説明

活性エネルギー線硬化型インク組成物、インクジェット記録方法、及び印刷物

【課題】高湿下でも短時間で硬化し易く、基材への密着性、及び、柔軟性に優れ、基材のしわ及びカールを抑制することができる活性エネルギー線硬化型インク組成物、インクジェト記録方法、及び印刷物を提供する。
【解決手段】オキセタン化合物とエポキシ化合物とを含有し、オキセタン化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%未満であり、エポキシ化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%を越え、オキセタン化合物の少なくとも1種は、下記一般式(A1)で表される第1のオキセタン化合物である活性エネルギー線硬化型インク組成物。


〔一般式(A1)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。RおよびRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、又はアリール基を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用として好適に用いられる活性エネルギー線硬化型インク組成物、インクジェット記録方法、及びこれを用いた印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3員環、4員環などの環状エーテル化合物は、高い反応性を示すことが知られており、光カチオン重合や酸無水物を用いる熱重合が適用される硬化性組成物に含まれる重合性化合物として利用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
一方、画像データ信号に基づき、紙などの被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット方式などがある。中でも、インクジェット方式は、安価な装置で実施可能であり、且つ、必要とされる画像部のみにインクを射出して被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。更に、騒音が少なく、画像記録方式として優れている。インクジェット方式によれば、普通紙のみならずプラスチックシート、金属板など非吸水性の被記録媒体にも印字可能であるが、印字する際の高速化及び高画質化が重要な課題となっており、印字後の液滴の乾燥、硬化に要する時間が、印刷物の生産性や印字画像の鮮鋭度に大きく影響する性質を有している。
【0004】
インクジェット方式の一つとして、放射線の照射により、硬化可能なインクジェット記録用インクを用いた記録方式がある。この方法によれば、インク射出後直ちに又は一定の時間後に放射線照射し、インク液滴を硬化させることで、印字の生産性が向上し、鮮鋭な画像を形成することができる。
紫外線などの放射線の照射により硬化可能なインクジェット記録用インクの高感度化を達成することにより、放射線に対し高い硬化性が付与され、インクジェット記録の生産性向上、消費電力低減、放射線発生器への負荷軽減による高寿命化、不充分硬化に基づく低分子物質の揮発発生の防止など、多くの利益が生じる。
【0005】
このような放射線、例えば紫外線による硬化型インクジェット方式は、比較的低臭気であり、速乾性、インク吸収性の無い被記録媒体への記録が出来る点で近年注目されつつある。その中の一つの形態として、被記録媒体への密着性に優れ、紫外線硬化時の収縮率が小さいカチオン重合型インク組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
一般的には、活性エネルギー線硬化型のインクとしては、ラジカル重合型のものがよく知られ、実用化の例が多い。一方カチオン重合型のインクは、ラジカル重合型インクに見られるような酸素による重合阻害が無く、低照度の光源を用いることができること、アクリルモノマーが持つ臭気がないこと、素材が低刺激性であることなど有利な点があるが、実用化の例は限られている。
【0007】
その一因としては、高湿下で著しく感度低下する性質、温度により感度が依存する性質が挙げられる。環境依存性のあるインクは、その画質が環境に依存するという本質的な課題を有する。
【0008】
このような課題に対し、反応速度を向上させる化合物として、オキセタン環の2位の水素原子がアリール基で置換されたオキセタン化合物である、2−(4−メトキシフェニル)−3,3−ジメチルオキセタンが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また、特許文献5には、優れた文字品質の高精細な画像を得ることを目的として、エポキシ化合物を主として用いる系で、オキセタン環の2位の水素原子がアリール基、及び、アルキル基で置換された2官能のオキセタン化合物を併用する硬化性組成物の例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−43540号公報
【特許文献2】特開平11−60702号公報
【特許文献3】特開平9−183928号公報
【特許文献4】特開2001−181386号公報
【特許文献5】特開2006−37112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4に記載されるオキセタン化合物は、開環カチオン重合系において、エポキシ化合物を代替し、オキセタン化合物を主として用いることを意図されている。この場合、確かにある程度の反応性を有するものの、低照度光源で微少液滴を硬化させる場合において、高湿環境における感度レベルはまだ十分でない。また、特許文献5に記載の硬化性組成物においても、低照度光源で微少液滴を硬化させる場合、高湿環境における感度レベルはまだ十分でなく、さらに、硬化膜の柔軟性が十分ではなく、しわやカールの発生が伴う場合があった。
【0012】
本発明は、前記従来技術における諸問題に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、高湿下でも短時間で硬化し易く、基材への密着性、及び、柔軟性に優れ、基材のしわ及びカールを抑制することができる活性エネルギー線硬化型インク組成物を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、前記活性エネルギー線硬化型インク組成物を用いたインクジェト記録方法、及び該インクジェット記録方法によって記録された印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
<1> 少なくとも、オキセタン化合物とエポキシ化合物とを含有し、前記オキセタン化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%未満であり、エポキシ化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%を越え、さらに、前記オキセタン化合物の少なくとも1種は、下記一般式(A1)で表される第1のオキセタン化合物である活性エネルギー線硬化型インク組成物である。
【0014】
【化1】

【0015】
一般式(A1)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。RおよびRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、又はアリール基を示す。
【0016】
<2> 前記第1のオキセタン化合物以外の第2のオキセタン化合物をさらに含有し、前記第1のオキセタン化合物及び、前記第2のオキセタン化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対してそれぞれ5〜40質量%であり、かつ、前記エポキシ化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して55質量%〜90質量%である<1>に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物である。
【0017】
<3> 前記第1のオキセタン化合物以外の第2のオキセタン化合物をさらに含有し、前記第1のオキセタン化合物及び、前記第2のオキセタン化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対してそれぞれ10〜30質量%であり、かつ、前記エポキシ化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して60質量%〜80質量%である<1>に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物である。
【0018】
<4> 前記エポキシ化合物の全質量に対して、単官能のエポキシ化合物が50質量%以下である前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物である。
【0019】
<5> 前記第1のオキセタン化合物と前記第2のオキセタン化合物との全質量に対して、単官能のオキセタン化合物が50質量%以下である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物である。
【0020】
<6> 前記エポキシ化合物は、重量平均分子量が100以上300以下である前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物である。
【0021】
<7> さらに、下記一般式(P)で表されるスルホニウム塩を含有する前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物である。
【0022】
【化2】


〔一般式(P)中、Xは、陰イオンを表す。〕
【0023】
<8> インクジェット記録用である前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物である。
【0024】
<9> 被記録媒体上に、前記<8>に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物をインクジェット記録装置により吐出する工程、及び、吐出された活性エネルギー線硬化型インク組成物に活性エネルギー線を照射して、該活性エネルギー線硬化型インク組成物を硬化する工程を含むインクジェット記録方法である。
【0025】
<10> 前記活性エネルギー線は、発光ダイオードにより照射され、発光ピーク波長が350nm〜420nmの範囲にあり、且つ、前記被記録媒体表面での最高照度が10mW/cm〜2,000mW/cmとなる紫外線である前記<9>に記載のインクジェット記録方法である。
【0026】
<11> 前記<9>又は前記<10>に記載のインクジェット記録方法によって記録された印刷物である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高湿下でも短時間で硬化し易く、基材への密着性、及び、柔軟性に優れ、基材のしわ及びカールを抑制することができる活性エネルギー線硬化型インク組成物を提供することができる。
また、前記活性エネルギー線硬化型インク組成物を用いたインクジェト記録方法、及び該インクジェット記録方法によって記録された印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<活性エネルギー線硬化型インク組成物>
本発明の活性エネルギー線硬化型インク組成物(以下、「インク組成物」とも称する)は、少なくとも、オキセタン化合物とエポキシ化合物とを含有し、前記オキセタン化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%未満であり、エポキシ化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%を越え、さらに、前記オキセタン化合物の少なくとも1種は、下記一般式(A1)で表される第1のオキセタン化合物である。
【0029】
【化3】

【0030】
一般式(A1)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。RおよびRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、又はアリール基を示す。
【0031】
オキセタン化合物及びエポキシ化合物は、活性エネルギー線の照射により重合可能なカチオン重合性化合物であり、オキセタン化合物の少なくとも1種は一般式(A1)で表されることが必要である。以下、一般式(A1)で表されるオキセタン化合物を、「特定重合性化合物」とも称する。本発明のインク組成物は、特定重合性化合物及びエポキシ化合物以外の重合性化合物を含有していてもよい。また、硬化促進のため、活性エネルギー線の照射により、例えば、酸を発生する光酸発生剤をさらに含有していてもよい。
【0032】
本発明のインク組成物においては、エポキシ化合物の総含有量が、オキセタン化合物の総含有量よりも大きいことが必要であり、具体的には、オキセタン化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%未満であり、エポキシ化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%を越える。
従来、オキセタン化合物とエポキシ化合物とを併用して、活性エネルギー線硬化型インク組成物を得る場合は、エポキシ化合物の総含有量よりも、オキセタン化合物の総含有量を多くインク組成物中に含有する必要があった。これは、オキセタン化合物の総含有量よりもエポキシ化合物の総含有量を多くした場合、オキセタン化合物とエポキシ化合物との重合により得られる重合体の分子量が大きくなりにくく、膜硬化性が低下することがあったためである。
【0033】
しかしながら、オキセタン化合物の少なくとも1種に、一般式(A1)で表される第1のオキセタン化合物(特定重合性化合物)を用いた場合には、理由は定かではないが、オキセタン化合物の総含有量よりもエポキシ化合物の総含有量を多くすることで、むしろ、硬化性が向上し、特に高湿度環境下(例えば、80%RH)において、低露光量でも短時間に硬化膜を形成し得ることがわかった。
特に本発明のインク組成物について、特定重合性化合物を含有し、前記第1のオキセタン化合物と前記第2のオキセタン化合物との含有量を全重合性化合物質量に対して50質量%未満、かつ、全エポキシ化合物の含有量を全重合性化合物質量に対して50質量%を越えるようにすることで、高湿下でも短時間で硬化し易く、基材への密着性、及び、柔軟性に優れ、基材のしわ及びカールを抑制することができる。
【0034】
インク組成物が第1のオキセタン化合物(特定重合性化合物)を含有せず、これに換えて、オキセタン環の2位に一般式(A1)に示す1つのアリール基以外の置換基を有する単官能オキセタン化合物、又は、オキセタン環の2位にアリール基が置換した多官能のオキセタン化合物を用いた場合には、十分な硬化性や、硬化膜の柔軟性を得ることはできない。これは、分子のモビリティが低いためと推測される。
なお、本発明においては、特定重合性化合物以外のオキセタン化合物を含んでいてもよく、特定重合性化合物以外のオキセタン化合物を「第2のオキセタン化合物」と称する。また、第1のオキセタン化合物と第2のオキセタン化合物との両方を合わせたもの「全オキセタン化合物」と称する。
【0035】
以下、本発明の活性エネルギー線硬化型インク組成物を構成する第1および第2のオキセタン化合物、エポキシ化合物、並びに、必要に応じて含有し得る任意成分について説明する。
【0036】
〔オキセタン化合物〕
−第1のオキセタン化合物(特定重合性化合物)−
本発明の活性エネルギー線硬化型インク組成物は、重合性化合物として、下記一般式(A1)で表される第1のオキセタン化合物(特定重合性化合物)を含有する。特定重合性化合物は、より具体的には一般式(A1’)に示されるとおり、オキセタン環の2位に、R〜Rを有する1つのアリール基と3つの水素原子とを有する単官能のオキセタン化合物である。
【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
一般式(A1)及び一般式(A1’)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。RおよびRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、又はアリール基を示す。
【0040】
一般式(A1)及び一般式(A1’)においてR〜Rとして表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、中でも、フッ素原子及び塩素原子が好ましい。
一般式(A1)及び一般式(A1’)においてR〜Rとして表される炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。中でも、直鎖または分岐状が好ましく、分岐状がより好ましい。炭素数は1〜4であることが好ましい。
【0041】
一般式(A1)及び一般式(A1’)においてR〜Rとして表される炭素数1〜6のアルコキシ基は、RO−と表すことができ、該Rは炭素数1〜6のアルキル基である。炭素数1〜6のアルキル基として表されるRは、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。従って、炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
は、中でも、直鎖または分岐状が好ましく、直鎖状がより好ましい。炭素数は1〜2であることが好ましく、1がより好ましい。
【0042】
一般式(A1)及び一般式(A1’)においてR〜R同士は、2価の連結基を介して結合されていてもよい。2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、エステル基、カルボニル基、アミド基、酸素原子、硫黄原子等が挙げられ、2価の連結基は、2つ以上を連結して用いてもよい。
【0043】
インク組成物の硬化性の観点からは、R〜Rは、電子供与性の置換基である方が好ましく、そのため、R〜Rはアルキル基またはアルコキシ基であることが好ましく、アルコキシ基であることがより好ましい。
【0044】
一般式(A1)及び一般式(A1’)においてRおよびRとして表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、中でも、フッ素原子及び塩素原子が好ましい。
一般式(A1)及び一般式(A1’)においてRおよびRとして表される炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。中でも、直鎖または分岐状が好ましく、直鎖状がより好ましい。炭素数は1〜3であることが好ましく、1がより好ましい。
【0045】
一般式(A1)及び一般式(A1’)においてRおよびRとして表される炭素数1〜6のアルコキシ基は、RO−と表すことができ、該Rは炭素数1〜6のアルキル基である。炭素数1〜6のアルキル基として表されるRは、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。従って、炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
は、中でも、直鎖または分岐状が好ましく、直鎖状がより好ましい。炭素数は1〜2であることが好ましく、1がより好ましい。
【0046】
一般式(A1)及び一般式(A1’)においてRおよびRとして表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基が挙げられる。中でも、炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0047】
およびRは任意の2価の連結基を介して結合されていてもよい。2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、エステル基、カルボニル基、アミド基、酸素原子、硫黄原子等が挙げられ、2価の連結基は、2つ以上を連結して用いてもよい。
一般式(A1)及び一般式(A1’)においてRおよびRは、アルキル基であることが好ましい。
【0048】
〜Rは、上記の炭素数の範囲内において、さらに置換基を有していてもよい。
置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、及びハロゲン原子などが挙げられる。
【0049】
また、特定重合性化合物の重量平均分子量(Mw)は、100〜800であることが好ましく、120〜500であることがより好ましく、150〜350であることがさらに好ましい。
【0050】
以下に、特定重合性化合物〔一般式(A1)で表される第1のオキセタン化合物〕の代表的な具体例を挙げるが、本発明はこれらの具体例に何ら限定されるものではない。
【0051】
【化6】

【0052】
(a−10)中、Phは、フェニル基を表す。
(a−1)〜(a−22)の中でも、(a−1)、(a−2)、(a−3)、(a−4)、及び(a−6)が好ましく、(a−1)、(a−2)、及び(a−3)が好ましい。
【0053】
特定重合性化合物は、例えば、Synthesis 1995,533〜538頁に記載の方法により製造することができる。
【0054】
本発明のインク組成物における特定重合性化合物の含有量は、全重合性化合物質量に対して、50質量%未満であることが好ましく、5質量%〜40質量%であることがより好ましく、10質量%〜30質量%であることがさらに好ましい。全重合性化合物質量に対する特定重合性化合物の含有量が上記の範囲であることで、硬化後に充分な硬度を有し、被記録媒体との密着性及び柔軟性のより高い硬化物を形成することができる。
【0055】
−第2のオキセタン化合物−
本発明のインク組成物は、第1のオキセタン化合物(特定重合性化合物)以外のオキセタン化合物である第2のオキセタン化合物を含んでいてもよい。
第2のオキセタン化合物は、分子中にオキセタン環を有し、かつ特定重合性化合物でなければ、特に制限は無く、公知のオキセタン化合物を用いることができる。第2のオキセタン化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
【0056】
第2のオキセタン化合物としては、特開2001−220526号、同2001−310937号、同2003−341217号の各公報に記載される如き、公知のオキセタン化合物を任意に選択して使用できる。
第2のオキセタン化合物は、オキセタン環を1〜4個有する化合物であることが好ましい。このような化合物を使用することで、インク組成物の粘度を、よりハンドリング性の良好な範囲に維持することが容易となり、インク組成物が硬化することにより形成される硬化膜と被記録媒体との高い密着性を得ることができる。
【0057】
第2のオキセタン化合物のうち、分子内に1〜2個のオキセタン環を有するオキセタン化合物としては、下記一般式(A2−1)〜(A2−3)で示される化合物が挙げられる。
【0058】
【化7】

【0059】
一般式(A2−1)〜(A2−3)中、Ra1は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、アリル基、アリール基、フリル基、又はチエニル基を表す。一般式(A2−1)および(A2−2)のように、分子内に2つのRa1が存在する場合、それらは同じであっても異なるものであってもよい。
a1として表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
フルオロアルキル基としては、例えば、アルキル基の水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたものが好ましく挙げられる。
a1として表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基等が挙げられる。
【0060】
一般式(A2−1)中、Ra2は、水素原子、炭素数1〜6個のアルキル基、炭素数2〜6個のアルケニル基、芳香環を有する基、炭素数2〜6個のアルキルカルボニル基、炭素数2〜6個のアルコキシカルボニル基、又は炭素数2〜6個のN−アルキルカルバモイル基を表す。
a2として表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
a2として表されるアルケニル基としては、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基等が挙げられる。
a2として表される芳香環を有する基としては、フェニル基、ベンジル基、フルオロベンジル基、メトキシベンジル基、フェノキシエチル基等が挙げられる。
a2として表されるアルキルカルボニル基としては、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基等が挙げられる。
a2として表されるアルキコキシカルボニル基としては、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が、N−アルキルカルバモイル基としては、エチルカルバモイル基、プロピルカルバモイル基、ブチルカルバモイル基、ペンチルカルバモイル基等が挙げられる。
a2は置換基を有していてもよく、置換基としては、1〜6のアルキル基、フッ素原子が挙げられる。
【0061】
一般式(A2−2)中、Ra3は、鎖状又は分岐状のアルキレン基、ポリ(アルキレンオキシ)基鎖状又は分岐状の2価の不飽和炭化水素基、カルボニル基、カルボキシル基を含むアルキレン基、カルバモイル基を含むアルキレン基、又は、以下に示す部分構造(Ra3−1)〜(Ra3−3)のいずれかを表す。
【0062】
a3として表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられ、ポリ(アルキレンオキシ)基としては、ポリ(エチレンオキシ)基、ポリ(プロピレンオキシ)基等が挙げられる。
a3として表される2価の不飽和炭化水素基としては、プロペニレン基、メチルプロペニレン基、ブテニレン基等が挙げられる。
【0063】
【化8】

【0064】
部分構造(Ra3−1)〜(Ra3−3)が2価以上の多価基である場合、部分構造(Ra3−1)中のRa4は、水素原子、炭素数1〜4個のアルキル基、炭素数1〜4個のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、低級アルキルカルボキシル基、カルボキシル基、又はカルバモイル基を表す。部分構造(Ra3−2)中のRa5は、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、>NH、>SO、>SO、−C(CF−、又は、−C(CH−を表す。部分構造(Ra3−3)中のRa6は、炭素数1〜4個のアルキル基、又は、アリール基を表し、nは0〜2,000の整数である。部分構造(Ra3−3)中のRa7は、炭素数1〜4個のアルキル基、アリール基、又は、下記部分構造(Ra7−1)を有する1価の基を表す。下記部分構造(Ra7−1)中、Ra8は炭素数1〜4個のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基であり、mは0〜100の整数である。
【0065】
【化9】

【0066】
一般式(A2−1)で表される化合物として、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(OXT−101: 東亞合成(株)製〕、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン〔OXT−212:東亞合成(株)製〕、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン〔OXT−211:東亞合成(株)製〕が挙げられる。式(P)で表される化合物としては、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン〔OXT−121:東亞合成(株)〕が挙げられる。また、式(A2−1)で表される化合物としては、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル〔OXT−221:東亞合成(株)〕が挙げられる。
【0067】
3〜4個のオキセタン環を有する化合物としては、下記一般式(A2−4)で示される化合物が挙げられる。
【0068】
【化10】

【0069】
一般式(A2−4)において、Ra1は、前記一般式(A2−1)におけるRa1と同義である。また、Ra9は、多価連結基を示し、例えば、下記A〜Cで示される基等の炭素数1〜12の分枝状アルキレン基、下記Dで示される基等の分枝状ポリ(アルキレンオキシ)基、又は下記Eで示される基等の分枝状ポリシロキシ基等が挙げられる。jは、3又は4である。
【0070】
【化11】

【0071】
上記Aにおいて、Ra10はメチル基、エチル基又はプロピル基を表す。また、上記Dにおいて、pは1〜10の整数である。
【0072】
また、本発明に好適に使用しうるオキセタン化合物の別の態様として、側鎖にオキセタン環を有する下記一般式(A2−5)で示される化合物が挙げられる。
【0073】
【化12】

【0074】
一般式(A2−5)において、Ra1及びRa8は一般式(A2−1)におけるRa1及び部分構造(Ra7−1)におけるRa8と同義である。Ra11はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基又はトリアルキルシリル基であり、rは1〜4の整数である。
【0075】
このようなオキセタン環を有する化合物については、特開2003−341217号公報、段落番号[0021]ないし[0084]に詳細に記載され、ここに記載の化合物は本発明にも好適に使用しうる。
特開2004−91556号公報に記載されたオキセタン化合物も本発明に併用することができる。当該化合物は、同公報の段落番号[0022]ないし[0058]に詳細に記載されている。
【0076】
本発明のインク組成物中、単官能のオキセタン化合物の含有量は、全オキセタン化合物(第1のオキセタン化合物および第2のオキセタン化合物)の総含有量に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0077】
本発明のインク組成物中の全オキセタン化合物(第1のオキセタン化合物(特定重合性化合物)および第2のオキセタン化合物)の含有量は、インク組成物の硬化感度及び膜物性の観点から、インク組成物中の重合性化合物の全質量に対し、50質量%未満であることが必要であり、10〜45質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。
【0078】
〔エポキシ化合物〕
本発明のインク組成物は、カチオン重合性化合物として、特定重合性化合物と共に、少なくとも1種のエポキシ化合物を含有する。
【0079】
エポキシ化合物の含有量を制御することで、本発明のインク組成物の感度及び膜物性を更に向上させることができる。具体的には、本発明のインク組成物におけるエポキシ化合物の含有量は、重合性モノマーの全質量に対し、50質量%を越えることが必要であり、55〜90質量%であることが好ましく、60〜80質量%であることがより好ましい。
【0080】
エポキシ化合物は、エポキシ環を1つ有する単官能のエポキシ化合物であっても、エポキシ環を2つ以上有する多官能のエポキシ化合物であってもよく、単官能のエポキシ化合物と多官能のエポキシ化合物とを併用してもよいが、硬化性の観点から、本発明のインク組成物に含まれる全エポキシ化合物中、単官能のエポキシ化合物は、全エポキシ化合物質量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0081】
エポキシ化合物としては、例えば、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、及び、脂肪族エポキシドなどのエポキシ化合物が挙げられる。
芳香族エポキシドとしては、少なくとも1個の芳香族核を有する多価フェノール或いはそのアルキレンオキサイド付加体とエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジ又はポリグリシジルエーテルが挙げられる。例えば、ビスフェノールA或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールA或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、並びにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0082】
脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロへキセン又はシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイド又はシクロペンテンオキサイド含有化合物が好ましく挙げられる。
脂肪族エポキシドとしては、脂肪族多価アルコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル等があり、その代表例としては、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル又は1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリン或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテルに代表されるポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0083】
次に、本発明に好適な単官能及び多官能のエポキシ化合物を詳しく例示する。
単官能エポキシ化合物の例としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。
【0084】
また、多官能エポキシ化合物の例としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールA ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールF ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,1,3−テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン等が挙げられる。
【0085】
これらのエポキシ化合物のなかでも、多官能の芳香族エポキシド及び脂環式エポキシドが、硬化速度に優れるという観点から好ましく、特に、多官能の脂環式エポキシドが好ましい。
【0086】
また、インクの粘度、吐出安定性、膜物性の観点から、組成物に含まれる全てのエポキシ化合物は、重量平均分子量(Mw)が100以上300以下であることが好ましく、120以上250以下であることがより好ましい。
【0087】
−他の重合性化合物−
(ビニルエーテル化合物)
本発明においては、硬化成分としてビニルエーテル化合物も用いることができる。本発明に、適用しうるビニルエーテル化合物としては、単官能ビニルエーテル化合物、ジ又はトリビニルエーテル化合物のごとき多官能ビニルエーテル化合物が挙げられる。
単官能ビニルエーテル化合物と多官能ビニルエーテル化合物は、特開2008−257892号公報の段落番号[0121]及び[0122]に記載される化合物を好適に用いることができる。
【0088】
ビニルエーテル化合物としては、ジ又はトリビニルエーテル化合物が、硬化性、被記録媒体との密着性、形成された画像の表面硬度などの観点から好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。
【0089】
ビニルエーテルの含有量は、本発明のインク組成物全固形分質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0090】
(他のカチオン重合性化合物)
本発明のインク組成物は、必須成分である特定重合性化合物、エポキシ化合物のほか、必要に応じて他のカチオン重合性化合物を含有してもよい。他のカチオン重合性化合物としては、放射線の照射により酸を発生する化合物から発生する酸により重合反応を開始し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、光カチオン重合性化合物として知られる各種公知のカチオン重合性のモノマーを使用することができる。他のカチオン重合性化合物としては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892号、同2001−40068号、同2001−55507号、同2001−310938号、同2001−310937号、同2001−220526号などの各公報に記載されているカチオン重合性化合物のうち、特定重合性化合物、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物の範疇に包含されないカチオン重合性化合物が挙げられる。例えば、以下に示す他のオキセタン化合物などが挙げられる。
【0091】
〔放射線の照射により酸を発生する化合物〕
本発明のインク組成物は、放射線の照射により酸を発生する化合物(以下、「光酸発生剤」とも称する。)を含有することが好ましい。本発明においては、放射線の照射により発生した酸により、重合性化合物の重合反応が促進し、より迅速に硬化し易い。
この光酸発生剤としては、光カチオン重合の光開始剤、光ラジカル重合の光開始剤、色素類の光消色剤、光変色剤、或いはマイクロレジスト等に使用されている光(400〜200nmの紫外線、遠紫外線、特に好ましくは、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光)、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線又はイオンビームなどの照射により酸を発生する化合物を、適宜選択して使用することができる。
【0092】
このような光酸発生剤としては、放射線の照射により分解して酸を発生する、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩などのオニウム塩化合物、イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジアゾジスルホン、ジスルホン、o−ニトロベンジルスルホネート等のスルホネート化合物などを挙げることができる。本発明のインク組成物に用いることのできる光カチオン重合開始剤の種類、具体的化合物、および好ましい例としては、特開2008−13646号公報の段落0066〜0122に記載の化合物を挙げることができる。
【0093】
本発明のインク組成物に用いることのできる光酸発生剤の特に好ましい例として、下記一般式(P)で表されるスルホニウム塩が挙げられる。本発明のインク組成物と、一般式(P)で表されるスルホニウム塩とを併用することで、より高い硬化性が得られる。
【0094】
【化13】

【0095】
一般式(P)中、Xは、陰イオンを表す。
【0096】
で表される陰イオン(アニオン)としては安定性の面から、ポリマー型アニオンが挙げられる。例えば、スルホン酸アニオン(例えば、アルキルスルホン酸アニオン、アリールスルホン酸アニオン)、ベンゾイルギ酸アニオン、PF6−、SbF6−、BF4−、ClO4−、カルボン酸アニオン(例えば、アルキルカルボン酸アニオン、アリールカルボン酸アニオン、アラルキルカルボン酸アニオン)、スルフィン酸アニオン、硫酸アニオン、ボレートアニオン、スルホニルイミドアニオン、ビス(アルキルスルホニル)イミドアニオン、トリス(アルキルスルホニル)メチルアニオン等、ハロゲンアニオン、ポリマー型スルホン酸アニオン、ポリマー型カルボン酸アニオン、テトラアリールボレートアニオンが挙げられる。
【0097】
これらの中でも、非求核性アニオンであることが好ましい。非求核性アニオンとは、求核反応を発現する能力が著しく低いアニオンであり、分子内求核反応による経時分解を抑制することができるアニオンである。
非求核性アニオンとしては、例えば、PF6−、SbF6−、BF4−、スルホニルイミドアニオン、ビス(アルキルスルホニル)イミドアニオン、トリス(アルキルスルホニル)メチルアニオン、テトラアリールボレートアニオンが好ましい態様として挙げられる。
【0098】
光酸発生剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明のインク組成物中の光酸発生剤の含有量は、インク組成物の全固形分質量に対し、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましく、1〜7質量%が更に好ましい。
【0099】
〔着色剤〕
本発明のインク組成物は、着色画像を得るために、着色剤を含有することが好ましい。
本発明に用いることのできる着色剤としては、特に制限はないが、耐候性に優れ、色再現性に富んだ顔料及び油溶性染料が好ましく、溶解性染料等の任意の公知の着色剤から選択して使用することができる。本発明のインク組成物に好適に使用し得る着色剤は、硬化反応である重合反応において重合禁止剤として機能しないことが好ましい。これは、活性エネルギー線による硬化反応の感度を低下させないためである。
【0100】
(顔料)
顔料としては、特に限定されるものではなく、一般に市販されているすべての有機顔料及び無機顔料、又は顔料を、分散媒として不溶性の樹脂等に分散させたもの、或いは顔料表面に樹脂をグラフト化したもの等を用いることができる。また、樹脂粒子を染料で染色したもの等も用いることができる。
これらの顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の辞典」(2000年刊)、W.Herbst,K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、特開2002−12607号公報、特開2002−188025号公報、特開2003−26978号公報、特開2003−342503号公報に記載の顔料が挙げられる。
【0101】
本発明において使用できる有機顔料及び無機顔料の具体例としては、特開2008−13646号公報の段落0126〜0131に記載の化合物を挙げることができる。
【0102】
顔料の分散には、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の分散装置を用いることができる。
顔料の分散を行う際に分散剤を添加することも可能である。分散剤としては、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリアクリレート、脂肪族多価カルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、顔料誘導体等を挙げることができる。また、Zeneca 社のSolsperse シリーズなどの市販の高分子分散剤を用いることも好ましい。
また、分散助剤として、各種顔料に応じたシナージストを用いることも可能である。これらの分散剤及び分散助剤は、顔料100質量部に対し、1〜50質量部添加することが好ましい。
【0103】
インク組成物において、顔料などの諸成分の分散媒としては、溶剤を添加してもよく、また、無溶媒で、低分子量成分であるカチオン重合性化合物を分散媒として用いてもよいが、本発明が適用されるインク組成物は、放射線硬化型のインクであり、インクを被記録媒体上に適用後、硬化させるため、無溶剤であることが好ましい。これは、硬化されたインク画像中に、溶剤が残留すると、耐溶剤性が劣化したり、残留する溶剤のVOC(Volatile Organic Compound)の問題が生じるためである。このような観点から、分散媒としては、カチオン重合性化合物を用い、中でも、最も粘度が低いカチオン重合性化合物を選択することが分散適性やインク組成物のハンドリング性向上の観点から好ましい。
【0104】
顔料の平均粒径は、0.02μm〜0.4μmにするのが好ましく、0.02μm〜0.1μmとするのが更に好ましく、より好ましくは、0.02μm〜0.07μmの範囲である。
顔料粒子の平均粒径を上記好ましい範囲となるよう、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を設定する。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性及び硬化感度を維持することができる。
【0105】
(染料)
本発明に用いることのできる染料は、油溶性のものが好ましい。具体的には、25℃での水への溶解度(水100gに溶解する色素の質量)が1g 以下であるものを意味し、好ましくは0.5g以下、より好ましくは0.1g以下である。従って、所謂、水に不溶性の油溶性染料が好ましく用いられる。
【0106】
本発明に用いることのできる染料は、インク組成物に必要量溶解させるために上記記載の染料母核に対して油溶化基を導入することも好ましい。
油溶化基としては、長鎖、分岐アルキル基、長鎖、分岐アルコキシ基、長鎖、分岐アルキルチオ基、長鎖、分岐アルキルスルホニル基、長鎖、分岐アシルオキシ基、長鎖、分岐アルコキシカルボニル基、長鎖、分岐アシル基、長鎖、分岐アシルアミノ基長鎖、分岐アルキルスルホニルアミノ基、長鎖、分岐アルキルアミノスルホニル基及びこれら長鎖、分岐置換基を含むアリール基、アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールカルボニルオキシ基、アリールアミノカルボニル基、アリールアミノスルホニル基、アリールスルホニルアミノ基等が挙げられる。
また、カルボン酸、スルホン酸を有する水溶性染料に対して、長鎖、分岐アルコール、アミン、フェノール、アニリン誘導体を用いて油溶化基であるアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルアミノスルホニル基、アリールアミノスルホニル基に変換することにより染料を得てもよい。
【0107】
前記油溶性染料としては、融点が200℃以下のものが好ましく、融点が150℃以下であるものがより好ましく、融点が100℃以下であるものが更に好ましい。融点が低い油溶性染料を用いることにより、インク組成物中での色素の結晶析出が抑制され、インク組成物の保存安定性が良くなる。
また、退色、特にオゾンなどの酸化性物質に対する耐性や硬化特性を向上させるために、酸化電位が貴である(高い)ことが望ましい。このため、本発明で用いる油溶性染料として、酸化電位が1.0V(vs SCE)以上であるものが好ましく用いられる。酸化電位は高いほうが好ましく、酸化電位が1.1V(vs SCE)以上のものがより好ましく、1.15V(vs SCE)以上のものが特に好ましい。
【0108】
イエロー色の染料としては、特開2004−250483号公報の記載の一般式(Y−I)で表される構造の化合物が好ましい。
特に好ましい染料は、特開2004−250483号公報の段落番号[0034]に記載されている一般式(Y−II)〜(Y−IV)で表される染料であり、具体例として特開2004−250483号公報の段落番号[0060]から[0071]に記載の化合物が挙げられる。尚、該公報記載の一般式(Y−I)の油溶性染料はイエローのみでなく、ブラックインク、レッドインクなどのいかなる色のインクに用いてもよい。
【0109】
マゼンタ色の染料としては、特開2002−114930号公報に記載の一般式(A2−1)、(4)で表される構造の化合物が好ましく、具体例としては、特開2002−114930号公報の段落[0054]〜[0073]に記載の化合物が挙げられる。
特に好ましい染料は、特開2002−121414号公報の段落番号[0084]から[0122]に記載されている一般式(M−1)〜(M−2)で表されるアゾ染料であり、具体例として特開2002−121414号公報の段落番号[0123]から[0132]に記載の化合物が挙げられる。尚、該公報記載の一般式(3)、(4)、(M−1)〜(M−2)の油溶性染料はマゼンタのみでなく、ブラックインク、レッドインクなどのいかなる色のインクに用いてもよい。
【0110】
シアン色の染料としては、特開2001−181547号公報に記載の式(I)〜(IV)で表される染料、特開2002−121414号公報の段落番号[0063]から[0078]に記載されている一般式(IV−1)〜(IV−4)で表される染料が好ましいものとして挙げられ、具体例として特開2001−181547号公報の段落番号[0052]から[0066]、特開2002−121414号公報の段落番号[0079]から[0081]に記載の化合物が挙げられる。
特に好ましい染料は、特開2002−121414号公報の段落番号[0133]から[0196]に記載されている一般式(C−I)、(C−II)で表されるフタロシアニン染料であり、更に一般式(C−II)で表されるフタロシアニン染料が好ましい。この具体例としては、特開2002−121414号公報の段落番号[0198]から[0201]に記載の化合物が挙げられる。尚、前記式(I)〜(IV)、(IV−1)〜(IV−4)、(C−I)、(C−II)の油溶性染料はシアンのみでなく、ブラックインクやグリーンインクなどのいかなる色のインクに用いてもよい。
【0111】
これらの着色剤は、インク組成物中、固形分換算で、1〜20質量%添加されることが好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0112】
以下に、本発明のインク組成物に、必要に応じて用いることのできる種々の添加剤について述べる。
【0113】
〔紫外線吸収剤〕
本発明のインク組成物には、得られる画像(硬化物)の耐候性向上、退色防止の観点から、紫外線吸収剤を用いることができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo .24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤等が挙げられる。
本発明のインク組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、インク組成物の全固形分質量に対し、0.5〜15質量%であることが好ましい。
【0114】
〔増感剤〕
本発明のインク組成物には、光酸発生剤の酸発生効率の向上、感光波長の長波長化の目的で、必要に応じ、増感剤を添加してもよい。
増感剤としては、光酸発生剤に対し、電子移動機構又はエネルギー移動機構で増感させるものであれば、何れでもよい。好ましくは、アントラセン、9,10−ジアルコキシアントラセン、ピレン、ペリレンなどの芳香族多縮環化合物、アセトフェノン、ベンゾフェノン、チオキサントン、ミヒラーケトンなどの芳香族ケトン化合物、フェノチアジン、N−アリールオキサゾリジノンなどのヘテロ環化合物が挙げられる。
本発明のインク組成物中の増感剤の含有量は、目的に応じて適宜選択されるが、光酸発生剤の全固形分質量に対し0.1〜5モル%で用いることが好ましく、0.3〜1.5モル%がより好ましい。
【0115】
〔酸化防止剤〕
本発明のインク組成物には、組成物の安定性向上のために、酸化防止剤を添加することができる。
酸化防止剤としては、ヨーロッパ公開特許、同第223739号公報、同309401号公報、同第309402号公報、同第310551号公報、同第310552号公報、同第459416号公報、ドイツ公開特許第3435443号公報、特開昭54−48535号公報、同62−262047号公報、同63−113536号公報、同63−163351号公報、特開平2−262654号公報、特開平2−71262号公報、特開平3−121449号公報、特開平5−61166号公報、特開平5−119449号公報、米国特許第4814262号明細書、米国特許第4980275号明細書等に記載のものを挙げることができる。
本発明のインク組成物中の含有量は、目的に応じて適宜選択されるが、インク組成物の全固形分質量に対し0.1〜8質量%であることが好ましい。
【0116】
〔褪色防止剤〕
本発明のインク組成物には、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。
有機系の褪色防止剤としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類、などが挙げられる。
金属錯体系の褪色防止剤としては、ニッケル錯体、亜鉛錯体、などが挙げられ、具体的には、リサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのI〜J項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や、特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を使用することができる。
本発明のインク組成物中の褪色防止剤の含有量は、目的に応じて適宜選択されるが、インク組成物の全固形分質量に対し、0.1〜8質量%であることが好ましい。
【0117】
〔導電性塩類〕
本発明のインク組成物には、吐出物性の制御を目的として、チオシアン酸カリウム、硝酸リチウム、チオシアン酸アンモニウム、ジメチルアミン塩酸塩などの導電性塩類を添加することができる。
【0118】
〔溶剤〕
本発明のインク組成物には、被記録媒体との密着性を改良するため、極微量の有機溶剤を添加することも有効である。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、などが挙げられる。
この場合、耐溶剤性やV OCの問題が起こらない範囲での添加が有効であり、その量はインク組成物の全固形分質量に対し0.1〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%の範囲である。
【0119】
〔高分子化合物〕
本発明のインク組成物には、硬化して形成される皮膜の物性を調整するため、各種高分子化合物を添加することができる。
高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。これらのうち、アクリル系のモノマーの共重合によって得られるビニル系共重合が好ましい。更に、高分子結合材の共重合組成として、「カルボキシル基含有モノマー」、「メタクリル酸アルキルエステル」、又は「アクリル酸アルキルエステル」を構造単位として含む共重合体も好ましく用いられる。
【0120】
〔界面活性剤〕
本発明のインク組成物には、界面活性剤を添加することができる。
界面活性剤としては、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載されたものが挙げられる。例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。なお、前記界面活性剤の代わりに有機フルオロ化合物を用いてもよい。前記有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。前記有機フルオロ化合物としては、例えば、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例、四フッ化エチレン樹脂)が含まれ、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭62−135826号の各公報に記載されたものが挙げられる。
【0121】
この他にも、本発明のインク組成物には、必要に応じて、例えば、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのワックス類、ポリオレフィンやPET等の被記録媒体への密着性を改善するために、重合を阻害しないタッキファイヤーなどを含有させることができる。
【0122】
前記タッキファイヤーとしては、具体的には、特開2001−49200号公報の5〜6pに記載されている高分子量の粘着性ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数3〜14の脂環属アルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜14の芳香属アルコールとのエステルからなる共重合物)や、重合性不飽和結合を有する低分子量粘着付与性樹脂などが挙げられる。
【0123】
<インク組成物の好ましい物性>
本発明のインク組成物は、インクジェット記録に適用する場合、吐出性を考慮し、吐出時の温度におけるインク粘度が、5mPa・s〜30mPa・sであることが好ましく、7mPa・s〜20mPa・sが更に好ましい。このため、前記範囲になるように適宜組成比を調整し決定することが好ましい。
また、室温(25〜30℃)でのインク組成物の粘度は、7〜120mPa・sが好ましく、10〜80mPa・sが更に好ましい。室温での粘度を高く設定することにより、多孔質な被記録媒体を用いた場合でも、被記録媒体中へのインク浸透を防ぎ、未硬化モノマーの低減、臭気低減が可能となり、更にインク液滴着弾時のドット滲みを抑えることができ、その結果として画質を改善することができる。
【0124】
本発明のインク組成物の表面張力は、20mN/m〜40mN/mであることが好ましく、20mN/m〜30mN/mであることが更に好ましい。また、本発明のインク組成物を、ポリオレフィン、PET、コート紙、非コート紙など様々な被記録媒体へ記録する場合、滲みおよび浸透の観点から、前記表面張力は20mN/m以上が好ましく、濡れ性の点では30mN/m以下であることが好ましい。
【0125】
本発明のインク組成物は、インクジェット記録用のインクとして好適に用いることができる。
インクジェット記録方式には特に制限はなく、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出する電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出する音響型インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、発生した圧力を利用するサーマル型インクジェット方式、等のいずれであってもよい。なお、前記インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
前記のうち、ピエゾ素子を用いたドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)のインクジェット記録用インクとして好適である。
【0126】
<インクジェット記録方法及び印刷物>
本発明のインクジェット記録方法は、被記録媒体上に、本発明の活性エネルギー線硬化型インク組成物をインクジェット記録装置により吐出する工程(画像記録工程)、及び吐出された活性エネルギー線硬化型インク組成物に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化型インク組成物を硬化する工程(画像硬化工程)、を含む。
即ち、本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録によって画像を形成する画像記録工程と画像硬化工程とを含む方法である。
また、本発明の印刷物は、本発明のインクジェット記録方法によって記録された記録物である。
【0127】
前記画像硬化工程においては、画像硬化工程において活性エネルギー線を利用し、画像記録工程で被記録媒体に画像記録した後、記録された画像に活性エネルギー線を照射することによって、画像化に寄与する重合性化合物の重合硬化が進行し、良好に硬化され堅牢性の高い画像を形成することができる。
前記画像硬化工程においては、インク組成物の有する感応波長に対応する波長領域の活性エネルギー線を発する光源を用いて重合硬化を促進する露光処理を行なうことができる。光源、露光時間及び光量は、本発明に係るカチオン重合性化合物などの重合性化合物の重合硬化の程度に応じて適宜選択すればよい。
【0128】
画像硬化工程において硬化した画像の厚みは、2μm〜30μmであることが好ましい。ここで、「画像の厚み」とは、インク組成物により形成された画像を硬化した硬化物の厚みのことである。該画像の厚みが2μm〜30μmであることで、低濃度から高濃度の画像を表現することができる。
【0129】
前記画像硬化工程においては、インク組成物の有する感応波長に対応する波長領域の活性エネルギー線を発する光源を用いて重合硬化を促進する露光処理を行なうことができる。光源については、後述する。
【0130】
本発明のインク組成物を用いてインクジェット記録された印刷物は、画像部が紫外線などの放射線照射により硬化しており、画像部の強度に優れるため、例えば、平版印刷版のインク受容層(画像部)としても用いることができる。
【0131】
前記画像記録工程においては、インクジェットプリンタなどのインクジェット記録装置によるインクジェット記録方法を適用するのが好ましい。具体的には、前記画像記録工程は、本発明のインク組成物を吐出するインクジェット記録装置を用いて画像を記録することが好ましい。
【0132】
次に、本発明のインクジェット記録方法の具体的な実施態様について、当該方法に好適に採用され得るインクジェット記録装置の詳細を含めて、以下に説明する。
【0133】
・システム
インクを吐出するインクジェット記録システムとしては、特開2002−11860号公報に示すような形態が一例としてあげられるが、これに限定されるものではなく、他の形態であってもよい。
【0134】
・インク保持手段
インクを保持する手段としては、公知のインクカートリッジに充填することが好ましく、特開平5−16377号公報に開示されるように変形可能な容器に収納し、タンクとなすことも可能である。また特開平5−16382に開示されるように、サブタンクを有するとインクをヘッドへの供給が更に安定する。また特開平8−174860号公報に開示されるように、インク供給室の圧力が低下した場合に、弁の移動によりインクを供給する形態のカートリッジを用いることも可能である。これらのインク保持手段でヘッド内のメニスカスを適切にたもつための負圧付与方法としては、インク保持手段の高さすなわち水頭圧による方法、またインク流路中にもうけたフィルタの毛細管力による方法、また、ポンプ等により圧力を制御する方法、また、特開昭50−74341号公報に開示されるようにインクをインク吸収体に保持し、この毛細管力により負圧を付与する方法等が適切である。
【0135】
・インク供給路
インクをこれらインク保持手段からヘッドに供給する方法として、ヘッドユニットに直接保持手段を連結する方法でもよいし、チューブ等の流路により連結する方法でもよい。これらインク保持手段および流路は、インクに対して良好な濡れ性を持つような素材であること、もしくは表面処理が施されていることが好ましい。
【0136】
・ヘッド
インクを打滴する方法としては、特開平5−104725号公報に開示されるように、連続的にインク滴を吐出させ、画像に応じて滴を偏向して被記録媒体に着弾させるか、させないかを選択制御する方法であってもよいし、所謂オンデマンド方式を呼ばれる、画像として必要な部分にのみインク滴を吐出させる方式であってもよい。オンデマンド方式は、特開平5−16349に開示されるように、圧電素子等を用いて構造体の変形によりインク圧を発生させ、吐出させる方式であってもよいし、特開平1−234255に開示されるように、熱エネルギーによる気化にともなう膨張により発生する圧力で吐出する方式であってもよい。また特開2001−277466号公報に開示されるように、電界により被記録媒体への吐出を制御する方式であってもよい。
【0137】
インクジェット記録方法においては、本発明のインク組成物を用いて被記録媒体に画像記録を行なうが、その際に使用するインク吐出ノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ノズルは、例えば特開平5−31908号公報に記載されるような形態が適用可能である。なお、このとき複数色のインクを吐出させるため、ノズルは特開2002−316420号公報に記載されるように、複数列に構成されることにより、高速にカラー画像を形成することが可能となり、さらに複数のノズル列を有するヘッドユニットを複数配置することにより更に高速化が可能である。
【0138】
さらにノズルを特開昭63−160849号公報に記載されるように画像の幅と同等以上の幅分配置し、所謂ラインヘッドとなし、これらのノズルからの打滴と同時に被記録媒体を移動させることにより、高速に画像を形成することが可能となる。
またノズルの表面は、特開平5−116327号公報に開示されるような表面処理を施すことにより、ノズル表面へのインク滴の飛沫の付着、およびインク滴の付着を防ぐことが可能となる。
【0139】
このような処理を施しても、なお汚れが付着する場合があり、このため、特開平6−71904号公報に開示されるように、ブレードにより清掃を行うことが好ましい。
また、ノズルから各色のインクが均等に吐出されるとは限らず、特定のインクは長時間吐出されない場合もありうる。このようなときに、メニスカスを安定に保つために、特開平11−157102号公報に開示されるように、画像領域外で適宜インクを吐出させ、ヘッドに新しいインクを補給することにより、インク物性を適性値に維持することが好ましい。
【0140】
また、このような処置を施してもなお気泡がヘッド内に侵入もしくはヘッド内で発生することがある。このような場合は、特開平11−334092号公報に記載されるように、ヘッド外より強制的にインクを吸引することにより、物性の変化したインクを廃棄するとともに、気泡もヘッド外に排出することができる。更に長時間打滴しない場合は特開平11−138830号公報に開示されるように、キャップでノズル表面を覆うことによりノズル表面を保護することができる。これらの措置を講じてもなお吐出しない場合がありうる。
ノズルの一部が吐出しない状態で画像をプリントすると、画像にムラが発生する等の問題が発生する。このようなことを避けるため、特開平2000−343686号公報に開示されるように、吐出しないことを検出して処置をとることが有効である。
【0141】
ヘッドユニットを特開平6−115099号公報に記載されるように機械的に移動させ、これと同期させて被記録媒体を直交方向に間欠的に移動させることにより重畳打滴を行うと、被記録媒体の間欠的な移動の精度不良にともなうムラを見えにくくする効果があり、高画質を実現することが可能となる。このとき、ヘッドの移動速度、被記録媒体の移動量、ノズル数の関係を適宜設定することにより、画質と記録速度の関係を好ましい関係に設定することが可能となる。
【0142】
また、逆にヘッドを固定し、被記録媒体を機械的に所定方向に往復移動するとともに、それと直交方向に間欠移動させることにより、同様の効果を得ることが可能である。
【0143】
・温度制御
インクジェット記録装置には、インク組成物温度の安定化手段を備えることが好ましく、一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。
【0144】
インクジェット記録方法においては、上記インク組成物を40〜80℃に加熱して、インク組成物の粘度を30mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以下に下げた後、射出することが好ましく、この方法を用いることにより高い射出安定性を実現することができる。一般に、放射線硬化型インク組成物では、概して水性インクより粘度が高いため、印字時の温度変動による粘度変動幅が大きい。このインク組成物の粘度変動は、そのまま液滴サイズ、液滴射出速度に対して大きな影響を与え、これにより画質劣化を引き起こすため、印字時のインク組成物温度はできるだけ一定に保つことが必要である。このためにはインク温度検出手段と、インク加熱手段、および検出されたインク温度に応じて加熱を制御する制御手段を有することが好ましい。
【0145】
温度コントロールの方法としては、特に制約はないが、例えば、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク組成物流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。また、加熱するヘッドユニットは、装置本体を外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断もしくは断熱されていることが好ましい。加熱に要するプリンタ立上げ時間を短縮するため、あるいは熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
あるいは、インク温度に応じてインクを吐出させる手段への印加エネルギーを制御する手段を有することも好適である。
【0146】
インク組成物温度の制御幅は設定温度±5℃とすることが好ましく、より好ましくは設定温度±2℃、更に好ましくは設定温度±1℃である。
【0147】
・露光
光源としては、α線、γ線、X線、紫外線、可視光線、赤外光線、電子線などが挙げられる。具体的には、一般的に用いられる水銀灯、メタルハライドランプ等を用いてもよいし、発光ダイオード、半導体レーザ、蛍光灯等を用いることができる。また、熱陰極管、冷陰極管、電子線、X線等、インクの重合反応が進行する光源、電磁波等を用いることができる。
【0148】
活性エネルギー線のピーク波長は、200nm〜600nmであることが好ましく、300nm〜450nmであることがより好ましく、350nm〜420nmであることがさらに好ましい。また、活性エネルギー線の出力は、2,000mJ/cm以下であることが好ましく、より好ましくは、10mJ/cm〜2,000mJ/cmであり、さらに好ましくは、20mJ/cm〜1,000mJ/cmであり、特に好ましくは、50mJ/cm〜800mJ/cmである。
【0149】
活性エネルギー線の照射は、発光ピーク波長が350nm〜420nmであり、かつ、露光面である被記録媒体表面での最高照度が10mW/cm〜1,000mW/cmとなる紫外線を発生する発光ダイオードから照射されることが好ましい。
【0150】
露光に、メタルハライドランプを用いる場合であれば、ランプは10〜1000W/cmのものを使用し、露光面照度が、1mW/cm〜100W/cmの照度であることが好ましい。
【0151】
また、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等では放電にともない、オゾンが発生するため、排気手段を有することが好ましい。排気手段は、インク吐出時に発生するインクミストの回収を兼ねるべく配置してあることが好適である。
【0152】
次に活性エネルギー線の好ましい照射条件について述べる。基本的な照射方法は、特開昭60−132767号公報に開示されている。具体的には、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。照射は、インク着弾後、一定時間をおいて行われることになる。更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。WO99/54415号では、照射方法として、光ファイバーを用いた方法やコリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されている。本発明においては、これらの照射方法を用いることが可能である。
【0153】
硬化させるための活性エネルギー線がインク吐出ノズルに照射されると、ノズル面表面に付着したインクミスト等が固化し、インク吐出の妨げとなる可能性があるため、ノズルへの照射を最小限にとどめるため、遮光等の措置を施すことが好ましい。具体的には、ノズルプレートへの照射を防止する隔壁を設ける、あるいは迷光を低減するべく被記録媒体への入射角を限定するための手段を設ける等が好適である。
【0154】
また、本発明では、着弾から照射までの時間を0.01秒〜0.5秒とすることが望ましく、好ましくは0.01秒〜0.3秒、更に好ましくは0.01秒〜0.15秒後に放射線を照射することにある。このように着弾から照射までの時間を極短時間に制御することにより、着弾インクが硬化前に滲むことを防止するこが可能となる。また、多孔質な被記録媒体に対しても光源の届かない深部までインク組成物が浸透する前に露光することができる為、未反応モノマーの残留を抑えられ、その結果として臭気を低減することができる。上記説明したインクジェット記録方法と本発明のインク組成物とを併せて用いることにより、大きな相乗効果をもたらすことになる。このような記録方法を取ることで、表面の濡れ性が異なる様々な被記録媒体に対しても、着弾したインクのドット径を一定に保つことが出来、画質が向上する。
【0155】
・システムパラメータ
画像を形成するうえで、被記録媒体上でのインク着弾径は10μm〜500μmの間にあることが好適であり、このためには吐出時のインク滴の直径は5μm〜250μmであることが好ましく、このときのノズル径は15μm〜100μmであることが好ましい。
画像を形成するためには1インチあたりの画素数が50dpi〜2400dpiであることが好ましく、そのためには、ヘッドのノズル密度は10dpi〜2400dpiであることが好ましい。ここで、ヘッドのノズル密度は低くとも、被記録媒体の搬送方向に対して傾ける、あるいは複数のヘッドユニットを相対的にずらして配置することにより、ノズル間隔の大きいヘッドで高密度の着弾を実現することが可能である。また上記のようにヘッドもしくは被記録媒体の往復移動により、低ノズルピッチでヘッドが移動するごとに被記録媒体を所定量搬送させ、インク滴を異なる位置に着弾させることにより、高密度の画像記録を実現することができる。
【0156】
被記録媒体へのインク打滴量としては、良好な階調を表現するためには0.05g/m〜25g/mの間で任意量に制御できることが好適であり、これを実現するためにヘッドからの吐出インク滴の大きさ、及び/又は数量を制御することが好ましい。
【0157】
ヘッドと被記録媒体の間隔に関しては、広すぎるとヘッドもしくは被記録媒体の移動に伴う空気の流れでインク滴の飛翔が乱れ、着弾位置精度が低下する。逆に間隔が狭いと、被記録媒体の凹凸、搬送機構に起因する振動等によりヘッドと被記録媒体が接触する危険性があり、0.5mm〜2mm程度に維持されることが好ましい。
【0158】
・インクセット
インクは単色であってもよいし、シアン、マゼンタ、イエローのカラーであってもよいし、さらにブラックを加えた4色、あるいはさらに特色と呼ばれるこれら以外の特定色のインクを用いてもよい。色材は、染料であってもよいし、顔料であってもよい。これらのインクの打滴順は、明度の低い順に着弾するように打滴させてもよいし、明度の高い順に着弾させてもよいし、画像記録品質上好適な順に打滴させることが好ましい。
【0159】
明度の高い色から順に重ねていくと、下部のインクまで活性エネルギー線が到達しやすく、硬化感度の阻害、残留モノマーの増加および臭気の発生、密着性の劣化が生じにくい。また、照射は、全色を射出してまとめて露光することが可能だが、1色毎に露光するほうが、硬化促進の観点で好ましい。
記録するべき画像信号は、たとえば特開平6−210905号公報に記載されるように、良好な色再現を得るべく信号処理を施すことが好ましい。
【0160】
また、本発明のインク組成物は、インクジェット記録用途以外に、三次元造形用途などにも利用可能であり、缶印刷用途や食品用途にも利用できる。これらの用途については公知の方法を利用して画像形成することができ、例えば特許第2679586号公報などの記載を参照することができる。
【0161】
・被記録媒体
本発明のインク組成物を用いて記録される被記録媒体としては、インク浸透性の被記録媒体、および、インク非浸透性の被記録媒体をともに使用することができる。インク浸透性の被記録媒体は、普通紙、インクジェット専用紙、コート紙、電子写真共用紙、布、不織布、多孔質膜、高分子吸収体等が挙げられる。これらについては特開2001−1891549号公報などに「被記録材」として記載されている。
【0162】
前記インク非浸透性の被記録媒体としては、アート紙、合成樹脂、ゴム、樹脂コート紙、ガラス、金属、陶器、木材等が挙げられる。加えて各機能を付加する為に、これら材質を複数組み合わせ複合化した基材を使用することもできる。
【0163】
前記合成樹脂としてはいかなる合成樹脂も用いることができるが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、および、ポリブタジエンテレフタレート等のポリエステル;ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリウレタン、および、ポリプロピレン等のポリオレフィン;並びに、アクリル樹脂、ポリカーボネート、および、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等や、ジアセテート、トリアセテート、ポリイミド、セロハン、および、セルロイド等が挙げられる。
【0164】
前記合成樹脂を用いた基材の形状(厚み)は、フィルム状でもよいし、カード状またはブロック状でもよく、特に限定されることなく所望の目的に応じて適宜選定することができる。また、これら合成樹脂は透明であってもよいし、不透明であってもよい。前記合成樹脂の使用形態としては、いわゆる軟包装に用いられるフィルム状で用いることが好ましい態様の一つであり、各種非吸収性のプラスチックおよびそのフィルムを用いることができる。各種プラスチック製のフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、二軸延伸ポリスチレン(OPS)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、二軸延伸ナイロン(ONy)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、および、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムを挙げることができる。
【0165】
前記樹脂コート紙としては、例えば、透明ポリエステルフィルム、不透明ポリエステルフィルム、不透明ポリオレフィン樹脂フィルム、および、紙の両面をポリオレフィン樹脂でラミネートした紙支持体が挙げられ、前記紙の両面をポリオレフィン樹脂でラミネートした紙支持体が特に好ましい。
【0166】
以上のように、本発明によると硬化性、密着性、柔軟性等の各特性を複合かつ高度に満たすインク組成物が得られ、これを用いた画像記録によると、密着性及び柔軟性に優れた画像を記録した印刷物を得ることができる。
【実施例】
【0167】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例ではインク組成物の一例としてインクジェット記録用のインクを作製した例を示す。
【0168】
<顔料分散物の調製>
インク調製に先立って、以下に示す処方で、顔料を、分散剤とともに重合性化合物に加えて顔料分散物を調製した。
【0169】
・顔料(Irgalite Blue GLVO(PB−15:4)
:チバスペシャリティーケミカルズ社製) 20質量%
・重合性化合物(OXT−221:東亜合成社製) 72質量%
・分散剤(Solsperse28000:ルーブリゾール社製) 8質量%
上述の成分を混合してなる混合液をボールミルに入れて、直径0.6mmのジルコンビーズを使用して、16時間分散して顔料分散物を得た。
【0170】
〔実施例1〕
以下に示す組成となるように、調製した顔料分散物、重合性化合物(カチオン重合性化合物)、光酸発生剤、増感剤、及び界面活性剤を混合し、高速水冷式撹拌機により撹拌し、UVインクジェット用シアンインク組成物を得た。
【0171】
・顔料(Irgalite Blue GLVO(PB−15:4)
:チバスペシャリティーケミカルズ社製) 2質量部
・分散剤(Solsperse28000:ルーブリゾール社製)0.8質量部
・光酸発生剤(Irgacure250:チバスペシャリティーケミカルズ社製)
6質量部
・増感剤(9,10−ジブトキシアントラセン) 3質量部
・界面活性剤(BYK307:BYK Chemie社製) 0.2質量部
・特定重合性化合物(a−1) 2.5質量部
・2官能オキセタン化合物(OXT−221:東亜合成社製) 27.5質量部
・2官能エポキシ化合物(C3000:ダイセル化学工業社製) 70質量部
【0172】
〔実施例2〜15、比較例1〜6〕
実施例1のUVインクジェット用シアンインク組成物の調製において、組成物組成を表1及び表2に記載の組成に変更した以外は同様にして、実施例2〜15、比較例1〜6のインク組成物を調製した。なお、実施例2のインク組成物の調製においては、顔料分散物を調製するための重合性化合物として、OXT−221:東亜合成社製(72質量%)の代わりにC3000:ダイセル化学工業社製(72質量%)を用いた。
【0173】
【表1】

【0174】
【表2】

【0175】
表1及び表2中、「第2オキセタン」とは、第2のオキセタン化合物、すなわち、特定重合性化合物以外のオキセタン化合物であるOXT−221、OXT−211、及び比較化合物c−1〜c−3を表す。
表1及び表2中に示す「顔料」、「分散剤」、「光酸発生剤」、「増感剤」、「界面活性剤」、「特定重合性化合物」、「2官能オキセタン」、「単官能オキセタン」、「2官能エポキシ」、「単官能エポキシ」、及び「比較化合物」の各欄の数値は、インク組成物調製における各成分の配合比(質量部)を示す。なお、「重合性化合物量比」、「全エポキシ化合物中単官能化合物比率」、及び「全オキセタン化合物中単官能化合物比率」の数値の単位は〔質量%〕である
また、表1及び表2中に示される各化合物の詳細を以下に示す。
【0176】
光酸発生剤として用いた「(p−1)」は、下記化学式に示す通りである。
【0177】
【化14】

【0178】
二官能エポキシ化合物として用いた「C3000」、「(b−1)」、及び単官能エポキシ化合物として用いた「フェニルグリシジルエーテル」の構造は、下記化学式に示す通りである。
なお、「C3000」はダイセル化学工業(株)製のエポキシ化合物であり、「フェニルグリシジルエーテル」はALDRICH社製のエポキシ化合物である。
【0179】
【化15】

【0180】
特定重合性化合物(a−1)、(a−2)、及び(a−3)、並びに他のオキセタン化合物として用いた「OXT−211」、「OXT−221」、「c−1」、「c−2」、「c−3」の構造は、下記化学式に示す通りである。
なお、「c−1」、「c−2」、「c−3」は、オキセタン環の2位にアリール基が置換した2官能のオキセタン化合物であり、特定重合性化合物の比較化合物として用いた。
【0181】
【化16】

【0182】
特定重合性化合物(a−1)、(a−2)、及び(a−3)は、Synthesis 1995,533頁〜538頁に記載の方法を参考にして合成した。「OXT−221」及び「OXT−211」は東亞合成(株)製のオキセタン化合物である。
【0183】
<印字、露光>
上記で得られた実施例及び比較例の各インク組成物を、ピエゾ方式のインクジェットヘッドを用いて打滴を行った。ヘッドは25.4mmあたり150のノズル密度で、318ノズルを有しており、これを2個ノズル列方向にノズル間隔の1/2ずらして固定することにより、メディア上にはノズル配列方向に25.4mmあたり300滴打滴される。
【0184】
ヘッドおよびインクは、ヘッド内に温水を循環させることにより吐出部分近辺が50±0.5℃となるように制御されている。ヘッドからのインク吐出は、ヘッドに付与されるピエゾ駆動信号により制御され、1滴あたり6〜42plの吐出が可能であって、本実施例ではヘッドの下1mmの位置でメディアが搬送されながらヘッドより打滴される。搬送速度は50〜200mm/sの範囲で設定可能である。またピエゾ駆動周波数は最大4.6kHzまでが可能であって、これらの設定により打滴量を制御することができる。
本評価では、搬送速度90mm/s、駆動周波数1.9kHzとすることにより、24plにインク吐出量を制御し、10g/mの打滴を行い、ベタ印字画像を得た。
【0185】
メディアは打滴された後、露光部に搬送され紫外発光ダイオード(UV−LED)により露光される。本実施例ではUV−LEDは日亜化学社製NCCU033(商品名)を用いた。本LEDは1チップから波長365nmの紫外光を出力するものであって、約500mAの電流を通電することにより、チップから約100mWの光が発光される。これを7mm間隔に複数個配列し、メディア表面で0.3W/cmのパワーが得られる。打滴後露光されるまでの時間、および露光時間はメディアの搬送速度およびヘッドとLEDの搬送方向の距離により変更可能である。
【0186】
本実施例では着弾後、約0.5秒後に露光した。メディアとの距離および搬送速度の設定に応じて、メディア上の露光エネルギーを0.01〜15J/cmの間で調整した。本実施例では搬送速度により露光エネルギーを調整した。これら露光パワー、露光エネルギーの測定にはウシオ電機製スペクトロラディオメータURS−40D(商品名)を用い、波長220〜400nmの間を積分した値を用いた。本評価ではメディアとして厚みPETフィルムまたはポリ塩化ビニル製のシートを使用し、印字及び露光テストは25℃、50%RHの環境で実施し、露光量は500mJ/cmとした。硬化した画像の厚みは19μmであった。
【0187】
<評価>
実施例及び比較例の各インク組成物の硬化物の柔軟性、及び被記録媒体との密着性、しわ、カールの発生に関して、以下の手法で評価した。
【0188】
1.柔軟性
柔軟性の評価は、PVCシートを10回折り曲げた後に硬化膜に生じた亀裂の程度によっても評価した。この折り曲げ試験は、亀裂がまったく生じない状態を5点とした5段階評価で行い、3点以上を実用上問題の無い状態と評価した。
【0189】
2.基材密着性
下記のように、ポリスチレン基板に対する密着性の評価を行った。
すなわち、硬化物2cm×1cm角の範囲にセロテープ(登録商標)を貼りつけて強く圧着し、硬化物面と垂直に素早く剥離して、その後の硬化物の状態を目視観察した。この密着性試験は、硬化物が基材から全く剥がれない状態を5点とした5段階評価で行い、3点以上を実用上問題の無い状態と評価した。
【0190】
3.しわ、カール
照射、硬化後に、印刷物にしわやカールが発生していないか目視観察した。このしわ、カール試験は、しわやカールの発生が全くない状態を5点とした5段階評価で行い、3点以上を実用上問題の無い状態と評価した。
【0191】
また、下記の条件で、インクの硬化性を評価した。
【0192】
4.硬化性
25℃、70%RHの環境下、各インク組成物を、上記装置を用いて6pLのドットをPVC製のシート上に重ならないように打滴し、50mJ/cmの露光を行い、インクを硬化させ印刷物を得た。硬化性は印刷物の表面べとつきの有無で判断し、下記の基準により評価した。
5:露光終了直後に触っても画像はタッキネスがない
4:露光終了直後に触ると画像はタッキネスがあるが、30秒後にはタッキネスがなくなる
3:露光終了直後に触ると画像はタッキネスがあるが、60秒後にはタッキネスがなくなる
2:露光終了直後に触ると画像はタッキネスがあるが、90秒後にはタッキネスがなくなる
1:露光終了直後に触ると画像はタッキネスがあり、90秒後にもタッキネスがなくならない
【0193】
表1及び表2に記載の結果より、実施例1〜15のインク組成物は、比較例1〜6のインク組成物と比較して、高い感度を有し、柔軟性、密着性をバランスよく満たし、しわやカールの発生がないことがわかる。
実施例1〜3、実施例4〜6、及び実施例7〜9のインク組成物の成分組成及び評価項目を比較すると、特定重合性化合物の含有量が10〜30質量%、第2のオキセタン化合物が10〜30質量%、エポキシ化合物が60〜80質量%に近づくにつれて、硬化性、膜物性がより良好になることがわかる。また、実施例9と10の比較より、光酸発生剤として、特定のスルホニウム塩を用いることで、インク組成物の硬化が十分に発揮されることがわかる。さらに、実施例9と実施例13、14の比較により、第2のオキセタン化合物、及びエポキシ化合物は、2官能モノマーが主である方が、硬化性が良好になることがわかる。また、実施例9と実施例15の比較により、エポキシ化合物は分子量が300以下である方が、膜物性が良いことがわかる。
【0194】
実施例9と比較例1〜3の比較から、本発明の組成において、オキセタン環の2位にアリール基が置換したオキセタン化合物は、単官能化合物である、かつ、アリール基以外に2位に置換基を持たないことで、硬化性、膜物性が大きく向上することがわかる。また、実施例1〜9と比較例4〜5の比較から、単官能のオキセタン環の2位にアリール基が置換したOXTを使用する場合であっても、本発明の組成においてのみ、高い硬化性と膜物性が達成されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、オキセタン化合物とエポキシ化合物とを含有し、前記オキセタン化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%未満であり、かつ、前記エポキシ化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して50質量%を越え、さらに、前記オキセタン化合物の少なくとも1種は、下記一般式(A1)で表される第1のオキセタン化合物である活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【化1】


〔一般式(A1)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。RおよびRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、アリル基、又はアリール基を示す。〕
【請求項2】
前記第1のオキセタン化合物以外の第2のオキセタン化合物をさらに含有し、前記第1のオキセタン化合物及び、前記第2のオキセタン化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対してそれぞれ5〜40質量%であり、かつ、前記エポキシ化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して55質量%〜90質量%である請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項3】
前記第1のオキセタン化合物以外の第2のオキセタン化合物をさらに含有し、前記第1のオキセタン化合物及び、前記第2のオキセタン化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対してそれぞれ10〜30質量%であり、かつ、前記エポキシ化合物の含有量が、全重合性化合物質量に対して60質量%〜80質量%である請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項4】
前記エポキシ化合物の全質量に対して、単官能のエポキシ化合物が50質量%以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項5】
前記第1のオキセタン化合物と前記第2のオキセタン化合物との全質量に対して、単官能のオキセタン化合物が50質量%以下である請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項6】
前記エポキシ化合物は、重量平均分子量が100以上300以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項7】
さらに、下記一般式(P)で表されるスルホニウム塩を含有する請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【化2】


〔一般式(P)中、Xは、陰イオンを表す。〕
【請求項8】
インクジェット記録用である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項9】
被記録媒体上に、請求項8に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物をインクジェット記録装置により吐出する工程、及び、吐出された活性エネルギー線硬化型インク組成物に活性エネルギー線を照射して、該活性エネルギー線硬化型インク組成物を硬化する工程を含むインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記活性エネルギー線は、発光ダイオードにより照射され、発光ピーク波長が350nm〜420nmの範囲にあり、且つ、前記被記録媒体表面での最高照度が10mW/cm〜2,000mW/cmとなる紫外線である請求項9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載のインクジェット記録方法によって記録された印刷物。

【公開番号】特開2011−63778(P2011−63778A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218014(P2009−218014)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】