流体機械および冷凍サイクル装置
【課題】本発明は、ローラとブレードを一体化した構造であり、部品精度の悪化による性能低下や部品の片当りを防止して、信頼性の向上化を得られる流体機械と、この流体機械を備えることにより、冷凍効率の向上化を得られる冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】流体機械として、シリンダ室20を備えたシリンダ13と、このシリンダのシリンダ室を貫通して設けられるとともにシリンダ室と対向する部位にクランク部8aを有する回転軸8と、この回転軸のクランク部に係合され回転軸の回転にともなってシリンダ室で偏心公転運動をなすローラ23と、このローラと一体的に設けられローラの偏心公転運動にともなって揺動しシリンダ室を圧縮部と吸込み部に区画するブレード25と、回転軸のクランク部とローラとの間に介設されるボールベアリング22とを具備し、ローラの中心からブレードの先端面までの距離Lを、ローラの外周半径Rの2倍以下(L<2R)に設定した。
【解決手段】流体機械として、シリンダ室20を備えたシリンダ13と、このシリンダのシリンダ室を貫通して設けられるとともにシリンダ室と対向する部位にクランク部8aを有する回転軸8と、この回転軸のクランク部に係合され回転軸の回転にともなってシリンダ室で偏心公転運動をなすローラ23と、このローラと一体的に設けられローラの偏心公転運動にともなって揺動しシリンダ室を圧縮部と吸込み部に区画するブレード25と、回転軸のクランク部とローラとの間に介設されるボールベアリング22とを具備し、ローラの中心からブレードの先端面までの距離Lを、ローラの外周半径Rの2倍以下(L<2R)に設定した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラとブレードとを一体の部品にしたローリングピストン形圧縮機や膨張機を含む流体機械と、この流体機械を備えた冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば膨張機やローリングピストン形圧縮機などの流体機械において、シリンダと、シリンダ内に組み込まれるローラおよび、回転軸に設けられ上記ローラが係合するクランク部は、それぞれ直角度等の部品精度が所定の公差範囲内になるよう製造される。そのため厳密には、これら構成部品は上記所定の公差範囲内で互いにある傾きを持って組み込まれる。そして、これら部品相互の傾きに対して、各部品間のクリアランスが大きいことによって、上記傾きが補正されるようになっている。
【0003】
各構成部品間のクリアランスが大きいほど上記補正量が大きくなり、部品製造上および組立上の余裕が大きくなる。その反面、クリアランスが大き過ぎると、ガスリークの原因になり性能低下をもたらすので、ある一定の値以下に保つことが必要になる。しかしながら、直角度等の部品精度がクリアランスに対して大きいレベルまで悪化すると、上記傾きが補正しきれず、部品の傾きによる片当りの原因になり摩耗に至る場合もある。
【0004】
上記ローリングピストン形圧縮機は、一般的に、ローラとブレードとが別部品として構成されている。そして、ブレードが背圧もしくはスプリングによってローラに押し付けられ、ローラに対して摺動する。この場合は、ローラとブレードが互いに独立した部品として傾きの自由度があるので、許容傾き角度に対して問題となることは少ない。
【0005】
これに対して、たとえば[特許文献1]や[特許文献2]に開示されるローリングピストン形圧縮機は、ローラとブレードとが一体の部品として構成される。上記ブレードはシリンダに設けた半円筒状の2つの揺動ブッシュで挟まれ揺動運動するので、スイング式ロータリ圧縮機とも呼ばれる。
【特許文献1】特開平6− 58276号公報
【特許文献2】特開平6−317279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような圧縮機は、ローラとブレードが別体の一般的な圧縮機と比較して、ローラとブレード間の摺動が無くなり、両者間の摩擦損失および漏れの低減化等のメリットがある。その一方で、ローラ中心からブレード先端面に至る距離が長くなり、組立て時における部品の傾き角度が制約されて、直角度等の部品精度がより厳しく求められる。
【0007】
なお説明すると、図8に示すように、シリンダaの内径部に形成されるシリンダ室bに、回転軸に一体に設けられるクランク部dが収容される。このクランク部dにはローラgが嵌め込まれ、このローラgの外周面にブレードfが接触するよう、ローラgとブレードfが別部品として設けられ、もしくはローラgとブレードfが一体的に構成される。
【0008】
このような構造において、ローラg外周面とシリンダ室b周面との間に径方向クリアランスがあるとともに、ローラg内周面とクランク部d周面との間に径方向クリアランスが存在する。さらに、ローラgの中心軸に沿う方向である高さ方向とシリンダaの中心軸に沿う方向である高さ方向との間に高さ方向クリアランスCがある。
【0009】
以下に、ローラgとブレードfとが別部品であって互いに摺接する一般的な構造における許容傾き角度αと、上述の[特許公報1]や[特許公報2]に示されるように、ローラgとブレードfとを一体化した構造における許容傾き角度βとを比較してみる。
図9に示すように、ローラgとブレードfが別部品からなる一般的な構造では、シリンダaに対するローラgの高さ方向のクリアランスをC、ローラgの外周半径をRとすると、許容傾き角度αは、tan−1(C/R)となる。
【0010】
図10に示すように、ローラgとブレードfを一体化した構造では、シリンダaに対するローラgの高さ方向のクリアランスをC、ローラgの中心からブレードfの先端面までの距離をLとすると、許容傾き角度βは、tan−1(C/L)となる。
このように、図10に示すローラgとブレードfを一体化した構造の許容傾き角度βは、図9に示すローラgとブレードfを別部品とした一般的な構造の許容傾き角度αよりも小(β<α)となる。そのため、部品精度等に起因するローラ・ブレード一体部品の傾斜により、ブレード先端部等が片当りにより摩耗しやすい不具合があった。
【0011】
本発明は上記事情にもとづきなされたものであり、その目的とするところは、ローラとブレードを一体化した構造であり、部品の傾きによる片当りを防止するとともに、部品精度の向上化および組立て精度の余裕度を拡大でき、製造性の向上化を得られる流体機械と、この流体機械を備えることにより冷凍効率の向上化を得られる冷凍サイクル装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を満足するため本発明の流体機械は、シリンダ室を備えたシリンダと、このシリンダのシリンダ室を貫通して設けられるとともにシリンダ室と対向する部位にクランク部を有する回転軸と、この回転軸のクランク部に係合され回転軸の回転にともなってシリンダ室で偏心公転運動をなすローラと、このローラと一体的に設けられローラの偏心公転運動にともなって揺動しシリンダ室を圧縮部と吸込み部に区画するブレードと、回転軸のクランク部とローラとの間に介設されるボールベアリングとを具備し、ローラの中心からブレードの先端面までの距離Lを、ローラの外周半径Rの2倍以下(L<2R)に設定した。
【0013】
さらに、上記目的を満足するため本発明の冷凍サイクル装置は、上記流体機械としての圧縮機と、凝縮器と上記圧縮機と、凝縮器と、膨張装置と、蒸発器とを備えた。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ローラ・ブレード一体部品の傾きによる片当りを確実に防止できるとともに、部品精度の向上化と、組立て精度の余裕度を拡大でき、製造性の向上化を得られる流体機械と、この流体機械を備えて冷凍効率の向上化を得られる冷凍サイクル装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。(なお、文中に符号を付していない構成部品については図示していない)
図1は、第1の実施の形態における流体機械であるローリングピストン形圧縮機(以下、単に「圧縮機」と呼ぶ)Sの一部縦断面図および、この圧縮機Sを備えた冷凍サイクル装置の冷凍サイクル構成図である。
【0016】
はじめに、冷凍サイクル装置について説明すると、図中Sは圧縮機であって、上記圧縮機Sの上端面から冷媒管Pが突出している。この冷媒管Pには、凝縮器1と、膨張装置2と、蒸発器3とが順次連通され、上記蒸発器3から延出される冷媒管Pの途中には気液分離器が設けられ、冷媒管Pの端部は上記圧縮機Sの側面部に接続される。これらで冷凍サイクル回路Kが構成される。
【0017】
つぎに、上記圧縮機Sについて説明すると、この圧縮機Sは密閉ケース5を備えている。密閉ケース5内の下部には圧縮機構部6が収容され、この圧縮機構部6の上部には電動機部7が設けられる。これら電動機部7と圧縮機構部6は互いに回転軸8を介して連結される。密閉ケース5の内底部には潤滑油の溜り部9が形成されていて、圧縮機構部6の一部は潤滑油に浸漬されている。
【0018】
上記電動機部7は、密閉ケース5の内面に固定されるステータ10と、このステータ10の内側に所定の間隙を存して配置され、上記回転軸8に嵌着されるロータ11とから構成される。この電動機部7は、運転周波数を可変するインバータに接続されるとともに、インバータを介して、インバータ回路を制御する制御部に電気的に接続される。
【0019】
図2は、圧縮機構部6の一部横断平面図である。以下、図1とともに圧縮機構部6について詳述する。
上記圧縮機構部6は、シリンダ13を備えている。このシリンダ13は、中心軸に沿って所定の高さ寸法に形成され、外径寸法は密閉ケース5の内径寸法よりも僅かに大に形成される。上記シリンダ13は密閉ケース5周面に圧入されたうえに、密閉ケース5外部からの溶接加工によって位置決め固定される。
【0020】
上記シリンダ13の上面部には主軸受14が重ね合わされ、上バルブカバー15とともに取付けボルト16を介してシリンダ13に取付け固定される。シリンダ13の下面部には副軸受17が重ね合わされ、下バルブカバー18とともに取付けボルト19を介してシリンダ13に取付け固定される。
【0021】
上記回転軸8は、電動機部7から下方に突出する中間部が上記主軸受14に回転自在に枢支され、下端部が上記副軸受17に回転自在に枢支される。さらに、回転軸8はシリンダ13内部を貫通するとともに、この貫通部分には回転軸8の中心軸から所定寸法eだけ偏心した中心軸を有するクランク部8aが一体に設けられる。
【0022】
上記シリンダ13の内径部は、主軸受14および副軸受17によって上下面が閉成され、シリンダ室20が形成される。上記回転軸8のクランク部8aは、上記シリンダ室20内に収容される位置にある。上記主軸受14および上記副軸受17のシリンダ室20対向部位で、かつ上下バルブカバー15,18で覆われる部位には、吐出弁を備えた吐出ポートが設けられる。
【0023】
また、上記密閉ケース5からシリンダ13を貫通してシリンダ室20に開口端を臨ませた吸込み口21が設けられている。この吸込み口21には、上記蒸発器3から延出される冷媒管Pの端部が挿入のうえ、密に固着される。
一方、上記回転軸クランク部8aにはボールベアリング22の内径部が嵌め込まれる。上記ボールベアリング22の外径部には、後述する揺動部材Yを構成するローラ23が嵌め込まれる。換言すれば、回転軸クランク部8aと上記ローラ23との間にボールベアリング22が介設されることとなる。
【0024】
上記ローラ23は金属材からなるリング状のものであって、この中心軸に沿う長さ(高さ)寸法は、上記シリンダ室20の中心軸に沿う長さ(高さ)寸法に対してある程度のクリアランスを形成するように設計されている。そして、ローラ23の外周面一部はシリンダ室20の周面一部に、中心軸方向に沿って接触するよう設けられる。
【0025】
後述するように、圧縮運転時には、回転軸8が回転駆動されクランク部8aが偏心回転するのにともなって、クランク部8aにボールベアリング22を介して取付けられるローラ23はシリンダ室20で偏心公転運動をなす。この状態で、クランク部8aの回転角度に係らず、常にローラ23外周面とシリンダ室20周面とは互いに線接触するようになっている。
【0026】
図3は揺動部材Yとボールベアリング22の平面図、図4は揺動部材Yとボールベアリング22の断面図、図5はシリンダ13とシリンダ室20内に収容される構成部品の寸法形状を表す断面図である。
なお上記揺動部材Yについて説明すると、この揺動部材Yは、上述したローラ23と、このローラ23の外周面一部に固定ねじ24をもって取付けられ、ローラ23と一体化されるブレード25とから構成される。
【0027】
上記ローラ23は周方向に均一な肉厚のリング状部材であるのに対して、上記ブレード25は所定の板厚寸法に形成される板状部材である。上記ブレード25の高さ方向長さはローラ23の軸方向長さと一致する。
上記ブレード25のローラ23側端面である基端面は、ローラ23外周面の曲率半径と同一の曲面に形成されていて、ローラ23外周面に密に接触する。ブレード25の他端面である先端面は、高さ方向面および板厚方向面に対して直角な平面をなす。
【0028】
シリンダ室20の高さ方向に対してブレード25とローラ23の同方向の長さがわずかに短く形成され、高さ方向にクリアランスが確保される。そして、ローラ23中心からブレード25の先端面までの距離Lは、ローラ23の外周半径Rの2倍以下(L<2R)に設定されている。
【0029】
一方、ブレード25の基端面から先端面に亘って取付け用孔26が貫通して設けられる。換言すれば、上記取付け用孔26はブレード25の高さ方向とは直交する長手方向に沿って貫通して設けられる。上記ローラ23には、外周面と内周面との間である、半径方向に沿ってねじ孔27が設けられている。
【0030】
組立て時に、ローラ23のねじ孔27に対してブレード25の取付け用孔26が連通するように、ローラ23外周面にブレード25の基端部を当てて仮保持し、ブレード25の先端面側から取付け用孔26に固定ねじ24を挿入する。固定ねじ24先端をブレード25基端面から突出しローラ23に設けられるねじ孔27に螺挿することで、固定ねじ24を介してブレード25をローラ23に一体的に取付け固定できる。
【0031】
上記ブレード25の先端部は、上記シリンダ13部位にシリンダ室20と隣設されるブッシュ収納部30に揺動自在に収納されている。このブッシュ収納部30のシリンダ室20とは反対側の部位に逃げ空間部31が連設され、ブレード25の揺動運動にともなってブレード25の先端部と固定ねじ24が進退自在に移動できる。
【0032】
上記ブッシュ収納部30は、シリンダ室20の直径よりもはるかに小さい直径で、かつシリンダ室20の中心軸と平行する中心軸を備えた円形状の縦孔部32を備えている。ただし、完全な円形をなしておらず、一部はシリンダ室20にかかるように形成されていて、互いに所定幅寸法で連通される。
【0033】
上記縦孔部32には、シリンダ室20と連通する幅寸法を空間部として確保し、残りの部分に一対のブッシュ33が嵌め込まれる。上記揺動部材Yを構成するブレード25は、ブッシュ収納部30を構成する一対のブッシュ33相互の間隙に挿入されている。
上記逃げ空間部31は、上記縦孔部32よりも小さい直径でシリンダ室20と縦孔部32の中心軸と平行する中心軸を備えた円形状の縦孔からなる。そして、ブッシュ収納部30の縦孔部32とシリンダ室20との関係と同様、逃げ空間部31の一部が縦孔部32にかかって所定の幅寸法で互いに連通する。
【0034】
上記ブレード25の高さ方向の上下面であるスラスト面に、長手方向に沿って油溝35が設けられる。また、上記ローラ23の高さ方向の上下面であるスラスト面に半径方向に沿って油溝36が設けられる。ブレード25とローラ23を一体的に組合せた状態で、ブレード25とローラ23に設けられる油溝35,36が互いに連通する。
【0035】
特に図1に示すように、上記逃げ空間部31に対向する主軸受14部位と、上バルブカバー15には、上下面に亘って油逃げ通路37が貫通して設けられる。したがって、逃げ空間部31はブッシュ収納部30に連通する一方で、油逃げ通路37を介して密閉ケース5内部と連通することとなる。
【0036】
つぎに、上述の圧縮機Sを備えた冷凍サイクル装置の作用について説明する。
操作盤の運転ボタンが押されると、制御部はインバータを介して電動機部7に運転信号を送る。回転軸8が回転駆動され、クランク部8aがシリンダ室20内で偏心回転を行う。このクランク部8aにボールベアリング22を介して嵌合する揺動部材Yのローラ23は、シリンダ室20内で偏心公転運動を行う。
【0037】
具体的には、上記クランク部8aの偏心回転角度に応じてローラ23が移動すると、ブレード25のブッシュ収納部30に対する角度が変化して一対のブッシュ33が縦孔部32内で回動し、かつブレード25がブッシュ収納部30に沿って往復移動しながら揺動運動をなす。
【0038】
この状態で上記ブレード25は、シリンダ室20内を吸込み部と圧縮部に二分する。図2に示すように、ブレード25がシリンダ室20内へ最も進出し固定ねじ24頭部のみが逃げ空間部31に位置する状態で、シリンダ室20の空間容量が最大となる。そして、図2の位置から180°回転したとき、シリンダ室20の空間容量が最小となる。
【0039】
上記圧縮機構部6が作用することにより、冷媒ガスは冷媒管Pを介してシリンダ室20に吸込まれて充満する。ローラ23の偏心公転運動にともなって、ローラ23のシリンダ室20周面に対する転接位置が移動し、シリンダ室20の区画形成された圧縮部の容積が減少する。すなわち、既にシリンダ室20に導かれたガスが徐々に圧縮される。
【0040】
回転軸8が継続して回転され、シリンダ室20に区画形成される圧縮部の容量がさらに減少してガスが圧縮され、所定圧まで上昇したところで吐出弁が開放する。高圧ガスは上下バルブカバー15,18を介して密閉ケース5内へ吐出されて充満し、さらに密閉ケース5上端部に接続される冷媒管Pから密閉ケース5外へ導かれる。
【0041】
冷媒管Pに吐出された高圧ガスは、凝縮器1で凝縮液化し、膨張装置2で断熱膨張し、蒸発器3で蒸発して周辺空気から蒸発潜熱を奪い、冷凍作用をなす。そして、蒸発器3で蒸発した冷媒は気液分離器で気液分離され、再び圧縮機S内の圧縮機構部6に吸込まれて上述の経路を循環する。
この圧縮機Sは、実質的にローラ23とブレード25とを一体化した構成であるので、ローラとブレードが別体に構成される一般的な圧縮機と比較して、ローラ23とブレード25間の摺動が無くなり、両者間の摩擦損失および漏れの低減化等のメリットがある。その一方で、ローラ23中心からブレード25先端面に至る距離Lが長くなり、組立て時の構成部品の傾き角度が制約されて直角度等の部品精度がより厳しく求められる。
【0042】
上述の実施の形態では、ローラ23と、回転軸8に設けられるクランク部8aとの間にボールベアリング22を介在させている。上記ボールベアリング22は傾きなどの自由度があるので、ローラ23の傾き許容角度を大きくとることができる。当然、ボールベアリング22にも許容傾き角度があるので、使用上の限界が存在する。
【0043】
図11は、ローラとブレードを一体化したローリングピストン形の圧縮機における、ローラ中心からブレード先端までの距離Lと、ローラ外周半径Rとの比(L/R)と、不良率(片当りによる摩耗発生率)の関係を示す特性図である。
破線曲線は、クランク部とローラとの間にボールベアリングが無いものであり、実線曲線はクランク部とローラとの間にボールベアリングが介在する場合である。この図から、ローラ23と回転軸クランク部8aとの間にボールベアリングが存在しない場合は、L/Rが1.5を越えると、ローラ23とブレード25を一体化した部品の傾斜による片当りにより不良率が急激に発生することが分かる。
【0044】
これに対してローラ23とブレード25を一体化構造としたうえに、回転軸クランク部8aとローラ23との間にボールベアリング22を介設しているものは、L/Rが1.5付近では、片当りによる不良率が発生しない。ただし、L/Rが2を越えると片当りによる不良率が発生する。
【0045】
そこで本実施の形態のように、ローラ23中心からブレード25先端面までの距離Lを、ローラ23の外周半径Rの2倍以下(L<2R)に限定する。したがって、ローラ23とブレード25を一体に形成したローリングピストン形の圧縮機において、性能低下や部品の片当りを防ぐことができ、部品精度および組立て精度の余裕度を拡大でき、製造性の向上を得られる。
【0046】
なお、上述の構造では、ブレード25とローラ23のスラスト面に油溝35,36を設け、ブレード25とローラ23を一体的に組合せた状態で、ブレード25の油溝35とローラ23の油溝36が互いに連通する。しかも、主軸受14とバルブカバー15には、上記逃げ空間部31と連通する油逃げ通路37が設けられている。
【0047】
すなわち、ローリングピストン形圧縮機Sにおいて、圧縮運転時にガス漏れが発生する個所は複数存在する。そのなかでも、ブレード25のスラスト面からのガス漏れは、このスラスト面部分に潤滑油が供給され難いことから、発生し易いものである。
そこで、ローラ23とブレード25を別部品で製作し、組立てにより一体的に結合させる構造において、ブレード25とローラ23のスラスト面に沿って油溝35,36を備える構成とし、ブレード25のスラスト面への給油を可能とする。
【0048】
これにより、回転軸8の下端部に設けられる給油ポンプが油溜り部9から吸上げた潤滑油を、ローラ23の内周部を介してブレード25のスラスト面へ確実に、かつ充分に給油でき、ガス漏れを防止してシール性の向上を得られる。
その後、潤滑油は逃げ空間部31に導かれて充満し、ここから油逃げ通路37を介して密閉ケース5へ導かれ、最終的に油溜り部9へ戻る。特に、油逃げ通路37を逃げ空間部31の上部側にのみ備えているので、潤滑油は逃げ空間部31に充満してから油逃げ通路37に導かれる。これにより、ブレード25あるいはブッシュ33との隙間を通ってガスが漏れるのを防ぐことができ、圧縮性能低下をより確実に防止する。
【0049】
なお、以上説明した構造の圧縮機Sにおいては、ローラ23の外周部とブレード25の取付け部とのつなぎ部分に、加工用の逃げ部が設けられていない。この逃げ部を不要とすることにより、シリンダ室20における残留ガスの減少を図り、圧縮性能の低下を防止することができる。
【0050】
すなわち、ローラとブレードを一体部品として加工する場合は、ローラの外周部とブレードの連結部とのつなぎ部分が加工し難いために、加工用の逃げ部を設ける必要がある。しかしながら、シリンダ室から所定圧まで圧縮したガスを吐出し完了する時点での残留ガスの割合が多くなり、再膨張によって圧縮性能が低下する。
【0051】
ローラ23とブレード25を別部品として製作したうえで、固定ねじ24を介してローラ23とブレード25を一体化する上述の構成では、ローラ23外周部とブレード25直線部とのつなぎ部に加工用の逃げ部がなく、残留ガスの減少と圧縮性能の低下を防止する。
なお、上記実施の形態においてはブレード25の基端面をローラ23の曲率半径と同一の曲面に形成して、ブレード25の基端面をローラ23の外周面に密に接触するようにしたが、このような接続構造に限定されるものではない。
【0052】
図6は、第2の実施の形態であり、ブレード25Aとローラ23Aとの接続構造を異ならせた平面図である。(上記第1の実施の形態と同一の構成部品および同一部分に付いては同番号を付して新たな説明を省略する。以下、同じ)
上記ローラ23Aの外周部位には凹部40が設けられていて、この凹部40はブレード25Aの基端部jとの嵌め合わせが可能な寸法形状に設定されている。上記ブレード25Aの基端部jは、先端部と同様、高さ方向と長手方向に直角な平面状をなす。
【0053】
ブレード25Aの先端面から基端面に亘る長手方向に沿って取付け用孔26が貫通して設けられ、ローラ23Aの外周面と内周面に亘る半径方向に沿ってねじ孔27が設けられる。
上記凹部40にブレード25Aの基端部jを挿入し突き合わせた状態で、固定ねじ24を取付け用孔26からねじ孔27に螺挿すれば、ローラ23Aとブレード25Aが一体部品として構成化される。
【0054】
すなわち、ローラとブレードを別部品として構成する一般的な構造では、ローラ周面に対してブレード端部が摺動し、この間の漏れや摩擦損失および摩耗などが問題になる。そこで、ローラとブレードを最初から一つの部品としたものがあるが、ローラの外周一部が円形状でなくなることによって、ローラ外周の真円度を確保するのが困難になる。
【0055】
また、ローラとブレードとを一体に形成すると、ローラからブレード先端までの距離が長くなる。ローラ内周とブレードのスラスト面との直角度が十分に得られない場合や、クランク部の形状精度が得られない場合には、シリンダ内でローラとブレード一体部品の傾きが大きくなり、スラスト面での漏れが増大し、片当りの発生する原因になる。
【0056】
そのため、先に説明した[特許文献1]や[特許文献2]のような、ローラとブレードを別部品として形成したあとに、両者を固定して一体化する構造の圧縮機が提供されるようになった。
上記[特許文献1]では、ローラ外周に嵌合溝を形成してブレードに設けた嵌合部と結合し、ローラとブレードを一体化している。上記[特許文献2]では、ベーンの平行な2平面とローラの円筒状外周面の中心軸とが互いに平行となる状態でボルトで結合し、ベーンとローラとの一体化が図られている。
【0057】
しかしながら、[特許文献1]の技術では、ローラ外周に設けられる嵌合溝やブレードの嵌合凸部の加工において直角度などの部品精度が出し難く、わずかな形状の違いによって両者の完全な固定が得難い。圧入などによる固定方法も提案されているが、この方法では組み付け後の部品の直角度が得難い。
【0058】
[特許文献2]の技術では、ブレードのボルト固定のためにローラ外周の一部を大きく削るので、ローラ外周の真円度等の部品精度を得難い。ローラとブレード一体部品の傾きを逃げるのに、球面支持部材と球面ブッシュを介するが、現実的な加工ではこれらの球面を合わせることが難しく、逆に余分な力が作用するリスクがある。
【0059】
これに対して、上述した第1の実施の形態および第2の実施の形態では、ローラ23,23Aとブレード25,25Aとを固定ねじ24で固定し一体化する構造としたので、ローラ23,23Aの外周を大きく削る加工がない。孔の穿設加工やタップ加工のみを施すことになるので、ローラ23,23Aの真円度やブレード25,25Aの平行度などの部品精度が確保し易くなる。
【0060】
さらに、ローラ23,23Aには逃げ部が不要なので、フライス加工などが必要でなく、ローラ23,23Aとブレード25,25Aとを結合した場合でも、ローラ23,23A内径とブレード25,25Aのスライス面との直角度や、側面との平行度等を確保できる。
【0061】
圧縮機運転中にブレード25,25Aは圧縮部と吸込み部を仕切り、側面に差圧を受けるので、ローラ23,23Aとの固定位置からずれないように対処する必要がある。上述したように、取付け用孔26とねじ孔27の追加加工という簡便な方法によって両者の結合を可能にし、圧縮機運転中に差圧によって作用する力に抗して結合力を維持できる。
【0062】
この方法は、従来のローラとブレードを別体とする構造に比べて、加工方法が大きく変ることがない。そして、固定ねじ24をローラ23,23Aの高さ方向に所定間隔を存して複数本取付け、もしくはブレード25,25Aの厚み方向に複数本取付ける構造は、強度保持の増大化のために有効である。
【0063】
特に図6に示すように、ブレード25Aの長手方向とは直交する方向である幅方向の幅寸法Bを、上記回転軸クランク部8aの偏心量eの2倍よりも大きい(B>2e)に設定している。
【0064】
すなわち、圧縮機Sのシール性を向上させる手段としては、給油条件と、シールの実質長さと、クリアランスなどが重要である。したがって、ローラ23とブレード25のスライス面に油溝35,36を備え、給油効率を確保したうえに適切なクリアランスを保ったシール部の長さが必要となる。
【0065】
ブレード25Aが揺動する最大幅は、クランク部8aの偏心量eの2倍(=2e)より小さい。上述の要件である B>2e と設定することによって、ブレード25Aにおけるスラスト面とは相手側接触面になる主軸受14や副軸受17のスラスト面と常に接触する個所が生じる。そして、上記個所に油溝35,36を介して供給された潤滑油が存在する構造により、ブレード25Aを隔てた高圧側の圧縮部と低圧側の吸込み部に対するシール性を確保することができる。
【0066】
なお、この条件は、先に図2(第1の実施の形態)で示したように、ブレード25の基端面をローラ23外周面の曲率半径と同一の曲面とした構造のものにおいても適用可能である。
【0067】
図7は、第3の実施の形態として、さらに異なる構成の圧縮機構部6Aの一部横断平面図である。(なお、ここではボールベアリング22を省略している)
ブレード25Bは、平行部mと円形部nとを一体に連設してなり、断面が、いわゆる鍵穴状(中実であるが)に形成される。シリンダ13には円形孔部30Aが設けられていて、ブレード25Bの円形部nが揺動可能に嵌め込まれる。ブレード25Bの平行部mはシリンダ室20へ突出していて、ローラ23Bの外周に設けられる凹部qにスライド自在に嵌め込まれる。
【0068】
回転軸8の回転にともなってシリンダ室20でローラ23Bが偏心公転運動を行い、ローラ23Bに設けられる凹部qにおいてブレード25Bの平行部mが往復運動をなす。ブレード25Bの平行部mはシリンダ室20内を圧縮部と吸込み部とに区画することは上述のものと変わりなく、円滑に圧縮運転が行われる。
【0069】
このような構造では、先に図2で説明したような一対のブッシュ33が不要となり、部品費の低減を図れる。そして、ローラ23Bに設けられる凹部qとクランク部8aとの間に亘って油孔もしくは油溝45を設けることにより、ローラ23B内周から潤滑油を導き、ローラ23Bとブレード25B間のシール性を高めることができる。
【0070】
なお、上述した実施の形態ではローリングピストン形の圧縮機を適用して説明したが、これに限定されるものではなく、膨張機他の流体機械にも適用できることは勿論である。そして、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化でき、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明における第1の実施の形態に係る、ローリングピストン形圧縮機の一部縦断面図と、冷凍サイクル構成図。
【図2】同実施の形態に係る、圧縮機構部の平面図。
【図3】同実施の形態に係る、圧縮機構部一部の平面図。
【図4】同実施の形態に係る、圧縮機構部一部の断面図。
【図5】同実施の形態に係る、圧縮機構部一部の断面図。
【図6】本発明における第2の実施の形態に係る、圧縮機構部一部の平面図。
【図7】本発明における第3の実施の形態に係る、圧縮機構部一部の横断平面図。
【図8】本発明における圧縮機構部でのクリアランスに関する説明図。
【図9】ローラとブレードとを別体構造とした場合の許容傾き角度の説明図。
【図10】ローラとブレードとを一体構造とした場合の許容傾き角度の説明図。
【図11】ローラとブレードとを一体構造とし、かつボールベアリングが無い場合と有る場合の、ローラ中心からブレード先端までの距離Lとローラ外周半径Rとの比と、不良率の関係を表す特性図。
【符号の説明】
【0072】
20…シリンダ室、13…シリンダ、8a…クランク部、8…回転軸、23…ローラ、25…ブレード、22…ボールベアリング、27…ねじ孔、26…取付け用孔、24…固定ねじ、40…凹部、35…(ブレードの)油溝、36…(ローラの)油溝、S…ローリングピストン形圧縮機、1…凝縮器、2…膨張装置、3…蒸発器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラとブレードとを一体の部品にしたローリングピストン形圧縮機や膨張機を含む流体機械と、この流体機械を備えた冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば膨張機やローリングピストン形圧縮機などの流体機械において、シリンダと、シリンダ内に組み込まれるローラおよび、回転軸に設けられ上記ローラが係合するクランク部は、それぞれ直角度等の部品精度が所定の公差範囲内になるよう製造される。そのため厳密には、これら構成部品は上記所定の公差範囲内で互いにある傾きを持って組み込まれる。そして、これら部品相互の傾きに対して、各部品間のクリアランスが大きいことによって、上記傾きが補正されるようになっている。
【0003】
各構成部品間のクリアランスが大きいほど上記補正量が大きくなり、部品製造上および組立上の余裕が大きくなる。その反面、クリアランスが大き過ぎると、ガスリークの原因になり性能低下をもたらすので、ある一定の値以下に保つことが必要になる。しかしながら、直角度等の部品精度がクリアランスに対して大きいレベルまで悪化すると、上記傾きが補正しきれず、部品の傾きによる片当りの原因になり摩耗に至る場合もある。
【0004】
上記ローリングピストン形圧縮機は、一般的に、ローラとブレードとが別部品として構成されている。そして、ブレードが背圧もしくはスプリングによってローラに押し付けられ、ローラに対して摺動する。この場合は、ローラとブレードが互いに独立した部品として傾きの自由度があるので、許容傾き角度に対して問題となることは少ない。
【0005】
これに対して、たとえば[特許文献1]や[特許文献2]に開示されるローリングピストン形圧縮機は、ローラとブレードとが一体の部品として構成される。上記ブレードはシリンダに設けた半円筒状の2つの揺動ブッシュで挟まれ揺動運動するので、スイング式ロータリ圧縮機とも呼ばれる。
【特許文献1】特開平6− 58276号公報
【特許文献2】特開平6−317279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような圧縮機は、ローラとブレードが別体の一般的な圧縮機と比較して、ローラとブレード間の摺動が無くなり、両者間の摩擦損失および漏れの低減化等のメリットがある。その一方で、ローラ中心からブレード先端面に至る距離が長くなり、組立て時における部品の傾き角度が制約されて、直角度等の部品精度がより厳しく求められる。
【0007】
なお説明すると、図8に示すように、シリンダaの内径部に形成されるシリンダ室bに、回転軸に一体に設けられるクランク部dが収容される。このクランク部dにはローラgが嵌め込まれ、このローラgの外周面にブレードfが接触するよう、ローラgとブレードfが別部品として設けられ、もしくはローラgとブレードfが一体的に構成される。
【0008】
このような構造において、ローラg外周面とシリンダ室b周面との間に径方向クリアランスがあるとともに、ローラg内周面とクランク部d周面との間に径方向クリアランスが存在する。さらに、ローラgの中心軸に沿う方向である高さ方向とシリンダaの中心軸に沿う方向である高さ方向との間に高さ方向クリアランスCがある。
【0009】
以下に、ローラgとブレードfとが別部品であって互いに摺接する一般的な構造における許容傾き角度αと、上述の[特許公報1]や[特許公報2]に示されるように、ローラgとブレードfとを一体化した構造における許容傾き角度βとを比較してみる。
図9に示すように、ローラgとブレードfが別部品からなる一般的な構造では、シリンダaに対するローラgの高さ方向のクリアランスをC、ローラgの外周半径をRとすると、許容傾き角度αは、tan−1(C/R)となる。
【0010】
図10に示すように、ローラgとブレードfを一体化した構造では、シリンダaに対するローラgの高さ方向のクリアランスをC、ローラgの中心からブレードfの先端面までの距離をLとすると、許容傾き角度βは、tan−1(C/L)となる。
このように、図10に示すローラgとブレードfを一体化した構造の許容傾き角度βは、図9に示すローラgとブレードfを別部品とした一般的な構造の許容傾き角度αよりも小(β<α)となる。そのため、部品精度等に起因するローラ・ブレード一体部品の傾斜により、ブレード先端部等が片当りにより摩耗しやすい不具合があった。
【0011】
本発明は上記事情にもとづきなされたものであり、その目的とするところは、ローラとブレードを一体化した構造であり、部品の傾きによる片当りを防止するとともに、部品精度の向上化および組立て精度の余裕度を拡大でき、製造性の向上化を得られる流体機械と、この流体機械を備えることにより冷凍効率の向上化を得られる冷凍サイクル装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を満足するため本発明の流体機械は、シリンダ室を備えたシリンダと、このシリンダのシリンダ室を貫通して設けられるとともにシリンダ室と対向する部位にクランク部を有する回転軸と、この回転軸のクランク部に係合され回転軸の回転にともなってシリンダ室で偏心公転運動をなすローラと、このローラと一体的に設けられローラの偏心公転運動にともなって揺動しシリンダ室を圧縮部と吸込み部に区画するブレードと、回転軸のクランク部とローラとの間に介設されるボールベアリングとを具備し、ローラの中心からブレードの先端面までの距離Lを、ローラの外周半径Rの2倍以下(L<2R)に設定した。
【0013】
さらに、上記目的を満足するため本発明の冷凍サイクル装置は、上記流体機械としての圧縮機と、凝縮器と上記圧縮機と、凝縮器と、膨張装置と、蒸発器とを備えた。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ローラ・ブレード一体部品の傾きによる片当りを確実に防止できるとともに、部品精度の向上化と、組立て精度の余裕度を拡大でき、製造性の向上化を得られる流体機械と、この流体機械を備えて冷凍効率の向上化を得られる冷凍サイクル装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。(なお、文中に符号を付していない構成部品については図示していない)
図1は、第1の実施の形態における流体機械であるローリングピストン形圧縮機(以下、単に「圧縮機」と呼ぶ)Sの一部縦断面図および、この圧縮機Sを備えた冷凍サイクル装置の冷凍サイクル構成図である。
【0016】
はじめに、冷凍サイクル装置について説明すると、図中Sは圧縮機であって、上記圧縮機Sの上端面から冷媒管Pが突出している。この冷媒管Pには、凝縮器1と、膨張装置2と、蒸発器3とが順次連通され、上記蒸発器3から延出される冷媒管Pの途中には気液分離器が設けられ、冷媒管Pの端部は上記圧縮機Sの側面部に接続される。これらで冷凍サイクル回路Kが構成される。
【0017】
つぎに、上記圧縮機Sについて説明すると、この圧縮機Sは密閉ケース5を備えている。密閉ケース5内の下部には圧縮機構部6が収容され、この圧縮機構部6の上部には電動機部7が設けられる。これら電動機部7と圧縮機構部6は互いに回転軸8を介して連結される。密閉ケース5の内底部には潤滑油の溜り部9が形成されていて、圧縮機構部6の一部は潤滑油に浸漬されている。
【0018】
上記電動機部7は、密閉ケース5の内面に固定されるステータ10と、このステータ10の内側に所定の間隙を存して配置され、上記回転軸8に嵌着されるロータ11とから構成される。この電動機部7は、運転周波数を可変するインバータに接続されるとともに、インバータを介して、インバータ回路を制御する制御部に電気的に接続される。
【0019】
図2は、圧縮機構部6の一部横断平面図である。以下、図1とともに圧縮機構部6について詳述する。
上記圧縮機構部6は、シリンダ13を備えている。このシリンダ13は、中心軸に沿って所定の高さ寸法に形成され、外径寸法は密閉ケース5の内径寸法よりも僅かに大に形成される。上記シリンダ13は密閉ケース5周面に圧入されたうえに、密閉ケース5外部からの溶接加工によって位置決め固定される。
【0020】
上記シリンダ13の上面部には主軸受14が重ね合わされ、上バルブカバー15とともに取付けボルト16を介してシリンダ13に取付け固定される。シリンダ13の下面部には副軸受17が重ね合わされ、下バルブカバー18とともに取付けボルト19を介してシリンダ13に取付け固定される。
【0021】
上記回転軸8は、電動機部7から下方に突出する中間部が上記主軸受14に回転自在に枢支され、下端部が上記副軸受17に回転自在に枢支される。さらに、回転軸8はシリンダ13内部を貫通するとともに、この貫通部分には回転軸8の中心軸から所定寸法eだけ偏心した中心軸を有するクランク部8aが一体に設けられる。
【0022】
上記シリンダ13の内径部は、主軸受14および副軸受17によって上下面が閉成され、シリンダ室20が形成される。上記回転軸8のクランク部8aは、上記シリンダ室20内に収容される位置にある。上記主軸受14および上記副軸受17のシリンダ室20対向部位で、かつ上下バルブカバー15,18で覆われる部位には、吐出弁を備えた吐出ポートが設けられる。
【0023】
また、上記密閉ケース5からシリンダ13を貫通してシリンダ室20に開口端を臨ませた吸込み口21が設けられている。この吸込み口21には、上記蒸発器3から延出される冷媒管Pの端部が挿入のうえ、密に固着される。
一方、上記回転軸クランク部8aにはボールベアリング22の内径部が嵌め込まれる。上記ボールベアリング22の外径部には、後述する揺動部材Yを構成するローラ23が嵌め込まれる。換言すれば、回転軸クランク部8aと上記ローラ23との間にボールベアリング22が介設されることとなる。
【0024】
上記ローラ23は金属材からなるリング状のものであって、この中心軸に沿う長さ(高さ)寸法は、上記シリンダ室20の中心軸に沿う長さ(高さ)寸法に対してある程度のクリアランスを形成するように設計されている。そして、ローラ23の外周面一部はシリンダ室20の周面一部に、中心軸方向に沿って接触するよう設けられる。
【0025】
後述するように、圧縮運転時には、回転軸8が回転駆動されクランク部8aが偏心回転するのにともなって、クランク部8aにボールベアリング22を介して取付けられるローラ23はシリンダ室20で偏心公転運動をなす。この状態で、クランク部8aの回転角度に係らず、常にローラ23外周面とシリンダ室20周面とは互いに線接触するようになっている。
【0026】
図3は揺動部材Yとボールベアリング22の平面図、図4は揺動部材Yとボールベアリング22の断面図、図5はシリンダ13とシリンダ室20内に収容される構成部品の寸法形状を表す断面図である。
なお上記揺動部材Yについて説明すると、この揺動部材Yは、上述したローラ23と、このローラ23の外周面一部に固定ねじ24をもって取付けられ、ローラ23と一体化されるブレード25とから構成される。
【0027】
上記ローラ23は周方向に均一な肉厚のリング状部材であるのに対して、上記ブレード25は所定の板厚寸法に形成される板状部材である。上記ブレード25の高さ方向長さはローラ23の軸方向長さと一致する。
上記ブレード25のローラ23側端面である基端面は、ローラ23外周面の曲率半径と同一の曲面に形成されていて、ローラ23外周面に密に接触する。ブレード25の他端面である先端面は、高さ方向面および板厚方向面に対して直角な平面をなす。
【0028】
シリンダ室20の高さ方向に対してブレード25とローラ23の同方向の長さがわずかに短く形成され、高さ方向にクリアランスが確保される。そして、ローラ23中心からブレード25の先端面までの距離Lは、ローラ23の外周半径Rの2倍以下(L<2R)に設定されている。
【0029】
一方、ブレード25の基端面から先端面に亘って取付け用孔26が貫通して設けられる。換言すれば、上記取付け用孔26はブレード25の高さ方向とは直交する長手方向に沿って貫通して設けられる。上記ローラ23には、外周面と内周面との間である、半径方向に沿ってねじ孔27が設けられている。
【0030】
組立て時に、ローラ23のねじ孔27に対してブレード25の取付け用孔26が連通するように、ローラ23外周面にブレード25の基端部を当てて仮保持し、ブレード25の先端面側から取付け用孔26に固定ねじ24を挿入する。固定ねじ24先端をブレード25基端面から突出しローラ23に設けられるねじ孔27に螺挿することで、固定ねじ24を介してブレード25をローラ23に一体的に取付け固定できる。
【0031】
上記ブレード25の先端部は、上記シリンダ13部位にシリンダ室20と隣設されるブッシュ収納部30に揺動自在に収納されている。このブッシュ収納部30のシリンダ室20とは反対側の部位に逃げ空間部31が連設され、ブレード25の揺動運動にともなってブレード25の先端部と固定ねじ24が進退自在に移動できる。
【0032】
上記ブッシュ収納部30は、シリンダ室20の直径よりもはるかに小さい直径で、かつシリンダ室20の中心軸と平行する中心軸を備えた円形状の縦孔部32を備えている。ただし、完全な円形をなしておらず、一部はシリンダ室20にかかるように形成されていて、互いに所定幅寸法で連通される。
【0033】
上記縦孔部32には、シリンダ室20と連通する幅寸法を空間部として確保し、残りの部分に一対のブッシュ33が嵌め込まれる。上記揺動部材Yを構成するブレード25は、ブッシュ収納部30を構成する一対のブッシュ33相互の間隙に挿入されている。
上記逃げ空間部31は、上記縦孔部32よりも小さい直径でシリンダ室20と縦孔部32の中心軸と平行する中心軸を備えた円形状の縦孔からなる。そして、ブッシュ収納部30の縦孔部32とシリンダ室20との関係と同様、逃げ空間部31の一部が縦孔部32にかかって所定の幅寸法で互いに連通する。
【0034】
上記ブレード25の高さ方向の上下面であるスラスト面に、長手方向に沿って油溝35が設けられる。また、上記ローラ23の高さ方向の上下面であるスラスト面に半径方向に沿って油溝36が設けられる。ブレード25とローラ23を一体的に組合せた状態で、ブレード25とローラ23に設けられる油溝35,36が互いに連通する。
【0035】
特に図1に示すように、上記逃げ空間部31に対向する主軸受14部位と、上バルブカバー15には、上下面に亘って油逃げ通路37が貫通して設けられる。したがって、逃げ空間部31はブッシュ収納部30に連通する一方で、油逃げ通路37を介して密閉ケース5内部と連通することとなる。
【0036】
つぎに、上述の圧縮機Sを備えた冷凍サイクル装置の作用について説明する。
操作盤の運転ボタンが押されると、制御部はインバータを介して電動機部7に運転信号を送る。回転軸8が回転駆動され、クランク部8aがシリンダ室20内で偏心回転を行う。このクランク部8aにボールベアリング22を介して嵌合する揺動部材Yのローラ23は、シリンダ室20内で偏心公転運動を行う。
【0037】
具体的には、上記クランク部8aの偏心回転角度に応じてローラ23が移動すると、ブレード25のブッシュ収納部30に対する角度が変化して一対のブッシュ33が縦孔部32内で回動し、かつブレード25がブッシュ収納部30に沿って往復移動しながら揺動運動をなす。
【0038】
この状態で上記ブレード25は、シリンダ室20内を吸込み部と圧縮部に二分する。図2に示すように、ブレード25がシリンダ室20内へ最も進出し固定ねじ24頭部のみが逃げ空間部31に位置する状態で、シリンダ室20の空間容量が最大となる。そして、図2の位置から180°回転したとき、シリンダ室20の空間容量が最小となる。
【0039】
上記圧縮機構部6が作用することにより、冷媒ガスは冷媒管Pを介してシリンダ室20に吸込まれて充満する。ローラ23の偏心公転運動にともなって、ローラ23のシリンダ室20周面に対する転接位置が移動し、シリンダ室20の区画形成された圧縮部の容積が減少する。すなわち、既にシリンダ室20に導かれたガスが徐々に圧縮される。
【0040】
回転軸8が継続して回転され、シリンダ室20に区画形成される圧縮部の容量がさらに減少してガスが圧縮され、所定圧まで上昇したところで吐出弁が開放する。高圧ガスは上下バルブカバー15,18を介して密閉ケース5内へ吐出されて充満し、さらに密閉ケース5上端部に接続される冷媒管Pから密閉ケース5外へ導かれる。
【0041】
冷媒管Pに吐出された高圧ガスは、凝縮器1で凝縮液化し、膨張装置2で断熱膨張し、蒸発器3で蒸発して周辺空気から蒸発潜熱を奪い、冷凍作用をなす。そして、蒸発器3で蒸発した冷媒は気液分離器で気液分離され、再び圧縮機S内の圧縮機構部6に吸込まれて上述の経路を循環する。
この圧縮機Sは、実質的にローラ23とブレード25とを一体化した構成であるので、ローラとブレードが別体に構成される一般的な圧縮機と比較して、ローラ23とブレード25間の摺動が無くなり、両者間の摩擦損失および漏れの低減化等のメリットがある。その一方で、ローラ23中心からブレード25先端面に至る距離Lが長くなり、組立て時の構成部品の傾き角度が制約されて直角度等の部品精度がより厳しく求められる。
【0042】
上述の実施の形態では、ローラ23と、回転軸8に設けられるクランク部8aとの間にボールベアリング22を介在させている。上記ボールベアリング22は傾きなどの自由度があるので、ローラ23の傾き許容角度を大きくとることができる。当然、ボールベアリング22にも許容傾き角度があるので、使用上の限界が存在する。
【0043】
図11は、ローラとブレードを一体化したローリングピストン形の圧縮機における、ローラ中心からブレード先端までの距離Lと、ローラ外周半径Rとの比(L/R)と、不良率(片当りによる摩耗発生率)の関係を示す特性図である。
破線曲線は、クランク部とローラとの間にボールベアリングが無いものであり、実線曲線はクランク部とローラとの間にボールベアリングが介在する場合である。この図から、ローラ23と回転軸クランク部8aとの間にボールベアリングが存在しない場合は、L/Rが1.5を越えると、ローラ23とブレード25を一体化した部品の傾斜による片当りにより不良率が急激に発生することが分かる。
【0044】
これに対してローラ23とブレード25を一体化構造としたうえに、回転軸クランク部8aとローラ23との間にボールベアリング22を介設しているものは、L/Rが1.5付近では、片当りによる不良率が発生しない。ただし、L/Rが2を越えると片当りによる不良率が発生する。
【0045】
そこで本実施の形態のように、ローラ23中心からブレード25先端面までの距離Lを、ローラ23の外周半径Rの2倍以下(L<2R)に限定する。したがって、ローラ23とブレード25を一体に形成したローリングピストン形の圧縮機において、性能低下や部品の片当りを防ぐことができ、部品精度および組立て精度の余裕度を拡大でき、製造性の向上を得られる。
【0046】
なお、上述の構造では、ブレード25とローラ23のスラスト面に油溝35,36を設け、ブレード25とローラ23を一体的に組合せた状態で、ブレード25の油溝35とローラ23の油溝36が互いに連通する。しかも、主軸受14とバルブカバー15には、上記逃げ空間部31と連通する油逃げ通路37が設けられている。
【0047】
すなわち、ローリングピストン形圧縮機Sにおいて、圧縮運転時にガス漏れが発生する個所は複数存在する。そのなかでも、ブレード25のスラスト面からのガス漏れは、このスラスト面部分に潤滑油が供給され難いことから、発生し易いものである。
そこで、ローラ23とブレード25を別部品で製作し、組立てにより一体的に結合させる構造において、ブレード25とローラ23のスラスト面に沿って油溝35,36を備える構成とし、ブレード25のスラスト面への給油を可能とする。
【0048】
これにより、回転軸8の下端部に設けられる給油ポンプが油溜り部9から吸上げた潤滑油を、ローラ23の内周部を介してブレード25のスラスト面へ確実に、かつ充分に給油でき、ガス漏れを防止してシール性の向上を得られる。
その後、潤滑油は逃げ空間部31に導かれて充満し、ここから油逃げ通路37を介して密閉ケース5へ導かれ、最終的に油溜り部9へ戻る。特に、油逃げ通路37を逃げ空間部31の上部側にのみ備えているので、潤滑油は逃げ空間部31に充満してから油逃げ通路37に導かれる。これにより、ブレード25あるいはブッシュ33との隙間を通ってガスが漏れるのを防ぐことができ、圧縮性能低下をより確実に防止する。
【0049】
なお、以上説明した構造の圧縮機Sにおいては、ローラ23の外周部とブレード25の取付け部とのつなぎ部分に、加工用の逃げ部が設けられていない。この逃げ部を不要とすることにより、シリンダ室20における残留ガスの減少を図り、圧縮性能の低下を防止することができる。
【0050】
すなわち、ローラとブレードを一体部品として加工する場合は、ローラの外周部とブレードの連結部とのつなぎ部分が加工し難いために、加工用の逃げ部を設ける必要がある。しかしながら、シリンダ室から所定圧まで圧縮したガスを吐出し完了する時点での残留ガスの割合が多くなり、再膨張によって圧縮性能が低下する。
【0051】
ローラ23とブレード25を別部品として製作したうえで、固定ねじ24を介してローラ23とブレード25を一体化する上述の構成では、ローラ23外周部とブレード25直線部とのつなぎ部に加工用の逃げ部がなく、残留ガスの減少と圧縮性能の低下を防止する。
なお、上記実施の形態においてはブレード25の基端面をローラ23の曲率半径と同一の曲面に形成して、ブレード25の基端面をローラ23の外周面に密に接触するようにしたが、このような接続構造に限定されるものではない。
【0052】
図6は、第2の実施の形態であり、ブレード25Aとローラ23Aとの接続構造を異ならせた平面図である。(上記第1の実施の形態と同一の構成部品および同一部分に付いては同番号を付して新たな説明を省略する。以下、同じ)
上記ローラ23Aの外周部位には凹部40が設けられていて、この凹部40はブレード25Aの基端部jとの嵌め合わせが可能な寸法形状に設定されている。上記ブレード25Aの基端部jは、先端部と同様、高さ方向と長手方向に直角な平面状をなす。
【0053】
ブレード25Aの先端面から基端面に亘る長手方向に沿って取付け用孔26が貫通して設けられ、ローラ23Aの外周面と内周面に亘る半径方向に沿ってねじ孔27が設けられる。
上記凹部40にブレード25Aの基端部jを挿入し突き合わせた状態で、固定ねじ24を取付け用孔26からねじ孔27に螺挿すれば、ローラ23Aとブレード25Aが一体部品として構成化される。
【0054】
すなわち、ローラとブレードを別部品として構成する一般的な構造では、ローラ周面に対してブレード端部が摺動し、この間の漏れや摩擦損失および摩耗などが問題になる。そこで、ローラとブレードを最初から一つの部品としたものがあるが、ローラの外周一部が円形状でなくなることによって、ローラ外周の真円度を確保するのが困難になる。
【0055】
また、ローラとブレードとを一体に形成すると、ローラからブレード先端までの距離が長くなる。ローラ内周とブレードのスラスト面との直角度が十分に得られない場合や、クランク部の形状精度が得られない場合には、シリンダ内でローラとブレード一体部品の傾きが大きくなり、スラスト面での漏れが増大し、片当りの発生する原因になる。
【0056】
そのため、先に説明した[特許文献1]や[特許文献2]のような、ローラとブレードを別部品として形成したあとに、両者を固定して一体化する構造の圧縮機が提供されるようになった。
上記[特許文献1]では、ローラ外周に嵌合溝を形成してブレードに設けた嵌合部と結合し、ローラとブレードを一体化している。上記[特許文献2]では、ベーンの平行な2平面とローラの円筒状外周面の中心軸とが互いに平行となる状態でボルトで結合し、ベーンとローラとの一体化が図られている。
【0057】
しかしながら、[特許文献1]の技術では、ローラ外周に設けられる嵌合溝やブレードの嵌合凸部の加工において直角度などの部品精度が出し難く、わずかな形状の違いによって両者の完全な固定が得難い。圧入などによる固定方法も提案されているが、この方法では組み付け後の部品の直角度が得難い。
【0058】
[特許文献2]の技術では、ブレードのボルト固定のためにローラ外周の一部を大きく削るので、ローラ外周の真円度等の部品精度を得難い。ローラとブレード一体部品の傾きを逃げるのに、球面支持部材と球面ブッシュを介するが、現実的な加工ではこれらの球面を合わせることが難しく、逆に余分な力が作用するリスクがある。
【0059】
これに対して、上述した第1の実施の形態および第2の実施の形態では、ローラ23,23Aとブレード25,25Aとを固定ねじ24で固定し一体化する構造としたので、ローラ23,23Aの外周を大きく削る加工がない。孔の穿設加工やタップ加工のみを施すことになるので、ローラ23,23Aの真円度やブレード25,25Aの平行度などの部品精度が確保し易くなる。
【0060】
さらに、ローラ23,23Aには逃げ部が不要なので、フライス加工などが必要でなく、ローラ23,23Aとブレード25,25Aとを結合した場合でも、ローラ23,23A内径とブレード25,25Aのスライス面との直角度や、側面との平行度等を確保できる。
【0061】
圧縮機運転中にブレード25,25Aは圧縮部と吸込み部を仕切り、側面に差圧を受けるので、ローラ23,23Aとの固定位置からずれないように対処する必要がある。上述したように、取付け用孔26とねじ孔27の追加加工という簡便な方法によって両者の結合を可能にし、圧縮機運転中に差圧によって作用する力に抗して結合力を維持できる。
【0062】
この方法は、従来のローラとブレードを別体とする構造に比べて、加工方法が大きく変ることがない。そして、固定ねじ24をローラ23,23Aの高さ方向に所定間隔を存して複数本取付け、もしくはブレード25,25Aの厚み方向に複数本取付ける構造は、強度保持の増大化のために有効である。
【0063】
特に図6に示すように、ブレード25Aの長手方向とは直交する方向である幅方向の幅寸法Bを、上記回転軸クランク部8aの偏心量eの2倍よりも大きい(B>2e)に設定している。
【0064】
すなわち、圧縮機Sのシール性を向上させる手段としては、給油条件と、シールの実質長さと、クリアランスなどが重要である。したがって、ローラ23とブレード25のスライス面に油溝35,36を備え、給油効率を確保したうえに適切なクリアランスを保ったシール部の長さが必要となる。
【0065】
ブレード25Aが揺動する最大幅は、クランク部8aの偏心量eの2倍(=2e)より小さい。上述の要件である B>2e と設定することによって、ブレード25Aにおけるスラスト面とは相手側接触面になる主軸受14や副軸受17のスラスト面と常に接触する個所が生じる。そして、上記個所に油溝35,36を介して供給された潤滑油が存在する構造により、ブレード25Aを隔てた高圧側の圧縮部と低圧側の吸込み部に対するシール性を確保することができる。
【0066】
なお、この条件は、先に図2(第1の実施の形態)で示したように、ブレード25の基端面をローラ23外周面の曲率半径と同一の曲面とした構造のものにおいても適用可能である。
【0067】
図7は、第3の実施の形態として、さらに異なる構成の圧縮機構部6Aの一部横断平面図である。(なお、ここではボールベアリング22を省略している)
ブレード25Bは、平行部mと円形部nとを一体に連設してなり、断面が、いわゆる鍵穴状(中実であるが)に形成される。シリンダ13には円形孔部30Aが設けられていて、ブレード25Bの円形部nが揺動可能に嵌め込まれる。ブレード25Bの平行部mはシリンダ室20へ突出していて、ローラ23Bの外周に設けられる凹部qにスライド自在に嵌め込まれる。
【0068】
回転軸8の回転にともなってシリンダ室20でローラ23Bが偏心公転運動を行い、ローラ23Bに設けられる凹部qにおいてブレード25Bの平行部mが往復運動をなす。ブレード25Bの平行部mはシリンダ室20内を圧縮部と吸込み部とに区画することは上述のものと変わりなく、円滑に圧縮運転が行われる。
【0069】
このような構造では、先に図2で説明したような一対のブッシュ33が不要となり、部品費の低減を図れる。そして、ローラ23Bに設けられる凹部qとクランク部8aとの間に亘って油孔もしくは油溝45を設けることにより、ローラ23B内周から潤滑油を導き、ローラ23Bとブレード25B間のシール性を高めることができる。
【0070】
なお、上述した実施の形態ではローリングピストン形の圧縮機を適用して説明したが、これに限定されるものではなく、膨張機他の流体機械にも適用できることは勿論である。そして、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化でき、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明における第1の実施の形態に係る、ローリングピストン形圧縮機の一部縦断面図と、冷凍サイクル構成図。
【図2】同実施の形態に係る、圧縮機構部の平面図。
【図3】同実施の形態に係る、圧縮機構部一部の平面図。
【図4】同実施の形態に係る、圧縮機構部一部の断面図。
【図5】同実施の形態に係る、圧縮機構部一部の断面図。
【図6】本発明における第2の実施の形態に係る、圧縮機構部一部の平面図。
【図7】本発明における第3の実施の形態に係る、圧縮機構部一部の横断平面図。
【図8】本発明における圧縮機構部でのクリアランスに関する説明図。
【図9】ローラとブレードとを別体構造とした場合の許容傾き角度の説明図。
【図10】ローラとブレードとを一体構造とした場合の許容傾き角度の説明図。
【図11】ローラとブレードとを一体構造とし、かつボールベアリングが無い場合と有る場合の、ローラ中心からブレード先端までの距離Lとローラ外周半径Rとの比と、不良率の関係を表す特性図。
【符号の説明】
【0072】
20…シリンダ室、13…シリンダ、8a…クランク部、8…回転軸、23…ローラ、25…ブレード、22…ボールベアリング、27…ねじ孔、26…取付け用孔、24…固定ねじ、40…凹部、35…(ブレードの)油溝、36…(ローラの)油溝、S…ローリングピストン形圧縮機、1…凝縮器、2…膨張装置、3…蒸発器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ室を備えたシリンダと、
このシリンダの上記シリンダ室を貫通して設けられるとともに、シリンダ室と対向する部位にクランク部を有する回転軸と、
この回転軸の上記クランク部に係合され、回転軸の回転にともなって上記シリンダ室で偏心公転運動をなすローラと、
このローラと一体的に設けられ、ローラの偏心公転運動にともなって揺動し上記シリンダ室を圧縮部と吸込み部に区画するブレードと、
上記回転軸のクランク部と上記ローラとの間に介設されるボールベアリングとを具備し、
上記ローラの中心から上記ブレードの先端面までの距離Lを、上記ローラの外周半径Rの2倍以下(L<2R)に設定したことを特徴とする流体機械。
【請求項2】
上記ローラと上記ブレードとは別体に形成され、上記ローラは半径方向に沿ってねじ孔が設けられ、上記ブレードは高さ方向と直交する長手方向に沿って取付け用孔が設けられ、この取付け用孔を介して上記ねじ孔に固定ねじを螺挿することにより、ローラにブレードが一体的に取付け固定されることを特徴とする請求項1記載の流体機械。
【請求項3】
上記ローラは外周部位にブレード端部との嵌め合わせが可能な凹部が設けられ、このローラ凹部にブレード端部を挿入し突き合わせた状態で上記固定ねじをもって取付け固定されることを特徴とする請求項2記載の流体機械。
【請求項4】
上記ブレードのスラスト面に長手方向に沿って油溝が設けられるとともに、上記ローラのスラスト面に半径方向に沿って油溝が設けられ、上記ブレードとローラを一体的に組合せた状態で上記油溝が互いに連通することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の流体機械。
【請求項5】
上記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の流体機械としての圧縮機と、凝縮器と、膨張装置と、蒸発器とを備えたことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項1】
シリンダ室を備えたシリンダと、
このシリンダの上記シリンダ室を貫通して設けられるとともに、シリンダ室と対向する部位にクランク部を有する回転軸と、
この回転軸の上記クランク部に係合され、回転軸の回転にともなって上記シリンダ室で偏心公転運動をなすローラと、
このローラと一体的に設けられ、ローラの偏心公転運動にともなって揺動し上記シリンダ室を圧縮部と吸込み部に区画するブレードと、
上記回転軸のクランク部と上記ローラとの間に介設されるボールベアリングとを具備し、
上記ローラの中心から上記ブレードの先端面までの距離Lを、上記ローラの外周半径Rの2倍以下(L<2R)に設定したことを特徴とする流体機械。
【請求項2】
上記ローラと上記ブレードとは別体に形成され、上記ローラは半径方向に沿ってねじ孔が設けられ、上記ブレードは高さ方向と直交する長手方向に沿って取付け用孔が設けられ、この取付け用孔を介して上記ねじ孔に固定ねじを螺挿することにより、ローラにブレードが一体的に取付け固定されることを特徴とする請求項1記載の流体機械。
【請求項3】
上記ローラは外周部位にブレード端部との嵌め合わせが可能な凹部が設けられ、このローラ凹部にブレード端部を挿入し突き合わせた状態で上記固定ねじをもって取付け固定されることを特徴とする請求項2記載の流体機械。
【請求項4】
上記ブレードのスラスト面に長手方向に沿って油溝が設けられるとともに、上記ローラのスラスト面に半径方向に沿って油溝が設けられ、上記ブレードとローラを一体的に組合せた状態で上記油溝が互いに連通することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の流体機械。
【請求項5】
上記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の流体機械としての圧縮機と、凝縮器と、膨張装置と、蒸発器とを備えたことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−291886(P2007−291886A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118132(P2006−118132)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(399023877)東芝キヤリア株式会社 (320)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(399023877)東芝キヤリア株式会社 (320)
【Fターム(参考)】
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