流体機械
【課題】本発明は、小流量運転時に流体機械のケーシング内で生じていると予測される、好ましくない流動現象を改善し、性能(Q−H)特性の右上がり不安定領域の低減を図る。
【解決手段】本発明の一実施携帯による流体機械は、回転駆動される羽根車(10)と、羽根車(10)を収容するケーシング(3)と、を有する。ケーシング(3)は、吐出管(5)へ流体を案内する舌部(35)と、羽根車(10)から軸方向に離間して羽根車(10)に面する少なくとも1つの内側壁面(31、32)とを備える。羽根車(10)とケーシング(3)の少なくとも1つの内側壁面(31、32)との間に流体流路(7)が画定される。かかる流体機械はさらに、流体流路(7)において発生し得る、流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するために、ケーシング(3)の少なくとも1つの内側壁面(31、32)に、渦発生抑制構造(50、52)を有する。
【解決手段】本発明の一実施携帯による流体機械は、回転駆動される羽根車(10)と、羽根車(10)を収容するケーシング(3)と、を有する。ケーシング(3)は、吐出管(5)へ流体を案内する舌部(35)と、羽根車(10)から軸方向に離間して羽根車(10)に面する少なくとも1つの内側壁面(31、32)とを備える。羽根車(10)とケーシング(3)の少なくとも1つの内側壁面(31、32)との間に流体流路(7)が画定される。かかる流体機械はさらに、流体流路(7)において発生し得る、流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するために、ケーシング(3)の少なくとも1つの内側壁面(31、32)に、渦発生抑制構造(50、52)を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体機械に関し、特に、少流量運転を行った場合に運転中に羽根車とケーシングの内側壁面との間の軸方向の間隙に発生する、流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するための渦発生抑制構造を備える流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、一般的な流体機械の一例である遠心ポンプ100の断面図を示している。流体はケーシング102の中心部に位置する吸込口104から入る。その後、流体は、ケーシング内部で回転運動する羽根車106により加速され、舌部108によりケーシング102から吐出し口110の方向へ案内される。吐出し口110の方向へ案内された流体は、吐出し流路112で減速(昇圧)されて、吐出し口110から高圧状態で流出する。
【0003】
しばしば、遠心ポンプのような流体機械において少流量運転を行った場合、ポンプから騒音・振動が発生する現象が生じることがある。これは、一例として図2に示すような、ポンプのいわゆるQ−H特性(静特性)において、小流量範囲において見られる右上がりの不安定領域(図2の破線で囲まれた領域)と呼ばれる部分で流体機械を運転した場合に生じる。図2のグラフにおいて、Qは流体機械の流量(L/min)、Hは揚程(m)を示す。このような不安定領域で運転した場合に生じる騒音・振動を回避する方策として、従来はポンプの定格運転範囲の下限を上げ、この下限より大きな流量で運転をするようにしてきた。
【0004】
ポンプに発生する不安定領域を改善する技術として、ポンプの少流量運転時の不安定領域において羽根車への入口部に生じる再循環流を抑制することにより、旋回失速等を抑制し、不安定領域を改善させるものがある(特許文献1)。また、特許文献2、3においても不安定領域を改善する技術が開示されている。これらの従来技術は、いずれも羽根車への入口付近においてケーシングに各種の手段を講じることにより、ポンプの不安定動作を改善するものである。
【0005】
また、特許文献4は、ケーシング内の舌部近傍の半径方向外側の領域に生じる渦を防止することにより、小流量運転時の不安定領域を改善する技術を開示している。
従来、一般に、ポンプの羽根車とケーシングの内側壁面との間の軸方向の間隙は、ポンプ性能に有意に影響を与えるため、極めて小さく設計されてきた。たとえば、羽根車の半径rに対して0.01r程度の間隙とされる。また、従来、不安定領域の原因は、羽根車への入口付近の流動現象が影響して生じていると考えられていた。そのため、従来技術においては、羽根車の入口近傍において、回転している羽根車との干渉を避けるために、ケーシングの内壁面を凹ませることにより達成されてきた(特許文献1、2、3など参照)。
【0006】
しかし、少流量運転時に騒音・振動の原因となる不安定領域での流動現象(再循環流やはく離)は、上述の文献に記載された羽根車への入口部や、舌部近傍の半径方向外側の領域以外のケーシング内部で生じることもある。そのため、上述の従来技術では十分な対策とならないことがある。
【0007】
羽根車の入り口付近や、舌部付近の半径方向外側の領域以外で生じる騒音・振動の原因となる流動現象を説明するために、一例として、国際公開第2009/096226号パンフレット(特許文献5)に開示されている流体機械を取り上げる。
【0008】
本願の発明者らは、国際公開第2009/096226号の図1に示されている形式の流体機械(以下「実験機」という)を製作し、実験的に性能特性(Q−H特性)の確認を行った。
【0009】
実験機の構成について説明する。図3は、実験機の縦断面図(A)、I−I線断面図(B)、および部分拡大図(C、D)である。実験機は、回転形式の流体機械を構成する遠心ポンプ1である。ポンプ1は、回転軸線X−Xを中心に同心に配置された回転駆動軸2、円形ケーシング3、流入管(吸引管)4および羽根車10を有する。羽根車10はケーシング3内に同心状に収容され、ポンプ1の主軸を構成する回転駆動軸2に一体的に連結される。回転駆動軸2は軸受6を貫通し、軸受に回転可能に支承される。回転駆動軸2は、電動モータ等の駆動源(図示せず)に連結される。ケーシング3の前側壁面31、後側壁面32および管状内周壁面33は、回転軸線X−Xを中心とした円形(円筒形または円柱形)のケーシング内領域(直径D、厚さS)を形成する。ケーシング内領域に配置された羽根車10の両側(前側および後側)には、液体流路7が形成される。
【0010】
流入管4は、回転軸線X−Xと同軸にケーシング3に接続される。流入管4には、液体供給管8(破線で示す)が接続される。液体供給管8は、液体供給源(図示せず)と連通する。吐出管5は、ケーシング3に略接線方向に接続される。吐出管5には液体送出管9(破線で示す)が接続される。液体送出管9は、任意の機器または配管系(図示せず)と連通する。
【0011】
遠心ポンプ1は、回転する羽根車10の作用により発生する遠心力の作用により、液体供給源の液体(水等)をケーシング3内に吸引する。図3(A)に矢印aで示すように、液体供給源の液体は、遠心ポンプ1の吸引圧力により各管路4、8を介して液体流路7内に流入する。液体流路7内の液体は、回転する羽根車10の遠心力の作用で羽根車10の外周部から外方に放出され、舌部35により液体流路7から吐出管5の方へ案内される。その後、液体は図3(B)に矢印bで示すように吐出管5に流出して後続の機器または配管系に送出される。
【0012】
図4、5は、羽根車10の構造を示す正面図(図4A)、断面図(図4B)および斜視図(図5)を示す。羽根車10は、ボス部13およびバランスホール14を有する中心部分11(直径d1の範囲)と、中心部分11を除く環状外側部分12(直径d2−d1の範囲)とから構成される。多数の放射溝15および外縁短溝16が環状外側部分12に形成される。放射溝15は、均一な角度間隔kを隔てて配置される。放射溝15および外縁短溝16の外端部は、羽根車10の外周面18において開口する。図5Bには、放射溝15の断面が示されている。溝15は、羽根車10の半径方向に連続的に延びる凹部または窪みからなり、放射状のチャネル流路を羽根車10の面に形成する。図5A、Bに示すように、陸部17が溝15の間に形成される。羽根車10の外縁部では、陸部17の幅は、溝15の幅wよりも大きい。羽根車10の外周帯域には、外縁短溝16が陸部17に形成される(図4A、5A)。
【0013】
ボス部13は、回転駆動軸2に嵌着し、回転駆動軸2に一体的に連結される。連通手段を構成するバランスホール14は、周方向に等間隔(60度の角度間隔)を隔てて中心部分11に形成され、中心部分11を貫通する。液体が流動する羽根車10の両側の領域(液体流路7)は、バランスホール14を介して流体連通する。
【0014】
多数の放射溝15は、羽根車10の中央領域において集合するので、隣接する放射溝15の境界が失われ、隣接する放射溝15は一体化する。この結果、多数の放射溝15は、羽根車の中央領域において環状に連続し、羽根車10の中心部分11には、放射溝15の溝底15aと連続するように全体的に羽根車10の面内に後退した円形または環状の側面11aが形成される。すなわち、羽根車10の中心部分11に形成された円形または環状の窪みまたは凹所は、放射溝15の集合であるといえる。
【0015】
実験機において、放射溝15および外縁短溝16は、同一の幅(w)および深さ(h)を有し、羽根車10の外周帯域において周方向に交互に配置される。実験機の羽根車およびケーシング等の寸法は、以下の通りである。
・中心部分11の直径d1=90mm
・羽根車10の直径(外形)d2=202mm
・放射溝15のみが形成された領域の直径d3=160mm
・溝の幅w=2mm
・溝の深さh=3mm
・放射溝15の本数=90本(各側部毎)
・外縁短溝16の本数=90本(各側部毎)
・角度間隔k=4°
・ケーシングの内側直径=206mm
・吐出し流路部の最低断面積部の直径=6mm
図4Bに示すように、羽根車10は、中心部分11において均一な厚さ寸法Tを有する。環状外側部分12の厚さは半径方向外側に向かって徐々に減少し、環状外側部分12の外周縁は最小寸法T´を有する。このように中心部分11の厚さを増大することにより、羽根車10の構造強度および剛性を確保するとともに、軽量化を図っている。
【0016】
以上の実験機1において、性能特性(Q−H特性)を確認する実験を行った。図2は、実験機1の回転速度3000min−1における、性能特性(Q−H特性)の実験結果を示している。図2より、本実験機は小流量域で右上がりの特性(破線で囲まれた領域)を有していることが分かる。一般に、図2に示されるような右上がり領域において流体機械を運転した場合、出力曲線と抵抗曲線の相関により様々な不安定状態になることが知られている。このような不安定状態は、流体機械の動作範囲を狭める要因と考えられている。発明者らが製作した実験機1においても、右上り領域(不安定領域)での運転時に騒音・振動が極めて大きくなり、他の領域での運転時によりも騒音・振動が極めて大きくなったことが実験により確認された。
【0017】
次に、実験機の右上り領域での騒音・振動の原因を解明するために、実験機の運転時における内部流動を、有限体積法を用いた流れ解析技術により可視化した。
図6に、実験機の運転時にける流れを定常流れとしてシミュレーションした結果を示す。図6は、実験機を運転した時の、ケーシング3の内側壁面と羽根車10との間の間隙における軸方向に直交する断面の流線を示している。図6Aは、最高効率点流量における運転時の流線を示し、図6Bは、最高効率点流量の50%の流量での運転時の流線を示し、図6Cは、最高効率点流量の25%の流量での運転時の流線を示す。
【0018】
図6Aから、最高効率点流量における運転時には、ケーシング内部の全体において渦等の特異な流動状態は生じていないことが分かる。しかし、図6B、図6Cから、流量が小さくなるのにしたがい、羽根車10の出口近傍における舌部35の半径方向内側に向かって、渦が徐々に発達していることが分かる。これは、本来であれば、つまり最高効率点付近の運転であれば、舌部35により吐出し流路へ案内されてポンプ外へ流れていくべき流体がポンプ内に滞留することにより、ケーシング内の流体の流れが乱れて渦が発達したものと考えられる。
【0019】
図6Cは上述の実験において大きな騒音・振動が発生し、Q−H特性でも右上がりの特性が確認された領域でのシミュレーション結果である。上述のQ−H特性を測定する実験、および図6の定常流れのシミュレーション結果から、ケーシングの内側壁面と羽根車との間に生じる渦が小流量運転時に発生する騒音・振動の原因の一因であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許公報第3841391号公報
【特許文献2】特許公報第3862135号公報
【特許文献3】特許公報第3862137号公報
【特許文献4】特許公報第3771794号公報
【特許文献5】国際公開第2009/096226号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
そこで、本発明は、小流量運転時に流体機械のケーシング内で生じていると予測される、好ましくない流動現象を改善し、性能(Q−H)特性の右上がり不安定領域の低減を図ることを目的とする。また、本発明は、流体機械の運転可能領域を拡大し、また、運転時の振動・騒音を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上述の知見に基づいて、流体機械の小流量運転時に発生する右上がりの不安定領域を改善し、小流量運転時の騒音・振動を抑制し、流体機械の運転範囲を拡大する方策を発明した。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、本発明の流体機械は、回転駆動される羽根車と羽根車を収容するケーシングとを有する。このケーシングは、吐出管へ流体を案内する舌部と、羽根車から軸方向に離間して羽根車に面する少なくとも1つの内側壁面とを備える。羽根車とケーシングの少なくとも1つの内側壁面との間に流体流路が画定される。この流体流路が画定される羽根車とケーシングの内側壁面との間の軸方向の間隙は、少なくとも一部の領域において1mm以上である。あるいは、羽車の半径をrとするとき、羽根車とケーシングの内側壁面との間の軸方向の間隙は、0.01r以上である。本実施形態による流体機械はさらに、ケーシングの内側壁面に、渦発生抑制構造を有する。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、流体流路において発生し得る、流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するためのものである。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、羽根車の半径をrとした場合、ケーシング中心部から0.3rから1.2rの領域に設けられる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、舌部の先端の近傍において、流体流路を画定する内側壁面に設けられる。舌部の先端の近傍とは、渦発生抑制構造が設けられなかった場合に、舌部により吐出し流路へ案内されてポンプ外へ流れていくべき流体がポンプ内に滞留することにより、ケーシング内の流体の流れが乱れて渦が発生すると考えられる場所である。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、ケーシングの内側壁面に形成される凹断面形状構造である。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、ケーシングの内側壁面に形成される凸断面形状構造である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は長手方向寸法を備え、渦発生抑制構造の長手方向は、ケーシングの半径方向に一致する。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は長手方向寸法を備え、渦発生抑制構造の長手方向は、ケーシングの半径方向から傾斜している。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、流体機械のためのケーシングが提供され、このケーシングは、回転駆動される羽根車を収容するように構成される。このケーシングは、吐出管へ流体を案内する舌部と、羽根車がケーシングに収容されたときに、羽根車から軸方向に離間して羽根車に面する、少なくとも1つの内側壁面と、を備える。羽根車がケーシングに収容されたときに、羽根車とケーシングの少なくとも1つの内側壁面との間に流体流路が画定される。ケーシングは、少なくとも1つの内側壁面に渦発生抑制構造を有する。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、流体流路において発生し得る、流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するためのものである。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、舌部の先端の近傍において、流体流路を画定する内側壁面に設けられる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、ケーシングの内側壁面に形成される凹断面形状構造である。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、ケーシングの内側壁面に形成される凸断面形状構造である。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は長手方向寸法を備え、渦発生抑制構造の長手方向は、ケーシングの半径方向に一致する。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は長手方向寸法を備え、渦発生抑制構造の長手方向は、ケーシングの半径方向から傾斜している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】一般的な遠心ポンプの断面図である。
【図2】実験機による遠心ポンプのQ−H特性を示すグラフである。
【図3】実験機の構成を示す縦断面図、I−I断面図、および部分拡大図である。
【図4】実験機の羽根車の構造を示す正面図および断面図である。
【図5】図4に示す羽根車の斜視図および部分拡大図である。
【図6】羽根車とケーシングとの間の間隙に形成される流れを示すシミュレーション結果を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による、渦発生抑制構造を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態による流体機械のQ−H特性を示すグラフである。
【図9】本発明による渦発生抑制構造の他の凹断面形状の例を示す図である。
【図10】本発明による渦発生抑制構造の配置例を示す図である。
【図11】本発明による渦発生抑制構造の配置例を示す図である。
【図12】本発明による渦発生抑制構造の配置例を示す図である。
【図13】実験機の羽根車とケーシングの前側側壁との間の軸方向の間隙を示す図である。
【図14】実験機において羽根車とケーシングの前側側壁との間の軸方向の間隙を変化させた場合のQ―H特性の測定結果を示すグラフである。
【図15】本発明の第2の実施形態による、渦発生抑制構造を示す図である。
【図16】本発明の第2の実施形態による流体機械のQ−H特性を示すグラフである。
【図17】本発明による渦発生抑制構造の他の凸断面形状の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による流体機械の小流量運転時に発生する右上がりの不安定領域を改善する実施形態を説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態を示す。この実施形態において、ケーシング3の前側壁面31に凹断面形状の渦発生抑制構造50が設けられる。渦発生抑制構造50は、舌部35近傍において、羽根車10と対面する領域に設けられる。換言すれば、渦発生抑制構造50は、前述したケーシング内領域(直径D、厚さS、図3参照)の前側側面31に設けられる。凹断面形状の渦発生抑制構造50以外の構成は、前述の実験機1と同様であるので説明を省略する。また、図7は、渦発生抑制構造50の特徴を明瞭にするために、それ以外の部分については省略または簡略化して図示している。なお、渦発生抑制構造50は、前側側面31ではなく後側壁面32に設けてもよく、また、前側側面31および後側壁面32の両方に設けてもよい。以下の実施形態の説明においては、前側側面に設けられた渦発生抑制構造について議論するが、同様に後側壁面32に設けることもできることを理解されたい。
【0034】
凹断面形状の渦発生抑制構造50を、ケーシング内領域に設けたのは以下の理由による。 図6に示すシミュレーション結果において、羽根車10とケーシング3の内壁との間において、舌部35付近のケーシング内領域に渦が発達していた。これは、本来であれば、つまり最高効率点付近の運転であれば、舌部から吐出し流路へ案内されてポンプ外へ流れていくべき流体がポンプ内に滞留することにより、ケーシング内の流体の流れが乱れて渦が発達したものと考えられる。そこで、本実施形態においては、渦が発達するであろう場所に凹断面形状の渦発生抑制構造50を設けた。この凹断面形状の渦発生抑制構造50を渦が発生し得る場所に設けることにより、ケーシング3内の渦流れが拡散され、凹断面形状の渦発生抑制構造50の側面に流れが当たることで大きな渦の発達が抑制されると考えられる。
【0035】
本実施形態のケーシング3の前側壁面31に設けられる凹断面形状の渦発生抑制構造50の寸法は、幅W=8mm、深さD=5mm、長手方向長さL=32mmである。図7の実施形態においては、長手方向はケーシング3の半径方向と一致するように配置される。図6の定常流れ解析で示されるように、渦は、流量の減少に伴ってケーシング3の半径方向内側に発達していくと考えられる。そのため、凹断面形状の渦発生抑制構造50の長手方向を、ケーシング3の半径方向と一致するように配置することが有利であると考えられる。
【0036】
図8に、本実施形態を適用した実験機のQ−H特性を測定した実験結果を示す。なお、図8の実験結果は、凹断面形状の渦発生抑制構造50以外については前述の図2の実験結果と同一の条件で行ったものである。図8は、比較のために渦発生抑制構造を設けていない結果(破線)とともに、本実施形態によるQ−H特性の実験結果(実線)を示している。図8Bは、図8Aの拡大図であり、渦発生抑制構造50を設けていない場合に不安定領域が生じた部分を拡大したものである。
【0037】
図8より、凹断面形状の渦発生抑制構造50を設けたことにより、小流量運転時の不安定領域の右上り特性が緩和されていることが分かる。また、実験時において、本実施形態の渦発生抑制構造50を設けることにより、騒音・振動が小さくなったことが確認された。これは、渦が発生し得る場所に凹断面形状構造50を設けることにより、ケーシング内の渦流れが拡散され、凹部50の側面に流れが当たることで大きな渦の発達が抑制されるからであると考えられる。
【0038】
なお、図7の実施形態においては、ケーシング前側壁面31に矩形の凹断面形状構造50を設けたが、凹断面形状の渦発生抑制構造50の形状および寸法を変更してもよい。図9にいくつかの凹断面形状の渦発生抑制構造50の例を示す。図9Aは半円形の断面形状であり、図9Bは多角形の断面形状であり、図9CはV形状の断面形状であり、図9Dは複数のV形状からなる断面形状である。渦発生抑制構造自体もポンプケーシング内においてはポンプ効率低下の遠因となり得るので、小流量域における運転状態において生じる渦の規模(スケール)や強さ(渦度)に応じて渦発生抑制構造を好適に設計することが望ましい。例えば大規模な渦を抑制する場合には、長手方向の寸法を大きくし、流れへの影響が少ない半円形の渦発生抑制構造を採用することが考えられる。また、スケールが大きくなく渦度が大きい渦が生じると予測される場合には、長手方向の寸法を小さくして、V形状の渦発生抑制構造を採用することが考えられる。これらの例のように、ケーシング内で生じている渦の状態に応じて、ポンプ効率への影響が小さくなるように適切な渦発生抑制機構を採用することが好ましい。
【0039】
第1の実施形態においては、羽根車10とケーシング3の前側壁面31との間において舌部35付近に発生する渦を抑制するために、渦発生抑制構造50を舌部35付近にのみ設けた。図6の流れ解析結果は定常流れとして解析したものであるが、非定常状態であれば、羽根車10の回転にともない羽根車10とケーシング3の内側壁面との間の渦は円周方向に移動(揺動)する可能性がある。そのため、ケーシング3の舌部35付近に発生した渦だけでなく、円周方向に移動した渦の発達を抑制するために、ケーシング3の舌部35付近だけでなく、円周方向の他の部分にも、単独で、または複数の渦発生抑制構造50を設けてもよい。図10は、舌部35付近から90°間隔で4つの渦発生抑制構造50を設けた実施形態を示している。
【0040】
また、図7に示す実施形態においては、凹断面形状構造50の長手方向がケーシング3の半径方向に一致しているが、他の例として、渦発生抑制構造50の長手方向を図11に示すように半径方向に対して傾斜するように配置することもできる。たとえば、図11の例においては、渦発生抑制構造50は、半径方向に対して約60°傾斜している。このような傾斜した渦発生抑制構造50は、渦が円周方向および半径方向の両方に移動するような流動状態が発生する場合に効果的であると考えられる。また、半径方向に対して傾斜する渦発生抑制構造50は、単独で設けても複数設けてもよい。さらに、渦発生抑制構造50の配置角度を、円周方向位置により変化させてもよい。たとえば、図12に示す例においては、舌部35近傍およびその半径方向の反対側では、渦発生抑制構造50の長手方向がケーシングの半径方向に一致しているが、他の2つの渦発生抑制構造50の長手方向は、半径方向から約60°傾斜している。
【0041】
以上のような渦発生抑制構造の形状、配置、寸法などは、本発明による開示を元に、流体機械の意図している用途、性能、生じる得る流動状態に応じて当業者が適宜選択できるであろう。
【0042】
次に本発明の第2の実施形態について説明する。まず、予備実験として、発明者らは、前述の実験機1において、ケーシング3の前側壁面31と羽根車10との間の間隙S1(図13参照)を、1mmから3mmまで変化させてQ−H特性等を確認する実験を行った。その結果を図14に示す。前述のように、一般に、ケーシング内壁と羽根車との間の間隙の変化は、ポンプ性能に大きな影響を及ぼすために、多くのポンプでは羽根車とケーシングとの間の隙間は、羽根車の半径rに対して0.01r以下で製作される。しかし、本実験機1においては、図14に示すように、0.03r程度の隙間でもポンプの性能に変化が見られなかった(国際公開第2009/096226号パンフレット、特に段落[0057]、図10(A)なども参照されたい)。
【0043】
そのため、本発明の第2の実施形態において、渦発生抑制構造の構造として、ケーシング前側壁面31より羽根車10側へ突出する凸断面形状構造52を採用することができる。
【0044】
図15は、本発明の第2実施形態の一例を示し、渦発生抑制構造として、舌部35近傍において、ケーシング内領域の前側壁面31に、凸断面形状の渦発生抑制構造52を設けている。この凸断面形状構造52の寸法は、幅W=8mm、高さH=2mm、長手方向長さL=32mmである。図15の例において、凸断面形状構造52の長手方向長さは、ケーシング3の半径方向と一致するように配置されている。
【0045】
第2の実施形態によるQ−H特性を測定した実験結果を図16に示す。図16は、比較のために、渦発生抑制構造を設けていない場合の実験結果(破線)とともに、本実施形態の実験機のQ−H特性を測定した実験結果(実線)を示している。図16Bは、図16Aの一部拡大図であり、渦発生抑制構造52を設けていない場合に不安定領域が生じた領域を拡大して示している。図16から分かるように、凸断面形状の渦発生抑制構造52を設けたことにより、小流量運転時の不安定領域の右上り特性が緩和されている。また、実験時において、凸断面形状の渦発生抑制構造52を設けたことにより、騒音・振動が小さくなったことが確認された。これは、渦が発生し得る場所に凸断面形状構造52を設けることにより、渦流れが発達する前に、凸部52に流れがぶつかり、渦の発達が抑制されるためであると考えられる。
【0046】
第1の実施形態による凹断面形状構造50の実験結果(図8)と、第2の実施形態による凸断面形状構造52の実験結果(図16)を比較すると、渦発生抑制構造として、凸断面形状構造52を採用した方が、右上り特性を抑制する効果が高いことが伺える。これは、以下の理由によるものと推察される。凹形状の渦発生抑制構造においては、渦が有する角運動量に対して相対的に旋回すべき流体量が増すために周方向速度が低減して渦の拡散を助長する。一方、凸形状の渦発生抑制構造においては、渦が通過する時に突起物が障害物となるため慣性抵抗が生じ、渦の旋回方向速度成分の動圧低減となる。凹形状における流体量増大による旋回速度低減による渦の拡散効果より、凸形状の障害物設置による直接的な動圧低減の方が渦の拡散効果がより高いと推察される。
【0047】
図15に示す第2の実施形態による凸断面形状構造52は、一例であり、流体機械の意図する用途、寸法、想定される流動状態に応じて、その形状および寸法を変更してもよい。図17は、凸断面形状構造52のいくつかの例を示している。図17Aは半円形の断面形状を示し、図17Bは多角形の断面形状を示し、図17CはV字状の突起の断面形状を示し、図17Dは複数のV字状の突起の断面形状を示している。また、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、凸断面形状構造の数、位置、角度等を変更してもよい。
【0048】
以上のように本願発明の実施形態を説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。また、上述の実施形態のそれぞれの特徴は互いに組み合わせまたは交換することができる。たとえば、凹断面形状の渦発生抑制構造の配置を、凸断面形状の渦発生抑制構造に適用することができる。また、複数の渦発生抑制構造を採用する場合に、一部において凸断面形状の渦発生抑制構造を採用し、他の部分に凹断面形状の渦発生抑制構造を採用するようにしてもよい。たとえば、渦の発生しやすい舌部付近においては、より渦発生抑制効果の高い凸断面形状の渦発生抑制構造を採用し、他の場所では凹断面形状の渦発生抑制構造を設けるようにしてもよい。また、複数の渦発生抑制構造を採用する場合に、配置場所によって、断面形状を変更してもよい。
【符号の説明】
【0049】
3 ケーシング
5 吐出管
7 流体流路(メリディアン流路断面)
10 羽根車
31 前側壁面
32 後側壁面
35 舌部
S1 軸方向の間隙
50 渦発生抑制構造
52 渦発生抑制構造
【技術分野】
【0001】
本発明は流体機械に関し、特に、少流量運転を行った場合に運転中に羽根車とケーシングの内側壁面との間の軸方向の間隙に発生する、流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するための渦発生抑制構造を備える流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、一般的な流体機械の一例である遠心ポンプ100の断面図を示している。流体はケーシング102の中心部に位置する吸込口104から入る。その後、流体は、ケーシング内部で回転運動する羽根車106により加速され、舌部108によりケーシング102から吐出し口110の方向へ案内される。吐出し口110の方向へ案内された流体は、吐出し流路112で減速(昇圧)されて、吐出し口110から高圧状態で流出する。
【0003】
しばしば、遠心ポンプのような流体機械において少流量運転を行った場合、ポンプから騒音・振動が発生する現象が生じることがある。これは、一例として図2に示すような、ポンプのいわゆるQ−H特性(静特性)において、小流量範囲において見られる右上がりの不安定領域(図2の破線で囲まれた領域)と呼ばれる部分で流体機械を運転した場合に生じる。図2のグラフにおいて、Qは流体機械の流量(L/min)、Hは揚程(m)を示す。このような不安定領域で運転した場合に生じる騒音・振動を回避する方策として、従来はポンプの定格運転範囲の下限を上げ、この下限より大きな流量で運転をするようにしてきた。
【0004】
ポンプに発生する不安定領域を改善する技術として、ポンプの少流量運転時の不安定領域において羽根車への入口部に生じる再循環流を抑制することにより、旋回失速等を抑制し、不安定領域を改善させるものがある(特許文献1)。また、特許文献2、3においても不安定領域を改善する技術が開示されている。これらの従来技術は、いずれも羽根車への入口付近においてケーシングに各種の手段を講じることにより、ポンプの不安定動作を改善するものである。
【0005】
また、特許文献4は、ケーシング内の舌部近傍の半径方向外側の領域に生じる渦を防止することにより、小流量運転時の不安定領域を改善する技術を開示している。
従来、一般に、ポンプの羽根車とケーシングの内側壁面との間の軸方向の間隙は、ポンプ性能に有意に影響を与えるため、極めて小さく設計されてきた。たとえば、羽根車の半径rに対して0.01r程度の間隙とされる。また、従来、不安定領域の原因は、羽根車への入口付近の流動現象が影響して生じていると考えられていた。そのため、従来技術においては、羽根車の入口近傍において、回転している羽根車との干渉を避けるために、ケーシングの内壁面を凹ませることにより達成されてきた(特許文献1、2、3など参照)。
【0006】
しかし、少流量運転時に騒音・振動の原因となる不安定領域での流動現象(再循環流やはく離)は、上述の文献に記載された羽根車への入口部や、舌部近傍の半径方向外側の領域以外のケーシング内部で生じることもある。そのため、上述の従来技術では十分な対策とならないことがある。
【0007】
羽根車の入り口付近や、舌部付近の半径方向外側の領域以外で生じる騒音・振動の原因となる流動現象を説明するために、一例として、国際公開第2009/096226号パンフレット(特許文献5)に開示されている流体機械を取り上げる。
【0008】
本願の発明者らは、国際公開第2009/096226号の図1に示されている形式の流体機械(以下「実験機」という)を製作し、実験的に性能特性(Q−H特性)の確認を行った。
【0009】
実験機の構成について説明する。図3は、実験機の縦断面図(A)、I−I線断面図(B)、および部分拡大図(C、D)である。実験機は、回転形式の流体機械を構成する遠心ポンプ1である。ポンプ1は、回転軸線X−Xを中心に同心に配置された回転駆動軸2、円形ケーシング3、流入管(吸引管)4および羽根車10を有する。羽根車10はケーシング3内に同心状に収容され、ポンプ1の主軸を構成する回転駆動軸2に一体的に連結される。回転駆動軸2は軸受6を貫通し、軸受に回転可能に支承される。回転駆動軸2は、電動モータ等の駆動源(図示せず)に連結される。ケーシング3の前側壁面31、後側壁面32および管状内周壁面33は、回転軸線X−Xを中心とした円形(円筒形または円柱形)のケーシング内領域(直径D、厚さS)を形成する。ケーシング内領域に配置された羽根車10の両側(前側および後側)には、液体流路7が形成される。
【0010】
流入管4は、回転軸線X−Xと同軸にケーシング3に接続される。流入管4には、液体供給管8(破線で示す)が接続される。液体供給管8は、液体供給源(図示せず)と連通する。吐出管5は、ケーシング3に略接線方向に接続される。吐出管5には液体送出管9(破線で示す)が接続される。液体送出管9は、任意の機器または配管系(図示せず)と連通する。
【0011】
遠心ポンプ1は、回転する羽根車10の作用により発生する遠心力の作用により、液体供給源の液体(水等)をケーシング3内に吸引する。図3(A)に矢印aで示すように、液体供給源の液体は、遠心ポンプ1の吸引圧力により各管路4、8を介して液体流路7内に流入する。液体流路7内の液体は、回転する羽根車10の遠心力の作用で羽根車10の外周部から外方に放出され、舌部35により液体流路7から吐出管5の方へ案内される。その後、液体は図3(B)に矢印bで示すように吐出管5に流出して後続の機器または配管系に送出される。
【0012】
図4、5は、羽根車10の構造を示す正面図(図4A)、断面図(図4B)および斜視図(図5)を示す。羽根車10は、ボス部13およびバランスホール14を有する中心部分11(直径d1の範囲)と、中心部分11を除く環状外側部分12(直径d2−d1の範囲)とから構成される。多数の放射溝15および外縁短溝16が環状外側部分12に形成される。放射溝15は、均一な角度間隔kを隔てて配置される。放射溝15および外縁短溝16の外端部は、羽根車10の外周面18において開口する。図5Bには、放射溝15の断面が示されている。溝15は、羽根車10の半径方向に連続的に延びる凹部または窪みからなり、放射状のチャネル流路を羽根車10の面に形成する。図5A、Bに示すように、陸部17が溝15の間に形成される。羽根車10の外縁部では、陸部17の幅は、溝15の幅wよりも大きい。羽根車10の外周帯域には、外縁短溝16が陸部17に形成される(図4A、5A)。
【0013】
ボス部13は、回転駆動軸2に嵌着し、回転駆動軸2に一体的に連結される。連通手段を構成するバランスホール14は、周方向に等間隔(60度の角度間隔)を隔てて中心部分11に形成され、中心部分11を貫通する。液体が流動する羽根車10の両側の領域(液体流路7)は、バランスホール14を介して流体連通する。
【0014】
多数の放射溝15は、羽根車10の中央領域において集合するので、隣接する放射溝15の境界が失われ、隣接する放射溝15は一体化する。この結果、多数の放射溝15は、羽根車の中央領域において環状に連続し、羽根車10の中心部分11には、放射溝15の溝底15aと連続するように全体的に羽根車10の面内に後退した円形または環状の側面11aが形成される。すなわち、羽根車10の中心部分11に形成された円形または環状の窪みまたは凹所は、放射溝15の集合であるといえる。
【0015】
実験機において、放射溝15および外縁短溝16は、同一の幅(w)および深さ(h)を有し、羽根車10の外周帯域において周方向に交互に配置される。実験機の羽根車およびケーシング等の寸法は、以下の通りである。
・中心部分11の直径d1=90mm
・羽根車10の直径(外形)d2=202mm
・放射溝15のみが形成された領域の直径d3=160mm
・溝の幅w=2mm
・溝の深さh=3mm
・放射溝15の本数=90本(各側部毎)
・外縁短溝16の本数=90本(各側部毎)
・角度間隔k=4°
・ケーシングの内側直径=206mm
・吐出し流路部の最低断面積部の直径=6mm
図4Bに示すように、羽根車10は、中心部分11において均一な厚さ寸法Tを有する。環状外側部分12の厚さは半径方向外側に向かって徐々に減少し、環状外側部分12の外周縁は最小寸法T´を有する。このように中心部分11の厚さを増大することにより、羽根車10の構造強度および剛性を確保するとともに、軽量化を図っている。
【0016】
以上の実験機1において、性能特性(Q−H特性)を確認する実験を行った。図2は、実験機1の回転速度3000min−1における、性能特性(Q−H特性)の実験結果を示している。図2より、本実験機は小流量域で右上がりの特性(破線で囲まれた領域)を有していることが分かる。一般に、図2に示されるような右上がり領域において流体機械を運転した場合、出力曲線と抵抗曲線の相関により様々な不安定状態になることが知られている。このような不安定状態は、流体機械の動作範囲を狭める要因と考えられている。発明者らが製作した実験機1においても、右上り領域(不安定領域)での運転時に騒音・振動が極めて大きくなり、他の領域での運転時によりも騒音・振動が極めて大きくなったことが実験により確認された。
【0017】
次に、実験機の右上り領域での騒音・振動の原因を解明するために、実験機の運転時における内部流動を、有限体積法を用いた流れ解析技術により可視化した。
図6に、実験機の運転時にける流れを定常流れとしてシミュレーションした結果を示す。図6は、実験機を運転した時の、ケーシング3の内側壁面と羽根車10との間の間隙における軸方向に直交する断面の流線を示している。図6Aは、最高効率点流量における運転時の流線を示し、図6Bは、最高効率点流量の50%の流量での運転時の流線を示し、図6Cは、最高効率点流量の25%の流量での運転時の流線を示す。
【0018】
図6Aから、最高効率点流量における運転時には、ケーシング内部の全体において渦等の特異な流動状態は生じていないことが分かる。しかし、図6B、図6Cから、流量が小さくなるのにしたがい、羽根車10の出口近傍における舌部35の半径方向内側に向かって、渦が徐々に発達していることが分かる。これは、本来であれば、つまり最高効率点付近の運転であれば、舌部35により吐出し流路へ案内されてポンプ外へ流れていくべき流体がポンプ内に滞留することにより、ケーシング内の流体の流れが乱れて渦が発達したものと考えられる。
【0019】
図6Cは上述の実験において大きな騒音・振動が発生し、Q−H特性でも右上がりの特性が確認された領域でのシミュレーション結果である。上述のQ−H特性を測定する実験、および図6の定常流れのシミュレーション結果から、ケーシングの内側壁面と羽根車との間に生じる渦が小流量運転時に発生する騒音・振動の原因の一因であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許公報第3841391号公報
【特許文献2】特許公報第3862135号公報
【特許文献3】特許公報第3862137号公報
【特許文献4】特許公報第3771794号公報
【特許文献5】国際公開第2009/096226号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
そこで、本発明は、小流量運転時に流体機械のケーシング内で生じていると予測される、好ましくない流動現象を改善し、性能(Q−H)特性の右上がり不安定領域の低減を図ることを目的とする。また、本発明は、流体機械の運転可能領域を拡大し、また、運転時の振動・騒音を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上述の知見に基づいて、流体機械の小流量運転時に発生する右上がりの不安定領域を改善し、小流量運転時の騒音・振動を抑制し、流体機械の運転範囲を拡大する方策を発明した。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、本発明の流体機械は、回転駆動される羽根車と羽根車を収容するケーシングとを有する。このケーシングは、吐出管へ流体を案内する舌部と、羽根車から軸方向に離間して羽根車に面する少なくとも1つの内側壁面とを備える。羽根車とケーシングの少なくとも1つの内側壁面との間に流体流路が画定される。この流体流路が画定される羽根車とケーシングの内側壁面との間の軸方向の間隙は、少なくとも一部の領域において1mm以上である。あるいは、羽車の半径をrとするとき、羽根車とケーシングの内側壁面との間の軸方向の間隙は、0.01r以上である。本実施形態による流体機械はさらに、ケーシングの内側壁面に、渦発生抑制構造を有する。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、流体流路において発生し得る、流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するためのものである。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、羽根車の半径をrとした場合、ケーシング中心部から0.3rから1.2rの領域に設けられる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、舌部の先端の近傍において、流体流路を画定する内側壁面に設けられる。舌部の先端の近傍とは、渦発生抑制構造が設けられなかった場合に、舌部により吐出し流路へ案内されてポンプ外へ流れていくべき流体がポンプ内に滞留することにより、ケーシング内の流体の流れが乱れて渦が発生すると考えられる場所である。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、ケーシングの内側壁面に形成される凹断面形状構造である。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、ケーシングの内側壁面に形成される凸断面形状構造である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は長手方向寸法を備え、渦発生抑制構造の長手方向は、ケーシングの半径方向に一致する。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は長手方向寸法を備え、渦発生抑制構造の長手方向は、ケーシングの半径方向から傾斜している。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、流体機械のためのケーシングが提供され、このケーシングは、回転駆動される羽根車を収容するように構成される。このケーシングは、吐出管へ流体を案内する舌部と、羽根車がケーシングに収容されたときに、羽根車から軸方向に離間して羽根車に面する、少なくとも1つの内側壁面と、を備える。羽根車がケーシングに収容されたときに、羽根車とケーシングの少なくとも1つの内側壁面との間に流体流路が画定される。ケーシングは、少なくとも1つの内側壁面に渦発生抑制構造を有する。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、流体流路において発生し得る、流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するためのものである。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、舌部の先端の近傍において、流体流路を画定する内側壁面に設けられる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、ケーシングの内側壁面に形成される凹断面形状構造である。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は、ケーシングの内側壁面に形成される凸断面形状構造である。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は長手方向寸法を備え、渦発生抑制構造の長手方向は、ケーシングの半径方向に一致する。
本発明の好ましい実施形態によれば、渦発生抑制構造は長手方向寸法を備え、渦発生抑制構造の長手方向は、ケーシングの半径方向から傾斜している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】一般的な遠心ポンプの断面図である。
【図2】実験機による遠心ポンプのQ−H特性を示すグラフである。
【図3】実験機の構成を示す縦断面図、I−I断面図、および部分拡大図である。
【図4】実験機の羽根車の構造を示す正面図および断面図である。
【図5】図4に示す羽根車の斜視図および部分拡大図である。
【図6】羽根車とケーシングとの間の間隙に形成される流れを示すシミュレーション結果を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による、渦発生抑制構造を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態による流体機械のQ−H特性を示すグラフである。
【図9】本発明による渦発生抑制構造の他の凹断面形状の例を示す図である。
【図10】本発明による渦発生抑制構造の配置例を示す図である。
【図11】本発明による渦発生抑制構造の配置例を示す図である。
【図12】本発明による渦発生抑制構造の配置例を示す図である。
【図13】実験機の羽根車とケーシングの前側側壁との間の軸方向の間隙を示す図である。
【図14】実験機において羽根車とケーシングの前側側壁との間の軸方向の間隙を変化させた場合のQ―H特性の測定結果を示すグラフである。
【図15】本発明の第2の実施形態による、渦発生抑制構造を示す図である。
【図16】本発明の第2の実施形態による流体機械のQ−H特性を示すグラフである。
【図17】本発明による渦発生抑制構造の他の凸断面形状の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による流体機械の小流量運転時に発生する右上がりの不安定領域を改善する実施形態を説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態を示す。この実施形態において、ケーシング3の前側壁面31に凹断面形状の渦発生抑制構造50が設けられる。渦発生抑制構造50は、舌部35近傍において、羽根車10と対面する領域に設けられる。換言すれば、渦発生抑制構造50は、前述したケーシング内領域(直径D、厚さS、図3参照)の前側側面31に設けられる。凹断面形状の渦発生抑制構造50以外の構成は、前述の実験機1と同様であるので説明を省略する。また、図7は、渦発生抑制構造50の特徴を明瞭にするために、それ以外の部分については省略または簡略化して図示している。なお、渦発生抑制構造50は、前側側面31ではなく後側壁面32に設けてもよく、また、前側側面31および後側壁面32の両方に設けてもよい。以下の実施形態の説明においては、前側側面に設けられた渦発生抑制構造について議論するが、同様に後側壁面32に設けることもできることを理解されたい。
【0034】
凹断面形状の渦発生抑制構造50を、ケーシング内領域に設けたのは以下の理由による。 図6に示すシミュレーション結果において、羽根車10とケーシング3の内壁との間において、舌部35付近のケーシング内領域に渦が発達していた。これは、本来であれば、つまり最高効率点付近の運転であれば、舌部から吐出し流路へ案内されてポンプ外へ流れていくべき流体がポンプ内に滞留することにより、ケーシング内の流体の流れが乱れて渦が発達したものと考えられる。そこで、本実施形態においては、渦が発達するであろう場所に凹断面形状の渦発生抑制構造50を設けた。この凹断面形状の渦発生抑制構造50を渦が発生し得る場所に設けることにより、ケーシング3内の渦流れが拡散され、凹断面形状の渦発生抑制構造50の側面に流れが当たることで大きな渦の発達が抑制されると考えられる。
【0035】
本実施形態のケーシング3の前側壁面31に設けられる凹断面形状の渦発生抑制構造50の寸法は、幅W=8mm、深さD=5mm、長手方向長さL=32mmである。図7の実施形態においては、長手方向はケーシング3の半径方向と一致するように配置される。図6の定常流れ解析で示されるように、渦は、流量の減少に伴ってケーシング3の半径方向内側に発達していくと考えられる。そのため、凹断面形状の渦発生抑制構造50の長手方向を、ケーシング3の半径方向と一致するように配置することが有利であると考えられる。
【0036】
図8に、本実施形態を適用した実験機のQ−H特性を測定した実験結果を示す。なお、図8の実験結果は、凹断面形状の渦発生抑制構造50以外については前述の図2の実験結果と同一の条件で行ったものである。図8は、比較のために渦発生抑制構造を設けていない結果(破線)とともに、本実施形態によるQ−H特性の実験結果(実線)を示している。図8Bは、図8Aの拡大図であり、渦発生抑制構造50を設けていない場合に不安定領域が生じた部分を拡大したものである。
【0037】
図8より、凹断面形状の渦発生抑制構造50を設けたことにより、小流量運転時の不安定領域の右上り特性が緩和されていることが分かる。また、実験時において、本実施形態の渦発生抑制構造50を設けることにより、騒音・振動が小さくなったことが確認された。これは、渦が発生し得る場所に凹断面形状構造50を設けることにより、ケーシング内の渦流れが拡散され、凹部50の側面に流れが当たることで大きな渦の発達が抑制されるからであると考えられる。
【0038】
なお、図7の実施形態においては、ケーシング前側壁面31に矩形の凹断面形状構造50を設けたが、凹断面形状の渦発生抑制構造50の形状および寸法を変更してもよい。図9にいくつかの凹断面形状の渦発生抑制構造50の例を示す。図9Aは半円形の断面形状であり、図9Bは多角形の断面形状であり、図9CはV形状の断面形状であり、図9Dは複数のV形状からなる断面形状である。渦発生抑制構造自体もポンプケーシング内においてはポンプ効率低下の遠因となり得るので、小流量域における運転状態において生じる渦の規模(スケール)や強さ(渦度)に応じて渦発生抑制構造を好適に設計することが望ましい。例えば大規模な渦を抑制する場合には、長手方向の寸法を大きくし、流れへの影響が少ない半円形の渦発生抑制構造を採用することが考えられる。また、スケールが大きくなく渦度が大きい渦が生じると予測される場合には、長手方向の寸法を小さくして、V形状の渦発生抑制構造を採用することが考えられる。これらの例のように、ケーシング内で生じている渦の状態に応じて、ポンプ効率への影響が小さくなるように適切な渦発生抑制機構を採用することが好ましい。
【0039】
第1の実施形態においては、羽根車10とケーシング3の前側壁面31との間において舌部35付近に発生する渦を抑制するために、渦発生抑制構造50を舌部35付近にのみ設けた。図6の流れ解析結果は定常流れとして解析したものであるが、非定常状態であれば、羽根車10の回転にともない羽根車10とケーシング3の内側壁面との間の渦は円周方向に移動(揺動)する可能性がある。そのため、ケーシング3の舌部35付近に発生した渦だけでなく、円周方向に移動した渦の発達を抑制するために、ケーシング3の舌部35付近だけでなく、円周方向の他の部分にも、単独で、または複数の渦発生抑制構造50を設けてもよい。図10は、舌部35付近から90°間隔で4つの渦発生抑制構造50を設けた実施形態を示している。
【0040】
また、図7に示す実施形態においては、凹断面形状構造50の長手方向がケーシング3の半径方向に一致しているが、他の例として、渦発生抑制構造50の長手方向を図11に示すように半径方向に対して傾斜するように配置することもできる。たとえば、図11の例においては、渦発生抑制構造50は、半径方向に対して約60°傾斜している。このような傾斜した渦発生抑制構造50は、渦が円周方向および半径方向の両方に移動するような流動状態が発生する場合に効果的であると考えられる。また、半径方向に対して傾斜する渦発生抑制構造50は、単独で設けても複数設けてもよい。さらに、渦発生抑制構造50の配置角度を、円周方向位置により変化させてもよい。たとえば、図12に示す例においては、舌部35近傍およびその半径方向の反対側では、渦発生抑制構造50の長手方向がケーシングの半径方向に一致しているが、他の2つの渦発生抑制構造50の長手方向は、半径方向から約60°傾斜している。
【0041】
以上のような渦発生抑制構造の形状、配置、寸法などは、本発明による開示を元に、流体機械の意図している用途、性能、生じる得る流動状態に応じて当業者が適宜選択できるであろう。
【0042】
次に本発明の第2の実施形態について説明する。まず、予備実験として、発明者らは、前述の実験機1において、ケーシング3の前側壁面31と羽根車10との間の間隙S1(図13参照)を、1mmから3mmまで変化させてQ−H特性等を確認する実験を行った。その結果を図14に示す。前述のように、一般に、ケーシング内壁と羽根車との間の間隙の変化は、ポンプ性能に大きな影響を及ぼすために、多くのポンプでは羽根車とケーシングとの間の隙間は、羽根車の半径rに対して0.01r以下で製作される。しかし、本実験機1においては、図14に示すように、0.03r程度の隙間でもポンプの性能に変化が見られなかった(国際公開第2009/096226号パンフレット、特に段落[0057]、図10(A)なども参照されたい)。
【0043】
そのため、本発明の第2の実施形態において、渦発生抑制構造の構造として、ケーシング前側壁面31より羽根車10側へ突出する凸断面形状構造52を採用することができる。
【0044】
図15は、本発明の第2実施形態の一例を示し、渦発生抑制構造として、舌部35近傍において、ケーシング内領域の前側壁面31に、凸断面形状の渦発生抑制構造52を設けている。この凸断面形状構造52の寸法は、幅W=8mm、高さH=2mm、長手方向長さL=32mmである。図15の例において、凸断面形状構造52の長手方向長さは、ケーシング3の半径方向と一致するように配置されている。
【0045】
第2の実施形態によるQ−H特性を測定した実験結果を図16に示す。図16は、比較のために、渦発生抑制構造を設けていない場合の実験結果(破線)とともに、本実施形態の実験機のQ−H特性を測定した実験結果(実線)を示している。図16Bは、図16Aの一部拡大図であり、渦発生抑制構造52を設けていない場合に不安定領域が生じた領域を拡大して示している。図16から分かるように、凸断面形状の渦発生抑制構造52を設けたことにより、小流量運転時の不安定領域の右上り特性が緩和されている。また、実験時において、凸断面形状の渦発生抑制構造52を設けたことにより、騒音・振動が小さくなったことが確認された。これは、渦が発生し得る場所に凸断面形状構造52を設けることにより、渦流れが発達する前に、凸部52に流れがぶつかり、渦の発達が抑制されるためであると考えられる。
【0046】
第1の実施形態による凹断面形状構造50の実験結果(図8)と、第2の実施形態による凸断面形状構造52の実験結果(図16)を比較すると、渦発生抑制構造として、凸断面形状構造52を採用した方が、右上り特性を抑制する効果が高いことが伺える。これは、以下の理由によるものと推察される。凹形状の渦発生抑制構造においては、渦が有する角運動量に対して相対的に旋回すべき流体量が増すために周方向速度が低減して渦の拡散を助長する。一方、凸形状の渦発生抑制構造においては、渦が通過する時に突起物が障害物となるため慣性抵抗が生じ、渦の旋回方向速度成分の動圧低減となる。凹形状における流体量増大による旋回速度低減による渦の拡散効果より、凸形状の障害物設置による直接的な動圧低減の方が渦の拡散効果がより高いと推察される。
【0047】
図15に示す第2の実施形態による凸断面形状構造52は、一例であり、流体機械の意図する用途、寸法、想定される流動状態に応じて、その形状および寸法を変更してもよい。図17は、凸断面形状構造52のいくつかの例を示している。図17Aは半円形の断面形状を示し、図17Bは多角形の断面形状を示し、図17CはV字状の突起の断面形状を示し、図17Dは複数のV字状の突起の断面形状を示している。また、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、凸断面形状構造の数、位置、角度等を変更してもよい。
【0048】
以上のように本願発明の実施形態を説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。また、上述の実施形態のそれぞれの特徴は互いに組み合わせまたは交換することができる。たとえば、凹断面形状の渦発生抑制構造の配置を、凸断面形状の渦発生抑制構造に適用することができる。また、複数の渦発生抑制構造を採用する場合に、一部において凸断面形状の渦発生抑制構造を採用し、他の部分に凹断面形状の渦発生抑制構造を採用するようにしてもよい。たとえば、渦の発生しやすい舌部付近においては、より渦発生抑制効果の高い凸断面形状の渦発生抑制構造を採用し、他の場所では凹断面形状の渦発生抑制構造を設けるようにしてもよい。また、複数の渦発生抑制構造を採用する場合に、配置場所によって、断面形状を変更してもよい。
【符号の説明】
【0049】
3 ケーシング
5 吐出管
7 流体流路(メリディアン流路断面)
10 羽根車
31 前側壁面
32 後側壁面
35 舌部
S1 軸方向の間隙
50 渦発生抑制構造
52 渦発生抑制構造
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される羽根車(10)と、
前記羽根車(10)を収容するケーシング(3)と、を有する流体機械であって、
前記ケーシング(3)は、吐出管(5)へ流体を案内する舌部(35)と、前記羽根車(10)から軸方向に離間して前記羽根車(10)に面する、少なくとも1つの内側壁面(31、32)とを備え、前記羽根車(10)と前記ケーシング(3)の前記少なくとも1つの内側壁面(31、32)との間に流体流路(7)が画定され、
前記流体機械はさらに、前記ケーシング(3)の前記少なくとも1つの内側壁面(31、32)に、渦発生抑制構造(50、52)を有する、流体機械。
【請求項2】
請求項1に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記流体流路(7)において発生し得る、前記流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するためのものである、流体機械。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記羽根車(10)の半径をrとした場合、前記ケーシング(3)の中心部から0.3rから1.2rの領域に設けられる、流体機械。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記舌部(35)の先端の近傍において、前記流体流路(7)を画定する前記内側壁面(31、32)に設けられる、流体機械。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記ケーシング(3)の前記内側壁面(31、32)に形成される凹断面形状構造(50)である、流体機械。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記ケーシング(3)の前記内側壁面(31、32)に形成される凸断面形状構造(52)である、流体機械。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は長手方向寸法を備え、前記渦発生抑制構造(50、52)の長手方向は、前記ケーシング(3)の半径方向に一致する、流体機械。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は長手方向寸法を備え、前記渦発生抑制構造(50、52)の長手方向は、前記ケーシング(3)の半径方向から傾斜している、流体機械。
【請求項9】
流体機械のためのケーシング(3)であって、
前記ケーシング(3)は、回転駆動される羽根車(10)を収容するように構成され、
前記ケーシング(3)は、吐出管(5)へ流体を案内する舌部(35)と、前記羽根車(10)が前記ケーシング(3)に収容されたときに、前記羽根車(10)から軸方向に離間して前記羽根車(10)に面する、少なくとも1つの内側壁面(31、32)と、を備え、
前記羽根車(10)が前記ケーシング(3)に収容されたときに、前記羽根車(10)と前記ケーシング(3)の前記少なくとも1つの内側壁面(31、32)との間に流体流路(7)が画定され、
前記ケーシング(3)は、前記少なくとも1つの内側壁面(31、32)に渦発生抑制構造(50、52)を有する、ケーシング。
【請求項10】
請求項9に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記流体流路(7)において発生し得る、前記流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するためのものである、ケーシング。
【請求項11】
請求項9または10に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記舌部(35)の先端の近傍において、前記流体流路(7)を画定する前記内側壁面(31、32)に設けられる、ケーシング機械。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか一項に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記ケーシング(3)の前記内側壁面(31、32)に形成される凹断面形状構造(50)である、ケーシング。
【請求項13】
請求項9乃至11のいずれか一項に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記ケーシング(3)の前記内側壁面(31、32)に形成される凸断面形状構造(52)である、ケーシング。
【請求項14】
請求項9乃至13のいずれか一項に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は長手方向寸法を備え、前記渦発生抑制構造(50、52)の長手方向は、前記ケーシング(3)の半径方向に一致する、ケーシング。
【請求項15】
請求項9乃至13のいずれか一項に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は長手方向寸法を備え、前記渦発生抑制構造(50、52)の長手方向は、前記ケーシング(3)の半径方向から傾斜している、ケーシング。
【請求項1】
回転駆動される羽根車(10)と、
前記羽根車(10)を収容するケーシング(3)と、を有する流体機械であって、
前記ケーシング(3)は、吐出管(5)へ流体を案内する舌部(35)と、前記羽根車(10)から軸方向に離間して前記羽根車(10)に面する、少なくとも1つの内側壁面(31、32)とを備え、前記羽根車(10)と前記ケーシング(3)の前記少なくとも1つの内側壁面(31、32)との間に流体流路(7)が画定され、
前記流体機械はさらに、前記ケーシング(3)の前記少なくとも1つの内側壁面(31、32)に、渦発生抑制構造(50、52)を有する、流体機械。
【請求項2】
請求項1に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記流体流路(7)において発生し得る、前記流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するためのものである、流体機械。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記羽根車(10)の半径をrとした場合、前記ケーシング(3)の中心部から0.3rから1.2rの領域に設けられる、流体機械。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記舌部(35)の先端の近傍において、前記流体流路(7)を画定する前記内側壁面(31、32)に設けられる、流体機械。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記ケーシング(3)の前記内側壁面(31、32)に形成される凹断面形状構造(50)である、流体機械。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記ケーシング(3)の前記内側壁面(31、32)に形成される凸断面形状構造(52)である、流体機械。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は長手方向寸法を備え、前記渦発生抑制構造(50、52)の長手方向は、前記ケーシング(3)の半径方向に一致する、流体機械。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の流体機械であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は長手方向寸法を備え、前記渦発生抑制構造(50、52)の長手方向は、前記ケーシング(3)の半径方向から傾斜している、流体機械。
【請求項9】
流体機械のためのケーシング(3)であって、
前記ケーシング(3)は、回転駆動される羽根車(10)を収容するように構成され、
前記ケーシング(3)は、吐出管(5)へ流体を案内する舌部(35)と、前記羽根車(10)が前記ケーシング(3)に収容されたときに、前記羽根車(10)から軸方向に離間して前記羽根車(10)に面する、少なくとも1つの内側壁面(31、32)と、を備え、
前記羽根車(10)が前記ケーシング(3)に収容されたときに、前記羽根車(10)と前記ケーシング(3)の前記少なくとも1つの内側壁面(31、32)との間に流体流路(7)が画定され、
前記ケーシング(3)は、前記少なくとも1つの内側壁面(31、32)に渦発生抑制構造(50、52)を有する、ケーシング。
【請求項10】
請求項9に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記流体流路(7)において発生し得る、前記流体機械の不安定動作を引き起こす渦の発生を抑制するためのものである、ケーシング。
【請求項11】
請求項9または10に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記舌部(35)の先端の近傍において、前記流体流路(7)を画定する前記内側壁面(31、32)に設けられる、ケーシング機械。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか一項に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記ケーシング(3)の前記内側壁面(31、32)に形成される凹断面形状構造(50)である、ケーシング。
【請求項13】
請求項9乃至11のいずれか一項に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は、前記ケーシング(3)の前記内側壁面(31、32)に形成される凸断面形状構造(52)である、ケーシング。
【請求項14】
請求項9乃至13のいずれか一項に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は長手方向寸法を備え、前記渦発生抑制構造(50、52)の長手方向は、前記ケーシング(3)の半径方向に一致する、ケーシング。
【請求項15】
請求項9乃至13のいずれか一項に記載のケーシング(3)であって、
前記渦発生抑制構造(50、52)は長手方向寸法を備え、前記渦発生抑制構造(50、52)の長手方向は、前記ケーシング(3)の半径方向から傾斜している、ケーシング。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−32715(P2013−32715A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168240(P2011−168240)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
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