説明

活性エネルギー線硬化型コーティング樹脂組成物

【課題】アクリレート修飾若しくは非修飾シリカやウレタン骨格を有するアクリレートを使用しない場合であっても、コーティング塗膜を作成した際、基材の反りやコーティング膜自体の割れを防ぎながらも密着性に優れ、コート剤としての特性を得られる速硬化型低粘度の多官能アクリル系モノマーが切望されていた。
【解決手段】ポリグリセリン(平均重合度2〜10)に対しアルキレンオキサイド(炭素数2〜4のアルキレンオキサイドであって、付加モル数4〜40)を付加した化合物の(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルム等各種機能性フィルム、傷付き防止用フィルム等各フィルム、自動車バンパーや家電製品や情報機器端末等各種成型品、CDやDVD等高密度情報記録媒体のコート層等を形成するためのコーティング用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コーティング膜の作成に、熱硬化型や溶剤揮散型の樹脂組成物を用いるのが一般的であったが、熱硬化型では耐熱性のない基材に対しては不適当であり、溶剤揮散型では環境に対する負荷が大きいという問題があった。そこで、近年、活性エネルギー線の照射によって硬化可能な樹脂組成物を用いる塗装方法が、さまざまな分野で開発されている。
【0003】
ところが、活性エネルギー線の照射による硬化には収縮が伴い、硬化物にそり(反り)やわれ(割れ)が生じてしまう問題点が指摘されており、活性エネルギー線硬化型組成物としては、(メタ)アクリレート修飾した微粒子シリカを含有してなる組成物(特許文献1)やウレタン骨格を有するアクリレートを含有してなる組成物(特許文献2)を用いることが報告されている。
【0004】
しかし、上記微粒子シリカを用いた場合に、組成物中で均一分散させることが必ずしも容易ではなく組成物を各種有機溶剤にて希釈しなければ均一分散安定性に欠ける。また、ウレタン骨格を有するアクリレートも分子量が大きくなる傾向に起因して粘度が増大し、組成物を各種有機溶剤にて希釈しなければ作業上使用しづらく薄いコーティング膜を作成することが困難である。このように、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の有機溶剤を使用せずとも硬化できる作業環境・環境対応型技術という本質的意義を全うできない現状にある。
【0005】
また、活性エネルギー線の照射による硬化においては、性能だけでなく生産効率や作業性のより良い物が求められており、特に硬化が速く化合物の粘度が低い物が求められている。一般的に、硬化速度を速くするには、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート化合物を使用することが有効である。しかしながら、これらを用いた場合、硬化性は良好であるものの粘度や硬化収縮などの性能を満足する物は得られなかった。
【特許文献1】特開2006−063244号公報
【特許文献2】特開2005−330403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のアクリレート修飾若しくは非修飾シリカやウレタン骨格を有するアクリレートを使用しない場合であっても、コーティング塗膜を作成した際、基材の反りやコーティング膜自体の割れを防ぎながらも密着性に優れ、コート剤としての特性を得られる速硬化型低粘度の多官能アクリル系モノマーが近年切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ポリグリセリン(平均重合度2〜10)に対しアルキレンオキサイド(炭素数2〜4のアルキレンオキサイドであって、付加モル数4〜40)を付加した化合物の(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型コーティング用樹脂組成物により上記課題を解決するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明の(メタ)アクリレートを含有させることにより硬化速度が速く、基材フィルムの反りを発生させず、コーティング膜のひび割れを発生させず、かつ、有機溶剤を使用せずともコーティング樹脂組成物の粘度を低く抑えることができる活性エネルギー線硬化型コーティング用樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、ポリグリセリン(平均重合度2〜10)に対しアルキレンオキサイド(炭素数2〜4のアルキレンオキサイドであって、付加モル数4〜40)を付加した化合物の(メタ)アクリレートを用いることを特徴とするが、ポリグリセリンの重合度及びアルキレンオキサイドの種類や付加モル数及び(メタ)アクリレートの反応割合により種々の化合物を合成することができるので、以下に説明する。
【0010】
本発明で用いられるアクリレートに使用するポリグリセリンは、水酸基当量で得られる平均重合度が2〜10のものであり、好ましくは同平均重合度が4〜10である。平均重合度が1すなわちグリセリンの場合、硬化速度が遅く好ましくなく、また平均重合度10より大きい場合、製造工程中に水洗することが困難である等製造上種々の問題があるので好ましくない。
【0011】
本発明で用いられるアクリレートに使用するアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられるが、エチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドが好ましく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドは単独でも併用しても良い。アルキレンオキサイドの付加単位数は、ポリグリセリン1モルに対して4〜40モルであり、好ましくは4〜30モルである。付加モル数が4モルより少ない場合、ポリグリセリン骨格の2級のアルコールが増えるため(メタ)アクリレートを反応させることが難しくなり、逆に付加モル数を40より増やすと製造工程中に水洗することが困難である等製造上種々の問題があるので好ましくない。
【0012】
本発明で用いられる(メタ)アクリレートの反応率については、ポリグリセリンのアルキレンオキサイド付加物の水酸基のうち、70%以上反応させることが好ましい。70%より少ないと反応速度が遅くなり、かつ製造工程中に水洗することが困難である等製造上種々の問題があるので好ましくない。
【0013】
なお、本発明で用いられる(メタ)アクリレートは、コーティング組成物に対し、通常10〜99重量%、好ましくは20〜90重量%、さらに好ましくは30〜80重量%配合される。この範囲より少ないと、特に無溶剤系でのコーティング組成物の粘度が高く作業上や薄い塗膜を作成することが困難になる。
【0014】
本発明の活性エネルギー線硬化型コーティング用樹脂組成物は、本発明で用いられる(メタ)アクリレート以外に他の(メタ)アクリル系モノマーを単独若しくは2種以上併用することも妨げない。他のアクリル系モノマーとしては、例えばテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、2−エチルヘキシルジエトキシ(メタ)アクリレート、水添ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリエトキシジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサ(メタ)アクリレート混合物、ジペンタエリスリトールポリエトキシヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリプロポキシヘキサ(メタ)アクリレート等のモノマー類を挙げることができる。
【0015】
本発明の樹脂組成物は公知の方法によって硬化する事ができる。活性エネルギー線とは、電子線、X線、紫外線、低波長領域の可視光等エネルギーの高い電子線若しくは電磁波の総称であり、通常装置の簡便性及び普及性により紫外線が好ましい。紫外線を照射できる装置として多くの種類があるが、任意に選択できる。また、低波長領域側の可視光等エネルギーとして、青色LEDを用いることも可能である。
【0016】
本発明において上記の中で、紫外線を用いて硬化させる場合に、光重合開始剤を使用する必要がある。光重合開始剤としては、公知のどのような光重合開始剤であっても良いが配合後の貯蔵安定性の良い事が要求される。この様な光重合開始剤としては、例えばベンゾイン類、アセトフェノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられ、単独または2種以上を併用することができる。光重合開始剤を使用する必要がある場合、その使用量は、通常組成物の0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜7重量%である。
【0017】
ベンゾイン類としては、例えばベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等があげられる。アセトフェノン類としては、例えばアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、N,N−ジメチルアミノアセトフェノン等があげられる。チオキサントン類としては、例えば2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等があげられる。ケタール類としては、例えばベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール等があげられる。ベンゾフェノン類としては、例えばベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等があげられる。
【0018】
さらに、光増感剤を単独あるいは2種以上と組合せて用いることができる。光増感剤としては、例えばN,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類があげられる。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、所望により、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール等の有機溶剤、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、アクリルポリマー等の非反応性高分子樹脂;ポリジアリルフタレート、ポリジアリルイソフタレート等の反応性高分子樹脂;レベリング剤、消泡剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、光安定剤、重合禁止剤等の添加剤;炭酸カルシウム、タルク、シリカ、硫酸バリウム等の無機フィラー等を併用することができる。
【0020】
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、種々の基材の表面に塗布され、次いで紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより硬化する。この組成物は、紙、硬質及び可橈性プラスチック、金属基板、セメント、ガラス、石、セラミック、木材、その他を含む広い範囲の基板上へ適用できる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものでない。
<合成例1>
ジグリセリン166g(1モル)にエチレンオキサイド176g(4モル)を付加した化合物に対し、アクリル酸317g(4.4モル)を85℃で10時間反応し、次いでトルエン及び多量の水及び未反応のアクリル酸を中和する量の苛性を加え、分液ロートで有機層を取り出しエバポレータにてトルエンを留去し、ジグリセリンエチレンオキサイド(4モル)付加物のアクリレート反応物を得た。生成物の粘度は、230mPa・s(25℃)であり、けん化価から求めたアクリル酸の反応割合は、水酸基に対して80%であった。以下、得られた化合物をA1という。
【0022】
<合成例2>
エチレンオキサイドを264g(6モル)に変更した以外は合成例1と同様の反応を行い、ジグリセリンエチレンオキサイド(6モル)付加物のアクリレート反応物を得た。生
成物の粘度は、240mPa・s(25℃)であり、けん化価から求めたアクリル酸の反応割合は、水酸基に対して87%であった。以下、得られた化合物をA2という。
【0023】
<合成例3>
エチレンオキサイドを880g(20モル)、反応時間を12時間に変更した以外は合成例1と同様の反応を行い、ジグリセリンエチレンオキサイド(20モル)付加物のアクリレート反応物を得た。生成物の粘度は、350mPa・s(25℃)であり、けん化価から求めたアクリル酸の反応割合は、水酸基に対して84%であった。以下、得られた化合物をA3という。
【0024】
<合成例4>
ジグリセリン166g(1モル)をテトラグリセリン314g(1モル)に、エチレンオキサイドを264g(6モル)、アクリル酸を649g(9モル)、反応時間を18時間に変更した以外は合成例1と同様の反応を行い、テトラグリセリンエチレンオキサイド(6モル)付加物のアクリレート反応物を得た。生成物の粘度は、440mPa・s(25℃)であり、けん化価から求めたアクリル酸の反応割合は、水酸基に対して95%であった。以下、得られた化合物をA4という。
【0025】
<合成例5>
ジグリセリン166g(1モル)をデカグリセリン758g(1モル)、エチレンオキサイドを1056g(24モル)、アクリル酸を1297g(18モル)、反応時間を18時間に変更した以外は合成例1と同様の反応を行い、デカグリセリンエチレンオキサイド(24モル)付加物のアクリレート反応物を得た。生成物の粘度は、890mPa・s(25℃)であり、けん化価から求めたアクリル酸の反応割合は、水酸基に対して93%であった。以下、得られた化合物をA5という。
【0026】
実施例1〜5、比較例1〜4を表1に示すような処方で(数値は重量部を示す。)各成分を混合し、各種組成物を光重合開始剤が溶解し均一になるよう調製し、各種評価を行った。実施例中の評価は、以下の方法で行った。
【0027】
組成物粘度:調製された組成物を回転粘度計にて測定した。なお、粘度測定には、株式会社東京計器製のB型粘度計(BM形式;ローターNO.1)を用い、25℃下で測定した。有機溶剤を含まない不揮発成分での粘度が2000mPa・s以下であることが望ましい。粘度が高いと薄い塗膜を作成することが困難だからである。
【0028】
硬化性:調製された組成物を厚さ100μmのポリカーボネート樹脂フィルム上にバーコーターにより塗布し(厚み15μm)、次いで高圧水銀灯(ランプ出力2kw)を平行に配した光源下20cmの位置で照射して硬化させた。硬化するまでの積算光量(mJ/cm)をウシオ電機(株)製積算光量計UIT−250(受光部365nm)を用いて求めた。
◎・・・50mJ/cm未満で完全に硬化した。
○・・・50mJ/cm以上100mJ/cm未満で完全に硬化した。
△・・・100mJ/cm以上200mJ/cm未満で完全に硬化した。
×・・・200mJ/cm以上で完全に硬化した。
【0029】
収縮性:上記の方法で硬化した基材の反りを目視にて観察した。
○・・・・基材のポリカーボネートに反りが見られない。
×・・・・基材のポリカーボネートに反りが見られる。
【0030】
密着性:上記の方法で硬化した印刷物を、JIS K 5400に記載されたクロスカット−セロテープ(登録商標)剥離テストを行なった。
○・・・・100升中、全く剥離が見られない。
△・・・・100升中、30%未満の剥離が見られる。
×・・・・100升中、30%以上の剥離が見られる。

【0031】
【表1】

【0032】
表1の評価結果から、本発明の活性エネルギー線硬化型コーティング用樹脂組成物は、有機溶剤で希釈せずとも低粘度であり、かつ基材を収縮させることなく、硬化速度が速く、密着性も良好である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のコーティング用樹脂組成物を用いることにより、有機溶剤を使用しなくても低粘度の組成物を得られ、硬化速度が速く、硬度が高く、基材の反りや割れがないコーティング塗膜を作成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン(平均重合度2〜10)及びアルキレンオキサイド(炭素数2〜4のアルキレンオキサイドであって、付加モル数4〜40)を反応して得られる化合物の(メタ)アクリレートを含有することを特徴とするコーティング用樹脂組成物。
【請求項2】
光重合開始剤を含有する請求項1のコーティング用樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−45104(P2008−45104A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41255(P2007−41255)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】