説明

活性炭の製造方法および該製造方法により得られた活性炭を用いた電気二重層キャパシタ

【課題】炭素原料の前処理を行うことなく、得られる活性炭の物性を高度に制御できる活性炭の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の活性炭の製造方法は、炭素原料と融点が250℃以下の有機化合物を混合した後、アルカリ賦活することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭の製造方法に関するものであり、特に賦活後の活性炭の細孔構造を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性炭はその優れた吸着能から電気二重層キャパシタ用電極や吸着剤として広く使用されている。このような用途で効果的に機能するために、活性炭には適切な物性(例えば、比表面積、細孔径など)を有することが要求される。ここで、賦活処理により得られる活性炭の比表面積などの物性は、賦活原料として使用する炭素原料の構造に大きく影響されることが知られている。従って、一般的には、活性炭の物性をより高度に制御するために、使用する炭素原料について、熱処理などの前処理が行われている。
【0003】
このような活性炭の製造方法として、例えば特許文献1には、石炭系重質油、石油系重質油および樹脂を熱処理して得られるタール油のうちから選ばれる1または2以上の物質由来のコークスを、有機溶剤で抽出処理するときの抽出残分を電極活物質に用いることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極活物質の製造方法が開示されている(特許文献1、請求項1)。
【0004】
また活性炭の製造方法ではないが、例えば特許文献2には、原料石炭を、N−メチル−2−ピロリドン溶剤単独あるいは二硫化炭素およびN−メチル−2−ピロリドンの混合溶剤に、塩素またはフッ素化合物の存在下で接触させて原料石炭中の無灰炭を前記溶剤に抽出することを特徴とする無灰炭の製造方法が開示されている(特許文献2、請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−135587号公報
【特許文献2】特許第3198305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、活性炭の物性を制御するために、使用する炭素原料について熱処理などの前処理が行われている。しかし、このような炭素原料の前処理を行う場合には、前処理工程のためのコストや処理時間が増加することとなり、製造工程全体の生産性が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、炭素原料の前処理を行うことなく、得られる活性炭の物性を高度に制御できる活性炭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、融点が250℃以下の有機化合物は、沸点が低く、賦活温度(金属カリウムを用いる場合は600℃程度)に達する前に揮発してしまい、賦活反応に影響しないと考えられていた。そのため、このような沸点の低い有機化合物を賦活原料に用いることは検討されていなかった。本発明者らは、活性炭の物性を高度に制御できる方法を種々検討した結果、炭素原料に融点が250℃以下の有機化合物を混合してアルカリ賦活することにより、得られる活性炭の物性を高度に制御できることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決することができた本発明の活性炭の製造方法は、炭素原料と融点が250℃以下の有機化合物を混合した後、アルカリ賦活することを特徴とする。有機化合物を混合することにより、単に賦活時間や、アルカリ賦活剤の使用量を調節する場合よりも、得られる活性炭の物性をより高度に制御することができる。炭素原料に有機化合物を混合することにより、得られる活性炭の物性を高度に制御できる理由は、昇温過程において有機化合物によって炭素原料の改質が起こるためと考えられる。
【0010】
前記炭素原料と前記有機化合物との混合は、前記有機化合物の融点以上の温度で行うことが好ましい。前記有機化合物は、複素環式化合物または芳香族炭化水素が好ましい。前記有機化合物と前記炭素原料の質量比(有機化合物/炭素原料)は、0.05以上10以下が好ましい。
【0011】
前記炭素原料としては、石炭ピッチコークス、石炭、石油コークス、石炭コークス、石油ピッチコークス、合成樹脂、合成樹脂とセルロース系繊維との複合物およびこれらの炭化物よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0012】
本発明には、上記の製造方法により得られた活性炭を電極構成材料に用いた電気二重層キャパシタも包含される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炭素原料の前処理を行うことなく、得られる活性炭の物性を高度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】製造例1〜4,7で得られた活性炭の細孔径分布を示す図である。
【図2】製造例5,6,8,9で得られた活性炭の細孔径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の活性炭の製造方法は、炭素原料と融点が250℃以下の有機化合物を混合した後、アルカリ賦活することを特徴とする。
【0016】
本発明の製造方法において、炭素原料に有機化合物を混合することによって、活性炭の物性を高度に制御できる理由は、必ずしも明らかでないが、有機化合物によって炭素原料の改質が起こるためと考えられる。例えば、炭素原料として石炭ピッチコークスを使用した場合、有機化合物との混合時に、石炭ピッチコークスに含有される炭素前駆体成分(ピレン、ナフタセン、ペリレンなど)の少なくとも一部が液状有機化合物中へと溶出し、得られる固体残渣の表面に炭素前駆体成分が抜けた後の穴が無数に形成される。このように無数の穴が形成されることにより、表面に賦活反応に活性な点(例えば、エッジ面など)が増加するため、高比表面積化を図りつつ、平均細孔径の増大が抑制されると考えられる。
【0017】
また、炭素原料として樹脂を使用した場合、溶剤を添加することにより、樹脂を構成する高分子の結合部分が切れやすくなり、賦活により形成される炭素構造が変化すると考えられる。炭素原料として樹脂炭化物を使用した場合、溶剤を添加することにより、樹脂炭化物中の溶出しやすい成分が、溶剤へと溶出することにより、賦活により形成される炭素構造が変化すると考えられる。
【0018】
以下、本発明の活性炭の製造方法について詳細に説明する。本発明の製造方法は、炭素原料、融点が250℃以下の有機化合物(以下、単に「有機化合物」と称することがある)およびアルカリ賦活剤を混合する混合工程;得られた混合物を加熱するアルカリ賦活工程;をこの順序で含む。
【0019】
前記混合工程では、炭素原料、融点が250℃以下の有機化合物およびアルカリ賦活剤を混合する。混合は、有機化合物の融点温度以上の温度で行うことが好ましい。なお、混合は炉に投入する前に行ってもよいし、各原料を別々に炉に投入して炉内で混合してもよい。
【0020】
前記炭素原料としては、木材、おが屑、ヤシガラ、セルロース系繊維(紙も含む)、合成樹脂(例えば、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリアクリルニトリル(PAN))、石油ピッチ、コールタールピッチ、メソフェーズピッチおよびこれらの複合物などの炭素質物質;前記炭素質物質の炭化物;石炭、石油コークス、石炭コークス、石油ピッチコークス、石炭ピッチコークス、木炭などの炭化物;が挙げられる。これらの炭素原料は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭素原料としては、石炭ピッチコークス、石炭、石油コークス、石炭コークス、石油ピッチコークス、合成樹脂、合成樹脂とセルロース系繊維との複合物およびこれらの炭化物よりなる群から選択される少なくとも1種が好適である。
【0021】
前記炭素質物質を炭化物として使用する場合、炭素質物質の炭化処理は、通常、不活性ガス雰囲気下で加熱処理することによりなされる。該炭化処理の温度は、400℃以上が好ましく、より好ましくは500℃以上であり、950℃以下が好ましく、より好ましくは900℃以下である。また、炭化処理時間は、0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1.0時間以上であり、4.0時間以下が好ましく、より好ましくは3.0時間以下である。
【0022】
前記炭素原料の平均粒子径は10mm以下が好ましく、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。炭化物の平均粒子径が10mm以下であれば、炭化物の比表面積を大きくすることができ、有機化合物による炭素原料の表面改質効果がより向上する。なお、炭素原料の平均粒子径の下限は特に限定されるものではないが、平均粒子径が小さすぎると粉体のハンドリングが悪くなる(例えば、作業時に粉体が舞い上がってしまう)傾向がある。そのため、炭素原料の平均粒子径は1μm以上が好ましく、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。なお、平均粒子径とは、水に分散させた試料を、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所製の「SALD(登録商標)−2000」)により測定して、求められる体積平均粒子径である。
【0023】
本発明に用いられる融点が250℃以下の有機化合物は、室温(20℃)で液体状のもの、あるいは、室温(20℃)では固体状であるが賦活処理温度に昇温する過程で溶融するものである。また、得られる活性炭の細孔径を制御する効果がより大きくなることから、前記有機化合物の融点は、40℃以下が好ましく、より好ましくは20℃以下である。すなわち、有機化合物として、いわゆる有機溶媒を用いることが好ましい。なお、前記有機化合物の沸点は60℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは200℃以上である。代表的な有機化合物の沸点としては、例えば、テトラヒドロフラン:66℃、トルエン:110.6℃、N−メチル−2−ピロリドン:202℃である。
【0024】
前記有機化合物としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、キノリン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ピラジン、キノキサリン、アクリジンなどの複素環式化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ピレン、クリセン、ペリレン、などの芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、などの脂肪族炭化水素;クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;酢酸エチルなどのエステル;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール;などが挙げられる。これらの有機化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、複素環式化合物、芳香族炭化水素が好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、テトラヒドロフランよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0025】
前記炭素原料と有機化合物との質量比(有機化合物/炭素原料)は、0.05以上が好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは1.0以上、特に好ましくは2.0以上であり、10以下が好ましく、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは3.0以下である。前記質量比(有機化合物/炭素原料)が0.05以上であれば、有機化合物を用いない場合よりも、得られる活性炭の比表面積を増加させる、または、細孔径分布を大径側もしくは小径側にシフトさせる効果がより大きくなり、10以下であれば、炉の容積に占める有機化合物の体積が多くなりすぎず、生産性がより良好となる。
【0026】
前記アルカリ賦活剤としては、アルカリ金属化合物が好ましい。前記アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩;などが挙げられる。これらのアルカリ賦活剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水酸化カリウムが好適である。
【0027】
前記炭素原料とアルカリ賦活剤との質量比(アルカリ賦活剤/炭素原料)は、1.0以上が好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上であり、4.5以下が好ましく、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下である。
【0028】
また、アルカリ賦活剤を添加する際、炭素原料との混合を十分とするために、アルカリ賦活剤を水溶液として使用しても良い。このときの水の使用量は、アルカリ賦活剤の0.05質量倍〜10質量倍が好ましい。なお、アルカリ賦活剤を水溶液として使用する場合には、賦活処理のための加熱を行う前に、アルカリ賦活剤水溶液に由来する水分の突沸防止のため、賦活処理における加熱温度よりも低温での加熱処理を行って、水分を除去しておくことが好ましい。
【0029】
また、本発明の製造方法においては、必要に応じて、炭素原料に有機化合物をなじませる目的で、炭素原料と有機化合物の混合物を数分〜数時間程度静置させてもよいし、混合物を有機化合物の沸点未満の温度で加熱処理してもよい。
【0030】
前記アルカリ賦活工程では、上述の炭素原料、有機化合物およびアルカリ賦活剤を混合した混合物を加熱し、賦活処理する。ここで、「賦活処理」とは、炭素原料の表面に細孔を形成して、比表面積および細孔容積を大きくする処理である。
【0031】
本発明の製造方法に用いられる炉としては、ロータリーキルン、流動床炉、撹拌混合炉などの原料を均質に加熱できる装置などが挙げられる。
【0032】
前記有機化合物(他の原料と混合されたものも含む)を投入する際の炉内温度は、有機化合物の沸点温度未満に調節しておくことが好ましい。なお、例えば、有機化合物としてN−メチル−2−ピロリドンまたはトルエンを用いる場合、有機化合物を投入する際の炉内温度は200℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。なお、混合物を投入する際の炉内温度の下限は、特に限定されず、室温でよい。
【0033】
炉内を加熱する際には、不活性ガスを流入させる。不活性ガスの流入量は、炉の容積や炭素原料の仕込み量に応じて適宜調整すればよい。なお、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどを用いることができる。炉を加熱する際の昇温速度は、1℃/分以上が好ましく、より好ましくは5℃/分以上、さらに好ましくは10℃/分以上であり、50℃/分以下が好ましく、より好ましくは30℃/分以下、さらに好ましくは20℃/分以下である。
【0034】
賦活処理を行う際の加熱温度は600℃以上が好ましく、より好ましくは650℃以上、さらに好ましくは700℃以上であり、950℃以下が好ましく、より好ましくは900℃以下、さらに好ましくは850℃以下である。また、賦活処理を行う際の加熱時間は0.1時間以上が好ましく、より好ましくは1.0時間以上、さらに好ましくは1.5時間以上であり、3.5時間以下が好ましく、より好ましくは3.0時間以下、さらに好ましくは2.5時間以下である。なお、加熱時の雰囲気は、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0035】
本発明の製造方法には、前記アルカリ賦活工程に加えて、洗浄工程、熱処理工程、粉砕工程を含ませてもよい。
【0036】
洗浄工程は、賦活工程後の活性炭を洗浄し、乾燥させる工程である。賦活工程後の活性炭の表面には、アルカリ賦活剤として使用した水酸化アルカリ金属などが付着しているので、このような付着物を除去するために活性炭の洗浄を行う。
【0037】
活性炭の洗浄としては、水洗、酸洗浄などを挙げることができる。
【0038】
水洗方法は、特に限定されないが、例えば、活性炭を水に投入し、必要に応じて撹拌、分散させた後、濾取することにより行うことが好ましい。前記撹拌、分散は、機械的撹拌、気体吹込み、超音波照射によって行うことができるが、加熱煮沸させることによっても行うことができる。水洗時の水温は、30℃以上が好ましく、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。撹拌、分散時間は0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは1.5時間以上である。
【0039】
酸洗浄では、無機酸、有機酸などを含有する洗浄液を用いて活性炭を洗浄する。なお、洗浄液の溶媒は特に限定されないが、通常は水である。酸洗浄を行うことによって、アルカリ賦活剤として使用した水酸化アルカリ金属などを効率よく除去できる。
【0040】
前記無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸などが挙げられる。これらの無機酸は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。無機酸を使用する場合、洗浄液中の無機酸濃度は、0.5mol/L以上が好ましく、より好ましくは1.0mol/L以上、さらに好ましくは1.5mol/L以上であり、3.5mol/L以下が好ましく、より好ましくは3.0mol/L以下、さらに好ましくは2.5mol/L以下である。無機酸を用いて酸洗浄する場合、例えば、活性炭と、無機酸を含有する洗浄液とを混合して、50℃〜100℃の温度で、30分間〜120分間撹拌すればよい。
【0041】
前記有機酸としては、例えば、ギ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸などを挙げることができる。これらの有機酸は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記有機酸を含有する洗浄液中の有機酸の濃度は、1vol%以上が好ましく、より好ましくは2vol%以上、さらに好ましくは5vol%以上であり、100vol%以下が好ましく、より好ましくは80vol%、さらに好ましくは60vol%以下である。有機酸の濃度を1vol%以上とすることによって、有機酸による金属成分除去効果を得られるが、濃度が高くなりすぎると、製造コストが高くなる。有機酸を用いて酸洗浄する場合、例えば、活性炭と、有機酸を含有する洗浄液とを混合して、得られた混合物を20℃〜80℃の温度で、1分間〜120分間撹拌すればよい。洗浄後の活性炭は、50℃〜120℃で、0.5時間〜2.0時間乾燥させることが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法においては、洗浄工程として、酸洗浄と水洗とを行うことが好ましく、より好ましくは酸洗浄を行った後、水洗を複数回行う態様である。
【0043】
熱処理工程は、賦活工程後あるいは洗浄工程後の活性炭を、さらに不活性ガス雰囲気下で熱処理する工程である。活性炭に熱処理を行うことにより、活性炭の表面の官能基量を調整することができる。
【0044】
前記熱処理としては、賦活工程直後の活性炭を不活性ガス雰囲気下で熱処理する態様;賦活工程後の活性炭を、酸洗浄および/または水洗した後、不活性ガス雰囲気下で熱処理する態様などを挙げることができる。前記不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素、ヘリウムなどを使用することができる。また、前記熱処理温度は、特に限定されないが、好ましくは400℃以上1000℃以下である。
【0045】
粉砕工程は、活性炭の粒径を調整するための粉砕を行う工程である。活性炭の粉砕方法は、特に限定されるものでなく、ディスクミル、ボールミル、ビーズミルなどを用いて行えばよい。なお、活性炭の平均粒子径は1μm以上とすることが好ましく、より好ましくは2μm以上であり、15μm以下とすることが好ましく、より好ましくは10μm以下である。平均粒子径が余りに小さいと、電極における集電板と電極材料層との結着性が悪くなり、実用的な結着性を保持するためには電極材料層に要するバインダー量が増加するおそれがある。
【0046】
本発明の製造方法により得られる活性炭は、電気二重層キャパシタ用電極材料として用いることができ、当該電極材料を使用して、電気二重層キャパシタ用電極や電気二重層キャパシタを製造することが可能である。本発明の製造方法によれば、例えば、活性炭の高比表面積化を図りつつ形成される細孔径を制御することができる。換言すれば、所望の細孔径を維持したまま、さらなる高比表面積化を図ったり、所望の比表面積を維持したまま、さらなる細孔径の大径化を図ったりできる。従って、電解液中のイオンサイズに適した細孔径を有する細孔を形成しつつ、さらなる高比表面積化が可能となる。そのため、本発明の製造方法により得られた活性炭を電気二重層キャパシタに用いることにより、静電容量に優れる電気二重層キャパシタが得られる。
【0047】
次に、本発明の電気二重層キャパシタについて説明する。本発明の電気二重層キャパシタは、前記の製造方法により得られた活性炭を電極構成材料に用いたことを特徴とする。
【0048】
電気二重層キャパシタ用電極としては、例えば、活性炭、導電性付与剤およびバインダーを混練し、さらに溶媒を添加してペーストを調製し、このペーストをアルミ箔などの集電板に塗布した後、溶媒を乾燥除去したものが挙げられる。
【0049】
前記電気二重層キャパシタ用電極に使用されるバインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系高分子化合物や、カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエンゴム、石油ピッチ、フェノール樹脂などを使用できる。また、導電性付与剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを使用できる。
【0050】
電気二重層キャパシタは、一般的には、電極、電解液、およびセパレータを主要構成とし、一対の電極間にセパレータを配置した構造となっている。前記電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの有機溶剤に、アミジン塩を溶解した電解液;過塩素酸の4級アンモニウム塩を溶解した電解液;4級アンモニウムやリチウムなどのアルカリ金属の四フッ化ホウ素塩や六フッ化リン塩を溶解した電解液;4級ホスホニウム塩を溶解した電解液などが挙げられる。また、前記セパレータとしては、例えば、セルロース、ガラス繊維、または、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムが挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0052】
比表面積、全細孔容積および平均細孔径の測定方法
活性炭0.2gを200℃にて真空加熱した後、窒素吸着装置(Micromeritics社製、「ASAP−2400」)を用いてN2ガス吸着法による吸着等温線を求め、BET法により比表面積および全細孔容積を求めた。また、平均細孔径は、BET法により求められた比表面積および細孔径1.0nm〜30nmの範囲における細孔容積を用いて、下記式(1)に基づいて算出した。
【0053】
【数1】

【0054】
製造例1
炭素原料としての石炭ピッチコークス(三菱化学社製、石炭ピッチコークス、平均粒子径75μm未満)20.00g、有機化合物としてのN−メチル−2−ピロリドン10.28g(有機化合物/炭素原料(質量比)=0.5)、水酸化カリウム50g(水酸化カリウム/炭素原料(質量比)=2.5)を、ステンレス容器に入れ、室温(25℃)でスパチュラを用いて混合を行った。
【0055】
次いで、得られた混合物を、炉内温度25℃のロータリーキルン(円筒炉、大阪精工社製)に収容し、窒素流通下(1L/分)で、炉内温度を800℃まで昇温した(昇温速度:10℃/分)。炉内温度が800℃に達した後、窒素流通下(1L/分)、2時間保持し、アルカリ賦活処理を行った。
【0056】
得られた賦活物とカリウム成分の混合物に、水1.6Lと塩酸(濃度:35質量%)0.4Lを加え、100℃で2時間加熱後、賦活物を濾取することにより塩酸洗浄を行った。その後、塩酸洗浄を終えた賦活物に水2Lを加え、100℃に加熱して2時間煮沸した後、賦活物を濾取することにより温水洗浄を行った。同様の操作を繰り返して温水洗浄をさらに1回行った。
【0057】
塩酸洗浄1回と温水洗浄2回を経た賦活物を、110℃で2時間乾燥した。乾燥後の賦活物を、ディスクミルを用いて粉砕し、平均粒子径が8μmとなるように調整し、活性炭を得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1に示した。
【0058】
製造例2
有機化合物であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の使用量を1.03g(有機化合物/炭素原料(質量比)=0.05)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして活性炭を得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1に示した。
【0059】
製造例3
有機化合物であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の使用量を51.40g(有機化合物/炭素原料(質量比)=2.6)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして活性炭を得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1に示した。
【0060】
製造例4
有機化合物を、トルエン43.35g(有機溶媒/炭素原料(質量比)=2.2)に変更したこと以外は、製造例1と同様にして活性炭を得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1に示した。
【0061】
製造例5
紙基材としてクラフト紙(坪量200g/m2)を用い、フェノール樹脂としてレゾール樹脂からなるフェノール樹脂ワニスを調製し、塗布樹脂量が紙基材70質量部に対し30質量部となるように紙基材に塗布し含浸させ、約160℃で乾燥してプリプレグを作製した。複数枚のプリプレグを積層し、両側をステンレス鋼製の鏡面板で挟み、さらにその両外側にクッション材を重ね、多段式油圧プレス機の熱盤間にセットした。この状態で、温度140℃、圧力6.9MPa(70kgf/cm2)、時間90分の条件で熱プレスした後、解板、耳切りを行って、寸法1020mm×1020mmで厚さ1.5mmの紙−フェノール樹脂積層板を得た。得られた紙−フェノール樹脂積層板を5mm以下に粉砕した。
【0062】
炭素材料としての紙−フェノール樹脂積層板(平均粒子径5mm未満)20.01g、有機化合物としてのN−メチル−2−ピロリドン51.40g(有機化合物/炭素原料(質量比)=2.6)、水酸化カリウム50g(水酸化カリウム/炭素原料(質量比)=2.5)を、ステンレス容器に入れ、室温(25℃)でスパチュラを用いて混合を行った。
【0063】
次いで、得られた混合物を、炉内温度25℃のロータリーキルン(円筒炉、大阪精工社製)に収容し、窒素流通下(1L/分)で、炉内温度を800℃まで昇温した(昇温速度:10℃/分)。炉内温度が800℃に達した後、窒素流通下(1L/分)、2時間保持し、アルカリ賦活を行った。次いで、製造例1と同様に塩酸洗浄、温水洗浄および粉砕を行い、活性炭を得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1に示した。
【0064】
製造例6
上記製造例4で作製した紙−フェノール樹脂積層板(平均粒子径5mm未満)を、窒素雰囲気下、700℃で2時間加熱処理し、紙−フェノール樹脂積層板炭化物を得た。
【0065】
炭素原料としての紙−フェノール樹脂積層板炭化物20.00g、有機化合物としてのトルエン43.35g(有機化合物/炭素原料(質量比)=2.2)、水酸化カリウム50g(水酸化カリウム/炭素原料(質量比)=2.5)を、ステンレス容器に入れ、室温(25℃)でスパチュラを用いて混合を行った。
【0066】
次いで、得られた混合物を、炉内温度25℃のロータリーキルン(円筒炉、大阪精工社製)に収容し、窒素流通下(1L/分)で、炉内温度を800℃まで昇温した(昇温速度:10℃/分)。炉内温度が800℃に達した後、窒素流通下(1L/分)、2時間保持し、アルカリ賦活を行った。次いで、製造例1と同様に塩酸洗浄、温水洗浄および粉砕を行い、活性炭を得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1に示した。
【0067】
製造例7〜9
有機化合物を使用しなかったこと以外は、製造例1、5、6と同様のアルカリ賦活剤使用量(水酸化カリウム/炭素原料(質量比)=2.5)および熱処理条件にて活性炭を得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
製造例1〜4、7は、炭素原料として石炭ピッチコークスを使用し、有機化合物の種類および使用量のみを変更したものである。これらの製造例で得られた活性炭を比較すると、有機化合物としてN−メチル−2−ピロリドンを使用した製造例1〜3では、有機化合物を使用していない製造例7に比べて、比表面積が大きくなり、かつ、平均細孔径が小さくなっている。なお、製造例1〜3を比較すると、有機化合物の使用量が多くなるほど賦活後の活性炭の回収量が増加し、有機化合物の使用量が少なくなるほど活性炭の比表面積が高くなることがわかる。また、有機化合物としてトルエンを使用した製造例4では、製造例7に比べて比表面積が2倍以上に大きくなり、かつ、平均細孔径が小さくなっている。
【0070】
製造例5、8は、炭素原料として紙−フェノール樹脂積層板を使用し、有機化合物の使用量のみを変更したものである。これらの製造例で得られた活性炭を比較すると、有機化合物としてN−メチル−2−ピロリドンを使用した製造例5では、有機化合物を使用していない製造例8に比べて、比表面積および平均細孔径がいずれも小さくなっている。ここで、図2を見ると製造例8では細孔径2nm以上の細孔が多く形成されているのに対して、製造例5では細孔径2nm以上の細孔の形成が抑制されている。
【0071】
製造例6、9は、炭素原料として紙−フェノール樹脂積層板炭化物を使用し、有機化合物の使用量のみを変更したものである。これらの製造例で得られた活性炭を比較すると、有機化合物としてトルエンを使用した製造例6では、有機化合物を使用していない製造例9に比べて、比表面積および平均細孔径がいずれも大きくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、活性炭の物性を制御できるため、適切な物性(例えば、比表面積、細孔径など)を有することが要求される活性炭の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原料と融点が250℃以下の有機化合物を混合した後、アルカリ賦活することを特徴とする活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記炭素原料と前記有機化合物との混合を、前記有機化合物の融点以上の温度で行う請求項1に記載の活性炭の製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物が、複素環式化合物または芳香族炭化水素である請求項1または2に記載の活性炭の製造方法。
【請求項4】
前記有機化合物と前記炭素原料の質量比(有機化合物/炭素原料)が、0.05以上10以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の活性炭の製造方法。
【請求項5】
前記炭素原料が、石炭ピッチコークス、石炭、石油コークス、石炭コークス、石油ピッチコークス、合成樹脂、合成樹脂とセルロース系繊維との複合物およびこれらの炭化物よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか一項に記載の活性炭の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により得られた活性炭を電極構成材料に用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−1232(P2011−1232A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146782(P2009−146782)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【Fターム(参考)】