説明

流体漏洩模擬装置

【課題】クロロシラン類等、大気と激しく反応する流体の漏洩を安全に模擬して、漏洩に対する感知能力向上のための教育、訓練等に使用可能な流体漏洩模擬装置を提供する。
【解決手段】少なくとも一部に内部を目視可能な透明部26を有する容器1と、該容器内1に設けられ容器1の中で試料流体の一部を漏洩可能に流通させる漏洩モデル管5と、容器1内雰囲気を導出可能なサンプリング管27と、容器1内に漏洩した試料流体の濃度を測定可能なガスセンサ28とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロシラン類等、大気と激しく反応する流体の漏洩を安全に模擬して、漏洩に対する感知能力向上のための教育、訓練等に使用可能な流体漏洩模擬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロシラン、テトラクロロシラン、ヘキサクロロジシランなどに代表されるクロロシラン類は半導体のエピタキシャル成長用材料および光ファイバー製造用プリフォームを製造するための原料として使用されている。これらクロロシラン類は、室温、大気圧化の状態では液体として存在しており、使用の際にはボンベ又はタンクから配管を通じて供給される手法が一般的である(特許文献1参照)。
【0003】
上記クロロシラン類は腐食性があり、配管のフランジ面の腐食、金属疲労によるピンホール、溶接部の亀裂などを生じ、液体の漏洩が生じると大気と反応して有害ガスを生じ、周囲の設備を腐食すると共に、人体へも悪影響を及ぼす。これらの漏洩をすばやく感知するためにガス漏洩検知装置などが開発されている(特許文献2、3参照)。
【特許文献1】特許第2866374号
【特許文献2】特公平4−73742号公報
【特許文献3】特開平11−166698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複雑な配管構造を有した設備や、規模の大きな設備では、これら検知装置だけでは迅速な漏洩検知が行えるとは言えず、作業者による定期的な巡回による点検も重要な漏洩検知手段となる。作業者が漏洩を発見するには、その状態を視覚や嗅覚で感知できる能力を身に付ける必要があるが、漏洩量が微量である場合、その臭気を検知するのは困難である。又、漏洩が生じた場合には白煙が発生するため、臭い以外の情報も重要となる。従って、クロロシラン漏洩を感知できる能力を身に付けるためには、長年の経験を要するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、クロロシラン類等、大気と激しく反応する流体の漏洩を安全に模擬して、漏洩に対する感知能力向上のための教育、訓練等に使用可能な流体漏洩模擬装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る流体漏洩模擬装置は、少なくとも一部に内部を目視可能な透明部を有する容器と、該容器内に設けられ容器の中で試料流体の一部を漏洩可能に流通させる漏洩モデル管と、前記容器内雰囲気を導出可能なサンプリング管と、前記容器内に漏洩した前記試料流体の濃度を測定可能なガスセンサとを備えることを特徴とする。
【0007】
すなわち、容器により囲まれた空間内で漏洩モデル管から試料流体を漏洩させ、その漏洩状況を容器の透明部を介して外部から目視することができるようになっている。また、漏洩流体が混じった容器内雰囲気の臭気をサンプリング管から嗅ぐことができ、その臭気と、ガスセンサによって測定した試料流体の濃度との相関から、臭気を定量的に把握することが可能になる。
なお、試料流体の漏洩により白煙が生じる場合は、透明部に対向する容器の内面を黒色としておくと、白煙の識別をより明確にすることができる。
【0008】
また、本発明に係る流体漏洩模擬装置において、前記容器の壁を貫通する供給側配管と排出側配管とを有するとともに、これら供給側配管と排出側配管との間に、これらを連結する前記漏洩モデル管が着脱可能に取り付けられている構成としてもよい。
漏洩モデル管をピンホール、継手接合部の腐食、割れ等の欠陥を想定した各種のものを用意しておき、これらを交換して使用することにより、これら欠陥に応じた種々の漏洩事象を模擬することができる。
【0009】
また、本発明に係る流体漏洩模擬装置において、前記容器内に空気又は不活性ガスを供給するガス供給管及び容器内のガスを排出して浄化する排ガス処理系が設けられている構成としてもよい。
容器内に漏洩した試料流体をガス供給管から供給するガスによって追い出し、排ガス処理系にて安全に浄化することができ、周囲雰囲気を汚染することなく処理することができる。
【0010】
また、本発明に係る流体漏洩模擬装置において、前記容器内雰囲気の圧力を制御する圧力制御手段が設けられている構成としてもよい。
容器内雰囲気の圧力を制御することにより、配管内圧力との差圧を変化させることができ、配管からの漏洩量等をコントロールすることが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る流体漏洩模擬装置によれば、容器内の閉じられた空間内で試料流体を漏洩させるので、クロロシラン類等、大気と激しく反応する流体であっても、周辺雰囲気を汚染することなく安全に漏洩を模擬することができ、その場合に、その試料流体の漏洩状況を透明部を介して外部から目視観察することができるとともに、サンプリング管から臭気を嗅ぐことができるので、漏洩に対する感知能力向上のための教育、訓練等に好適に利用することができる。しかも、サンプリング管からの臭気の感覚とガスセンサの測定値との相関が取れるため、臭気を定量的に把握することができ、正確な感知能力を身に付けることができるとともに、異なる作業者に対しても、同一濃度の試料流体の臭気を体験させることができ、能力の画一化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る流体漏洩模擬装置をクロロシランの漏洩を模擬する装置に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の流体漏洩模擬装置は、図1に示すように、模擬環境を形成するための密閉可能な容器1に配管2が貫通状態に設けられており、この配管2における容器1内の貫通部分に、フランジ3,4を介して漏洩モデル管5が着脱可能に取り付けられている。この配管2は、容器1の一方側が供給側配管6、他方側が排出側配管7とされている。供給側配管6は、クロロシランを貯留する供給側タンク8に接続されており、該供給側タンク8から供給されるクロロシランを流通するようになっている。また、排出側配管7は受け側タンク9に接続されており、供給側配管6から漏洩モデル管5を経由して供給されてきたクロロシランを流通させて、受け側タンク9に貯留するようになっている。
【0013】
また、供給側タンク8には、窒素等の不活性ガスによって液面を加圧してクロロシランを送り出す圧力配管11が接続され、一方、受け側タンク9には、エア抜き管12が接続されている。そして、これら供給側タンク8及び受け側タンク9に接続状態の供給側配管6及び排出側配管7において、これらの容器1内に挿入されている端部に前記フランジ3,4がそれぞれ一体に形成されている。
【0014】
漏洩モデル管5は、供給側配管6及び排出側配管7の両フランジ3,4に接続されるフランジ13,14が両端に一体に形成されるとともに、これらフランジ13,14の間に、図1に示す例ではフランジ継手15が形成された構成とされている。このフランジ継手15は、一対のフランジ16,17の間がシール部材18を介してボルト19とナット20により締結されてなるものであり、そのシール部材18に亀裂が形成されていることにより、図1の破線で囲った部分から試料が若干漏洩するようになっている。この破線で囲った部分を漏洩部Rと称す。
また、この漏洩モデル管としては、図1に示す構造のものの他に、図2に示す構造のものも用意されている。この図2に示す漏洩モデル管21は、一対のフランジ13,14の間にストレート状にパイプ22が形成され、このパイプ22の途中位置にピンホール23からなる漏洩部Rが形成された構成である。
【0015】
また、容器1は、正面を開放状態のケース25に、その開放部分を覆うように窓板26を固定して密閉する構成とされている。この場合、ケース25及び窓板26ともに透明なガラス又はアクリル樹脂により形成されているが、ケース25の外面が黒色に塗られていることにより、窓板26のみ透明部として構成されている。また、ケース25に対して窓板26が着脱可能とされており、該窓板26を外して内部を開放状態とすることにより、漏洩モデル管の装着や取り外しができるようになっている。
【0016】
そして、この容器1に、容器内雰囲気を導出可能なサンプリング管27と、容器1内に漏洩した試料流体の濃度を測定可能なガスセンサ28と、容器1内に空気又は不活性ガスを供給するガス供給管29と、このガス供給管29からガスが送り込まれることにより容器1内から排出されるガスを案内して浄化する排ガス処理系30と、容器1内の圧力を検出する圧力センサ31とが接続されている。
サンプリング管27は、漏洩モデル管5の漏洩部(図1に示す例の場合はフランジ継手15の外周の破線で囲った部分)Rに先端の開口が向けられており、漏洩した試料流体の一部を外部に導出できるようになっている。また、ガスセンサ28は、容器1には検知管32の先端部が挿入状態に設けられ、漏洩モデル管5の漏洩部Rに向けられている。
【0017】
図1中、符号41,42は容器1に貫通している配管2の入り口弁及び出口弁を示しており、符号43はサンプリング管27を開閉する弁を示している。また、ガス供給管29及び排ガス処理系30には、流量調整弁44,45が設けられており、これら流量調整弁44,45の開度を調整しながら容器1内の圧力を制御することが可能な構成とされている。そして、その圧力を圧力センサ31によって確認し、必要に応じてフィードバックしながら所望の圧力に設定することができるようになっている。つまり、これら流量調整弁44,45及び圧力センサ31によって容器1内の雰囲気圧力を制御する圧力制御手段が構成される。その他、供給側配管6及び受け側タンク9に接続されている各配管にも、その流路を開閉するための弁46が設けられている。また、符号47は排ガス処理系31に設けられたスクラバー等の除害機器を示している。
【0018】
次に、このように構成した流体漏洩模擬装置を用いてクロロシランの漏洩を模擬する使用方法について説明する。
まず、容器1の窓板26を外して、内部の供給側配管6及び排出側配管7の両フランジ3,4の間に、必要な漏洩モデル管(図1に示す例では漏洩モデル管5)を取り付け、窓板26により閉塞する。そして、供給側タンク8の圧力配管11から窒素等を供給側タンク8内に送り込むことにより、該供給側タンク8内のクロロシランを供給側配管6に送り出す。この供給側配管6から供給されるクロロシランは、容器1内で漏洩モデル管5内に送り込まれ、該漏洩モデル管5を経由して排出側配管7から受け側タンク9に案内される。この流れの途中で、漏洩モデル管5のフランジ継手15の漏洩部Rからクロロシランの一部が漏洩することになる。
【0019】
このクロロシランの漏洩により、漏洩部Rからシリカ成分による白煙が発生するが、その状況を容器1の透明な窓板26を通して外部から観察することができる。この場合、容器1のケース25は黒色に塗られているので、漏洩部Rから発生する白煙を明確に確認することができる。また、試料流体であるクロロシランは空気と反応した際に刺激臭が発生するが、サンプリング管27の弁43を開けると、容器1内の雰囲気の一部が導出され、その臭気を外部で嗅ぐことができる。このとき、ガスセンサ28の測定値を確認することにより、臭気を定量的に把握することが可能になる。したがって、正確な感知能力を身に付けることができるとともに、複数の異なる作業者に対しても、同一濃度の試料流体の臭気を体験させることができ、嗅覚による感知能力の画一化を図ることができる。
【0020】
また、ガス供給管29によって容器1内に空気又は不活性ガスを供給し、流量調整弁44,45の開度を調整して容器1内の圧力を制御することにより、漏洩モデル管5内の試料流体の圧力との差圧を制御することができ、その差圧に基づき漏洩モデル管5からの漏洩量を調整することができる。そして、この漏洩量の調整に伴うサンプリング管27からの臭気の感覚の変化と、ガスセンサ28の測定値の変化とを照合することにより、嗅覚による漏洩感知能力を訓練することができる。また、容器1の窓板26から漏洩の状況を目視可能であるので、ガスセンサ28の測定値に基づく漏洩量と、目視による白煙の発生状況とを対比しながら観察することができ、視覚による漏洩感知能力をも訓練することができる。
【0021】
したがって、このような漏洩模擬装置が存在しなかった従来の状況では、漏洩の感知能力を身に付けるのに長年の経験を要していたものが、この漏洩模擬装置による短時間の訓練で嗅覚、視覚とも感知能力を速やかに、しかも異なる作業者に対しても、同一濃度の臭気を体験させることができ、ガスセンサ28の測定値と対応付けながら、個人差を解消して画一化した正確な感知能力を身に付けることができるものである。
【0022】
以上のようにして模擬実験が終了したら、配管2の入り口弁41及び出口弁42、サンプリング管27の弁43等を閉じて、試料流体が外部に流出しないようにし、一方、ガス供給管29及び排ガス処理系30の弁44,45を開放した状態で、ガス供給管29から空気又は不活性ガスを容器1内に供給する。この操作により、容器1の内部雰囲気ガスは、排ガス処理系30に排出され、その除害機器47によって浄化される。
【0023】
また、容器1は、クロロシランの漏洩に伴い内面がシリカ成分によって白濁しているので、その白濁の程度に応じて全体を新たな容器に交換するか、窓板26のみを交換して、次の漏洩実験に備えておく。漏洩モデル管も漏洩部Rへのシリカ成分の付着の程度によって新たなものに交換する。この場合、漏洩モデル管は、配管2のフランジ3,4に着脱される構成であるので、両端のフランジ13,14のみ共通仕様として、種々の欠陥に対応したモデル管を用意することにより、あらゆる欠陥を想定した漏洩を模擬することができ反応により発生したシリカ分の形成形態および状況を詳細に観察することができる。
【0024】
なお、試料流体としてのクロロシラン類は、テトラクロロシラン、ヘキサクロロジシラン等が望ましく、危険物とならない程度にジクロロシラン、トリクロロシランを少量混合してもよい。その他にも、大気と接触すると激しく反応するような流体や、作業員の身体に付着しないように取り扱う必要のある流体等に広く適用することができる。
その他、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る流体漏洩模擬装置の一実施形態を示す全体構成図である。
【図2】図1の流体漏洩模擬装置に使用される漏洩モデル管の他の例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 容器
2 配管
3,4 フランジ
5 漏洩モデル管
6 供給側配管
7 排出側配管
8 供給側タンク
9 受け側タンク
11 圧力配管
12 エア抜き管
13,14 フランジ
15 フランジ継手
21 漏洩モデル管
22 パイプ
23 ピンホール
25 ケース
26 窓板(透明部)
27 サンプリング管
28 ガスセンサ
29 ガス供給管
30 排ガス処理系
31 圧力センサ
44,45 流量調整弁
47 除害機器
R 漏洩部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に内部を目視可能な透明部を有する容器と、該容器内に設けられ容器の中で試料流体の一部を漏洩可能に流通させる漏洩モデル管と、前記容器内雰囲気を導出可能なサンプリング管と、前記容器内に漏洩した前記試料流体の濃度を測定可能なガスセンサとを備えることを特徴とする流体漏洩模擬装置。
【請求項2】
前記容器の壁を貫通する供給側配管と排出側配管とを有するとともに、これら供給側配管と排出側配管との間に、これらを連結する前記漏洩モデル管が着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の流体漏洩模擬装置。
【請求項3】
前記容器内に空気又は不活性ガスを供給するガス供給管及び容器内のガスを排出して浄化する排ガス処理系が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の流体漏洩模擬装置。
【請求項4】
前記容器内雰囲気の圧力を制御する圧力制御手段が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の流体漏洩模擬装置。

【図1】
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【図2】
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