説明

浚渫装置などのジェットポンプ

【課題】簡単な構造によりキャビテーションを発生せず、充分な吸引力を発揮するジェットポンプを提供する。
【解決手段】ポンプ本体を構成するケーシング50、該ケーシング一端に配置された噴水ノズル51、該ノズルに相対して開口を向けて配置された大径の加速管55、及び該ケーシング内に開口する吸引管56から構成し、空気を気泡状に供給する空気供給管57又は58をケーシングに直接又は吸引管先端近傍に設ける。
図において、ノズル51から加速管55に向けて噴射された高速水流はケーシング内の気・液流体を伴って加速管内で流体にその運動エネルギーを与えて加速し、ケーシング内は負圧となって吸引管から流体を吸い上げる。
気泡状に供給された空気はキャビテーション中に取り込まれるため、キャビテーションの圧潰による腐食は生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧噴水により噴出する水流に伴なう吸引力により、海底の堆積物や土砂などを吸引して搬送する浚渫装置などのジェットポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
港湾などの海底堆積物を浚渫する手段として、高圧水流に伴う負圧によって海水を吸い込ませ、海底の泥砂を海水と共に吸引して搬送する、所謂ジェットポンプは、吸引された堆積物を海水と共に陸上の処理施設に搬送することができ、バケットなどのように操作機構による深度の制約も受けないため広く用いられている。
このジェットポンプにおいては、高圧水流を形成して砂泥を含む海水を吸引するため、ノズル周辺の高速水流に接する箇所にベンチュリー効果による減圧領域が生成し、キャビテーションが発生してその圧潰に伴い激しい腐食を生じる。
このため、高圧水噴出ノズルから噴出する高速水流とポンプ内壁面とが直接接触しないように、空気を供給して高速水流を包む空気膜を形成してジェットポンプ内のキャビテーションを抑制することが行なわれているが、必要とする空気量は大きく、また、ジェットポンプの原理上、これらの供給される空気量は相対的に吸引作用に大きな影響を与えることとなる。
さらに、ジェットポンプの吸引能力を増強するため、ノズルに供給する圧力を上げようとして高圧ポンプの吐出圧力を高くすると、上記のキャビテーションの影響がさらに強く表れ、ノズル廻りのみでなく更に吸引したスラッジなどを加速するポンプ内壁面に接する高速の圧力水流との間に必ず飽和蒸気圧以下の領域が形成され、広範囲にキャビテーションが生じる。これらをも防止するには更に多量の空気を取り入れる必要がある。
【0003】
図4に示す装置は、このようなキャビテーションを防止するため、高圧水噴出ノズルからの高速水流を空気膜で包んでポンプ内壁面との接触を遮断する公知技術(特許文献1)の例であって、そのジェットポンプの基本的な構成は、吸引口2を開口したジェットポンプ室1に、高圧ポンプから供給される高圧水流を噴出するノズル体16と相対して開口する大径の吐出管23を配置し、該吐出管開口に向けて該ノズルから高速水流を噴射することによりポンプ室1内に負圧を形成し、吸引口からスラッジ水などを吸引して、吐出管内で高速水流の運動エネルギーを付与して加速し、搬送、或いは揚水圧を形成する。
キャビテーションは、高速水流の接するこれらのノズルからポンプ内壁にかけて生じるため、該ノズル開口に相対して大径の保護管15を設置し、ノズル開口と該保護管との間の空間を囲繞する分配室21から大気導入通路13を通して空気を供給して該空気中でノズルから高速水流を噴射させ、吐出管に噴出する高速水流と保護管内壁面との間に空気膜を形成して高速水流との直接接触によるキャビテーション腐食を防止している。
そのほか、特許文献2及び3に挙げた公知のジェットポンプにおけるキャビテーション腐食の防止機構も同様であって、ノズル開口から吸引した水を加速する吐出管に至る間の高速水流は、供給された空気層によってポンプ内壁面との直接接触を防止することによりキャビテーション腐食を抑制する機構を採用している。
【0004】
一方、これらの結果としてジェットポンプに供給した空気量に反比例して吸引能力が低下することとなるが、キャビテーションを効果的に抑制すると共にジェットポンプの吸引能力を充分に維持するための条件を設定することは、これら相反する作用を伴うために困難である。また、これらのキャビテーション発生を抑制する条件やそのためのジェットポンプの構成である吐出管の構造、長さ、管径との関係や、高圧水の水量や水圧などとの関係など、必ずしも解明されてはおらず、これらの構造からする根本的な対策は充分になされてはいない。
【特許文献1】特開昭57−51999号公報
【特許文献2】特開昭56−14900号公報
【特許文献3】特許第3408377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの問題に対して、基本的なジェットポンプの構造に立ち返ってポンプ供給圧、水量、ジェットポンプの構造との関係を解明して、キャビテーションによる腐食を抑制する条件を明らかにし、また、簡単な構造に依ってキャビテーションを発生せず、充分な吸引力を発揮するジェットポンプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ポンプ本体を構成するケーシングに吸引管を開口すると共に、
噴水ノズル及び該ノズルの開口径よりも大径の加速管を該ケーシング内において開口を相対して配置し、噴水ノズルに供給する圧力を10kgf/cm2(1MPa)以下、加速管内の流速を20m/秒以下として、キャビテーションを抑制することを特徴とするジェットポンプであり、上記噴水ノズル開口径と加速管内径の比を約2.5、加速管内径と長さの比を5以上として吸引力を維持し、さらに上記吸引管先端近傍において空気を供給してエアーリフト作用を働かせるようにしたジェットポンプである。
【0007】
また、ポンプ本体を構成するケーシングに吸引管を開口すると共に、
噴水ノズル及び該ノズルの開口径よりも大径の加速管を該ケーシング内において開口を相対して配置し、該ケーシング内の液体に対して気泡状に空気を供給することにより、キャビテーションを抑制することを特徴とするジェットポンプであり、上記噴水ノズル開口径と加速管内径の比を2.5、加速管内径と長さの比を5以上として吸引力を維持し、さらに上記空気の供給を上記吸引管先端近傍において空気を供給することによりエアーリフト作用を働かせるようにしたジェットポンプである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構成に依れば、簡単な構造によってキャビテーション腐食を抑制すると共に、充分なポンプ吸引力を発揮することが可能となり、海底の砂泥などの浚渫はもとより、スラッジや泥砂を含む流体の吸引、搬送に有効なジェットポンプを実現した。
噴水ノズルに供給する圧力を1MPa(10kgf/cm2)以下として噴水流速を低くする場合、本発明においては高速水流がポンプケーシング内を満たす水中で噴射されるため、これらの液体と直接接触して加速し、負圧を発生することとなり、噴水ノズルに供給する圧力が比較的低圧であってもポンプとしての吸引作用は大きくできる。特に、キャビテーション抑制用として空気を供給する必要がないためその作用を一層強くすることができる。
また、噴水ノズルに供給する圧力をさらに高くした場合も、キャビテーションの抑制用として供給する空気は、ケーシング内のノズル廻りなどのキャビテーションの発生する領域に気泡状として供給すれば足りるため、大量に供給する必要はなく、ポンプの吸引力を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のジェットポンプの構成を図1に示す。
本発明においては、ジェットポンプは、キャビテーションの発生、抑制する条件を確認するため、ポンプ本体を構成するケーシング50、該ケーシング一端に配置された噴水ノズル51、該ノズルに相対して開口を向けて配置された大径の加速管55、及び該ケーシング内に開口する吸引管56からなる基本的に単純な構成を採る。
図1において、ポンプPにより加圧した水を噴水ノズル51から、ケーシング50内の噴水ノズル径の約2.5倍の内径の加速管55に向けて噴射する。
噴射された高速水流はケーシング内の気・液流体を伴って加速管内に入り、ケーシング内は負圧に維持されて吸引管から流体を吸い上げると共に、加速管内に引き込んだ流体にその運動エネルギーを与えて加速し、揚水圧若しくは搬送エネルギーを以って加速管の他端に接続された吐出管に向けて送り出す。
ジェットポンプの作動条件を把握するため、ポンプと噴水ノズル間に圧力計M1を配置し、ケーシングには内部の負圧を測定する真空計M2を設置する。空気供給効果を見るために、コンプレッサーC1からバルブV1を介して空気供給管57を直接ケーシングに開口し、さらにコンプレッサーC2、バルブV2及び吸引管先端近傍に開口する空気供給管58を設ける。
【0010】
以上の構成において、吸引管を閉鎖した状態でポンプから高圧水を噴水ノズル51に供給すると、噴水ノズルから噴出した水は高速に加速されて加速管55内に向けて噴射され、加速管内径は噴水ノズル径の2.5倍程度であって大径であるためノズルから噴出した高速の噴水流は、ケーシング空間内の流体を伴って加速管内に流入し、ケーシング内は減圧されて負圧(吸引圧)を発生する。
【0011】
ここで吸引管56を開口して水などの流体を吸引させると、ケーシング内の負圧により吸引された水はこの高速噴水流に伴われて加速管内で加速され、高速水流となって加速管他端に向かうが、この加速効果は、加速管の長さによって異なる。
加速管長さが短い場合、高圧水流は吸引した水を充分に加速することなく、これらの吸引されて低速で随伴する水と混在した状態で、他端から吐出管などに向けて余剰の運動エネルギーを保ったまま放出されてしまう。
また、加速管長があまりに長いと、吸引した水を加速して全体が等速度にまでなったのち、加速管壁との摩擦抵抗を受けるためエネルギーロスとなる。
この加速管内での加速作用はポンプとしての吸引能力に直接影響するため重要であるが、複雑な過程であって計算式などないため本発明においては加速管の構造及び実験条件を種々試みて最適条件を求めた。
【0012】
上記のジェットポンプの構成において、実験条件は次のとおりであった。
噴水ノズルからの噴水圧:0.5MPa(5kgf/cm2
加速管内径:噴水ノズル径の2.5倍
加速管長さ/加速管内径(L/D):3、5、10、15、20
【0013】
吸引管を閉塞し、ケーシング内に空気を供給しない条件下でポンプから高圧水を供給した結果、いずれもケーシング内の負圧は96kPa(ー720mmhg)となった。
ただし、加速管長さ/加速管内径が3の場合、真空圧に安定性が無く、真空計の針がぶれた。
また、加速管長さ/加速管内径が20を超えると設備的に大きくなるため実験は見合わせたが、これらの結果から、吸引圧(負圧)において、加速管長さ/加速管内径が5以上必要であること、実用上は5程度あれば十分であることが解った。
更に、吸引管を閉塞する蓋を取外し、実際に水中の砂を吸引する実験を行った。
水中で砂を吸い上げるとき、真空計は60kPa(ー450mmhg)まで負圧が低下するが強力に砂を吸い上げることができる。
【0014】
キャビテーションは、噴射水圧が高いほど、噴射水流が高速であるほど生じ易いが、前記の実験例のようにポンプの加圧を1MPa(10kgf/cm2)以下に抑制し、加速管内の流速を20m/秒以下とすると、キャビテーションを効果的に抑制することができる。
上記のジェットポンプの構造においては、ポンプのケーシング内に吸引された水がケーシング内を満たし、ノズルからの噴水はこの水中で噴射されて加速管に流入する。
さらに、圧力を上げてジェットポンプを作動させると、負圧により吸引されてケーシング内を満たした水は、ノズル噴出口周囲で高速噴水流にノズル開口縁に沿って引きずられて加速し、図2の拡大図に示すように反流59を形成してノズル開口外周縁に沿ってキャビテーションを生じてこれらのノズル部分を腐食するようになる。
そこで、まず圧力を2MPaに設定した場合、ノズルからの流速vは、よく知られた公式
流速v=(2×重力加速度g×圧力P)1/2
から、v=(2×9.8m/sec2 ×200)1/2 = 62.6m/秒
このノズルからの噴水流速62.6m/秒の場合、ノズル周辺が飽和蒸気圧以下となり、確実にキャビテーションが生じる。
ここで、ケーシング内のノズル噴出口近傍に空気を気泡状に供給することにより、この腐食を防止することができる。
この空気の供給方法について、前記の従来技術においてはノズルから噴射される高速水流を包むように空気層を形成してポンプ内壁面との間を遮断してキャビテーションを防止すると共に、高速水流とこれら吐出管内壁面との摩擦抵抗を低減する効果を得ている。
【0015】
本発明おいては、上記のとおりキャビテーションはケーシング内のノズル噴出口周縁を満たす吸引された水中で発生しており、この水中に直接気泡状の空気を供給することによりキャビテーションを抑制することを試みた。
これら水中に吹き込まれら空気は細かな気泡となり、高速水流やそれに伴う反流に減圧領域が形成されてキャビテーションを発生するような条件になると、その領域の気泡が圧力変化に応じて膨張収縮するためにキャビテーションとはならず、減圧領域から外れた領域に至って圧力が復元しても圧潰することはないため、キャビテーションの圧潰時の衝撃による腐食作用が生じることはない。
【0016】
これらの空気を供給する位置は、ポンプのケーシング内を満たす水中にこれらの気泡を供給できれば良いので、格別の制約はないが、吸引管先端から空気を供給することはキャビテーション抑制以外に、浚渫などにおいて水深のある条件における吸引作用を向上する効果を発揮する利点がある。
これら吸引管先端からの空気供給による作用として以下のものが挙げられる。
吸引管先端近傍から供給された空気は、吸引管内で吸引による相対的な負圧により膨張しつつ上昇し、所謂エアーリフト効果により、砂などの吸引物の上昇を助長する。
これらの空気は、ケーシング内を水と共に満たして噴水ノズル周縁のキャビテーションを抑制する。
さらに、加速管内を走流する水流の加速管内壁との間の摩擦抵抗を低減し、吸引した水を効果的に加速する。
【0017】
〔最適空気量〕
最適空気量とは、これら3点の作用の下で効果的に吸引力を発揮する空気供給量である。これらの複雑な現象について計算はできないが、実験的に求めた結果、圧力水量の10%(1気圧体積比)であった。
吸引管先端近傍から供給した空気注入量を流量計で測定した結果によれば、ポンプ水量の1気圧体積比で0〜10%までは変化がないが、それ以上に空気注入量を増すと、真空度が低下し、相対的に吸引力、吸引量も低下する。実際の操業においては、これらの実験値を参照して装置毎に個別に実験的に最適空気量を求め、空気流量制御装置により空気供給量を一定として操業する。
【0018】
これらの空気の供給は、上記のとおり給水管先端近傍から供給する場合、噴射水量の10%前後が効果的であったが、上記のとおりケーシング内の負圧からすると、水深が浅く、10m以内である場合はコンプレッサーによって加圧空気を供給するまでもなく、ケーシング内の負圧によって外気に接続した空気供給路から直接吸入することも可能である。
【0019】
また、水深がさらに浅い場合は吸引管内のエアーリフト効果も作用しなくなるので、ケーシング内に直接空気を供給しても良い。
また、浚渫砂泥を加速管で加速して吐出管において静水圧に変換してその水圧差により長距離にわたって搬送する場合、途中の管路で堤などを越える高低差により、混入した空気により管路の最高位置に空気が溜まり、サイホン原理が働かなくなるので、空気供給を行なわないでキャビテーションを抑制する前記の方法はこのような場合に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のジェットポンプ概念構成図。
【図2】本発明のジェットポンプの噴水ノズル近傍拡大図。
【図3】本発明のジェットポンプ作動図。
【図4】先行技術におけるジェットポンプのキャビテーション防止構造。
【符号の説明】
【0021】
1 ジェットポンプ本体
2 吸水口
13 大気導入通路
15 保護管
16 ノズル体
21 分配室
23 吐出管
50 ケーシング
51 噴水ノズル
55 加速管
56 吸引管
57、58 空気供給管
59 反流
P ポンプ
M1 圧力計
M2 真空計
V1,V2 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ本体を構成するケーシングに吸引管を開口すると共に、
噴水ノズル及び該ノズルの開口径よりも大径の加速管を該ケーシング内において開口を相対して配置し、噴水ノズルに供給する水の圧力を1MPa(10kgf/cm2)以下として、キャビテーションを抑制することを特徴とする、ジェットポンプ。
【請求項2】
上記噴水ノズル開口径と加速管内径の比を約2.5、加速管内径と長さの比を5以上としたことを特徴とする、請求項1記載のジェットポンプ。
【請求項3】
上記吸引管先端近傍において空気を供給してエアーリフト作用を働かせるようにしたことを特徴とする、請求項1又は2記載のジェットポンプ。
【請求項4】
ポンプ本体を構成するケーシングに吸引管を開口すると共に、
噴水ノズル及び該ノズルの開口径よりも大径の加速管を該ケーシング内において開口を相対して配置し、該ケーシング内の液体に対して気泡状に空気を供給することにより、キャビテーションを抑制することを特徴とするジェットポンプ。
【請求項5】
上記噴水ノズル開口径と加速管内径の比を2.5、加速管内径と長さの比を5以上としたことを特徴とする、
請求項4記載のジェットポンプ。
【請求項6】
上記空気の供給を上記吸引管先端近傍において空気を供給することによりエアーリフト作用を働かせるようにしたことを特徴とする、請求項4又は5記載のジェットポンプ。
【請求項7】
上記空気供給量を供給水量に対して10%(1気圧体積比)以下としたことを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載のジェットポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−57876(P2009−57876A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224917(P2007−224917)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(503355052)
【Fターム(参考)】