説明

洗浄剤

【課題】多くの産地からのスメクタイト系粘土に不可避的不純物として含まれるオパールやクリストバライトのSiO結晶が低減されたスメクタイト族粘土鉱物成分を含有し、さらに油汚れに対する洗浄性が向上した洗浄剤を提供する。
【解決手段】(A)スメクタイト族粘土鉱物と(B)合成タルクとからなる複合粘土組成物であって、X線回折測定において、スメクタイトの[001]面及び合成タルクの[001]面に由来する回折ピークが実質上消失している複合粘土組成物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スメクタイト族粘土鉱物成分を含有する複合粘土組成物からなる洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性白土やベントナイトに代表されるスメクタイト系粘土は、水に対する親和性が高く、また油分に対する界面活性効果を示すなどの特性も有しているため、無機洗浄剤として古くから使用されている。例えば、特許文献1には、複合フィロケイ酸マグネシウムとスメクタイト族粘土とを含有する無機洗浄剤組成物が提案されている。
【特許文献1】特開2000−319690
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、スメクタイト族粘土鉱物は、一般に、石英、オパール、クリストバライト、トリジマイトなどのSiO結晶とともに産出し、特に、スメクタイト族粘土鉱物に緊密に複合したオパールやクリストバライトなどは、スメクタイトの極微細結晶と渾然一体となって分離が困難である。しかも、このような分離が困難なSiO結晶は、スメクタイト系粘土を洗浄剤等の用途に供した場合、有効成分として機能せず、従って、このようなSiO結晶を多く含んでいるスメクタイト系粘土は、目的とする洗浄効果を得るためには、必要以上の量を使用しなければならないという不都合を生じることとなる。
【0004】
さらに、特許文献1の無機洗浄剤組成物は、油性物質(以下、単に「油」ということがある)に対する界面活性効果が充分でなく、油性汚れに対する洗浄性のさらなる向上が求められている。
【0005】
従って、本発明の目的は、多くの産地からのスメクタイト系粘土に不可避的不純物として含まれるオパールやクリストバライトのSiO結晶が低減されたスメクタイト系粘土成分を含有し、さらに油性汚れに対する洗浄性が向上した洗浄剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、(A)スメクタイト族粘土鉱物と(B)合成タルクとからなる複合粘土組成物であって、X線回折測定において、スメクタイトの[001]面及び合成タルクの[001]面に由来する回折ピークが実質上消失している複合粘土組成物を含有している洗浄剤が提供される。
【0007】
本発明の洗浄剤においては、
(1)前記複合粘土組成物が、105℃乾燥基準で、(A)スメクタイト族粘土鉱物と(B)合成タルクとを、(A):(B)=1:2乃至1:9の重量比で含有していること、
(2)さらにアルカリ金属の重炭酸塩または炭酸塩を含有していること、
(3)前記複合粘土組成物が、X線回折測定において、オパールまたはクリストバライトのSiO結晶の[111]面によるX線回折ピークの強度が、スメクタイトの[020]面及び合成タルクの[020]面による合成ピークの強度よりも小さいこと、
(4)前記複合粘土組成物が、X線回折測定において、オパールまたはクリストバライトのSiO結晶の[111]面によるX線回折ピークが、実質上消失していること、
(5)(A)スメクタイト族粘土鉱物がジオクタヘドラル型スメクタイトであり、X線回折測定において、ジオクタヘドラル型粘土鉱物の[060]面によるX線回折ピークとトリオクタヘドラル型粘土鉱物の[060]面によるX線回折ピークとが合成されて発現していること、
(6)前記複合粘土組成物が、250m/g以上のBET比表面積を有すること、
(7)スラリー、ペーストまたは湿潤ケーキの形態を有しており、105℃乾燥基準での固形分濃度が5乃至50重量%の範囲にあること、
が好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の洗浄剤は、(A)スメクタイト族粘土鉱物と(B)合成タルクとからなる複合粘土組成物から構成されるものであるが、かかる複合粘土組成物中の合成タルク(3MgO・4SiO・HO)が、天然に産出する多くのスメクタイト系粘土に分離困難な不可避的不純物として含まれているオパール或いはクリストバライト等のSiO結晶が変換されている点に重要な特徴を有している。即ち、スメクタイト族粘土鉱物から分離困難なSiO結晶は、スメクタイト族粘土鉱物を洗浄剤の用途に使用する場合には全く不要な成分であるが、本発明では、この不要な成分が低結晶性の合成タルクに変換されており、しかも、この合成タルクは、油分に対する親和性に優れている。従って、本発明によれば、不要な不純物であるSiO結晶を、親油性の高い合成タルクに転換することにより、スメクタイト族粘土鉱物が有している親水性と相俟って界面活性効果が増大し、特に油汚れに対する洗浄性が高められるのである。
【0009】
しかも、本発明においては、X線回折測定において、スメクタイトの[001]面及び合成タルクの[001]面に由来する回折ピークが実質上消失していることから明らかなように、(A)スメクタイト族粘土鉱物と(B)合成タルクとが複合一体化している。また、オパールまたはクリストバライトのSiO結晶の[111]面による回折ピークの強度がスメクタイトの[020]面及び合成タルクの[020]面による合成ピークの強度よりも小さくなっていることから明らかなように、不要な不純物であるSiO結晶の大半は親油性の合成タルクに転換されている。これらのため、本発明の洗浄剤は界面活性作用が高められており、後述する実施例、及び比較例から理解されるように、単に、不純物のSiO結晶も含んでいるスメクタイト系粘土(ベントナイト等)単独との比較では言うまでもなく、それと別途調製した合成タルクとの混合物と比べても、油汚れに対して、高い洗浄性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(複合粘土組成物の製造)
本発明において、洗浄剤として用いる複合粘土組成物を製造するには、原料として天然のスメクタイト系粘土を用いるが、かかるスメクタイト系粘土としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイトなどのジオクタヘドラル型スメクタイトを主成分とするもの(酸性白土、ベントナイト)と、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのトリオクタヘドラル型スメクタイトを主成分とするものが代表的である。モンモリロナイトやバイデライトを主成分とするベントナイトには、産地によって、自然のままでアルカリリッチになっていてそのまま各種用途に使用できるものと、雨水などでアルカリ分が一部溶脱しており(これはサブベントナイトと呼ばれることがある)、ソーダ灰等を用いてアルカリリッチに戻す処理を施した所謂活性ベントナイトがあるが、いずれも天然のスメクタイト系粘土として本発明の原料に用い得ることはいうまでもない。また、ジオクタヘドラル型スメクタイトであるモンモリロナイトやバイデライトは、SiO四面体層−AlO八面体層−SiO四面体層からなる層状構造を有し、これらの八面体層のAlの一部がMgやFe(II)に、四面体層のSiの一部がAlにと、より低原子価の異種金属で同型置換された基本骨格を有しており、結晶格子はその置換部分に陰電荷を生じるが、これらの積層層間にはそれにつり合う量のカチオンと水が存在し、電荷的には中和されている。すなわち、スメクタイトはこのような置換金属や層間元素の種類や量に応じたカチオン交換能を示す。このような層状構造のSi−O−Si結合の連なる層面の有機親和性と金属置換部位の極性に由来して、親油性と同時に親水性を示し、洗浄剤として好適な界面活性効果を示すものと考えられる。
【0011】
既に述べたように、天然のスメクタイト系粘土は、オパールやクリストバライトなどのSiO結晶とともに産出する場合が多く、特に産地によっては、このようなSiO結晶がスメクタイトの前述した層構造を有する微細結晶と渾然一体となっており、風簸等の物理的手段によっては分離困難となっている。本発明では、このような分離困難なSiO結晶を含有している天然産のスメクタイト系粘土を使用することができ、特に、オパールやクリストバライトなどのSiO結晶含量が5重量%以上、特に10乃至35重量%程度のものを使用するのが好ましい。即ち、このSiO結晶含量が少ないものは、以下に述べる手段によって該SiO結晶をタルクに転換させるメリットが小さいからである。また、SiO結晶含量が上記範囲より多いものは、SiO結晶の結晶性が高くて反応性が低い場合が多く、スメクタイトの含有量も低いので、求める複合粘土組成物を得る為の原料としてはメリットが少ない。
【0012】
尚、スメクタイト系粘土中に含まれるオパールやクリストバライトなどのSiO結晶含量は、例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いてのアルカリ処理によって、SiO結晶を溶解し、アルカリ水溶液中に溶解したSiO量を測定することにより可溶性ケイ酸(%)として算出することができる。
【0013】
上記のようにして使用される天然産のスメクタイト系粘土は、例えば図1(a)に示すX線回折ピークを示す。即ち、図1(a)は、後述する実施例1において、原料として用いた天然スメクタイト系粘土(ジオクタヘドラル型スメクタイトを主成分とするベントナイト)についてのX線回折チャートであるが、図1(a)から理解されるように、このスメクタイト系粘土は、2θ=5.0乃至8.0度の領域にスメクタイトの[001]面に由来する回折ピークを示し、2θ=19.0乃至20.5度の領域にスメクタイトの[020]面に由来する回折ピークを示し、さらに2θ=61.0乃至62.5度の領域には、ジオクタヘドラル型スメクタイトの[060]面に由来する回折ピークを示すと同時に、2θ=21.0乃至22.5度の領域にはオパールまたはクリストバライトの[111]面に由来する回折ピークを示している。
【0014】
本発明においては、上記のような天然産のスメクタイト系粘土に、酸化マグネシウム或いは水酸化マグネシウムを反応させる。具体的には、両者を水の存在下で混合し、次いで攪拌下に熱処理する。これにより、スメクタイト族粘土鉱物中に含まれる前述したオパールやクリストバライトのSiO結晶は、非積層乃至低積層構造のタルクに転換される。
【0015】
かかる反応は、1例として下記式で表される。尚、下記式中、スメクタイト族粘土鉱物は、Smectiteで表し、これに複合しているオパールやクリストバライトのSiO結晶は、OpalSiOで表した。
[Smectite + OpalSiO]+4.5MgO+4.5H
→Smectite+SiO+4.5Mg(OH)
→Smectite+0.25[3MgO・4SiO・HO]+3.75Mg(OH)
【0016】
尚、上記式では、原料として酸化マグネシウム(MgO)が使用されているが、酸化マグネシウムは水の存在下で容易に水和して水酸化マグネシウムに変化しているため、最初から反応原料として水酸化マグネシウムを用いた場合も、結局、反応は同じ式で表される。
【0017】
上記の反応式から理解されるように、用いる酸化マグネシウム(或いは水酸化マグネシウム)は、スメクタイト中に含まれるSiO結晶の1.5倍モル以上の量で使用することが好ましく、また、必要以上に過剰に用いてもあまり意味がないので、一般的には、1.5〜10倍モルの量で使用するのがよい。また、水は、酸化マグネシウムを用いた場合、MgOとの水和理論量である使用酸化マグネシウムの等モル以上必要であることは勿論であるが、湿式攪拌(スラリー)反応の見地からは反応スラリーの粘性が充分流動性のある範囲にあり、且つ固液反応であるという面からは、ある程度高い固形分濃度であることがよく、反応スラリー母液全量当り、85乃至95重量%含有されていることが好ましい。
【0018】
また、上記反応に用いる天然スメクタイト系粘土は、予め、粗粉砕して、適度な粒径に調整しておくことが望ましい。この場合、粉砕の方法は、生の原料粘土をそのまま水性媒体中で湿式粉砕してもよいし、一旦、乾燥してから乾式粉砕してもよい。また、
【0019】
上記反応において、熱処理温度は、60℃以上、特に70乃至100℃の範囲であり、熱処理時間は、用いるスメクタイト系粘土の量や熱処理温度によっても異なるが、一般には、3乃至8時間程度である。
【0020】
上記のようにしてタルクを生成した後、さらに二酸化ケイ素を加えて、攪拌下に60℃以上、特に70乃至100℃の温度で熱処理する。これにより、上記の反応で残存した過剰の水酸化マグネシウムもタルクに転換され、有効成分となる。
【0021】
かかる熱処理に用いる二酸化ケイ素としては、特に制限されないが、過剰量のものが残存した場合でも複合粘土の特性に悪影響を与えないという観点から、所謂ホワイトカーボンと称される非晶質のものが好適に使用される。このような非晶質の二酸化ケイ素(含水ケイ酸)は、通常、下記式:
SiO・nH
式中、nは、0.1乃至0.3の数である。
で表わされる。
【0022】
このような水酸化マグネシウムの転換反応は、1例として下記式で表される。
Smectite+0.25[3MgO・4SiO・HO]
+3.75Mg(OH)+5SiO・nH2O
→ Smectite+1.5[3MgO・4SiO・HO]
但し、nは前記と同じ数である。
【0023】
上記式から理解されるように、この例の場合に用いる二酸化ケイ素は、反応系中に含まれる水酸化マグネシウムの1.2モル倍以上の量(化学量論的には、5÷3.75=1.33モル倍量)で使用され、特に、1.2〜1.5モル倍の量で使用することが、生成した水酸化マグネシウムの全量または大半をタルクに転換し、且つ残存する二酸化ケイ素の量を可級的に少なくする上で好適である。
【0024】
このような水酸化マグネシウムをタルクに転換するための熱処理は、通常、3乃至12時間程度行われる。このとき、スメクタイト系粘土中に含まれるSiO結晶と後段で余剰の水酸化マグネシウムとの反応に用いる非晶質SiOの全量乃至は大半がタルクに転換された複合粘土組成物が生成するが、その組成物中には未反応の非晶質SiOと水酸化マグネシウムが少量残存することもある。その残存量を正確に定量することは困難であるが、残存の有無はX線回折測定により定性的に確認できる。本発明の洗浄剤としては、後述する親油・吸油性と界面活性作用による洗浄性能において実用に差し支えない範囲の残存であればよい。
【0025】
上記のようにして得られた複合粘土組成物は、そのままスラリーまたはペーストの形態で、または濾過等により脱水・濃縮して湿潤ケーキとなし、或いはまた必要により乾燥・粉砕され、用途に応じて所定の粒度に分級されて使用に供される。
【0026】
(複合粘土組成物)
このようにして得られた複合粘土組成物は、(A)スメクタイト族粘土鉱物と(B)合成タルク[3MgO・4SiO・HO]とからなり、例えば図1(b)に示すようなX線回折ピークを有する。図1(b)は実施例1で製造された複合粘土組成物のX線回折パターンである。
【0027】
即ち、図1(b)から理解されるように、かかる複合粘土組成物においては、2θ=19.0乃至20.5度の領域にスメクタイトの[020]面及び合成タルクの[020]面に由来する回折ピークが合成されて発現しており(即ち、図1(a)のスメクタイトの[020]面によるピークよりも面積が増大している)、スメクタイトや合成されたタルクの存在が確認されるが、本来、2θ=5.0乃至8.0度の領域に存在すべきスメクタイトの[001]面に由来する回折ピークや、2θ=9.0乃至10.0度の領域に存在すべき合成タルクの[001]面に由来する回折ピークは、実質上消失或いは認められない。即ち、本発明において用いる複合粘土組成物は、前述した2段階で行われる水熱処理下の半合成反応により、水分散状態下のスメクタイトや新たに生成した合成タルクの粒子は単層粒子レベルで混在し、乾燥しても、スメクタイト、タルクのそれぞれがC軸方向への積層が起こらないか、起こったとしても不規則な層間隔での無秩序な積層と思われ、これらの領域の回折ピークが発現していないことは、かかる複合粘土組成物は、スメクタイト族粘土鉱物の積層粒子とタルクの積層粒子との単なる混合物とは異なり、両者がランダム且つ均質に複合化していることを物語っている。
【0028】
また、本発明において洗浄剤として用いる複合粘土組成物においては、多くの産地からのスメクタイト系粘土に不可避的不純物として含まれるオパールやクリストバライトのSiO結晶がタルクに転換されている。従って、図1(a)と図1(b)のX線回折ピークの比較から理解されるように、原料スメクタイトにおいて2θ=21.0乃至22.5度の領域にみられる上記SiO結晶の[111]面による回折ピークが(図1(a)参照)、この複合粘土組成物では、実質上消失又は縮小している(図1(b)参照)。即ち、かかるSiO結晶の[111]面による回折ピークの消失又は縮小は、このようなスメクタイト族粘土鉱物中のSiO結晶の全量又は大半がタルクに転換されていることを物語っている。
【0029】
尚、図1(a)から理解されるように、本発明において、原料として用いるスメクタイト系粘土では、上記SiO結晶の[111]面の回折ピーク(2θ=21.0乃至22.5度)がスメクタイトの[020]面の回折ピーク(2θ=19.0乃至20.5度)よりも大きいことが多いが、本発明で用いる複合粘土組成物では、かかるSiO結晶の[111]面の回折ピークが、スメクタイトの[020]面及び合成タルクの[020]面による合成ピーク(2θ=19.0乃至20.5度)よりも小さくなる程度に、前述した2段の水熱処理が行われて合成タルクが形成されていれば、界面活性効果の向上等の所望の効果を確保することができる。
【0030】
また、本発明において、スメクタイト系粘土として、ベントナイトや酸性白土等のジオクタヘドラル型スメクタイトを用いた場合には、図1(b)に示されているように、2θ=59.5乃至62.5度の領域に、ジオクタヘドラル型粘土鉱物の[060]面によるX線回折ピーク(2θ=61.0乃至62.5度)とともに、トリオクタヘドラル型粘土鉱物の[060]面によるX線回折ピークと(2θ=59.5乃至61.5度)が合成されて発現していることが確認される。即ち、このような合成ピークの発現は、前述した2段での水熱処理下の半合成反応により、トリオクタヘドラル型三層構造粘土鉱物である低積層の合成タルクが生成していることを示している。
【0031】
本発明において、洗浄剤として用いる上述した複合粘土組成物は、一般に、105℃乾燥基準で、(A)スメクタイト族粘土鉱物と(B)合成タルクとを、(A):(B)=1:2乃至1:9、特に1:3乃至1:7の重量比で含有しており、このようなバランスでスメクタイト族粘土鉱物と合成タルクとを含有しているため、スメクタイトに特有の物性(界面活性作用)を示すと同時に、合成タルクの親油・吸油性と相俟って、油性物質の吸収・収着・乳化分散による洗浄作用が高められている。したがって、上記の含有比を越えて、スメクタイト族粘土鉱物の含有割合が大きく合成タルクの含有割合が小さくなると、乳化分散性はよいが油性物質の収着量が少ないため洗浄性能が高いとは言えず、逆に、スメクタイト族粘土鉱物の含有割合が小さく合成タルクの含有割合が大きくなると、油性物質の収着量は多くなるが吸油粒子の水相への分散性が悪くなり吸油粒子が器物の表面に付着して水での濯ぎ洗いによっても除去し難くなるため、洗浄性が良いとは言えない。
【0032】
また、このような複合粘土組成物は、スメクタイトの極微細結晶に緊密に複合しているオパールやクリストバライトのSiO結晶をこれも極微細結晶の合成タルクに変換することにより製造され、しかも、スメクタイトと合成タルクのそれぞれの微細結晶がランダムに分散し、濃縮や乾燥固化によっても、それぞれの微細結晶がそれ以上の積層が起こらないか、起こったとしても不規則で無秩序な積層粒子となっているため、例えば、原料のスメクタイト系粘土と天然のタルクの単なる混合物に比してかなり高い比表面積を有している。そのBET比表面積は、前記の単なる混合物が100m/g以下であるのに対して、本発明の洗浄剤に用いる複合粘土組成物は、通常、150m/g以上、特に250乃至500m/g程度と極めて高く、従って、油との接触界面の面積も大きく、油性物質の捕捉性に優れている。
【0033】
さらに、この複合粘土組成物は、スメクタイト族粘土鉱物の基本構造が損なわれない程度の水熱処理によってSiO結晶のタルクへの変換が行われているため、前述の親油・吸油性と界面活性のほかに、スメクタイトに由来するカチオン交換能や固体酸としての特性を保持している上に、新たに生成した合成タルクに由来する比較的弱い酸強度の固体酸を大量に保有している。例えば、この複合粘土組成物は、5meq/100g以上、特に10乃至50meq/100gのカチオン交換能を有している。また、n−ブチルアミン滴定法によって測定される表面酸性度分布では、酸強度関数Hoが−3.0(指示薬:ジシンナマルアセトン)より大きくて+3.3(指示薬:p−ジメチルアミノアゾベンゼン)以下である中程度の強さ(−3.0<Ho≦+3.3)の酸点と、+3.3<Ho≦+4.8(指示薬:メチルレッド)の酸強度領域の比較的弱い酸点が多く存在している。これらの固体酸の酸量(meq/g)は、複合粘土組成物中のスメクタイトの種類やその層間イオンの種類及びスメクタイトと合成タルクの含有割合等によって大きくことなるため、一概には言えないが、全酸量としては0.5meq/g以上、特に、組成物によっては1meq/g以上の大容量の固体酸を有する物もある。
【0034】
(洗浄剤)
上述した複合粘土組成物は、通常、平均粒径が1乃至10μm程度の粒子に粒度調整し、洗浄剤として使用される。即ち、かかる洗浄剤を構成する上記の複合粘土組成物は、大きな比表面積及び細孔容積を有し、スメクタイトに特有のカチオン交換能を示し、タルクの生成による親油性の増大に起因して油性物質の吸収・吸着作用とスメクタイトの界面活性作用(乳化分散作用)により優れた洗浄性を示し、特に油汚れに対して極めて高い洗浄効果を発揮する。
【0035】
例えば、図2(a)は、容器10内に、水相1と、食用油脂などからなる油相3とが存在しており、この水相1内に、上述した複合粘土組成物からなる本発明の洗浄剤が分散されていることを示す模式図である。即ち、このような水相1では、複合粘土組成物は、水を吸収しての膨潤により、スメクタイトが単層の粒子5(通常、2〜100nm程度の粒径)にばらばらに分散し、合成タルクは、ばらばらな単層粒子7(通常、2〜20nm程度の粒径)と、凝集した2次粒子9(通常、1〜10μm程度の粒径)とに分かれて分散している。この状態で、容器10を振って水相1と油相3とを混ぜると、図2(b)に模式的に示すように、合成タルクの粒子7,9は、油に対する親和性が高いため、油を取り込んで油滴15(通常、10〜100μm程度の粒径)内に分散し、一方、スメクタイトの粒子は、油滴15を取り囲んで親水性膜17を形成し、1種の保護コロイドを形成することとなる。このような親水性膜17によって囲まれた油滴15が水相1(連続相)内に、一部のスメクタイト粒子5や合成タルクの粒子7,9とともに分散することとなる。このように複合粘土組成物の粒子に吸収・固定された油滴が水相に分散したエマルジョン系は、例えば流水を注ぐことにより連続的に希釈されながら洗い流され、油相成分が除去されるのである。従って、このような複合粘土組成物からなる本発明の洗浄剤は、油性汚れに対して優れた洗浄性を発揮するのである。
【0036】
また、本発明で用いる複合粘土組成物は、親油・吸油性のほかに、前述したカチオン交換能と固体酸を併せ持ち、且つ高比表面積を有することから、メチレンブルーのような比較的大きな分子の塩基性色素等をよく吸着する上に、その他の塩基性、中性乃至酸性の水溶性色素や油溶性色素も吸着し、染料や食物などに含まれる色素性物質(有色物質)による汚れに対しても、高い洗浄力を示す。
【0037】
更にまた同様の理由により、該複合粘土組成物は、トリメチルアミンやアンモニアのような塩基性の臭気等をよく吸着する上に、不飽和の脂肪族化合物、アルデヒド、硫化物、低級脂肪酸などの中性乃至酸性の臭気物質もよく吸着し、魚の内臓、魚肉、畜肉、タマネギ、ニンニク等の有臭食材の臭気成分が付着したマナイタやフライパンなどの調理具の洗浄に用いれば、それらに付着している油性汚れなどと同時に生臭さ等の悪臭成分も吸着され、高い洗浄力を示す。
【0038】
さらに、本発明の洗浄剤は、あまり硬くない適度な硬度の合成タルクからなるミクロ粒子を含有していることから、柔らかな研磨作用により、容器や器材は傷つけずに各種の汚れを掻き落とす機能をも有している。
【0039】
このように、上記複合粘土組成物からなる本発明の洗浄剤は、各種の汚れに対して高い洗浄力を示し、特に油汚れに対する洗浄力が高いことから、例えば、調理具やマナイタの汚れ洗浄剤、厨房内レンジ周りや焦げ付き鍋等のクレンザー、台所用換気扇等の油汚れ洗浄剤、厨房床面や機械工作室床面の油汚れ洗浄剤、機械油等により汚れた手指の洗浄剤、各種塗装前器材の脱脂洗浄剤、各種染色前繊維(布地)の脱脂洗浄剤、頭髪洗浄剤、歯磨き剤、ペット用シャンプー、アウトドア用油汚れ洗浄剤、衣類用洗剤、自動食器洗浄機用洗剤、食用油脂の精製・洗浄剤、各種脱色・洗浄剤、各種脱臭・洗浄剤、などとして好適に使用することができる。さらに洗浄剤としての特殊な用途としては、前述の柔らかな研磨作用を利用しての銀製食器やシルバーアクセサリー類の磨き剤や樹脂系油などに対する親油・吸油・乳化分散作用を利用しての製紙工程におけるピッチコントロールなどがある。さらにまた、海上に漏洩し浮上している石油類や自動車修理工場や食品加工場などの廃水ピット中に浮上している廃油類の吸油・固定・分離処理に用いることも可能である。
【0040】
尚、本発明の洗浄剤は、その使用形態は特に制限されないが、一般的には、水に分散させてスラリー乃至ペースト、またはそれらを部分的に脱水した湿潤ケーキとして使用することが好適である。このような形態で使用したときには、図2(a)に示すような形態で水中に速やかに分散し、より迅速に洗浄効果を発揮するからである。また、特殊な使用形態としては、本洗浄剤の粉末を紙などの繊維層に内添するか表層に塗付してシート状となし、油性汚れ除去シート(油とり紙など)として皮脂汚れ取りや眼鏡拭きに使用することもできる。あるいはまた、上下二層の紙などの層間に乾燥状態または湿潤状態の本洗浄剤の層を設け、上下二層の外面は紙などの吸液層で内部の中間層は吸油・固定層である三層構造の油性物質吸収シート(紙)に加工し、天ぷらや揚げ物の下に敷いて油の吸収シート(敷き紙)、解凍した魚介類や肉類の下に敷いてドリップの吸収シート(敷き紙)、マナイタの拭き取り、フライパンの掃除などのキッチンペーパーなどとして、食器や調理具の油性汚れ防止乃至は除去といった広範な意味での洗浄の用途に使用することも有益である。
【0041】
また、本発明の複合粘土組成物からなる洗浄剤は、それ単独で使用することもできるが、例えば自動食器洗浄機用の洗剤、調理具の焦げ付き除去用洗剤あるいはガスレンジ周りやレンジフードの油汚れ除去用洗剤などに使用されている重曹(重炭酸ソーダ)やセスキ炭酸ソーダなどのアルカリ炭酸塩系洗剤等と併用することができる。この場合、本発明の複合粘土組成物の特に高い油性汚れ除去効果と併せ持つ脱色・脱臭効果に、アルカリ炭酸塩系洗剤のアルカリによる蛋白質や油脂の部分的分解作用と澱粉類に対する溶解促進による食物汚れ等の除去効果と併せ持つ脱臭(酸性臭気成分の中和)効果が加わって、各種汚れに対してより優れた洗浄効果を発揮する。
【0042】
したがって、本発明の複合粘土組成物からなる洗浄剤と重曹などのアルカリ炭酸塩系洗浄剤の併用は、同時に使用、あるいは時間を前後して(ずらして)使用することが可能であるが、両者を予め混合して均質な同一の組成物として調製し、それを本発明の洗浄剤とすることも、両者の優れた特徴を兼ね備えた洗浄剤を提供できる点で極めて有用である。
【0043】
本発明の前記混合洗浄剤において、例えばスラリー乃至ペーストまたは湿潤ケーキの形態での該洗浄剤では、その混合割合と含水量にもよるが、予め混合された重曹などのアルカリ炭酸塩系化合物は、その全量または大部分が水相に溶解しているか、あるいは一部未溶解の儘または再析出して前記複合粘土組成物と共に固相を形成している。該複合粘土組成物と該アルカリ炭酸塩系化合物の混合割合は、洗浄の目的に応じて両者の洗浄作用の特徴がほどよく発現できる如何なる割合でもよいが、複合粘土組成物の105℃乾燥基準での重量をX、アルカリ金属の重炭酸塩または炭酸塩の無水炭酸塩換算での重量をYで示すと、X:Y=1:10乃至10:1で表される重量比で混合されていることが好ましい。
【0044】
更にまた、本発明の洗浄剤は、洗剤一般に使用されている他の無機系洗剤乃至は助剤(Na−A型ゼオライトに代表される合成アルミノケイ酸塩系ビルダー等)、酵素系助剤、漂白剤、増白剤、香料などと併用乃至は混合使用することができる。勿論、他の有機系洗剤(石鹸、合成の有機アニオン・ノニオン系界面活性剤、天然のサポニン含有植物等)と併用乃至は混合使用することも可能である。
【0045】
かくして本発明によれば、その全体が無機物からなり、人体や自然環境の生物にとって有害な成分を全く含まず、親油・吸油・乳化性と共に脱色・脱臭性も有し、高性能で高安全性の環境にも極めて優しい洗浄剤を提供できるに至ったのである。
【実施例】
【0046】
本発明の優れた効果を、次の実施例で説明する。
尚、実施例における各種試験は下記の方法で行なった。
(1)X線回折
試料の調製:
粉末状の試料はそのままで、スラリー状またはペースト状の試料については、それを吸引ろ過して得られた湿潤ケーキを110℃で乾燥してから乳鉢で粉砕し粉末状となして、測定試料とする。
X線回折装置:(株)リガク製、MultiFlex
測定条件:X線=Cu−Kα線、管電圧=40kV、管電流=30mA、発散スリット:0.15mm、散乱スリット:1°、受光スリット=0.15mm
走査範囲:回折角(2θ)=3°〜70°
【0047】
(2)可溶性ケイ酸
110℃乾燥した粘土試料150gを450gの純水に分散させ、水酸化ナトリウム(NaOH)53.3gを加えて、100℃×5時間加熱攪拌処理する。放冷し、溶解反応液の全重量を測定する。該溶解母液を1日以上静置して固形分を沈降させ、透明な上澄液を採取して、該溶液部分のSiO濃度を定量する。計算により試料100gから溶出したSiO量を求め、試料中の可溶性ケイ酸(%)とする。
【0048】
(3)BET比表面積
窒素ガスの吸着による所謂BET法によって測定した。本実施例においては、マイクロメリテック社製の自動比表面積測定装置(TriStar 3000、測定方法:定容法によるガス吸着法)を使用して測定。
BET理論について、詳しくは次の文献を参照のこと。
S. Brunauer, P. H. Emmett, E. Teller, J. Am. Chem. Soc., Vol.60,309(1938)
【0049】
(4)油性汚れ洗浄性
試料の調製:
スラリー状、ペースト状、湿潤ケーキ状または粉末状の試料のいずれにおいても、水を足して固形分濃度を5.0重量%に調整して流動性のある均質な懸濁液となし、供試試料とする。尚、粉末状の試料においては、水を加えた後、必要に応じて振とう機等にかけ均質な懸濁液となし、さらに1時間以上置いて供試試料とする。
【0050】
吸油・収着量の測定法:
ネジ蓋付ポリプロピレン製遠沈管(内容積:15ml)6本それぞれに、供試懸濁液を10.0gずつ採り、更にそれぞれに、油性物質として各変量(0ml[ブランク],0.05ml,0.25ml,0.50ml,0.75ml,1.00ml)の食用なたね油(日清オイリオグループ(株)製)をホウケイ酸塩硬質ガラス製注射筒(2mL用)を用いて注加したのち、それぞれ蓋をした遠沈管(6本)を恒温振とう機(アズワン(株)製シェイキングインキュベーターSI-300)にセットし、所定の条件(振とう速度:1750rpm,設定温度:25℃)にて1分間振り混ぜ、試験管架台に立てて置く。所定時間後にそれぞれの乳化懸濁液の少量を清浄な駒込ピペット(1ml用)で採取し、定性濾紙(No.2)の周辺部に2滴ずつ重ねて滴下し、各懸濁液試料のスポット(6個)を得る。6〜24時間かけて室内で風乾し、滴下により生じたほぼ円形の懸濁液部分が乾固したとき、懸濁液の固形分で出来た円形で薄い扁平な台状の固まり(ドライ‐スポット)の周囲の濾紙部分に、吸収しきれなかった油の滲み出しによる半透明のハロー(リング)及び/又はドライ‐スポットの裏側への滲み出しの有無を目視観察により確認して飽和点(1)及び/又は飽和点(2)を決め、下記に示す判定方法の例のように、吸油・収着量を範囲値として求める。通常は飽和点(1)を上限とする範囲値となるが、飽和点(1)が[−]か[±]かの判別が困難なときは飽和点(2)を上限とする範囲値になる。但し、油を吸油・収着している状態とは、上記判定法において[−]と判別されるだけでなく、試験管架台に24時間静置後の残りの5%懸濁液を目視観察して上部液面に明らかに油相が分離して浮いていないことも必要条件である。例えば、油の滲み出しハローが明瞭に観察されずに上記判定法において[−]と判別され、24時間静置後の5%懸濁液の目視観察では上部液面に明らかに油相が分離して浮いているような場合には、吸油・収着の飽和点を越えていることと判別される。
【0051】
【表1】

【0052】
油性汚れ洗浄性の総合評価:
上記の吸油・収着量の測定によって得られた油性物質に対する吸油・収着量(ml/g)の程度や吸油した粒滴の水相への分散性(試験後の試験管内容物の水による濯ぎ性にも関係する)などから総合的に評価する。
【0053】
(実施例1)
天然のスメクタイト系粘土として、新潟県新発田市A地区産のサブベントナイトを常法によって炭酸ナトリウム処理により賦活し、乾燥・粉砕して製した活性ベントナイト(以下、単にベントナイトと言う。)を原料に用いた。本原料粘土中の不純物シリカは、XRD測定によれば大部分がオパールA乃至オパールCTからなる低結晶性シリカであり、アルカリ溶解法によれば可溶性ケイ酸として30%程度含まれている。
【0054】
<第一段反応>
原料のベントナイト粉末(付着水分:6.8%,乾燥物基準⇒Smectite:70%,OpalSiO:30%)215g(Smectite:140g,OpalSiO:60g)を、水約6kgを張ったステンレス鋼製タンク(内容積:11リットル)に加え入れ、攪拌下、第一段反応原料として市販の工業用水酸化マグネシウム粉末(付着水分:1.6%,乾燥物基準⇒MgO:67%)273g(MgO:180g)を加えて混合スラリーとなし、攪拌しながら加熱昇温して、95℃で8時間、反応を継続(途中、反応の進行や加熱による水の蒸散によってスラリーの粘度が上昇し攪拌に支障が生じたので、適当量の足し水を2度おこなった。)した。この時、XRD測定により、結晶性のオパール様シリカは殆ど消失し、未反応の水酸化マグネシウムの大量の存在が確認された。
【0055】
<第二段反応>
つぎに、大過剰(理論反応量の6倍)加えられて残存する未反応の水酸化マグネシウム(MgO換算:150g)のタルクへの転換反応(第二段反応)の原料として市販のホワイトカーボン(=非晶質シリカ,付着水分:6.7%,乾燥物基準⇒SiO:95%)338g(SiO:300g=理論反応量)を加え、第一段反応と同様に、95℃で10時間、反応を継続し終了した。
XRD測定によれば、未反応の水酸化マグネシウムは実質上存在せず、請求項1,請求項4,請求項5および請求項6の条件を満たすことが確認された。
また、BET比表面積の測定の結果、370m/gの比表面積を有していた。なお、原料のベントナイト粉末の比表面積は104m/gであった。
かくして、スメクタイト族粘土鉱物と合成タルクとを1:4の重量比で含有しているペースト状複合粘土組成物からなる洗浄剤が得られた。該ペースト状組成物(固形分濃度:11.9%,pH:8.7)についての油性汚れ洗浄性試験の結果を表3に記載した。
【0056】
他の油性物質に対する吸油・収着量の測定:
実施例1によって得られたペースト状複合粘土組成物について、前記の吸油・収着量の測定法において、油性物質として「食用なたね油」に代えて「流動パラフィン」または「シリコーンオイル」を用いて測定した結果は、以下の表2に示すとおりであった。
【0057】
【表2】

【0058】
「食用なたね油」に対する吸油・収着量(1.0〜1.5 ml/g)に比して、「流動パラフィン」と「シリコーンオイル」に対する吸油・収着量は、いずれも0.5〜1.0 ml/gと測定された。
このことより、本発明の実施例1による複合粘土組成物は、水の混在下においても、大部分が脂肪酸のトリ‐グリセライドであり且つ微量の脂肪酸やモノ‐またはジ‐グリセライドを含み僅かに極性の油性物質である通常の食用油脂に対しては1.0〜1.5 ml/gのきわめて高い吸油・収着量を示し、ほとんど極性の無い油性物質である石油類や合成シリコーン油に対しても0.5〜1.0ml/gの吸油・収着量を示し、広く油性物質に対して高い親油・吸油性を有し、且つ複合成分であるスメクタイトによる界面活性作用も有していることから、各種油性汚れに対する優れた洗浄性を示すものと評価される。
また、本例の吸油・収着量の測定に用いた24時間静置後の5%懸濁液は、スメクタイト成分粒子と合成タルク成分粒子が単に混合されているのではなく複合している為か、2種類の成分が偏析して沈降分離することもなく、希釈によって粘性は低くなっても分散安定性は高く維持され、使用に適したペーストであることがわかった。
【0059】
(実施例2)
実施例1において、第一段反応および第二段反応の条件を次のように変えておこなった。
【0060】
<第一段反応>
原料のベントナイト粉末(付着水分:6.8%,乾燥物基準⇒Smectite:70%,OpalSiO:30%)18.3g(Smectite:12.0g,OpalSiO:5.1g)を、水約260gを張った硬質ガラス製ビーカー(内容積:500mL)に加え入れ、攪拌下、第一段反応原料として市販の工業用水酸化マグネシウム粉末(付着水分:1.6%,乾燥物基準⇒MgO:67%)11.7g(MgO:7.7g)を加えて混合スラリーとなし、攪拌しながら加熱昇温して、95℃で8時間、反応を継続した。
【0061】
<第二段反応>
つぎに、大過剰(理論反応量の約3倍)加えられて残存する未反応の水酸化マグネシウムのタルクへの転換反応(第二段反応)の原料として市販のホワイトカーボン(=非晶質シリカ,付着水分:6.7%,乾燥物基準⇒SiO:95%)11.6g(SiO:10.3g=理論反応量)を加え、第一段反応と同様に95℃で、8時間(実施例1では10時間)反応を継続し終了した。
【0062】
XRD測定によれば、未反応の水酸化マグネシウムは実質上存在せず、請求項1,請求項4および請求項6の条件を満たすことが確認された。
また、BET比表面積の測定の結果、297m/gの比表面積を有していた。
かくして、スメクタイト族粘土鉱物と合成タルクとを略1:2の重量比で含有しているペースト状複合粘土組成物からなる洗浄剤が得られた。該ペースト状組成物(固形分濃度:6.0%,pH:9.1)についての油性汚れ洗浄性試験の結果を表1に記載した。
【0063】
(実施例3)
実施例1において、第一段反応および第二段反応の条件を次のように変えておこなった。
【0064】
<第一段反応>
原料のベントナイト粉末(付着水分:6.8%,乾燥物基準⇒Smectite:70%,OpalSiO:30%)5.5g(Smectite:3.6g,OpalSiO:1.54g)を、水約260gを張った硬質ガラス製ビーカー(内容積:1L)に加え入れ、攪拌下、第一段反応原料として市販の工業用水酸化マグネシウム粉末(付着水分:1.6%,乾燥物基準⇒MgO:67%)15.6g(MgO:10.3g)を加えて混合スラリーとなし、攪拌しながら加熱昇温して、95℃で8時間、反応を継続した。
【0065】
<第二段反応>
つぎに、大過剰(理論反応量の約134倍)加えられて残存する未反応の水酸化マグネシウムのタルクへの転換反応(第二段反応)の原料として市販のホワイトカーボン(=非晶質シリカ,付着水分:6.7%,乾燥物基準⇒SiO:95%)338g(SiO:19.1g=理論反応量)を加え、第一段反応と同様に95℃で、8時間(実施例1では10時間)反応を継続し終了した。
【0066】
XRD測定によれば、未反応の非晶質シリカと水酸化マグネシウムが残存しているが、請求項1,請求項4および請求項6の条件を満たすことが確認された。
また、BET比表面積の測定の結果、250m/gの比表面積を有していた。
なお、比表面積の大きい合成タルク(SA=550〜650m/g)成分が多く含まれているにもかかわらず、それ程増大していないのは未反応成分が残存していることが影響していると考えられる。
かくして、スメクタイト族粘土鉱物と合成タルク(未反応成分も含む)とを略1:9の重量比で含有しているペースト状複合粘土組成物からなる洗浄剤が得られた。該ペースト状組成物(固形分濃度:13.0%,pH:8.8)についての油性汚れ洗浄性試験の結果を表1に記載した。
【0067】
(比較例1)
実施例1で原料として用いたベントナイト粉末21.5g(Smectite:14g,opalSiO:6g)を水550gを張ったステンレス鋼製ビーカーに加え入れ、攪拌下、実施例1の第一段反応の原料として用いた市販の工業用水酸化マグネシウム粉末27.3g(MgO:18g)と実施例1の第二段反応の原料として用いた市販のホワイトカーボン33.8g(SiO:30g)を順次加えて、シリカ成分とマグネシア成分の合成タルクへの実質的な転換反応を伴わないように、加熱せずに1時間攪拌し、スメクタイト族粘土鉱物成分とシリカ・マグネシア成分とを実施例1で得られる組成物と同じ重量比(1:4)で含有しているスラリー状の混合組成物を得た。該スラリー状組成物(固形分濃度:13.5%,pH:9.7)についての油性汚れ洗浄性試験の結果を表3に記載した。
【0068】
(比較例2)
実施例1〜3で原料として用いたベントナイト粉末21.5g(Smectite:14g,opalSiO:6g)を水245gを張ったステンレス鋼製ビーカーに加え入れ、1時間かけて攪拌・分散し、スメクタイト系粘土スラリーを得た。該粘土スラリー(固形分濃度:7.4%,pH:9.7)についての油性汚れ洗浄性試験の結果を表3に記載した。
【0069】
(比較例3)
実施例1で原料として用いたベントナイト粉末(付着水分:6.8%,乾燥物基準⇒Smectite:70%,opalSiO:30%)10.7g(Smectite:7g,opalSiO:3g)を水275gを張ったガラス製広口ビン(ネジ蓋付)に加え入れ、固く蓋を閉じてよく振り混ぜ、2時間放置して膨潤させた後、下記調製法によって別途に調製した合成タルク粉末(付着水分:10.0% )31.1gを加えて1時間攪拌し、スメクタイト族粘土鉱物と合成タルクとを1:4の重量比で含有しているペースト状の混合粘土組成物を得た。該ペースト状組成物(固形分濃度:11.9%,pH:8.6)についての油性汚れ洗浄性試験の結果を表1に記載した。但し、本例の吸油・収着量の試験においては、周囲の濾紙部分への油の滲み出しハローがいずれにおいても明瞭には認められなかった。その原因は不明であるが、一方、24時間静置後の5%懸濁液を目視観察すると、Run No.4以降においては、液の上部で油相が懸濁水相と分離して浮いているのが観察されたので、本例の吸油・収着量は0.5〜1.0ml/gと判定した。また、本例の吸油・収着量の測定に用いた24時間静置後の5%懸濁液は、合成タルク粒子と思われる成分が偏析して下部に沈降分離しており、希釈により分散安定性が低下するペーストであることがわかった。
【0070】
合成タルク粉末の別途調製:
市販のホワイトカーボン(付着水分:6.7%,乾燥物基準⇒SiO:95%)406g(SiO:360g)を水約6kgを張ったステンレス鋼製タンク(内容積:11L)に加え入れ、攪拌下、市販の工業用水酸化マグネシウム粉末(付着水分:1.6%,乾燥物基準⇒MgO:67%)273g(MgO:180g)を加えて混合スラリーとなし、攪拌しながら加熱昇温して、95℃で8時間、反応を継続(途中、反応の進行や加熱による水の蒸散によってスラリーの粘度が上昇し攪拌に支障が生じたら、適当量の足し水を行なう。)した。反応終了後、母液スラリーを吸引濾過により固液分離し、濾過ケーキを箱型電気乾燥機に入れて110℃で乾燥した。乾燥ケーキを小型衝撃粉砕機(不二電機工業(株)製サンプルミル)にかけて粉砕し、目的の合成タルク粉末を得た。BET比表面積の測定の結果、本品は598m/gの比表面積を有していた。
【0071】
(応用実施例1)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物について、食器用洗剤としての実用試験を行なった。
豚肉入り野菜炒めを盛り付け、食事後に下げられた陶製皿(直径:20cm)であって、食べ残しを捨てたのちもまだ多く付着している油汚れを流水でさっと洗い流した皿の上に、本品(ペースト状組成物)約20gをのせた。その上から、一たん水を含ませたのち手で水をしぼり出した食器洗い用スポンジ(未使用品)を当て、皿の全面に満遍なくペーストをかき回すように塗りつけながら、油分とペーストがよく混じり合うようにした。直後乃至数分後、流水をかけ流して濯ぎ洗うと、皿の全面が完全に水に濡れた状態にあり、油分が殆ど残ってないように観察された。乾燥後の皿の表面には汚れが殆ど認められず、食器用洗剤として優れた性能を示した。
【0072】
(応用実施例2)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物について、調理具用洗剤としての実用試験を行なった。
調理した豚肉入り野菜炒めを料理皿に空けたのちに多く付着している油を紙でさっと拭いたフライパンについて、従来からこびり付いている油脂分も含めて全面的に脱脂する目的で行なった。同フライパンの中央部分に本品(ペースト状組成物)約50gをのせた。その上から、一たん水を含ませたのち手で水をしぼり出した食器洗い用スポンジを当て、パンの全面に満遍なくペーストをかき回すように塗りつけながら、油分とペーストがよく混じり合うようにした。直後乃至数分後、流水をかけ流して濯ぎ洗うと、油分が殆ど残ってないように観察された。乾燥後のパンの表面には汚れが殆ど認められず、調理具用洗剤として優れた性能を示した。
【0073】
(応用実施例3)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物について、マナイタおよび手指用洗浄剤としての実用試験を行なった。
その上でマイワシ(生魚)5匹を捌いた後の樹脂製マナイタを洗浄する目的で行なった。同マナイタの中央部分に本品(ペースト状組成物)約50gをのせた。その上から、一たん水を含ませたのち手で水をしぼり出した食器洗い用スポンジを当て、マナイタの全面に満遍なくペーストをかき回すように塗りつけながら、マイワシからの油や血水やハラワタからの液状内容物等とペーストがよく混じり合うようにした。数分後、流水をかけ流して濯ぎ洗うと、油分等は殆ど残ってないように観察された。マイワシの独特の生臭さも脱臭され、マナイタの表面に鼻を近づけても殆ど臭わなかった。調理で魚体を持ったりして生臭く且つ油汚れで不快な感触の残る手指に、本ペースト(約20g)を両手で揉み・擦り合わすように満遍なく塗りつけて流水で濯ぎ洗うと、生臭さが殆ど無くなり油汚れもスッキリと取れた。また、調理に用いた出刃包丁の刃と柄の部分の全面に本ペースト(約10g)を満遍なく塗りつけて数分後に流水で濯ぎ洗うと生臭さは殆ど消えた。このように、本品はマナイタおよび手指用洗浄剤としても優れた性能を示した。
【0074】
(応用実施例4)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物84gに重曹(重炭酸ナトリウム、試薬特級、純度:99.5〜100.3%)10gを加えたものについて、レンジ周り調理台洗浄用クレンザーとしての実用試験を行なった。
従来からの揚げ物や炒め物の調理で飛び散った油脂分等が酸化・重合して被膜となりこびり付いているレンジ周り調理台床面の油性汚れ(硬化油膜)を取る目的で行なった。指で撫でるとベトツキ感があり、淡灰褐色の硬化油膜で覆われたステンレススチール製調理台のレンジに近い部分の約10cm径の円形領域の中央部分に本品(重曹含有ペースト状組成物)約20gをのせた。その上から、市販の調理用紙(キッチンタオル、210mm×220mm/2枚重ね)を四つ折りにしたものを当て、その円形領域に満遍なくペーストをかき回すように塗り付けながら、20回程やや強く擦り続けた。直後乃至数分後、一度水を含ませ軽く絞ったタオル地製台布巾で、その油性汚れを含んだペーストを何度か繰り返して残らず拭い取り、最後に、何度か水で洗って清浄にした台布巾できれいに拭き取った。その後のその円形領域は、周囲の硬化油膜で汚れた部分と比べて、淡褐色の油性汚れは殆ど落ちて無くなり、きれいなステンレススチールの地肌が表れ、指で触っても油分によるベトツキ感が全く感じられなかった。また、地の金属面には従来からの細かいキズ以外に新しく出来たと見られるキズはなかった。このように、本品は粘性の高い、重合した油が付着するレンジ周り調理台洗浄用クレンザーとしても優れた性能を示した。
【0075】
(応用実施例5)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物84gに重曹(重炭酸ナトリウム、試薬特級、純度:99.5〜100.3%)10gを加えたものについて、台布巾用洗剤としての実用試験を行なった。
油分が多くニンニク臭の強い中華料理(麻婆豆腐)が食卓上にこぼれた部分を、一度水を含ませ固く絞った白いタオル地製台布巾で拭き取り、温水で何度も濯ぎ洗いをした後に手で固く絞った。台布巾を手で広げたところ、固形物の汚れは何も無かったが、食材からのやや赤みの色素を含んだ油汚れとニンニク臭が主体の強い臭いが残存しており、手にもベトベトした不快な感触が残った。その広げた布巾の中央部分に、本品(重曹含有ペースト状組成物)約20gをのせ、ペースト乃至スラリー状の本品が布地の繊維の隙間にまで入り込むように布巾全体を両手でよく揉み・擦り合わせた。一度、水による濯ぎ洗いをして固く絞った後、もう一度、同様の作業を繰り返した。最後に、水による濯ぎ洗いをして固く絞ったところ、布巾に触っても油汚れは感じられず、手にもベトベトした不快な感触は残らなかった。また、布巾にも手にも洗浄前の強い臭いはなく、ニンニク臭が混じった食物臭が微かに感じられる程度であった。このように、本品は台布巾の洗浄に用いても実用上充分な性能を示した。
【0076】
(応用実施例6)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物について、調理用紙(キッチンペーパー)用として実用試験を行なった。
市販の調理用紙製シート(クッキングペーパー、275×240mm)をガラス板の上に置き、実施例1のペースト状複合粘土組成物を水で薄めて流動性のあるスラリー状(固形分濃度:9.7%)となし、該シート上にコーティングロッド(ワイヤーバー)を用いてコーティングした。室内で風乾後、塗工面のなるべく均質な部分を切り取り、4枚の複合粘土組成物コーティングシート(60×60mm、コーティング量:約50g/m2)を得た。このとき、塗工面では複合粘土成分がシート表面の上部にやや厚めの層を成して塗布されているだけでなく、シートの裏面に達する内部全域に染み渡って内填されていた。実施用として該コーティングシート1枚を裏返した下にコーティング前のシート(クッキングペーパー)1枚を重ねて置いたもの(Aセット・二重シート)と比較用としてコーティング前のクッキングペーパーだけを2枚重ねて置いたもの(Bセット・二重シート)の2つのセットを用意した。
【0077】
<揚げ物料理の敷き紙用としての試験>
両セットのそれぞれの二重シートの上に、1mLの駒込ピペットから食用なたね油(微黄色)を滴下したところ、Aセットでは滴下につれて吸油域は水平二次元方向に大きく円状に広がってゆきコーティング層に吸油・収着されるため、下の2枚目のシートには達しにくく、10滴(0.25ml)を滴下したところでようやく下のシートの裏に小さな吸油点が現れた。一方、Bセットでは1滴(0.025ml)を滴下したところ、上から見ると小さな円形のスポットとなり、水平方向にはあまり広がらず三次元方向に広がってゆくため、下の2枚目のシートにもすぐに達し、最初の1滴目で、下のシートの裏まで吸油点が現れ、油の浸透が二重シートの裏まで達していることがわかった。さらに、両セットのそれぞれの二重セットの上に、もう1枚のコーティング前のシート(クッキングペーパー)を重ねて置き、それぞれを、A´セット・三重シートおよびB´セット・三重シートとして、同様の試験を行なったところ、A´セットでは10滴(0.25ml)を滴下しても、最下の3枚目のシートの裏までは油が浸透せず、B´セットでは1滴(0.025ml)を滴下したところで最下の3枚目のシートの表層にまで達し、2滴(0.05ml)滴下では該シートの裏まで油が浸透していることがわかった。
【0078】
<解凍食材の敷き紙用としての試験>
解凍食材から滲出してくるドリップ(液汁)として、冷凍マグロの切身(赤身・3片、50×50×10mm)を1片ずつ3個のシャーレ(φ90mm)に入れて約6時間室温下に放置し、滲み出てきたドリップを集め(約1ml)、水で3倍に薄めて約3mlの試験用ドリップ液を調製した。
前記両セットのそれぞれの二重シートの上に、駒込ピペット(1ml用)から該ドリップ液(淡赤褐色)を滴下したところ、Aセットでは滴下につれて吸液域は水平二次元方向に大きく円状に広がってゆきコーティング層に吸液・収着されるため、下の2枚目のシートには達しにくく、5滴(0.1ml)を滴下したところでようやく下のシートの裏に小さな吸液点が現れた。一方、Bセットでは1滴(0.02ml)を滴下したところ、上から見ると小さな円形のスポットとなり、水平方向にはあまり広がらず三次元方向に同じように広がってゆくため、下の2枚目のシートにも達し、2滴(0.04ml)滴下では該シートの裏までドリップ液が浸透していることがわかった。
2つの試験結果より、本応用実施例の調理用紙は揚げ物料理の敷き紙または解凍食材の敷き紙として実用性の高いものと評価された。
【0079】
(応用実施例7)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物について、洗髪用シャンプーとしての実用試験を行なった。
市販のシャンプーにより通常の洗髪を行なってから3日後に、本品(ペースト状組成物)約30gを頭髪全体にいきわたらせてから、通常の洗髪と同様に手でよく揉み洗いをした。一度かけ水をしてから、さらに本ペースト状組成物約30gを用いて同様の揉み洗いとをして、シャワーによる散水でよく濯ぎ洗いをし、乾いたタオルでよく拭き取った後、ヘアドライヤーで髪を乾かした。本例による洗髪後においては、例えばティッシュペーパーで髪を挟んで扱いても皮脂分の移行によるペーパー接触部分の半透明化は見られず、頭皮と髪の脂気がよくとれていることがわかったが、スメクタイト成分による保湿効果のためか髪のパサツキ感はなかった。最後にヘアトニックを用いて整髪したところ、通常と同様の仕上がりとなった。このように、本品は洗髪用シャンプーとして実用上充分な性能を有するばかりでなく、環境負荷の大きな有機化合物成分(有機界面活性剤など)を全く含まないことから、例えば環境保護地域内でのキャンプなど、アウトドア-ライフにおけるヘアシャンプーやボディーシャンプーとしても極めて有用であると評価された。
【0080】
(応用実施例8)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物について、ペットのボディーシャンプーとしての実用試験を行なった。
市販のペット用シャンプーにより通常のシャンプーを行なってから7日後の小型の室内飼育犬(犬種:シーズー、性別:雄、年齢:10歳)を対象に、本品(ペースト状組成物)約150gを両肩より後部の胴体と四脚の全体にいきわたるように塗り付けてから、通常のシャンプーと同様に手でよく揉み洗い(約2分間)をした。その後、シャワーによる散水でよく濯ぎ洗いをし、乾いたタオルでよく拭き取った後、ヘアドライヤーで体毛を乾かした。本例による洗浄後においては、比較のために故意に洗浄していない頭部や首周辺(非洗浄部位)に比べて、後部の胴体・脚部(洗浄部位)の体毛は皮脂によるベトツキがなく、手で触るとふっくらとした感触に仕上がっていた。因みに、洗浄部位の体毛の上をティッシュペーパーで強く擦っても皮脂分の移行によるペーパー接触部分の半透明化は見られず、体毛の脂気がよくとれていることがわかったが、スメクタイト成分による保湿効果のためか毛のパサツキ感はなく毛のツヤも良かった。また、非洗浄部に強く残っている犬種特有の体臭も非洗浄部では脱臭されて微かな臭いにまで薄められていた。このように、本品はペット用シャンプーとして実用上充分な性能を有するばかりでなく、ときにはペットの皮膚にアレルギー反応を起こさせる恐れのある有機化合物成分(有機界面活性剤など)を全く含まないことから、安全性の高いペット用シャンプーとしても極めて有用であると評価された。
【0081】
(応用実施例9)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物について、歯磨き用洗浄剤としての実用試験を行なった。
本例では、食事でとんかつライスを食した後、水で口を漱いでも口内や歯及び歯茎に付着して残る油脂分および微細な澱粉質歯垢を除去する目的で、本ペースト状組成物約5gを歯ブラシにとり、通常のやり方で2分間歯みがきをした。一度水で口を漱いでから、さらに本ペースト約5gを用いて同様のやり方で1分間みがき、約180mlの水で口をきれいに漱いだところ、食事後の歯みがき前に比べて、口内に残脂感がなくサッパリとした感触があった。また、歯の表面を人差し指で触ると、水分で濡れており、凹面鏡で拡大して見ても、残脂や残垢は認められなかった。
【0082】
(応用実施例10)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物について、機械油汚れ除去用洗浄剤としての実用試験を行なった。
機械修理等の作業後の手指等の油汚れを模して、機械油(鉱物油系潤滑油)約0.5mlほどを駒込ピペットから左手の平に滴下し、両手の平を摺りあわせて油を全体に広げた後、本ペースト状複合粘土組成物約20gを片手の平に置いてから、両手指を互いに満遍なく絡ませるように擦り合わせて、油分とペーストがよく混じり合うようにした。一度流水で濯ぎ洗い、再び本ペースト約20g用いて同様の動作を繰り返して、多量の流水をかけ流して濯ぎ洗うと、両手の平と甲の全面が撥水性を示さずに水に濡れた状態になり、油分が殆ど残ってないように観察された。また、手指の感触からも、油汚れによるベタツキ感がなく、手指はきれいに洗浄されて元の清浄な状態に戻っていた。このように、本品は機械油汚れ除去用洗浄剤として用いても実用上充分な性能を示した。
【0083】
(応用実施例11)
実施例1で得られたペースト状複合粘土組成物について、実験器具用洗浄剤としての実用試験を行なった。
食用油脂(大豆油)を用いた実験に使用して内壁に多量の油分が付着した硼珪酸ガラス製試験管(φ21×200mm)に本品(ペースト状組成物)約10gを入れ、試験管ブラシを用いて管の内壁及び外壁を満遍なく擦る動作を繰り返して油分とペーストがよく混じり合うようにした。多量の流水で管の内外を濯ぎ洗うと、管の全面が完全に水に濡れた状態にあり、油分は全く残ってないように観察された。乾燥後の試験管の内外の表面には汚れが殆ど認められず、実験器具用洗浄剤としても優れた性能を示した。
【0084】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例1において原料として用いた天然スメクタイト系粘土のベントナイト(a)及び得られた複合粘土組成物(b)のX線回折パターンを示す図である。
【図2】本発明の洗浄剤の油汚れに対する洗浄力を説明するための図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スメクタイト族粘土鉱物と(B)合成タルクとからなる複合粘土組成物であって、X線回折測定において、スメクタイトの[001]面及び合成タルクの[001]面に由来する回折ピークが実質上消失している複合粘土組成物を含有している洗浄剤。
【請求項2】
前記複合粘土組成物が、105℃乾燥基準で、(A)スメクタイト族粘土鉱物と(B)合成タルクとを、(A):(B)=1:2乃至1:9の重量比で含有している請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
さらにアルカリ金属の重炭酸塩または炭酸塩を含有している請求項1または2に記載の洗浄剤。
【請求項4】
前記複合粘土組成物が、X線回折測定において、オパールまたはクリストバライトのSiO結晶の[111]面によるX線回折ピークの強度が、スメクタイトの[020]面及び合成タルクの[020]面による合成ピークの強度よりも小さい請求項1乃至3の何れかに記載の洗浄剤。
【請求項5】
前記複合粘土組成物が、X線回折測定において、オパールまたはクリストバライトのSiO結晶の[111]面によるX線回折ピークが、実質上消失している請求項1乃至4の何れかに記載の洗浄剤。
【請求項6】
(A)スメクタイト族粘土鉱物がジオクタヘドラル型スメクタイトであり、X線回折測定において、ジオクタヘドラル型粘土鉱物の[060]面によるX線回折ピークとトリオクタヘドラル型粘土鉱物の[060]面によるX線回折ピークとが合成されて発現している請求項1乃至5の何れかに記載の洗浄剤。
【請求項7】
前記複合粘土組成物が、250m/g以上のBET比表面積を有する請求項1乃至6の何れかに記載の洗浄剤。
【請求項8】
スラリー、ペーストまたは湿潤ケーキの形態を有しており、105℃乾燥基準での固形分濃度が5乃至50重量%の範囲にある請求項1乃至7の何れかに記載の洗浄剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−50520(P2008−50520A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230494(P2006−230494)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(305013910)国立大学法人お茶の水女子大学 (32)
【出願人】(598167213)黒崎白土工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】