説明

流体のpHを電気化学的に調節するための微細流動装置、及びそれを利用してpHを調節する方法

【課題】流体のpHを電気化学的に調節するための微細流動装置、及びそれを利用してpHを調節する方法を提供する。
【解決手段】カソード電極101として水素ガスを吸着できる金属を具備し、アノード電極103として水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属を具備するチャンバ105を有し、チャンバ内での電気分解によりガスが発生しない微細流動装置である。電気分解時ガスが発生しないのでマイクロ流動チャンネル内の溶液フロー妨害、流体制御抑制、混合抑制、反応抑制、及び熱発生や物質伝達のようなガス泡による問題が発生せず、ガス排出口及び別途のガス除去装置を必要せずに微細流動装置の小型化に寄与できる。また、電気分解時にガス発生がなく、微細流動装置内の流体のpHを迅速、かつ容易に調節できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体のpHを電気化学的に調節するための微細流動装置、及びそれを利用して微細流動装置内の流体のpHを電気化学的に調節する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細流動装置は、入口、出口及び反応容器などがマイクロチャンネルを介して流体的に連結されている装置をいう。かかる微細流動装置には、前記マイクロチャンネルが形成されている以外に、一般的に、流体の移送のためのマイクロポンプ、流体の混合のためのマイクロミキサ、及び移送される流体を濾過するためのマイクロフィルタなどが備わっている。
【0003】
かかる微細流動装置は、当業界に周知されており、サンプル内の細胞濃縮、細胞の溶解(lysis)、生分子精製、PCRのような核酸の増幅及び分離、蛋白質の分離、混成化反応、及び検出のような一連の生物学的分析過程を行うラボオンチップ(LOC:Lab−On−a−Chip)のような微細分析装置に利用されている。
【0004】
微細流動装置を利用し、前記のような多様な生物学的な分析過程を行うためには、各段階ごとに異なるpHを必要とする。前記生物学的な分析過程において、従来pHの調節は、酸性溶液、塩基性溶液、中性溶液またはバッファ溶液を添加したり除去することによってなされた。しかし、微細流動装置において、かかるpH調節用溶液を添加したり除去する場合、別途の装置及び過程を必要とするだけではなく、サンプル溶液が希釈されるという問題点が発生する。
【0005】
かかる溶液の注入段階及び装置の問題は、微細体積を扱う微細流動装置においては、深刻な問題になり、希釈は、所望のサンプルを採取したり増幅させるときに問題になりうる。また、このように添加されたpH調節物質は、今後の生物学的な分析過程で、阻害物質として作用しうる場合には、使用後に除去しなければならないという場合も発生する。
【0006】
外部からpH調節試薬を注入する従来技術の問題点を解決するための方法として、電気分解を利用する方法がある。例えば、水を電気分解させ、アノード電極及びカソード電極でそれぞれ発生するH及びOHにより水のpHを下げたり上げたりする方法がある。
【0007】
しかし、前記従来方法は、電気分解の結果として、酸素及び水素のようなガスが発生するという問題点がある。前記発生したガスは、マイクロ流動チャンネル内の溶液フローを妨害し、次のチャンバへの溶液伝達を困難にする。また、前記マイクロシステムにおいて、溶液内のガスは、二相の界面により混合、反応、熱伝達及び物質伝達のような悪影響を及ぼす可能性が非常に高い。
【0008】
前記のような問題点を有するガスを排出するために、ガス排出口及び別途のガス除去装置を必要とする(例えば、特許文献1参照)。しかし、前記のように、別途のガス排出口及びガス除去装置を付着する場合、微細流動装置の小型化に限界として作用し、製作工程の複雑化及び製作コストの上昇を招くだけではなく、前記微細流動装置の作動過程も、複雑になってしまうという問題点がある。
【特許文献1】米国特許第5,685,966号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の従来技術の問題点を解決しようと案出され、本発明の目的は、チャンバ内のガス発生のないことを特徴とする流体のpHを電気化学的に調節するための微細流動装置を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、前記微細流動装置を利用し、電気分解によって微細流動装置内の流体のpHを調節する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的を達成するために、本発明は、流体のpHを電気化学的に調節するための微細流動装置において、カソード電極として、水素ガスを吸着できる金属を具備し、アノード電極として、水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属を具備するチャンバを有し、前記チャンバ内でガスが発生しないことを特徴とする微細流動装置を提供する。
【0012】
本発明の一具現例において、前記カソード電極は、Pdでありうる。
【0013】
本発明の一具現例において、前記アノード電極は、Cu、Pb、Ag、Cr、Ti、Ni、Zn、Fe及びSnからなる群から選択されうる。
【0014】
本発明の一具現例において、前記チャンバは、イオン交換性物質を追加で備え、それにより、前記チャンバは、カソード電極を具備するカソードチャンバ及びアノード電極を具備するアノードチャンバに区分されている。
【0015】
本発明の一具現例において、前記イオン交換性物質は、電流を通過させるが、各チャンバで電気分解によって発生したイオンを分離する特性を有することができる。
【0016】
本発明の一具現例において、前記イオン交換性物質は、架橋反応と同時に成膜されるものでありうる。
【0017】
本発明の一具現例において、前記チャンバは、溶液が流入及び流出される流入口及び流出口を追加で備えることができる。
【0018】
本発明の一具現例において、前記チャンバは、溶液を流入及び流出させるためのマイクロポンプを追加で備えることができる。
【0019】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、a)アノードチャンバに水より標準酸化電位の低いイオンまたは高いイオンを含む溶液を流入させる段階と、b)カソードチャンバに水より標準還元電位の低いイオンを含む溶液を流入させる段階と、c)アノード電極及びカソード電極を介して電流を印加し、前記アノードチャンバ及びカソードチャンバで電気分解を起こし、前記アノードチャンバまたはカソードチャンバに流入した溶液のpHを調節する段階とを含む本発明の一具現例による微細流動装置内の流体のpHを電気化学的に調節する方法を提供する。
【0020】
本発明の一具現例において、前記アノードチャンバに流入する水より標準酸化電位の低いイオンは、NO、F、SO2−、PO3−及びCO2−からなる群から選択される一つ以上でありうる。
【0021】
本発明の一具現例において、前記アノードチャンバに流入する水より標準酸化電位が高いイオンは、Clでありうる。
【0022】
本発明の一具現例において、前記カソードチャンバに流入する水より標準還元電位の低いイオンは、Na、K、Ca2+、Mg2+及びAl3+からなる群から選択される一つ以上でありうる。
【0023】
本発明の一具現例において、前記pHは、印加電流の方向、印加電流の強度、電流印加時間、電極の幅またはイオン交換性物質の厚さによって調節されうる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の微細流動装置によれば、カソード電極として、水素ガスを吸着できる金属を具備し、アノード電極として、水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属を具備するチャンバを有することとしたので、前記チャンバ内で行われる水の電気分解の際にガスが発生しない。従って、マイクロ流動チャンネル内の溶液フロー妨害、流体制御抑制、混合抑制、反応抑制、及び熱発生や物質伝達のようなガス泡による問題が発生せず、ガス排出口及び別途のガス除去装置を不要とし、微細流動装置の小型化に寄与できる。また、本発明の方法によれば、電気分解時にガスの発生なしに、微細流動装置内の流体のpHを迅速、かつ容易に調節できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0026】
本発明の一側面は、流体のpHを電気化学的に調節するための微細流動装置に関するものである。
【0027】
本発明によるpHを電気化学的に調節するための微細流動装置は、カソード電極として、水素ガスを吸着できる金属を具備し、アノード電極として、水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属を具備するチャンバを有し、前記チャンバ内でガスが発生しないことを特徴とする。
【0028】
本発明の微細流動装置において、前記カソード電極は、水素ガスを吸着できるあらゆる金属を含み、特別の種類に限定されるものではない。
【0029】
例えば、前記カソード電極は、Pdでありうる。前記Pdは、多量の水素ガスを吸着する能力を保有すると知られている(Bhadra Munasiriet al.,J.Electroanal.Chem.,pp.333−337,1992)。
【0030】
このように、カソード電極として、例えば、Pdを使用する場合、水の電気分解によりカソード電極付近で発生する水素ガスを吸着してガスの発生を防止でき、水の電気分解により同時に発生するOHによりカソード電極付近の溶液のpHを上げることができる。
【0031】
また、前記アノード電極は、水より標準酸化電位が高くて水と反応しないあらゆる金属を含み、特別の種類に限定されるものではない。
【0032】
一般的に、水を電気分解する場合、アノード電極付近では、酸素ガスが発生して泡が形成され、水素イオンが発生して溶液のpHが低くなる。一方、本発明による微細流動装置は、水より標準酸化電位の高い金属を使用することにより、水が電気分解されず、前記金属が酸化してイオン化されることによってガスが発生しない。また、電圧の上昇及び溶質の変化のような一定条件によって発生しうる少量の酸素も、前記金属と結合して金属酸化物を形成することにより、酸素ガスによる泡は発生しない。
【0033】
本発明による微細流動装置のアノード電極として、水より標準酸化電位が高いといっても、水と反応する金属は望ましくない。例えば、K、Ca、Na及びMgは、前記アノード電極として望ましくない。
【0034】
また、前記アノード電極として水より標準酸化電位が高いといっても、酸化膜があまりにも速く形成されて抵抗が大きくなる金属は、望ましくない。例えば、Alは短時間に参加されてアルミナになってしまうので、前記アノード電極として望ましくない。
【0035】
従って、前記アノード電極としては、例えば、Cu、Pb、Ag、Cr、Ti、Ni、Zn、Fe及びSnからなる群から選択されることが望ましい。
【0036】
本発明による微細流動装置は、その具体的な形態、構造及びサイズなどに特別に限定されるものではない。以下、本発明による微細流動装置の具体的な形態及び構造につき、図面を参照しつつ説明する。
【0037】
図1は、本発明による微細流動装置の一具現例を図示した側面断面図である。
【0038】
図1を参照すれば、本発明によるpHを電気化学的に調節するための微細流動装置の一具現例は、カソード電極として水素ガスを吸着できる金属101を具備し、アノード電極として水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属103を具備するチャンバ105を備える。
【0039】
本発明の微細流動装置において、チャンバ、アノードチャンバ、及びカソードチャンバは、流体のような物質を収容することができる空間をいうものであり、望ましくは、マイクロ単位の体積以下の物質を収容することができるマイクロチャンバであるが、それらに限定されるものではない。前記チャンバは、例えば、細胞溶解チャンバ、核酸分離/精製チャンバ、核酸増幅チャンバ、混成化チャンバ及び信号検出チャンバにより構成された群から選択されるいずれか一つでありうる。前記チャンバは、マイクロチャンネルを介して多様な他のチャンバと連結されていることがある。従って、本発明の微細流動装置は、生分子を含む流体のpHを電気化学的に調節できるLOCの形態でありうる。
【0040】
本発明の一具現例において、前記チャンバは、イオン交換性物質を追加で備え、このイオン交換性物質がチャンバ内を、カソード電極を具備するカソードチャンバとアノード電極を具備するアノードチャンバに区分する。
【0041】
前記イオン交換性物質は、例えば、イオン交換膜を使用する場合、アノード電極で発生した酸性溶液と、カソード電極で発生したアルカリ性溶液及び金属イオンとを互いに分離し、カソードチャンバ及びアノードチャンバ内のpH制御が容易になり、非常に高いpH調節も可能である。また、前記pH制御により細胞を溶解する場合、前記溶解された細胞のDNAがアノード電極に引っ張られて吸着されることを防止できるという長所もある。
【0042】
本発明において、このようなイオン交換性物質は、電流を通過させるが、各チャンバで電気分解によって発生したイオンを通過させないという特性を有する。望ましくは、前記イオン交換性物質は、電流は通過させるが、水素イオン及び水酸イオンは通過させないという特性を有する。
【0043】
前記イオン交換性物質は、陽イオン交換膜または陰イオン交換膜でありうる。
【0044】
本発明において、前記陽イオン交換膜は、陽イオンは通過させるが、陰イオン通過には100%に近い抵抗を表す膜であり、反対に陰イオン交換膜は、陰イオンは通過させるが、陽イオン通過には100%に近い抵抗を表す膜である。例えば、前記陽イオン交換膜は、強酸交換膜(strong acid exchange membrane;−SO−含む;Nafion)、または弱酸交換膜(weak acid exchange membrane;−COO−含む)であり、前記陰イオン交換膜は、強塩基交換膜(strong base;N(CH)含む)、または弱塩基交換膜(weak base;N(CH含む)でありうる。前記陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜は、当業界に公知であり、当業者が容易にこれを購入して使用できる。例えば、前記イオン交換膜は、NafionTM(Dupont社)、DowexTM(Aldrich)、及びDiaionTM(Aldrich)などとして市販されている。
【0045】
図2は、本発明による微細流動装置の他の具現例を図示した側面断面図である。
【0046】
図2を参照すれば、本発明によるチャンバは、イオン交換膜205を追加で備え、それにより、このチャンバは、カソード電極201を具備するカソードチャンバ207、とアノード電極203を具備するアノードチャンバ209に区分されている。前記カソード電極201は、水素ガスを吸着できる金属であり、前記アノード電極203は、水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属である。これらカソード電極201及びアノード電極203に使用される金属の具体例は前述のとおりである。
【0047】
図3Aは、本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した平面透視図であり、図3Bは、本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した側面断面図である。
【0048】
図3A及び3Bを参照すれば、本発明のさらに他の具現例によるpHを電気化学的に調節するための微細流動装置は、イオン交換性物質305と、一面が前記イオン交換性物質305の一面により構成され、前記一面のエッジにアノード電極301を具備するアノードチャンバ307と、一面が前記イオン交換性物質305の他の一面により構成され、前記一面のエッジにカソード電極303を具備するカソードチャンバ309とを備える。
【0049】
前記アノードチャンバ307及びカソードチャンバ309は、それぞれ基板311,3213により囲まれている。前記カソード電極303は、水素ガスを吸着できる金属であり、前記アノード電極301は、水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属である。これらカソード電極201及びアノード電極203に使用される金属の具体例は前述のとおりである。
【0050】
前記イオン交換性物質305は、架橋反応と同時に成膜される場合、フレームにより固定されうる。また、イオン交換性物質及びフレーム間の結合力を向上させるために、前記フレームは、V字状でありうる。
【0051】
図4Aは、本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した平面透視図であり、図4Bは、本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した側面断面図である。
【0052】
図4A及び4Bを参照すれば、本発明によるpHを電気化学的に調節するための微細流動装置のさらに他の具現例は、イオン交換性物質405と、一面が前記イオン交換性物質405により構成され、前記一面のエッジにアノード電極401を具備するアノードチャンバ407と、一面が前記イオン交換性物質405により構成され、前記一面のエッジにカソード電極403を具備するカソードチャンバ409とを備え、前記アノードチャンバ407及びカソードチャンバ409の境界は、不導体411によって区分されている。
【0053】
前記カソード電極403、は水素ガスを吸着できる金属であり、前記アノード電極401は、水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属である。これらカソード電極201及びアノード電極203に使用される金属の具体例は前述のとおりである。
【0054】
前記アノードチャンバ407及びカソードチャンバ409は、基板413により囲まれており、前記基板413には、イオン交換性物質注入口415を追加で備えることができる。
【0055】
図5Aは、本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した側面断面図であり、図5Bは、本発明による微細流動装置のさらに他の具体例のアノード電極部を図示した上面図である。
【0056】
図5Aを参照すれば、本発明による微細流動装置のさらに他の具現例は、イオン交換膜505と、前記イオン交換膜505及びアノードチャンバ基板511により形成され、はしご状のアノード電極503及びアノード電極支持部515を備えるアノードチャンバ509と、前記イオン交換膜505及びカソードチャンバ基板513により形成され、カソード電極501を有するカソードチャンバ507とを備える。
【0057】
前記アノード電極支持部515は、その一面に、前記はしご状のアノード電極503を具備し、前記アノード電極503のはしご状によって開口部が形成されており、その他の一面は、前記イオン交換膜505と接触してそれを支持する。
【0058】
また、前記イオン交換膜505の他の一面により構成されるカソードチャンバ507の一面に対向する他の一面に、ピラー構造517が形成されており、前記ピラー構造517は、前記イオン交換膜505と接触してそれを支持する。前記ピラー構造517は、生分子吸着を促進させる。
【0059】
前記カソード電極501は、水素ガスを吸着できる金属であり、前記アノード電極503は、水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属である。
【0060】
前記図5A及び5Bによる微細流動装置は、そのアノード電極支持部515及びピラー構造517により前記イオン交換膜505を支持することにより、その膨脹(swelling)現象を防止し、チャンバの体積変化を最小化でき、アノード電極をはしご状に全体的に分布させることにより電流フローを促進させ、pH調節を効率的に行うことができる。
【0061】
本発明の一具現例で、本発明の微細流動装置は、前記アノードチャンバに水より標準酸化電位の低いイオンまたは高いイオンを含む溶液、すなわち電気分解される電解質が入れられる。前記水より標準酸化電位の低いイオンは、例えばNO、F、SO2−、PO3−及びCO2−のような陰イオンの含まれた一つ以上の電解質であり、前記水より標準酸化電位の高いイオンは、例えばClイオンの含まれた電解質であるが、それらの例に限定されるものではない。水より標準酸化電位の高いClイオンは、細胞の溶解だけを目的とする場合に特別に使われうる。
【0062】
また、本発明の他の一具現例で、本発明の微細流動装置は、前記カソードチャンバに水より標準還元電位の低いイオンを含む溶液が流入されうる。前記イオンの例は、Na、K、Ca2+、Mg2+、及びAl3+のような陽イオンであるが、それらの例に限定されるものではない。
【0063】
本発明において、前記チャンバ、アノードチャンバ、及びカソードチャンバは、それぞれ溶液が流入及び流出される流入口及び流出口を追加で備えることができる。前記流入口と流出口は、必ずしも別個に備わる必要はなく、一つのポートが流入口及び流出口の役割を果たすこともできる。
【0064】
また、図5Bを参照すれば、カソードチャンバの流入口519a及び流出口519bが備わる。また、電源連結口521も備わっている。
【0065】
また、本発明において、前記チャンバ、アノードチャンバ、及びカソードチャンバは、それぞれ溶液を流入及び流出させるためのマイクロポンプを追加で備えることができる。
【0066】
本発明の他の側面は、本発明による微細流動装置を利用し、電気分解によって微細流動装置内の流体のpHを調節する方法を提供する。
【0067】
本発明による方法の一具現例は、イオン交換物質を含まない本発明の一具現例による微細流動装置(図1参照)を利用し、電気分解によって微細流動装置内の流体のpHを調節することである。
【0068】
本発明による方法の他の具現例は、イオン交換物質を含む本発明の一具現例による微細流動装置(図2ないし図5B参照)を利用し、電気分解によって微細流動装置内の流体のpHを調節することである。
【0069】
イオン交換性物質、例えばイオン交換膜を使用する場合、アノード電極で発生した酸性溶液と、カソード電極で発生したアルカリ性溶液及び金属イオンとを互いに分離し、カソードチャンバ及びアノードチャンバ内のpH制御が容易になり、非常に高いpH調節も可能である。また、前記pH制御により細胞を溶解する場合、前記溶解された細胞のDNAがアノード電極に引っ張られて吸着されることを防止できるという長所もある。
【0070】
前記本発明による方法の他の具現例は、a)アノードチャンバに水より標準酸化電位の低いイオンまたは高いイオンを含む溶液を流入させる段階と、b)カソードチャンバに水より標準還元電位の低いイオンを含む溶液を流入させる段階と、c)アノード電極及びカソード電極を介して電流を印加し、前記アノードチャンバ及びカソードチャンバで電気分解を起こし、前記アノードチャンバまたはカソードチャンバに流入した溶液のpHを調節する段階とを含む。
【0071】
本発明の方法において、前記水より標準酸化電位の低い陰イオン、水より標準酸化電位の高い陰イオン、及び水より標準還元電位の低い陽イオンの例は、前述のとおりである。前記a)及びb)段階は、同時または順次に行われうる。
【0072】
前記pHは、印加電流の方向、印加電流の強度、電流印加時間、電極の幅またはイオン交換性物質の厚さによって調節されうる。正確な印加電流の方向、印加電流の強度、電流印加時間、電極の面積及びイオン交換性物質の厚さは、所望のpHまたはチャンバの体積などによって変わり、これは、当業者の実験により容易に決定可能である。
【0073】
本発明の方法において、前記カソードチャンバでは、水より標準還元電位の低い化合物が含まれているカソードチャンバ溶液が含まれているために水が電気分解され、水素ガスとOHイオンとが発生する。前記水素ガスは、本発明による微細流動装置のカソード電極、例えば、Pdにより吸着されてガスが溶液内に放出されず、前記OHによりカソードチャンバ溶液のpHを上げることができる。
【0074】
本発明の方法において、前記アノードチャンバでは、水より標準酸化電位の低い化合物が含まれているアノードチャンバ溶液が含まれており、前記アノード電極は、水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属により構成されるために、水が電気分解されずに前記金属が酸化してイオン化されることにより、ガスが発生しない。また、電圧の上昇及び溶質の変化のような一定条件によって発生することもある少量の酸素も、前記金属と結合して金属酸化物を形成することにより、酸素ガスによる泡は発生しない。
【0075】
一方、細胞の溶解だけのための場合には、NaClを含んだサンプル溶液をアノードとカソードとに流入した後で電気分解を行い、カソードで細胞を溶解させることができる。
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。しかし、それらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がそれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
本発明によるpH調節用微細流動装置の製造
図2の構造を有する本発明によるpH調節用微細流動装置を製造した。
【0078】
まず、電解メッキ法によりPdのメッキされたカソード電極を製造した。伝導体としてAu/Crの固定されている基板を製作し、前記基板を5g/L濃度のPd溶液(pH5.5)に浸し、温度を湯せんで55℃に維持した。Pd粒子が沈殿しないように、前記溶液を撹拌した。アノードに白金網を置いて平行を維持するように、前記基板をカソードに連結し、1.0A/dmの電流密度を加えた。その結果、分当たり0.4μmでメッキされ、約10μm厚にPdをメッキした。前記基板を40mmの広さに切断してカソード電極を製造した。
【0079】
アノード電極として同じ広さのAg基板を利用し、イオン交換膜として−SO−Na基を含む陽イオン交換膜を使用した。カソードチャンバ及びアノードチャンバの容積は、それぞれ10μlであり、本発明によるpH調節用微細流動装置を製造した。
【0080】
<実施例2>
本発明によるpH調節用微細流動装置の製造
アノード電極としてCu基板を使用した点を除き、実施例1と同一に本発明によるpH調節用微細流動装置を製造した。
【0081】
<実施例3>
本発明によるpH調節用微細流動装置の製造
アノード電極としてPb基板を使用した点を除き、実施例1と同一に本発明によるpH調節用微細流動装置を製造した。
【0082】
<比較例1>
pH調節用微細流動装置の製造
カソード電極及びアノード電極としていずれもPt基板を使用した点を除き、実施例1と同一に本発明によるpH調節用微細流動装置を製造した。
【0083】
<比較例2>
pH調節用微細流動装置の製造
アノード電極としてPt基板を使用した点を除き、実施例1と同一に本発明によるpH調節用微細流動装置を製造した。
【0084】
<比較例3>
pH調節用微細流動装置の製造
アノード電極としてAu基板を使用した点を除き、実施例1と同一に本発明によるpH調節用微細流動装置を製造した。
【0085】
<比較例4>
pH調節用微細流動装置の製造
アノード電極としてAl基板を使用した点を除き、実施例1と同一に本発明によるpH調節用微細流動装置を製造した。
【0086】
前記実施例及び比較例による微細流動装置のカソード電極及びアノード電極を下記表1に整理した。
【0087】
【表1】

【0088】
<実験例1>
経時的なガス発生及びpH変化の確認
前記実施例及び比較例で製作された微細流動装置に対し、電気分解によるガス発生の有無及び各チャンバのpH変化を確認した。
【0089】
各微細流動装置のカソードチャンバ及びアノードチャンバにそれぞれ10μlの55mM NaSO溶液を注入し、カソード電極及びアノード電極を介して2mAの電流を印加した。
【0090】
電流印加後、ガスが発生し始める時間を表2に表し、電流印加後30秒でのpHを表3に表した。
【0091】
表2に示したように、比較例の場合、チャンバのうち一つまたは二つでガスが短時間内に発生する一方、実施例の場合、測定した時間内でいずれにもガスが発生しなかった。
【0092】
また、表3に示したように、実施例のアノードチャンバのpHは、比較例のpHに比べて高かった。一方、、細胞溶解のような生分子処理に主に使われるカソードチャンバの方は、実施例、比較例共にpHは高い値を示した。
【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
図6Aないし図6Cは、本発明による微細流動装置を利用して電気分解を行った後に酸化されたアノード電極であるPb、Cu及びAgを表す図面代用写真である。この図面代用写真に示すとおり、一部(点線で囲んだ部分)が酸化されて変色しているのがわかる。このことからアノード電極であるPb、Cu及びAgは酸素を吸着したことを示している。
【0096】
<実験例2>
微細流動装置の抵抗測定
各微細流動装置のカソードチャンバ及びアノードチャンバにそれぞれ10μlの55mM NaSO溶液を注入して電極間の抵抗を測定した。
【0097】
その結果、実施例1及び比較例1ないし3の場合、約400Ωの抵抗を有し、実施例2の場合、約500Ωの抵抗を有し、実施例3の場合、約800Ωの抵抗を有した。
【0098】
一方、実施例4の場合、5,000Ω以上の抵抗を有した。実施例4以外にもアノード電極としてAlを使用し、カソード電極として多様な電極、例えば、Pt、Au、Ag、CuまたはPbを使用する場合にも、5,000Ω以上の抵抗を有した。
【0099】
前記結果から、アノード電極としてAlを使用する場合、抵抗が大きすぎ、電気分解に適さないということがわかる。これは、Alが早く酸化されすぎるためである。
【0100】
<実験例3>
微細流動装置の細胞溶解実験
実施例2及び比較例1でそれぞれ製造した微細流動装置を利用し、一連の生物学的な分析過程のうち一つである細胞溶解実験を行った。
【0101】
まず、実施例2及び比較例1の微細流動装置のカソードチャンバ及びアノードチャンバを、それぞれ55mM NaSOで満たし、カソードチャンバには、E.coli(BL21、Stratagen)の培養物を1.0のOD600の量で添加した。
【0102】
前記実施例2及び比較例1の微細流動装置に対し、2mAの直流電流を室温で30秒間印加することによって電気分解を行った。
【0103】
前記過程により得られた溶液をテンプレートにRT−PCRを行い、細胞が溶解されて流出したDNAを測定した。プライマーとしてフォワードプライマー(FP)及びリバースプライマー(RP)を使用した(FP:5’−YCCAKACTCCTACGGGAGGC−3’、RP:5’−GTATTACCGCRRCTGCTGGCAC−3’)。
【0104】
DNAの量は、リアルタイム定量PCRにより、Cp(crossing point)を求めた。Cp(信号の上がるサイクルをいう)が小さいほど、初期DNA量が多いということを意味する。これは、初期量が多くてこそ、検出器による感知が速くなるためである。
【0105】
図7は、本発明による微細流動装置の細胞溶解能を、比較例と比較した結果を表すグラフである。
【0106】
図7に示したように、実施例2の微細流動装置のCp値は、12.45であり、比較例1の微細流動装置のCp値である13.45より小さかった。このとき、標準サンプルであって電流を加えていない細胞溶液は、Cp値が19.82であった。前記結果から、本発明による微細流動装置を利用する場合、チャンバのpH調節を効果的に行うことができ、それにより、異なるpHを必要とする一連の生物学的な分析過程、例えば、細胞溶解を効果的に行うことができるということがわかる。
【0107】
以上、本発明についてその望ましい実施例を中心に述べた。本発明の属する技術分野で当業者は、本発明が本発明の本質的な特性から外れない範囲で変形された形態に具現されうるということを理解することができるであろう。従って、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点から考慮されねばならない。本発明の範囲は、前述の説明ではなく、特許請求範囲に示されており、それと同等な範囲内にあるあらゆる差異点は、本発明に含まれているものと解釈されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の流体のpHを電気化学的に調節するための微細流動装置、及びそれを利用してpHを調節する方法は、例えば、生物学的分析関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明による微細流動装置の一具現例を図示した側面断面図である。
【図2】本発明による微細流動装置の他の具現例を図示した側面断面図である。
【図3A】本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した平面透視図である。
【図3B】本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した側面断面図である。
【図4A】本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した平面透視図である。
【図4B】本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した側面断面図である。
【図5A】本発明による微細流動装置のさらに他の具現例を図示した側面断面図である。
【図5B】本発明による微細流動装置のさらに他の具体例のアノード電極部を図示した上面図である。
【図6A】製図法に従って描くことが極めて困難なものであって、本発明による微細流動装置を利用して電気分解を行った後、酸化されたアノード電極であるPbを表す図面代用写真である。
【図6B】製図法に従って描くことが極めて困難なものであって、本発明による微細流動装置を利用して電気分解を行った後、酸化されたアノード電極であるCuを表す図面代用写真である。
【図6C】製図法に従って描くことが極めて困難なものであって、本発明による微細流動装置を利用して電気分解を行った後、酸化されたアノード電極であるAgを表す図面代用写真である。
【図7】本発明による微細流動装置の細胞溶解能を、比較例と比較した結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0110】
101,201,303,403,501…カソード電極、
103,203,301,401,503…アノード電極、
105…チャンバ、
205,505…イオン交換膜、
207,309,409,507…カソードチャンバ、
209,307,407,509…アノードチャンバ、
305,405…イオン交換性物質、
311,313,413…基板、
411…不導体、
415…イオン交換性物質注入口、
511…アノードチャンバ基板、
513…カソードチャンバ基板、
515…アノード電極支持部、
517…ピラー構造、
519a…流入口、
519b…流出口、
521…電源連結部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体のpHを電気化学的に調節するための微細流動装置において、
カソード電極として、水素ガスを吸着できる金属を具備し、アノード電極として、水より標準酸化電位が高くて水と反応しない金属とを具備するチャンバを有し、
前記チャンバ内でガスが発生しないことを特徴とする微細流動装置。
【請求項2】
前記カソード電極は、Pdであることを特徴とする請求項1に記載の微細流動装置。
【請求項3】
前記アノード電極は、Cu、Pb、Ag、Cr、Ti、Ni、Zn、Fe及びSnからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の微細流動装置。
【請求項4】
前記チャンバは、イオン交換性物質を追加で備え、当該イオン交換性物質により前記チャンバは、カソード電極を具備するカソードチャンバ及びアノード電極を具備するアノードチャンバに区分されていることを特徴とする請求項1に記載の微細流動装置。
【請求項5】
前記イオン交換性物質は、電流を通過させるが、各チャンバで電気分解によって発生したイオンを分離する特性を有することを特徴とする請求項4に記載の微細流動装置。
【請求項6】
前記イオン交換性物質は、架橋反応と同時に成膜されることを特徴とする請求項1に記載の微細流動装置。
【請求項7】
前記チャンバは、溶液が流入及び流出される流入口及び流出口を追加で備えることを特徴とする請求項1に記載の微細流動装置。
【請求項8】
前記チャンバは、溶液を流入及び流出させるためのマイクロポンプを追加で備えることを特徴とする請求項1に記載の微細流動装置。
【請求項9】
請求項4に記載の微細流動装置内部の流体のpHを電気化学的に調節する方法において、
a)アノードチャンバに、水より標準酸化電位の低いイオンまたは高いイオンを含む溶液を流入させる段階と、
b)カソードチャンバに、水より標準還元電位の低いイオンを含む溶液を流入させる段階と、
c)アノード電極及びカソード電極を介して電流を印加し、前記アノードチャンバ及びカソードチャンバで電気分解を起こし、前記アノードチャンバまたはカソードチャンバに流入した溶液のpHを調節する段階とを含む微細流動装置内部の流体のpHを電気化学的に調節する方法。
【請求項10】
前記アノードチャンバに流入する水より標準酸化電位の低いイオンは、NO、F、SO2−、PO3−及びCO2−からなる群から選択される一つ以上であることを特徴とする請求9項に記載の方法。
【請求項11】
前記アノードチャンバに流入する水より標準酸化電位が高いイオンは、Clであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記カソードチャンバに流入する水より標準還元電位の低いイオンは、Na、K、Ca2+、Mg2+及びAl3+からなる群から選択される一つ以上であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記pHは、印加電流の方向、印加電流の強度、電流印加時間、電極の幅またはイオン交換性物質の厚さによって調節されることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図7】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公開番号】特開2007−195538(P2007−195538A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301359(P2006−301359)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】