説明

浄水プロセスの運転管理方法

【課題】浄水場の現状施設である浄水処理工程と排水処理工程を発生土の観点から運転管理し、マンガン濃度の低い浄水発生土を得る方法を提供することである。
【解決手段】 沈殿池に凝集剤、あるいは凝集剤と酸化剤を注入した被処理液を流入させ、その下流側において、前記被処理液への酸化剤注入状態に対応して酸化剤が注入される沈殿池流出水をろ過池に流入させる浄水プロセスであって、沈殿池で沈殿した濁質分と、ろ過池の洗浄排水に含まれる濁質分とをそれぞれ分離回収し、マンガン濃度の異なる複数種類の浄水発生土を得るようにプロセスを運転管理することを特徴とする浄水プロセスの運転管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場における浄水処理と排水処理工程を連動させる運転管理に関するもので、特に、ろ過池の洗浄排水を含めた排水処理工程の濁質分を個別回収するとともに、排水処理工程から浄水処理工程に還流される返送水中のマンガン成分を適正に処理し、浄水処理工程の沈殿池から排出される低マンガン濃度の発生土を含む、複数濃度の発生土を得るものである。
【背景技術】
【0002】
浄水場では固液分離して浄水を製造するとともに、発生土を排出する。通常、浄水場の原水にはマンガンが含まれ、マンガンを含有した発生土になる。この発生土を土壌に還元する場合、マンガン濃度が高い場合、植物に対してマンガン過剰障害を引起す問題がある。
【0003】
発生土を土壌や農業用に利用する場合のマンガン量低減方式には、マンガン量の少ない工業用水発生土を混合する方法(特許文献1)、ゼオライトなどを混合する方法(特許文献2)、酸を注入してマンガンを溶出させた発生土を水洗いして脱水する方法(特許文献3)や、マンガン吸着剤で吸着させ、この吸着剤を酸と水洗いで再生する方法(特許文献4)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−225572号公報
【特許文献2】特開平07−227144号公報
【特許文献3】特開平11−197695号公報
【特許文献4】特開2002−273415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
浄水発生土にマンガン成分の低い他の物質を混合する方法は、発生土のマンガン比率を相対的に低下できるが、混合資材の輸送手段や混合するための撹拌手段等が必要となり、建設及び運転コストが嵩む。これは工業用水発生土を混合する場合も同様である。同一敷地内で浄水と工業用水の両者を製造している浄水場は稀で、一般の浄水場に適用するには工業用水か浄水かどちらかの発生土を移動させなければならない。
【0006】
発生土からマンガンを溶出させる方法や吸着剤に吸着させる方法は、一度回収したマンガンを再度溶出させ、水洗い、さらには脱水という複雑な工程を追加する必要があり、建設及び運転コストを高くする。さらに、溶出させたマンガンは固定化して回収する必要が生じ、環境面及び経済的にも問題がある。
【0007】
本発明は、上記浄水発生土のマンガン低減の問題に対処したもので、その目的とするところは新たなマンガン専用処理設備を設置する必要がなく、また、副資材を混入することもない、発生土排出コストを高めずに土壌改善や農業用に利用する浄水発生土のマンガン濃度を低減できる方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、浄水場の現状施設である浄水処理工程と排水処理工程を発生土の観点から運転管理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、沈殿池に凝集剤、あるいは凝集剤と酸化剤を注入した被処理液を流入させ、その下流側において、前記被処理液への酸化剤注入状態に対応して酸化剤が注入される沈殿池流出水をろ過池に流入させる浄水プロセスであって、沈殿池で沈殿した濁質分と、ろ過池の洗浄排水に含まれる濁質分とをそれぞれ分離回収し、マンガン濃度の異なる複数種類の浄水発生土を得るようにプロセスを運転管理することを特徴とする浄水プロセスの運転管理方法が提供される。
【0009】
上記方法において、沈殿濁質分の発生土を製造する過程で排出される固液分離液を酸化剤存在の下にろ過池に流入させ、ろ過池の洗浄排水濁質分の発生土を製造する過程で排出される固液分離液の一部を貯留し、ろ過池の洗浄水に利用することができる。また、沈殿池の沈殿濁質分を回収してマンガン濃度の低い第1の発生土と、第1の発生土を得る過程で排出された固液分離液とろ過池の洗浄排水に含有する濁質分を回収してマンガン濃度の高い第2の発生土を分離製造し、第2の発生土を得る過程で排出された固液分離液を沈殿池上流部、あるいは酸化剤存在の下にろ過池に流入させることができる。
【0010】
更に、本発明は、凝集剤、あるいは凝集剤と酸化剤を注入した被処理液が流入する沈殿池と、その後方で、前記被処理液への酸化剤注入状態に対応して酸化剤が注入される沈殿池流出水が流入するろ過池を有し、ろ過池を間欠洗浄してその洗浄排水を沈殿池上流部に還流する浄水プロセスにおいて、ろ過池洗浄排水の濁質分が沈殿池で沈降する時間帯と、洗浄排水濁質分の沈降していない時間帯で沈殿池の沈殿濁質分を分離回収してマンガン濃度の異なる複数種類の浄水発生土を得ることを特徴とする浄水プロセスの運転管理方法を提供するものである。上記方法において、沈殿池の一部をろ過池の洗浄排水が還流する特定の沈殿池にし、特定沈殿池とその他の沈殿池の沈殿濁質分を分離回収してマンガン濃度の異なる複数種類の浄水発生土を製造し、これらの発生土を得る過程で排出された固液分離液を特定沈殿池、あるいは酸化剤存在の下にろ過池に流入させることができる。
【0011】
沈殿池の沈殿濁質分を回収してマンガン濃度の低い第1の発生土と、ろ過池の洗浄排水に含有する濁質分を回収して第1の発生土よりマンガン濃度の高い第2の発生土と、第1の発生土を得る過程で排出された固液分離液を直接あるいは酸化剤存在の下に結晶化されたマンガン砂で通水処理し、通水後の処理水でマンガン砂を逆洗させ、この逆洗水に含有する濁質分を回収して第2の発生土よりマンガン濃度の高い第3の発生土とを分離製造し、第2の発生土及び第3の発生土を得る過程で排出された固液分離液を沈殿池上流部、あるいはろ過池に流入させることができる。また、沈殿池の沈殿濁質分を回収してマンガン濃度の低い第1の発生土と、第1の発生土を得る過程で排出された固液分離液を直接あるいは酸化剤存在の元に結晶化されたマンガン砂で通水処理し、通水後の処理水でマンガン砂を逆洗させ、この逆洗水に含有する濁質分を回収してマンガン濃度の高い第3の発生土とを分離製造し、第3の発生土を得る過程で排出された固液分離液を沈殿池上流部、あるいはろ過池に流入させることができる。
【0012】
さらに、作物に対するマンガン障害のない低マンガン濃度の発生土を浄水場の沈殿池から選択的に回収して、土壌還元剤あるいは農業用材を生産することができる。また、ろ過池のフィルターを浄水池の水で逆洗してマンガン濃度の高い発生土を得るようにプラントを制御・管理して、工業用材や建築用材あるいはマンガン材を生産することができる。
【0013】
更にまた、沈殿池に凝集剤、あるいは凝集剤と酸化剤を注入した被処理液を流入させ、その下流側において、前記被処理液への酸化剤注入状態に対応して酸化剤が注入される沈殿池流出水をろ過池に流入させる浄水プロセスであって、沈殿池で沈殿した濁質分からマンガン濃度の低い第1の発生土と、ろ過池の洗浄排水に含まれる濁質分から得られたマンガン濃度の高い第2の発生土とを選択的に回収するようにプロセスを運転管理することができる。更に、上記方法において、沈殿池で沈殿した濁質分からマンガン濃度の低い第1の発生土の排出設備の濁質分から最もマンガン濃度の高い第3の発生土を回収するようにプロセスを運転管理することができる。
【0014】
大部分の浄水場では凝集沈殿とろ過を組合せた方法で原水中の濁質や溶解性物質を除去し、浄水を製造している。処理工程は着水井、薬品混和池、フロック形成池、沈殿池、ろ過池などで構成される浄水処理工程と、排泥池、洗浄排水池、濃縮槽、脱水機などで構成される排水処理工程に大別できる。原水中の濁質や溶解性物質の一部は、薬品混和池で注入された凝集剤や酸化物(塩素系)により、フロック形成池で凝集し、沈殿池の固液分離作用で除去される。沈殿池で除去されなかった濁質や溶解性物質の一部は、後段のろ過池で除去される。沈殿池で分離された物質は排泥池、濃縮槽、脱水機でさらに固液分離され、浄水発生土となる。この固液分離過程で出てくる上澄み液や脱水ろ液は浄水処理工程の上流部、例えば着水井に還流される。
【0015】
一方、ろ過池は定期的あるいは目詰りの状態に応じて洗浄し、充填されたろ材に吸着あるいはろ材間に捕捉された物質を除去してろ材を再生する。除去物質を含む洗浄排液は洗浄排水池を介して浄水処理工程の上流部に還流される。固液分離機能を有する洗浄排水池もあるが、分離除去された濁質は排泥池に、分離液は浄水処理工程の上流部に還流される。
【0016】
このような浄水場において、原水中には通常、溶解性及び不溶解性のマンガンが含まれる。マンガンは管網系に蓄積され、黒水障害を発生させるため、浄水場内で除去している。このうち、不溶解性マンガンの大部分は凝集剤の凝集作用により沈殿地で沈殿除去されるため、発生土はマンガンを含んでいる。凝集沈殿で除去できなかった溶解性のマンガンは、ろ過池のろ材の一部にマンガン砂を用い、薬品混和池あるいは沈殿池とろ過池の間に塩素などの酸化剤を注入し、この酸化剤とマンガン砂の働きで吸着除去する。
【0017】
本発明者らは浄水場におけるマンガンマスフローを調査し、処理工程を一部変更することで発生土中のマンガン量を低減できることを見出し、本発明に至った。マンガンマスフロー調査結果によれば、排水処理工程から浄水処理工程に還流される戻り液のマンガン量は浄水処理工程全体の2〜3割強を占め、さらに、ろ過池洗浄排液のマンガンは固形性(不溶解性)、沈殿池を経由した固液分離液のマンガンは溶解性が主体となるという知見を得た。
【0018】
これらの知見に基づいて、本発明は、ろ過池洗浄排水中のマンガン濃度の高い濁質分と沈殿池排泥中のマンガン濃度の低い濁質分を分離回収して2〜4種類又はそれ以上の浄水発生土を製造し、これらの発生土を製造する過程で排出される溶解性マンガン濃度の高い固液分離液を酸化剤存在の下にろ過池に流入させるように構成する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、発生土を利用する観点から浄水プロセスの運転管理方法を提案するものである。現状の浄水プロセスにおける排水処理工程の流路を一部変更するのみでマンガン濃度の低い発生土を容易に、しかも安価に製造することができる。また、新たな処理工程や薬品などの副資材の必要がなくコストや環境負荷の低減効果もある。さらに、マンガン濃度の低い発生土とマンガン濃度の高い発生土を選択的に回収することにより、発生土を有効利用することができる。例えば、マンガン濃度の低い発生土は土壌還元剤や農業資材として用いることができ、マンガン濃度の高い発生土は工業用原料又はマンガン材として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、排水処理工程の流路を一部変更し、運転管理方式を改善することで、新たなマンガン専用の処理設備を設置する必要がなく、また、副資材を混入することもない、発生土製造コストを高めずに、土壌や農業用に利用する浄水発生土のマンガン低減方法を実現した。以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明の第1実施例を図1に示す。図1において、浄水処理工程は着水井1、薬品混和池2、フロック形成池3、沈殿池4、ろ過池5、及び浄水池6を主構成設備としている。濁質やマンガンを含有した原水20は着水井1を通って薬品混和池2で前薬品注入設備12から凝集剤や酸化剤(消毒剤)が注入される。凝集剤にはアルミニウム系や鉄系、さらには高分子凝集剤が、酸化剤には塩素系が一般に適用される。フロック形成池3で凝集成長した濁質分は沈殿池4で沈降し、その上澄み液は沈殿池流出液21としてろ過池5に流入する。ろ過池5はマンガン砂を含めた複数種類のろ材が充填され、沈殿池4で沈降しなかった濁質分を捕捉するとともに、溶解性マンガンを酸化剤とマンガン砂の作用で除去する。ろ過液は浄水池6で一時貯留されて、浄水22となる。ろ過池5は捕捉物質によって目詰りするため、浄水池6に貯留されているろ過液の一部を洗浄水24として、ろ材を逆洗・再生する。ろ過池5の洗浄排水25は従来、洗浄排水池7を経由して、浄水処理工程の上流部、例えば着水井1に還流されていた。
【0022】
本発明者らが浄水処理工程のマンガン量を測定した結果、ろ過池5の洗浄排水25には原水20全体の20%強に相当するマンガンを含有し、還流することが明らかとなった。さらに、還流マンガンは殆どが不溶解性の濁質成分を呈し、沈降性も良く、容易に固液分離することが分かった。沈殿池4の沈降濁質に対して、還流濁質は2倍強の高マンガン濃度であるという結果も得た。
【0023】
これらの知見に基づいて構成した排水処理工程を以下説明する。図1は、固液分離機能を持たない洗浄排水池7を対象にしている。洗浄排水池7の流出液26を濁質分離設備10に流入させて固液分離する。濁質分離設備10には重力沈降式沈殿池、浮上性、沈降性、あるいは繊維状の樹脂製ろ材を充填したろ過槽、サイクロンによる分離機能を有した装置、及び膜分離装置を適用できる。分離された濁質は、濃縮槽や脱水機などで構成される発生土排出設備11で含水率数十%の発生土B51(第2の発生土)となって排出される。濁質分離設備10の固液分離液30や発生土排出設備11の固液分離液28は着水井1に還流する。
【0024】
沈殿池4の沈降濁質を含有する排泥液23は排泥池8を経由して発生土排出設備9に流入する。発生土排出設備9も濃縮槽や脱水機などで構成され、沈降濁質を含水率数十%の発生土A50(第1の発生土)にして排出する。発生土排出設備9から出る固液分離液27は発生土排出設備11の固液分離液28とともに排水処理液29として浄水処理工程に還流される。洗浄排水25の高マンガン濁質を分離回収することで、沈殿池沈降濁質で製造される発生土Aのマンガン濃度を低減できる。
【0025】
なお、複数の発生土排出設備が設置されている浄水場では、発生土A用と発生土B用に区分けして使用できる。また、固液分離機能を有する洗浄排水池であれば、濁質分離設備10は必要なく、分離濁質を直接発生土排出設備11に導入できるので、新たな設備を設置することなく、排水処理工程の配管系を変更することで対応できる。
【実施例2】
【0026】
本発明の第2実施例を図2に示す。本発明者らが実施した調査によれば、発生土排出設備9から排出される固液分離液27には濁質分が殆どないが、原水20全体の10%強に相当するマンガンを含有し、還流していた。さらに、還流マンガンは殆どが溶解性であった。
【0027】
本実施例はこの知見に基づいて構築した。図2は、沈殿池流出液21に中薬品注入設備13からマンガン酸化剤(塩素系)を注入した後、ろ過処理する浄水処理工程のフロー例である。このような浄水フローにおいて、排水処理液29を沈殿池4と中薬品注入設備13の間に還流する。排水処理液29は濁質分がなく、溶解性マンガンのみを除去すれば浄水として即回収できる。中薬品注入設備13の上流に還流することで、酸化剤存在の下で溶解性マンガンをろ過池5のマンガン砂で吸着除去できる。また、濁質分がないので、ろ過池5に負担をかけることもない。
【0028】
さらに、洗浄排液25を対象とした濁質分離設備10の固液分離液30の一時貯留槽15を設け、ろ過池5の洗浄水31として利用する。この洗浄水31と浄水池6の洗浄水24は、例えばろ過池洗浄時間帯の前半を洗浄水31を用い、後半の仕上げに洗浄水24を用いることで、製品である浄水の使用量を削減、即ちコストを低減できる。
【0029】
このように、排水処理工程の固液分離液を沈殿池4後段で利用あるいは処理することにより、沈殿池4までの被処理液流量が低下し、前薬品注入量の低減や滞留時間の増長による凝集沈殿効率の向上効果が期待できる。当然のことながら、固液分離液27のマンガンが沈殿池4に還流されないため、発生土A50のマンガン量を低減できる。
【0030】
なお、中薬品注入をしていない浄水処理工程の場合、固液分離液30用の薬品注入設備を設けて対処できる。
【実施例3】
【0031】
本発明の第3実施例を図3に示す。本実施例は発生土排出設備9の固液分離機能が悪い、あるいは発生土排出設備9の例えば脱水機洗浄などで固液分離液27に混入する濁質分がろ過池5に影響する場合の構成例である。
【0032】
濁質分離設備10には洗浄排水池7の流出液26と排水処理液29を流入させ、分離回収した濁質分を発生土排出設備11に送り発生土B51を排出する。発生土排出設備11の固液分離液28は排水処理液29に合流させる。濁質分離設備10の固液分離液30は中薬品注入設備13上流部の沈殿池流出液21に還流する。中薬品注入設備13がない場合や濁質濃度が高い場合は着水井1に固液分離液30を還流しても良い。また、中薬品注入設備13がない場合は薬品注入設備を設けて沈殿池流出液21に固液分離液30を還流できる。なお、図示していないが、固液分離液30の一部を一時貯留してろ過池5の洗浄水に利用しても良い。このような排水処理工程フローとすることで、実施例2と同様の効果が期待できる。
【実施例4】
【0033】
本発明の第4実施例を図4に示す。図4は配管系を変更せずにろ過池5の洗浄操作と沈殿池4の排泥操作でマンガン濃度の異なる発生土を製造する運転管理方式を提供するものである。
【0034】
沈殿池4の排泥液23流路に切替設備41を設け、制御設備42の信号で排泥池8と発生土排出設備9で構成される排泥処理系A、あるいは排泥池14と発生土排出設備11で構成される排泥処理系Bに排泥液23を流す。切替設備41は開閉弁、制御設備42は計算機などである。
【0035】
浄水場では洗浄操作や排泥操作の運転を間欠で実施しており、制御設備42からの切替信号は、例えば図8の方式で実施する。図8は洗浄操作に合せて排泥操作を実施する方式である。洗浄が実施されると、洗浄排水中の濁質分が沈殿池に流入し、沈降濁質となるまでに流達、沈降時間遅れが生ずる。その時間遅れTを考慮して切替設備41を調節する。即ち、沈殿池4の沈降濁質が原水濁質主体の時間帯では排泥液23が排泥処理系Aへ、洗浄排水の濁質が混入する時間帯は排泥処理系Bに流入するように切替えておく。沈殿池4の排泥操作は洗浄排水濁質が混入してくる前と、混入が終了する時間帯に実施する。
【0036】
このような運転管理を実施することで、排泥処理系Aからは原水濁質主体でマンガン濃度の低い発生土A、排泥処理系Bは洗浄排水濁質主体で、原水濁質も含まれるがマンガン濃度の高い発生土B51が排出される。
【実施例5】
【0037】
本発明の第5実施例を図5に示す。一般の浄水場ではフロック形成池や沈殿池、ろ過池を複数設置している。また、水道需要家の節水意識が高揚して、浄水量が低下している浄水場では設備に余裕があり、運転を休止している設備もある。本実施例は、このような浄水場で配管系の変更を最小限にしてマンガン比率の低い発生土を提供する構成例である。
【0038】
図5は、フロック形成池3と沈殿池4が対をなしている場合の例である。複数系列のうちの特定のフロック形成池3Hと沈殿池4Hを還流液専用の濁質分離設備10とし、薬品混和池2からの被処理液を流入させず、洗浄排水池流出液26と排水処理液29を導入する。還流液中の濁質は沈殿池4Hで沈降除去され、その上澄み流出液を従来の配管系を用いて中薬品を注入してろ過池5に流入させる。沈殿池4Hの沈降濁質は排泥処理系Bに流入させてマンガン量の多い発生土B51が排出される。
【0039】
還流液の濁質が全く混入しない沈殿池4Aから4Gの原水濁質のみの沈降濁質は排泥処理系Aに導入させ、マンガン量の少ない発生土A50となって排出される。排泥処理系Aの固液分離液27は排水処理液29に合流させて還流液専用の濁質分離設備10に流入させる。以上のように既設設備を有効に利用した構成とすることにより、新たなコストがかかることなく低マンガン濃度の発生土を提供できる。
【実施例6】
【0040】
本発明の第6実施例を図6に示す。本実施例は第1実施例において、排泥池8を対象とした発生土排出設備9の固液分離液27に含有する溶解性マンガンを個別分離回収する。固液分離液27に薬品注入設備16からマンガン酸化剤、例えば次亜塩素酸ソーダを注入混合させてろ過池17に流入させる。ろ過池17にはマンガン砂を充填し、溶解性マンガンを酸化マンガンとして吸着分離する。マンガンが除去された排水処理液29は一時貯留槽15を介して浄水処理工程に還流される。ろ過池17は一時貯留槽15の貯留液の一部を洗浄水32として洗浄され、その洗浄排水33を濁質分離設備18で固液分離する。分離された濁質は発生土排出設備19でさらに水分が低減されて発生土C52(第3の発生土)を排出する。濁質分離設備18、発生土排出設備19の固液分離液28は浄水処理工程に還流される。還流される固液分離液28、30、及び排水処理液29は沈殿池上流部、あるいはろ過池に流入させる。このような構成で分離回収された発生土Cは発生土A、Bに比べてマンガン濃度が高く、適切な加工処理を施せばマンガン材としても利用できる。
【0041】
本発明者らの実験によれば、ろ過池17に充填するマンガン砂は酸化マンガンを結晶化させたものを用いることで、高濃度の溶解性マンガンを、短時間で吸着除去できる。また、溶解性マンガン濃度C、あるいは溶解性マンガン濃度Cと反応時間Tの乗算値CTに設定値を設け、測定値が設定値以下であれば薬品注入設備16の運転を停止させ、薬品量を低減することもできる。
【実施例7】
【0042】
本発明の第7実施例を図7に示す。本実施例は第6実施例において、ろ過池5の洗浄排水25中の濁質を分離回収せずに沈殿池上流部に還流する構成とする。これは、洗浄排水25中のマンガンは不溶解性の酸化マンガンで、形態的に安定しており、沈降性も良好である。このろ過池洗浄排水の濁質を沈殿池4で他の凝集物質と一緒に沈降分離させ、排泥池8、発生土排出設備9を介して発生土A’53(第4の発生土)とする。発生土A’53はマンガン濃度が発生土A50より高いが、形態的に安定しており、土壌還元してもマンガン溶出が抑制され、植物へのマンガン過剰障害を防止できる。また、ろ過池5の洗浄排水25中の濁質を分離回収する設備を新たに設置する必要がない。
【実施例8】
【0043】
上記実施例によれば、各々の実施例ではマンガン成分の異なる2種類の発生土が排出されるが、全体では3〜4種類の発生土が排出されることになる。そこで、本発明の第8実施例は発生土の用途に関するもので、それぞれの発生土の特徴と用途例を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記説明で触れなかったが、発生土Aは有機物成分が多く、ろ過池洗浄排水25中の濁質、即ち発生土Bはアルミニウム(Al)と珪素(Si)の比が発生土Aに比べて2倍程度高い。これらの結果も踏まえて、マンガン比率の低い発生土Aは直接土壌培土に、マンガン比率やAl/Siが高い発生土Bは加工処理して工業用材や建築用材、さらにはゼオライト原料、マンガン濃度が非常に高い発生土Cは発生土Bの用途の他に、マンガンそのものを回収する処理を適用でき、マンガン材として利用できる。
【0046】
以上、本発明の浄水プロセスの運転管理方法について複数の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものでなく、各実施例に記載した構成を適宜組合せてもよい。また、各実施例に記載した構成、並びに適宜組合せた構成は、砂ろ過工程の後段にオゾン処理などの高度処理設備や膜利用のろ過設備を付加した浄水プロセスにも適用できる。なお、実施例では固液分離機能を持たない洗浄排水池や排泥池で説明したが、これらの設備が固液分離機能を有する、あるいは設備そのものが設置されていなくとも本発明を適用できる。
【0047】
浄水プロセスを対象に説明したが、同様の方式で製造する工業用水を対象としたプロセスにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施例を説明する構成図である。
【図2】本発明の第2実施例を説明する構成図である。
【図3】本発明の第3実施例を説明する構成図である。
【図4】本発明の第4実施例を説明する構成図である。
【図5】本発明の第5実施例を説明する構成図である。
【図6】本発明の第6実施例を説明する構成図である。
【図7】本発明の第7実施例を説明する構成図である。
【図8】本発明の第4実施例の運転管理方法の一例を説明する工程図である。
【符号の説明】
【0049】
1…着水井、2…薬品混和池、3…フロック形成池、4…沈殿池、5…ろ過池、6…浄水池、7…洗浄排水池、8、14…排泥池、9、11…発生土排出設備、10…濁質分離設備、12…前薬品注入設備、13…中薬品注入設備、15…一時貯留槽、20…原水、21…沈殿池流出液、22…浄水、23…排泥液、24、31、32…洗浄水、25、33…洗浄排水、26…洗浄排水池流出液、27、28、30…固液分離液、29…排水処理液、41…切替設備、42…制御設備、50…発生土A、51…発生土B、52…発生土C、53…発生土A’。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈殿池に凝集剤、あるいは凝集剤と酸化剤を注入した被処理液を流入させ、その下流側において、前記被処理液への酸化剤注入状態に対応して酸化剤が注入される沈殿池流出水をろ過池に流入させる浄水プロセスであって、沈殿池で沈殿した濁質分と、ろ過池の洗浄排水に含まれる濁質分とをそれぞれ分離回収し、マンガン濃度の異なる複数種類の浄水発生土を得るようにプロセスを運転管理することを特徴とする浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項2】
沈殿濁質分の発生土を製造する過程で排出される固液分離液を酸化剤存在の下にろ過池に流入させ、ろ過池の洗浄排水濁質分の発生土を製造する過程で排出される固液分離液の一部を貯留し、ろ過池の洗浄水に利用することを特徴とする請求項1記載の浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項3】
沈殿池の沈殿濁質分を回収してマンガン濃度の低い第1の発生土と、第1の発生土を得る過程で排出された固液分離液とろ過池の洗浄排水に含有する濁質分を回収してマンガン濃度の高い第2の発生土を分離製造し、第2の発生土を得る過程で排出された固液分離液を沈殿池上流部、あるいは酸化剤存在の下にろ過池に流入させることを特徴とする請求項1記載の浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項4】
凝集剤、あるいは凝集剤と酸化剤を注入した被処理液が流入する沈殿池と、その後方で、前記被処理液への酸化剤注入状態に対応して酸化剤が注入される沈殿池流出水が流入するろ過池を有し、ろ過池を間欠洗浄してその洗浄排水を沈殿池上流部に還流する浄水プロセスにおいて、ろ過池洗浄排水の濁質分が沈殿池で沈降する時間帯と、洗浄排水濁質分の沈降していない時間帯で沈殿池の沈殿濁質分を分離回収してマンガン濃度の異なる複数種類の浄水発生土を得ることを特徴とする浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項5】
沈殿池の一部をろ過池の洗浄排水が還流する特定の沈殿池にし、特定沈殿池とその他の沈殿池の沈殿濁質分を分離回収してマンガン濃度の異なる複数種類の浄水発生土を製造し、これらの発生土を得る過程で排出された固液分離液を特定沈殿池、あるいは酸化剤存在の下にろ過池に流入させることを特徴とする請求項1又は4記載の浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項6】
沈殿池の沈殿濁質分を回収してマンガン濃度の低い第1の発生土と、ろ過池の洗浄排水に含有する濁質分を回収して第1の発生土よりマンガン濃度の高い第2の発生土と、第1の発生土を得る過程で排出された固液分離液を直接あるいは酸化剤存在の下に結晶化されたマンガン砂で通水処理し、通水後の処理水でマンガン砂を逆洗させ、この逆洗水に含有する濁質分を回収して第2の発生土よりマンガン濃度の高い第3の発生土とを分離製造し、第2の発生土及び第3の発生土を得る過程で排出された固液分離液を沈殿池上流部、あるいはろ過池に流入させることを特徴とする請求項1又は4記載の浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項7】
沈殿池の沈殿濁質分を回収してマンガン濃度の低い第1の発生土と、第1の発生土を得る過程で排出された固液分離液を直接あるいは酸化剤存在の元に結晶化されたマンガン砂で通水処理し、通水後の処理水でマンガン砂を逆洗させ、この逆洗水に含有する濁質分を回収してマンガン濃度の高い第3の発生土とを分離製造し、第3の発生土を得る過程で排出された固液分離液を沈殿池上流部、あるいはろ過池に流入させることを特徴とする請求項1又は4記載の浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項8】
作物に対するマンガン障害のない低マンガン濃度の発生土を浄水場の沈殿池から選択的に回収して、土壌還元剤あるいは農業用材を生産することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項9】
ろ過池のフィルターを浄水池の水で逆洗して得られたマンガン濃度の高い発生土を、工業用材や建築用材あるいはマンガン材として生産することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項10】
沈殿池に凝集剤、あるいは凝集剤と酸化剤を注入した被処理液を流入させ、その下流側において、前記被処理液への酸化剤注入状態に対応して酸化剤が注入される沈殿池流出水をろ過池に流入させる浄水プロセスであって、沈殿池で沈殿した濁質分からマンガン濃度の低い第1の発生土と、ろ過池の洗浄排水に含まれる濁質分から得られたマンガン濃度の高い第2の発生土とを選択的に回収するようにプロセスを運転管理することを特徴とする浄水プロセスの運転管理方法。
【請求項11】
更に、沈殿池で沈殿した濁質分からマンガン濃度の低い第1の発生土の排出設備の濁質分から最も高いマンガン濃度の第3の発生土を回収するようにプロセスを運転管理することを特徴とする請求項10記載の浄水プロセスの運転管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−224010(P2006−224010A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42092(P2005−42092)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】