説明

海水淡水化システムおよびその方法

【課題】RO膜の性能低下を抑制し、システム全体としてのランニングコストを低減する。
【解決手段】本発明の海水淡水化システムは、海水12を逆浸透膜を用いて淡水化する海水淡水化システムSであって、海水12に含まれる多糖類を低減する多糖類吸着処理装置14、16と、多糖類吸着処理装置16の処理水162を逆浸透膜で淡水化する逆浸透膜処理装置18と、多糖類吸着処理装置14、16の多糖類吸着材を洗浄流体で洗浄する洗浄流体供給装置19と、多糖類吸着処理装置14、16前後の処理水121、15、162の多糖類濃度を計測する多糖類濃度計測装置17と、多糖類吸着処理装置14、16前後の処理水121、15、162の多糖類濃度の計測値とあらかじめ与えた目標多糖類除去度Dに基づいて多糖類吸着処理装置14、16の操作量を判定して当該多糖類吸着処理装置14、16の洗浄情報を出力する洗浄条件演算手段171とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水から淡水を得るための逆浸透膜を用いた海水淡水化設備とその前処理・後処理装置を含めた海水淡水化システムおよびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水を通し塩類等の不純物を透過しない逆浸透膜によるろ過処理を用いた海水淡水化装置が増加する傾向にある。
逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane:RO膜とも称す)は、グルコースが長い鎖状に縮重合しているポリマのセルロース((C105))やアミノ基(NH)とカルボシル基(COOH)とが縮重合しているポリマのポリアミド等の素材で造られている。海水を逆浸透膜に通し海水の浸透圧の二倍以上の圧力を加え、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩分の透過を抑制し、淡水を得ることができる。
【0003】
RO膜(逆浸透膜)を用いた海水淡水化装置の透過性能を低下させる現象にバイオファウリング(生物汚染)がある。バイオファウリングは植物プランクトン由来の生体高分子物質、例えば、下記の非特許文献1には、有機物のうち特に粘着性を持つ多糖類を含むTEP(Transparent Exopolymer Particles)が、ファウリングの生成に大きく寄与していると述べられている。
【0004】
そこで、海水淡水化装置の効率的な運転のためには、透過性能を低下させるバイオファウリング対策が必須である。バイオファウリング対策としては、膜の孔径で分子レベルのふるい分けを行うUF膜(Ultrafiltration Membrane)(限外ろ過膜)を用いた前処理工程においてRO膜の上流側で粘着性を持つ多糖類を含むTEPを低減しRO膜の性能低下を防止する方法がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】竹内,「RO海水淡水化の前処理とファウリング」,日本海水学会誌 63巻,p.p. 367-371(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、UF膜を用いた前処理工程によっても多糖類、特にTEPは完全に除去することができず、RO膜の性能低下を防止できないという問題がある。
本発明は上記実状に鑑み、RO膜の性能低下を抑制するとともにシステム全体としてのランニングコストを低減できる海水淡水化システムおよびその方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わる海水淡水化システムは、海水を逆浸透膜を用いて淡水化する海水淡水化システムであって、前記海水に含まれる多糖類を低減する多糖類吸着処理装置と、前記多糖類吸着処理装置の処理水を逆浸透膜で淡水化する逆浸透膜処理装置と、前記多糖類吸着処理装置の多糖類吸着材を洗浄流体で洗浄する洗浄流体供給装置と、前記多糖類吸着処理装置前後の処理水の多糖類濃度を計測する多糖類濃度計測装置と、前記多糖類吸着処理装置前後の処理水の多糖類濃度の計測値とあらかじめ与えた目標多糖類除去度に基づいて前記多糖類吸着処理装置の操作量を判定して当該多糖類吸着処理装置の洗浄情報を出力する洗浄条件演算手段とを備えている。
【0008】
第2の本発明に関わる海水淡水化方法は、海水を逆浸透膜を用いて淡水化する海水淡水化方法であって、前記海水に含まれる多糖類を多糖類吸着処理装置で低減する多糖類吸着処理過程と、前記多糖類吸着処理過程前後の処理水の多糖類濃度を計測する多糖類濃度計測過程と、前記多糖類吸着処理過程前後の処理水の多糖類濃度の計測値とあらかじめ与えた目標多糖類除去度に基づいて前記多糖類吸着処理過程の操作量を判定して当該多糖類吸着処理装置の洗浄情報を出力する洗浄条件演算過程と、前記洗浄情報に基づき、洗浄流体供給装置により前記多糖類吸着処理装置の多糖類吸着材を洗浄流体で洗浄する洗浄過程とを含んで成る。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、RO膜の性能低下を抑制するとともにシステム全体としてのランニングコストを低減できる海水淡水化システムおよびその方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施形態1の海水淡水化処理システムの構成を示す図。
【図2】実施形態2の前処理装置の後段に第1の多糖類吸着処理装置のみを用いて吸着材に活性炭を使用して活性炭を洗浄再生した例を示す図。
【図3】実施形態3の第1の多糖類吸着処理装置に活性炭を用いた運転結果を示す図。
【図4】実施形態4の第1の多糖類吸着処理装置である活性炭吸着処理装置での活性炭単位重量当りの洗浄水量とTEP除去率低下比との関係を示す図。
【図5】実施形態5の天然ゼオライトによるTEP除去率(%)と吸着時の空塔速度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
なお、本発明の構成および(作用)効果は本実施形態に限定されるものではない。
<<実施形態1>>
図1に本発明に係る実施形態1の海水淡水化処理システムSの構成を示す。
実施形態1の海水淡水化処理システムSは、海水12を逆浸透膜(RO膜)を用いて淡水化するシステムであり、逆浸透膜の汚染を低減する構成を備えたものである。
【0012】
海水淡水化処理システムSは、上流側から下流側へ順に、海水12の前処理を担う前処理装置120、前処理水121中のグリコーゲン((C10))等の多糖類を吸着処理する第1の多糖類吸着処理装置14、多糖類吸着処理水15(以下、処理水15と称す)中の多糖類を吸着処理する第2の多糖類吸着処理装置16、および、多糖類吸着処理水162(以下、処理水162と称す)から逆浸透膜(RO膜)で淡水を得る逆浸透膜式海水淡水化装置18を備えている。
【0013】
また、海水淡水化処理システムSは、第1・第2の多糖類吸着処理装置14、16を洗浄するための構成として、前処理水121、処理水15、162の水質を分析する水質分析装置17、洗浄条件等を演算する洗浄条件演算装置171、および、必要時に第1・第2の多糖類吸着処理装置14、16に洗浄水(洗浄流体)を供給する洗浄水供給装置19を有している。
【0014】
なお、第1・第2の多糖類吸着処理装置14、16は、多糖類の粒子の大きさの異なる順に吸着処理を行う構成である。例えば、第1の多糖類吸着処理装置14は、第2の多糖類吸着処理装置16より大きい多糖類の粒子(分子)の吸着処理を行う。
海水12は、前処理装置120、第1の多糖類吸着処理装置14、例えば合成ゼオライトを用いた第2の吸着処理装置16の順に通過して、最後に逆浸透膜式海水淡水化装置18を通過し、濃縮廃水24と海水12から抽出された淡水20に分離される。
淡水20は回収される一方、濃縮廃水24は海に戻さ(還さ)れる。
【0015】
<海水淡水化処理システムSの構成機器>
前処理装置120は、原水である海水12を、充填された砂によりろ過し濁質等の混入物を除去する砂ろ過処理相当の装置である。前処理装置120は、海水12から例えば1μm〜100μmの大きさ(粒径)の夾雑物や濁度成分を除去する。
第1の多糖類吸着処理装置14は、前処理装置120で除去しきれない成分、物質の大きさでいうと例えば粒径1μm以下の成分や物質の多糖類等を吸着により除去する。特に海水12中に溶解している透明細胞外粒子(TEP)等を吸着することに有効である。
【0016】
第2の多糖類吸着処理装置16は、海水12が前処理装置120と第1の多糖類吸着処理装置14とを連続して通過してもなお除去しきれなかった成分、物質、主に多糖類を除去する。特に0.1μm以下の大きさの粒径のTEPを吸着することに有効である。第2の多糖類吸着処理装置16の吸着材には、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)等を原成分とする多孔質構造で吸着機能をもつ合成ゼオライトなどが好適である。
【0017】
水質分析装置17では、前処理装置120を通過して処理された前処理水121の一部を採取して得られる水質分析用サンプル水122中の多糖類濃度を分析する。また、水質分析装置17は、第1の多糖類吸着処理装置14を通過して(吸着)処理された処理水15の一部を採取して得られる水質分析用サンプル水140中の多糖類濃度を分析する。また、水質分析装置17は、第2の多糖類吸着処理装置16を通過して(吸着)処理された処理水162の一部を採取して得られる水質分析用サンプル水160中の多糖類濃度を分析する。
水質分析装置17は、洗浄条件演算装置171に多糖類濃度の分析結果に基づいた演算結果172の情報を送信する。
【0018】
洗浄条件演算装置171は、コントローラ等のコンピュータで構成される。洗浄条件演算装置171の機能は、コンピュータで制御プログラムが実行されることで具現化される。なお、洗浄条件演算装置171は、少なくとも一部をIC(Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のハードウェアで構成してもよく、限定されない。
【0019】
洗浄条件演算装置171は、水質分析装置17の演算結果172の情報に基づき、第1の多糖類吸着処理装置14の処理後の水質分析用サンプル水140のTEP濃度が、予めテーブル等の記憶部に入力または設定されている所定のTEP濃度値(後記のTEP除去率相対値の許容値(D)から換算されるTEP濃度値)よりも高値であると判定された場合、洗浄水供給装置19に洗浄信号170を送信する。なお、本判定方法については、後に詳述する。
【0020】
洗浄信号170は、洗浄水供給装置19から第1の多糖類吸着処理装置14に向けて洗浄水141を送るためのものであるのに加え、稼動中の第1の多糖類吸着処理装置14への送水を停止する信号を前処理装置120に送信する(図1中の二点鎖線参照)とともに、図示しない予備の第1の多糖類吸着処理装置(14)に送水先を切り替える信号の役割も併せ持つ。
洗浄水供給装置19は、第1の多糖類吸着処理装置14および/または第2の多糖類吸着処理装置16に、それぞれが有する多糖類吸着材の再生に必要な洗浄水141および/または洗浄水161を供給する。
【0021】
<第1の多糖類吸着処理装置14>
次に、第1の多糖類吸着処理装置14の多糖類吸着材について詳述する。
第1の多糖類吸着処理装置14における第1の多糖類吸着材は、多孔質で吸着機能をもつ活性炭、天然ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル(SiO2・nH2O)、多孔質粘土鉱物等の通常の水処理用のものを使用すればよい。第1の多糖類吸着材の吸着用の細孔は数ナノメートル(10-9m)から数百ナノメートルの広範囲の幅の細孔を有していることが有効であり、主にミクロン(10-6m)オーダの径のTEPが吸着する。
【0022】
第1の多糖類吸着処理装置14は通水して使用中のものの他に、その洗浄操作中に多糖類の吸着処理操作を途絶させることのないように、少なくとも1セット以上の予備の多糖類吸着処理装置が必要である。第2の多糖類吸着処理装置16についても同様である。
しかし、何れの多糖類吸着材でもそのTEPの吸着量には限界があり、淡水化の連続運転によりTEP飽和吸着量に近づくに従って吸着能が低下する。従って、淡水化性能の劣化を抑制するには、多糖類吸着材のTEP吸着性能を回復させることが本実施形態(本発明)のシステム構成上重要である。
【0023】
多糖類吸着材(以下、吸着材と称す)にTEP飽和吸着量まで吸着させた後では吸着性能を回復することは容易ではなく、所定の淡水化性能を維持するためには、吸着材に対する吸着時間および再生時間の最適な条件を設定することがシステム上重要となる。
多糖類の吸着材表面での多糖類、例えばTEPの挙動は、一般的な活性炭における有機物吸着と同様に細孔で粒子(分子)を捕捉する現象に加え、粒状活性炭の表面に付着することにより除去される現象が起こりうると考えられる。これは活性炭の炭素とTEPの間で発生する疎水性相互作用、また表面に炭素を有さない吸着材の場合は電気的な吸着、もしくは有機物の粘性による物理的な吸着が考えられる。
【0024】
上記の付着現象により吸着材表面に捕捉された有機物は、吸着材表面との結合力が強くない為、大きなせん断力を与えることにより脱離させることが可能である。例えば通常の処理運転以上の洗浄水を供給することにより、吸着材間の流路に通常運転時以上のせん断力が発生し、その結果吸着材表面より剥離することで、吸着材の再生が可能となる。
TEP脱離に使用された洗浄水141はTEP濃度が本システムに取り込んだ海水12よりも高濃度のTEPを含有するが、TEPは元々、海水中には必ず含まれ、環境に対して無害であるため、再度海に放流して構わない。
【0025】
図1に示す海水淡水化処理システムSでは、多糖類の吸着材に大流量の洗浄条件を与えるために洗浄水供給装置19から注入される洗浄水141を用いる。
洗浄水141は、TEPを含まない常温流体であって吸着材を洗浄できるものであれば何でもよく、例えば淡水、海水でもよい。洗浄水141の温度は例えば常温以上であれば何度でもよく、TEPの吸着特性は物理吸着であるため、多糖類の吸着材の洗浄、再生のための流体は特に高温である必要はない。
【0026】
<制御方式>
次に、本実施形態の海水淡水化処理システムSの制御方式を説明する。
第1の多糖類吸着処理装置14の多糖類(TEP)除去率を演算する場合、図1に示すように、水質分析装置17によって、水質分析用サンプル水122、140のTEP濃度がそれぞれ計測される。なお、第2の多糖類吸着処理装置16の多糖類(TEP)除去率を演算する場合には、水質分析用サンプル水140、160のTEP濃度がそれぞれ計測される。
【0027】
第1の多糖類吸着処理装置14の多糖類(TEP)除去率(単位%)(J)は、次式(1)により求められる。
J=((水質分析用サンプル水122のTEP濃度)−(水質分析用サンプル水140のTEP濃度))×100/(水質分析用サンプル水122のTEP濃度) (1)
【0028】
そして、第1の多糖類吸着処理装置14のTEP除去率相対値(C)が、水質分析用サンプル水140からのTEP濃度計測値(処理後の多糖類濃度の計測値)(A)と水質分析用サンプル水122のTEP濃度計測値(処理前の多糖類濃度の計測値)(B)から得られる。
TEP除去率相対値C=(B−A)×100/B (2)
【0029】
相対値を用いるのは、原水である海水12中のTEP濃度が時々刻々ないし日々刻々変化し、水質分析用サンプル水122のTEP濃度計測値(B)が変動するためである。
本実施形態(本発明)のシステムでは、予めTEP除去率相対値の許容値(目標多糖類除去度)(D)を設定しておく。DはTEP除去率相対値(C)が逆浸透膜式海水淡水化装置18の逆浸透膜の汚染を進行、または、逆浸透膜の性能を低下させる程度ではなく、同一系の第1の多糖類吸着処理装置14による第1の多糖類吸着処理を継続することが許容される範囲の意味をもつ。
【0030】
海水淡水化処理システムSの稼働中、水質分析装置17は、前処理装置120で海水12が前処理された前処理水121から採取した水質分析用サンプル水122のTEP濃度を分析するとともに、第1の多糖類吸着処理装置14を通過して吸着処理された処理水15から採取した水質分析用サンプル水140のTEP濃度を分析する。
そして、水質分析用サンプル水140からのTEP濃度計測値(A)と水質分析用サンプル水122のTEP濃度計測値(B)からTEP除去率相対値Cを、式(2)を用いて演算する。
【0031】
続いて、水質分析装置17は、洗浄条件演算装置171に演算結果172のTEP除去率相対値(C)を送り、洗浄条件演算装置171は第1の多糖類吸着処理装置14および/または第2の多糖類吸着処理装置16を洗浄する必要がある場合、洗浄水供給装置19に洗浄信号170を送る。具体的には、洗浄信号170は水質分析用サンプル水140のTEP濃度(A)が予め入力または設定されているTEP濃度値(TEP除去率相対値の許容値(D)より換算される値)よりも高値であると判定された場合に洗浄信号170を洗浄水供給装置19に送信する。
【0032】
すなわち、演算結果172が、 TEP除去率相対値(C)≧許容値(D) の範囲である場合には、TEP除去率相対値(C)が許容値(D)を満足する範囲でTEP除去が行われているため、第1の多糖類吸着処理装置14の洗浄時期に至っていないと判断される。
この場合、第1の多糖類吸着処理装置14におけるTEP除去が予め定めた範囲で滞りなく行われているため、洗浄水供給装置19に洗浄信号170は送信されない。そのため、第1の多糖類吸着処理装置14に、洗浄信号が送信されないとともに、多糖類の吸着材を洗浄するための洗浄水141は供給されない。
【0033】
一方、洗浄条件演算装置171での演算結果172のTEP除去率相対値(C)が、 TEP除去率相対値(C)<許容値(D) の場合には、第1の多糖類吸着処理装置14におけるTEP除去が予め定めた許容範囲を下回り、TEP除去が許容量行われていない。この場合、洗浄条件演算装置171で、第1の多糖類吸着処理装置14は洗浄時期に至ったと判断され、洗浄水供給装置19に洗浄信号170が送信される。
【0034】
そこで、洗浄水供給装置19は、洗浄信号170に従って、洗浄水141を第1の多糖類吸着除去装置14に送り、一定時間吸着材の洗浄を行う。
詳細には、洗浄時間の情報(洗浄開始および洗浄停止を示す情報)と、洗浄水量を有する洗浄条件の情報とを含む洗浄信号170が洗浄水供給装置19に入力され、第1の多糖類吸着処理装置14に洗浄信号が送信される。なお、洗浄条件とは、少なくとも、洗浄水量の情報を含み、望ましくは、後記の洗浄水の流量、流速の情報を含む。
同時に、洗浄信号170は、第1の多糖類吸着処理装置14への前処理水121の送水を停止させる信号(図1の二点鎖線参照)でもあり、かつ、第1の多糖類吸着処理装置14の図示しない予備の第1の多糖類吸着処理装置(14)に前処理水121を通水する信号でもある。
【0035】
本実施形態1の構成を採ることで、第1・第2の多糖類吸着処理装置14、16の各吸着材が汚染された場合に所定の吸着が行われるように洗浄されるので、逆浸透膜式海水淡水化装置18に送水される処理水162が浄化される。
海水に含まれる多糖類、特に透明細胞外粒子(TEP)の濃度を低減させることができ、これによってバイオファウリングによる逆浸透膜式海水淡水化装置18のRO膜の汚染が低減され、透過性能の低下を防ぐことができる。
【0036】
結果として、逆浸透膜式海水淡水化装置18のRO膜の洗浄頻度が低減され、RO膜の交換までの使用期間を延伸することができる。よって、海水淡水化装置である海水淡水化処理システムSの延命に寄与できる。
また、海水淡水化処理システムSの効率的な運転が可能となるため、運転コストが低減され、また、CO排出量が低減され環境負荷を低減した運転が可能となる。
【0037】
なお、実施形態1では、第1の多糖類吸着処理装置14を洗浄する場合を例示して説明したが、第2の多糖類吸着処理装置16を洗浄する場合も、説明した第1の多糖類吸着処理装置14を洗浄する場合と同様に行われる。これにより、第1の多糖類吸着処理装置14および/または第2の多糖類吸着処理装置16の洗浄を行い、逆浸透膜式海水淡水化装置18のRO膜の汚染を抑制し、安定的な海水12の淡水化作業を行うことが可能である。
【0038】
<<実施形態2>>
次に、実施形態2について説明する。
実施形態2は、実施形態1の海水淡水化処理システムSにおける第1・第2の多糖類吸着処理装置14、16において、吸着過程と洗浄過程とを繰り返した結果を示したものである。
図2に、実施形態2の海水淡水化処理システムSの制御方式で制御した結果を示す。図2は、実施形態2の前処理装置120(図1参照)の後段の第1の多糖類吸着処理装置14の吸着材に活性炭を使用して活性炭を洗浄再生した例を示す図である。
【0039】
本実施形態2は、洗浄条件が第1の多糖類吸着処理装置14の活性炭の再生として好適であった例である。吸着操作を3回、洗浄操作を2回実施した。吸着期と洗浄期の時間配分は10:1とした。
第1の多糖類吸着処理装置14である活性炭吸着処理装置に流入する前処理水121は、海水12が前処理装置120を通過してろ過され夾雑物や濁度成分が除去される前処理が行われた処理水である。前処理水121は、第1の多糖類吸着処理装置14である活性炭吸着処理装置に流入し、その活性炭吸着層を通過することでTEP成分が活性炭に吸着し、図2の「◆」の140TEP濃度に示されるようにTEP濃度が低下した。
【0040】
さらに、第1の多糖類吸着処理装置14から流出した処理水15(図1参照)を、連続して第2の多糖類吸着処理装置16を通過させた。
本実施形態2の第2の多糖類吸着処理装置16の吸着材には、前記した合成ゼオライトを用いている。合成ゼオライトからなる第2の多糖類吸着処理装置16を通過した後のサンプル水160のTEP濃度は、図2の「△」の160TEP濃度に示すように、140TEP濃度よりさらに低下して、第2の多糖類吸着処理装置16の吸着効果が認められた。
【0041】
このように、本実施形態2の構成を採ることでRO膜(逆浸透膜)の汚染が低減される結果、RO膜の洗浄頻度を低減することができ、また、RO膜の交換までの使用期間を延伸できる。
そのため、海水淡水化処理システムSの運転効率が向上し、運転コストが低減され、さらに、CO排出が抑制され環境負荷を低減した運転が可能である。
【0042】
<<実施形態3>>
実施形態3は、第1の多糖類吸着処理装置14に活性炭を用い、実施形態2とは異なる再生条件で第1の多糖類吸着処理装置14を運転した例を示したものである。
具体的には、実施形態3は実施形態2の対照例であり、活性炭単位重量当りの洗浄水量を、実施形態2で用いた洗浄水量の半分にしたものである。
【0043】
図3に実施形態3の第1の多糖類吸着処理装置14に活性炭を用いた運転結果を示す。図3において、横軸は活性炭からなる第1の多糖類吸着処理装置14に原水の前処理水121を通水して活性炭の吸着処理を行った運転時間、縦軸は図1の水質分析用サンプル水140のTEP濃度(TEP除去率相対値)を示している。
【0044】
本実施形態(本発明)のシステムの制御には、水質分析用サンプル水140を用いたTEP分析値に基づいてTEP除去率相対値を用いるのが妥当である。何故なら、海水12中のTEP濃度が日々刻々ないし時々刻々変化しており、絶対値を用いた制御ではTEP除去量とTEP除去率とで乖離が生じ、制御が困難なためである。例えば、TEP除去を正常な範囲で行っていても、海水12中のTEP濃度が変化するため、TEP除去率が正常範囲を逸脱する場合がある。
【0045】
図3から分るように、吸着1回目から2回目にかけては前の運転時間のTEP除去率相対値と同程度かそれ以上までTEP除去率相対値が上昇し、第1の多糖類吸着処理装置14の活性炭の吸着性能が、TEP除去率相対値の許容値に対し、100%回復したことを示している。しかし、洗浄2回目以降では吸着2回目から3回目、あるいは吸着3回目から4回目と回を重ねるに従ってTEP除去率相対値が低下している。
よって、実施形態3で採用した実施形態2の洗浄水量の半分を用いる洗浄条件は、活性炭の再生条件として不十分であることを示している。
【0046】
<<実施形態4>>
実施形態4は、実施形態1で説明した第1の多糖類吸着処理装置14の吸着材に活性炭を用い、吸着材を繰り返し使用するための洗浄水の流量と流速の影響を示したものである。
図4は、実施形態4の結果を示したものであり、第1の多糖類吸着処理装置14である活性炭吸着処理装置での活性炭単位重量当りの洗浄水量とTEP除去率低下比との関係を示す。TEP除去率低下比とは、初期(基準)のTEP除去率に対する低下したTEP除去率の割合である。
【0047】
条件A、BおよびCは、第1の多糖類吸着処理装置14の活性炭の吸着層内の洗浄水流速を一定とした場合に条件Aから条件B、さらに条件Cの順に洗浄時の総水量を多くした。その結果、条件Cの最大の総水量の条件でTEP除去率が洗浄前と洗浄後で一定となる、即ち完全に活性炭のTEP吸着性能が回復した(図4に示すTEP除去率低下比が0)。
同一の総水量において吸着層内での洗浄水流速(線速度LV)を上昇させた場合の効果を比較した結果が条件Aと条件D、条件Bと条件Eの点、および条件Cと条件Fの点である。
【0048】
条件Aと条件Dの相違は吸着層中洗浄水の線速度が1:1.5の違いにある。
条件Bと条件Eの相違も同一であり、条件Cと条件Fの相違も同一である。
図4から分るように、条件A、B、Cに対して、同一の総水量かつ線速度が1:1.5の条件D、E、Fは、それぞれ条件A、B、Cに比較してTEP除去率低下比が改善している。すなわち、洗浄水の線速度を高めることによってTEP除去率低下比が改善することが分る。
【0049】
換言すれば、洗浄水流量が低くても洗浄水流速(線速度LV)を高めることによって、活性炭に吸着したTEPが脱離し易くなる。
そこで、洗浄水による洗浄条件は、洗浄水の流量と流速とを含めて決定するとよい。加えて、洗浄水による洗浄条件を第1の多糖類吸着処理装置14の洗浄が行え、かつ、エネルギ消費が最小の条件で設定することが望ましい。第2の多糖類吸着処理装置16も、同様である。
【0050】
このように、本実施形態4の構成を採ることでRO膜(逆浸透膜)の汚染を低減する結果、RO膜の洗浄頻度を低減し、RO膜の交換までの膜の使用期間を延伸できる。
また、運転効率が向上するため、運転コストを低減でき、さらに環境負荷を低減した運転が可能である。
【0051】
<<実施形態5>>
実施形態5は、実施形態1で説明した第1の多糖類吸着処理装置14の吸着材として天然ゼオライトを用いた場合である。
実施形態5で用いた天然ゼオライトはSiO70%、Al 12%、Fe 1.5%、CaO 3%などの組成比からなり、モルデナイト系結晶構造を有する。粒径は3〜5mmの粒径である。
【0052】
図5に、実施形態5の天然ゼオライトによる多糖類(TEP)除去率(%)と吸着時の空塔速度(SV:Space Velocity)の関係を示す。
なお、空塔速度SVは、次式で表される。
SV=Q/V
ここで、Q:前処理水121の流量(m/h)
V:第1の多糖類吸着処理装置14の天然ゼオライトの体積(m)
【0053】
図5に示すように、天然ゼオライトによるTEP除去率はSV値に対して反比例の関係が成立する。すなわち、TEP除去率が高いほどSV値が小さく、TEP除去率が低いほどSV値が大きい。
この関係は実施形態2〜4に示した第1の多糖類吸着処理装置14の活性炭の性質と酷似している。
【0054】
図5の関係から、SV値を適宜選択することで、天然ゼオライトのTEP除去率を上昇させることが可能である。例えば、SV値を低値に選択し、前処理水121の流量Qを減少させることで、第1の多糖類吸着処理装置14の天然ゼオライトのTEP除去率を上昇させることができる。
【0055】
このように、本実施形態5に示すSV値を適宜選択することで、TEP除去率を上昇させ、RO膜(逆浸透膜)の汚染を低減できる。その結果、RO膜の洗浄頻度が低減され、RO膜の交換までの膜の使用期間を延伸できる。
また、運転効率が向上するので、運転コストが低減され、さらには、環境負荷を低減した運転が可能となる。
【0056】
なお、前記実施形態においては、第1・第2の多糖類吸着処理装置14、16を2つ設けた場合を例示したが、単数または3つ以上の多糖類吸着処理装置を設けてもよい。
また、前記実施形態においては、前処理装置120を設ける場合を例示したが、必要に応じて設けなくともよい。
なお、前記実施形態1〜5を個別に説明したが、前記実施形態1〜5の構成を適宜取捨選択して組み合わせて構成してもよい。
【符号の説明】
【0057】
12 海水
14 第1の多糖類吸着処理装置(多糖類吸着処理装置)
15 多糖類吸着処理水(多糖類吸着処理装置後の処理水、多糖類吸着処理装置前の処理水)
16 第2の多糖類吸着処理装置(多糖類吸着処理装置)
17 水質分析装置(多糖類濃度計測装置)
18 逆浸透膜式海水淡水化装置(逆浸透膜処理装置)
19 洗浄水供給装置(洗浄流体供給装置)
20 淡水
120 前処理装置
121 前処理水(前処理装置の処理水、多糖類吸着処理装置前の処理水)
141、161 洗浄水(洗浄流体)
162 多糖類吸着処理水(多糖類吸着処理装置の処理水、多糖類吸着処理装置後の処理水)
170 洗浄信号(洗浄開始および洗浄停止を示す信号、洗浄条件)
171 洗浄条件演算装置(洗浄条件演算手段、洗浄制御手段)
172 演算結果(洗浄信号)
D TEP除去率相対値の許容値(目標多糖類除去度)
S 海水淡水化処理システム(海水淡水化システム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を逆浸透膜を用いて淡水化する海水淡水化システムであって、
前記海水に含まれる多糖類を低減する多糖類吸着処理装置と、
前記多糖類吸着処理装置の処理水を逆浸透膜で淡水化する逆浸透膜処理装置と、
前記多糖類吸着処理装置の多糖類吸着材を洗浄流体で洗浄する洗浄流体供給装置と、
前記多糖類吸着処理装置前後の処理水の多糖類濃度を計測する多糖類濃度計測装置と、
前記多糖類吸着処理装置前後の処理水の多糖類濃度の計測値とあらかじめ与えた目標多糖類除去度に基づいて前記多糖類吸着処理装置の操作量を判定して当該多糖類吸着処理装置の洗浄情報を出力する洗浄条件演算手段とを
備えたことを特徴とする海水淡水化システム。
【請求項2】
請求項1に記載の海水淡水化システムにおいて、
前記海水の混入物を除去する前処理を行う前処理装置を備え、
前記多糖類吸着処理装置は、前記前処理装置の処理水に含まれる多糖類を低減する
ことを特徴とする海水淡水化システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の海水淡水化システムにおいて、
前記洗浄情報により、前記多糖類吸着処理装置の多糖類吸着材の洗浄開始および洗浄停止を示す信号を前記洗浄流体供給装置に出力するとともに、
前記多糖類吸着処理装置前後の海水中の多糖類濃度計測値とあらかじめ与えた目標多糖類除去度に基づいて、前記多糖類吸着材を洗浄する洗浄流体量を含む洗浄条件を演算して当該洗浄条件を示す信号を前記洗浄流体供給装置に出力する洗浄制御手段を
備えたことを特徴とする海水淡水化システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちの何れか一項に記載の海水淡水化システムにおいて、
前記多糖類吸着処理装置の洗浄時、当該多糖類吸着処理装置の使用を停止し、他の多糖類吸着処理装置を用いる
ことを特徴とする海水淡水化システム。
【請求項5】
請求項3に記載の海水淡水化システムにおいて、
前記洗浄条件は、前記洗浄流体の流速と流量とを含む
ことを特徴とする海水淡水化システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちの何れか一項に記載の海水淡水化システムにおいて、
前記多糖類吸着処理装置は、多糖類の粒子の大きさが大きい方から小さい順に吸着処理を行う2段以上の異なる多糖類吸着処理装置によって構成される
ことを特徴とする海水淡水化システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちの何れか一項に記載の海水淡水化システムにおいて、
前記多糖類吸着処理装置は、活性炭、天然ゼオライト、合成ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、および多孔質粘土鉱物のうちの何れかを用いる
ことを特徴とする海水淡水化システム。
【請求項8】
海水を逆浸透膜を用いて淡水化する海水淡水化方法であって、
前記海水に含まれる多糖類を多糖類吸着処理装置で低減する多糖類吸着処理過程と、
前記多糖類吸着処理過程前後の処理水の多糖類濃度を計測する多糖類濃度計測過程と、
前記多糖類吸着処理過程前後の処理水の多糖類濃度の計測値とあらかじめ与えた目標多糖類除去度に基づいて前記多糖類吸着処理過程の操作量を判定して当該多糖類吸着処理装置の洗浄情報を出力する洗浄条件演算過程と、
前記洗浄情報に基づき、洗浄流体供給装置により前記多糖類吸着処理装置の多糖類吸着材を洗浄流体で洗浄する洗浄過程とを
含んで成る海水淡水化方法。
【請求項9】
請求項8に記載の海水淡水化方法において、
前記海水の混入物を除去する前処理を行う前処理過程を含み、
前記多糖類吸着処理過程において、前記前処理過程後の処理水に含まれる多糖類を低減する
ことを特徴とする海水淡水化方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の海水淡水化方法において、
前記洗浄条件演算過程で出力された洗浄情報により、
前記多糖類吸着処理装置の多糖類吸着材の洗浄開始および洗浄停止を示す信号を前記洗浄流体供給装置に出力するとともに、
前記多糖類吸着処理過程前後の海水中の多糖類濃度計測値とあらかじめ与えた目標多糖類除去度に基づいて、前記多糖類吸着材を洗浄する洗浄流体量を含む洗浄条件を演算して当該洗浄条件を示す信号を前記洗浄流体供給装置に出力する洗浄制御過程を
含むことを特徴とする海水淡水化方法。
【請求項11】
請求項8から請求項10のうちの何れか一項に記載の海水淡水化方法において、
前記多糖類吸着処理装置の洗浄時、当該多糖類吸着処理装置の使用を停止し、他の多糖類吸着処理装置を用いる
ことを特徴とする海水淡水化方法。
【請求項12】
請求項10に記載の海水淡水化方法において、
前記洗浄条件は、前記洗浄流体の流速と流量とを含む
ことを特徴とする海水淡水化方法。
【請求項13】
請求項8から請求項12のうちの何れか一項に記載の海水淡水化方法において、
前記多糖類吸着処理過程は、多糖類の粒子の大きさが大きい方から小さい順に吸着処理を行う2段以上の異なる多糖類吸着処理装置が用いられる
ことを特徴とする海水淡水化方法。
【請求項14】
請求項8から請求項13のうちの何れか一項に記載の海水淡水化方法において、
前記多糖類吸着処理装置は、活性炭、天然ゼオライト、合成ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、および多孔質粘土鉱物のうちの何れかを用いる
ことを特徴とする海水淡水化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−13863(P2013−13863A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149065(P2011−149065)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】