説明

活性安定化製剤

【課題】希釈や保存によっても安定的に活性を発現し、皮下注射した際の疼痛が軽度な動物治療用タンパク製剤の提供。
【解決手段】賦形剤及び/又は崩壊剤及び/又は結合剤及び/又はpH調節剤及び/又は浸透圧調節剤及び/又は分散剤(鬼面活性剤)のすべてもしくはいずれかと組み合わせた製剤、特に分散剤としてポリソルベートを添加調製し、治療動物の体液組成に近いpH、浸透圧にすることで、希釈や保存によっても安定的に活性を発現し、皮下注射した際の疼痛が軽度な動物治療用タンパク製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
希釈や保存によっても安定的に活性を発現し、皮下注射した際の疼痛が軽度な動物治療用タンパク製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年遺伝子組換え技術の発達により、生理活性をもつ組換えタンパクが工業生産され、医療用途に使用されている。一例を挙げれば、腎症に伴う貧血改善のため、造血を更進するホルモン(エリスロポエチン、EPOと記載することがある。)などが遺伝子組換え法で生産され、医薬品として実績を上げている。
【0003】
ヒトで報告のある慢性腎不全、化学療法剤又は外科手術によって引き起こされる貧血症状は、愛玩動物であるイヌやネコにも見られ、これら動物の死亡原因の多くを占める。例えばネコ(国内)では、96年からの10年間で慢性腎不全は、0.64%から3.95%と大幅に増加し、疾病順位も28位から4位へ増加している(非特許文献1)。
【0004】
腎性貧血治療のため、組換えヒトEPO製剤をイヌ、ネコの治療にも投与することが試みられているが、種差によるタンパク構造の違いから中和抗体が発現するリスクがあり、連続的な投与は困難である。ネコエリスロポエチン(ネコEPOと記載することがある。)は、N型結合糖鎖及びO型結合糖鎖の修飾を受けた分子量約34〜40kDaの糖タンパク質であるが、ネコとヒトのアミノ酸相同性は83%程度であるため、先に述べたようにネコにヒトEPOを投与すると抗EPO抗体が出現し、貧血を増悪させる可能性がある。このように愛玩動物の治療に生理活性タンパクを成分とする動物用医薬品を使用するには、その種固有のアミノ酸配列からなるタンパク製剤が必要である。
【0005】
EPOやインターフェロンでは、水溶性長鎖分子であるポリエチレングリコール(PEGと記載することがある。)を付加すると、肝臓での代謝が阻害され血中寿命が延びることが確認されている(非特許文献2)。この血漿中滞留期間延長効果により、薬効持続時間が延長され投与頻度が少なくて済むとの利点から、PEG化修飾した動物用タンパク医薬品は患畜オーナーの外来負担を軽減させることができると期待される(特許文献1)。
【0006】
安定なタンパク製剤を生産するための処方設計では、タンパクの化学変化(加水分解、ジスルフィド交換反応など)あるいは物理的変化(変性、凝集、吸着など)を抑制する必要がある。従来市販されるタンパク製剤では、これらの化学的、物理的変性を抑制するためにヒト血清アルブミンや精製ゼラチンが添加されていたが、生物由来であることから汚染の懸念があり、またこれらの安定化剤自体がタンパク質であることから変性する可能性があった。
【0007】
しかしながら、このような安定化に寄与するタンパク質を添加しない場合には、タンパク質を構成するペプチドのメチオニン残基酸化体の生成が起こり、品質が劣化するとの問題もある。そこで遺伝子組換え顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)や、ヒトEPOなどの製剤では、トレオニン、トリプトファン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、システイン、シスチン、メチオニンなどのアミノ酸を安定化剤として含む製剤が提案された(特許文献2)。さらにタンパク分子は会合しやすいため、界面活性剤のような分散剤の配合も希釈操作等による活性低減の防止の点から重要である。
【0008】
またEPOのように微量で効果を発揮するタンパク分子は、表面荷電により化学的、物理的変性以外にも注射器等の器壁に吸着することによるロスの影響が大きいと考えられるため、その防止策も重要である。さらに動物への注射剤としてはpH、浸透圧等を調整することにより体液に近い組成とし、注射による皮下投与時の痛みを軽減することが求められる。このため安定化剤としてタンパク質を含有せず、体液に近い組成で、しかも長期に安定で容器壁に吸着しない動物治療用タンパク製剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−89578号公報
【特許文献2】特開2007−204498号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】多摩獣医臨床研究会調査報告(2006年度)
【非特許文献2】Polyethylene glycol-conjugated pharmaceutical proteins; PSTT Vol.1, No.8, 1998, 352-356
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
希釈や保存によっても安定的に活性を発現し、皮下注射した際の疼痛が軽度な動物治療用タンパク製剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、賦形剤及び/又は崩壊剤及び/又は結合剤及び/又はpH調節剤及び/又は浸透圧調節剤及び/又は分散剤のすべてもしくはいずれかと組み合わせた製剤、特に分散剤(界面活性剤)としてポリソルベートを添加調製し、治療動物の体液組成に近いpH、浸透圧にすることで、希釈や保存によっても安定的に活性を発現し、皮下注射した際の疼痛が軽度な動物治療用タンパク製剤を見出した。
【0013】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
【0014】
本発明の特徴の一つは、分散剤及び/又は界面活性剤を含有し、緩衝液による希釈により生理活性が低下しないことを特徴とする生理活性タンパク質を含有する動物用医薬品組成物である。
【0015】
本発明の特徴の一つは、分散剤及び/又は界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、特に、ポリソルベート20及び/又は80であることを特徴とする、上記の動物用医薬品組成物である。
【0016】
本発明の特徴の一つは、動物用医薬品組成物が動物腎症治療用医薬品組成物、動物貧血症治療用医薬品組成物、又は、動物輸血代替用医薬品組成物のいずれかである、上記の動物用医薬品組成物である。
【0017】
本発明の特徴の一つは、生理活性タンパク質がエリスロポエチン、特に、ネコ又はイヌ由来のエリスロポエチンのアミノ酸配列からなるエリスロポエチンである上記の動物用医薬品組成物である。
【0018】
本発明の特徴の一つは、分散剤及び/又は界面活性剤の含有量が、0.01〜0.1%、中でも0.03〜0.07%である上記の動物用医薬品組成物である。
【0019】
本発明の特徴の一つは、生理活性タンパク質が水溶性長鎖分子、特には、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリグリシンで修飾されていることを特徴とする、上記の動物用医薬品組成物である。
【0020】
本発明の特徴の一つは、薬理学的に許容される賦形剤及び/又は崩壊剤及び/又は結合剤及び/又はpH調節剤及び/又は浸透圧調節剤を含有する上記の動物用医薬品組成物である。
【0021】
本発明の特徴の一つは、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、トレオニン、アスパラギン、システイン、シスチンから成る群より選ばれる一種以上のアミノ酸と、疎水性アミノ酸から選ばれる一種以上のアミノ酸、特にはフェニルアラニン、トリプトファン及びロイシンから選択される一種以上のアミノ酸、及びメチオニンを含むことを特徴とする、上記の動物用医薬品組成物である。
【0022】
本発明の特徴の一つは、浸透圧調節剤が、塩化ナトリウム及び/又はマンニトールである上記の動物用医薬品組成物である。
【0023】
本発明の特徴の一つは、動物用医薬品組成物のpHが5〜7、中でも5.5〜6.8、特には6.0〜6.5であることを特徴とする上記の動物用医薬品組成物である。
【0024】
本発明の特徴の一つは、50℃条件下1ヶ月間の加速試験、又は、60℃条件下2週間の加速試験の後における生理活性タンパク質残存率が90%以上であり、かつ/又は、50℃条件下1ヶ月間の加速試験、又は60℃条件下2週間の加速試験の後における生理活性タンパク質のメチオニン残基酸化体生成率が1%以下であることを特徴とする、上記の動物用医薬品組成物である。
【0025】
本発明の特徴の一つは、凍結乾燥製剤であることを特徴とする、上記の動物用医薬品組成物である。
【0026】
本発明の特徴の一つは、pH、及び/又は浸透圧が当該動物の体液と同等に調製されていることを特徴とする上記の動物用医薬品組成物である。
【0027】
本発明の特徴の一つは、包装方法がブリスター包装、ストリップ包装、分包、プラスチック等の樹脂製瓶、ガラス瓶から選ばれる、1以上の包装方法であることを特徴とする、上記の動物用医薬品組成物である。
【0028】
本発明の特徴の一つは、シクロオレフィンコポリマー(COC)、又はシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂を含む基材で製造されている容器に保存されている上記の動物用医薬品組成物である。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、希釈や保存によっても安定的に活性を発現する動物用タンパク製剤であって、注射剤として動物に皮下投与でき、その際に動物が感じる疼痛を軽減した動物治療用タンパク製剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に使用される生理活性タンパクは、一般的に入手可能な動物細胞を宿主として製造される組換え品のほか、天然物由来のもの、組換え動物由来のもの等が利用できる。また精製品であっても、未精製状態でも良いが品質管理の点から精製品が好ましい。
【0031】
生理活性タンパクの精製は、活性タンパク質を回収するため、塩析法、吸着カラムクロマトグラフ法、イオン交換カラムクロマトグラフ法、ゲルろ過カラムクロマトグラフ法、抗体カラム法等を単独、もしくは組み合わせて精製するが、これらのみに限定されるものではない。吸着カラムクロマトグラフ法としては、ブルーセファロースクロマトグラフィー、ヘパリンクロマトグラフィー等があり、イオン交換カラムクロマトグラフ法としては、陰イオン交換クロマトグラフィー法等がある。
【0032】
生理活性タンパクを構成するアミノ酸は、本来の生理活性を損なわないようにアミノ酸を1又は2以上を置換、欠失し、又は、1又は2以上のアミノ酸を付加、挿入した改変体でもよい。このようなタンパクの例としては、インターフェロン、コロニー刺激因子(CSFと記載することがある。)、エリスロポエチン(EPO)などが挙げられる。上記、置換、欠失、付加、挿入するアミノ酸の数は、生理活性タンパクを構成するアミノ酸残基数の15%を超えないことが好ましく、10%を超えないことがより好ましく、5%を超えないことがさらに好ましい。本来の生理活性を損なわない限りは上記変異を許容できる。
【0033】
これらの生理活性タンパクは種特異性があり、異種のタンパクを投与されると抗体ができて副作用となることがあるため、動物の治療に用いるにはアミノ酸配列の相同性が高い近縁種のタンパク製剤を投与することが望ましい。
【0034】
例えばEPOのcDNAクローニングは、マウス、ラット、イヌ、ネコなどで行われており(ヴェンら:「ブラッド(Blood)」(1993)82巻、p1507)それぞれの配列が解明されている。ネコEPOはヒトのEPOと相同性が83.4%であり、CHO細胞で発現させたネコ由来EPOはネコに対して造血活性がある(CHO細胞で発現 インビトロでの活性確認 Am J Vet Res.(2003) Dec;64(12):1465−71 Heska Co. Baldwin SL)。
【0035】
生理活性タンパクによる治療は、愛玩動物として普及しているイヌ、ネコ、あるいは家畜であるウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、あるいは生態研究用に動物園などで飼育・公開されるライオン、トラ、カンガルー、ゾウ、キリン、シマウマ、コアラ、パンダ等でも必要となってきている。これはこれらの動物がヒトと同じように住環境が向上したため長命になり、多様な疾患に罹患するようになったためである。
【0036】
上記の動物は愛玩用として飼育される際や、個体保護の観点から、病気や事故等の時には治療が必要であり、先に述べたインターフェロン、CSF、EPOなどを用いた治療が試みられている。なかでもEPOは動物腎症治療用に用いることができるだけでなく、動物貧血症治療用に用いることができる。また、動物には輸血用血液のバンクシステムが存在しないため、EPOは動物輸血代替用としても有用性が高い。このように、EPOは多様な治療用途をもつことから動物用医薬品として好適に用いることができる。
【0037】
ヒト及びヒト以外の動物を生理活性タンパクで治療するには、種特異的なアミノ酸配列からなるタンパクが必要であることを述べたが、さらにポリエチレングリコール(PEG)のような水溶性長鎖分子を付加修飾することで血中寿命を延ばして治療効果を上げると共に、抗原性を低下させ副作用としての抗体の発現を抑えることができる。
【0038】
PEGの分子量としては、5〜40kDa、好ましくは10〜30kDa、より好ましくは20kDaが使用できる。また構造としては直鎖型が好ましいが、分岐鎖をもつPEGも使用可能である(特表平9−504299号公報)。
【0039】
PEGをタンパク質に共有結合させる方法としては、タンパク質、又は糖鎖の酸化活性可能な官能基であるポリオール、ラクトール、アミン、カルボン酸又はカルボン酸誘導体との化学反応がある。またスルホネートエステル活性化ポリマー、例えばスルホネートエステル活性化PEGなどがある。
【0040】
さらにPEG化反応前駆体としては、長鎖分子の片末端をメトキシ化したものが使用できる。さらにメトキシ化されていない末端をスクシンイミジル脂肪酸エステル化したPEGが開発されており、なかでも脂肪酸がプロピオン酸もしくは酪酸であるものが反応性の点から好ましい。メトキシPEGのスクシンイミジルプロピオン酸エステル(SPA−PEGと称する)をヒト由来EPOと反応させると、リジン残基に選択的に付加することが知られている。EPOには複数のリジン残基が存在するため、反応が進むにつれPEGの付加数は増え、付加数の異なる異性体混合物となる。タンパクによって生成する異性体は異なるが、品質管理上単一の構造を持つように反応制御するか、反応後精製することが好ましい。
【0041】
PEG類似の長鎖化合物として、構造的に類似したポリグリシン、ポリリジン等も本発明に使用できる。ポリグリシン等は合成法により、あるいは遺伝子組換え法により生産したものが使用可能である。これらはPEGと同様の反応前駆体を作製し、合成反応によりタンパク質に付加することもできるし、遺伝子組換え法で結合したタンパク質を生産することもできる。
【0042】
本発明のPEG修飾された生理活性タンパクは、薬理学的に許容される賦形剤及び/又は崩壊剤及び/又は結合剤及び/又はpH調節剤及び/又は浸透圧調節剤及び/又は分散剤のすべてもしくはいずれかと組み合わせて使用できる。
【0043】
本発明における賦形剤とは、澱粉、寒天、白糖、乳糖、ブドウ糖、デキストリン、ソルビトール、アラビアガム、コーンスターチ、マンニトール、結晶セルロース、レシチン、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムであり、これら以外にも製薬的に許容される賦形剤であれば使用できる。
【0044】
本発明における崩壊剤とは、澱粉、寒天、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、トラガントであり、これら以外にも製薬的に許容される崩壊剤であれば使用できる。
【0045】
本発明における結合剤とは、でんぷん及びその誘導体、セルロース及びその誘導体、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、糖類、エタノール、ポリビニルアルコールであり、これら以外にも製薬的に許容される崩壊剤であれば使用できる。
【0046】
また、上記の賦形剤・崩壊剤・結合剤は、任意に組み合わせることができる。
さらに、賦形剤・崩壊剤・結合剤以外の製薬的に許容される添加剤を添加することができる。例えば、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤、健康食品素材、栄養補助食品素材、ビタミン、香料、甘味剤、防腐剤、保存剤、抗酸化剤などが挙げられる。
【0047】
本発明で使用される安定剤としてのアミノ酸類は、結晶でもアモルファスでもよく、またこれらのアミノ酸類を高率に含有する植物、動物成分など不純物を含むものを用いても良い。結晶純品としては、L体、D体もしくはDL混合体が使用できる。
【0048】
前記のアミノ酸類としては例えば、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、トレオニン、アスパラギン、システイン、シスチンから成る群より選ばれる一種以上のアミノ酸と、疎水性アミノ酸から選ばれる一種以上のアミノ酸、及びメチオニンを含むアミノ酸組成物を好適に用いることができる。リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、トレオニン、アスパラギン、システイン、シスチンから成る群より選ばれる一種以上のアミノ酸としては、特にL−アルギニンが好ましい。疎水性アミノ酸から選ばれる一種以上のアミノ酸としてはフェニルアラニン、トリプトファン及びロイシンから選択される一種以上のアミノ酸が好適に用いられる。
【0049】
本発明で使用される浸透圧調節剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムなどの塩類が用いられるが、使用実績の多い塩化ナトリウムが好ましい。糖類、ポリオール類、およびアミノ酸類を包含するが、これらに限らない。多価アルコール類、一価アルコール類、単糖類、二糖類、オリゴ糖およびアミノ酸類またはそれらの誘導体なども用いられる。
【0050】
前記の多価アルコール類としては、例えば、グリセリン等の三価アルコール類、アラビトール、キシリトール、アドニトール等の五価アルコール類、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール等の六価アルコール類などが用いられる。なかでも、六価アルコール類が好ましく、特にマンニトールが好適である。
【0051】
前記の一価アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられ、このうちエタノールが好ましい。
【0052】
前記の単糖類としては、例えば、アラビノース、キシロース、リボース、2−デオキシリボース等の五炭糖類、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、マンノース、ソルボース、ラムノース、フコース等の六炭糖類が用いられ、このうち六炭糖類が好ましい。
【0053】
前記のオリゴ糖としては、例えば、マルトトリオース、ラフィノース糖等の三糖類、スタキオース等の四糖類などが用いられ、このうち三糖類が好ましい。
前記の単糖類、二糖類およびオリゴ糖の誘導体としては、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、グルクロン酸、ガラクツロン酸などが用いられる。
【0054】
本発明で使用される分散剤としての界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルが好ましい。ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルとして、たとえば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートまたはポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートから選択することができる。特に好ましくは、ポリソルベート20及び/又は80を用いることができる。これらの分散剤としての界面活性剤の含有量は、最終濃度として0.01〜0.1%が好ましく、より好ましくは0.03〜0.07%である。
【0055】
本発明で使用されるpH調節剤としては、緩衝系には、例えば、酢酸/酢酸塩、リンゴ酸/リンゴ酸塩、クエン酸/クエン酸塩、酒石酸/酒石酸塩、乳酸/乳酸塩、リン酸/リン酸塩、グリシン/グリシネート、トリス、グルタミン酸/グルタミン酸塩、及び炭酸ナトリウムからなる群から選択された系が含まれる。pHは5〜7の範囲が好ましく、より好ましくはpH5.5〜6.8であり、最も好ましいのはpHが6.0〜6.5の範囲である。
【0056】
本発明における加速試験とは、一定の流通期間中の品質安定性を短期間で推定するための試験であり、例えば室温を20℃として、10℃上がる毎に変化は2倍になるという経験則に基づき、20℃で1年の試験を40℃で3ヶ月の試験で評価するなどの試験をさす。EPOの場合はヒトでの経験則から、50℃条件下1ヶ月間の加速試験、又は、60℃条件下2週間の加速試験の後における生理活性タンパク質残存率、かつ/又は、50℃条件下1ヶ月間の加速試験、又は60℃条件下2週間の加速試験の後におけるメチオニン残基酸化体生成率で評価することが望ましい。
【0057】
生理活性タンパクは多くの場合経口で吸収されないため、皮下、血管内に直接投与の必要があるが、pHや浸透圧が体液組成から乖離していると投与時に疼痛が起こる。この疼痛による動物の投与忌避行動は、獣医師による治療を困難にし、また大型動物の場合治療者を危険に晒す。タンパク製剤を注射時の疼痛が最小となるように調製するには、上記すべてもしくはいずれかを組み合わせ、pH及び/又は浸透圧を当該動物体液と同等に調製することが好ましい。
【0058】
製剤の方法としては、溶液製剤、凍結乾燥製剤、プレフィルドシリンジ、皮下埋め込み型除放製剤、ミセル製剤、ゲル化製剤、リポソーム製剤などが使用できるが、経験的な保存安定性や使用の容易さから凍結乾燥製剤が好ましい。
【0059】
凍結乾燥製剤は、通常蒸留水や緩衝液で適当な溶液に希釈して使用されるが、動物の体重により使用量を適切に定量するため、緩衝液による希釈により生理活性が低下しないことが強く求められる。
【0060】
包装方法としては、ブリスター包装、ストリップ包装、分包、プラスチック等の樹脂製瓶、ガラス瓶から選ばれる、1以上の包装方法を用いることができる。
【0061】
EPO製剤のように微量で効果があるタンパク質では、容器壁への吸着ロスが活性に大きな影響を与える。そのためEPO製剤の瓶などの容器にはタンパク質の吸着が少ない樹脂製品が好ましい。タンパク質吸着が少ない事が知られている樹脂材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリエチルメタクリレートなどの既知の医用容器材料が例示できる。中でも好ましくは、ノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンまたはそれらの誘導体などのシクロオレフィン類開環重合体およびその水素添加物、ノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンまたはその誘導体などのシクロオレフィンと、エチレンまたはプロピレンとの重合により分子鎖にシクロペンチル残基や置換シクロペンチル残基が挿入された共重合体である樹脂である。さらにテトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)は吸着が少ない点でより好ましく、またノルボルネンを開環重合し、水素添加した重合物であるシクロオレフィンポリマー(COP)も同様に好ましい(特開平5−300939号あるいは特開平5−317411号に開示)。
【実施例】
【0062】
以下実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。細胞培養について特に記述のないものに関しては代表的な方法に従った。商品名を記載している場合は特に記述のない限り添付の説明書の指示に従った。また本実施例では、特開第2007−89578号公報に記載の方法で作製したPEG修飾ネコエリスロポエチンを使用した。
【0063】
(実施例1)分散剤(界面活性剤)添加による希釈安定性
以下に安定化製剤の例として、分散剤(界面活性剤)を添加したネコエリスロポエチン、及びPEG修飾したネコエリスロポエチンを挙げる。分散剤としてはポリソルベート80(和光純薬工業社製)を使用し、緩衝液(リン酸緩衝液を1N塩酸でpH7.5に調製)で希釈した場合のネコエリスロポエチン及びPEG修飾ネコエリスロポエチン活性を調べた。0.05%ポリソルベートを添加した希釈液と、添加しない希釈液を用いて一定倍率で希釈し、EPO依存性培養細胞株で活性を定量した。
【0064】
(実施例2)ネコエリスロポエチンの活性定量
ネコエリスロポエチンの活性は、EPO依存性細胞株であるBaF/EPOR細胞((財)化学及血清療法研究所)による細胞増殖アッセイ(特開平10−94393)によりおこなった。細胞増殖アッセイはエポジン(中外製薬社製)を標準エリスロポエチンとして、増殖の検量線を描きそれを元に未知サンプルのエリスロポエチン活性を測った。BaF/EPOR細胞用培地として5%の牛胎児血清(Fetal Bovine Serum,FBS)と50units/mlのペニシリン、ストレプトマイシンを含むRPMI1640リキッド培地(ニッスイ社製)を用いた。通常のBaF/EPOR細胞の培養の際には終濃度1U/mlとなるようにエポジンを加えた。細胞増殖アッセイには対数増殖期にある細胞を用いた。
【0065】
BaF/EPOR細胞で細胞増殖アッセイをおこなうため、まず培地中のエポジンを除去した。培養したBaF/EPOR細胞を1000rpmで5分間遠心分離した。上清を取り除き、沈殿にエポジンを含まない培地を10ml加え懸濁した。同様の操作を3度行い培地中のエポジンを除去した。細胞を計数し、エポジンを含まない培地で55555Cells/mlの濃度になるように希釈した。96穴マイクロタイタープレートの各ウェルに90μlずつ播種した。これに、培地で25、16、10、6.4、4.0、2.5、1.6、1.0U/mlとなるよう希釈したエポジンを10μlずつ加え、一様になるよう懸濁した(エリスロポエチンの終濃度はそれぞれ2.5、1.6、1.0、0.64、0.4、0.25、0.16、0.1U/mlとなる)。アッセイに用いるサンプルは培地で2〜4倍程度ずつ段階希釈し、検量線の測定範囲内に入るようにし、播種した細胞中に10μlずつ加え、一様になるよう懸濁した。標準サンプル、未知サンプル共に同じものを3点測った。2日間培養し、Cell Counting Kit−8(同人化学研究所社製)溶液を各ウェルに10μlずつ添加した。1〜4時間呈色反応を行った後、0.1mol/lの塩酸を10μl加え反応を停止し、マイクロプレートリーダーを用い、450nmの吸光度を測定した。標準サンプルの測定結果を対数近似し、近似式を求めた。求めた近似式より未知サンプルの活性を換算した。
【0066】
PEG修飾されたネコエリスロポエチンに関しても、同様にして測定を行った。
【0067】
表1に、ポリソルベート80がある場合とない場合の、一定希釈倍率におけるネコEPOの活性を示す。表2に0.05%ポリソルベート80がある場合とない場合の、一定希釈倍率におけるPEG修飾ネコEPOの活性を示す。活性計算値は、原液のEPO活性を希釈率で割った数値である。
【0068】
表1に記載のごとく、ネコエリスロポエチンは37,000I.U./mlの活性を持つ原液を16倍希釈すると0.05%ポリソルベート80ありの場合103%の相対活性を保持するのに対し、0.05%ポリソルベート80なしの場合は相対活性が13%に低下した。また32倍希釈すると0.05%ポリソルベート80ありの場合は107%の相対活性を保持するのに対し、0.05%ポリソルベート80なしの場合は相対活性が6%に著しく低下した。
【0069】
またPEG修飾ネコエリスロポエチンの場合も、12,000〜15,000I.U./mlの活性を持つ原液を32倍希釈すると0.05%ポリソルベート80ありの場合は110%の相対活性を保持するのに対し、0.05%ポリソルベート80なしの場合は、相対活性が72%に低下した。
【0070】
希釈液に0.05%ポリソルベート80を添加しない場合は、EPO活性が低下し、希釈倍率が高いほどその影響は顕著であった。一方0.05%ポリソルベート80を添加した場合は、そのような希釈による活性低下はみられなかった。従って、ポリソルベート80のような分散媒(界面活性剤)の添加により、希釈によっても安定に活性発現するネコエリスロポエチン及びPEG修飾ネコエリスロポエチン製剤が提供される。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤及び/又は界面活性剤を含有し、緩衝液による希釈により生理活性が低下しないことを特徴とする生理活性タンパク質を含有する動物用医薬品組成物。
【請求項2】
分散剤及び/又は界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルであることを特徴とする、請求項1に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項3】
ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルがポリソルベート20及び/又は80であることを特徴とする、請求項2に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項4】
動物用医薬品組成物が動物腎症治療用医薬品組成物である、請求項1〜3のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項5】
動物用医薬品組成物が動物貧血症治療用医薬品組成物である、請求項1〜3のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項6】
動物用医薬品組成物が動物輸血代替用医薬品組成物である、請求項1〜3のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項7】
生理活性タンパク質がエリスロポエチンである請求項1〜6のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項8】
エリスロポエチンがネコ又はイヌ由来のエリスロポエチンのアミノ酸配列からなるエリスロポエチンである請求項7に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項9】
エリスロポエチンがネコ由来のエリスロポエチンのアミノ酸配列からなるエリスロポエチンである請求項8に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項10】
分散剤及び/又は界面活性剤の含有量が、0.01〜0.1%である請求項1〜9のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項11】
分散剤及び/又は界面活性剤の含有量が、0.03〜0.07%である請求項10に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項12】
生理活性タンパク質が水溶性長鎖分子で修飾されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項13】
水溶性長鎖分子が、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリグリシンであることを特徴とする、請求項12に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項14】
薬理学的に許容される賦形剤及び/又は崩壊剤及び/又は結合剤及び/又はpH調節剤及び/又は浸透圧調節剤を含有する請求項1〜13のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項15】
リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、トレオニン、アスパラギン、システイン、シスチンから成る群より選ばれる一種以上のアミノ酸と、疎水性アミノ酸から選ばれる一種以上のアミノ酸、及びメチオニンを含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項16】
疎水性アミノ酸がフェニルアラニン、トリプトファン及びロイシンから選択される一種以上のアミノ酸であることを特徴とする、請求項15に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項17】
浸透圧調節剤が、塩化ナトリウム及び/又はマンニトールである請求項14に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項18】
動物用医薬品組成物のpHが5〜7であることを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項19】
動物用医薬品組成物のpHが5.5〜6.8であることを特徴とする請求項18に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項20】
動物用医薬品組成物のpHが6.0〜6.5であることを特徴とする請求項19に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項21】
50℃条件下1ヶ月間の加速試験、又は、60℃条件下2週間の加速試験の後における生理活性タンパク質残存率が90%以上であり、かつ/又は、50℃条件下1ヶ月間の加速試験、又は60℃条件下2週間の加速試験の後における生理活性タンパク質のメチオニン残基酸化体生成率が1%以下であることを特徴とする、請求項1〜20のいずれか1項に記載の動物用医薬品組成物。
【請求項22】
凍結乾燥製剤であることを特徴とする、請求項1〜21のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項23】
pH、及び/又は浸透圧が当該動物の体液と同等に調製されていることを特徴とする請求項1〜22のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項24】
包装方法がブリスター包装、ストリップ包装、分包、プラスチック等の樹脂製瓶、ガラス瓶から選ばれる、1以上の包装方法であることを特徴とする、請求項1〜23のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。
【請求項25】
シクロオレフィンコポリマー(COC)、又はシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂を含む基材で製造されている容器に保存されている請求項1〜24のいずれかに記載の動物用医薬品組成物。

【公開番号】特開2011−63522(P2011−63522A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213204(P2009−213204)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】