説明

活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体とその製造方法

【課題】
植物、動物由来の腐敗臭で、環境における悪臭の代表的な物質である、アンモニヤ系臭気、及び酢酸系の臭気とVOCを塗料の形で吸着し、組成内の化学反応により分解する脱臭剤を提供する。
【解決手段】
物理的吸着効果としてのミクロ孔を有する材料をモンモリロナイト系の粘土鉱物の結晶層間の孔隙を利用して構成した。粘土鉱物の層間水を脱水させた後、石油又は植物油を含浸させた状態で800〜1000℃に加熱すると、気孔表面に活性炭素の膜が固着されたハイブリッド構造として、活性炭の物理的吸着性と、特に調整されたセラミックス組成物による化学的吸着分解作用を併せ持った多機能の脱臭材料を創造することにより解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市又は家畜の飼育産業その他の大気環境における悪臭として対策が望まれている、アンモニア、アミン類、或いは動物、植物などの腐敗臭を吸着し、分解して脱臭させる多孔質セラミックス材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、市場において、広く使用されている脱臭剤の代表的なものは活性炭であり、あらゆる臭気物質を吸着し脱臭させる極めて優れたものであるが、気孔容積が飽和すると機能を失うもので、再生可能であるが、更に長期持続性の脱臭剤が求められている。特に炭素質材料は疎水性であり、気孔径も10〜100Åのミクロ気孔によって臭気分子のみを、選択して吸着する特性を持っているが従来の脱臭剤は物理的な吸着のみで臭気分子を化学的に分解する機能はない。
【0003】
脱臭剤として、無機材料ではゼオライトが代表的なものであり、アンモニア系の陽イオンがイオン交換によって吸着し、固定するものであるが、低級脂肪酸由来の複雑な混合臭気の吸着については特徴的な脱臭効果は少ないものである。
【0004】
最近、化学反応により吸着した成分を分解する化学脱臭剤として、鉄粉をアスコルビン酸などで化学処理をし、表面に吸着した臭気分子が内部の鉄イオンと化学的に反応して錯体をつくり消臭する新規なものも開発されている。
【0005】
脱臭剤に関する特許は多数出願されているが、本発明と関連するものに以下のものがある。1番目の従来技術として特許第2881679号(特開平7−265659)は、硫酸を吸着させた草炭により脱臭するものである。即ち、含水草炭に、ろ紙上で2規定以下の希硫酸を注ぎ、風乾して得た吸着剤に、空気に対して2vol%以下のアミンガスを吸着させることを特徴とするアミン系悪臭ガスの除去方法である。
【0006】
2番目の従来技術として特許第2836008号(特開平7−256058)は硫酸を吸着させた遷移金属酸化の触媒によるオレフィン系の脱臭剤である。即ち、チタンのアルコラ−トより作製した、チタン水酸化物を硫酸で処理して得た固体超強酸触媒存在下、オレフィン系悪臭ガスを高濃度、小風量で接触燃焼させる悪臭ガスの処理方法である。
【0007】
3番目の従来技術として特開2000−140080号は、粒状二酸化ケイ素に無機イオン交換体を担持させたもので、4価金属リン酸塩、ハイドロタルサイト化合物、及び4価金属水和酸化物から成るものである。
【0008】
【特許文献1】特開平7−265659号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平7−256058号公報(第1頁)
【特許文献3】特開2000−140080号公報(第1頁) 以上のように多数の特許情報が公開されているが、粘土鉱物の層間孔隙を気孔とするものは少なく、特に活性炭素と複合された活性炭とセラミックス組成物の特徴を併有する脱臭剤は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の従来技術は夫々下記のような欠点、問題点を有し不十分である。即ち、上記1番目の従来技術では、草炭は、植物など有機物が不完全な状態で分解された表面積の大きいフミン質の繊維であり、物理的吸着力に優れた材料である。これらを硫酸と反応させて酸性としてアンモニアの塩基と反応吸着させたもので、独特な発明であるが脱臭装置に使用する際には、現場環境の風量、風速により飛散するという欠点がある。
【0010】
また、上記2番目の従来技術では、吸着体である水酸化チタンに硫酸を反応させて造られた固体強酸体である、オレフィン系脱臭剤で、生産工程が複雑であり高価な原料薬品を使用するので、高いコストが必要であるという欠点を有している。
【0011】
更に、上記3番目の従来技術では、臭気の吸着体をSiO2 を主成分とする珪酸塩で合成して製造するものであるが、この合成工程が複雑であるため、高コストであるという欠点を有している。
【0012】
本発明は上記多くの従来技術の問題点、欠点を極力除去して、臭気の吸着能率が高く、かつ持続性大なる臭気吸収剤及びその低コストの製造方法を創始提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するため次の手段;構成を創出した。
即ち、本発明の手段の第1の特徴は、二次元層状構造から成る粘土鉱物を300〜600℃の範囲の温度に加熱して層間水を脱水させた気孔内に、石油類及び/又は植物油類を含浸させた後、800〜1000℃の範囲の温度で焼成し、気孔内に活性炭素膜を形成させ疎水性を向上させてある活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体であることである。
【0014】
次に、本発明の手段の第2の特徴は、前記二次元層状構造から成る粘土鉱物がモンモリロナイト,酸性白土,カオリナイト,ハロイサイトのうちより選ばれた1以上の鉱物である活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体であることである。
【0015】
また、本発明の手段の第3の特徴は、二次元層状構造から成る粘土鉱物を300〜600℃の範囲の温度に加熱して層間水を脱水させた気孔内に、石油類及び/又は植物油類を含浸させた後、800〜1000℃の範囲の温度で焼成した活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体を、水素イオン濃度pH2〜5の範囲に調整された硫酸,硝酸,リン酸のうちより選ばれた1の水溶液に含浸し、酸処理をする活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体の製造方法であることである。
【0016】
更に、本発明の手段の第4の特徴は、二次元層状構造から成る粘土鉱物を300〜600℃の範囲の温度に加熱して層間水を脱水させた気孔内に、石油類及び/又は植物油類を含浸させた後、800〜1000℃の範囲の温度で焼成した活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体を、水素イオン濃度pH2〜5の範囲に調整された硫酸,硝酸,リン酸のうちより選ばれた1の水溶液に含浸し、酸処理をした活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体を、更に、その粉末の50〜70重量%に活性マグネシア1〜30重量%を加え、次いで、コロイダルシリカ,リン酸アルミニュウム,酢酸ビニ−ル樹脂のうちより選ばれた1のバインダ−剤を20〜30重量%を添加して均一に混合し、ペ−スト状とする活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体の製造方法であることである。
【0017】
発明が解決しようとする課題について追加説明する。本発明の目的は、大気中に水蒸気と共存して存在している臭気分子を気孔表面にある疎水性の活性炭素膜によって臭気成分と水蒸気を分離して、母体であるセラミックス体に吸着させ、化学反応によって脱臭させるという理論的な設計によって構成されているものであり、これらの理論を実験により確認して新規な多機能脱臭剤を提供することである。
【0018】
課題を解決するための手段について詳細に説明する。本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意実験研究を重ね、特に悪臭成分を、特にアンモニア、アミン系の塩基性の臭気と、動物由来の低級脂肪酸等のイソ吉草酸を対象とした高い性能を持つ脱臭剤を創造し、本発明を完成した。
【0019】
即ち、第1の課題に関しては、前記請求項1に示す粘土鉱物の層間孔隙に活性炭素膜を付ける事であある。セラミックスと炭素は焼結結合させることは出来ないものであるが、「いぶし瓦」の古来よりの技術で、粘土質の焼結体の表面に炭素膜を付ける方法がある。この技術は、酸化鉄成分を媒体として反応焼結して成るものであり、本発明においても、原料粘土の層間水分を脱水させた後、酸化鉄の水溶液をあらかじめ吸着させておいて、石油又は植物油を含浸充填させる方法をとった。また、いぶし瓦は被熱体瓦を酸化状態で、600℃以上に加熱して結晶水を放出させた後で密閉状態にして生ガスを吹き込み、COを付着させるものであるが、この方法では気孔内部まで炭素が入らないものである。
【0020】
そこで、本発明においては予め気孔内へ石油又は植物油などを吸着、含浸させて被熱体内部からの炭化を開始させるものであり、炉体を密閉状態にすることなく、気孔内面に炭素膜を添着することが出来た。
【0021】
更に炭素膜は活性炭素層としてミクロ孔を形成させる必要があるが、粘土鉱物に含まれる結晶水は600〜800℃の範囲で結晶水の脱水が起こり、これらの熱水蒸気はちょうど活性炭製造時の賦活作用をし、余剰の炭水化物を燃焼させ、ガラス状炭素内にミクロ孔を形成させる作用として利用される。また、炭素−セラミックス結合媒体として塩化鉄を用いるが、先に気孔内面に吸着された塩化鉄は加熱により分解して塩素は酸化作用により賦活作用を示し、セラミックスに残った鉄イオンは臭気成分に対する触媒作用を期待出来る。
【0022】
本発明の第2の課題に関しては、塗装材料として使用されるときのバインダ−材料の選択である。商品が適用される条件により、無機質バインダ−と有機質バインダ−を選択した。無機質バインダ−はコロイダルシリカ及び第1リン酸アルミニウムは何れも強固な固着性状を示すものであり、また有機質バインダ−においては酢酸ビニ−ルエマルジョンはアンモニア系の成分とは反応して自身で脱臭性を示すことを実験により確認した。これらバインダ−は何れも硬化後、通気性及び吸湿性を持つものであり、20%以下では膜強度が弱く、30%を超えると脱臭性能が低下する。
【発明の効果】
【0023】
1)本発明はこれまでに広く使用され、脱臭効果もある程度立証されている活性炭の性能と、粘土鉱物の層間に形成されるミクロ孔の吸着効果を併せて共有している脱臭剤として大気環境中の臭気のみならず、石油化学系の有毒ガス成分など、広範囲の対象気体に適用出来るものであり、環境改善に対する効果が極めて大きいという顕著な効果を奏する。
2)本発明の吸収剤では従来物と異なり、空気中の水蒸気と分離して悪臭分子のみを吸着するので、吸収容量が特に大きくなるから本発明の吸収剤は従来よりも遙に長持ちするという顕著な効果も有する。
3)本発明の吸収剤の製造は特に高価な原料薬剤や複雑な工程は使用しないので、製造コストが安いという大きな効果も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
1)本発明の臭気吸収剤の商品は、粒状として使用しても良いが、表面積効果と経済性の面から主として塗装材料として使用するものである。また脱臭目的の臭気物質によって上記、(請求項1)、(請求項2)、(請求項3)、(請求項4)の中から1以上を、選択実施する。
2)例えば、老人ホ−ム施設の臭気は、尿、汗などが腐敗して生成された臭気であり、臭い成分の主役はイソ吉草酸であり、アンモニア系臭気が混合されたものであるが、この場合は(請求項4)に示す組成物とし、活性マグネシアを20〜30重量%含むものをマルジョンバインダ−として用いる。
食品加工場の場合は食品残滓からの臭気の脱臭には(請求項3)に示された酸性のものを用い、バインダ−はコロイダルシリカ(商品名「スノ−テックス」pH2からpH5)を用いる。
トイレなどの脱臭には、アンモニア吸着を主とした(請求項3)の組成物を用い、塗装下地材料により、無機質及び有機質のバインダ−を選択する。
【実施例】
【0025】
1)本発明品2種類を用いて、アンモニア、酢酸、トルエンの脱臭効果を、臭気の残存濃度として、従来技術の活性炭と比較して測定し、結果を表1に表示した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1について説明する。
A種:(請求項3)による硫酸処理品でシリカゾルをバインダ−としたもの。
B種:(請求項4)による活性マグネシア30%を配合し、酢酸ビニ−ルエマルジョンをバインダ−としたもの。
サンプルは、100mm×100mmのプラスチック板に塗料10gを塗布乾燥したサンプルを用い、密閉容器内に規定濃度の臭気剤を入れ、ガス検知管で臭気の残存濃度を測定した。この実験結果を説明すると、上記本発明の試料A、B共に従来の活性炭と比較して極めて反応は早い。特にA種は、酸性脱臭剤であり、B種に比べても反応が早く非常に早く臭気の残存濃度が0になった。
【0028】
2)酢酸臭気の脱臭実験(元の濃度10ppm)
上記イソ吉草酸の代用特性として酢酸を用いた。
この実験結果を表2に表わす。
【0029】
【表2】

【0030】
この結果を説明すると、本発明品A、B共に従来技術の活性炭の数倍の速度で脱臭効果があることを示し、特に活性マグネシア入りのB種の脱臭効果は従来品に比し極めて大きいものであった。
【0031】
3)トルエン臭気の脱臭実験(元の濃度20ppm)
2)と同様にして実験を行なった結果、その脱臭効果は、A種は活性炭より低いが、B 種は従来の活性炭以上の性能を示した。この結果を表3に示す。
【0032】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元層状構造から成る粘土鉱物を300〜600℃の範囲の温度に加熱して層間水を脱水させた気孔内に、石油類及び/又は植物油類を含浸させた後、800〜1000℃の範囲の温度で焼成し、気孔内に活性炭素膜を形成させ疎水性を向上させてあることを特徴とする活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体。
【請求項2】
前記二次元層状構造から成る粘土鉱物がモンモリロナイト,酸性白土,カオリナイト,ハロイサイトのうちより選ばれた1以上の鉱物である活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体。
【請求項3】
二次元層状構造から成る粘土鉱物を300〜600℃の範囲の温度に加熱して層間水を脱水させた気孔内に、石油類及び/又は植物油類を含浸させた後、800〜1000℃の範囲の温度で焼成した活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体を、水素イオン濃度pH2〜5の範囲に調整された硫酸,硝酸,リン酸のうちより選ばれた1の水溶液に含浸し、酸処理をすることを特徴とする活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項4】
二次元層状構造から成る粘土鉱物を300〜600℃の範囲の温度に加熱して層間水を脱水させた気孔内に、石油類及び/又は植物油類を含浸させた後、800〜1000℃の範囲の温度で焼成した活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体を、水素イオン濃度pH2〜5の範囲に調整された硫酸,硝酸,リン酸のうちより選ばれた1の水溶液に含浸し、酸処理をした活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体を、更に、その粉末の50〜70重量%に活性マグネシア1〜30重量%を加え、次いで、コロイダルシリカ,リン酸アルミニュウム,酢酸ビニ−ル樹脂のうちより選ばれた1以上のバインダ−剤を20〜30重量%を添加して均一に混合し、ペ−スト状とすることを特徴とする活性炭素膜を気孔内に形成させたセラミックス多孔体の製造方法。

【公開番号】特開2007−76983(P2007−76983A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270111(P2005−270111)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000129611)株式会社クレー・バーン技術研究所 (11)
【出願人】(505351348)
【出願人】(505352068)
【出願人】(505351452)
【Fターム(参考)】