説明

海中プランクトンの回収・隔離によるCO2削減システム

【課題】COを吸収した植物プランクトンを回収・隔離してCOを確実に削減する。
【解決手段】海水2と共に捕集した植物プランクトン1をこし分ける繊毛状のろ過部材4により植物プランクトン1を回収し、COを吸収した植物プランクトン1を地中に隔離し、COを回収・隔離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中の植物プランクトンや動物プランクトンを回収して隔離することによりCOを削減するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が問題視されてきており、温暖化の主要原因である大気中のCOの濃度上昇を抑制するための具体的な政策が求められてきている。COの濃度上昇を抑制するために、COの排出規制や、排出権取引、COの回収・貯留・隔離等が種々考えられている。従来から、COの吸収に有用とされる海中の植物プランクトンを増殖させる技術が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
光合成により植物プランクトンが増殖することで海中のCOの分圧が低下し、大気中のCOが海中に吸収されやすくなる。この結果、植物プランクトンを増殖させることで、特別なエネルギーを用いることなく太陽エネルギーにより大気中のCOの濃度上昇を抑制することができると考えられる。
【0004】
COを吸収した植物プランクトンはゆっくりと沈んで海底にCOを運び、また、植物プランクトンを食べる動物プランクトンのCOを含む排泄物も海底に沈んで海底にCOを運ぶ。これにより、生物ポンプの働きによりCOが海底に堆積・沈積し、深い海中にCOが隔離される。
【0005】
しかし、COを運ぶ海中プランクトンは死滅・遺骸となり、海底に沈む過程で分解によりCOが海中に放出されているのが現状である。このため、海底への堆積・沈積によるCOの隔離では、海中に隔離されるCOは限られた量になり、CO削減の大きな効果が期待できないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−350627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、増殖によりCOを取り込んだ海中の植物プランクトンや動物プランクトンを回収して隔離することで、COを確実に削減することができる海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムは、海洋のCOを吸収したプランクトンを海水と共に捕集し水分を分離することで前記プランクトンを回収し海水のCO分圧を低下させる回収手段と、前記回収手段で回収された前記プランクトンを地中に送ることで前記プランクトンを隔離する隔離手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る本発明では、回収手段によりプランクトンを回収することで、増殖によりCOが取り込まれている状態のプランクトンを回収して海水のCO分圧を低下させ、COを吸収した回収プランクトンを隔離手段により地中に送り隔離する。このため、COを確実に削減することができる。
【0010】
プランクトンとは、海中の植物プランクトン及び植物プランクトンを食べる動物プランクトンの総称である。また、地中とは、陸地の地中や海底下地層を総称したもので、水が枯れた井戸等の既存の穴や、油田用に掘削した穴等を含む。
【0011】
回収手段としては、植物プランクトンや動物プランクトンを海水から分離するろ過部材を用いたり、植物プランクトンや動物プランクトンを含む海水に凝集剤を添加してフロック化し、脱水処理を行ってプランクトンを分離回収する手段を用いることが可能である。
【0012】
また、回収したプランクトンはスラリー状になり通常のポンプでは輸送が困難になるため、隔離手段として、回収したプランクトンを輸送するためのモーノポンプを適用することが好ましい。これにより、プランクトンはモーノポンプにより容易に輸送され、陸上の地中、海底下地層に隔離される。プランクトンを海底下地層に隔離することにより、CCS(COの海底下貯留)の技術を応用することができる。
【0013】
そして、請求項2に係る本発明の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムは、請求項1に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、前記回収手段は、海水と共に捕集した前記プランクトンをこし分ける繊毛状のろ過部材を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る本発明では、繊毛状のろ過部材によりプランクトンをこし分けるので、プランクトンの回収を容易に行うことができる。
【0015】
また、請求項3に係る本発明の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムは、請求項2に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、前記回収手段は船舶に備えられ、前記船舶の航行中に海水と共に前記プランクトンを捕集して前記ろ過部材により前記プランクトンをこし分けて回収し、前記船舶の停泊中にこし分けられた前記プランクトンを前記隔離手段により地中に隔離することを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る本発明では、船舶の航行中にプランクトンを回収し、回収したプランクトンを停泊中に地中に隔離することができる。
【0017】
また、請求項4に係る本発明の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムは、請求項3に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、前記船舶は航行時にCOを大気中に放出する船舶であり、COが吸収された前記プランクトンを回収して地中に隔離し、回収・隔離した前記プランクトンのCOにより、航行中に大気に排出するCOを相対的に減少させることを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る本発明では、回収・隔離したプランクトンに吸収されたCOにより、航行中に大気に排出するCOが相対的に減少し、大気中に放出するCOを減少させた状態で船舶を航行させることができ、環境に対するダメージを大幅に減らした船舶とすることができる。
【0019】
また、請求項5に係る本発明の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムは、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、前記プランクトンの増殖を促進させるための海洋施肥手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る本発明では、海洋施肥手段により植物プランクトンの生産を増大させることができ、海中のCOの吸収を促進して回収・隔離するCOを多くすることができる。海洋施肥手段としては、微量栄養塩である鉄化合物もしくは硝酸、アンモニア、リン酸を添加して植物プランクトンを増加させる施肥、深層栄養塩類を海面に供給して植物プランクトンを増加させる肥沃化等を適用することができる。
【0021】
また、請求項6に係る本発明の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムは、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、前記プランクトンが送られる地中は試掘井または廃油井であることを特徴とする。
【0022】
請求項6に係る本発明では、COを吸収したプランクトンを試掘井または廃油井に隔離することができ、既存の深い地中部位にCOを隔離することができ、COを隔離するための穴等を新たに掘削する必要がない。
【0023】
また、請求項7に係る本発明の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムは、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、前記プランクトンが送られる地中は帯水層であることを特徴とする。
【0024】
請求項7に係る本発明では、COを吸収したプランクトンを地中の浸透層における地下水が飽和している帯水層に隔離することができる。
【0025】
また、請求項8に係る本発明の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムは、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、前記プランクトンが送られる地中は海底下地層であることを特徴とする。
【0026】
請求項8に係る本発明では、COを吸収したプランクトンを海底下地層に隔離することができ、CCS(COの海底下貯留)の技術を応用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムは、COを吸収したプランクトンを回収・隔離することによりCOを確実に削減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例に係る海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムの概略構成図である。
【図2】繊毛状のろ過部材の概念図である。
【図3】他の実施例の概略構成図である。
【図4】他の実施例の概略構成図である。
【図5】他の実施例の概略構成図である。
【図6】海洋施肥手段の概略構成図である。
【図7】地中隔離の説明図である。
【図8】地中隔離の説明図である。
【図9】CO削減システムの運用状況の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1、図2に基づいてCO削減システムの概略を説明する。図1には本発明の一実施例に係る海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムを系統化して説明するための概略構成、図2には植物プランクトンをこし分ける繊毛状のろ過部材、具体的には、櫛状のひげ板をなす鯨ひげ状のろ過部材の外観を概略的に示してある。
【0030】
図1に示すように、光合成を担うプランクトンとしての植物プランクトン1(植物プランクトンを食べる動物プランクトンを含む)は海中のCOを吸収した状態で生息(増殖)し、植物プランクトン1が生息する領域の海水2が図示しないポンプ等により汲み上げられて回収容器3に投入される。回収容器3には、植物プランクトン1をこし分ける繊毛状のろ過部材4が備えられている(回収手段)。ろ過部材4で植物プランクトン1がこし分けけられた後の海水2は、回収容器3の下部に貯められて海中に排出される。
【0031】
図2に示すように、ろ過部材4は、櫛状のひげ板をなす鯨ひげ状のろ過部材4とされ、鯨ひげ状の部位で海水2をろ過し植物プランクトン1だけを捕捉する。即ち、鯨がひげの部位でオキアミを捕捉する場合と同じ状態で植物プランクトンを捕捉する。海水2と共に捕集した植物プランクトン1をこし分ける繊毛状のろ過部材4を用いたことにより、植物プランクトン1の回収を容易に行うことができる。
【0032】
上述した実施例では、海水2を汲み上げてろ過部材4で植物プランクトン1を捕捉しているが、船舶等でろ過部材4を曳航し、海中の植物プランクトン1を直接捕捉することも可能である。
【0033】
一方、図1に示すように、ろ過部材4でこし分けられた植物プランクトン1は、COが吸収された状態のまま回収されて隔離手段5により陸地6の地中に送られ、植物プランクトン1は吸収されたCOと共に地中に隔離される。地中としては、燃料を取り出したあとの油田の空隙(廃油井)や、油田の試掘を行ったあとの空隙(試掘井)等を適用することができる。
【0034】
つまり、地中としては、COが吸収された植物プランクトン1が大気に触れず分解されない、または、分解されても地上に出ることがない場所が適用される。油田の空隙等を適用することにより、既存の地中の空隙を利用してCOを地中に隔離することができる。
【0035】
植物プランクトン1の回収は、植物プランクトン1が捕捉されたろ過部材4を回収して粉砕し、隔離手段5により地中に送られる。また、エア等によりろ過部材4から植物プランクトン1を分離し、分離した植物プランクトン1を隔離手段5により地中に送ることも可能である。
【0036】
隔離手段5としては、例えば、軸方向に断面形状が連続的に変化するステータの内部で偏心状態のロータを回転させ、スラリー状の搬送物を軸方向に圧送するモーノポンプや、ねじ状のスクリューを回転させてスラリー状の搬送物を軸方向に移送するスクリューポンプ等を適用することができる。
【0037】
上述したCO削減システムでは、ろ過部材4により植物プランクトン1をこし分けて捕捉し、回収された植物プランクトン1は吸収されたCOと共に地中(油田の空隙等)に隔離されるので、植物プランクトン1に取り込まれたCOを海水2に放出させることなくCOを直接隔離することができる。また、海中における海水2のCO分圧を低下させることができる。
【0038】
このため、COを吸収した植物プランクトン1を回収・隔離してCOを確実に削減することが可能になる。また、分圧が低下した海中における海水2に大気中のCOを吸収させることができ、大気中のCOの濃度上昇を抑制することができる。つまり、植物プランクトン1によるCOの削減を実用的なものにすることが可能になる。
【0039】
図3から図5に基づいてCO削減システムの他の実施例を説明する。図3にはプランクトンネットを用いた回収手段、図4には板状フィルタを用いた回収手段、図5には凝集剤を用いた回収手段を示してある。尚、図1に示した部材と同一部材には同一符号を付してある。
【0040】
プランクトンネットを用いた回収手段を説明する。
【0041】
図3に示すように、植物プランクトン1が生息する領域の海水2が図示しないポンプ等により汲み上げられて回収容器11に投入される。回収容器11にはプランクトンネット12の仕切りが設けられ、投入された海水2をプランクトンネット12に通過させることで植物プランクトン1がプランクトンネット12上に分離する。プランクトンネット12で植物プランクトン1が分離された後の海水2は、回収容器11の下部に貯められて海中に排出される。
【0042】
そして、プランクトンネット12で分離された植物プランクトン1は、図1に示したCO削減システムと同様に、COが吸収された状態のまま隔離手段5により陸地6の地中に送られ、植物プランクトン1は吸収されたCOと共に地中に隔離される。このため、植物プランクトン1に取り込まれたCOを海水2に放出させることなくCOを直接隔離することができる。また、海中における海水2のCO分圧を低下させることができる。このため、COを吸収した植物プランクトン1を回収・隔離してCOを確実に削減することが可能になる。また、分圧が低下した海中における海水2に大気中のCOを吸収させることができ、大気中のCOの濃度上昇を抑制することができる。
【0043】
上述した実施例では、海水2を汲み上げてプランクトンネット12で植物プランクトン1を分離しているが、船舶等でプランクトンネット12を曳航し、海中の植物プランクトン1を直接捕捉することも可能である。
【0044】
板状フィルタを用いた回収手段を説明する。
【0045】
図4に示すように、植物プランクトン1が生息する領域の海水2が図示しないポンプ等により汲み上げられて回収容器15の投入口16に投入される。回収容器15の開口上面にはフィルタ板17が備えられ、フィルタ板17は投入口16に対応する部位から下方に傾斜している。投入口16と反対側のフィルタ板17の側部(傾斜下側)には回収部18が設けられている。
【0046】
投入口16に海水2が投入されることで、植物プランクトン1がフィルタ板17で分離される。フィルタ板17上に分離された植物プランクトン1はフィルタ板17の上を流れ落ちて回収部18に回収される。フィルタ板17には、植物プランクトン1が流れやすくするため、必要に応じて水(海水)がシャワー状に噴射される。植物プランクトン1が分離された後の海水2は、回収容器15の下部に貯められて海中に排出される。
【0047】
回収部18に回収された植物プランクトン1は、図1に示したCO削減システムと同様に、COが吸収された状態のまま隔離手段5により陸地6の地中に送られ、植物プランクトン1は吸収されたCOと共に地中に隔離される。このため、植物プランクトン1に取り込まれたCOを海水2に放出させることなくCOを直接隔離することができる。また、海中における海水2のCO分圧を低下させることができる。このため、COを吸収した植物プランクトン1を回収・隔離してCOを確実に削減することが可能になる。また、分圧が低下した海中における海水2に大気中のCOを吸収させることができ、大気中のCOの濃度上昇を抑制することができる。
【0048】
凝集剤を用いた回収手段を説明する。
【0049】
図5に示すように、植物プランクトン1が生息する領域の海水2が図示しないポンプ等により汲み上げられて回収容器21に投入される。回収容器21には凝集剤が供給され、回収容器21に植物プランクトン1を含む凝集物22が形成される。凝集物22は脱水手段23により脱水され、植物プランクトン1が分離される。
【0050】
脱水手段23で脱水分離された植物プランクトン1は、図1に示したCO削減システムと同様に、COが吸収された状態のまま隔離手段5により陸地6の地中に送られ、植物プランクトン1は吸収されたCOと共に地中に隔離される。このため、植物プランクトン1に取り込まれたCOを海水2に放出させることなくCOを直接隔離することができる。また、海中における海水2のCO分圧を低下させることができる。このため、COを吸収した植物プランクトン1を回収・隔離してCOを確実に削減することが可能になる。また、分圧が低下した海中における海水2に大気中のCOを吸収させることができ、大気中のCOの濃度上昇を抑制することができる。
【0051】
図6から図8に基づいて、上述したCO削減システムの具体的な適用の状況を説明する。
【0052】
図6には深層水を表層に汲み上げることで海洋の施肥を行う手段の概略、図7には船舶から陸地の地中(廃油井)に植物プランクトンを隔離する状態、図8には船舶から海底の地中(海底下地層)に植物プランクトンを隔離する状態を示してある。
【0053】
図6に示すように、CO削減システム30は海上を航行する船舶31に搭載される。植物プランクトン1の生産を増大させるため、海洋の表層を肥沃化する海洋施肥手段32が用いられる。海洋施肥手段32は、表層から深層水33の部位に達する汲み上げ管25を備えている。汲み上げ管25の外部の暖かい海水から熱を受けて(図中白抜き矢印で示してある)汲み上げ管25内の深層水33を温め、浮力により深層水33が表層に汲み上げられる。
【0054】
つまり、海洋の温度差と塩分差で深層水33を表層に汲み上げて肥沃化する。尚、駆動ポンプ等を用いて深層水33を直接汲み上げることも可能である。
【0055】
海洋施肥手段32によって海洋の表層が肥沃化されることにより、植物プランクトン1の生産が増大する。肥沃化された海域に船舶31を航行させ、または、海洋施肥手段32を船舶31で輸送して所望の海域で肥沃化を実施する。肥沃化により多くの植物プランクトン1が生産された海域で、植物プランクトン1を海水2と共に船舶31のCO削減システム30に投入することができる。
【0056】
尚、海洋施肥手段32により深層水33を汲み上げると共に、鉄(鉄化合物)を散布して海水の鉄分を補い、海洋の表層を肥沃化して植物プランクトン1を増殖させることができる。また、海洋施肥手段32に代えて、鉄化合物、硝酸、アンモニア、リン酸を添加して植物プランクトン1を増加させる施肥を実施することも可能である。
【0057】
図7に示すように、船舶31で回収した植物プランクトン1は、船舶31の航行により陸地6に運ばれ、吸収されたCOと共に地中である廃油井51に隔離される。陸地6からパイプライン等を通して地中の浸透層における地下水が飽和している帯水層に運んで隔離することができる。
【0058】
また、図8に示すように、船舶31で回収した植物プランクトン1は、船舶31の航行により所定の海域に運ばれ、海中パイプライン52等により海底36の海底下地層53に隔離される。海底下地層53にCOを吸収した植物プランクトン1を隔離することで、海底下地層53の壁面等の塩害を考慮する必要がない。
【0059】
CO削減システムの他の適用例として、植物プランクトン1が季節により自然に増殖する現象や、自然により赤潮が発生する現象を適用することも可能である。
【0060】
つまり、日本近海では、冬の間に季節風等の影響で海水が攪拌されたり、岸に沿って流れる海流による上昇流等の影響により、海洋の表層に栄養塩が運ばれる。そして、春に植物プランクトン1の光合成活動が盛んになる結果、植物プランクトン1が自然に爆発的に増殖する現象(植物プランクトンブルーム)が知られている。このような現象を捉えて、植物プランクトン1が自然に増殖した時季、海域に応じて船舶31を航行させ、自然に増殖した植物プランクトン1を海水2と共に船舶31のCO削減システム30に投入することができる。同様に、自然により発生した赤潮の海域に船舶31を航行させ、海水2と共に船舶31のCO削減システム30に投入することができる。
【0061】
植物プランクトンブルームや赤潮の発生現象を適用することで、自然に増殖したプランクトンを回収してCOを削減することができる。
【0062】
上述した適用例は、植物プランクトンを回収する目的で船舶31を航行させることを想定しているが、定期航路上に増殖している植物プランクトンを回収することも可能である。図9に基づいて定期航路を航行する船舶31によるCO削減システム30の具体的な運用状況の一例を説明する。
【0063】
船舶31は、COを大気中に放出しながら目的地に向かって定期航路上を航行する。この時、植物プランクトン1の有無に拘わらず海水2を汲み上げ・排水しながら航行する(a)。植物プランクトンが増殖している海域と定期航路が重なると、海水2が汲み上げられることでCO削減システム30により植物プランクトン1が回収され、海水2だけが排水されて航行することになり、航路上の海域の海水2のCOの分圧が低下し、大気中のCOが海中に吸収される(b)。
【0064】
植物プランクトンが増殖している海域から外れて目的地まで航行する過程で、植物プランクトン1の有無に拘わらず海水2を汲み上げ・排水しながら、また、船舶31はCOを大気中に放出しながら航行する(c)。そして、目的地(寄港地)の陸地6の地中にCOを吸収した植物プランクトン1が隔離される(d)。
【0065】
尚、植物プランクトン1の増殖の有無を評価できる船舶31であれば、植物プランクトン1が増殖している海域と定期航路が重なる海域でだけ海水2の汲み上げ・排水を実施し、その他の航路では海水2の汲み上げ・排水を停止することも可能である。
【0066】
これにより、定期航路を航行中にはCOが大気中に放出される一方(a、c)、植物プランクトン1が増殖している海域で植物プランクトン1を回収したことにより大気中のCOが海中に吸収され(b)、COを吸収した植物プランクトン1がCOと共に目的地の陸地6の地中に隔離される(d)。このため、回収されて隔離された植物プランクトン1のCOにより、定期航路を航行するために大気に排出されたCOが相対的に減少する。
【0067】
従って、回収・隔離した植物プランクトン1に吸収されたCOにより、定期航路を航行中に船舶31から大気に排出されるCOが相対的に減少し、大気中に放出するCOを減少させた状態で船舶31を航行させることができ、環境に対するダメージを大幅に減らした船舶31とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、海中の植物プランクトンや動物プランクトンを回収して隔離することによりCOを削減するシステムの産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 植物プランクトン
2 海水
3、11、15、21 回収容器
4 ろ過部材
5 隔離手段
6 陸地
12 プランクトンネット
16 投入口
17 フィルタ板
18 回収部
22 凝集物
23 脱水手段
30 CO削減システム
31 船舶
32 海洋施肥手段
33 深層水
36 海底
51 廃油井
52 海中パイプライン
53 海底下地層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋のCOを吸収したプランクトンを海水と共に捕集し水分を分離することで前記プランクトンを回収し海水のCO分圧を低下させる回収手段と、
前記回収手段で回収された前記プランクトンを地中に送ることで前記プランクトンを隔離する隔離手段とを備えた
ことを特徴とする海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システム。
【請求項2】
請求項1に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、
前記回収手段は、海水と共に捕集した前記プランクトンをこし分ける繊毛状のろ過部材を備えた
ことを特徴とする海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システム。
【請求項3】
請求項2に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、
前記回収手段は船舶に備えられ、
前記船舶の航行中に海水と共に前記プランクトンを捕集して前記ろ過部材により前記プランクトンをこし分けて回収し、前記船舶の停泊中にこし分けられた前記プランクトンを前記隔離手段により地中に隔離する
ことを特徴とする海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システム。
【請求項4】
請求項3に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、
前記船舶は航行時にCOを大気中に放出する船舶であり、
COが吸収された前記プランクトンを回収して地中に隔離し、回収・隔離した前記プランクトンのCOにより航行中に大気に排出するCOを相対的に減少させる
ことを特徴とする海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、
前記プランクトンの増殖を促進させるための海洋施肥手段を備えた
ことを特徴とする海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、
前記プランクトンが送られる地中は試掘井または廃油井である
ことを特徴とする海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システム。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、
前記プランクトンが送られる地中は帯水層である
ことを特徴とする海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システム。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システムにおいて、
前記プランクトンが送られる地中は海底下地層である
ことを特徴とする海中プランクトンの回収・隔離によるCO削減システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−4663(P2011−4663A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151589(P2009−151589)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】