説明

海洋深層水を用いる飼育施設および水質調整方法

【課題】海洋深層水を飼育水として用いる飼育施設での海産動物のガス病を防ぐことを目的とする。
【解決手段】汲み上げた海洋深層水を海産動物の飼育に適する水温に昇温後に、その飼育水を曝気する水質調整を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋深層水による魚介類の種苗生産や養殖等の飼育分野に適用する。
【背景技術】
【0002】
海洋深層水の水質は、表層水と比べて清浄(病原菌となりうる細菌や有害物質による汚染が少なく、水質悪化の原因となる分解性有機物が少ない)で、また、低水温でしかも水温が周年安定している(取水直後の日平均水温;室戸岬沖約11〜12℃、富山湾約1.4〜5.9℃、駿河湾(黒潮系)約9〜10℃、駿河湾(亜寒帯系)約4〜5℃、熊石沖約0.5〜1.5℃)という優れた特性がある。
この海洋深層水の特性が、冷水性魚類の飼育や、高級魚介類の飼育水温の制御(飼育水に深層水を直接混合する経済的な温度調節)などの養殖や、水産種苗生産分野(高水温による早期採卵幼生のへい死の防止、水温上昇期の稚貝のへい死の防止、魚介類稚仔の生残率向上、夏季の高水温が誘発する疾病の防止など)などに有用であり、近年、その利用・研究が行われている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6参照。)。
【0003】
また、前述のように水深200m以深から汲み上げられた深層水が低温であることから、水中生物を飼育するのに適する水温に昇温させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
その他、深層冷海水を汲み上げてエアレーション(曝気)させた後、海洋温度差発電装置を通して熱交換(昇温)し、海洋生物増養殖装置に深層水を送水する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかし近年、海洋深層水を水産種苗生産や養殖の分野に用いる利用・研究が行われるようになってから、ガス病あるいはガス病と推察される生理傷害による海産動物のへい死が発生した事例が報告されている(例えば、非特許文献7参照。)。
【特許文献1】特許第3282152号公報
【特許文献2】特公平8−16475号公報
【非特許文献1】平田龍善、志田修(1994):深層水による魚類の飼育,月刊海洋VOL26,NO.3,海洋深層水の利用研究,168-172,海洋出版
【非特許文献2】上野幸徳、山中弘雄、山口光明(1994):深層水によるメダイの飼育について,月刊海洋VOL26,NO.3,海洋深層水の利用研究,172-175,海洋出版
【非特許文献3】渡辺貢(2000):海洋深層水を使用した魚類飼育,月刊海洋号外NO.22,総特集,取水とその資源利用,62-68,海洋出版
【非特許文献4】中村弘二(2000):海洋深層水を利用した寒冷・深海生物の飼育,月刊海洋号外NO.22,総特集,取水とその資源利用,69-75,海洋出版
【非特許文献5】奈倉昇(2000): 富山県における海洋深層水の資源利用,月刊海洋号外NO.22,総特集,取水とその資源利用,186-191,海洋出版
【非特許文献6】中島敏光(2002):21世紀の循環型資源,海洋深層水の利用,158-200,緑書房
【非特許文献7】楠田理一、川合研児(2000): 深層水飼育魚における病気の発生と予防,月刊海洋号外NO.22,総特集,取水とその資源利用,159-162,海洋出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このガス病については、例えば淡水魚の鯉では、酸素ガス病と窒素ガス病があり、酸素ガス病では水中の溶存酸素量が飽和度200〜300%以上の過飽和状態になった場合に、窒素ガス病では水中の溶存酸素量が飽和度120%以上の過飽和状態になった場合に、鰓を通して血液中に入り込んだ酸素が、血管内などで遊離し、気泡(酸素ガス)となって発症することが知られている。
【0006】
同様に海洋深層水を用いる飼育施設においても、低水温の海洋深層水を海産動物(水中生物)の飼育適温(飼育試験の水温例:ヒラメ約20〜25℃、メダイ約11〜19℃、サクラマス約10〜15℃)に昇温することにより、飼育水の溶存ガスの溶解度(飽和量)が低下し、飼育水中の溶存ガスの絶対量が変わらないのにも関わらず、低水温時よりも相対的に飽和度が上昇して溶存ガスが過飽和になり、このことでガス病が発症するものと考えられる。
【0007】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、養殖等の飼育水槽内に供給される海洋深層水の溶存ガス(海水中には、窒素、酸素、遊離炭酸、ヘリウム、ネオン、クリプトン等の希ガスなどの気体成分が溶存している)の過飽和を解消し、飼育水槽内で飼育される水中生物のガス病を防止することができる海洋深層水を用いる飼育施設および水質調整方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、海洋深層水によって水中生物を飼育する飼育施設において、汲み上げた深層水を水中生物の飼育に適する水温に温度調整する水温調整手段と、温度調整された深層水に曝気を施す曝気手段と、曝気された深層水を内部に貯留するとともに水中生物を内部で飼育する飼育水槽と、前記水温調整手段、前記曝気手段および前記飼育水槽の順序で深層水を流通させる流通手段とが備えられていることを特徴としている。
【0009】
請求項2記載の発明は、海洋深層水を水中生物の飼育に適する水質に調整する水質調整方法であって、汲み上げられた海洋深層水を水中生物の飼育に適する水温に温度調節し、その後、温度調節された深層水に曝気を施すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係わる飼育施設によれば、深層水が、水温調整手段によって水中生物の飼育に適する水温に温度調整された後に、曝気手段によって曝気が行なわれて飼育水槽に供給され、かつその状態になった後、深層水の水温が上昇することがないのでガス病を防止することができる。
【0011】
本発明に係わる水質調整方法によれば、汲み上げられた深層水を水中生物の飼育に適する水温に温度調整後に曝気するので、ガス病を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る飼育施設および水質調整方法の実施の形態について、図面に基いて説明する。本実施の形態では、水産種苗生産・飼育施設において、汲み上げ後の海洋深層水が、水温制御装置を通り、次に曝気装置を通り、このように処理された海洋深層水が飼育水槽に流入するという形態で実施する。
【0013】
図1は本発明に係る飼育施設の概略構成を表す図である。
図1に示すように、飼育施設1は、海洋深層水W4によって海産動物(水中生物)Xを飼育する施設であり、飼育施設1の概略構成は、深層水W1を汲み上げる汲み上げ手段2と、汲み上げられた深層水W1を海産動物の飼育に適する水温に温度調整する水温調整手段3と、温度調整された深層水W3に曝気を施す曝気手段4と、曝気された深層水W4を内部に貯留するとともに海産動物Xを内部で飼育する複数(図1では2つ)の飼育水槽5,5と、深層水W1,W2,W3,W4を流通させる流通手段6と、飼育水槽5内の水中に酸素を補給する酸素補給手段7と、飼育水槽5,5から排出された排水Dを再利用して水温調整手段3に供給する再利用手段8とからなっている。
【0014】
汲み上げ手段2は、水深200m以深の海中に設置された吸水口9と、汲水管10を介して吸水口9に接続されて深層水W1を汲み上げる汲水ポンプ11とから構成されている。なお、深層水を他所で汲み上げ、その深層水を運搬して用いる場合には、受水槽だけあればよいので、この場合には汲み上げ手段2はなくてもよい。
【0015】
水温調整手段3は、深層水W1の水温を2段階に分けて加温する手段であり、水温調整手段3には、再利用手段8から供給される再利用温水Rと汲み上げられた深層水W1との間で熱交換を行う第1の熱交換器12、および図示せぬ熱源から供給された温泉水等の熱源水Sと第1の熱交換器12によって昇温された深層水W2との間で熱交換を行う第2の熱交換器13が備えられている。水温調整手段3によって、深層水W1は、第1の熱交換器12よる一次加温で、汲み上げられた時の水温E0よりも高く且つ海産動物Xの飼育に適する水温よりも低い温度E1まで昇温させられ、第2の熱交換器13よる二次加温で、海産動物Xの飼育に適する水温E2まで昇温させられる。なお、熱源水Sとして温泉水以外にもヒータによって沸かされた熱源水を使用してもよい。
【0016】
曝気手段4は、海産動物Xの飼育に適する水温まで昇温させられた深層水W3中にエアを吹き込んで曝気を施す手段であり、深層水W3中に配置されて深層水W3中に微小気泡を発生させるエアレーションホース等の気泡発生部材14と、エア配管15を介して気泡発生部材14に接続されて気泡発生部材14にエア(空気や酸素等)を送るルーツブロア等のエア供給源16と、深層水W3内の溶存ガス量と酸素量を計測する溶存ガス検知器35(酸素量の計測を兼ねる)とが備えられている。
【0017】
気泡発生部材14には、スポンジ状の材料から形成された筒状の部材であり、気泡発生部材14の内部に圧入されたエアを透過させて当該エアを微小気泡状に深層水W3中に噴出させるものである。気泡発生部材14は棒状や環状のものでもよく、またフレキスブルなものであってその形状を適宜変形できるものでもよい。また、気泡発生部材14は、後述する第2の受水槽18の他方の槽18b内底部に設置されており、水温E2まで昇温した深層水W3は、第2の受水槽18の他方の槽18b内で曝気が施される。また、溶存ガス検知器35も第2の受水槽18の他方の槽18b内に設置されており、この溶存ガス検知器35によって第2の受水槽18の他方の槽18b内に貯留された深層水W3中の溶存ガス量が計測され、大気飽和時における窒素や酸素などのガス溶解度(飽和量)に対する飽和度が確認される。
【0018】
流通手段6は、地上に設置された2槽式の第1の受水槽17と、地下に埋設された2槽式の第2の受水槽18と、汲み上げ手段2によって汲み上げられた深層水W1を第1の受水槽17内に送る第1の送水路19と、第1の受水槽17内の深層水W1を第2の受水槽18の一方の槽18a内に送る第2の送水路20と、第2の受水槽18の一方の槽18a内の深層水W2を他方の槽18b内に送る第3の送水路21と、第2の受水槽18の他方の槽18b内の深層水W4を飼育水槽5,5にそれぞれ送る第4の送水路22とから構成されている。
【0019】
第1の受水槽17の両方の槽17a,17bの中には昇温前の水温E0の深層水W1がそれぞれ供給・貯留されており、第2の受水槽18の一方の槽18aの中には一次加温後の水温E1の深層水W2が供給・貯留されている。また、第2の受水槽18の他方の槽18bの中には二次加温後の水温E2の深層水W3が供給されるとともに、当該槽18b内において曝気手段4による深層水W3の曝気が行われる。
【0020】
第1の送水路19は、汲水ポンプ11の吐出口と第1の受水槽17とを接続する第1の送水管23からなる。第1の送水管23は二又に形成されており、第1の受水槽17の両方の槽17a,17bまでそれぞれ配管されている。
【0021】
第2の送水路20は、第1の圧送ポンプ24、第1の圧送ポンプ24と第1の受水槽17とを接続する第2の送水管25、第1の圧送ポンプ24と第1の熱交換器12とを接続する第3の送水管26、および第1の熱交換器12と第2の受水槽18の一方の槽18aとを接続する第4の送水管27から構成されている。第2の送水管25は二又に形成されており、第1の受水槽17の両方の槽17a,17bの流出口にそれぞれ接続されている。
【0022】
第3の送水路21は、第2の圧送ポンプ28、第2の受水槽18の一方の槽18aと第2の圧送ポンプ28とを接続する第5の送水管29、第2の圧送ポンプ28と第2の熱交換器13とを接続する第6の送水管30、および第2の熱交換器13と第2の受水槽18の他方の槽18bとを接続する第7の送水管31から構成されている。
【0023】
第4の送水路22は、第3の圧送ポンプ32、第2の受水槽18の他方の槽18bと第3の圧送ポンプ32とを接続する第8の送水管33、および第3の圧送ポンプ32と飼育水槽5,5とを接続する第9の送水管34から構成されている。第9の送水管34は二又に形成されており、2つの飼育水槽5,5までそれぞれ配管されている。
【0024】
酸素補給手段7は、2つの飼育水槽5,5内にそれぞれ設置されて深層水W4中に微小気泡を発生させるエアレーションホース等の気泡発生部材36,36と、エア配管37を介して2つの気泡発生部材36,36にそれぞれエアを送るルーツブロア等のエア供給源38とから構成されている。エア配管37は二又に形成されており、2つの飼育水槽5,5内に設置された2つの気泡発生部材36,36にそれぞれ接続されている。
【0025】
再利用手段8は、飼育水槽5,5からの排出される水温E2の排水Dと第2の熱交換器13による熱交換後の熱源水S´とからなる再利用温水Rを第1の熱交換器12に送って再利用する手段であり、第1,第2の排水用受水槽39,40と、飼育水槽5,5からの排水Dを第1の排水用受水槽39に送る第1の排水路41と、第1の排水用受水槽39から第2の排水用受水槽40に排水Dを送る第2の排水路42と、図示せぬ熱源から供給された熱源水Sを第2の熱交換器13を経由させて第2の排水用受水槽40に送る熱源水路43と、第2の排水用受水槽40に貯留された再利用温水Rを第1の熱交換器12を経由させて排出する再利用温水路44とから構成されている。
【0026】
第1の排水路41は、2つの飼育水槽5,5と第1の排水用受水槽39とを接続する第1の排水管45からなっており、第1の排水管45は大きく二つの枝部45a,45bに分かれて形成されており、枝部45a,45bは飼育水槽5,5に向けてそれぞれ配管されている。また、枝部45a,45bは、2つの飼育水槽5,5の上部にそれぞれ備えられたオーバーフロードレン46にそれぞれ接続されている。
【0027】
第2の排水路42は、排水圧送ポンプ47、第1の排水用受水槽39と排水圧送ポンプ47とを接続する第2の排水管48、および排水圧送ポンプ47と第2の排水用受水槽40とを接続する第3の排水管49とから構成されている。
【0028】
熱源水路43は、図示せぬ熱源と第2の熱交換器13とを接続する第1の熱源水管50と、第2の熱交換器13と第2の排水用受水槽40とを接続する第2の熱源水管51とから構成されている。
【0029】
再利用温水路44は、再利用温水圧送ポンプ52、第2の排水用受水槽40と再利用温水圧送ポンプ52とを接続する第1の再利用温水管53、再利用温水圧送ポンプ52と第1の熱交換器12とを接続する第2の再利用温水管54、および第1の熱交換器12と図示せぬ排水口とを接続する第3の再利用温水管55から構成されている。
【0030】
次に、上記した構成からなる飼育施設を使用した水質調整方法について説明する。
【0031】
図1に示すように、汲水ポンプ11の圧力によって、海中から深層水W1を汲み上げる。具体的には、海中の深層水W1を吸水口9から吸い込み、汲水管10内を流通させて汲水ポンプ11内に流入させる。そして、汲水ポンプ11から第1の送水管23に送り出し、第1の送水管23内を流通させて、第1の受水槽17内に深層水W1を供給する。
【0032】
図2は深層水の水温と、深層水中の溶存ガス量の大気飽和時の溶解度(飽和量)との関係を表すグラフであり、グラフ中に示された曲線Lは深層水の溶解度(飽和量)曲線である。海中から汲み上げられた深層水W1は、図2に示すA点の状態にあり、水温E0が0.5℃〜12℃程度、溶存ガス飽和度が90%〜110%程度である。また、このときの深層水W1の酸素飽和度は、60%〜70%程度である。
【0033】
また、図1に示すように、第1の受水槽17は2つの槽17a,17bに区分けされているため、所定の弁56を閉めて一方の槽17a内への深層水W1の供給を止め、他方の槽17bのみに深層水W1を流すことで、飼育施設1を使用しながら一方の槽17a内を清掃することができる。無論、他方の槽17bを清掃する場合も同様に行うことができる。
【0034】
また、第1の圧送ポンプ24の圧力によって、第1の受水槽17内に貯留された深層水W1を第2の受水槽18の一方の槽18aに送るとともに、第1の熱交換器12によって所定の水温E1まで一次加温する。具体的には、第1の受水槽17内に貯留された深層水W1を第1の受水槽17内から第2の送水管25内に流入させ、第2の送水管25内を流通させて第1の圧送ポンプ24に流入させる。そして、第1の圧送ポンプ24から第3の送水管26に送り出し、第3の送水管26内を流通させて、第1の熱交換器12内に流入させる。第1の熱交換器12内において、水温E0の深層水W1は、第2の排水用受水槽40から送られた再利用温水Rとの間で熱交換を行い、所定の水温E1の深層水W2にする。この深層水W2を、第1の熱交換器12内から第3の送水管27内に流入させ、第3の送水管27内を流通させて第2の受水槽18の一方の槽18a内に供給する。
【0035】
また、第2の圧送ポンプ28の圧力によって、第2の受水槽18の一方の槽18a内に貯留された深層水W2を第2の受水槽18の他方の槽18b内に送るとともに、第2の熱交換器13によって所定の水温E2まで二次加温する。具体的には、一方の槽18a内に貯留された深層水W2を、一方の槽18a内から第5の送水管29内に流入させ、第5の送水管29内を流通させて第2の圧送ポンプ28内に流入させる。そして、第2の圧送ポンプ28から第6の送水管30内に送り出し、第6の送水管30内を流通させて、第2の熱交換器13内に流入させる。第2の熱交換器13内において、水温E1の深層水W2は、図示せぬ熱源から第1の熱源水管50を通って流入した熱源水Sとの間で熱交換を行い、所定の水温E2の深層水W3にする。この深層水W3を、第2の熱交換器13内から第7の送水管31内に流入させ、第7の送水管31内を流通させて他方の槽18b内に供給する。
【0036】
このとき、他方の槽18b内に流入する深層水W3は、図2に示すB点の状態にあり、水温E3が10℃〜20数℃程度であり、溶存ガス飽和度が120%〜140%程度と高くなる。また、このときの深層水W3の酸素飽和度は、85%〜95%程度である。
【0037】
また、図1に示すように、第2の受水槽18の他方の槽18b内において、曝気手段4によって深層水W3に曝気を施す。具体的には、エア供給源16からエア配管15を介して気泡発生部材14内にエアを送り、このエアを気泡発生部材14内から外部に噴出させて深層水W3中に微小気泡を発生させる。これによって、他方の槽18b内に貯留された深層水W3に曝気が施されるとともに酸素補給が行われ、他方の槽18b内に貯留された深層水W3が海産動物Xの飼育に適した深層水W4になる。
【0038】
このとき、曝気された後の深層水W4は、図2に示すC点の状態にあり、水温E3が10℃〜20数℃程度であり、溶存ガス飽和度が95%〜110%程度となる。また、このときの深層水W4の酸素飽和度は、90%〜100%程度である。
なお、図1に示すように、他方の槽18b内の深層水W4の溶存ガス量を他方の槽18b内に設置された溶存ガス検知器35によって計測し、深層水W4の溶存ガス飽和度を適時確認し、計測された溶存ガス量の数値に基いて曝気手段4を制御する。
【0039】
また、第3の圧送ポンプ32の圧力によって、第2の受水槽18の他方の槽18b内の深層水W4を2つの飼育水槽5,5にそれぞれ送る。具体的には、他方の槽18b内の深層水W4を、他方の槽18b内から第8の送水管33内に流入させ、第8の送水管33内を流通させて第3の圧送ポンプ32内に流入させる。そして、第3の圧送ポンプ32から第9の送水管34内に送り出し、第9の送水管34内を流通させて、2つの飼育水槽5,5に深層水W4をそれぞれ供給する。
【0040】
また、酸素補給手段7によって、2つの飼育水槽5,5内に貯留された深層水W4の中に酸素を補給する。具体的には、エア供給源38からエア配管37を介して気泡発生部材36,36内にエアを送り、このエアを気泡発生部材36,36内から外部に噴出させて飼育水槽5,5内の深層水W4中に微小気泡を発生させる。
【0041】
また、2つの飼育水槽5,5内からの排水Dと、第2の熱交換器13による熱交換後の熱源水S´とを第1の熱交換器12に再利用する。具体的には、2つの飼育水槽5,5に備えられたオーバーフロードレン46からの溢水D2を、第1の排水管45を介してそれぞれ第1の排水用受水槽39内に送る。そして、排水圧送ポンプ47の圧力によって、第1の排水用受水槽39内の排水Dを第2の排水管48内および第3の排水管49内にそれぞれ流通させて第2の排水用受水槽40内に送る。一方、第2の熱交換器13内における深層水W2との熱交換によって水温が低下した熱源水S´は、第2の熱源水管51内を流通して第2の排水用受水槽40内に至る。第2の排水用受水槽40内では、2つの飼育水槽5,5内からの排水Dおよび熱が奪われた熱源水S´が混合されて再利用温水Rとなる。そして、第2の排水用受水槽40内の再利用温水Rは、再利用温水圧送ポンプ52の圧力によって、第1の再利用温水管53内および第2の再利用温水管54内を流通して第1の熱交換器12内に至り、深層水W1との間で熱交換を行う。
また、第1の熱交換器12内における深層水W1との熱交換によって水温が低下した再利用温水R´は、第3の再利用温水管55内を流通して図示せぬ排水口に流出する。
【0042】
上記した構成からなる飼育施設1および水質調整方法によれば、深層水W1が、水温調整手段3によって海産動物Xの飼育に適する水温E2に温度調整された後に、曝気手段4によって曝気が行われ、その後飼育水槽5,5に供給されるため、海産動物Xに接触する深層水W4は、溶存ガスが大気飽和されて、溶存ガスの過飽和によるガス病を防止することができる。
【0043】
また、上記した構成からなる飼育施設1によれば、複数段階に分けて加温する水温調整手段3が備えられ、再利用手段8によって飼育水槽5,5からの排水Dが水温調整手段3に再利用されているため、飼育施設1の運転費用(ランニングコスト)を低減することができる。
【0044】
以上、本発明に係る飼育施設および水質調整方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記した実施の形態では、飼育水槽5,5からの排水Dの全部を再利用手段8によって第1の熱交換器12に再利用しているが、本発明は、飼育水槽からの排水の一部を再利用手段によって再利用し、その他の排水を循環手段によって再び飼育水槽に流入させてもよい。この循環手段は、飼育水槽からの排水を泡沫分離曝気装置、加温・冷却装置、循環ろ過装置、殺菌装置の順で流通させ、最終的に飼育水槽に戻す手段である。無論、本発明は、再利用手段や上記した循環手段が備えられていないものでもよく、飼育水槽からの排水の全部を排出してもよい。
【0045】
また、上記した実施の形態では、第1,第2の熱交換器12,13からなる水温調整手段3が備えられ、この水温調整手段3によって深層水W1を2段階に分けて加温しているが、本発明における水温調整手段は、熱交換器を一つだけ有する水温調整手段でもよく、或いは3つ以上の熱交換器を有する水温調整手段であってもよい。また、上記した実施の形態では、熱交換によって深層水を昇温させる水温調整手段が適用されているが、本発明は、例えば通常の燃料や太陽熱等によって深層水を昇温させる水温調整手段でもよく、熱交換器に変えてその他の加温機器を用いてもよい。さらに、本発明は、水温調整手段に温度センサー等を備えさせ、この温度センサーと連動させて加温機器を制御する温度制御手段を設けてもよい。この温度制御手段によれば、深層水が所定の温度以下では加温機器を自動的に作動させ、所定の温度以上では加温機器を自動的に停止させることが可能であり、これによって、深層水の加温不足や過熱を防止することができる。以上のほか、熱交換器は、深層水と表層水を直接混合調整する手段でもよい。
【0046】
また、上記した実施の形態では、深層水W3中に微小気泡を発生させることによって深層水W3に曝気を施す曝気手段4が備えられているが、本発明における曝気手段は、深層水を攪拌させることで深層水に曝気を施す曝気手段でもよく、過飽和状態の深層水を大気飽和させられる手段であれば、その他の曝気手段であってもよい。
【0047】
また、上記した実施の形態では、飼育水槽5,5が2つ備えられているが、本発明は、飼育水槽が一つだけ備えられているものでもよく、或いは3つ以上の飼育水槽が備えられているものでもよい。
また、上記した実施の形態では、二槽式の第1,第2の受水槽17,18が備えられており、第2の受水槽18の他方の槽18bにおいて曝気が施されているが、本発明は、曝気を施すための受水槽だけが備えられ、その他の受水槽が備えられていない飼育施設でもよい。
【0048】
なお、本発明者らは、本発明の効果を確認するため、曝気と昇温を組合せた飼育水でヒラメを飼育する実験(図3)を行なった。曝気後に昇温した飼育水でヒラメを飼育する方法(図3の比較例)ではヒラメがガス病によって斃死する場合があったが、昇温後に曝気した飼育水での飼育方法(図3の実験例)ではガス病が発生しなかった。
これらのことから、ガス病は、低温故に気体の溶解度が高い海水に曝気することにより溶存気体濃度が高くなり、その後昇温すると気体の溶解度が低くなるので溶存気体が過飽和状態となり、その海水中で飼育しているヒラメの血液中に過飽和の気体が溶け込み、過飽和部分の気体がヒラメの体内で気泡になり、それが原因で死に到ることが分かった。
したがって、ガス病を予防するためには、図3の実験例のように、海洋深層水をヒラメの飼育に用いる水温まで昇温し、その後に曝気を行なって溶存ガスを大気と平衡状態近くにする方法が有効であることが確認された。
なお、本発明の実施の形態では、地上に設置された飼育施設水槽内での溶存ガスの飽和度を、95〜110%になるように管理したが、飼育する海産動物の種別によっては、この範囲外でもガス病が防げることが考えられるので、飼育する海産動物毎に曝気の程度を変える実験を行い、その中で経済性も勘案して最適となるよう溶存ガスの飽和度を選択すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る飼育施設および水質調整方法の実施の形態を説明するための飼育施設の概略構成を表す図である。
【図2】本発明に係る飼育施設および水質調整方法の実施の形態を説明するための深層水の温度と溶存ガス量との関係を表すグラフである。
【図3】本発明に係る飼育施設および水質調整方法についての実験方法を表す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 飼育施設
2 汲み上げ手段
3 水温調整手段
4 曝気手段
5 飼育水槽
6 流通手段
W1,W2,W3,W4 深層水
X 海産動物(水中生物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋深層水によって水中生物を飼育する飼育施設において、
汲み上げた深層水を水中生物の飼育に適する水温に温度調整する水温調整手段と、温度調整された深層水に曝気を施す曝気手段と、曝気された深層水を内部に貯留するとともに水中生物を内部で飼育する飼育水槽と、前記水温調整手段、前記曝気手段および前記飼育水槽の順序で深層水を流通させる流通手段とが備えられていることを特徴とする海洋深層水を用いる飼育施設。
【請求項2】
海洋深層水を水中生物の飼育に適する水質に調整する水質調整方法であって、汲み上げられた海洋深層水を水中生物の飼育に適する水温に温度調節し、その後、温度調節された深層水に曝気を施すことを特徴とする水質調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−89544(P2007−89544A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287077(P2005−287077)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(501445379)熊石町 (1)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(505368276)社団法人富山県農林水産公社 (1)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】