となるレーザ光を入射すると、0次回折効率(=直進透過率)η(405)が0.5%以下となり、一方、±1次回折効率η±1(405)が38%以上となることが確認できる。
【0149】
同様に、偏光方向410となる660nmおよび785nmの直線偏光となるレーザ光を入射すると、それぞれの波長の光における0次回折光率η(660)およびη(785)が98%以上となることが確認され、入射する光の波長に依存して回折効率が変化する波長選択回折素子400を得ることができる。
【0150】
また、実施例2および実施例3は、実施例1と同じ製造方法を用いて表2に示すように高分子液晶層403aの厚さdおよび高分子液晶層403bの厚さd、およびα、αを満足するように配置を変えて調整した条件において、実施例1と同様の光学特性を計算した。
【0151】
実施例2は、表2に示す条件によって、表3に示すように波長405nmの光および波長660nmの光に対するそれぞれの方位角ΨおよびΨが84[°]、波長785nmの光に対する方位角Ψが−6[°]であって、ΨとΨおよび、ΨとΨとがなす角度を直交させることができる。また、偏光回折素子408(回折格子405)の配向方向となる遅相軸を−6[°]に合わせて波長選択回折素子400を作製することによって、入射する405nm波長帯の光および660nm波長帯の光に対して高い効率で直進透過させ、入射する785nm波長帯の光に対して高い効率で回折させる波長選択回折素子400を得ることができる。
【0152】
図19(a)、図19(b)および図19(c)は、実施例2の条件に基づいて作製した波長選択回折素子400に対して、405nm波長帯、660nm波長帯および785nm波長帯の光に対する光の利用効率ηを示したものである。この場合、いずれも波長依存性が小さく、かつ、高い利用効率ηを得ることができる。
【0153】
実施例3は、表2に示す条件によって、表3に示すように波長405nmの光および波長785nmの光に対するそれぞれの方位角ΨおよびΨが124[°]、波長660nmの光に対する方位角Ψが34[°]であって、ΨとΨおよび、ΨとΨとがなす角度を直交させることができる。また、偏光回折素子408(回折格子405)の配向方向となる遅相軸を34[°]に合わせて波長選択回折素子400を作製することによって、入射する405nm波長帯の光および785nm波長帯の光に対して高い効率で直進透過させ、入射する660nm波長帯の光に対して高い効率で回折させる波長選択回折素子400を得ることができる。
【0154】
図20(a)、図20(b)および図20(c)は、実施例3の条件に基づいて作製した波長選択回折素子400に対して、405nm波長帯、660nm波長帯および785nm波長帯の光に対する光の利用効率ηを示したものである。この場合、いずれも波長依存性が小さく、かつ、高い利用効率ηを得ることができる。
【0155】
また、上記に定義したように、波長405nmの光に対する方位角をΨ[°]、波長660nmの光に対する方位角をΨ[°]、そして波長785nmの光に対する方位角をΨ[°]とし、そのうち、2つが90°、残り1つが0°となる構成を実施例4〜6として表4に示す。さらに、その条件における結果を整理して、表5に示す。
【0156】
【表4】

【0157】
【表5】

【0158】
実施例4〜6の波長選択波長板は、これら同じ偏光方向の直線偏光の光で入射する3波長の光に対して、出射する光の偏光方向がいずれも、0°または90°であり、波長選択回折素子の作製上、波長選択波長板を出射した光の偏光方向と偏光回折素子の複屈折性材料層の光学軸方向とが一致するように自由に設定できない場合に、とくに、偏光プリズムを利用するよう場合など有効となる。
【0159】
実施例4は、方位角Ψが、方位角Ψおよび方位角Ψと直交する構成を示し、図21(a)、図21(b)および図21(c)は、実施例4の条件に基づいて作製した波長選択回折素子400に対して、405nm波長帯、660nm波長帯および785nm波長帯の光に対する光の利用効率ηを示したものである。
【0160】
実施例5は、方位角Ψが、方位角Ψおよび方位角Ψと直交する構成を示し、図22(a)、図22(b)および図22(c)は、実施例5の条件に基づいて作製した波長選択回折素子400に対して、405nm波長帯、660nm波長帯および785nm波長帯の光に対する光の利用効率ηを示したものである。
【0161】
実施例6は、方位角Ψが、方位角Ψおよび方位角Ψと直交する構成を示し、図23(a)、図23(b)および図23(c)は、実施例6の条件に基づいて作製した波長選択回折素子400に対して、405nm波長帯、660nm波長帯および785nm波長帯の光に対する光の利用効率ηを示したものである。
【0162】
また、この実施例のうち例として、表4に示す実施例5の条件の値を基準としたとき、作製上における誤差範囲を考慮した場合について考える。このとき、厚さd、厚さdをパラメータ(変数)として、αとαを計算した結果をそれぞれ、図24、図25に示す。図24は、第1の波長板の厚さdおよび第2の波長板の厚さdの条件におけるαが取り得る角度を示す分布図であって、例えば、αが、34〜35[°]の領域に該当するdおよびdの条件では、αが、34〜35[°]の範囲内に最適の解が含まれる。同様に、図25は、第1の波長板の厚さdおよび第2の波長板の厚さdの条件におけるαが取り得る角度を示す分布図であって、例えば、αが、−26〜−24[°]の領域に該当するdおよびdの条件では、αが、−26〜−24[°]の範囲内に最適の解が含まれる。
【0163】
なお、これらの結果を、係数A〜Lを与えて以下の経験式、
X=A+Bcos(C(d−D))+Ecos(F(d−G))
+Hcos(I(d−J))cos(K(d−L)) ・・・ (14)
で表すと表6のようになる。つまり、式(14)の左辺Xがαのとき、α列の係数A〜Lをそれぞれ与え、αのとき、α列の係数A〜Lをそれぞれ与える。
【0164】
【表6】

【0165】
なお、dおよびdを決めたときのα、αの誤差範囲は、図24、図25それぞれの分布において、−20〜+20[°]の範囲であれば好ましく、−10〜+10[°]の範囲であればより好ましく、−5〜+5[°]の範囲であればさらに好ましい。
【0166】
また、波長選択回折素子に基づく実施例として、波長405nm、波長660nmおよび波長785nmの組み合わせ以外に、波長450nm、波長533nmおよび波長645nmの組み合わせについて、波長選択波長板407を構成する第1の波長板である高分子液晶層403a、第2の波長板である高分子液晶層403bの条件を実施例7〜9として与え、それぞれの条件を表7に整理した。なお、製造方法および使用する材料は、実施例1と同じものを用い、高分子液晶層403a、403bの厚さd、dおよびプレツイスト角α、αを変えたものである。
【0167】
【表7】

【0168】
ここで、表7の条件で作製したそれぞれの波長選択波長板407において、波長450nmの光に対する方位角をΨ[°]、波長533nmの光に対する方位角をΨ[°]、波長645nmの光に対する方位角をΨ[°]としたときの各実施例の結果を整理して表8に示す。
【0169】
【表8】

【0170】
実施例7は、表7に示す条件によって、表8に示す結果のように波長450nmの光に対する方位角Ψが0[°]、波長533nmの光および波長645nmの光に対するそれぞれの方位角ΨおよびΨが90[°]であって、ΨとΨおよび、ΨとΨとがなす角度を直交させることができる。また、偏光回折素子408(回折格子405)の配向方向となる遅相軸を0[°]に合わせて波長選択回折素子400を作製することによって、入射する450nmの光に対して回折させ、入射する533nmの光および645nmの光に対して高い効率で直進透過させる波長選択回折素子400を得ることができる。
【0171】
同様に、表7に示す実施例8の条件によって、ΨとΨおよび、ΨとΨとがなす角度を直交させることができ、実施例9の条件によって、ΨとΨおよび、ΨとΨとがなす角度を直交させることができる。これによって、一方の波長の光を高い効率で直進透過させ、他方の波長の光を高い効率で回折させる波長選択回折素子400を得ることができる。
【0172】
また、実施例7〜9の条件で作製した波長選択回折素子の各波長帯の光における透過または回折の利用効率をそれぞれ、図26〜図28に示す。この結果より、450nm波長帯(440nm〜470nm)、533nm波長帯(520nm〜550nm)および645nm波長帯(630nm〜660nm)における光の利用効率はいずれも高い値を示す。
【符号の説明】
【0173】
1、2、3、23、51、61、62、71a、71b、81、303、305、407 波長選択波長板
20、50、60、70、80、400 波長選択回折素子
12、52、72a、72b、82a、82b、408 偏光回折素子
13、53、73、76、83、86、401a、401b、401c 透明基板
14、54、74、77、84、87、405 回折格子
14a、54a、74a、77a、84a、87a 複屈折材料層
15、55、75、78、85、88 透明材料
24、410 入射する直線偏光の偏光方向
21 第1の波長板
22 第2の波長板
25、411 第1の波長板の光学軸
26、412 第2の波長板の光学軸
41a、41b、41c、42a、42b、42c ポワンカレ球上の軌跡
100、200、250 光ヘッド装置
101a、10b、101c、201、301R、301G、301B 光源
102a、102b、102c グレーティング素子
103、104、204 ダイクロイックプリズム
105、202、302、304 偏光ビームスプリッタ
106、203、306 コリメートレンズ
107、205 ミラー
108、206a、206b 1/4波長板
109、207a、207b 対物レンズ
110、208a、208b 光ディスク
111、209 シリンドリカルレンズ
112、210 光検出器
300 表示装置用光学系
402a、402b 配向膜
403a、403b 高分子液晶層
404、406 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の異なる帯域を有する3種の波長λ、波長λ、波長λ(λ<λ<λ)で入射する直線偏光の光のうち少なくとも1種の波長の直線偏光の光の偏光状態を変える波長選択波長板において、
前記波長選択波長板は、光が入射する側から順に第1の波長板と第2の波長板と、が備えられ、
前記第1の波長板および前記第2の波長板は、光学軸が各波長板面に平行であるとともに、厚さ方向に揃っており、
前記第1の波長板に入射する前記波長λの光、前記波長λの光および前記波長λの光が同一方向の直線偏光の光であって、入射する前記直線偏光の光の偏光方向を基準として、前記第1の波長板の遅相軸と前記第2の波長板の遅相軸との組み合わせ、または、前記第1の波長板の進相軸と前記第2の波長板の進相軸との組み合わせからなる角度をそれぞれ、プレツイスト角α[°]、α[°]とするとき、
前記波長選択波長板から出射する前記波長λの光、前記波長λの光および前記波長λの光の楕円率がいずれも0.5以下であり、
さらに、第1の方向と、前記第1の方向と直交する第2の方向を与えるとき、前記第1の方向に対して、いずれか1つの波長の光の最も振動が大きい成分の偏光方向とがなす角度が−26〜26[°]の範囲にあって、この波長で出射する光の全成分のうち前記第1の方向の光成分の割合が80%以上となるとともに、前記第2の方向に対して他の2つの波長の光の最も振動が大きい成分の偏光方向とがなす角度が−26〜26[°]の範囲にあって、これらの波長で出射する光のそれぞれの全成分のうち前記第2の方向のそれぞれの光成分の割合が80%以上となるように、前記α、前記α、前記第1の波長板のリタデーション値Rdおよび前記第2の波長板のリタデーション値Rdが設定されている波長選択波長板。
【請求項2】
前記第1の波長板の前記波長λの光に対するリタデーション値をRd(λ)、前記第2の波長板の前記波長λの光に対するリタデーション値をRd(λ)とするとき、
Rd(λ)の値がλの値の2以上の略整数倍であるとともに、Rd(λ)の値がλの値の0.5の略整数倍である請求項1に記載の波長選択波長板。
【請求項3】
前記波長λは395〜420nmの範囲である405nm波長帯であり、前記波長λは640〜680nmの範囲である660nm波長帯であり、前記波長λは765〜805nmの範囲である785nm波長帯である請求項1または請求項2に記載の波長選択波長板。
【請求項4】
前記波長λは420〜480nmの範囲である450nm波長帯であり、前記波長λは520〜560nmの範囲である533nm波長帯であり、前記波長λは610〜670nmの範囲である645nm波長帯である請求項1または請求項2に記載の波長選択波長板。
【請求項5】
透明基板上に常光屈折率n、異常光屈折率nとなる複屈折性を有する複屈折性材料層からなって凹凸が形成され、前記複屈折材料層の凹部に前記nまたは前記nと等しい屈折率の光学材料が形成された偏光回折素子と、
請求項1〜請求項4に記載の波長選択波長板のうちの少なくとも1つと、が備えられた波長選択回折素子。
【請求項6】
前記複屈折性材料層の凹凸の断面は、フレネルレンズ形状である請求項5に記載の波長選択回折素子。
【請求項7】
異なる3種の波長の光を出射する少なくとも一つの光源と、
前記光源から出射する光を光記録媒体上に集光する対物レンズと、
前記光記録媒体から反射される光を検出する光検出器と、
前記光源から前記光記録媒体へ向かう光を透過するとともに、前記光記録媒体から前記光検出器へ向かう光を反射するかまたは、前記光源から前記光記録媒体へ向かう光を反射するとともに、前記光記録媒体から前記光検出器へ向かう光を透過する偏光ビームスプリッタと、
を備えた光ヘッド装置であって、
前記光源と前記偏光ビームスプリッタとの間の光路中および/または、前記偏光ビームスプリッタと前記光検出器との間の光路中に請求項5または請求項6に記載の波長選択回折素子が配置された光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−233208(P2011−233208A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104061(P2010−104061)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】