説明

注射投与のための医薬組成物

一般式I(A及びA’は互いに独立して、NH基又は炭素数1〜18のアミノ基若しくはジアミノ基であり、B及びB’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくはヒドロキシ基であるか、又は−O−C(O)−R基若しくは−O−C(O)−R’基(ここで、R及びR’は互いに独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアミノ基、若しくはアルコシキ基、又はこれらの基の機能的誘導体である)であり、X及びX’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくは炭素数1〜20のモノカルボン酸基であるか、又はX及びX’は共に、炭素数2〜20のジカルボン酸基を形成する)の白金錯体と、少なくとも1つのシクロデキストリン及び/又はシクロデキストリン誘導体と、任意の少なくとも1種の薬学的に許容可能な賦形剤との混合物からなる、注射用医薬組成物。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に難溶性である四価の白金錯体を活性物質として含み、かつ当該錯体の全身投与及び局所投与のいずれをも可能にする、注射投与用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
白金錯体は幅広い抗癌作用を持つ有効物質として一般に知られており、そのため、多くの腫瘍病変の治療に用いられている。現在、特にシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンなどの、二価の白金錯体のみが治療に用いられている。いくつかの四価の白金錯体は二価の白金錯体と比較して同様の、あるいはより大きい、抗癌作用を持ち、さらには毒性が少ないことが知られている。このような四価の白金錯体は新規な化合物として、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に開示されている。
【0003】
しかし、四価の白金の錯体は一般に水への溶解性が非常に悪く、そのことが液状、特に注射用の、薬剤を製造する際に大きな問題となっている。シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンの水への溶解度がそれぞれ0.3mg/ml、17mg/ml、8mg/mlであるのに対し、四価の白金錯体LA−12の水への溶解度は0.03mg/mlでしかない。特許文献3には、特定の四価の白金錯体の薬剤をシクロデキストリン包接錯体の形で製造することで水への溶解性を高める方法が記載されている。この文献によると、これらの包接錯体は、有機溶媒中でシクロデキストリンと四値の白金錯体を反応させ、その後凍結乾燥することによって得られ、経口投与に用いられる。しかし、この方法には、使用するシクロデキストリンの量のために、経口投与薬剤にしたときに含まれる四価の白金錯体の量が著しく限定されてしまうという難点がある。そのため、経口投与薬剤の量は相対的に多くなり、飲みづらく、多用量の四値の白金錯体を一度に経口で投与することは不可能である。この問題は、比較的水に可溶性な四価の白金錯体のシクロデキストリン包接錯体を注射の形で使用することで解決できる。しかし、これには有機溶媒の存在が必要とされてきたために、複雑で高価な四価の白金錯体のシクロデキストリン包接錯体の製造を、かなり困難にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第0328274号
【特許文献2】欧州特許第0423707号
【特許文献3】国際特許出願第PCT/CZ99/00015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、本発明の目的は、四価の白金錯体のシクロデキストリン包接錯体をより容易に製造する方法を発見し、そうして製造された包接錯体を含み、注射の形で使用できる薬剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、特定の四価の白金錯体とシクロデキストリンの包接錯体は水性溶媒中で単独で容易に製造できることがわかっており、このことは、包接錯体の製造のみならず注射可能な医薬組成物の調製までもがかなり単純化できることを意味する。
【0007】
本発明は、一般式Iの白金錯体の混合物であり、一般式I:
【化1】

(式中、
A及びA’は互いに独立して、NH基又は炭素数1〜18のアミノ基若しくはジアミノ基であり、
B及びB’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくはヒドロキシ基であるか、又は−O−C(O)−R基若しくは−O−C(O)−R’基(ここで、R及びR’は互いに独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアミノ基、若しくはアルコシキ基、又はこれらの基の機能的誘導体である)であり、
X及びX’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくは炭素数1〜20のモノカルボン酸基であるか、又は、X及びX’は共に、炭素数2〜20のジカルボン酸基を形成する)
及び、少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体、及び、任意に少なくとも一以上の薬剤的に許容可能な賦形剤、からなる注射投与用の医療組成物に関する。
【0008】
本発明の医薬組成物は、有利には水溶液として、少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体に水性溶媒を加え、その後、得られた一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体と水性溶媒の水溶液に一般式Iの白金錯体を加えるか、あるいは一般式Iの白金錯体と少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又はシクロデキストリン誘導体との混合物に水性溶媒を加えるか、あるいは水性溶媒中の一般式Iの白金誘導体の懸濁液に少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体を加えることによって得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の医薬組成物は、有利には、上述の水溶液を凍結乾燥あるいはスプレー乾燥した凍結乾燥体あるいはスプレー乾燥体として存在する。
【0010】
本発明の医薬組成物は、有利には、上述の凍結乾燥体あるいはスプレー乾燥体と水性溶媒との水溶液として存在する。
【0011】
本発明の医薬組成物は、有利には、少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体と一般式Iの白金錯体とを、重量比で0、1:1から1:10、好ましくは1:1から1:8の比率で含む。
【0012】
好ましくは、水性溶媒は注射用の水、あるいは水性で無発熱性かつ無菌の等張酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩の緩衝液で、phが4から8、好ましくは4のものである。
【0013】
本発明の範囲内において、「水性溶媒」という用語は、注射用の水、あるいは賦形剤が入っている溶液で、静注可能として薬局方に記載されているものを意味する。本発明の医薬組成物に好ましい水性溶媒は、水あるいは、クエン酸塩あるいは酢酸塩の緩衝液などの、pHが4から8の緩衝液である。
【0014】
そのため、本発明による注射投与用の医薬組成物は以下の形態をとる。
a)少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体と任意に少なくとも一以上の薬剤的に許容可能な賦形剤とを含み、水性溶媒を加えることで投与可能な、乾燥注射剤、
b)乾燥注射剤a)に水性溶媒を加えるか、少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体に水性溶媒を加え、その後、得られた一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体の水性溶媒の水溶液に一般式Iの白金錯体を加えるか、あるいは水性溶媒中の一般式Iの白金誘導体の懸濁物に少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体を加えることによって得られる、投与可能な水性注射剤、
c)水性注射剤b)を凍結乾燥あるいはスプレー乾燥して得られる、水性溶媒を加えることで投与可能な、乾燥注射剤、
d)乾燥注射剤c)に水性溶媒を加えることで得られる、投与可能な水性注射剤。
【0015】
この医薬組成物に薬剤的に許容可能な賦形剤を加える場合で、その賦形剤が乾燥注射剤a)の中には入っていない場合、b)からd)のうち任意のものを製造する段階において加えることができる。
【0016】
このような薬剤的に許容可能な賦形剤として、注射投与薬剤に通常使用されるようなものが使用可能であり、例えば、塩化ナトリウムなどの等張化(isotonizing)添加物や、安息香酸誘導体(メチル−及びプロピルパラベン)などの一般的な抗菌性添加物が使用可能である。
【0017】
シクロデキストリン及びその誘導体として、好ましくは、アルファ−、ベータ−及びガンマ−シクロデキストリン、及びこれらのアルキル化誘導体、特にヒドロキシプロピル−ベータ−デキストリン及びヒドロキシプロピル−メチル−ベータ−デキストリンが使用可能である。包接錯体において、四価の白金錯体は部分的又は全体的な錯体として固定されており、実質的には無限に水に可溶である。そのため、包接錯体の溶液を製造し、膜ろ過で滅菌し、凍結乾燥又はスプレー乾燥することも、あるいは単に無菌状態で一般式Iの白金錯体とシクロデキストリン及び/又はその誘導体を混合しておいて、液状注射剤の製造の際にのみ「in situ」で包接錯体を製造することも可能である。この注射投与用の医薬組成物は、点滴により投与するのが望ましい。個々の状況において、この医薬組成物を投与する濃度及び量は、担当する医師により決定される。
【0018】
以下に、実施の具体例を用いて本発明を詳細に説明するが、これらはあくまで実例としての性質しか持たず、特許請求の範囲によって明確に定義された本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0019】
以下の実施例において、一般式Iの白金錯体の特定の代表として、コード名がLA−12であり、構造式II:
【化2】

の(OC−6−43)−ビス(アセタート)−(1−アダマンチルアミン)−アンミン−ジクロロ白金(IV)錯体を用いる。
【0020】
実施例において、この白金錯体はコード名で表示する。
【実施例1】
【0021】
白金錯体LA−12の乾燥注射剤の製造
白金錯体LA−12(1重量部)を無菌状態で高純度のベータ−シクロデキストリン(HP−ベータ−シクロデキストリン;3重量部)と混合した。得られた混合物を無菌状態でAクラス純度のラミナーフローボックス中のパイロジェン除去した滅菌バイアルに封入した。
【実施例2】
【0022】
白金錯体LA−12の凍結乾燥注射剤の製造
HP−ベータ−シクロデキストリン(3重量部)を40重量部の注射用の水に溶解し、その後すぐ、均一に攪拌しながら白金錯体LA−12(1質量部)をこの溶液に徐々に加えた。攪拌は形成した包接錯体が完全に溶解するまで続けた。その後、溶液を膜ろ過(膜孔径0.22μm)で滅菌し、バイアルに封入して凍結乾燥した。
【実施例3】
【0023】
白金錯体LA−12の乾燥注射剤の製造
HP−ベータ−シクロデキストリン(3重量部)を40重量部の注射用水に溶解し、その後すぐ、均一に攪拌しながら白金錯体LA−12(1質量部)をこの溶液に徐々に加えた。攪拌は形成した包接錯体が完全に溶解するまで続けた。その後、溶液を膜ろ過(膜孔径0.22μm)で滅菌し、無菌状態でスプレー乾燥した。得られた粉末は無菌状態でAクラス純度のラミナーフローボックス中のパイロジェン除去した滅菌バイアルに封入した。
【実施例4】
【0024】
白金錯体LA−12の凍結乾燥注射剤の製造
白金錯体LA−12(1重量部)を注射用の水(40重量部)に懸濁し、その後すぐ、均一に攪拌しながらHP−ベータ−シクロデキストリン(3重量部)をこの懸濁液に徐々に加え、形成した包接錯体が完全に溶解するまで攪拌を続けた。その後、得られた溶液を膜ろ過(膜孔径0.22μm)で滅菌し、その後すぐ、滅菌溶液をバイアルに封入して凍結乾燥した。
【実施例5】
【0025】
白金錯体LA−12の乾燥注射剤の製造
白金錯体LA−12(1重量部)を注射用の水(40重量部)に懸濁した。その後、均一に攪拌しながらHP−ベータ−シクロデキストリン(3重量部)を得られた懸濁液に徐々に加え、形成した包接錯体が完全に溶解するまで攪拌を続けた。その後、得られた溶液を膜ろ過(膜孔径0.22μm)で滅菌し、その後すぐ、無菌状態でスプレー凍結した。得られた粉末は無菌状態でAクラス純度のラミナーフローボックス中のパイロジェン除去した滅菌バイアルに封入した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射投与のための医薬組成物で、一般式I:
【化1】

式中、A及びA’は互いに独立して、NH基又は炭素数1〜18のアミノ基若しくはジアミノ基であり、
B及びB’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくはヒドロキシ基であるか、又は−O−C(O)−R基若しくは−O−C(O)−R’基であり、ここで、R及びR’は互いに独立して、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアミノ基、若しくはアルコシキ基、又はこれらの基の機能的誘導体であり、
X及びX’は互いに独立して、ハロゲン原子若しくは炭素数1〜20のモノカルボン酸基であるか、又は、X及びX’は共に、炭素数2〜20のジカルボン酸基を形成する、
白金錯体、及び、
少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体、及び、
任意に少なくとも一以上の薬剤的に許容可能な賦形剤、の混合物からなることを特徴とする注射投与用の医療組成物で、
水溶液として、少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体に水性溶媒を加え、その後、得られた一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体と水性溶媒の水溶液に一般式Iの白金錯体を加えるか、あるいは一般式Iの白金錯体と少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又はシクロデキストリン誘導体との混合物に水性溶媒を加えるか、あるいは水性溶媒中の一般式Iの白金誘導体の懸濁液に少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体を加えることによって得られる、
医薬組成物。
【請求項2】
少なくとも一以上のシクロデキストリン及び/又は少なくとも一以上のシクロデキストリン誘導体と一般式Iの白金錯体とを、重量比で0、1:1から1:10、好ましくは1:1から1:8の比率で含むことを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記水性溶媒が水、あるいは緩衝液で、phが4から8、好ましくは4であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬組成物。

【公表番号】特表2009−541228(P2009−541228A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515692(P2009−515692)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【国際出願番号】PCT/CZ2007/000059
【国際公開番号】WO2007/147372
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(500522390)プリヴァ−ラケマ,エー.エス. (10)
【Fターム(参考)】