流体噴射装置への耐久性のある撥液性コーティング
【課題】耐久性のある撥液性コーティングを流体噴射装置に施す。
【解決手段】流体噴射装置のノズル板を形成する方法は、多層基板の第一面に穴をエッチングにより形成する工程と、穴内にライナーを付ける工程と、ライナーの閉端部を露出させるように多層基板の第二面から層を除去する工程と、撥液性コーティングをライナーの閉端部及びライナーの閉端部を囲む領域に施す工程と、ノズルを開けるようにライナーの閉端部を除去する工程と、を含む。
【解決手段】流体噴射装置のノズル板を形成する方法は、多層基板の第一面に穴をエッチングにより形成する工程と、穴内にライナーを付ける工程と、ライナーの閉端部を露出させるように多層基板の第二面から層を除去する工程と、撥液性コーティングをライナーの閉端部及びライナーの閉端部を囲む領域に施す工程と、ノズルを開けるようにライナーの閉端部を除去する工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、流体噴射装置へのコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、流体噴射装置(例えばインクジェットプリントヘッド)は、内面と、流体が噴射される孔と、外面と、を有する。流体は、孔から噴射される際に流体噴射装置の外面に蓄積し、例えば表面張力により、次に噴射される流体を所望の移動経路から遠くにそらせたり完全に遮断したりすることがある。流体噴射装置を形成するいくつかの材料(例えばシリコン)は、親水性であり、そのことは、流体が噴射される際の蓄積の問題に悪影響があることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−300627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撥液性コーティングを使用して、表面をコーティングすることができる。しかし、いくつかの種類の材料は、軟らかく、耐久性のあるコーティングではない。コーティングによっては、高価であったりパターニングが困難であったりするものがある。
【0005】
気相コーティングは、腐食性流体、例えば尿素含有インク等の特定の種類の流体により腐食されやすい傾向がある。一方、フルオロポリマー等の特定の種類のスピンコート材料は、そのような腐食性流体に対する耐性を有し得るが、剥離しやすい傾向がある。
【0006】
スピンコート材料をノズル層上に置く際の別の問題として、ノズル流路をスピンコート材料がない状態に保つことが挙げられる。材料がノズルに入ることを回避しようとしてノズル流路を開ける前にコーティングを施す場合、コーティングの開口部をノズル孔にフォトリソグラフィ的に正確に位置合わせすることは困難でありえる。この位置合わせの困難さは、少なくとも部分的には、表裏の位置合わせ誤差や、ノズル層が別の層に接合されることで生じる潜在的な非完全平坦性によるノズル層の小さな変形に起因し得る。したがって、ノズルを配置すべき場所を示すマスク又はグリッドに対して、ノズルの位置に歪みが生じ得る。撥液性コーティングの開口部とノズルとの位置合わせのずれは、ノズルの非対称性に繋がり、噴射される液滴の直進性に影響を及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの問題に対処するために、撥液性コーティングをノズル板に接着するために、非多孔性接着層を使用することができる。非多孔性接着層は、多孔性接着層よりも、腐食性のある流体、例えばアルカリインクにより腐食される可能性が低い。
【0008】
これらの問題に対処するために、流体噴射装置を組み立てるいくつかの方法は、撥液性コーティングの開口部とノズルとの自己整合性を提供することができ、それにより、位置合わせが向上し、噴射が非直進になる可能性が低減する。
【0009】
一態様において、流体噴射装置のノズル板を形成する方法は、多層基板の第一面に穴をエッチングにより形成する工程と、穴内にライナーを付ける工程と、ライナーの閉端部を露出させるように多層基板の第二面から層を除去する工程と、撥液性コーティングをライナーの閉端部及びライナーの閉端部を囲む領域に施す工程と、ノズルを開けるようにライナーの閉端部を除去する工程と、を含む。
【0010】
実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含んでいてもよい。穴をエッチングにより形成する前に、多層基板の第一面の酸化物層に凹部をエッチングにより形成してもよい。穴は、酸化物層の凹部内に形成してもよく、酸化物層の凹部よりも小さな直径を有してもよい。撥液性コーティングを施す工程は、自己平坦性材料、例えばフルオロポリマーをスピンコートする工程を含んでいてもよい。撥液性コーティングは、ライナーの閉端部を除去する前に平坦化してもよい。多層基板は、シリコンデバイス層と、埋没酸化物層と、ハンドル層と、を含んでいてもよく、穴をエッチングにより形成する工程は、シリコンデバイス層及び埋没酸化物層を貫通してハンドル層を部分的にのみエッチングする工程を含んでいてもよい。多層基板の第二面から層を除去する工程により、ライナーの閉端部の周囲に平坦面が形成されてもよく、ライナーの閉端部は平坦面から突出してもよい。ライナーの閉端部は、撥液性コーティングを施す前に薄化させてもよい。撥液性コーティングを施す前に、接着促進層を多層基板の第二面に付けてもよい。接着促進層は、金属を含んでいてもよく、例えば、金属のみから成っていてもよい。完成時にポンプ室がノズルと流体連通するように、ポンプ室を含む部材に多層基板の第一面を接合してもよい。多層基板の第一面に凹部をエッチングにより形成してもよく、凹部はライナーの外径を囲んでいてもよい。穴内にライナーを付ける工程は、略平行な壁を有する初期ライナーを付ける工程を含んでいてもよい。多層基板の第二面から層を除去する工程は、ノズルライナーの閉端部を露出させるものであってもよい。多層基板の第一面に凹部をエッチングにより形成した後に初期ライナーを除去して、ノズルライナーを形成してもよい。ノズルライナーは、略平行な壁に繋がるテーパ部を有していてもよい。ノズルライナーは、酸化物であってもよい。
【0011】
別の態様において、流体噴射装置のノズル板を形成する方法は、第一面にノズル流入口を有する多層基板の第二面の層のノズル流入口に対応する領域をパターニングする工程と、多層基板の第二面の層をパターニングする工程の後に、多層基板の第二面に撥液性コーティングを施す工程と、撥液性コーティングに開口部を形成するように撥液性コーティングをパターニングする工程と、ノズル流入口に流体連通するノズル流出口を形成するように、撥液性コーティングの開口部を通して多層基板の層に開口部を開ける工程と、を含む。
【0012】
実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含んでいてもよい。多層基板の第二面の層をパターニングする工程は、接着促進層をパターニングする工程を含んでいてもよい。接着促進層は金属を含んでいてもよい。撥液性コーティングを施す工程は、例えばフルオロポリマーなどの自己平坦性材料をスピンコートする工程を含んでいてもよい。撥液性コーティングを平坦化してもよい。開口部を開ける工程は、酸化物層に開口部を開ける工程を含んでいてもよい。
【0013】
別の態様において、流体噴射装置のノズル板は、第一の表面及び第一の表面に平行に対向する第二の表面を有するデバイス層と、デバイス層の第一面に置かれる第一の酸化物層と、第一の酸化物層上の接着促進層と、接着促進層上の撥液層と、デバイス層の第二面に隣接する第二の酸化物層と、第二の酸化物層、デバイス層、第一の酸化物層、接着促進層、及び撥液層を貫通し、デバイス層の第一の表面に垂直な第一の軸に沿って延びるノズル流路と、を含む。
【0014】
実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含んでいてもよい。第一の酸化物層の厚さは2μm以下であってもよい。第二の酸化物層の厚さは1μm以上であってもよい。第一の酸化物層及び第二の酸化物層は、酸化シリコンのみから成っていてもよい。接着促進層は、金属又は金属酸化物、例えばタンタル、チタン、又はタンタル若しくはチタンの酸化物であってもよい。接着促進層は、第一の軸に対して垂直に延びる平坦な膜であってもよい。接着促進層の平坦な膜は、第一の軸に対して平行には延びていなくてもよい。ノズルの内面をライナーがコーティングしていてもよい。ライナーは、第二の酸化物層のデバイス層から離れた側をコーティングしていてもよい。ライナーは、窒化物、二酸化シリコン、又は金属であってもよい。ライナーの端部は丸められていてもよい。デバイス層はシリコンのみから成っていてもよい。ノズルはテーパ部を有していてもよい。テーパ部の上部はデバイス層の上部と位置合わせされていてもよい。
【0015】
特定の実施態様は、以下の利点のうちの一つ又は複数を有することができる。本明細書に記載の流体噴射装置の組み立て方法は、撥液性コーティングの開口部とノズルの開口部との自己整合性を提供し、それにより、位置合わせを向上させ、噴射が非直進的に行われる危険性を低減することができる。非多孔性接着層を使用して、撥液性コーティングをノズル板に接着することができる。非多孔性接着層は、多孔性接着層よりも、例えばアルカリインクなどの腐食性のある流体により腐食される可能性が低い。したがって、この接着層は劣化する可能性がより低い。これにより、撥液性コーティング層はノズル板の表面上により長く留まることができ、撥液性コーティング層の寿命が延びると共に、装置がより正確に噴射できる時間が延びる。スピンオン撥液性コーティング層をより厚くすることができ、それにより、コーティングを蒸着層よりも頑強にすることができる。本明細書に記載のコーティングにより、より腐食性の高い材料を流体噴射装置で使用することが可能になる。したがって、流体噴射装置は、噴射可能な材料の種類に関してより広い用途及び柔軟性を有する。
【0016】
本発明の一つ又は複数の実施態様の詳細を添付図面及び以下の説明において説明する。他の特徴、目的、及び利点が、説明及び図面から、並びに特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一つの噴射構造の側面断面図である。
【図2】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図3】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図4】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図5】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図6】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図7】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図8】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図9】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図10】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図11】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図12】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図13】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図14】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図15】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図16】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図17】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図18】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図19】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図20】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図21】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図22】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図23】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する工程の流れ図である。
【図24】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する工程の流れ図である。
【0018】
それぞれの図面における同様の参照符号は同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、インクジェットプリント装置等の流体噴射装置100の一つの噴射構造の断面図である。同様の構造が、2010年2月25日に出願された米国特許出願第12/712,614号明細書に記載されている。単一の噴射構造のみが図示されているが、流体噴射装置のダイは、数十、数百、更には数千の噴射構造を含み得る。
【0020】
インク等の流体が、例えば貯液槽(不図示)から、部材(例えばインターポーザ)10内の流路20を通って流体噴射装置100に入る。部材10は、流体への露出から電気構成要素を保護するカバー層であってもよく、任意に、回路等の電気素子を含んでいてもよい。流体は、ポンプ室35に繋がる部材30の充填流路32に入る。部材30上の膜40が、ポンプ室35の上にアクチュエータ50を支持する。アクチュエータ50は、膜40をポンプ室35内又はポンプ室35外に湾曲させ、それにより、ノズル板55内のノズル孔60を通して流体をポンプ室35から吐出させ、又は膜40の流入口から流体をポンプ室35に充填することが可能である。いくつかの実施態様では、ノズルは約2μm〜20μmの直径を有する。
【0021】
撥液性コーティング65が、環境に露出する最外層としてノズル板55上にある。撥液性コーティング65は、コーティングの開口部がノズル板55のノズル孔60と位置合わせされるように形成される。ノズル板のノズル孔60は、円形、楕円形、正方形、又は長方形であり得る。多くの種類の材料を撥液性コーティングに使用できるが、スピンオンコーティングが撥液性コーティングの一選択肢である。撥液性コーティングは、非晶質構造によりフッ化溶媒への良好な溶解性を有するフルオロポリマー等のフルオロポリマーから形成することができる。好適なスピンコート可能なフルオロポリマーとして、日本国東京都に所在する旭硝子株式会社から入手可能なCytop(登録商標)等の、ペルフルオロトリアルキルアミンを挙げることができる。スピンオン撥液性コーティングを施す際には、撥液性コーティングがノズルに入らないようにするのと同時に撥液性コーティングの開口部をノズル層の開口部に位置合わせすることが、潜在的な問題の一つである。
【0022】
ノズル板を形成する方法の一実施態様を図23で説明する。この方法の実施態様の詳細を図2〜図16に示す。
【0023】
図2に示すように、SOIウエハ200等の多層基板は、ハンドル層210と、BOXと呼ばれることもある埋没酸化物層215と、デバイス層220と、を有する。ハンドル層210及びデバイス層220はシリコンであり得る。いくつかの実施態様では、ハンドル層210の厚さは約600μmであり、デバイス層220の厚さは約30μmであり、ハンドル層210とデバイス層220との間にある埋没酸化物層215の厚さは、わずか数μm、例えば2μm以下、例えば1μmである。多層基板200は、デバイス層220に最も近い第一面即ち裏面と、ハンドル層210に最も近い第二面即ち表面とを有する。
【0024】
図3に示すように、基準位置230をデバイス層220にエッチングにより形成する。基準位置230は、処理の後の段階でマスクを位置合わせできるようにするためのものである。例えば熱酸化物である酸化物層235をデバイス層220上に成長させ、例えば熱酸化物である酸化物層240をハンドル層210のデバイス層220とは反対側に成長させる。いくつかの実施態様では、酸化物層235の最小厚は1μmである。図4に示すように、次に、凹部250を多層基板の第一面即ち裏面にエッチングにより形成する(図23のステップ1010)。いくつかの実施態様では、この凹部は、デバイス層220に直接接触して酸化物層235に形成される。凹部250は、酸化物層235を貫通して延びる開口部を形成する。凹部250は、緩衝酸化物エッチング(BOE)等のウェットエッチング又はドライエッチングにより形成することができる。リソグラフィにより、凹部250を所望の位置に配置することができる。
【0025】
図5に示すように、多層基板の第一面に穴をエッチングにより形成する(図23のステップ1020)。例えばレジスト層である犠牲層260を、酸化物層235上に置く。犠牲層260に、円形、楕円形、長方形、正方形、又は他の形状等の所望の断面を有する開口部を形成する。犠牲層260の開口部は、凹部250内に配置する。犠牲層260の開口部の横方向の直径は、酸化物層235の開口部250の横方向の寸法より小さくてもよい。いくつかの実施態様では、犠牲層260の開口部の中心は、酸化物層235の凹部250の中心に合わせられる。次に、多層基板を、犠牲層260をマスクとして使用してエッチングして、穴又は凹部265を形成する。凹部265は、デバイス層220及び埋没酸化物層215を貫通し、ハンドル層210内に部分的に延びる(しかし、ハンドル層210は貫通しない)。いくつかの実施態様では、ハンドル層210内へのエッチングは、約1μm〜5μmであり、例えば約2μmである。凹部265は、複数のエッチング工程により形成してもよい。
【0026】
図6に示すように、ライナーを穴内に付ける(図23のステップ1030)。このライナーは、付けられる複数のライナーのうちの初期ライナー270であってもよい。初期ライナー270は、凹部265の壁及び底並びにデバイス層の部分を、例えばKOHエッチング等のエッチングから保護することができる。ライナー270を付ける前に、ライナーを高温で付けることができるように、レジスト260を除去してもよい。初期ライナー270は、窒化物、二酸化シリコン、又は金属であってもよい。窒化物ライナーは、低圧化学蒸着法(LPCVD)により形成することができる。酸化物ライナーは、プラズマ化学蒸着法(PECVD)又は熱的手段により付けることができる。金属ライナーは、化学蒸着法(CVD)により付けることができる。一実施態様では、犠牲層260を除去した後に、初期ライナーを凹部265内に堆積させてもよい。いくつかの実施態様では、初期ライナー270の最小厚は、0.2μmである。
【0027】
ドライエッチングにより、初期ライナー270のデバイス層220の面上にある部分を除去することができる。ドライエッチングは、初期ライナー270の凹部265の側壁及び底部上にある部分をより低速でエッチングするので、マスクをしなくても、図8に示すように初期ライナー270をデバイス層220の面上から除去しつつ凹部265の側壁及び底部上に選択的に残すことができる。任意に、ドライエッチングの選択性が不十分な場合は、ドライエッチング前に図7に示すように凹部265上の初期ライナー270にフォトレジスト280を充填して、エッチング後にフォトレジスト280を除去してもよい。いくつかの実施態様では、初期ライナー270は、円筒形壁部及び底部を有し、中央領域に沿って中空である。いくつかの実施態様では、ライナーの断面は、底が閉じられ、中空の垂直部分があり、水平部分がライナーの上部から外側に延びる、概ねT字形に見える。
【0028】
レジストが必要であるか否かは、初期ライナー270の材料に依存し得る。例えば、初期ライナー270が酸化物で形成される場合は、ライナー領域の底部にある酸化物、即ち、ハンドル層210に最も近い部分にある酸化物をエッチングすることは困難でありえるので、レジスト280は必要ない場合がある。レジストを、酸化物層235の全体を覆わずに所望の領域のみに配置するように、スピンオンし露光し現像することができる。
【0029】
初期ライナー材料のデバイス層220上に残った部分があった場合は、図8に示すように初期ライナー材料を多層基板の上面から除去する。ドライエッチング等のエッチングにより、初期ライナー材料を除去することができる。ドライエッチングは選択的であり、垂直面よりも水平面から多くの材料を除去する。エッチングは、酸化物層235も薄くすることがある。
【0030】
図9に示すように、初期ライナーを囲む漏斗形の凹部を、多層基板の第一面からエッチングにより形成する(図23のステップ1040)。漏斗形凹部290は、初期ライナーの周囲かつデバイス層220内部に、エッチングにより形成する。例えばKOHエッチング等のウェットエッチングにより、漏斗形凹部290を形成することができる。レジスト280が初期ライナー270内にあった場合には、漏斗形凹部をエッチングにより形成する前にレジストを除去してもよい。いくつかの実施態様では、漏斗形凹部290は、埋没酸化物層215まで延びる。いくつかの実施態様では、漏斗形凹部290は、デバイス層220内に部分的に延びるがデバイス層220を貫通はしない。シリコンの結晶面により、漏斗形凹部は、切頭ピラミッド形、即ち頂部が除去されて二つの平行面を有するピラミッド形であり得る。
【0031】
図10に示すように、任意に、初期ライナー270を除去する。初期ライナー270は、窒化シリコンライナーである場合には熱リン酸により、二酸化シリコンライナーである場合にはフッ化水素(HF)酸によるなどして、剥がすことができる。そして、ノズルライナー300を、凹部内の、初期ライナーがあった場所に形成する。ノズルライナー300は、酸化物又は窒化物で形成することができる。ノズルライナー300は、初期ライナーのように、底面と、円筒形又は矩形の壁等の中空空間を囲む壁部とを有するが、空間の形状は他の形状であってもよい。形成するノズルライナー300の厚さは、約1μm未満、例えば0.2μm〜1μmとする。いくつかの実施態様では、ライナー300は熱的に成長させた酸化物であり、その場合、ライナーはデバイス層220及びハンドル層210の表面上にのみ存在し得る。いくつかの実施態様では、二つのライナーを別々に形成するのではなく、単一のライナーのみを形成する。その場合、初期ライナー及びノズルライナーは同じものである。
【0032】
図11に示すように、酸化物層235やライナー300がある多層基板の第一面を、新しい層に接合する。いくつかの実施態様では、新しい層は、図1で説明したような、ポンプ室等の噴射装置の形状を有するベース基板310である。ベース基板310は、接合材料により、又はシリコン−シリコン若しくはシリコン−酸化シリコンの熱融着により、多層基板に接合することができる。
【0033】
次に、ライナーの、多層基板の第二面に最も近い閉じられた端部等の部分を、各層を多層基板の第二面、即ち表側から除去することにより露出させる(図23のステップ1050)。図12に示すように、酸化物層240及びハンドル層210を除去する。この除去は、研削、研磨、及びドライエッチングの組み合わせにより行うことができる。例えば、酸化物層240をドライエッチングにより除去することができ、ハンドル層210を研削により部分的に除去することができ、研削プロセス後に残っているハンドル層材料は熱酸化物300及び埋没酸化物層215に対して選択的なウェットエッチング又はドライエッチングにより除去することができる。多層基板の第二面から材料を除去することにより、ノズルライナー300の閉端部を囲む平坦面が形成される。いくつかの実施態様では、ノズルライナー300は囲まれる平坦面から突出する。任意に、ノズルライナー300の閉端部である部分等は、薄くなってもよい。
【0034】
ここで露出した埋没酸化物層215に、任意に、図13に示すように接着促進層330を付ける。いくつかの実施態様では、接着促進層330は、タンタルやチタン等の金属又はこれらの材料のうちの一つの酸化物等の層である。いくつかの実施態様では、接着促進層330はシリコーン接着促進剤である。いくつかの実施態様では、接着促進層330は、非多孔性であって、ピンホールなしで連続し得る。しかしながら、接着促進層330は、続く撥液性コーティングの装置への接着を助ける材料であれば、どんな材料で形成してもよい。
【0035】
図14に示すように、撥液性材料の層を、多層基板の第二面に付ける(図23のステップ1060)。撥液性材料は、自己平坦性を有するか又は平坦化されることにより、撥液層340に平坦面を形成することができる。上述したように、撥液性材料は、Teflon(PTFE)又はCytop(商標)等のフルオロカーボン材料であってもよい。いくつかの実施形態では、撥液層340は、0.5μm以上、例えば1μm以上の厚さで付けられる。撥液層340が付けられる接着促進層や酸化物層よりも撥液層の材料が速くエッチングされる場合には、例えば1μmを超える比較的厚い撥液層340が望ましいことがある。スピンコートの代わりに、スプレーコートや化学蒸着(CVD)により撥液性材料を付けてもよい。CVDコーティングやスプレーコーティング等のいくつかの種類のコーティングは、自己平坦性を有さずコンフォーマルであり、その基板の形状に沿った外面形状を呈する。化学機械研磨(CMP)により、コンフォーマルなコーティングを平坦化すると共にノズルライナー300の底面を露出させて、ノズルを開けることができるようにすることができる。
【0036】
図15に示すように、ノズルライナーの多層基板の第二面に隣接する部分を除去して、ノズル孔を開ける(図23のステップ1070)。撥液層340、任意の接着促進層330、及びノズルライナー300層の底部をエッチングして、ノズルを開ける。いくつかの撥液性コーティング材料は、レジストして機能する。したがって、撥液性コーティング340は、ノズルと位置合わせされた開口部を有するようにパターニングされた後、接着促進層330及びノズルライナー300を貫通してエッチングするためのエッチングプロセスにおいてマスクとして使用される。撥液性コーティングは、例えばCF4プラズマエッチング等のドライプラズマエッチングによりエッチングすることができる。このエッチングは、撥液性コーティングを薄化し得る。任意の接着促進層330及びノズルライナー300層の底部は、好適なエッチング条件でエッチングすることができる。
【0037】
図16に示すように、接着促進層がない場合には、撥液層340はノズルの外径により近い。図示するように、エッチングにより、ノズルライナー300層にノズル開口部を画成する丸められた端部が形成されることがある。ノズルを画成する酸化物よりもとても速く撥液性コーティングがエッチングされる場合には、これによってもノズルが突出部分350を有することがある。ノズル板の保守等のためにワイピング機構が使用されてノズル板がクリーニングされる場合、突出したノズルはクリーニングに対して脆すぎることがある。したがって、撥液性コーティングを付ける際にその厚さを最適化したり、又は突出した薄膜を蒸発プロセス又はプラズマプロセスによりエッチングして除去したりして、ノズル板上のあらゆる突出部を少なくすることが有利であり得る。
【0038】
代替の方法として、ノズルを形成するための空間部を全て多層基板の片側から形成するのではなく、多層基板の両側からノズルを形成してもよい。この方法を図24において説明し、各工程を図17〜図22に示す。
【0039】
図17に示すように、ノズル流入口400を、多層基板405に、例えば多層基板の第一面即ち裏面に形成する。ノズル流入口400は、シリコン410層に例えばKOHエッチング等のウェットエッチングを行うことにより形成することができる。ウェットエッチングは、流入口400にテーパ側部、例えば切頭ピラミッド形をもたらすことができる。エッチングは、酸化物層420で停止する。酸化物層420は、平坦でそのままの連続した層である。任意に、例えばチタンやタンタルの層である金属層430等の接着促進層が、酸化物層420のノズル流入口400の反対側、即ち多層基板の第二面にある。或いは、金属層430に代えて、Ta2O5やTiO2等の金属酸化物層が使用される。
【0040】
レジストを、多層基板の第二面に形成する(図24のステップ1110)。したがって、フォトレジスト層440は、金属層430の酸化物層420とは反対側にある。フォトレジスト層440に、所望のノズル流出口の形状及び寸法をパターニングする。フォトレジスト層440は、多層基板の第一面にあるノズル流入口400に対応する多層基板の第二面の領域にノズル流出口が形成されるように、かつノズル板が完成したときに流入口及び流出口が互いに流体連通するように、パターニングされる。フォトレジスト層440は、基板の基準位置をマスクに位置合わせすることによりパターニングすることができる。ノズル層は、別の層に接着する前に加工することにより、ノズル層が接合により変形するいかなる可能性をも低減することができる。
【0041】
図18に示すように、フォトレジスト440に形成された開口部を使用して、接着促進層等の多層基板の第二面をパターニングする(図24のステップ1120)。即ち、フォトレジスト440は、下層をエッチングする際のマスクとして使用される。接着促進層が金属層430である場合、金属層430はHF等によりエッチングすることができる。フォトレジスト440を剥がす。次に、撥液性コーティング層460を、多層基板の第二面に形成する(図24のステップ1140)。図19に示すように、撥液性コーティング層460は、開口部450を満たし、平坦面470を形成する。撥液性コーティング層460が金属層430の凹部の形状に沿った外面形状を呈する場合は、撥液性コーティング層460を研磨又はエッチングすることによって平坦面470を形成することができる。図20に示すように、更なるフォトレジストの層480を、撥液性コーティング層460に付けて、パターニングする。フォトレジストをパターニングするマスクは、ステッパによる赤外線即ち表裏位置合わせ技術を用いて位置合わせすることができる。更なるフォトレジスト層480に形成される開口部の寸法は、金属層430の開口部よりも広い。次に、図21に示すように、例えば、フォトレジスト480をマスクとして使用してその下にある撥液性コーティング460をエッチングすることにより、撥液性コーティング層460をパターニングする(図24のステップ1150)。任意に、更なるフォトレジスト層480を除去する。
【0042】
図22に示すように、多層基板の第二面から酸化物層420をエッチングして、ノズルの開口を完了する(図24のステップ1160)。この一連の工程によりノズルを有するノズル板を形成し、その後、そのノズル板を装置本体に接合することができる。
【0043】
或いは、酸化物の内側に、ニッケル層等の金属層を使用してもよい。
【0044】
本発明の多くの実施態様について説明した。しかしながら、様々な変更を行ってもよいことが理解されよう。したがって、他の実施態様も以下の特許請求の範囲内にある。
【0045】
本明細書において参照した全ての引用文献は、参照により本明細書に援用される。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、流体噴射装置へのコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、流体噴射装置(例えばインクジェットプリントヘッド)は、内面と、流体が噴射される孔と、外面と、を有する。流体は、孔から噴射される際に流体噴射装置の外面に蓄積し、例えば表面張力により、次に噴射される流体を所望の移動経路から遠くにそらせたり完全に遮断したりすることがある。流体噴射装置を形成するいくつかの材料(例えばシリコン)は、親水性であり、そのことは、流体が噴射される際の蓄積の問題に悪影響があることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−300627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撥液性コーティングを使用して、表面をコーティングすることができる。しかし、いくつかの種類の材料は、軟らかく、耐久性のあるコーティングではない。コーティングによっては、高価であったりパターニングが困難であったりするものがある。
【0005】
気相コーティングは、腐食性流体、例えば尿素含有インク等の特定の種類の流体により腐食されやすい傾向がある。一方、フルオロポリマー等の特定の種類のスピンコート材料は、そのような腐食性流体に対する耐性を有し得るが、剥離しやすい傾向がある。
【0006】
スピンコート材料をノズル層上に置く際の別の問題として、ノズル流路をスピンコート材料がない状態に保つことが挙げられる。材料がノズルに入ることを回避しようとしてノズル流路を開ける前にコーティングを施す場合、コーティングの開口部をノズル孔にフォトリソグラフィ的に正確に位置合わせすることは困難でありえる。この位置合わせの困難さは、少なくとも部分的には、表裏の位置合わせ誤差や、ノズル層が別の層に接合されることで生じる潜在的な非完全平坦性によるノズル層の小さな変形に起因し得る。したがって、ノズルを配置すべき場所を示すマスク又はグリッドに対して、ノズルの位置に歪みが生じ得る。撥液性コーティングの開口部とノズルとの位置合わせのずれは、ノズルの非対称性に繋がり、噴射される液滴の直進性に影響を及ぼす。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの問題に対処するために、撥液性コーティングをノズル板に接着するために、非多孔性接着層を使用することができる。非多孔性接着層は、多孔性接着層よりも、腐食性のある流体、例えばアルカリインクにより腐食される可能性が低い。
【0008】
これらの問題に対処するために、流体噴射装置を組み立てるいくつかの方法は、撥液性コーティングの開口部とノズルとの自己整合性を提供することができ、それにより、位置合わせが向上し、噴射が非直進になる可能性が低減する。
【0009】
一態様において、流体噴射装置のノズル板を形成する方法は、多層基板の第一面に穴をエッチングにより形成する工程と、穴内にライナーを付ける工程と、ライナーの閉端部を露出させるように多層基板の第二面から層を除去する工程と、撥液性コーティングをライナーの閉端部及びライナーの閉端部を囲む領域に施す工程と、ノズルを開けるようにライナーの閉端部を除去する工程と、を含む。
【0010】
実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含んでいてもよい。穴をエッチングにより形成する前に、多層基板の第一面の酸化物層に凹部をエッチングにより形成してもよい。穴は、酸化物層の凹部内に形成してもよく、酸化物層の凹部よりも小さな直径を有してもよい。撥液性コーティングを施す工程は、自己平坦性材料、例えばフルオロポリマーをスピンコートする工程を含んでいてもよい。撥液性コーティングは、ライナーの閉端部を除去する前に平坦化してもよい。多層基板は、シリコンデバイス層と、埋没酸化物層と、ハンドル層と、を含んでいてもよく、穴をエッチングにより形成する工程は、シリコンデバイス層及び埋没酸化物層を貫通してハンドル層を部分的にのみエッチングする工程を含んでいてもよい。多層基板の第二面から層を除去する工程により、ライナーの閉端部の周囲に平坦面が形成されてもよく、ライナーの閉端部は平坦面から突出してもよい。ライナーの閉端部は、撥液性コーティングを施す前に薄化させてもよい。撥液性コーティングを施す前に、接着促進層を多層基板の第二面に付けてもよい。接着促進層は、金属を含んでいてもよく、例えば、金属のみから成っていてもよい。完成時にポンプ室がノズルと流体連通するように、ポンプ室を含む部材に多層基板の第一面を接合してもよい。多層基板の第一面に凹部をエッチングにより形成してもよく、凹部はライナーの外径を囲んでいてもよい。穴内にライナーを付ける工程は、略平行な壁を有する初期ライナーを付ける工程を含んでいてもよい。多層基板の第二面から層を除去する工程は、ノズルライナーの閉端部を露出させるものであってもよい。多層基板の第一面に凹部をエッチングにより形成した後に初期ライナーを除去して、ノズルライナーを形成してもよい。ノズルライナーは、略平行な壁に繋がるテーパ部を有していてもよい。ノズルライナーは、酸化物であってもよい。
【0011】
別の態様において、流体噴射装置のノズル板を形成する方法は、第一面にノズル流入口を有する多層基板の第二面の層のノズル流入口に対応する領域をパターニングする工程と、多層基板の第二面の層をパターニングする工程の後に、多層基板の第二面に撥液性コーティングを施す工程と、撥液性コーティングに開口部を形成するように撥液性コーティングをパターニングする工程と、ノズル流入口に流体連通するノズル流出口を形成するように、撥液性コーティングの開口部を通して多層基板の層に開口部を開ける工程と、を含む。
【0012】
実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含んでいてもよい。多層基板の第二面の層をパターニングする工程は、接着促進層をパターニングする工程を含んでいてもよい。接着促進層は金属を含んでいてもよい。撥液性コーティングを施す工程は、例えばフルオロポリマーなどの自己平坦性材料をスピンコートする工程を含んでいてもよい。撥液性コーティングを平坦化してもよい。開口部を開ける工程は、酸化物層に開口部を開ける工程を含んでいてもよい。
【0013】
別の態様において、流体噴射装置のノズル板は、第一の表面及び第一の表面に平行に対向する第二の表面を有するデバイス層と、デバイス層の第一面に置かれる第一の酸化物層と、第一の酸化物層上の接着促進層と、接着促進層上の撥液層と、デバイス層の第二面に隣接する第二の酸化物層と、第二の酸化物層、デバイス層、第一の酸化物層、接着促進層、及び撥液層を貫通し、デバイス層の第一の表面に垂直な第一の軸に沿って延びるノズル流路と、を含む。
【0014】
実施態様は、以下の特徴のうちの一つ又は複数を含んでいてもよい。第一の酸化物層の厚さは2μm以下であってもよい。第二の酸化物層の厚さは1μm以上であってもよい。第一の酸化物層及び第二の酸化物層は、酸化シリコンのみから成っていてもよい。接着促進層は、金属又は金属酸化物、例えばタンタル、チタン、又はタンタル若しくはチタンの酸化物であってもよい。接着促進層は、第一の軸に対して垂直に延びる平坦な膜であってもよい。接着促進層の平坦な膜は、第一の軸に対して平行には延びていなくてもよい。ノズルの内面をライナーがコーティングしていてもよい。ライナーは、第二の酸化物層のデバイス層から離れた側をコーティングしていてもよい。ライナーは、窒化物、二酸化シリコン、又は金属であってもよい。ライナーの端部は丸められていてもよい。デバイス層はシリコンのみから成っていてもよい。ノズルはテーパ部を有していてもよい。テーパ部の上部はデバイス層の上部と位置合わせされていてもよい。
【0015】
特定の実施態様は、以下の利点のうちの一つ又は複数を有することができる。本明細書に記載の流体噴射装置の組み立て方法は、撥液性コーティングの開口部とノズルの開口部との自己整合性を提供し、それにより、位置合わせを向上させ、噴射が非直進的に行われる危険性を低減することができる。非多孔性接着層を使用して、撥液性コーティングをノズル板に接着することができる。非多孔性接着層は、多孔性接着層よりも、例えばアルカリインクなどの腐食性のある流体により腐食される可能性が低い。したがって、この接着層は劣化する可能性がより低い。これにより、撥液性コーティング層はノズル板の表面上により長く留まることができ、撥液性コーティング層の寿命が延びると共に、装置がより正確に噴射できる時間が延びる。スピンオン撥液性コーティング層をより厚くすることができ、それにより、コーティングを蒸着層よりも頑強にすることができる。本明細書に記載のコーティングにより、より腐食性の高い材料を流体噴射装置で使用することが可能になる。したがって、流体噴射装置は、噴射可能な材料の種類に関してより広い用途及び柔軟性を有する。
【0016】
本発明の一つ又は複数の実施態様の詳細を添付図面及び以下の説明において説明する。他の特徴、目的、及び利点が、説明及び図面から、並びに特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一つの噴射構造の側面断面図である。
【図2】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図3】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図4】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図5】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図6】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図7】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図8】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図9】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図10】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図11】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図12】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図13】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図14】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図15】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図16】撥液性コーティングを有するノズルをノズル板に形成する一工程を示す図である。
【図17】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図18】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図19】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図20】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図21】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図22】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する一工程を示す図である。
【図23】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する工程の流れ図である。
【図24】ノズル板上に撥液性コーティングを形成する工程の流れ図である。
【0018】
それぞれの図面における同様の参照符号は同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、インクジェットプリント装置等の流体噴射装置100の一つの噴射構造の断面図である。同様の構造が、2010年2月25日に出願された米国特許出願第12/712,614号明細書に記載されている。単一の噴射構造のみが図示されているが、流体噴射装置のダイは、数十、数百、更には数千の噴射構造を含み得る。
【0020】
インク等の流体が、例えば貯液槽(不図示)から、部材(例えばインターポーザ)10内の流路20を通って流体噴射装置100に入る。部材10は、流体への露出から電気構成要素を保護するカバー層であってもよく、任意に、回路等の電気素子を含んでいてもよい。流体は、ポンプ室35に繋がる部材30の充填流路32に入る。部材30上の膜40が、ポンプ室35の上にアクチュエータ50を支持する。アクチュエータ50は、膜40をポンプ室35内又はポンプ室35外に湾曲させ、それにより、ノズル板55内のノズル孔60を通して流体をポンプ室35から吐出させ、又は膜40の流入口から流体をポンプ室35に充填することが可能である。いくつかの実施態様では、ノズルは約2μm〜20μmの直径を有する。
【0021】
撥液性コーティング65が、環境に露出する最外層としてノズル板55上にある。撥液性コーティング65は、コーティングの開口部がノズル板55のノズル孔60と位置合わせされるように形成される。ノズル板のノズル孔60は、円形、楕円形、正方形、又は長方形であり得る。多くの種類の材料を撥液性コーティングに使用できるが、スピンオンコーティングが撥液性コーティングの一選択肢である。撥液性コーティングは、非晶質構造によりフッ化溶媒への良好な溶解性を有するフルオロポリマー等のフルオロポリマーから形成することができる。好適なスピンコート可能なフルオロポリマーとして、日本国東京都に所在する旭硝子株式会社から入手可能なCytop(登録商標)等の、ペルフルオロトリアルキルアミンを挙げることができる。スピンオン撥液性コーティングを施す際には、撥液性コーティングがノズルに入らないようにするのと同時に撥液性コーティングの開口部をノズル層の開口部に位置合わせすることが、潜在的な問題の一つである。
【0022】
ノズル板を形成する方法の一実施態様を図23で説明する。この方法の実施態様の詳細を図2〜図16に示す。
【0023】
図2に示すように、SOIウエハ200等の多層基板は、ハンドル層210と、BOXと呼ばれることもある埋没酸化物層215と、デバイス層220と、を有する。ハンドル層210及びデバイス層220はシリコンであり得る。いくつかの実施態様では、ハンドル層210の厚さは約600μmであり、デバイス層220の厚さは約30μmであり、ハンドル層210とデバイス層220との間にある埋没酸化物層215の厚さは、わずか数μm、例えば2μm以下、例えば1μmである。多層基板200は、デバイス層220に最も近い第一面即ち裏面と、ハンドル層210に最も近い第二面即ち表面とを有する。
【0024】
図3に示すように、基準位置230をデバイス層220にエッチングにより形成する。基準位置230は、処理の後の段階でマスクを位置合わせできるようにするためのものである。例えば熱酸化物である酸化物層235をデバイス層220上に成長させ、例えば熱酸化物である酸化物層240をハンドル層210のデバイス層220とは反対側に成長させる。いくつかの実施態様では、酸化物層235の最小厚は1μmである。図4に示すように、次に、凹部250を多層基板の第一面即ち裏面にエッチングにより形成する(図23のステップ1010)。いくつかの実施態様では、この凹部は、デバイス層220に直接接触して酸化物層235に形成される。凹部250は、酸化物層235を貫通して延びる開口部を形成する。凹部250は、緩衝酸化物エッチング(BOE)等のウェットエッチング又はドライエッチングにより形成することができる。リソグラフィにより、凹部250を所望の位置に配置することができる。
【0025】
図5に示すように、多層基板の第一面に穴をエッチングにより形成する(図23のステップ1020)。例えばレジスト層である犠牲層260を、酸化物層235上に置く。犠牲層260に、円形、楕円形、長方形、正方形、又は他の形状等の所望の断面を有する開口部を形成する。犠牲層260の開口部は、凹部250内に配置する。犠牲層260の開口部の横方向の直径は、酸化物層235の開口部250の横方向の寸法より小さくてもよい。いくつかの実施態様では、犠牲層260の開口部の中心は、酸化物層235の凹部250の中心に合わせられる。次に、多層基板を、犠牲層260をマスクとして使用してエッチングして、穴又は凹部265を形成する。凹部265は、デバイス層220及び埋没酸化物層215を貫通し、ハンドル層210内に部分的に延びる(しかし、ハンドル層210は貫通しない)。いくつかの実施態様では、ハンドル層210内へのエッチングは、約1μm〜5μmであり、例えば約2μmである。凹部265は、複数のエッチング工程により形成してもよい。
【0026】
図6に示すように、ライナーを穴内に付ける(図23のステップ1030)。このライナーは、付けられる複数のライナーのうちの初期ライナー270であってもよい。初期ライナー270は、凹部265の壁及び底並びにデバイス層の部分を、例えばKOHエッチング等のエッチングから保護することができる。ライナー270を付ける前に、ライナーを高温で付けることができるように、レジスト260を除去してもよい。初期ライナー270は、窒化物、二酸化シリコン、又は金属であってもよい。窒化物ライナーは、低圧化学蒸着法(LPCVD)により形成することができる。酸化物ライナーは、プラズマ化学蒸着法(PECVD)又は熱的手段により付けることができる。金属ライナーは、化学蒸着法(CVD)により付けることができる。一実施態様では、犠牲層260を除去した後に、初期ライナーを凹部265内に堆積させてもよい。いくつかの実施態様では、初期ライナー270の最小厚は、0.2μmである。
【0027】
ドライエッチングにより、初期ライナー270のデバイス層220の面上にある部分を除去することができる。ドライエッチングは、初期ライナー270の凹部265の側壁及び底部上にある部分をより低速でエッチングするので、マスクをしなくても、図8に示すように初期ライナー270をデバイス層220の面上から除去しつつ凹部265の側壁及び底部上に選択的に残すことができる。任意に、ドライエッチングの選択性が不十分な場合は、ドライエッチング前に図7に示すように凹部265上の初期ライナー270にフォトレジスト280を充填して、エッチング後にフォトレジスト280を除去してもよい。いくつかの実施態様では、初期ライナー270は、円筒形壁部及び底部を有し、中央領域に沿って中空である。いくつかの実施態様では、ライナーの断面は、底が閉じられ、中空の垂直部分があり、水平部分がライナーの上部から外側に延びる、概ねT字形に見える。
【0028】
レジストが必要であるか否かは、初期ライナー270の材料に依存し得る。例えば、初期ライナー270が酸化物で形成される場合は、ライナー領域の底部にある酸化物、即ち、ハンドル層210に最も近い部分にある酸化物をエッチングすることは困難でありえるので、レジスト280は必要ない場合がある。レジストを、酸化物層235の全体を覆わずに所望の領域のみに配置するように、スピンオンし露光し現像することができる。
【0029】
初期ライナー材料のデバイス層220上に残った部分があった場合は、図8に示すように初期ライナー材料を多層基板の上面から除去する。ドライエッチング等のエッチングにより、初期ライナー材料を除去することができる。ドライエッチングは選択的であり、垂直面よりも水平面から多くの材料を除去する。エッチングは、酸化物層235も薄くすることがある。
【0030】
図9に示すように、初期ライナーを囲む漏斗形の凹部を、多層基板の第一面からエッチングにより形成する(図23のステップ1040)。漏斗形凹部290は、初期ライナーの周囲かつデバイス層220内部に、エッチングにより形成する。例えばKOHエッチング等のウェットエッチングにより、漏斗形凹部290を形成することができる。レジスト280が初期ライナー270内にあった場合には、漏斗形凹部をエッチングにより形成する前にレジストを除去してもよい。いくつかの実施態様では、漏斗形凹部290は、埋没酸化物層215まで延びる。いくつかの実施態様では、漏斗形凹部290は、デバイス層220内に部分的に延びるがデバイス層220を貫通はしない。シリコンの結晶面により、漏斗形凹部は、切頭ピラミッド形、即ち頂部が除去されて二つの平行面を有するピラミッド形であり得る。
【0031】
図10に示すように、任意に、初期ライナー270を除去する。初期ライナー270は、窒化シリコンライナーである場合には熱リン酸により、二酸化シリコンライナーである場合にはフッ化水素(HF)酸によるなどして、剥がすことができる。そして、ノズルライナー300を、凹部内の、初期ライナーがあった場所に形成する。ノズルライナー300は、酸化物又は窒化物で形成することができる。ノズルライナー300は、初期ライナーのように、底面と、円筒形又は矩形の壁等の中空空間を囲む壁部とを有するが、空間の形状は他の形状であってもよい。形成するノズルライナー300の厚さは、約1μm未満、例えば0.2μm〜1μmとする。いくつかの実施態様では、ライナー300は熱的に成長させた酸化物であり、その場合、ライナーはデバイス層220及びハンドル層210の表面上にのみ存在し得る。いくつかの実施態様では、二つのライナーを別々に形成するのではなく、単一のライナーのみを形成する。その場合、初期ライナー及びノズルライナーは同じものである。
【0032】
図11に示すように、酸化物層235やライナー300がある多層基板の第一面を、新しい層に接合する。いくつかの実施態様では、新しい層は、図1で説明したような、ポンプ室等の噴射装置の形状を有するベース基板310である。ベース基板310は、接合材料により、又はシリコン−シリコン若しくはシリコン−酸化シリコンの熱融着により、多層基板に接合することができる。
【0033】
次に、ライナーの、多層基板の第二面に最も近い閉じられた端部等の部分を、各層を多層基板の第二面、即ち表側から除去することにより露出させる(図23のステップ1050)。図12に示すように、酸化物層240及びハンドル層210を除去する。この除去は、研削、研磨、及びドライエッチングの組み合わせにより行うことができる。例えば、酸化物層240をドライエッチングにより除去することができ、ハンドル層210を研削により部分的に除去することができ、研削プロセス後に残っているハンドル層材料は熱酸化物300及び埋没酸化物層215に対して選択的なウェットエッチング又はドライエッチングにより除去することができる。多層基板の第二面から材料を除去することにより、ノズルライナー300の閉端部を囲む平坦面が形成される。いくつかの実施態様では、ノズルライナー300は囲まれる平坦面から突出する。任意に、ノズルライナー300の閉端部である部分等は、薄くなってもよい。
【0034】
ここで露出した埋没酸化物層215に、任意に、図13に示すように接着促進層330を付ける。いくつかの実施態様では、接着促進層330は、タンタルやチタン等の金属又はこれらの材料のうちの一つの酸化物等の層である。いくつかの実施態様では、接着促進層330はシリコーン接着促進剤である。いくつかの実施態様では、接着促進層330は、非多孔性であって、ピンホールなしで連続し得る。しかしながら、接着促進層330は、続く撥液性コーティングの装置への接着を助ける材料であれば、どんな材料で形成してもよい。
【0035】
図14に示すように、撥液性材料の層を、多層基板の第二面に付ける(図23のステップ1060)。撥液性材料は、自己平坦性を有するか又は平坦化されることにより、撥液層340に平坦面を形成することができる。上述したように、撥液性材料は、Teflon(PTFE)又はCytop(商標)等のフルオロカーボン材料であってもよい。いくつかの実施形態では、撥液層340は、0.5μm以上、例えば1μm以上の厚さで付けられる。撥液層340が付けられる接着促進層や酸化物層よりも撥液層の材料が速くエッチングされる場合には、例えば1μmを超える比較的厚い撥液層340が望ましいことがある。スピンコートの代わりに、スプレーコートや化学蒸着(CVD)により撥液性材料を付けてもよい。CVDコーティングやスプレーコーティング等のいくつかの種類のコーティングは、自己平坦性を有さずコンフォーマルであり、その基板の形状に沿った外面形状を呈する。化学機械研磨(CMP)により、コンフォーマルなコーティングを平坦化すると共にノズルライナー300の底面を露出させて、ノズルを開けることができるようにすることができる。
【0036】
図15に示すように、ノズルライナーの多層基板の第二面に隣接する部分を除去して、ノズル孔を開ける(図23のステップ1070)。撥液層340、任意の接着促進層330、及びノズルライナー300層の底部をエッチングして、ノズルを開ける。いくつかの撥液性コーティング材料は、レジストして機能する。したがって、撥液性コーティング340は、ノズルと位置合わせされた開口部を有するようにパターニングされた後、接着促進層330及びノズルライナー300を貫通してエッチングするためのエッチングプロセスにおいてマスクとして使用される。撥液性コーティングは、例えばCF4プラズマエッチング等のドライプラズマエッチングによりエッチングすることができる。このエッチングは、撥液性コーティングを薄化し得る。任意の接着促進層330及びノズルライナー300層の底部は、好適なエッチング条件でエッチングすることができる。
【0037】
図16に示すように、接着促進層がない場合には、撥液層340はノズルの外径により近い。図示するように、エッチングにより、ノズルライナー300層にノズル開口部を画成する丸められた端部が形成されることがある。ノズルを画成する酸化物よりもとても速く撥液性コーティングがエッチングされる場合には、これによってもノズルが突出部分350を有することがある。ノズル板の保守等のためにワイピング機構が使用されてノズル板がクリーニングされる場合、突出したノズルはクリーニングに対して脆すぎることがある。したがって、撥液性コーティングを付ける際にその厚さを最適化したり、又は突出した薄膜を蒸発プロセス又はプラズマプロセスによりエッチングして除去したりして、ノズル板上のあらゆる突出部を少なくすることが有利であり得る。
【0038】
代替の方法として、ノズルを形成するための空間部を全て多層基板の片側から形成するのではなく、多層基板の両側からノズルを形成してもよい。この方法を図24において説明し、各工程を図17〜図22に示す。
【0039】
図17に示すように、ノズル流入口400を、多層基板405に、例えば多層基板の第一面即ち裏面に形成する。ノズル流入口400は、シリコン410層に例えばKOHエッチング等のウェットエッチングを行うことにより形成することができる。ウェットエッチングは、流入口400にテーパ側部、例えば切頭ピラミッド形をもたらすことができる。エッチングは、酸化物層420で停止する。酸化物層420は、平坦でそのままの連続した層である。任意に、例えばチタンやタンタルの層である金属層430等の接着促進層が、酸化物層420のノズル流入口400の反対側、即ち多層基板の第二面にある。或いは、金属層430に代えて、Ta2O5やTiO2等の金属酸化物層が使用される。
【0040】
レジストを、多層基板の第二面に形成する(図24のステップ1110)。したがって、フォトレジスト層440は、金属層430の酸化物層420とは反対側にある。フォトレジスト層440に、所望のノズル流出口の形状及び寸法をパターニングする。フォトレジスト層440は、多層基板の第一面にあるノズル流入口400に対応する多層基板の第二面の領域にノズル流出口が形成されるように、かつノズル板が完成したときに流入口及び流出口が互いに流体連通するように、パターニングされる。フォトレジスト層440は、基板の基準位置をマスクに位置合わせすることによりパターニングすることができる。ノズル層は、別の層に接着する前に加工することにより、ノズル層が接合により変形するいかなる可能性をも低減することができる。
【0041】
図18に示すように、フォトレジスト440に形成された開口部を使用して、接着促進層等の多層基板の第二面をパターニングする(図24のステップ1120)。即ち、フォトレジスト440は、下層をエッチングする際のマスクとして使用される。接着促進層が金属層430である場合、金属層430はHF等によりエッチングすることができる。フォトレジスト440を剥がす。次に、撥液性コーティング層460を、多層基板の第二面に形成する(図24のステップ1140)。図19に示すように、撥液性コーティング層460は、開口部450を満たし、平坦面470を形成する。撥液性コーティング層460が金属層430の凹部の形状に沿った外面形状を呈する場合は、撥液性コーティング層460を研磨又はエッチングすることによって平坦面470を形成することができる。図20に示すように、更なるフォトレジストの層480を、撥液性コーティング層460に付けて、パターニングする。フォトレジストをパターニングするマスクは、ステッパによる赤外線即ち表裏位置合わせ技術を用いて位置合わせすることができる。更なるフォトレジスト層480に形成される開口部の寸法は、金属層430の開口部よりも広い。次に、図21に示すように、例えば、フォトレジスト480をマスクとして使用してその下にある撥液性コーティング460をエッチングすることにより、撥液性コーティング層460をパターニングする(図24のステップ1150)。任意に、更なるフォトレジスト層480を除去する。
【0042】
図22に示すように、多層基板の第二面から酸化物層420をエッチングして、ノズルの開口を完了する(図24のステップ1160)。この一連の工程によりノズルを有するノズル板を形成し、その後、そのノズル板を装置本体に接合することができる。
【0043】
或いは、酸化物の内側に、ニッケル層等の金属層を使用してもよい。
【0044】
本発明の多くの実施態様について説明した。しかしながら、様々な変更を行ってもよいことが理解されよう。したがって、他の実施態様も以下の特許請求の範囲内にある。
【0045】
本明細書において参照した全ての引用文献は、参照により本明細書に援用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体噴射装置のノズル板を形成する方法であって、
多層基板の第一面に穴をエッチングにより形成する工程と、
前記穴内にライナーを付ける工程と、
前記ライナーの閉端部を露出させるように、前記多層基板の第二面から層を除去する工程と、
撥液性コーティングを前記ライナーの前記閉端部及び前記ライナーの前記閉端部を囲む領域に施す工程と、
ノズルを開けるように、前記ライナーの前記閉端部を除去する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記穴をエッチングにより形成する工程の前に、前記多層基板の第一面の酸化物層に凹部をエッチングにより形成する工程を更に含み、
前記穴は、前記酸化物層の凹部内に形成され、前記酸化物層の凹部よりも小さな直径を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記撥液性コーティングを施す工程は、自己平坦性材料をスピンコートする工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記自己平坦性材料はフルオロポリマーである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ライナーの前記閉端部を除去する工程の前に、前記撥液性コーティングを平坦化する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記多層基板は、シリコンデバイス層と、埋没酸化物層と、ハンドル層と、を含み、
前記穴をエッチングにより形成する工程は、前記シリコンデバイス層及び前記埋没酸化物層を貫通して前記ハンドル層を部分的にのみエッチングする工程を含む、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記多層基板の第二面から層を除去する工程により、前記ライナーの前記閉端部の周囲に平坦面が形成されて前記ライナーの前記閉端部は前記平坦面から突出する、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記撥液性コーティングを施す工程の前に、前記ライナーの前記閉端部を薄化させる工程を更に含む、請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記撥液性コーティングを施す工程の前に、接着促進層を前記多層基板の第二面に付ける工程を更に含む、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記接着促進層は金属を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記接着促進層は金属のみから成る、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
完成時にポンプ室が前記ノズルと流体連通するように、前記ポンプ室を有する部材に前記多層基板の第一面を接合する工程を更に含む、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記多層基板の第一面に凹部をエッチングにより形成する工程を更に含み、
前記凹部は前記ライナーの外径を囲む、
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記穴内にライナーを付ける工程は、略平行な壁を有する初期ライナーを付ける工程を含み、
前記多層基板の第二面から層を除去する工程は、ノズルライナーの閉端部を露出させるものであり、
前記多層基板の第一面に凹部をエッチングにより形成する工程の後に前記初期ライナーを除去する工程及び前記ノズルライナーを形成する工程を更に含み、
前記ノズルライナーは略平行な壁に繋がるテーパ部を有する、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ノズルライナーは酸化物で形成される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
流体噴射装置のノズル板を形成する方法であって、
第一面にノズル流入口を有する多層基板の第二面の層の前記ノズル流入口に対応する領域をパターニングする工程と、
前記多層基板の第二面の層をパターニングする工程の後に、前記多層基板の第二面に撥液性コーティングを施す工程と、
前記撥液性コーティングに開口部を形成するように前記撥液性コーティングをパターニングする工程と、
前記ノズル流入口に流体連通するノズル流出口を形成するように、前記撥液性コーティングの前記開口部を通して前記多層基板の層に開口部を開ける工程と、
を含む方法。
【請求項17】
前記多層基板の第二面の層をパターニングする工程は、接着促進層をパターニングする工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記接着促進層は金属を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記撥液性コーティングを施す工程は、自己平坦性材料をスピンコートする工程を含む、請求項16乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記自己平坦性材料はフルオロポリマーである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記撥液性コーティングを平坦化する工程を更に含む、請求項16乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記開口部を開ける工程は、酸化物層に前記開口部を開ける工程を含む、請求項16乃至21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
流体噴射装置のノズル板であって、
第一の表面及び前記第一の表面に平行に対向する第二の表面を有するデバイス層と、
前記デバイス層の前記第一面に置かれる第一の酸化物層と、
前記第一の酸化物層上の接着促進層と、
前記接着促進層上の撥液層と、
前記デバイス層の前記第二面に隣接する第二の酸化物層と、
前記第二の酸化物層、前記デバイス層、前記第一の酸化物層、前記接着促進層、及び前記撥液層を貫通し、前記デバイス層の前記第一の表面に垂直な第一の軸に沿って延びるノズル流路と、
を備えるノズル板。
【請求項24】
前記第一の酸化物層の厚さは2μm以下である、請求項23に記載のノズル板。
【請求項25】
前記第二の酸化物層の厚さは1μm以上である、請求項23又は24に記載のノズル板。
【請求項26】
前記第一の酸化物層及び前記第二の酸化物層は酸化シリコンのみから成る、請求項23乃至25のいずれかに記載のノズル板。
【請求項27】
前記接着促進層は金属又は金属酸化物を含む、請求項23乃至26のいずれかに記載のノズル板。
【請求項28】
前記接着促進層はタンタル、チタン、又はタンタル若しくはチタンの酸化物を含む、請求項27に記載のノズル板。
【請求項29】
前記接着促進層は前記第一の軸に垂直に延びる平坦な膜である、請求項23乃至28のいずれかに記載のノズル板。
【請求項30】
前記接着促進層の前記平坦な膜は前記第一の軸に平行には延びない、請求項29に記載のノズル板。
【請求項31】
前記ノズルの内面をコーティングするライナーを更に備える、請求項23乃至30のいずれかに記載のノズル板。
【請求項32】
前記ライナーは、前記第二の酸化物層の前記デバイス層から離れた側をコーティングする、請求項31に記載のノズル板。
【請求項33】
前記ライナーは、窒化物、二酸化シリコン、又は金属を含む、請求項31又は32に記載のノズル板。
【請求項34】
前記ライナーの端部が丸められている、請求項31乃至33のいずれかに記載のノズル板。
【請求項35】
前記デバイス層はシリコンのみから成る、請求項23乃至34のいずれかに記載のノズル板。
【請求項36】
前記ノズルはテーパ部を有する、請求項23乃至35のいずれかに記載のノズル板。
【請求項37】
前記テーパ部の上部は前記デバイス層の上部と位置合わせされている、請求項36に記載のノズル板。
【請求項1】
流体噴射装置のノズル板を形成する方法であって、
多層基板の第一面に穴をエッチングにより形成する工程と、
前記穴内にライナーを付ける工程と、
前記ライナーの閉端部を露出させるように、前記多層基板の第二面から層を除去する工程と、
撥液性コーティングを前記ライナーの前記閉端部及び前記ライナーの前記閉端部を囲む領域に施す工程と、
ノズルを開けるように、前記ライナーの前記閉端部を除去する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記穴をエッチングにより形成する工程の前に、前記多層基板の第一面の酸化物層に凹部をエッチングにより形成する工程を更に含み、
前記穴は、前記酸化物層の凹部内に形成され、前記酸化物層の凹部よりも小さな直径を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記撥液性コーティングを施す工程は、自己平坦性材料をスピンコートする工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記自己平坦性材料はフルオロポリマーである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ライナーの前記閉端部を除去する工程の前に、前記撥液性コーティングを平坦化する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記多層基板は、シリコンデバイス層と、埋没酸化物層と、ハンドル層と、を含み、
前記穴をエッチングにより形成する工程は、前記シリコンデバイス層及び前記埋没酸化物層を貫通して前記ハンドル層を部分的にのみエッチングする工程を含む、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記多層基板の第二面から層を除去する工程により、前記ライナーの前記閉端部の周囲に平坦面が形成されて前記ライナーの前記閉端部は前記平坦面から突出する、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記撥液性コーティングを施す工程の前に、前記ライナーの前記閉端部を薄化させる工程を更に含む、請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記撥液性コーティングを施す工程の前に、接着促進層を前記多層基板の第二面に付ける工程を更に含む、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記接着促進層は金属を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記接着促進層は金属のみから成る、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
完成時にポンプ室が前記ノズルと流体連通するように、前記ポンプ室を有する部材に前記多層基板の第一面を接合する工程を更に含む、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記多層基板の第一面に凹部をエッチングにより形成する工程を更に含み、
前記凹部は前記ライナーの外径を囲む、
請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記穴内にライナーを付ける工程は、略平行な壁を有する初期ライナーを付ける工程を含み、
前記多層基板の第二面から層を除去する工程は、ノズルライナーの閉端部を露出させるものであり、
前記多層基板の第一面に凹部をエッチングにより形成する工程の後に前記初期ライナーを除去する工程及び前記ノズルライナーを形成する工程を更に含み、
前記ノズルライナーは略平行な壁に繋がるテーパ部を有する、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ノズルライナーは酸化物で形成される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
流体噴射装置のノズル板を形成する方法であって、
第一面にノズル流入口を有する多層基板の第二面の層の前記ノズル流入口に対応する領域をパターニングする工程と、
前記多層基板の第二面の層をパターニングする工程の後に、前記多層基板の第二面に撥液性コーティングを施す工程と、
前記撥液性コーティングに開口部を形成するように前記撥液性コーティングをパターニングする工程と、
前記ノズル流入口に流体連通するノズル流出口を形成するように、前記撥液性コーティングの前記開口部を通して前記多層基板の層に開口部を開ける工程と、
を含む方法。
【請求項17】
前記多層基板の第二面の層をパターニングする工程は、接着促進層をパターニングする工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記接着促進層は金属を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記撥液性コーティングを施す工程は、自己平坦性材料をスピンコートする工程を含む、請求項16乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記自己平坦性材料はフルオロポリマーである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記撥液性コーティングを平坦化する工程を更に含む、請求項16乃至18のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記開口部を開ける工程は、酸化物層に前記開口部を開ける工程を含む、請求項16乃至21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
流体噴射装置のノズル板であって、
第一の表面及び前記第一の表面に平行に対向する第二の表面を有するデバイス層と、
前記デバイス層の前記第一面に置かれる第一の酸化物層と、
前記第一の酸化物層上の接着促進層と、
前記接着促進層上の撥液層と、
前記デバイス層の前記第二面に隣接する第二の酸化物層と、
前記第二の酸化物層、前記デバイス層、前記第一の酸化物層、前記接着促進層、及び前記撥液層を貫通し、前記デバイス層の前記第一の表面に垂直な第一の軸に沿って延びるノズル流路と、
を備えるノズル板。
【請求項24】
前記第一の酸化物層の厚さは2μm以下である、請求項23に記載のノズル板。
【請求項25】
前記第二の酸化物層の厚さは1μm以上である、請求項23又は24に記載のノズル板。
【請求項26】
前記第一の酸化物層及び前記第二の酸化物層は酸化シリコンのみから成る、請求項23乃至25のいずれかに記載のノズル板。
【請求項27】
前記接着促進層は金属又は金属酸化物を含む、請求項23乃至26のいずれかに記載のノズル板。
【請求項28】
前記接着促進層はタンタル、チタン、又はタンタル若しくはチタンの酸化物を含む、請求項27に記載のノズル板。
【請求項29】
前記接着促進層は前記第一の軸に垂直に延びる平坦な膜である、請求項23乃至28のいずれかに記載のノズル板。
【請求項30】
前記接着促進層の前記平坦な膜は前記第一の軸に平行には延びない、請求項29に記載のノズル板。
【請求項31】
前記ノズルの内面をコーティングするライナーを更に備える、請求項23乃至30のいずれかに記載のノズル板。
【請求項32】
前記ライナーは、前記第二の酸化物層の前記デバイス層から離れた側をコーティングする、請求項31に記載のノズル板。
【請求項33】
前記ライナーは、窒化物、二酸化シリコン、又は金属を含む、請求項31又は32に記載のノズル板。
【請求項34】
前記ライナーの端部が丸められている、請求項31乃至33のいずれかに記載のノズル板。
【請求項35】
前記デバイス層はシリコンのみから成る、請求項23乃至34のいずれかに記載のノズル板。
【請求項36】
前記ノズルはテーパ部を有する、請求項23乃至35のいずれかに記載のノズル板。
【請求項37】
前記テーパ部の上部は前記デバイス層の上部と位置合わせされている、請求項36に記載のノズル板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−213117(P2011−213117A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74428(P2011−74428)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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