説明

活性炭製造用炭素質物

【課題】電気二重層キャパシタ用活性炭の製造原料として、好適に用いることができる炭素質物および低温焼成炭素粉末を提供すること。
【解決手段】石油系重質油および/または石炭系重質油を熱処理して得られたコークスに
、カルシウム化合物を添加混合し、該混合物中のカルシウム含有量が100重量ppm以上10,000重量ppm以下となるように調製された炭素質物または該炭素質物に焼成および微粉砕処
理を施した低温焼成炭素粉末を電気二重層キャパシタ用活性炭の製造原料として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタの電極材料である活性炭の製造原料として用いるのに好適な炭素質物および低温焼成炭素粉末ならびに電気二重層キャパシタ電極材料用活性炭および該活性炭を用いた電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリット電気自動車など比較的大型の装置の補助電源として、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池などの電気化学電池に代わり、電気二重層キャパシタが開発されている。
【0003】
電気二重層キャパシタは、分極性電極と電解質界面とに生じる電気二重層を利用した蓄電装置であり、電気化学電池とは異なり電極反応を伴わないため、通常の電気化学電池に比べて高出力、かつ繰り返し寿命に優れた蓄電装置を形成することができる。
【0004】
該電気二重層キャパシタの分極性電極材料として、表面上に直径10〜30Å程度の細孔を有する活性炭が用いられる。活性炭の原料である炭素質物は、電気化学電池の正極活物質として使用されるコバルトやニッケルなどの遷移金属とは異なり、資源的に豊富である。このため、高出力、かつ繰り返し寿命に優れることに加えて、コストメリットに優れた大型の蓄電装置を形成することが可能となる。
【0005】
しかしながら、電気二重層キャパシタは、電気化学電池に比べて蓄えられる電気量が少なく、用途が限定されているのが現状である。したがって、電気二重層キャパシタの静電容量を向上させるための検討が、製造原料である炭素質物の種類、活性炭の製造法、あるいは分極性電極の製造法など、種々の観点からなされている。
【0006】
活性炭原料となる炭素質物として、ヤシ殻、木粉、石炭、樹脂などの炭化物、あるいはコークス、エチレンボトムの残渣などが知られている。特に、石炭系および/または石油
系のコークスは、炭素含有量が高くかつ金属含有量が少ないため、静電容量に優れた活性炭を製造することが可能である。さらに、該コークスの原料となる重質油は、資源的にも豊富であり、コストメリットに優れた活性炭を製造することが可能となる。
【0007】
しかしながら、現状では、コークスを原料とする活性炭から作製された電気二重層キャパシタの静電容量は、他の炭素質物から作製された電気二重層キャパシタの静電容量に比べて、劣位にある。この理由は、コークスの表面構造、コークス中の炭化水素の構造、不純物など複数のパラメーターに起因するものと推定されている。したがって、静電容量向上のために、各パラメーターの解析およびその改良が検討されている。
【0008】
さらに、コークスは不純物として、硫黄元素、無機硫黄化合物あるいは有機硫黄化合物などを含有しており、コークス中の硫黄含有量は、0.2〜0.5重量%程度である。コークス
中の硫黄元素または無機あるいは有機硫黄化合物などを構成する硫黄は、活性炭製造工程において製造装置の金属と反応して硫化物を生成し製造装置の劣化を促進する、また該硫化物の混入により中間製品の金属含有量が増加する、などの悪影響を及ぼすことが判明している。しかしながら、上記の硫黄はコークスの原料である重質油に由来するために、コークスの工業的製法の観点から、硫黄含有量の低減は極めて困難である。したがって、該硫黄に起因する問題点の対策は、未だ採られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、コークスを原料とすることにより、その不純物である硫黄に起因する問題点が抑制された活性炭製造用炭素質物および低温焼成炭素粉末ならびに電気二重層キャパシタ電極材料用活性炭および該活性炭からなる静電容量の大きい電気二重層キャパシタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、コークスを不活性雰囲気下あるいは減圧下で焼成(以下、炭化という)する過程において発生する揮発分について種々検討した。その結果、驚くべきことに、コークスにカルシウム化合物を添加混合することにより、該揮発分中の硫黄含有量が減少することを見出した。なお、揮発分中の硫黄含有量が減少する理由は、以下の通りと推定している。すなわち、コークスを700〜800℃程度の温度にて炭化する過程において、コークス中の硫黄元素または無機あるいは有機硫黄化合物は、蒸発するかまたはコークス中の水素原子あるいは酸素原子と反応して硫化水素あるいは二酸化硫黄を生成する。これに対し、コークスにカルシウム化合物を添加混合して100℃以上に加熱した場合、カルシウム化合
物から酸化カルシウムが生成する。該酸化カルシウムは、上記の硫黄などまたは副生した硫化水素や二酸化硫黄などと反応して、硫化カルシウムを生成する。生成した硫化カルシウムは、上記の炭化温度では安定であり、その結果、酸化カルシウムと反応したコークス中の硫黄などは、炭化過程中も固体としてコークス中に残存する。したがって、コークスの炭化過程で発生する揮発分の硫黄含有量が減少するものと考えられる。
【0011】
本発明者らは、10トン規模のコークスの炭化において、カルシウム化合物を添加混合したコークスから発生する揮発分中の硫黄含有量を測定し、無添加の場合のそれと比べた結果、カルシウム化合物を添加混合したコークスから発生する揮発分中の硫黄含有量が減少することを確認した。また、カルシウム化合物を添加混合したコークスの炭化後、焼成炉を点検した結果、通常、焼成炉の胴体内部に散見される表面の黒変がなかったこと、さらに、炭化後のコークス(以下、低温焼成炭素という)を定量分析した結果、無添加の場合のそれと比べて、低温焼成炭素中の鉄含有量が減少することを確認した。すなわち、本発明者らは、上記の結果より、カルシウム化合物のコークスへの添加混合が、コークス中の不純物である硫黄に起因する問題点の抑制に有効であることを見出した。
【0012】
本発明者らは、さらに、カルシウム化合物を添加混合したコークスから得た低温焼成炭素を微粉砕し(以下、低温焼成炭素粉末という)、賦活などの処理を施して活性炭を製造した。そして、該活性炭から電気二重層キャパシタ用の電極を作製して静電容量を測定した結果、その静電容量値が、カルシウム化合物無添加のコークスから製造した活性炭を用いた電極に比べて大きいことを確認した。本結果から、不純物である硫黄に起因する問題点が抑制された活性炭製造用炭素質物、該炭素質物からなる低温焼成炭素粉末および活性炭ならびに該活性炭からなる静電容量の大きい電気二重層キャパシタを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、電気二重層キャパシタの電極材料として用いられる活性炭の製造原料であって、石油系重質油および/または石炭系重質油を熱処理し
て得られたコークスに、カルシウム化合物を添加混合し、該混合物中のカルシウム含有量が100重量ppm以上10,000重量ppm以下となるように調製された活性炭製造用炭素質物が提
供される。
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明により得られた活性炭製造用炭素質物を不活性雰囲気下あるいは減圧下にて焼成および微粉砕処理することにより、真密度を1.40g/cm3以上1.85 g/cm3以下、かつ平均粒径を1μm以上30μm以下とした活性炭製造用低温焼成炭素粉末が提供される。
【0015】
さらに、本発明の第3の発明によれば、第2の発明により得られた活性炭製造用低温焼成炭素粉末に賦活処理してなる電気二重層キャパシタ電極材料用活性炭が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明により得られた活性炭を電極材料として用いてなる電気二重層キャパシタが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の活性炭製造用炭素質物、該炭素質物からなる低温焼成炭素粉末および活性炭を用いることにより、製造装置の劣化が抑制され、かつ従来のコークスを原料とする活性炭では達成し得なかった静電容量の大きい電気二重層キャパシタを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(活性炭製造用炭素質物)
本発明の炭素質物の原料として用いられるコークスは、石油系重質油および/または石
炭系重質油を熱処理して得られる炭素含有量90重量%以上、かつ硫黄含有量0.5重量%以下
のコークスである。
【0018】
通常、コークスは、石油系重質油および/または石炭系重質油を、圧力2.0Mpa以下、温
度400〜600℃にて3時間以上熱処理することによって得られる。工業的には、該熱処理に
ディレードコーカーを用い、1バッチ数千トン程度の量を製造する。ディレードコーカー
から切り出したコークスは、大きさが不特定であるのでロールクラッシャーなどで破砕し、数十cmの塊にする。
【0019】
さらに、得られたコークス塊を必要に応じて粒径2mm以下に粗粉砕する。該粗粉砕に使
用する粉砕機は、特に限定されないが、衝撃またはせん断型で中程度の粒度が得られる粉砕機が好ましく、ハンマーミル、アトリションミル、カッターミル、ピンミルなどを例示することができる。
【0020】
本発明のコークスに添加混合するカルシウム化合物としては、水素化物、ハロゲン化物、酸化物、硫化物、窒化物、珪素化物、リン化合物、有機化合物など全てのカルシウム化合物が好適に使用できる。さらに、化学的安定性、水溶性、化合物を構成する他元素の物性または含有量、経済性などを考慮すると、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウムおよびこれらの混合物が特に好ましく使用される。
【0021】
カルシウム化合物とコークスとの混合方法は、特に限定されないが、例えば、粒径2mm
以下に粗粉砕されたコークスとカルシウム化合物とを、スクリューミキサーなどの連続混合操作が可能な混合機で混合することが好ましい。さらに、カルシウム化合物を予め水溶液または水への懸濁液としてから、所定の添加速度でコークスと混合することが、混合の均一性の観点から特に好ましい。
【0022】
次いで、カルシウム化合物を添加混合したコークスを乾燥する。乾燥後、混合物中のカルシウム含有量を測定するが、コークス中のカルシウム含有量は、100重量ppm以上10,000重量ppm以下であり、好ましくは200重量ppm以上1,000重量ppm以下である。カルシウム含
有量が100重量ppm未満では十分な添加効果が得られず、一方、10,000重量ppmを超えると
硫黄含有量に対してカルシウムが過剰となり好ましくない。上記のようにして、本発明の活性炭製造用炭素質物を得る。
【0023】
(活性炭製造用低温焼成炭素粉末)
次いで、上記で得た活性炭製造用炭素質物を炭化する。炭化を行う焼成炉は、雰囲気の
調整が可能であり、最高使用温度が900℃以上のものであればよく、特に限定されないが
、電熱式あるいは火炎式のバッチ型焼成炉またはロータリーキルンなどを例示することができる。炭化中の不活性雰囲気としては、活性炭製造用炭素質物と反応しない気体であればよく、窒素、希ガスなどを例示し得るが、経済性などの観点から、窒素が特に好ましい。また、減圧下に炭化を行う場合、真空ポンプにより焼成炉胴体内の圧力を絶対圧で60mmHg以下に減圧することが好ましい。得られた低温焼成炭素の真密度は、1.40g/cm3以上1.85g/cm3以下であり、好ましくは1.50g/cm3以上1.75g/cm3以下である。低温焼成炭素の真密度が1.40g/cm3未満では賦活による細孔形成に必要な炭素結晶の形成が不十分であり、一
方、1.85g/cm3を超えると炭素結晶の大きさが過大になり細孔形成が困難となるので好ま
しくない。炭化条件は、低温焼成炭素の真密度が1.40g/cm3以上1.85g/cm3以下となればよく、特に限定するものではないが、好ましくは、炭化温度が500℃以上900℃以下、炭化時間が10分以上30時間以下である。
【0024】
次いで、上記で得られた低温焼成炭素を微粉砕する。微粉砕機は、得られる低温焼成炭素粉末の平均粒径が1μm以上30μm以下となるように微粉砕できるものであればよく、特
に限定されないが、衝撃型で超微粉砕が可能な粉砕機が好ましく、ジェットミル、クロスフローミル、ターボミルなどを例示することができる。微粉砕後の平均粒径は、1μm以上30μm以下である。平均粒径が1μm未満では賦活工程での歩留まりが減少し、一方、30μmを超えると膜厚の一定した電極形成が困難となるので好ましくない。さらに、微粉砕時に副生する粒径1μm未満の微粉は、気流分級機などで除去することが特に好ましい。上記のようにして、本発明の活性炭製造用低温焼成炭素粉末を得る。
【0025】
(活性炭)
次いで、上記で得た活性炭製造用低温焼成炭素粉末を賦活する。賦活法は、特に限定されないが、ガス賦活、薬品賦活などが例示できる。賦活法としては、適切な比表面積、細孔径を有する細孔の形成の観点から、アルカリ金属の水酸化物を用いたアルカリ賦活が好ましい。特に、水酸化カリウムを用いたアルカリ賦活が好ましい。
【0026】
活性炭製造用低温焼成炭素粉末とアルカリ金属の水酸化物との混合割合は、混合物中におけるアルカリ金属の水酸化物の含有量が30重量%以上85重量%以下であることが好ましい。アルカリ金属の水酸化物の含有量が30重量%未満では均一な賦活が困難となり、一方、85重量%を超えるとアルカリ金属の水酸化物が過剰となり賦活装置の劣化を促進するので好ましくない。
【0027】
上記混合物の賦活温度は、600℃以上900℃以下であることが好ましい。賦活温度が600
℃未満では均一な賦活が困難となり、一方、900℃を超えるとアルカリ金属が賦活装置内
部に堆積し賦活装置の劣化を促進するので好ましくない。賦活時間は、1時間以上100時間以下が好ましい。1時間未満では、均一な賦活が困難となり、100時間を超えると、賦活装置の劣化が促進されるので好ましくない。また、賦活後の活性炭製造用低温焼成炭素粉末を数回、酸洗または水洗する。該酸洗または水洗後、乾燥を行う。
【0028】
上記のようにして、本発明の活性炭を得る。該活性炭は、電気二重層キャパシタの電極材料として好適に使用することができる。
(電気二重層キャパシタ)
上記で得た活性炭を用いる電極および電気二重層キャパシタの作製法は、公知の方法でよい。
【0029】
すなわち、上記の乾燥した活性炭、導電材およびバインダーをよく混合し、該混合物の所定量をアルミ箔上に圧着して電極を作製する。その際、導電材としては、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどを、バインダーとしては、フッ素系合成ゴムやポリテト
ラフルオロエチレン(PTFE)粉末などを例示することができる。このようにして作製された2つの電極を、ガラスフィルターなどを介して対向させ、電解液を含浸させる。電解液としては、ホウフッ化トリエチルメチルアンモニウムを含むプロピレンカーボネートなどを例示することができる。上記の電極/ガラスフィルター/電極からなる構造物をポリプロピレンなどの絶縁板で固定し、全体を密封する。
【0030】
上記のようして、本発明の電極および電気二重層キャパシタを作製することができる。
上記で得られた電気二重層キャパシタの静電容量を測定する方法は、公知の方法でよく、以下のような例示ができる。すなわち、電気二重層キャパシタをポテンショスタットおよびガルバノスタットの両方の機能を有する電源に接続する。定電流の充電と定電圧の充電とを行った後、定電流の放電を行う。放電時間と放電電圧とを記録し、得られた数値から、活性炭の静電容量を算出する。
【0031】
コークス中および揮発分中の硫黄含有量ならびにコークス中のカルシウム含有量の測定法は、以下の通りである。すなわち、コークス試料約4gを150℃にて1時間乾燥し、メノー乳鉢で砕き、60meshの篩で分級した後、篩下を採取した。
【0032】
コークス中の硫黄含有量は、堀場製作所製EMIA520型硫黄分析装置を用い、採取物の燃
焼生成物から赤外吸収法により測定した。また、揮発分の硫黄含有量は、次のようにして測定した。すなわち、炭化を行う焼成炉の排気口に、ガラス製の気体捕集器を取り付け、液体窒素で排ガスを冷却することにより、排ガス中の高沸点成分を捕集した。該捕集物をそのまま、上記採取物と同様にして赤外吸収法により測定し、捕集物の硫黄含有量を求めた。該捕集物の硫黄含有量を揮発分中の硫黄含有量とした。
【0033】
また、コークス中のカルシウム含有量は、採取物を濃硫酸で灰化し、残存した酸化物からICPを用いて測定を行った。
通常、炭化中に、コークスから発生する硫黄または硫化水素などと、焼成炉胴体の鉄とが反応して生成する硫化鉄は、低温焼成炭素に取り込まれる。このため、炭化によって低温焼成炭素中の鉄含有量は増大することとなる。したがって、低温焼成炭素中の鉄含有量を、装置劣化の尺度とした。また、低温焼成炭素中の鉄含有量の測定法は、以下の通りである。すなわち、試料約4gを150℃にて1時間乾燥し、メノー乳鉢で砕き、60meshの篩で分級した後、篩下を採取した。鉄含有量は、採取物を濃硫酸で灰化し、残存した酸化物からICPを用いて測定を行った。
【0034】
さらに、低温焼成炭素の真密度の測定法は、以下の通りである。すなわち、JIS K 2151-1993に記載の真比重試験方法にしたがって、試料の真比重値を求めた。また、測定温度
から蒸留水の密度を求め、試料の真比重値と蒸留水の密度との積を試料の真密度とした。
【0035】
また、低温焼成炭素粉末の平均粒径の測定法は、以下の通りである。すなわち、試料約1gを、界面活性剤を含む水に分散させ、日機装製マイクロトラックFRA粒度分布計にて該
分散液の粒度分布を測定することにより試料の平均粒径を算出した。
【実施例1】
【0036】
常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油とを重量比50:50で混合した混合油を内容積20m3のベンチリアクターに仕込み、圧力約0.5Mpa、約500℃にて40時間保持することによりコ
ークス塊10tonを得た。
【0037】
得られたコークス塊をロールクラッシャーで直径10cm以下に破砕し、さらに、SUS304製、ハンマー直径500mmのハンマーミルにて、粒径2mm以上の粒子が0.1重量%以下となるように粗粉砕した。粗粉砕されたコークスの一部を採取し、硫黄含有量を測定した。硫黄含有
量は、0.28重量%であった。
【0038】
水酸化カルシウム5kgおよび水45kgをポリプロピレン製容器(内容積70L)に仕込み、攪拌機にて十分に懸濁させた。
粗粉砕されたコークスを100kg/hr、水酸化カルシウムと水との懸濁液を0.5kg/hrの送り速度にて、円錐型スクリューミキサー(内容積200L)に流し込み、両者を十分に攪拌混合した。このようにして混合物約10tonを製造した。
【0039】
上記の混合物の水分含有量が0.2%未満になるまで乾燥を行った。乾燥後のコークスと水酸化カルシウムとの混合物を一部採取し、カルシウムおよび鉄の含有量を測定した。その結果、カルシウム含有量は337重量ppm、鉄含有量は29重量ppmであった。
【0040】
上記で得たカルシウム化合物を添加混合したコークス約10tonを、ロータリーキルン(加熱方式LPG炎、胴体材質SUS304、胴体内径40cm、加熱帯240cm)にて、胴体出口温度720℃、窒素流量20L/min、搬送速度30kg/hrの条件下にて炭化した。炭化終了後、胴体内部を観察したところ、表面に変色などの異常は認められなかった。また、揮発分中の硫黄含有量、真密度および鉄含有量を測定した。その結果、揮発分中の硫黄含有量は0.91重量%、真密度は1.53g/cm3、鉄含有量は41重量ppmであった。
【0041】
次いで、上記の低温焼成炭素約10tonをジェットミル(ノズル径2mm)にて微粉砕し、微粉砕機に直結した気流分級機(缶体外径1m、缶体高さ2m)により、粒径1μm未満の微粉が0.1重量%未満となるように微粉砕物を分級した。微粉砕および分級と並行して、低温焼成炭素粉末の平均粒径が11μmとなるようにジェットミルのジェット圧を調整した。得られた
低温焼成炭素粉末の一部を採取し、平均粒径の測定を行った。平均粒径11μm、粒径1μm
未満の微粉が0.1重量%未満である低温焼成炭素粉末約9tonが得られた。
【0042】
次いで、上記で得られた低温焼成炭素粉末80kgと、粉末状の水酸化カリウム145kgとを
遊星型混合機(内容積5m3、3軸)に仕込み、窒素雰囲気下にて、水酸化カリウムの粉末が
目視で確認されなくなるまで十分に攪拌混合した。このようにして、低温焼成炭素粉末と水酸化カリウムとの混合物約200kgを得た。
【0043】
上記の低温焼成炭素粉末と水酸化カリウムとの混合物約200kgを、外熱式の連続焼成炉(容器材質ニッケル、容器サイズ120cm×120cm、仕込み高さ40cm)にて、加熱帯温度750℃、窒素流量2500L/min、炉内滞留時間7時間の条件下にて賦活を行った。
【0044】
上記で得た活性炭を、水洗水のpHが7以下になるまで水洗を行った。水洗後の活性炭を
乾燥し、活性炭約60kgを得た。
上記で得た活性炭約100gを、100℃にて20時間減圧乾燥した。乾燥した活性炭0.8g、ア
セチレンブラック0.1gと粉末状のPTFE0.1gとをメノー乳鉢に仕込み、30分間よく混合した。該混合物をアルミ箔上に載せ、ロール間距離が調節可能な2本の金属ロール(ロール径5cm、ロール長12cm)の間を数回通過させて、混合物をアルミ箔(厚さ0.3mm)上に圧着し、金型で円形に打ち抜いた。得られた電極(アルミ箔を除く)は、重量24.5mg、表面積4.9cm2、厚さ50μmであった。
【0045】
次いで、上記で得た電極2枚を円形のガラスフィルター(面積7cm2、厚さ0.2mm)を介し
て対向させ、減圧下にて電解液(1mol/Lのホウフッ化トリエチルメチルアンモニウムを含
有するプロピレンカーボネート溶液)中に浸漬した。アルゴン雰囲気下において、電極/ガラスフィルター/電極の構造物を2枚のポリプロピレン製板で挟み、固定した。該固定物
を密封し、電気二重層キャパシタとした。
【0046】
上記で得た電気二重層キャパシタの電極を、ポテンショスタットおよびガルバノスタットの両方の機能を有する電源に接続し、充電を行った。充電条件は、電流密度0.2mA/cm2
、カットオフ電圧2.8Vにて定電流充電後、さらに定電圧にて1時間の充電とした。充電終
了後、放電を行った。放電条件は、電流密度0.2mA/cm2、カットオフ電圧0Vとした。放電
におけるクーロン量と電圧とのデータから、活性炭の静電容量の算出を行った。その結果、活性炭の静電容量は、37F/cm3であった。
【実施例2】
【0047】
炭酸カルシウム6kgおよび水54kgをポリプロピレン製容器(内容積150L)に仕込み、攪拌
機で混合しながら二酸化炭素を流速3L/minにて吹き込み、炭酸カルシウムを溶解させて、炭酸カルシウムと水との懸濁液を製造した。
【0048】
実施例1の粗粉砕されたコークスを100kg/hr、炭酸カルシウムと水との懸濁液を0.6kg/hrの送り速度にて、円錐型スクリューミキサー(内容積200L)に流し込み、両者を十分に攪拌混合した。このようにして混合物約10tonを製造した。
【0049】
上記で得た混合物につき、実施例1と全く同様の処理を行った。その結果、乾燥後のコークスと炭酸カルシウムとの混合物中のカルシウム含有量は307重量ppm、鉄含有量は29重量ppmであった。炭化終了後、胴体内部を観察したところ、変色などの異常は認められな
かった。また、揮発分中の硫黄含有量は1.01重量%、コークスと炭酸カルシウムとの混合物から得た低温焼成炭素の真密度は1.53g/cm3、鉄含有量は50重量ppmであった。さらに、該低温焼成炭素から得た活性炭にて作製した電気二重層キャパシタの静電容量は、38F/cm3であった。
【実施例3】
【0050】
塩化カルシウム6kgおよび水14kgをポリプロピレン製容器(内容積45L)に仕込み、攪拌機にて混合して塩化カルシウムを完全に溶解させ、塩化カルシウムの水溶液を製造した。
実施例1の粗粉砕されたコークスを100kg/hr、塩化カルシウムの水溶液を0.20kg/hrの
送り速度で、円錐型スクリューミキサー(内容積200L)に流し込み、両者を十分に攪拌混合した。このようにして混合物約10tonを製造した。
【0051】
上記で得た混合物につき、実施例1と全く同様の処理を行った。その結果、乾燥後のコークスと塩化カルシウムとの混合物中のカルシウム含有量は284重量ppm、鉄含有量は29重量ppmであった。炭化終了後、胴体内部を観察したところ、変色などの異常は認められな
かった。また、揮発分中の硫黄含有量は0.97重量%、コークスと塩化カルシウムとの混合物から得た低温焼成炭素の真密度は1.52g/cm3、鉄含有量は46重量ppmであった。さらに、該低温焼成炭素から得た活性炭にて作製した電気二重層キャパシタの静電容量は、35F/cm3であった。
【実施例4】
【0052】
実施例1において、カルシウム化合物を添加混合したコークスの炭化におけるロータリーキルンの胴体出口温度を720℃から800℃に変更したこと以外は、実施例1と全く同様に処理することにより活性炭を製造した。
【0053】
その結果、乾燥後のコークスと水酸化カルシウムとの混合物中のカルシウム含有量は320重量ppm、鉄含有量は44重量ppmであった。炭化終了後、胴体内部を観察したところ、変
色などの異常は認められなかった。また、揮発分中の硫黄含有量は0.97重量%、コークスと水酸化カルシウムとの混合物から得た低温焼成炭素の真密度は1.75g/cm3、鉄含有量は61重量ppmであった。さらに、該低温焼成炭素から得た活性炭にて作製した電気二重層キャパシタの静電容量は、36F/cm3であった。
【実施例5】
【0054】
実施例2において、カルシウム化合物を添加混合したコークスの炭化におけるロータリーキルンの胴体出口温度を720℃から800℃に変更したこと以外は、実施例2と全く同様に処理することにより活性炭を製造した。
【0055】
その結果、乾燥後のコークスと炭酸カルシウムとの混合物中のカルシウム含有量は298
重量ppm、鉄含有量は44重量ppmであった。炭化終了後、胴体内部を観察したところ、変色などの異常は認められなかった。また、揮発分中の硫黄含有量は1.03重量%、コークスと炭酸カルシウムとの混合物から得た低温焼成炭素の真密度は1.75g/cm3、鉄含有量は68重
量ppmであった。さらに、該低温焼成炭素から得た活性炭にて作製した電気二重層キャパ
シタの静電容量は、35F/cm3であった。
【実施例6】
【0056】
実施例3において、カルシウム化合物を添加混合したコークスの炭化におけるロータリーキルンの胴体出口温度を720℃から800℃に変更したこと以外は、実施例3と全く同様に処理することにより活性炭を製造した。
【0057】
その結果、乾燥後のコークスと塩化カルシウムとの混合物中のカルシウム含有量は259
重量ppm、鉄含有量は44重量ppmであった。炭化終了後、胴体内部を観察したところ、変色などの異常は認められなかった。また、揮発分中の硫黄含有量は1.04重量%、コークスと塩化カルシウムとの混合物から得た低温焼成炭素の真密度は1.74g/cm3、鉄含有量は69重
量ppmであった。さらに、該低温焼成炭素から得た活性炭にて作製した電気二重層キャパ
シタの静電容量は、33F/cm3であった。
[比較例1]
常圧蒸留残渣油と流動接触分解残渣油とを重量比50:50で混合した混合油を内容積20m3のベンチリアクターに仕込み、圧力約0.5Mpa、約500℃にて40時間保持することによりコ
ークス塊10tonを得た。
【0058】
得られたコークス塊をロールクラッシャーで直径10cm以下に破砕し、さらに、SUS304製、ハンマー直径500mmのハンマーミルにて、粒径2mm以上の粒子が0.1重量%以下となるように粗粉砕した。粗粉砕されたコークスの一部を採取し、硫黄含有量を測定した。硫黄含有量は0.31重量%であった。
【0059】
粗粉砕されたコークスにカルシウム化合物を混合せずに、水分含有量が0.2%未満になるまで乾燥を行った。その他、実施例1と全く同様の処理を行うことにより活性炭を製造した。
【0060】
乾燥後のコークスのカルシウム含有量は58重量ppm、鉄含有量は27重量ppmであった。炭化終了後、胴体内部を観察したところ、胴体表面に黒色の斑点が散見された。また、揮発分中の硫黄含有量は1.76重量%、低温焼成炭素の真密度は1.54g/cm3、鉄含有量は125重量ppmであった。さらに、該低温焼成炭素から得た活性炭にて作製した電気二重層キャパシ
タの静電容量は、15F/cm3であった。
[比較例2]
比較例1の粗粉砕され、かつカルシウム化合物が混合されていないコークスを、水分含有量が0.2%未満になるまで乾燥を行った。その他、実施例4と全く同様の処理を行うことにより活性炭を製造した。
【0061】
乾燥後のコークスのカルシウム含有量は58重量ppm、鉄含有量は27重量ppmであった。炭化終了後、胴体内部を観察したところ、胴体表面に黒色の斑点が散見された。また、揮発
分中の硫黄含有量は1.76重量%、低温焼成炭素の真密度は1.76g/cm3、鉄含有量は154重量ppmであった。さらに、該低温焼成炭素から得た活性炭にて作製した電気二重層キャパシ
タの静電容量は、11F/cm3であった。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の活性炭製造用炭素質物および該炭素質物からなる低温焼成炭素粉末は、原料コークス中の不純物である硫黄に起因する問題点を抑制し、活性炭製造装置の寿命およびそれから得られる活性炭にて作製する電気二重層キャパシタの静電容量が向上するので、電気二重層キャパシタ用活性炭の製造原料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気二重層キャパシタの電極材料として用いられる活性炭の製造原料であって、石油系重質油および/または石炭系重質油を熱処理して得られたコークスに、カルシウム化合物
を添加混合し、該混合物中のカルシウム含有量が100重量ppm以上10,000重量ppm以下とな
るように調製されたことを特徴とする活性炭製造用炭素質物。
【請求項2】
請求項1に記載の活性炭製造用炭素質物を、不活性雰囲気下あるいは減圧下にて焼成および微粉砕処理することにより、真密度を1.40g/cm3以上1.85g/cm3以下、かつ平均粒径を1μm以上30μm以下としたことを特徴とする活性炭製造用低温焼成炭素粉末。
【請求項3】
請求項2に記載の活性炭製造用低温焼成炭素粉末に、賦活処理して得られることを特徴とする電気二重層キャパシタ電極材料用活性炭。
【請求項4】
請求項3に記載の活性炭を電極材料として用いることを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【公開番号】特開2007−103795(P2007−103795A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293870(P2005−293870)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】