説明

海水淡水化装置およびその制御方法

【課題】2段RO海水淡水化プロセスにおいて、適切な運転条件を設定し、電力量を削減する海水淡水化装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】海水を透過水と濃縮水とに分離する高圧RO膜ろ過器4と、高圧ポンプP1と、動力回収装置5と、動力回収装置から排出される濃縮水の流量を調整する調整弁V5と、該濃縮水の流量を測定する第1の流量計Q1と、高圧逆浸透膜透過水を透過水と濃縮水とに分離する低圧RO膜ろ過器7と、低圧ポンプP2と、低圧RO膜ろ過器から排出される濃縮水の流量を調整する調整弁V6と、該濃縮水の流量を測定する第2の流量計Q2と、高圧RO膜ろ過器へ供給される海水の水温を計測する温度計21と、高圧RO膜ろ過器へ供給される海水の電気伝導率を計測する電気伝導度計22と、計測した海水の温度と電気伝導率と2つの流量とに基づいて2つの調整弁V5,V6の弁開度をそれぞれ調整する制御部11,12と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、逆浸透膜を用いて海水を淡水化処理するプラントにおいて、運転条件を所望の値に制御し、消費電力量を抑制する海水淡水化装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に水問題が深刻化するなかで水ビジネスを巨大市場と捉えた世界規模でのビジネス競争が加速している。河川などの表流水や地下水を水源として持たない中東諸国や、国内でも渇水リスクの高い地域では、水源確保のために海水淡水化技術を導入し、大型の海水淡水化プラントを建設している。これまでの海水淡水化技術は、海水を加熱・蒸発後に凝縮・回収する蒸発法が主流であったが、近年は経済性の観点から逆浸透膜(以下、RO膜)を用いた方式が拡大しつつある。
【0003】
RO膜による海水淡水化プラントのランニングコスト(円/m3)のうち、電力費(動力費)が50%以上を占める。そのため、運用・制御で改善可能なランニングコストで競争力を持つには、特に動力費を削減することが重要である。近時、例えば特許文献1および2に記載された装置では、高圧ポンプの動力を高効率で回収する動力回収装置を設置することが一般的となってきている。動力用消費エネルギー(電力量)を大幅に改善できる動力回収装置の効率は、運転点により変動するため、より効率的な運転点を常に実現する動力回収制御が求められている。また、水温や塩分濃度などの変動要因がRO膜の透過特性に影響を与えることも効率的な運転の実現を難しくする一因である。
【0004】
しかしながら、多くのプラントでは運転当初に決定した固定条件の運転であり、消費電力を限界まで削減できないのと同時に、運転条件をオンラインで最適に変更するために必要なセンサや制御方法が備わっていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−279472号公報
【特許文献2】特開2009−154070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的な2段RO膜を用いた海水淡水化システムは、高圧ポンプ、高圧RO膜、動力回収装置、高圧回収率制御弁、調整水槽、低圧ポンプ、低圧RO膜、低圧回収率制御弁などから構成される。
【0007】
取水された海水は、水質に応じて適当な前処理が行われ、高圧ポンプおよび動力回収装置へ送水される。高圧ポンプは前処理の施された海水を高圧な状態まで昇圧して高圧RO膜へ送水する。RO膜は、海水に含まれる塩分を除去し、透過水として淡水を生成する。除去した塩分は淡水化されなかった水とともに濃縮水として動力回収装置へ送水される。このとき、高圧RO濃縮水はRO膜入口圧力と同程度の圧力であるため、動力回収装置は、高圧RO濃縮水の持つ圧力(動力)を回収し、送水された海水へ伝達する。回収した動力により昇圧された海水は、高圧ポンプにより送水された海水とともに、高圧RO膜へ送水される。
【0008】
高圧RO膜透過水よりも純水に近い水質が生産水として望まれる場合、さらに低圧RO膜を透過させることで、高圧RO膜透過水に含まれる微量の塩分を除去する。その際、除去した塩分と除去されなかった水は低圧RO濃縮水として前処理された海水と混ぜられる。
【0009】
一般に、RO膜へ入る供給水量に対する透過水量の比率を膜の回収率と呼ぶ。透過水量を一定とした場合、膜の回収率を上昇させることで供給水量を減少させることができるが、膜の入口圧が上昇する。膜を透過させる高圧ポンプや低圧ポンプの消費電力量は供給水量と膜入口圧の積に比例するため、単位透過水量当たりの消費電力量と膜の回収率との間には図9に示すような関係がある。
【0010】
図9の特性線Aに示すように、消費電力量を最小とする運転点O1は存在するが、水温や塩分濃度といった海水性状の変動により、膜の透過特性に対応する特性線(A→B→C)が変化するため、最小消費電力量Wminのときの運転点(O1→O2→O3)および回収率(R1→R2→R3)も変化する。
【0011】
また、表1に示すように、膜の回収率、水温、塩分濃度の変化により、透過水の塩分濃度も変化するため、制約条件となる透過水の塩分濃度基準などの水質を満たすように運転条件を考慮する必要がある。
【表1】

【0012】
しかし、従来の海水淡水化装置においては、膜の回収率を一定にする回収率一定運転を行うため、水温や塩分濃度などの海水性状が変動すると消費電力量が増加することがあり、消費電力量を限界まで削減することができないでいた。
【0013】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであって、2段RO膜ろ過方式の海水淡水化システムにおいて、適切な運転条件を設定し、電力量を削減する海水淡水化装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る海水淡水化装置は、海水を透過水と濃縮水とに分離する高圧逆浸透膜モジュールと、前記高圧逆浸透膜モジュールに海水を供給する高圧ポンプと、海水と前記高圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水とがそれぞれ供給され、前記濃縮水から回収した圧力エネルギーにより前記海水を高圧で送水する一方で、前記濃縮水を低圧で排出する動力回収装置と、前記動力回収装置から排出される濃縮水の流量を調整する高圧逆浸透膜回収率調整弁と、前記動力回収装置から排出される濃縮水の流量を測定する第1の流量計と、前記高圧逆浸透膜透過水を透過水と濃縮水とに分離する低圧逆浸透膜モジュールと、前記低圧逆浸透膜モジュールに前記高圧逆浸透膜透過水を供給する低圧ポンプと、前記低圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水の流量を調整する低圧逆浸透膜回収率調整弁と、前記低圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水の流量を測定する第2の流量計と、前記高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水の水温を計測する温度計と、前記高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水の電気伝導率を計測する電気伝導度計と、前記温度計で計測した海水の温度と前記電気伝導度計で計測した海水の電気伝導率と前記第1及び第2の流量計でそれぞれ測定した流量とに基づいて、前記高圧ポンプおよび前記低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制されるように、前記高圧逆浸透膜回収率調整弁および前記低圧逆浸透膜回収率調整弁の弁開度をそれぞれ調整する制御部と、を具備することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る海水淡水化装置の制御方法は、(a)高圧ポンプ、動力回収装置及び高圧逆浸透膜回収率調整弁にそれぞれ接続された少なくとも1つの高圧逆浸透膜モジュールと低圧ポンプ及び低圧逆浸透膜回収率調整弁にそれぞれ接続された少なくとも1つの低圧逆浸透膜モジュールとを有する海水淡水化装置を運転するための初期運転条件を設定し、(b)前記初期運転条件により前記高圧ポンプ、動力回収装置、高圧逆浸透膜回収率調整弁、低圧ポンプ及び低圧逆浸透膜回収率調整弁の各々を動作させる間に、前記動力回収装置から排出される濃縮水の流量を測定し、かつ前記低圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水の流量を測定し、かつ前記高圧逆浸透膜モジュールより上流側の海水の温度および電気伝導率をそれぞれ測定し、(c)測定した動力回収装置排出濃縮水の流量、低圧逆浸透膜モジュール排出濃縮水の流量、海水の温度および電気伝導率に基づいて前記高圧ポンプおよび低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制される最適の運転点をもつ最適運転条件を求め、前記初期運転条件から前記最適運転条件に設定を変更し、(d)前記最適運転条件を用いて前記海水淡水化装置を運転する際に、前記高圧逆浸透膜回収率調整弁および低圧逆浸透膜回収率調整弁の弁開度をそれぞれ調整する、ことを特徴とする。
【0016】
以下に、本明細書中において重要な用語を定義する。
【0017】
「膜供給水量」とは、ポンプから逆浸透膜モジュールに圧力をかけて供給される水量をいう。
【0018】
「膜入口圧力」とは、逆浸透膜モジュールの外装容器の入口部分に負荷される水の圧力をいう。
【0019】
「膜の回収率」とは、逆浸透膜モジュールに入る供給水量(膜供給水量)に対する透過水量の比を百分率で表わした指数をいう。
【0020】
「単位生産水量」とは、単位体積の海水または単位体積の逆浸透膜透過水または単位体積の海水/逆浸透膜透過水の混合水が逆浸透膜を透過した透過水の量をいう。
【0021】
「単位生産水量当たりの消費電力量」とは、単位生産水量を得るために駆動されるポンプで消費される電力量をいう。単位はkWh/m3である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態に係る海水淡水化装置を示す構成ブロック図。
【図2】第2の実施形態に係る海水淡水化装置を示す構成ブロック図。
【図3】第3の実施形態に係る海水淡水化装置を示す構成ブロック図。
【図4】第4の実施形態に係る海水淡水化装置を示す構成ブロック図。
【図5】第5の実施形態に係る海水淡水化装置を示す構成ブロック図。
【図6】第6の実施形態に係る海水淡水化装置を示す構成ブロック図。
【図7】第7の実施形態に係る海水淡水化装置を示す構成ブロック図。
【図8】第8の実施形態に係る海水淡水化装置を示す構成ブロック図。
【図9】単位生産水量当たりの消費電力量と膜の回収率との関係を示す特性線図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0024】
(1)本実施形態の海水淡水化装置は、海水を透過水と濃縮水とに分離する高圧逆浸透膜モジュール(4)と、前記高圧逆浸透膜モジュールに海水を供給する高圧ポンプ(P1)と、海水と前記高圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水とがそれぞれ供給され、前記濃縮水から回収した圧力エネルギーにより前記海水を高圧で送水する一方で、前記濃縮水を低圧で排出する動力回収装置(5)と、前記動力回収装置から排出される濃縮水の流量を調整する高圧逆浸透膜回収率調整弁(V5)と、前記動力回収装置から排出される濃縮水の流量を測定する第1の流量計(Q1)と、前記高圧逆浸透膜透過水を透過水と濃縮水とに分離する低圧逆浸透膜モジュール(7)と、前記低圧逆浸透膜モジュールに前記高圧逆浸透膜透過水を供給する低圧ポンプ(P2)と、前記低圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水の流量を調整する低圧逆浸透膜回収率調整弁(V6)と、前記低圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水の流量を測定する第2の流量計(Q2)と、前記高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水の水温を計測する温度計(21)と、前記高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水の電気伝導率を計測する電気伝導度計(22)と、前記温度計で計測した海水の温度と前記電気伝導度計で計測した電気伝導率と前記第1及び第2の流量計でそれぞれ測定した流量とに基づいて、前記高圧ポンプおよび前記低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制されるように、前記高圧逆浸透膜回収率調整弁および前記低圧逆浸透膜回収率調整弁の弁開度をそれぞれ調整する制御部(11,12)と、を有する。
【0025】
本実施形態によれば、制御部が、温度計で計測した海水の温度と電気伝導度計で計測した海水の電気伝導率と第1及び第2の流量計でそれぞれ測定した流量とに基づいて高圧逆浸透膜回収率調整弁および低圧逆浸透膜回収率調整弁の弁開度をそれぞれ調整しているので、高圧ポンプおよび低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制され、膜の回収率を実質的に低下させることなく低コストの運転を実現できる。
【0026】
(2)上記(1)の装置において、さらに前記高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率を計測するための第2の電気伝導度計を有することが好ましい(図2)。本実施形態では、制御部は、第2の電気伝導度計により計測した高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率および電気伝導度計により計測した海水の電気伝導率に基づいて高圧逆浸透膜の状態を把握することができる。このように高圧逆浸透膜の状態を把握することにより、膜の逆洗浄を適正な時期に実施でき、また高圧逆浸透膜におけるファウリングの発生を未然に防止できるので、運転コストおよびメンテナンスコストをさらに低減することができる。
【0027】
(3)上記(2)の装置において、さらに前記低圧逆浸透膜透過水の電気伝導率を計測するための第3の電気伝導度計を有することが好ましい(図3)。本実施形態では、制御部は、第2の電気伝導度計により計測した高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率および第3の電気伝導度計により計測した低圧逆浸透膜透過水の電気伝導率に基づいて低圧逆浸透膜の状態を把握することができる。このように低圧逆浸透膜の状態を把握することにより、膜の逆洗浄を適正な時期に実施でき、また低圧逆浸透膜におけるファウリングの発生を未然に防止できるので、運転コストおよびメンテナンスコストをさらに低減することができる。
【0028】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1の装置において、さらに調整水槽または低圧ポンプ圧力制御回路のいずれか一方を有することが好ましい。
【0029】
本実施形態では、調整水槽を有する場合に、高圧逆浸透膜モジュールと低圧ポンプとの間に設けられた調整水槽が、高圧逆浸透膜を透過した水を一時的に貯留し、高圧逆浸透膜透過水の圧力を安定化させることができる(図3)。
【0030】
一方、本実施形態では、調整水槽を有しない場合に、低圧ポンプ圧力制御回路は、高圧逆浸透膜透過水の圧力を計測する圧力計と、この圧力計で計測した圧力に基づいて低圧ポンプの駆動を制御するポンプ圧力制御部とを有するものであり、前記ポンプ圧力制御部が圧力計により計測した圧力に基づいて低圧ポンプの駆動を制御し、高圧逆浸透膜透過水の圧力を安定化させることができる(図4)。
【0031】
(5)上記(4)の装置において、さらに高圧逆浸透膜透過水および低圧逆浸透膜透過水のうちの少なくとも一方の温度を計測する第2の温度計を有することが好ましい。(図5)本実施形態では、制御部は、第2の温度計により計測した温度に基づいて高圧逆浸透膜モジュールおよび低圧逆浸透膜モジュールのうちの少なくとも一方の温度特性を補正することができる。
【0032】
(6)上記(5)の装置において、さらに高圧逆浸透膜モジュールへの供給水のpHを計測する第1のpH計と、低圧逆浸透膜モジュールへの供給水のpHを計測する第2のpH計と、を有することが好ましい(図7)。本実施形態では、制御部は、第1及び第2のpH計により計測されたpH計測値に基づいて高圧逆浸透膜透過水および低圧逆浸透膜透過水の浸透圧をそれぞれ精度よく予測することができるので、それらの予測に基づいて高圧ポンプおよび低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量を抑制することができる。
【0033】
(7)上記(6)の装置において、さらに高圧逆浸透膜モジュールよりも上流側の海水にpH調整剤を注入する第1のポンプを有する第1のpH調整剤注入機構と、前記高圧逆浸透膜を透過した透過水にpH調整剤を注入する第2のポンプを有する第2のpH調整剤注入機構と、を有することが好ましい(図8)。本実施形態では、制御部は、第1及び第2のpH計からのpH測定値に基づいて第1及び第2のポンプの駆動をそれぞれ制御し、高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水に対する第1のpH調整剤注入機構からのpH調整剤の注入量を制御するとともに、低圧逆浸透膜モジュールへ供給される高圧逆浸透膜透過水に対する第2のpH調整剤注入機構からのpH調整剤の注入量を制御することができる。
【0034】
(8)上記(1)〜(7)のいずれか1の装置において、さらに前記温度計および前記電気伝導度計の各々から計測信号を受け、これらの計測信号に基づいて前記高圧ポンプおよび前記低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制される運転点をもつ運転条件を求め、求めた運転条件を前記制御部に送る運転条件設定部を有することが好ましい。
【0035】
本実施形態によれば、運転条件設定部は、計測した温度と電気伝導率および所定の算式を用いて最適の運転点(図9)をもつ運転条件を求め、求めた運転条件を制御部に送り、制御部に高圧ポンプおよび低圧ポンプの駆動をそれぞれ制御させる。これにより、高圧ポンプおよび低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制される。
【0036】
(9)本実施形態の海水淡水化装置の制御方法は、(a)高圧ポンプ、動力回収装置及び高圧逆浸透膜回収率調整弁にそれぞれ接続された少なくとも1つの高圧逆浸透膜モジュールと低圧ポンプ及び低圧逆浸透膜回収率調整弁にそれぞれ接続された少なくとも1つの低圧逆浸透膜モジュールとを有する海水淡水化装置を運転するための初期運転条件を設定し、(b)前記初期運転条件により前記高圧ポンプ、動力回収装置、高圧逆浸透膜回収率調整弁、低圧ポンプ及び低圧逆浸透膜回収率調整弁の各々を動作させる間に、前記動力回収装置から排出される濃縮水の流量を測定し、かつ前記低圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水の流量を測定し、かつ前記高圧逆浸透膜モジュールより上流側の海水の温度および電気伝導率をそれぞれ測定し、(c)測定した動力回収装置排出濃縮水の流量、低圧逆浸透膜モジュール排出濃縮水の流量、海水の温度および電気伝導率に基づいて前記高圧ポンプおよび低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制される最適の運転点をもつ最適運転条件を求め、前記初期運転条件から前記最適運転条件に設定を変更し、(d)前記最適運転条件を用いて前記海水淡水化装置を運転する際に、前記高圧逆浸透膜回収率調整弁および低圧逆浸透膜回収率調整弁の弁開度をそれぞれ調整する。
【0037】
本実施形態によれば、測定した2つの排出濃縮水の流量と海水の温度と電気伝導率とに基づいて高圧逆浸透膜回収率調整弁および低圧逆浸透膜回収率調整弁の2つの弁開度をそれぞれ調整しているので、高圧ポンプおよび低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量がそれぞれ抑制され、膜の回収率を実質的に低下させることなく低コストの運転を実現できる。
【0038】
(10)上記(9)の方法において、前記(b)工程において、さらに前記高圧逆浸透膜を透過した透過水の電気伝導率を測定し、前記(c)工程において、前記(b)工程で測定した高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率と海水の電気伝導率とに基づいて前記高圧逆浸透膜の状態を把握することが好ましい(図2)。
【0039】
本実施形態によれば、高圧逆浸透膜の状態を把握することにより膜の逆洗浄を適正な時期に実施することができ、高圧逆浸透膜におけるファウリングの発生を未然に防止でき、トータルの運転コストおよびメンテナンスコストを低減することができる。
【0040】
(11)上記(10)の方法において、前記(b)工程において、さらに前記低圧逆浸透膜を透過した透過水の電気伝導率を測定し、前記(c)工程において、前記(b)工程で測定した高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率および低圧逆浸透膜透過水の電気伝導率に基づいて前記低圧逆浸透膜の状態を把握することが好ましい(図3)。
【0041】
本実施形態によれば、さらに低圧逆浸透膜の状態を把握することで低圧側においても膜の逆洗浄を適正な時期に実施することができ、高圧逆浸透膜におけるファウリングの発生を未然に防止でき、トータルの運転コストおよびメンテナンスコストを低減することができる。
【0042】
(12)上記(9)の方法において、前記(b)工程において、前記高圧逆浸透膜モジュールと前記低圧ポンプとの間に設けられた調整水槽に前記高圧逆浸透膜透過水を一時的に貯留し、前記高圧逆浸透膜透過水の圧力を安定化させるか、または、前記高圧逆浸透膜透過水の圧力を計測する圧力計と、この圧力計で計測した圧力に基づいて前記低圧ポンプの駆動を制御するポンプ圧力制御部とを有する低圧ポンプ圧力制御回路において、前記ポンプ圧力制御部が前記圧力計により計測した圧力に基づいて前記低圧ポンプの駆動を制御し、前記高圧逆浸透膜透過水の圧力を安定化させることが好ましい(図3、図4)。
【0043】
本実施形態によれば、調整水槽を無くして低圧ポンプ圧力制御回路を設けた場合は、水が滞留する部分がなくなるので、微生物の繁殖などによる水質の劣化を回避することができる。これに対して、低圧ポンプ圧力制御回路を無くして調整水槽を設けた場合は、ポンプ駆動がなくなるので省エネであり、また、RO膜モジュールなどの機器を保守点検するメンテナンス期間に調整水槽を利用して水抜き作業等を容易にできるという利点がある。
【0044】
(13)上記(12)の方法において、前記(b)工程において、さらに高圧逆浸透膜透過水および低圧逆浸透膜透過水のうちの少なくとも一方の温度を測定し、前記(c)工程において、前記(b)工程で測定した温度に基づいて前記高圧逆浸透膜モジュールおよび低圧逆浸透膜モジュールのうちの少なくとも一方の温度特性を補正することが好ましい(図5)。
【0045】
本実施形態によれば、測定した温度に基づいて高圧逆浸透膜モジュールおよび低圧逆浸透膜モジュールのうちの少なくとも一方の温度特性を補正することができるので、高圧ポンプおよび低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量をさらに高精度に抑制することができる。
【0046】
(14)上記(9)の方法において、前記(b)工程において、さらに前記高圧逆浸透膜モジュールへの供給水のpHを測定するとともに、前記低圧逆浸透膜モジュールへの供給水のpHを測定し、前記(c)工程において、前記(b)工程で測定したpH計測値に基づいて前記高圧逆浸透膜透過水および低圧逆浸透膜透過水の浸透圧を精度よく予測することが好ましい(図7)。
【0047】
本実施形態によれば、第1及び第2のpH計により計測されたpH計測値に基づいて高圧逆浸透膜透過水および低圧逆浸透膜透過水の浸透圧をそれぞれ精度よく予測することができるので、それらの予測に基づいて高圧ポンプおよび低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量を抑制することができる。
【0048】
(15)上記(14)の方法において、前記(b)工程において、さらに前記高圧逆浸透膜モジュールよりも上流側の海水にpH調整剤を注入するとともに、前記高圧逆浸透膜を透過した透過水にpH調整剤を注入し、前記(c)工程において、前記(b)工程で測定したpH測定値に基づいて前記高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水に対するpH調整剤の注入量を制御するとともに、前記低圧逆浸透膜モジュールへ供給される高圧逆浸透膜透過水に対するpH調整剤の注入量を制御することが好ましい(図8)。
【0049】
本実施形態によれば、2つのpH測定値に基づいて高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水に対するpH調整剤の注入量を制御するとともに、低圧逆浸透膜モジュールへ供給される高圧逆浸透膜透過水に対するpH調整剤の注入量を制御することができる。
【0050】
以下、添付の図面を参照して本発明の種々の実施の形態を具体的に説明する。
【0051】
先ず対象とするプロセスの概要について、図1を用いて説明する。
【0052】
対象プロセスを実施するための海水淡水化装置1は、高圧ポンプP1、高圧RO膜モジュール4、動力回収装置5、高圧RO膜回収率調整弁V5、調整水槽6、低圧ポンプP2、低圧RO膜モジュール7、低圧RO膜回収率調整弁V6および図示しないバルブやセンサ類などの多くの周辺機器を備えている。また、海水淡水化装置1は、高圧ポンプP1よりも上流側に海水取水装置2、前処理装置3、温度計21および電気伝導度計22を有している。
【0053】
海水取水装置2により取水された海水は、前処理装置3で水質に応じて適当な前処理が行われ、高圧ポンプP1および動力回収装置5へ送水される。高圧ポンプP1は前処理の施された海水を6MPa程度の高圧の状態まで昇圧して高圧RO膜モジュール4へ送水する。RO膜は、海水に含まれる塩分を除去し、透過水として淡水を生成する。除去した塩分は淡水化されなかった水とともに濃縮水として動力回収装置4へ送水される。このとき、高圧RO濃縮水は逆浸透膜入口圧力と同程度の圧力であるため、動力回収装置5は、高圧RO濃縮水の持つ圧力(動力)を回収し、送水された海水へ伝達する。回収した動力により昇圧された海水は、高圧ポンプP1により送水された海水とともに、高圧RO膜モジュール4へ送られる。
【0054】
高圧RO膜透過水よりも純水に近い水質が生産水として望まれる場合、さらに低圧RO膜モジュール7に透過させることで高圧RO膜透過水中に含まれる微量の塩分やホウ素を分離除去する。低圧RO濃縮水(除去した塩分・ホウ素を含む水)は、リターンラインL8を通って低圧RO膜モジュール7から前処理水ラインL2まで戻され、前処理された海水に混ぜられる。
【0055】
海水淡水化装置1は、上記プロセスにおいて最終的な生産水量と水質を満足させることが求められる。これらの制約条件のもとで、膜の回収率を操作し、消費電力量を抑制することを考える。以下、高圧RO膜を例にとって考える。RO膜の透過水量Qp(m3/day)は下式(1)の関係を満たす。
【数1】

【0056】
但し、ΔP(MPa)は膜に作用する圧力、Δπ(MPa)は膜面の浸透圧、A(m3/day/MPa)は膜固有の水の透過係数である。
【0057】
また、膜面浸透圧Δπ(MPa)は、水温と塩分濃度に依存し、下式(2)の関係を満たす。
【数2】

【0058】
但し、Cfは海水の塩分濃度(mg/L)、tは水温(℃)、Rは膜の回収率、k1は比例定数である。
【0059】
また、高圧ポンプの消費電力W(kW)は、ΔP,Qp、ポンプ効率ηを用いて下式(3)で与えられる。
【数3】

【0060】
つまり、変動要因(外乱)である塩分濃度や水温の変動に応じて、膜の回収率Rを操作することで、単位生産水量当たりの消費電力量Wを操作することができる。また、濃縮水の量はQp*R/(1-R)で与えられるため、膜の透過水量Qpが決まれば、膜の回収率Rに応じて弁開度の制御目標値が決まる。
【0061】
海水淡水化装置の実際の運転では、表1と図9に示すように変動要因(外乱)の影響を受けて膜の回収率Rが時々刻々様々に変化している。ちなみに、従来のプロセスでは膜の回収率Rを一定値とする回収率一定運転制御を行っているため、外乱が入るとポンプの消費電力Wが増減する。つまり、従来プロセスでは、アウトプットとなる膜の回収率Rを常時監視し、膜の回収率Rが一定値に保たれるように運転制御しているために、結果として単位生産水量当たりの消費電力量が増加することがあってもそれを無視して運転を続ける。これに対して、本実施形態のプロセスでは、膜の回収率Rを複数ある変数パラメータのうちの1つとしてとらえ、外乱による膜の回収率Rの変動に応じて弁開度の制御目標値を上記のように決定し、その制御目標値の弁開度となるように運転制御するので、単位生産水量当たりの消費電力量を限界まで低減することが可能になる。
【0062】
(第1の実施形態)
次に図1を参照して第1の実施形態の海水淡水化装置の構成を説明する。
【0063】
第1の実施形態の海水淡水化装置1は、海水をろ過する逆浸透膜プロセスを行う高圧・低圧の2段のRO膜モジュール4,7を含むシステムであって、主要なラインL1,L2,L3,L4,L5に沿って上流側から順に直列に配設された海水取水装置2、前処理装置3、高圧ポンプP1、高圧RO膜モジュール4、調整水槽6、低圧ポンプP2、低圧RO膜モジュール7および生産水貯槽8を備えている。
【0064】
2段のRO膜モジュールのうち高圧側の高圧RO膜モジュール4には動力回収装置5が取り付けられている。動力回収装置5は、複数の切替弁V1〜V4により水の出入りを切り替えられる上下2段のシリンダ/ピストン機構を内蔵している。動力回収装置5の高圧入口側は高圧ラインL6を介して高圧RO膜モジュール4の一次側スペースに接続され、動力回収装置5の高圧出口側は高圧ラインL22を介して高圧ラインL2(高圧ポンプP1より下流側のライン)に接続されている。また、動力回収装置5の低圧入口側は低圧分岐ラインL21を介して低圧ラインL2(高圧ポンプP1より上流側のライン)に接続され、動力回収装置5の低圧出口側はドレインラインL7を介して濃縮海水槽9に接続されている。
【0065】
動力回収装置5では、切替弁V1〜V4により上下段のシリンダ/ピストン機構は圧力伝達もしくは排水のどちらかの機能を交互に担うため、上下段のピストン部は同方向に動くことはない。高圧側、低圧側の流量が適切である場合、上段ピストン部がシリンダ左端に到着するタイミングと下段ピストン部がシリンダ右端に到着するタイミングとがぴったりと一致し、上下段のピストンは無駄なく圧力伝達と排水の役割を切り替えることができるようになっている。
【0066】
このような動力回収装置5を動作させると、先ず高圧RO膜モジュール4からの濃縮海水(ブライン)をシリンダ内に導入してピストンを押し、シリンダから海水(前処理水)を押し出し、高圧ブラインから圧力エネルギーを回収し、最終的には圧力エネルギー回収後のブラインがドレインラインL7を介して濃縮海水槽9へ排出される。
【0067】
ドレインラインL7には高圧逆浸透膜回収率調整弁V5が取り付けられている。高圧逆浸透膜回収率調整弁V5は、制御部11により弁体の開閉動作が制御される流量調整弁であり、制御部11からの制御信号S6を受け、動力回収装置5から濃縮水槽9に排出される濃縮水の流量を高精度に調整するものである。
【0068】
また、ドレインラインL7には、上述の調整弁V5よりも下流側に第1の流量計Q1が取り付けられている。第1の流量計Q1は、動力回収装置5から濃縮水槽9に排出される濃縮水の流量を測定し、流量測定信号S5を制御部11に送るようになっている。
【0069】
低圧RO膜モジュール7は、入口がラインL4を介して高圧RO膜モジュール4の二次側スペースに接続され、出口がリターンラインL8を介して高圧ポンプP1より上流側のラインL2に接続されている。高圧RO膜モジュール4のRO膜を透過した透過水は、低圧ポンプP2の駆動によりラインL4を通流し、調整水槽6を経由して入口から低圧RO膜モジュール7の一次側スペースに入り、低圧RO膜を透過した透過水が生産水としてラインL5を通って生産水貯槽8に送られる一方で、低圧RO膜を透過しない濃縮水がリターンラインL8を通って高圧ポンプP1より上流側のラインL2に戻され、濃縮水が前処理された海水と合流するようになっている。
【0070】
リターンラインL8には低圧逆浸透膜回収率調整弁V6が取り付けられている。低圧逆浸透膜回収率調整弁V6は、制御部12により弁体の開閉動作が制御される流量調整弁であり、制御部12からの制御信号S8を受け、低圧RO膜モジュール7から排出される濃縮水の流量を高精度に調整するものである。
【0071】
また、濃縮水リターンラインL8には、上述の調整弁V6よりも下流側に第2の流量センサQ2が取り付けられ、低圧RO膜を透過しない濃縮水の流量を測定し、流量測定信号S7を制御部12に送るようになっている。
【0072】
高圧ポンプP1より上流側のラインL2には温度計21および電気伝導度計22がそれぞれ取り付けられている。温度計12は、ラインL2を流れる海水(前処理された海水、または前処理された海水と低圧RO膜濃縮水との混合水)の温度を測定し、温度測定信号S1を運転条件設定部13に送るようになっている。また、電気伝導度計22は、ラインL2を流れる海水の電気伝導率を測定し、電気伝導率測定信号S2を運転条件設定部13に送るようになっている。
【0073】
運転条件設定部13は、海水淡水化プロセスに関する各種のデータや数式および過去の運転実績データを呼び出し可能に記録保存しておくデータベースを有しており、測定信号S1,S2が入力されると、上記数式(1)〜(3)などを用いて単位生産水当たりの消費電力量Wが最小になる最適運転条件を求め、運転開始時に設定した初期運転条件から最適運転条件に切替え設定し、設定した最適運転条件に対応する制御信号S3,S4を第1及び第2の制御部11,12にそれぞれ送るようになっている。運転条件設定部13のデータベースは、例えば、高圧ポンプP1の消費電力量と膜供給水量と膜入口圧力との関係を示す相関データ、低圧ポンプP2の消費電力量と膜供給水量と膜入口圧力との関係を示す相関データ、海水の温度と溶質濃度との関係を示す相関データ、海水の電気伝導率と溶質濃度との関係を示す相関データなどを保存している。
【0074】
第1の制御部11は、運転条件設定部13からの制御信号(最適運転条件設定信号)S3と第1の流量計Q1からの流量測定信号S5がともに入力されると、それらに基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする高圧逆浸透膜回収率調整弁V5の弁開度の制御量を求め、調整弁V5の電源回路に制御信号S6を送り、調整弁V5の弁開度を調整するようになっている。
【0075】
また、第2の制御部12は、運転条件設定部13からの制御信号(最適運転条件設定信号)S4と第2の流量計Q2からの流量測定信号S7がともに入力されると、それらに基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする低圧逆浸透膜回収率調整弁V6の弁開度の制御量を求め、調整弁V6の電源回路に制御信号S8を送り、調整弁V6の弁開度を調整するようになっている。
【0076】
本実施形態の作用を説明する。
【0077】
海水取水装置2で取水された海水は、水質に応じて前処理装置3で適当な前処理が行われ、高圧ポンプP1および動力回収装置5へ送水される。高圧ポンプP1は受水した前処理水を高圧な状態(例えば、6MPa)まで昇圧して高圧RO膜モジュール4へ送水する。海水淡水化装置では、生産水(淡水)を得るためにRO膜へ海水中の塩分が持つ浸透圧以上の圧力で送水する。生産水量は高圧ポンプP1の性能に大きく依存している。生産水量(膜の回収率R)を増加させるとともにポンプの消費電力量Wを抑えるには、例えば高圧ポンプP1の回転数をPID制御することが好ましい。
【0078】
高圧RO膜モジュール4内のRO膜は、前処理水に含まれる塩分を分離し、生産水(淡水)を透過させる。膜分離した塩分は淡水化されなかった水とともに濃縮海水(ブライン)として動力回収装置5へ送水される。このとき、濃縮海水は逆浸透膜入口圧力と同程度の圧力(例えば、5.8MPa)であるため、動力回収装置5では、濃縮海水の持つ圧力(動力)を回収し、送水された前処理水を逆浸透膜入口圧力(例えば、6MPa)まで昇圧する。回収した動力により高圧となった前処理水は、高圧ポンプP1により送水された前処理水とともに、高圧RO膜モジュール4へ送水される。圧力を失った濃縮海水は動力回収装置5からドレインラインL7を通って濃縮海水貯槽9へ排出される。ドレインラインL7の末端側は大気開放された状態にある。高圧逆浸透膜回収率調整弁V5によりラインL7を流れる濃縮海水の排出流量が調整される。
【0079】
高圧RO膜モジュール4における膜の回収率Rが例えば40%の場合、高圧RO膜モジュール4からは、流入した流量の40%の透過水と、60%の濃縮海水(ブライン)とが排出される。このとき、透過水の圧力は、例えば0.2MPa程度まで低下するが、濃縮海水の圧力は例えば5.8MPaである。高圧RO膜モジュール4からの透過水は低圧ポンプP2へ供給され、濃縮海水は動力回収装置5へ供給される。
【0080】
高圧RO膜を透過した透過水は、低圧ポンプP2で再加圧され、低圧RO膜モジュール7を通過することで、含有ホウ素の除去等が施される。低圧RO膜を透過した透過水(生産水)は、生産水貯槽8に貯留される。
【0081】
第1の流量計Q1がドレインラインL7を流れる濃縮海水の流量を測定し、流量測定信号S5を第1の制御部11に送る。
【0082】
高圧RO膜を透過した透過水は、低圧ポンプP2の駆動によりラインL4を流れ、調整水槽6を経由して入口から低圧RO膜モジュール7の一次側スペースに入り、低圧RO膜を透過した透過水が生産水としてラインL5を通って生産水貯槽8に送られる。一方、低圧RO膜を透過しない濃縮水は、リターンラインL8を通って高圧ポンプP1より上流側のラインL2まで戻され、前処理された海水と合流した後に、高圧ポンプP1により昇圧され、高圧RO膜モジュール4へ送られて膜ろ過される。低圧逆浸透膜回収率調整弁V6によりリターンラインL8を流れる低圧RO膜濃縮水の流量が調整される。
【0083】
第2の流量センサQ2がリターンラインL8を流れる低圧RO膜濃縮水の流量を測定し、流量測定信号S7を第2の制御部12に送る。
【0084】
温度計12がラインL2を流れる海水(前処理された海水、または前処理された海水と低圧RO膜濃縮水との混合水)の温度を測定し、温度測定信号S1を運転条件設定部13に送る。また、電気伝導度計22がラインL2を流れる海水の電気伝導率を測定し、電気伝導率測定信号S2を運転条件設定部13に送る。
【0085】
運転条件設定部13は、信号S1,S2が入力されると、上記数式(1)〜(3)などを用いて単位生産水当たりの消費電力量Wが最小になる最適運転条件を求め、運転開始時に設定した初期運転条件から最適運転条件に切替え設定し、設定した最適運転条件に対応する制御信号S3,S4を第1及び第2の制御部11,12にそれぞれ送る。
【0086】
第1の制御部11は、運転条件設定部13からの制御信号(最適運転条件設定信号)S3と第1の流量計Q1からの流量測定信号S5がともに入力されると、それらの信号S3,S5に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする高圧逆浸透膜回収率調整弁V5の弁開度の制御量を求め、調整弁V5の電源回路に制御信号S6を送り、調整弁V5の弁開度を調整する。
【0087】
また、第2の制御部12は、運転条件設定部13からの制御信号(最適運転条件設定信号)S4と第2の流量計Q2からの流量測定信号S7がともに入力されると、それらの信号S4,S7に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする低圧逆浸透膜回収率調整弁V6の弁開度の制御量を求め、調整弁V6の電源回路に制御信号S8を送り、調整弁V6の弁開度を調整する。
【0088】
本実施形態によれば、測定した2つの排出濃縮水の流量と海水の温度と電気伝導率とに基づいて高圧逆浸透膜回収率調整弁および低圧逆浸透膜回収率調整弁の2つの弁開度をそれぞれ調整しているので、高圧ポンプP1および低圧ポンプP2の単位生産水量当たりの消費電力量Wがそれぞれ抑制され、膜の回収率Rを実質的に低下させることなく低コストの運転を実現することができる。
【0089】
(第2の実施形態)
図2を参照して第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0090】
本実施形態の海水淡水化装置1Aでは、高圧RO膜モジュール4から調整水槽6までの間のラインL3に第2の電気伝導度計23をさらに取り付け、高圧RO膜を透過した透過水の電気伝導率を測定し、その測定信号S9を運転条件設定部13に送るようにしている。なお、第2の電気伝導度計23の取り付け位置は、高圧RO膜モジュール4より下流側でかつ低圧ポンプP2より上流側であればどこでもよいので、調整水槽6から低圧ポンプP2までの間のラインL4に取り付けるようにしてもよく、また調整水槽6のなかに取り付けてもよい。
【0091】
本実施形態の作用を説明する。
【0092】
温度計21からは前処理された海水の温度を測定した温度測定信号S1が、第1の電気伝導度計22からは前処理された海水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S2が、それぞれ運転条件設定部13に送られる。さらに、第2の電気伝導度計23からはラインL3を流れる高圧RO膜透過水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S9が運転条件設定部13に送られる。
【0093】
運転条件設定部13は、入力信号S1,S2,S9に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする2つの調整弁V5,V6の弁開度の制御量をそれぞれ求め、制御信号S3を第1の制御部11に送り、制御信号S4を第2の制御部12に送る。
【0094】
流量計Q1は、ドレインラインL7を通流する濃縮水の流量を測定し、流量測定信号S5を第1の制御部11に送る。
【0095】
第1の制御部11は、信号S3,S5に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V5の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S6を調整弁V5の電源回路に送り、調整弁V5の弁開度を制御する。
【0096】
流量計Q2は、リターンラインL8を通流する低圧RO膜排出濃縮水の流量を測定し、信号S7を第2の制御部12に送る。
【0097】
第2の制御部12は、信号S4,S7に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V6の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S8を調整弁V6の電源回路に送り、調整弁V6の弁開度を制御する。
【0098】
本実施形態によれば、高圧RO膜の透過前後の塩分濃度を測定することができるため、膜の劣化による特性の変化を捉えることができ、海水の水温、塩分濃度に加え、膜の経年劣化にも対応して単位生産水量あたりの消費電力量を抑制する運転を実現することができる。また、高圧RO膜透過水の塩分濃度を既知の膜の特性と海水の塩分濃度、水温から予測する必要がなくなり、予測誤差を抑えることもできる。
【0099】
(第3の実施形態)
図3を参照して第3の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0100】
本実施形態の海水淡水化装置1Bでは、上記装置1Aに、低圧RO膜モジュール7から生産水貯槽8までの間のラインL5に第3の電気伝導度計24をさらに取り付け、低圧RO膜を透過した透過水の電気伝導率を測定し、その測定信号S10を運転条件設定部13に送るようにしている。
【0101】
本実施形態の作用を説明する。
【0102】
温度計21からは前処理された海水の温度を測定した温度測定信号S1が、第1の電気伝導度計22からは前処理された海水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S2が、第2の電気伝導度計23からはラインL3を流れる高圧RO膜透過水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S9がそれぞれ運転条件設定部13に送られる。さらに、第3の電気伝導度計24からはラインL5を流れる低圧RO膜透過水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S10が運転条件設定部13に送られる。
【0103】
運転条件設定部13は、入力信号S1,S2,S9,S10に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする2つの調整弁V5,V6の弁開度の制御量をそれぞれ求め、制御信号S3を第1の制御部11に送り、制御信号S4を第2の制御部12に送る。
【0104】
流量計Q1は、ドレインラインL7を通流する濃縮水の流量を測定し、流量測定信号S5を第1の制御部11に送る。
【0105】
第1の制御部11は、信号S3,S5に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V5の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S6を調整弁V5の電源回路に送り、調整弁V5の弁開度を制御する。
【0106】
流量計Q2は、リターンラインL8を通流する低圧RO膜排出濃縮水の流量を測定し、信号S7を第2の制御部12に送る。
【0107】
第2の制御部12は、信号S4,S7に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V6の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S8を調整弁V6の電源回路に送り、調整弁V6の弁開度を制御する。
【0108】
本実施形態によれば、高圧RO膜の透過前後の塩分濃度ばかりでなく、低圧RO膜の透過前後の塩分濃度も測定することができるため、膜の劣化による特性の変化を捉えることができ、海水の水温、塩分濃度に加え、膜の経年劣化にも対応して単位生産水量あたりの消費電力量を抑制する運転をさらに高精度に実現することができる。また、低圧RO膜透過水の塩分濃度を既知の膜の特性と海水の塩分濃度、水温から予測する必要がなくなり、予測誤差を抑えることもできる。
【0109】
(第4の実施形態)
図4を参照して第4の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0110】
本実施形態の海水淡水化装置1Cでは、上記装置1BのラインL3,L4から調整水槽6を取り除き、その代わりに低圧ポンプP2の吐出圧力を制御する低圧ポンプ圧力制御回路を取り付けている。低圧ポンプ圧力制御回路は、ラインL3,L4を流れる高圧RO膜透過水の圧力を測定する圧力計25と、圧力測定信号S11に基づいて求めた制御量に対応する制御信号S12を低圧ポンプP2の電源回路に送り、低圧ポンプP2の吐出圧力を制御するポンプ圧力制御部14と、を有している。
【0111】
上述した装置1,1A,1Bに設けた調整水槽6は、機器のメンテナンスなどの利便性により備え付けられることが多いが、高圧RO膜の透過水を低圧RO膜の透過水へ送水する前に滞留させることになるため、微生物の繁殖などにより、水質の劣化を招くことがある。調整水槽6を取り除いた場合、安定して運転を行うためには、高圧RO膜透過水の圧力を制御する必要がある。そのため、本実施形態の装置1Cでは、高圧RO膜透過水の圧力測定信号S11を用いる制御操作により低圧ポンプP2の回転駆動を制御し、ポンプP2から吐出される圧力を制御する。
【0112】
本実施形態によれば、高圧逆浸透膜透過水の圧力をさらに安定化させることができる。
【0113】
(第5の実施形態)
図5を参照して第5の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0114】
本実施形態の海水淡水化装置1Dでは、上記装置1CのラインL3に第2の温度計26をさらに取り付け、高圧RO膜を透過した透過水の温度を測定し、その測定信号S13を運転条件設定部13に送るようにしている。
【0115】
本実施形態の作用を説明する。
【0116】
第1の温度計21からは前処理された海水の温度を測定した温度測定信号S1が、第1の電気伝導度計22からは前処理された海水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S2が、第2の電気伝導度計23からはラインL3を流れる高圧RO膜透過水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S9が、第3の電気伝導度計24からはラインL5を流れる低圧RO膜透過水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S10が、それぞれ運転条件設定部13に送られる。さらに、第2の温度計26からは高圧RO膜を透過した透過水の温度を測定した温度測定信号S13が運転条件設定部13に送られる。
【0117】
運転条件設定部13は、入力信号S1,S2,S9,S10,S13に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする2つの調整弁V5,V6の弁開度の制御量をそれぞれ求め、制御信号S3を第1の制御部11に送り、制御信号S4を第2の制御部12に送る。
【0118】
流量計Q1は、ドレインラインL7を通流する濃縮水の流量を測定し、流量測定信号S5を第1の制御部11に送る。
【0119】
第1の制御部11は、信号S3,S5に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V5の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S6を調整弁V5の電源回路に送り、調整弁V5の弁開度を制御する。
【0120】
流量計Q2は、リターンラインL8を通流する低圧RO膜排出濃縮水の流量を測定し、信号S7を第2の制御部12に送る。
【0121】
第2の制御部12は、信号S4,S7に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V6の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S8を調整弁V6の電源回路に送り、調整弁V6の弁開度を制御する。
【0122】
本実施形態では、ポンプP1,P2の排熱などにより加圧後の水の温度が上昇してRO膜の特性が劣化した場合にも有効に対処することができる。水の浸透圧は温度に依存するため、本実施形態によれば、消費電力量Wや透過水の水質の予測誤差をさらに低減することができる。
【0123】
(第6の実施形態)
図6を参照して第6の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0124】
本実施形態の海水淡水化装置1Eでは、透過水送水ラインL3,L4から低圧ポンプP2を無くしている。
【0125】
上記実施形態の装置1,1A〜1Dでは、低圧RO膜へ作用する圧力は低圧ポンプP2の運転により決定する。一般に高圧ポンプP2がうず巻きポンプなどの遠心ポンプでは、流量に対してポンプにより加圧される圧力が一意に対応付けられる。この場合、低圧RO膜モジュール7の運転条件を満たす上で、低圧ポンプP2を取り除くことができないが、高圧ポンプP1が往復ポンプであれば、メンテナンス費、設備費を抑えるために低圧ポンプP2を取り除くことが可能である。
【0126】
(第7の実施形態)
図7を参照して第7の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0127】
本実施形態の海水淡水化装置1Fでは、ラインL2に第1のpH計28を取り付け、かつラインL3,L4に第2のpH計29を取り付け、第1のpH計28により前処理された海水のpHを測定し、そのpH測定信号S14を運転条件設定部13に送るとともに、第2のpH計29により高圧RO膜透過水のpHを測定し、そのpH測定信号S15を運転条件設定部13に送るようにしている。
【0128】
本実施形態の作用を説明する。
【0129】
第1の温度計21からは前処理された海水の温度を測定した温度測定信号S1が、第1の電気伝導度計22からは前処理された海水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S2が、第2の電気伝導度計23からはラインL3を流れる高圧RO膜透過水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S9が、第3の電気伝導度計24からはラインL5を流れる低圧RO膜透過水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S10が、第2の温度計26からは高圧RO膜を透過した透過水の温度を測定した温度測定信号S13が、それぞれ運転条件設定部13に送られる。さらに、第1のpH計28からは前処理された海水のpHを測定したpH測定信号S14が、第2のpH計29からは高圧RO膜透過水のpHを測定したpH測定信号S15が、それぞれ運転条件設定部13に送られる。
【0130】
運転条件設定部13は、入力信号S1,S2,S9,S10,S13,S14,S15に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする2つの調整弁V5,V6の弁開度の制御量をそれぞれ求め、制御信号S3を第1の制御部11に送り、制御信号S4を第2の制御部12に送る。
【0131】
流量計Q1は、ドレインラインL7を通流する濃縮水の流量を測定し、流量測定信号S5を第1の制御部11に送る。
【0132】
第1の制御部11は、信号S3,S5に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V5の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S6を調整弁V5の電源回路に送り、調整弁V5の弁開度を制御する。
【0133】
流量計Q2は、リターンラインL8を通流する低圧RO膜排出濃縮水の流量を測定し、信号S7を第2の制御部12に送る。
【0134】
第2の制御部12は、信号S4,S7に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V6の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S8を調整弁V6の電源回路に送り、調整弁V6の弁開度を制御する。
【0135】
浸透圧は溶液中に含まれる塩分などの溶質の濃度に依存する。海水中の溶質は大部分が塩分であるが、浸透圧は塩分以外の溶質(例えばホウ素)の影響も受ける。溶質の種類によっては、pHにより溶存の状態が変わり、膜により除去される割合も異なる。ちなみに、海水は一般的にはpH 8.2〜8.4程度の弱アルカリ性であるが、二酸化炭素の溶存量が増えるに従ってpH値が下降して酸性側に移行する。
【0136】
本実施形態によれば、RO膜に流入する供給水のpHを測定することにより、上記の実施形態に比べて、透過水の浸透圧の予測誤差をさらに抑えることができる。
【0137】
(第8の実施形態)
図8を参照して第8の実施形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0138】
本実施形態の海水淡水化装置1Gでは、ラインL2に第1の薬品注入ポンプP3を取り付け、かつラインL3,L4に第2の薬品注入ポンプP4を取り付け、運転条件設定部13からの制御信号S16を受けて第1の薬品注入ポンプP3からラインL2を流れる前処理水にpH調整剤が注入されるとともに、運転条件設定部13からの制御信号S17を受けて第2の薬品注入ポンプP4からラインL3,L4を流れる高圧RO膜透過水にpH調整剤が注入されるようになっている。
【0139】
本実施形態の作用を説明する。
【0140】
第1の温度計21からは前処理された海水の温度を測定した温度測定信号S1が、第1の電気伝導度計22からは前処理された海水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S2が、第2の電気伝導度計23からはラインL3を流れる高圧RO膜透過水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S9が、第3の電気伝導度計24からはラインL5を流れる低圧RO膜透過水の電気伝導率を測定した電気伝導率信号S10が、第2の温度計26からは高圧RO膜を透過した透過水の温度を測定した温度測定信号S13が、それぞれ運転条件設定部13に送られる。さらに、第1のpH計28からは前処理された海水のpHを測定したpH測定信号S14が、第2のpH計29からは高圧RO膜透過水のpHを測定したpH測定信号S15が、それぞれ運転条件設定部13に送られる。
【0141】
運転条件設定部13は、入力信号S1,S2,S9,S10,S13,S14,S15に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする2つの調整弁V5,V6の弁開度の制御量をそれぞれ求め、制御信号S3を第1の制御部11に送り、制御信号S4を第2の制御部12に送る。
【0142】
流量計Q1は、ドレインラインL7を通流する濃縮水の流量を測定し、流量測定信号S5を第1の制御部11に送る。
【0143】
第1の制御部11は、信号S3,S5に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V5の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S6を調整弁V5の電源回路に送り、調整弁V5の弁開度を制御する。
【0144】
流量計Q2は、リターンラインL8を通流する低圧RO膜排出濃縮水の流量を測定し、信号S7を第2の制御部12に送る。
【0145】
第2の制御部12は、信号S4,S7に基づいて単位生産水当たりの消費電力量Wを最小とする調整弁V6の弁開度の制御量を求め、求めた制御量に対応する制御信号S8を調整弁V6の電源回路に送り、調整弁V6の弁開度を制御する。
【0146】
さらに、運転条件設定部13は、pH測定信号S14に基づいて演算した制御量に対応する制御信号S16を第1の薬品注入ポンプP3の電源回路に送り、これにより第1の薬品注入ポンプP3からラインL2を流れる前処理水にpH調整剤が注入される。また、運転条件設定部13は、pH測定信号S15に基づいて演算した制御量に対応する制御信号S17を第2の薬品注入ポンプP4の電源回路に送り、これにより第2の薬品注入ポンプP4からラインL3,L4を流れる高圧RO膜透過水にpH調整剤が注入される。
【0147】
透過水の浸透圧は、透過させるRO膜の流入する水のpHに依存する。したがって、薬品注入ポンプP3,P4により膜へ流入する水のpHを制御することによって、RO膜の透過水の圧力を制御することができる。
【0148】
本実施形態によれば、RO膜の回収率に加え、薬品注入量を操作量とすることで、単位生産水量あたりの消費電力量の抑制効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0149】
1,1A〜1G…海水淡水化装置、2…海水取水装置、3…前処理装置、
4…高圧逆浸透膜モジュール(高圧RO膜ろ過器)、
5…動力回収装置、6…調整水槽、
7…低圧逆浸透膜モジュール(低圧RO膜ろ過器)、
8…生産水貯留槽、9…濃縮海水貯留槽、
11,12…制御部、13…運転条件設定部、
14…低圧ポンプ圧力制御回路の制御部、
21,26…温度計、22,23,24,27…電気伝導度計(EC計)、
25…圧力計、
28…第1のpH計、29…第2のpH計、
Q1…第1の流量計、Q2…第2の流量計、
P1…高圧ポンプ、P2…低圧ポンプ、
P3…第1の薬品注入ポンプ、P4…第2の薬品注入ポンプ、
V1〜V4…バルブ、
V5…高圧逆浸透膜回収率調整弁(高圧RO膜回収率コントロールバルブ)、
V6…低圧逆浸透膜回収率調整弁(低圧RO膜回収率コントロールバルブ)、
L1〜L8…ライン、S1〜S17…信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を透過水と濃縮水とに分離する高圧逆浸透膜モジュールと、
前記高圧逆浸透膜モジュールに海水を供給する高圧ポンプと、
海水と前記高圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水とがそれぞれ供給され、前記濃縮水から回収した圧力エネルギーにより前記海水を高圧で送水する一方で、前記濃縮水を低圧で排出する動力回収装置と、
前記動力回収装置から排出される濃縮水の流量を調整する高圧逆浸透膜回収率調整弁と、
前記動力回収装置から排出される濃縮水の流量を測定する第1の流量計と、
前記高圧逆浸透膜透過水を透過水と濃縮水とに分離する低圧逆浸透膜モジュールと、
前記低圧逆浸透膜モジュールに前記高圧逆浸透膜透過水を供給する低圧ポンプと、
前記低圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水の流量を調整する低圧逆浸透膜回収率調整弁と、
前記低圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水の流量を測定する第2の流量計と、
前記高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水の水温を計測する温度計と、
前記高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水の電気伝導率を計測する電気伝導度計と、
前記温度計で計測した海水の温度と前記電気伝導度計で計測した海水の電気伝導率と前記第1及び第2の流量計でそれぞれ測定した流量とに基づいて、前記高圧ポンプおよび前記低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制されるように、前記高圧逆浸透膜回収率調整弁および前記低圧逆浸透膜回収率調整弁の弁開度をそれぞれ調整する制御部と、
を具備することを特徴とする海水淡水化装置。
【請求項2】
さらに、前記高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率を計測するための第2の電気伝導度計を有し、
前記制御部は、前記第2の電気伝導度計により計測した高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率および前記電気伝導度計により計測した海水の電気伝導率に基づいて前記高圧逆浸透膜の状態を把握することを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
さらに、前記低圧逆浸透膜透過水の電気伝導率を計測するための第3の電気伝導度計を有し、
前記制御部は、前記第2の電気伝導度計により計測した高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率および前記第3の電気伝導度計により計測した低圧逆浸透膜透過水の電気伝導率に基づいて前記低圧逆浸透膜の状態を把握することを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
さらに、調整水槽または低圧ポンプ圧力制御回路のいずれか一方を有し、
前記調整水槽は、前記高圧逆浸透膜モジュールと前記低圧ポンプとの間に設けられ、高圧逆浸透膜を透過した水を一時的に貯留し、前記高圧逆浸透膜透過水の圧力を安定化させ、
前記低圧ポンプ圧力制御回路は、前記高圧逆浸透膜透過水の圧力を計測する圧力計と、この圧力計で計測した圧力に基づいて前記低圧ポンプの駆動を制御するポンプ圧力制御部とを有し、
前記ポンプ圧力制御部が前記圧力計により計測した圧力に基づいて前記低圧ポンプの駆動を制御し、前記高圧逆浸透膜透過水の圧力を安定化させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
さらに、高圧逆浸透膜透過水および低圧逆浸透膜透過水のうちの少なくとも一方の温度を計測する第2の温度計を有し、
前記制御部は、前記第2の温度計により計測した温度に基づいて前記高圧逆浸透膜モジュールおよび低圧逆浸透膜モジュールのうちの少なくとも一方の温度特性を補正することを特徴とする請求項4記載の装置。
【請求項6】
さらに、前記高圧逆浸透膜モジュールへの供給水のpHを計測する第1のpH計と、前記低圧逆浸透膜モジュールへの供給水のpHを計測する第2のpH計と、を有し、
前記制御部は、前記第1及び第2のpH計により計測されたpH計測値に基づいて前記高圧逆浸透膜透過水および低圧逆浸透膜透過水の浸透圧を精度よく予測することを特徴とする請求項5記載の装置。
【請求項7】
さらに、高圧逆浸透膜モジュールよりも上流側の海水にpH調整剤を注入する第1のポンプを有する第1のpH調整剤注入機構と、
前記高圧逆浸透膜を透過した透過水にpH調整剤を注入する第2のポンプを有する第2のpH調整剤注入機構と、を有し、
前記制御部は、前記第1及び第2のpH計からのpH測定値に基づいて前記第1及び第2のポンプの駆動をそれぞれ制御し、前記高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水に対する前記第1のpH調整剤注入機構からのpH調整剤の注入量を制御するとともに、前記低圧逆浸透膜モジュールへ供給される高圧逆浸透膜透過水に対する前記第2のpH調整剤注入機構からのpH調整剤の注入量を制御することを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項8】
さらに、前記温度計および前記電気伝導度計の各々から計測信号を受け、これらの計測信号に基づいて前記高圧ポンプおよび前記低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制される運転点をもつ運転条件を求め、求めた運転条件を前記制御部に送る運転条件設定部を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
(a)高圧ポンプ、動力回収装置及び高圧逆浸透膜回収率調整弁にそれぞれ接続された少なくとも1つの高圧逆浸透膜モジュールと低圧ポンプ及び低圧逆浸透膜回収率調整弁にそれぞれ接続された少なくとも1つの低圧逆浸透膜モジュールとを有する海水淡水化装置を運転するための初期運転条件を設定し、
(b)前記初期運転条件により前記高圧ポンプ、動力回収装置、高圧逆浸透膜回収率調整弁、低圧ポンプ及び低圧逆浸透膜回収率調整弁の各々を動作させる間に、前記動力回収装置から排出される濃縮水の流量を測定し、かつ前記低圧逆浸透膜モジュールから排出される濃縮水の流量を測定し、かつ前記高圧逆浸透膜モジュールより上流側の海水の温度および電気伝導率をそれぞれ測定し、
(c)測定した動力回収装置排出濃縮水の流量、低圧逆浸透膜モジュール排出濃縮水の流量、海水の温度および電気伝導率に基づいて前記高圧ポンプおよび低圧ポンプの単位生産水量当たりの消費電力量が抑制される最適の運転点をもつ最適運転条件を求め、前記初期運転条件から前記最適運転条件に設定を変更し、
(d)前記最適運転条件を用いて前記海水淡水化装置を運転する際に、前記高圧逆浸透膜回収率調整弁および低圧逆浸透膜回収率調整弁の弁開度をそれぞれ調整する、ことを特徴とする海水淡水化装置の制御方法。
【請求項10】
前記(b)工程において、さらに前記高圧逆浸透膜を透過した透過水の電気伝導率を測定し、
前記(c)工程において、前記(b)工程で測定した高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率と海水の電気伝導率とに基づいて前記高圧逆浸透膜の状態を把握することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記(b)工程において、さらに前記低圧逆浸透膜を透過した透過水の電気伝導率を測定し、
前記(c)工程において、前記(b)工程で測定した高圧逆浸透膜透過水の電気伝導率および低圧逆浸透膜透過水の電気伝導率に基づいて前記低圧逆浸透膜の状態を把握することを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記(b)工程において、前記高圧逆浸透膜モジュールと前記低圧ポンプとの間に設けられた調整水槽に前記高圧逆浸透膜透過水を一時的に貯留し、前記高圧逆浸透膜透過水の圧力を安定化させるか、または
前記高圧逆浸透膜透過水の圧力を計測する圧力計と、この圧力計で計測した圧力に基づいて前記低圧ポンプの駆動を制御するポンプ圧力制御部とを有する低圧ポンプ圧力制御回路において、前記ポンプ圧力制御部が前記圧力計により計測した圧力に基づいて前記低圧ポンプの駆動を制御し、前記高圧逆浸透膜透過水の圧力を安定化させることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記(b)工程において、さらに高圧逆浸透膜透過水および低圧逆浸透膜透過水のうちの少なくとも一方の温度を測定し、
前記(c)工程において、前記(b)工程で測定した温度に基づいて前記高圧逆浸透膜モジュールおよび低圧逆浸透膜モジュールのうちの少なくとも一方の温度特性を補正することを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記(b)工程において、さらに前記高圧逆浸透膜モジュールへの供給水のpHを測定するとともに、前記低圧逆浸透膜モジュールへの供給水のpHを測定し、
前記(c)工程において、前記(b)工程で測定したpH計測値に基づいて前記高圧逆浸透膜透過水および低圧逆浸透膜透過水の浸透圧を精度よく予測することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項15】
前記(b)工程において、さらに前記高圧逆浸透膜モジュールよりも上流側の海水にpH調整剤を注入するとともに、前記高圧逆浸透膜を透過した透過水にpH調整剤を注入し、
前記(c)工程において、前記(b)工程で測定したpH測定値に基づいて前記高圧逆浸透膜モジュールへ供給される海水に対するpH調整剤の注入量を制御するとともに、前記低圧逆浸透膜モジュールへ供給される高圧逆浸透膜透過水に対するpH調整剤の注入量を制御することを特徴とする請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−192379(P2012−192379A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59929(P2011−59929)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】