説明

活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物

【課題】得られる硬化物が、高屈折率でかつ高光線透過率を有し、低吸水率である活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物の提供。
【解決手段】式(1)で表されるジ(メタ)アクリレート(A)及びビフェニルモノアクリレート(B)からなる活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物。当該組成物を、所定の形状を有する型枠に塗布するか又は流し込んだ後、活性エネルギー線を照射する光学材料の製造方法。


〔R1及びR3は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、R2及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基を表わし、R5〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又は臭素原子を表し、l及びmは、それぞれ独立して、1〜6の整数を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物に関するものであり、活性エネルギー線硬化型組成物、並びにレンズシート及びプラスチックレンズ等の光学材料の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フレネルレンズ及びレンチキュラーレンズ等のレンズシートは、プレス法及びキャスト法等の方法により、成形して製造されていた。
しかしながら、前者のプレス法は加熱、加圧及び冷却のサイクルで製造するため、生産性が悪いという問題があった。又、後者のキャスト法は、金型にモノマーを流し込んで重合するため製作時間が長くかかるとともに金型が多数個必要なため、製造コストが上がるという問題があった。
【0003】
一方、活性エネルギー線硬化型組成物は、速硬化性を有し、生産性に優れているため、前記問題を解決するため、レンズシートの製造用の活性エネルギー線硬化型組成物について、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1〜同6)。
【0004】
しかしながら、従来の活性エネルギー線硬化型組成物は、屈折率及び透明性の点で不十分であり、この点を改良すべく、ビスフェノール型ジ(メタ)アクリレートと芳香族環を有するモノ(メタ)アクリレートを併用した組成物が検討されている(例えば、特許文献7及び同8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−177215号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭61−248707号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭61−248708号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開昭63−163330号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開昭63−167301号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開昭63−199302号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平9−87336号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特許3397448公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光学用途で使用される活性エネルギー線硬化型組成物において、前記した組成物は、プロジェクションテレビ等の薄型化で要求される様な、さらに高度の屈折率及び透明性が要求される用途では不十分なものであった。
又、光学用途で使用される活性エネルギー線硬化型組成物には、これらの光学特性に加えて、得られる硬化物の寸法安定性が要求される。即ち、硬化物の吸水率が高い場合、経時的に吸水することにより寸法変化をもたらし、光学特性にムラが発生したり、部材の剥離・変形を起すことがある。
本発明者は、得られる硬化物が、高屈折率でかつ高光線透過率を有し、さらに吸水率が少ない寸法安定性に優れる活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物を見出すため鋭意検討を行ったのである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物は、室温での作業性に優れたものであり、得られる硬化物は、高屈折率であり、なおかつ光線透過率も良好であり、さらに吸水率の低い寸法安定性に優れたものとなる。よって、本発明の組成物は、高屈折率、高光線透過率及び寸法安定性等が要求されるレンズシート及びプラスチックレンズ等の光学部材に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者は、前記の課題を解決するため種々の研究した結果、特定2種のアクリレートを含む組成物が、活性エネルギー線による硬化が速く、又その硬化物が高屈折率で、光線透過率に優れることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
尚、本明細書においては、アクリレート又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表す。
【0009】
本発明は、後記一般式(1)で表されるジアクリレート(A)及び後記一般式(2)で表されるモノアクリレート(B)からなり、(A)成分及び(B)成分の合計量を基準として、(A)成分を10〜90質量%及び(B)成分を90〜10質量%を含有する活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物に関する。
以下、それぞれの成分について説明する。
【0010】
1.(A)成分
(A)成分は、下記一般式(1)で表されるジアクリレートである。
【0011】
【化1】

【0012】
〔式(1)において、R1及びR3は、水素原子を表し、R2及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基を表わし、R5〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又は臭素原子を表し、l及びmは、それぞれ独立して、1〜6の整数を表す。〕
【0013】
1及びR3としては、組成物が硬化性に優れるものとなるため、いずれも水素原子が好ましい。R2及びR4としては、得られる硬化物の屈折率に優れるため、いずれも水素原子が好ましい。R5〜R8としては、R5〜R8の全てが水素原子のもの、R5が水素原子でR6がメチル基で、かつR7が水素原子でR8がメチル基のもの、並びにR5が水素原子でR6が臭素原子で、かつR7が水素原子でR8が臭素原子のものが、(A)成分を製造する際の収率が高く、さらに得られる硬化物の屈折率に優れるため好ましい。
l及びmはとしては、1〜3のものが、得られる硬化物の屈折率に優れるため好ましい。
【0014】
(A)成分の具体例としては、ビス(4−アクリロキシエトキシフェニル)スルフィド、ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)スルフィド、ビス(4−アクリロキシトリエトキシフェニル)スルフィド、ビス(4−アクリロキシジエトキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−アクリロキシエトキシ−3−ブロモフェニル)スルフィド及びビス(4−アクリロキシジエトキシ−3−ブロモフェニル)スルフィド等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、硬化性に優れることから、ビス(4−アクリロキシエトキシフェニル)スルフィド、ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)スルフィド、ビス(4−アクリロキシエトキシ−3−メチルフェニル)スルフィド及びビス(4−アクリロキシジエトキシ−3−メチルフェニル)スルフィドがより好ましい。
(A)成分は、一種又は二種以上を併用することができる。
【0016】
2.(B)成分
(B)成分は、下記一般式(2)で表されるアクリレートであり、組成物の硬化物に高屈折率及び低い吸水率を付与し、組成物を取り扱いやすい液状にする成分である。
【0017】
【化2】

【0018】
〔式(2)において、R9は水素原子を表す。〕
【0019】
(B)成分の具体例としては、例えば、o−フェニルフェニルアクリレート、m−フェニルフェニルアクリレート及びp−フェニルフェニルアクリレートが挙げられる。
これらの中でも、室温で液状であり扱いやすく、入手しやすい点で、o−フェニルフェニルアクリレートが好ましい。
尚、本発明の(B)成分と異なる、フェニル基を1個有する(メタ)アクリレートや、アルキレンオキサイド基を有する化合物は、組成物の硬化物が高屈折率を有するものとならないうえ、吸水率も高いものとなってしまう。
【0020】
(B)成分は、一種又は二種以上を併用することができる。
【0021】
3.その他の成分
本発明の組成物は、活性エネルギー線の照射により硬化するものであるが、この場合の活性エネルギー線としては、電子線、可視光線及び紫外線等が挙げられる。これらの中でも、特別な装置を必要とせず、簡便であるため、可視光線又は紫外線が好ましい。
可視光線又は紫外線硬化型組成物とする場合、組成物に光重合開始剤を配合する。尚、電子線硬化型組成物とする場合は、光重合開始剤を必ずしも配合する必要はない。
光重合開始剤〔以下(C)成分という〕の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン及びN,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン及び4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン;並びに2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
(C)成分は、単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0022】
(C)成分には、必要に応じて光増感剤を併用することができる。光増感剤としては、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、トリエチルアミン及びトリエタノールアミン等が挙げられる。
【0023】
(C)成分の好ましい配合割合としては、(A)成分及び(B)成分との合計量100質量部に対して、後記する不飽和基含有化合物を配合する場合には(A)成分、(B)成分及び不飽和基含有化合物の合計量100質量部に対して、0.05〜12質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0024】
本発明の組成物には、必要に応じて、(A)及び(B)成分以外の不飽和基含有化合物を配合することができる。
当該不飽和基含有化合物としては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、N−ビニルカプロラクトン、アクリロイルモルホリン、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)−プロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリブロモフェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のジ(メタ)アクリレート、各種ポリウレタンポリ(メタ)アクリレート及びポリエステルポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
不飽和基含有化合物の好ましい配合割合は、組成物中に0〜50質量%の範囲である。
【0025】
前記成分以外にも、必要に応じて、顔料、染料、消泡剤、レベリング剤、無機フィラー、有機フィラー及び光安定剤、酸化防止剤及び紫外線吸収剤等を配合することもできる。又、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤及び重合禁止剤等を少量添加してもよい。
【0026】
本発明の組成物は、さらに硬化を進行させる目的で、組成物に熱重合開始剤を配合し、活性エネルギー線照射後に、加熱させることもできる。
熱重合開始剤としては、種々の化合物を使用することができ、有機過酸化物及びアゾ系開始剤が好ましい。
有機過酸化物の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジーメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α、α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド及びt−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0027】
アゾ系化合物の具体例としては、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタン及びアゾジ−t−ブタン等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。又、有機過酸化物は還元剤と組み合わせることによりレドックス反応とすることも可能である。
【0028】
4.活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物
本発明は、前記(A)成分と(B)成分を必須とするものである。
(A)成分及び(B)成分の割合は、(A)成分及び(B)成分の合計量を基準として、(A)成分が10〜90質量%で(B)成分が90〜10質量%であり、好ましくは(A)成分が30〜90質量%で(B)成分が70〜10質量%である。(A)成分の割合が、10質量%より少ないと、所望の屈折率が得られなくなり、一方、(A)成分の割合が90質量%を超えると、室温で組成物が固体になってしまうことがあり、作業性に問題を生ずる。
【0029】
本発明の組成物は、前記(A)及び(B)成分、必要に応じてその他の成分を、常法に従い、攪拌・混合して製造することができる。
(A)成分又は(C)成分が固体である場合は、必要に応じて、攪拌・混合した後加熱しても良く、50〜100℃が好ましい。
【0030】
本発明の組成物を使用する光学材料の製造方法としては、常法に従えば良く、例えば組成物を、所定の形状を有する型枠に塗布するか又は流し込んだ後、必要に応じてこの上から透明基板を置き、活性エネルギー線を照射して組成物を硬化させた後、型枠から硬化物を取り出す方法等が挙げられる。
【0031】
活性エネルギー線としては、電子線、可視光線及び紫外線等が挙げられる。これらの中でも、特別な装置を必要とせず、簡便であるため、可視光線又は紫外線が好ましい。紫外線照射装置としては、高圧水銀灯等が挙げられる。
活性エネルギー線の照射量及び照射時間等は、使用する組成物及び用途に応じて、適宜設定すれば良い。
【0032】
本発明の組成物は、屈折率(25℃)が通常1.59以上、好ましくは1.60以上を有するという高屈折率の硬化物を得ることができる。さらに、当該硬化物は、透明性にも優れる。
【0033】
この様に、本発明の組成物の硬化物は、高屈折率かつ透明性を有するため、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ及びプリズムシート等のレンズシート、並びにプラスチックレンズ等の種々の光学材料に使用できる。
レンズシートとしては、更に詳細には、ビデオプロビェクター、プロジェクションテレビ及び液晶ディスプレイ等用途が挙げられる。
【0034】
本発明の組成物を使用してレンズシートを製造する例について説明する。
比較的膜厚の薄いレンズシートを製造する場合は、本発明の組成物を、目的のレンズの形状を有するスタンパーと称される型枠に塗布し、該組成物の層を設け、その層の上に透明基板を接着させる。
次いで、透明基板側から活性エネルギー線を照射して、組成物を硬化させ、この後、金型から剥離させる。
【0035】
一方、比較的膜厚の厚いレンズシートを製造する場合は、目的のレンズの形状を有する型枠と透明基板の間に、本発明の組成物を流し込む。
次いで、透明基板側から活性エネルギー線を照射して、組成物を硬化させ、この後、金型から脱型させる。
【0036】
前記透明基板としては、樹脂基板が好ましく、具体例としては、メタクリル樹脂、ポリカ−ボネ−ト樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン樹脂及びスチレン樹脂等のシ−ト状のものが使用できる。
前記型枠としては、その材質は特に限定されないが、例えば真鍮及びニッケル等の金属、並びにエポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。型枠の寿命が長い点で、金属製である金型が好ましい。
【0037】
次に、本発明の組成物を使用して、プラスチックレンズを製造する例について説明する。
例えば、本発明の組成物を、少なくとも片面が透明である鏡面研磨した型枠に注入し、活性エネルギー線を照射して硬化させ、離型することにより得る方法等が挙げられる。
この場合の型枠としては、ガラス、プラスチック、又はこれらを組み合わせた2枚の鏡面研磨したモールド型と、可塑化塩化ビニル及びエチレン−酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性樹脂製のガスケットの他、2枚のモールド型を型締め具等とを組み合わせて構成されたもの等が挙げられる。
この場合の活性エネルギー線の照射は、型枠の片面又は両面に行えば良い。又、活性エネルギー線の照射と加熱とを組み合わせることもできる。
【0038】
[発明を実施するための最良の形態]
本発明の組成物は、(A)成分の10〜90質量%及び(B)成分の90〜10質量%を必須とするものである。(A)成分としては、組成物の硬化物が高屈折率となるため、R1及びR3がいずれも水素原子のジアクリレートが好ましい。組成物としては、(C)成分を含むものが好ましい。
又、本発明は、前記の組成物を、所定の形状を有する型枠に塗布するか又は流し込んだ後、活性エネルギー線を照射する光学材料の製造方法である。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。
尚、以下において、「部」とは質量部を意味する。
○実施例及び比較例
表1に示す各成分を、常法に従い攪拌・混合し、あらかじめ80℃に保った乾燥機中で、固体状の光重合開始剤を15分かけて加熱溶解させ、紫外線硬化型組成物を調整した。
得られた組成物を、バーコーターを用いて、室温にてOPPフィルム上に膜厚30μmに塗布した。これを、コンベアスピード10m/分、ランプ高さ10cm、出力80W/cmの高圧水銀ランプにて、紫外線照射を2回行い、硬化させた。
得られた硬化物を、以下の方法に従い評価した。それらの結果を表2に示す。
【0040】
(1)作業性
硬化物を作製する際の組成物の扱いやすさを評価した。室温で液体であるものを○、固体又はペースト状であるものを×とした。
(2)屈折率
硬化物の屈折率(25℃におけるナトリウムD線を用いた測定値)を、(株)アタゴ製アッベ屈折計DR−M2により測定した。
(3)光線透過率
波長400nmにおける硬化物の光線透過率を、日本分光(株)製V−550により測定した。
(4)吸水率
ガラス平板の四方に、樹脂板を置き、厚さ0.4mmの空間部を形成した。該空間部に得られた組成物を満たした後、ガラス平板を置いた。
これに、上記と同様の条件で紫外線を照射した。硬化後、ガラス平板を取り除き、厚さ0.4mmの硬化物のシートを得た。
得られた硬化物のシートを5cm×5cmに切り出し、これを試験片とした。
この試験片を窒素中、210℃で1時間加熱し、硬化物を完全に乾燥させた後に、デシケーター中で放冷し、試験片を秤量した(W1)。ついで試験片を80℃の蒸留水に20時間浸漬し、取り出した後に試験片表面の水を軽く拭き取り秤量し(W2)、次式より吸水率を算出した。
吸水率(%)=100×(W2−W1)/W1
【0041】
【表1】

【0042】
尚、表1における略号は、以下の意味を示す。
・BAEPS:ビス(4−アクリロキシエトキシフェニル)スルフィド
・o−PPA:o−フェニルフェニルアクリレート
・p−CPA:p−クミルフェニルアクリレート
・M−211B:ビスフェノールAエチレンオキサイド4モル変性ジアクリレート、東亞合成(株)製アロニックスM−211B
・M−400:ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレートの混合物、東亞合成(株)製アロニックスM−400
・POA:フェノキシエチルアクリレート
・TO−1463:o−フェニルフェノールエチレンオキサイド1モル付加物のアクリレート、東亞合成(株)製アロニックスTO−1463
・Irg184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製イルガキュア184
【0043】
【表2】

【0044】
表2から明らかなように、本発明の組成物は作業性に優れ、その硬化物の屈折率は、1.59以上の高屈折率で、光線透過率も良好であり、吸水率も低いものであった。
一方、(A)成分を含有するが、フェニル基を分子中に一つしか有していない(B)成分と異なるフェノキシエチルアクリレートを含有する組成物(比較例1)を用いた場合には、高屈折率で吸水率の低い硬化物が得られなかった。又、(A)成分のみを用いた組成物(比較例2)は、室温で固体であるため作業性が悪く、硬化物を得ることができなかった。又、(B)成分を含有するが、(A)成分を含有しない組成物(比較例3及び同4)は、高屈折率で吸水率の低い硬化物が得られなかった。さらに、本発明の(B)成分とは異なるアルキレンオキサイド単位を有するものを使用した組成物(比較例5及び同6)は、作業性及び屈折率等の光学物性に優れるものの、吸水率の低い硬化物が得られなかった。
【0045】
○応用例(レンズシートの製造)
実施例1〜同5で得られた組成物を使用し、レンズ形状を有する金型へ流し込み、その上から透明基板のメタクリル樹脂板で挟みこんだ。
透明基板側から上記と同様の条件で紫外線を照射して組成物を硬化させた。
硬化後の硬化物を金型から取り外したところ、目的の形状をし、上記した通りの光学物性等に優れたレンズシートを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の組成物は、活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物として、ビデオプロビェクター、プロジェクションテレビ及び液晶ディスプレイ等に使用するフレネルレンズ及びレンチキュラーレンズ等のレンズシート、並びにプラスチックレンズ等に代表される、高屈折率及び高光線透過率を要求される光学部材に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジアクリレート(A)及び下記一般式(2)で表されるモノアクリレート(B)からなり、(A)成分及び(B)成分の合計量を基準として、(A)成分を10〜90質量%及び(B)成分を90〜10質量%を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物。
【化1】

〔式(1)において、R1及びR3は、水素原子を表し、R2及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基を表わし、R5〜R8は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又は臭素原子を表し、l及びmは、それぞれ独立して、1〜6の整数を表す。〕
【化2】

〔式(2)において、R9は水素原子を表す。〕
【請求項2】
さらに(A)成分及び(B)成分以外の不飽和基含有化合物(以下、単に不飽和基含有化合物という)を含有することを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物。
【請求項3】
さらに光重合開始剤(C)を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物。
【請求項4】
(A)成分及び(B)成分との合計量100質量部に対して、不飽和基含有化合物を含む場合は(A)成分、(B)成分及び不飽和基含有化合物との合計量100質量部に対して、(C)成分を0.05〜12質量部を含有することを特徴とする請求項3に記載の活性エネルギー線硬化型光学材料用組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の組成物を、所定の形状を有する型枠に塗布するか又は流し込んだ後、活性エネルギー線を照射する光学材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−256395(P2011−256395A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176684(P2011−176684)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【分割の表示】特願2005−515312(P2005−515312)の分割
【原出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】