説明

洗浄装置及び切削装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高圧水を用いることなく高圧水と同等の洗浄能力を有する洗浄装置及びその洗浄装置が組み込まれた切削装置に関する。
【0002】
【従来の技術】ダイシング装置等の切削装置によって半導体ウェーハ等の被加工物を切削すると、コンタミが表面に付着して被加工物を汚染する問題がある。この問題を解決する手段として、従来例えば図5のように切削ブレード1が配設された切削手段2に隣接して高圧水を噴射するノズル3を設け、このノズル3から40kgf/cm2 〜200kgf/cm2 の高圧水を噴射して半導体ウェーハ等の被加工物4にコンタミが付着するのを防止している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のように高圧水を噴射するためには、図5に示すダイシング装置等の切削装置5内の配管(図略)を高圧対応にしなければならず、高圧水生成装置Pも必要とすることから装置自体が高額になるという問題がある。又、既存の切削装置5を改造し高圧水を噴射して洗浄できるように構成するためには、配管を高圧対応のものに替えなければならず、大掛かりな配管改造が必要となって多くの時間を要し、相当期間切削装置5の稼働を停止しなければならないことから生産性の悪化を来し、且つ改造費が多く掛かって経済性が悪いといった問題が生じる。更に、高圧水を使用するには高圧水生成装置Pが不可欠となるため、設備の増大、設置面積の拡大及び設備投資等を余儀なくされ、極めて不経済であるという問題もある。従って、配管を高圧対応にすることなく、高圧水生成装置Pも不要で、新規の切削装置に限らず既存の切削装置にも容易に適用できるようにした洗浄装置を開発することが当面の課題となっている。
【0004】そこで、本発明は、高圧水を用いることなく高圧水と同等の洗浄能力を有する洗浄装置及びその洗浄装置を組み込んだ切削装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するための技術的手段として、本発明の請求項1は、噴出口を有するノズル手段と、このノズル手段に連結し市水程度の圧力で洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、ノズル手段に連結し2.7kgf/cm以上の圧力でエアーを供給するエアー供給手段と、から少なくとも構成された被加工物の表面を洗浄する洗浄装置であって、前記ノズル手段には、前記エアー供給手段から供給されたエアーの通気路と前記洗浄水供給手段から供給された洗浄水の通水路とが並設され、通気路と前記噴出口との間には直径が0.5mm〜3.0mmに設定された絞り部(オリフィス)が形成され、通水路は絞り部と噴出口との間又は絞り部の中間位置に合流している洗浄装置を要旨とする。又、本発明の請求項2は、請求項1の洗浄装置において、前記絞り部の直径は1.4mmであり、噴出口はラッパ状に形成されたことを特徴とする。更に、本発明の請求項3は、被加工物を保持するチャックテーブルと、このチャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削手段と、を少なくとも含む切削装置であって、前記切削手段はブレードと、このブレードを回転可能に支持するスピンドルユニットと、このスピンドルユニットに配設されるブレードカバーと、このブレードカバーに配設されて前記ブレードと被加工物との接触部に切削水を供給する切削水供給ノズルと、から構成されており、この切削装置には請求項1又は2記載の洗浄装置が装着され、この洗浄装置のノズル手段は、前記ブレードカバーに隣接して配設され、被加工物がブレードによって切削された領域を洗浄するようにした切削装置を要旨とする。そして、本発明の請求項4は、請求項3の切削装置において、前記ノズル手段は、ブレードの回転中心近傍に配設されると共に、洗浄水が被加工物に対して垂直に噴射されるように配設されることを特徴とするものである。上記のような構成により、供給するエアーの圧力が2.7kgf/cm以上であればノズル手段における絞り部の直径と噴出口の形状によって超音速になることを利用し、絞り部と噴出口との間又は絞り部の中間位置で、市水程度の圧力で供給水を混入することにより高圧の洗浄水を得ることができる。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳説する。従来と同一部材は同一符号を付ける。図1は、切削装置5(ダイシング装置)を示すもので、被加工物4(半導体ウェーハであって、粘着テープNを介してフレームFに固定されている)を複数枚収容したカセット6が上下動する載置領域5a上に載置され、把持機構を備えて前後動する搬出入手段7により被加工物4がカセット6内から待機領域5bに1枚ずつ搬出される。
【0007】待機領域5bに搬出された被加工物4は、旋回アームを有する搬送手段8により吸着されてチャックテーブル9上に搬送され、このチャックテーブル9に吸引されると共に両側の固定手段9aによりフレームFが固定されることでチャックテーブル9上に保持される。
【0008】チャックテーブル9は、回転可能に且つX軸方向に往復動可能に形成されており、このチャックテーブル9を移動して被加工物4を光学的アライメント手段10に位置付け、被加工物4の切削ラインの位置決め工程がなされる。この位置決め工程後に、チャックテーブル9を切削手段2に対して一定のストロークでX軸方向に往復動し、高速回転する切削ブレード1により被加工物4の切削工程がなされる。
【0009】この切削工程において、図2のように洗浄装置のノズル手段11から洗浄水が噴射され、この洗浄水によってコンタミが被加工物4に付着するのを防止する。洗浄装置は、図3(a)のように前記ノズル手段11と、このノズル手段11に連結し洗浄水例えば純水を供給する洗浄水供給手段12と、ノズル手段11に連結しエアーを供給するエアー供給手段13とから少なくとも構成され、洗浄水供給手段12とノズル手段11との間及びエアー供給手段13とノズル手段11との間にはバルブ14、15がそれぞれ設けられている。
【0010】洗浄水供給手段12とエアー供給手段13は、従来装置のものをそのまま利用し、図1のように切削装置5の給水接続口5c、給気接続口5dにそれぞれ接続される。そして、洗浄水供給手段12からは市水程度の圧力2kgf/cm2 で純水が供給され、その水は切削時に切削水供給ノズル16(図2)から噴射する切削水とノズル手段11から噴射する洗浄水として使用される。一方、エアー供給手段13からは2.7kgf/cm2 〜6.0kgf/cm2 のエアーが供給され、そのエアーは図示を省略したが切削手段2のエアースピンドル、エアーアクチュエータの駆動源及びノズル手段11への供給エアーとして使用される。
【0011】ノズル手段11は、ブレードカバー17に隣接して配設され、切削された被加工物4の切削溝4aの領域を効率良く洗浄するように、又スループットの関係で切削ブレード1の回転中心近傍に位置しており、洗浄水が被加工物4に対して垂直に噴射されるようにしてある。従来のノズル3と外観は類似するが、内部構造が異なっている。
【0012】図3(a)のように、ノズル手段11は、噴出口11aの手前に絞り部11d(オリフィス)が設けられ、この絞り部は直径0.5mm〜3.0mm(好ましくは1.4mm)に設定され、内部には通気路11bと通水路11cとが並設され、且つラッパ状に形成された噴出口11aの少し手前位置で両者は合流する構造にしてある。図3(b)は、ノズル手段11′の他の実施形態を示すもので、基本構造はノズル手段11と同じであるが、通気路11′bと通水路11′cとの合流点が絞り部11′dの側部中間位置に設定されたものである。尚、絞り部11′dは直径0.5mm〜3.0mm(好ましくは1.4mm)に設定されている。
【0013】切削工程時に、ノズル手段11に前記エアー供給手段13から所定圧のエアーを供給すると共に、洗浄水供給手段12から市水程度の圧力の水を供給すると、ノズル手段11の噴出口11aから高速の洗浄水が噴射され、この洗浄水は従来の高圧水を使用して洗浄する場合と殆ど変わらない洗浄効果が得られた。
【0014】洗浄効果を確認するために、従来の高圧水による洗浄と、本発明の洗浄水による洗浄との比較実験を行った。この比較実験において、図4のように半導体ウェーハWを一定の切削条件で切削し、切削後のコンタミの量と洗浄後のコンタミの量とをそれぞれ測定した。測定方法は、半導体ウェーハWの中央部W1 と、その左右の外周部W2 、W3及び上下の外周部W4 、W5 との計5箇所を選択し、前記アライメント手段10のCCDカメラで撮像し、各領域における明暗をCPUでデジタル変換して数値化し、5箇所の平均値をもってコンタミの量とした。
【0015】表1は、従来の高圧水による洗浄結果を示すもので、高圧水の圧力を100kgf/cm2 〜200kgf/cm2 の範囲内で3通り変化させて行った。供給水量はいずれも3500cc/分である。これによると、洗浄水の圧力が高いほどコンタミ除去量が多く、ちなみにコンタミ除去率を計算すると76%〜95%である。尚、コンタミが付着していない場合(汚れていない場合)の数値は200×106 であった。従って、洗浄後のコンタミの量が200×106 であれば、コンタミ除去率は100%となる。
(コンタミ除去率)=(洗浄により除去されたコンタミ量)/(洗浄前のコンタミ量−200×106
【表1】


【0016】表2〜表6は、本発明の洗浄水による洗浄結果を示すもので、絞り部の直径(ノズル手段のオリフィス)を5通り変えて行った。いずれも供給エアーの圧力は2.5kgf/cm2 〜6.0kgf/cm2 の範囲内で6通り変化させ、供給水量はいずれも140cc/分である。これによると、供給エアーの圧力が高くなるに連れてコンタミ除去量が多くなり、コンタミ除去率を算出すると、ノズルの直径が0.5mmの場合(表2)は35%〜60%、1.1mmの場合(表3)は53%〜85%、1.4mmの場合(表4)は56%〜95%、1.8mmの場合(表5)は57%〜95%、3.0mmの場合(表6)は55%〜94%である。
【表2】


【表3】


【表4】


【表5】


【表6】


【0017】コンタミ除去率を比較すると、ノズルの直径が0.5mmの場合は多少劣るが、それ以外の場合は高い数値を示しており、各場合とも供給エアーの圧力が2.7kgf/cm2 以上の時は、従来の高圧水の場合とほぼ同等のコンタミ除去率が得られることが判明した。ノズルの直径が1.4mm、1.8mm、3.0mmの場合、コンタミ除去率は同等であり、エアーの消費量を考慮するとノズルの直径は1.4mmであることが好ましい。
【0018】かくして、ノズル手段11、11′の絞り部11d、11′dを直径1.4mmに設定し、エアー供給手段13から少なくとも圧力2.7kgf/cm2 のエアーを供給し、洗浄水供給手段12からは市水程度の圧力水を140cc/分で供給し、ノズル手段11の噴出口11aから洗浄水を噴出することで、半導体ウェーハ等の被加工物4の切削時にコンタミの付着を防止することができる。エアー圧力とノズル径の調整により洗浄能力を変えることが可能である。
【0019】切削工程後は、チャックテーブル9が原点位置に戻され、被加工物4は図1に示す移動手段18により吸着されて洗浄・乾燥手段19に搬入される。そして、ここで更に洗浄及び乾燥された後に、被加工物4は前記搬送手段8により吸着されて待機領域5bに搬送され、次いで搬出入手段7により把持されてカセット6内に収容される。切削装置5での一連の工程はタイミングをとりながら連続的に且つ能率良く行われる。
【0020】本発明に係る洗浄装置は、ダイシング装置等の切削手段に隣接して配設する場合に限らず、他の切削装置、研削装置等の組み込まれた洗浄装置に、又は独立した洗浄装置に使用できるものである。
【0021】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、ダイシング装置等の切削装置で半導体ウェーハ等の被加工物を切削加工する際に、2.7kgf/cm2 以上(6.0kgf/cm2 以下)のエアーがノズル手段に供給され、このノズル手段に供給された洗浄水を合流させて噴射するように構成したので、従来40kgf/cm2 〜200kgf/cm2 の高圧水を使用して洗浄する場合と殆ど変わらない洗浄効果が得られると共に、使用する洗浄水が高圧水と比べ4%程であり極めて経済的である。又、本発明を実施するためにはノズル手段にエアー配管をするだけで良いと共に、使用する洗浄水の圧力は市水程度で充分足りることから、切削装置内部の配管を高圧対応にする必要がなく、高圧水を使用する従来装置に比べて安価に構成することができる。そして、高圧水生成装置が不要であるため設備費が掛からない。更に、既存のダイシング等を改造する場合においても、ノズル手段を装着し、エアー配管と水配管をするだけで良いことから、短時間で改造ができダイシング装置等の稼働の停止を最小限に抑えることができ、生産性を維持できると共に極めて安価に改造できるというメリットがある。又、ダイシング装置等の切削装置や加工装置が設置されている施設においては、一般的にエアースピンドル、エアーアクチュエータ、切削水、洗浄水等として使用されるエアー供給手段及び純水供給手段が設置されているため、本発明を利用するために特別な設備を必要とせず極めて経済的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る洗浄装置を組み込んだ切削装置を示す斜視図
【図2】切削手段の要部拡大斜視図
【図3】(a)は洗浄装置の構成を示す説明図、(b)はノズル手段の他の実施形態を示す概略断面図
【図4】コンタミ測定の選択位置を示す説明図
【図5】従来の切削装置の一例を示す斜視図
【符号の説明】
1…切削ブレード
2…切削手段
3…ノズル
4…被加工物
5…切削装置
6…カセット
7…搬出入手段
8…搬送手段
9…チャックテーブル
10…アライメント手段
11…ノズル手段
12…洗浄水供給手段
13…エアー供給手段
14、15…バルブ
16…切削水供給ノズル
17…ブレードカバー
18…移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 噴出口を有するノズル手段と、このノズル手段に連結し市水程度の圧力で洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、ノズル手段に連結し2.7kgf/cm以上の圧力でエアーを供給するエアー供給手段と、から少なくとも構成された被加工物の表面を洗浄する洗浄装置であって、前記ノズル手段には、前記エアー供給手段から供給されたエアーの通気路と前記洗浄水供給手段から供給された洗浄水の通水路とが並設され、通気路と前記噴出口との間には直径が0.5mm〜3.0mmに設定された絞り部(オリフィス)が形成され、通水路は絞り部と噴出口との間又は絞り部の中間位置に合流している洗浄装置。
【請求項2】 前記絞り部の直径は1.4mmであり、噴出口はラッパ状に形成された請求項1記載の洗浄装置。

【請求項3】
被加工物を保持するチャックテーブルと、このチャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削手段と、を少なくとも含む切削装置であって、前記切削手段はブレードと、このブレードを回転可能に支持するスピンドルユニットと、このスピンドルユニットに配設されるブレードカバーと、このブレードカバーに配設されて前記ブレードと被加工物との接触部に切削水を供給する切削水供給ノズルと、から構成されており、この切削装置には請求項1又は2記載の洗浄装置が装着され、この洗浄装置のノズル手段は、前記ブレードカバーに隣接して配設され、被加工物がブレードによって切削された領域を洗浄するようにした切削装置。

【請求項4】
前記ノズル手段は、ブレードの回転中心近傍に配設されると共に、洗浄水が被加工物に対して垂直に噴射されるように配設される請求項3記載の切削装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3410385号(P3410385)
【登録日】平成15年3月20日(2003.3.20)
【発行日】平成15年5月26日(2003.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−110945
【出願日】平成11年4月19日(1999.4.19)
【公開番号】特開2000−306878(P2000−306878A)
【公開日】平成12年11月2日(2000.11.2)
【審査請求日】平成13年5月17日(2001.5.17)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【参考文献】
【文献】特開 平6−97278(JP,A)
【文献】特開 平8−318181(JP,A)
【文献】特開 平8−89911(JP,A)
【文献】特開 平2−9124(JP,A)