説明

洗浄方法

【課題】 人工透析装置等の医療機器や各種工業設備等に対して、高い洗浄性を示し、且つ排水の環境への負荷を低減できる洗浄方法を提供する。
【解決手段】 塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液1による被洗浄物の消毒洗浄を行った後、該洗浄液1に還元剤を添加することによりpH4以下に調整した洗浄液2による被洗浄物の酸洗浄を行う。この方法は、病院等で用いられている人工透析装置の洗浄方法として効果的に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器、各種工業設備等の洗浄方法に関し、特に人工透析装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品を製造するための設備や医療機器を洗浄する場合に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の塩素系消毒洗浄剤による洗浄と酸性水溶液による酸洗浄とを組み合わせて行うことが一般的に行われている。また水処理等のために限外濾過膜や精密濾過膜が介装された配管とこれらの膜の洗浄は、酸性水溶液による酸洗浄とアルカリ性水溶液によるアルカリ洗浄を組み合わせて行われている。さらに人工透析装置等の医療機器を消毒洗浄する場合、現在最も多く使われている洗浄剤として次亜塩素酸ナトリウムや酢酸が知られている。
【0003】
なかでも、次亜塩素酸ナトリウムに代表される塩素系消毒洗浄剤は、その強い殺菌力と共にたんぱく質や脂質等の有機物汚れを除去する力を有することから、人工透析装置の洗浄等、幅広い用途に使用されている。
【0004】
塩素系消毒洗浄剤を用いた洗浄排水は、環境への影響から、活性な塩素を極力低減して廃棄することが望まれる。こうした背景から、特許文献1には、被消毒器具を次亜塩素酸ナトリウム水溶液で消毒した後、該水溶液に還元剤を添加して次亜塩素酸ナトリウムを還元剤で分解する消毒方法が開示されている。また、特許文献2には、水溶液がアルカリ性となる還元剤を塩素系漂白除菌剤の無害化処理剤として用いることが開示されている。一方、酢酸等の有機酸を用いた酸洗浄はスケール除去の目的で行われるが、その排水はBOD値が高く、環境への影響が懸念されるだけでなく、コンクリート建造物を溶解破壊することで重大な事故を引き起こす危険性を有している。
【特許文献1】特開昭64−11552号公報
【特許文献2】特開平10−235335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各種医療器具や工業設備等の中で、人工透析装置の洗浄においては、除菌性の他にスケール除去性、蛋白質除去性、防錆性にも優れること、更には、これらを満たした上で、十分な排水処理を行うことが望まれるが、上記特許文献1、2の技術はこうした要望に十分に応えるものとは言い難い。
【0006】
従って本発明の課題は、高い洗浄性を維持したまま、次亜塩素酸塩等の塩素系消毒洗浄剤を用いた洗浄液や酢酸等の有機酸を用いた酸性洗浄液の洗浄排水が環境へ与える影響を低減できる洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の工程1を行った後に工程2を行う被洗浄物の洗浄方法に関する。
工程1:塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液1による被洗浄物の消毒洗浄
工程2:該洗浄液1に還元剤を添加することによりpHを4以下に調整した洗浄液2による被洗浄物の酸洗浄
【0008】
また、本発明は、上記本発明の洗浄方法に用いられる塩素系消毒洗浄剤と還元剤とから構成される洗浄剤キットに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、人工透析装置等の医療機器や各種工業設備等に対して、高い洗浄性を示し、且つ排水の環境への負荷を低減できる洗浄方法を提供する。本発明は、塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液1による被洗浄物の消毒洗浄を行った後、該洗浄液1に還元剤を添加することによりpH4以下に調整した洗浄液2による被洗浄物の酸洗浄を行う。この方法は、病院等で用いられている人工透析装置の洗浄方法として効果的に適用できる。
【0010】
本発明の洗浄方法は、従来、人工透析装置等の医療機器や各種工業設備の酸洗浄に用いられていた酢酸等の有機酸を使用しなくても、十分な洗浄が可能で、且つ環境への活性塩素の排出問題と酸洗浄液の排水の問題を同時に解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<洗浄液1>
洗浄液1は、塩素系消毒洗浄剤を含有する。塩素系消毒洗浄剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、塩素化イソシアヌル酸ナトリウム、塩素化イソシアヌル酸カリウム等の塩素化イソシアヌル酸アルカリ金属塩、塩素化イソシアヌル酸カルシウム等の塩素化イソシアヌル酸アルカリ土類金属塩が挙げられる。これらの中でも次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩が好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。一般に、次亜塩素酸ナトリウムは、水酸化ナトリウム水溶液に塩素ガスを吹き込んで製造され、水溶液の形態で用いられるが、その水溶液の安定化のため水酸化ナトリウムが存在している。こうした水酸化ナトリウム等のアルカリ成分は、工程2での還元剤によるpHの低下に影響を及ぼさない範囲であれば、洗浄液1に残存したまま使用しても問題はないため、本発明では、通常、工程2で還元剤が添加される洗浄液1にはアルカリ成分が存在する。
【0012】
また、洗浄液1は、有効塩素濃度が50〜5000ppm、更に200〜2500ppmであることが、消毒洗浄効果の点で好ましく、上記塩素系消毒洗浄剤は、この濃度を満たすように配合することが好ましい。なお、有効塩素濃度は、工程1の開始から終了までの何れかで上記濃度であれば良いが、少なくとも工程1の開始時の濃度(初期濃度)が上記範囲であることが好ましい。
【0013】
また、洗浄液1は、pHが7以上、更に9以上で用いることが、蛋白質除去性の点で好ましい。pHの調整は、適当なアルカリ剤を添加しその含有量を調整することにより行うことができる。
【0014】
<洗浄液2>
洗浄液2は、上記工程1で用いた洗浄液1、すなわち、工程1を終えた洗浄液1に還元剤を添加することにより、pHを4以下、好ましくは3以下に調整したものである。この範囲のpHの洗浄液2を用いることで、酸洗浄の効果が得られる。
【0015】
還元剤としては、チオ硫酸塩、重亜硫酸塩、次亜硫酸塩及びアスコルビン酸塩から選ばれる1種以上が挙げられる。チオ硫酸塩がより好ましい。塩はナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が好ましい。工程2で添加される還元剤は、洗浄液1中の有効塩素に対して、20〜200モル%、更に25〜150モル%、特に30〜100モル%の割合で用いられることが、得られる洗浄液2のpHが低下しやすく、また優れた酸洗浄効果が得られるという観点から好ましい。25〜30モル%もより好ましい。
【0016】
例えば還元剤がチオ硫酸ナトリウムの場合、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に添加すると、下記反応式(1)と反応式(2)の反応によって塩素が不活化される。洗浄液1には、前述したようにアルカリ成分(水酸化ナトリウム等)が存在しているので、反応式(1)が進行する。次亜塩素酸ナトリウム水溶液には平衡で微量の塩素が存在するが、反応式(1)でpHが低下すると塩素が増加し、反応式(2)が進行する。適当にチオ硫酸ナトリウムの添加量を制御すると、反応式(2)で発生する酸によってpHの低下が起こるため、これを酸洗浄に用いることができる。すなわち、本発明では、塩素の不活化と酸洗浄を同時に実現できる。
Na2S2O3+4NaClO+2NaOH → 2Na2SO4+4NaCl+H2O 反応式(1)
Na2S2O3+4Cl2+5H2O → 2NaCl+2H2SO4+6HCl 反応式(2)
【0017】
<その他の成分>
上記洗浄液1及び洗浄液2は、界面活性剤、キレート剤及び防錆剤を含有することができる。これらの成分は、予め各洗浄液に添加してもよいし、各工程の途中において添加してもよい。
【0018】
界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、アルキルスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩の陰イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルグリセリルエーテル、アルキルグリセリルエーテル、アルキルポリグリコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビット、アルキルアミンオキシド等の非イオン界面活性剤;アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン等の両性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩が好ましい。なお、被洗浄物が界面活性剤を吸着するフィルターを含む場合、界面活性剤は使用しない方が好ましい。
【0019】
界面活性剤を各工程の途中で添加する場合、各工程のできるだけ早い段階で添加する方が高い洗浄効果が得られる。界面活性剤の含有量は、洗浄液1中又は洗浄液2中では、1〜1000ppm、更に10〜1000ppm、特に50〜500ppmが好ましい。
【0020】
キレート剤としては、縮合リン酸塩(ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩、ヘキサポリリン酸塩)、ポリアクリル酸塩、アクリル酸塩−マレイン酸塩共重合体、有機フォスホン酸塩(アミノトリ(メチレンフォスホン酸)塩、1−ヒドロキシエチリデン1,1−ジフォスホン酸塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンフォスホン酸)塩、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンフォスホン酸)塩、フォスホノブタントリカルボン酸塩)等が挙げられる。キレート剤としては、縮合リン酸塩、有機フォスホン酸塩が好ましい。また、キレート剤の含有量は、洗浄液1中又は洗浄液2中では、1〜1000ppm、更に10〜500ppm、特に20〜200ppmが好ましい。
【0021】
防錆剤(キレート剤として機能するものもある)としては、珪酸塩(オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、1号珪酸塩など)、リン酸塩、硝酸塩、上記有機フォスホン酸塩、シュウ酸塩、ホウ酸塩等が挙げられる。防錆剤としては、珪酸塩や、上記有機フォスホン酸塩が好ましい。また、防錆剤の含有量は、洗浄液1中又は洗浄液2中では、0.001〜200ppm、更に0.01〜50ppm、特に0.1〜20ppmが好ましい。
【0022】
<洗浄方法>
工程1及び工程2:
本発明では、塩素系消毒洗浄剤を含有する上記洗浄液1による被洗浄物の消毒洗浄(工程1)を行った後に、該洗浄液1、すなわち、工程1を終えた洗浄液1に還元剤を添加することによりpHを4以下に調整した洗浄液2により被洗浄物の酸洗浄(工程2)を行う。何れの工程においても、洗浄液の温度は、15〜95℃とすることができる。なかでも、工程1は15〜60℃が好ましく、工程2は30〜60℃が好ましい。洗浄液と被洗浄物は充分に接触させることが重要で、浸漬する方法の他、ライン洗浄等の場合、通液時の流速を調整する方法や通液後の滞留時間を調整する方法が利用できる。被洗浄物が送液ライン等を含む閉鎖系の場合には、適当な流速(例えば0.1〜50リットル/分)で循環洗浄する方法が好ましい。またエアーバブリングや超音波を併用することもできる。
【0023】
また、本発明では、前記工程2を行った後に、更に下記の工程3を行うことが好ましい。
工程3:工程2を終えた前記洗浄液2に還元剤及び/又はアルカリ剤を添加することによるpH5〜9の範囲への調整
【0024】
工程3におけるpHの調整は、前記還元剤や、アルカリ剤を用いることができ、還元剤を用いる場合、洗浄液1中の有効塩素に対して、20〜200モル%、更に25〜150モル%、特に30〜100モル%の割合で用いることが、pHの調整のしやすさと排水のCOD値の観点から好ましい。30〜45モル%もより好ましい。
【0025】
工程3にアルカリ剤を用いる場合、洗浄液1中の有効塩素に対して、10〜100モル%、更に好ましくは12〜75モル%、特に15〜50モル%の割合で用いる事が、pHの調整のしやすさの観点から好ましい。
【0026】
工程3によりpHが5〜9の範囲に調整された洗浄液2は、そのまま廃棄できるため、好ましい。したがって、本発明では、工程3によりpHが調整された洗浄液を廃棄することを含んでいても良い。
【0027】
また、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、及び炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩から選ばれる1種以上が挙げられる。これらアルカリ剤は、工程3において、洗浄液2のpHを5〜9の中性付近に調整するのに有効であり、洗浄液1の有効塩素濃度と還元剤の添加量に応じて添加量を調整すればよい。工程3では還元剤又はアルカリ剤だけを添加してもよいし、還元剤とアルカリ剤の両方を添加してもよい。
【0028】
なお、本発明を実施するにあたり、工程2における還元剤、工程3における還元剤及び/又はアルカリ剤は、それぞれ、これらの成分を含有する水溶液として、供給タンク等から各洗浄液に供給されることが好ましい。その際、工程3では、洗浄液2中の塩素が既に不活化されており、少量のアルカリ成分でもpHを容易に上昇できることから、比較的低濃度でアルカリ成分を含有する水溶液を用いることができる。一方、上記の通り、工程2においても少量のアルカリ成分の存在は許容できるため、還元剤とアルカリ剤とを含む水溶液を、工程2及び工程3に共通して用いることができ、これにより設備をより簡易化できるため好ましい。例えば、還元剤がチオ硫酸ナトリウムで、アルカリ剤が水酸化ナトリウムの場合、重量比で還元剤/アルカリ剤は10/1〜5/1が好ましい。もちろん、工程2におけるpHの調整という観点では本質的にアルカリ剤は不要であるため、工程2における還元剤、工程3における還元剤、工程3におけるアルカリ剤のそれぞれの供給手段を設けて、別々に供給することも可能である。工程3の温度は、好ましくは15〜95℃、更に好ましくは15〜60℃とすることができる。
【0029】
上記で説明した塩素系消毒洗浄剤と、これを含有する洗浄液1に添加してpHを4以下に調整し得る還元剤とから、上記本発明の洗浄方法のための洗浄剤キットを構成することができる。
【0030】
本発明の洗浄方法は、工程1で塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液1を用いることで強い殺菌力と優れたたんぱく汚れ除去力が得られること、及び工程2でpH4以下の洗浄液2を用いることで良好な炭酸カルシウムの溶解除去力が得られることから、人工透析装置の洗浄に好適である。
【実施例】
【0031】
<実施例1>
被洗浄物として日機装製個人用透析装置DBG−01を用いて洗浄性を評価した。該装置のラインの一部を、下記の条件で汚染させたシリコンチューブに置き換え、工程1、2及び3の終了時点でそのシリコンチューブを取り外し、該チューブ内部の汚染具合を下記のように評価した。
【0032】
(1)シリコンチューブの汚染条件
約40cmのシリコンチューブ内に標準的な透析液(扶桑薬品工業株式会社、キンダリー液AF−1号)を満たして、横置きにして1週間静置した。炭酸カルシウムが析出したのを確認して上澄み液を廃棄した。更に馬血清の0.5mLをシリコンチューブ内面に落として、50℃で24時間横置きにして馬血清を熱劣化させ固着させた。この操作で得られた汚染シリコンチューブの炭酸カルシウム付着量は、該チューブ1m当たりに換算して6.0〜7.0mg/mであった。
【0033】
(2)評価法
(2−1)たんぱく汚れの評価法
洗浄終了後シリコンチューブを取り外し、血液(馬血清)汚れの部分を含む約5cmを縦に割断し、アミドブラック染色法でたんぱく付着状態を目視で評価した。
【0034】
(2−2)炭酸カルシウム付着量の評価法
残りのシリコンチューブ約30cmの内部に0.1N塩酸溶液を満たし、付着している炭酸カルシウム分を溶出し、その溶出液のCa濃度を測定して、付着炭酸カルシウム量を求めた。付着量はシリコンチューブ1m当たりに換算してmg/mの単位で示した。
【0035】
(3)洗浄及び評価結果
以下において、各工程の洗浄液pHや有効塩素濃度の測定は、汚れ評価用シリコンチューブの直前にサンプリングポートを設置し、循環中の洗浄液を注射器でサンプリングして行った。
【0036】
次亜塩素酸ナトリウムを7.2重量%(有効塩素として)、メタ珪酸ナトリウムを0.02重量%、トリポリリン酸ナトリウムを1.4重量%含有する塩素系洗浄剤原液水溶液を水で1.4倍に希釈した一次希釈液を、塩素系洗浄剤タンクに充填した。逆浸透法で精製された水(以下RO水という)で満たされた被洗浄物ラインに塩素系洗浄剤一次希釈液を供給し、有効塩素濃度1010ppmの洗浄液1を調製した。塩素系洗浄剤タンク中の一次希釈液の重量減少は10.57gであった。この洗浄液1のpHは10.6であった。この洗浄液1を被洗浄物ラインに流速0.5リットル/分で40分間循環させて36℃で洗浄を行った(工程1)。
【0037】
その後、還元剤供給タンクから、チオ硫酸ナトリウムを20.0重量%、NaOHを3.2重量%含有する還元剤原液水溶液の1.94g(チオ硫酸ナトリウムが洗浄液1中の有効塩素に対して32.1モル%)を同じ被洗浄物ラインに注入した。50分後の洗浄液のpHは2.75に低下し、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満になっていることを確認した。この酸性液を洗浄液2として、炭酸カルシウム等のスケール成分を除去する目的で、流速0.5リットル/分で30分間循環させて36℃で酸洗浄を行った(工程2)。
【0038】
その後、同じ還元剤原液水溶液1.90gを同じ被洗浄物ラインに注入し、上記と同じ条件で循環させた。5分後の洗浄液pHは6.12で、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満であった。この洗浄液は2時間後のpHが6.05であった(工程3)。
【0039】
上記工程3の後、汚れ評価用シリコンチューブを取り外し、上記の方法でたんぱく付着と炭酸カルシウム付着量を測定した結果、たんぱく付着は認められず、炭酸カルシウム付着量は0.01mg/mであり、洗浄前に付着していたほとんどの炭酸カルシウムが除去されていた。
【0040】
<実施例2>
以下の方法で実施例1同様に、評価を行った。次亜塩素酸ナトリウム7.0重量%(有効塩素として)、メタ珪酸ナトリウムを0.02重量%含有する塩素系洗浄剤原液水溶液を水で1.4倍に希釈した一次希釈液を、塩素系洗浄剤タンクに充填した。RO水で満たされた被洗浄物ラインに塩素系洗浄剤一次希釈液を10.68g供給し、有効塩素濃度992ppmの洗浄液1を調製した。この洗浄液のpHは10.6で、被洗浄物ラインに流速0.5リットル/分で40分間循環させながら60℃に加温して洗浄を行った(工程1)
【0041】
その後、還元剤供給タンクから、チオ硫酸ナトリウムを20.0重量%、NaOHを3.2重量%含有する還元剤原液水溶液の1.94g(チオ硫酸ナトリウムが洗浄液1中の有効塩素に対して32.6モル%)を同じ被洗浄物ラインに注入した。5分後の洗浄液pHは2.75に低下し、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満になっていることを確認した。この酸性液を洗浄液2として、炭酸カルシウム等のスケール成分を除去する目的で、流速0.5リットル/分で30分間循環させて60℃で酸洗浄を行った(工程2)。
【0042】
その後、同じ還元剤原液水溶液1.90gを同じ被洗浄物ラインに注入し、上記と同じ条件で循環させた。5分後の洗浄液pHは6.12で、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満であった。この洗浄液は2時間後のpHが6.15であった(工程3)。
【0043】
上記工程3の後、汚れ評価用シリコンチューブを取り外し、上記の方法でたんぱく付着と炭酸カルシウム付着量を測定した結果、たんぱく付着は認められず、炭酸カルシウム付着量は0.01mg/mであり、洗浄前に付着していたほとんどの炭酸カルシウムが除去されていた。
【0044】
<実施例3>
実施例1と同じ塩素系洗浄剤原液水溶液を水で1.4倍に希釈した一次希釈液を、塩素系洗浄剤タンクに充填した。RO水で満たされた被洗浄物ラインに塩素系洗浄剤一次希釈液を供給し、有効塩素濃度480ppmの洗浄液1を調製した。塩素系洗浄剤タンク中の一次希釈液の重量減少は5.02gであった。この洗浄液のpHは10.4であった。この洗浄液1を被洗浄物ラインに流速0.5リットル/分で40分間循環させて25℃で洗浄を行った(工程1)。
【0045】
その後、還元剤供給タンクから、チオ硫酸ナトリウムを10.0重量%、NaOHを1.5重量%、重亜硫酸ナトリウムを3.0重量%含有する還元剤原液水溶液の1.61g(チオ硫酸ナトリウムが洗浄液1中の有効塩素に対して28.0モル%)を同じ被洗浄物ラインに注入した。5分後の洗浄液pHは3.02に低下し、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満になっていることを確認した。この酸性液を洗浄液2として、炭酸カルシウム等のスケール成分を除去する目的で、流速0.5リットル/分で30分間循環させて25℃で酸洗浄を行った(工程2)。
【0046】
その後、同じ還元剤原液水溶液1.60gを同じ被洗浄物ラインに注入し、上記と同じ条件で循環させた。15分後の洗浄液pHは5.95で、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満であった(工程3)。
【0047】
上記工程3の後、汚れ評価用シリコンチューブを取り外し、上記の方法でたんぱく付着と炭酸カルシウム付着量を測定した結果、たんぱく付着は認められず、炭酸カルシウム付着量は0.01mg/mであり、洗浄前に付着していたほとんどの炭酸カルシウムが除去されていた。
【0048】
<実施例4>
実施例1と同じ方法で工程1及び工程2を行った。工程2の後、汚れ評価用シリコンチューブを取り外し、上記の方法でたんぱく付着と炭酸カルシウム付着量を測定した結果、たんぱく付着は認められず、炭酸カルシウム付着量は0.01mg/mであり、洗浄前に付着していたほとんどの炭酸カルシウムが除去されていた。
【0049】
<実施例5>
実施例2と同じ方法で工程1及び工程2を行った。工程2の後、汚れ評価用シリコンチューブを取り外し、上記の方法でたんぱく付着と炭酸カルシウム付着量を測定した結果、たんぱく付着は認められず、炭酸カルシウム付着量は0.01mg/mであり、洗浄前に付着していたほとんどの炭酸カルシウムが除去されていた。
【0050】
<実施例6>
実施例1と同じ塩素系洗浄剤原液水溶液を水で1.4倍に希釈した一次希釈液を、塩素系洗浄剤タンクに充填した。RO水で満たされた被洗浄物ラインに塩素系洗浄剤一次希釈液を供給し、有効塩素濃度1030ppmの洗浄液1を調製した。塩素系洗浄剤タンク中の一次希釈液の重量減少は10.80gであった。この洗浄液のpHは10.6であった。この洗浄液1を被洗浄物ラインに流速0.5リットル/分で40分間循環させて40℃で洗浄を行った(工程1)。
【0051】
その後、還元剤供給タンクから、チオ硫酸ナトリウム2.9重量%、NaOHを0.4重量%含有する還元剤原液水溶液の11.07g(チオ硫酸ナトリウムが洗浄液1中の有効塩素に対して26.0モル%)を同じ被洗浄物ラインに注入した。25分後の洗浄液pHは2.78に低下し、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満になっていることを確認した。この酸性液を洗浄液2として、炭酸カルシウム等のスケール成分を除去する目的で、流速0.5リットル/分で30分間循環させて、40℃で酸洗浄を行った(工程2)。
【0052】
その後、同じ還元剤原液水溶液8.53gを同じ被洗浄物ラインに注入し、上記と同じ条件で循環させた。15分後のpHは6.52で、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満であった(工程3)。
【0053】
<実施例7>
実施例1と同じ塩素系洗浄剤原液水溶液を水で2.0倍に希釈した一次希釈液を、塩素系洗浄剤タンクに充填した。RO水で満たされた被洗浄物ラインに塩素系洗浄剤一次希釈液を供給し、有効塩素濃度880ppmの洗浄液1を調製した。塩素系洗浄剤タンク中の一次希釈液の重量減少は13.18gであった。この洗浄液のpHは10.2であった。この洗浄液1を被洗浄物ラインに流速0.5リットル/分で40分間循環させて40℃で洗浄を行った(工程1)。
【0054】
その後、還元剤供給タンクから、チオ硫酸ナトリウムを0.8重量%、NaOHを0.11重量%含有する還元剤原液水溶液の33.0g(チオ硫酸ナトリウムが洗浄液1中の有効塩素に対して25.0モル%)を同じ被洗浄物ラインに注入した。25分後の洗浄液pHは2.95に低下し、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満になっていることを確認した。この酸性液を洗浄液2として、炭酸カルシウム等のスケール成分を除去する目的で、流速0.5リットル/分で30分間循環させて40℃で酸洗浄を行った(工程2)。
【0055】
その後、同じ還元剤原液水溶液26.0gを同じ被洗浄物ラインに注入し、上記と同じ条件で循環させた。15分後の洗浄液pHは5.80で、有効塩素濃度は検出下限の0.05ppm未満であった(工程3)。
【0056】
<試験例1>
次亜塩素酸ナトリウムを有効塩素濃度として1000ppm含有する水溶液に対して、工程2で用いる還元剤の添加量(モル%)と還元剤添加後の水溶液のpHと有効塩素濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
*1:水溶液中の有効塩素に対するモル%
*2:還元剤添加後のpH
*3:還元剤添加後の有効塩素濃度
【0059】
チオ硫酸ナトリウムの場合、前記反応式(1)及び反応式(2)からわかるように、有効塩素に対して25モル%の添加で、塩素分を不活化できる。表1の結果でも、25モル%以上の添加により塩素が検出されなくなるのが確認できる。重亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム又はアスコルビン酸では、各々100モル%、50モル%又は100モル%の添加量で、塩素分を不活化できる。pH4以下の酸性液を得るために、必ずしも全部の塩素を不活化するまで還元剤を添加する必要はない。工程2の還元剤がチオ硫酸ナトリウムの場合、有効塩素に対して20〜35モル%の添加量が好ましい。工程2の還元剤が重亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム又はアスコルビン酸の場合、有効塩素に対して各々90〜130モル%、40〜60モル%又は90〜130モル%の添加量が好ましい。また、上記水溶液のうち、pHが4以下のものは本発明の洗浄液2として使用できるが、工程2の後は、最終的に全ての塩素を不活化する上記のモル%以上の還元剤を添加することが好ましい(工程3)。なお、還元剤が過剰に添加されていても、浄化槽等の曝気により簡単に消失するので、環境面に重大な悪影響を与えることはない。
【0060】
<試験例2>
次亜塩素酸ナトリウムを有効塩素濃度として5020ppm含有する水溶液(水溶液1)に対して、還元剤のチオ硫酸ナトリウムを20モル%(対有効塩素)とアルカリ剤のNaOHを19.7モル%(対有効塩素)添加し(水溶液2)、更に同量のチオ硫酸ナトリウムとNaOHを添加した(水溶液3)場合のpHの経時的な変動を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
上記表2の水溶液1、水溶液2を用いて実施例1と同様の評価を行ったところ、炭酸カルシウムとたんぱく汚れをほぼ完全に除去できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1を行った後に工程2を行う被洗浄物の洗浄方法。
工程1:塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液1による被洗浄物の消毒洗浄
工程2:該洗浄液1に還元剤を添加することによりpHを4以下に調整した洗浄液2による被洗浄物の酸洗浄
【請求項2】
前記工程2を行った後に、更に下記の工程3を行う請求項1記載の洗浄方法。
工程3:工程2を終えた前記洗浄液2に還元剤及び/又はアルカリ剤を添加することによるpH5〜9の範囲への調整
【請求項3】
前記塩素系消毒洗浄剤が、次亜塩素酸塩及び塩素化イソシアヌル酸塩から選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記還元剤が、チオ硫酸塩、重亜硫酸塩、次亜硫酸塩及びアスコルビン酸塩から選ばれる1種以上である請求項1〜3の何れか1項記載の洗浄方法。
【請求項5】
工程2での還元剤の添加量が、前記洗浄液1中の有効塩素に対して、20〜200モル%である請求項1〜4の何れか1項記載の洗浄方法。
【請求項6】
工程3での還元剤の添加量が、前記洗浄液1中の有効塩素に対して、20〜200モル%である請求項2〜5の何れか1項記載の洗浄方法。
【請求項7】
工程3でのアルカリ剤の添加量が、前記洗浄液1中の有効塩素に対して、10〜100モル%である請求項2〜6の何れか1項記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記被洗浄物が人工透析装置である請求項1〜7の何れか1項記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記洗浄液1及び前記洗浄液2の何れか1つ以上に、防錆剤及び/又はキレート剤を含有する請求項1〜8の何れか1項記載の洗浄方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項記載の洗浄方法に用いられる塩素系消毒洗浄剤と還元剤とから構成される洗浄剤キット。

【公開番号】特開2006−43695(P2006−43695A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197318(P2005−197318)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】