説明

注射用パラセタモール液状製剤

本発明は、水性溶媒、pKa4.5〜6.5の緩衝剤、等張剤、および式(I)のパラセタモールダイマーを含む、新規な注射用パラセタモール液状製剤、前記製剤の調製方法、および液状パラセタモール医薬製剤の安定化のための前記ダイマーの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、この活性成分のダイマーを含む新規な注射用パラセタモール液状医薬製剤、この製剤の調製方法、およびパラセタモール液状医薬製剤の安定化のためのこのダイマーの使用に関する。
【0002】
パラセタモール(INNではアセトアミノフェンまたはN−(4−ヒドロキシ−フェニル)アセトアミド)は、病院で広く使用されている鎮痛薬および解熱薬である。注射により、特に静脈内注入により投与するために、この活性成分の安定な液状医薬製剤が入手できることが望ましい。
【0003】
水溶液中のパラセタモールは、加水分解を受けてp−アミノフェノールを形成しやすく、これはそれ自体、分解してキノンイミンとなりやすいことが知られている(参照として、例えばJ.E.Fairbrother、「アセトアミノフェン」、Analytical Profiles of Drug Substances、1974、vol.3、p.1-109)。パラセタモールの分解速度は、温度上昇および光により増加する。この速度は、pH領域6で最小である(K.T.Koshyら、1961、J.Pharm.Sci.、50、p.116-118)。
【0004】
溶液中のパラセタモールを安定化するために、緩衝剤および抗酸化剤またはフリーラジカル捕獲剤を加えることが慣行である。
【0005】
WO02/072080号は、例えば、pH5.5〜6.5の緩衝剤ならびにアスコルビン酸およびシステインもしくはアセチル−システインなどのチオール官能基を有する誘導体から選択された抗酸化剤を含む、注入用の安定なパラセタモール水溶液を記載している。
【0006】
EP0916347号は、pH5.5〜5.6の緩衝剤および抗酸化剤としてメタ重亜硫酸塩を含む、水とアルコール溶媒の混合物に基づいたパラセタモール溶液を開示している。
【0007】
従来技術の安定化された注射用パラセタモール溶液は、含まれる抗酸化剤の毒性により、一部の患者において、刺激、アレルギー誘発および/または発癌性作用を引き起こすという欠点がある。さらに、その安定性には、水性媒体からの酸素および他の酸化剤の除去が必要とされる。それ故、これらの溶液は、部分的に酸素透過性であるか、または、微量の酸化残渣を含む、プラスチック容器には保存できない。
【0008】
未だ公開されていない特許出願MI2001A002135号は、パラセタモールを、水、プロピレングリコール、およびクエン酸緩衝剤と混合し、得られた溶液を70〜130℃の温度に加熱し、この溶液をこの温度で少なくとも10分間維持することにより得られた、安定な注射用パラセタモール水溶液を開示している。クエン酸は、食品産業で広く使用されている弱い抗酸化剤であるので、これらの溶液は、毒性の抗酸化剤を全く含んでいない。
【0009】
D.W.Potterら、1985、J.Biol.Chem.、260、22、p.12174-80は、セイヨウワサビペルオキシダーゼの存在下における過酸化水素による水溶液中のパラセタモールの酸化および重合、パラセタモールの2種のダイマー、2種のトリマー、および2種のテトラマーの半分取HPLCによる単離ならびに質量分析およびNMR分光法による同定を開示している。0.2mMを超えるパラセタモール濃度では、式(I)のダイマー(「化合物B」)が非常に優勢である。
【0010】
【化2】

【0011】
本発明の課題または目的は、前記した欠点のない長期間安定な、新規な注射用パラセタモール液状医薬製剤を見い出すことである。
【0012】
この課題は、添付の特許請求の範囲により定義された本発明により解決される。
【0013】
本発明は、パラセタモール、水性溶媒、pKa4.5〜6.5の緩衝剤、等張剤、および式(I)のパラセタモールダイマーを含む、注射用パラセタモール液状医薬製剤に関する。
【0014】
このパラセタモールダイマーは、非常に少量でも、抗酸化剤として作用することが明らかであり、従来技術の安定化されたパラセタモール溶液について記載されている強力または毒性の抗酸化剤を使用せずに済ませることができる。
【0015】
本発明の製剤は、室温で、さらには40℃の温度でさえ優れた安定性を示し、プラスチック容器、特に注入バッグ、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、または押出しポリマーの組合せに保存してもよい。
【0016】
このパラセタモールダイマーは、別のパラセタモール重合生成物、例えば、前記に引用した参考文献においてD.W.Potterら、1985により記載されたパラセタモールの2種のダイマー、2種のトリマー、および2種のテトラマーから選択された少なくとも2種のパラセタモールオリゴマーの混合物と置き換えてもよい。
【0017】
一般に、この製剤は、245nmでの検出によるHPLCピークの表面積の比として、少なくとも0.005%、好ましくは少なくとも0.05%の式(I)のパラセタモールダイマーを含む。
【0018】
本発明の製剤は、0.1〜5.0g/100ml、好ましくは0.4〜1.5g/100mlのパラセタモールを含んでよい。
【0019】
水性溶媒は、注射等級の水、あるいは水と、1種以上の他の水混和性溶媒、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、および/またはポリソルベートまたはポリオキサマーなどの界面活性剤との混合物である。溶液中のパラセタモールの望ましい含量が1.0g/100mlを超える場合、水性溶媒は、好ましくは、水と水混和性溶媒との混合物である。
【0020】
本発明の製剤は、pKa4.5〜6.5、好ましくは5.0〜6.2の緩衝剤を含む。この緩衝剤は、有利には、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、リン酸−クエン酸緩衝剤、重炭酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、および酢酸緩衝剤、好ましくはクエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、およびリン酸−クエン酸緩衝剤、またはこれらの緩衝剤の混合物から選択される。
【0021】
この注入用製剤は、生理的食塩水の浸透圧の範囲となることを目的とした等張剤を含む。この等張剤は、一般に、塩化ナトリウムおよびグルコースから選択される。
【0022】
本発明の製剤は、一般に、最初に、パラセタモール、注射等級の水、場合により1種以上の他の水混和性溶媒、および/または界面活性剤、緩衝剤、および等張剤を一緒に混合し、その後、得られた溶液を、まとめてか、または容器に予め充填し、少なくとも70℃の温度で少なくとも15分間加熱することにより調製される。この加熱の目的は、溶液保存中にパラセタモールの再結晶化を引き起こしかねない核生成を全て除去することである。
【0023】
本発明はまた、パラセタモール、水、場合により水混和性の溶媒、および/または界面活性剤、緩衝剤、および等張剤を混合し、その後、得られた水溶液を、まとめてか、または容器群に予め充填し、少なくとも70℃の温度で少なくとも15分間加熱することを含む、前記に定義した製剤を調製する方法に関する。
【0024】
式(I)のダイマーは、前記で得た溶液を、十分な温度、例えば60℃で保存している間に、自発的にしかしゆっくりと形成される。その場(in situ)で式(I)のダイマーを形成するためには、100〜130℃、好ましくは110〜125℃の温度で少なくとも5分間の間、溶液を加熱することが実践的である。
【0025】
本発明はまた、溶液を100〜130℃、好ましくは110〜125℃の温度で少なくとも5分間加熱することを含む、前記に定義した製剤を調製する方法に関する。
【0026】
本発明はまた、この方法により得ることができる前記に定義した製剤に関する。
【0027】
本発明はまた、パラセタモール液状製剤を安定化させるための、式(I)のダイマーの使用に関する。このダイマーは、一般に、パラセタモール液状製剤内でその場(in situ)で製造される。
【0028】
本発明は、非制限的な実例として示した以下の実施例において、より詳しく記載されている。
【0029】
これらの実施例において、温度は、室温であるか、または、摂氏温度で表現され、圧力は大気圧である。水、プロピレングリコール、および使用した全ての試薬は、注射等級である。
【0030】
さらに、全ての実施例は、本発明の不可欠な部分を形成し、実施例を含む記載の全ての特徴もそうであり、これは、実施例の特定の特徴ではなく全体的な特徴の形態において、あらゆる従来技術に対して新規である。
【0031】
実施例1
本発明に記載の液状医薬製剤の調製およびHPLCによるこれらの製剤の分析
【0032】
製剤001、002、003、004、005、および006は、パラセタモール、超精製注射等級水、場合により(製剤004)プロピレングリコール、緩衝剤(リン酸緩衝剤、クエン酸−リン酸緩衝剤、またはクエン酸緩衝剤)、および等張剤(塩化ナトリウム)を一緒に混合し、70〜90℃で約15分間加熱して、パラセタモールの核生成の可能性および結果として起こる再結晶を回避し、ガラス瓶に充填することにより調製した。その後、これらの瓶を、15分間121℃で滅菌した。
【0033】
溶液を、滅菌前後に、オクチルシリルシリカゲルのカラム、ならびに、リン酸水素二ナトリウム溶液、リン酸二水素ナトリウム溶液、およびテトラブチルアンモニウムR溶液を含むメタノールRを一緒に混合することにより得た移動相でのHPLC、ならびに、欧州薬局方(欧州薬局方4.4.、p.3503-4、04/2003:0049パラセタモール)で推奨された方法に従っての245nmでの分光測定法による検出により分析した。
【0034】
未知物質に対応するピーク(欧州薬局方に載っていない)が検出された。この物質は、液体クロマトグラフィーに連結させた質量分析法(LC−MS)および200MHzでのプロトン核磁気共鳴(NMR)により、式(I)のパラセタモールダイマーであると同定され、これは、D.W.Potterら、1985、J.Biol.Chem.260、22、p.12174-80により記載された化合物Bと同一である。
【0035】
検出限界は、p−アミノフェノールおよび式(I)のダイマーについて約0.005%であった。100と測定したパラセタモール値との差は有意ではなく、実験の不確実性を示した。
【0036】
これらの製剤の組成およびHPLC分析結果を、以下の表1に順に並べた。
【0037】
【表1】

【0038】
これらの製剤において、滅菌後に0.02〜0.12の含量の式(I)のダイマーが測定され、このダイマーは、滅菌前には検出されなかった。p−アミノフェノールの存在は、滅菌前または後に検出されなかった。
【0039】
実施例2 ダイマー形成の研究
1)温度および時間の効果
式(I)のダイマーの形成に対する温度の効果を、実施例1の製剤001に関して、70〜90℃で15分間加熱し、それをガラス瓶に入れた後に、研究した。この製剤を、様々な保存温度および/または様々な滅菌時間に付し、実施例1に前記したようにHPLCにより分析した。
【0040】
主な結果を、以下の表2に順に並べた。
【0041】
【表2】

【0042】
前記の表によれば、ダイマーは、121℃で急速に、滅菌時間に比例した形成速度で、およびゆっくりとではあるが60℃で14日間では測定可能な量で形成された。ダイマーは、70℃で1時間後では検出できなかった。
【0043】
p−アミノフェノールは、研究した全ての条件下で検出されなかった。
【0044】
2)pHの効果
類似しているが異なるpHを有する製剤001、002、および003の組成物の、実施例1の表1に示した式(I)のダイマーの含量の値により、ダイマーの形成はpHに依存することが示された。pHがより塩基性になれば、形成されるダイマーの量も多くなった。おそらく、フェノキシドの形成によりラジカルの生成が促進される。
【0045】
実施例3 安定性研究
ガラス瓶またはポリプロピレン注入容器に入れた実施例1の製剤001について、70〜90℃で15分間加熱し、ガラス瓶については121℃で15分間滅菌し、ポリプロピレン容器については120℃で20分間滅菌した後に、安定性を試験した。
【0046】
以下の表3は、上の実施例1に記載したHPLC分析により得た結果を順に並べた。
【0047】
【表3】

【0048】
この表により、本発明に記載の注射用液状製剤は、25℃または40℃で10ヶ月間保存した後にも同じパラセタモール含量を維持し、ダイマー含量が僅かに増加しており、この増加は25℃より40℃の方が高く、ポリプロピレン容器よりガラス瓶の方が高かったことが示された。
【0049】
溶液中のパラセタモール分解は、J.E.Fairbrother「アセトアミノフェン」、Analytical Profiles of Drug Substances、1974、vol.3、p.1-109により記載された方法に従って、500nmでの吸光度を測定することによりたびたび調べた。3週間、この方法に従って、最初に製剤001の吸光度を、第二にWO98/05314に記載のように得た1.0g/100mlのパラセタモールとシステイン塩酸塩を含む市販製剤のペルファルガン(Perfalgan(登録商標))をモニタリングすることにより、60℃において、本発明の製剤においてよりも、ペルファルガン(登録商標)製剤においての方が少なくとも10倍急速にパラセタモールが分解することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラセタモール、水性溶媒、pKa4.5〜6.5の緩衝剤、等張剤、および以下の式(I):
【化1】


のパラセタモールダイマーを含む、注射用パラセタモール液状医薬製剤。
【請求項2】
245nmでの検出によるHPLCピークの表面積の比として、少なくとも0.005%、好ましくは少なくとも0.05%の式(I)のパラセタモールダイマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
0.1〜5.0g/100ml、好ましくは0.4〜1.5g/100mlのパラセタモールを含むことを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の製剤。
【請求項4】
クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、リン酸−クエン酸緩衝剤、重炭酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、および酢酸緩衝剤、好ましくはクエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、およびリン酸−クエン酸緩衝剤、またはこれらの緩衝剤の混合物から選択された緩衝剤を含むことを特徴とする、請求項1〜3の一項に記載の製剤。
【請求項5】
溶液を、100〜130℃、好ましくは110〜125℃の温度で、少なくとも5分間加熱することを含む方法を介して得られることを特徴とする、請求項1〜4の一項に記載の製剤。
【請求項6】
式(I)のダイマーが、別のパラセタモール重合生成物と置き換えられている、請求項1〜5の一項に記載の製剤。
【請求項7】
パラセタモールを、水、場合により1種以上の水混和性溶媒、および/または界面活性剤、緩衝剤、および等張剤と一緒に混合し、その後、得られた溶液を、まとめてか、または容器に予め充填し、少なくとも70℃の温度で少なくとも15分間加熱することを含む、請求項1〜6の一項に記載の製剤の調製方法。
【請求項8】
溶液を、100〜130℃、好ましくは110〜125℃の温度で少なくとも5分間加熱することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜6の一項に記載の製剤を含む、ガラスまたはプラスチック容器、特に注入バッグ。
【請求項10】
パラセタモール液状製剤を安定化させるための式(I)のダイマーの使用。

【公表番号】特表2006−517544(P2006−517544A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501448(P2006−501448)
【出願日】平成16年2月16日(2004.2.16)
【国際出願番号】PCT/CH2004/000085
【国際公開番号】WO2004/071502
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(505307840)
【氏名又は名称原語表記】NGUYEN−XUAN,Tho
【Fターム(参考)】