説明

流体軸受装置の軸受部材の検査方法

【課題】流体軸受装置に用いられる軸受部材の寸法精度を、簡易かつ精度良く検査する方法を提供する
【解決手段】軸受部材7の内周に検査装置20の基準軸21を弾性的に圧入し、これらを一体に回転させた状態で、ハウジング外周面等の被測定面の振れを測定する。これにより、触針24を軸受部材7の内周に挿入することなく測定できるため、小型の軸受部材の検査も容易に行うことができる。また、高精度に設定されたラジアル軸受面A1、A2を基準として測定するため、精度良く測定することができる。また、弾性力を利用した圧入により軸受部材7を基準軸21に固定するため、従来のようにターンテーブルや固定具を必要とせず、簡易に固定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受装置に用いられる軸受部材を検査する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体軸受装置は、情報機器、例えばHDD等の磁気ディスク駆動装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク駆動装置、MD、MO等の光磁気ディスク駆動装置等のスピンドルモータ用、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイール、あるいは電気機器、例えばファンモータなどの小型モータ用として好適に使用可能である。
【0003】
例えば、特許文献1に示されている流体軸受装置(動圧軸受装置)は、軸部材を有する回転部材と、内周に軸部材が挿入される軸受スリーブと、内周に軸受スリーブが固定されたハウジングとを備えている。軸受スリーブの内周面にはラジアル軸受面が形成され、ハウジングの上端面にはスラスト軸受面が形成される。ラジアル軸受面と軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間の流体膜で回転部材をラジアル方向に支持し、スラスト軸受面と回転体の端面との間に形成されるスラスト軸受隙間の流体膜で回転部材をスラスト方向に支持する。
【0004】
このような流体軸受装置の製造工程において、軸受部材を形成した後、各寸法精度を測定する検査を行う場合がある。この検査は、例えば特許文献2に示されるような真円度測定装置を用いて行うことができる。具体的には、例えば軸受部材の内周面(ラジアル軸受面)の寸法精度を検査する場合、軸受部材をターンテーブル上に冶具などにより固定した状態で回転させ、触針により被測定面となるラジアル軸受面の振れを測定することにより、ラジアル軸受面の寸法精度を評価する。
【0005】
【特許文献1】特開2005−337343号公報
【特許文献2】特表平10−507268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の検査方法では、例えば内径が3mm以下である小径の軸受部材を検査する際、軸受部材の内周面(ラジアル軸受面)に触針を挿入することが困難となる。
【0007】
また、信頼できる測定値を得るためには、軸受部材をターンテーブル上に精度良く固定する必要があるが、高精度の固定は容易ではなく、芯出し調整等の検査工程の複雑化及び長時間化を招く。
【0008】
また、流体軸受装置は内部への異物の混入を嫌うため、クリーンルーム内で製造する場合がある。このような特殊な環境内へ、上記のようなターンテーブルを有する大掛かりな測定装置を持ち込むことは現実的ではなく、より簡易に軸受部材の寸法精度を検査する方法が望まれている。
【0009】
本発明の課題は、流体軸受装置に用いられる軸受部材の寸法精度を、簡易かつ精度良く検査する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、内周面にラジアル軸受面が形成された軸受部材と、軸受部材の内周に挿入される軸部材とを備え、ラジアル軸受面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に形成される流体膜で軸部材を回転自在に支持する流体軸受装置において、前記軸受部材の寸法精度を検査するための方法であって、ラジアル軸受面を基準として軸受部材を回転させた状態で、軸受部材の被測定面の振れ幅を測定することを特徴とする。
【0011】
このように、本発明では、ラジアル軸受面を基準として軸受部材を回転させた状態で、被測定面の振れ幅を測定することで、軸受部材の寸法精度の検査を行う。これにより、触針を軸受部材の内周に挿入する必要は無く、小型の軸受部材の検査も容易に行うことができる。また、ターンテーブルや固定具を必要としないため、装置の簡易化および小型化が図られる。
【0012】
このような検査方法は、ラジアル軸受面に基準軸を弾性的に圧入し、これらを一体に回転させることにより行うことができる。このように、弾性を利用した圧入力により軸受部材と基準軸とを固定することで、冶具などを用いてターンテーブルに固定する場合と比べ、簡易に固定することができる。また、予め高精度に加工されたラジアル軸受面を基準とすることで、高精度な位置決めが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、軸受部材の寸法精度を、簡易かつ精度良く検査する方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明が適用される流体軸受装置1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2およびハブ部10を有する回転部材3を相対回転自在に非接触支持する流体軸受装置(動圧軸受装置)1と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、ブラケット6とを備えている。ステータコイル4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はハブ部10の外径側に設けられたヨーク12に固定されている。流体軸受装置1の軸受部材7は、ブラケット6の内周に固定される。また、ハブ部10には、図示は省略するが、情報記録媒体としてのディスクが一又は複数枚保持される。このように構成されたスピンドルモータにおいて、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する励磁力でロータマグネット5が回転し、これに伴って、ハブ部10およびハブ部10に保持されたディスクが軸部材2と一体に回転する。
【0016】
図2は、流体軸受装置1を示している。この流体軸受装置1は、軸受部材7と、軸受部材7の一端を閉口する蓋部材11と、軸受部材7および蓋部材11に対して相対回転する回転部材3とを主に備えている。なお、説明の便宜上、軸方向両端に形成される軸受部材7の開口部のうち、蓋部材11で閉口される側を下側、閉口側と反対の側を上側として以下説明する。
【0017】
軸受部材7は、軸方向両端を開口した形状をなし、略円筒状のスリーブ部8、およびスリーブ部8の外径側に位置し、スリーブ部8と一体又は別体に形成されるハウジング部9とを備えている。
【0018】
スリーブ部8は、弾性体で円筒状に形成される。この実施形態では、スリーブ部8は、銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング部9の内周面9cに、例えば接着(ルーズ接着を含む)、圧入(圧入接着を含む)、溶着(超音波溶着を含む)等、適宜の手段で固定される。
【0019】
スリーブ部8の内周面8aの全面又は一部円筒領域には、ラジアル動圧発生部として複数の動圧溝を配列した領域が形成され、該領域がラジアル軸受面となる。この実施形態では、例えば図3に示すように、複数の動圧溝8a1、8a2をヘリングボーン形状に配列したラジアル軸受面A1、A2が軸方向に離隔して形成される。
【0020】
スリーブ部8の下端面8bの全面又は一部環状領域には、スラスト動圧発生部として、例えば図4に示すように、複数の動圧溝8b1をスパイラル状に配列した領域が形成され、該領域が第1スラスト軸受面B1となる。
【0021】
ハウジング部9は、金属材料又は樹脂材料で略円筒状に形成される。この実施形態では、ハウジング部9は、その軸方向両端を開口した形状をなし、かつ一端側を蓋部材11で封口している。他端側の端面(上端面)9aの全面または一部環状領域には、スラスト動圧発生部として、例えば図5に示すように、複数の動圧溝9a1をスパイラル形状に配列した領域が形成され、該領域が第2スラスト軸受面B2となる。ハウジング部9の上方部外周には、上方(封口側とは反対の側)に向かって漸次拡径するテーパ面9bが形成される。ハウジング部9の下方部外周には円筒面9eが形成され、この円筒面9eがブラケット6の内周に、接着、圧入、溶着等の手段で固定される。
【0022】
ハウジング部9の下端側を封口する蓋部材11は、金属あるいは樹脂で形成され、ハウジング部9の下端内周側に設けられた段部9dに、接着、圧入、溶着等の手段で固定される。
【0023】
回転部材3は、この実施形態では、スリーブ部8の内周に挿入される軸部材2と、軸部材2の上端に設けられ、軸受部材7の開口側に配置されるハブ部10とを備えている。
【0024】
軸部材2は、この実施形態では金属製で、ハブ部10と別体に形成される。軸部材2の外周面2aは、軸部材2をスリーブ部8の内周に挿入した状態では、スリーブ部8の内周面8aに形成された動圧溝8a1、8a2形成領域(ラジアル軸受面A1、A2)と対向する。そして、軸部材2の回転時、スリーブ部8の内周面8aとの間に後述する第一、第二ラジアル軸受部R1、R2のラジアル軸受隙間をそれぞれ形成する(図2を参照)。
【0025】
軸部材2の下端には、抜止めとしてフランジ部2bが別体に設けられる。フランジ部2bは金属製で、例えばねじ結合等の手段により軸部材2に固定される。フランジ部2bの上端面2b1は、スリーブ部8の下端面8bに形成された動圧溝8b1形成領域(第一スラスト軸受面B1)と対向し、軸部材2の回転時、動圧溝8b1形成領域との間に後述する第一スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成する(図2を参照)。また、軸部材2の上端には凹部(この実施形態では環状溝)2cが形成されており、軸部材2をインサート部品とする樹脂の射出成形でハブ部10を形成する場合、上記凹部2cがハブ部10に対する軸部材2の抜止めとして作用する。
【0026】
ハブ部10は、軸受部材7の開口側(上側)を覆う円盤部10aと、円盤部10aの外周部から軸方向下方に延びる筒状部10bと、筒状部10bから外径側に突出する鍔部10cおよび鍔部10cの上端に形成されるディスク搭載面10dとを備える。図示されていないディスクは、円盤部10aの外周に外嵌され、ディスク搭載面10dに載置される。そして、図示しない適当な保持手段(クランパなど)によってディスクがハブ部10に保持される。
【0027】
上記構成のハブ部10は、例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の結晶性樹脂や、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)等の非晶性樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形で成形される。この実施形態では、ハブ部10は、軸部材2をインサート部品として射出成形される。また、炭素繊維やガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカ状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、各種金属粉等の繊維状または粉末状の導電性充填材を、目的に応じて上記ベース樹脂に適量配合したものを使用することもできる。
【0028】
円盤部10aの下端面10a1は、ハウジング部9の一端開口側に設けられた上端面9aの動圧溝9a1形成領域(第二スラスト軸受面B2)と対向し、軸部材2の回転時、上端面9aとの間に後述する第二スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を形成する(図2を参照)。
【0029】
筒状部10bの内周面10b1は、ハウジング部9の外周上端に設けられたテーパ面9bと対向し、このテーパ面9bとの間に径方向寸法が上方に向かって漸次縮小するテーパ状のシール空間Sを形成する。このシール空間Sは、ハブ部10(回転部材3)の回転時、スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間の外径側と連通する。後述する潤滑油を流体軸受装置1内部に充満させた状態では、潤滑油の油面は常時シール空間Sの範囲内にある。
【0030】
流体軸受装置1内部に充満される潤滑油としては、種々のものが使用可能であるが、HDD等のディスク駆動装置用の流体軸受装置に提供される潤滑油には、その使用時あるいは輸送時における温度変化を考慮して、低蒸発率及び低粘度性に優れたエステル系潤滑油、例えばジオクチルセバケート(DOS)、ジオクチルアゼレート(DOZ)等が好適に使用可能である。
【0031】
上記構成の流体軸受装置1において、軸部材2の回転時、スリーブ部8の内周面8aに形成された動圧溝8a1、8a2形成領域(第1、第2ラジアル軸受面A1、A2)は、対向する軸部材2の外周面2aとの間にラジアル軸受隙間を形成する。そして、軸部材2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間の潤滑油が動圧溝8a1、8a2の軸方向中心側に押し込まれ、その圧力が上昇する。このように、動圧溝8a1、8a2によって生じる潤滑油の動圧作用によって、軸部材2をラジアル方向に非接触支持する第一ラジアル軸受部R1と第二ラジアル軸受部R2とがそれぞれ構成される。
【0032】
これと同時に、スリーブ部8の下端面8bに形成される動圧溝8b1形成領域(第1スラスト軸受面B1)とこれに対向するフランジ部2bの上端面2b1との間のスラスト軸受隙間、およびハウジング部9の上端面9aに形成される動圧溝9a1形成領域(第2スラスト軸受面B2)とこれに対向するハブ部10の下端面10a1との間のスラスト軸受隙間に形成される潤滑油膜の圧力が、動圧溝8b1、9a1の動圧作用により高められる。そして、これら油膜の圧力によって、回転部材3(ハブ部10)をスラスト方向に非接触支持する第一スラスト軸受部T1と第二スラスト軸受部T2とがそれぞれ構成される。
【0033】
また、この実施形態では、スリーブ部8の外周面8dに軸方向溝13が形成される。これにより、軸受内部に充満された潤滑油を循環させることが可能となり、局所的な負圧の発生に伴う気泡の生成等を回避できる。具体的には、ハブ部10の円盤部10aの下側端面10a1とスリーブ部8の上側端面8cとの間の隙間、第一、第二ラジアル軸受部R1、R2の軸受隙間、および第二スラスト軸受部T2の軸受隙間にそれぞれ充填された潤滑油が循環可能となる。この実施形態では、スリーブ部8の内周面8aに形成された動圧溝8a1が軸方向で上下非対称に形成されることで、第一ラジアル軸受部R1の軸受隙間の潤滑油を下方へ押し込み、軸受内部の潤滑油を強制的に循環させる構成となっている(図3を参照)。このような強制的な循環が特に必要なければ、ラジアル軸受面の動圧溝を軸方向で上下対称に形成してもよい。
【0034】
このような流体軸受装置1において、軸受部材7の寸法精度、特にラジアル軸受面A1、A2に対する各部位の寸法精度は、軸受性能に大きな影響を及ぼす。例えば、ラジアル軸受面A1、A2とハウジング部9の外周面の円筒面9eとの同軸度の精度が悪いと、ブラケット6に円筒面9eを固定した状態で、回転軸が傾斜、あるいは偏心するため、回転部材3の回転精度が低下する。また、ラジアル軸受面A1、A2に対するハウジング部9の外周上方部に形成されたテーパ面9bの振れ精度が悪いと、回転部材3の回転時に形成されるシール空間Sの隙間幅の精度が低下し、シール機能の低下やシール空間Sを介して対向する部材同士の接触を招く。さらに、ラジアル軸受面A1、A2の中心軸に対するスラスト軸受面B1、B2の直角度の精度が悪いと、ラジアル軸受隙間やスラスト軸受隙間の隙間幅の精度が低下し、軸受剛性が低下するおそれがある。
【0035】
このような不具合を回避するため、軸受部材7を形成した後、その寸法精度を測定し、所定の基準を満たすか否かを検査する必要がある。本発明はこの検査方法に係るものであり、その一例を以下に示す。
【0036】
図6に示す検査装置20は、軸受部材7の内周に圧入される基準軸21と、基準軸21を回転駆動する駆動部22と、被測定面の振れ幅を測定するゲージ23および触針24とで構成される。基準軸21の外径は、軸受部材7の内径、詳しくはラジアル軸受面A1、A2に形成される動圧発生部の背部(図3にクロスハッチングで示す)の内径よりも、圧入代の分だけ大径に設定される。圧入代の幅は、焼結金属で形成されるスリーブ部8の弾性変形の範囲内で設定される。駆動部22には、図示しないスピンドルが組み込まれている。このスピンドルには、回転精度に優れたエアスピンドルを用いるのが好ましい。
【0037】
検査工程を以下に示す。まず、軸受部材7の内周に基準軸21を圧入することにより、軸受部材7を基準軸21に対して固定する。このように、軸受部材7の固定が基準軸21の圧入のみで行うことができるため、例えば固定具を用いてターンテーブル等に固定する従来の方法と比べ、簡易に固定ができる。また、高精度に加工されたラジアル軸受面A1、A2を基準とすることで、軸受部材7の高精度な位置決めが可能となる。
【0038】
次に、駆動部22の駆動力により、基準軸21および軸受部材7を一体に回転させる。この状態で、ゲージ23および触針24により被測定面の振れ幅を測定する。この振れ幅の測定値に基づいて、ラジアル軸受面A1、A2に対する被測定面の同軸度、振れ精度、あるいは直角度等の寸法精度を評価することができる。例えば、図6のように、触針24をハウジング9の外周面の円筒面9eと接触させ、この面の振れ幅を測定することにより、ラジアル軸受面A1、A2に対する円筒面9eの同軸度等を評価することができる。また、図示は省略するが、触針24をハウジング9の外周面のテーパ面9bに接触させ、この面の振れ幅を測定することにより、ラジアル軸受面A1、A2に対するテーパ面9bの振れ精度等を評価することができる。あるいは、同じく図示は省略するが、触針24をハウジング9の上端面9aに形成されたスラスト軸受面B2に接触させ、この面の振れ幅を測定することにより、ラジアル軸受面A1、A2に対するスラスト軸受面B2の直角度等を評価することができる。
【0039】
このように本発明の検査方法は、従来の測定装置のように軸受部材の内周面に触針を挿入する必要がないため、小型の軸受部材でも容易に寸法精度を検査することができる。
【0040】
また、このような検査装置20は、上記のように簡易な仕組みであるため、ターンテーブル等を有する従来の検査装置に比べ、小型化が可能となる。よって、クリーンルームなどの特殊な環境内にも容易に搬入することができる。
【0041】
本発明の検査方法が適用される軸受部材7は上記に限られない。例えば、図7に示すような一端が閉塞されたカップ状の軸受部材7にも適用できる。この軸受部材7は、蓋部材11とハウジング部9とが一体に成形され、下端開口部が封口されている。この軸受部材7の検査は、その上端開口部から基準軸21を圧入し、図6に示す実施形態とは上下反転させた状態で行われる。
【0042】
図8に示す軸受部材7は、ハウジング部9とスリーブ部8とが樹脂材料で一体成形されている。ここで用いられる樹脂材料は、軸受面に要求される耐摩耗性、耐油性等に加え、優れた弾性を有するものが使用される。このとき、ラジアル軸受面A1、A2は樹脂で形成され、軸受部材7の内周に、樹脂の弾性を利用して基準軸21が圧入される。
【0043】
また、上記では、ラジアル軸受面A1、A2が焼結金属あるいは樹脂といった弾性体で形成される場合を示したが、ラジアル軸受面A1、A2を形成する材料はこれに限らない。例えば上記以外の材料でも、弾性変形の範囲内で、基準軸21との十分な固定力が得られるものであれば使用可能である。また、ラジアル軸受面A1、A2を各種金属材料などの非弾性体で形成し、検査装置20の基準軸21を弾性体で形成することにより、軸受部材7と基準軸21との弾性的な圧入力による固定が可能となる。あるいは、基準軸21を拡径、縮径が可能な構造とすれば、縮径状態の基準軸21を軸受部材7の内周に挿入した後、基準軸21を拡径させることで、軸受部材7の材質にかかわらず、軸受部材7をラジアル軸受面A1、A2を基準とした固定が可能となる。
【0044】
流体軸受装置1を構成する他の要素も上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、金属製の軸部材2をインサート部品とする樹脂の射出成形で、軸部材2と一体にハブ部10を射出成形する場合を説明したが、例えばハブ部10のみを樹脂で射出成形した後、ハブ部10とは別体に形成した金属製の軸部材2の端部をハブ部10中央に設けた孔に圧入することで一体化することもできる。あるいは、軸部材2を樹脂製とし、ハブ部10と軸部材2とを共に樹脂の射出成形で一体に形成することもできる。
【0045】
また、上記実施形態では、フランジ部2bの上端面2b1とスリーブ部8の下端面8bとの間、およびハブ部10とハウジング部9との間にそれぞれスラスト軸受部T1、T2を設けた場合を説明したが、本発明は、スラスト軸受部T1、T2の形成箇所に関係なく適用可能である。すなわち、ハブ部10の下端面10a1がスラスト軸受隙間を形成するか否かは問題とならず、例えば図示は省略するが、スラスト軸受部T1、T2が共にフランジ部2bの両端面とこれらの面に対向する面との間に形成されたものであってもよい。
【0046】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2およびスラスト軸受部T1、T2として、へリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
例えば、ラジアル軸受部R1、R2として、図示は省略するが、軸方向の溝を円周方向の複数箇所に形成した、いわゆるステップ状の動圧発生部、あるいは、円周方向に複数の円弧面を配列し、対向する軸部材2の真円状外周面2aとの間に、くさび状の径方向隙間(軸受隙間)を形成した、いわゆる多円弧軸受を採用してもよい。
【0048】
あるいは、スリーブ部8の内周面8aを、動圧発生部としての動圧溝や円弧面等を設けない真円外周面とし、この内周面8aと対向する軸部材2の真円状外周面2aとで、いわゆる真円軸受を構成することができる。この場合、真円状のスリーブ部8の内周面8aがラジアル軸受面となる。
【0049】
また、第一スラスト軸受部T1と第二スラスト軸受部T2の一方又は双方は、同じく図示は省略するが、動圧発生部が形成される領域(例えばスリーブ部8の下端面8b、ハウジング部9の上端面9a)に、複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、あるいは波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等で構成することもできる。
【0050】
また、以上の実施形態では、スリーブ部8の側にラジアル動圧発生部(動圧溝8a1、8a2)が、また、スリーブ部8やハウジング部9の側にスラスト動圧発生部(動圧溝8b1、9a1)がそれぞれ形成される場合を説明したが、これら動圧発生部が形成される領域は、例えばこれらに対向する軸部材2の外周面2aやフランジ部2bの上端面2b1、あるいはハブ部10の下端面10a1の側に設けることもできる。
【0051】
また、以上の説明では、流体軸受装置1の内部に充満し、ラジアル軸受隙間や、スラスト軸受隙間に動圧作用を生じる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に動圧作用を発生可能な流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】流体軸受装置1を組込んだスピンドルモータの断面図である。
【図2】流体軸受装置1の断面図である。
【図3】スリーブ部8の断面図である。
【図4】スリーブ部8の下面図である。
【図5】ハウジング部9の上面図である。
【図6】軸受部材7を検査装置20に設置した状態を示す断面図である。
【図7】他の実施形態にかかる軸受部材7を検査装置20に設置した状態を示す断面図である。
【図8】他の実施形態にかかる軸受部材7を検査装置20に設置した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 流体軸受装置
2 軸部材
3 回転部材
7 軸受部材
8 スリーブ部
9 ハウジング部
10 ハブ部
20 検査装置
21 基準軸
22 駆動部
23 ゲージ
24 触針
A1、A2 ラジアル軸受面
B1、B2 スラスト軸受面
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S シール空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にラジアル軸受面が形成された軸受部材と、軸受部材の内周に挿入される軸部材とを備え、ラジアル軸受面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に形成される流体膜で軸部材を回転自在に支持する流体軸受装置において、前記軸受部材の寸法精度を検査するための方法であって、
ラジアル軸受面を基準として軸受部材を回転させた状態で、被測定面の振れ幅を測定することを特徴とする軸受部材の検査方法。
【請求項2】
ラジアル軸受面に弾性的に圧入した基準軸を回転させることにより、軸受部材を回転させる請求項1記載の軸受部材の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−20244(P2008−20244A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190373(P2006−190373)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】