説明

活性薬剤の、肺への標的化送達のためのナノ粒子

親油性細胞傷害薬を含むNPをMAbとカップリングし、続いて肺へ局所送達することの利点には、肺への直接送達、標的組織中への長い滞留時間、腫瘍部位でのかなり強力な薬物投与量の連続的放出、および効力向上を可能にする、腫瘍における、細胞傷害薬のより良好な内部移行が含まれる。本発明は、ポリマーをベースにしたナノ粒子;ならびに前記ナノ粒子に非共有結合でアンカーリングされた第1部分であって、前記第1部分の少なくとも一部は前記ナノ粒子中に包埋された疎水性/親油性セグメントを含む第1部分;および前記ナノ粒子の外表面に露出されたカップリング基、好ましくはマレイミド化合物を含む第2部分を含むリンカーを含み、好ましくは吸入によって肺へ投与される送達システムに関する。一実施形態によれば、該送達システムは、それぞれが前記カップリング基、好ましくはマレイミド化合物に共有結合で結合された1種または複数のターゲティング薬剤を含み、肺癌または気管支異形成症の治療または診断においてエアロゾルとして投与される。さらに別の実施形態によれば、該送達システムは、薬物および/または放射性医薬品および/またはコントラスト剤を含む。本発明によるリンカーの具体例は、オクタデシル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸アミド(OMCCA)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静脈内適用によるおよび/または吸入による、肺に向けた局所送達用ビヒクルとして使用するための、ポリマーをベースとするナノ粒子に関する。
【0002】
従来技術の一覧
次の文献は、本発明の分野における到達水準を説明するのに直接関係すると思われる先行技術の一覧である。
Takeshi Matsuyaら、Anal.Chem.75:6124〜6132(2003)(非特許文献1)
Terro Soukkaら、Clinical Chemistry 47(7):1269〜1278(2001)(非特許文献2)
Terro Soukkaら、Anal.Chem.73:2254〜2260(2001)(非特許文献3)
Arai Kら、Drug Des.Deliv.2(2):109〜120(1987)(非特許文献4)
Harma H.ら、Luminescence 15(6):351〜355(2000)(非特許文献5)
Olivier JC.ら、Pharm.Res.19(8):1137〜1143(2002)(非特許文献6)
Olivier JC.NeuroRx.2(1):108〜119(2005)(非特許文献7)
Lu ZR.ら、Nature Biotechnology 17:1101〜1104(1999)(非特許文献8)
Gref R.ら、Biomaterials 24(24):4529〜4537(2003)(非特許文献9)
Nobs L.ら、Eur.J.Pharm.Biopharm.58(3);483〜490(2004)(非特許文献10)
Ezpeleta Iら、Int.J.Pharm.191(1):25〜32(1999)(非特許文献11)
Lundberg BBら、J Pharm Pharmacol.51(10):1099〜105(1999)(非特許文献12)
米国特許出願公開第2005/042298号(特許文献1)
国際公開第1987/07150号(特許文献2)
国際公開第2003/088950号(特許文献3)
米国特許第6221397号(特許文献4)
国際公開第2005/077422号(特許文献5)
【背景技術】
【0003】
コロイド表面へ特定のリガンドを結合することによる特定細胞への「アクティブ・ターゲティング(active targeting)」は、リガンドの、標的部位上の表面エピトープまたは受容体への選択的結合をもたらす可能性がある[Moghimi SMら、Pharmacol.Rev.53(2):283〜318(2001)(非特許文献13)]。正常細胞に害を及ぼさない、癌細胞をターゲティングする手段として、モノクロナール抗体(MAb)の使用が、癌治療のために提案された。MAbは、リポソーム(免疫リポソームを形成するため)、エマルジョン(免疫エマルジョンを形成するため)およびナノ粒子(免疫ナノ粒子を形成するため)などのコロイド状担体とカップリングされている。これらの免疫複合体は、かくして、抗体による抗原部位の特異的認識、および腫瘍抗原を過剰発現している近づき難い病理学的標的組織の近傍へのコロイド状送達システムによる種々の細胞傷害薬の放出を確実にする。長期循環性脂質NPの抗体によるターゲティングは、腫瘍への局在化を増大しないが、動物モデルにおける内部移行を増大することが最近発表された。これは標的腫瘍における、ペグ化脂質NPおよび免疫脂質NPの同等の局在化の増大にもかかわらず、免疫脂質NPだけが、標的である癌性細胞における薬物の急速な内部移行を促進し、一方、脂質NPは除去されたことを、立証している(Kirpotinら、2006)。
【0004】
免疫リポソームは、既に発表されている[Park JWら、J.Cont Rel.74(1〜3):95〜113(2001)(非特許文献14);Park JWら、Clin Cancer Res.8(4):1172〜81(2002)(非特許文献15);Nam SMら、Oncol Res.11(1):9〜16(1999)(非特許文献16)]。さらに、ポリエチレングリコール(PEG)にカップリングされたFab’フラグメントを担持する免疫リポソームは、in vivoで長い循環時間およびターゲティングされた固形腫瘍中への高い管外遊出を誘発することが示されている[Maruyama Kら、FEBS Lett.413(1):177〜80(1997)(非特許文献17)]。しかし、これらは、物理化学的に不安定であることが見出された。加えて、これらのリポソーム性担体のほとんどは、意味のある投与量の親油性/疎水性活性成分を組み込むことができず、それらの潜在的臨床効力を制約した。特に、肺への適用において、潜在的脂質毒性および潜在的脂肪性肺炎は、このような担体の使用を制約している。
【0005】
免疫エマルジョンも、発表されている。例えば、Lundberg BBらは、ポリ(エチレングリコール)をベースにしたヘテロ二官能性カップリング剤を使用し、かつ薬物担体として同じものを使用することによる、抗B細胞リンパ腫モノクロナール抗体(LL2)の脂質−エマルジョン小球の表面への結合を発表している[Lundberg BBら、J.Pharm Pharmacol.51(10):1099〜105(1999)(非特許文献12)]。今までのところ、脂質エマルジョンは、このように、著しい貧水溶性を示す高親油性薬物のみを組み込むことができる。強力な中度に親油性の癌化学療法薬を、無限希釈の際に、油滴内に保持することの困難性は、これらの剤形の治療的応用を制約する。例えば、パクリタキセルは、静脈内注射に続いて、脂質エマルジョンから急速に放出されることが見出された[Lundberg BB.J.Pharm.49(1):16〜20(1997)(非特許文献18)]。
【0006】
油性エマルジョンを利用するさらなる研究は、陽性の水中油型エマルジョン、すなわち、その常態で油−水の界面に遊離のNH基を呈示する化合物と抗体とを含むエマルジョンの形成を必要とし、ここで、上記化合物は、NH基を抗体のヒンジ領域上のSH基に連結するヘテロ二官能性リンカーによって上記抗体に連結される[Benita S.ら、国際公開第2005/077422号(特許文献5)]。肺へのエマルジョン送達に関する問題点は、脂質に関連する潜在的副作用、例えば、気道から潜在的に有害な物質を除去する際に機能する繊毛細胞の運動を制限すること、および脂肪肺炎の可能性である。
【0007】
過去数10年にわたって、有効な薬物送達システムとしての生分解性および生体適合性ナノ粒子(NP)の開発に少なからぬ関心が寄せられた。従来のNPは、静脈内(iv)投与に続いて、細網内皮系(RES)による急速なクリアランスを受ける。粒子表面上にアンカーリングされ、かつ水相に向かって配向されたMWが2000Da〜5000Daの範囲の親水性線状ポリエチレングリコール(PEG)分子は、立体的安定化を付与し、RESによるNPのオプソニン化および取込みを防止する。これらのステルスNPは、長期の血漿循環時間を示した[Avgoustakis Kら、Int J Pharm.259(1〜2):115〜27(2003)(非特許文献19);Li Yら、J Control Release.71(2):203〜11(2001)(非特許文献20);Matsumoto Jら、Int J Pharm.185(1):93〜101(1999)(非特許文献21);Stolnik Sら、Pharm Res.11(12):1800〜8(1994)(非特許文献22)]。
【0008】
NPは、ワクチン、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチドおよび抗癌薬などの種々の親水性でかつ中度に親油性の薬物を封じ込めることができる[Soppimath KS、J.Control Release.70(1〜2):1〜20(2001)(非特許文献23);Brigger Iら、Adv Drug Deliv Rev.54(5):631〜51(2002)(非特許文献24)]。NP中への抗腫瘍薬の内包化は、NPが、抗腫瘍薬の副作用を著しく低減しながら強力な薬物の治療指数を向上させるのに適した手段であるので、広範に研究されて来た。NP中に組み込まれる有望な抗腫瘍薬の中で、ドキソルビシン[Soma CEら、J Control Release.68(2):283〜9(2000)(非特許文献25)]、イリノテカン[Onishi Hら、Biol Pharm Bull.26(1):116〜9(2003)(非特許文献26)]およびパクリタキセル[Xu Zら、Int J Pharm.288(2):361〜8(2005)(非特許文献27);Dong Y,Feng SS.Biomaterials.25(14):2843〜9(2004)(非特許文献28)]NPは、有望な結果を示している。
【0009】
大きな臨床的潜在能力にもかかわらず、臓器への、MAbを介したターゲティングNP(免疫ナノ粒子)の取組みは、十分には開発されなかった。抗癌薬装填型NPを、悪性細胞中に過剰発現された抗原に対して特異的なリガンドを介して選択的にターゲティングする能力は、免疫ナノ粒子(免疫NP)製剤の治療効力を向上させ、かつ化学療法に付随する有害副作用を低減する可能性がある。
【0010】
HuC242−DM4およびCMD−193などの種々の免疫毒素、ならびにMORAb−003、セツキシマブ、パニツムマブ、および肺癌だけでほぼ48の臨床試験に参加している世界中に及ぶ臨床試験ではるかに最も広範に使用されるMAbであるベバシズマブなどのモノクロナール抗体をはじめとするいくつかの抗体が、種々の段階の肺癌の治療について現在試験されている(http://www.cancer.gov/lung 2007(非特許文献29))。最近、進行性NSCLCを有する患者に、事前の放射線療法または化学療法の失敗に続いて体系的または腫瘍内で与えられるキメラ抗体を用いるインジウム−111で標識された腫瘍壊死治療を使用する、重要な登録試験が中国で実施された。有望な結果は、それぞれ3.7%および30.8%の患者の完全および部分奏功を示した(Chenら、2005)。
【0011】
全身性で投与される薬物送達システムのターゲティング薬剤としてのMAbの使用は、最近の数年の間に出現した。Cirstoiu-Hapcaら、およびNobsらは、抗−HER2および抗−CD20MAbと結合したPLA NPを製造した(Nobsら、2004;Nobsら、2006a;Nobsら、2006b;Cirstoiu-Hapcaら、2007)。SKOV−3ヒト卵巣癌細胞(HER2を過剰発現する)およびDaudiリンパ腫細胞(CD20を過剰発する)とMAb−NPとの間の特異的相互作用が測定された。結果は、特異的抗原を過剰発現している腫瘍細胞へのMAb−NPの選択的指向性を示したが、これらのNPの毒性プロファイリングは実施されなかった。Olivierらは、また、抗トランスフェリン受容体MAbをマレイミドでグラフトされたPEG−PLA NPへ結合することによって免疫NPを合成したが、毒性評価は実施されなかった(Olivierら、2002)
【0012】
モノクロナール抗体(MAb)と結合された微粒子状薬物の肺内への送達は、肺内の特定組織へのターゲティングおよび取込み増大を可能にする。例として、オマリズマブは、喘息治療に関して米国食品医薬品庁によって承認された、IgEを標的とした療法として現在使用されている(Kuhn、2007)。
【0013】
ナノメートルの大きさの生分解性ポリマー担体の吸入は、高い局所薬物濃度、初回通過効果、および多剤耐性回避を達成できるなら、有益であり得る。肺中での粒子堆積は、NPを用いて達成できるが、この粒径範囲は、考え得る安全性の問題のためほとんど開発されていない[P.G.Roguedaら、Expert Opin.Drug Deliv.4;595(2007)(非特許文献30)]。ヒトの肺は、遠位肺中の巨大な吸着表面積(140m)および薄い吸着粘膜(0.1〜0.2μm)のため、全身性および局所性薬物投与にとって極めて魅力的である(Courrierら、2002)。
【0014】
肺癌は、確かに、世界中で最も一般的でかつ致命的な癌である。肺癌ターゲティングの現在のプロトコールは、主として静脈内をベースにしたプロトコールであり、局所的な肺への薬物送達は、極めて魅力的である可能性がある。しかし、NPの肺送達は、毒性増大に関する懸念を高めるだけではなく、治療効果の増大および投与量の低減に関する可能性を開く。これまで利用可能な毒性データは、主として非治療用分子に関するものであり、そのデータが薬物分子に適用されるどうかについては、議論の段階に留まっている(RoguedaおよびTrani、2007)。Daileyらは、生分解性ジエチルアミノプロピルアミン・ポリ(ビニルアルコール)でグラフトされたポリ(乳酸−co−グリコール酸)(DEAPA−PVAL−g−PLGA)NPの気管内点滴注入後の潜在的炎症促進能を研究した。(Daileyら、2006)。彼らは、種々の大きさの生分解性DEAPA−PVAL−g−PLGA NPと非生分解性ポリスチレンNPとを比較し、小さな生分解性NPが、特に多形核細胞の肺内補充(pulmonary recruitment)において有意により低い炎症応答を呈示することを見出した。彼らの結論は、気道中でのNPの安全性を完全に調べるためには、より総合的な毒物学的研究を計画すべきであるということであった。Daileyらの研究において、ほとんどの動物研究におけるように、肺へのNPの送達方式として、吸入ではなく点滴注入が使用されたが、動物でなされた病理学的観察のヒトとの関連付けは、確立されるべき課題である(Medinaら、2007)。Tsengらは、SCIDマウスモデルの癌性肺へのエアロゾル投与による肺癌ターゲティング用に、ビオチン化EGFと結合されたゼラチンNPの肺癌に対するin vivo送達を実施し、癌性肺中での特異的集積が、画像定量化によって確認された。しかし、in vivo毒性の問題は扱われず、単回の肺送達の後にNPのターゲティングが認められた(Tsengら、2007)。
【0015】
例えば、広範な範囲の様々な大きさのNPの中で、140〜240nmの粒子は、胸リンパ系中にほとんど確認できないことが示された(Liuら、2006)。この結果は、本研究中で作られるNPが類似の大きさの範囲であったので、特に重要である。さらに、PLA微小球は、肺組織中で別々の群の状態で密集することが観察され、一様に分布しなかった(Courrierら、2002)。しかし、この現象は、マイクロメートル尺度の範囲の大きさで観察され、ナノメートルでは観察されなかった。肺内での局所NP療法の主な欠点は、大きさに依存する排出である。一般に、0.5μm未満の質量メディアン空気力学的直径(MMAD)を有する粒子の80%は、呼息中に排出されることが見出された。しかし、呼吸を止めると、この現象を防止することができる(Asgharianら、2003)。さらに、これらのNPが、ブラウン拡散により深部肺内に効果的に沈積し、かつ良好な肺内侵入を呈示するので、大きさに依存するこの欠点は、長所と考えることさえできる。
【0016】
ナノ粒子(NP)は、疎水性の強力な細胞傷害薬をはじめとする増大する数の活性分子のための担体システムとして大きな可能性を示している。単純な粒子に比較して標的組織中への高い集積が可能とはいえ、NPは、それらにモノクロナール抗体(MAb)などの特定のリガンドを結び付けないと、ターゲティングを提供できない。MAbのNPへのカップリングは、粒子表面への抗体分子の共有結合によって達成される。これらの免疫ナノ粒子(免疫NP)は、抗体による抗原部位の特異的認識、およびこのような腫瘍抗原を過剰発現している接近し難い病理学上の肺内標的組織の近傍への、コロイド状担体による、パクリタキセルの親油性プロドラッグであるパルミチン酸パクリタキセルの放出を確実にするはずである。
【0017】
微粒子状の薬物担体システムを使用するエアロゾル療法は、治療用化合物を局所または全身性のどちらかで送達するための人気のある方法になりつつある[12]。エアロゾルまたは粉末用の定量投与吸入装置を使用する肺内送達は、NPなどのナノ構造体を含むことができる。肺送達についての研究は、この経路によるタンパク質およびペプチドの成功的送達に向けた可能性によって活発化されている。肺内薬物送達は、呼吸器疾患の治療のための局所へのターゲティングを提供する。
【0018】
しかし、タンパク質薬物の肺内送達の成功は、それら薬物の総合的なバイオアベイラビリティーを低下させる肺中のプロテアーゼおよびマクロファージによって、および毛細管血と肺胞気との間の障壁によって縮小される。ターゲティングの機構は、したがって、薬物製剤および投与経路の双方を利用することができ、かつ受動的または能動的のどちらかであることができる。パッシブ・ターゲティングの例が、健常組織と比較した腫瘍組織の血管新生の差異の結果としての、固形腫瘍中での化学療法薬の優先的な集積である。
【0019】
ナノメートル領域の直径(好ましくは250nm未満)を有する肺内送達のための生分解性粒子への関心が、増大している。
【0020】
今日まで、われわれが知る限り、免疫NPは、エアロゾル療法では投与されなかったことを強調したい。NPと比較した場合の免疫NPの生体内運命(biofate)を評価することは興味深い。しかし、それらの広大な表面積のため、肺中でのこれらのシステムの安全性および毒物学がいくぶん問題である可能性がある。ポリスチレンおよびTiOからなる種々の大きさの「不活性」粒子は、それらの肺への導入に続いて、表面積依存性の肺の炎症応答を誘導した。
【0021】
したがって、特に肺癌の治療および診断における、活性薬剤の安全かつ容易な局所的肺送達に適切なシステムに対する大きな必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/042298号
【特許文献2】国際公開第1987/07150号
【特許文献3】国際公開第2003/088950号
【特許文献4】米国特許第6221397号
【特許文献5】国際公開第2005/077422号
【特許文献6】米国特許第5049322号
【特許文献7】米国特許第5118528号
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Takeshi Matsuyaら、Anal.Chem.75:6124〜6132(2003)
【非特許文献2】Terro Soukkaら、Clinical Chemistry 47(7):1269〜1278(2001)
【非特許文献3】Terro Soukkaら、Anal.Chem.73:2254〜2260(2001)
【非特許文献4】Arai Kら、Drug Des.Deliv.2(2):109〜120(1987)
【非特許文献5】Harma H.ら、Luminescence 15(6):351〜355(2000)
【非特許文献6】Olivier JC.ら、Pharm.Res.19(8):1137〜1143(2002)
【非特許文献7】Olivier JC.NeuroRx.2(1):108〜119(2005)
【非特許文献8】Lu ZR.ら、Nature Biotechnology 17:1101〜1104(1999)
【非特許文献9】Gref R.ら、Biomaterials 24(24):4529〜4537(2003)
【非特許文献10】Nobs L.ら、Eur.J.Pharm.Biopharm.58(3);483〜490(2004)
【非特許文献11】Ezpeleta Iら、Int.J.Pharm.191(1):25〜32(1999)
【非特許文献12】Lundberg BBら、J Pharm Pharmacol.51(10):1099〜105(1999)
【非特許文献13】Moghimi SMら、Pharmacol.Rev.53(2):283〜318(2001)
【非特許文献14】Park JWら、J.Cont Rel.74(1〜3):95〜113(2001)
【非特許文献15】Park JWら、Clin Cancer Res.8(4):1172〜81(2002)
【非特許文献16】Nam SMら、Oncol Res.11(1):9〜16(1999)
【非特許文献17】Maruyama Kら、FEBS Lett.413(1):177〜80(1997)
【非特許文献18】Lundberg BB.J.Pharm.49(1):16〜20(1997)
【非特許文献19】Avgoustakis Kら、Int J Pharm.259(1〜2):115〜27(2003)
【非特許文献20】Li Yら、J Control Release.71(2):203〜11(2001)
【非特許文献21】Matsumoto Jら、Int J Pharm.185(1):93〜101(1999)
【非特許文献22】Stolnik Sら、Pharm Res.11(12):1800〜8(1994)
【非特許文献23】Soppimath KS、J.Control Release.70(1〜2):1〜20(2001)
【非特許文献24】Brigger Iら、Adv Drug Deliv Rev.54(5):631〜51(2002)
【非特許文献25】Soma CEら、J Control Release.68(2):283〜9(2000)
【非特許文献26】Onishi Hら、Biol Pharm Bull.26(1):116〜9(2003)
【非特許文献27】Xu Zら、Int J Pharm.288(2):361〜8(2005)
【非特許文献28】Dong Y,Feng SS.Biomaterials.25(14):2843〜9(2004)
【非特許文献29】http://www.cancer.gov/lung 2007
【非特許文献30】P.G.Roguedaら、Expert Opin.Drug Deliv.4;595(2007)
【非特許文献31】Gilding DKら、Polymer 20:1459〜1464(1979)
【非特許文献32】Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY
【非特許文献33】Harlowら(1989)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,New York
【非特許文献34】Houstonら(1988),Proc.Natl. Acad.Sci.USA 85:5879〜5883
【非特許文献35】Birdら(1988),Science 242:423〜426
【非特許文献36】Fessi Hら、Int.J.Pharm.1989;55:R1〜R4
【非特許文献37】Martingale、The Extra Pharmacopoeia、29版、The Pharmaceutical Press、London、1989
【非特許文献38】Bazile Dら、J Pharm Sci,84:493〜498(1995)
【非特許文献39】Traut RRら、Biochemistry 12(17):3266〜73(1973)
【非特許文献40】Jue Rら、Biochemistry 17(25):5399〜406(1978)
【非特許文献41】Smith P.K.ら、Anal.Biochem.150:76〜85(1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、したがって、特に癌または異形成症の治療および診断のために、安全で容易な局所的肺送達のための手段を利用可能にすることである。
【0025】
この目的のために、特許請求の範囲に記載のような方策および実施形態の実施は、これらの要求を満たすのにふさわしい手段を満足できる方式で提供する。
【0026】
したがって、本発明は、その種々の態様および実施形態で、特許請求の範囲に従って実施される。
【0027】
本研究では、NPおよび免疫NPの形成に関してそれらの安全な生体適合および生分解特性ゆえにFDAにより注射用に承認されたポリマーであるPLA/PLGAを利用する。親油性細胞傷害薬を含むNPをMAbとカップリングし、続いて肺へ局所送達することの利点には、肺への直接的送達、標的組織中での長い滞留時間、腫瘍部位での極めて強力な薬物投与量の連続的放出、および効力向上を可能にする細胞傷害薬の腫瘍中へのより良好な内在化(internalization)が含まれる。
【0028】
未発表の研究は、直接吸入による免疫ナノ粒子の肺への局所送達を明らかにしたことを強調したい。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、抗体などのターゲティング薬剤を、ポリマーをベースにしたナノ粒子(好ましくは、治療上の活性薬剤を含むもの)と結び付けるための簡単な方法(活性薬剤と合わせた粒子形成ポリマーへのターゲティング薬剤の事前の化学結合形成を必要としない)の開発が、標的部位、例えば、癌または異形成症に襲われた肺中の組織または細胞への活性薬剤の迅速、安全かつ容易な送達を可能にする製品をもたらすという驚くべき発見に基づく。これは、粒子のポリマーマトリックスに非共有結合でアンカリングされる親油性部分、および次の段階でターゲティング薬剤に結合することが可能であるカップリング基、好ましくはマレイミド化合物を含む第2部分を有する分子リンカーを使用することによって達成された。この新規な方法は、それぞれの異なるターゲティング薬剤に合わせて異なるナノ粒子組成物を作る必要性を排除し、必要によりリンカーへ種々のターゲティング薬剤(リガンド)を単に結合することによって、強化された局所的肺送達のための様々な標的システムを調製するのに使用できる「ユニバーサル」ナノ粒子リンカー(細胞傷害薬などの活性薬剤を含む)を形成することを可能にする。
【0030】
したがって、本発明は、特に静脈内適用によるおよび/または好ましくは吸入での経肺投与による局所的肺送達における、以下:
(i)ポリマーをベースとするナノ粒子;
(ii)前記ナノ粒子に非共有結合でアンカリングされた第1部分であって、前記第1部分の少なくとも一部が前記ナノ粒子中に埋め込まれた親油性セグメントを含む第1部分;および前記ナノ粒子の外表面に露出され、リガンド(ターゲティング部分)が共有結合でカップリングされているカップリング基を含む第2部分を含むリンカー;ならびに
(iii)薬物、放射性医薬品およびコントラスト剤からなる群から選択される活性薬剤、
を含む送達システムの使用に関する。
【0031】
カップリング基は、好ましくは、マレイミド、NHS−エステル、カルボジイミド、ヒドラジド、PFP−エステル、ヒドロキシメチルホスフィン、ソラレン、イミドエステル、二硫化ピリジル、イソシアネート、ビニルスルホン、α−ハロアセチル類、アリールアジド、ジアジリン、およびベンゾフェノンからなる群から選択される。
【0032】
したがって、その最初の態様によれば、本発明は、吸入による局所的肺送達のための、以下:
(i)ポリマーをベースとするナノ粒子;
(ii)前記ナノ粒子に非共有結合でアンカリングされた第1部分であって、前記第1部分の少なくとも一部が前記ナノ粒子中に埋め込まれた疎水性セグメントを含む第1部分;および前記ナノ粒子の外表面に露出されたマレイミド化合物を含む第2部分を含むリンカー;
(iii)薬物、ならびに
(iiii)リガンド(ターゲティング部分)、
を含む送達システムを提供する。
【0033】
ナノ粒子は、好ましくは、前記粒子中に埋め込まれるか(embedded)、複合されるか(conjugated)、含侵されるか(impregnated)、カプセル化された(encapsulated)、または該粒子の表面に吸着された薬物、コントラスト剤、およびこれらの組合せなど、粒子によって携行される活性薬剤を含む。
【0034】
上記のナノ粒子−リンカーは、該リンカーがターゲティング薬剤との共有結合に適しているので、後に続く最終の標的化製品の製造で使用できる。
【0035】
1つの好ましい実施形態によれば、ナノ粒子は、前記マレイミド化合物にそれぞれ共有結合で結合される1つまたは2つ以上のターゲティング薬剤(ターゲティング部分)を含む。
【0036】
本発明は、また、本発明の送達システムを含む組成物を提供する。一実施形態によれば、該組成物は、薬学上許容可能な担体を含む。いくつかの他の実施形態によれば、該組成物は、前記ナノ粒子によって携行される活性薬剤を含有する。
【0037】
本発明は、また、肺に関連した疾患または障害を治療または予防するための方法であって、必要とする対象に、前記疾患または障害を治療または予防するのに有効な量の本発明の送達システムを吸入によって提供することを含む方法を提供する。
【0038】
さらに、本発明は、対象の体内の標的細胞または標的組織を診断する方法であって、
(a)前記対象にコントラスト剤を携行する本発明の送達システムであって、ナノ粒子が前記送達システムが肺中の前記標的細胞または標的組織を標的とするのに有効な1種または2種以上のターゲティング薬剤と結び付けられている送達システムを提供すること;
(b)前記体内の前記コントラスト剤を造影すること、
を含む方法を提供する。
【0039】
さらに、本発明は、局所的肺送達のための送達システムの製造方法を提供する。
【0040】
本発明を理解し、本発明をどのように実際に実施できるかをみるために、好ましい実施形態を、添付の図を参照して、非限定的な例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1A】本発明による送達粒子の概略を示す図である。図中、リンカー(OMCCA)は、粒子中にアンカリングされた第1部分、および粒子の表面に露出され、かつ抗体(Y)に結び付けられた第2部分(マレイミド)を有する。
【図1B】本発明による送達粒子の概略を示す図である。図中、送達粒子は、さらに、ポリエチレングリコールで修飾されたポリマー部分を含むことができる。
【図1C】本発明による送達粒子の概略を示す図である。図中、送達粒子は、また、ポリマーマトリックス中に埋め込まれた薬物を携行することができる。
【図2】非結合型粒子(ブランク)、トラスツズマブ結合型粒子(免疫NP)、トラスツズマブ結合薬物装填型粒子(免疫DCTX NP)に関するゼータ電位の測定値を示す三次元棒グラフを示す図である。
【図3A】12nmの金で標識したヤギ抗ヒトIgGを使用した、本発明による抗体結合型ナノ粒子の200nmスケールでの透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図3B】12nmの金で標識したヤギ抗ヒトIgGを使用した、本発明による抗体結合型ナノ粒子の100nmスケールでの透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図4】5連続日にわたってNPおよび免疫ナノ粒子を点滴注入されたマウスにおける3および14日間の回復後の動物体重の変化を示す図である。
【図5A】5連続日にわたってNPおよび免疫ナノ粒子を点滴注入されたマウスにおける3および14日間の回復後の総BAL細胞数を示す図である。
【図5B】5連続日にわたってNPおよび免疫ナノ粒子を点滴注入されたマウスにおける3および14日間の回復後の総BALマクロファージ数を示す図である。
【図5C】5連続日にわたってNPおよび免疫ナノ粒子を点滴注入されたマウスにおける3および14日間の回復後の総BALリンパ球数を示す図である。
【図5D】5連続日にわたってNPおよび免疫ナノ粒子を点滴注入されたマウスにおける3および14日間の回復後の総BAL好中球数を示す図である。
【図6】種々の製剤を点滴注入されたマウスにおける3日間の回復後(図A)のおよび14日間の回復後(図B)の両肺内のマクロファージ、鬱血および炎症の評点を示す図である。
【図7】種々の製剤を点滴注入され実験8日目(図A)および実験19日目(図B)に屠殺されたマウスからの肺組織の画像を示す図である。
【図8】実験初日の体重と比較した、実験8日目(黒色棒)および実験19日目(灰色棒)後のマウスの体重増加を示す図である。
【図9A】総BAL細胞数を示す図である。結果は、実験8日目の(灰色棒)および実験19日目の(黒色棒)双方に対するものである。
【図9B】BAL内のマクロファージ数を示す図である。結果は、実験8日目の(灰色棒)および実験19日目の(黒色棒)双方に対するものである。
【図9C】BAL内のリンパ球数を示す図である。結果は、実験8日目の(灰色棒)および実験19日目の(黒色棒)双方に対するものである。
【図9D】BAL内の顆粒球数を示す図である。結果は、実験8日目の(灰色棒)および実験19日目の(黒色棒)双方に対するものである。
【図10】各種の製剤を点滴注入されたマウスの両肺内の、実験8日目(A図)および実験19日目(B図)のマクロファージ、鬱血および炎症の評点(scoring)を示す図である。結果は、平均±SEM、n=3として示される。マクロファージの順位指標(Ranking index)は、1−いくつかの肺胞中に少数のマクロファージ、2−肺胞の10〜20%に少数のマクロファージ、3−肺胞の10〜20%に群(2〜3)になったマクロファージ、4−肺胞の30%超に群(2〜3)になったマクロファージとした。炎症指標(inflammation index)は、1−炎症なし、2−リンパ凝集物の極めて少数の病巣(おそらく、反応性BALT−気管支関連リンパ組織)、3−肺の間質組織中に分散された慢性浸潤物の少数の病巣、4−肺間質組織中に分散された慢性浸潤物の病巣数のわずかな増加とした。鬱血の指標化(indexing of congestion)は、1−鬱血なし、2−肺胞中隔における毛細管の中度充血の病巣、3−関連隔膜のわずかな浮腫および肥厚化を伴う肺胞中隔における毛細管の中度充血の病巣とした。
【図11】各種の製剤を点滴注入され、実験8日目(a〜e)および実験19日目(f〜j)に屠殺されたマウスからの肺組織を示す図である。示した写真の倍率は、×400である。示した写真は、a、fが対照生理食塩水、b、gがPEG−PLA NP、c、hはSA−PEG−PLA NP、d、iは対照EpCAM生理食塩水、e、jはEpCAM NPである。
【図12】対照生理食塩水(A、B、a、b)、対照EpCAM生理食塩水(C、D、c、d)、およびEpCAM結合型NP(E、F、e、f)を点滴注入され、実験8日目に屠殺されたマウス肺組織切片のEpCAM免疫組織化学の代表的写真を示す図である。各種の処置(A、a、C、c、E、e)は、一次EpCAM抗体および二次ラット抗−マウス抗体と共に、あるいは陰性対照としての二次ラット抗−マウス抗体のみ(B、b、D、d、F、f)と共にインキュベートされた。元々の倍率は×10(A、B、C、D)または×40(a、b、c、d)である。
【図13】対照EpCAM生理食塩水(A、B、a、b)およびEpCAM結合型NP(C、D、c、d)を点滴注入され、実験19日目に屠殺されたマウス肺のEpCAM免疫組織化学の代表的な写真を示す図である。EpCAM発現に関する陽性対照を、マウス結腸の結腸組織中で示す(E、e、F、f)。各種の処置(A、a、C、c、E、e)を、一次EpCAM抗体および二次ラット抗マウス抗体と共に、または陰性対照としての二次ラット抗マウス抗体のみ(B、b、D、d、F、f)と共にインキュベートした。元々の倍率は×10(A、B、C、D)または×40(a、b、c、d)である。
【図14】気管支内投与法の図解を示す。
【図15】試験期間中の群内体重変化を示す。
【図16】1日目から7日目までの%体重変化の群間差を示す。
【図17】血球数(単球)を示す。
【図18a】BAL中のLDH/総細胞数を示す。
【図18b】BAL中のLDH/総細胞数を示す。
【図19】BAL中のマクロファージを示す。
【図20】INPの点滴注入に続く主要気道における有意に増加したEpCAMの染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、1種または2種以上のターゲティング薬剤の薬物装填型ナノ粒子(drug−loaded nanoparticles)への新規な1ステップ結合法をベースにした、肺に対する薬物送達療法の改善を提供することを目的とする。詳細には、本発明は、選択したターゲティング薬剤に引き続き結合できる万能型ナノ粒子リンカー(場合によっては薬物と組み合わせた)の調製を可能にし、その結果、それぞれ異なるターゲティング薬剤に対して専用のナノ粒子を設計する必要がない。本発明により設計されたナノ粒子は、2つの表面膜に低い抗原密度を呈示している標的細胞のより良好な認識を可能にする。
【0043】
本発明は、したがって、とりわけ静脈内適用による、および/または吸入による局所的肺送達における送達システムとしての
(i)ポリマーをベースとするナノ粒子;
(ii)前記ナノ粒子に非共有結合でアンカリングされた第1部分であって、前記第1部分の少なくとも一部が前記ナノ粒子中に埋め込まれた親油性セグメントを含む第1部分;および前記ナノ粒子の外表面に露出されたカップリング基を含む第2部分であって、リガンド(ターゲティング部分)が前記カップリング基に共有結合で(共有結合を介して)カップリングされている第2部分を含むリンカー;ならびに
(iii)薬物、放射性医薬品およびコントラスト剤からなる群から選択される活性薬剤
を含む製品を提供する。
【0044】
静脈内適用の文脈内で、送達システムは、身体に全身性で適用されるが、肺への局所性送達は、したがって、体内における薬物の容易で効率的なターゲティングを可能にして実施される。
【0045】
予想外に、本発明による送達システムの吸入は、活性薬剤の肺への特に安心で有効な送達を可能にすることが見出された。
【0046】
かくして、本発明により、吸入による局所的肺送達のための送達システムを使用することが、特に好ましい。
【0047】
好ましくは、本発明によるカップリング基は、マレイミド、NHS−エステル、カルボジイミド、ヒドラジド、PFP−エステル、ヒドロキシメチルホスフィン、ソラレン、イミドエステル、二硫化ピリジル、イソシアネート、ビニルスルホン、α−ハロアセチル、アリールアジド、ジアジリン、およびベンゾフェノンからなる群から選択される化学基であり、ここで、リガンドは、前記化学基に化学反応により共有結合でカップリングされる。
【0048】
本発明は、かくして、ポリマーをベースとするナノ粒子、ならびに前記ナノ粒子に非共有結合でアンカリングされた第1部分であって、前記第1部分の少なくとも一部が前記ナノ粒子中に埋め込まれた疎水性セグメントを含む第1部分;および前記ナノ粒子の外表面に露出されたマレイミド化合物を含む第2部分を含むリンカーを含む送達システムを提供する。
【0049】
マレイミドは、後記の一般式(I)で図示されるような2,5−ピロールジオン骨格を備えた有機化合物の基である。
【0050】
マレイミドは、航空宇宙産業における先端の複合材料から合成における試薬としての使用に及ぶ広範な範囲の応用分野で使用される。例えば、航空宇宙産業は、その双方とも、ビスマレイミドによって提供される優れた熱安定性および剛性骨格を有する材料を必要とする。いくつかの応用分野において、ポリシロキサンおよびホスホネートなどの各種リンカーは、それらなどから作られるポリマーを強化するためにビスマレイミド(bismaleimindes)に複合される。
【0051】
マレイミドは、また、タンパク質を表面に結合するための可撓性連結分子として使用されることの多いポリエチレングリコール鎖に連結することができる。二重結合は、システイン上に見出されるチオール基と容易に反応して安定な炭素−硫黄結合を形成する。ポリエチレン鎖の他端をビーズまたは固体支持体に結合すると、タンパク質を溶液中のその他の分子から(但し、これらの分子が同様にチオール基を保持しないなら)容易に分離することが可能になる。
【0052】
本発明の文脈で、マレイミドは、ポリマーをベースにしたナノ粒子中に非共有結合で組み込まれる予定のリンカーに複合され、マレイミド−リンカーとナノ粒子の組合せは、各種活性薬剤のための送達システムのプラットフォームを提供する。
【0053】
用語「送達システム」は、本明細書中で用語「送達ナノ粒子」と互換的に使用することができ、生理学上許容可能なポリマーをベースとするナノ粒子を意味し、該粒子は、リンカーと結び付けられた場合、1マイクロメートル以下、好ましくは約50〜1000nmの範囲の、より好ましくは約200〜300nmの範囲の直径を有する。同時に、ナノ粒子は、好ましくは、1種または2種以上のポリマーから形成されたマトリックス構造を有する。さらに、ナノ粒子は、ポリマー以外の物質から形成することもできるが、該粒子は、本質的にポリマーをベースとし、あるいは少なくともそれらの外表面は、ポリマーをベースにすること理解されたい。したがって、用語「ナノ粒子」は、本発明の文脈で、リポソームまたはエマルジョンの形態を除外する。
【0054】
用語「ポリマーをベースとする粒子」、「ポリマーをベースとするナノ粒子」または「粒子形成性ポリマー」は、本明細書中で使用する場合、適切な条件下でナノ粒子を形成する能力を有する、任意の生分解性、そして好ましくは生体適合性のポリマーを意味する。各種の生分解性ポリマーが、当技術分野で入手可能であり、このようなポリマーが、本発明で応用できる。ナノ粒子の調製で主として使用される生分解性、生体適合性があり、かつ安全な承認済みのポリマーは、Gilding DKらによって記載されている[Gilding DKら、Polymer 20:1459〜1464(1979)(非特許文献31)]。
【0055】
粒子形成性生分解性ポリマーの非制限的例は、限定はされないが、ポリヒドロキシ酪酸類、ポリヒドロキシ吉草酸類、ポリカプロラクトン類、ポリエステルアミド類、ポリシアノアクリレート類、ポリ(アミノ酸)類、ポリカーボネート類、ポリ無水物類、およびこれらの混合物などのポリエステル類である。
【0056】
好ましくは、ポリマーは、ポリ乳酸(ポリラクチド)、ポリラクチド−ポリグリコリド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリエチレングリコール−co−ラクチド(PEG−PLA)およびこれらの任意の混合物から選択される。
【0057】
送達システム内のさらなる成分は、ナノ粒子に非共有結合でアンカリングされた第1部分および前記ナノ粒子の外表面に露出されたマレイミド化合物を含む第2部分を含むリンカーである。第1部分は、同部分の少なくとも一部がナノ粒子の表面に埋め込まれた疎水性セグメントを含むように構成される。
【0058】
用語「アンカー(anchor)」は、本明細書中で使用する場合、リンカーと粒子との安定な結び付きを獲得するように、リンカーの第1部分の少なくとも一部が粒子の外表面を経て貫入することを意味する。アンカリング(anchoring)は、リンカーの第1部分に、ポリマーと類似の物理的性質を有する部分(本明細書中で「アンカー部分」と称する)を組み込むことによって達成することができる。化学に精通した人々は、粒子を本質的に構成する物質と相溶性であるべきであるアンカー部分の選択方法を熟知しているであろう。例えば、粒子マトリックスを形成するのに疎水性ポリマーを使用するなら、アンカー部分の好ましい選択は、親水性および/または親油性部分である。換言すれば、アンカー部分は、好ましくは、ポリマーと、そして結局は組み込まれる薬物と相溶性であるべきである。
【0059】
アンカー部分と粒子との間の結び付きは、アンカーのポリマーマトリックスへの機械的固定による(例えば埋め込みによる)のが好ましい。機械的固定は、ポリマーを、ポリマーの固化過程中にリンカーと組み合わせて使用すると、粒子の形成と同時に達成される。ポリマーが、微粒子の形態で一旦固化すると、それは、リンカーのアンカー部分を「捕獲」し、結果として本発明の送達システムを形成する。
【0060】
本発明の文脈におけるリンカーは、両親媒性分子、すなわち、疎水性/親油性部分(アンカーを提供する)および親水性部分の一部を形成するマレイミド化合物を有する分子である。以下で用語「親油性」を使用する場合はいつでも、その用語は、疎水性/親油性部分がナノ粒子を形成するポリマーと相溶性である限り、用語「親水性」と互換的に解釈できることに留意されたい。したがって、親油性部分は、等しく親水性部分を指すことができる。いくつかの実施形態によれば、疎水性/親油性部分は、炭化水素骨格中に少なくとも8個の炭素原子を含む炭化水素または脂質を含む。典型的な範囲は、C〜C30炭素原子である。親油性部分は、直鎖、分枝および/または環状の飽和または不飽和の炭化水素であってよい。
【0061】
リンカーは、ナノ粒子の表面に組み込むことのできる1つまたは2つ以上のアンカーを有することができることに留意されたい。例えば、二重アンカーは、2つの親油性部分を含む後記の表1に示す1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[マレイミド(ポリエチレングリコール)2000]を含むリンカーを使用することによって達成できる。
【0062】
リンカーは、また、ターゲティング薬剤(後に開示するような)が結合する第2部分を有する。ターゲティング薬剤の結合は、共有結合による結び付きが好ましいが、時には非共有結合性の結び付きも応用できる。共有結合による結び付きは、親水性部分に化学反応性のある基、当該発明ではマレイミドを組み込むことによって達成される。マレイミドは、ターゲティング薬剤のチオール基と安定なチオ−エーテル結合を形成できる。
【0063】
いくつかの実施形態によれば、リンカーは、次の一般式(I)
【0064】
【化1】

[式中、
Yは、ヘテロ原子、C〜C20のアルキレンまたはアルケニレン、C〜C20のシクロアルキレンまたはシクロアルケニレン、C〜C20のアルキレン−シクロアルキレン(ここで、前記アルキレンまたはアルケニレン中の炭素原子の1つはヘテロ原子で置き換えられていてもよい)を表し、
Xは、−C(O)−R、−C(O)−NH−R、−C(O)−O−C(O)−R、C(O)NH−R−R、または−C(O)−NH−R−C(O)−NH−Rから選択されるカルボニル含有部分を表し、Rは、少なくとも8個の炭素を含む炭化水素または脂質を表し、Rは親水性ポリマーを表す]を有する。
【0065】
このような実施形態によれば、Rは脂質を、R2は親水性ポリマーを表すことができる。一実施形態によれば、脂質は、モノもしくはジアシルグリセロール、リン脂質、スフィンゴ脂質、スフィンゴリン脂質、または脂肪酸から選択される。
【0066】
は、ポリマーナノ粒子マトリックスと相溶性であるべきであり、かつ親油性であるべきであることに留意されたい。この実施形態によれば、Yは、好ましくはアルキレン−シクロヘキサンを表す。
【0067】
親水性ポリマーは、任意の表面改質剤ポリマーであってよい。表面改質剤として典型的に使用されるポリマーには、それらに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリシアル酸、ポリ乳酸(ポリラクチドとも称される)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドとも称される)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルタミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、誘導体化セルロース(ヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロースなど)が含まれる。ポリマーは、ホモポリマーとして、またはブロックもしくはランダムコポリマーとして採用できる。
【0068】
好ましくは、親水性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。PEG部分は、好ましくは、約750Da〜約20,000Daの分子量を有する。より好ましくは、分子量は、約750Da〜約12,000Da、最も好ましくは約2.000Da〜約5,000Daである。
【0069】
好ましくは、ポリエチレングリコールは、モノメトキシポリエチレングリコール(モノメトキシまたは規則的ペグ)である。したがって、本発明により利用される好ましい脂質ポリマーは、ステアリルアミン−モノメトキシポリ(エチレングリコール)(SA−mPEG)である。
【0070】
別法として、親水性ポリマーは、図1Bに概略的に図示されるように、粒子を形成するポリマー、例えば、mPEG−ポリラクチドに共有結合で連結することができる。
【0071】
本発明の1つの詳細な実施形態は、式中のYが、式−CH−C10−を有するアルキレン−シクロアルキレンを表し、Xが、式−C(O)−NH−R(ここで、Rは脂肪酸である)を有するカルボニル含有部分を表す、式(I)の化合物に関する。
【0072】
本発明の別の詳細な実施形態は、そのリンカーが、オクタデシル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸アミド(OMCCA)、N−1ステアリル−マレイミド(SM)、オレイン酸スクシンイミジル、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[マレイミド(ポリエチレングリコール)2000]、およびこれらの混合物から選択される式(I)の化合物に関する(表1)。
【0073】
いくつかの実用的なリンカーの化学構造を次表1に示す。
【0074】

【0075】
本発明による1つの好ましいリンカーであるOMCCAは、下記のスキーム1により合成することができる。
【0076】
【化2】

【0077】
オレイン酸スクシンイミジルは、Sigma社(Sigma Chemical、ミズーリ州、米国)から市販されており;1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[マレイミド(ポリエチレングリコール)2000]は、AVANTI Polar Lipids Inc(Avanti Polar Lipids、Alabaster、アラバマ州)から市販されている。
【0078】
本発明の送達システムは、標的化送達システム、すなわちターゲティング薬剤に結び付けたれた送達システムの形態で提供できる。ターゲティング薬剤が抗体またはその結合形成フラグメントである場合、本発明の標的化送達システムは、「免疫ナノ粒子」と呼ばれることもある。
【0079】
ターゲティング薬剤は、結合を形成する対の一方のメンバーであり、対の他方のメンバーは、本発明の標的化送達システムが選択的/優先的に送達されるべき、細胞、組織上の標的であると見なすことができる。用語「結合形成対(binding couple)」は、本明細書中で使用する場合、互いに特異的に結合する能力(親和性)がある2つの物質を意味する。結合形成対の非限定的例には、当技術分野に精通した者にとって周知のように、ビオチン−アビジン、抗原−抗体、受容体−リガンド、オリゴヌクレオチド−相補的オリゴヌクレオチド、糖−レクチンが含まれる。
【0080】
ターゲティング薬剤は、ターゲティング・ポリマーまたはオリゴマーでもよい。該ポリマー(およびその免疫学的機能性フラグメント)の非限定的例は、アミノ酸をベースにしたポリマー(例えば、抗体、抗原、糖タンパク質)、核酸をベースにしたポリマー(例えば、免疫賦活性オリゴデオキシヌクレオチド(ODN))、センスおよびアンチセンスセンス干渉RNA(iRNA)など、または糖をベースにした糖タンパク質(例えばレクチン)などのポリマーを包含する。
【0081】
上で言及したように、上記ターゲティング薬剤の任意のフラグメントも、それらが、標的への特異的結合特性を保持する限り、本発明により使用することができる。ターゲティング薬剤が、抗体(後記の定義を参照のこと)である場合、後者は、ポリクロナール抗体またはモノクロナール抗体を含む、IgG、IgM、IgD、IgAおよびIgG抗体のいずれか1つでよい。抗体のフラグメントは、抗体の抗原結合ドメイン、例えば、Fc部分のない抗体、単鎖抗体、本質的に単に可変部だけからなるフラグメント、抗体の抗原結合ドメインなどを含むことができる。
【0082】
いくつかの実施形態によれば、ターゲティング薬剤は、葉酸またはチアミンなどの低分子量化合物である。例えば、チアミンは、ポリマーをベースにしたナノ粒子にアンカリングされたリンカーに結合されることができ、このようにした形成されたナノ粒子は、次いで、チアミン受容体の高められた発現を有する組織に特異的に標的化される。このような標的細胞としては、癌細胞を挙げることができる。
【0083】
いくつかの好ましい実施形態において、ターゲティング薬剤は、リンカーを経由して粒子と結び付けられたタンパク質である。免疫ナノ粒子について言及する場合、ターゲティング薬剤は、好ましくは、リンカーへの共有結合を介して粒子と結び付けられた抗体である(該リンカーは、粒子に非共有結合で結び付けられている)。結合形成対の他のメンバーは、抗体が特異的に結合する抗原である。前に示したように、ターゲティング薬剤は、また、抗体の免疫学的フラグメントであってもよい。
【0084】
本発明の文脈で、用語「抗体」は、天然供給源、組み換え供給源に由来する、または当技術分野で周知の合成手段の使用による実質上無傷の免疫グロブリンを意味し、全てにおいて、抗原決定基に結合する能力を有する抗体がもたらされる。抗体は、例えば、ポリクロナール抗体、モノクロナール抗体、単鎖抗体、軽鎖抗体、重鎖抗体、二重特異性抗体、またはヒト化抗体、および上記の任意の免疫学的フラグメントを含む種々の形態で存在できる[Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY(非特許文献32);Harlowら(1989),Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,New York(非特許文献33);Houstonら(1988),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879〜5883(非特許文献34);Birdら(1988),Science 242:423〜426(非特許文献35)]。
【0085】
本明細書中で使用する場合、用語「免疫学的フラグメント」は、抗原決定基に結合する能力を有する抗体の機能性フラグメントを指す。適切な免疫学的フラグメントは、例えば、免疫グロブリン軽鎖(「軽鎖」)の相補性決定領域(CDR)、免疫グロブリン重鎖(「重鎖」)のCDR、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域、軽鎖、重鎖、Fdフラグメント、およびFv、単鎖Fv(scFv)、Fab、Fab’、F(ab)およびF(ab’)などの軽鎖および重鎖の双方の全可変領域を本質的に含む免疫学的フラグメントでよい。
【0086】
本発明の好ましい実施形態によれば、抗体は、モノクロナール抗体(MAb)である。抗体は、天然のタンパク質または遺伝子操作産生物(すなわち、組み換え抗体)、あるいは合成産物に対して作り出された抗体でよい。
【0087】
好ましくは、リガンドは、ヒト化および/またはキメラモノクロナール抗体、あるいはヒト化および/またはキメラモノクロナールのフラグメントである。
【0088】
本発明によれば、リガンドは、詳細には、EpCAM、VEGF、EGFR、HER2、HER3、HER4、CA125、CTLA−4、H−フェリチンからなる群から選択される抗原に向けられる抗体または抗体フラグメントであり、ここで、リガンドは、好ましくは、トラスツズマブ、セツキシマブ、ベバシズマブ、パニツムマブ、マツズマブ、ニモツズマブ、MDX−447、オエゴボマブ(Oegovomab)、ペルツズマブ、イピリムマブ、AMB8LK、抗マウスEpCAM、抗ヒトEpCAMからなる群から選択される。
【0089】
本発明により使用できるMAbの非限定的例が、ベバシズマブ、オマリズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ(すべて、Genentech Inc)、モノクロナール抗体17−1A(EpCAM)(BD)、抗−CD160、およびAMB8LK(MAT Evry、フランス)、ムロモナブ−CD3(Johnson&Johnson)、アブシキシマブ(Centrocor)、リツキシマブ(Biogen−IDEC)、バシリキシマブ(Novartis)、インフリキシマブ(Centrocor)、セツキシマブ(Imclone Systems)、ダクリズマブ(Protein Design Labs)、パリビズマブ(Medlmmune)、アレムツズマブ(Millenium/INEX)、ゲムツズマブオゾガマイシン(Wyeth)、イブリツモマブチウキセタン(Biogen−IDEC)、トシツモマブ−I131(Corixa)およびアダリムマブ(Abbot)である。
【0090】
より好ましくは、MAbは、EpCAMである。EpCAMは、上皮細胞接着分子に対して高い親和性を有するMAbであり、後者は、肺癌細胞などの悪性腫瘍細胞中に過剰発現されている。したがって、本発明の一実施形態によれば、該送達システムを使用して、細胞接着分子を過剰発現している細胞に細胞傷害薬を送達することができる。
【0091】
いくつかの実施形態によれば、NPは、異なる結合特性(例えば、異なる結合特異性)を有する2つの抗体を携行する。単一ナノ粒子上の2つの異なる抗体のこの構造は、2つの抗体が、ナノ粒子によって、真の二重特異性単一分子を化学的に複合するまたは遺伝子操作する必要なしに、比較的簡単かつ費用のかからない方式で、互いに近接して配置される「機能的二重特異性−様(functional bispecific−like)」の抗体構造物を創り出した。
【0092】
この文脈では、二特異性抗体も使用できる。二特異性抗体は、細菌(大腸菌(E.coli))および酵母(ピキア・パストリス(Pichia pastoris))中に機能性形態でかつ高収率で発現させることのできる、小さな二価の二重特異性抗体フラグメントの部類である。二特異性抗体は、あまりに短くて同一鎖上で2つのドメイン間で対を形成できないペプチドリンカーによって連結された、同一ポリペプチド鎖(VH−VL)上の軽鎖可変ドメイン(VL)へ連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。このことは、別の鎖の相補性ドメインとの対形成を強制し、2つの機能性抗原結合部位との二量体分子の組み立てを促進する。二重特異性をもつ二特異性抗体を構成するためには、抗体Aおよび抗体BのV−ドメインを融合して、2つの鎖VHA−VLB、VHB−VLAを創り出す。各鎖は、抗原に対する結合において不活性であるが、他の鎖との対形成で抗体AおよびBの機能性抗原結合部位を再創生する。
【0093】
本発明のナノ粒子は、各種の方法、例えば、ポリマー界面堆積法(polymer interfacial deposition)、溶媒蒸発、噴霧乾燥、コアセルベーション、界面重合、および当業者に周知のその他の方法によって形成することができる。
【0094】
好ましくは、本発明のナノ粒子は、Fessi Hらによって発表されているようなポリマー界面堆積法によって調製される[Fessi Hら、Int.J.Pharm.1989;55:R1〜R4(非特許文献36)]。本発明のナノ粒子は、米国特許第5049322号(特許文献6)および5118528号(特許文献7)に開示されているようにして調製することができる。
【0095】
Fessi Hらによる方法によれば、粒子形成用ポリマーを、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリルなどの水と混和性の有機溶媒に溶解する。このポリマー含有有機相に、前に定義したようなリンカーを添加する。生じる有機相を、次いで、界面活性剤を含む水性相に添加して、分散液を形成し、続いて900rpmで1時間混合し、次いで減圧下で蒸発させてナノ粒子を形成し、次いで、該ナノ粒子をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)などの適切な緩衝液で洗浄する。有機相は、本発明の送達システムによって携行される予定の活性薬剤の溶解を促進するために、有機溶媒の組合せに加えて他の界面活性剤を含むこともできる。同様に、水性相は、界面活性剤の組合せを含むことができ、その組合せのすべては、Fessiらによって発表されている通りである。
【0096】
指摘したように、送達粒子は、好ましくは、1種または2種以上の活性薬剤を携行し、ここで、該1種または複数の活性薬剤は、好ましくは、薬物および/または放射性医薬品、および/またはコントラスト剤である。この目的のため、薬剤、好ましくは、乾燥活性薬剤は、リンカーの添加に先立ってまたはリンカーの添加と一緒に有機相へ添加される。
【0097】
ナノ粒子の形成を可能にするために、ポリマーおよび活性薬剤(もし組み込むなら)は、好ましくは、有機相に可溶性、水性相に不溶性であるべきであり、同時に、有機溶媒および水性相は、混和性であるべきである。
【0098】
前記3成分、すなわち、粒子形成用ポリマー、活性薬剤およびリンカーを単に混合することによって、ある量のリンカーが粒子の表面に露出され、その量が粒子表面でターゲティング薬剤の化学的結合を可能にするのに十分であることが見出された。かくして、ターゲティング薬剤は、粒子表面に露出されたリンカーの反応基とのその交差反応を可能にする適切な条件を準備することによって、形成した粒子(活性薬剤を装填された)に化学的に結び付けられる。
【0099】
図1A〜1Cは、本発明のいくつかの実施形態による送達粒子の概略説明図である。図1Aは、その外表面(12)に、外表面を経て粒子中にアンカリングされた第1部分(16)、および前記表面に露出され、ターゲティング薬剤(20)が化学的に結合される第2部分(18)を有してなるリンカー(14)を有する送達粒子(10)を示す。この詳細な説明図において、リンカーは、粒子中にアンカリングされた親油性部分、および表面に露出されたマレイミド部分を有するOMCCAである。マレイミドは、例えば、ターゲティング薬剤の遊離チオール基とスルフィド橋を形成することによって、ターゲティング薬剤と化学的に結合することができる。図1Bには、図1Aのそれと同様ではあるが、薬物送達用ビヒクルに関わる当技術分野に精通した者によって認識されるように、とりわけ体内での粒子の循環時間を増大させるためにその表面にPEGなどの親水性基(22)を有する送達粒子を図示する。図1Cには、図1Bのそれと同様の送達粒子を図示するが、さらに、粒子の内部マトリックス(26)内に薬物(24)を埋め込んでいることを示している。
【0100】
図1A〜1Cは、リンカーの第1部分が粒子中に完全に埋め込まれていることを図示しているが、この部分は、粒子のマトリックス中に部分的に封入されていても、あるいは中心部に封入またはカプセル化されていてもよいことを認識されたい。唯一の必須条件は、アンカリングが本質的に安定であること、すなわち、リンカーを粒子から脱着できないことである。
【0101】
本発明の送達システムによって携行できる広範な種類の活性薬剤が存在する。携行は、当技術分野に精通した者にとって周知であるように、ポリマーマトリックス中への活性薬剤(活性薬剤のクラスターまたは非クラスター)の結合または埋め込み、粒子表面での吸着、粒子の内部空間への活性薬剤の分散、粒子を形成するポリマー内への活性薬剤の溶解、ナノ粒子の油性中心部へのカプセル化などによって達成できる。
【0102】
活性薬剤は、薬物(治療または予防用薬剤)、または診断(コントラスト形成)用薬剤でよい。エアロゾル製剤で投与される活性薬剤は、タンパク質、ペプチド、気管支拡張薬、コルチコステロイド、エラスターゼ阻害薬、鎮痛薬、抗真菌薬、嚢胞性線維症治療薬、喘息治療薬、肺気腫治療薬、呼吸窮迫症候群治療薬、慢性気管支炎治療薬、慢性閉塞性肺疾患治療薬、臓器移植拒絶治療薬、肺の結核およびその他の感染症のための治療薬、真菌感染症治療薬、後天性免疫不全症候群に付随する呼吸器疾患の治療薬、腫瘍用薬物、制吐薬、鎮痛薬および心血管用薬剤からなる群から好ましくは選択される。
【0103】
本発明によれば、薬物は、好ましくは、化学療法薬、特に、抗腫瘍性化学療法薬または化学予防薬である。
【0104】
本発明によれば、特に肺癌または気管支異形成症の治療において、薬物は、パクリタキセル、ゲフィチニブ、エルロチニブ、エトポシド、カルボプラチン、ドセタキセル、酒石酸ビノレルビン、シスプラチン、ドキソルビシン、イフォスファミド、硫酸ビンクリスチン、塩酸ゲムシタビン、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、メトトレキサート、塩酸トポテカン、イリノテカン、5−フルオロウラシル、ジロイトン、セレコキシブ、およびこれらの誘導体(ここで、前記薬物の誘導体は、好ましくは、脂肪酸誘導体、特に、おそらく(may be)パルミチン酸パクリタキセルなどのパルミチン酸誘導体である)からなる群から選択されることが好ましい。
【0105】
本発明による肺癌の文脈内で、薬物は、パクリタキセル、エトポシド、カルボプラチン、ドセタキセル、酒石酸ビノレルビン、シスプラチン、ドキソルビシン、イフォスファミド、硫酸ビンクリスチン、塩酸ゲムシタビン、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、メトトレキサート、塩酸トポテカン、およびこれらの薬物の誘導体、ならびに前記薬物またはそれらの誘導体の組合せからなる群から選択されることが特に好ましい。
【0106】
本発明による異形成症の文脈内で、薬物は、化学予防薬ジロイトン、セレコキシブ、およびこれらの誘導体からなる群から選択されることが好ましい。
【0107】
本発明による用語「異形成症」は、軽度および/または重度の異形成症を指し、ここで、「軽度異形成症」は、詳細には細胞内部に微小の異常型を有する病変を指し、「重度異形成症」はまた軽いまたは中度の異形成症を含む。本発明による用語「気管支異形成症」は、詳細には、肺異形成症を指す。
【0108】
本発明による用語「肺」または「肺(複数)」は、詳細には、哺乳動物、特にマウスおよび好ましくはヒトの呼吸器官を指す。より詳細には、用語「肺」は、非小細胞肺癌を患うまたはそれになり易いマウスまたは好ましくはヒト患者などの、肺癌または気管支異形成症の治療または診断を必要とするマウスまたは好ましくは人間の呼吸器官に関する。
【0109】
本発明の別の好ましい実施形態、特に肺癌または気管支異形成症の診断および/または治療において、活性薬剤は、カルシウム−47、炭素−11、炭素−14、クロム−51、コバルト−57、コバルト−58、エルビウム−169、フッ素−18、ガリウム−67、ガリウム−68、水素−3、インジウム−111、ヨウ素−123、ヨウ素−131、鉄−59、クリプトン−81m、窒素−13、酸素−15、リン−32、サマリウム−153、セレン−75、ナトリウム−22、ナトリウム−24、ストロンチウム−89、テクネチウム−99m、タリウム−201、キセノン−133、イットリウム−90、および前記放射性核種の少なくとも1種を含む物質からなる群から選択される放射性医薬品である。
【0110】
特に、PETおよび/またはCTによる診断または造影方法で使用する場合、放射性医薬品は、本発明による、テクネチウム−99m(例えば、テクネチウム−99mシンチグラフィーまたはCTにおいて)またはフッ素18−FDG(例えば、フッ素18−FDG PETにおいて)であることが好ましい。
【0111】
本発明のさらなる好ましい実施形態、特に肺癌または気管支異形成症の診断において、活性薬剤は、ヨウ素−、ガドリニウム−、マグネタイト−、またはフッ素−含有コントラスト剤からなる群から選択されるコントラスト剤であり、ここで、該コントラスト剤は、ヨウ素含有薬剤からなる群から、特に、イオプロミド、イオキシタラメート、イオキサグレート、イオヘキソール、イオパミドール、イオトラロン、およびメトリザミドからなる群から好ましくは選択される。
【0112】
抗癌性活性薬剤は、アルキル化剤、代謝拮抗薬、天然物、ホルモンおよび拮抗薬、ならびに放射線増感剤などの種々の薬剤から好ましくは選択される。アルキル化剤の例には、(1)例えば、クロルメチン、クロルアンブシル、メルファラン、ウラムスチン、マンノムスチン、リン酸エキストラムスチン、メクロレ−タミノキシド(mechlore−thaminoxide)、シクロホスファミド、イフォスファミド、およびトリフォスファミドなどの、ビス−(2−クロロエチル)−アミン基を有するアルキル化剤、(2)例えば、トレタミン、チオテパ、トリアジコン、およびミトマイシンなどの、置換アジリジン基を有するアルキル化剤、(3)例えば、ブスルファン、ピポスルファン、およびピポスルファムなどの、アルキルスルホネート型のアルキル化剤、(4)例えば、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、またはストレプトゾトシンなどの、アルキル化N−アルキル−N−ニトロソウレア誘導体、ならびに(5)ミトブロニトール、ダカルバジン、およびプロカルバジン型のアルキル化剤が含まれる。
【0113】
代謝拮抗薬の例には、(1)例えば、メトトレキサートなどの葉酸類似体、(2)例えば、フルオロウラシル、フロクスリジン、テガフール、シタラビン、イドクスリジン、およびフルシトシンなどのピリミジン類似体、ならびに(3)例えば、メルカプトプリン、チオグアニン、アザチオプリン、チアミプリン、ビダラビン、ペントスタチン、およびプロマイシンなどのプリン誘導体が含まれる。
【0114】
天然物の例には、(1)例えば、ビンブラスチンおよびビンクリスチンなどのビンカアルカロイド、(2)例えば、エトポシドおよびテニポシドなどのエピポドフィロトキシン、(3)例えば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、ドクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ミトラマイシン、ブレオマイシン、およびミトマイシンなどの抗生物質、(4)例えば、L−アスパラギナーゼなどの酵素、(5)例えば、α−インターフェロンなどの生物学的応答改変薬(biological response modifiers)、(6)カンプトテシン、(7)タキソール、ならびに(8)レチノイン酸などのレチノイドが含まれる。
【0115】
ホルモンおよび拮抗薬の例には、(1)例えば、プレドニゾンなどの副腎皮質ステロイド、(2)例えば、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロールなどのプロゲスチン類、(3)例えば、ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオールなどのエストロゲン類、(4)例えば、タモキシフェンなどの抗エストロゲン薬、(5)例えば、プロピオン酸テストステロンおよびフルオキシメステロンなどのアンドロゲン類、(6)例えば、フルタミドなどの抗アンドロゲン薬、(7)例えば、リュープロリドなどのゴナドトロピン放出ホルモン類似体が含まれる。種々の雑多な薬剤の例には、(1)例えば、1,2,4−ベンゾトリアジン−3−アミン1,4−ジオキシド(SR4889)および1,2,4−ベンゾトリアジン7−アミン1,4−ジオキシド(WIN59075)などの放射線増感剤、(2)シスプラチンおよびカルボプラチンなどの白金配位錯体、(3)例えば、ミトキサントロンなどのアントラセンジオン類、(4)例えば、ヒドロキシウレアなどの置換尿素類、ならびに(5)例えば、ミトタンおよびアミノグルテチミドなどの副腎皮質抑制薬が含まれる。
【0116】
加えて、抗癌薬は、例えば、シクロススポリン、アザチオプリン、スルファサラジン、メトクスサレン(methoxsalen)、およびサリドマイドなどの免疫抑制薬であり得る。
【0117】
鎮痛性活性薬剤には、例えば、NSAIDまたはCOX−2阻害薬が含まれる。本発明の粒子中で製剤できる典型的なNSAIDには、限定はされないが、適切な非酸性および酸性化合物が含まれる。適切な非酸性化合物には、例えば、ナブメトン、チアラミド、プロクアゾン、ブフォキサマク(bufoxamac)、フルミゾール、エピラゾール、チノリジン、チメガジン、およびダプソンが含まれる。適切な酸性化合物には、例えば、カルボン酸およびエノール酸が含まれる。適切なカルボン酸系NSAIDには、例えば、(1)アスピリン、ジフルニサール、ベノリレート、およびフォスフォサルなどのサリチル酸およびそのエステル類、(2)ジクロフェナク、アルクロフェナク、およびフェンクロフェナクを含むフェニル酢酸などの酢酸類、(3)エトドラク、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、フェンチアザク、およびチロミソールなどの炭素−およびヘテロ環式酢酸類、(4)カルプロフェン、フェンブレン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、オキサプロジン、スプロフェン、チアプロフェン酸、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、インドプロフェン、およびピルプロフェンなどのプロピオン酸類、ならびに(5)フルテナム酸(flutenamic)、メフェナム酸、メクロフェナム酸、およびニフルミン酸などのフェナム酸類が含まれる。適切なエノール酸系NSAIDには、例えば、(1)オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、アパゾン、およびフェプラゾンなどのピラゾロン類、ならびに(2)ピロキシカム、スドキシカム、イソキシカム、およびテノキシカムなどのオキシカム類が含まれる。
【0118】
典型的なCOX−2阻害薬には、限定はされないが、セレコキシブ(SC−58635、CELEBREX、Pharmacia/Searle & Co.);ロフェコキシブ(MK966、L−748731、VIOXX、Merck & Co.);メロキシカム(MOBIC@、Abbott Laboratories、Chicago、イリノイ州およびBoehringer Ingelheim Pharmaceuticalsによる共販);バルデコキシブ(BEXTRA@、G.D.Searle & Co.);パレコキシブ(G.D.Searle & Co.)、エトリコキシブ(MK−663、Merck);SC−236(4−[5−(4−クロロフェニル)−3−;(トリフルオロメチル)−1H−ピラゾール−1−イル)]ベンゼンスルホンアミドの化学名、G.D.Searle & Co.、Skokie,イリノイ州);NS−398(N−(2−シクロヘキシルオキシ−4−ニトロフェニル)メタンスルホンアミド、大正製薬、日本);SC−58125(メチルスルホンスピロ(2,4)ヘプタ−5−エン1、Pharmacia/Searle & Co.);SC−57666(Pharmacia/Searle & Co.);SC−558(Pharmacia/Searle & Co.);SC−560(Pharmacia/Searle & Co.);エトドラク(Lodine、Wyeth−Ayerst Laboratories、Inc.);DFU(5,5−ジメチル−3−(3−フルオロフェニル)−4−(4−iメチルスルホニル)フェニル2(5H)−フラノン);モンテリューカスト(monteleukast)(MK−476)、L−745337((5−メタンスルホンアミド−6−(2,4−ジフルオロチオ−フェニル)−1−インダノン)、L−761066、L−761000、L−748780(すべてMerck & Co.);DUP−697(5−ブロモ−2−(4−フルオロフェニル)−3−(4−(メチルスルホニル)フェニル、Dupont Merck Pharmaceutical Co.);PGV20229(1−(7−tert−ブチル−2,3−ジヒドロ−3,3−ジメチルベンゾ(b)フラン−5−イル)−4−シクロプロピルブタン−1−オン;Procter & Gamble Pharmaceuticals);イグラチモド(T−614、3−ホルミルアミノ−7−]メチルスルホニルアミノ−6−フェノキシ−4H−1−ベンゾピラン−4−オン、富山化学工業、日本);BF389(Biofor、米国);CL1004(PD136095)、PD136005、PD142893、PD138387、およびPD145065(すべてParke−Davis/Warner−Lambert Co.);フルルビプロフェン(ANSAID、Pharmacia & Upjohn);ナブメトン(FELAFEN、SmithKline Beecham、plc);フロスリド(CGP28238、Novartis/Ciba Geigy);ピロキシカム(FELDANE、Pfizer3);ジクロフェナク(VOLTARENおよびCATAFLAM、Novartis);ルミラコキシブ(COX−189、Novartis);D1367(Celltech Chiroscience、plc);R807(3−ベンゾイルジフルオロメタンスルホンアニリド、ジフルミドン);JTE−522(日本たばこ、日本);FK−3311(4’−アセチル−2’−(2,4−ジフルオロフェノキシ)メタンスルホンアニリド)、FK867、FR140423およびFR115068(すべて藤沢製薬、日本);GR253035(Glaxo Wellcome);RWJ63556(Johnson & Johnson);RWJ20485(Johnson & Johnson);ZK38997(Schering);S2474((E)−(5)−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−エチル−1,2−イソチアゾリジン−1,1−ジオキシドインドメタシン、塩野義製薬、日本);RS57067およびRS104897などのゾメピラク類似体(Hoffmann La Roche);RS104894(Hoffmann La Roche);SC41930(Monsanto);プランルカスト(SB205312、Ono−1078、ONON、ULTAIR@、SmithKline Beecham);SB209670(SmithKline Beecham);およびAPHS(ヘプチニルスルフィド)が含まれる。
【0119】
これらの部類の薬物および診断薬の説明ならびに各部類内の種のリストは、例えば、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる、Martindale、「The Extra Pharmacopoeia」29版、The Pharmaceutical Press、London、1989(非特許文献37)中に見出すことができる。該薬物および診断薬は、市販されており、かつ/または当技術分野で周知の技術で調製できる。
【0120】
本発明の実施で適切に使用できる貧水溶性の薬物には、限定はされないが、ベクロメタゾン、ブデソニド、シプロフロキサシン、シスプラチン、クラリスロマイシン、エトポシド、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ケトプロフェン、メチルプレドニゾロン、モメタゾン、ナブメトン、ノルフロキサシン、パクリタキセル、ピロキシカム、トリアムシノロン、ドセタキセル、または前記薬物のいずれかの薬学上許容可能な塩が含まれる。
【0121】
診断薬は、本発明の送達用粒子で送達することができる診断薬は、単独で、または1種または2種以上の前記のような薬物と組み合わせて投与することができる。診断薬は、各種の技術によって標識することができる。診断薬は、放射能標識化合物、蛍光標識化合物、酵素標識化合物であってもよく、かつ/またはX線、超音波、磁気共鳴造影(MRI)、コンピューター断層撮影(CT)、または蛍光透視検査などの技術を使用して検出できる磁性化合物またはその他の材料を包含する。
【0122】
好ましい一実施形態によれば、本発明の送達システムによって送達される活性薬剤は、細胞傷害薬(抗腫瘍薬)である。本明細書中で例示される細胞傷害薬は、ドセタキセル、パクリタキセルおよびパルミチン酸パクリタキセルである。具体的な細胞障害薬は、非小細胞肺癌(NSCLC)を治療するのに最上の好ましい薬物の1つであることが知られているドセタキセル(DCTX)である。
【0123】
いくつかの事例で、送達粒子は、1種を超える活性薬剤を含むことができることが認識される。さらに、該粒子には、活性薬剤、および適切なその補助薬、すなわち主要活性薬剤の作用を促進または修正する成分を装填することができる。例えば、免疫療法において、補助薬は、ワクチンの免疫賦活特性を強化または修正するためにワクチン製剤中に含められる物質である。別の実施形態によれば、該粒子は、薬物と、薬物作用を増強するための多剤耐性(MDR)阻害薬との組合せを含有することができ、このような組合せは、シクロスポリンA(CsA)に対するMDRを抑制することが知られているベラパミルを含むことができる。
【0124】
さらに、ターゲティング薬剤は、また、治療または診断上の利点を有することが生じる可能性がある。したがって、いくつかの実施形態によれば、粒子は、主要活性薬剤としてターゲティング薬剤のみを、あるいはターゲティング薬剤に加えて粒子のマトリックスまたはコアに埋め込まれた活性薬剤を含むことができる。ターゲティング薬剤が活性成分としても役立つことのできる例が、後に具体的にさらに例示されるトラスツズマブである。
【0125】
本発明の免疫ナノ粒子は、それらが特定の受容体または抗原に選択的に結合し、活性薬剤を所望の部位で放出するする能力を有するので、有利である。ターゲティング薬剤の特定の受容体または抗原への結合は、内在性受容体の介在するトランスサイトーシスおよびエンドサイトーシス系を使用して、生物学的障壁を横切るナノ粒子の移動をトリガーする。このことが、ターゲティング薬剤の不在の場合に免疫粒子製剤の治療効力を向上し、かつ活性薬剤に付随する有害副作用を低減する。
【0126】
ナノ粒子は、IV投与に続いて細網内皮系(RES)による急速なクリアランスを受ける。RESによるナノ粒子の取込みを阻止するために、ナノ粒子を、それらの表面で親水性ポリマーによって修飾することができる。粒子を形成するポリマーへの親水性ポリマーの結び付きは、共有結合性または非共有結合性の結び付きでよいが、好ましくは、粒子表面にアンカリングされたリンカーへの共有結合の形成による。リンカーは、ターゲティング薬剤が結合されるリンカーと同一または異なってよい。親水性ポリマー鎖の最外側の表面被覆は、in vivoで長い血液循環寿命を有する粒子を提供するのに効果的である。
【0127】
一実施形態によれば、親水性ポリマーは、脂質に結合され、かくして、脂質ポリマーを形成し、その脂質部分は粒子表面に繋ぎとめられる。
【0128】
本発明の文脈で、特に、肺癌の治療または診断で使用する場合、
・ナノ粒子が、ペグ化されたポリ(ラクチド酸)をベースにし;
・リンカーが、モノクロナール抗EP−CAM抗体、特に抗ヒトまたは抗マウスEP−CAM抗体が連結されているオクタデシル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサン−カルボキシルであり、かつ/または
・薬物が、パルミチン酸パクリタキセルである、送達システムが好ましく、前記特徴のすべてを組み合わせることが、肺癌の治療にとって特に好ましい。
【0129】
本発明の送達システムは、治療または診断に、すなわち、活性成分の標的部位(細胞または組織)への標的化送達に利用することができる。したがって、本発明は、また、本発明の送達システムを含む医薬組成物を提供する。一実施形態によれば、医薬組成物は、疾患または障害の治療または予防のために存在し、送達システムは、生理学および薬学上許容可能な担体と組み合わせられる。
【0130】
用語「治療または予防」は、本明細書中で使用する場合、疾患に付随する望ましくない症状を改善するのに有効な、このような症状の発現をそれらが発生する前に予防するのに有効な、疾患の進行を減速するのに有効な、症状の悪化を減速するのに有効な、疾患の緩解期間の開始を早めるのに有効な、疾患の進行性慢性段階に起因する不可逆的傷害を減速するのに有効な、前記進行段階の開始を遅延させるのに有効な、重症度を低くするか疾患を治癒するのに有効な、生存率またはより急速な回復を向上させるのに有効な、あるいは疾患が起こるのを予防するのに有効な、あるいは前記の2つ以上の組合せに有効な、送達システム内のある量の活性薬剤を投与することを意味する。
【0131】
この実施形態による「有効量」は、疾患または障害を治療するのに十分な所定の治療計画において、送達粒子中に埋め込まれる活性薬剤の量である。例えば、癌を治療する場合、活性薬剤、例えば、細胞傷害薬の量は、例えば、原発性腫瘍の増殖停止、転移性腫瘍の発生率の低下、または個体に現れる転移性腫瘍数の減少、または癌関連死亡率の低下をもたらす、薬物装填型送達粒子の量である。別法として、薬物装填型送達システムを癌予防のために投与する場合、有効量は、被治療個体における原発性腫瘍の発生を抑制または低減するのに十分な前記粒子の量である。ここでの目的のための薬学上の「有効量」は、したがって、当技術分野で周知であるような考察によって決定される。その量は、限定はされないが、生存率の改善またはより急速な回復、あるいは当業者によって適切な尺度として選択されるような症状およびその他の指標の改善または排除を含む、改善を達成するのに有効でなければならない。例えば、その量は、治療予定患者のタイプ、年齢、性別、身長および体重、治療すべき状態、状態の進行または緩解、投与経路、および送達される活性薬剤の種類に依存する可能性がある。
【0132】
有効量は、典型的には、適切に計画された臨床試験(用量範囲研究)の中で決定され、当技術分野に精通した者は、有効量を決定するためにこのような試験を適切に実施する方法を熟知しているであろう。一般に周知であるように、有効量は、投与方式、ナノ粒子を形成するポリマーおよびその他の成分の種類、活性薬剤の反応性、ターゲティング薬剤の種類およびその対応する結合メンバーへの親和性、体内での送達システムの分布プロフィール、ナノ粒子から放出された後の体内での活性薬剤の半減期などの各種薬理学的パラメーターを含む多様な因子に、もしあれば望ましくない副作用に、被治療対象の年齢および性別などの因子に依存する。
【0133】
この場合、治療目的のために、本発明の薬物装填型送達粒子を、神経系への傷害を防ぐために、1日1回の投与(例えば、累積有効量をもたらすために)で、1日数回の投与で、数日に1回の投与として、等々で長期にわたって投与することができる。
【0134】
特定の好ましい実施形態において、本発明による送達システムは、肺送達用の、特にin vivoでの経肺投与用の吸入薬として使用される。
【0135】
本発明による用語「吸入薬」は、詳細には、肺中に吸い込まれ、肺を通して吸収される、本発明による送達システムのエアロゾル、分散液、またはコロイドのすべての形態を指す。
【0136】
本発明による用語「エアロゾル」は、詳細には、気体中の本発明による送達システムの懸濁物、または気体中の本発明による送達システムを含む液滴の懸濁物を指す。この文脈内で、本発明による用語「エアロゾル」は、また、エアロゾルスプレーを指すこともできる。本発明の文脈内で、用語「エアロゾルスプレー」は、詳細には、本発明による送達システムを含む液体粒子のエアロゾルミストを作り出す任意のタイプの投薬装置に関し、ここで、この装置は、加圧下の液体を含む缶または瓶(容器)と共に使用される。したがって、本発明による用語「エアロゾル」は、また、エアロゾルスプレー用の缶(または瓶)、および本発明による送達システムを収容しているこのような缶(または瓶)からの流出物に関する。
【0137】
詳細には、送達システムのエアロゾルとしての使用は、予想外にも、特に効率的な局所的肺送達を示した。したがって、局所的肺送達用エアロゾルとしての送達システムは、本発明により特に好ましい。
【0138】
本発明の好ましい実施形態において、送達システムは、ヒトまたは動物の身体を治療薬によって治療するための方法において、あるいはヒトまたは動物の身体に対して実行される診断方法において使用される。
【0139】
したがって、送達システムは、局所的肺送達用の好ましくは吸入薬として、より好ましくはエアロゾルとして構成された、治療薬または診断薬として提供される。
【0140】
本発明の文脈内の治療は、好ましくは、特に、本発明による送達システムを含有するエアロゾルの肺投与による、より好ましくは吸入によるエアロゾル治療である。したがって、本発明による経肺投与は、好ましくはエアロゾル投与である。
【0141】
それぞれ、本発明の文脈内の診断は、好ましくは、本発明による送達システムを含有するエアロゾルの経肺投与、より好ましくは吸入に基づく。
【0142】
特に好ましい実施形態において、本発明による送達システムは、癌および/または異形成症の、好ましくは肺癌および/または気管支異形成症、特に非小細胞肺癌の治療または診断で使用される。
【0143】
したがって、送達システムは、癌および/または異形成症の、好ましくは肺癌および/または気管支異形成症の、特に非小細胞肺癌の局所的肺送達による治療または診断のための吸入薬として、より好ましくはエアロゾルとして好ましくは構成されている治療薬または診断薬として提供される。
【0144】
別の好ましい実施形態において、本発明による送達システムは、癌および/または異形成症の、好ましくは肺癌および/または気管支異形成症の、特に非小細胞肺癌の治療または診断における、造影法において、好ましくは腫瘍−PETでグルコース代謝を検査することなどによるPETにおいて(ここで、FDG−PETが特に好ましい)、またはCTにおいて使用される。
【0145】
したがって、送達システムは、より好ましくは、癌および/または異形成症の、好ましくは肺癌および/または気管支異形成症の、特に非小細胞肺癌の局所的肺送達による診断のための、吸入薬として、より好ましくはエアロゾルとして構成されている造影法のための(特にPET、シンチグラフィーまたはCTのための)診断薬として提供される。
【0146】
さらに好ましい実施形態において、好ましくは本明細書に記載のような薬物を含有する本発明による送達システムは、特に、癌および/または異形成症の、好ましくは肺癌および/または気管支異形成症の、特に非小細胞肺癌の治療のための薬剤を製造するのに使用され、ここで、該薬剤は、好ましくは吸入薬として、特にエアロゾルとして構成される。
【0147】
別の好ましい実施形態において、好ましくは本明細書に記載のような放射線薬剤および/または本明細書に記載のようなコントラスト剤を含有する本発明による送達システムは、特に、癌および/または異形成症の、好ましくは肺癌および/または気管支異形成症の、特に非小細胞肺癌の診断のための診断薬を製造するのに使用され、ここで、該診断薬は、好ましくは、吸入薬として、特にエアロゾルとして構成される。
【0148】
前に指摘したように、本発明によるナノ粒子は、1種または2種以上の薬学上許容可能な担体と合わせて投与することができる。担体の特性および選択は、部分的には、個々の活性薬剤、個々のナノ粒子によって、および組成物を投与するのに使用される個々の方法によって決定される。好ましくは、本発明の送達システムの投与経路は、吸入である。
【0149】
ナノ粒子は、固体状態で吸入することができ、あるいは医薬用担体中の生理学上許容可能な希釈剤、例えば無菌の液体または液体混合物、例えば、薬学上許容可能な界面活性剤およびその他の医薬用補助薬を添加されたまたは添加されていない水、生理食塩水、デキストロースおよび関連糖の水性溶液、グリセロール中に分散させることができる。
【0150】
当業者は、活性薬剤の至適濃度、長期にわたって効果的な投与量の活性薬剤を送達するための投与量および投与経路を容易に決定することができる。さらに、当業者は、とりわけ、封じ込められたまたはカプセル化された活性薬剤の放出についての調節レベルに応じて本発明のナノ粒子を使用する治療計画および至適投与量を決定することができる。
【0151】
上記を考慮して、本発明は、また、必要とする対象に有効量の本発明の薬物装填型送達システムを投与することを含む、肺に関連する疾患または障害の治療方法を提供する。
【0152】
本発明の送達システムで治療できる状態の種類は、当技術分野に精通した者によって認識されるように、非常に多い。状態の非限定的リストには、癌;感染症などの炎症状態に関連する状態(炎症または自己免疫状態);アレルギー状態(例えば、気管支喘息、薬物過敏症);呼吸器疾患(症候性サルコイドーシス、レフレル症候群、吸引性肺炎、結核)が含まれる。
【0153】
本発明の別の態様は、本発明による送達システムの製造方法であって、
・溶媒置換法によって、MW100,000DaのmPEG−PLAポリマーを好ましくは使用して、ポリマーをベースとするナノ粒子を調製すること、
・ナノ粒子を形成するに先立って、ポリマーにリンカー、好ましくはOMCCAを添加すること、
・ナノ粒子の形成に続いて、活性薬剤、好ましくはモノクロナール抗ヒトEpCAM抗体または抗マウスEpCAM抗体をリンカーにカップリングすること、
・ポリマーおよび/またはナノ粒子を薬物と接触させること、ならびに
・好ましくは、詳細には本発明の送達システムを含有する液体を容器(缶または瓶)に充填すること、および前記液体を加圧すること、詳細には、容器のバルブを開け、液体を小さな孔から押し出し、本発明による送達システムを含有するエアロゾルまたはミストを発生させることを含む、送達システムを含有するエアロゾルまたはエアロゾルスプレーを製造すること
を含む方法に関する。
【0154】
一実施形態によれば、本発明は、抗癌薬(例えば、イリノテカン、ドセタキセルおよびパルミチン酸パクリタキセル)を装填した送達システムを、適切なMAbを使用して肺内の標的細胞にターゲティングすることによって、癌を治療する方法を提供する。
【0155】
本発明は、さらに、肺内の標的細胞または標的組織を対象の体内で造影する方法であって、
(a)前記対象に、コントラスト剤を携行する本発明の送達システムであり、免疫ナノ粒子が前記送達システムを前記の標的細胞または標的組織にターゲティングするのに有効な1種または複数のターゲティング薬剤と結び付けられている送達システムを提供すること;
(b)前記体内の前記コントラスト剤を造影すること
を含む方法に関する。
【0156】
前に指摘したように、本発明の送達システムは、コントラスト剤(造影剤)と治療薬との組合せを含むことができる。したがって、本発明のターゲティングシステムを使用することによって、薬物の送達を画像化することもできる二重の効果を達成できる。
【0157】
コントラスト剤を装填した本発明の送達デバイスは、医学診断法で典型的に採用される種々の造影技術の中で採用される。このような技術には、限定はされないが、X線(CAT走査式コンピューター断層写真撮影法(CT))、超音波、γ−シンチグラフィー、またはMRI造影が含まれる。
【0158】
コントラスト剤は、造影の技術分野で周知の任意の薬剤でよい。例には、限定はされないが、クマリン−6、FITC、ローダミン、ガドリニウム誘導体などの蛍光ポリマー結合体が含まれる。
【0159】
認識されるように、本発明を、医薬組成物および診断用組成物に関してこの詳細な説明の中で説明するが、他の応用分野のためのおよび他の形態での送達システムの使用も本発明の範囲に包含されることを理解されたい。
【0160】
明細書および特許請求の範囲中で使用する場合、名詞(the forms “a”,“an”and“the”)は、文脈が、そうでないことを明白に指示しない限り、単数および複数の事柄を包含する。例えば、用語「抗体」は、1種または複数の種々の抗体を包含し、用語「コントラスト剤」は、1種または複数のコントラスト剤を包含する。
【0161】
さらに、本明細書中で使用する場合、用語「含む」は、送達システムが、列挙した要素を含むことを意味するが、他の要素を除外することを意味しないと解釈される。用語「本質的に〜からなる」は、治療または造影方法に関して本質的重要性を有する可能性のある列挙された要素を含むが、他の要素を含まない送達システムを定義するのに使用される。「〜からなる」は、したがって、微量な要素を超える他の要素を除外することを意味するものとする。これらの推移用語のそれぞれによって定義される実施形態は、本発明の範囲に包含される。
【0162】
さらに、すべての数値は、例えば、デバイスの層を構成する要素の量または範囲に言及する場合、指定値から±20%まで、時には10%まで変化する概数値である。たとえ必ずしも明確に指定されていなくても、すべての数値指定には、用語「約」が前に付いていることを理解されたい。
【実施例】
【0163】
(具体例の説明)
(例1):クロスリンカー(OMCCA)の合成
オクタデシル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸アミド(OMCCA)を合成するために、100mgの4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸スルホスクシンイミジル(SMCC Pierce、イリノイ州、米国)および80mgのステアリルアミン(SA、Sigma Chemical、ミズーリ州、米国)を8mLのクロロホルムおよび41μLのトリエチルアミン(Reidel−de−Haen、Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Steinheim、ドイツ)中に溶解し、反応物を50℃で4時間インキュベートした。溶液を1%HClで3回洗浄し、クロロホルムを減圧下で蒸発させた。生成物を一夜乾燥し、重量を測定した。収率は約90%であり、リンカーの形成が、H−NMR(Mercury VX300、Varian Inc.、カリフォルニア州、米国)、IR(Vector22、Bruker Optics Inc.、マサチューセッツ州、米国)およびLC−MS(Finnigan LCQDuo、ThermoQuest、ニューヨーク州、米国)によって確認された。
【0164】
H−NMR、IRおよびLC−MS分析
H−NMR(CDCl中のOMCCA):ピーク:0.008、0.849、.0893、1.009、1.245、1.450、1.557、2.157、2.160、2.167、2.173、2.178、2.181、3.349、3.372、6.692、7.257ppm
IR:ピーク:626.89、695.63、722.35、834.46、899.52、910.59、934.79、1045.94、1120.05、1163.30、1214.60、1260.82、1362.15、1408.40、1431.38、1468.04、1541.02、1629.86、1701.35、2850.80、2923.84、3087.43、3318.81、3453.91cm−1
LC−MS:ピーク:490.17、491.26
【0165】
NMRおよびIRスペクトルの分析は、リンカーOMCCAの形成を確証しており、一方、LC−MSスペクトルは、生成物の分子量が490g/モルであることを確証している。
【0166】
(例2):ポリマーの合成
(A)PEG−PLAの合成および特徴付け
PEG−PLA(5:20)は、Bazile.D.らによって発表されているような周知の方法により合成した[Bazile Dら、J.Pharma Sci.84:493〜498(1995)(非特許文献38)]。簡潔には、2gのメトキシポリエチレングリコール(MW5000)(Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Steinheim、ドイツ)を無水条件下で12gのD,L−ラクチド(Purasorb,Purac,Gorinchem、オランダ)と135℃で2時間混合した。
【0167】
ポリマーを、H−NMR(Mercury VX300、Varian,Inc.、カリフォルニア州、米国)で、および示差走査熱量測定法(STARe、Mettler Toledo、オハイオ州、米国)で分析した。
【0168】
ポリエチレングリコール(MW5000)とポリラクチド(MW20000)とのジブロックポリマー(PEG−PLA5:20)を上記のように合成した。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、20000のMW、および1.47の多分散性指数[PD.I]を示した。ポリマーを、H−NMRおよび示差走査熱量測定法(DSC)で分析した。
【0169】
H−NMRおよびDSC分析
H−NMR(PEG−PLA(5:20)の):ピーク:−0.010、−0.008、−0.001、1.206、1.543、1.560、1.567、1.581、1.591、3.641、5.136、5.145、5.159、5.169、5.182、5.192、5.207、5.215、5.231、7.256
DSC(PEG−PLA(5:20、3.98mg):
ピーク1:積算値−118.88mJ、開始 28.70℃、ピーク 43.24℃、加熱速度10℃/分
ピーク2:積算値−1234.12mJ、開始 237.54℃、ピーク 273.98℃、加熱速度10℃/分
【0170】
NMRおよびDSCスペクトルの分析は、ジブロックポリマーの形成を明瞭に示している。PEGは、PLAに共有結合で結び付けられていると推定することができる。
【0171】
(B)ポリラクチドおよびポリ(エチレングリコール−co−ラクチド)の合成
ポリマー:ポリラクチド(PLA)およびポリ(エチレングリコール−co−ラクチド)(mPEG−PLA)は、触媒としての1−エチルヘキサン酸第一錫(4)の存在下での開環重合法を使用して合成した。PLAの合成の場合、D,L−ラクチド(30g)および共触媒としてのベンジルアルコール(32mg)を250mLの無水トルエンに溶解し、一方、mPEG−PLAの合成の場合は、1.5gのメトキシポリエチレングリコール(mPEG、MW5000)を共触媒として使用し、既に30gのD,L−ラクチドを含む250mLの無水トルエンに添加した。水を共沸除去するために、還流混合物をディーンスターク装置上で4時間にわたって撹拌した。残留水分の除去に続いて、1−エチルヘキサン酸第一錫(245mg)を添加した。次いで、混合物を4時間で135℃まで加熱した。粗ポリマーを、塩化メチレンに溶解し、4Lの冷プロピルエーテル/石油エーテル混合物(3:2)中で2回沈殿させた。特徴付けに先立って、ポリマーを真空乾燥した。コポリマーの合成を、次のスキーム2に示す:
【0172】
【化3】

【0173】
ポリラクチドおよびポリ(エチレングリコール−co−ラクチド)の特徴付け
コポリマーを、2410型屈折率検出器(Waters、Milford、マサチューセッツ州)および20μLのループを備えたRheodyne(Cotati、カリフォルニア州)注入バルブを具備したWaters1515型アイソクラティック高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプからなるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置で特徴付けた。サンプルは、リニアーStyrogel HRカラム(Waters、マサチューセッツ州)に1mL/分の流速でクロロホルムを通して溶離した。分子量は、BREEZE3.20バージョン(著作権2000、Waters社のコンピュータープログラム)を使用し、54〜277.7KDaの分子量範囲をもつポリスチレン標準(Polyscience、Warrington、ペンシルヴェニア州)と比較して決定した。熱分析は、ZnおよびIn標準で較正されたMettler TA4000−DSC示差走査熱量測定装置(Mettler Toledo、Schwerzzenbach、スイス)で、窒素雰囲気下に20℃/分の加熱速度で測定した。H−NMRスペクトル(CDCl中)は、内部標準としてTMSを使用し、Varian 300MHz分光計で記録した(Varian Inc.、Palo Alto、カリフォルニア州、米国)。
【0174】
20000〜146000の範囲の分子量を有するポリマーが得られた。PLAおよびmPEG−PLAポリマーの基本的化学構造は、それらの組成に相応するH−NMRスペクトルによって確認された。1.55ppmの重なり合ったダブレットは、D−およびL−乳酸の繰返し単位のメチル基に帰属される。5.2ppmのマルチプレットは、乳酸のCH基に対応する。mPEG−PLAのスペクトルを解析すると、mPEGのメチレン基に相応する3.65ppmのピークが検出された。
【0175】
サーモグラフから得られたデータ(表1参照)によれば、PEG:PLA20000のみが、43.2℃に融点熱事象(melting point thermal event)の出現を伴う結晶性領域を示した。観察される結晶性領域は、ガラス転移温度Tのみを示すPLA40000、mPEG−PLA100000およびPLA100000のサーモグラフ中に融点事象を欠くことによって示唆されるように(表1参照)、おそらく、mPEG−PLA20000コポリマー鎖中に結晶性PEG5000が顕著に存在していることと関係しているのであろう。実際、Tは、表1に示すように、PLA鎖が40000から100000へ増加するに伴って上昇する。高度に配列されたmPEG鎖が結晶性を誘発し、一方、PLA鎖は、より低度に配列され、非晶質状態を示すことが広く知られている。mPEG−PLA中のPEGを犠牲にしたPLA鎖のこの増加は、コポリマーの非晶性を増大させ、結果としてTが上昇する。
【0176】

【0177】
(例3)
(A)ナノ粒子(NP)の調製および特徴付け
NPの調製
PLAナノ粒子は、Fessi Hらによって発表されているようなナノ粒子−ポリマー界面堆積法によって調製した[Fessi Hら、Int.J.Pharm.55:R1〜R4(1989)(非特許文献36)]。簡潔には、88mgのPLAポリマー(Boehringer Ingelheimから購入した30KDaのポリラクチド)および38mgのPEG−PLA(5:20)コポリマー(MW5000のポリエチレングリコールとMW20,000のポリラクチド)を、水混和性有機溶媒である20mLのアセトンに溶解した。この有機相に、10mgの薬物ドセタキセルを添加した。抗体をカップリングさせる場合には、有機相に20mgのリンカーOMCCAを添加した。次いで、生じた有機相を、界面活性剤として100mgのSolutol(登録商標)HS15(ヒドロキシステアリン酸マクロゴール15)(BASF、Ludwigshafen、ドイツ)を含む50mLの水相に添加した。分散液を、900rpmで1時間にわたって混合し、減圧下で20mLまで蒸発させた、NPを、カットオフが300KDaのVivaspinを使用して、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で5〜6回洗浄した。ナノメートル(100〜500nm)の球状ポリマー性粒子が、これらの条件下で自発的に形成された。
【0178】

【0179】
薬物組込み効果
薬物カプセル化(組込み)の効果を、Kontron instruments(Watford、英国)325ポンプ、227nmに調製されたKontron instruments332検出器、およびKontron instruments360オートサンプラーからなるHPLC装置を使用して測定した。分離は、LichroCART(Merck Darmstadt、ドイツ)C18カラム(5μm、250×4mm)を用いて達成された。移動相は、流速が1mL/分の50%アセトニトリル/水とした。ドセタキセルの保持時間は10分であった。
【0180】
ナノ粒子の特徴付け
(1)粒径分析
平均直径および粒径分布の測定は、ALV Noninvasive Back Scattering High Pergormance Particle Sizer(ALV−NIBS HPPS、Langen、ドイツ)を利用し、希釈剤として水(屈折率:1.332、粘度:0.894543)を使用し、25℃で実施した。632nmのレーザービームを使用した、感度範囲は、0.5nm〜5μmであった。
(2)ゼータ電位の測定
NP/免疫NPのゼータ電位は、Malvern zetasizer、(Malvern、英国)を使用し、2回蒸留水で希釈して測定した。
(3)TEMを使用する組織形態学的評価
免疫NPに関する組織形態学的評価は、金で標識化したヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories、ペンシルヴェニア州、米国)を使用する透過電子顕微鏡法(TEM)によって実施した。
【0181】
ブランクのトラスツズマブ免疫NP(活性成分を含まない)を、金で標識した抗ヒトIgGと共にインキュベートし、2%リンタングステン酸(PTA)(pH6.4)で陰性染色した。
【0182】
結果
薬物組込み効率
ナノ粒子および免疫ナノ粒子中への細胞傷害薬ドセタキセル(DCTX)のカプセル化効率を、HPLCで測定し、精製前でそれぞれ100%および49%であることが見出された。DCTX装填型NP(PLA:PEG−PLA:DCTXの当初重量比=88:38:10)の理論的である7.4%w/wの薬物含有量は、DCTX免疫ナノ粒子(PLA:PEG−PLA:DCTX:OMCCAの当初重量比=88:38:10:20)の3.3%w/wである薬物含有量よりも有意に大きいことは注目に値する。DCTX含有量のこの顕著な差異は、ポリマーマトリックス中のリンカーの存在に帰すことができる。ナノ粒子の形成中に、リンカーは、おそらく、DCTXと競合し、その組込み度を7.4%から3.3%へ低下させるのであろう。
【0183】
粒径分析
各種NPの平均粒径および粒径分布を、ALV法を使用して測定した。ブランクNP(活性成分不含)の平均直径は60nmであり、一方、ブランク免疫NP(活性成分不含)およびDCTX装填型免疫NPの直径は、それぞれ150および180nmであることが観察された。NPの直径の顕著な増加は、リンカーの存在に関連しているはずであり、リンカーは、おそらくは、アセトンの水相へ向かう拡散を減少させ、より大きなNPの形成を可能にするのであろう。
【0184】
ゼータ電位の測定
ブランクNPのゼータ電位は、−18mVであり、抗体結合型NPでは−7mVに縮小した(図2)。ゼータ電位の縮小は、その等電点が9であるので、pH7.4でのトラスツズマブの陽電荷に帰せられるはずである。
【0185】
TEMを使用する組織形態学的評価
図3A〜3Bに図示する結果から、それぞれの金黒スポットは、ナノ粒子表面に結び付けられた1つのトラスツズマブ分子を表すと言ってよい。MAbは、リンカーによってナノ粒子の表面に効率的に複合しており、反応の際の諸条件は、Mabの二次抗体への初期親和性に影響を及ぼさなかったと推論できる。
【0186】
(B)ターゲティング部分との複合
チオール基生成のための抗体修飾
MAb上でのチオール基の増強は、2−イミノチオラン試薬[Traut試薬、Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Steinheim、ドイツ、Traut RRら、Biochemistry 12(17):3266〜73(1973)(非特許文献39);Jue Rら、Biochemistry 17(25):5399〜406(1978)(非特許文献40)]を使用して実施した。Traut試薬を、精製トラスツズマブとそれぞれ30:1のモル比で45分間インキュベートした。Trautで修飾されたMabを、HiTrap脱塩カラム(Amersham Bioscience、Uppsala、スウェーデン)で分離した。修飾されたMAbを含む画分は、280nmのUVで判定した。遊離チオール基は、5,5’−ジチオ−ビス(2−ニトロ安息香酸)(Ellman試薬、Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Steinheim、ドイツ)を用い、412nmでの吸光度変化を監視することによって判定した。MAbは、一旦、Traut試薬と反応すると、OMCCAのようにスルフヒドリルと反応性のあるマレイミド基を所持する架橋試薬との結合プロトコールの中で使用できる反応性スルフヒドリルを手に入れる。次のスキーム(3)は、還元された抗体とリンカー中のマレイミド基との間の考え得る結合反応を図示する。
【0187】
【化4】

【0188】
カップリング反応
ブランクナノ粒子では総量が146mgに等しい、あるいはDCTXナノ粒子では総量が156mgに等しい、88mgのPLAポリマー(ポリラクチド、30KDa)、38mgのPEG−PLA(5:20)コポリマー、0または10mgの薬物ドセタキセル、20mgのクロスリンカーOMCCAからなる新たに調製したナノ粒子(PLA:PEG−PLA:DCTX:OMCCA=88:38:0/10:20)を、0.1N NaOHでpH6.5に調整し、Trautで修飾されたトラスツズマブ(最終濃度1mg/mL)と共に、窒素雰囲気下で連続的に撹拌しながら4℃で一夜インキュベートした。未反応マレイミド基は、2−メルカプトエタノール(Pierce、イリノイ州、米国)と共に30分間インキュベートすることによって封鎖した。結合されていない抗体および2−メルカプトエタノールを、Sepharose CL−4Bカラム(Amersham Bioscience、Uppsala、スウェーデン)でのゲル濾過によって免疫ナノ粒子から分離した。カップリング効率は、発表されているようなBCAタンパク質アッセイ(ビシンコニン酸タンパク質アッセイ)(Pierce、イリノイ州、米国)によって評価した[Smith P.K.ら、Anal.Biochem.150:76〜85(1985)(非特許文献41)]。
【0189】
結合された異なる量の抗体を有する免疫粒子を調製するために、マレイミドで活性化された粒子に対するTrautで修飾されたトラスツズマブの当初比率を変化させた。実際に調べた比は、26mgのMAbに対して、146mgのブランクNPまたは156mgのDCTX NPとした。
【0190】
最終免疫ナノ粒子の組織形態学的評価は、透過電子顕微鏡法(TEM)で、金標識化ヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories、ペンシルヴェニア州、米国)を使用して実施した。
【0191】
薬物含有量の測定
ナノ粒子中の最終的な薬物含有量は、次のように評価した:最終容積が20mLのコロイド状分散液を、まず、カットオフが30000ダルトンのVivaspin(Sartorius、Goettingen、ドイツ)を使用して限外濾過し、2〜3mLの澄明な限外濾液を得る。限外濾液中のDCTX濃度をHPLCで測定する。コロイド状分散液の残りの全量を、次いで、凍結乾燥し、重量を測定し、HPLCを使用する全DCTX含有量の分析に供し、ナノ粒子中の薬物含有量を最終的に計算する。当初の薬物比率を様々に増大させて試験し、最適処方を突き止める。さらに、コロイド状分散液中での考え得る小さな薬物結晶の存在も、監視する。
【0192】
ブランクナノ粒子へのトラスツズマブの吸収
この測定の目的は、トラスツズマブ分子が、ブランクナノ粒子、すなわち、粒子表面にアンカリングされるリンカーをもたないナノ粒子上に物理的に吸収されるかどうかを評価することである。この目的のため、100μL(1mg)のトラスツズマブ溶液(7.5mg/mL)を、全量で125mgのナノ粒子を含む1mLの正または負に帯電したブランクナノ粒子水性分散液と、室温で1時間以上混合した。次いで、混合物(750μL)を、30mLのPBSで5回洗浄し、希釈された分散液を、遠心力(4000rpm、30分)を利用して、カットオフが300kDaのVivaspinを通して濾過し、吸収されていないMAb分子を除去した。
【0193】
タンパク質濃度は、ナノ粒子の上清液中のMAb分子の存在を検出するためのPCAタンパク質アッセイを利用して測定した。
【0194】
結果
SH基の測定
修飾されたMAb上のスルフヒドリル基の数を、Ellman試薬を使用し、標準としてのシステアミンと対比して測定した。そのままのトラスツズマブおよびTrautで修飾されたトラスツズマブを、0.1M EDTAを含むPBS緩衝液(pH8)で希釈し、Ellman試薬と共にインキュベートした。そのままのトラスツズマブでの1.4個に比較して、Trautで修飾されたトラスツズマブのSH基は、MAb当たりで31.5個であると判定された。
【0195】
カップリング効率の測定
NPに複合したMAbの量は、BCAタンパク質アッセイを使用して測定した。NPを、0.1N NaOHを用いて50℃で分解し、アッセイ試薬と共にインキュベートした。免疫NP(薬物DCTX不含)およびDCTX装填型免疫NPのカップリング効率は、それぞれ71%および77%であった。
【0196】
ブランクナノ粒子へのトラスツズマブの吸収
トラスツズマブ量の分離前後の比率は、陽性および陰性製剤に関してそれぞれ4.2%および2.7%であった。
【0197】
免疫ナノ粒子を調製する際の後に続くすべての洗浄および精製工程は、同様の希釈度のPBSを使用して実施するので、これらの結果は、後に続くPBSでの洗浄の後でも、ナノ粒子上へのMAb分子の吸収が存在せず、それゆえ、リンカーを含有しているナノ粒子へのMAbのカップリングは、ほとんどが、おそらく、共有結合性の結合によって仲介されていることを確実にする。
【0198】
Vivaspin膜上へのMAbの吸着が存在しないことは、MAb水溶液を同一実験条件に供した場合、上清液および限外濾液中のMAb濃度が同様であることが見出された以前の実験で検証された。
【0199】
(例4)
(A)in vivo研究用NPの調製
1.ナノ粒子の調製
ナノ粒子は、ポリマー界面堆積法を使用して調製した。有機相には、300mgのmPEG−PLAポリマー(MW100,000ダルトン)(Sigma、St.Louis、ミズーリ州)、100mgのTween80(Sigma、St.Louis、ミズーリ州)、および50mLのアセトン(J.T.Baker、Deventer、オランダ)に溶解した20mgのステアリルアミン(Sigma、St.Louis、ミズーリ州)を含めた。該有機相を、100mgのSolutol(登録商標)HS15(BASF、Ludwigshafen、ドイツ)を含む水溶液100mLに添加した。懸濁液を、900rpmで1時間撹拌し、続いて、蒸発させて10mLまで濃縮した。すべての製剤に関して、0.1%Tween 80溶液100mLでダイアフィルトレーションを行い(Vivaspin300,000MWCO、Vivascience、Stonehouse、英国)、1.2μmのフィルター(FP30/1.2CA、Schleicher & Schuell社、Dassel、ドイツ)を通して濾過した。典型的なカチオン性NP製剤は、w/w%で、mPEG PLA(MW100,000)、1%のSolutol(登録商標)HS15、0.2%のステアリルアミン、1%のTween80、および100%までの2回蒸留水からなる。アニオン性NP製剤の組成は、カチオン性脂質を除外した(すなわちステアリルアミンを欠く)カチオン性NP製剤のそれと同様とした。
【0200】
2.免疫ナノ粒子の調製
免疫NPを調製するには、NPを形成するに先立って有機相内のポリマーにクロスリンカーOMCCA(20mg)を添加した。ラット抗マウスEpCAM抗体(IgG2AK、バッチG8.8 11/2004)を、まず、トリスアジド緩衝液に10mg/mLの濃度で溶解した。脱塩およびホウ酸緩衝液(pH=8〜8.5)への溶解は、Nanosep遠心分離デバイス30K(Ann Arbor、ミシガン州、米国)を使用して実施した。次いで、抗体を、Traut試薬としても知られる2−イミノチオラン(Pierce、Rockford、イリノイ州)と、ホウ酸緩衝液(pH8)中、1:50のモル比で、4℃で1時間混合した。溶液を、Sephadex G−25 HiTrap脱塩カラム(Amersham Bioscience、Uppsala、スウェーデン)を使用するゲル濾過によって過剰のTraut試薬から精製した。抗体を0.3mLの画分で捕集した。MAbを含む画分を、280nmのUVを使用して測定し、一緒にプールし、アニオン性NPへカップリングさせるまで、窒素雰囲気下に4℃で保持した。
【0201】
新たに調製したアニオン性NPをpH8に調整し、Trautで修飾されたEpCAM抗体(最終抗体濃度=1mg/mL)と共に、穏やかに振とうしながら窒素雰囲気中、4℃で一夜インキュベートした。次いで、製剤に対して、0.1%Tween80溶液60mLでダイアフィルトレーションを行った(Vivaspin300,000MWCO、Vivascience、Stonehouse、英国)。カップリング効率は、BCAタンパク質アッセイによって評価した。調製したすべての製剤は、滅菌ガラス瓶中に、窒素雰囲気下に4℃で貯蔵した。試験されるNP製剤の等張性は、5%グルコースを使用して調整した。
【0202】
大きさおよびゼータ電位の測定によるナノ粒子の特徴付けは、前記のように実施した。
【0203】
結果
種々の製剤のゼータ電位および大きさの値を表3に示す。以前の研究により、肺用ナノ粒子の毒性に関する表面電荷依存性ならびに大きさおよび表面積の効果が明らかになっているので、評価された各種NP製剤の129nm〜148nmに及ぶ大きさの均一性は、重要である(Tetley、2007)。NPの260nm未満の大きさは、エンドサイトーシス小胞の大きさよりも小さいゆえに、肺胞マクロファージによる取込みの低下(Daileyら、2006)、および細胞内部移行のためのエンドサイトーシス機構の利用を保証する(Harush-Frenkelら、2007)。われわれの体内の様々な細胞型の中で利用されるすべてのエンドサイトーシス機構の中で、肺内小胞カベオラ(pulmonary vesicular caveolae)の機能について、最近考察された(BormおよびKreyling、2004;Ohら、2007)。肺内の小胞カベオラは、表皮および内皮細胞の内腔側から粘膜側への輸送に貢献している(Bormら、2006)。興味深いことに、Harush-Frenkelらによって、カベオラが、PEG−PLA NPの表皮MDCK細胞中でのin vitroでのエンドサイトーシスに貢献できることが示された(Harush-Frenkelら、2007)。
【0204】
免疫NPは、Benita教授のグループにおけるMAbのカチオン性エマルジョンおよびNPへの結合の際に得られた経験に基づいて、EpCAM MAbをPEG−PLA NPへ結合することによって製造した。NPに結合されたEpCAM MAbの総量は、BCAタンパク質アッセイキットを用いて評価した。EpCAM抗体の結合効率は、77%(NaOH中でのBCAに基づいて)および80%(DDW中での直接BCA法に基づいて)であった。
【0205】

【0206】
(B)マウスモデルにおける肺に送達された免疫NPの安全性評価
非侵襲性の局所的肺送達を、マウスモデルを使用する気管内点滴注入によって実施した。マウス肺内へ連続5日間毎日、気管内投与を実施し、最初の投与から8日目(3日間の回復)および19日目(14日間の回復)の時点で安全性評価を実施した。5日間の点滴注入期間中、マウスの体重を毎日測定した。健康な雌性BALB/cマウス(8〜10週齢)を必要とする処置は、実験動物の世話および使用に関するNIH指針に由来するガイドラインに基づいて、ヘブライ大学(エルサレム)の動物施設当局によって承認され、すべての実験について従った。
【0207】
投与は、前に説明したように、高圧シリンジ(FMJ−250、Penn−Century)に取り付けられたマウスに適したMicroSprayer(商標)エアロゾライザー(IA−1C;Penn−Century、Philadelphia、ペンシルヴェニア州、米国)を使用する気管内経路により実施した(Bivas-Benitaら、2005)。処置に先立って、マウスを、ケタミンおよびキシラジン(Fort Dodge、アイオワ州、米国)の腹膜内注入で麻酔した。該方法は、Bivas-Benitaらによって報告されているように、抜き取ったマウス胸腔の肉眼検査にしたがって検証された。
【0208】
投与濃度範囲は、マウスの肺内に点滴注入された(気管内で適用されたのではない)、ジエチルアミノプロピルアミンポリビニルアルコールでグラフトされたポリ(乳酸−co−グリコール酸)(DEAPA−PVAL−g−PLGA)NPの潜在的炎症促進能を調べたDaileyらの研究に基づいて選択した。
【0209】
結果
1.方法のバリデーション
気管内適用の直後に、マウス胸腔内の染料局在について評価されたすべてのマウス(すなわち、10/10)は、肺外染色のまったくない特異的な肺染色を示した。
2.マウスの生存および重量変化
5日間のNP適用およびそれに続く3または14日間の回復中に,どの動物も、NP適用に由来する結果として死亡することはなかった。体重減少または増加しない体重は、起こり得る毒性の一般的なマーカーである。5日間の点滴注入中に体重変動が観察されたが、統計的に有意でなかった。図4に示すように、種々の治療間で有意でない体重変化が、3および14日間の回復の後でも示された。
【0210】
図4:連続5日間にわたってNPを点滴注入されたマウスにおける3および14日間の回復の後でのマウスの体重変化
【0211】
(C)気管支肺胞洗浄(BAL)の細胞分析
気管支肺胞洗浄(BAL)を、前に説明したように実施した(Segelら、2005)。簡潔には、マウスを、致死量のペントバルビタール(Pental Veterinary;CTS Chemical Industries、TelAviv、イスラエル)の腹腔内注入を使用して屠殺した。BALを1000rmpで10分間遠心分離した。総BAL細胞の計数を、血球計を使用して実施した。分類細胞計数を、Diff−Quik(Baxter)で染色したサイトスピン(cytospin)スライドを使用することによって200個の細胞について実施した。各種BAL細胞型の細胞数は、総細胞数と、BAL液中の細胞/mLとして表現される分類計数値とから得られるパーセンテージとの積であり、総細胞数、分類細胞数、およびマクロファージについて分析した。
【0212】
結果
PEG−PLA NPに関する総BAL値は、実験8および19日目の双方で対照のそれと同様であった(図5A)。14日間の回復時点で、マクロファージレベルの増大が観察された。EpCAM結合型NPを適用すると、当初は総BAL細胞の増加をもたらさず、細胞値は、対照およびアニオン性PEG−PLA NPのそれと同様であった(図5A)。しかし、BAL内の好中球およびリンパ球数の増加が観察された(図5B〜D)。さらに、長い方のBAL中総細胞数は、生理食塩水対照または抗体生理食塩水対照に比較して、またアニオン性PEG−PLA NPに比較して有意に増加した(図5A)。特に、BALマクロファージ、リンパ球および好中球が増加した(図5B〜D)。この製剤の効が14日間の回復後においてのみ示されたことは明白である。それは、長期の免疫応答が、マウス肺へのラット抗体の導入に続いて起こったことを示している可能性がある。しかし、この製剤の効果は、対照である抗体生理食塩水と異なるので、免疫NP複合体のポリマー的性質が、特異的効果を有する可能性がある。
【0213】
図5:5連続日にわたってNPを点滴注入されたマウスにおける3および14日間の回復後のマウスのBAL。総BAL細胞(A)、総BALマクロファージ(B)、総BALリンパ球(C)、総BAL好中球(D)。
【0214】
(D)血液学的データ
3および14日間の回復後に、血液検体を、マウスの頬袋から顎下採血法を使用して採取した(Goldeら、2005)。この静脈に穿刺し、血液をKEDTAチューブ中に採取した(Greiner社、Kremsmunster、オーストリア)。同一日に、Sysmex K−21血液アナライザー(Sysmex社、神戸、日本)を使用して全血計数を実施した。白血球分類は手作業で実施した。
【0215】
結果
表4に示したデータは、8日間のNP適用を経て、好中球比率の増加およびリンパ球比率の減少が観察されたが、他の群と比較して有意な変化はなかったことを示している。免疫NP製剤は、すべてが基準値範囲内である、安定性、好酸球、および単球比率、ならびに血小板の増加を示した。
【0216】
19日間の実験中に、NPで血小板レベルの低下が観察された(表5)。NPは、また、好酸球の最も高い濃度を示したが、その濃度は基準範囲内であった。免疫NPは、対照と比較してWBCレベルの低下を示したが、評価した種々の製剤間で有意な変化は観察されなかった。免疫NP群の場合、種々のWBC集団は、リンパ球の減少を伴う、好中球および単球の双方の特異的増加を示したが、変動は、統計的に有意ではなかった。
【0217】

【0218】

【0219】
(E)組織病理学
両肺、心臓、肝臓および腎臓の検体をホルムアルデヒド中に保存した。病理学者に対して治療を知らせないで各バイアル瓶に番号を割り当てた。肺は、さらなる処理の前に少なくとも7日間固定した。ホルマリンで固定された検体を、標準的な組織病理学的技術を使用して、パラフィン中に包埋し、薄片に切断し、ガラス顕微鏡スライド上に載せた。切片を、ヘマトキシリン−エオシンで染色し、光学顕微鏡で検査した。
【0220】
結果
短期および長期実験の双方において、肺外臓器、すなわち、心臓、肝臓および腎臓中に病理学的変化は見出されなかった。両肺の三つ組みを別々に評価したが、両肺の間に有意な変化は観察されなかった。検査した肺検体中の病理学的変化は、わずかであり、極く小さかった。主な所見は、肺胞空間中での反応性マクロファージの発見であった。異なる群における極めて少数のマクロファージ間の差異は、あったとしても、ほとんど検出できず、正確な目標物の定量化は、実際的でなくかつ可能ではなかった。同じことは、炎症および鬱血の極めて穏やかな所見における微妙な差異を定量し画定する試みにも発生した。しかし、肺内の炎症、鬱血およびマクロファージの順位付けを実施した(図6AおよびB)。3日間の回復後に、NP、免疫NPおよびEpCAM対照を適用されたマウス肺内の肺胞の10〜20%に少数のマクロファージが実際に観察され、マクロファージのこれらのレベルは、長期の実験中、免疫NPについてのみ同じままであったことを観察できる。興味深いことに、NPは、また、短期実験において炎症および鬱血に関して比較的高い評点を示し、その評点は、さらなる14日間の回復中に正常値まで低下した。免疫NP製剤についてのみ、19日間の実験中に、対象に比較して炎症評点の増加が観察された。各群の代表的な写真も示す(図7AおよびB)。
【0221】
図6:各種の製剤を点滴注入されたマウスの両肺の、3日間(A図)および14日間(B図)の回復後のマクロファージ、鬱血および炎症の評点を示す図である。結果は、平均±SEM、n=3として表した。順位指標:マクロファージ:1−いくつかの肺胞中に少数のマクロファージ、2−肺胞の10〜20%に少数のマクロファージ、3−肺胞の10〜20%に群(2〜3)になったマクロファージ、4−肺胞の30%超に群(2〜3)になったマクロファージ。炎症:1−炎症なし、2−リンパ凝集物(おそらく、反応性BALT−気管支関連リンパ組織)の極めて少数の病巣、3−肺間質組織中に分散された慢性浸潤物の少数の病巣、4−肺間質組織中に分散された慢性浸潤物の病巣数のわずかな増加。鬱血:1−鬱血なし、2−肺胞中隔における毛細管の中度充血の病巣、2−関連中隔のわずかな浮腫および肥厚化を伴う肺胞中隔における毛細管の中度充血の病巣。
【0222】
図7:種々の製剤を点滴注入され、実験の8日目(A図)および19日目(B図)に屠殺されたマウスからの肺組織。示した写真の倍率は×400である。示した写真:a.対照生理食塩水、b.PEG−PLA NP、c.対照EpCAM生理食塩水、およびe.EpCAM NP。
【0223】
全体的な結果は、免疫ナノ粒子は、吸入により肺へ局所送達するのに使用することができ、かつ肺癌を患う動物モデルに使用すると治療活性を誘発することを明白に示した。
【0224】
本発明のさらなる適用可能範囲および好ましい特徴も、以下に示す例から明らかとなろう。しかし、詳細な説明および具体例は、本発明の好ましい実施形態を指摘するが、本発明の精神および範囲内での種々の変化および修正は、当業者にとって、この例および詳細な説明から明らかとなるので、単なる例示として呈示されることを理解されたい。
【0225】
局所的肺薬物送達に関するEpCAM免疫ナノ粒子の安全性および耐容性研究
この研究では、肺に送達される免疫ナノ粒子(INP)の安全性および耐容性を調べた。具体的には、生分解性ポリエチレングリコールポリ(乳酸)(PEG−PLA)ポリマーINPに結合されたEpCAMモノクロナール抗体を、純粋なPEG−PLA NPと比較した。気管支肺胞洗浄液(BAL)を採取し、血液学、組織化学および免疫組織化学的パラメーターを検討した。これは、BALB/cマウスに対して5日間毎日の気管内点滴注入後の、EpCAM結合型PEG−PLA INP、アニオン性PEG−PLA NP、またはカチオン性PEG−PLA NPの肺投与に続く局所性および全身性効果の双方を評価するために行われ、BALB/cマウスは、実験8日目または19日目に屠殺した。注目すべきことに、カチオン性PEG−PLA NPは、8日目および19日目の双方で局所性および全身性毒性効果の増加を誘発した。対照的に、大きさが類似のアニオン性NPは、実験8日目にのみ観察される局所性炎症効果を伴う有意に低い局所性および全身性応答を誘発した。EpCAM INP製剤は、おそらく局所性免疫応答によるであろう肺への炎症性効果を誘発した。BALの結果は、INPを適用されたマウスの肺へのPMN、リンパ球およびマクロファージの補充を明らかにしたが、局所性の組織病理学的変化は、ほんのわずかであった。しかし、免疫組織化学は、実験19日後でさえも、EpCAM INPの肺への特異的局在を示唆した。全体的に、これらの観察は、アニオン性PEG−PLA NPが、肺用薬物の担体としての潜在能力を示し、かくして、原発性および転移性肺癌を治療するための有望な治療薬送達システムと見なされるべきであることを示している。
【0226】
省略形:BAL:気管支肺胞洗浄、D8:実験8日目、D19:実験19日目、DEAPA−PVAL−g−PLGA:ジエチルアミノプロピルアミンポリ(ビニルアルコール)でグラフトされたポリ(乳酸−co−グリコール酸)、DPPC:ジパルミトイルホスファチジルコリン、EGF:上皮細胞増殖因子、EpCAM:表皮細胞接着分子、FDA:米国食品医薬品庁、INP:免疫ナノ粒子、MAb:モノクロナール抗体、NP:ナノ粒子、PMN:多形核白血球、SCID:重症複合免疫不全症。
【0227】
癌療法における最も大きな課題および機会の1つが、化学療法薬の腫瘍部位へのターゲティングである。局所性薬物送達は、高度の全身性薬物暴露およびそれに付随する薬物毒性を防止し、肝臓の初回通過効果を回避し、かつ腫瘍部位での薬物の滞留時間を延長するのが理想的である。肺癌における薬物装填型の生分解性ナノ粒子(NP)の肺送達は、肺内への薬物送達を増大させるための有望な機会を提供する。しかし、肺へ薬物を送達するためのNPの吸入は、それが安全上の懸念を提起するため、まだ、局所性薬物投与の妥当な経路とは考えられておらず、それゆえ、真剣な研究の主題である1〜4。実際、最近発表されているように、ポリマー性NPのモノクロナール抗体(MAb)への結合を介する特定癌性組織への標的化薬物送達は、過剰発現された抗原の認識によって仲介される特定細胞との結合を可能にする5〜13。したがって、MAbがナノ粒子に結合された薬物送達システム(免疫ナノ粒子)は、ターゲティングおよび肺内の特定組織への取込み増加を可能にする。例えば、オマリズマブは、喘息の治療に関してFDAによって承認された、免疫グロブリンEを標的とした療法として現在使用されているMAbである14。薬物装填型免疫ナノ粒子(INP)の吸入は、したがって、特異性の増強および標的肺細胞中への長期局在化の結果として、極めて価値のあることが判明する可能性がある。しかし、肺気道中への吸入または点滴注入に続く、NPの適用または堆積部位から体循環、特にリンパ節への移動に関する矛盾する結果が報告されていることが、強調されるべきである15。したがって、ナノ毒物学が、最近になって、大気中の汚染物質および微粒子の肺および全身への潜在的な有害効果を研究するための新たな分野の毒性学として出現していることは、驚きではない3、16、17。これらのNPに起因する肺損傷の主な機構の1つは、種々の炎症促進因子の活性化をもたらす酸化ストレスによる18。したがって、医薬用ナノ担体をベースにした製剤の安全性および毒性の問題を評価すべきである。確かに、ポリマーをベースにしたNPの種々の製剤は、肺に対して種々の効果を有する可能性がある。ナノ担体の生分解性、大きさおよび表面電荷ならびにNPを適用する技術などの問題は、ナノスケールの送達システムの増大した表面積のため、局所性の肺での生体内運命に影響を及ぼす可能性がある
【0228】
肺へ薬物を送達するために、種々の部類のポリマーが、考えられて来た。これらには、ポリ(エーテル−無水物)、ゼラチン、キトサン、およびアミンで修飾された分枝ポリエステルをベースにしたポリマーが含まれる3、19〜21。これに関して、Daileyらは、生分解性のあるジエチルアミノプロピルアミンポリ(ビニルアルコール)でグラフトされたポリ(乳酸−co−グリコール酸)(DEAPA−PVAL−g−PLGA)NPの気管内点滴注入後における潜在的な炎症促進能を研究した。生分解性DEAPA−PVAL−g−PLGA NPと種々の大きさの非生分解性ポリスチレンNPとの比較は、小さな生分解性NPが、特に多形核細胞の肺での補充において、有意に低い炎症応答を呈示することを明らかにした。著者らは、気道中でのNPの安全性を完全に探索するために、より包括的な毒物学的研究を実施すべきであることを提案した。しかし、Daileyおよびその共同研究者らは、ほとんどの動物研究におけると同様、NPを肺に適用するのに、エアロゾル吸入ではなく溶液の点滴注入を使用した。このような動物モデルでなされた病理学的観察のヒトへの妥当性は、確立されていないままである16
【0229】
最近、Tsengらは、SCIDマウスモデルの癌性肺へのエアロゾル投与によって標的に向けられた、ビオチン化されたEGFと結合されたゼラチンNPのin vivo送達を実施した。マウスの癌性肺中への特異的集積が、造影定量によって確認され、単回の肺送達に続くNPのターゲティングを証明した。それにもかかわらず、これらの製剤の安全性は調べられなかったことに留意すべきである22
【0230】
本研究の目的は、以前にBivas-Benitaらによって発表されているような23、マウスモデルにおける非侵襲性気管内点滴注入による局所的肺送達に続くINPの潜在的有害効果を表面電荷の関数として評価することである。最近の研究では、INPを、上皮細胞接着分子(EpCAM)を認識する抗体を使用して調製した。この抗原は、最近報告されているように、癌性腫瘍、特に肺の癌性腫瘍中で頻繁に過剰発現される24。本発明者らの知識の及ぶ限り、気管内で送達された抗体結合型NPの起こり得る毒性効果は、まだ評価されていない。したがって、様々に帯電した標的化PEG−PLA NPの局所的肺送達に続く、起こり得る肺および全身性効果を評価した。吸入に続くINPの安全性および耐容性に関するデータを報告する。
【0231】
方法
ナノ粒子
A.ナノ粒子の調製
ナノ粒子は、溶媒置換法を使用して調製した。有機相には、300mgのmPEG−PLAポリマー(MW100,000ダルトン)、100mgのTween80(Sigma、St.Louis、ミズーリ州)、および50mLのアセトン(J.T.Baker、Deventer、オランダ)に溶解した20mgのステアリルアミン(Sigma、St.Louis、ミズーリ州)を含めた。該有機相を、100mgのSolutol(登録商標)HS15(BASF、Ludwigshafen、ドイツ)を含む100mLの水溶液に添加した。懸濁液を、900rpmで1時間撹拌し、続いて真空蒸発で10mLまで濃縮した。製剤全体に関して0.1%のTween80を含む100mLの溶液でダイアフィルトレーションを行い(Vivaspin300,000MWCO、Vivascience、Stonehouse、英国)、1.2μmのフィルター(FP30/1.2CA、Schleicher & Schuell社、Dassel、ドイツ)を通して濾過した。典型的なカチオン性NP製剤は、%w/wで、3%のmPEG−PLA(MW100,000)、1%のSolutol(登録商標)HS15、0.2%のステアリルアミン、1%のTween80、および残り100%までの2回蒸留水からなる。アニオン性NP製剤の組成は、カチオン性脂質を除いて、カチオン性NPのそれと同一である(すなわち、ステアリルアミンを欠く)。
【0232】
B.免疫ナノ粒子の調製
INPを調製する場合には、NPを形成するに先立って、有機相内のポリマーにリンカーであるオクタデシル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸アミド(OMCCA)(20mg)を添加した。EpCAMに対するラット抗マウスCD326精製モノクロナール抗体(Becton Dickinson Biosciences、Heidelberg ドイツ)を、まず、トリスアジド緩衝液に10mg/mLの濃度で溶解した。脱塩およびホウ酸緩衝液(pH=8〜8.5)への溶解は、ナノセップ(Nanosep)遠心分離デバイス30K(Ann Arbor、ミシガン州、米国)を使用して実施した。抗体を、Traut試薬としても知られる2−イミノチオラン(Pierce、Rockford、イリノイ州)と、ホウ酸緩衝液(pH8)中、1:50のモル比で、4℃で1時間混合した。溶液を、Sephadex G−25 HiTrap脱塩カラム(Amersham Bioscience、Uppsala、スウェーデン)を使用するゲル濾過によって過剰のTraut試薬から精製した。抗体を0.3mLの画分で集めた。MAbを含む画分を、280nmのUVを使用して判定し、一緒にプールし、アニオン性NPへカップリングさせるまで、窒素雰囲気下で4℃に保持した。
【0233】
新たに調製したアニオン性NPをpH8に調整し、Trautで修飾されたEpCAM抗体と共に、穏やかに振とうしながら窒素雰囲気中、4℃で一夜インキュベートした。次いで、製剤に関して0.1%のTween80を含む溶液100mLでダイアフィルトレーションを行った(Vivaspin300,000MWCO、Vivascience、Stonehouse、英国)。カップリング効率は、BCAタンパク質アッセイによって評価した。調製したすべての製剤は、窒素雰囲気下で滅菌ガラス瓶中に4℃で貯蔵した。
【0234】
ナノ粒子の物理化学的特性
粒径分布および平均直径の測定は、ALV非侵入後方散乱型高速粒径測定機(ALV−NIBS HPPS、Langen、ドイツ)を使用して25℃で実施した。NP製剤は、前に説明したように2回蒸留水で希釈した25、26
【0235】
ゼータ電位の測定は、Malvern Zetasizer(Malvern Instruments,Ltd.、Malvern、英国)を使用して実施した。サンプルは、前に実施したように2回蒸留水で希釈した1、25、27
【0236】
動物
in vivoでの肺内投与には、雌性BALB/cマウス(8〜10週齢、Harlan、Jerusalem、イスラエル)を使用した。動物が関わる処置は、ヘブライ大学(エルサレム)の動物施設当局によって、NIHの実験動物の管理および使用に関する指針に基づいて承認された。すべての実験で、これらの指針に従った(承認番号、MD114.20〜2)。マウスは、硬質木材の削りくず上のプラスチック製ケージ中の特殊な病原菌のない環境にケージあたり3〜8匹の動物で収容した。12時間の明/暗周期を維持し、マウスは、水およびマウス用実験室食物に随意に接近した。治療を開始する前に、マウスを、これらの状態で3〜7日間順化させた。
【0237】
実験計画
マウスの肺中への5日間毎日の気管内点滴注入に続いて、5種の異なる製剤の安全性評価を実施した。2種の対照群、すなわち滅菌生理食塩水、EpCAM抗体の滅菌生理食塩水溶液、ならびに3種のNP製剤、すなわち、カチオン性PEG−PLA NP、アニオン性PEG−PLA NPおよびEpCAM結合型アニオン性PEG−PLA NPを評価した。各マウス群は、7匹の動物からなり、5連続日にわたって治療を受け、続いて、実験8日目および19日目の時点で動物を屠殺し、分析し、1種の製剤につき全部で14匹の動物となった。点滴注入されるポリマーの投与量は、5%グルコース溶液25μL中に0.15mgを含む。
【0238】
気管内点滴注入
抗体に結合されたまたは複合されていない種々のナノスケールの製剤または対照を、健康な雌性BALB/cに毎日投与した。投与は、前に説明したように23、高圧シリンジ(FMJ−250;Penn−Century、Philadelphia、ペンシルヴェニア州、米国)に取り付けられた、マウスに適したMicroSprayer(商標)エアロゾライザー(IA−1C;Penn−Century、Philadelphia、ペンシルヴェニア州、米国)を使用して気管内経路を経由して実施した。処置に先立って、マウスを、100mg/kg体重のケタミンおよび10mg/kg体重のキシラジン(Fort Dodge、lowa、米国)の腹膜内注射で麻酔した。マウスを、上側歯で45°の角度に吊り下げた。光源(Euromexマイクロスコープ、Arnhem、オランダ)の可撓性光ファイバーアームを、マウスの気管を最適に照明するように調節した。小型スパチュラを使用してマウスの下顎を開け、中咽頭を最大限に暴露するため圧迫鉗子を使用して舌の転置を助けた。気管の明瞭な視野が得られた後、MicroSprayerのチップを気管内で挿入し、25μLの溶液または懸濁液を噴霧した。チップを、直ちに引き抜き、マウスを支持体から開放した。
【0239】
方法のバリデーション
肺に対する製剤の気管内投与のバリデーションを実施した。10匹のマウスの肺へトリパンブルーを気管内で適用した直後に、マウスを屠殺した。胸郭の評価を実施して青色染色の正確な位置を示した。気管内投与直後のトリパンブルーの局在について評価したマウスのすべては、肺外染色を伴わない肺の特異的染色を示した(すなわち、10匹のマウスから10の肺)。
【0240】
血液検体および分析
実験8日目および19日目に、血液検体を、マウスの頬袋から顎下採血法を使用して採取した128。この静脈に穿刺し、血液をKEDTAチューブ(Greiner、Kremsmunster、オーストリア)中に採取した。同一日に、Sysmex K−21血液アナライザー(Sysmex社、神戸、日本)を使用して全血液の計数を実施した。白血球分類は手作業で実施した。血液学的分析は、承認を受け誓約した下請け業者(Herzliya Medical Center、Herzliya、イスラエル)によって実施された。
【0241】
気管支肺胞洗浄(BAL)、BAL細胞の計数および分類
気管支肺胞洗浄(BAL)は、Segelおよびその共同研究者によって以前に発表されている技術を使用して実施した29。簡潔には、マウスを、致死量のペントバルビタール(Pental Veterinary;CTS Chemical Industries、Tel Aviv、イスラエル)の腹腔内注入を使用して屠殺した。平滑なゲージ22のニードルを用いて気管にカニューレを挿入し、4mLの滅菌生理食塩水の注入および回収によってBALを実施した。BAL液を、1000rmpで10分間遠心分離した。総BAL細胞の計数は、血球計を使用して実施した。血球分類は、Diff−Quik(Baxter、Mc Graw Park、イリノイ州)で染色したサイトスピン(cytospin)スライドを使用することによって、200の細胞に関して実施した。
【0242】
組織病理学的検査
肺洗浄を完結した後、肺、心臓、肝臓および腎臓を摘出し、ホルムアルデヒド中に保存した。肺は、さらなる処理の前に少なくとも7日間固定した。固定した検体を、標準的な組織病理学的技術を使用して、パラフィン中に包埋し、薄片に切断し、ガラス顕微鏡スライド上に載せた。肺およびその他の臓器のスライドを検査する病理学者(Y.S)は、治療群または対照群についてブラインド(blind)された。切片を、ヘマトキシリン−エオシンで染色し、光学顕微鏡を用い三つ組みで検査した。
【0243】
免疫組織病理学的評価
肺の検体を、解剖し、4%中性緩衝ホルマリン中で固定した。厚さ5μmの組織学的切片を、脱パラフィンし、段階的アルコール系列を通して再水和し、蒸留水で4分間洗浄した。切片をプロテイナーゼK(Dako、Hamburg、ドイツ)で5分間処理し、蒸留水中で5分間洗浄するステップの後、内在性ペルオキシダーゼ活性を、ペルオキシダーゼ遮断試薬(Dako、Hamburg、ドイツ)で5分間遮断した。その後、切片を、Tris緩衝化生理食塩水(洗浄緩衝液)で5分以上洗浄し、タンパク質遮断血清不含試薬(Dako、Hamburg、ドイツ)と共に10分間インキュベートした。EpCAMに対するラットの抗マウスCD326精製モノクロナール抗体とのインキュベーションを4℃で一夜実施した。洗浄ステップに続いて、切片を、ビオチン化したリンク・ユニバーサル二次抗体(DAKO LSAB+Kit,Hamburg、ドイツ)で15分間被覆し、再び洗浄した。免疫活性の可視化には、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ−複合試薬((DAKO LSAB+Kit,Hamburg、ドイツ)を使用した。ヘマトキシリンでの対比染色の後に、切片を、光学顕微鏡下での検査のために、脱水し、カバーガラスで覆った。
【0244】
統計
治療間の差異は、分散分析(ANOVA)を使用して比較した。同一治療での実験日数(初日と比較して8日目、および初日と比較して19日目)間での体重増加の差異を、対応のある両側t検定(two−tailed paired t−test)を使用して比較した。
【0245】
結果
ナノ粒子の物理化学的な、およびin vitroでの特徴付け
種々の製剤、アニオン性NP、カチオン性NPおよびINPの平均NP直径およびゼータ電位値は、それぞれ、129.3±1.12、141.3±1.3、148.3±1.8nm、および−30.7±0.9、31.67±2.1、−27.6±0.8mVであった。EpCAM MAbの粒子への複合効率は、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce Chemical、Rockford、イリノイ州)で測定すると、77%であり、以前に報告された計算30、31に拠れば単一NPにつき176個のMAb分子が結合されたことを意味する。陽性およびアニオン性NPの定量的比色MTTアッセイ32、33を使用するin vitroでの細胞傷害性の評価を、極性HELA、極性表皮MDCKの双方、およびヒト肺腺癌A549細胞で実施した。総合的結果は、双方のNP製剤が、それらの表面電荷に関係なく、著しい細胞傷害効果を誘発することはなく、様々に帯電した製剤間で、誘発される細胞効果に統計的有意差は存在しなかった(データは示さない)。MTTアッセイを使用して、抗体結合型INPのA549細胞株に対する細胞傷害性を、非標的化アニオン性NPおよびEpCAM生理食塩水と比較して評価したが、4時間の暴露後に細胞に対して著しい効果はなかった(データは示さない)。
【0246】
マウスの生存および体重増加
カチオン性ステアリルアミン−PEG−PLA NPは、1匹の動物死を引き起こした唯一の製剤であり、その死亡は、この製剤の毒性増加のためであった可能性がある。各種製剤の5日間の点滴注入中に毎日測定した体重増加に有意な変化は観察されなかった(データは示さない)。種々のNP製剤の吸入は、実験8日目(D8)まで有意な体重変化を誘発しなかった(図8)。実験19日目(D19)に、陰性NPおよびカチオン性NPは、体重増加の縮小を明確に示した。アニオン性NP製剤の適用が、アニオン性INPと比較して19日目に体重増加の縮小をもたらすことに注目することは興味深い。さらに、対照EpCAM MAb生理食塩水溶液、およびNPに結合されたEpCAM MAbの投与は、双方とも、対照の生理食塩水群と同様の体重増加をもたらした(図8)。
【0247】
気管支肺胞洗浄液の評価
BAL内の総BAL細胞数、マクロファージ数、リンパ球数および多形核(PMN)細胞数を、それぞれ、図9A〜9Dに示す。好酸球は、0、8、19日目のすべての時点において確認されなかった。8日目に、種々の製剤間で、総BAL細胞の数値に関して著しい差異は測定されなかった(図9A)。しかし、8日目に、マクロファージ、リンパ球およびPMN細胞数に関して有意な差異が観察された(p<0.0001)(図9B〜9D)。アニオン性PEG−PLA NPの投与は、各種BAL細胞集団内において対照生理食塩水と比較していかなる有意な変化も誘発しなかった。8日目に、カチオン性NPは、他の製剤と比較して特異的に、BALマクロファージを有意に誘発した(p<0.0001)(図9B)。8日目に、対照生理食塩水に比較して、マクロファージ数の減少を伴うPMN細胞数およびリンパ球数の増加がINPで観察された。加えて、INP製剤では、対照MAb生理食塩水での治療群と比較して、PMN細胞数の著しい増加(p<0.001)が観察された。
【0248】
19日目に、総BAL細胞数は、種々の製剤間で有意に異なった(p<0.05)(図9A)。陰性NPでは、対照生理食塩水およびカチオン性NPに比較して有意に高められたマクロファージ数が測定された(p<0.05)。19日目に、INP製剤は、肺内で細胞応答の増大をもたらした。具体的には、INPの適用に続いて、19日目に、試験した他の製剤のすべてに比較して有意に高められた、マクロファージ、リンパ球およびPMN細胞のレベルが示された(p<0.01)。これらの高められた肺内マクロファージ、リンパ球およびPMN細胞数は、INP投与に続く肺内での非特異的な局所性免疫応答を示唆した(図9)。
【0249】
血液学的データ
全体的に、各種製剤の肺内投与に続いて、マウスの血球数に、ほんの穏やかな変化が誘発された。カチオン性NPの適用に続いて、8日目に白血球数の減少が観察された(表6)。白血球集団内で、好中球(p<0.0001)、杆状核白血球(p<0.0001)、リンパ球(p<0.0001)、単球(p<0.0001)および好酸球(p<0.0001)の間に有意な差異が観察された。血小板(p<0.05)、HGB(p<0.01)、MCV(p<0.01)およびMCHC(p<0.01)に関して観察された穏やかな変化は、実際、有意であった。特に、カチオン性NPでは、8日目に単球レベルの低下が示された。全身性単球レベル低下を伴うこれらの全身性白血球減少の発見は、肺内での特にカチオン性NPの適用に続く8日目のBAL細胞およびマクロファージの増加の発見に一致している。しかし、19日目に、カチオン性NPで、正常な生理学的数値に整える103%の白血球数の増加が示された(表7)。しかし、好中球(p<0.0001)、リンパ球(p<0.0001)、単球(p<0.0001)、好酸球(p<0.0001)では、異なる群間で有意な差異が示され、杆状核白血球では、19日目にゼロまで下落した。有意な差異は、また、各種NP製剤の間で、赤血球(p<0.01)、HCT(p<0.001)、MCV(p<0.0001)、MCH(p<0.05)、およびMCHC(p<0.001)の数値に関して観察された。
【0250】
肺の組織学的変化
8日目および19日目の双方で、肺外臓器、すなわち心臓、肝臓および腎臓中に病理学的変化は見出されなかった。左右双方の肺の三つ組み切片を別々に評価したが、それらの間に有意な変化は観察されなかった。試験した肺検体の病理学的変化は、希薄かつ極小であった。主な所見は、肺胞空間中での反応性マクロファージの発見であった。少数のマクロファージ、炎症および鬱血の種々の群間での差異は、存在しても、ほとんど検出できず、正確な目的物の定量化は、実際的でないか、あるいは不可能であった。しかし、各肺内の炎症、鬱血およびマクロファージの半定量的順位付けを実施した(図10Aおよび10B)。
【0251】
カチオン性NPの吸入は、肺内にいかなる病理学的徴候をも誘発しなかった。このことは、気管支および肺胞壁の細胞に結び付けられなかったカチオン性NPの食細胞による取込み増大によって説明することができる。さらに、ほんの少数のマクロファージが、8日目に、アニオン性NP、INP、および対照EpCAM生理食塩水を適用されたマウスの肺内の肺胞の10〜20%に検出され、それらの数は19日目までに減少した。加えて、アニオン性NPは、8日目で、炎症および鬱血評点の上昇を示し、その評点は19日目までに対照と同様の値に低下した。INP製剤は、19日間の実験中に、対照に比較して炎症評点の上昇を誘発した。このことは、この製剤におけるBALの結果と一致している(図10B)。各群の代表的な実例を図11A〜11Jに示す。
【0252】
免疫組織化学
EpCAM生理食塩水溶液またはINPの場合、8日目および19日目の双方で、肺外での効果または局在化のいずれも認められなかった(データは示さない)。8日目および19日目の双方での、EpCAM生理食塩水溶液およびINPの代表的なスライドを、図5および6に示す。予想されるように、EpCAMの肺気管支内への特異的局在化が、EpCAM生理食塩水溶液(図12c、E)およびEpCAM結合型INP(図12e、E)の双方で観察された。しかし、INPは、19日目でさえも肺気管支内に存在していることが見出された(図13c、C)。INPは、肺内マクロファージ中ではなく気管支壁に結び付けられて局在化している。EpCAMの発現は、図12A、aに示したように健康な動物の肺内では低いことに留意するべきである。マウス結腸内でのEpCAMの著しい発現(図13e、E)は、単にバリデーションの目的で準備される。観察されるシグナルは、ラットの二次抗マウス抗体のみに暴露された切片の陰性対照によって検証されるように、EpCAMに特異的である(図12および図13b、B、d、D、f、F)。
【0253】
考察
この研究は、肺内に点滴注入されたNPおよびINPの安全性および耐容性の理解を増進することを目的とした。局在化、および吸入されたマイクロメートル領域の粒子によって誘発される効果は、広く発表されているが、吸入されたNPについては、広範囲にわたるデータを欠いている。NPの肺内送達は、投与量および結果として投与頻度を低減しながら、局所性治療の効果を高める可能性を開く。しかし、吸入されたNPは、安全上の懸念を高める可能性がある。これまで入手可能な毒性データには、吸入された非治療的な環境上の微粒子状物質の影響が主として含まれ、そのデータを、薬物装填型NPへ外挿できるかどうかに関して疑問の余地が残ったままである34。さらに、吸入されたNPにより誘発される肺への影響は、大きさおよび表面電荷に依存することがあると報告されている4、35。通常、肺中に存在する食細胞は、本研究におけるような大きさが120〜150nmの領域のNPを検知しない1、3、4。肺への局所性微粒子送達の主な欠点は、大きさに依存する排出である。一般に、0.5μM未満の質量メディアン空気力学的直径を有する粒子の80%は、呼気の際に排出されることが見出された36。この大きさに依存する落とし穴は、NPが、ブラウン拡散により深部肺内で効果的に沈積し、かつ良好な肺への浸透を提供すると思われるので、有利である可能性がある37。したがって、吸入に続くNPの生体内運命を追跡することが重要である。PLA微小球は、肺組織中で離散した群の状態で密集することが観察され、一様には分布されなかった。それにもかかわらず、この現象は、大きさがマイクロメートルの領域で観察されたが、ナノメートルの領域では観察されなかった。Laiらは、最近、ヒト粘液中でのPEG化および非PEG化されたポリマーNPの輸送を研究し、より大きなPEG化NP(500および200nmのNP)は、より小さな非PEG化NP(100nm)と比較して、膣頸管および肺を含む種々の器官を被覆する粘液中で急速に移動することができることを明らかにした38。Stuartらは、in vitroでの生物物理学的方法を使用して、ゼラチンNPと、人工的なジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)をベースにした肺用界面活性剤との間の相互作用を調べた39。彼らの結果は、NPと肺用界面活性剤膜との間の相互作用が単層を不安定化しないことを示し、かくして、NPの送達が、実行可能でかつ安全な投与経路であることを示した。
【0254】
実際のNPのin vitroでの毒性を評価するため、A549細胞を選択した。なぜなら、このヒト肺腺癌細胞株は、EpCAMエピトープを過剰発現するからである40。細胞培養研究は、PEG−PLA NPは、それらの表面電荷に無関係に、細胞傷害性を欠いていることを立証した。本研究中で試験するポリマーの投与量(5%グルコース溶液25μL中に0.15mg)は、マウスモデルにおけるマウス当たり5%グルコース溶液100μL中0.1〜0.25mgのNP投与量範囲を使用する気管内単回点滴注入でのDEAPA−PVAL−g−PLGA NPの肺への潜在的な炎症促進能を調べた他の著者によって報告された毒性結果に基づいて選択した
【0255】
異なる表面電荷特性を有する類似のPEG−PLA NP製剤は、in vivoで異なる毒性プロフィールを誘発した。カチオン性NPの投与は、死亡率の増加、体重増加の縮小、および特に8日目の総BAL細胞およびマクロファージの上昇をもたらした。NP、特にカチオン性NPの表面電荷の肺に対する影響を評価することが重要であることが強調されるべきである。それらの陽電荷のため、これらのNPは、タンパク質およびリン脂質部分の存在のため正味で負電荷を所持する肺細胞膜との静電引力のため、吸入に続いて肺組織中に浸透すると予想される。このことは、また、活性成分の肺胞外側表面層への効率的な送達、および長い滞在時間を可能にするはずである。安全性および耐容性の研究に基づき、この製剤で、血液学的パラメーター、例えば、全身性白血球減少、好中球および杆状核白血球レベルの上昇(左へ移行)における最も明白な変化が観察された。8日目での、BALマクロファージ数値の上昇を伴う血中マクロファージレベルの低下は、静電引力による食細胞とカチオン性NPとの相互作用の増大をもたらす、肺への食細胞の補充を暗示することができる。全体的に、これらの結果は、カチオン性NPの肺内局在化を示唆している可能性があり、そのNPの除去は、8日目まではマクロファージによって介在され、一方、INPは、19日目でさえも肺中になお存在していた。データは、in vivoで固形腫瘍に標的化された、MAbで方向付けられたナノメートルの免疫リポソーム(MAb−directed nanometric immunoliposome)の新規な機構を発表したKirpotinらによって最近公表された発見と一致している。彼らの結果は、MAbフラグメントとの結合が、静脈内で投与されたリポソームの生体内分布または長期循環特性に影響を及ぼさないことを示した。さらに、標的化されたリポソームおよび標的化されていないリポソームの双方とも、HER−2を過剰発現している乳癌異種移植片(BT−474)中で高レベルの腫瘍組織への集積を同様に達成したので、結合は、免疫リポソームの腫瘍への局在化を増大させなかった。しかし、抗HER2免疫リポソームは、癌細胞内に集積し、一方、匹敵する標的化されないリポソームは、主として、細胞外ストロマ中またはマクロファージ内に配置された。標的化されないリポソームと対照的に、抗HER2免疫リポソームは、MAbの介在するエンドサイトーシスを介して細胞内薬物送達を達成した。そして、このことは、腫瘍組織への取込み増加よりも、優れた抗腫瘍活性と関連していた41
【0256】
アニオン性PEG−PLA NPの投与は、動物の死をもたらさず、19日目で、対照に比較して体重減少が観察されたが、マウスの全般的な様子は、良好であった。19日目に、総BAL細胞数値は、マクロファージレベルの増加を伴う対照生理食塩水のそれと同様であった。血液学的パラメーターの変化は、カチオン性NP製剤によって誘発される変化に比較して穏やかであった。8日目の時点での肺へのマクロファージの局在化および鬱血および炎症過程は、19日目までに正常に戻った。アニオン性NPによって誘発された全般的な毒性効果は、重要でなく、かつ可逆的であると思われた。これらの有望なデータは、肺への投与に続く治療および診断上の肺内適用のためのアニオン性NPの広範な使用に対する機会を増加させる。この時点で、NPが、肺中に局在化されるか、あるいは、肺胞上皮の障壁を横切り、それによって体循環に入るかどうかは明らかでない。
【0257】
MORAb−003、セツキシマブ、パニツムマブ、および肺癌治療だけで約48の臨床試験で、極めて最も広範に評価されているMAbであるベバシズマブを含む種々のMAbが、種々の段階の肺癌の治療に向けて、最近試験されている(http://www.cancer.gov/lung 2007(非特許文献29))。最近の研究で、INPは、MAbのカチオン性エマルジョンおよびNPへの結合から得られた経験に基づいて、EpCAM MAbをPEG−PLA NPに複合させることによって製造された30、31。上皮細胞接着分子は、ほとんどのヒト上皮細胞上に発現される〜40kDaの膜貫通型糖タンパク質である42、43。初期の研究において、EpCAMは、細胞−細胞接着分子であると提唱された44、45。しかし、最近の識見は、EpCAMが、生物体における上皮の始まり、発達、維持、修復および機能で重要な役割を有する多面発現性分子であることを示している。EpCAMの種々の機能は、また、癌療法と重要な関連を有する。癌腫において、EpCAMの上向きに調節された発現を、細胞の異常な増殖および分化を促進し、EpCAMを汎癌腫抗原にする因子と見なすことができる46。いくつかの状況において、MAbを使用してEpCAMを遮断することは、腫瘍の増殖を減少させるだけではなく、転移の成立を防止する可能性がある42、47。MAbを薬物送達システムのターゲティング部分として使用することは、最近の数年の間に現れた。Cirstoiu-Hapcaら、およびNobsらは、抗HER2および抗CD−20MAb結合型PLA NPを製造した48〜51。SKOV−3ヒト卵巣癌細胞(HER2を過剰発現する)およびDaudiリンパ腫細胞(CD20を過剰発現する)とMAb結合型NPとの特異的相互作用が測定された。その結果は、MAb結合型NPの特異的抗原を過剰発現している腫瘍細胞への選択的指向を示した。しかし、これらのNPでの安全性研究は実施されなかった。Oliverらは、また、抗トランスフェリン受容体のMAbをマレイミドグラフト型PEG−PLA NPへ複合することによってINPを合成したが、やはり、安全性評価は実施されなかった52。さらに、Debottonおよびその共同研究者らは、最近、INPの薬物動態挙動が、裸のMAbの薬物動態プロフィールと著しく異なることを示し、かくして、該MAbは、NPへの結合の後にその本来の分子薬物動態特性を失うと推論した30、31。具体的には、EpCAM結合型PEG−PLA NPの投与は、マウスの生育能力、様相および体重に否定的影響を及ぼすことはなかった。総BAL細胞は、初めは増加せず、対象およびアニオン性PEG−PLA NPのそれと同様であった。しかし、8日目に、BAL内でのPMNおよびリンパ球数の増加が観察された。さらに、19日目に、BAL中の総細胞数が有意に増加した。具体的には、BALのマクロファージ、リンパ球およびPMN集団が増加した。EpCAM結合型INPの投与に続いて8日目に、血中杆状核白血球、単球および好中球数値の増加が観察され、免疫応答の開始を示唆した。19日目に、血液学的な好中球および単球数値の増加を伴う変化は、より穏やかであった。肺切片の免疫組織化学の結果は、8日目および19日目の双方で、気管支壁に特異的であり、マクロファージに関連しない、この製剤の特異的な肺への局在化を示した。最近、EpCAMが、細胞増殖を、それゆえ、腫瘍の成長を促進する可能性のあることが示唆された。したがって、結合されたEpCAMが、肺癌の場合のようにEpCAM抗原を過剰発現する病理学的肺組織を特異的に認識し、それに特異的に結合するので、EpCAM結合型INPを、吸入に続く潜在的な薬物送達システムと見なすことができる。肺の組織病理学的評価は、炎症反応の存在を示した。この製剤は、19日目までに誘発された効果に基づく他の製剤と異なると思われる。この製剤の効果は、対照抗体生理食塩水と異なるので、INP複合体が、肺への局所的滞留をそれ自体引き起こす微粒子送達システムに由来する特異的効果を有することができる可能性がある。EpCAM抗体は、ラット起源であり、かくして、対照抗体生理食塩水への応答で示されるように、種に関係する免疫応答を誘導できたことが強調されるべきである(図9)。したがって、INPで観察されるBALマクロファージ、PMNおよびリンパ球の増加を、免疫応答を強化する、抗体のNPへの結合に帰すことができると考えることは妥当であろう。
【0258】
結論
ここに示された結果に基づけば、PEG−PLA NPおよびEpCAM結合型PEG−PLA NPは、NP反復投与に続く肺への局所性送達および標的化された送達の双方のための、肺用薬物の担体である。NP表面の正電荷は、全身毒性に加えて、肺に対する効果の増大をもたらし、したがって、局所的肺投与には推奨されないと思われる。EpCAMを標的とした療法を、パクリタキセルまたはビノレリンなどの肺癌療法用の選択的抗増殖薬と組み合わせることは、行う価値があると思われる。さらに、MAb EpCAMをNPに結合すると、それは、主として、それ自身の薬学的および薬物動態学的特性のほとんどを失っているターゲティング部分として作用する。したがって、化学療法薬を装填したEpCAM結合型PEG−PLA NPのin vitroおよびin vivoの肺癌モデルでの効果は、さらに評価する価値がある。
【0259】
したがって、本発明の文脈内で、好ましくはアニオン性ナノ粒子(負の表面電荷を有するNP)、特にアニオン性PEG−PLA NPをベースにしたナノ粒子が使用される。
【0260】

【0261】

【0262】
参考文献
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【0263】
非小細胞肺癌のための治療としての標的化薬物装填型免疫ナノ粒子の肺送達
背景:肺癌(LC)は、癌による死亡率の主要原因であり、すべての癌死のほぼ30%を占める。残念ながら、LCの化学療法は、無差別のおよび全身性毒性により設定している制約された投与量により失敗させられる。吸入による化学療法薬の送達は、このような制約のいくつかを克服し、全身性薬物暴露、およびかくして有害効果を低減しながら、有効な治療的投与量の腫瘍部位への堆積を可能にする可能性がある。さらなる進歩は、癌性細胞を特異的に認識する薬物装填型免疫ナノ粒子(INP)の肺送達であり、それによってそれら粒子の病的肺細胞中への内在化を高める。
【0264】
目的:非小細胞肺癌のトランスジェニックマウスモデルにおける肺に送達されたINPの安全性を調べること。
【0265】
方法:パルミチン酸パクリタキセル(pcpl)を装填したペグ化ポリ(乳酸)ナノ粒子(NP)を、表皮細胞接着分子(EpCAM)を認識する抗体(Ab)に複合させた。肺腫瘍を所持するトランスジェニックマウスに、エアロゾルの気管内投与(図14)を介して4日間にわたって製剤を与え、7日目に該マウスを屠殺した。治療には、ブランク(BLK)NP(1.5mgポリマー)、生理食塩水で1:5に希釈されたpcpl NP(0.3mgのポリマー、1mg/kgのpcpl)、および非希釈および生理食塩水で希釈されたEpCAM−pcpl INP(それぞれ、1mg/kgのpcplを含む0.3mgのポリマー、または5mg/kgのpcplを含む1.5mgのポリマー)を含めた。体重(BW)、気管支肺胞洗浄(BAL)、全血球数、組織化学、および免疫組織化学を使用して、局所性および全身性効果の双方を評価した。
【0266】
結果:群内で、1日目から7日目までの動物体重の減少は、せいぜい8%までであり、傾向は、全般的に、統計的に有意ではなかった(図15)。BLK NPおよび非希釈INPの双方内で、同様の体重減少が観察され、2群間の動物の一般的な健康状態に差異がないことを示唆した。群間で、希釈INPのみが、希釈pcpl NPに比較して統計的に有意に高い体重減少を引き起こしたが(図16)、おそらく、後者の最も軽い初期体重のためであろう(図15)。
【0267】
INPでの治療において、標的化されないBLKおよびpcpl NPに比較して単球数の増加も観察されたが、おそらく、ラット抗体に対する急性免疫応答のためであろう(図17)。
【0268】
気管支肺胞洗浄は、より高いLDH放出(図18a)によって反映されるように、pcpl−EpCAM INPが、単純なNPに比べてより大きな局所性の細胞傷害および炎症応答を誘発することを示す。これは、より高い薬物暴露および標的腫瘍細胞の溶解のためである。高い局所性好中球数は、ラット抗体に対する応答に帰せられる(図18b)。
【0269】
対照的に、純粋なNPは、INPに比べて2倍高いマクロファージの補充を誘発した(図19)。これは、純粋なNPが、肺中でより高い非特異的な食細胞の応答を生じさせ、一方、INPは、食作用をどうにか免れ、マクロファージの補充を低下させ、かくして標的細胞の傷害を誘導することを示している可能性がある。
【0270】
加えて、免疫組織化学は、肺中におけるEpCAMの存在を証明し(図20)、EpCAM INP療法による腫瘍病巣の溶解の証拠を提供する。
【0271】
結論:投与されたポリマーの比較的高い濃度および動物のわずかな体重減少にもかかわらず、1匹を除くすべての動物は、4日間の実験を7日目の屠殺まで生き延びた。全体的に見て、結果は、EpCAM陽性肺癌の治療における薬物装填型INPの安全性および特異的なターゲティングを示している。
【0272】
親油性の細胞傷害薬を含むNPをMAbとカップリングさせること、好ましくは前記送達システムを含むエアロゾルを形成し、続いて肺へ局所的に送達することの利点には、肺への直接送達、標的組織中での長い滞留時間、腫瘍部位での極めて強力な薬物投与量の連続的放出、および効力向上を可能にする細胞傷害薬の肺腫瘍中へのより良好な内在化が含まれる。それぞれ、本発明は放射性医薬品および/または診断薬を肺へ直接送達するための強化されたシステムを提供する。本発明は、好ましくは吸入によって肺へ投与される、ポリマーをベースにしたナノ粒子;および前記ナノ粒子に非共有結合でアンカリングされた第1部分であって、該第1部分の少なくとも一部が前記ナノ粒子中に埋め込まれた疎水性/親油性セグメントを含む第1部分;および前記ナノ粒子の外表面に露出されたカップリング基、好ましくはマレイミド化合物を含む第2部分を含むリンカーを含む送達システムに関する。一実施形態によれば、該送達システムは、それぞれ前記カップリング基、好ましくはマレイミド化合物に共有結合で結合される1種または2種以上のターゲティング薬剤を含む。さらに別の実施形態によれば、該送達システムは、薬物および/または放射性医薬品および/またはコントラスト剤を含む。本発明によるリンカーの具体例は、オクタデシル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸アミド(OMCCA)である。
【0273】
前述の説明、その後の図面、および特許請求の範囲中で開示されている本発明の特徴は、本発明をその異なる実施形態中で実行するために、単独および任意の組合せの双方で重要であることもある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所的肺送達に使用するための、以下の(i)〜(iii):
(i)ポリマーをベースとするナノ粒子;
(ii)前記ナノ粒子に非共有結合でアンカリングされた第1部分であって、前記第1部分の少なくとも一部が前記ナノ粒子中に埋め込まれた親油性セグメントを含む第1部分;および前記ナノ粒子の外表面に露出され、リガンド(ターゲティング部分)が共有結合で連結されているカップリング基を含む第2部分を含むリンカー;ならびに
(iii)薬物、放射性医薬品、およびコントラスト剤からなる群から選択される活性薬剤、
を含む、送達システム。
【請求項2】
吸入によるおよび/または静脈内適用による局所的肺送達において使用するための、請求項1に記載の送達システム。
【請求項3】
吸入による局所的肺送達において使用するための、請求項1または2のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項4】
カップリング基が、マレイミド、NHS−エステル、カルボジイミド、ヒドラジド、PFP−エステル、ヒドロキシメチルホスフィン、ソラレン、イミドエステル、二硫化ピリジル、イソシアネート、ビニルスルホン、α−ハロアセチル類、アリールアジド、ジアジリン、およびベンゾフェノンからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項5】
吸入による局所的肺送達のための、特に請求項1〜4のいずれか一つに記載の、送達システムであって、以下:
(i)ポリマーをベースとするナノ粒子;
(ii)前記ナノ粒子に非共有結合でアンカリングされた第1部分であって、前記第1部分の少なくとも一部が前記ナノ粒子中に埋め込まれた親油性セグメントを含む第1部分;および前記ナノ粒子の外表面に露出されたマレイミド化合物を含む第2部分を含むリンカー;
(iii)薬物、ならびに
(iiii)リガンド(ターゲティング部分);
を含む送達システム。
【請求項6】
前記リンカーが、両親媒性分子である、請求項1〜5のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項7】
前記親油性部分が、少なくとも8個の炭素を含む炭化水素または脂質を含む、請求項1〜6のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項8】
前記リンカーが、次の一般式(I)
【化1】

[式中、
Yは、ヘテロ原子、C〜C20のアルキレンまたはアルケニレン、C〜C20のシクロアルキレンまたはシクロアルケニレン、C〜C20のアルキレン−シクロアルキレン(ここで、前記アルキレンまたはアルケニレン中の炭素原子の1つは、ヘテロ原子で置き換えられていてもよい)を表し、
Xは、−C(O)−R、−C(O)−NH−R、−C(O)−O−C(O)−R、C(O)NH−R−R、または−C(O)−NH−R−C(O)−NH−R(ここで、Rは、少なくとも8個の炭素を含む炭化水素または脂質を表し、Rは親水性ポリマーを表す)から選択されるカルボニル含有部分を表す]を有する、請求項1〜7のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項9】
前記Rが、モノもしくはジアシルグリセロール、リン脂質、スフィンゴ脂質、スフィンゴリン脂質または脂肪酸から選択される脂質である、請求項8に記載の送達システム。
【請求項10】
前記Yが、アルキレン−シクロヘキサンである、請求項8または9に記載の送達システム。
【請求項11】
前記Yが、式−CH−C10−を有するアルキレン−シクロアルキレンを表し、Xが、式−C(O)−NH−R(ここで、Rは脂肪酸である)を有するカルボニル含有部分を表す、請求項10に記載の送達システム。
【請求項12】
前記リンカーが、オクタデシル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸アミド(OMCCA)、N−1ステアリル−マレイミド(SM)、オレイン酸スクシンイミジル、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[マレイミド(ポリエチレングリコール)2000]、およびこれらの混合物から選択される、請求項1〜11のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項13】
前記リンカーが、オクタデシル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸アミド(OMCCA)である、請求項10〜12のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項14】
活性薬剤、好ましくは薬物および/または放射性医薬品および/またはコントラスト剤を含む、請求項1〜13のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項15】
前記活性薬剤が、前記粒子中に埋め込まれるか、含浸されるか、またはカプセル化されるか、あるいは粒子の表面に吸着される、請求項1〜14のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項16】
薬物が、化学療法薬、好ましくは抗腫瘍性化学療法薬または化学予防薬である、請求項1〜15のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項17】
薬物が、パクリタキセル、ゲフィチニブ、エルロチニブ、エトポシド、カルボプラチン、ドセタキセル、酒石酸ビノレルビン、シスプラチン、ドキソルビシン、イフォスファミド、硫酸ビンクリスチン、塩酸ゲムシタビン、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、メトトレキサート、塩酸トポテカン、イリノテカン、5−フルオロウラシル、ジロイトン、セレコキシブ、およびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1〜16のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項18】
前記薬物の誘導体が、脂肪酸誘導体、特にパルミチン酸誘導体である、請求項1〜17のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項19】
放射性医薬品が、カルシウム−47、炭素−11、炭素−14、クロム−51、コバルト−57、コバルト−58、エルビウム−169、フッ素−18、ガリウム−67、ガリウム−68、水素−3、インジウム−111、ヨウ素−123、ヨウ素−131、鉄−59、クリプトン−81m、窒素−13、酸素−15、リン−32、サマリウム−153、セレン−75、ナトリウム−22、ナトリウム−24、ストロンチウム−89、テクネチウム−99m、タリウム−201、キセノン−133、イットリウム−90、および前記放射性核種の少なくとも1種を含む物質からなる群から選択される、請求項1〜18のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項20】
放射性医薬品が、テクネチウム−99mまたはフッ素−18−FDGである、請求項1〜19のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項21】
コントラスト剤が、ヨウ素−、ガドリニウム−、マグネタイト−、またはフッ素−含有コントラスト剤からなる群から選択される、請求項1〜20のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項22】
コントラスト剤が、イオプロミド、イオキシタラメート、イオキサグレート、イオヘキソール、イオパミドール、イオトラロン、メトリザミドからなる群から選択される、請求項1〜21のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項23】
前記ポリマーが、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリシアノアクリレート、ポリ(アミノ酸)、ポリカーボネート、ポリ無水物、ポリアルキルシアノアクリレート、およびこれらの混合物から選択される生分解性ポリエステルである、請求項1〜22のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項24】
前記ポリエステルが、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド、ポリラクチド−ポリグリコリド、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、またはポリエチレングリコール−co−ラクチド(PEG−PLA)である、請求項23に記載の送達システム。
【請求項25】
前記親水性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリシアル酸、ポリ乳酸(ポリラクチドとも称される)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドとも称される)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルタミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、誘導体化セルロース、例えばヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロースから選択される、請求項6に記載の送達システム。
【請求項26】
前記親水性ポリマーが、2,000〜5,000Daの範囲の平均分子量を有するPEGである、請求項25に記載の送達システム。
【請求項27】
前記活性薬剤が、薬物、コントラスト剤、またはこれらの混合物である、請求項1〜26のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項28】
それぞれが前記マレイミド化合物に共有結合で結合された1種または2種以上のターゲティング薬剤(ターゲティング部分)を含む、請求項1〜27のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項29】
前記ターゲティング薬剤が、アミノ酸をベースとする、核酸をベースとする、または糖をベースとするポリマー、およびこれらの組合せから選択されるポリマーである、請求項28に記載の送達システム。
【請求項30】
前記ターゲティング・ポリマーが、リガンド、抗体、抗原、糖タンパク質から選択される、請求項29に記載の送達システム。
【請求項31】
前記ターゲティング薬剤が、低分子量リガンドである、請求項28〜30のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項32】
前記抗体が、モノクロナール抗体またはポリクロナール抗体(MAb)である、請求項30に記載の送達システム。
【請求項33】
リガンドが、ヒト化および/またはキメラモノクロナール抗体、あるいはヒト化および/またはキメラモノクロナール抗体フラグメントである、請求項1〜32のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項34】
リガンドが、EP−CAM、VEGF、EGFR、HER2、HER3、HER4、CA125、CTLA−4、Hフェリチンからなる群から選択される抗原に対して作用する抗体または抗体フラグメントである、請求項1〜33のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項35】
リガンドが、トラスツズマブ、セツキシマブ、ベバシズマブ、パニツムマブ、マツズマブ、ニモツズマブ、MDX−447、オエゴボマブ(Oegovomab)、ペルツズマブ、イピリムマブ、AMB8LK、抗マウスEpCAM、抗ヒトEpCAMからなる群から選択される、請求項1〜34のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項36】
前記MAbが、天然または遺伝子操作型抗体である、請求項32〜35のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項37】
それぞれが異なる結合特異性を有する少なくとも2種の抗体または抗体フラグメントを含む、請求項30または32〜36のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項38】
前記遺伝子操作型抗体が、トラスツズマブ、AMB8LK、Ep−CAM、またはこれらのうちの2種の組合せである、請求項32〜37のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項39】
ナノ粒子が、ペグ化ポリ(ラクチド酸)をベースとし;
リンカーが、モノクロナール抗EP−CAM抗体が連結されているオクタデシル−4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシルであり;
薬物が、パルミチン酸パクリタキセルである、
請求項1〜38のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項40】
特にin vivoでの経肺投与のための、吸入薬として使用するための、請求項1〜39のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項41】
エアロゾルとして使用するための、請求項1〜40のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項42】
治療によってヒトまたは動物の身体を治療する方法において、あるいはヒトまたは動物の身体で実施される診断方法で使用するための、請求項1〜41のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項43】
癌および/または異形成症の治療または診断において使用するための、請求項1〜42のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項44】
肺癌および/または気管支異形成症の治療または診断において使用するための、請求項1〜43のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項45】
非小細胞肺癌の治療または診断において使用するための、請求項1〜44のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項46】
造影方法において、好ましくは腫瘍−PET(ここで、FDG−PETが特に好ましい)でグルコース代謝を検査することなどによるPETにおいて、またはCTにおいて使用するための、請求項1〜45のいずれか一つに記載の送達システム。
【請求項47】
好ましくは吸入薬として、特にエアロゾルとして形成される特に請求項42〜46のいずれか一つに記載の使用のための薬剤を製造するための、請求項16〜18のいずれか一つに記載の薬物を好ましくは含む、請求項1〜39のいずれか一つに記載の送達システムの使用。
【請求項48】
好ましくは吸入薬として、特にエアロゾルとして形成される特に請求項42〜46のいずれか一つに記載の使用のための診断薬を製造するための、請求項19〜20のいずれか一つに記載の放射性医薬品および/または請求項21〜22のいずれか一つに記載のコントラスト剤を好ましくは含む、請求項1〜39のいずれか一つに記載の送達システムの使用。
【請求項49】
請求項1〜39のいずれか一つに記載の送達システムを薬学上許容可能な担体と組み合わせて含む組成物。
【請求項50】
請求項1〜39のいずれか一つに記載の送達システムの製造方法であって、
溶媒置換法によって、MW100,000DaのmPEG−PLAポリマーを好ましくは使用して、ポリマーをベースとするナノ粒子を調製すること;
ナノ粒子の形成に先立って、該ポリマーに、リンカー、好ましくはOMCAを添加すること;
ナノ粒子の形成に続いて、活性薬剤、好ましくはモノクロナール抗ヒトEpCAM抗体または抗マウスEpCAM抗体をリンカーにカップリングすること
を含む製造方法。
【請求項51】
肺に関連する疾患または障害、特に請求項43〜45のいずれか一つに記載の疾患または障害を治療または予防するための方法であって、必要とする対象に、ある量の請求項1〜39のいずれか一つに記載の送達システムを、または請求項49に記載の組成物を提供することを含み、前記送達システムが薬物を含み、該薬物の量が前記疾患または障害を治療または予防するのに有効である方法。
【請求項52】
対象の体内の標的細胞または標的組織を、特に、請求項43〜45のいずれか一つに記載の疾患または障害によって影響を受けた標的細胞または標的組織を造影する方法であって、
(a)前記対象に、好ましくはin vivoでの経肺投与によって、コントラスト剤を携行している請求項1〜39のいずれか一つに記載の送達システムであって、ナノ粒子が前記送達システムが前記標的細胞または標的組織を標的とするのに有効な1種または2種以上のターゲティング薬剤と結び付けられており、かつ該ターゲティング薬剤が好ましくは請求項32〜38のいずれか一つに記載の抗体である送達システムを提供すること;
(b)前記体内の前記コントラスト剤を造影すること、
を含む造影方法。
【請求項53】
前記コントラスト剤が、クマリン−6、または請求項21〜22のいずれか一つに記載のコントラスト剤、または請求項19〜20のいずれか一つに記載の放射性医薬品である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記送達システムが、前記粒子中に埋め込まれた薬物を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記薬物が、細胞傷害薬または化学予防薬、好ましくは請求項16〜18のいずれか一つに記載の薬物である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記細胞傷害薬が、ドセタキセルおよびパルミチン酸パクリタキセルから選択される抗癌薬である、請求項55に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18a】
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【図18b】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2011−516443(P2011−516443A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502300(P2011−502300)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002513
【国際公開番号】WO2009/121631
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(503306168)フラウンホーファー・ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デア・アンゲヴァンテン・フォルシュング・エー・ファウ (38)
【出願人】(501479721)イースム、リサーチ、デベロプメント、カンパニー、オブ、ザ、ヘブライ、ユニバーシティー、オブ、イエルサレム (5)
【氏名又は名称原語表記】YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSITY OF JERUSALEM
【Fターム(参考)】