説明

流体制御システム

【課題】少なくとも開弁温度が低い側のサーモスタットの開故障を検出可能な流体制御システムを提供する。
【解決手段】流体供給システムは分岐経路PB1、PB2に設けられたサーモスタット18、19と、部分SG1、SG2に設けられたバルブ機構V1、V2と、バルブ機構V1、V2が冷却液の流通制限を解除している状態で、温度thwが第1の目標温度αを下回っており、且つ第1の閾値α´を上回っている場合に、冷却液の流通を制限するように第2のバルブ機構V2を制御する第1の制御を行うともに、第1の制御を行った後、温度thwが上昇した場合に、第2のサーモスタット19が開弁したままの状態になる開故障をしていると判断するECU30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの冷却液など流体を制御する技術として、高水温制御弁と低水温制御弁とを備える点で本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献1で開示されている。また、サーモスタットの開固着故障を診断する点で、本発明と関連性があると考えられる技術が例えば特許文献2で開示されている。このほか本発明と構成上、関連性があると考えられる技術が例えば特許文献3で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−138836号公報
【特許文献2】特開2007−9846号公報
【特許文献3】特開平10−77837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
流体の供給対象に相対的に高温の流体を供給することと、相対的に低温の流体を供給することとを可能にするには例えば次のようにサーモスタットおよびバルブ機構を設けることができる。
【0005】
すなわち、分岐後、合流する第1および第2の分岐経路のうち、第1の分岐経路に第1のサーモスタットを設けるとともに、第2の分岐経路に第1のサーモスタットよりも開弁温度が低く設定された第2のサーモスタットを設けることができる。また、第1および第2の分岐経路を含むとともに、供給対象に流体を供給する流体供給経路のうち、第1および第2の分岐経路合流後の部分である第1の部分に第1のバルブ機構を設けるとともに、第2の分岐経路のうち、第2のサーモスタットよりも下流側の部分である第2の部分に第2のバルブ機構を設けることができる。
【0006】
この場合、第1のバルブ機構によって第1のサーモスタットによる流体の流通制御を有効にした状態で、第2のバルブ機構によって第2のサーモスタットによる流体の流通制御の有効、無効を切り替えることで、各サーモスタットによる流体の流通制御を可能にすることができる。
【0007】
具体的には、第2のバルブ機構によって第2のサーモスタットによる流体の流通制御を無効にすることで、第1のサーモスタットによる流体の流通制御を可能にすることができる。また、第2のバルブ機構によって第2のサーモスタットによる流体の流通制御を有効にすることで、第2のサーモスタットによる流体の流通制御を可能にすることができる。これは、第1のサーモスタットによる流体の流通制御を有効にしたままの状態でも、流体の温度が第1のサーモスタットの開弁温度を下回った場合に第1のサーモスタットが閉弁するためである。
【0008】
この場合、第1のサーモスタットによる流体の流通制御を可能にすることで、流体の温度を相対的に高温に制御する高液温制御を行うことができる。また、第2のサーモスタットによる流体の流通制御を可能にすることで、流体の温度を相対的に低温に制御する低液温制御を行うことができる。
【0009】
ところがこの場合には、第1および第2のサーモスタットのうち、いずれか一方のサーモスタットが開いたままの状態になる開故障を起こした場合でも、その故障を検出することが容易ではなくなる。これは、第2のサーモスタットによる流体の流通制御を可能にしている場合には、例えば以下に示すような事態が生じ得るためである。
【0010】
すなわち、例えば第1のサーモスタットが開故障しており、且つ第2のサーモスタットが正常に閉弁している状態と、第1のサーモスタットが正常に閉弁しており、且つ第2のサーモスタットが開故障している状態とが生じ得るためである。そして、これらの状態の間では流体の制御温度に大差がない可能性があるためである。このため、この場合には例えば第1および第2のサーモスタットがともに正常である場合の流体の制御温度を推定した上で実際の制御温度と比較してみても、どちらのサーモスタットが開故障しているかを判断することは困難となる。
【0011】
本発明は上記課題に鑑み、分岐後、合流する分岐経路それぞれに設けられたサーモスタットのうち、開弁温度が低い側のサーモスタットによる流体の流通制御の有効、無効を切り替えることで、各サーモスタットによる流体の流通制御が行われることを可能にする場合に、少なくとも開弁温度が低い側のサーモスタットの開故障を検出可能な流体制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は分岐後、合流する第1および第2の分岐経路のうち、前記第1の分岐経路に設けられた第1のサーモスタットと、前記第2の分岐経路に設けられ、前記第1のサーモスタットよりも開弁温度が低く設定された第2のサーモスタットと、前記第1および第2の分岐経路を含むとともに、供給対象に流体を供給する流体供給経路のうち、前記第1および第2の分岐経路合流後の部分である第1の部分に設けられた第1のバルブ機構と、前記第2の分岐経路のうち、前記第2のサーモスタットよりも下流側の部分である第2の部分に設けられた第2のバルブ機構と、前記第1および第2のバルブ機構が流体の流通制限を解除している状態で、流体の制御温度が少なくとも前記状態に応じて制御されるべき温度である第1の目標温度を下回っており、且つ前記第1の目標温度よりも所定の度合いだけ温度が低い第1の所定値を上回っている場合に、流体の流通を制限するように前記第2のバルブ機構を制御する第1の制御を行う制御部と、前記制御部が前記第1の制御を行った後、流体の制御温度が上昇した場合に、前記第2のサーモスタットが開弁したままの状態になる開故障をしていると判断する判断部と、を備える流体制御システムである。
【0013】
本発明は前記第1の部分において、前記第1のバルブ機構をバイパスするバイパス経路と、前記第1のサーモスタットと機械的に連動して作動することで、前記第1のサーモスタットが閉弁した状態で前記バイパス経路を連通するとともに、前記第1のサーモスタットが開弁した状態で前記バイパス経路を遮断するバイパス弁と、がさらに設けられており、前記制御部が前記第1の制御を行った後、流体の制御温度が上昇しない場合に、さらに流体の流通を制限するように前記第1のバルブ機構を制御するとともに、流体の流通制限を解除するように前記第2のバルブ機構を制御する第2の制御を行い、前記制御部が前記第2の制御を行った後、流体の制御温度が前記第1のバルブ機構が流体の流通を制限するとともに、前記第2のバルブ機構が流体の流通制限を解除している状態に応じて制御されるべき温度である第2の目標温度よりも所定の度合いだけ温度が低い第2の所定値を下回っている場合に、前記第1のサーモスタットが開弁したままの状態になる開故障をしていると判断する構成とすることができる。
【0014】
本発明は前記第1および第2のサーモスタットが正常である場合の流体の制御温度を推定する推定部と、前記制御部が前記第2の制御を行った後、流体の制御温度が前記第2の所定値を上回るとともに、流体の制御温度と前記推定部が推定する制御温度である推定制御温度との間の乖離の度合いが所定の度合いを上回っている場合に、前記判断部が前記第1および第2のサーモスタットのうち、前記第1のサーモスタットが開弁したままの状態になる開故障をしていると判断する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分岐後、合流する分岐経路それぞれに設けられたサーモスタットのうち、開弁温度が低い側のサーモスタットによる流体の流通制御の有効、無効を切り替えることで、各サーモスタットによる流体の流通制御が行われることを可能にする場合に、少なくとも開弁温度が低い側のサーモスタットの開故障を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エンジンの冷却回路の概略構成図である。
【図2】ロータリバルブの概略構成図である。
【図3】図3(a)は回転弁体を側面視で示す図である。図3(b)は図3(a)に示す矢視Aで回転弁体を示す図である。
【図4】図4(a)は図3(a)に示すA−A断面で回転弁体を示す図である。図4(b)は図3(a)に示すB−B断面で回転弁体を示す図である。図4(c)は図3(a)に示すC−C断面で回転弁体を示す図である。
【図5】流体供給経路を示す図である。
【図6】ECUの概略構成図である。
【図7】制御動作をフローチャートで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【0018】
図1はエンジンの冷却回路(以下、冷却回路と称す)100の概略構成図である。冷却回路100はウォータポンプ(以下、W/Pと称す)1と、エンジン2と、オイルクーラ3と、ヒータ4と、ATF(Automatic Transmission Fluid)ウォーマ5と、ラジエータ6と、電子制御スロットル7と、ロータリバルブ10とを備えている。冷却回路100は図示しない車両に搭載されている。
【0019】
W/P1は流体であるエンジン2の冷却液を循環させる。W/P1はエンジン2の出力で駆動する機械式のポンプとなっている。W/P1は電気駆動式のポンプであってもよい。W/P1が吐出する冷却液はロータリバルブ10を介してエンジン2と電子制御スロットル7とに流入する。エンジン2に流入する際、冷却液は出口部Out1、Out2を介してロータリバルブ10から流出するようになっている。また、電子制御スロットル7に流入する際、冷却液は出口部OutAを介してロータリバルブ10から流出するようになっている。
【0020】
エンジン2は、シリンダブロック2aおよびシリンダヘッド2bを備えている。エンジン2には、次のような冷却通路が設けられている。すなわち、出口部Out1から流入した冷却液をシリンダブロック2a、シリンダヘッド2bの順で流通させるとともに、出口部Out2から流入した冷却液をシリンダヘッド2bに流通させ、さらにシリンダヘッド2bでこれらを合流させた後に、合流させた冷却液をシリンダヘッド2bから流出させる冷却通路が設けられている。
【0021】
エンジン2を流通した冷却液のうち、一部の冷却液はオイルクーラ3、ヒータ4およびATFウォーマ5を流通し、残りの冷却液はラジエータ6を流通する。オイルクーラ3はエンジン2の潤滑オイルと冷却液との間で熱交換を行い、潤滑オイルを冷却する。ヒータ4は空気と冷却液との間で熱交換を行い、空気を加熱する。加熱された空気は車室内の暖房に利用される。ATFウォーマ5はATFと冷却液との間で熱交換を行い、ATFを加熱する。ラジエータ6は冷却器であり、空気と冷却液との間で熱交換を行うことで冷却液を冷却する。
【0022】
オイルクーラ3、ヒータ4およびATFウォーマ5を流通した冷却液は、ロータリバルブ10を介してW/P1に戻る。この際、冷却液は入口部In1を介してロータリバルブ10に流入するようになっている。また、ラジエータ6を流通した冷却液は入口部In2を介してロータリバルブ10に流入するようになっている。オイルクーラ3、ヒータ4およびATFウォーマ5を流通する流通経路は、ラジエータ6をバイパスする第1のラジエータバイパス経路P11になっている。
【0023】
電子制御スロットル7に流入した冷却液は、電子制御スロットル7を流通した後、第1のラジエータバイパス経路P11に合流するようになっている。電子制御スロットル7には、凍結による動作不良の発生を防止するために冷却液を流通させることができる。電子制御スロットル7を流通する流通経路は、エンジン2をバイパスするエンジンバイパス経路P2となっている。
【0024】
冷却回路100ではさらにエンジン2を流通した冷却液の一部が入口部In3を介してロータリバルブ10に流入するようになっている。この流通経路はラジエータ6をバイパスする第2のラジエータバイパス経路P12になっている。したがって、ロータリバルブ10には第1のラジエータバイパス経路P11を流通する冷却液が入口部In1を介して流入する。また、第2のラジエータバイパス経路P12を流通する冷却液が入口部In3を介して流入する。
【0025】
図2はロータリバルブ10の概略構成図である。図2ではロータリバルブ10とともにW/P1も示している。図1、図2に示すように、ロータリバルブ10は第1の通路部11と、第2の通路部12と、回転弁体13と、駆動部14と、弁体バイパス通路部15と、第1のバイパス弁16と、検出部17と、第1のサーモスタット18と、第2のサーモスタット19と、第2のバイパス弁20と、チェック弁21とを備えている。また、入口部In1、In2、In3と、出口部Out1、Out2、OutAとを備えている。なお、図2では図示の都合上、チェック弁21については図示省略している。
【0026】
第1の通路部11はW/P1の冷却液出口部とエンジン2との間に設けられ、冷却液を流通させる。第2の通路部12はW/P1の冷却液入口部とラジエータ6との間に設けられ、冷却液を流通させる。通路部11、12は並べて配置されている。通路部11、12は並べて配置された状態でW/P1に端部で接続されている。そして、第1の通路部11はポンプ1の冷却液出口部に、第2の通路部12はポンプ1の冷却液入口部にそれぞれ接続されている。第1の通路部11ではW/P1側が上流側、第2の通路部12ではW/P1側が下流側となっている。
【0027】
第1の通路部11は回転弁体13の下流側で出口部Out1、Out2に連通するとともに、回転弁体13の上流側で出口部OutAに連通している。したがって、出口部Out1、Out2は第1の通路部11のうち、回転弁体13の下流側の部分から冷却液を流出させる。また、出口部OutAは第1の通路部11のうち、回転弁体13の上流側の部分から冷却液を流出させる。
【0028】
第2の通路部12は回転弁体13の上流側および下流側で入口部In1に連通している。したがって、入口部In1は第2の通路部12のうち、回転弁体13よりも上流側の部分および下流側の部分に冷却液を流入させる。なお、図示の都合上、図2では入口部In1と第2の通路部12の上流側および下流側とが連通している様子については図示省略している。
【0029】
第2の通路部12は回転弁体13の上流側および下流側で入口部In2に連通している。したがって、入口部In2は第2の通路部12のうち、回転弁体13よりも上流側の部分および下流側の部分に冷却液を流通させる。この点、第2の通路部12は回転弁体13よりも下流側の部分と入口部In2とを連通する第1の連通部B1と、回転弁体13よりも上流側の部分と入口部In2とを連通する第2の連通部B2とを備えている。第2の通路部12は回転弁体13の上流側でさらに入口部In3に連通している。
【0030】
回転弁体13は第1の通路部11と第2の通路部12とに介在するように設けられている。回転弁体13は第1の通路部11を流通する冷却液の流通と、第2の通路部12を流通する冷却液の流通とを回転動作で変更する。回転弁体13は第1の通路部11を流通する冷却液の流通と第2の通路部12を流通する冷却液の流通とを禁止、許可することを含め、これら流通の制限、制限の解除を行うことができる。駆動部14はアクチュエータ14aとギヤボックス部14bとを備えており、回転弁体13を駆動する。アクチュエータ14aは具体的には電動モータである。
【0031】
弁体バイパス通路部15は、第1の通路部11のうち、回転弁体13よりも上流側の部分と下流側の部分とを連通している。第1のバイパス弁16は差圧弁であり、第1の通路部11のうち、回転弁体13よりも上流側の部分における冷却液の圧力(上流側圧力)と、回転弁体13よりも下流側の部分における冷却液の圧力(下流側圧力)との差圧に応じて、弁体バイパス通路部15を介した冷却液の流通の制限、制限の解除(具体的にはここでは禁止、許可)を行う。
【0032】
具体的には、第1のバイパス弁16は上流側圧力から下流側圧力を引くことで得られる差圧の大きさが所定の大きさ以下である場合に弁体バイパス通路部15を介した冷却液の流通を禁止し、所定の大きさよりも高い場合に弁体バイパス通路部15を介した冷却液の流通を許可する。所定の大きさは正常な場合に得られる最大の差圧の大きさよりも大きく設定することができる。
【0033】
第1のバイパス弁16は、さらに第1のサーモスタット18と機械的に連動して作動するように構成されている。この点、第1のサーモスタット18は通路部11、12に介在するようにして延伸することで、第1のバイパス弁16に連結された作動軸18aを備えている。そして第1のバイパス弁16は、作動軸18aが第1のバイパス弁16を駆動することで、第1のサーモスタット18が閉弁した状態で弁体バイパス通路部15を介した冷却液の流通を許可するとともに、第1のサーモスタット18が開弁した状態で弁体バイパス通路部15を介した冷却液の流通を禁止する。
【0034】
第1のバイパス弁16を差圧弁とするとともに、第1のサーモスタット18と機械的に連動して作動するように構成するには、例えば第1のバイパス弁16に差圧で開弁する開弁構造を設けるとともに、第1のバイパス弁16全体を第1のサーモスタット18と機械的に連動して作動するように構成することができる。
【0035】
検出部17はアクチュエータ14aの駆動軸に対して設けられている。検出部17はアクチュエータ14aの駆動軸の回転角度を検出する。そしてこれにより、回転弁体13の位相を検出或いは推定可能にする。検出部17は例えば回転弁体13の回転軸に対して設けられてもよい。
【0036】
第1のサーモスタット18は第1の連通部B1に設けられている。第2のサーモスタット19は第2の連通部B2に設けられている。このため、第2の通路部12は回転弁体13の下流側で第1のサーモスタット18を介して入口部In2に連通している。そしてこれにより、回転弁体13の下流側で第1のサーモスタット18を介してラジエータ6に連通している。また、第2の通路部12は回転弁体13の上流側で第2のサーモスタット19を介して入口部In2に連通している。そしてこれにより、回転弁体13の上流側で第2のサーモスタット19を介してラジエータ6に連通している。
【0037】
サーモスタット18、19の開弁温度それぞれは互いに異なっている。第2のサーモスタット19の開弁温度は第1のサーモスタット18の開弁温度よりも低く設定されている。この点、第1のサーモスタット18は冷却液の温度が所定値Aよりも高い場合に開弁するとともに、所定値A以下である場合に閉弁する。第2のサーモスタット19は冷却液の温度が所定値Aよりも値が小さい所定値Bよりも高い場合に開弁するとともに、所定値B以下である場合に閉弁する。
【0038】
第2のバイパス弁20は入口部In3を連通、遮断するように設けられている。第2のバイパス弁20は第2のサーモスタット19と機械的に連動して作動するように構成されている。具体的には、第2のバイパス弁20は第2のサーモスタット19の作動軸(図示省略)に連結されている。第2のバイパス弁20は第2のサーモスタット19が閉弁した状態で入口部In3(すなわち、第2のラジエータバイパス経路P12)を介した冷却液の流通を許可するとともに、第2のサーモスタット19が開弁した状態で入口部In3を介した冷却液の流通を禁止する。
【0039】
チェック弁21は入口部In1から流入した冷却液の流通を制御する。具体的にはチェック弁21は入口部In1から流入した冷却液が第2の通路部12の上流側および下流側に流入するにあたり、上流側から下流側への流通を許可するとともに、下流側から上流側への流通を禁止する。
【0040】
図3(a)は回転弁体13を側面視で示す図である。図3(b)は回転弁体13を図3(a)に示す矢視Aで示す図である。図4(a)は図3(a)に示すA−A断面で、図4(b)は図3(a)に示すB−B断面で、図4(c)は図3(a)に示すC−C断面で回転弁体13をそれぞれ示す図である。
【0041】
回転弁体13は第1の通路部11に配置される第1の弁体部R1と、第2の通路部12に配置される第2の弁体部R2とを備えている。弁体部R1、R2はともに内部を円筒状に中空にした部材となっている。この点、弁体部R1、R2の内部は互いに連通していない。
【0042】
第1の弁体部R1には第1の開口部G1が、第2の弁体部R2には第2の開口部G2が設けられている。開口部G1、G2は互いに異なる位相で設けられている。第1の開口部G1は支柱によって分断された2つの開口部分を合わせた部分となっており、第2の開口部G2は支柱によって分断された3つの開口部分を合わせた部分となっている。
【0043】
第1の開口部G1は第1の通路部11の上流側および下流側に開口した状態でエンジン2への冷却液の流通を許可することができる。また、第1の通路部11の上流側および下流側のうち、いずれか一方にのみ開口した状態でエンジン2への冷却液の流通を禁止することができる。第1の開口部G1は第1の通路部11の上流側および下流側に開口した状態で、回転弁体13の位相に応じてエンジン2に流通させる冷却液の流量を調節することもできる。
【0044】
第2の開口部G2は第2の通路部12の上流側および下流側に開口した状態で、第2の開口部G2を介した冷却液の流通を許可することができる。また、第2の通路部12の上流側および下流側のうち、いずれか一方にのみ開口した状態で、第2の開口部G2を介した冷却液の流通を禁止することができる。
【0045】
第2の弁体部R2には、さらに第3の開口部G3が設けられている。第3の開口部G3は、軸方向において第2の開口部G2と異なる位置に設けられている。第3の開口部G3は、第2の開口部G2が第2の通路部12の上流側および下流側に開口した状態で、第2の通路部12の下流側に位置する場合に、第2の通路部12の下流側に開口するように設けられている。一方、第2の開口部G2が第2の通路部12の上流側および下流側に開口した状態で、第2の通路部12の上流側に位置する場合には、第2の通路部12の上流側に開口しないように設けられている。
【0046】
したがって、第3の開口部G3は第2の通路部12の下流側に位置する場合に、第3の開口部G3を介した冷却液の流通を許可することができる。また、このときに開口部G2、G3それぞれを介した冷却液の流通を許可することができる。一方、第3の開口部G3は第2の通路部12の上流側に位置する場合に、第3の開口部G3を介した冷却液の流通を禁止することができる。このときには開口部G2、G3のうち、第2の開口部G2を介した冷却液の流通を許可することができる。
【0047】
第3の開口部G3が第2の通路部12の上流側に位置する場合に、第2の開口部G2は第2の通路部12の上流側および下流側に開口した状態で、回転弁体13の位相に応じて、回転弁体13を間に挟んだ第2の通路部12の上流側から下流側に流通する冷却液の流量を次第に増減することもできる。また、第3の開口部G3が第2の通路部12の下流側に位置する場合に、開口部G2、G3は第2の通路部12の上流側および下流側に開口した状態で、回転弁体13の位相に応じて、回転弁体13を間に挟んだ第2の通路部12の上流側から下流側に流通する冷却液の流量を次第に増減することもできる。
【0048】
このように構成された回転弁体13は、第1の通路部11における冷却液の流通と、第2の通路部12における冷却液の流通とを回転動作で同時に制御することができる。
【0049】
具体的には例えば回転弁体13は第1の弁体部R1で回転弁体13を間に挟んだ第1の通路部11の上流側から下流側への冷却液の流通の制限を解除(具体的にはここでは許可)すると同時に、第2の弁体部R2で回転弁体13を間に挟んだ第2の通路部12の上流側から下流側への冷却液の流通を制限(具体的にはここでは禁止)することができる。また、例えば第1の弁体部R1で回転弁体13を間に挟んだ第1の通路部11の上流側から下流側への冷却液の流通の制限を解除(具体的にはここでは許可)すると同時に、第2の弁体部R2が回転弁体13を間に挟んだ第2の通路部12の上流側から下流側への冷却液の流通の制限を解除(具体的にはここでは許可)することができる。
【0050】
図1、図2に戻り、回転弁体13の上流側で出口部OutAに連通している第1の通路部11は、回転弁体13の上流側でエンジンバイパス経路P2に対して分岐している。このため、回転弁体13が第1の通路部11においてエンジン2への冷却液の流通を禁止する場合に、ロータリバルブ10はエンジンバイパス経路P2に冷却液を流通させることができる。
【0051】
第1の通路部11は具体的には回転弁体13の位相に応じて次に示す流通制御を行えるように分岐することができる。すなわち、回転弁体13の位相に応じて、シリンダブロック2aおよびシリンダヘッド2bへの冷却液の流通を禁止できるように分岐することができる。また、シリンダブロック2aへの冷却液の流通を禁止するとともにシリンダヘッド2bへの冷却液の流通を許可することができるように分岐することができる。さらに、シリンダブロック2aおよびシリンダヘッド2bへの冷却液の流通を許可できるように分岐することができる。
【0052】
このように分岐するには、さらに具体的には回転弁体13の異なる位相それぞれに対応させて第1の通路部11を分岐することができる。なお、図2では図示の都合上、回転弁体13の同じ位相に対応させて分岐しているように第1の通路部11を示している。この点、例えば回転弁体13の同じ位相に対応させて第1の通路部11を分岐する場合でも、回転弁体13において第2の弁体部R2と同様の構造を第1の弁体部R1に適用するとともに、開口部G2、G3に対応させて第1の通路部11を分岐することで上述した流通制御を可能にすることもできる。エンジン2に冷却液を供給するにあたり、第1の通路部11は回転弁体13の下流側で分岐していなくてもよい。この場合、例えばシリンダブロック2aに冷却液を供給できる。
【0053】
図5は流体供給経路PSを示す図である。流体供給経路PSは冷却液の供給対象、すなわち冷却対象であるエンジン2に冷却液を供給する経路であり、分岐後、合流する分岐経路PB1、PB2を含んでいる。流体供給経路PSはラジエータ6からエンジン2に冷却液を供給する経路となっている。したがって、ラジエータ6は分岐経路PB1、PB2の上流側で流通する冷却液を冷却する。第1の分岐経路PB1は具体的には第1の連通部B1を介して第2の通路部12の下流側に到達する経路に対応している。第2の分岐経路PB2は具体的には第2の連通部B2、第2の通路部12の上流側およびロータリバルブ10を介して第2の通路部12の下流側に到達する経路に対応している。
【0054】
サーモスタット部Tは第1の分岐経路PB1に第1のサーモスタット18を備えるとともに、第2の分岐経路PB2に第2のサーモスタット19を備えている。バルブ部Vは流体供給経路PSのうち、分岐経路PB1、PB2合流後の部分である第1の部分SG1に第1のバルブ機構V1を備えるとともに、第2の分岐経路PB2のうち、第2のサーモスタット19よりも下流側の部分である第2の部分SG2に第2のバルブ機構V2を備えている。バルブ部Vは部分SG1、SG2に配置される一軸の回転弁体13を備えることで、第1の部分SG1に第1のバルブ機構V1を備えるとともに、第2の部分SG2に第2のバルブ機構V2を備えている。弁体バイパス通路部15は第1の部分SG1において、第1のバルブ機構V1をバイパスするバイパス経路を形成している。
【0055】
このように構成された流体供給経路PSでは、第1のバルブ機構V1によって第1のサーモスタットに18よる冷却液の流通制御を有効にした状態で、第2のバルブ機構V2によって第2のサーモスタット19による冷却液の流通制御を無効にすることで、第1のサーモスタット18による冷却液の流通制御を可能にすることができる。また、第1のバルブ機構V1によって第1のサーモスタットに18よる冷却液の流通制御を有効にした状態で、第2のバルブ機構V2によって第2のサーモスタット19による冷却液の流通制御を有効にすることで、第2のサーモスタット19による冷却液の流通制御を可能にすることができる。
【0056】
すなわち、このように構成された流体供給経路PSでは、第2のサーモスタット19による冷却液の流通制御の有効、無効を切り替えることで、サーモスタット18、19による冷却液の流通制御を可能にすることができる。この場合、第1のサーモスタット18による冷却液の流通制御を可能にすることで、冷却液の温度を相対的に高温に制御する高液温制御を行うことができる。また、第2のサーモスタット19による冷却液の流通制御を可能にすることで、冷却液の温度を相対的に低温に制御する低液温制御を行うことができる。
【0057】
図6はECU30の概略構成図である。ECU30はCPU31、ROM32、RAM33等からなるマイクロコンピュータと入出力回路34、35とを備えている。これらの構成は互いにバス36を介して接続されている。ECU30には、入力回路34を介して検出部17やエンジン2の運転状態や車両の状態を検出するためのセンサ群40が電気的に接続されている。また、出力回路35を介してアクチュエータ14aが電気的に接続されている。
【0058】
センサ群40はエンジン2の回転数NEを検出可能にするセンサや、エンジン2の負荷を検出可能にするセンサや、エンジン2を流通する冷却液の温度thwを検知するセンサや、車速を検出可能にするセンサや、車両の外気温を検知するセンサを含む。温度thwは冷却液の制御温度であり、例えば第1の部分SG1のうち、第1のバルブ機構V1よりも上流側の部分における冷却液の温度である。センサ群40は例えばエンジン2を制御する制御装置を介して間接的に接続されてもよい。或いは、ECU30は例えばエンジン2を制御する制御装置であってもよい。
【0059】
ROM72はCPU31が実行する種々の処理が記述されたプログラムやマップデータなどを格納するための構成である。CPU31がROM32に格納されたプログラムに基づき、必要に応じてRAM33の一時記憶領域を利用しつつ処理を実行することで、ECU30では各種の機能部が実現される。この点、ECU30では例えば以下に示す制御部と判断部と推定部とが機能的に実現される。
【0060】
制御部はバルブ機構V1、V2が冷却液の流通制限を解除している状態で(すなわち低液温制御を行っている状態で)、温度thwが少なくとも第1の目標温度αを下回っている場合に、冷却液の流通を制限するように第2のバルブ機構V2を制御する第1の制御を行う。第1の目標温度αはバルブ機構V1、V2が冷却液の流通制限を解除している状態に応じて制御されるべき温度である。
【0061】
第1の制御を行うにあたり、制御部は温度thwが少なくとも第1の目標温度αを下回っている場合として、具体的には温度thwが第1の目標温度αを下回っており、且つ第1の目標温度αよりも所定の度合いだけ温度が低い第1の所定値である第1の閾値α´を上回っている場合に、冷却液の流通を制限するように第2のバルブ機構V2を制御する。また、さらに具体的には温度thwが第4の閾値δを下回っており、且つ第1の閾値α´を上回っている場合に、冷却液の流通を制限するように第2のバルブ機構V2を制御する。第4の閾値δは第1の目標温度αよりも低く、且つ第1の閾値α´よりも高い値に設定することができる。
【0062】
判断部は制御部が第1の制御を行った後、温度thwが上昇した場合に、第2のサーモスタット19が開弁したままの状態になる開故障をしていると判断する。判断部は具体的には温度thwが第1の閾値α´を上回った場合(具体的にはここでは第1の閾値α´以上である場合)に、第2のサーモスタット19が開故障をしていると判断する。この点、判断部は具体的にはサーモスタット18、19のうち、第2のサーモスタット19が開故障していると判断する。温度thwが上昇しない場合、判断部は第1のサーモスタット18が開故障をしているか、サーモスタット18、19がともに開故障をしているか、或いはサーモスタット18、19がともに正常であると判断する。
【0063】
制御部は第1の制御を行った後、温度thwが上昇しない場合に、さらに冷却液の流通を制限するように第1のバルブ機構V1を制御するとともに、冷却液の流通制限を解除するように第2のバルブ機構V2を制御する第2の制御を行う。
【0064】
判断部はさらに制御部が第2の制御を行った後、温度thwが少なくとも第2の目標温度βを下回っている場合に、第1のサーモスタット18が開故障をしていると判断する。第2の目標温度βは第1のバルブ機構V1が冷却液の流通を制限するとともに、第2のバルブ機構V2が冷却液の流通制限を解除している状態に応じて制御されるべき温度である。
【0065】
判断部は温度thwが少なくとも第2の目標温度βを下回っている場合として、具体的には温度thwが第2の目標温度βよりも所定の度合いだけ温度が低い第2の所定値である第2の閾値β´を下回っている場合に、第1のサーモスタット18が開故障をしていると判断する。この点、判断部は具体的にはサーモスタット18、19がともに開故障していると判断する。温度thwが第2の閾値β´を上回った場合(具体的にはここでは第2の閾値β´以上である場合)、判断部はサーモスタット18、19のうち、第1のサーモスタット18が開故障をしているか、或いはサーモスタット18、19がともに正常であると判断する。
【0066】
推定部はサーモスタット18、19が正常である場合の温度thwを推定する。具体的には推定部はバルブ機構V1、V2の流通制御状態と、サーモスタット18、19が正常であり、且つバルブ機構V1、V2の流通制御状態が同じである場合に温度thwを異ならせる条件(例えば外気温やヒータ4の使用状態やエンジン2の負荷)とに基づき、温度thwを推定する。推定部は制御温度thwを推定することで、推定制御温度thw´を算出する。
【0067】
判断部はさらに制御部が第2の制御を行った後、温度thwが第2の閾値β´を上回るとともに、温度thwと推定制御温度thw´との間の乖離の度合いが所定の度合いγを上回っている場合に、サーモスタット18、19のうち、第1のサーモスタット18が開故障をしていると判断する。また、乖離の度合いが所定の度合いγを下回っている場合(具体的にはここでは所定の度合いγ以下である場合)に、サーモスタット18、19がともに正常であると判断する。
【0068】
判断部は乖離の度合いが所定の度合いγを上回っている場合として、具体的には温度thwが推定制御温度thw´よりも所定の度合いγだけ温度が低い第3の所定値である第3の閾値γ´を下回っている場合に上述したように判断する。したがって、判断部は乖離の度合いが所定の度合いγを下回っている場合として、具体的には温度thwが低い第3の閾値γ´を上回っている場合(具体的にはここでは第3の閾値γ´以上である場合)に上述したように判断する。第3の閾値γ´は推定制御温度thw´を算出した際に算出することができる。
【0069】
温度thwと第1の閾値α´との比較は例えば温度thwが第1の閾値α´以下であるか、或いは第1の閾値α´を上回っているかを判定することによって行われてもよい。これは温度thwの比較対象が例えば第1の目標温度αである場合や閾値β´、γ´、δである場合も同様である。閾値α´、β´にかかる所定の度合いそれぞれおよび所定の度合いγは互いに異なっていてよい。本実施例では、サーモスタット18、19とバルブ機構V1、V2とECU30とを備える流体制御システムが実現されている。
【0070】
次に本実施例の流体供給システムの制御動作について図7に示すフローチャートを用いて説明する。ECU30は温度thwが第4の閾値δを下回っており、且つ第1の閾値α´を上回っているか否かを判定する(ステップS1)。なお、図7に示すように第1の閾値α´は第1の目標温度αよりも所定の度合いだけ温度が低く設定されている。また、第4の閾値δは第1の目標温度αよりも低く、且つ第1の閾値α´よりも高い値に設定されている。本フローチャートでは、温度thwが第1の目標温度αを下回っていることで、低液温制御が行われていることを同時に確認するようにしている。ECU30は例えばバルブ機構V1、V2の流通制御状態(回転弁体13の位相)に基づき、低液温制御を行っているか否かを別途判定してもよい。ステップS1で否定判定であれば、本フローチャートを一旦終了する。
【0071】
ステップS1で肯定判定であれば、ECU30は故障診断モードに入るか否かを決定する(ステップS2)。ステップS2では、例えばエンジン2の運転状態に基づき、故障診断モードに入ることに支障があるか否かを判定することができる。そして、支障がない場合に故障診断モードに入ると決定することができる。ステップS2で否定判定であれば、本フローチャートを一旦終了する。
【0072】
ステップS2で肯定判定であれば、ECU30は冷却液の流通を制限するように第2のバルブ機構V2を制御する(ステップS3)。そしてこれにより、第1の制御が行われる結果、第2のサーモスタット19による流体の流通制御が有効な状態から無効な状態に切り替わる。続いてECU30は温度thwが上昇したか否かを判定する(ステップS4)。温度thwが上昇したか否かは例えば温度thwが第4の閾値δを上回ったか否かで判定できる。
【0073】
ステップS4で否定判定であれば、ECU30は第2のサーモスタット19のみが開故障をしていると判断する(ステップS11)。一方、ステップS4で肯定判定であれば、ECU30は第1のサーモスタット18のみが開故障をしているか、サーモスタット18、19がともに開故障をしているか、或いはサーモスタット18、19がともに正常であると判断する(ステップS5)。
【0074】
ステップS5に続いて、ECU30は冷却液の流通を制限するように第1のバルブ機構V1を制御するとともに、冷却液の流通制限を解除するように第2のバルブ機構V2を制御する(ステップS6)。そしてこれにより、第2の制御が行われる結果、エンジン2への冷却液の流通が制限される。続いてECU30は温度thwが第2の閾値β´を下回っているか否かを判定する(ステップS7)。
【0075】
ステップS7で肯定判定であれば、ECU30はサーモスタット18、19がともに開故障をしていると判断する(ステップS12)。一方、否定判定であれば、ECU30は第1のサーモスタット18のみが開故障をしているか、或いはサーモスタット18、19がともに正常であると判断する(ステップS8)。ステップS8に続き、ECU30は推定制御温度thw´および第3の閾値γ´を算出する(ステップS9)。続いてECU30は温度thwが第3の閾値γ´を下回っているか否かを判定する(ステップS10)。
【0076】
ステップS10で肯定判定であれば、ECU30は第1のサーモスタット18のみが開故障をしていると判断する(ステップS13)。一方、否定判定であれば、ECU30はサーモスタット18、19がともに正常であると判断する(ステップS14)。ステップS11、12、13、14の後には本フローチャートを終了する。ステップS11、S12、S13で故障と判断された場合、ECU30は故障の態様に応じたエンジン2の運転制御を行うことができる。ステップS14で正常と判断された場合、ECU30はエンジン2の運転制御を通常通り行うことができる。
【0077】
次に本実施例の流体制御システムの作用効果について説明する。ここで、低液温制御を行っている状態で温度thwが少なくとも第1の目標温度αを下回っている場合とは、本来サーモスタット18、19が閉弁する結果、温度thwが上昇するように制御される場合に相当する。同時にサーモスタット18、19のうち、少なくともいずれかのサーモスタットが開故障している結果、温度thwが低下している可能性がある場合にも相当する。
【0078】
これに対し、流体制御システムはかかる場合に冷却液の流通を制限するように第2のバルブ機構V2を制御する第1の制御を行う。この点、第1の制御を行った後、温度thwが上昇した場合には、第2のサーモスタット19を介した冷却液の流通が制限された結果、温度thwが上昇したと判断することができる。このためこの場合に、第2のサーモスタット19が開故障をしていると判断することで、流体制御システムは第2のサーモスタット19の開故障を検出できる。
【0079】
この点、流体制御システムは温度thwが少なくとも第1の目標温度αを下回っている場合を温度thwが第1の目標温度αを下回っており、且つ第1の閾値α´を上回っている場合とすることで、サーモスタット18、19のうち、第2のサーモスタット19が開故障していることを検出できる。
【0080】
すなわち、例えばサーモスタット18、19がともに開故障している結果、温度thwが低下し切った状態にある場合には、第1の制御を行った後に第1のサーモスタット18を介した冷却液の流通のみが可能になる結果、温度thwが上昇することもある。これに対し、流体制御システムは温度thwが少なくとも第1の目標温度αを下回っている場合を上述した場合とすることで、サーモスタット18、19がともに開故障している場合と区別しつつ、サーモスタット18、19のうち、第2のサーモスタット19が開故障していることを検出できる。したがって、第1の閾値α´は具体的にはこれらの場合を区別可能な値に設定することができる。
【0081】
流体制御システムは温度thwが少なくとも第1の目標温度αを下回っている場合をさらに温度thwが第4の閾値δを下回っており、且つ第1の閾値α´を上回っている場合とすることで、故障の可能性が高い場合に故障診断モードに入るようにすることができる。結果、故障を好適に検出できる。
【0082】
流体制御システムは第1の制御を行った後、温度thwが上昇しない場合に、さらに冷却液の流通を制限するように第1のバルブ機構V1を制御するとともに、冷却液の流通制限を解除するように第2のバルブ機構Vを制御する第2の制御を行う。そして、第2の制御を行った後、温度thwが少なくとも第2の目標温度βを下回っている場合には、次のように故障を判断することができる。
【0083】
すなわち、第2の制御を行った場合には第1のバルブ機構V1によってエンジン2への冷却液の供給が制限される。このときサーモスタット18、19がともに正常である場合には、サーモスタット18、19はともに閉弁状態にある。したがって、第1のサーモスタット18と連動する第1のバイパス弁16は開弁状態にある。このためこの場合には、第1のバイパス弁16を介してエンジン2に冷却液が供給される結果、エンジン2で冷却液の受熱が行われる。そしてこの状態で、温度thwが第2の目標温度βになるように制御される。
【0084】
一方、第1のサーモスタット18が開故障している場合には、第1のバイパス弁16を介した冷却液の流通が制限される結果、エンジン2への冷却液の流通が制限される。したがって、エンジン2からの冷却液の受熱が制限される結果、温度thwは少なくとも第2の目標温度βを下回ることになる。
【0085】
このため、流通制御システムは第2の制御を行った後、温度thwが少なくとも第2の目標温度βを下回っている場合に第1のサーモスタット18が開故障をしていると判断することで、第1のサーモスタット18の開故障も検出できる。この点、流体制御システムは温度thwが少なくとも第2の目標温度βを下回っている場合を温度thwが第2の閾値β´を下回っている場合とすることで、サーモスタット18、19のうち、第1のサーモスタット18が開故障している場合と区別しつつ、サーモスタット18、19がともに開故障していることを検出できる。
【0086】
これは、サーモスタット18、19がともに開故障している場合には、サーモスタット18、19のうち、第1のサーモスタット18が開故障している場合よりも流通する冷却液の流量が増大する結果、温度thwが低下し易くなるためである。したがって、第2の閾値β´は具体的にはこれらの場合を区別可能な温度thwの範囲内で設定することができる。
【0087】
第2の制御を行った後、温度thwが第2の閾値β´を下回っており、且つ温度thwと推定制御温度thw´との間の乖離の度合いが所定の度合いγを上回っている場合には、次のように判断することができる。すなわち、サーモスタット18、19のうち、第1のサーモスタット18が開故障している結果、温度thwと推定制御温度thw´との間で乖離が発生していると判断することができる。
【0088】
このため、この場合にサーモスタット18、19のうち、第1のサーモスタット18が開弁したままの状態になる開故障をしていると判断することで、流体制御システムはさらにサーモスタット18、19のうち、第1のサーモスタット18が開故障していることも検出できる。したがって、所定の度合いγはサーモスタット18、19のうち、第1のサーモスタット18が開故障している場合と、サーモスタット18、19がともに正常である場合とを区別可能な値に設定できる。
【0089】
流体制御システムはさらにこれにより、サーモスタット18、19のうち、第1のサーモスタット18が開故障していること、第2のサーモスタット19が開故障していること、およびサーモスタット18、19がともに開故障していることを互いに区別しつつ検出できる。
【0090】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0091】
例えば第1および第2のバルブ機構は単体のバルブ(例えば電磁弁)でそれぞれ実現されてもよい。この点、第1および第2のバルブ機構を第1および第2の部分に配置される回転弁体によって実現することで、第1および第2のバルブ機構を単一のアクチュエータで駆動することができる。結果、コスト的に有利な構成とすることができる。また、これによりW/Pに対して例えば直接設けることが可能なロータリバルブを構成することが可能になる結果、回路構成の集約化による冷却回路の簡素化やコンパクト化を好適に図ることもできる。
【符号の説明】
【0092】
W/P 1
エンジン 2
ラジエータ 6
回転弁体 13
第1のサーモスタット 18
第2のサーモスタット 19
ECU 30
流体供給経路 PS
第1の分岐経路 PB1
第2の分岐経路 PB2
第1のバルブ機構 V1
第2のバルブ機構 V2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐後、合流する第1および第2の分岐経路のうち、前記第1の分岐経路に設けられた第1のサーモスタットと、
前記第2の分岐経路に設けられ、前記第1のサーモスタットよりも開弁温度が低く設定された第2のサーモスタットと、
前記第1および第2の分岐経路を含むとともに、供給対象に流体を供給する流体供給経路のうち、前記第1および第2の分岐経路合流後の部分である第1の部分に設けられた第1のバルブ機構と、
前記第2の分岐経路のうち、前記第2のサーモスタットよりも下流側の部分である第2の部分に設けられた第2のバルブ機構と、
前記第1および第2のバルブ機構が流体の流通制限を解除している状態で、流体の制御温度が少なくとも前記状態に応じて制御されるべき温度である第1の目標温度を下回っており、且つ前記第1の目標温度よりも所定の度合いだけ温度が低い第1の所定値を上回っている場合に、流体の流通を制限するように前記第2のバルブ機構を制御する第1の制御を行う制御部と、
前記制御部が前記第1の制御を行った後、流体の制御温度が上昇した場合に、前記第2のサーモスタットが開弁したままの状態になる開故障をしていると判断する判断部と、を備える流体制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の流体制御システムであって、
前記第1の部分において、前記第1のバルブ機構をバイパスするバイパス経路と、
前記第1のサーモスタットと機械的に連動して作動することで、前記第1のサーモスタットが閉弁した状態で前記バイパス経路を連通するとともに、前記第1のサーモスタットが開弁した状態で前記バイパス経路を遮断するバイパス弁と、がさらに設けられており、
前記制御部が前記第1の制御を行った後、流体の制御温度が上昇しない場合に、さらに流体の流通を制限するように前記第1のバルブ機構を制御するとともに、流体の流通制限を解除するように前記第2のバルブ機構を制御する第2の制御を行い、
前記制御部が前記第2の制御を行った後、流体の制御温度が前記第1のバルブ機構が流体の流通を制限するとともに、前記第2のバルブ機構が流体の流通制限を解除している状態に応じて制御されるべき温度である第2の目標温度よりも所定の度合いだけ温度が低い第2の所定値を下回っている場合に、前記第1のサーモスタットが開弁したままの状態になる開故障をしていると判断する流体制御システム。
【請求項3】
請求項2記載の流体制御システムであって、
前記第1および第2のサーモスタットが正常である場合の流体の制御温度を推定する推定部と、
前記制御部が前記第2の制御を行った後、流体の制御温度が前記第2の所定値を上回るとともに、流体の制御温度と前記推定部が推定する制御温度である推定制御温度との間の乖離の度合いが所定の度合いを上回っている場合に、前記判断部が前記第1および第2のサーモスタットのうち、前記第1のサーモスタットが開弁したままの状態になる開故障をしていると判断する流体制御システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241609(P2012−241609A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112173(P2011−112173)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】