説明

活性表面増強ラマン分光分析(SERS)の基体としての金属被覆ナノ結晶シリコン

【課題】ラマン分光分析を使用して、多岐にわたる各種の分析対象物質を検出、同定、および/または定量する。
【解決手段】開示される方法および装置は、金属被覆ナノ結晶多孔質シリコン基体210を使用したラマン分光分析に関する。希フッ化水素酸中での陽極エッチングによって、多孔質シリコン基体210を形成することができる。多孔質シリコンには、陰極エレクトロマイグレーションまたは任意の公知の方法で、ラマン活性金属、たとえば金または銀の薄い皮膜をコーティングすることができる。金属被覆基体は、SERS、SERBS、ハイパーラマンおよび/またはCARSラマン分光分析を実施するにあたっての広範な金属リッチ環境を提供するものである。特定の別の手段では、金属ナノ粒子を金属被覆基体に加えて、ラマン信号をさらに増強することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明の方法および装置は、ラマン分光分析による、分子の検出および/または特徴分析の分野に関する。より詳細には、この方法および装置は、表面増強ラマン分光分析(surface enhanced Raman spectroscopy、SERS)、表面増強共鳴ラマン分光分析(surface enhanced resonance Raman spectroscopy、SERRS)、ハイパーラマン、および/またはコヒーレント反ストークスラマン分光分析(coherent anti-Stokes Raman spectroscopy、CARS)用の金属被覆多孔質基体に関する。
【0002】
関連出願
本出願は、係属中の米国特許出願第10/171,357号(2002年6月12日出願)の一部係属出願、および係属中の米国特許出願第10/368,976号(2003年2月18日出願)の一部係属出願である。
【背景技術】
【0003】
背景
生体サンプルをはじめとする各種のサンプル中で単一分子を高感度かつ正確に検出および/または同定することは、周知のとおり、実現困難な目標であるが、実現できれば、医学的診断、行理学、毒性学、環境サンプリング、化学分析、法医学をはじめとする数多くの分野で多岐にわたる用途が開ける。この目標を実現すべく、ラマン分光分析および/または表面プラズモン共鳴を利用することが試みられている。光が有形の媒体を通過する際には、そのうちの同定量が当初の方向からずれ、この現象は、ラマン散乱として知られている。散乱光の一部は、当初の励起光とは周波数も異なっており、これは、光が吸収され、電子がより高いエネルギー状態へと励起し、その後、異なった波長の光が放射されるためである。ラマン発光スペクトルの波長は、サンプル中の光吸収性分子の化学組成および構造に応じて決まり、一方、光散乱の強度は、サンプル中の分子の濃度に応じて変わる。
【0004】
励起光とサンプル中の個々の分子との間にラマン相互作用が生じる確率は極めて低く、その結果、ラマン分光分析の感度は低く、用途も限られている。粗面化した銀の表面の近傍の分子では、ラマン散乱が6〜7桁も増すことが観察されている。この表面増強ラマン分光(SERS)効果は、金属ナノ粒子が入射電磁線に対して、金属柱の伝導電子の集合的カップリングによる顕著な光学的共鳴を示すプラズモン共鳴現象と関連している。つまり、金、銀、銅、をはじめとする同定金属のナノ粒子は、ミニチュアの「アンテナ」として機能することにより、電磁線の局在化した作用を増強することができる。そうした粒子の近傍に位置する分子は、ラマン分光分析に関して、はるかに高い感受性を示す。
【0005】
SERSを、分子の検出や解析に利用する試みが続けられてきており、具体的には、基体表面に金属ナノ粒子を被覆したり、粗面の金属膜を形成したりしてから、サンプルを金属被覆面に適用することが行われている。しかし、平面に堆積することのできる金属粒子の数は限定されており、そうした表面を利用したSERSや関連したラマン分光技術での増強率は比較的低い。金属粒子密度のもっと高いSERS活性基体を製造する方法、ならびにそうした基体を含む装置を製造する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
具体的態様の説明
本発明に開示する方法および装置は、表面増強ラマン分光分析(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光分析(SERRS)、および/またはコヒーレント反ストークスラマン分光分析(CARS)検出法による分析対象物質の検出および/または同定に有用である。既存の技術と比較して、本発明に開示する方法および装置では、SERS活性基体の金属粒子密度が高く、金属堆積の均一が高く、SERSの増強の視野が深いので、分析対象物質のラマン分光による検出および/または同定をより効率的に実施することができる。
【0007】
SERSによって各種の分析対象物質を検出する従来の方法では、凝集銀ナノ粒子のようなコロイド金属粒子が使用されており、この粒子は、通常、基体および/または担体にコーティングされていた(たとえば、米国特許第5,306,403号、米国特許第6,149,868号、6,174,677号、米国特許第6,376,177号)。こうした構成では、SERSによる検出を、場合によっては106〜108倍もの高感度で行うことができるものの、本明細書で開示するヌクレオチドのような小型分析対象物質の単一分子を検出することはできない。ラマン分光分析による検出での感度の上昇は、コロイド粒子凝集物内では不均一であり、「ホットスポット」の存在に依拠している。こうしたホットスポットの物理的構造、感度の上昇が生じるナノ粒子からの距離範囲、感度の上昇を可能とする凝集ナノ粒子と分析対象物質の空間的関係については、よく調べられていない。また、凝集ナノ粒子は、溶液中では不安定な存在であってもよく、単一分子の分析対象物質の検出再現性に悪影響を及ぼす。本発明の方法および装置は、SERSによる検出を行うにあたって、ラマン活性金属基体の物理的コンホメーションおよび密度を細かく制御することのできる安定した微細環境を実現するものであり、こうした環境では、溶液中の分析対象物質の再現性があり、感度が高く、正確な検出を可能としたものである。
【0008】
以下の詳細な説明では、請求された方法および装置についてのより十全な理解を可能とするために、数多くの具体的な詳細について説明する。しかし、当業者であれば、方法および/または装置は、こうした具体的な詳細なしでも実施可能であることがわかるはずである。また、当技術分野において周知の装置、方法、手順、および個々の構成成分については、本明細書には詳述していない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付の図面は、本発明の明細書の一部を形成するものであり、本発明で開示する態様の同定の側面をさらに例示するために本明細書に含めたものである。本発明の各種の態様は、これらの図面の1つ以上を、本発明に示す特定の態様についての詳細な説明と合わせて参照することにより、よりよく理解されると思われる。
【図1】多孔質シリコン基体110を製造するための装置100(原寸大ではない)および方法の具体例を例示するものである。
【図2】金属被覆多孔質シリコン基体240を製造する方法の具体例を例示するものである。
【図3】金属被覆SERS活性基体340を使用して、分析対象物質を検出および/または同定する装置300および方法の具体例を例示するものである。
【図4】金属塩溶液の熱分解を含む、金属被覆多孔質シリコン基体の製造方法の一例を示す。図4Aは、多孔質シリコン基体を示す。図4Bは、二酸化ケイ素の層を形成するため、例えばプラズマ酸化によるシリコン酸化を示す。図4Cは、金属塩溶液、たとえば硝酸銀溶液への酸化多孔質シリコンの浸漬を示す。図4Dは、過剰な金属塩溶液の除去を示す。図4Eは、多孔質シリコン基体上に乾燥金属塩の薄層を形成するための溶液の乾燥を示す。図4Fは、多孔質シリコン基体を被覆する均一な金属層を形成するための乾燥金属塩の熱分解を示す。
【図5】熱分解法によって得られる、多孔質シリコン基体上の代表的な金属(銀)の均一な堆積を示す。(A)は、通常の拡散律速浸漬被覆によって処理したナノ多孔質シリコンについての、銀の厚さプロファイルある。(B)は、銀で均一に被覆した、プラズマ酸化、浸漬、および分解された(plasma-oxidized、dip and decomposed、PODD)多孔質シリコン基体についての、銀の厚さプロファイルである。
【図6】銀で均一に被覆したプラズマ酸化、浸漬、および分解された(PODD)多孔質シリコン基体で得た、分析対象物質の一例であるローダミン6G(R6G)染料分子の表面増強ラマンスペクトルを示す。PODD基体は、図4の方法で製造した。114μM(micromolar)R6G分子の溶液を、785 nm(ナノメートル)での励起を使用して、SERS(表面増強ラマン分光分析)で分析した。図6は、異なる空孔率のPODD銀被覆基体でSERS発光スペクトルを示す。低い軌跡から高い軌跡の順で、52%、55%、65%、70%、および77%の平均空孔率で、各種スペクトルを得た。
【図7】図4の方法で製造した金属被覆ナノ多孔質シリコン基体を使用してアデニンの90μM溶液のSERS検出を示す。
【図8】フルオレセインを共有結合させることによって標識したデオキシアデノシン三燐酸(上側の軌跡)と非標識dATP(下側の軌跡)の500nM溶液の比較SERSスペクトルを示す。dATP-フルオレセインは、Roche Applied Science(インディアナポリス、IN)から入手した。フルオレセイン標識dATPでは、SERS信号の著しい増大が検出された。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本明細書で使用する場合には、不定冠詞「一つの(aまたはan)」は、1または複数の当該品を意味する場合もある。
【0011】
本明細書で使用する場合には、「分析対象物質」という用語は、検出および/または同定の対象となる任意の原子、化学物質、分子、化合物、組成物、または凝集物を意味するものである。分析対象物質の例としては、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、糖、炭水化物、オリゴ糖、多糖、脂肪酸、脂質、ホルモン、代謝産物、サイトカイン、ケモカイン、受容体、神経伝達物質、抗原、アレルゲン、抗体、基質、代謝産物、補助因子、阻害物質、薬剤、製剤、栄養分、プリオン、トキシン、毒物、爆発物、農薬、化学兵器物質、生物学的有害物質、放射線同位体、ビタミン、複素環式芳香族化合物、発癌物質、変異誘発物質、麻薬、アンフェタミン、バルビツール酸塩、幻覚発現物質、廃棄物、および/または汚染物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。分析対象物質を、以下に記載する1つまたは複数のラマンタグで標識しない、または標識することができる。
【0012】
「捕捉」分子とは、本明細書では、1つまたは複数の標的分析対象物質に結合しうる任意の分子を意味するべく使用する。「捕捉」分子の例としては、抗体、抗体断片、遺伝子組み替え抗体、一本鎖抗体、受容体タンパク質、結合性タンパク質、酵素、インヒビタータンパク質、レクチン、細胞接着タンパク質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸、およびアプタマーがあるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本明細書で使用する場合には、「ナノ結晶シリコン」という用語は、ナノメートル単位のシリコン結晶、具体的には1〜100ナノメートル(nm)の範囲のサイズのシリコン結晶を含むシリコンのことを称するものである。「多孔質シリコン」は、エッチングまたは他の方法で処理することによって多孔質構造を形成したシリコンのことを称するものである。
【0014】
本明細書で使用する場合には、「操作可能に結合された」とは、装置および/またシステムの2以上のユニットの間に機能的な相互作用が存在することを意味する。たとえば、ラマン検出装置は、コンピュータが、検出装置によって検出されたラマン信号についてのデータを得て処理し、格納および/または伝送することができれば、コンピュータに「操作可能に結合」されている。
【0015】
多孔質基体
本発明で開示する方法のいくつかでは、1種以上の金属、たとえばラマン活性金属の均一な層で、多孔質基体を被覆する。本発明で開示する多孔質基体は、多孔質シリコン基体であるが、請求の範囲で請求する主題は、こうした実施例に限定されるものではない。本発明に開示する方法、システム、および/または装置では、熱の適用に対して耐性の任意の多孔質基体を使用することができる。約300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、または1,000℃の熱を加えることを想定している。多孔質基体は、剛固であっても、可撓性であってもよい。使用可能な各種の多孔質基体が公知であり、たとえば、多孔質シリコン、多孔質ポリシリコン、多孔質金属グリッド、および多孔質アルミニウムが使用可能であるが、これらに限定されるものではない。多孔質基体の製造方法の例を、下記にさらに詳述する。
【0016】
多孔質ポリシリコン基体は、公知の技術(たとえば、米国特許第6,249,080号および米国特許第6,478,974号)で製造することができる。たとえば、低圧化学蒸着(LPCVD)を使用することによって、半導体基体上に多孔質ポリシリコンの層を形成することができる。LPCVDの条件としては、たとえば、圧力として約20パスカル、温度として約640℃、シランガス流量として約600 sccm(標準立方センチメートル)を使用することができる(米国特許第6,249,080号)。ポリシリコン層は、たとえば、HF(フッ化水素酸)を用いた電気化学的陽極酸化を用いて、または硝酸およびフッ化水素酸を用いた化学エッチングでエッチングを行うことによって、多孔質とすることができる(米国特許第6,478,974号)。通常、こうした技術によって形成した多孔質ポリシリコン層の厚さは、約1μm(マイクロメーター)以下に限定される。一方、多孔質シリコンは、通常厚さ約500μmのバルクシリコンウェーハを貫通してエッチングすることができる。
【0017】
多孔質アルミニウム基体は、公知の技術(たとえば、Cai et al., Nanotechnology, 13:627, 2002、Varghese et al., J. Mater.Res. 17:1162-1171、2002)によって製造することもできる。たとえば、ナノ多孔質酸化アルミニウムの薄膜を、電気化学アシスト自己組立プロセス(Caiら、2002)を使用して、シリコンまたは二酸化ケイ素上に形成することができる。多孔質アルミニウム膜は、熱でアニーリングして、均一性を向上することができる(Caiら、2002)。また、固体アルミニウムの薄層を、希蓚酸および/または硫酸溶液中で電気化学的に陽極酸化して、ナノ多孔質アルミナ膜を形成することもできる(Vargheseら、2002)。本発明に開示する実施例は、本発明を限定するものではなく、任意の公知の種類の耐熱性多孔質基体を使用することができる。こうした多孔質基体には、本発明に開示する方法で、1種以上の金属、たとえば銀を均一に含浸させることができる。
【0018】
ナノ結晶多孔質シリコン
ナノ結晶シリコン
ここで開示する特定の典型的な装置は、1層以上のナノ結晶シリコンを含むことができる。当技術分野においては、ナノ結晶シリコンを製造する各種の方法が公知である(たとえば、Petrova-Kochら, “Rapid-thermal-oxidized porous silicon-the superior photoluminescent Si”, Appl. Phys. Lett. 61:943, 1992、Edelbergら, “Visible luminescence from nanocrystalline silicon films produced by plasma enhanced chemical vapor deposition”, Appl. Phys. Lett., 68:1415-1417, 1996、Schoenfeldら, “Formation of Si quantum dots in nanocrystalline silicon”, Proc. 7th Int. Conf. on Modulated Semiconductor Structures, Madrid, pp. 605-608, 1995、Zhaoら, “Nanocrystalline Si: a material constructed by Si quantum dots”, 1st Int. Conf. on Low Dimensional Structures and Devices, Singapore, pp. 467-471, 1995、Lutzenら, Structural characteristics of ultrathin nanocrystalline silicon films formed by annealing amorphous silicon, J. Vac. Sci. Technology B 16:2802-05, 1998、米国特許第5,770,022号、米国特許第5,994,164号、米国特許第6,268,041号、米国特許第6,294,442号、米国特許第6,300,193号)。本発明で開示する方法および装置は、ナノ結晶シリコンの製造方法によって限定されるものではなく、任意の公知の方法を使用しうるものである。
【0019】
ナノ結晶シリコンの製造方法の例としては、ケイ素リッチな酸化物へのケイ素(Si)の打込みおよびアニーリング、金属核生成触媒を用いた固相結晶化、化学蒸着、PECVD(プラズマ化学蒸着(plasma enhanced chemical vapor deposition)、ガス中蒸発法、気相熱分解、気相光熱分解、電気エッチング、シランおよびポリシランのプラズマ分解、高圧液相酸化還元反応、アモルファスシリコン層の急速アニーリング、LPCVD(低圧化学蒸着)を使用したアモルファスシリコン層の堆積とRTA(急速熱アニール)の繰り返し、シリコン陽極を使用したプラズマ電気アーク堆積と堆積したシリコンのレーザーアブレーション(米国特許第5,770,022号、米国特許第5,994,164号、米国特許第6,268,041号、米国特許第6,294,442号、米国特許第6,300,193号)があるが、これらに限定されるものではない。方法に応じて、粒径が1〜100 nmまたはそれ以上のSi結晶を、チップ上の薄層、チップとは別の層、および/または凝集した結晶として形成することができる。特定の方法および装置では、基体層に結合したナノ結晶シリコンの薄層を使用することができる。
【0020】
請求の範囲に記載されている方法および装置において、ナノ結晶シリコンを使用することを想定している。しかし、方法および装置は、出発原料の組成に関して限定されているわけではなく、別の方法および装置では、ラマン感受性の金属で被覆しうる多孔質の基体を形成可能であるという条件さえ満たせば、他の原料を使用することも想定している。
【0021】
シリコン結晶の粒径および/または形状、および/または多孔質シリコンの孔径を、たとえば、金属被覆多孔質シリコンのプラズモン共鳴周波数を最適化する目的で、所定の範囲内となるよう選択することができる(たとえば、米国特許第6,344,272号を参照のこと)。プラズモン共鳴周波数は、多孔質シリコンを被覆する金属層の厚さを制御することによって、調整することができる(米国特許第6,344,272号)。ナノスケールのシリコン結晶の粒径を制御する方法は、公知である(たとえば、米国特許第5,994,164号および米国特許第6,294,442号)。
【0022】
多孔質シリコン
特定の請求の範囲に記載されている方法および装置は、ラマン活性、金属で被覆した基体の使用に関係する。基体は、ナノ結晶多孔質シリコンを含む。上述したように、基体は、純粋なケイ素に限定されているわけではなく、窒化ケイ素、ゲルマニウムおよび/またはチップの製造で公知の他の物質を含んでいてもよい。他の微量の物質、たとえば、金属核生成触媒および/またはドーパントが含まれていてもよい。基体材料に唯一要求されるのは、ラマン感受性金属で被覆しうる多孔質基体を形成可能であるという点である。多孔質シリコンは、表面積が大きく(783m2/cm3以下)、表面増強ラマン分光分析で利用できる表面が極めて広い。
【0023】
多孔質シリコンは、1950年代後半に、希フッ化水素酸溶液中でシリコンを電解研磨することによって見出されたものである。当技術分野においては公知のように、多孔質シリコンは、シリコン基体を、電気化学的電池中で希フッ化水素酸(HF)でエッチングすることによって製造でき、場合によっては、シリコンを、HF中で、低い電流密度で、初期的にエッチングしておくこともできる。この場合、初期孔の形成後、シリコンを電気化学的電池から取り出し、極めて希薄なHF中でエッチングして、電気化学的電池中で形成した孔を広げる。シリコン基体の組成も、シリコンのドーピングの有無、ドーパントの種類、ドーピングの程度に応じて、孔径に影響する。ドーピングがシリコン孔径に対して及ぼす影響は、当技術分野において公知である。大型の生体分子の検出および/または同定については、約2 nm〜100または200 nmの孔径を選択することができる。多孔質シリコン中の孔の向きも選択することができる。たとえば、1,0,0結晶構造をエッチングする場合には、結晶と直交する向きの孔を形成し、1,1,1または1,1,0結晶構造の場合には、結晶軸に対して斜行する向きの孔を形成することになる。結晶構造が、孔の向きに対して及ぼす影響は、当技術分野においては公知である。結晶の組成および空孔率を制御して多孔質シリコンの光学特性を変化させ、ラマン信号を増強させ、背景ノイズを低減することもできる。多孔質シリコンの光学特性は、等技術分野において周知である(たとえば、Cullisら, J. Appl. Phys. 82:909-965、1997、Collinsら、Physics Today 50:24-31、1997)。
【0024】
図1は、多孔質シリコン基体を製造する方法および装置100の例を示すが、方法および装置は、この例に限定されるものではない。シリコンウェーハ110を、不活性材料、たとえばテフロン(登録商標)などからなる電気化学的電池120の内部に載置する。ウェーハ110を、定電流源の正極に接続して、電気化学的電池120の陽極110を形成する。定電流源130の負極を、陰極140、たとえば白金陰極140に接続する。電気化学的電池120には、希薄な電解溶液として、HF150のエタノール溶液を充填する。HF150は、当技術分野において公知の他のアルコールおよび/または界面活性剤、たとえばペンタンまたはヘキサンに溶解することもできる。コンピュータを、定電流源130に作動可能なかたちで接続して、電流、電圧、および/または電気化学的エッチングの時間を調整することができる。電気化学的電池120中でHF電解液150と接触したシリコンウェーハ110は、エッチングされて、多孔質シリコン基体110が形成される。当技術分野においては公知のように、多孔質シリコン層の厚みとシリコンの空孔率の程度は、陽極酸化の時間および/または電流密度と電解液中のHF150の濃度とを調整することによって制御することができる(たとえば、米国特許第6,358,815号)。
【0025】
シリコンウェーハ110の一部を任意の公知のレジスト化合物、たとえばポリメチルメタクリレートで覆うことによって、HF150によるエッチングから保護することもできる。シリコンウェーハ110の選択部分をHF150と接触させてエッチングを行う際に使用しうるリソグラフィー法、たとえばフォトリソグラフィーは、当技術分野において周知である。選択的エッチングは、ラマン分光分析に使用する多孔質Siチャンバの寸法および形状を制御する目的で利用することができる。いくつかの適用のために、直径約1μmの多孔質シリコンチャンバを使用する。別の適用では、幅約1μmの多孔質シリコンの溝またはチャネルを使用する。多孔質シリコンチャンバの寸法には制限がなく、任意の寸法および形状の多孔質シリコンチャンバの利用を想定している。たとえば、励起レーザの寸法が1μmである場合には、チャンバーの寸法として1μmが有用である。
【0026】
多孔質シリコン基体を製造する方法は、上述の例に限られるものではなく、当技術分野において公知の任意の方法を利用して製造できる。多孔質シリコン基体の製造方法の例としては、シリコンウェーハの陽極エッチング、電気メッキ、ケイ素/酸素含有材料を堆積してから、制御されたアニーリングを行う方法(たとえば、Canham, “Silicon quantum wire array fabrication by electrochemical and chemical dissolution of wafers”, Appl. Phys. Lett. 57:1046、1990、米国特許第5,561,304号、米国特許第6,153,489号、米国特許第6,171,945号、米国特許第6,322,895号、米国特許第6,358,613号、米国特許第6,358,815号、米国特許第6,359,276号)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。1以上の支持層、たとえば、バルクシリコン、石英、ガラスおよび/またはプラスチックに多孔質シリコン層を設層することができる。エッチング停止層、たとえば窒化ケイ素の層を使用して、エッチングの深さを制御することができる。多孔質シリコン層は、公知のチップ製造方法を使用することによって、半導体チップに組み込むこともできる。金属被覆多孔質シリコンのチャンバを、各種のチャネル、マイクロチャネル、ナノチャネル、ミクロ流体チャネル、反応チャンバなどと接続された一体のチップの一部として設計することもできる。金属被覆多孔質シリコンのチャンバをシリコンウェーハから切り出して、チップおよび/または他の素子に組み込むこともができる。
【0027】
金属による被覆を行う前または後に、多孔質シリコン基体をさらに修飾することも想定している。たとえば、エッチングの後で、当技術分野において公知の方法を使用して多孔質シリコン基体を酸化して、酸化ケイ素および/または二酸化ケイ素とすることができる。酸化は、たとえば、多孔質シリコン基体の機械的強さと安定性を増すために使用できる。また、金属被覆シリコン基体をさらにエッチングし、シリコン材料を取り除いて金属シェルを残すこともでき、この金属シェルは、空洞状態のままとしても、他の物質、たとえば別のラマン活性金属で充填してもよい。
【0028】
多孔質シリコンの金属被覆
多孔質シリコン基体は、当技術分野において公知の任意の方法によって、ラマン活性金属、たとえば金、銀、白金、銅、またはアルミニウムで被覆する。被覆方法の例としては、これらに限定されるものではないが、電気メッキ、陰極エレクトロマイグレーション、金属の蒸着およびスパッタリング、メッキを触媒するにあたってのシード結晶の利用(すなわち、金メッキへの銅/ニッケルシードの利用)、イオン打ち込み、拡散をはじめとするシリコン基体に金属の薄層をメッキするうえで当技術分野において公知の任意の方法が挙げられる(たとえば、LopezおよびFauchet, “Erbium emission form porous silicon one-dimensional photonic band gap structures”, Appl. Phys. Lett. 77: 3704-6、2000、米国特許第5,561,304号、米国特許第6,171,945号、米国特許第6,359,276号を参照されたい)。金属被覆の別の例としては、無電解メッキが挙げられるが(たとえば、Goleら, “Patterned metallization of porous silicon from electroless solution for direct electrical contact”, J. Electrochem. Soc. 147:3785, 2000)、金属被覆はこれらに限定されるものではない。金属層の組成および/または厚みを制御して、金属被覆多孔質シリコンのプラズモン共鳴周波数を最適化することができる。
【0029】
分析対象物質の検出に使用するラマン活性基体は、金属被覆ナノ結晶多孔質シリコン基体、各種の基体に金属コロイド、たとえば銀または金ナノ粒子を固定化したもの、および/または金属被覆ナノ結晶多孔質シリコン基体にさらに金属コロイドを固定化したものとすることができる。後者の組成物は、極めて高密度のラマン活性金属を有しており、溶液中の分析対象物質が基体に入る際のチャネルが比較的小さい。こうした構成は、大型の分析対象物質分子、たとえば大型のタンパク質または核酸には不向きであるものの、小型の分析対象物質、たとえば、単一のヌクレオチドまたはアミノ酸の場合には、感度が上昇し、よりよい検出結果が得られる。金属コロイドは、以下に記載するナノ粒子の形状とすることができる。
【0030】
ヒ素で陽極酸化した多孔質シリコンは、金属イオンに対する穏やかな還元剤として機能することにより、多孔質領域の表面の金属の自発浸漬メッキを開始して、孔の開口部を閉じることが知られている。したがって、標準的な金属含浸法を使用する場合には、金属の厚さ方向の分布を均一とし、同時に、開口した多孔質表面を維持することは困難である。非閉塞状態の孔と金属の侵入深さとの間のトレードオフがあり、この点については以下のように説明できる。より良い金属の厚さ方向の分布を得るためには、金属イオンの濃度を高くすることが必要である。一方、高濃度の金属塩溶液と接触すると、自発的な浸漬被覆反応による厚い金属フィルムの堆積によって、孔が閉塞してしまう。開口した孔を保つためには、溶液の金属イオン濃度を低くする必要がある。しかし、この場合には、侵入深さが不十分となり、沈殿する金属の量が低減してしまう。この問題は、孔を目詰まりすることなく金属をより均一に堆積させることが可能な本発明で開示する方法によって解決することができる。
【0031】
金属塩の熱分解による金属被覆
図4に示すように、多孔質シリコン基体410は、金属塩層440の熱分解を含む方法によって、金属450、たとえばラマン感受性金属450によって均一に被覆することができる。金属450は、銀、金、または他のラマン活性金属とすることができる。多孔質シリコン基体410(図4A)は、たとえば上述したようにして得ることができる。早期な金属450の堆積と孔の閉塞を防止するために、シリコンの表面層を、たとえば、化学的酸化またはプラズマによる酸化によって酸化して、二酸化ケイ素420とすることができる(図4B)。酸化を行うと、多孔質シリコン表面420が安定化され、自発的な浸漬被覆が防止される。酸化を行わなかった場合には、正に帯電した銀の陽イオンが非酸化シリコン410との酸化還元反応を生じて、銀金属450の自発的堆積を生じる場合がある。
【0032】
酸化の後、多孔質シリコン基体410を、金属塩溶液430、たとえば、硝酸銀(AgNO3)の1M溶液で湿潤させる(図4C)。非限定的な実施例では、酸化した多孔質シリコン基体410を、硝酸銀溶液430に20分間、各孔が硝酸銀溶液430で完全に湿潤されるまで浸漬する。過剰の金属塩溶液を、たとえば、窒素ガン乾燥によって除去する(図4D)。孔中に残っている溶液430は(図4E)、たとえば、100℃に20分間加熱することによって乾燥することができる。この時点で、溶剤は蒸発し、乾燥硝酸銀塩440の薄層が、多孔質シリコン410表面に堆積している。乾燥塩440は、たとえば、大気圧の炉中で500℃に30分間加熱することによって、熱的に分解することができる(図4F)。式1の反応は、573°K(約300℃)を超える温度で自発的に進行する。硝酸イオンは、式1にしたがって気体状の二酸化窒素に転化され、多孔質シリコン基体410を被覆する金属状の銀の均一な層450が堆積する(図4F)。二酸化窒素は、フォトエッチング剤として使用されているが、ここに開示する方法で用いる条件では、二酸化窒素は、二酸化ケイ素層420をエッチングしない。
AgNO3 → Ag(固体) + NO2(気体) + 1/2O2(気体) (1)
【0033】
堆積する金属層450の厚さは、たとえば、金属塩溶液430の濃度を変化させることによって制御することができる。堆積する金属層450の厚さに応じて、塩溶液430の濃度を、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.25、1.5、1.75、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5〜5.0M(モル濃度)の広範な範囲で変化させることができる。例示する方法では銀溶液430を使用しているが、本方法は銀450の堆積に限定されるものではなく、金、銅、白金、アルミニウムなどのラマン活性金属などを含むがこれに限定されるものではない任意の公知の金属450を包含するものである。本方法は、使用する塩の種類に関しても限定されるものではない。金属塩の形成に使用する陰イオンの種は、熱分解プロセスの間に気体の種に転換されて排除されるようなもの、たとえば、硝酸または硫酸イオンとする。しかし、それら以外にも、限定されるることのない任意の陰イオンの種が使用可能である。
【0034】
マイクロ流体含浸をによる金属被覆
別の方法では、多孔質膜、たとえば多孔質シリコン膜を、マイクロ流体含浸を用いることによって、金属で被覆することができる。製造方法の一例では、多孔質シリコン膜を、上述のようにして形成することができる。多孔質シリコン層を電解研磨して、溶液中に浮遊させることができる。電解研磨膜を、互いに交叉流路で連結された1以上の溶剤溜めと廃液溜めの間のマイクロ流体の流路に挿入することができる。こうしたマイクロ流体流路の形成は、当業界で公知の任意の方法、たとえば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、標準的なリソグラフィー法、またはフォトリソグラフィーでのマイクロ成形、各種チップ材料のエッチングによって行うことができる(たとえば、Duffy et al., Anal. Chem. 70:4974-84, 1998)。多孔質シリコン膜は、任意のタイプのマイクロ流体システムに組み込むことができる。多孔質シリコン膜を組み込むマイクロ流体システムは、タンパク質および核酸を含むがこれに限定されるものではないポリマーの分析および/または分離に関する多種多様な用途で、利用できる可能性がある。ミクロおよび/またはナノスケールの製造方法は、以下で詳述するように当業社に公知である。
【0035】
金属塩溶液、たとえば硝酸銀溶液は、溶剤溜めを通して導入し、多孔質シリコン膜を通過させ、廃液溜めまで流下させることができる。この過程では、式2に示す自発的反応が生じる。
Ag+(水溶液) + Si(表面) + 2H2O(液体) → Ag(固体) + H2(気体) + SiO2(表面) + 2H+ (2)
【0036】
式2に示すように、金属の水溶液は、自発的に多孔質シリコン表面と反応して、酸化還元反応を生じ、多孔質シリコン上に金属被覆を堆積させる。金属被覆の厚さは、溶液の金属塩濃度、マイクロ流体流路を通過する流速、温度、および/または溶液が膜を通過する時間の長さによって制御することができる。こうした金属被覆反応を制御する技術は、当業者に公知である。
【0037】
この方法は銀溶液に限定されず、ラマン活性金属、たとえば金、白金、アルミニウム、銅などを含むがこれに限定されるものではない他の金属塩の溶液を用いて実施することもできる。さらに別の方法では、多孔質シリコン膜を、異なった金属被覆液の入った複数の溶剤溜めを使用することによって、2種以上の異なる金属で被覆することもできる。1以上の溜めには、過剰な金属被覆液を除去するための洗浄液を入れておいてもよい。複数の金属による被覆は、金属被覆多孔質シリコン膜の電気的特性、光学的特性、および/またはラマン表面特性、たとえばラマン信号による表面増強の度合い、共鳴が生じる表面からの距離、ラマン共鳴波長の範囲などを制御するために使用することができる。
【0038】
本発明で開示する方法を用いると、マイクロ流体の流路に組み込まれた金属被覆多孔質シリコン膜が形成される。こうした一体化されたマイクロチップは、ラマン検出システムに直接使用することができる。標的分子を含むことが想定される1以上のサンプルを、対応する溶剤溜めに入れ、サンプルを、マイクロ流体の流路を通して金属被覆膜に流入させることができる。膜に入ったら、標的分子を、励起光源、たとえばレーザーによって励起することができる。放出されたラマン信号を、以下で詳述するように、ラマン検出装置で検出することができる。分析を終えたら、サンプルを除去して廃液溜めに送り、膜を洗浄し、次のサンプルを分析することができる。ラマン検出システムは、ラマン検出装置、励起光源のような当業者に公知の各種部品を備えるものとすることができ、また、分析対象物質のラマン検出を最適化すべくシステムに完全に一体化されるよう設計された特注部品を備えることもできる。
【0039】
ナノ粒子
ラマン活性金属粒子、たとえば金または銀ナノ粒子を金属被覆多孔質シリコン基体に加えて、ラマン信号を増強することができる。粒径が1 nm〜2μmのナノ粒子を使用することができる。あるいは、粒径が2 nm〜1μm、5 nm〜500 nm、10 nm〜200 nm、20 nm〜100 nm、30 nm〜80 nm、40 nm〜70 nm、または50 nm〜60 nmのナノ粒子を想定している。平均径が10〜50 nm、50〜100 nm、または約100 nmのナノ粒子も想定している。ナノ粒子の粒径は、金属被覆多孔質シリコン中の孔径に応じて決まり、ナノ粒子が孔に嵌合するように選択することができる。ナノ粒子は、ほぼ球状の形状とすることができるが、任意の形状または、不規則な形状のナノ粒子を使用することもできる。ナノ粒子の製造方法は、公知である(たとえば、米国特許第6,054,495号、米国特許第6,127,120号、米国特許第6,149,868号、LeeおよびMeisel, J. Phys. Chem. 86:3391-3395, 1982)。ナノ粒子は、ナノプリズムの形状として製造することもできる(Jinら, “Photoinduced conversion of silver nanospheres to nanoprisms”, Science 294:1901、2001)。ナノ粒子は、市販のソースから得ることもできる(たとえば、Nanoprobes Inc.、Yaphank、N.Y.、Polysciences、Inc.、Warrington、PA.)。
【0040】
ナノ粒子は、ナノ粒子(コロイドナノ粒子)のランダムな凝集体とすることもできる。あるいは、ナノ粒子を架橋させて、ナノ粒子の同定の凝集体、たとえば二量体、三量体、四量体、または他の凝集体とすることもできる。ナノ粒子凝集体の不均一または均一な母集団の凝集体の不均一な混合物を使用することができきる。選択された数のナノ粒子(二量体、三量体等)を含む凝集体を、公知の方法、たとえばショ糖勾配溶液中での超遠心によって濃縮または精製することができる。
【0041】
ナノ粒子を架橋する方法は、当技術分野において公知である(たとえば、Feldheim, “Assembly of metal nanoparticle arrays using molecular bridges”, The Electrochemical Society Interface、Fall、2001、pp. 22-25を参照されたい)。金ナノ粒子の、末端チオールまたはスルフヒドリル基を持つリンカー化合物との反応は公知である(Feldheim、2001)。単一のリンカー化合物の両端をチオール基で変性することができる。リンカーは、金ナノ粒子と反応すると、リンカーの長さを隔てたナノ粒子の二量体を形成することになる。もしくは、3、4、またはそれ以上のチオール基を持つリンカーを使用して、複数のナノ粒子に同時に結合することができる(Feldheim、2001)。リンカー化合物化合物に対して過剰なナノ粒子を使用すると、複数の架橋が形成されて、ナノ粒子が沈殿することを防止できる。銀ナノ粒子の凝集体は、当技術分野において公知の標準的な合成法によって形成することができる。
【0042】
金または銀のナノ粒子を、変性シラン、たとえばアミノシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)、またはアミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)で被覆することができる。シランの末端の反応基を使用して、架橋凝集体を形成することができる。使用するリンカー化合物の長さは、約0.05、0.1、0.2、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、27、30、35、40、45、50、55、60、65、70、80、90〜100 nmまたはそれ以上の範囲のほぼ任意の長さとすることができる。異なった長さのリンカーを使用することができる。
【0043】
リンカー化合物に結合させる前に、ナノ粒子を変性して、各種の反応基を含有させておくことができる。変性ナノ粒子は市販されており、たとえば、Nanoprobes、Inc. (Yaphank、N.Y.)からは、ナノゴールド(Nanogold)(登録商標)ナノ粒子が販売されている。ナノゴールド(登録商標)ナノ粒子は、ナノ粒子1個あたり、単数または複数のマレイミド、アミン、または他の基が結合したものを入手することができる。ナノゴールド(登録商標)ナノ粒子は、電界内でナノ粒子を操作しやすいように、正または負に帯電させた形態のものも入手することができる。こうした改質ナノ粒子は、各種の公知のリンカー化合物に結合させることにより、ナノ粒子の二量体、三量体、または他の凝集体を得ることができる。
【0044】
使用するリンカー化合物の種類は、溶液中で沈殿することのないナノ粒子の小型凝集物を生じるものであれば、特に限定されない。例えば、リンカー基は、フェニルアセチレンポリマーを含むことができる(Feldheim、2001)。また、リンカー基は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ポリエチレン、または他の公知のポリマーを含むこともできる。有用なリンカー化合物は、ポリマーに限定されず、もっと別の種類の分子、たとえば、シラン、アルカン、変性シラン、または変性アルカンとすることもできる。特に、比較的単純な化学構造のリンカー化合物、たとえばアルカンまたはシランを使用して、分析対象物質が発するラマン信号との干渉を避けることもできる。
【0045】
微小電気機械システム(MEMS)
ラマン活性金属被覆多孔質シリコン基体を、比較的大型の装置および/またはシステムに組み込むことができる。例えば、基体は、微小電気機械システム(MEMS)に組み込むこともできる。MEMSは、機械的部品、センサー、アクチュエータ、および電子部品を含む集積システムである。これらの構成部品は、いずれも、シリコンベースまたは同等の基体を含む共通のチップ上に、公知のミクロ製造技術によって製造することができる(たとえば、Voldmanら、Ann. Rev. Biomed. Eng. 1:401-425、1999)。MEMSのセンサー部品を使用することにより、機械的、熱的、生物学的、化学的、光学的および/または磁気的な現象を測定できる。電子部品は、センサーからの情報を処理して、ポンプ、弁、ヒーター、クーラー、フィルターなどのアクチュエータ部品を制御することにより、MEMSの機能を制御できる。
【0046】
MEMSの電子部品は、集積回路(IC)に用いるプロセスを使用することによって製造することができる(たとえば、CMOS、バイポーラ、またはBICMOSに用いるプロセス)。電子部品は、コンピュータ・チップの製造で公知のフォトリソグラフィー法およびエッチング法を使用することによって、パターン形成することができる。マイクロメカニカルな電子部品は、それぞれに適合した「微細加工」プロセスを使用して、シリコンウェーハの一部を選択的にエッチングして取り除き、または新たな構造的な層を加えて、機械的および/または電気機械的な構成部品を形成するすることによって製造することができる。
【0047】
MEMSの製造に用いる基本的な技術は、材料の薄膜を基体上に堆積し、フォトリソグラフィーによるイメージングをはじめとするリソグラフィーの方法で、この薄膜上にパターニングしたマスクを載置し、フィルムを選択的にエッチングする工程を含むものである。薄膜の厚さは、数ナノメーター〜100マイクロメーターの範囲とすることができる。有用な堆積技術としては、化学蒸着(CVD)、電着、エピタキシー、および熱酸化のような化学的方法と、物理蒸着法(PVD)および鋳造のような物理的方法がある。ナノ電気化学装置の製造に用いる方法は、本発明の特定の態様に利用できる(たとえば、Craighead、Science 290:1532-36、2000を参照されたい)。
【0048】
金属被覆多孔質シリコン基体を、各種の流体を充填した区画、たとえば、ミクロ流体チャネル、ナノチャネルおよび/またはマイクロチャネルと接続することができる。装置のこれらの構成部品および他の構成部品は、単一ユニット、たとえば、半導体チップおよび/またはミクロキャピラリーまたはミクロ流体用チップとして公知のチップ形状として形成することができる。また、金属被覆多孔質シリコン基体をシリコンウェーハから取り出して、装置の他の構成部品に結合することもできる。本発明に開示する装置では、この種のチップに使用することが公知の任意の材料を使用することができ、こうした材料としては、ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、プラスチック、ガラス、石英が挙げられる。
【0049】
チップをバッチ製造する技術は、コンピュータ・チップの製造および/またはミクロキャピラリー・チップの製造分野では周知である。こうしたチップは、当技術分野において公知の任意の方法、たとえば、フォトリソグラフィーおよびエッチング、レーザアブレーション、射出成形、鋳造、分子ビームエピタキシー、ディップ・ペン・ナノリソグラフィー、化学蒸着(CVD)による製造、電子ビームまたは集束イオンビーム技術、またはインプリンティング技術によって製造することができる。こうした方法の例としては、流動性で光学的透明性を有する材料、たとえばプラスチックまたはガラスを用いた通常の成形、二酸化ケイ素のフォトリソグラフィーおよびドライエッチング、ポリメチルメタクリレートのレジストを使用した電子ビームリソグラフィーにより二酸化ケイ素基体上のアルミニウムマスクにパターンを形成し、その後反応性イオンエッチングを行う方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の特定の態様には、ナノ電気機械システムの製造方法を使用することができる(たとえば、Craighead、Science 290:1532-36、2000を参照されたい)。各種形状のミクロ製造チップが、市販されており、たとえば、Caliper Technologies Inc. (Mountain View、CA)およびACLARA BioSciences Inc. (Mountain View、CA)から入手可能である。
【0050】
装置の一部または全部を、ラマン分光分析に使用する励起周波数および発光周波数の電磁放射線に対して透明となるよう、たとえば、ガラス、シリコン、石英、または他の任意の光学的透明性を有する材料から選択することができる。各種の生体分子、たとえばタンパク質、ペプチド、核酸、ヌクレオチドなどと接触する可能性のある流体充填区画については、そうした分子と接触する表面を、コーティングによって改質することができ、たとえば、疎水性の表面を親水性の表面に改変したり、および/または分子の表面への吸着を低減したりすることができる。一般的なチップ材料、たとえばガラス、シリコン、石英、および/またはPDMSの表面改質は、当技術分野において公知である(たとえば、米国特許第6,263,286号)。こうした改質の例としては、これらに限定されるものではないが、市販の毛管コーティング剤(Supelco、Bellafonte、PA)、官能基、たとえばポリエチレンオキシドまたはアクリルアミドを有するシラン、または当技術分野において公知の他の任意のコーティング剤を用いたコーティングが挙げられる。
【0051】
ラマン分光分析
本発明で開示する方法、システム、および装置は、表面増強ラマン分光分析(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光分析(SERRS)、および/またはコヒーレント反ストークスラマン分光分析(CARS)での検出によって分析対象物質を検出および/または同定する際に使用することができる。従来の技術と比べて、本発明で開示する方法、システム、および装置は、金属密度がより高く、より均一で、SERS増強の被写界深度が高いSERS活性基体を提供するので、分析対象物質のラマン検出および/または同定を、より効率的に行うことができる。
【0052】
各種の分析対象物質をSERSによって検出する従来の方法では、コロイド状金属粒子、たとえば凝集銀ナノ粒子が使用されてきており、こうしたコロイド状金属粒子は、通常、基体および/または担体に被覆されていた(たとえば、米国特許第5,306,403号、6,149,868号、6,174,677号、6,376,177号)。こうした配置でも、場合によっては、感度を106〜108も上昇させてSERSによる検出を行うことができるものの、こうした方法では、本明細書で開示するようなヌクレオチドなどの小型分析対象物質を単一分子のレベルで検出することはできない。ラマン検出感度は、もちろん、凝集したコロイド粒子内で均一に増強されるわけではなく、「ホットスポット」の存在に左右される。こうしたホットスポットの物理的構造、感度の増強が生じる金属ナノ粒子からの距離範囲、感度の増強が可能となる凝集したナノ粒子と分析対象物質の間の空間的関係は、調べられていない。また、凝集した金属ナノ粒子は、単一分子の検出の再現性における悪影響で溶液中では不安定である可能性がある。本発明の方法、システム、および装置は、ラマン活性金属多孔質基体の物理的コンホメーションおよび密度を精密に制御することができるSERS検出のための安定した微小環境を提供するものであり、溶液中での分析対象物質の再生可能で高感度で正確な検出が可能となっている。
【0053】
ラマン検出
分析対象物質を、ラマン分光分析の任意の公知の方法で検出および/または同定することができる。ラマン活性基体の標的を、ラマン検出ユニットと作動可能なかたちで接続することができる。ラマン分光分析によって分析対象物質を検出する各種の方法が、当技術分野において公知である(たとえば、米国特許第6,002,471号、米国特許第6,040,191号、米国特許第6,149,868号、米国特許第6,174,677号、米国特許第6,313,914号を参照されたい)。表面増強ラマン分光分析(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光分析(SERRS)、ハイパーラマン分光分析、およびコヒーレント反ストークスラマン分光分析(CARS)の改変例が開示されている。SERSおよびSERRSでは、ラマン検出の感度は、粗面化金属表面、たとえば銀、金、白金、銅、またはアルミニウム表面に吸着された分子については、106倍以上増強される。
【0054】
ラマン検出ユニットの例は、米国特許第6,002,471号に開示されているが、これらに限定されるものではない。励起光を、波長532 nmの第2高調波Nd:YAGレーザまたは、波長365 nmの第2高調波Ti:サファイアレーザで生成する。パルス状レーザビームまたは連続レーザビームを使用することができる。励起光は、共焦点光学系と顕微鏡の対物レンズを通過して、1種以上の分析対象物質を含むラマン活性基体の標的に集束される。分析対象物質から発せられたラマン光は、顕微鏡の対物レンズと共焦点光学系で集められ、モノクロメータに接続されて、スペクトル別に分けられる。共焦点光学系は、背景信号を低減させるために、二色フィルター、バリアフィルター、共焦点ピンホール、レンズ、ミラーの組み合わせを備えている。標準的な全視野光学系を使用することも、共焦点光学系を使用することもできる。ラマン発光信号は、コンピュータとインタフェースさせたアバランシェ光ダイオードと、このダイオードとインタフェースさせた、信号を計数してデジタル化するコンピュータとを備えたラマン検出装置によって検出される。
【0055】
ラマン検出ユニットの別の例は、米国特許第5,306,403号に開示されており、このユニットは、単光子計数モードで運転されるガリウム・ヒ素光電子増倍管(RCAのC31034型またはBurle IndustriesのC3103402型)が搭載されたSpexの1403型ダブル・グレーティング分光器を備えている。励起源は、SpectraPhysicsの166型のアルゴンイオンレーザの514.5 nmのライン、およびクリプトンイオンレーザ(Innova 70、Coherent)の647.1 nmのラインを含む。
【0056】
別の励起源としては、337 nmの窒素レーザ(Laser Science Inc.)および325 nmのヘリウム・カドミウムレーザ(Liconox)(米国特許第6,174,677号)、発光ダイオード、Nd:YLFレーザ、および/または各種のイオンレーザおよび/または色素レーザが挙げられる。励起光は、帯域フィルタ(Corion)でスペクトルを純化し、6倍の対物レンズ(Newport、Model L6X)を使用してラマン活性基体標的に集束させることができる。対物レンズは、ホログラフィックビームスプリッタ(Kaiser Optical Systems、Inc.、Model HB 647-26N18)を使用して、励起光および生成したラマン信号の直角の幾何関係を生成することにより、分析対象物質を励起させる際と、ラマン信号を集める際の双方で使用することができる。ホログラフィックノッチフィルター(Kaiser Optical Systems、Inc.)を使用して、レイリー散乱放射線を減らすこともできる。別のラマン検出装置としては、赤色強調インテンシファイド電荷結合素子(RE-ICCD)検出システム(Princeton Instruments)を備えたISA HR-320分光器が挙げられる。さらに別の検出装置、たとえば、フーリエ変換分光装置(Michaelsonの干渉計をベースとしたもの)、電荷注入装置、光ダイオード・アレイ、InGaAs検出装置、電子増幅CCD、インテンシファイドCCDおよび/またはフォトトランジスタ・アレイを使用することもできる。
【0057】
分析対象物質の検出には、当技術分野において公知のラマン分光分析または関連技術の任意の適当な形式または配置を使用することができる。例としては、通常のラマン散乱、共鳴ラマン散乱、表面増強ラマン散乱、表面増強共鳴ラマン散乱、コヒーレント反ストークスラマン分光分析(CARS)、誘導ラマン散乱、逆ラマン分光分析、誘導利得ラマン分光分析、ハイパーラマン散乱、分子光レーザ検査装置(MOLE)またはラマンマイクロプローブ法またはラマンマイクロスコピーまたは共焦点ラマンマイクロ分光分析、三次元または走査ラマン、ラマン飽和分光法、時間分解共鳴ラマン、ラマンデカップリング分光分析またはUV-ラマンマイクロスコピーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
ラマン標識
特定の方法では、ラマン検出ユニットでの分析対象物質の測定を行いやすいように、1種以上の分析対象物質に標識を付す。ラマン分光分析に使用しうる標識の例としては、これらに限定されるものではないが、TRIT(テトラメチルローダミンイソチオール)、NBD(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール)、テキサスレッド染料、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、クレシルファストバイオレット、クレシルブルーバイオレット、ブリリアントクレシルブルー、パラアミノ安息香酸、エリスロシン、ビオチン、ジゴキシゲニン、5-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン、5-カルボキシ-2',4',5',7'-テトラクロロフルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン、5-カルボキシローダミン、6-カルボキシローダミン、6-カルボキシテトラメチルアミンフタロシアニン、アゾメチン、シアニン、キサンチン、スクシニフルオレセイン、アミノアクリジン、量子ドット、カーボン・ナノチューブおよびフラーレンが挙げられる。これらのラマン標識や他のラマン標識は、市販のソース(たとえば、Molecular Probes 、Eugene、OR;Sigma Aldrich Chemical Co.、St. Louis、MO)から入手しても、および/または、当技術分野において公知の方法によって合成してもよい。
【0059】
当技術分野において公知のように、多環芳香族化合物は、ラマン標識として機能しうるものである。本発明の各種の態様で有用な可能性のある標識としては、他に、シアン化物、チオール、塩素、臭素、メチル、リン、および硫黄が挙げられる。ラマン分光分析において標識を使用することは公知である(たとえば、米国特許第5,306,403号および米国特許第6,174,677号)。当業者であれば、使用するラマン標識が、識別可能なラマンスペクトルを生成する必要があり、また、各種の分析対象物質に特異的に結合または関連づけらうるものであることを理解できるはずである。
【0060】
標識は、分析対象物質に直接結合させても、各種のリンカー化合物を介して結合させてもよい。本発明で開示した方法で有用な架橋剤およびリンカー化合物は、当技術分野において公知である。他の分子、たとえば分析対象物質と共有結合によって反応するよう設計された反応基を含むラマン標識は、市販されている(たとえば、Molecular Probes (Eugene、Oreg.)).標識分析対象物質の製造方法は、公知である(たとえば、米国特許第4,962,037号、米国特許第5,405,747号、米国特許第6,136,543号、米国特許第6,210,896号)。
【実施例】
【0061】
実施例1: ラマン活性基体の構築
多孔質ナノ結晶シリコンの形成
ナノ結晶多孔質シリコンの基体110を形成する方法および装置100の具体例を図1に例示する。ナノ結晶多孔質シリコンの製法は、当技術分野において公知である(たとえば、米国特許第6,017,773号)。ナノ結晶多孔質シリコンの層は、Petrova-Kochら(Appl. Phys. Let. 61:943, 1992)に開示されているようにして、電気化学的に形成する。シリコンは、エッチングを行う前に、具体的な用途に応じてpまたはnを軽度または重度にドーピングして、多孔質シリコンの基体110の特性を調整する。単結晶シリコンインゴットは、周知のCzochralski法(たとえば、http://www.msil.ab.psiweb.com/english/msilhist4-e.html)によって製造する。単結晶シリコンウェーハ110は、希HF/エタノール150中での陽極エッチングによって処理して、ナノ結晶多孔質シリコン基体110を形成する。また、陽極エッチングを行わずに、HF溶液、硝酸および水150中で化学的エッチングを行うこともできる。
【0062】
ウェーハは、エッチングを行う前に、ポリメチルメタクリレートのレジストまたは他の任意のレジスト化合物で被覆する。ナノ結晶多孔質シリコン基体110のパターンは、標準的なフォトリソグラフィーの技術によって形成する。ナノ結晶多孔質基体110は、円状、トレンチ形状、チャネル形状をはじめとする選択した形状とする。態様によっては、複数の多孔質基体110を、単一のシリコンウェーハ110上に形成して、ラマン分析用の複数のサンプリングチャネルおよび/またはチャンバを得ることもできる。各サンプリングチャネルおよび/またはチャンバは、1以上のラマン検出装置に作動可能なかたちで接続しておく。
【0063】
レジストの被覆とリソグラフィーの後、ウェーハ110を、図1に示すように、テフロン(登録商標)製の電気化学的電池120中で、約15〜50重量%のHF150のエタノールおよび/または蒸留水への溶液と接触させる。レジストで被覆したウェーハ110の全体をHF150溶液に浸すことができる。あるいは、ウェーハ110を電気化学的電池120中で所定位置に、たとえば合成ゴム製ワッシャを使用して保持して、ウェーハ110の表面の一部のみがHF150溶液と接触するようにすることもできる(米国特許第6,322,895号)。いずれの場合も、ウェーハ110を、定電流源130の陽極に電気的に接続して、電気化学的電池120の陽極110を形成する。電池120の陰極140は、白金電極とすることができる。ウェーハ110は、選択した空孔率の程度に応じて、5〜250ミリアンペア/cm2の範囲の陽極処理電流密度を5秒〜30分間暗所で使用することによってエッチングすることができる。本発明の特定の態様では、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、または90%の空孔率を選択する。当技術分野においては公知のように、多孔質シリコン110を形成する際に必要とされる陽極処理電流密度は、使用したシリコン基体110のタイプに応じて、たとえば、基体110が軽度にドープされているのか、重度にドープされえちるのか、pでドープされているのか、nでドープされているのかといったことに応じてある程度決まる。
【0064】
ナノ結晶多孔質シリコン基体110を、公知のチップ製造技術を用いて各種の検出装置、センサー、電極、他の電気的構成部品、機械的作動部などを備えたMEMS装置に組み込むことができる。こうした製造工程を、多孔質シリコン基体110および/またはラマン感受性金属の被覆を形成する前および/または後に行うことができる。
【0065】
金属被覆
図2で図示されているように、多孔質シリコン210は、公知の技術(LopezおよびFauchet、2000)を使用して陰極エレクトロマイグレーションによって金属240で被覆することができる。本実施例では、金属被覆240として銀を使用するが、金または白金をはじめとする他の金属240を使用することもできる。多孔質シリコンの表面210を清浄にし、この表面に、LopezおよびFauchet (Appl. Phys. Lett. 75:3989, 1999)にしたがって、エレクトロマイグレーションによって銀240をドープする。多孔質シリコン基体210は銀カチオン230を含む金属イオン溶液220にさらされる。当業者であれば、多孔質シリコン基体210に金属の薄い皮膜240を形成する際に用いることのできる任意の公知の技術を使用しうることがわかるはずである。
【0066】
実施例2:熱分解による多孔質シリコンの金属被覆
図4は、金属450をナノ多孔質シリコンに均一に含浸させる方法の例を示す。多孔質シリコンの表面を酸化して、二酸化ケイ素とする(図4B)。金属塩溶液を、多孔質のマトリクス中に拡散させ(図4C)、乾燥させる(図4E)。乾燥した金属塩を孔内で熱分解して均一な金属層を形成する(図4F)。多孔質シリコン表面を酸化しておくことによって、多孔質シリコンを金属塩溶液中で十分に濡らすことが可能となり、一方、孔の閉塞を生じる自発的な浸漬被覆が防止される。乾燥金属塩は、炉内で熱分解して、純粋な金属をナノ多孔の側壁に堆積させる。ナノ多孔質シリコンの標準的な金属溶浸法では往々にして観察されるような孔の閉塞を生じることなく、ナノ多孔質シリコンを金属で均一かつ薄く被覆することができる。現在使用可能な被覆法でも、限定的な拡散しか得られず、金属の不均一な堆積が生じ、分析対象物質が金属被覆基体のどこに位置したかに依存して、分析対象物質検出の再現性が低減する可能性がある。
【0067】
多孔質構造の全体を金属で被覆するには、浸漬時間を最適化し、金属イオン濃度を高くする必要がある。こうした必要性は、多孔質シリコン表面を、金属塩溶液に接触させる前に、化学的酸化またはプラズマ酸化によって酸化しておくことで満たすことができる(図4B)。酸化を行うと、多孔質表面が安定化することにより、自発的な浸漬被覆が防止される。そのため、酸化された多孔質シリコンは、孔の閉塞を生じることなく、高濃度の金属塩溶液に浸漬することが可能となる(図4C)。過剰の金属塩溶液は、たとえば、窒素ガスを吹き付けることによって吹き飛ばすことができる(図4D)。溶剤を蒸発させて、多孔質表面の金属塩の吸収を上昇させる(図4E)。金属塩を熱分解して(図4F)、多孔質シリコン基体表面にラマン活性金属を均一に堆積させる。
【0068】
非限定的な一実施例では、多孔質シリコン基体の形成を、15%のHF溶液中で電気化学的にエッチングし、ホウ素をドーピングした結晶状態のシリコンに50 mA/cm2の電流密度を印加することによって行った。多孔質シリコン基体を、Technics酸素プラズマチャンバ中で、50 sccm(標準立方センチ)の酸素流量および300 W(ワット)の高周波電力で20分間プラズマ酸化にさらし、孔表面に、約50 Å(オングストローム)の二酸化ケイ素層を形成した。あるいは、ピラニア溶液中での化学的酸化を使用することもできる(たとえば、http://www-device.eecs.Berkeley.edu/~daewon/labweek7.pdf)。二酸化ケイ素層は、シリコンのダングリングボンドを不活性化して、迅速な浸漬被覆が生じることを防止する。
【0069】
酸化した多孔質シリコンを、1MのAgNO3溶液に室温にて20分間に浸漬し、孔を硝酸銀溶液で完全に濡らした。過剰な硝酸銀溶液を、窒素ガン乾燥で除去して、過剰な銀の堆積による孔の閉塞を防止した。100℃で20分間乾燥することによって、残存硝酸銀溶液から溶剤を除去した。この段階で、すべての溶剤が蒸発し、乾燥硝酸銀塩が孔表面に吸収され、その結果、多孔質シリコン表面が褐色となるのが観察された。
【0070】
熱分解を500℃、環境気圧で30分間実施し、その結果、乾燥硝酸銀塩が金属銀へと分解された。本発明で開示する方法を用いた結果、図5に示すように、多孔質シリコン基体の表面に金属銀がきわめて均一に形成された。図5は、ラザフォード後方散乱分光分析によって測定されたナノ多孔質シリコン上の銀の厚さプロファイルを示す。銀の厚さプロファイルを、1mMのAgNO3溶液中で2.5分にわたって通常の拡散限定浸漬被覆によって処理したナノ多孔質シリコン(図5A)と、本実施例の方法で処理したナノ多孔質シリコン(図5B)について比較した。図からわかるように、本発明の方法では、通常の方法と比べて遙かに侵入深さが深い、高度に均一な銀の堆積層が得られた(図5Aおよび図5B)。本発明の方法では、厚さ約10μm以下の均一な銀の堆積層が得られたのに対し(図5B)、通常の方法では、均一性の極めて低い厚さ3μm未満の堆積層が得られた(図5A)。走査電子顕微鏡による解析を使用してラザフォード後方散乱のデータを収集し、多孔質シリコン層の実際の厚さを測定した。
【0071】
本発明の方法を使用して銀とシリコンの分布を比較すると(図5B)、シリコンの密度が最大に達するレベルに至るまで、銀は均一に堆積されていることがわかる。すなわち、図5Bのデータからは、本発明の方法で得られる金属堆積層は、多孔質シリコン基体の孔の底部に至るまで均質に延在していることが示唆される。通常の方法を使用した場合には(図5A)、金属堆積は、孔の底部のはるかに手前で終端していることが明らかである。
【0072】
実施例3:分析対象物質のラマン検出
以上で開示したようにして形成したラマン活性金属で被覆した基体240および340を、分析対象物質をラマン分光によって検出、同定、および/または定量する装置300に搭載する。装置の具体例を図3に示す。基体240および340は、たとえば、流入チャネル320および流出チャネル350に接続されたフロースルーセル330に搭載する。流入チャネル320は、1以上の他の装置310、たとえば、サンプルインジェクタ310および/または反応チャンバ310と接続する。分析対象物質は、フロースルーセル330に入り、標的であるラマン活性基体340を通過し、そこで、ラマン検出ユニット360によって検出される。検出ユニット360は、ラマン検出装置380と光源370、たとえばレーザ370を備えている。レーザ370が励起光390を発し、分析対象物質を活性化させ、その結果、ラマン信号が生じる。このラマン信号を、検出装置380で検出する。本発明の特定の態様では、検出装置380を、サンプル中に存在する分析対象物質についてのデータを処理、解析、格納および/または伝送しうるコンピュータ395に、作動可能なかたちで接続する
【0073】
本発明の具体的態様の一つでは、励起光390を、近赤外波長(750〜950 nm)のチタン・サファイアレーザ370(Spectra-Physics製のTsunami)、または785 nmまたは830 nmのヒ化ガリウムアルミニウム・ダイオードレーザ370(Process Instruments製のPI-ECLシリーズ)で生成する。パルス状のレーザ光390または連続レーザ光390を使用することができる。励起光390は、ダイクロイックミラー(Kaiser Optical製のホログラフィックノッチフィルター、またはChromaまたはOmega Optical製の干渉フィルター)で反射され、共線状のビームとして集まる。反射光390は、顕微鏡の対物レンズ(NikonのLUシリーズ)を通過し、分析対象物質が存在しているラマン活性基体標的240および340に集束される。分析対象物質から生じたラマン分散光は、同じ顕微鏡の対物レンズによって集められ、ダイクロイックミラーを通過して、ラマン検出装置380に到達する。ラマン検出装置380は、集束レンズ、分光器、アレイ検出装置を備えている。集束レンズは、ラマン散乱光を、分光器の入射スリットを通して集束させる。分光器(RoperScientific)は、光をその波長に応じて分散させる格子を備えている。分散された光は、アレイ検出装置(RoperScientific製の背面照射型ディープディプリーションCCDカメラ)にイメージングされる。アレイ検出装置は、コントーラ回路に接続され、この回路は、コンピュータ160および395に接続されており、データの伝送および検出装置380の機能の制御が可能となっている。
【0074】
本発明の様々な態様では、検出ユニット360は、多岐にわたる各種の分析対象物質の高感度での検出、同定、および/または、定量を行って、単一分子のレベルまでの検出および/または同定を行うことができる。本発明の特定の態様では、分析対象物質は、単一のヌクレオチドであり、このヌクレオチドには、ラマン標識を付しても、付さなくてもよい。他の態様では、1以上のオリゴヌクレオチドプローブをサンプル中の標的核酸とハイブリダイズさせ、このプローブには、識別可能なラマン標識を付しても、付さなくてもよい。標的核酸の存在は、相補的なオリゴヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションと、図3の装置300を使用したラマン検出とによって示唆される。また、同定のアミノ酸、ペプチド、および/またはタンパク質を、本発明で開示した方法および装置300を使用することによって検出および/または同定することもできる。当業者であれば、本発明の方法および装置300が、検出、同定、および/または定量を行う分析対象物質に限定されるものではなく、むしろ、ラマン検出によって検出が可能な標識または未標識の任意の分析対象物質が、本発明の主題の範囲内で分析可能であることが理解できるはずである。
【0075】
本発明の特定の態様では、1つまたは複数の「捕捉用」分子を、共有結合または非共有結合によってラマン活性基体の標的240および340に結合して、分析対象物質のラマン検出の感度および/または特異性を増強させる。たとえば、選択した標的核酸に対して特異性を有するオリゴヌクレオチドプローブを、公知の方法によって、基体240および340の金属表面に結合させることができる。(たとえば、オリゴヌクレオチドを、共有結合によって修飾して、金被覆基体240および340に結合可能なスルフヒドリル部分を有するようにすることができる。)また、標的タンパク質、ペプチド、または他の化合物に対して特異的な抗体を、基体240に結合させることもできる。標的分析対象物質の存在は、基体240および340に結合させたオリゴヌクレオチドを、相補的な核酸配列とハイブリダイズしうるような条件下でサンプルと接触させてから洗浄し、結合した分析対象物質を検出することによって検出することができる。本発明の別の態様では、サンプル中の1以上の分析対象物質を、識別可能なラマン標識で標識してから、ラマン活性基体標的240および340と接触させて、結合した分析対象物質の検出を容易とする。同様の方法を、相互に選択的および/または特異的な結合を示す抗体/抗原のペア、リガンド/レセプターのペアをはじめとする任意の公知の分析対象物質のペアにも利用することができる。基体240および340は、結合した分析対象物質および/または捕捉用分子を除去するための各種の物質による処理、たとえば、酸、水、有機溶剤、または洗剤による洗浄、化学処理、および/またはエキソヌクレアーゼおよび/またはプロテアーゼのような分解酵素による処理を行うことよって再利用および再使用することができる。
【0076】
実施例4:SERSによるローダミン6G(R6G)の検出
図6は、分析対象物質、ローダミン6G(R6G)染料分子を検出および同定する、本発明で開示した方法、システム、および装置を示す。R6Gは、よく調べられている染料分子で、通常の商業販売元、たとえばMolecular Probes(Eugene、OR)から入手可能である。114μM(ミクロモル)のR6G溶液が調製され、実施例1および2の方法を使用して準備された、プラズマ酸化、浸漬、および分解された(PODD)、銀を被覆した多孔質シリコン基体を用いて、表面増強ラマン分光分析(SERS)によって分析された。各種の平均空孔率の多孔質シリコン基体を、エッチング条件を変化させることによって準備した。R6G溶液を、PODDで銀を被覆した基体中に拡散させ、実施例3の方法にしたがって、785 nmの励起波長を使用して、SERSによって分析した。ラマン信号増強の目的で、化学増強剤(塩化リチウムまたは臭化ナトリウム、濃度約1μM)を加えた。
【0077】
各種空孔率のPODDされた銀を被覆した多孔質基体で得られるSERS発光スペクトルを図6に示す。図6は、低い側から高い側に向かって順番に52%、55%、65%、70%、および77%の平均空孔率で得られる114μMのR6GについてのSERS発光スペクトルを示す。図6に示すように、SERS発光ピークの強度は、この範囲では、平均空孔率の上昇にともなって上昇し、最も高い強度は、平均空孔率77%で観察される。空孔率を77%を超えて上昇させると、多孔質シリコン層の材料組織が不安定となり、多孔質層がバルクシリコン基体から物理的に分離する場合もある。77%の空孔率では、走査電子顕微鏡画像での孔径は約32 nmであった(図示せず)。
【0078】
77%の平均空孔率では、ラマン発光スペクトルの強度が10の7乗(107)のオーダーで上昇するのが観察された。これは、粗面化した銀板で観察される約10の6乗のオーダーの増強(図示せず)に匹敵する。SERS発光ピークの強度は、平均空孔率の関数として増加したが、発光ピークの波長は変化せず(図6)、使用する平均空孔率に関わりなく、R6Gを同定することができた。推定検出容積が1.25×10-16リットルであったので、検出されたローダミン6Gの対応する分子数は、約9分子であった。
【0079】
生物学的関連性がさらに高い標的分子であるアデニン溶液を用いて、さらに研究を行った。90μMのアデニン溶液を銀被覆多孔質シリコン基体に用いると、独特の分光分析の特徴が得られた(図7)。
【0080】
実施例5:ヌクレオチドのラマン検出
方法および装置
非限定的な実施例では、ラマン検出ユニットの励起光を、近赤外波長(750〜950 nm)のチタン・サファイアレーザ(Coherent製のMira)、または785 nmもしくは830 nmのヒ化ガリウムアルミニウム・ダイオードレーザ(Process Instruments製のPI-ECLシリーズ)によって生成した。パルス状のレーザ光または連続レーザ光を使用した。励起光は、2色性ミラー(Kaiser Optical製のホログラフィックノッチフィルター、またはChromaまたはOmega Optical製の2色性干渉フィルター)を透過させ、集めたビームと共線状とした。透過光は、顕微鏡の対物レンズ(NikonのLUシリーズ)を通過させ、分析対象物質(ヌクレオチドあるいはプリンまたはピリミジン塩基)が位置しているラマン活性基体に集束された。
【0081】
分析対象物質からのラマン分散光は、同じ顕微鏡の対物レンズによって集め、2色性ミラーを通過させ、ラマン検出装置に到達させた。ラマン検出装置は、集束レンズ、分光器、アレイ検出装置を備えるものとした。集束レンズは、ラマン散乱光を、分光器の入射スリットを通して集束させるものとした。分光器(Acton Research)は、光をその波長によって分散させる格子を備えるものとした。分散された光は、アレイ検出装置(RoperScientific製の背面照射型ディープディプリーションCCDカメラ)にイメージングされるものとした。アレイ検出装置は、コントーラ回路に接続し、この回路は、コンピュータに接続し、データ伝送および検出機能の制御を可能とした。
【0082】
表面増強ラマン分光分析(SERS)では、ラマン活性基体は、金属ナノ粒子または金属被覆ナノ構造からなっていた。LeeおよびMeiselの方法(J. Phys. Chem., 86:3391, 1982)で、粒径5〜200 nmの銀ナノ粒子を製造した。あるいは、サンプルを、顕微鏡の対物レンズ下のアルミニウム基体に載置した。以下で言及する数字は、アルミニウム基体上の静止サンプルで収集した。検出分子数は、光をあてたサンプルの光学収集容積によって測定した。
【0083】
マイクロ流体流路を用いたSERSを使用すると、単一のヌクレオチドを検出することも可能となる。本発明の各種の態様では、ヌクレオチドを、マイクロ流体流路(幅約5〜200μm)を通じてラマン活性基体に送達することができる。マイクロ流体流路は、Andersonら("Fabrication of topologically complex three-dimensional microfluidic systems in PDMS by rapid prototyping" Anal. Chem. 72:3158-3164、2000)に開示された技術を使用して、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を成形することによって形成することができる。
【0084】
SERSを銀ナノ粒子の存在下で実施する場合には、分析対象物質であるヌクレオチド、プリンまたはピリミジンを、LiCl(最終濃度90μM)およびナノ粒子(最終濃度0.25M、銀原子)と混合した。SERSのデータは、室温の分析対象物質の溶液を使用して収集した。
【0085】
結果
上述のシステムを使用して、ヌクレオシド一燐酸、プリン、およびピリミジンをSERSによって分析した。表1は、関心のある各種分析対象物質についての検出限界の例を示す。
【0086】
(表1)ヌクレオシド一燐酸、プリン、およびピリミジンのSERS検出

【0087】
条件は、アデニン・ヌクレオチドのみに対して最適化した。LiCL(最終濃度90μM)を測定して、アデニン・ヌクレオチドの最適なSERS検出を可能とした。他のヌクレオチドの検出は、他のアルカリ金属のハロゲン化塩、たとえばNaCl、KCl、RbCl、またはCsClを使用することによって促進することができる。請求の範囲に記載した方法は、使用する電解質溶液によって限定されるものではなく、多種の電解質溶液、たとえば、MgCl、CaCl、NaF、KBr、LiIなども利用できる。当業者であれば、強力なラマン信号を示さない電解質溶液を用いると、ヌクレオチドのSERSによる検出との干渉が最小となることに気づくはずである。結果から、上記に開示したラマン検出システムおよび方法によって、ヌクレオチドおよびプリン塩基の単一分子を検出および同定できたことがわかる。これは、非標識ヌクレオチドを単一ヌクレオチドのレベルでラマン検出することについての最初の報告である。
【0088】
図8は、dATPの500nM溶液(下側の線)およびフルオレセインで標識したdATP(上側の線)のSERSスペクトルを示す。dATP-フルオレセインは、Roche Applied Science(Indianapolis、IN)から購入した。数値からは、フルオレセインの標識によってSERS信号が顕著に上昇していることがわかる。
【0089】
本発明で開示し、特許請求の範囲で請求される方法および装置は、いずれも、本発明の開示内容を参照すれば、過度の実験を行わなくても製造、使用することが可能である。当業者には、本発明に記載する方法および装置は、特許請求の範囲で請求される主題の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、各種の改良を加えうることも自明なはずである。より詳細には、本発明に記載した物質の代わりに、化学的かつ生理学的に関連した同定の物質を使用しても、同一または類似した結果を得られることが明らかである。当業者にとっては明らかなこれに類似した置換または改変は、いずれも、特許請求の範囲で請求される主題の精神、範囲、および概念の範囲内であるとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)金属被覆多孔質基体を提供する段階、
b)基体を、1以上の分析対象物質を含むサンプルに接触する段階、
c)レーザー励起および分光分析を使用して、1以上分析対象物質を検出および/または同定する段階、を含む方法。
【請求項2】
基体が、多孔質半導体基体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
基体が、ナノ結晶シリコン、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、およびレーザアニールシリコンからなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
金属ナノ粒子が、金属被覆多孔質基体に加えられる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
分光分析が、ラマン分光分析である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ラマン分光分析が、表面増強ラマン分光分析(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光分析(SERRS)、ハイパーラマン、および/またはコヒーレント反ストークスラマン分光分析(CARS)である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
分析対象物質が、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、プリン、ピリミジン、オリゴヌクレオチド、核酸、糖、炭水化物、オリゴ糖、多糖、脂肪酸、脂質、ホルモン、代謝産物、サイトカイン、ケモカイン、受容体、神経伝達物質、抗原、アレルゲン、抗体、基質、代謝産物、補助因子、阻害物質、薬剤、製剤、栄養分、プリオン、トキシン、毒物、爆発物、殺虫剤、化学兵器物質、生物学的有害物質、細菌、ウイルス、放射性同位元素、ビタミン、複素環式芳香族化合物、発癌物質、変異誘導物質、麻酔薬、アンフェタミン、バルビツール酸塩、幻覚発現物質、廃棄物、および汚染物質からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
分析対象物質が、ヌクレオシド、ヌクレオチド、プリン、ピリミジン、オリゴヌクレオチド、核酸、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
1以上の分析対象物質が、1以上のラマン標識で標識されている、請求項1記載の方法。
【請求項10】
各分析対象物質が、識別可能なラマン標識で標識されている、請求項9記載の方法。
【請求項11】
1以上の捕捉用分子が、金属被覆多孔質シリコン基体に結合されている、請求項1記載の方法。
【請求項12】
捕捉分子が、オリゴヌクレオチド、核酸、抗体、抗体断片、抗原、エピトープ、レクチン、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、受容体タンパク質、リガンド、ホルモン、ビタミン、代謝産物、基質、阻害物質、補助因子、製剤、アプタマー、サイトカイン、および神経伝達物質からなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
1以上のヌクレオチド、プリンまたはピリミジンを、単一分子のレベルで検出する段階をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項14】
ヌクレオチド、プリン、またはピリミジンが、アデニン、アデノシン一燐酸、アデノシン二燐酸、アデノシン三燐酸、デオキシアデノシン一燐酸、デオキシアデノシン二燐酸、およびデオキシアデノシン三燐酸からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
a)金属被覆ナノ結晶多孔質シリコン基体、
b)レーザー、および
a)ラマン検出装置
を備える装置。
【請求項16】
多孔質シリコンを犠牲層として使用する、請求項15記載の装置。
【請求項17】
犠牲層が、金属によって置換される、請求項16記載の装置。
【請求項18】
金属ナノ粒子をさらに含む、請求項17記載の装置。
【請求項19】
ラマン検出装置に作動可能に結合されたフロースルーセルをさらに含む、請求項15記載の装置。
【請求項20】
流れが、フロースルーセル内部の金属被覆ナノ結晶多孔質シリコン基体を通過する、請求項19記載の装置。
【請求項21】
金属被覆多孔質シリコン基体が、均一な金属層を含む、請求項15記載の装置。
【請求項22】
金属層の厚さが、少なくとも3ミクロンである、請求項21記載の装置。
【請求項23】
金属被覆ナノ結晶多孔質シリコンの層を含む、ウェーハ。
【請求項24】
金属被覆が、銀、金、白金、銅および/またはアルミニウムを含む、請求項23記載のウェーハ。
【請求項25】
金属被覆多孔質シリコンの層が、プラズマ酸化浸漬分解された(PODD)多孔質シリコン基体を含む、請求項23記載のウェーハ。
【請求項26】
a)金属被覆多孔質シリコン基体を提供する段階、
b)基体を1以上の分析対象物質を含むサンプルに接触する段階、ならびに、
b)レーザー励起およびラマン分光分析を使用して、1以上の分析対象物質を検出および/または同定する段階、
を含む方法。
【請求項27】
金属被覆多孔質シリコン基体が、プラズマ酸化、浸漬、分解された(PODD)多孔質シリコン基体を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
1以上の分析対象物質が、ヌクレオシド、ヌクレオチド、プリン、ピリミジン、オリゴヌクレオチド、核酸、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質からなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1つのプリン、ピリミジン、またはヌクレオチドを、単一分子のレベルで検出する段階をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
単一分子が、アデニン、アデノシン一燐酸、アデノシン二燐酸、アデノシン三燐酸、デオキシアデノシン一燐酸、デオキシアデノシン二燐酸、およびデオキシアデノシン三燐酸からなる群より選択される、請求項29記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−221032(P2011−221032A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137070(P2011−137070)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【分割の表示】特願2004−568565(P2004−568565)の分割
【原出願日】平成15年10月7日(2003.10.7)
【出願人】(591003943)インテル・コーポレーション (1,101)
【Fターム(参考)】