説明

流体軸受装置用潤滑油組成物及びそれを用いた流体軸受装置

【課題】
本発明は、油膜切れが抑制された、流体軸受装置用潤滑油組成物等を提供することを目的とする。
【解決手段】
基油、および油膜切れ防止剤としての金属スルホネートを含有する流体軸受装置用潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受装置用潤滑油組成物及びそれを用いた流体軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ等のディスクを回転して記録再生する装置では、より高速回転が要求されるだけでなく、回転精度の向上や、小型化、低消費電力化が求められている。このため、これらに用いられるスピンドルモータでは、回転性能のより一層の向上と小型化、および低コスト化を図るために軸受部を動圧流体軸受に置きかえられてきている。
【0003】
特に、ハードディスクドライブ用スピンドルモータの場合は、更に、ハードディスクドライブの信頼性確保のため、高温多湿環境下のような過酷な条件下でも、安定した起動電流や安定した短い起動時間を可能にすることが求められている。
【0004】
一方、スピンドルモータの流体軸受装置においては、動圧溝の形状や精度と同時に潤滑油組成物の特性が、その性能に非常に大きく影響する。
なお、潤滑油組成物の防錆剤としてバリウムスルホネートなどが用いられる事が知られている。(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2004−018531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流体軸受装置を用いたハードディスクドライブ用スピンドルモータは、高温多湿環境下で放置した場合、潤滑油組成物中に溶解した水分が軸受の金属表面に吸着することにより、回転起動開始時に潤滑油組成物の油膜切れが生じ、その結果、起動電流が高くなったり、起動時間が長くなるなど、その性能が不安定になることがある。
【0006】
このため、本発明は、軸受金属の油膜切れが抑制された、流体軸受装置用潤滑油組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、汎用の防錆剤であるバリウムスルホネートを潤滑剤組成物に添加することにより、潤滑剤組成物の油膜切れを抑制し、高温多湿環境下で放置した場合でも、流体軸受装置を用いたハードディスクドライブ用スピンドルモータの性能を安定化できることを見出し、更なる研究の結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の項1〜9等に関する。
[項1]
基油、および油膜切れ防止剤としての金属スルホネートを含有する流体軸受装置用潤滑油組成物。
[項2]
金属スルホネートが、バリウムスルホネートである前記項1記載の流体軸受装置用潤滑油組成物。
[項3]
基油が、エステル油、エーテル油、もしくは炭化水素油またはそれらの混合物である前記項1記載の流体軸受装置用潤滑油組成物。
[項4]
バリウムスルホネートを組成物全体に対して0.2〜5重量%含有する前記項2記載の流体軸受装置用潤滑油組成物。
[項5]
軸受孔を有するスリーブと、前記軸受孔内に前記スリーブに対して相対的に回転可能な状態で配置された軸構造体とを有する流体軸受装置であって、前記スリーブと前記軸構造体との間に形成される隙間に、前記項1〜4のいずれか1項に記載の流体軸受装置用潤滑油組成物が保持されている流体軸受装置。
[項6]
金属スルホネートを含有する、流体軸受装置用潤滑油の油膜切れ防止剤。
[項7]
金属スルホネートが、バリウムスルホネートである前記項6記載の流体軸受装置用潤滑油の油膜切れ防止剤。
[項8]
流体軸受装置用潤滑油組成物の油膜切れ防止方法であって、当該流体軸受装置用潤滑油組成物に、金属スルホネートを添加する事を含有する方法。
[項9]
金属スルホネートが、バリウムスルホネートである前記項8記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物は、軸受金属の油膜切れが抑制されており、当該組成物を用いた流体軸受装置を用いたハードディスクドライブ用スピンドルモータは、高温多湿環境下で放置した場合でも、安定した性能を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を説明する。
本発明に用いられる基油としては、流体軸受装置用潤滑油組成物に通常用いられる基油を用いる事ができる。
このような基油としては、例えば、エステル油、エーテル油、および炭化水素油ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0011】
エステル油としては、例えば、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル;へキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、又はオクタデカン酸などの脂肪族モノカルボン酸と、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、又はヘキサデカノールなどの一価のアルコールとのエステル等のモノエステル;セバシン酸ジオクチル(DOS)、アゼライン酸ジオクチル(DOZ)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル等のジエステル(二塩基酸エステル);ならびにネオペンチルグリコール、ポリグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のアルコールと炭素数5〜12の脂肪酸とのエステル等のポリオールエステルが挙げられる。
【0012】
エーテル油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテルなどのポリグリコール、またはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルなどのフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0013】
炭化水素油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンとのコオリゴマーなどのポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物などが挙げられる。
【0014】
なかでも、低粘度であり、耐熱性が高く、かつ低温での流動性が優れていることから、エステル油であるジエステル及びポリオールエステルが好ましく、特に、ポリオールエステルがより好ましい。
【0015】
本発明に用いられる金属スルホネートとして好ましくは、重量平均分子量が100〜1500、好ましくは400〜1200の、スルホン化されたアルキル芳香族化合物のアルカリ土類金属塩もしくはアルカリ金属塩である。より具体的には、バリウムスルホネート、カルシウムスルホネート、ナトリウムスルホネート、カリウムスルホネート、およびリチウムスルホネート等のスルホン酸のアルカリ土類金属塩もしくはアルカリ金属塩が挙げられる。
【0016】
なかでも、バリウムスルホネート、カルシウムスルホネート等のアルカリ土類金属塩が好ましい。アルカリ土類金属塩は、2価の金属元素と結合した金属塩であり、1価の金属元素と結合した金属塩よりも分子量が大きいため、耐熱性向上や油膜切れ防止効果の点においてより好ましい。
【0017】
また、これらは、石油系金属スルホネートもしくは合成系金属スルホネートのいずれでもよい。石油系金属スルホネートは原料とする石油留分のスルホン化によって、および合成系金属スルホネートは合成系アルキルベンゼンのスルホン化によって、それぞれ得られる。
【0018】
さらに、石油系金属スルホネート及び合成系金属スルホネートは、精製鉱油や合成油等で希釈されていてもよいが、金属スルホネートの含有率は、全体の30重量%以上、より好ましくは50重量%以上であることが好ましい。
【0019】
なかでも、石油系バリウムスルホネートまたは合成系バリウムスルホネートが好ましい。特に、合成系バリウムスルホネートは、分子量分布の範囲が狭いため、酸化安定性向上や耐熱性向上の点においてより好ましい。
このような金属スルホネートとしては、防錆剤として市販されているものを用いる事ができる。
【0020】
バリウムスルホネートの具体例としては、KING社のNA−SUL BSN、Chemtura社のBarinate B−70、Basic Barium Petronate、Neutral Barium Petronate、Surchem404、Surchem404D、松村石油研究所社のスルホールBa−30N、モレスコアンバーSB−50N、モレスコアンバーAPC、モレスコアンバーOPC等が挙げられる。
【0021】
これらの重量平均分子量は1000〜1100が好ましい。さらに、精製鉱油や合成油等で希釈されている場合のバリウムスルホネートの含有率は、全体の30重量%以上、より好ましくは50重量%以上であることが好ましい。
【0022】
本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物は、上記の金属スルホネートを、組成物全体に対して、好ましくは0.2〜5重量%(より好ましくは0.2〜2重量%、更に好ましくは0.3〜1重量%)含有する。なお、本明細書中、重量%は、特に記載のない限り、%(w/w)を意味する。
【0023】
流体軸受装置用潤滑油組成物に、金属スルホネートを添加することにより、上述の油膜切れ抑制効果に加えて、導電性付与(体積抵抗率の低下)による装置に蓄積された静電気のアース効果、および表面吸着作用や潤滑油の極性の変化による流体軸受装置のオイルシール剤であるエポキシ系接着剤中の微量の未硬化成分の潤滑油組成物中への溶出の抑制効果が得られる。
【0024】
金属スルホネートの含有量がこれ以上であっても、金属スルホネートの添加効果は向上しないので、経済的に好ましくない上に、粘度が増大し、起動時及び回転安定時の電流が増大するため好ましくない。さらに、金属スルホネートの溶解性の低下によって、室温以下の低温で析出や潤滑油の濁りを生じ、軸受装置の摩擦、摩耗特性の低下や回転不具合(ロック)を引き起こすため不適当である。
【0025】
一方、金属スルホネートの含有量がこれ以下の場合、金属スルホネートの添加の効果が十分には得られない。
本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物は、金属スルホネートに加えて、通常の流体軸受装置用潤滑油組成物に用いられる添加剤を含有していてもよい。
【0026】
このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤、金属腐食防止剤、油性剤、極圧剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、泡消剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、導電性付与剤、および清浄分散剤等が挙げられる。このうち、金属不活性剤、防錆剤、帯電防止剤、導電性付与剤、および清浄分散剤等については、金属スルホネートがこれらの性質も兼ね備えるので、これらを添加しないか、または添加量を抑制する事ができる。
【0027】
このような添加剤を添加する場合、その量は、組成物全体に対して、好ましくは5重量%以下(より好ましくは4重量%以下、更に好ましくは3重量%以下)である。
なかでも、酸化防止剤は、流体軸受装置用潤滑油組成物の酸化劣化抑制や耐熱性向上のために必要不可欠である。具体的には、硫黄及び塩素を分子中に含まないフェノール系または同様のアミン系酸化防止剤が最適である。硫黄及び塩素を分子中に含む添加剤は、分解した場合に、腐食性のガスを発生し、装置の性能に大きな影響を与える恐れがある。これらの酸化防止剤は、単独でもしくは併用して使用する。中でも、80〜100℃以上の高温環境下での装置の使用にも十分効果を発揮、維持できる、耐熱性の高い、フェノール基を2個以上含有するフェノール系酸化防止剤が好ましい。さらに、低温での流動性を低下させず、装置の回転起動を容易にできる液状タイプの酸化防止剤を選択して使用することが好ましい。酸化防止剤の添加量は、0.1〜3重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。
【0028】
本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物中の基油の含有量は、これらの金属スルホネートおよび上記添加剤の含有量を除いた量であり、通常、90重量%以上、より好ましくは94重量%以上、更に好ましくは96重量%以上である。
【0029】
本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物は、好ましくは下記の物理化学的性質を有する。
JIS C2101に従って測定した、20℃、5Vにおける体積抵抗率が1×1011Ω・cm以下、好ましくは、1×1010Ω・cm以下である。
【0030】
JIS K2283に従って測定した粘度指数が100以上、好ましくは120以上、さらに好ましくは140以上である。
JIS C2101に従って測定した蒸発量が5重量%以下、好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%である。
【0031】
JIS K2269に従って測定した流動点が−20℃以下、好ましくは−30℃以下、より好ましくは−40℃以下である。また、低温固化温度は、−20℃以下、好ましくは−30℃以下、より好ましくは−40℃以下である。ただし、この場合の低温固化温度は、流動点とは異なる温度である。低温固化温度とは、サンプル瓶に潤滑剤を採取後、温度槽に2日間静置した場合に一部または全部が固形化する温度であり、流動点よりも数℃〜十数℃高い温度である。
【0032】
JIS K2283に従って測定した動粘度、及びJIS K2249に従って測定した密度から求められる粘度は、−20℃において、70〜200mPa・s、より好ましくは70〜150mPa・s、かつ、20℃において5〜35mPa・s、より好ましくは10〜25mPa・sであり、かつ、80℃において、2〜5mPa・s、より好ましくは3〜4mPa・sである。
【0033】
本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物は、基油、金属スルホネート、および所望により添加される添加剤を、流体軸受装置用潤滑油製造における慣用の方法で混合することにより、製造することができる。
【0034】
なお、本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物は、流体軸受装置への使用に適したものであればよく、他の用途に用いられるものであってもよい。
また、本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物は、流体軸受装置に充填される前に、スリーブと軸構造体との間に形成される最小隙間以下の孔径のフィルターで加圧濾過もしくは減圧濾過を行うことが望ましい。これによって、異物除去され、異物に起因する回転不具合を抑制できる。なお、具体的なフィルターの孔径は、0.5μm以下、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.1μm以下である。
【0035】
流体軸受装置用潤滑油の油膜切れ防止剤は、金属スルホネートからなるか、または金属スルホネートを含有する。当該油膜切れ防止剤は、上記のような通常の流体軸受装置用潤滑油組成物に用いられる添加剤を含有していてもよく、それによって、油膜切れ防止以外の所望する効果を付与することができる。
【0036】
この場合の金属スルホネートに対する添加剤の量比は、上記の通常の流体軸受装置用潤滑油組成物の組成になるように、決定すればよい。
例えば、本発明の油膜切れ防止剤を、流体軸受装置に用いられる市販の潤滑油組成物に添加および混合することにより、油膜切れを防止することができる。
【0037】
本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物は、あらゆる流体軸受装置に用いる事ができる。本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物を用いた流体軸受装置もまた、本発明の一態様である。
【0038】
本発明の流体軸受装置の概要を説明するため、その一態様を図1に示すが、本発明は、これに限定されるものではない。
当該流体軸受装置は、軸受孔を有するスリーブ1と、前記軸受孔内に前記スリーブ1に対して相対的に回転可能な状態で配置された軸構造体2とを有し、前記スリーブ1と前記軸構造体2との間に形成される隙間3に、本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物5が保持されている。
【0039】
以下、本発明の実施をするための最良の形態を具体的に示した実施の形態について、図面とともに記載する。
【0040】
《実施の形態1》
本発明の実施の形態1について、図2を用いて説明する。図2は、実施の形態1における軸固定式の流体軸受装置の主要部分の断面図である。
【0041】
図2において、軸210は、その外周面に、ラジアル動圧発生溝220、230が形成されている。軸210は、一端がスラストフランジ240に固定され、他端がベース600に圧入固定されている。軸210及びスラストフランジ240は、軸構造体を構成する。軸構造体及びベース600は、固定部を構成する。
【0042】
一方、スリーブ100は、軸構造体を受ける軸受孔を有する。スリーブ100の一端にはスラストプレート400が取り付けられている。スリーブ100の軸受孔には、スラストプレート400とスラストフランジ240とが対向するように軸構造体が挿入される。スリーブ100及びスラストプレート400は回転部を構成する。また、スラストフランジ240のスラストプレート400との対向面には、スラスト動圧発生溝250が形成されている。軸受孔と軸構造体の隙間には、本発明の流体軸受装置用潤滑油組成物5が介在する。回転部及び固定部によってモータ駆動部が形成される。
【0043】
回転部の回転に伴い、動圧発生溝220、230に流体軸受装置用潤滑油組成物5がかき集められ、軸210とスリーブ100との間のラジアル半径隙間310においてラジアル方向にポンピング圧力が発生する。同様に、回転により、動圧発生溝250に流体軸受装置用潤滑油組成物5がかき集められ、スラストフランジ240とスラストプレート400との間でスラスト方向にポンピング圧力が発生する。これにより、回転部は、固定部に対して上方に浮上して非接触で回転支持される。
【0044】
なお、上述の説明では、ラジアル動圧発生溝は、軸210の外周面に形成したが、スリーブ100の軸受孔面(内周面)、あるいは軸210の外周面及びスリーブ100の軸受孔面の両方に形成してもよい。つまり、ラジアル動圧発生機構は、軸又はスリーブの少なくとも一方に有していればよい。また、スラストフランジ240側面とスリーブ100との間でラジアル動圧発生機構を有していてもよい。動圧発生機構としては、例えば、溝、突起、段差、傾斜面等種々の形状のものが挙げられる。また、ラジアル動圧発生溝は、ヘリングボーン形状及びスパイラル形状等、種々の形状を採用することができる(図中は、ヘリングボーン形状のラジアル動圧発生溝が示されている)。
【0045】
また、スラスト動圧発生溝は、スラストフランジ240のスラストプレート400との対向面のみ、あるいはスラストプレート400のスラストフランジ240との対向面のみ、スラストフランジ240のスラストプレート400との対向面の裏面のみ、もしくは前記3箇所のうちの2箇所以上に形成してもよい。
【0046】
なお、スラスト動圧発生溝以外に、上述したような動圧を発生する機構であれば、どのような機構のものであってもよい。
本実施の形態において軸構造体を片端固定としたが、これに限らず、両端固定の場合、又はスリーブの軸受孔を両端開放した場合でも同様の効果が得られる。
【0047】
《実施の形態2》
本発明の実施の形態2について、図3を用いて説明する。 図3は、実施の形態2における軸回転式の流体軸受装置を有するスピンドルモータを搭載した磁気ディスク装置の主要部分の断面図である。本実施の形態における流体軸受装置は、軸固定に換えて軸回転方式を採用している点において、図2における実施の形態1の流体軸受装置とは異なる。それ以外の点においては、実施の形態1と同様の構成をなす。なお、同一符号を付した要素についての詳細な説明は省略する。
【0048】
図3において、軸210は、外周面にラジアル動圧発生溝220、230を形成し、一端をスラストフランジ240に固定し、他端を磁気ディスクを取り付けるためのハブ701に圧入する。軸210及びスラストフランジ240は軸構造体を形成する。ハブ701の内周面にはロータマグネット801が固定される。軸構造体(軸210及びスラストフランジ240)、ハブ701、ロータマグネット801は、回転部を構成する。なお、本発明では、軸210のみで軸構造体を構成してもよいし、または軸210と、任意にスラストフランジ240とが軸構造体を構成してもよい。
【0049】
一方、スリーブ101は、ベース601に圧入され、軸構造体を受ける軸受孔を有する。スリーブ101の一端にはスラストプレート401が取り付けられている。スリーブ101の軸受孔には、スラストプレート401とスラストフランジ240とが対向するように軸構造体が挿入される。ベース601に形成された壁にはステータコイル851が取り付けられる。ベース601、スリーブ101、スラストプレート401、及びステータコイル851は、固定部を形成する。スラストフランジ240のスラストプレート401との対向面には、スラスト動圧発生溝250が形成されている。軸受孔と軸構造体の隙間には流体軸受装置用潤滑油組成物5が充填され軸受装置が構成される。回転部及び固定部は、モータ駆動部を構成する。
【0050】
このモータ駆動部により、回転部が回転駆動する動作について説明する。
まず、ステータコイル851に通電されると回転磁界が発生し、ステータコイル851と対向して取り付けられたロータマグネット801が回転力を受け、ハブ701、軸210及びスラストフランジ240とともに回転を始める。回転により、ヘリングボーン形状の動圧発生溝220、230及び250は流体軸受装置用潤滑油組成物5をかき集め、ラジアル方向、スラスト方向ともに(軸210とスリーブ101との間、及びスラストフランジ240とスラストプレート401との間に)ポンピング圧力を発生する。これにより回転部は固定部に対して上方に浮上して非接触で回転支持され、磁気ディスク上のデータの記録再生を可能とする。
【0051】
なお、ハブ701に取り付けられる磁気ディスクは、材質が、限定されないが、ガラス製もしくはアルミニウム製で、小型機種の場合には、限定されないが、1枚以上(通常、1〜2枚)が装着される。中でも、本発明は、2.5インチサイズ以下の小型の磁気ディスクを搭載するスピンドルモータ及び磁気ディスク装置において有効である。
【0052】
《実施の形態3》
図4は、実施の形態3の軸回転式の流体軸受装置を有するスピンドルモータを搭載した磁気ディスク装置の主要部分の断面図である。
【0053】
この磁気ディスク装置において、ベース602の中央には、軸構造体202を受ける軸受孔を有するスリーブ102が圧入されており、ベース602に形成された壁にはステータコイル852が取り付けられている。スリーブ102の軸受孔には、一端側から軸構造体202が挿入されており、他端がキャップ112によって閉塞されている。軸構造体202には、外周面にラジアル動圧発生溝(図示せず)が形成されており、その一端がハブ702に圧入されており、他端はキャップ112に対向している。軸構造体202の外周面(動圧面)は、スリーブ102の内周面(動圧面)に対して半径方向に隙間Rを介して対向しており、その隙間Rに流体軸受装置用潤滑油組成物5が満たされている。ハブ702の内周面にはロータマグネット802が固定されている。
【0054】
また、スリーブ102の上端面(動圧面)と、ハブ702の内部側における下端面(動圧面)とは、軸方向に隙間Sを介して対向するように配置されており、これら面の少なくとも一方側には、スラスト動圧発生溝(図示省略)が形成されている。その隙間Sにも流体軸受装置用潤滑油組成物5が満たされており、上述した隙間Rから、隙間Sに至るまで、実質的に連続して途切れなく充填されている。
【0055】
軸構造体202及びハブ702が回転する際には、上述したスラスト動圧発生溝の作用によって流体軸受装置用潤滑油組成物5に動圧力を生じる。その動圧力によって、軸構造体202及びハブ702は、スラスト方向に浮上して、非接触状態で軸支持される。
【0056】
スリーブ102の外周側には、シール部SSが形成されている。シール部SSの間隙は、スリーブ102の半径方向外方で隙間Sに接続しており、下方向に向かって拡大する構成となっている。これにより、シール部SSは流体軸受装置用潤滑油組成物5の外部への流出を防止している。
【0057】
なお、上述の実施の態様において、モータの回転数としては、一般に、3600rpm、4200rpm、5400rpm、7200rpm、10000rpm、15000rpm等が用いられる。
【0058】
軸の材質としては、ステンレス鋼が最適である。ステンレス鋼は、他の金属と比べ、高硬度で、摩耗発生量も抑制できるため、有効である。より好ましくは、マルテンサイト系ステンレス鋼である。
【0059】
スリーブには、銅合金、鉄合金、ステンレス鋼、セラミックス、樹脂等の材料を使用することが好ましい。さらに、より耐摩耗性及び加工性が高く、かつ、低コストである、銅合金、鉄合金、ステンレス鋼がより好ましい。また、コスト面から焼結材料でもよく、動圧発生液体を焼結材料に含浸させる場合でも同様の効果が得られる。軸材料及び/またはスリーブ材料の一部表面または全表面に、メッキ法、物理蒸着法、化学蒸着法、拡散被膜法等によって表面改質を行ってもよい。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例及び比較例に用いる流体軸受装置用潤滑油組成物においては、基油として、3−メチル−1,5−ペンタンジオールとn−オクタン酸とからなるエステルを使用した。
【0061】
また、合成系バリウムスルホネートとしては、モレスコアンバーSB−50N(松村石油研究所社、重量平均分子量1050、バリウムスルホネート含有率 50重量%)を、石油系バリウムスルホネートとしては、Neutral Barium Petronate(Chemtura社、重量平均分子量1000、バリウムスルホネート含有率43重量%)を用いた。
【0062】
また、実施例及び比較例のいずれの場合においても、酸化防止剤としてジオクチルジフェニルアミン0.5重量%を配合した。なお、本発明に示す添加剤の配合量すなわち重量%は、基油及び添加剤を含めた潤滑油組成物全体(総重量)に対する割合である。
【0063】
(実施例1)
基油に、油膜切れ防止剤として、合成系バリウムスルホネートを0.3重量%添加し、流体軸受装置用潤滑油を調製した。
(実施例2)
基油に、油膜切れ防止剤として、合成系バリウムスルホネートを1重量%添加し、流体軸受装置用潤滑油を調製した。
(実施例3)
基油に、油膜切れ防止剤として、合成系バリウムスルホネートを2重量%添加し、流体軸受装置用潤滑油を調製した。
(実施例4)
基油に、油膜切れ防止剤として、合成系バリウムスルホネートを3重量%添加し、流体軸受装置用潤滑油を調製した。
(実施例5)
基油に、油膜切れ防止剤として、石油系バリウムスルホネートを2重量%添加し、流体軸受装置用潤滑油を調製した。
【0064】
(比較例1)
比較例として、基油を流体軸受装置用潤滑油として用いた。
(比較例2)
基油に、油膜切れ防止剤として、合成系バリウムスルホネートを0.1重量%添加し、流体軸受装置用潤滑油を調製した。
(比較例3)
基油に、ソルビタントリオレートを1重量%添加し、流体軸受装置用潤滑油を調製した。
【0065】
これら(実施例1)〜(実施例5)及び(比較例1)〜(比較例3)の流体軸受装置用潤滑油を用いた流体軸受装置のモータ起動電流、潤滑油の体積抵抗率を評価した。その評価内容及び結果を(表1)に示す。
【0066】
なお、評価試験に使用した流体軸受装置は、1.8インチサイズの軸回転型であり、クランプにて磁気ディスクを1枚装着した状態で3600rpmにて測定を行った。
1)モータ起動電流
初期の回転起動電流、及び85℃、90RH%の条件下で1週間放置後の、25℃における回転起動電流を測定し、その変化量(増加量)を算出した。
2)体積抵抗率
JIS C2101に従って20℃、5Vにおいて測定した。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例1から実施例5の流体軸受装置用潤滑油を用いたモータの起動電流は、いずれも、初期の起動電流からほとんど増加がなく、安定した起動特性であった。
【0069】
一方、比較例1〜3の流体軸受装置用潤滑油を用いたモータの起動電流は、いずれも、初期の起動電流から明らかな増加があり、起動特性の低下があった。このことにより、油膜切れの現象が生じていることが、観察された。
【0070】
以上のことから、本発明の流体軸受装置用潤滑油及びそれを用いた流体軸受装置は、高温多湿環境放置後でも軸受金属の油膜切れが抑制され、安定した回転起動特性を発揮することができることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る流体軸受装置用潤滑油組成物及びそれを用いた流体軸受装置は、情報装置であるハードディスクドライブ(磁気ディスク装置)、光ディスク装置、スキャナ装置、レーザビームプリンタ、ビデオレコーダ等のモータに利用することができる。特に、2.5インチサイズ以下の小型のハードディスクドライブにおいて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の流体軸受装置の一態様の主要部の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の軸固定式の流体軸受装置の主要部分の断面図である。
【図3】本発明の軸回転式の流体軸受装置を有するスピンドルモータを搭載した磁気ディスク装置の主要部分の断面図である
【図4】本発明の流体軸受装置を有するスピンドルモータを搭載した磁気ディスク装置の主要部分の断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1、100、101、102 スリーブ
2、202 軸構造体
3 スリーブと軸構造体との間に形成される隙間
4、400、401 スラストプレート
5 流体軸受装置用潤滑油組成物
112 キャップ
210 軸
220、230 ラジアル動圧発生溝
240 スラストフランジ
250 スラスト動圧発生溝
310 軸とスリーブとの間のラジアル半径隙間
600、601、602 ベース
701、702 ハブ
801、802 ロータマグネット
851、852 ステータコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油、および油膜切れ防止剤としての金属スルホネートを含有する流体軸受装置用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記金属スルホネートが、バリウムスルホネートである請求項1記載の流体軸受装置用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記基油が、エステル油、エーテル油、もしくは炭化水素油またはそれらの混合物である請求項1記載の流体軸受装置用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記バリウムスルホネートを組成物全体に対して0.2〜5重量%含有する請求項2記載の流体軸受装置用潤滑油組成物。
【請求項5】
軸受孔を有するスリーブと、前記軸受孔内に前記スリーブに対して相対的に回転可能な状態で配置された軸構造体とを有する流体軸受装置であって、前記スリーブと前記軸構造体との間に形成される隙間に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の流体軸受装置用潤滑油組成物が保持されている流体軸受装置。
【請求項6】
金属スルホネートを含有する、流体軸受装置用潤滑油の油膜切れ防止剤。
【請求項7】
前記金属スルホネートが、バリウムスルホネートである請求項6記載の流体軸受装置用潤滑油の油膜切れ防止剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−37490(P2010−37490A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204561(P2008−204561)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】