説明

活性金属含有銅合金溶製用フラックス

【課題】設備を複雑にすることなく活性金属の添加歩留を高くすることのできる活性金属含有銅合金溶製用フラックスを提供する。
【解決手段】溶解炉又は保持炉によって、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となる活性金属含有銅合金溶製用フラックスであって、前記フラックスは、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oが、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、且つ、組成の合計を100質量%としたときに、前記CaOを16〜45質量%、前記SiO2を31〜65質量%、前記Al23を8〜25質量%、前記MgOを0質量%を超え10質量%以下、前記X2Oを0質量%を超え5質量%以下、前記Cr23を0質量%を超え5質量%以下の範囲で含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr、Ti、Zrなどの活性金属を含有する銅合金の溶製に用いるためのフラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性及び熱伝導性の良い銅にCr、Ti、Zrのような合金元素を添加すると、より高い導電性と高い強度を与えることができる。そのため、これらの合金元素を添加した銅合金は、リードフレーム材、端子材、コネクタ材などに多用され、近年の電子機器類の高性能化に貢献している。しかし、これらの合金元素はいわゆる活性金属であるため、銅に添加するときに空気中の酸素と反応して添加歩留が低下する問題があるので、下記のような対策がとられていた。
【0003】
通常、活性金属を含有する銅合金を製造する場合、溶解炉と後続の保持炉を用いて溶製するときに前記した活性金属を添加する。従来は、銅合金の溶湯に活性金属を添加する際に、活性金属を空気から遮断することを目的として溶湯面に木炭粉を上置きする方法、すなわち、溶湯の表面を被覆する方法がとられていた。しかし、木炭粉は固体粒子であるから、シールド作用に限界があって、木炭の燃焼で発生するCO雰囲気による補助的シールド効果を期待しても、活性金属の酸化損失は少なくなかった。また、CO+N2のような還元性雰囲気によるシールドも提案されているが、これらのガス成分が活性金属と反応し、活性金属を損失してしまうという難点があった。
【0004】
こうした問題に対処するため、従来の方法よりも活性金属の添加歩留の低下を防止する効果の高い、以下に示す対策が提案されている。
例えば、特許文献1には、銅合金の溶湯を保持炉から樋を通してタンディッシュに移送して連続鋳造する過程において、活性金属を添加した後の銅合金溶湯周囲をArガス雰囲気とすることによってArガスで溶湯面をシールドし、活性金属の添加歩留を向上することができる旨が記載されている。
【0005】
特許文献2には、溶湯が流れる樋の湯道と、溶湯流のいわゆるレイノルズ数とに着目し、その値を特定の範囲とするように設計し、そこに銅で被覆した活性金属を連続添加することによって活性金属の酸化損失を少なくすることができる旨が記載されている。
【0006】
特許文献3には、鋳型に流し込むための樋の上流側に、少なくとも湯道よりも大きい幅又は直径を有する湯溜槽を設け、そこへ活性金属のロッド等を連続添加することによって活性金属の酸化損失を少なくすることができる旨が記載されている。
【0007】
そして、特許文献4には、溶湯の温度で液相となるCaO−SiO2−Al23系複合酸化物から成るフラックス又はCaO−SiO2−Al23−MgO系複合酸化物から成るフラックスで溶湯の表面を被覆して溶湯と大気との接触を遮断することによって活性金属の酸化消耗を最小限に抑えることができ、高い添加歩留が得られる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−216905号公報
【特許文献2】特開2000−317580号公報
【特許文献3】特開2001−246447号公報
【特許文献4】特開2006−097131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の技術には以下の問題があった。
すなわち、特許文献1に記載の技術には、Arガスを用いて溶湯面をシールドするための設備が複雑になるだけでなく、シールド用の媒体が気体であるためシールド効果が完全ではなく、活性金属の添加歩留は90%に留まる。
【0010】
特許文献2に記載の技術も、レイノルズ数を特定の範囲とするための所定長さの樋が必要であり、また、活性金属を連続添加するための設備が必要であることから、設備が複雑になるだけでなく、樋を流れる溶湯の乱流に任せて活性金属を溶湯中に溶け込ませるだけであるので、活性金属が均一に分布しない可能性がある。また、樋を流れる溶湯面をシールド等していないので溶湯に添加した後の活性金属が酸化してしまうためか、活性金属の添加歩留は90%前後に留まる。
【0011】
特許文献3に記載の技術も、鋳型に流し込むための樋の上流側に、少なくとも湯道よりも大きい幅又は直径を有する湯溜槽を設ける必要があり、また、そこへ活性金属のロッド等を連続添加するための設備が必要であることから、設備が複雑になるだけでなく、特許文献2と同様に活性金属を連続添加した後は、溶湯が湯溜槽内を高速で流れる際に撹拌されるだけであるので、活性金属が均一に分布しない可能性がある。また、湯溜槽を流れる溶湯面をシールド等していないので溶湯に添加した後の活性金属が酸化してしまうためか、活性金属の添加歩留は90%前後に留まる。
【0012】
特許文献4に記載の技術には、CaO−SiO2−Al23系複合酸化物から成るフラックス又はCaO−SiO2−Al23−MgO系複合酸化物から成るフラックスを用いているが、フラックスの含有成分が適切でないために、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金や、活性金属としてCrとともにTi、Zrを含有する銅合金に対する活性金属の添加歩留、特にCrの添加歩留を高めることができない。
【0013】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、設備を複雑にすることなく活性金属の添加歩留を高くすることのできる活性金属含有銅合金溶製用フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
活性金属を含有する銅合金の溶製において、実操業における銅合金又は銅の溶湯の温度は、銅の融点(1083℃)に対して通常1200〜1250℃であり、大きな変動を考慮しても1150〜1300℃である。
ここで、図1を参照する。図1に示すように、CaO−SiO2−Al23−MgO系複合酸化物に含有されるほとんどの酸化物は、溶融温度が非常に高く、そのほとんどの組成領域において1300℃を超えていることがわかる。
【0015】
従って、実操業における銅合金の溶湯の温度(1300℃)では、CaO−SiO2−Al23−MgO系複合酸化物のほとんどの組成領域が固体としてしか存在しないことがわかる。しかし、このような複合酸化物であっても、そのごく一部、具体的には、図1に示す領域Aについては1300℃でも液相状態(液体)となることが知れられている。
【0016】
本発明者は、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金を溶製する際のフラックスとして図1に示す領域Aに相当する複合酸化物を使用することにより、当該フラックスが安定した液相状態を保つことが可能となり、溶湯の表面を完全にシールドして大気と遮断できることができると考え、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、前記領域Aに相当する複合酸化物の含有成分及び組成を適切化することによって前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
(1)前記課題を解決した本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスは、溶解炉又は保持炉によって、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となる活性金属含有銅合金溶製用フラックスであって、前記フラックスは、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oが、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、且つ、組成の合計を100質量%としたときに、前記CaOを16〜45質量%、前記SiO2を31〜65質量%、前記Al23を8〜25質量%、前記MgOを0質量%を超え10質量%以下、前記X2Oを0質量%を超え5質量%以下、前記Cr23を0質量%を超え5質量%以下の範囲で含有していることを特徴としている。
【0018】
本発明に係るフラックスは、特定の成分を特定の組成で有しているので、フラックスの液相線温度を低下させることができる。また、Cr23を含有しているのでアルカリ金属の酸化物であるX2OがCrと反応してCrの添加歩留が低下するのを防止することができ、これによりX2O含有量の減少によるフラックスの液相線温度上昇を抑制することが可能となることから、炉内の銅又は銅合金の溶湯の温度で液相状態を保つことができる。そのため、かかるフラックスを使用して活性金属を含有する銅合金を溶製すると、当該フラックスは、溶湯の表面上で常に溶融した状態を保ち、溶湯の表面を完全にシールドして大気と遮断することができるようになる。従って、活性金属の酸化損失を防止することが可能となる。
【0019】
(2)本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスは、溶解炉又は保持炉によって、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となる活性金属含有銅合金溶製用フラックスであって、前記フラックスは、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oが、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、さらにLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有し、且つ、組成の合計を100質量%としたときに、前記CaOを14〜45質量%、前記SiO2を28〜65質量%、前記Al23を7〜25質量%、前記MgOを0質量%を超え10質量%以下、前記X2Oを0質量%を超え5質量%以下、前記Cr23を0質量%を超え5質量%以下、前記Li2Oと前記CaF2の合計量を0質量%を超え10質量%以下の範囲で含有していることを特徴としている。
【0020】
本発明に係るフラックスは、前記した特定の成分を特定の組成で有しており、さらにLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有していることから、当該フラックスの液相線温度をより低くすることが可能となる。また、アルカリ金属の酸化物であるX2OがCrと反応してCrの添加歩留が低下するのをさらに防止することができる。そのため、かかるフラックスを使用して活性金属を含有する銅合金を溶製すると、当該フラックスは、溶湯の表面上で常に溶融した状態を保ち、溶湯の表面をより完全にシールドすることができるようになる。従って、活性金属の酸化損失をより防止することが可能となる。
【0021】
(3)本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスは、溶解炉又は保持炉によって、活性金属としてCrに加えてさらにTi又はZrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となる活性金属含有銅合金溶製用フラックスであって、前記フラックスは、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oが、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、さらにLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有し、前記銅合金が前記活性金属としてCrとTiを含有する場合は、さらにTiO2を含有し、前記銅合金が前記活性金属としてCrとZrを含有する場合は、さらにZrO2を含有し、且つ、組成の合計を100質量%としたときに、前記CaOを12〜45質量%、前記SiO2を24〜65質量%、前記Al23を6〜25質量%、前記MgOを0質量%を超え10質量%以下、前記X2Oを0質量%を超え5質量%以下、前記Cr23を0質量%を超え5質量%以下、前記Li2Oと前記CaF2の合計量を0質量%を超え10質量%以下、前記TiO2又は前記ZrO2を含有している場合は、前記TiO2又は前記ZrO2を0質量%を超え10質量%以下の範囲で含有していることを特徴としている。
【0022】
本発明に係るフラックスは、前記した特定の成分を特定の組成で有しているので、フラックスの液相線温度をより低くすることが可能となる。また、活性金属としてCrに加えてTi又はZrを含む銅合金であっても、本発明に係るフラックスは、Cr23に加えてTiO2又はZrO2を含有しているので、アルカリ金属の酸化物であるX2OがCr及びTi又はZrと反応してこれらの活性金属の添加歩留が低下するのを防止することができる。また、X2O含有量の減少によるフラックスの液相線温度の上昇を抑制することができるので、炉内の銅又は銅合金の溶湯の温度で液相状態を保つことができる。そのため、かかるフラックスを使用して活性金属を含有する銅合金を溶製すると、当該フラックスは、溶湯の表面上で常に溶融した状態を保ち、溶湯の表面を完全にシールドすることができるようになる。従って、これらの活性金属の酸化損失を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスは、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金を溶製する際に、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に当該溶湯の温度で液相となるCaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物から成るフラックス(X2Oは、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方である)を使用して溶湯の表面を完全にシールドし、大気と遮断することができるので、活性金属の酸化損失を防止することが可能となる。その結果、活性金属の添加歩留を高くすることが可能となる。つまり、溶湯の表面に木炭のような固体やCOガス或いはArガスなどの気体を使用する従来の手法と比較して、大気との遮断作用は均一にして有効確実で、添加すべき活性金属の酸化消耗を最低限に抑えることができ、活性金属の添加歩留を高くすることが可能となる。
また、本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスは、溶湯の表面に前記したフラックスを添加して溶湯の表面を被覆するだけであるので、設備を複雑にせずに活性金属の添加歩留を高くすることができる。
【0024】
また、本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスは、Li2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有しているので、当該フラックスの液相線温度をより低くすることができる。そのため、溶湯の表面をより完全にシールドし、大気と遮断することができるので、活性金属の酸化損失を防止することが可能となる。その結果、活性金属の添加歩留を高くすることが可能となる。また、本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスは、前記と同様に、溶湯の表面に前記したフラックスを添加して溶湯の表面を被覆するだけであるので、設備を複雑にせずに活性金属の添加歩留をより高くすることができる。
【0025】
さらに、本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスは、活性金属としてCr及びTi又はZrを含有する銅合金を溶製する場合であっても、TiO2又はZrO2を含有しているため、これらの活性金属を含む銅合金であっても溶湯の表面をより完全にシールドし、大気と遮断することができるので、活性金属の酸化損失を防止することが可能となる。その結果、活性金属の添加歩留を高くすることが可能となる。また、本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスは、前記と同様に、溶湯の表面に前記したフラックスを添加して溶湯の表面を被覆するだけであるので、設備を複雑にせずにこれらの活性金属の添加歩留を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】SLAG ATLAS 2nd Edition(1995), Verlag Stahleisen GmbH, P157に掲載されている図であって、Al23が15質量%である場合におけるCaO−SiO2−Al23−MgO系複合酸化物の相平衡図である。
【図2】CaO−SiO2−Al23三元系状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックスを実施するための形態について詳細に説明する。
本発明に係る活性金属含有銅合金溶製用フラックス(以下、単に「フラックス」という。)は、溶解炉又は保持炉によって、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となるフラックスであって、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oは、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、これらの成分を後記する特定の組成で含有してなる。
【0028】
かかるフラックスは、アルカリ金属化合物に比べて極めて安定性に富み、分解のおそれもないことから、不活性であることと相俟って銅合金中に混入して不純物化するリスクが極めて少ない。そのため、活性金属の添加歩留が高く、不純物の少ない高品質の活性金属含有銅合金を溶製することができる。また、かかるフラックスは取り扱いが簡単で、銅合金溶湯上へ簡便な手段で手軽に供給できるため、実用的であるなどの利点も兼ね備えている。
【0029】
銅合金を溶製する場合、溶解炉を使用して銅合金を溶融して溶湯とし、かかる溶湯は樋を通して、或いは一旦保持炉内に溜め置きながら、樋を通して鋳型に注入造塊するのが一般的である。従って、活性金属を含有する銅合金を溶製するにあたっては、設備条件に合わせて、溶解炉、保持炉或いは樋内にある銅合金の溶湯の表面を被覆するように、前記したフラックスを添加すればよい。このように添加すると、フラックスは、銅合金の溶湯の温度で溶融して液相状態を保ち、溶湯の表面を完全にシールドして大気と遮断することができるようになり、活性金属の酸化損失を防止することが可能となる。
【0030】
前記したフラックスは、その溶融を速やかに促進させると同時に飛散ロスを極力避けるべく、平均粒度が数十〜数百μmの粉粒状のもの、より具体的には数十〜百μmの粉粒状のものを使用することが好ましい。
【0031】
そして、使用するフラックスは、前記したように溶解炉中の銅合金の溶湯の温度(溶製温度)で液相状態となるものを使用すればよい。もちろん、なるべく低い液相線温度(液相状態となる温度)を具現する組成のフラックスを使用すれば、溶湯の温度の大きな変化に対しても問題なく、一律に使用することができるので有利である。そのようなフラックスは、例えば、図1や図2を参考にして後記する組成成分を、望ましくは特定の組成範囲内で任意に設定することにより得ることができる。
【0032】
前記したフラックスに含有されるCaO、SiO2、Al23、及びMgOは、これらを同時に含むことにより、図1及び図2に示す領域A,Bを拡大させることが可能となる。つまり、フラックスの液相線温度を低下させることが可能となる。
前記CaOは、フラックスの組成の合計を100質量%としたときに、16〜45質量%の範囲で含有しているのが好ましい。このような範囲でCaOを含有させると、より確実にフラックスの液相線温度を低下させることが可能となる。
CaOの含有量が16質量%未満となったり、45質量%を超えたりするとフラックスの液相線温度が上昇するおそれがある。
【0033】
前記SiO2は、フラックスの組成の合計を100質量%としたときに、32〜65質量%の範囲で含有しているのが好ましい。このような範囲でSiO2を含有させると、より確実にフラックスの液相線温度を低下させることが可能となる。
SiO2の含有量が32質量%未満となったり、65質量%を超えたりするとフラックスの液相線温度が上昇するおそれがある。
【0034】
前記Al23は、フラックスの組成の合計を100質量%としたときに、8〜25質量%の範囲で含有しているのが好ましい。このような範囲でAl23を含有させると、より確実にフラックスの液相線温度を低下させることが可能となる。
Al23の含有量が8質量%未満となったり、65質量%を超えたりするとフラックスの液相線温度が上昇するおそれがある。
【0035】
前記MgOは、フラックスの組成の合計を100質量%としたときに、0質量%を超え10質量%以下の範囲で含有しているのが好ましい。このような範囲でMgOを含有させると、より確実にフラックスの液相線温度を低下させることが可能となる。
MgOの含有量が0質量%(すなわち含有されていない)であったり、10質量%を超えたりすると、フラックスの液相線温度が上昇するおそれがある。
【0036】
前記したフラックスに含有されるX2Oは、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、フラックスの液相線温度を低下させることができる。すなわち、図1及び図2に示す領域A,Bを拡大させることができる。かかるX2Oは、フラックスの組成の合計を100質量%としたときに、0質量%を超え5質量%以下の範囲で含有しているのが好ましい。このような範囲でX2Oを含有するとフラックスの液相線温度をより確実に低下させることができる。
2Oの含有量が0質量%である(すなわち含有されていない)と、フラックスの液相線温度が低下せず、溶湯の温度である1300℃以下で液相状態を維持できないおそれがある。一方、X2Oの含有量が5質量%を超えると、X2Oが溶湯中のCrと反応して銅合金におけるCrの添加歩留を低下させるおそれや、フラックスの液相線温度が低下し過ぎてしまうために耐火物の寿命を低下させるおそれがある。
【0037】
前記したフラックスに含有されるCr23は、アルカリ金属の酸化物であるX2Oが溶湯中のCrと反応してCrの添加歩留が低下するのを抑制するとともに、溶湯中のCrとフラックス中のX2Oが反応してフラックスのX2O含有量が低下することによるフラックスの液相線温度の上昇を抑制することができる。
【0038】
前記Cr23は、フラックスの組成の合計を100質量%としたときに、0質量%を超え5質量%以下の範囲で含有しているのが好ましい。このような範囲でCr23を含有すると、前記したように溶湯中のCrの添加歩留が低下するのを抑制するとともに、フラックスの液相線温度が上昇するのを抑制することが可能となる。
Cr23の含有量が0質量%である(すなわち含有されていない)と、フラックスに含有されるX2Oと溶湯中のCrが反応して溶湯中のCrが減少してしまい、Crの添加歩留が低下するおそれや、溶湯中のCrとフラックス中のX2Oが反応してフラックスのX2O含有量が低下してしまうことによるフラックスの液相線温度の上昇を招くおそれがある。一方、Cr23の含有量が5質量%を超えると、Cr23の含有量が多過ぎるためにフラックスの液相線温度が上昇してしまうおそれがある。
【0039】
また、本発明に係るフラックスは、溶解炉又は保持炉によって、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となるフラックスであって、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oは、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、さらにLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有するものであり、これらの成分を後記する特定の組成で含有してなるのが好ましい。
このフラックスは、Li2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有する点、並びに、これらのうちの1種以上を含有するため後記するようにCaO、SiO2、及びAl23の含有量が若干異なることとなる点以外は、前記したフラックスと同様であるので、以下では前記と同様となる説明については重複する説明を省略することとし、主に異なる点について説明する。
【0040】
かかるフラックスは、Li2O及びCaF2(蛍石)から選ばれる1種以上を含有しているため、フラックスの溶融温度を低下させることができる。
フラックスがLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有している場合、Li2OとCaF2の合計量は、フラックスの組成の合計を100質量%としたときに、0質量%を超え10質量%以下の範囲で含有するのが好ましい。この場合において、Li2OとCaF2の合計量が0質量%である(すなわち含有されていない)と、フラックスの溶融温度を低下させる効果が得られない。一方、Li2OとCaF2の合計量が10質量%を超えるとフラックスの溶融温度が低下し過ぎてしまうために容器等の耐火物の寿命を低下させるおそれがある。
【0041】
このように、フラックスがLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有している場合、フラックスの組成の合計を100質量%としたときのCaOの含有量は、14〜45質量%の範囲とするのが好ましく、SiO2の含有量は、28〜65質量%の範囲とするのが好ましく、Al23の含有量は、7〜25質量%の範囲とするのが好ましい。
なお、フラックスがLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有している場合におけるMgO、X2O及びCr23の含有量は変動しない。
【0042】
さらに、本発明に係るフラックスは、溶解炉又は保持炉によって、活性金属としてCrに加えてさらにTi又はZrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となる活性金属含有銅合金溶製用フラックスであって、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oが、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、さらにLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有し、前記銅合金が前記活性金属としてCrとTiを含有する場合は、さらにTiO2を含有し、前記銅合金が前記活性金属としてCrとZrを含有する場合は、さらにZrO2を含有するものであり、これらの成分を後記する特定の組成で含有してなるのが好ましい。
このフラックスは、Li2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有する点、TiO2及びZrO2含有する点、並びに、これらを含有するため後記するようにCaO、SiO2、及びAl23の含有量が若干異なることとなる点以外は、前記したフラックスと同様であるので、以下では前記と同様となる説明については重複する説明を省略することとし、主に異なる点について説明する。
【0043】
かかるフラックスに含まれるTiO2及びZrO2は、Cr23と同様の機能、すなわち、アルカリ金属の酸化物であるX2Oが溶湯中のTi又はZrと反応して、Ti又はZrの添加歩留が低下するのを抑制するとともに、溶湯中のTi又はZrとフラックス中のX2Oが反応してフラックスのX2O含有量が低下することによるフラックスの液相線温度の上昇を抑制することができる。
【0044】
TiO2又はZrO2は、フラックスの組成の合計を100質量%としたときに、0質量%を超え10質量%以下の範囲で含有しているのが好ましい。この場合において、TiO2又はZrO2の含有量が0質量%である(すなわち含有されていない)と、Cr23の場合と同様に、フラックスに含有されるX2Oと溶湯中のTi又はZrが反応して溶湯中のTi又はZrが減少してしまい、Ti又はZrの添加歩留が低下するおそれや、溶湯中のTi又はZrとフラックス中のX2Oが反応してフラックスのX2O含有量が低下してしまうことによるフラックスの液相線温度の上昇を招くおそれがある。一方、TiO2又はZrO2の含有量が10質量%を超えると、Cr23の場合と同様に、TiO2又はZrO2の含有量が多過ぎるためにフラックスの液相線温度が上昇してしまうおそれがある。なお、TiO2又はZrO2は、フラックスの組成の合計を100質量%としたときに、0質量%を超え5質量%以下の範囲で含有しているのがより好ましい。Ti又はZrの添加歩留が低下するのをより確実に抑制することが可能となるとともに、溶湯中のTi又はZrとフラックス中のX2Oが反応してフラックスのX2O含有量が低下することによるフラックスの液相線温度の上昇をより確実に抑制することが可能となるからである。
【0045】
このように、フラックスがTiO2又はZrO2を含有している場合、フラックスの組成の合計を100質量%としたときのCaOの含有量は、12〜45質量%とするのが好ましく、SiO2の含有量は、24〜65質量%とするのが好ましく、Al23の含有量は、6〜25質量%とするのが好ましい。
なお、フラックスがTiO2又はZrO2を含有している場合におけるMgO、X2O、Cr23の含有量、及びLi2OとCaF2の合計量は変動しない。
【0046】
以上に詳述した本発明に係るフラックスは、溶解炉、保持炉及びこれらを接続する樋の少なくとも一つ、好ましくは全てにおいて、これらに保持される銅又は銅合金の溶湯の表面上に添加すると、当該溶湯の温度である1300℃以下の温度で溶融して液相状態を保つことが可能であるため、溶湯の表面を完全にシールドして大気と遮断することができるようになる。その結果、活性金属の酸化損失を防止することが可能となり、活性金属の添加歩留を高くすることが可能となる。従って、溶湯の表面に木炭のような固体やCOガス或いはArガスなどの気体を使用する従来の手法と比較して、大気との遮断作用は均一にして有効確実で、添加すべき活性金属の酸化消耗を最低限に抑えることができ、活性金属の添加歩留を高くすることが可能となる。
【0047】
なお、銅又は銅合金の溶湯に対するフラックスの添加量は、例えば、溶湯の重量の外部添加量として2質量%程度添加すればよいが、これに限定されるものではない。フラックスの添加量は、溶湯の表面を完全にシールドして大気と遮断することができればよく、これよりも多くしても少なくしてもよい。
また、活性金属含有銅合金の溶製の諸条件、例えば、溶製する際の溶湯の温度や加熱時間、溶湯の撹拌手法も任意に設定することができることはいうまでもない。なお、溶湯の温度は1300℃以下とする。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを示して説明する。
先ず、10kgの純銅を所定数用意し、これを1230℃に加熱した誘導溶解炉によって溶製した。そして、その湯面に下記表1のNo.1〜38に示された成分及び組成を有する各フラックスを200g添加した。次いで、活性金属として50gのCr(10kgの純銅に対して0.5質量%相当)を添加し、60分間保持した。また、活性金属としてさらにTi又はZrをCrと複合して添加する場合には、10gのTi(10kgの純銅に対して0.1質量%相当)又は10gのZr(10kgの純銅に対して0.1質量%相当)をCrと併せて添加し、60分間保持した。
【0049】
表1に、No.1〜38に係るフラックスの成分及び組成(質量%)を、フラックスの液相線温度(表1中では「TL(℃)」と表示)、Crの添加歩留(%)、Tiの添加歩留(%)、Zrの添加歩留(%)及び純銅に添加した活性金属の種別とともに示す。
なお、フラックスの液相線温度(TL)は、振動発生器、振動片、レーザー変位計、電気炉および制御用コンピュータで構成した振動片式粘度計を用い、No.1〜38に係るフラックスを装填した坩堝を電気炉内に設置し、1500℃まで昇温後、3℃/minで降温しながら粘度測定を行い、粘度が急激に上昇し始める温度を液相線温度とし、表1に示した。なお、表1中において、1500℃まで昇温しても溶融しないフラックスについては、計算値を記入した。
また、Crの添加歩留(%)、Tiの添加歩留(%)、Zrの添加歩留(%)は、Thermo Jarrell Ash社製融合結合プラズマ発光分光分析装置(IRIS/AP−HR型)を用い、ICP−AES法による定量分析値により決定した。Crの添加歩留(%)は、95質量%を超えるものを合格とし、フラックスがTiO2又はZrO2を含有している場合は、Tiの添加歩留(%)及びZrの添加歩留(%)が80質量%以上となるものを合格とした。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、No.1〜22は、本発明の規定を満たし、フラックスの液相線温度が十分に低くなったため、Crの添加歩留はいずれも95%を超えていた。さらにCrと複合して添加したTiやZrの添加歩留も80%以上となった(いずれも実施例(備考欄参照))。
【0052】
No.23〜26は、CaO、SiO2、Al23及びMgOのうちのいずれかが含まれていないためフラックスの液相線温度が1300℃を超えてしまった。そのため、Crの添加歩留が悪くなった(比較例(備考欄参照))。
【0053】
No.27は、フラックスの液相線温度を低下させる効果のあるNa2O、K2O、Li2O、CaF2が含まれていないためフラックスの液相線温度が1300℃を超えてしまった。そのため、Crの添加歩留が悪くなった(比較例(備考欄参照))。
【0054】
No.28は、Cr23が含まれていないためフラックスに含有されるX2O(Na2O)と溶湯中のCrが反応して溶湯中のCrが減少してしまい、Crの添加歩留が悪くなった(比較例(備考欄参照))。
【0055】
また、No.29〜32は、Cr23の含有量が規定の上限を超えているためフラックスの液相線温度が1300℃を超えてしまった。そのため、Crの添加歩留が悪くなった。また、Crと複合して添加したTiやZrの添加歩留も悪くなった(いずれも比較例(備考欄参照))。
【0056】
そして、No.33とNo.34は、TiO2又はZrO2の含有量が規定の上限を超えているためフラックスの液相線温度が1300℃を超えてしまった。そのため、Crの添加歩留が悪くなった。また、Crと複合して添加したTiやZrの添加歩留も悪くなった(いずれも比較例(備考欄参照))。
【0057】
No.35〜38は、酸化物組成のうちCaO、SiO2、Al23の含有量が規定の上限又は下限を外れためフラックスの液相線温度が1300℃を超えてしまった。そのため、Crの添加歩留が悪くなった(いずれも比較例(備考欄参照))。
【符号の説明】
【0058】
A,B 1300℃で液相状態となる領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉又は保持炉によって、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となる活性金属含有銅合金溶製用フラックスであって、
前記フラックスは、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oが、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、且つ、
組成の合計を100質量%としたときに、
前記CaOを16〜45質量%、
前記SiO2を31〜65質量%、
前記Al23を8〜25質量%、
前記MgOを0質量%を超え10質量%以下、
前記X2Oを0質量%を超え5質量%以下、
前記Cr23を0質量%を超え5質量%以下の範囲で含有している
ことを特徴とする活性金属含有銅合金溶製用フラックス。
【請求項2】
溶解炉又は保持炉によって、活性金属として少なくともCrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となる活性金属含有銅合金溶製用フラックスであって、
前記フラックスは、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oが、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、さらにLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有し、且つ、
組成の合計を100質量%としたときに、
前記CaOを14〜45質量%、
前記SiO2を28〜65質量%、
前記Al23を7〜25質量%、
前記MgOを0質量%を超え10質量%以下、
前記X2Oを0質量%を超え5質量%以下、
前記Cr23を0質量%を超え5質量%以下、
前記Li2Oと前記CaF2の合計量を0質量%を超え10質量%以下の範囲で含有している
ことを特徴とする活性金属含有銅合金溶製用フラックス。
【請求項3】
溶解炉又は保持炉によって、活性金属としてCrに加えてさらにTi又はZrを含有する銅合金を1300℃以下で溶製するに際して、炉内の銅又は銅合金の溶湯の表面に使用され、当該溶湯の温度で液相となる活性金属含有銅合金溶製用フラックスであって、
前記フラックスは、CaO−SiO2−Al23−MgO−X2O−Cr23系複合酸化物を含み、前記X2Oが、Na2O及びK2Oのうちの少なくとも一方であり、さらにLi2O及びCaF2から選ばれる1種以上を含有し、前記銅合金が前記活性金属としてCrとTiを含有する場合は、さらにTiO2を含有し、前記銅合金が前記活性金属としてCrとZrを含有する場合は、さらにZrO2を含有し、且つ、
組成の合計を100質量%としたときに、
前記CaOを12〜45質量%、
前記SiO2を24〜65質量%、
前記Al23を6〜25質量%、
前記MgOを0質量%を超え10質量%以下、
前記X2Oを0質量%を超え5質量%以下、
前記Cr23を0質量%を超え5質量%以下、
前記Li2Oと前記CaF2の合計量を0質量%を超え10質量%以下、
前記TiO2又は前記ZrO2を含有している場合は、前記TiO2又は前記ZrO2を0質量%を超え10質量%以下の範囲で含有している
ことを特徴とする活性金属含有銅合金溶製用フラックス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−189699(P2010−189699A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34655(P2009−34655)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】