説明

流動状物品の異物検査方法及び装置

【課題】 簡易な構成でありながらも効率良く、流動状物品に混入し得る異物を非接触非破壊で検査する方法及び装置を提供すること。
【解決手段】 流動状物品に混入し得る異物を、非接触非破壊で検査する方法であって、赤外線を流動状物品に照射する照射ステップと、流動状物品からの透過光と反射光の少なくとも一方を受光する受光ステップと、透過光による被験画像と反射光による被験画像の少なくとも一方を検査して、異物の有無を評価する異物評価ステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動状物品に混入し得る異物を、非接触非破壊で検査する方法と、その方法を実施する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
果実を原料にするジャムなど流動状食品には、虫などの異物が混入しやすい傾向がある。
そのような流動状物品に混入し得る異物を、非接触非破壊で検査するには、従来は、可視光における目視確認や、カメラによる撮像画像の目視確認による手段が主であった。しかし、例えばジャムの場合は、ジャムの色が濃いと、虫などの異物を判別して見つけ出すことは困難であったりし、精度に限界があり、また検査コストも高かった。
【0003】
従来技術には、可視光を照射し、その反射光を用いて異物を検出する手段もある。しかし、反射光のみを用いる場合は、検査対象物の手前表面近くしか検査できない。
赤外線を利用した検査手段に関しては、特許文献1〜5などの従来技術があるが、装置が大がかりであったりして、実用的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−117263 「異物検査装置」
【特許文献2】特開2010−60312 「異物検査装置及び異物検査システム」
【特許文献3】特開2009−168747 「食品検査方法及び食品検査装置」
【特許文献4】特開2006−258551 「液内異物検査装置」
【特許文献5】特開2005−351678 「異物検査方法および異物検査装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、簡易な構成でありながらも効率良く、流動状物品に混入し得る異物を非接触非破壊で検査する方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の流動状物品の異物検査方法は、流動状物品に混入し得る異物を、非接触非破壊で検査する方法であって、赤外線を流動状物品に照射する照射ステップと、流動状物品からの透過光と反射光の少なくとも一方を受光する受光ステップと、透過光による被験画像と反射光による被験画像の少なくとも一方を検査して、異物の有無を評価する異物評価ステップとを有することを特徴とする。
【0007】
ここで、照射ステップでは、赤外線を偏光の方位を変えて複数回照射し、受光ステップでは、流動状物品からの透過光を受光する場合には、流動状物品で散乱される偏光を捨象し、流動状物品の内部から透過される偏光を検知して、検査精度の向上に寄与させてもてもよい。
【0008】
同様に、照射ステップでは、赤外線を偏光の方位を変えて複数回照射し、受光ステップでは、流動状物品からの反射光を受光する場合には、流動状物品の表面から反射される偏光を捨象し、流動状物品の内部から反射される偏光を検知して、検査精度の向上に寄与させてもてもよい。
【0009】
流動状物品としては、ジャム、ペースト、ドレッシング、クリーム、スープ、ジュース、野菜汁、乳製品、海藻製品の群から成る流動状食品のいずれかに好適に適用できる。
【0010】
検査対象の流動状物品における透過特性と反射特性の少なくとも一方を予め測定し、検査に適した波長を選定して、検査精度の向上に寄与させてもてもよい。
【0011】
異物評価ステップでは、流動状物品の被験画像において、受光量が予め設定された所定値より小さい領域の面積が、予め設定された所定値より大きければ、その領域を異物の像と評価して、検査の自動化に寄与させてもよい。
【0012】
本発明の流動状物品の異物検査装置は、流動状物品に混入し得る異物を、非接触非破壊で検査する装置であって、赤外線を流動状物品に照射する照射手段と、流動状物品からの透過光と反射光の少なくとも一方を受光する受光手段と、透過光による被験画像と反射光による被験画像の少なくとも一方を検査して、異物の有無を評価する演算手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
ここで、流動状物品を収容容器に充填する前の製造ラインに、流動状物品を移送すると共に赤外線を透過する部位を有する流路を設け、その流路における赤外線透過部位に、照射手段及び受光手段を対向させてもよい。
【0014】
また、流動状物品が充填されると共に赤外線を透過する部位を有する収容容器を、移送すると共に回転可能である製造ラインに、照射手段及び受光手段を対向させてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、赤外線照射による透過光・反射光を用いるので、ジャムなど流動状物品に混入し得る異物を、非接触非破壊で検査することができる。そのため、製造食品等の安全性や品質が向上する。また、簡易な装置構成により自動検査可能なので、低コストで効率良く検査を行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】流動状物品の異物検査装置の実施例を示す要部説明図
【図2】ジャムの波長350〜1040nmにおける透過スペクトルのグラフ
【図3】ジャムの波長900〜1700nmにおける透過スペクトルのグラフ
【図4】ジャムの波長900〜1700nmにおける反射スペクトルのグラフ
【図5】金属棒の混入したガラス瓶詰めイチゴジャムの反射像の写真(左:850nm、右:950nm)
【図6】虫の混入したガラス瓶詰めイチゴジャムの写真(左:反射像、右:透過像)
【図7】ネジ、毛髪、石、枝の混入したブルーベリーの近赤外線反射像の写真
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態を、図面に示す実施例を基に説明する。なお、実施形態は下記の例示に限らず、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で、前記特許文献など従来公知の技術を用いて適宜設計変更可能である。
ここでは、流動状物品として、ジャムを例示して説明するが、例えば、ペースト、ドレッシング、クリーム、スープ、ジュース、野菜汁、乳製品、海藻製品などの流動状食品や、化学製品など、流動状を呈する物品一般に同様に適用可能である。
【0018】
図1は、本発明による流動状物品の異物検査装置の実施例を示す要部説明図である。
流動状物品としてのジャム(10)を、その製品収容容器に充填する前の製造ラインに、異物検査装置を設ける。
ジャム(10)は、製造ラインとしての流路(20)の内部を移送される。流路(20)には、合成樹脂製のパイプや樋など、赤外線を透過する部位を有する従来公知の部材が適宜利用できる。
【0019】
例えば、イチゴのジャム(10)に混入し得る異物を検査するための流路(20)であれば、イチゴが2粒重ならない程度の幅を目安とした径1cmのパイプ等が利用できる。
混入する可能性があり、その有無を本発明で検査可能な異物としては、虫や、石、土、植物片、金属片などが挙げられる。
【0020】
流路(20)における赤外線透過部位には、赤外線の照射手段(21)と受光手段(22)(23)が配備される。図示の例では、ジャム(10)からの透過光を受光する赤外線受光手段(22)と、ジャム(10)からの反射光を受光する赤外線受光手段(23)が設けられている。
赤外線照射手段(21)には、光源や光学系など従来公知の装置が適宜利用でき、赤外線受光手段(22)(23)にも、カメラや画像処理装置など従来公知の装置が適宜利用でき、それぞれ従来公知の制御装置が接続される。また、赤外線受光手段(22)(23)には、被験画像を表示するディスプレイや、画像情報を検査して異物の有無を評価する演算手段としてのPCなどが接続される。
【0021】
異物の有無を評価するには、被験画像において、受光量が予め設定された所定値より小さい領域の面積が、予め設定された所定値より大きければ、その領域を異物の像と評価する方法や、予め設定された範囲外の波長の光を受光した場合に、異物があると評価する方法や、予め設定された範囲の波長で予め設定された所定値より大きな強度の光を受光した場合に、異物があると評価する方法などが利用できる。
異物を検知した場合は、その異物像にマーキングをして表示したり、音声等で示す。
【0022】
異物検査装置は、収容容器に充填された完成製品を移送するラインに設けてもよい。
例えば、瓶詰めのジャム(10)を移送するコンベアに、上記と同様の異物検査装置を配置させてもよい。
また、ジャム(10)の充填された瓶等の容器を回転させる装置を付設して、様々な方位から容器に赤外線を照射できるようにしてもよい。これは特に、容器の径が大きかったり、内容物が赤外線を透過しにくい場合に有用である。
【0023】
使用する赤外線には、波長800〜1700nmのものが適宜選定できる。
検査対象の流動状物品における透過特性や反射特性を予め測定しておき、検査に適した波長を選定してもよい。
【0024】
また、赤外線として偏光を用いてもよい。赤外線照射手段(21)及び赤外線受光手段(22)(23)に偏光板を付設し、赤外線照射手段(21)から発する赤外線の偏光の方位と、赤外線受光手段(22)(23)で受ける偏光の方位の異同を調節する。
例えば、赤外線照射手段(21)から照射する赤外線を偏光の方位を変えて複数回照射し、ジャム(10)からの透過光を受光する場合には、散乱される偏光を捨象し、ジャム(10)の内部から透過される偏光を赤外線受光手段(22)で検知する。
ジャム(10)からの反射光を受光する場合には、表面反射される偏光を捨象し、ジャム(10)の内部から反射される偏光を赤外線受光手段(23)で検知する。
【0025】
図2は、ジャムの波長350〜1040nmにおける透過スペクトル、図3は、ジャムの波長900〜1700nmにおける透過スペクトル、図4は、ジャムの波長900〜1700nmにおける反射スペクトルのグラフである。
ブルーベリー、マーマレード、イチゴの3種のジャム(アオハタ製)と水について、赤外線の透過特性及び反射特性を検討した(図2:ジャムの厚み16mm、PhotonControl製SMP002、図3:ジャムの厚み16mm、OceanOptinics製USB4000、図4:ジャムの厚み15mm、PhotonControl製SMP002)。
その結果、ブルーベリー、マーマレード、イチゴ毎に特徴のあるスペクトルであり、波長500〜1100nmのものが利用可能であることがわかった。特に、550〜950nmを良く透過した。ジャムと水の分光スペクトルを比較すると、900nm近辺のものが有用である。
【0026】
図5は、金属棒の混入したガラス瓶詰めイチゴジャムの反射像である。
850nm(左図)及び950nm(右図)のLED光を赤外域まで感度のあるカメラ(WAT‐902H2ULTIMATE)で撮影した。金属棒は、可視光では見えなかったが、赤外線では視認可能になった。950nmによる撮像画像の方が、850nmによる撮像画像より明瞭であった。これは、950nmの赤外線の方が、水分による吸収が大きく暗くなるためと考えられる。
【0027】
図6は、黒い虫の混入したガラス瓶詰めイチゴジャムの透過像及び反射像である。
850nmのLED光を赤外域まで感度のあるカメラ(WAT‐902H2ULTIMATE)で撮影した。小さな黒い虫はガラス瓶の表面近くに位置していたが、可視光では視認困難であり、赤外線では視認可能になった。透過像(右図)の方が反射像(左図)より若干明瞭であった。
なお、白黒画像においては、黒い異物は、透過像でも反射像でも黒く写り、白い異物は、透過像では黒く写り反射像では黒く写る。
【0028】
ブルーベリーのジャムなどブルーベリー加工品を製造する工程では、原料のブルーベリーに、小枝や、石、毛髪、金属などの異物が混入した場合、従来は、目視検査を行って取り除いていた。しかし、異物が原料とよく似た色の場合、見分けることが困難で見逃してまうという問題がある。このような原料の移送段階でも、本発明は有効である。
図7は、異物の混入したブルーベリーの近赤外線反射像の写真である。
近赤外LEDにより近赤外線を照射し、その反射光を近赤外線カメラ(InGaAsカメラ)で撮影した。その結果、1300〜1550nmの近赤外領域では、ブルーベリー(30)は光を吸収するために黒く写る一方、金属製ネジ(31)や、毛髪(32)、小石(33)、小枝(34)は光を反射するために白く写り、鮮やかなコントラストがついた。
なお、この方法はブルーベリーに限らず、1300〜1600nmの近赤外線を吸収するイチゴなど、水分を含む食品類に同様に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によると、簡素な構成でありながらも効率良く、多種多様な流動状物品を検査することができ、産業上利用価値が高い。
【符号の説明】
【0030】
10 ジャム
20 流路
21 赤外線照射手段
22 赤外線透過光受光手段
23 赤外線反射光受光手段
30 ブルーベリー
31 金属製ネジ
32 毛髪
33 小石
34 小枝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動状物品に混入し得る異物を、非接触非破壊で検査する方法であって、
赤外線を流動状物品に照射する照射ステップと、
流動状物品からの透過光と反射光の少なくとも一方を受光する受光ステップと、
透過光による被験画像と反射光による被験画像の少なくとも一方を検査して、異物の有無を評価する異物評価ステップと、を有する
ことを特徴とする流動状物品の異物検査方法。
【請求項2】
照射ステップが、赤外線を偏光の方位を変えて複数回照射し、
受光ステップが、流動状物品からの透過光を受光する場合には、流動状物品で散乱される偏光を捨象し、流動状物品の内部から透過される偏光を検知する
請求項1に記載の流動状物品の異物検査方法。
【請求項3】
照射ステップが、赤外線を偏光の方位を変えて複数回照射し、
受光ステップが、流動状物品からの反射光を受光する場合には、流動状物品の表面から反射される偏光を捨象し、流動状物品の内部から反射される偏光を検知する
請求項1または2に記載の流動状物品の異物検査方法。
【請求項4】
流動状物品が、ジャム、ペースト、ドレッシング、クリーム、スープ、ジュース、野菜汁、乳製品、海藻製品の群から成る流動状食品のいずれかである
請求項1ないし3のいずれかに記載の流動状物品の異物検査方法。
【請求項5】
検査対象の流動状物品における透過特性と反射特性の少なくとも一方を予め測定し、検査に適した波長を選定する
請求項1ないし4のいずれかに記載の流動状物品の異物検査方法。
【請求項6】
異物評価ステップが、流動状物品の被験画像において、受光量が予め設定された所定値より小さい領域の面積が、予め設定された所定値より大きければ、その領域を異物の像と評価する
請求項1ないし5のいずれかに記載の流動状物品の異物検査方法。
【請求項7】
流動状物品に混入し得る異物を、非接触非破壊で検査する装置であって、
赤外線を流動状物品に照射する照射手段と、
流動状物品からの透過光と反射光の少なくとも一方を受光する受光手段と、
透過光による被験画像と反射光による被験画像の少なくとも一方を検査して、異物の有無を評価する演算手段と、を備える
ことを特徴とする流動状物品の異物検査装置。
【請求項8】
流動状物品を収容容器に充填する前の製造ラインに、流動状物品を移送すると共に赤外線を透過する部位を有する流路を設け、
その流路における赤外線透過部位に、照射手段及び受光手段を対向させた
請求項7に記載の流動状物品の異物検査装置。
【請求項9】
流動状物品が充填されると共に赤外線を透過する部位を有する収容容器を、移送すると共に回転可能である製造ラインに、照射手段及び受光手段を対向させた
請求項7または8に記載の流動状物品の異物検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37507(P2012−37507A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147585(P2011−147585)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(510193027)有限会社スペクトルデザイン (4)
【Fターム(参考)】