説明

注射剤の安定化法

【課題】 光に不安定な5−HTアンタゴニスト、特に(±)−6−クロロ−3,4−ジヒドロ−4−メチル−3−オキソ−N−3−キヌクリジニル−2H−1,4−ベンゾオキサジン−8−カルボキサミド又はその誘導体若しくはその塩に関する光に安定な製剤の設計
【解決手段】 5−HTアンタゴニストと共にアミド基を有する添加剤を添加することにより光に対して安定化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は5−HTアンタゴニスト、特に(±)−6−クロロ−3,4−ジヒドロ−4−メチル−3−オキソ−N−3−キヌクリジニル−2H−1,4−ベンゾオキサジン−8−カルボキサミド又はその誘導体若しくはその塩(以降、特に塩酸塩を「本化合物」ということもある)に対する安定化された製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の死亡原因の上位は悪性腫瘍が占めている。この悪性腫瘍の悪化を抑え、更には治癒するために抗悪性腫瘍剤が汎用される。しかし、この抗悪性腫瘍剤は非常に副作用が多く、この副作用としては悪心、嘔吐が頻発し、悪性腫瘍の治療によって患者は非常に苦痛を強いられている。これらを改善するために、通常、抗悪性腫瘍剤は制吐剤と併用される。制吐剤の併用により、副作用が抑えられて患者のQOLを向上させることが可能となっている。この制吐剤としては5−HTアンタゴニストが使用されている。この5−HTアンタゴニストとして本化合物が利用されている。本化合物は錠剤等の経口剤もしくは注射剤等として利用されている。
【0003】
しかし、本化合物は水分が存在し、特に光を遮断しない条件下に保管すると、経時的に変化することが知られている。
【0004】
通常、光に対して不安定な場合、特に液剤製剤の場合は、遮光性を向上させることにより改善されることが知られている。しかし、液剤製剤、特に注射剤の場合は、投与時の異物の確認等を実施する上で、異物の視認性をも妨げるほど遮光性に富んだ容器に封入することは問題がある。
【0005】
そこで、上記の問題を改善するために、亜硫酸塩、システイン、チオグリコール酸塩、エチレンジアミン等を添加した製剤が知られている(特許文献1)。しかし、これらの添加剤を用いても、定量値の低下の抑制等が不完全であることから、改善の余地が残されていた。
【特許文献1】国際公開第94/25032号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、本製剤を含有した製剤は光に対して完全に安定性が確保されていない。従って、我々は本化合物を含有した製剤、特に液剤製剤について、光に対してより安定な製剤を得ることを本発明の目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは鋭意検討をした結果、本化合物にアミド基を有する化合物を添加することにより、光に対して定量値が低下せずに、今まで以上に安定な製剤を得ることができた。
【0008】
即ち、本発明は以下の内容をその趣旨とするものである。
(1)光に弱い5−HTアンタゴニストにアミド基を有する添加剤を含有した製剤
(2)光に弱い5−HTアンタゴニストが(±)−6−クロロ−3,4−ジヒドロ−4−メチル−3−オキソ−N−3−キヌクリジニル−2H−1,4−ベンゾオキサジン−8−カルボキサミド又はその誘導体若しくはその塩である(1)の製剤
(3)請求項2の化合物が塩酸塩である(1)ないし(2)の製剤
(4)アミド基を有する添加剤がクレアチニン、ニコチン酸アミド、イソニコチン酸アミド、尿素、ジメチルアセトアミドのうち、1種類若しくは2種類以上含有した(1)ないし(3)の製剤
(5)アミド基を有する添加剤がクレアチニンである(1)ないし(4)の製剤
(6)製剤が注射剤である(1)ないし(5)の製剤
【0009】
本発明は本化合物等にアミド基を有する化合物を添加することにより、光に対する安定性の向上、特に定量値の低下を抑えることが目的であり、更には定量値の低下を抑えつつ、経時的に着色を抑えることも可能である。このような結果、医療現場で使用する際に今まで以上に利便性の良い製剤設計になっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は光に弱い5−HTアンタゴニスト、特に(±)−6−クロロ−3,4−ジヒドロ−4−メチル−3−オキソ−N−3−キヌクリジニル−2H−1,4−ベンゾオキサジン−8−カルボキサミド又はその誘導体若しくはその塩にアミド基を有する化合物を含有することにより、光に対して経時的に安定な状態を保つことができ、特に定量値の低下防止、更には着色防止効果に優れている製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を利用して安定化を図る医薬品有効成分は光に弱い5−HTアンタゴニストであり、特に(±)−6−クロロ−3,4−ジヒドロ−4−メチル−3−オキソ−N−3−キヌクリジニル−2H−1,4−ベンゾオキサジン−8−カルボキサミド又はその誘導体若しくはその塩である。これらの薬物の量は特に限定されないが、本化合物を使用した液剤製剤の場合、0.001〜100mg/mL、好ましくは0.01〜50mg/mLであり、更に好ましくは0.1〜10mg/mLである。
【0012】
本発明に利用できるアミド基を有する化合物としては、分子内にアミドが存在すれば特段、どのような構造でも問題ない。また、他の物質と縮合して生じた、若しくは分子内で縮合した結果生じたアミドでも特段問題ない。好ましいアミド基を有する化合物としては、クレアチニン、ニコチン酸アミド、イソニコチン酸アミド、尿素、ジメチルアセトアミド、グルタミン酸、アスパルテーム、アセチルトリプトファン、アセトアニリドアゾジカルボンアミド、アラントイン、イノシン酸、カルバコール、核酸、グルタミン、ポビドン、クロスポビドン、ゲンチジン酸、サッカリン、パントテン酸、ヒドロキシエチルラクトアミド、フェナセチン、フェンプロバメート、リドカイン、リボフラビン、ペプチド、蛋白質が使用でき、更に好ましくは、クレアチニン、ニコチン酸アミド、イソニコチン酸アミド、尿素、ジメチルアセトアミドが使用でき、最も好ましくは、クレアチニンである。
【0013】
アミド基を有する化合物の使用量は特に制限はないが、本化合物1重量部に対して0.001〜1000部、好ましくは0.01〜100部、更に好ましくは0.1〜10部であり、特に好ましくは1〜10部である。
【0014】
本発明の剤形としては特に限定されない。効果を発する剤形としては液剤製剤であり、完全に溶解された液でも良いが、懸濁液でも差し支えない。
【0015】
このように安定化された液剤製剤には本発明の効果を損なわない程度に他の添加剤を含有することができ、例えば、安定化剤、界面活性剤、可溶化剤、緩衝剤、甘味剤、懸濁化剤、抗酸化剤、着色剤、等張化剤、pH調整剤、乳化剤、賦形剤、保存剤、無痛化剤、溶剤を添加することが出来る。このうち、等張化剤としては塩化ナトリウム等の電解質、アミノ酸、糖類、ポリオール類を含有することができ、また、pH調整剤としては塩酸、水酸化ナトリウム、アンモニア、炭酸、クエン酸、酢酸、乳酸、リン酸、若しくはこれらの塩等を使用することができる。pH調整剤の使用量としては特段限定はされないが、好ましくはpHが約3〜6程度になるように添加すれば良い。
【0016】
このように製造した溶液は無菌を確保できる状態であれば、どのような容器に充填しても特段問題ない。無菌状態を保つために、製造した溶液を濾過滅菌することにより無菌化することができる。滅菌した容器にこれらの無菌溶液を充填することにより、無菌状態を保つことが可能である。無菌状態を確保した状態の溶液を更に滅菌することも可能である。
【0017】
容器の材質は本発明の効果を損なわない程度であれば、どのような材質でも特段問題ない。容器として、アンプル、バイアル、シリンジを使用する場合は、材質としてはガラス、ポリエチレン等が使用できる。バイアルの場合は栓の材質としてゴムも使用可能である。また、シリコン塗布等についても発明の効果を損なわなければ、使用については特段問題ない。また、プラボトル等の使用も可能である。この場合は本発明の効果を損なわなければ、どのような材質を使用しても特段問題ないが、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等を使用できる。また、容器の空間には窒素などのような不活性ガスを添加することも可能である。
【0018】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0019】
実施例1
(±)−6−クロロ−3,4−ジヒドロ−4−メチル−3−オキソ−N−3−キヌクリジニル−2H−1,4−ベンゾオキサジン−8−カルボキサミドの塩酸塩10g、クレアチニン35g及び塩化ナトリウム18gを注射用水に溶解させ、溶解後、全量を2,000mLに調整した。得られた溶液を無菌濾過をし、透明アンプルに2mLずつ充填した。熔封後、121℃、20分間滅菌を実施した。
【0020】
比較例1
実施例1のクレアチニン35gをピロ亜硫酸ナトリウム0.5gとした以外は実施例1と同様の方法で製造した。
【0021】
比較例2
実施例1のクレアチニン35gをL−システイン4gとした以外は実施例1と同様の方法で製造した。
【0022】
比較例3
実施例1のクレアチニン35gをエチレンジアミン10gとした以外は請求項1と同様の方法で製造した。
【0023】
比較例4
実施例1のクレアチニン35gを添加しなかった以外は請求項1と同様の方法で製造した。
【0024】
実験例1
上記実施例1及び比較例1から4の透明アンプル入り注射剤を用いて積算光量が5、000luxになるように照射後、色調変化について確認した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0025】
上記のように、実施例1と比較例1については、光照射前とは顕著に色調の変化が現れなかった。
【0026】
実験例2
上記実施例1及び比較例1の透明アンプル入り注射剤を用いて積算光量が5、000luxになるように照射後、本化合物1の定量値を測定した。試験開始時と比較して、本化合物1の残存率を表2に示す。
【表2】

【0027】
上記のように、比較例1は光照射によって定量値が低下したのに対し、実施例1は顕著な定量値の低下を認めなかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は光に対して不安定な薬物である本化合物をはじめとする5−HTアンタゴニストについて、光に対し安定な製剤を得ることが出来る。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
光に弱い5−HTアンタゴニストにアミド基を有する添加剤を含有した製剤
【請求項2】
光に弱い5−HTアンタゴニストが(±)−6−クロロ−3,4−ジヒドロ−4−メチル−3−オキソ−N−3−キヌクリジニル−2H−1,4−ベンゾオキサジン−8−カルボキサミド又はその誘導体若しくはその塩である請求項1の製剤
【請求項3】
請求項2の化合物が塩酸塩である請求項1ないし2の製剤
【請求項4】
アミド基を有する添加剤がクレアチニン、ニコチン酸アミド、イソニコチン酸アミド、尿素、ジメチルアセトアミドのうち、1種類若しくは2種類以上含有した請求項1ないし3の製剤
【請求項5】
アミド基を有する添加剤がクレアチニンである請求項1ないし4の製剤
【請求項6】
製剤が注射剤である請求項1ないし5の製剤


【公開番号】特開2008−297277(P2008−297277A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147178(P2007−147178)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】