説明

活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、合成樹脂積層体及び合成樹脂積層体の製造方法

【課題】合成樹脂基材表面に塗布して活性エネルギー線により硬化させたときに優れた硬度、耐傷付き性及び帯電防止性を有し、且つ、クラックの発生しにくい硬化塗膜を形成することのできる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、該組成物の硬化塗膜が合成樹脂基材表面に形成されてなる合成樹脂積層体、及び該積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】1分子中に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量1000〜10000の脂肪族ウレタンアクリレート(A)と、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)と、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する第4級アンモニウム塩化合物(C)とを含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に塗布して硬化したときに優れた硬度、耐傷付き性及び帯電防止性を有する塗膜を形成することができる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、該組成物を用いた合成樹脂積層体及び該合成樹脂積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の合成樹脂は、軽量性、易加工性、透明性、耐衝撃性、電気絶縁性、寸法安定性等の数多くの優れた性質を有しているため容器、包装材料、ハウジング材料、光ディスク基板、建築材料等の種々の用途に使用されている。しかし、これらの合成樹脂は表面硬度が低いために引掻傷が付きやすく、また摩耗しやすい。しかも静電気を帯びてゴミや汚れがつきやすいという欠点をもっている。
【0003】
そのため、合成樹脂基材の耐傷付き性、耐摩耗性及び帯電防止性を改良するための様々な方法が開発されてきた。例えば、耐傷付き性と共に帯電防止性を向上させる方法として、分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、ヒドロキシ基を持たない架橋性化合物(例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能性アクリレート)と、分子中に1個以上のアクリロイル基及び1個以上のヒドロキシ基を有する相溶性化合物(例えば、2-ヒドロキシルアクリレート、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルーアクリル酸付加物等)と、分子中に1個以上のアクリロイル基を有する4級アンモニウム塩化合物とを含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。また、上記と同様に、耐傷付き性と共に帯電防止性を向上させる方法として、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物(例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレンクリコールジアクリレート等)と、分子中に1個のα、β−エチレン系不飽和結合を有する化合物と第四級アンモニウム基を有する重合性ビニル化合物と他の重合性ビニル化合物との共重合体を必須成分として含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−316467号公報
【特許文献2】特開2001−323029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物はいずれも、帯電防止性は向上しているものの、硬度と耐傷付き性が実用上充分ではなく、しかも塗膜にクラックが発生することがある。
【0006】
従って、本発明の解決課題は、合成樹脂基材表面に塗布して活性エネルギー線により硬化させたときに優れた硬度、耐傷付き性及び帯電防止性を有し且つクラックの発生しにくい硬化塗膜を形成することのできる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の解決課題は、優れた硬度、耐傷付き性及び帯電防止性を有し且つクラックの発生しにくい硬化塗膜が合成樹脂基材表面に形成された合成樹脂積層体を提供することにある。
【0008】
本発明の他の解決課題は、優れた硬度、耐傷付き性及び帯電防止性を有し且つクラックの発生しにくい表面層を有する合成樹脂積層体を得ることのできる合成樹脂積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題の解決手段として、1分子中に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量1000〜10000の脂肪族ウレタンアクリレート(A)と、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)と、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する第4級アンモニウム塩化合物(C)とを含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記課題の解決手段として、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化塗膜が合成樹脂基材表面に形成されたことを特徴とする合成樹脂積層体を提供する。
【0011】
更に、本発明は、前記課題の解決手段として、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を合成樹脂基材に塗布し、活性エネルギー線により硬化塗膜を形成することを特徴とする合成樹脂積層体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線により高速硬化することができ、合成樹脂基材表面に塗布して硬化させたときに、優れた硬度、耐傷付き性及び帯電防止性を有し且つクラックの発生しにくい硬化塗膜を形成することができ、しかもその硬化塗膜は合成樹脂基材に対する密着性に優れると共に耐光性にも優れる。
【0013】
更に、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、無溶剤型樹脂組成物として用いることができるので、溶剤の揮発による環境汚染等の問題を生じさせる恐れがない。
尚、活性エネルギー線としては紫外線、電子線等を用いることができる。
【0014】
本発明の合成樹脂積層体は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化塗膜を有し、その硬化塗膜は硬度、耐傷付き性、帯電防止性、耐クラック性、密着性及び耐光性のいずれにも優れるので、容器、包装材料、ハウジング材料、建築材料、電子表示部材等の種々の用途に有用である。
【0015】
更に、本発明の製造方法は、活性エネルギー線により高速硬化が可能な前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を使用するので、高い生産性をもって前記合成樹脂積層体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、1分子中に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量1000〜10000の脂肪族ウレタンアクリレート(A)と、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)と、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する第4級アンモニウム塩化合物(C)を必須成分として含有する。
【0017】
本発明で使用する脂肪族ウレタンアクリレート(A)としては、上記特定事項で特定されるものである限り他に制限はないが、例えば、多価アルコールと脂肪族ポリイソシアネートとを反応させて得られる分子末端にイソシアネート基を有する脂肪族ポリウレタンに、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を有する多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートが付加した構造の脂肪族ウレタンアクリレートが好ましい。
【0018】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコー、イソプレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール;グリセリンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する2価アルコール;ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等の1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
【0019】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;これらの脂肪族ジイソシアネートから誘導されるビウレット型、イソシアヌレート型、アダクト型の3官能性以上のポリイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートが塗膜にクラックを発生させることなく高硬度を与え且つ耐光性に優れる点で好ましい。
【0020】
1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を有する多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等の1分子中に2〜7個の(メタ)アクリロイル基と1〜6個の水酸基を有する多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0021】
脂肪族ウレタンアクリレート(A)は、その製造方法に特別の限定はなく、例えば、第1段階で、有機溶剤の不存在系又はイソシアネート基と反応する活性水素原子を有しない不活性有機溶剤の存在系で、多価アルコールと脂肪族ポリイソシアネートとを水酸基1当量に対してイソシアネート基1当量以上、好ましくは1.01〜2.0当量となるイソシアネート基過剰系でウレタン化反応させることにより分子末端にイソシアネート基を有する脂肪族ポリウレタンを製造し、第2段階で、該脂肪族ポリウレタンと1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を有する多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートとをイソシアネート基1当量に対して水酸基1当量以上、好ましくはイソシアネート基1当量に対して多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレート(F)1モル以上となる水酸基過剰系でウレタン化反応させることにより製造することができる。
【0022】
脂肪族ウレタンアクリレート(A)の製造に際し反応系の粘度調整を目的として不活性有機溶剤を使用することができ、不活性有機溶剤として、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤を単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】
ウレタン化反応の条件は、特に限定されず一般的なウレタン化反応の条件でよい。例えば、通常40〜150℃、好ましくは80〜120℃で、5〜20時間反応させて目的物を製造することができる。必要に応じて、ウレタン化反応触媒として、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート等に代表される有機錫系触媒やトリエチルアミン等に代表される3級アミン系触媒を適宜使用することができる。ウレタン化触媒の使用量は、通常、0.1〜1.0重量%であり、好ましくは0.2〜0.5重量%である。
【0024】
本発明で使用する脂肪族ウレタンアクリレート(A)の中で直鎖状脂肪族ウレタンアクリレートが好ましく、その具体例として次のものを挙げることができる。
(1)1分子中に1〜4個の(メタ)アクリロイル基を有する2価アルコールと脂肪族ジイソシアネートとを水酸基1当量あたりイソシアネート基1.01〜2.0当量となる反応割合で反応させて両末端にイソシアネート基を有する直鎖状脂肪族ポリウレタンを製造し、次いで、該直鎖状脂肪族ポリウレタンと1分子中に2〜7個の(メタ)アクリロイル基と1〜6個の水酸基を有する多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートとをイソシアネート基1当量あたり該多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレート1.0〜1.2モルとなる反応割合で反応させて得られる直鎖状脂肪族ウレタンアクリレート。
(2)1分子中に1〜4個の(メタ)アクリロイル基を有する2価アルコールと重合性不飽和基を有しない2価アルコールとの混合2価アルコール、好ましくはモル比基準で1:9〜9:1の混合2価アルコールと脂肪族ジイソシアネートとを水酸基1当量あたりイソシアネート基1.01〜2.0当量となる反応割合で反応させて両末端にイソシアネート基を有する直鎖状脂肪族ポリウレタンを製造し、次いで、該直鎖状脂肪族ポリウレタンと1分子中に2〜7個の(メタ)アクリロイル基と1〜6個の水酸基を有する多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートとをイソシアネート基1当量あたり該多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレート1.0〜1.2モルとなる反応割合で反応させて得られる直鎖状脂肪族ウレタンアクリレート。
(3)重合性不飽和基を有しない2価アルコールと脂肪族ジイソシアネートとを水酸基1当量あたりイソシアネート基1.01〜2.0当量となる反応割合で反応させて両末端にイソシアネート基を有する直鎖状脂肪族ポリウレタンを製造し、次いで、該直鎖状脂肪族ポリウレタンと1分子中に2〜7個の(メタ)アクリロイル基と1〜6個の水酸基を有する多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートとをイソシアネート基1当量あたり該多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレート1.0〜1.2モルとなる反応割合で反応させて得られる直鎖状脂肪族ウレタンアクリレート。
【0025】
脂肪族ウレタンアクリレート(A)としては、1分子中に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量1000〜10000のものである限り、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、1分子中に8個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量1000〜10000の脂肪族ウレタンアクリレート(A1)と、1分子中に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量1000〜3000の脂肪族ウレタンアクリレート(A2)を組み合わせて用いることが、樹脂組成物の粘度が過度に高くなるのを抑制しつつ樹脂組成物の全体の相溶性を高め得る点で好ましい。
【0026】
本発明で使用する1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)は、後記する1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する第4級アンモニウム塩化合物(C)を樹脂組成物中に均一に溶解する成分である。
【0027】
このヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を含有する多価アルコールの単官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の水酸基を含有する多価アルコールの多官能(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレートの(メタ)アクリル酸付加物、ジブチレングリコールジグリシジルエーテル(1モル)の(メタ)アクリル酸(1〜2モル)付加物、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(1モル)の(メタ)アクリル酸(1〜2モル)付加物、グリセリンジグリシジルエーテル(1モル)の(メタ)アクリル酸(1〜2モル)付加物等の脂肪族ポリエポキサイドの(メタ)アクリル酸付加物等が挙げられる。
【0028】
これらの化合物の中でも脂肪族ポリエポキサイドの(メタ)アクリル酸付加物等の重量平均分子量が200以上のものが人体に対する皮膚刺激性が低く安全である点で好ましい。また4級アンモニウム塩化合物(C)と相互に良く溶解させるためには(B)の水酸基価が200mgKOH/g以上であることが好ましい。
【0029】
本発明で使用する1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する第4級アンモニウム塩化合物(C)は帯電防止性を付与する成分であり、該化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムクロライド、ビス((メタ)アクリロイルオキシエチル)ジメチルアンモニウムクロライド、ビス((メタ)アクリロイルオキシエチル)ジエチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0030】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、脂肪族ウレタンアクリレート(A)、ヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)、第4級アンモニウム塩化合物(C)のほか、更に硬化性成分として、炭素原子数5〜15のグリコールのジ(メタ)アクリレート(D)を含有することが好ましい。これにより硬化塗膜の合成樹脂基材に対する密着性を更に向上させることができる。炭素原子数5〜15のグリコールのジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,5―ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は紫外線硬化を行う場合、光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、公知慣用のものを特に制限なく使用でき、その具体例として、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルメチルケタール等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノープロパン−1−オン等のアセトフェノン類;メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−タシャリーブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェンノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタ−ル類;ベンゾフェノン、4,4−ビスメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができ、更にはトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等の第3級アミン;2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル等の安息香酸誘導体等の光重合開始助剤等と組み合わせて使用することもできる。光重合開始剤の使用量は、光重合性成分の全量に対して1〜15重量%が好ましく、3〜10重量%がより好ましい。
【0032】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、脂肪族ウレタンアクリレート(A)、ヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)、第4級アンモニウム塩化合物(C)、光重合開始剤、及び、更に必要に応じて、炭素原子数5〜15のグリコールの(メタ)アクリレート(D)を前記配合割合の範囲内で配合することにより、100%不揮発分の無溶剤型樹脂組成物として調整することができる。
【0033】
しかし、目的用途に応じて、必要ならば粘度調節のために有機溶剤を含むことができる。有機溶剤を使用した場合は、塗装後活性エネルギー線硬化前又は後に熱風乾燥機等により有機溶剤を除去することが好ましい。
【0034】
有機溶剤としては、通常、沸点が50〜180℃のものが、塗工時の作業性、硬化前後の乾燥性の点から好ましく、例えば、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤を単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、更に目的や用途に応じて、例えば、沈降性硫酸バリウム、沈降性炭酸カルシウム、沈降性炭酸マグネシウム、アルミナ白、シリカ、ホワイトカーボン、珪砂、タルク、ベントナイト、クレー、カオリン、ガラス、炭化珪素等の体質顔料やアクリル系、ウレタン系の樹脂ビーズ、シリコンビーズの他、シリコン、着色顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、界面活性剤、スリップ剤、消泡剤、カップリング剤、キレート剤等の各種添加剤を適宜含むことができる。
【0036】
本発明の合成樹脂積層体を製造するには、ロ−ラーコート法、スプレーコート法、ディッピングコート法、スピンコート法、グラビアコート法、オフセット印刷、フレキソ印刷、バーコーター法等の方法で、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を合成樹脂基材表面に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化塗膜を形成する。紫外線照射装置としては高圧水銀灯、メタルハライドランプ等の公知慣用のものを用いることができる。電子線照射装置としては加速電圧30〜300KV等の公知のものを用いることができる。合成樹脂基材としては、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂等の基材を用いることができる。硬化塗膜の膜厚は1〜100μmが好ましい。その膜厚が1μmより薄いと塗膜の耐久性が不十分となり、100μmより厚いと塗膜の内部収縮による反りが生じる恐れがある。
【0037】
上記の方法で製造される本発明の合成樹脂積層体は、その表面層が、硬度、耐傷付き性、帯電防止性、耐クラック性、密着性及び耐光性のいずれにも優れる硬化塗膜で構成されているので、容器、包装材料、ハウジング材料、建築材料、電子表示部材等の種々の用途に好適である。
【実施例】
【0038】
次に実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明する。各例中の「部」は「重量部」を表す。
【0039】
<活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の調整>
以下の各実施例及び比較例に記載する配合に従い各活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調整した。
【0040】
(実施例1)
ライトエステル DQ−100 8部
(共栄社化学(株)製、4級アンモニウム塩系モノマー)
ラロマー LR8765 32部
(BASFジャパン(株)製、水酸基含有脂肪族エポキシアクリレート水酸基価340mgKOH/g、分子量約330)
紫光UV7605B 30部
(日本合成化学工業(株)製、6官能脂肪族ウレタンアクリレート)
ニューフロンティアL−C9A 24部
(第一工業製薬(株)製、2官能モノマー)
イルガキュア184 6部
(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製、光開始剤)
【0041】
(実施例2)
ライトエステル DQ−100 8部
(共栄社化学(株)製、4級アンモニウム塩系モノマー)
ラロマー LR8765 32部
(BASFジャパン(株)製、水酸基含有脂肪族エポキシアクリレート、水酸基価340mgKOH/g、分子量約330)
紫光UV7605B 20部
(日本合成化学工業(株)製、6官能脂肪族ウレタンアクリレート)
紫光UV1700B 20部
(日本合成化学工業(株)製、10官能脂肪族ウレタンアクリレート)
ニューフロンティアL−C9A 14部
(第一工業製薬(株)製、2官能モノマー)
イルガキュア184 6部
(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製、光開始剤)
【0042】
(実施例3)
ブレンマーQA 10部
(日本油脂(株)製、4級アンモニウム塩系モノマー)
エポキシエステル80MFA 54部
(共栄社化学(株)製、水酸基含有脂肪族エポキシアクリレート、水酸基価483mgKOH/g、分子量約348)
紫光UV1700B 10部
(日本合成化学工業(株)製、10官能脂肪族ウレタンアクリレート)
ラロマーTPGDA 20部
(BASFジャパン(株)製、2官能モノマー)
イルガキュア184 6部
(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製、光開始剤)
【0043】
(実施例4)
ライトエステル DQ−100 8部
(共栄社化学(株)製、4級アンモニウム塩系モノマー)
ラロマー LR8765 32部
(BASFジャパン(株)製、水酸基含有脂肪族エポキシアクリレート、水酸基価340mgKOH/g、分子量約330)
紫光UV7605B 30部
(日本合成化学工業(株)製、6官能脂肪族ウレタンアクリレート)
ニューフロンティアL−C9A 24部
(第一工業製薬(株)製、2官能モノマー)
【0044】
(比較例1)
ラロマー LR8765 32部
(BASFジャパン(株)、水酸基含有脂肪族エポキシアクリレート)
紫光UV7605B 30部
(日本合成化学工業(株)、6官能脂肪族ウレタンアクリレート)
ニューフロンティアL−C9A 24部
(第一工業製薬(株)製、2官能モノマー)
イルガキュア184 6部
(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製、光開始剤)
【0045】
(比較例2)
ライトエステル DQ−100 8部
(共栄社化学(株)製、4級アンモニウム塩系モノマー)
ニューフロンティアPE400 32部
(第一工業製薬(株)製、2官能モノマー)
紫光UV7605B 30部
(日本合成化学工業(株)製、6官能脂肪族ウレタンアクリレート)
ニューフロンティアL−C9A 24部
(第一工業製薬(株)製、2官能モノマー)
イルガキュア184 6部
(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製、光開始剤)
【0046】
(比較例3)
ブレンマーQA 10部
(日本油脂(株)製、4級アンモニウム塩系モノマー)
紫光UV1700B 10部
(日本合成化学工業(株)製、10官能脂肪族ウレタンアクリレート)
ラロマーTPGDA 74部
(BASFジャパン(株)製、2官能モノマー)
イルガキュア184 6部
(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製、光開始剤)
【0047】
(比較例4)
紫光UV1700B 39部
(日本合成化学工業(株)製、10官能脂肪族ウレタンアクリレート)
ラロマーTPGDA 20部
(BASFジャパン(株)製、2官能モノマー)
NKオリゴ U−201PA−60 35部
(新中村化学工業(株)製、リチウムイオン系オリゴマー)
イルガキュア184 6部
(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製、光開始剤)
【0048】
(比較例5)
ライトエステル DQ−100 8部
(共栄社化学(株)製、4級アンモニウム塩系モノマー)
ライトエステル HOP−A 32部
(共栄社化学(株)製、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、水酸基価430mgKOH/g、分子量約130)
紫光UV7605B 30部
(日本合成化学工業(株)製、6官能脂肪族ウレタンアクリレート)
ニューフロンティアL−C9A 24部
(第一工業製薬(株)製、2官能モノマー)
【0049】
<物性評価>
前記各実施例及び比較例の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、下記の評価方法及び条件で原反上に塗工し、塗膜を紫外線又は電子線で硬化させ、硬化塗膜の表面抵抗と硬度を測定し、その結果を表1に示した。
【0050】
(評価方法及び条件)
原反 :片面コロナ処理PET 東洋紡E5100 25μm
塗工方法:バーコーター
塗布量 :約10μm
UV条件:アイグラフィックス製UV照射装置 高圧水銀灯 120W/cm
コンベアスピード10m/min.1パス
EB条件:岩崎電気製EB照射装置 50kGy 酸素濃度約200ppm
塗料外観:目視評価
表面抵抗:アドバンテック製、表面抵抗率計
硬度 :スチールウール#0000 荷重300g/cm2 10往復後の傷の付き度合いを評価
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示す結果から、本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、硬化塗膜の硬度、耐傷付き性及び帯電防止性において、比較例のものよりもかなり優れた性能を示すことが理解できよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量1000〜10000の脂肪族ウレタンアクリレート(A)と、
1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を有し、重量平均分子量が200以上であるヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)と、
1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する第4級アンモニウム塩化合物(C)とを含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪族ウレタンアクリレート(A)が、
1分子中に8個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量1000〜10000の脂肪族ウレタンアクリレートと、
1分子中に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重量平均分子量1000〜3000の脂肪族ウレタンアクリレートとの混合物である請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族ウレタンアクリレート(A)が、
多価アルコールと脂肪族ポリイソシアネートとを反応させて得られる分子末端にイソシアネート基を有する脂肪族ポリウレタンに、
1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上の水酸基を有する多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートが付加した構造のものである請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記多価アルコールが2価アルコールであり、
前記脂肪族ポリイソシアネートが脂肪族ジイソシアネートであり、
前記2価アルコールが1分子中に1〜5個の(メタ)アクリロイル基を有する2価アルコールを含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートが、1分子中に2〜7個の(メタ)アクリロイル基と1〜6個の水酸基を有する多官能性ヒドロキシ(メタ)アクリレートである請求項1〜4のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)が、脂肪族ポリエポキサイドの(メタ)アクリル酸付加物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
更に、炭素原子数5〜15の高級グリコールの(メタ)アクリレート(D)を含有する、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記脂肪族ウレタンアクリレート(A)を5〜60重量%、
前記ヒドロキシ(メタ)アクリレート(B)を10〜70重量%、
前記第4級アンモニウム塩化合物(C)を1〜30重量%、
及び高級グリコールの(メタ)アクリレート(D)を0〜30重量%を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記請求項1〜8のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化塗膜が合成樹脂基材表面に形成されたことを特徴とする合成樹脂積層体。
【請求項10】
前記請求項1〜8のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を合成樹脂基材上に塗布し、活性エネルギー線により硬化させて硬化塗膜を形成することを特徴とする合成樹脂積層体の製造方法。

【公開番号】特開2007−238654(P2007−238654A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58953(P2006−58953)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】