説明

流体静力学ドライブ機械を制動する制御システムおよび方法

流体静力学ドライブ機械(10)を制動する方法は、流体静力学ドライブシステム(14)のポンプ(18)の押しのけ容積をゼロでない押しのけ容積まで縮小するステップ、流体静力学ドライブシステム(14)のモータ(22)の押しのけ容積を最大押しのけ容積未満の押しのけ容積まで拡張するステップを含む。その方法はまた、流体静力学ドライブシステム(14)のエンジン(20)を所望のエンジン回転数範囲に向かって加速するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、流体静力学ドライブ機械用の制御システムおよび方法に関し、より詳細には、流体静力学ドライブ機械を制動する制御システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型のオフハイウェイ機械を含む多くの機械が、車輪または無限軌道などの、機械の地面係合要素を駆動するのに、流体静力学ドライブシステムを使用するとして公知である。そのような流体静力学ドライブシステムは通常、内燃機関などの、機械の原動機によって駆動される少なくとも1つのポンプを含む。ポンプは、1つまたは複数のモータセットを駆動するように構成することができ、次いで、このモータセットが機械の地面係合要素を駆動する。ポンプおよび/またはモータは、押しのけ容積を変えることができるので、機械が走行している間に、流体静力学ドライブシステムの構成要素間の流体流れを調整することができる。その結果として、駆動輪の方向、回転数、およびトルクを連続的に変えることができる。
【0003】
これらの機械は通常、機械を遅くするか、または止めるための常用ブレーキ、または他のホイールブレーキを含む。しかし、そのようなブレーキを使用することで、駆動システムの構成要素が摩耗する、かつ/または損傷を受けることがあり、さらに、機械の重量が増え、機械のコストが上がることがある。代替案として、(特許文献1)は、流体静力学ドライブシステムのポンプを制御することにより、機械を制動する方法を教示している。具体的には、駆動モータまたはエンジンが制動モーメントを働かせるのを可能にする一方の設定と、制限速度値を超えた後、駆動モータを解放する他方の設定との間で、電子コントローラがポンプの押しのけ容積を素速く調整する。後者の設定は、流体静力学ドライブシステム内の圧力を軽減し、結果として駆動モータの回転数を下げる圧力制限弁の使用を含むことができる。設定間のこの素速い調整は、機械が十分に遅くなるか、または止まるまで行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,111,658号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
記載された制動方法は、機械を十分に遅くするか、または停止させることができるが、当然ながら、流体静力学ドライブ機械のための制動対策および方法を改良する必要性が引き続き残っている。具体的には、必須の標準規格などに従って機械の速度を落とすことができ、流体静力学ドライブシステムの構成要素の超過回転数を落とすことができ、常用ブレーキまたはホイールブレーキの必要性を低めることができる、効率を改善する制動対策が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、流体静力学ドライブ機械を制動する方法は、流体静力学ドライブシステムのポンプの押しのけ容積をゼロでない押しのけ容積まで縮小し、流体静力学ドライブシステムのモータの押しのけ容積を最大押しのけ容積未満の押しのけ容積まで拡張する各ステップを含む。方法はまた、流体静力学ドライブシステムのエンジンを所望のエンジン回転数範囲に向かって加速するステップを含む。
【0007】
別の態様では、流体静力学ドライブ機械は、内燃機関、内燃機関に機械的に連結された少なくとも1つの可変容量形ポンプ、および可変容量形ポンプに流体連通された少なくとも1つの可変容量形モータを含む。可変容量形モータは、流体静力学ドライブ機械の少なくとも1つの地面係合要素に機械的に連結される。電子コントローラは、可変容量形ポンプおよび可変容量形モータと通信し、例示的な実施形態によれば、機械制動要求を受け取るように構成される。電子コントローラはさらに、可変容量形ポンプの押しのけ容積をゼロでない押しのけ容積まで縮小するポンプ押しのけ容積コマンドを送出し、可変容量形モータの押しのけ容積を最大押しのけ容積未満の押しのけ容積まで拡張するモータ押しのけ容積コマンドを送出するように構成される。機械制動要求に応じて送出されるポンプ押しのけ容積コマンドおよびモータ押しのけ容積コマンドは共に、内燃機関を所望のエンジン回転数範囲に向かって加速するように選択される。
【0008】
さらに別の態様では、流体静力学ドライブ機械を制動するためのコンピュータ可読プログラムコードを有する、コンピュータで利用可能な媒体は、機械制動要求を受け取るためのコンピュータ可読プログラムを含む。コンピュータで利用可能な媒体はまた、機械制動要求に応じて、可変容量形ポンプの押しのけ容積をゼロでない押しのけ容積まで縮小するポンプ押しのけ容積コマンドを生成するためのコンピュータ可読プログラムコードを含む。さらに、コンピュータで利用可能な媒体は、機械制動要求に応じて、可変容量形モータの押しのけ容積を最大押しのけ容積未満の押しのけ容積まで拡張するモータ押しのけ容積コマンドを生成するためのコンピュータ可読プログラムコードを含む。コンピュータ可読プログラムコードはまた、内燃機関を所望のエンジン回転数範囲に向かって加速するように、ポンプ押しのけ容積コマンドおよびモータ押しのけ容積コマンドを選択するために提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本開示による流体静力学ドライブ機械の概略側面図である。
【図2】本開示による、図1の流体静力学ドライブ機械の流体静力学ドライブシステムの概略図である。
【図3】本開示による、図1の油圧駆動機械を制動する方法の一実施形態の論理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
機械10の例示的な実施形態が図1に概略的に示されている。機械10は、示すように、モータグレーダであってよいし、あるいは流体静力学ドライブシステムを有する他の任意のオフハイウェイ車両またはオンハイウェイ車両であってもよい。したがって、機械10はまた、本明細書において、流体静力学ドライブ機械、または、より具体的には、流体静力学ドライブモータグレーダと称することができる。図示した実施形態では、機械10は通常、無限軌道または(図示した)車輪などの、機械10の地面係合要素16を駆動する流体静力学ドライブシステム14を支持するフレーム12を含む。流体静力学ドライブシステム14を制御するために本明細書で提示する対策は、任意の流体静力学ドライブ機械に幅広く適用可能であり、したがって、提示された特定の実施形態が、単に例示することを目的として提示されるのは当然のことである。
【0011】
流体静力学ドライブシステム14は通常、圧縮点火式または火花点火式内燃機関20、あるいは電気モータなどの、機械10の原動機によって駆動される、油圧ポンプなどの少なくとも1つのポンプ18を含むことができる。ポンプ18は、1つまたは複数の油圧モータセットなどの少なくとも1つのモータ22を駆動するように構成することができ、次いで、このモータ22は、機械10の地面係合要素16を駆動する。ポンプ18およびモータ22のそれぞれは、押しのけ容積を変えることができるので、機械10が走行している間に、流体静力学ドライブシステム14の構成要素間の流体流れを調整することができる。その結果として、地面係合要素16または車輪の方向、回転数、およびトルクを連続的に変えることができる。
【0012】
オペレータ制御ステーション24もフレーム12上に支持することができ、機械10のオペレータが使用できる様々な制御部および装置を含むことができる。例えば、オペレータ制御ステーション24は、シートアセンブリ26、操向装置28、および1つまたは複数の機械動作コントローラ30などの公知の装置を含むことができる。特定の例によれば、機械10の方向性移動を制御するために、第1の機械動作コントローラ30を設けることができ、一方、スクレーパブレードなどの、機械10の用具32の動作を制御するために、第2の機械動作コントローラ30を設けることができる。オペレータ制御ステーション24は、機械速度を制御するためのアクセルペダル34、および機械10の移動を遅くするか、または止めるためのブレーキペダル36などのさらなる機械コントローラを含むことができる。機械10の進行方向および速度を制御するための独立した制御部について説明したが、当然のことながら、機械の速度および進行方向の両方を制御するのに、レバーなどの単一の制御部を設けることもできる。
【0013】
流体静力学ドライブ機械10の制御システム50をさらに説明するために、流体静力学ドライブシステム14の特定の実施形態が図2に示されている。示すように、流体静力学ドライブシステム14は、内燃機関20に機械的に連結された一対の可変容量形ポンプ18を含むことができる。各可変容量形ポンプ18には、ポンプ18の斜板を調整することで、その押しのけ容積を調整できる2方向可変容量形斜板ポンプを含めることができる。当然のことながら、「2方向」という用語は、油圧流体などの流体を2つの方向のどちらかに吐出できるポンプを指すことができる。したがって、斜板の角度は、機械10の前進用などの第1の押しのけの向き、または正の押しのけの向きと、機械10の後退用などの第2の押しのけの向き、または負の押しのけの向きとの間で変えることができる。当然のことながら、ゼロ押しのけ容積、すなわち斜板角がゼロでは、ポンプ18は、回転中に流体を移送することができず、ひいては、機械10を駆動することができない。
【0014】
例示的な実施形態によれば、各可変容量形ポンプ18は、並列接続などで一対の可変容量形モータ22に流体連通することができる。当然のことながら、可変容量形モータ22を可変容量形ポンプ18に流体連通させることで、各モータ22に送り込まれる油圧流体の方向および流量をポンプ18の相対斜板角によって確定することが可能になる。さらに、斜板角を調整することにより、モータ22の押しのけ容積を最小押しのけ容積と最大押しのけ容積との間で同様に変えて、地面係合要素16に伝達されるトルクを調整することができる。当然のことであるが、モータ22は、ポンプ18に関連して説明するように、2方向性でなくてもよい。しかし、本開示の範囲を逸脱することなく、2方向モータを使用することもできる。
【0015】
示すように、各可変容量形モータ22は、地面係合要素16の1つに機械的に連結することができる。より具体的には、各可変容量形モータ22は、アクスルシャフトを駆動するように構成することができ、次いで、アクスルシャフトは、各地面係合要素16に連結された最終駆動アセンブリ、または最終駆動遊星歯車装置を駆動するように構成することができる。したがって、可変容量形ポンプ18から第1の流体配管セット52を経由して可変容量形モータ22に油圧流体を送り込むことで、地面係合要素16を第1の方向、または前進方向に駆動することができる。当然のことであるが、速度およびトルクは、それぞれのポンプ18およびモータ22の選択された押しのけ容積によって決まる。第2の流体配管セット54を経由して、流体を反対の方向に送出することで、ポンプ18およびモータ22の押しのけ容積によって決まる速度およびトルクで、地面係合要素16を第2の方向、または後退方向に駆動することができる。
【0016】
上記の制御システム50は、流体静力学ドライブシステム14の動作を制御するように構成された少なくとも1つの電子コントローラ56を含むことができる。したがって、本明細書において、電子コントローラ56を駆動システム電子コントローラと称することもできる。単一の電子コントローラ56について説明するが、当然のことながら、制御システム50は、複数の電子コントローラを含むことができる。例えば、内燃機関20の動作を制御するために、電子コントローラを増設することができる。したがって、制御システム50の各電子コントローラは、横のつながりで、および/または階層的な態様で通信するように構成することができる。したがって、当然のことながら、本開示で使用するのに、単純なものから複雑なものまで、様々な制御システム50があり得ると考えられる。
【0017】
電子コントローラ56は、標準的な構成のものとすることができ、例えば、中央処理ユニットなどのプロセッサ、メモリ、ならびに電子コントローラ56の内部および外部との通信を容易にする入力/出力回路を含むことができる。プロセッサは、例えば、メモリに保存されたコンピュータ可読プログラムコードなどの動作命令を実行することにより、電子コントローラ56の動作を制御することができ、電子コントローラ56の内部または外部で動作を開始することができる。他の様々なシステムまたは装置への入力を制御するために、例えば、センサ、アクチュエータ、または制御ユニットなどのシステムまたは装置の出力を入力/出力回路を介して監視する制御方式を利用することができ、この制御方式の例が下記に提示される。
【0018】
メモリは、例えば、キャッシュ、仮想メモリ、またはランダムアクセスメモリなどの一時記憶領域、あるいは、例えば、リードオンリメモリ、リムーバブルドライブ、ネットワーク/インターネット記憶装置、ハードドライブ、フラッシュメモリ、メモリスティックなどの永久記憶領域、あるいは他の任意で公知の揮発性または不揮発性データ記憶装置を含むことができる。そのような装置は、電子コントローラ56の内部または外部に配置することができる。当業者には、流体静力学ドライブシステム14の構成要素を制御するのに同様の構成要素を利用する、コンピュータを基本とした任意のシステムまたは装置が、本開示での使用に適すると分かるであろう。
【0019】
電子コントローラ56は、内燃機関20、可変容量形ポンプ18、および可変容量形モータ22のそれぞれと通信することができる。より具体的には、電子コントローラ56は、可変容量形ポンプ18と通信して、その斜板角を調整することができ、それにより、上記の押しのけ容積を変えることができる。一実施形態によれば、斜板角を変え、流体流れの方向を制御するために、比例ソレノイドなどのポンプ押しのけ容積ソレノイドを設けることができる。ただし、押しのけ容積および流体流れを調整するための様々な手段が公知であり、本開示に含まれ得る。それに応じて、電子コントローラ56は、有線または無線通信回線60を介して、可変容量形ポンプ18にポンプ押しのけ容積コマンドおよび/またはさらなるコマンドを送出して、それぞれの可変容量形ポンプ18の流体流れの押しのけ容積および方向を効果的に制御することができる。
【0020】
同様に、電子コントローラ56は、モータ22の斜板の角度を調整するために、可変容量形モータ22と通信することができる。具体的には、電子コントローラ56は、それぞれの可変容量形モータ22の押しのけ容積を制御するために、通信回線60を介して、モータ押しのけ容積コマンドを送出することができる。比例ソレノイドまたは他の同様の装置を使用して、可変容量形モータ22の押しのけ容積を制御することで、流体静力学ドライブ機械10を推進させるのに必要なトルク調整が可能になる。上記のように、押しのけ容積および流体流れを制御するための装置は一般に公知であり、したがって、本明細書でさらに詳細に説明することはしない。
【0021】
電子コントローラ56はまた、流体静力学ドライブ機械10を適切に制御するのに必要な、流体静力学ドライブシステム14の様々な他のセンサおよび/または装置と通信することができる。例えば、エンジン回転数センサ64は、通信回線60を介して電子コントローラ56に送られる、内燃機関20の回転数に対応した信号を生成することができる。同様に、可変容量形モータ22の回転数を検出するように配置されたモータ回転数センサ66は、対応するモータ回転数信号を通信回線60を介して電子コントローラ56に供給することができる。可変容量形ポンプ18の回転数を検出するために、センサを設けることもできるが、当然のことながら、ポンプ18の回転数は、内燃機関20とポンプ18との間の特定の駆動比に基づいて求めることができる。したがって、可変容量形ポンプ18の回転数は、電子コントローラ56により容易に求めることができる。そのような回転数は、当然のことであるが、第1の流体配管セット52および第2の流体配管セット54内の流体流れを評価するために、押しのけの向きと共に電子コントローラ56で使用することができる。
【0022】
流体配管52、54内にある油圧流体などの流体の圧力および/または温度レベルを検出するために、さらなるセンサを設けることもできる。具体的には、第1のセンサ68は、第1の流体配管52内の圧力レベルまたは温度を検出し、検出した圧力レベルまたは温度を通信回線60を介して電子コントローラ56に送るように構成することができる。同様に、第2のセンサ70は、第2の流体配管54内の検出した圧力レベルまたは温度を電子コントローラ56に送るように構成することができる。一例によれば、第1のセンサ68により検出できる圧力レベル値は、可変容量形モータ22によって地面係合要素16に付与されるトルクを評価するために、押しのけの向きと共に電子コントローラ56で使用することができる。さらに、第2のセンサ70によって検出された圧力レベル値は、可変容量形ポンプ18の影響を受けるエンジントルクを評価するために、押しのけの向き値と共に電子コントローラ56で使用することができる。当然のことながら、第1のセンサ68および第2のセンサ70は、要望に応じて、圧力センサまたは温度センサとすることができる。必要ならば、圧力センサおよび温度センサの両方を実装することもできる。
【0023】
流体静力学ドライブシステム14はまた、示すように、第1の流体配管52および第2の流体配管54の一方または両方に流体連通した1つまたは複数の安全弁72を含むことができる。第1の流体配管52または第2の流体配管54のいずれかで、流体流れおよび/または圧力が高くなりすぎた場合、対応する安全弁72は、流体圧力を逃がし配管72aまたは逃がし配管72bを経由して、それぞれポンプ18またはモータ22に逃がすように、公知の態様で作動することができる。当然のことであるが、そのような安全弁72を設けて、可変容量形ポンプ18および可変容量形モータ18のいずれかが損傷する危険性を軽減することができる。内燃機関20が損傷する危険性を軽減するために、公知の摩擦ブレーキ74またはディスクブレーキを設けることができる。具体的には、電子的に作動できる摩擦ブレーキ74は、作動したときに、フライホイール76の回転数を落とすように配置することができる。当然のことであるが、フライホイール76は、内燃機関20を可変容量形ポンプ18に機械的に連結することができる。当然のことながら、摩擦ブレーキ74に加えて、またはこれの代替として、エンジン圧縮ブレーキまたは排気ブレーキを使用して、内燃機関20が超過回転数になるのを防止することができる。
【0024】
機械10の通常運転中に、エンジンスロットルなどの機械オペレータコントローラ30の1つを用いて、内燃機関20を所定のエンジン回転数で動作するように設定することができる。具体的には、電子コントローラ56または他のコントローラは、エンジンスロットルによって指定されたエンジン回転数にするために、内燃機関20の燃料供給を制御することができる。したがって、可変容量形ポンプ18は、選択したエンジン回転数に比例する回転数で駆動することができる。本明細書で説明した流体静力学ドライブシステム14の構成要素を使用して、機械10の速度、または対地速度を調整することができる。具体的には、例えば、機械速度は、アクセルペダル34または他の同様の制御装置の検出した位置に基づいて制御することができる。検出した位置に応じて、電子コントローラ56は、関連するポンプ18の押しのけ容積を比例制御し、それによって、地面係合要素16を駆動するモータ22への流体流れを調整することにより、各モータ22の回転数を制御することができる。上記のように、電子コントローラ56は、第1の流体配管52および第2の流体配管54を通る流体流れの量および方向を制御するために、ポンプ18と通信することができる。
【0025】
アクセルペダル34を解放するか、あるいはアクセルペダル34または他の同様のレバーもしくは装置を中立位置に戻すことで、電子コントローラ56は、相応して可変容量形ポンプ18の押しのけ容積をゼロ押しのけ容積に向かって変えることができ、ゼロ押しのけ容積の状態では、ポンプ18は流体を移送しない。場合によっては、これは、ポンプ18がもはや流体をモータ22に送り込んでいないので、機械10を最終的に遅くするか、または止めることができるが、当然のことながら、それ以上の停止能力または制動能力が必要なことがある。例えば、ポンプ押しのけ容積をゼロに設定することで得られるよりも迅速な制動応答を必要とする緊急制動または「迅速」制動が、機械10の通常運転中に要求されることがしばしばある。
【0026】
図3を参照すると、本開示による、流体静力学ドライブ機械10を制動する、または遅くする例示的な制御方法を表すフローチャート80が示されている。その方法は、機械10の制御システム50により実施することができる。一例によれば、開示した方法を実施するステップは、メモリに保存されたコンピュータ可読プログラムコードの形態とすることができ、電子コントローラ56のプロセッサ、または他のコンピュータで利用可能な媒体により実行することができる。方法は、連続的に実行されてよいし、または所定の事象に応答して開始されてもよい。一実施形態によれば、方法は、ブレーキペダル36の移動を検出したのに応答して開始することができる。ただし、方法は、他の様々な装置の作動に応答して、または機械10の所定の状態に応答して開始することができるのは当然のことである。
【0027】
方法は、ボックス82の「開始」で始まる。方法は、ボックス82から、機械制動要求を受けとったかどうかを判断するステップを含むボックス84に進む。具体的には、一実施形態によれば、電子コントローラ56は、制動ペダル36に関係する位置センサと通信することができて、対応する制動ペダル位置信号が、電子コントローラ56に送られる。電子コントローラ56は、機械制動要求を受け取ったかどうかを判断するために、制動ペダル位置信号を監視することができる。一例によれば、機械制動要求については、制動ペダル36の動作のレベルに基づいて判断することができる。それに加えた例として、または代替の例として、機械制動要求は、時間に応じた制動ペダル36の動作レベルに基づいてもよい。機械制動要求を受け取っていない場合、方法はそのような要求に備えて引き続き監視するか、または待機することができる。
【0028】
機械制動要求を受け取ると、方法はボックス86に進む。ボックス86で、電子コントローラ56は、可変容量形モータ22の押しのけ容積が最大押しのけ容積であるかどうかを判断する。モータの押しのけ容積が最大押しのけ容積に設定されている場合、方法はボックス88に進むことができる。一方、モータ押しのけ容積が最大押しのけ容積未満の場合、方法はボックス90に進むことができる。ボックス90で、電子コントローラ56は、内燃機関20の回転数を所望のエンジン回転数範囲に向かって効果的に加速するように、ポンプ押しのけ容積コマンドを可変容量形ポンプ18に送出することができる。一例によれば、所望のエンジン回転数範囲には、可変容量形ポンプ18から最大動力を吸収するとして特定された1つまたは複数のエンジン回転数が含まれ得る。
【0029】
当然のことながら、ポンプ押しのけ容積は、エンジン負荷に影響を及ぼすことができるので、エンジン回転数は、ポンプ押しのけ容積を制御することにより調整することができる。当然のことながら、ポンプ押しのけ容積を縮小することで、エンジン回転数を上げることができるが、そのような調整は、ポンプ押しのけ容積および圧力によって決まる内燃機関20へのトルクを小さくすることもある。したがって、圧力およびポンプ18への流体流れに影響を及ぼすモータ押しのけ容積をも調整して、内燃機関20を所望のエンジン回転数範囲に加速するのに必要なトルクをもたらすことができる。特定の例によれば、公知の比例積分コントローラは、エンジン回転数センサ64によって提供されるような現在のエンジン回転数と、所望のエンジン回転数範囲内の所望のエンジン回転数とを与えられて、ポンプ押しのけ容積コマンドを生成することができる。
【0030】
方法は、ボックス90からボックス92に続き、ボックス92には、モータ流量をポンプ流量の方に効果的に合わせるように、電子コントローラ56が、モータ押しのけ容積コマンドを可変容量形モータ22に送出することが記載されている。具体的には、第1の流体配管52内の流体流れと第2の流体配管54内の流体流れとを等しくするように、モータ押しのけ容積コマンドを選択することができる。一例によれば、第1の流体配管52内の流体流れは、ポンプ押しのけ容積とポンプ回転数との積とし、一方、第2の流体配管54内の流体流れは、モータ押しのけ容積とモータ回転数との積とし得る。したがって、モータ押しのけ容積を、第1の流体配管52内の流体流れをモータ回転数センサ66で測定された現在のモータ回転数で除したものと同じ値に調整して、流体流れを等しくする、またはこれを等しくすることを試みることができる。当然のことながら、ボックス90およびボックス92の方法のステップは、さらなる方法ステップと共に、同時に、またはほぼ同時に行うことができる。
【0031】
方法は、ボックス92からボックス94に進み、電子コントローラ56は、流体静力学ドライブ機械10が十分に遅くなったか、または止まったかどうかを判断する。機械10が十分に遅くなっていない、または止まっていないと判断した場合、方法はボックス86に戻り、上記の問い合わせが繰り返される。ボックス86で、モータ押しのけ容積が最大押しのけ容積であると判断した場合、方法はボックス88に進み、電子コントローラ56は、ポンプ流量をモータ流量の方に効果的に合わせるように、ポンプ押しのけ容積コマンドを可変容量形ポンプ18に送出する。具体的には、第1の流体配管52内の流量と第2の流体配管54内の流量とを等しくするように、モータ押しのけ容積コマンドを選択することができる。上記のように、ポンプ押しのけ容積を、第2の流体配管54内の流体流れを現在のポンプ回転数で除したものと同じ値に設定して、流体流れを等しくする、またはこれを等しくすることを試みることができる。
【0032】
方法は、ボックス88から、同様に、ボックス94に進み、電子コントローラ56は、流体静力学ドライブ機械10が十分に遅くなったか、または止まったかどうかを判断する。機械10が十分に遅くなった、または止まったと判断した場合、方法は、ボックス96の「終了」に進む。そうでない場合、方法は、上記のように、ボックス86に戻る。当然のことながら、制動方法の結果として、機械制動要求を受け取ったときに、ポンプ押しのけ容積をゼロでない押しのけ容積などまで縮小して、内燃機関20を所望のエンジン回転数範囲に向かって加速することができる。同時に、またはほぼ同時に、モータ押しのけ容積を最大押しのけ容積未満まで拡張することができる。モータ押しのけ容積を最大押しのけ容積に即座に拡張することで、圧力および流れを増大させて、制動を強化することができるが、当然のことながら、そのような調整は、安全弁72をこれまで以上に使用することを必要とすることがあり、その結果、熱発生流れが生じる。そのような熱発生流れを制限するために、流体配管52、54内の流れが等しくなるように、モータ押しのけ容積を選択することができる。
【0033】
流体配管52、54内の流れが等しくなるようにモータ押しのけ容積を調整した結果として、モータ押しのけ容積が、最終的に最大押しのけ容積に達することがある。これが起こった場合、次いで、第1の流体配管セット52内の流体流れと第2の流体配管セット54内の流体流れとを等しくするように、または等しくしようとするように、可変容量形ポンプ18の押しのけ容積を選択することができる。その結果として、必須の標準規格などに従って、流体静力学ドライブ機械10をより効率的に遅くするか、または停止させることができ、それと同時に、流体静力学ドライブシステム14の構成要素の摩耗および損傷が低減される。さらに、本明細書で説明した制動方法に従って流体静力学ドライブ機械10を制動することで、常用ブレーキまたはホイールブレーキの必要性を低くめることができる。非常ブレーキまたは緊急ブレーキを設けることもできるが、一部の実施形態によれば、流体静力学ドライブ機械10は任意のホイールブレーキをなくすことができ、機械10を遅くするのに、開示した制動方法のみを利用する。
【0034】
当然のことながら、本開示の範囲から逸脱することなく、図3の制動方法を改良または修正することが可能である。一例によれば、制動方法は、上記の摩擦ブレーキ74と組み合わせて使用することができる。具体的には、摩擦ブレーキ74は、内燃機関20の回転数が、所望のエンジン回転数範囲などの所定の回転数を超えた場合に作動することができて、内燃機関20の損傷を防止する。さらに、制動方法は、所定の条件を満たした場合に、内燃機関20の燃料供給を減らす論理部を含むことができる。例えば、電子コントローラ56は、制動方法の実行中に燃料供給が要求された場合、ゼロスロットルをシミュレーションするなどして、燃料供給を減らすことができる。代替案として、電子コントローラ56は、そのような燃料供給が始まったときに、ポンプ押しのけ容積をゼロ押しのけ容積に設定することができる。
【0035】
さらなる改良によれば、上記の制動方法は、公知のセンサを使用して、地面係合要素16でのタイヤのスリップをチェックすることもできる。タイヤのスリップが検出され、所定のしきい値を超えた場合、可変容量形モータ22の押しのけ容積を縮小し、ひいては、地面係合要素16のトルクを小さくすることができる。さらに、制動方法は、そのようなタイヤのスリップの発生を抑制するために、モータ押しのけ容積コマンドを調整するように修正することができる。
【産業上の利用性】
【0036】
本開示は、流体静力学ドライブシステムを利用する任意の機械に適用可能である。さらに、本開示は、1つまたは複数の可変容量形モータを駆動するように構成された1つまたは複数の可変容量形ポンプを利用する流体静力学ドライブ機械に特に適用可能である。さらにまた、本開示は、常用ブレーキ、またはホイールブレーキの必要性を低める効率的な制動対策を必要とする流体静力学ドライブ機械に適用可能である。そのような機械には、限定するものではないが、モータグレーダなどのオフハイウェイ機械、バスおよびトラックなどのオンハイウェイ機械、ならびに当技術分野で公知の他の機械があり得る。
【0037】
図1〜3を全体的に参照すると、流体静力学ドライブ機械10は、内燃機関20に機械的に連結された一対の可変容量形ポンプ18を備える流体静力学ドライブシステム14を含むことができる。各可変容量形ポンプ18は、一対の可変容量形モータ22と流体連通することができ、次いで、可変容量形モータ22は、機械10の地面係合要素16に機械的に連結されている。少なくとも1つの電子コントローラ56を含む制御システム50は、機械制動要求に応じて、流体静力学ドライブ機械10を制動する制動方法を実行することを含む、流体静力学ドライブシステム14の動作の制御用に設けることができる。
【0038】
具体的には、電子コントローラ56は、機械制動要求を受け取り、それに応答して、ポンプ18の押しのけ容積をゼロでない押しのけ容積まで縮小するために、ポンプ押しのけ容積コマンドを可変容量形ポンプ18に送出するように構成することができる。さらに、電子コントローラ56は、上記の理由から、モータ22の押しのけ容積を最大押しのけ容積未満の押しのけ容積まで拡張するために、モータ押しのけ容積コマンドを可変容量形モータ22に送出するように構成することができる。当然のことながら、これらの押しのけ容積コマンドの1つまたは両方は、内燃機関20を所望のエンジン回転数範囲に向かって加速するように選択または調整することができる。そのようなエンジン回転数には、内燃機関20が、増強した摩擦力または抑制力をもたらすことができる回転数が含まれ得る。
【0039】
本明細書で説明した制御システム50および制動方法は、流体静力学ドライブシステム14を使用して、流体静力学ドライブ機械10を制動する手段を提供する。説明した制動方法は、動力を吸収するのに内燃機関20を利用することで、流体静力学ドライブ機械10を効率的に制動することができる。さらに、本開示の制動方法は、安全弁72を経由する熱発生流れを抑制し、超過回転数などによる、流体静力学ドライブシステム14の構成要素の損傷の危険性を軽減し、常用ブレーキまたはホイールブレーキの必要性を低めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体静力学ドライブ機械(10)を制動する方法であって、
流体静力学ドライブシステム(14)のポンプ(18)の押しのけ容積をゼロでない押しのけ容積まで縮小し、
流体静力学ドライブシステム(14)のモータ(22)の押しのけ容積を最大押しのけ容積未満の押しのけ容積まで拡張し、
流体静力学ドライブシステム(14)のエンジン(20)を所望のエンジン回転数範囲に向かって加速する、
ことを含む方法。
【請求項2】
縮小ステップおよび拡張ステップは同時に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エンジン(20)の回転数が所望のエンジン回転数範囲を超えた場合に、摩擦ブレーキ(74)を使用して、エンジン(20)とポンプ(18)とを機械的に連結するフライホイール(76)の回転数を下げることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
拡張ステップは、流体静力学ドライブ機械(10)の地面係合要素(16)のタイヤのスリップを抑えるために、モータ押しのけ容積を調整することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
内燃機関(20)と、
内燃機関(20)に機械的に連結された少なくとも1つの可変容量形ポンプ(18)と、
少なくとも1つの可変容量形ポンプ(18)に流体連通された少なくとも1つの可変容量形モータ(22)と、
少なくとも1つの可変容量形モータ(22)に機械的に連結された少なくとも1つの地面係合要素(16)と、
少なくとも1つの可変容量形ポンプ(18)および少なくとも1つの可変容量形モータ(22)と通信する電子コントローラ(56)と、
を有する流体静力学ドライブ機械(10)であって、電子コントローラ(56)は、機械制動要求を受け取り、機械制動要求に応じて、少なくとも1つの可変容量形ポンプ(18)の押しのけ容積をゼロでない押しのけ容積まで縮小するためのポンプ押しのけ容積コマンドを送出し、機械制動要求に応じて、少なくとも1つの可変容量形モータ(22)の押しのけ容積を最大押しのけ容積未満の押しのけ容積まで拡張するためのモータ押しのけ容積コマンドを送出するように構成されており、ポンプ押しのけ容積コマンドおよびモータ押しのけ容積コマンドは、内燃機関(20)を所望のエンジン回転数範囲に向かって加速するように選択される、流体静力学ドライブ機械(10)。
【請求項6】
モータ押しのけ容積コマンドは、モータ流量をポンプ流量の方に合わせるように選択される、請求項5に記載の流体静力学ドライブ機械(10)。
【請求項7】
モータ押しのけ容積コマンドは、モータ流量を最大押しのけ容積に調整するように選択される、請求項5に記載の流体静力学ドライブ機械(10)。
【請求項8】
ポンプ押しのけ容積コマンドは、モータ押しのけ容積が最大押しのけ容積である場合に、ポンプ流量をモータ流量の方に合わせるように選択される、請求項7に記載の流体静力学ドライブ機械(10)。
【請求項9】
内燃機関(20)に機械的に連結された2つの可変容量形ポンプ(18)と、各2つの可変容量形ポンプ(18)に流体連通された2つの可変容量形モータ(22)とをさらに含む、請求項5に記載の流体静力学ドライブ機械。
【請求項10】
流体静力学ドライブ機械(10)を制動するためのコンピュータ可読プログラムコードを有する、コンピュータで利用可能な媒体であって、
機械制動要求を受け取るためのコンピュータ可読プログラムコードと、
機械制動要求に応じて、可変容量形ポンプ(18)の押しのけ容積をゼロでない押しのけ容積まで縮小するポンプ押しのけ容積コマンドを生成するためのコンピュータ可読プログラムコードと、
機械制動要求に応じて、可変容量形モータ(22)の押しのけ容積を最大押しのけ容積未満の押しのけ容積まで拡張するモータ押しのけ容積コマンドを生成するためのコンピュータ可読プログラムコードと、
内燃機関(20)を所望のエンジン回転数範囲に向かって加速するポンプ押しのけ容積コマンドおよびモータ押しのけ容積コマンドを選択するためのコンピュータ可読プログラムコードと、
を含むコンピュータで利用可能な媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−501422(P2012−501422A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525140(P2011−525140)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/054885
【国際公開番号】WO2010/025133
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(391020193)キャタピラー インコーポレイテッド (296)
【氏名又は名称原語表記】CATERPILLAR INCORPORATED
【Fターム(参考)】