説明

浮屋根の減揺装置の作動判定システム

【課題】 浮屋根の揺動に対し減揺装置の作動状態を判定する。
【解決手段】 浮屋根の減揺装置の作動判定システム100は、液体を貯留する浮屋根式タンクのタンク本体12に設けた揺動抑制板22と、一端側を液体の表面に浮かべた浮屋根の側縁部に接続し、他端を揺動抑制板22の上部に接続した索状体とを備え、浮屋根の揺動を索状体に生じる張力として揺動抑制板22に伝達し、揺動抑制板22を起伏させるようにした浮屋根の減揺装置20と、タンク本体12の側部に複数設け、タンク本体12の液面を測定する液面計102と、タンク本体12の周囲に設置し、地震を検知する検知器104と、地震発生時に複数の液面計間の液面差を算出した浮屋根式タンクの液面データと、検知器104の地震データに基づいて算出した減揺装置を設置していないタンク本体の液面データとを比較して減揺装置の作動を判定する作動判定部106とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を屋外に保管する浮屋根式のタンクに対し、地震などにより発生する液体の揺動(スロッシング)を低減する浮屋根の減揺装置の作動判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に原油やナフサなどの液体を屋外に保管する大型のタンクとして、浮屋根式タンクが知られている。浮屋根式タンクは、屋根がなく上部が開口した円筒形状等のタンク本体内に貯留した原油などの液体の液面に浮屋根と呼ばれる蓋を浮かべ、浮屋根とタンク本体との間にシール材を配置して原油などが蒸発するのを防止している。浮屋根は、タンク本体内の液体の増減に伴う液面の変動に伴って、タンク本体内を上下動するようになっている。この浮屋根式タンクは、中の液体が減少したとしても原油やナフサなどが空気に触れることがないため、火災の発生などの危険を避けることができる。
【0003】
ところが、地震が発生してタンクが揺れると、タンク内の液体の揺動(スロッシング)に伴って浮屋根も揺動する。特に、タンクに数秒から10数秒の揺れが作用すると、タンク内液体の揺動の固有周期と一致して共振状態となり、液面が大きく揺動する。このため、タンク内に多量の原油などが貯留されている場合に、液面の大きな揺動によって浮屋根が大きく傾斜し、原油などがタンクからこぼれたり、浮屋根がタンク本体に設けた付属物と衝突して破損したり、衝突した際に火花が発生して火災になったりする。
【0004】
このため、浮屋根の揺動を防止する装置が種々考えられており、例えばヒンジを介して上下方向に折りたためる制水板を複数配置してタンク内を仕切ってタンク内に生ずる液圧を小さくするようにしたもの(特許文献1)、浮屋根にワイヤを吊るし、ワイヤに水平方向に平らな板からなる抵抗体を取り付けて液体の揺動を抑制するもの(特許文献2)、タンク内部の浮屋根から多孔の幕を複数枚吊下げて、揺動する液体が孔を通過する際の粘性抵抗によって液体の揺動を吸収しているもの(特許文献3)などがある。
【0005】
このような浮屋根式タンクに設置した揺動を防止する装置のスロッシングに対する減揺効果を見る場合、タンク本体に貯留した液体の液面を測定し、タンクに発生した揺動を確認することができる。通常、液体タンク内部に保管する液面を測定するためにはゲージポールによる検尺、フロート式液面計などが設置されている。これらの液面計はタンク内部の液面を測定するための計測設備であるため、タンク本体に通常一つ設置している。
【特許文献1】特開昭57−142892号公報
【特許文献2】特開平9−142575号公報
【特許文献3】特開昭56−106785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら地震発生時にスロッシングによる液面変動が発生した場合に、タンク本体に設置されている一つの計測設備では、数十平方メートルにもおよぶタンク本体の液面積の正確な液面を計測することは困難である。またスロッシング発生時にタンク上部から目視観察することによりスロッシングの状況を確認することができるが、地震発生時にタンク上部で観察することは危険が伴う。したがって浮屋根の揺動を防止する装置が適正に作動しているかどうかを正確に把握することができない。
本発明は、前記従来技術の問題を解消するためになされたもので、浮屋根の揺動に対して減揺効果が得られる減揺装置の作動状態を判定することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の浮屋根の減揺装置の作動判定システムは、液体を貯留する浮屋根式タンクのタンク本体に設けた揺動抑制板と、一端側を前記液体の表面に浮かべた浮屋根の側縁部に接続し、他端を前記揺動抑制板の上部に接続した索状体とを備え、前記浮屋根の揺動を前記索状体に生じる張力として前記揺動抑制板に伝達し、当該揺動抑制板を起伏させるようにした浮屋根の減揺装置と、前記タンク本体の側部に複数設け、前記タンク本体の液面を測定する液面計と、前記タンク本体の周囲に設置し、地震を検知する検知器と、地震発生時に複数の前記液面計間の液面差を算出した前記浮屋根式タンクの液面データと、前記検知器の振動信号に基づいて算出した前記減揺装置を設置していないタンク本体の液面データとを比較して前記減揺装置の作動を判定する作動判定部と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記のようになっている本発明は、減揺装置を設置したタンク本体の地震発生時における液面データと、減揺装置を設置していないタンク本体の地震発生時の揺動を振動信号に基づいて算出した液面データとを比較しているので、タンク本体に設置した減揺装置が効果的に作動しているか否かの正確な判定を行うことができる。またタンク本体の周方向に等間隔に液面計を複数設置しているので、各液面データの差分を取ることにより、タンク本体の正確な液面データを測定することができる。これによりタンク本体の浮屋根の破損予測、タンク上端から液体の溢流予測などが容易に可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る浮屋根の減揺装置の作動判定システムの好ましい実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の作動判定の対象となる浮屋根の減揺装置の説明図である。図1において、浮屋根式タンク10は、タンク本体12の内部に原油などの液体14を貯留するようになっている。液体14の液面16には、浮屋根18を浮かべるようになっている。浮屋根式タンク10は、タンク本体12と浮屋根18との間に図示しないシール部材が配設してあって、タンク本体12に貯留した液体14が蒸発するのを防止するようになっている。また、タンク本体12の内部には、浮屋根18の揺動を低減させるための減揺装置20が設けてある。
【0010】
減揺装置20は、揺動抑制板22、第1索状体24、第2索状体26、プーリ28(28a、28b)、30(30a、30b)を有している。揺動抑制板22は、ヒンジ32を介してタンク本体12の底板に取り付けてあって、矢印34に示したように、左右のどちら方向にも起伏自在となっている。揺動抑制板22は、いずれか一方だけに起伏自在であってもよい。また、揺動抑制板22は、下方を索状体24、26を通すことができるように、底板からやや浮かせた状態で取り付けてある。そして、揺動抑制板22は、上端がワイヤロープなどの引起し部材36を介して浮屋根18の下面に接続してある。引起し部材36は、タンク本体12内の液体14が引き抜かれ、浮屋根18が下降して揺動抑制板22が倒れた場合に、タンク本体12の内部に液体14を注入して浮屋根18を上昇させることにより、揺動抑制板22を引き起こすためのものである。
【0011】
第1索状体24、第2索状体26は、屈曲可能なワイヤロープ、索などから形成してある。第1索状体24は、一端が浮屋根18の揺動抑制板22に対して一側(揺動抑制板22の他方の面側)の縁部となる浮体部38の下部に接続具(図示せず)を介して接続してある。プーリ28a、28bは、第1ガイド部材を構成していて、第1索状体24を掛け渡すようになっている。プーリ28aは、タンク本体12の下部であって、第1索状体24を接続した接続具のほぼ真下に取り付けてある。また、プーリ28bは、揺動抑制板22の反対側、すなわち揺動抑制板22の一方の面と対向したタンク本体12の下部の、プーリ28aと対応する位置に取り付けてある。そして、第1索状体24は、中間部をプーリ28aに掛けられ、揺動抑制板22の下を通されてプーリ28bに掛けられる。第1索状体24の他端は、揺動抑制板22の上部に接続してある。
【0012】
第2索状体26は、一端が浮屋根18の揺動抑制板22に対して他側(揺動抑制板22の一方の面側)の縁部である浮体部38の下部に接続具(図示せず)を介して接続してある。そして、第2索状体26は、中間部が第2ガイド部材を構成しているプーリ30a、30bを介して揺動抑制板22に対して一側に案内され、先端が揺動抑制板22の上部に接続してある。すなわち、第2索状体26は、中間部が一端を接続した接続具の下方に設けたプーリ30aに掛け渡され、揺動抑制板22の下を通されて反対側に設けたプーリ30bに掛け渡してある。
【0013】
揺動抑制板22は、図2に示したように、タンク本体12を中心として第1象限から第4象限のそれぞれに1つずつ配設してある。そして、各象限に配設した揺動抑制板22(22A〜22D)のそれぞれは、隣接する揺動抑制板22の長手方向が相互に直交するように配設してある。
【0014】
次に本発明の浮屋根の減揺装置の作動判定システムの実施形態について説明する。図3は実施形態に係る浮屋根の減揺装置の作動判定システムのブロック図を示す。図示のように作動判定システム100はタンク本体に複数の液面計102を設置してある。液面計102は液面変動(例えば液面計設置レベルを基準とした液高さおよび液密度により発生する圧力の変動)を僅かな時間遅れで計測できる液位、液密度、重力加速度の積を測定する液圧式を用いるとよい。液面計102は、タンク本体12の周方向に等間隔に設置してある。例えば、北方向を0度として、90度、180度、270度の4箇所設置、あるいは北方向を0度として、60度、120度、180度、240度、300度の6箇所に設置することができる。なお液面計の設置個数が多いほど液面変動を正確に計測することができる。
【0015】
またタンク本体12の周囲には検知器104を設置してある。検知器104は地震発生時にタンク本体12周辺の地震を検知し、振動の方向、大きさなどの振動信号として出力する。
【0016】
上記液面計102及び検知器104はいずれも作動判定部106に検出信号を出力している。作動判定部106は、算出部108と比較部110を有している。算出部108は、検知器104の振動信号に基づいて、減揺装置を設置していないタンク本体に作用する揺動を算出する。この算出方法は、例えば消防庁、平成6年通達、消防危第44号(平成6年7月1日公布)により算出することができる。また算出部108は複数の液面計の測定信号に基づいて、減揺装置を備えたタンク本体12の液面データ、例えば液面差の発生方向、液面差量、液高さなどを算出する。
【0017】
比較部110は、算出部108による減揺装置を設置していないタンク本体の液面データと、液面計の測定データに基づく減揺装置を備えたタンク本体の液面データとを比較する。作動判定部106は比較部110の信号に基づいて減揺装置の作動状態を判定する。
【0018】
以上説明した実施形態の浮屋根の減揺装置20の作用は、次のとおりである。いま、図4に示したように、地震加速度50が図の左方向に作用した場合、タンク本体12は、左方向に移動する力を受け、タンク本体12内の液体14が実質的に右へ移動したと同様の効果を生じ、タンク本体12の右側内面に押し付けられる。このため、タンク本体12内の右側部分の圧力が高くなって液面16が上昇し、左側部分の圧力が低くなって液面16が低下する。したがって、浮屋根18は、矢印に示したように回転モーメント54が作用し、液面16の変化に伴って右側が上昇し、左側が下降する。
【0019】
浮屋根18の右側が上昇すると、この部分に接続した第2索状体26を引き、第2索状体26に大きな張力52を与える。一方、浮屋根18の左側は、液面16の下降に伴って下降し、この部分に接続した第1索状体24の張力が小さくなる。そして、第2索状体26に生じた大きな張力52は、第2索状体26の他端側に伝達され、揺動抑制板22の上端を図4の左方向に引き、揺動抑制板22を反時計方向に回動させ、揺動抑制板22の左側に存在する液体14が右方向に移動するのを阻止する。このため、浮屋根18を反時計方向に回転させようとする回転モーメント54が小さくなり、浮屋根18の揺動を抑制することができる。
【0020】
図5に示したように、浮屋根18が矢印56のように回転し、揺動抑制板22が反時計方向に回動すると、揺動抑制板22の左側の液体14は、揺動抑制板22の左側の面に大きな圧力を与え、一部が揺動抑制板22を超えて揺動抑制板22の右側に移動する。このため、タンク本体12の内部は、揺動抑制板22の左側の圧力が高くなり、右側の圧力が低下する。したがって、揺動抑制板22は、矢印58に示したように、右方向に押される力を受け、第2索状体26に大きな張力を与える。このため、第2索状体26に作用する大きな張力は、第2索状体26を接続した浮屋根18の右側部分を下方に引き、浮屋根18に矢印に示した大きな反力モーメント60を与える。したがって、浮屋根18の揺動が抑制され、大きな減揺効果を得ることができる。地震加速度が逆方向に作用した場合も同様である。
【0021】
上述した浮屋根の減揺装置20が効果的に作動して減揺作用を奏することができたか否かを判定する浮屋根の減揺装置の作動判定システムは、次のように作用する。図6は実施の形態に係る浮屋根の減揺装置の作動判定のフローチャートを示す。図7は実施の形態に係る作動判定部のフローチャートを示す。図6に示すように浮屋根の減揺装置の作動判定は、減揺装置を備えたタンク本体に地震が発生した場合(S200)、タンク本体の周方向に複数設置した液面計102で減揺装置を備えたタンク内部の液面を測定する(S202)。またタンク本体周辺に設置してある検知器104により地震を検知する(S204)。検知器104の振動信号は作動判定部106の算出部108に出力される。算出部108では、検知器104の振動信号に基づいて、減揺装置を設置していないタンク本体の地震によって発生する減揺の液面データ、例えば液面差の発生方向、液面差量、液高さなどを算出する(S206)。また算出部108は、複数の液面計102の測定値の差分を取って、減揺装置を備えたタンク本体12の減揺の液面データを算出する。比較部110では、減揺装置を設置していないタンク本体の液面データと、減揺装置を設置したタンク本体の液面データとを比較する(S208)。作動判定部106は、比較部110の出力信号に基づいて、図7に示す判定を行う(S210)。なおAは減揺装置を備えていないタンク本体を示し、Bは減揺装置を備えたタンク本体を示している。すなわち図示のように浮屋根のタンク本体に地震が発生し(S300)、液面計によりタンク本体の液体の液面を複数箇所測定する(S302)。液面計の液面データに基づいて、タンク本体12に揺動が発生した場合(S310)、A及びBのいずれにも同じ大きさ、同じ方向の揺動が発生すると(S312)、作動判定部106は、減揺装置の故障などにより減揺装置が作動していないか、あるいは、減揺装置による減揺効果よりも想定以上の大きな地震が発生したと判定する(S314)。
【0022】
またAに揺動が発生し、Bにも揺動が発生するがAよりも揺動が小さい場合(S316)、作動判定部106は、浮屋根式タンクに設置した減揺装置が効果的に減揺作用を奏したと判定する(S318)。
【0023】
一方、液面計の液面データに基づいて、タンク本体12に揺動が発生しない場合(S320)、A及びBのいずれも揺動が発生しないと(S322)、作動判定部106は、タンク本体にスロッシングの影響を与えない小さい地震が発生したと判定する(S324)。
またAに揺動が発生し、Bに揺動が発生しなかった場合には(S326)、
浮屋根式タンクに設置した減揺装置が効果的に減揺作用を奏したと判定する(S328)。
【0024】
このように減揺装置を設置したタンク本体の液面計による液面データと、検知器の振動信号に基づいて算出した減揺装置を設置してないタンク本体の液面データとを比較することにより、浮屋根の減揺装置の減揺効果を正確に判定して、地震後に適切な安全対策を施す指針とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態にかかる浮屋根の減揺装置の説明図である。
【図2】実施の形態に係る揺動抑制板の配置状態の説明図である。
【図3】実施形態に係る浮屋根の減揺装置の作動判定システムのブロック図を示す。
【図4】実施の形態に係る減揺装置を設けたことによる浮屋根に作用する回転モーメントの説明図である。
【図5】実施の形態に係る減揺装置を設けたことによる浮屋根に作用する反力モーメントの説明図である。
【図6】実施の形態に係る浮屋根の減揺装置の作動判定のフローチャートを示す。
【図7】実施の形態に係る作動判定部のフローチャートを示す。
【符号の説明】
【0026】
10………浮屋根式タンク、12………タンク本体、18………浮屋根、20………減揺装置、22………揺動抑制板、24………第1索状体、26………第2索状体、28a、28b………第1ガイド部材(プーリ)、30a、30b………第2ガイド部材(プーリ)、36………引起し部材、100………作動判定システム、102………液面計、104………検知器、106………作動判定部、108………算出部、110………比較部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する浮屋根式タンクのタンク本体に設けた揺動抑制板と、一端側を前記液体の表面に浮かべた浮屋根の側縁部に接続し、他端を前記揺動抑制板の上部に接続した索状体とを備え、前記浮屋根の揺動を前記索状体に生じる張力として前記揺動抑制板に伝達し、当該揺動抑制板を起伏させるようにした浮屋根の減揺装置と、
前記タンク本体の周方向に複数設け、前記タンク本体の液面を測定する液面計と、
前記タンク本体の周囲に設置し、地震を検知する検知器と、
地震発生時に複数の前記液面計間の液面差に基づいて算出した前記浮屋根式タンクの液面データと、前記検知器の振動信号に基づいて算出した前記減揺装置を設置していないタンク本体の液面データとを比較して前記減揺装置の作動を判定する作動判定部と、
を有することを特徴とする浮屋根の減揺装置の作動判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−76689(P2007−76689A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266443(P2005−266443)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】