説明

流体噴射ノズル、流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法

【課題】キャップ部材を用いることなく、ノズル孔を閉塞して流体の増粘・固化を防止することができる流体噴射ノズル、流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法を提案する。
【解決手段】流体噴射ノズル23は、流体を噴射するノズル孔17が形成されたノズル孔形成壁26と、ノズル孔形成壁26に対向するノズル対向内壁27と、ノズル孔17を取り囲むようにノズル孔形成壁26及びノズル対向内壁27に連結されると共にノズル孔形成壁26及びノズル対向内壁27を接離可能とする外周壁28と、からなる流体収容室19を有し、ノズル対向内壁27にインク孔17を閉塞可能な塞栓部29が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射ノズル、流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置として、噴射ヘッドに形成された複数のノズルより記録媒体(印刷用紙)にインクを噴射するインクジェット式記録装置が知られている。
このような流体噴射装置では、いずれかのノズルがインク固化物等により閉塞すると、いわゆるドット抜けが発生して印刷品質が低下する。
【0003】
このような不都合、すなわち乾燥等によるノズルの噴射特性の悪化を抑制・回避するために、従来から、ノズルを囲うように噴射ヘッドに当接されるキャップ部材を備える技術が知られている(特許文献1参照)。
更に、ノズルの噴射特性の回復を図るために、上記キャップ部材が噴射ヘッドに当接されることによって形成される閉空間を減圧し、ノズルからインクを強制吸引する技術が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
特に、記録媒体の幅員と同一長さに亘ってノズルが配列されたライン型噴射ヘッドの場合には、いずれかのノズルが閉塞すると、記録媒体(印刷用紙等)に垂直な空白線が形成されてしまう。
なお、近年では、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)製造技術やMEMS(micro electro mechanical systems)技術を用いてノズルを形成して、ライン型噴射ヘッドを高精度に製造する技術が提案されている(特許文献3,4参照)。
【特許文献1】特開2002−11864号公報
【特許文献2】特開2005−246640号公報
【特許文献3】特表2006−507148号公報
【特許文献4】特表2003−534167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1,2に開示された技術では、噴射ヘッドの下方等に配置されたキャップ部材を、噴射ヘッドに向けて相対移動させて、ノズル形成面に隙間なく当接する必要がある。
しかしながら、ライン型噴射ヘッドの場合には、ノズル形成面が細長いので、ノズル形成面とキャップ部材との間に隙間が形成されやすいという問題がある。
また、特許文献3,4に開示されたノズルのように、ノズル形成面が平坦でなく凸凹状に形成されている場合には、ノズル形成面とキャップ部材とを隙間なく当接させることが困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、キャップ部材を用いることなく、ノズル孔を閉塞して流体の増粘・固化を防止することができる流体噴射ノズル、流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る流体噴射ノズル、流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明に係る流体噴射ノズルは、流体を噴射するノズル孔が形成されたノズル孔形成壁と、前記ノズル孔形成壁に対向するノズル対向内壁と、前記ノズル孔を取り囲むように前記ノズル孔形成壁及び前記ノズル対向内壁に連結されると共に前記ノズル孔形成壁及び前記ノズル対向内壁を接離可能とする外周壁と、からなる流体収容室を有し、前記ノズル対向内壁に前記インク孔を閉塞可能な塞栓部が形成されることを特徴とする。
【0008】
これにより、流体噴射ノズルのノズル孔を流体収容室側に設けた塞栓部により閉塞することができる。したがって、流体噴射ノズルの外部からノズル孔を覆ってキャップするキャップ部材を用いることなく、流体の増粘・固化を確実に防止することができる。
【0009】
また、前記塞栓部は円錐斜面を有し、該円錐斜面に前記ノズル孔が嵌合することを特徴とする。
これにより、ノズル孔が塞栓部の円錐斜面に当接すると摩擦力が作用して、ノズル孔と塞栓部との係合が容易に開放されることを防止できる。
【0010】
また、非流体噴射時に、前記ノズル孔を前記塞栓部により閉塞することを特徴とする。
これにより、流体の増粘・固化を確実に防止することができる。
【0011】
また、前記外周壁に連結されて前記ノズル孔形成壁と前記ノズル対向内壁を相対移動させるアクチュエータを備えることを特徴とする。
これにより、容易かつ確実に、ノズル孔形成壁をノズル対向内壁に向けて相対移動させて、ノズル孔を塞栓部により閉塞することができる。
【0012】
また、前記アクチュエータの駆動により、前記ノズル孔から前記流体を噴射させることを特徴とする。
これにより、流体を噴射するための他の駆動体(例えばサーマル部材)を設ける必要がなくなるので、流体噴射ノズルの小型化等を図ることができる。
【0013】
第2の発明は、複数のノズルを有する流体噴射ヘッドから被流体噴射材に向けて流体を噴射する流体噴射装置において、前記ノズルとして、第1の発明に係る流体噴射ノズルを用いることを特徴とする。
【0014】
これにより、特に、ライン型噴射ヘッドやノズル形成面が平坦でなく凸凹状に形成されているヘッドの場合であっても、ノズル孔を閉塞して流体の増粘・固化を確実に防止することができる。したがって、高い記録品質(流体噴射品質)を維持・確保することができる。
【0015】
第3の発明は、複数のノズル孔を有する流体噴射ヘッドから被流体噴射材に向けて流体を噴射する流体噴射装置のメンテナンス方法において、非流体噴射時に、前記ノズル孔が形成されたノズル孔形成壁を前記ノズル孔に連通する流体収容室のノズル対向内壁に向けて相対移動させて、前記ノズル孔を前記ノズル対向内壁に形成された塞栓部により閉塞することを特徴とする。
【0016】
これにより、特に、ライン型噴射ヘッドやノズル形成面が平坦でなく凸凹状に形成されているヘッドの場合であっても、ノズル孔を閉塞して流体の増粘・固化を確実に防止するメンテナンスを行うことができる。したがって、高い流体噴射品質を維持・確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る流体噴射ノズル、流体噴射装置、流体噴射装置のメンテナンス方法の一実施形態について、図を参照して説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
また、本実施形態では、本発明に係る流体噴射装置として、インクジェット式プリンタを例示する。
【0018】
図1は、本実施形態のインクジェット式プリンタ(以下、インクジェットプリンタ100という)の概略構成図、図2は、ラインヘッド周辺の要部平面図、図3は、ラインヘッドのノズル形成面を示す平面図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、インクジェットプリンタ100は、印刷用紙Pへの記録を行う記録部10と、記録部10のメンテナンス処理を行うメンテナンス部11とを備える。
記録部10は、インク滴を噴射して流体噴射対象物である印刷用紙Pに画像形成するラインヘッド13(噴射ヘッド)と、印刷用紙Pを搬送する記録紙搬送機構14と、ラインヘッド13に供給するインク(流体)を貯留したインク貯留部15とを備えて構成されている。
【0020】
記録紙搬送機構14は、紙送りモータ(不図示)やこの紙送りモータによって回転駆動される紙送りローラ等から構成され、記録(印字・印刷)動作に連動させて、印刷用紙Pをラインヘッド13に対向するように順次送り出す。
【0021】
インク貯留部15は、プリンタ本体16の一側に配置され、不図示のインク供給手段により後述のラインヘッド13へインクを供給する。このインク貯留部15は、インクジェットプリンタ100の各色(イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K1:染料系)、黒(K2:顔料系))に対応する色のインクを貯蔵するインクタンク15Y,15M,15C,15K1,15K2を有しており、インク供給手段を介してラインヘッド13と連通している。
【0022】
ラインヘッド13は、インクジェットプリンタ100が対象とする最大サイズの印刷用紙Pの幅員(最大記録紙幅W)以上の長さに亘ってノズル孔17が多数配列されたライン型の記録ヘッドである。
本実施形態においては、少なくとも各色(Y、M、C、K1、K2)に対応した5つの印字部5Y,5M,5C,5K1,5K2を備えている。各印字部5Y,5M,5C,5K1,5K2は、インク滴を噴射するためのノズル孔17を多数整列配置してなるノズル列L(図3参照)をそれぞれ有しており、印刷用紙Pの搬送方向に沿って順に配設されている。
ノズル列Lは、図3に示すように、複数のノズル孔17がライン状に配列されたものであって、ノズル列Lを形成するノズル孔17の数やライン(列)の数は適宜設定される。ノズル列Lの数(ライン数)を増やすことにより、一度に広範囲の記録が可能になる。
【0023】
そして、ラインヘッド13は、最大記録紙幅Wに対応する長手方向を印刷用紙Pの搬送方向と直交する方向に配置され、各ノズル列Lのノズル孔17からインク滴が印刷用紙Pに向けて噴射されることにより印刷用紙Pに画像等が記録される。
【0024】
インク貯留部15とラインヘッド13とを連通するインク供給手段は、複数のインク供給流路を有しており、各インクタンク15Y,15M,15C,15K1,15K2から各印字部5Y,5M,5C,5K1,5K2へとインクが供給されるようになっている。
【0025】
以下、図4〜図6を参照してラインヘッドの構成について詳述する。
図4は、ラインヘッドの一部を示す斜視図である。図5,図6は、ラインヘッドの断面図であって、図5はノズル列に沿った断面図、図6はノズル列に直交する方向に沿った断面図である。
【0026】
ラインヘッド13は、図4〜図6に示すように、MEMS技術を用いて製造された構造体であって、合成樹脂等で形成されたヘッド本体18、複数の噴射ユニット23が形成されたノズル基板21を備えている。
【0027】
ノズル基板21は、所定方向に所定間隔(ピッチ)で形成された複数のノズル孔17を有しており、例えばシリコン基板で形成された板状の部材から構成されている。
ノズル基板21は、ノズル孔17とインク収容チャンバ19等とが一体化された噴射ユニット23を、ノズル形成面21Aに二次元的に配設させた構造を有している。具体的には、複数の噴射ユニット23が、各印字部に対応する複数のノズル列Lを構成すべく配設されている。
なお、MEMS技術を採用することで、ラインヘッド13の長手方向に沿って並ぶように配置されるノズル孔17同士の間隔(ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
また、図4〜図6に示すように、ノズル形成面21Aは、複数の噴射ユニット23が配置されることにより、凸凹状に形成される。
【0028】
噴射ユニット(流体噴射ノズル)23は、ノズル孔17、インク収容チャンバ19、更に圧電ユニット30から構成される。
ノズル孔17は、ノズル基板21の表面に形成されてインク収容チャンバ19に連通する円形貫通孔であり、その外周にノズル形成面21Aから外方に突出する円環形のリム17aが形成される。リム17aを設けることで、インクを噴射する際の飛まつ発生を防止することができる。
【0029】
インク収容チャンバ19は、ノズル孔17が形成されたノズル孔形成壁26と、ノズル孔形成壁26に対向するノズル対向内壁27と、ノズル孔17を取り囲むようにノズル孔形成壁26及びノズル対向内壁27に連結される外周壁28と、からなる。そして、ノズル孔形成壁26とノズル対向内壁27と外周壁28により形成される内部空間にインクが収容されて、インク収容チャンバ19として機能する。
【0030】
ノズル対向内壁27は、その一部にヘッド本体18に形成されたインク流路18sに連通するインク供給口27aが形成されている。
また、ノズル対向内壁27には、ノズル孔形成壁26に対向する面上に、ノズル孔17に内嵌して閉塞可能な塞栓部29が形成されている。
この塞栓部29は、ノズル孔形成壁26に対向する面上からノズル孔形成壁26に向けて立設された略円錐形の部位であって、ノズル孔17に対応する位置に形成されている。そして、塞栓部29の円錐斜面29sがノズル孔17の内周面に嵌合・係合して、ノズル孔17を閉塞することが可能となっている。
【0031】
外周壁28は、蛇腹状に柔軟に変形可能な円環形の部位であって、ノズル孔17を取り囲むようにノズル孔形成壁26とノズル対向内壁27とに接続されている。
そして、外周壁28は、外力が加えられると柔軟に変形して、ノズル孔形成壁26とノズル対向内壁27とが、インクの噴射方向と同一方向(接離方向)に相対移動するようになっている。
これにより、ノズル孔形成壁26のノズル孔17とノズル対向内壁27の塞栓部29とが接触・係合したり、離間したりすることが可能となっている。
【0032】
圧電ユニット30は、図6に示すように、ノズル基板21上に形成されて、インク収容チャンバ19に対して外力を与えるものである。
圧電ユニット30は、ノズル基板21の上面(ノズル形成面21A)からインク収容チャンバ19に向けて延びる梁状のビーム32と、ビーム32をインクの噴射方向と同一方向に変位(振動)させる積層型の圧電素子34と、からなる。
ビーム32は、その両端が、ノズル形成面21Aと、ノズル孔形成壁26と外周壁28との接合部位付近とに、それぞれ連結されている。したがって、圧電素子34によりビーム32をインク噴射方向に振動させると、ノズル孔形成壁26がノズル対向内壁27に向けて移動したり離間したりするように振動(往復移動)する。
【0033】
圧電素子34は、ビーム32とノズル形成面21Aとの間であって、ビーム32とノズル形成面21Aとの連結部位に近接するように配置されている。これにより、圧電素子34の振幅がビーム32により、例えば2〜3倍程度に拡大して伝達(増幅)されるようになっている。
なお、圧電素子34としては、積層型の他、例えば、モノモルフ、ユニモルフ、バイモルフ、ムーニー型、マルチムーニー型、シンバル型等を用いてもよい。
【0034】
そして、圧電素子34に駆動信号が入力されると、圧電素子34が伸縮(振動)する。この伸縮は、ビーム32により増幅されてノズル孔形成壁26を振動させる。これにより、ノズル孔形成壁26がノズル対向内壁27に接近する方向及び離れる方向に往復振動する。これに伴って、インク収容チャンバ19の容積が変化し、インクを収容したインク収容チャンバ19の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル孔17から、インクが噴射される。
【0035】
また、圧電素子34の伸びを最小(つまり収縮)した場合には、ノズル孔形成壁26がノズル対向内壁27に近接して、ノズル孔17と塞栓部29とが接触・係合して、塞栓部29によりノズル孔17が閉塞される。
これにより、ノズル孔17からのインク噴射ができなくなる。同時に、ノズル孔17から外部にインクが露出することがなくなるので、インクの増粘・固化によりノズル詰まりが確実に防止できるようになっている。
【0036】
なお、塞栓部29の円錐斜面29sがノズル孔17の内周面に嵌まり込むと、摩擦力によって嵌合状態が維持される。したがって、圧電素子34に対する駆動信号を止めた(例えば、電源断)場合であっても、ノズル孔17を閉塞した状態を維持できる。
そして、再び電源を投入して、圧電素子34を駆動すると、ビーム32を介してノズル孔形成壁26に伝達される力が摩擦力よりも大きくなって、ノズル孔17が塞栓部29から外れる。そして、再びインクの噴射が可能となる。
【0037】
図7は、インクジェットプリンタ100の電気的な構成を示すブロック図である。
インクジェットプリンタ100は、インクジェットプリンタ100全体の動作を制御する制御装置60を備えている。この制御装置60には、インクジェットプリンタ100の動作に関する各種情報を入力する入力装置61と、インクジェットプリンタ100の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置62と、時間の計測を実行可能な計測装置63とが接続されている。
また、制御装置60には、上述した記録紙搬送機構14、ラインヘッド13のノズル形成面21Aの洗浄(ワイピング処理等)を行ったり、フラッシング処理を行ったりするメンテナンス部11(図1参照)等が接続されている。
【0038】
また、インクジェットプリンタ100は、圧電素子34を含む駆動ユニット24に入力する駆動信号を発生する駆動信号発生器64を備えており、この駆動信号発生器64が制御装置60に接続されている。
駆動信号発生器64には、ラインヘッド13の圧電素子34に入力する駆動パルスの電圧値の変化量を示すデータ(吐出データ)、及び駆動パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号が入力される。駆動信号発生器64は、入力されたデータ及びタイミング信号に基づいて、駆動パルスを含む駆動信号を発生する。駆動信号発生器64より駆動パルスが圧電素子34に入力されると、所定量のインクの滴がノズル孔17から噴射される。
【0039】
また、制御装置60は、ノズル孔17から長時間に亘ってインクの噴射が行われない(吐出データに基づく駆動信号が圧電素子34に入力されない)場合には、駆動信号発生器64に圧電素子34を収縮させる駆動信号を発生させて、圧電素子34の圧電素子34の伸びが最小となるように制御する。これにより、噴射ユニット23(インク収容チャンバ19)のノズル孔形成壁26がノズル対向内壁27に近接して、ノズル孔17が塞栓部29により閉塞される。
なお、塞栓部29によるノズル孔17の閉塞は、全てのノズル孔17に対して同時に行うこともできるし、特定のノズル孔17に対して個別的・異時的に行うこともできる。
【0040】
次に、以上の構成を備えるインクジェットプリンタ100のメンテナンス方法の一例について、図8を参照して説明する。
図8は、ノズル孔17と塞栓部29との位置関係を説明する図であって、(a)は開放時(印刷時)、(b)は閉塞時(非印刷時)を示す図である。
【0041】
まず、通常時、すなわち全てのノズル孔17が開放されている場合には、インクジェットプリンタ100(制御装置60)は、外部装置から印刷データが送信されると、制御装置60がドットパターンに対応した吐出データに展開してラインヘッド13に送信する。そして、ラインヘッド13では、受信した吐出データに基づき、記録(印字・印刷)処理、すなわち印刷用紙Pに対するインクの吐出を実行する(図8(a)参照)。
【0042】
一方、図8(b)に示すように、制御装置60は、非印刷時には、圧電素子34を収縮させて、噴射ユニット23のノズル孔形成壁26がノズル対向内壁27を近接させて、ノズル孔17を塞栓部29により閉塞する。このような制御は、全てのノズル孔17に対して略同時に行われる。
【0043】
ここで、制御装置60が、「非印刷時である」と判定して、このような制御を行うのは、例えば以下のような場合である。
(1)ユーザによるインクジェットプリンタ100の電源断操作を受けた場合。
(2)最後の印刷が完了してからの経過時間が所定値を上回った場合。
(3)順番待ちの印刷タスクがなくなった場合。
上記は一例であって、実施にあたっては、もちろん他の場合であっても、制御装置60は、非印刷時であると判定して、圧電素子34を収縮させて、ノズル孔17を塞栓部29により閉塞するようにしてもよい。
【0044】
このように、ノズル孔17から長時間に亘ってインクの吐出が行われない場合には、ノズル孔17を塞栓部29により閉塞しているので、インクの乾燥・固化によるノズル詰まりが発生することが防止できる。
【0045】
上述したように、ノズル孔17を塞栓部29により閉塞する制御は、特定のノズル孔17に対して個別的・異時的に行うこともできる。したがって、制御装置60により判断される「非印刷時」としては、各ノズル孔17について個々に判断してもよい。すなわち、特定のノズル孔17からのインクの吐出が長時間に亘って行われていない場合には、隣接する他のノズル孔17からインクが吐出されている場合であっても、インク吐出が行われていない特定のノズル孔17のみを塞栓部29により閉塞するようにしてもよい。
例えば、イエロー(Y)のインクを吐出するノズル孔17が長時間に亘って使われていない場合には、このノズル孔17を塞栓部29により閉塞する。
また、ラインヘッド13の両端側に配置されたノズル孔17が長時間に亘って使われていない場合には、このノズル孔17を塞栓部29により閉塞する。
【0046】
以上のように、ノズル孔17から長時間に亘ってインクの吐出が行われない場合には、複数のノズル孔17の全てを同時に、又は各ノズル孔17を個別的・異時的に、塞栓部29により閉塞することで、インクの乾燥・固化によるノズル詰まりの発生を確実に防止することができる。
したがって、全てのノズル孔17を囲うようにラインヘッド13のノズル形成面21Aに当接されるキャップ部材が不要となる。フラッシング処理を行う際にインクを受け取るインク受けのみを設ければ足りる。
特に、ラインヘッド13の場合には、キャップ部材が大型化・長尺化してしまうので、これを廃止することで、装置の小型化・低コスト化を図ることができる。
また、印刷用紙Pがロール紙の場合には、ラインヘッド13にキャップ部材を当接させることが困難となるため、キャップ部材を廃止できる利点は大きい。
【0047】
上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作・操作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0048】
上述した実施形態では、噴射ユニット23のノズル孔形成壁26をノズル対向内壁27に近接させて、ノズル孔17を塞栓部29により閉塞する手段として、ノズル孔形成壁26を振動させる圧電素子34を用いる場合について説明したが、これに限らない。
例えば、ラインヘッド13のノズル形成面21A側に、ノズル形成面21Aに平行な平板形部材を配置し、この平板形部材により噴射ユニット23のノズル孔形成壁26をノズル対向内壁27向けて押圧することで、複数のノズル孔17を塞栓部29に嵌合させるようにしてもよい。或いは、ピン状部材により、個別的に、ノズル孔形成壁26を押圧して、ノズル孔17を塞栓部29に嵌合させるようにしてもよい。
【0049】
また、インクの噴射は、圧電素子34の振動を利用する場合に限らない。例えば、ノズル対向内壁27を振動させる圧電素子をインク収容チャンバ19内に別途設けてもよい。
また、圧電素子を用いたピエゾジェットタイプ以外に限定されることなく、例えばサーマル方式を採用することもできる。すなわち、発熱素子をインク収容チャンバ19内に別途設け、発熱素子に対する印加時間を変化させることなどにより、インク吐出量を変化させるようにしてもよい。
【0050】
また、上記実施形態においては、インクジェット式記録装置がインクジェット式プリンタである場合を例にして説明したが、インクジェット式プリンタに限られず、複写機及びファクシミリ等の記録装置であってもよい。
【0051】
また、上述の各実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の流体を噴射する流体噴射装置(流体噴射装置)である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、液体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体、流体として流して噴射できる固体、及び粉体(トナー等)を含む。
【0052】
また、上述の各実施形態において、流体噴射装置から噴射される流体としては、インクのみならず、特定の用途に対応する流体を適用可能である。流体噴射装置に、その特定の用途に対応する流体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する流体を噴射して、その流体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、本発明の流体噴射装置(流体噴射装置)は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した流体を噴射する流体噴射装置に適用可能である。
【0053】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
【0054】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射するトナージェット式記録装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】同インクジェットプリンタが備えるラインヘッド周辺の要部平面図である。
【図3】同ラインヘッドのノズル形成面を示す平面図である。
【図4】同ラインヘッドの一部を示す斜視図である。
【図5】同ラインヘッドの断面図(ノズル列に沿った断面図)である。
【図6】同ラインヘッドの断面図(ノズル列に直交する方向に沿った断面図)である。
【図7】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図8】ノズル孔と塞栓部との位置関係を説明する図であって、(a)は開放時、(b)は閉塞時を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
13…ラインヘッド(流体噴射ヘッド)、 17…ノズル孔、 19…インク収容チャンバ(流体収容室)、 23…噴射ユニット(流体噴射ノズル)、 26…ノズル孔形成壁、 27…ノズル対向内壁、 28…外周壁、 29…塞栓部、 29s…円錐斜面、 30…圧電ユニット(アクチュエータ)、 100…インクジェットプリンタ(流体噴射装置)、 P…印刷用紙(被流体噴射材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射するノズル孔が形成されたノズル孔形成壁と、前記ノズル孔形成壁に対向するノズル対向内壁と、前記ノズル孔を取り囲むように前記ノズル孔形成壁及び前記ノズル対向内壁に連結されると共に前記ノズル孔形成壁及び前記ノズル対向内壁を接離可能とする外周壁と、からなる流体収容室を有し、
前記ノズル対向内壁に前記インク孔を閉塞可能な塞栓部が形成されることを特徴とする流体噴射ノズル。
【請求項2】
前記塞栓部は円錐斜面を有し、該円錐斜面に前記ノズル孔が嵌合することを特徴とする請求項1に記載の流体噴射ノズル。
【請求項3】
非流体噴射時に、前記ノズル孔を前記塞栓部により閉塞することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の流体噴射ノズル。
【請求項4】
前記外周壁に連結されて前記ノズル孔形成壁と前記ノズル対向内壁を相対移動させるアクチュエータを備えることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の流体噴射ノズル。
【請求項5】
前記アクチュエータの駆動により、前記ノズル孔から前記流体を噴射させることを特徴とする請求項4に記載の流体噴射ノズル。
【請求項6】
複数のノズルを有する流体噴射ヘッドから被流体噴射材に向けて流体を噴射する流体噴射装置において、
前記ノズルとして、請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の流体噴射ノズルを用いることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項7】
複数のノズル孔を有する流体噴射ヘッドから被流体噴射材に向けて流体を噴射する流体噴射装置のメンテナンス方法において、
非流体噴射時に、前記ノズル孔が形成されたノズル孔形成壁を前記ノズル孔に連通する流体収容室のノズル対向内壁に向けて相対移動させて、前記ノズル孔を前記ノズル対向内壁に形成された塞栓部により閉塞することを特徴とする流体噴射装置のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−12372(P2009−12372A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178303(P2007−178303)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】