説明

注入材用粉末組成物

【課題】1剤型のレオロジー改質剤を含有し、粉末物性と耐湿性に優れた注入材用プレミックスとしての粉末組成物を提供する。
【解決手段】炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)と芳香族アニオン基(a2)とを含む4級塩型化合物(A)及びカチオン性ポリマー(B)を含有する粉末状レオロジー改質剤、並びに、無機粉体(C)を含有する、注入材用粉末組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入材用粉末組成物及びその製造方法、並びに該組成物を含有する注入材に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築工事において、例えば裏込などのように、土木建築基礎部分おいて形成される空隙部、及び道路等に敷設されるコンクリート舗装版の据付、ならびにその沈下を補修する際に生じる版下の空隙部を充填するためにはグラウト材が用いられている。例えば、河川や海洋の水底にある地盤改良工事のために、セメント、スラグ等の水硬性粉体(以下、「固化材」という。)等を、水に分散させてスラリー状とした注入材(以下、「注入材」という。)を調合し、これを注入管を用いて地盤中に圧入し固化させる地盤改良工法が実用化されている。この工法は各種の態様で実施されているが、代表的な手法として、ジェットグラウト工法がある。
【0003】
特許文献1〜3には、所定のカチオン性化合物(A)と、アニオン性化合物とを、グラウト材のような注入材に使用することが開示されている。また、これらは、イオン性の異なる2種の化合物をそれぞれ用いるものであることから、より簡便な操作で使用できる1剤型のレオロジー改質剤を提供するために、特許文献4では、4級カチオン基と芳香族アニオン基とを含む4級塩型化合物を含有するレオロジー改質剤を提案している。
【特許文献1】特開2007−106641号公報、
【特許文献2】特開2004−91535号公報
【特許文献3】特開2003−277751号公報
【特許文献4】特開2004−124007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
注入材は、水と粉体とを含有するスラリーであるが、特許文献4で提案されているような1剤型のレオロジー改質剤を粉末状プレミックスとして配合できれば、かかるスラリーの調製が容易となり、作業性は格段に向上する。しかし、プレミックスとする場合は、ケーキング耐性のような粉末物性と耐湿性が満足できる水準である必要がある。従来、1剤型のレオロジー改質剤を含有し、粉末物性と耐湿性に優れた注入材用プレミックスとしての粉末組成物は見いだされていない。
【0005】
本発明の課題は、1剤型のレオロジー改質剤を含有し、粉末物性と耐湿性に優れた注入材用プレミックスとしての粉末組成物及びその製造方法、並びに該組成物を含有する注入材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)と芳香族アニオン基(a2)とを含む4級塩型化合物(A)及びカチオン性ポリマー(B)を含有する粉末状レオロジー改質剤、並びに、無機粉体(C)を含有する、注入材用粉末組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)と芳香族アニオン基(a2)とを含む4級塩型化合物(A)、カチオン性ポリマー(B)及び水を含む液状混合物を乾燥して粉末状混合物として粉末状レオロジー改質剤を得る工程、及び前記工程で得られた粉末状レオロジー改質剤に無機粉体(C)を混合する工程を有する、注入材用粉末組成物の製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、上記本発明の注入材用粉末組成物と水とを含有する注入材に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1剤型のレオロジー改質剤を含有し、粉末物性と耐湿性に優れた注入材用粉末組成物及びその製造方法、並びに該組成物を含有する注入材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔4級塩型化合物(A)〕
本発明に係る4級カチオン基と芳香族アニオン基とを有する4級塩型化合物は、その製造方法上、ハロゲン元素が含まれない、もしくは除去されるため、使用する場所に金属が存在していた場合でも、その腐食を促進する恐れがなくなる。
【0011】
4級塩型化合物(A)は、炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)の1種以上を有する。4級カチオン基(a1)において、前記炭化水素基の炭素数は12〜22がより好ましく、14〜18が更に好ましい。4級カチオン基として、長鎖アルキル(炭素数10〜26)ヒドロキシエチルジメチルアンモニウム基やモノ長鎖アルキル(炭素数10〜26)トリメチルアンモニウム基が挙げられる。4級カチオン基(a1)は、4級塩型化合物に由来することができ、当該化合物としては、具体的には、テトラデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、ヘキサデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、オクタデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、オレイルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、タローヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、水素化タローヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、オレイルトリメチルアンモニウム、タロートリメチルアンモニウム、水素化タロートリメチルアンモニウム、ヘキサデシルジヒドキシエチルメチルアンモニウム、オクタデシルジヒドキシエチルメチルアンモニウム、オレイルジヒドキシエチルメチルアンモニウム、タロージヒドキシエチルメチルアンモニウム、水素化タロージヒドキシエチルメチルアンモニウム、ヘキサデシルピリジニウム、1,1−ジメチル−2−ヘキサデシルイミダゾリニウム等が挙げられる。これらのうち、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、タロートリメチルアンモニウム、水素化タロートリメチルアンモニウム、が更に好ましい。
【0012】
また、4級塩型化合物(A)は芳香族アニオン基(a2)の1種以上を含有する。芳香族アニオン基を構成するアニオン基としてはスルホン酸基やカルボキシル基等が挙げられ、芳香族アニオン基を構成する芳香族基としてフェニル基等が挙げられる。芳香族アニオン基(a2)は、アニオン性芳香族化合物に由来することができ、該化合物としては、具体的には、パラトルエンスルホネート、サリシレート、メタキシレンスルホネート、クメンスルホネート、スチレンスルホネート、ベンゼンスルホネート、ベンゾエート等が挙げられる。中でも、パラトルエンスルホネートが更に好ましい。
【0013】
また、4級塩型化合物(A)は、炭素数2又は3のヒドロキシアルキル基を少なくとも1つ有することが好ましい。
【0014】
本発明では、4級塩型化合物(A)として、下記一般式(1)の化合物が好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1は炭素数10〜26のアルキル基、R2は炭素数1〜22のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、R3、R4は、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、好ましくは少なくとも一方が炭素数2又は3のヒドロキシアルキル基、Yはエチレン基又はプロピレン基、nは0又は1の数、X-はアニオン性芳香族化合物、好ましくはパラトルエンスルホン酸に由来するアニオン基を表す。)。
【0017】
本発明では、増粘する温度領域を広くできる点で、(a1)として炭化水素基の長さが異なる4級カチオン基が2種以上存在することが好ましく、そのためには、4級カチオン基の炭化水素基の長さが異なる4級塩型化合物(A)を2種以上併用しても、1つのカチオン基に長さが異なる炭化水素基が2つ以上結合した4級カチオン基を有する4級塩型化合物(A)を使用しても、炭化水素基の長さが異なる4級カチオン基を2つ以上有する4級塩型化合物(A)を使用しても、更にこれらの組み合わせでも、何れでもよい。これらのうちで、水への溶解性とレオロジー改質の効果の点から、4級カチオン基の炭化水素基の長さが異なる4級塩型化合物(A)を2種以上併用するのが好ましい。
【0018】
4級塩型化合物(A)の製造方法としては、(i)3級アミンをアニオン性芳香族化合物の酸型で中和しそこにエチレンオキサイドを反応させる方法、(ii)4級塩型化合物とアニオン性芳香族化合物の混合物を脱塩する方法、(iii)4級塩型化合物の対イオンを芳香族アニオン基(a2)で対イオン交換する方法などが挙げられる。なかでも、(i)の方法が好ましく、この方法において、後述の通り、カチオン性ポリマー(B)を混合する工程を含む製造方法が好ましい。これらの製造工程では、ハロゲン元素は元々含まれないか、または系外に除去されるので、金属が存在する部分に使用しても腐食を起こさないことから、これらの製造法が好ましい。
【0019】
〔カチオン性ポリマー(B)〕
カチオン性ポリマー(B)としては、カチオン性窒素を含むカチオン性ポリマー、更に、分子中に4級塩構造を有するポリマー、なかでもカチオン性窒素が、第4級窒素であるカチオン性ポリマーが好ましい。
【0020】
カチオン性ポリマー(B)としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドエチルジメチルアミン、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミン、アリルアミン、アリルメチルアミン、アリルジメチルアミン、ジアリルアミン、ジアリルメチルアミン等のホモポリマー、及びこれらのモノマーと他のモノマーとから得られる共重合体が挙げられ、いずれも中和型でも未中和型でも使用できる。
【0021】
また、カチオン性ポリマー(B)としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン等のポリアルキレンポリアミンおよび、ポリアルキレンポリアミンに炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加させたポリマーが挙げられ、いずれも中和型でも未中和型でも使用できる。
【0022】
その他にもポリエチレンイミンおよびポリエチレンイミンに炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加させたポリマーをカチオン性ポリマー(B)として使用できる。
【0023】
カチオン性ポリマー(B)としては、カチオン性窒素を含むものが好ましく、更に当該カチオン性ポリマーのカチオン性窒素に、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜8のオキシアルキレン基を含んでなるポリオキシアルキレン基、水素原子及び下記式(b1−1)
【0024】
【化2】

【0025】
で表される基〔ここで、R1b〜R5bは、同一でも異なっていても良く、それぞれ水素原子又は炭素数1〜22のアルキルもしくはアルケニル基であり、Zは−O−又は−NY−(Yは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基)であり、nは1〜10の数である。ただし、R1b及びR3bはポリマー構造中に取り込まれていても良く、その場合はR1b及びR3bは存在しない。〕から選ばれる基が結合しているものが好ましい。
【0026】
一般式(b1−1)で表される基の由来となる化合物としては、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩、メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩、メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩、メタクリロイルオキシプロピルジメチルエチルアンモニウム塩、メタクリルアミドエチルトリメチルアンモニウム塩、メタクリルアミドエチルジメチルエチルアンモニウム塩、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、メタクリルアミドプロピルジメチルエチルアンモニウム塩、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩、アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩、アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩、アクリロイルオキシプロピルジメチルエチルアンモニウム塩、アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウム塩、アクリルアミドエチルジメチルエチルアンモニウム塩、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、アクリルアミドプロピルジメチルエチルアンモニウム塩等が挙げられ、これらはアルキル硫酸塩、中でもエチル硫酸塩、メチル硫酸塩が好ましい。
【0027】
また、カチオン性ポリマー(B)のカチオン性窒素が、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、好ましくはジアリルジメチルアンモニウム塩に由来するポリマーもまた好適であり、具体的には、ジアリルジメチルアンモニウム塩とアクリル酸系モノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0028】
また、カチオン性ポリマー(B)としては、カチオン基を有する(メタ)アクリル酸系モノマー、カチオン基を有するスチレン系モノマー、ビニルピリジン系モノマー、ビニルイミダゾリン系モノマー、及びジアリルジアルキルアミン系モノマーからなる群から選ばれるモノマーに由来する構造を有するものが挙げられる。
【0029】
カチオン性ポリマー(B)の対イオンとしては、ハロゲンイオン、硫酸イオン、アルキル硫酸イオン、リン酸イオン、有機酸イオン等のアニオン性イオンが挙げられる。
【0030】
カチオン性ポリマー(B)の具体例としては、ポリアリルトリメチルアンモニウム塩等のポリアリルトリアルキルアンモニウム塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ポリメタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩、ポリメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、カチオン化でん粉、カチオン化セルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース等であり、これらは4級塩構造を有するモノマーを重合して得ても、対応するポリマーを4級化剤で4級化して得ても良い。これらは、ホモポリマーでなくてもよく、必要に応じて共重合可能なモノマーとの共重合物としても良い。具体的には、ジアリルジメチルアンモニウム塩−SO2共重合体、ジアリルジメチルアンモニウム塩−アクリルアミド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウム塩−アクリル酸−アクリルアミド共重合物、メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩−ビニルピロリドン共重合体、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩−ビニルピロリドン共重合体、等が挙げられる。これらは、未反応モノマー、副生物、異なるカチオン化密度のポリマーを含んでいてもよい。これらは2種以上併用することができる。
【0031】
上記の中でも、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートジエチル硫酸塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ポリメタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩、ポリメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩−ビニルピロリドン共重合体、及びメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩−ビニルピロリドン共重合体から選ばれるカチオン性ポリマーが好ましく、更にこれらの中でも、レオロジー改質効果の観点から、対イオンがアルキル硫酸イオンであるもの、中でもエチル硫酸塩、メチル硫酸塩がより好ましい。
【0032】
カチオン性ポリマー(B)の分子量は、1000以上が好ましく、1000〜300万が更に好ましく、この点で化合物(A)とは区別される。この分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、以下の条件で測定された重量平均分子量である。
カラム:α−M(東ソー製) 2本連結
溶離液:0.15mol/L硫酸Na、1%酢酸水溶液
流速 :1.0mL/min
温度 :40℃
検出器:RI
分子量標準はプルランを使用
【0033】
カチオン性ポリマー(B)は、カチオン化密度が0.5〜10meq/g、更に1〜9meq/g、より更に3〜8meq/gであることが、スラリー調製直後及び経時的な粘弾性維持の点から好ましい。カチオン化密度は、後述の実施例の方法により測定することができる。
【0034】
〔粉末状レオロジー改質剤〕
本発明の注入材用粉末組成物は、炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)と芳香族アニオン基(a2)とを含む4級塩型化合物(A)及びカチオン性ポリマー(B)を含有する粉末状レオロジー改質剤、並びに、無機粉体(C)を含有する。
【0035】
本発明の粉末状レオロジー改質剤中の4級塩型化合物(A)の含有量は粘弾性発現の観点から、好ましくは50〜97重量%、より好ましくは70〜90重量%である。なお、後述のように、粉末状レオロジー改質剤の製造過程で、アニオン性芳香族化合物〔化合物(a2−1)〕を追加添加することができる。その場合は、本発明に用いられる粉末状レオロジー改質剤におけるかかるアニオン性芳香族化合物の含有量は、前記粉末状レオロジー改質剤中、0.5〜40重量%、更に1〜30重量%、より更に2〜10重量%が好ましい。
【0036】
また、本発明に用いられる粉末状レオロジー改質剤中のカチオン性ポリマー(B)の含有量は安定した粘弾性発現の観点から、好ましくは3〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。カチオン性ポリマー(B)を配合して製造した粉末状レオロジー改質剤を用いることにより、粉末物性と耐湿性に優れた注入材用粉末組成物を得ることができる。
【0037】
本発明の粉末状レオロジー改質剤は、該粉末状レオロジー改質剤の耐湿性をより高めるために、シリカ粉末を含有することが好ましい。粉末状レオロジー改質剤にシリカ粉末を混合する場合、シリカ粉末としては、粉砕性、耐湿性、粉末状レオロジー改質剤の溶脱性の観点から、嵩密度が40〜160g/L、更に50〜80g/Lが好ましい。また、BET比表面積が60〜300m2/g、更に170〜240m2/gが好ましい。また、吸油量が100〜300ml/100g、更に240〜280ml/100gが好ましい。シリカ粉末の含有量は、粉末状レオロジー改質剤中、3〜45重量%、更に5〜40重量%、より更に10〜35重量%が好ましい。
【0038】
本発明の粉末状レオロジー改質剤は、4級塩型化合物(A)及びカチオン性ポリマー(B)に、必要に応じて、これら以外の有機化合物を含有することが好ましい。有機化合物として例えば、レオロジー特性の観点から、4級塩型化合物やアニオン性芳香族化合物が挙げられる。具体的には、4級塩型化合物としてヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、オクタデシルトリメチルアンモニウム塩、タロートリメチルアンモニウム塩、水素化タロートリメチルアンモニウム塩等が挙げられ、アニオン性芳香族化合物としてパラトルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、安息香酸塩等が挙げられる。
【0039】
また、本発明の粉末状レオロジー改質剤は、粉末状態を維持でき、且つ性能に支障がなければ他の成分、例えば、分散剤、減水剤、AE剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、遅延剤、早強剤、促進剤、気泡剤、発砲剤、消泡剤、防錆剤、着色剤、防黴剤、ひび割れ低減剤、膨張剤、染料、顔料等を含有していてよい。以下、高性能減水剤及び高性能AE減水剤を高性能(AE)減水剤と表記する。
【0040】
高性能(AE)減水剤として、ナフタレン系〔花王(株)製:マイテイ150〕、メラミン系〔花王(株)製:マイテイ150V−2〕、ポリオキシアルキレン鎖を有するポリカルボン酸系〔NMB製:レオビルドSP、(株)日本触媒製:アクアロックFC600、アクアロックFC900〕、リン酸エステル系重合体(特開2006−52381号公報に記載)が挙げられる。これら高性能(AE)減水剤としては、レオロジー改質剤と共存した時に、コンクリートの粘性および分散性に及ぼす影響が小さいという観点から、ポリカルボン酸系およびリン酸エステル系重合体が望ましい。
【0041】
本発明の粉末状レオロジー改質剤は、前記(i)の方法においてカチオン性ポリマー(B)を混合する工程を含む製造方法により得ることができる。本発明の粉末状レオロジー改質剤は、嵩密度が0.1〜0.8g/cm3、更に、0.3〜0.6g/cm3であることが好ましい。本発明の粉末状レオロジー改質剤は、注入材のプレミックス用(粉末組成物)の粉末成分として好適である。
【0042】
〔無機粉体(C)〕
無機粉体(C)としては、水和反応により硬化する物性を有する水硬性粉体を用いることができる。ここで、水硬性粉体とは、水と反応して硬化する性質をもつ粉体、及び単一物質では硬化性を有しないが、2種以上を組み合わせると水を介して相互作用により水和物を形成し硬化する粉体のことである。水硬性粉体としてセメントや石膏が挙げられ、セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。
【0043】
また、無機粉体(C)として無機フィラーも用いることができ、例えば無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、ベントナイト、クレー(含水珪酸アルミニウムを主成分とする天然鉱物:カオリナイト、ハロサイト等)が挙げられる。無機フィラーは、水硬性粉体と共にを用いることが好ましい。
【0044】
無機粉体(C)は、水硬性粉体、又は、水硬性粉体及び無機フィラーであることが好ましい。
【0045】
これらの無機粉体(C)は、単独の使用でも複数の使用でもよく、複数の使用の場合は、各無機粉体を別々に添加しても混合して添加してもよい。更に、必要に応じてこれらの粉体に骨材として砂や砂利、及びこれらの混合物が添加されてもよい。また、酸化チタン等の上記以外の無機酸化物系粉体のスラリーや土に適用することもできる。セメント以外の水硬性粉体や石灰石微粉末等の非水硬性粉体が、セメントと混合されたシリカフュームセメントや高炉セメントを、無機粉末(C)(セメントと他の無機粉体の混合系)として使用してもよい。
【0046】
〔注入材用粉末組成物〕
本発明の注入材用粉末組成物は、上記4級塩型化合物(A)及びカチオン性ポリマー(B)を含有する粉末状レオロジー改質剤、並びに、無機粉体(C)を含有する。本発明の注入材用粉末組成物において、4級塩型化合物(A)の含有量は0.01〜2重量%、更に0.1〜1重量%が好ましく、カチオン性ポリマー(B)の含有量は0.002〜0.5重量%、更に0.02〜0.2重量%が好ましく、無機粉体(C)の含有量は97〜99.9重量%、更に99〜99.5重量%が好ましい。粉末状レオロジー改質剤は、4級塩型化合物(A)の含有量及びカチオン性ポリマー(B)の含有量が上記範囲となるように用いられるのが好ましい。
【0047】
本発明の注入材用粉末組成物は、土木分野、建築分野などで用いられる注入材を得るためのプレミックス(注入材用プレミックス)として使用できる。
【0048】
本発明の注入材用粉末組成物は、粉末状態を維持でき、且つ性能に支障がなければ他の成分、例えば、分散剤、減水剤、AE剤、高性能(AE)減水剤、遅延剤、早強剤、促進剤、気泡剤、発砲剤、消泡剤、防錆剤、着色剤、防黴剤、ひび割れ低減剤、膨張剤、染料、顔料等を含有していてよい。なかでも高性能(AE)減水剤を含有することが好ましく、その場合、高性能(AE)減水剤は、後述する工程(III)において配合することが好ましい。
【0049】
〔注入材用粉末組成物の製造方法〕
本発明の注入材用粉末組成物の製造方法は、炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)と芳香族アニオン基(a2)とを含む4級塩型化合物(A)、カチオン性ポリマー(B)及び水を含む液状混合物を乾燥して粉末状混合物として粉末状レオロジー改質剤を得る工程、及び前記工程で得られた粉末状レオロジー改質剤に無機粉体(C)を混合する工程を有する。
【0050】
具体的には、下記工程(I)〜(III)を有する、注入材用粉末組成物の製造方法が挙げられる。
【0051】
<工程(I)>
下記一般式(a1−1)で表される化合物と一般式(a2−1)で表される化合物との反応生成物に炭素数2又は3のエポキシ化合物を4級化反応させて得た4級化物に、更に、一般式(a2−1)で表される化合物とカチオン性ポリマー(B)とを混合して液状混合物を得る工程。
【0052】
【化3】

【0053】
〔式中、R1aは炭素数10〜26の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基であり、R2a、R3aは、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基である。〕
【0054】
【化4】

【0055】
〔式中、R4a、R5aは、それぞれ、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、R6aは炭素数1〜4のアルキル基であり、XはSO3M又はCOOM(Mは水素原子又はアルカリ金属原子)である。〕
【0056】
<工程(II)>
工程(I)で得られた液状混合物を、50〜120℃で真空乾燥し、乾燥物を得た後、粉砕して粉末状混合物として粉末状レオロジー改質剤を得る工程。
【0057】
<工程(III)>
工程(II)で得られた粉末状レオロジー改質剤に、無機粉体(C)を乾式混合して注入材用粉末組成物を得る工程。
【0058】
[工程(I)]
工程(I)は、上記一般式(a1−1)で表される化合物〔以下、化合物(a1−1)という〕と一般式(a2−1)で表される化合物〔以下、化合物(a2−1)という〕との反応生成物に炭素数2又は3のエポキシ化合物(以下、エポキシ化合物という)を4級化反応させて得た4級化物に、更に、一般式(a2−1)で表される化合物とカチオン性ポリマー(B)とを混合して混合物を得る工程である。
【0059】
化合物(a1−1)は4級塩型化合物(A)における4級カチオン基(a1)の由来となる化合物であり、具体的には、ドデシルジメチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、ベヘニルジメチルアミン等が挙げられ、好ましくはヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、ベヘニルジメチルアミンであり、更に好ましくはヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミンである。
【0060】
化合物(a2−1)としては、パラトルエンスルホン酸、サリチル酸、安息香酸、メタキシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらのうち、パラトルエンスルホン酸が好ましい。また、これらの化合物は塩の形態であってもよいが、4級塩型化合物(A)における芳香族アニオン基(a2)を構成するものが使用される。
【0061】
これらの反応生成物は、一般には、中和物であり、反応率の観点から、化合物(a1−1)が化合物(a2−1)に対して過剰となるような仕込量で反応させることが好ましい。具体的には、化合物(a2−1)/化合物(a1−1)のモル比が0.5以上1.0未満であることが好ましく、より好ましくは0.75〜0.99、更に好ましくは0.90〜0.98、更により好ましくは0.93〜0.97である。通常は、このモル比で化合物(a1−1)と化合物(a2−1)を常温で混合することで、中和物を含む反応生成物が得られる。
【0062】
かかる反応生成物に4級化反応させる炭素数2又は3のエポキシ化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン等が挙げられる。
【0063】
また、原料化合物である化合物(a1−1)に対するエポキシ化合物のモル比は、4級塩型化合物(A)の製造効率と製造コストの観点から決定することでき、エポキシ化合物/化合物(a1−1)で、好ましくは1.0〜3.0、より好ましくは1.05〜2.0、更に好ましくは1.2〜1.5である。この範囲であれば、4級塩型化合物(A)が効率よく生成し、製造コストの点でも望ましいものとなる。
【0064】
エポキシ化合物の4級化反応は、反応生成物(中和物)にエポキシ化合物を付加させる工程である。エポキシ化合物の付加反応は、公知の方法に準じて行うことができるが、例えば、反応温度は好ましくは30〜150℃、更に好ましくは50〜120℃、反応時間は好ましくは0.05〜20時間、更に好ましくは0.1〜10時間とすることができる。エポキシ化合物の付加反応の終結は、前記のように化合物(a1−1)が過剰な条件であれば、当該化合物(a1−1)の残存量を定量することにより確認できる。化合物(a1−1)の定量法としては、試料に中和に必要な量以上のNaOHを加えた後に滴定用HCl水溶液を使用して電位差滴定を行う方法を用いることが出来る。
【0065】
本発明では、反応生成物にエポキシ化合物を4級化反応させて得た4級化物〔4級塩型化合物(A)〕に、更に、化合物(a2−1)を混合する。その際、最初に仕込んだ化合物(a1−1)に対する化合物(a2−1)の合計のモル比が1.05以上となるように、前記4級化物に、更に化合物(a2−1)を添加することが、幅広い温度領域で安定してレオロジー改質効果が発現する粉末状レオロジー改質剤が得られることから、好ましい。すなわち、化合物(a1−1)と化合物(a2−1)との反応生成物を得るために用いた化合物(a1−1)を基準にして、この反応生成物を得るために用いた化合物(a2−1)と更に追加する化合物(a2−1)との合計モル比が1.05以上となるように、前記4級化物を含む反応系に、更に化合物(a2−1)を添加する。化合物(a1−1)に対してモル比1.0を超える化合物(a2−1)は、酸のまま又は中和塩の形態として存在できる。
【0066】
また、工程(I)では、4級化物に更に化合物(a2−1)を添加、混合するとともに、カチオン性ポリマー(B)を添加、混合する。その量は、最終的な注入材用粉末組成物を考慮して決定されるが、粉末組成物の粉砕性、注入材としての粘度発現性の観点から、4級化物〔4級塩型化合物(A)〕の重量に対して10重量%以上であることが好ましい。
【0067】
[工程(II)]
工程(II)では、工程(I)で得られた混合物を、例えば、50〜120℃で真空乾燥し、乾燥物を得た後、粉砕して、粉末状混合物を得る。このような真空乾燥は、ベヌレート乾燥機、熱風乾燥機、コニカルドライヤー等により行うことができる。乾燥物は、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー等の直圧式、ロールクラッシャー(歯付きロール、平滑ロール)等のロール式、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー等の衝撃式の粉砕機等により粉砕して粉末状混合物(粉末状レオロジー改質剤)を得る。粉砕は、目開き250μmの篩いの通過率が65%以上、更に70%以上となるまで行うことが好ましい。
【0068】
前記の通り、粉末状混合物として得られる粉末状レオロジー改質剤にシリカ粉末に配合することは、該粉末状レオロジー改質剤の耐湿性をより高めるために好ましい。その場合、工程(II)において、工程(I)で得られた混合物に更にシリカ粉末を混合して乾燥、粉砕を行うことが好ましく、工程(III)でシリカ粉体以外の無機粉体を混合する。シリカ粉末を工程(II)で配合する場合、粉末状レオロジー改質剤中3〜45重量%、更に5〜40重量%、より更に10〜35重量%となる量を工程(II)で混合することが好ましい。
【0069】
[工程(III)]
工程(III)では、工程(II)で得られた粉末状レオロジー改質剤に、無機粉体(C)を乾式混合して、注入材用粉末組成物を得る。粉末状レオロジー改質剤と無機粉体(C)の乾式混合には、回転式の混合装置を用いることが好ましく、粉体を入れた容器そのものを動かすタイプ、あるは容器は固定したまま内部で攪拌羽根を動かすタイプのものが使用される。例えば、スーパーミキサー、重力式回転ミキサーにより行うことができる。
【0070】
上記工程(I)〜(III)を含む製造方法は、本発明の注入材用粉末組成物の製造に好適である。
【0071】
本発明によれば、上記工程(I)〜(III)を含む製造方法により得られた注入材用粉末組成物が提供され、具体的には、化合物(a1−1)と化合物(a2−1)との反応生成物に炭素数2又は3のエポキシ化合物を4級化反応させて得た4級化物に、更に、化合物(a2−1)とカチオン性ポリマー(B)とを混合して混合物を得る工程(I)、工程(I)で得られた混合物を、50〜120℃で真空乾燥し、乾燥物を得た後、粉砕して粉末状混合物として粉末状レオロジー改質剤を得る工程(II)により得られた粉末状レオロジー改質剤、並びに、無機粉体(C)を含有する注入材用粉末組成物を提供する。工程(I)、(II)は上記に準じて行われる。
【0072】
〔注入材〕
本発明は、上記本発明の注入材用粉末組成物と水とを含有する注入材に関する。水の量は、注入材の用途に応じて適宜選定できる。本発明の注入材の用途としては、補修もしくは補強工法、地盤改良工法、及び水中施工が挙げられる。
【0073】
以下、具体例を挙げると、海岸の防波堤の土台部分の土砂の流失による陸部の陥没の補修のための注入、水中における橋の主塔基礎、橋脚、橋梁、橋台の補修、河川・貯水池の補修工事、水封トンネルの補修工事への注入補修、更正管(既設の汚水配管、ガス配管、電線配管等の内側に使用する管)を用いた既設管の補修、トンネルと地山との間に生じた空隙の補修(裏込め注入)、立杭の根固め部分に生じた空隙の補修、地中連続壁にアンラップが生じた場合の補修、コンクリート構造物に生じたひび割れ、クラック、毛細孔等の補修、また、コンクリート二次製品の補修にも使用できる。
【0074】
又、地盤改良に関しては、水底地盤改良用注入材等のジェットグラウト工法用の注入材、既製コンクリート杭の埋め込み工法、場所打ち杭工法及びモルタル柱列工法等に使用される注入材、地盤の凍結工法に用いられる注入材、埋め戻し工法用注入材、止水工事用注入材等、本発明の注入材は、水中不分離性に優れるので、湧水地や、海や湖の埋立地、水源地等の水質汚染が問題になる場所、等の地盤注入工事に有用である。土木分野に使用する場合は、地盤の崩落防止や掘削後の地山や岩盤を安定にする水硬性組成物として使用できる。
【0075】
工事対象として、鉄道、道路、空港などの交通インフラにおけるコンクリート構造物の補修工事に使用される場合、本剤の早硬性によって交通の遮断から開放までの時間を短くすることが可能となるため有効である。
【0076】
その他、建築物の床下地や基礎の天端部分を水平に調整するために用いられるセルフレベリング材としても使用できる。
【0077】
なお、本発明により、炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)と芳香族アニオン基(a2)とを含む4級塩型化合物(A)及びカチオン性ポリマー(B)を含有する粉末状レオロジー改質剤が提供される。
【0078】
また、本発明により、炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)と芳香族アニオン基(a2)とを含む4級塩型化合物(A)、カチオン性ポリマー(B)、及び水を含む液状混合物を乾燥して粉末状混合物として粉末状レオロジー改質剤を得る工程を有する、注入材用粉末状レオロジー改質剤の製造方法が提供され、具体的には、下記工程(I)〜(II)を有する注入材用粉末状レオロジー改質剤の製造方法が提供され、下記工程(I)〜(II)を含む製造方法により製造された注入材用粉末状レオロジー改質剤が提供される。
<工程(I)>
化合物(a1−1)と化合物(a2−1)で表される化合物との反応生成物に炭素数2又は3のエポキシ化合物を4級化反応させて得た4級化物に、更に、化合物(a2−1)とカチオン性ポリマー(B)とを混合して液状混合物を得る工程。
<工程(II)>
工程(I)で得られた液状混合物を、50〜120℃で真空乾燥し、乾燥物を得た後、粉砕して粉末状混合物として粉末状レオロジー改質剤を得る工程。
【実施例】
【0079】
実施例1
(1)工程(I)
反応槽にヘキサデシルジメチルアミン39.1kg、オクタデシルジメチルアミン100.4kgを仕込み、65℃に昇温した。イオン交換水487.2kg、p−トルエンスルホン酸の70%水溶液122.7kgを仕込み、攪拌した後、更にイオン交換水27kgを仕込み、1時間攪拌し均一化させた。得られた混合水溶液の全量を65℃まで昇温し、攪拌後、系内を窒素置換した。エチレンオキサイド27.4kgを仕込み、3時間、65℃で反応させた。その後、反応器内の残圧を系外にブローし、65℃で200torr(26.7kPa)、30分間の脱気を行った。さらに、p−トルエンスルホン酸の70%水溶液32.3kgを仕込み、48%NaOH水溶液8.0kgで中和し、さらにカチオン性ポリマー〔ポリジメチルアミノエチルメタクリレートジエチル硫酸塩(重量平均分子量12万)の35%水溶液〕155.4kg、消泡剤0.5kg(FSアンチフォームQ1−1183:東レ・ダウコーニング社製)を仕込み均一化させ、目的とするジメチルヒドロキシエチルアルキル(C16、C18)アンモニウムp−トルエンスルホネート混合水溶液(液状混合物)約1tを得た。混合水溶液の分析値は、pH7.2、水分66.8%、原料アミン反応率99%であった。
【0080】
(2)工程(II)
槽内温度90℃に設定した横型円筒ジャケット式真空乾燥機(高砂化工機株式会社製、容量:3.136m、直径1.1m×長さ3.5m、動力11kw、粉砕棒サイズ:φ35×3.38m)に、工程(I)で得られた液状混合物1トンを投入した。攪拌速度6.4rpm、減圧度0.070MPa、乾燥時間12時間の条件で乾燥させた後、乾燥物が室温になるまで6時間冷却した。乾燥物の水分量を計測し、水分量が1重量%以下になった乾燥物を粉砕機(ミル)で粉砕した。得られた粉体を目開き1mmの篩いを通したものを粉末状混合物(粉末状レオロジー改質剤)とした。該粉末状混合物中、4級塩型化合物(A)の含有量は81重量%、カチオン性ポリマー(B)の含有量は17重量%であった。
【0081】
(3)工程(III)
工程(II)で得られた粉末状混合物0.065kgと、早強セメント(密度3.14g/cm3、市販品)10kg、7号硅砂(密度2.60g/cm3)11kg、マイテイ21P(花王製:ポリエーテル系分散剤粉末品)0.03kgを、300Lスーパーミキサー(オリンピア化工機製)に仕込み、200rpmで攪拌しながら、10分間混合した。混合後、3mmメッシュの振動篩い機に通過させ、注入材用粉末組成物を得た。
【0082】
実施例2
実施例1の工程(II)において、工程(I)で得られた液状混合物に対して130kg(13重量%)の非晶質シリカ(東ソー・シリカ株式会社製、真比重1.95〜2.15、屈折率1.45〜1.47)を添加した。その他は、実施例1と同様に注入材用粉末組成物を製造した。
【0083】
比較例1
実施例1の工程(I)において、カチオン性ポリマーを配合せず、その他は、実施例1と同様に注入材用粉末組成物を製造した。
【0084】
比較例2
実施例1の工程(III)のみを、粉末状混合物を配合せずに行い、注入材用粉末組成物を調製した。
【0085】
〔注入材用粉末組成物の評価〕
注入材用粉末組成物の製造に用いた粉末状混合物について、以下の評価を行った。これらの結果は、無機粉体を配合した最終的な注入材用粉末組成物の物性と正の相関があり、これらの結果から注入材用粉末組成物の物性を判断できる。結果を表1に示す。
【0086】
(1)耐湿性
工程(II)で得られた水分量1重量%以下で、且つ、目開き250μmを通過した粉末状混合物4gを、アルミホイル上に表面積6.9cm2となるように広げ、1Lの塩化アンモニウム飽和水溶液を入れたデシケーター中に静置した(20℃、湿度79.2%)。デシケーター静置後、25時間後の水分増加量(重量%)を測定し、耐湿性の評価とした。水分増加量が少ない程、耐湿性が良好なことを示す。なお、水分量の測定は、赤外線水分計(ケット株式会社製)を使用した。
【0087】
(2)粒度試験
卓上篩い振とう器(アズワン株式会社製:MVS−1)に、工程(II)で得られた粉末状混合物20gを投入し、5分間振とう(目盛り5)させた後、目開き250μmの篩いを通過した粒子の通過率(重量%)を測定した。この数値が大きいほど良好な粉末である。
【0088】
(3)ケーキング試験
工程(II)で得られた粉末状混合物を縦7cm、横6cmのポリエチレン製袋に詰め、荷重0.18kg/cm2で、温度20℃、湿度60%RHの条件で1ヶ月間保存した後のケーキングの発生状況を観察し、以下の基準で判定した。
A:ケーキングの発生が認められない。
B:ケーキングの発生が認められるが、指でつぶして容易に粉末に戻る。
C:指でつぶれないケーキングの発生が認められる。
【0089】
〔注入材としての評価〕
実施例1、2で製造した注入材2kg計り取り、水を0.6g加え、モルタルミキサーで63rpm、60秒間練混ぜ注入材としてモルタルを調製し、以下の評価を行なった。結果を表1に示す。なお、参考のため、粉末状混合物(粉末状レオロジー改質剤)を含まない比較例2についても注入材の評価を行った。
【0090】
(1)水中不分離性試験
300mLの水を入れた500mLのビーカーに、水面のすぐ上からモルタル10mLを入れ、その際の水の濁り具合を観察した。水の濁りが全く観察されない場合をA、濁りが観察される場合をBとして、水中不分離性を評価した。水の濁りが発生しないものは水中不分離性が良好であることを示す。
【0091】
(2)ブリーディング試験
モルタルを500mLディスポカップに入れ、上面を食品包装用ラップ(サランラップ、登録商標、旭化成ライフ&リビング株式会社)で封印し、水の蒸発を抑え、室温で静置し、硬化するまでに発生するブリーディング水量を測定した。ブリーディング水量1mL以下の場合をA、ブリーディング水量1mL超〜50mL未満の場合をB、ブリーディング水量50mL超の場合をCとして評価した。ブリーディング水量が少ない方が材料分離抵抗性に優れる。
【0092】
【表1】

【0093】
実施例1及び実施例2のカチオン性ポリマーを含有する粉末状混合物は、固い乾燥物が得られるために、粉砕性が向上し、粒度試験における通過率は80重量%以上であり、耐湿性も良くなる。一方、カチオン性ポリマーを含まない比較例1の粉末状混合物は、粒度試験における通過率が低く、また、ケーキング性、耐湿性とも、実施例に大きく及ばない。実施例1及び実施例2の注入材は、水中不分離性やブリーディング抑制に優れた性能を有する。参考として行った粉末状混合物(粉末状レオロジー改質剤)を含まない比較例2は、材料分離が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)と芳香族アニオン基(a2)とを含む4級塩型化合物(A)及びカチオン性ポリマー(B)を含有する粉末状レオロジー改質剤、並びに、無機粉体(C)を含有する、注入材用粉末組成物。
【請求項2】
4級塩型化合物(A)が炭素数2又は3のヒドロキシアルキル基を少なくとも1つ有する請求項1記載の注入材用粉末組成物。
【請求項3】
更に、高性能減水剤及び高性能AE減水剤から選ばれる1種以上を含有する請求項1又は2記載の注入材用粉末組成物。
【請求項4】
無機粉体が、水硬性粉体、又は、水硬性粉体及び無機フィラーである請求項1〜3の何れか1項記載の注入材用粉末組成物。
【請求項5】
補修もしくは補強工法、地盤改良工法、及び水中施工の何れかに使用される注入材用である請求項1〜4の何れか1項記載の注入材用粉末組成物。
【請求項6】
炭素数10〜26の炭化水素基を少なくとも1つ有する4級カチオン基(a1)と芳香族アニオン基(a2)とを含む4級塩型化合物(A)、カチオン性ポリマー(B)及び水を含む液状混合物を乾燥して粉末状混合物として粉末状レオロジー改質剤を得る工程、及び前記工程で得られた粉末状レオロジー改質剤に無機粉体(C)を混合する工程を有する、注入材用粉末組成物の製造方法。
【請求項7】
前記粉末状レオロジー改質剤に、更にシリカ粉末を混合する工程を有する、請求項6記載の注入材用粉末組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか1項記載の注入材用粉末組成物と水とを含有する注入材。

【公開番号】特開2010−90200(P2010−90200A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258956(P2008−258956)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】