説明

流体噴射装置

【課題】噴射ノズルをキャップによって確実に密閉可能とする。
【解決手段】キャップを噴射ヘッドに装着する際に、キャップと噴射ヘッドとの間にシール部材を介在させる。シール部材の内部には空洞を設けておき、この空洞に流動体を供給した状態で、キャップと噴射ヘッドとの間に介在させる。こうすると、シール部材は、流動体の圧力によって噴射ヘッドやキャップに押し付けられるので、噴射ヘッドの表面にうねりが生じていても、シール部材を噴射ヘッドの表面に対して垂直に押し付けることが可能となる。また、流動体の圧力は、流動体のどの部分でも同じ大きさで働く性質があるので、押し付ける力が弱い箇所が生じてしまうことがない。このため、シール部材を噴射ヘッドの表面に確実に密着させることが可能となり、その結果、キャップの気密性を高めて噴射ノズルを確実に密閉することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ヘッドから流体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷媒体上にインクを噴射して画像を印刷するプリンタ(いわゆるインクジェットプリンタ)は、高品質の画像を簡便に印刷可能であることから、今日では、画像の出力手段として広く使用されている。また、この技術を応用して、インクの代わりに、適切な成分に調製した各種の流体(例えば、機能材料の微粒子が分散された液体や、ジェルなどの半流動体など)を基板上に噴射すれば、電極や、センサ、バイオチップなど、各種の精密な部品を簡便に製造することも可能と考えられる。
【0003】
このような技術では、正確な分量の流体を正確な位置に噴射することが可能なように、微細な噴射口が設けられた専用の噴射ヘッドが用いられており、噴射ヘッドに供給した流体を噴射口から噴射するようになっている。その一方で、噴射ヘッドの性能を十分に発揮させて、正確な分量の流体を正確な位置に噴射するためには、噴射する流体の性状を所定の許容範囲内に収まるように維持しておくことが重要である。そこで、流体を噴射しない間は、流体の性状の変化を防ぐために、噴射口にキャップを装着しておく。キャップは弾性部材で作られており、キャップを噴射ヘッドに押し付けることによって、噴射口を密閉して流体の性状の変化を防ぐようになっている(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−246640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、こうした技術では、キャップの気密性を十分に高められないことがあるという問題があった。すなわち、噴射ヘッドの表面を完全な平面とすることは容易ではなく、多少のうねりの様な凹凸が発生することが多い。すると、噴射ヘッドにキャップの弾性部材を押し付けた際に、うねりの凸部分では弾性部材が大きく変形するので、噴射ヘッドとキャップとの間には強い密着力が発生する。その反面で、噴射ヘッドの表面が凹になっている部分では、弾性部材の変形量が小さくなるので、噴射ヘッドとキャップとの密着力が低下する。この様に密着力が低下した部分が一箇所でも発生すると、キャップ内の気密性を確保することは困難となる。そして、上述した様に、噴射ヘッドの表面を完全な平面に形成することは、実際には不可能であることから、こうした問題は常に存在していると考えられる。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、キャップを噴射ヘッドに確実に密着させてキャップの気密性を高めることを可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の流体噴射装置は次の構成を採用した。すなわち、
噴射ノズルが設けられた噴射ヘッドを用いて流体を噴射するとともに、該噴射ヘッドに装着可能なキャップを備えた流体噴射装置において、
前記キャップは、前記噴射ヘッドに装着された時に該噴射ヘッドと密着するシール部材
を備え、
前記シール部材は、少なくとも前記キャップの装着時には、内部に流動体が供給された状態となっている部材であることを要旨とする。
【0008】
かかる本発明の流体噴射装置では、キャップを噴射ヘッドに装着する際に、キャップと噴射ヘッドとの間にシール部材を介在させる。シール部材の内部には、空洞が設けられており、この空洞に流動体が供給された状態で、噴射ヘッドとキャップとの間に介在させる。
【0009】
こうすると、シール部材は、内部の流動体の圧力によって噴射ヘッドやキャップに押し付けられる。すると、流動体の圧力は、流動体の表面に対して垂直に働く性質があるので、噴射ヘッドの表面にうねりが生じていても、シール部材を噴射ヘッドの表面に対して垂直に押し付けることが可能となる。また、いわゆるパスカルの原理として知られているように、流動体の圧力は、流動体のどの部分でも同じ大きさで働く性質があるので、うねりの凹部分であっても、シール部材を押し付ける力が弱まってしまうことがなく、噴射ヘッドの表面に確実に押し付けることが可能となる。これにより、シール部材を噴射ヘッドの表面に確実に密着させることが可能となり、その結果、キャップの気密性を高めて噴射ノズルを確実に密閉することが可能となる。
【0010】
もちろん、流動体の圧力は、噴射ヘッドに対してだけでなく、キャップに対しても同様に働くので、シール部材をキャップに密着させることも可能となる。これにより、シール部材とキャップとの間の密着性を高めて、キャップの気密性をより向上させることも可能となる。
【0011】
なお、「シール部材の内部に流体が供給された状態」とは、キャップを装着する際に内部に流動体を供給する状態はもちろんのこと、キャップを装着する前に内部に流動体が予め供給(あるいは充填)された状態であってもよい。
【0012】
また、シール部材内の流動体としては、圧力を加えても体積があまり変化しない非圧縮性の流動体(ゲル等の半流動体や、液体など)を用いてもよいし、圧力によって体積が変化する圧縮性の流動体(例えば、空気などの気体)を用いてもよい。非圧縮性の流動体を用いた場合、流動体を僅かに押し潰すだけで高い反発力が得られるので、シール部材を大きく押し潰さなくても高い密着力を得ることが可能である。一方、圧縮性の流動体を用いれば、たとえキャップを噴射ヘッドに装着する力が強すぎても、流動体が圧縮されることによって力を吸収することができるので、強い力で押し付けて噴射ヘッドやキャップを破損してしまう虞を回避することが可能となる。
【0013】
また、上述した本発明の流体噴射装置では、シール部材の内部に予め流動体を供給(あるいは充填)しておき、そのシール部材を噴射ヘッドとキャップとの間に介在させてもよいが、キャップを装着するタイミングでシール部材内部に流動体を供給するものとしてもよい。
【0014】
シール部材内の流動体は、揮発するなどしてシール部材内から少しずつ抜けていくことも考えられるので、長い時間が経過した場合、シール部材内の流動体の圧力が低下してシール部材の密着力が低下してしまう虞がある。そこで、キャップを装着するタイミングでシール部材内に流動体を供給してやれば、流動体の圧力を高めた状態でキャップを装着することができるので、シール部材を噴射ヘッドやキャップにより確実に密着させることが可能となる。
【0015】
また、シール部材内に流動体を供給すれば、シール部材を膨ませることができる。したがって、キャップを大きく駆動しなくても、膨らんだシール部材を介してキャップと噴射ヘッドとを当接させることが可能となる。このため、キャップを駆動する機構をより簡素化することも可能となる。
【0016】
また、上述した本発明の流体噴射装置では、キャップを外す際にシール部材内の流動体を排出するものとしてもよい。
【0017】
こうすれば、たとえシール部材が噴射ヘッドに張り付いてしまった場合であっても、流動体を排出してシール部材を縮ませることより、シール部材を噴射ヘッドから容易に剥がすことができるので、キャップを容易に取り外して流体の噴射を迅速に開始することが可能となる。
【0018】
また、上述した本発明の流体噴射装置では、噴射ノズルから排出した流体を貯めておく廃流体タンクを備えておき、廃流体タンク内に貯めた流体を、シール部材内に供給することとしてもよい。
【0019】
噴射ノズルから排出された流体を廃液タンクに貯めておき、これをシール部材内に供給することとすれば、シール部材用の流動体を別途用意しておく必要がないので、装置構成をより簡素にすることが可能となる。また、噴射ノズルから排出した流体を用いれば、新たに流体を消費しなくてもよいので、流体の消費量を抑制することも可能となる。
【0020】
また、上述した本発明の流体噴射装置では、次のようにしてもよい。まず、噴射ヘッドに流体タンクを接続しておき、流体タンク内の流体に加圧ポンプで圧力を加えることによって、流体を噴射ヘッドに供給する。また、シール部材の内部には、流動体を貯めた流動体貯部を接続しておく。そして、加圧ポンプが生じた圧力を流動体貯部に作用させることによって、流動体をシール部材内に供給するものとしてもよい。
【0021】
流体タンク内の流体に加圧ポンプで圧力を加えれば、圧力によって流体を噴射ヘッドへ効率よく送り込むことが可能となるので、好適である。その一方で、加圧ポンプが生じた圧力を流動体溜部に作用させてやれば、流動体溜部内の流動体が圧力によってシール部材に送り出されるので、シール部材に流動体を供給することも可能となる。こうすれば、シール部材に流動体を供給する機構を別途設ける必要がないので、装置構成を簡素に保つことが可能となる。
【0022】
尚、加圧ポンプの圧力を流動体溜部に作用させる態様としては、流動体溜部内の流動体に圧力を直接作用させるものとしてもよいし、空気などの他の媒体を介して間接的に作用させるものとしてもよい。例えば、流動体溜部内の空気に圧力を加えることによって、流動体溜部内の流動体に圧力を作用させることとしてもよいし、あるいは、流動体溜部の外壁を圧迫することによって、流動体に圧力を作用させることとしてもよい。こうした場合も、流動体を流動体溜部から送り出すことができるので、シール部材内に流動体を供給することが可能となる。
【0023】
また、本発明の流体噴射装置は、内部に流動体が供給されたシール部材によってキャップと噴射ヘッドとの密着性を高めている点に鑑みれば、キャップが噴射ヘッドに装着されたときに、キャップと噴射ヘッドとの間にシール部材が介在されていれば十分であり、必ずしもキャップ側にシール部材を設けておく必要もない。従って、本発明の流体噴射装置は、次のような態様として把握することも可能である。すなわち、本発明の流体噴射装置は、
噴射ノズルが設けられた噴射ヘッドを用いて流体を噴射するとともに、該噴射ヘッドに装着可能なキャップを備えた流体噴射装置において、
前記キャップが前記噴射ヘッドに装着された時に該キャップと該噴射ヘッドとの間に介在されるシール部材
を備え、
前記シール部材は、少なくとも前記キャップの装着時には、内部に流動体が供給された状態となっている部材であることを特徴とする態様の流体噴射装置として把握することも可能である。
【0024】
このような態様として把握される流体噴射装置では、キャップを噴射ヘッドに装着する際に、キャップと噴射ヘッドとの間にシール部材を介在させる。シール部材の内部には、空洞が設けられており、この空洞に流動体が供給された状態で、噴射ヘッドとキャップとの間に介在させる。
【0025】
こうすると、噴射ヘッドとキャップとの間に介在するシール部材は、内部の流動体の圧力によって噴射ヘッドやキャップに押し付けられる。そして、このような状態では、シール部材がキャップ側あるいは噴射ヘッド側の何れに設けられているかに関わりなく、前述した本発明の流体噴射装置と同様のメカニズムによって、キャップの気密性を高めて噴射ノズルを確実に密閉状態とすることが可能となる。すなわち、流動体の圧力は流動体の表面に対して垂直に働くので、噴射ヘッドの表面にうねりが生じていても、シール部材を噴射ヘッドの表面に対して垂直に押し付けることが可能となる。また、流動体の圧力は、流動体のどの部分でも同じ大きさで働く性質があるので、うねりの凹部分であっても、シール部材を押し付ける力が弱まってしまうことがなく、シール部材を噴射ヘッドの表面に確実に密着させることが可能となる。
【0026】
もちろん、流動体の圧力は、噴射ヘッドに対してだけでなく、キャップに対しても同様に働くので、シール部材をキャップに密着させることも可能となる。これにより、シール部材とキャップとの間の密着性を高めて、キャップの気密性をより向上させることも可能となる。
【0027】
なお、上述した態様で把握される流体噴射装置では、キャップや噴射ヘッドとは別体にシール部材を設けておいてもよい。このような場合でも、キャップを噴射ヘッドに装着する際に、これらの間にシール部材が介在されるようにすれば、上述したメカニズムによって、噴射ヘッドを確実に密閉状態とすることが可能となる。
【0028】
また、上述した態様で把握される流体噴射装置においても、シール部材内の流動体としては、ゲル等の半流動体や液体などの非圧縮性の流動体や、空気などの圧縮性の流動体など、種々の流動体を使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.本実施例のキャッピングユニット:
C.変形例:
C−1.第1変形例:
C−2.第2変形例:
C−3.第3変形例:
【0030】
A.装置構成 :
図1は、いわゆるインクジェットプリンタを例に用いて本実施例の流体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、インクジェットプリンタ10は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体2上にインクドットを形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷媒体2の紙送りを行うためのプラテンローラ40と、正常に印刷可能なようにメンテナンスを行うメンテナンス機構100などから構成されている。キャリッジ20には、インクを収容したインクカートリッジ26や、インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22、キャリッジケース22の底面側(印刷媒体2に向いた側)に搭載されてインクを噴射する噴射ヘッド24などが設けられており、インクカートリッジ26内のインクを噴射ヘッド24に導いて、噴射ヘッド24から印刷媒体2に正確な分量だけインクを噴射することによって、画像が印刷されるようになっている。
【0031】
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向に延設されたガイドレール38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミングベルト32の歯形と噛み合う駆動プーリ34と、駆動プーリ34を駆動するためのステップモータ36などから構成されている。タイミングベルト32の一部はキャリッジケース22に固定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレール38に沿ってキャリッジケース22を移動させることができる。また、タイミングベルト32と駆動プーリ34とは歯形によって互いに噛み合っているので、ステップモータ36で駆動プーリ34を駆動すると、駆動量に応じて精度良くキャリッジケース22を移動させることが可能となっている。
【0032】
印刷媒体2の紙送りを行うプラテンローラ40は、図示しない駆動モータやギア機構によって駆動されて、印刷媒体2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能となっている。インクジェットプリンタ10は、こうした機構によって副走査方向へ印刷媒体2を紙送りしながら、噴射ヘッド24を主走査方向に駆動して各色のインクを噴射ノズルから噴射することによって、印刷媒体2上に画像を印刷していく。
【0033】
この様に、本実施例のインクジェットプリンタ10では、噴射ヘッド24に設けられた複数の噴射ノズルから各色のインクを噴射することによって、画像を印刷していく。もっとも、噴射ノズルからインクを適切に噴射するためには、噴射ノズル内のインクの性状が適切な状態に保たれていることが重要であり、インクの揮発成分が蒸発するなどしてインクの性状が変化(例えば増粘)してしまうと、噴射ノズルからインクを正常に噴射することができなくなってしまう。こうした理由から、インクジェットプリンタ10は、画像を印刷するための各種の機構に加えて、インクを正常に噴射可能な状態を維持するためのメンテナンス機構100を備えている。
【0034】
図2は、メンテナンス機構100の大まかな構成を示した説明図である。メンテナンス機構100は、印字領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設けられており(図1を参照)、噴射ヘッド24の表面を払拭するワイパーブレード130や、噴射ヘッド24の底面側に押しつけられて噴射ヘッド24との間に密閉空間を形成するキャッピングユニット140、キャッピングユニット140内の密閉空間に接続された吸引ポンプ150などから構成されている。また、吸引ポンプ150の下方には、廃液タンク120も設けられている。印刷を行わないときには、キャリッジ20をホームポジションまで移動させて、キャッピングユニット140を押しつけて噴射ヘッド24の底面に密閉空間を形成する。噴射ヘッド24の底面には、インクを噴射するための微少な噴射ノズルが開口しているが、こうして密閉空間を形成することにより、噴射ヘッド24内のインクの乾きによる増粘を防止することが可能である。
【0035】
また、噴射ヘッド24にキャッピングユニットを押し付けてインクの乾きを防いだとしても、長い間には、少しずつインク内の水分や揮発成分が減少して、インクの性状が変化(例えば増粘)してしまう。そこで、こうした場合には、キャッピングユニット140を装着した状態で吸引ポンプ150を作動させることによって、密閉空間を負圧にして噴射ノズルからインクを吸い出す動作(クリーニング動作)を行う。クリーニング動作を行うと、性状が変化してしまったインクを噴射ノズルから強制的に排出できるので、噴射ノズルを正常な状態に回復させることが可能となる。この様に、インクジェットプリンタ10は、メンテナンス機構100によって、インクの蒸発を防いだり、あるいは、性状が変化したインクを強制的に排出することが可能となっており、これにより、噴射ヘッド24を正常な状態に維持することが可能となっている。
【0036】
もっとも、前述した様に、噴射ヘッドの表面には、うねりの様な凹凸がどうしても存在するので、キャッピングユニットを噴射ヘッドの表面に完全に密着させることができない場合がある。こうした場合、キャップ内の気密性が低下してしまうので、噴射ヘッド内のインクが短時間のうちに乾燥してしまったり、あるいは、クリーニング動作の際にキャップ内を十分な負圧にすることができずに、インクを効率よく排出できなくなってしまう恐れがある。そこで、本実施例のインクジェットプリンタ10では、キャッピングユニットを噴射ヘッドに確実に密着してキャップ内の気密性を高めることを可能とするために、キャッピングユニットを次の様な構成としている。
【0037】
B.本実施例のキャッピングユニット :
図3は、本実施例のキャッピングユニット140を示した説明図である。図3(a)には、キャッピングユニット140の斜視図が示されており、図3(b)には、図3(a)で「A」と示された線で切り取った断面図が示されている。これらの図に示されている様に、本実施例のキャッピングユニット140は、キャッピングプレート144の上に矩形状に立設されたキャップ部材142を備えており、更に、キャップ部材142の上端に、流体バッグ146を備えている。流体バッグ146は、図3(b)に示されている様に、薄い膜状の部材からなるチューブ構造をしており、その中には、流体148が充填されている。本実施例のインクジェットプリンタ10は、こうした本実施例のキャッピングユニット140を噴射ヘッド24に押し付けることによって、噴射ノズルを密閉する。
【0038】
図3(c)は、本実施例のキャッピングユニット140を噴射ヘッド24に押し付けた様子を示した説明図である。本実施例のキャッピングユニット140は、キャップ部材142の上に流体バッグ146を備えているので、キャッピングユニット140を噴射ヘッド24に向かって押し上げると、図示されている様に、流体バッグ146が噴射ヘッド24の表面に当接する。本実施例では、この様に、流体バッグ146を介してキャッピングユニット140を噴射ヘッド24に押し付けることによって、噴射ヘッド24の表面に凹凸があっても、キャップの気密性を高く保つことを可能としている。この点について、図4を参照しながら詳しく説明する。
【0039】
図4は、キャッピングプレートを装着する際の流体バッグの表面の様子を示した説明図である。図4(a)に示されている様に、噴射ヘッド24の表面に流体バッグ146が押し付けられていくと、流体が噴射ヘッド24の表面に押し退けられる様にして、流体バッグ146が噴射ヘッド24の表面に沿って形状を変えていく。ここで、流体は形状を自由に変えることがきるので、流体バッグ146が変形していく際には、弾性部材の様に強い反発力を生じることはない。このため、流体バッグ146は、噴射ヘッド24の表面の形状に合わせて形状を容易に変えることができる。こうして、流体バッグ146が変形していき、噴射ヘッド24の表面と流体バッグ146とが完全に密着して流体バッグ146の形状がそれ以上変化しなくなると(図4(b)を参照)、今度は、流体自身の圧力(気圧や液圧)によって、流体バッグ146が噴射ヘッド24に押し付けられる。
【0040】
図4(b)は、流体バッグ146が流体の圧力によって噴射ヘッド24に押し付けられる様子を概念的に示した説明図である。ここで、いわゆるパスカルの原理として知られているように、流体の圧力は、流体中の全ての場所で等しくなる性質がある。このため、図中に矢印で示されている様に、流体バッグ146は、全ての場所において流体から等しい圧力を受け、その結果として、噴射ヘッド24に接している全ての場所が、等しい圧力で噴射ヘッド24に押し付けられる。この様に、本実施例では、流体バッグ146の全ての場所が等しい圧力で押し付けられるので、弾性部材を押し付けた際のように、弾性部材の変形量が小さい部分(噴射ヘッドの表面が凹状の部分)で密着力が低下してしまうといったことがなく、噴射ヘッド24の表面が凹状の部分についても、噴射ヘッド24の表面に確実に密着させることが可能となっている。
【0041】
更に、流体の圧力は、流体の表面に対して垂直に働く性質があるので、キャッピングユニット140が押し上がる方向(図の上下方向)に対して、噴射ヘッド24の表面が傾いている部分(例えば、図中で「A」と示した部分)であっても、流体バッグ146を噴射ヘッド24の表面に垂直に押し付けることが可能である。このため、こうした部分についても、密着力が低下してしまうことがなく、流体バッグ146を噴射ヘッド24の表面に確実に密着させることが可能となっている。
【0042】
この様に、本実施例のキャッピングユニット140では、流体バッグ146が変形することによって、噴射ヘッド24の表面に密着するともに、流体の圧力によって、流体バッグ146を均一な圧力で噴射ヘッド24に垂直に押し付けていく。このため、噴射ヘッド24の表面に凹凸があっても、密着力が低い部分が生じてしまうことがなく、流体バッグ146を噴射ヘッド24の表面に確実に密着させることが可能となっている。これにより、キャップ内の気密性を高めて噴射ノズルを確実に密閉することが可能となっている。
【0043】
尚、噴射ヘッドの表面が凹状の部分では、凸状の部分に比べて流体の液面が高く盛り上がるので(図4(b)を参照)、厳密には、盛り上った流体の重さの分だけ、液面が低い部分の圧力が高まる。しかし、こうした液面の高さの差によって生じる圧力は、流体自体の圧力に比べれば僅かなので、実際上は、凸状の部分も凹状の部分も、ほとんど同じ圧力が生じることになる。したがって、こうした液面の高さの差が生じていても、流体バッグを噴射ヘッドに確実に密着させることが可能となっている。
【0044】
また、上述した様に、流体の圧力は、噴射ヘッド24の表面に対して垂直に働くので、キャッピングユニット140は、単にまっすぐに押し上げてやればよい。このため、キャッピングユニット140の駆動機構を簡素に保つことが可能となっている。更に、キャッピングユニット140が完全に真っ直ぐに押し上げられなかったとしても、流体の圧力によって流体バッグ146を噴射ヘッド24に垂直に押し付けることが可能である。このため、キャッピングユニット140が多少斜めに駆動してしまったり、多少ガタつきながら駆動したとしても、密着力が低下することはない。したがって、キャッピングユニットの駆動機構をより簡素化することも可能であり、また、駆動機構を組み立てる際に、高い組み立て精度が要求されることがないので、製造工程をより簡略化することも可能となる。
【0045】
尚、流体バッグ146に充填する流体としては、水やオイルなどの液体(非圧縮性の流体)を用いるものとしてもよいし、あるいは、空気などの気体(圧縮性の流体)を用いるものとしてもよい。液体を用いれば、キャッピングユニット140を噴射ヘッド24に少し押し付けただけで、キャッピングユニット140と噴射ヘッド24との間に十分な気密性を得ることができる。これに対して、気体を用いれば、何らかの理由でキャッピングユニット140を噴射ヘッド24に押し付けすぎた場合でも、気体の圧縮によって押し付ける力が緩和されるので、過大な力がかかってキャッピングユニット140あるいは噴射ヘッド24が破損する自体を回避することが可能となる。
【0046】
以上に説明した様に、本実施例のインクジェットプリンタ10は、流体バッグ146をキャップ部材142と噴射ヘッド24との間に介在させることによって、キャッピングユニット140を噴射ヘッド24に確実に密着させて、キャップの気密性を高めている。これにより、噴射ノズルからのインクの揮発を確実に防ぐことが可能となっており、その結果、画像を印刷可能な状態を長い期間に渡って維持することが可能となっている。また、このことから、性状が変化したインクを吸引ポンプ150で吸引して排出する動作(クリーニング動作)を頻繁に行わなくてもよいので、インクの消費量を抑えることも可能となっている。
【0047】
更に、たとえインクが増粘するなどして、インクを正常に噴射できなくなった場合であっても、クリーニング動作を行えば、キャップの気密性が高いことから、増粘したインクを効率よく吸引することが可能である。このため、噴射ヘッド24を正常な状態に迅速に回復させることが可能となっており、クリーニング動作をすばやく完了して、画像の印刷を迅速に開始することも可能となっている。この様に、本実施例のインクジェットプリンタ10は、流体バッグをキャップと噴射ヘッドとの間に介在させることによって、印刷可能な状態を長期間に亘って維持可能としていると共に、正常に印刷可能な状態に素早く回復することも可能となっており、これによって、高品質な画像を迅速に印刷することが可能となっている。
【0048】
C.変形例 :
上述した実施例には、いくつかの変形例が考えられる。以下では、これらの変形例について簡単に説明する。
【0049】
C−1.第1変形例 :
前述した実施例では、流体バッグの中に流体が常に充填されているものとして説明した。しかし、流体を常に充填しておくのではなく、必要に応じて流体を出し入れ可能としてもよい。
【0050】
図5は、流体バッグ内の流体を出し入れ可能とした変形例を示した説明図である。図5(a)に示されている様に、流体バッグ146には流路162が接続されており、流路162はキャップ部材142およびキャッピングプレート144の中を通って、流体駆動ポンプ160に接続されている。そして、流体駆動ポンプ160を駆動させることによって、流体バッグ146内の流体を出し入れすることが可能となっている。キャッピングユニット140を装着する際には、流体駆動ポンプ160を駆動して流体バッグ146内に流体を送り込み、流体バッグ146内に流体を充填した状態にする。この状態でキャッピングユニット140を噴射ヘッド24に押し付けてやれば(図5(b)を参照)、前述した様に、流体の圧力によって流体バッグ146を噴射ヘッド24の表面に確実に密着させることができるので、キャップの気密性を高めて噴射ノズルを確実に密閉することが可能となる。
【0051】
一方、キャッピングユニット140を噴射ヘッド24から取り外す際には、流体駆動ポンプ160を駆動して、流体バッグ146内の流体を排出する。こうすると、流体バッグ146が縮むことによって、噴射ヘッド24の表面から剥がれるので、たとえ流体バッグ146が噴射ヘッド24の表面に張り付いた場合であっても、流体バッグ146を容易に剥がすことが可能となる。これにより、キャッピングユニット140を迅速に取り外すことも可能となる。
【0052】
尚、本変形例のキャッピングユニット140では、流体バッグ146内に流体を注入することによって、流体バッグ146の上面を噴射ヘッド24に当接させることが可能であり、逆に、流体を排出することによって、流体バッグ146を噴射ヘッド24から離間させることが可能である。このため、キャッピングユニット140を着脱する際には、キャッピングユニット140自体を大きく上下させる必要がない。したがって、キャッピングユニット140の駆動機構を簡素化することも可能となる。また、流体バッグ146をより大きく膨らませれば、キャッピングユニット140自体をほとんど駆動しなくても、流体バッグ146を噴射ヘッド24に着脱させることが可能となるので、キャッピングユニット140の駆動機構を省いて、装置構成をより簡素化することも可能となる。
【0053】
更に、流体駆動ポンプ160に供給する電力や、流体駆動ポンプ160の駆動時間を変えてやれば、流体バッグ146に送り込む流体の圧力(流体バッグ146内の流体の圧力)を変化させることも可能である。こうすれば、流体バッグ146と噴射ヘッド24との間の密着力を制御することができるので、流体バッグ146を状況に応じてより適切な力で密着させることが可能となる。例えば、長期間に渡って噴射ノズルを密閉する際には、流体の圧力を上げることによって密閉性をより高めておくことが可能である。逆に、密閉しておく時間が短い場合(例えば、複数のページを印刷中に、プラテンローラ40が次の印刷用紙を搬送するのを待つ場合など)には、流体の圧力をあまり上げない様にしておけば、キャッピングユニット140を迅速に着脱できるので、直ちに印刷動作に復帰することが可能となる。
【0054】
尚、流体バッグ146の中に注入する流体としては、クリーニング動作等によって排出された廃インクを用いるものとしても良い。廃インクは、廃液タンク120内に溜められているので、これを流体駆動ポンプ160によって注入するものとすれば、流体を別途蓄えておく必要がないので、装置構成をより簡素にすることが可能となる。
【0055】
また、流体駆動ポンプ160の代わりに、クリーニング動作に用いる吸引ポンプ150を用いて流体を注入するものとしてもよい。あるいは、一般的なインクジェットプリンタでは、噴射ノズルにインクを供給するための加圧ポンプを備えている場合があるので、そうした場合には、それらの加圧ポンプを用いることとしてもよい。こうすれば、流体駆動ポンプ160を別途設ける必要がないので、装置構成をいっそう簡素にすることが可能となる。
【0056】
C−2.第2変形例 :
また、キャップ部材の中に収納溝を設けておき、流体バッグの中に流体を注入していない時には、流体バッグを収納溝の中に収納するものとしてもよい。例えば、図6(a)に示されている様に、キャップ部材142の中央を掘り下げて収納溝を設けておけば、流体を注入していないときには、流体バッグ146が収納溝に自然に垂れ下がってくるので、収納溝内に収めておくことができる。こうすれば、流体バッグ146がキャップの中に垂れ下がってしまうことがないので、垂れ下がった流体バッグ146がキャップの中のインクによって汚れてしまったり、更には、インクが付着した流体バッグ146が、噴射ヘッド24の表面や周囲の部材を汚してまう事態を回避することが可能となる。
【0057】
また、このことから、より大きな流体バッグを用いることも可能となる。こうすると、流体を注入した際に、流体バッグが噴射ヘッドに向かって大きくせり上がることができるので、キャッピングユニット自体を大きく駆動させなくても、流体バッグを噴射ヘッドの表面に密着させることが可能となる。このため、キャップの駆動機構を簡素化したり、あるいは、省略することも可能となる。
【0058】
C−3.第3変形例 :
前述した実施例では、キャップ部材の表面上に流体バッグが設けられているものとして説明した。しかし、キャップ部材ではなく、噴射ヘッドの表面上に流体バッグが設けられているものとしてもよい。例えば、図7に示されている様に、噴射ヘッド24の表面上のキャップ部材142が当接する位置に、流体バッグ146を設けておく。こうすれば、キャッピングユニット140がせり上がることによって、流体バッグ146とキャップ部材142との間を、隙間無く密着させることができるので、キャップ内の気密性を高めることが可能となる。
【0059】
あるいは、流体バッグをキャップ部材や噴射ヘッドに設けておくのではなく、別の部材に設けておいてもよい。例えば、図8に示されている様に、キャッピングユニット140の周囲に設けた柱状の部材に、流体バッグ146を保持させておくものとしてもよい。
【0060】
流体バッグをキャップ部材や噴射ヘッドに設ける場合、簡単には、接着剤等で流体バッグを接着すればよい。もっとも、何らかの理由で、接着剤をこれらの部材と流体バッグとの間に十分に充填できなかったり、あるいは、製造から長期間が経過して接着剤が劣化してしまうと、流体バッグと部材との接合部分に僅かな隙間が生じてキャップの気密性が低下してしまう恐れがある。そこで、流体バッグ146を別の部材に固定しておき、噴射ヘッド24およびキャップ部材142に対しては、流体バッグ押し付けて密着させることとすれば、こうした接合面の隙間のためにキャップの気密性が低下してしまう危惧を回避することが可能となり、キャップの気密性をより確実に高めることが可能となる。
【0061】
以上、本実施例の流体噴射装置について説明したが、本発明は上記すべての実施例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、より大型の噴射ヘッドを備えた印刷装置(いわゆるラインヘッドプリンタ等)であってもよい。このような印刷装置の場合、噴射ヘッドを大型化することに伴って、噴射ヘッドの表面にうねりが生じ易くなるが、キャップ部材と噴射ヘッドとの間に流体バッグを介在させてやれば、うねりがあってもキャップ部材と噴射ヘッドとを密着させることが可能となる。このため、こうした大型の噴射ヘッドであっても、キャップの気密性を高めることが可能となり、その結果、噴射ノズルを確実に密閉してインクの蒸発を防いだり、クリーニング動作を行って噴射ノズルを確実に回復させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】インクジェットプリンタを例に用いて本実施例の流体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】本実施例のインクジェットプリンタのメンテナンス機構を大まかに示した説明図である。
【図3】本実施例のキャッピングユニットを示した説明図である。
【図4】本実施例のキャッピングユニットが噴射ヘッドの表面に密着する様子を概念的に示した説明図である。
【図5】流体バッグ内の流体を出し入れ可能とした変形例のキャッピングユニットを示した説明図である。
【図6】キャップ部材の中の空洞に流体バッグを格納可能とした変形例のキャッピングユニットを示した説明図である。
【図7】噴射ヘッドの表面に流体バッグを設けた変形例のキャッピングユニットを示した説明図である。
【図8】キャップ部材と噴射ヘッドとのいずれにも流体バッグが固定されていない変形例を示した説明図である。
【符号の説明】
【0063】
10…インクジェットプリンタ、 20…キャリッジ、 24…噴射ヘッド、
26…インクカートリッジ、 30…駆動機構、 40…プラテンローラ、
100…メンテナンス機構、 120…廃液タンク、
130…ワイパーブレード、 140…キャッピングユニット、
142…キャップ部材、 144…キャッピングプレート、
146…流体バッグ、 148…流体、 150…吸引ポンプ、
160…流体駆動ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ノズルが設けられた噴射ヘッドを用いて流体を噴射するとともに、該噴射ヘッドに装着可能なキャップを備えた流体噴射装置において、
前記キャップは、前記キャップが前記噴射ヘッドに装着された時に該噴射ヘッドと密着するシール部材
を備え、
前記シール部材は、少なくとも前記キャップの装着時には、内部に流動体が供給された状態となっている部材であることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置において、
前記キャップの装着時に前記シール部材の内部に前記流動体を供給する流動体供給手段を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体噴射装置において、
前記キャップを離間させる際に、前記シール部材の内部の前記流動体を排出する流動体排出手段
を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項4】
請求項2に記載の流体噴射装置において、
前記噴射ノズルから排出された流体を貯める廃流体タンクを備え、
前記流体供給手段は、前記廃流体タンクに貯めた前記流体を前記シール部材の内部に供給する手段であることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のいずれか一項に記載の流体噴射装置において、
前記噴射ノズルに接続されるとともに、前記噴射する流体を貯めておく流体タンクと、
前記シール部材の内部に接続されるとともに、該シール部材の内部に供給される前記流動体を貯めておく流動体貯部と、
前記流体タンク内の流体に圧力を印加することによって、該流体タンク内の流体を前記噴射ノズルに供給する加圧ポンプと
を備え、
前記流動体供給手段は、前記加圧ポンプが発生する圧力を前記流動体貯部に作用させることによって、前記流動体を前記シール部材の内部に供給する手段であることを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−46805(P2010−46805A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210352(P2008−210352)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】