説明

流体噴射装置のメンテナンス方法及び流体噴射装置

【課題】噴射状態の変化を抑制することが可能な流体噴射装置のメンテナンス方法及び流体噴射装置を提供すること。
【解決手段】寸法の異なる複数の媒体の第1領域へ流体を噴射する複数のノズルを有する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置のメンテナンス方法であって、前記流体噴射ヘッドの全ノズルを用いて複数の前記媒体の前記第1領域とは異なる第2領域に前記流体を排出させるフラッシング工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置のメンテナンス方法及び流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置は、流体を噴射可能な噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の流体を被記録材等に向けて噴射する装置である。流体噴射装置の代表的なものとして、例えば、インクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッド(噴射ヘッド)のノズルから液体状のインク(流体)をインク滴として記録紙等の被記録材に向けて噴射、着弾させてドットを形成することで記録を行うインクジェット式記録装置がある。
【0003】
このようなインクジェット式記録装置では、時間の経過に伴ってノズルからのインクの吐出速度や吐出量が変化し、インクの吐出状態(噴射状態)が変化する。このため、インクの吐出速度や吐出量を維持又は回復するために、ノズルからインクを排出させるフラッシング動作を行う。フラッシング動作では、例えばメンテナンスユニットに設けられるフラッシング受部などにインクを排出する方式が知られている。
【0004】
インクジェット式記録装置のうち例えば記録媒体の幅方向に亘ってノズルが配列されたライン型の記録ヘッドを用いるものが知られている。この場合、記録ヘッドの位置を固定させたままインクの噴射及び排出を行う必要があるので、フラッシング動作を実施する際には、メンテナンスユニットの方を上昇させる必要がある。この場合、メンテナンス処理が終了するまでに時間がかかってしまう。
【0005】
ライン型の記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う際、記録媒体のうち印字された領域以外の余白部分を切除するオフセット印刷が行われる場合がある。例えばオフセット印刷を行う場合などには、例えば特許文献1のように、フラッシング動作において記録媒体の余白領域にインクを排出させる技術が知られている。この場合、搬送装置やメンテナンスユニットを移動させる必要が無いため、高速な処理が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−137295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、記録媒体の幅がノズルの配列領域よりも小さい場合、記録媒体からはみ出た領域のノズルのフラッシングが困難となってしまい、当該部分のノズルに目詰まり等の吐出不良が生じてしまう。このため、記録ヘッドの噴射状態が変化してしまう。
【0008】
上記のような事情に鑑み、本発明は、噴射状態の変化を抑制することが可能な流体噴射装置のメンテナンス方法及び流体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る流体噴射装置のメンテナンス方法は、寸法の異なる複数の媒体の第1領域へ流体を噴射する複数のノズルを有する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置のメンテナンス方法であって、前記流体噴射ヘッドの全ノズルを用いて複数の前記媒体の前記第1領域とは異なる第2領域に前記流体を排出させるフラッシング工程を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、寸法の異なる複数の媒体の第1領域に流体を噴射する流体噴射ヘッドのフラッシング工程において、流体噴射ヘッドの全ノズルを用いて複数の媒体の第1領域とは異なる第2領域に流体を排出させることとしたので、全ノズルについて目詰まり等の吐出不良を回避することができる。これにより、流体噴射ヘッドの噴射状態の変化を抑制することができる。
【0011】
上記の流体噴射装置のメンテナンス方法は、前記流体噴射ヘッドは、複数のヘッド部分に分割されており、前記フラッシング工程において、前記媒体を第1方向へ移動させると共に、前記ヘッド部分を前記第1方向とは異なる第2方向へ移動させることを特徴とする。
本発明によれば、流体噴射ヘッドが複数のヘッド部分に分割されており、フラッシング工程において、媒体を第1方向へ移動させると共にヘッド部分を第1方向とは異なる第2方向へ移動させることとしたので、流体噴射ヘッドの第2方向の寸法が媒体の第2方向の寸法よりも大きい場合であっても、ヘッド部分を移動させることで全ノズルが媒体の第2方向の寸法内に収まることとなる。これにより、全ノズルから流体を排出させることができる。
【0012】
上記の流体噴射装置のメンテナンス方法は、前記流体噴射装置は、前記流体噴射ヘッドを覆うキャップ部を有し、前記ヘッド部分の寸法は、前記キャップ部の寸法に対応していることを特徴とする。
本発明によれば、ヘッド部分の寸法が流体噴射ヘッドを覆うキャップ部の寸法に対応していることとしたので、キャップ部によってヘッド部分に設けられた全ノズルを覆うことができる。これにより、ノズルの乾燥を防ぐことができる。
【0013】
上記の流体噴射装置のメンテナンス方法は、前記フラッシング工程において、それぞれの前記ノズルから同一量の前記流体が排出されるように前記流体の排出量を調整することを特徴とする。
本発明によれば、フラッシング工程において、それぞれのノズルから同一量の流体が排出されるように流体の排出量を調整することとしたので、例えば分割されたヘッド部分にそれぞれ設けられるノズルが第2方向で重なって配置される場合であっても、全ノズルから同一量の流体を排出させることができる。
【0014】
上記の流体噴射装置のメンテナンス方法は、前記フラッシング工程において、前記排出量の調整に応じて前記ノズルからの前記流体の排出を前記第2領域の異なる箇所に行うことを特徴とする。
本発明によれば、フラッシング工程において、排出量の調整に応じてノズルからの流体の排出を第2領域の異なる箇所に行うこととしたので、流体を媒体の第2領域に満遍なく排出させることができる。
【0015】
上記の流体噴射装置のメンテナンス方法は、前記フラッシング工程において、前記流体噴射ヘッドを回転させることを特徴とする。
本発明によれば、フラッシング工程において、流体噴射ヘッドを回転させることとしたので、流体噴射ヘッドの寸法が媒体の寸法よりも小さい場合であっても、全ノズルを媒体の寸法内に納めることができる。これにより、全ノズルから流体を排出させることができる。
【0016】
上記の流体噴射装置のメンテナンス方法は、前記フラッシング工程において、前記媒体の位置を変化させることを特徴とする。
本発明によれば、フラッシング工程において、媒体の位置を変化させることとしたので、当該媒体を全ノズルに対向するように位置を変化させることで全ノズルから媒体へ流体の排出が可能となる。
【0017】
上記の流体噴射装置のメンテナンス方法は、前記フラッシング工程において、前記媒体を第1方向へ移動させると共に、前記流体噴射ヘッドを前記第1方向の直交方向へ徐々に移動させることを特徴とする。
本発明によれば、フラッシング工程において、媒体を第1方向へ移動させると共に、流体噴射ヘッドを第1方向の直交方向へ徐々に移動させることとしたので、全ノズルを媒体に対向させることができる。これにより、全ノズルから媒体へ流体の排出が可能となる。
【0018】
本発明に係る流体噴射装置は、寸法の異なる複数の媒体の第1領域へ流体を噴射する複数のノズルを有する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置であって、前記流体噴射ヘッドのメンテナンス動作の際、前記流体噴射ヘッドの全ノズルを用いて複数の前記媒体の前記第1領域とは異なる第2領域に前記流体を排出させる制御装置を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、寸法の異なる複数の媒体の第1領域に流体を噴射する流体噴射ヘッドのフラッシング動作を行わせる際に、流体噴射ヘッドの全ノズルを用いて複数の媒体の第1領域とは異なる第2領域に流体を排出させることとしたので、全ノズルについて目詰まり等の吐出不良を回避することができる。これにより、流体噴射ヘッドの噴射状態の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリンタ装置の構成を示す概略図。
【図2】噴射ヘッド周辺の要部平面図。
【図3】噴射ヘッドのノズル開口形成面を示す平面図。
【図4】噴射ヘッドの断面構成を示す図。
【図5】プリンタ装置の構成を示すブロック図。
【図6】プリンタ装置のメンテナンス動作を示す図。
【図7】同、メンテナンス動作図。
【図8】同、メンテナンス動作図。
【図9】同、メンテナンス動作図。
【図10】同、メンテナンス動作図。
【図11】同、メンテナンス動作図。
【図12】同、メンテナンス動作図。
【図13】本発明の第2実施形態に係るプリンタ装置の一部の構成を示す図。
【図14】本発明に係るプリンタ装置の他の構成を示す図。
【図15】本発明に係るプリンタ装置の他の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面をもとにして、本発明に係る流体噴射装置の実施の形態を説明する。流体噴射装置の各部材を認識可能な大きさとするため、以下の説明に用いる各図面には、縮尺が適宜変更された状態で各部材が示されている。本実施形態では、流体噴射装置としてインクジェット式のプリンタ装置を例に挙げて説明する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態のインクジェット式プリンタ(以下、プリンタ装置PRTと称す)の概略構成図である。
【0023】
図1においては、XYZ直交座標系を設定し、XYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する場合がある。この場合においては、図中左右方向をX方向とし、図中紙面の奥行き方向をY方向とし、X方向及びY方向のそれぞれと直交する方向(すなわち図中上下方向)をZ方向とする。
【0024】
これらの図に示すように、プリンタ装置PRTは、記録媒体(媒体)Mに画像や文字などを記録する装置である。本実施形態では、プリンタ装置PRTとして、ライン型ヘッドを搭載したプリンタ装置を例に挙げて説明する。記録媒体Mとしては、例えば紙やプラスチックなどが用いられる。プリンタ装置PRTでは、記録媒体Mのほぼ中央の記録領域Ma(図2参照:第1領域)に記録を行い、周辺の余白領域Mb(図2参照:第2領域)を切除するオフセット印刷が行われるようになっている。プリンタ装置PRTは、インク噴射機構IJ、搬送機構CR、メンテナンス機構MN及び制御装置(制御部)CONTを有している。
【0025】
インク噴射機構IJは、記録媒体Mにインク滴(流体)を噴射する部分である。インク噴射機構IJは、噴射ヘッド(流体噴射ヘッド)11及びインク供給部12を有している。噴射ヘッド11は、ノズル13及びインク供給室14を有している。インク供給室14は、インク供給部12に接続されている。本実施形態で用いるインクは、染料や顔料、これを溶解または分散する溶媒を基本的成分とし、必要に応じて各種添加剤が添加された液状体を用いる。
【0026】
搬送機構CRは、紙送りローラ35、排出ローラ36及び搬送ベルト37などを有している。紙送りローラ35、排出ローラ36は、不図示のモータ機構によって回転駆動されるようになっている。搬送ベルト37は、記録媒体Mを搬送するベルトである。搬送ベルト37は、紙送りローラ35及び排出ローラ36に巻き掛けられている。搬送ベルト37は、紙送りローラ35及び排出ローラ36の回転によって駆動されるようになっている。搬送ベルト37の移動によって記録用紙Mが図中−X方向へ移動するようになっている。搬送機構CRは、インク噴射機構IJによるインク滴の噴射動作に連動させて記録媒体Mを搬送経路MRに沿って第1方向に搬送するようになっている。
【0027】
メンテナンス機構MNは、キャップ部40、吸引ポンプ41、排出タンク42及び検出装置60を有している。キャップ部40は、+Z側の面が噴射ヘッド11を覆うように形成されている。吸引ポンプ41は、キャップ部40を吸引し、キャップ部40上のインクなどの流体を排出タンク42へと排出する。検出装置60は、記録媒体M上のインク滴を検出するセンサである。本実施形態では、例えば余白領域Mbに排出されるインク滴を検出可能になっている。
【0028】
図2は、本実施形態に係る噴射ヘッド11及びキャップ部40の構成を模式的に示す図である。
図1及び図2に示すように、噴射ヘッド11は、記録媒体Mの搬送方向(X方向)に間隔をあけて4つ配置されている。各噴射ヘッド11は、記録媒体Mの搬送方向に直交する方向(Y方向)に長手となるように形成されている。各噴射ヘッド11は、長手方向に平行に配置されている。
【0029】
各噴射ヘッド11は、それぞれ異なる色のインクを噴射する。例えば図中左端に示す噴射ヘッド11は、シアン(C)のインクを噴射する噴射ヘッド11Cである。図中左から2番目の噴射ヘッド11は、マゼンタ(M)のインクを噴射する噴射ヘッド11Mである。図中右から2番目の噴射ヘッド11は、イエロー(Y)のインクを噴射する噴射ヘッド11Yである。図中右端の噴射ヘッド11は、ブラック(B)のインクを噴射する噴射ヘッド11Bである。
【0030】
図2に示すように、各色の噴射ヘッド11は、長手方向に例えば2分割されたヘッド部分80を有する。各ヘッド部分80は、移動機構によって独立して移動可能に設けられている。移動機構は、不図示のアクチュエータと、ヘッド部分80を案内するスライドガイド82を有している。スライドガイド82は、噴射ヘッド11の長手方向に沿って形成されている。したがって、ヘッド部分80は、噴射ヘッド11の長手方向に沿ってスライド移動するようになっている。ヘッド部分80のY方向上の位置については、制御装置CONTにおいて制御可能になっている。
【0031】
各噴射ヘッド11を構成する2つのヘッド部分80は、同一の寸法に形成されている。この2つのヘッド部分80は、それぞれのY方向の寸法を足し合わせた大きさがプリンタ装置PRTの対象とする最大サイズの記録媒体Mの一辺の長さ(最大記録紙幅:図2のY方向の寸法)よりも大きくなるように形成されている。
【0032】
ヘッド部分80には、ノズル13が設けられている。ノズル13は、噴射ヘッド11の噴射領域15内にそれぞれ複数設けられ、各ヘッド部分80に対応する色のインク滴を吐出する開口部である。
【0033】
図3は、ヘッド部分80を−Z側から見たときの構成を示す図である。
ノズル13は、例えば図3に示すようにY方向に複数配列されている(ノズル列L)。ノズル列Lは、X方向に複数設けられている。各ノズル列Lにおけるノズル13の数やノズル列Lの数は、適宜設定することができる。噴射ヘッド11のうちノズル13が設けられる面が噴射面11Aとなる。噴射面11Aは、噴射ヘッド11の−Z側に向けられている。したがって、噴射ヘッド11は、−Z側へインク滴を噴射するようになっている。
【0034】
キャップ部40は、噴射ヘッド11の例えば−Y側に配置されている。キャップ部40は、上記ヘッド部分80ごとに1つずつ設けられている。各キャップ部40は、それぞれY方向の寸法及びX方向の寸法がヘッド部分80のY方向の寸法及びX方向の寸法に対応するように形成されている。スライドガイド82は、各キャップ部40の−Y側端部まで延びるように形成されている。このため、ヘッド部分80は、スライドガイド82に沿ってキャップ部40に重なる位置へ移動可能になっている。キャップ部40は、不図示の昇降機構によって+Z方向に移動可能に設けられている。
【0035】
図4は、噴射ヘッド11(ヘッド部分80)の構成を示す断面図である。
同図に示すように、噴射ヘッド11は、ヘッド本体18と、ヘッド本体18に接続された流路形成ユニット22とを備えている。流路形成ユニット22は、振動板19と、流路基板20と、ノズル基板21とを備えている。
【0036】
ヘッド本体18は、合成樹脂からなる箱形の部材である。ヘッド本体18には、駆動ユニット24を収容する収容室23と、外部から供給されたインクを流路形成ユニット22に案内する内部流路28とが形成されている。
【0037】
収容室23内に配置された駆動ユニット24は、複数の圧電素子(駆動素子)25と、複数の圧電素子25の上端を支持する固定部材26と、駆動信号を圧電素子25に供給する柔軟なケーブル27とを備えている。圧電素子25は、複数のノズル13のそれぞれに対応して設けられている。
【0038】
内部流路28は、ヘッド本体18を図4上下方向に貫通して形成されている。内部流路28は、図中上端部がインク供給部12及び加圧機構38に接続されている。内部流路28は、インク供給部12から供給されてくるインクを図示下端側の開口端を介して流路形成ユニット22へ流通させるインクの流路である。
【0039】
流路形成ユニット22は、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を積層し、接着剤等で接合一体化された構成になっている。流路形成ユニット22には、ヘッド本体18の内部流路28に接続された共通インク室14と、共通インク室14に接続されたインク供給口30と、インク供給口30に接続された圧力室31とを備えている。圧力室31は、各々のノズル13に対応して設けられている。各々の圧力室31は、共通インク室14と反対側の端部においてノズル13に接続されている。
【0040】
振動板19は、例えばステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムがラミネート加工された構成になっている。振動板19のうち圧力室31に対応する部分には島部32が形成されている。島部32は、例えばエッチングなどにより支持板を環状に除去することで、圧電素子25の下端に接合されている。
【0041】
島部32はダイヤフラム部として機能する。振動板19は、圧力室31上において、島部32の周囲の弾性フィルムの部分が圧電素子25の駆動に応じて弾性変形し、島部32が上下動するようになっている。振動板19と内部流路28の下端近傍との間にも、支持板の一部を除去して弾性フィルムのみとした部分が設けられており、この部分が共通インク室14内の圧力変動を吸収するコンプライアンス部33となっている。
【0042】
流路基板20は、内部流路28の下端とノズル13とを接続する共通インク室14、インク供給口30、及び圧力室31などのインク流通室を形成するための凹部を有する。これらの凹部は、流路基板20の基材となるシリコン単結晶基板を異方性エッチングすることで形成されている。
【0043】
ノズル基板21は、所定方向に所定間隔(ピッチ)で形成された複数のノズル13を有する。本実施形態のノズル基板21は、例えばステンレス鋼等の金属で形成された板状の部材である。ノズル基板21の外面が噴射面11Aである。
【0044】
このように構成された噴射ヘッド11は、ケーブル27を介して圧電素子25に駆動信号が入力されることで、圧電素子25が伸縮するようになっている。圧電素子25の伸縮は、振動板19の変形(キャビティに接近する方向及び離れる方向への変形)として伝達されるようになっている。振動板19の変形により、圧力室31の容積が変化し、インクを収容した圧力室31の圧力が変動するようになっている。この圧力の変動によって、ノズル13から、インクが噴射されるようになっている。
【0045】
図5はプリンタ装置PRTの電気的な構成を示すブロック図である。
本実施形態におけるプリンタ装置PRTは、全体の動作を制御する制御装置CONTを備えている。制御装置CONTには、プリンタ装置PRTの動作に関する各種情報を入力する入力装置69と、プリンタ装置PRTの動作に関する各種情報を記憶した記憶装置80とが接続されている。
【0046】
制御装置CONTには、インク噴射機構IJ、搬送機構CR、メンテナンス機構MN、検出装置60など、プリンタ装置PRTの各部が接続されている。プリンタ装置PRTは、圧電素子25を含む駆動ユニットに入力する駆動信号を発生する駆動信号発生器82を備えている。駆動信号発生器82は、制御装置CONTに接続されている。
【0047】
駆動信号発生器82には、噴射ヘッド11の圧電素子25に入力する吐出パルスの電圧値の変化量を示すデータ、及び吐出パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号が入力される。駆動信号発生器82は、入力されたデータ及びタイミング信号に基づいて吐出パルス等の駆動信号を発生する。
【0048】
次に、上記のように構成されたプリンタ装置PRTの動作を説明する。
噴射ヘッド11による印刷動作を行う場合、制御装置CONTは、搬送機構CRによって記録媒体M(M1)の記録領域Maを噴射ヘッド11の−Z側に配置させる。記録媒体Mを配置させた後、制御装置CONTは、記録媒体MのY方向の寸法に応じて、ヘッド部分80を移動させる。ヘッド部分80を移動させた後、制御装置CONTは、印刷する画像の画像データに基づいて、当該ノズル13に係る駆動信号発生器62から圧電素子25に駆動信号を入力する。
【0049】
圧電素子25に駆動信号が入力されると、圧電素子25が伸縮する。圧電素子25の伸縮により、振動板19が圧力室31に近接する方向および離れる方向に変形(移動)する。振動板19の変形に伴い、圧力室31の容積が変化し、インクを収容した圧力室31の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル13からインクが噴射される。ノズル13から噴射されたインクによって、記録媒体Mの記録領域Maに所望の画像が形成される。
【0050】
噴射ヘッド11のメンテナンス動作としては、例えばキャッピング動作や吸引動作、フラッシング動作、インクの吐出不良の検査などを行う。図6〜図12を参照して、噴射ヘッド11のメンテナンス動作を説明する。図6〜図12においては、説明の簡単のため、複数の噴射ヘッド11のうち1つの噴射ヘッド11を代表させて図示している。
【0051】
キャッピング動作を行う場合、図6に示すように、制御装置CONTは、ヘッド部分80をY方向にスライドさせ、キャップ部40の+Z側に重なるように配置させる。ヘッド部分80をキャップ部40に重なる位置に配置させた後、制御装置CONTはキャップ部40を+Z側に上昇させ、キャップ部40によってヘッド部分80の噴射面11Aを密閉させる。
【0052】
この状態から吸引動作を行う場合には、制御装置CONTは、吸引ポンプ41を作動させ、キャップ部40内を吸引させる。この吸引動作により、キャップ部40内が負圧となる。この負圧により、ヘッド部分80の各ノズル13からインクLQが噴射され、ノズル13内のインクLQの粘度が適正に保持されることになる。ノズル13から噴射されたインクは、キャップ部40及び吸引ポンプ41を介して排出タンク42へ排出される。
【0053】
フラッシング動作を行う場合、制御装置CONTは、図7に示すように、搬送機構CRによって記録媒体Mの余白領域Mbを噴射ヘッド11の−Z側に配置させる。記録媒体Mを配置させた後、制御装置CONTは、図8に示すように、記録媒体MのY方向の寸法に応じて、ヘッド部分80を移動させる。このとき、制御装置CONTは、ヘッド部分80に形成された全ノズル13が平面視で記録媒体Mの占める領域に収容されるようにヘッド部分80を配置させる。
【0054】
この状態から、制御装置CONTは、全ノズル13について同一の容量のインクを吐出するように、駆動信号発生器62を制御する。同時に制御装置CONTは、搬送機構CRを制御して記録媒体MをY方向に移動させる。この動作により、各ヘッド部分80に形成された全ノズル13からインクが排出され、図9に示すように、余白領域Mbに排出されたインク滴Dが付着する。
【0055】
全ノズル13からインクを排出させた後、制御装置CONTは、検出装置60を用いてインク滴を検出させても構わない。この場合、フラッシング動作によってインク滴が排出された記録媒体Mの余白部分Mbを検出装置60の−Z側に配置させ、検出装置60によってインク滴Dを読み取らせるようにする。この動作により、ノズル13に目詰まりなどの不具合があるか否かを検出することができる。
【0056】
上記説明のように、フラッシング動作を行う際、異なるヘッド部分80に形成されるノズル13同士が記録媒体Mの搬送方向(X方向)に見たときに重なって配置されている場合がある。この状態で記録媒体Mの余白部分Mbの1箇所にフラッシング動作を行った場合、重なって配置されているノズル13から排出されるインク滴が余白部分Mbの同一の位置に付着することがある。この場合、例えばいずれか一方のノズル13に不具合があったとしても、検出装置60においては当該ノズル13の不具合を検出することができなくなってしまうおそれがある。
【0057】
そこで、本実施形態においては、重なって配置されたノズル13については、排出量を調整させるようにする。例えば制御装置CONTは、図10に示すように、重なって配置されたノズル13のうち一方については余白領域Mbの一部分でインクを排出させ、他方については余白領域Mbの他の部分でインクを排出させるようにする。この場合、制御装置CONTが検出装置60に余白領域Mbの一部分及び他の部分の両方を検出させることにより、ノズル13に不具合があった場合に検出させることができる。
【0058】
上記の他、排出量の調整として、例えば図11に示すように、制御装置CONTが重なって配置されたノズル13の両方から所定量の半分ずつの量のインクを排出させるようにすることもできる。この場合、上記のように検出装置60による検出ができなくなる可能性はあるものの、全ノズル13からインクを確実に排出させることにより、ノズル13の目詰まり等の不具合を防ぐことができるという利点がある。
【0059】
排出量の調整についての上記2つの動作については、一方のみを行うことができるように構成しても構わないし、両方を切り替えながら行うことができるように構成しても構わない。両方を切り替えながら行わせる場合、例えば、フラッシング動作を行うタイミングや時間等、所望の条件によって切り替えさせることができる。
【0060】
Y方向の寸法が異なる記録媒体M(M2)を用いる場合、図12に示すように、制御装置CONTは、記録媒体MのY方向の寸法に応じてヘッド部分80をスライドさせて上記の記録動作及びフラッシング動作を行わせる。このようにして、寸法が異なる複数の記録媒体M(M1、M2)についての記録動作及びフラッシング動作が行われる。
【0061】
以上のように、本実施形態によれば、寸法の異なる複数の記録媒体Mの記録領域Maにインクを噴射する噴射ヘッド11のフラッシング工程において、噴射ヘッド11の全ノズル13を用いて記録媒体Mの余白領域Mbにインクを排出させることとしたので、全ノズル13について目詰まり等の吐出不良を回避することができる。これにより、噴射ヘッド11の噴射状態の変化を抑制することができる。
【0062】
本実施形態では、噴射ヘッド11が複数のヘッド部分80に分割されており、フラッシング工程において、記録媒体MをX方向へ移動させると共にヘッド部分80をY方向へ移動させることとしたので、噴射ヘッド11のY方向の寸法、すなわち+Y側のヘッド部分80の+Y側端部から−Y側のヘッド部分80の−Y側端部までの寸法が記録媒体MのY方向の寸法よりも大きい場合であっても、ヘッド部分80を移動させることで全ノズル13が記録媒体MのY方向の寸法内に収まることとなる。これにより、全ノズル13から流体を排出させることができる。
【0063】
また、本実施形態では、ヘッド部分80の寸法が噴射ヘッド11を覆うキャップ部40の寸法に対応していることとしたので、キャップ部40によってヘッド部分80に設けられた全ノズル13を覆うことができる。これにより、ノズル13の乾燥を防ぐことができる。
【0064】
また、本実施形態では、フラッシング工程において、それぞれのノズル13から同一量のインクが排出されるようにインクの排出量を調整することとしたので、例えば分割されたヘッド部分80にそれぞれ設けられるノズル13が記録媒体Mの搬送方向に重なって配置される場合であっても、全ノズル13から同一量の流体を排出させることができる。
【0065】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。本実施形態では、第1実施形態と同一の構成及び部材については同一の符号を付し、その説明については省略若しくは簡略する。本実施形態では、噴射ヘッド111の構成が第1実施形態と異なっている。したがって、以下、当該相違点を中心に説明する。図13は、本実施形態に係るプリンタ装置PRTの噴射ヘッド11の構成を示す図である。
【0066】
同図に示すように、本実施形態では、噴射ヘッド111がX方向(記録媒体Mの搬送方向)に4つ配列されてはいるものの、分割されてはおらず、一体的に形成されている。各噴射ヘッド111は、不図示の回転機構によって回転可能に設けられている。噴射ヘッド111の回転の回転軸としては、例えば噴射ヘッド111の平面視中央部に設定することが可能である。
【0067】
制御装置CONTは、フラッシング工程において、噴射ヘッド111を回転させることにより、噴射ヘッド111を記録媒体Mに対して傾けて配置させる。これにより、噴射ヘッド111の寸法が記録媒体Mの寸法よりも大きい場合であっても、全ノズル13を記録媒体111の寸法内に納めることができる。これにより、全ノズル13からインクを排出させることができる。
【0068】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態では、全ノズル13を記録媒体Mの範囲内に収める動作を行う際に、記録媒体MのY方向上の位置を一定とし、噴射ヘッド11側を移動させる構成としたが、これに限られることは無い。
【0069】
例えば、図14に示すように、記録媒体Mの位置を変化させる構成としても構わない。この構成を実現させる例として、例えば不図示のアクチュエータによって搬送ベル37をY方向にも移動可能にしておくことなどが挙げられる。この場合、記録媒体Mの余白領域Mbのうち図中上下部分にインクが排出されることになる。これにより、環境に応じて複数種類のメンテナンス動作を選択することが可能となる。
【0070】
また、例えば、図15に示すように、記録媒体MをX方向に搬送させると共に、噴射ヘッド11をY方向へ徐々に移動させる構成であっても構わない。この場合においても、記録媒体Mの余白領域Mbのうち図中上下部分にインクが排出されることになる。このような形態であっても、全ノズル13を記録媒体Mに対向させることができ、全ノズル13から記録媒体Mへインクの排出が可能となる。
【0071】
また、上記実施形態では、インクジェット式のプリンタと、インクカートリッジが採用されているが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置と、その液体を収容した液体容器を採用しても良い。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。
【0072】
また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であれ良い。例えば、物質が液相であるときの状態のものであれば良く、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施例の形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。
【0073】
液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。
【0074】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用しても良い。そして、これらのうちいずれか一種の噴射装置および液体容器に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
PRT…プリンタ装置(流体噴射装置) M…記録媒体(媒体) Ma…記録領域(第1領域) Mb…余白領域(第2領域) CONT…制御装置 11…噴射ヘッド(流体噴射ヘッド) 13…ノズル 40…キャップ部 80…ヘッド部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寸法の異なる複数の媒体の第1領域へ流体を噴射する複数のノズルを有する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置のメンテナンス方法であって、
前記流体噴射ヘッドの全ノズルを用いて複数の前記媒体の前記第1領域とは異なる第2領域に前記流体を排出させるフラッシング工程を有する
ことを特徴とする流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項2】
前記流体噴射ヘッドは、複数のヘッド部分に分割されており、
前記フラッシング工程において、前記媒体を第1方向へ移動させると共に、前記ヘッド部分を前記第1方向とは異なる第2方向へ移動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項3】
前記流体噴射装置は、前記流体噴射ヘッドを覆うキャップ部を有し、
前記ヘッド部分の寸法は、前記キャップ部の寸法に対応している
ことを特徴とする請求項2に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項4】
前記フラッシング工程において、それぞれの前記ノズルから同一量の前記流体が排出されるように前記流体の排出量を調整する
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項5】
前記フラッシング工程において、前記排出量の調整に応じて前記ノズルからの前記流体の排出を前記第2領域の異なる箇所に行う
ことを特徴とする請求項4に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項6】
前記フラッシング工程において、前記流体噴射ヘッドを回転させる
ことを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項7】
前記フラッシング工程において、前記媒体の位置を変化させる
ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項8】
前記フラッシング工程において、前記媒体を第1方向へ移動させると共に、前記流体噴射ヘッドを前記第1方向の直交方向へ徐々に移動させる
ことを特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項9】
寸法の異なる複数の媒体の第1領域へ流体を噴射する複数のノズルを有する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置であって、
前記流体噴射ヘッドのメンテナンス動作の際、前記流体噴射ヘッドの全ノズルを用いて複数の前記媒体の前記第1領域とは異なる第2領域に前記流体を排出させる制御装置を備える
ことを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−228118(P2010−228118A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75297(P2009−75297)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】