説明

浸漬ノズル及びこれを用いた連続鋳造方法

【課題】MHD対向流による鋳片のセンター部の表面欠陥発生率を効果的に減少させることができ、しかも構造が簡単でメンテナンスも容易な浸漬ノズル及びこれを用いた連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】本発明の浸漬ノズル2は、連続鋳造用モールド1内に溶鋼を注湯するノズル本体の両側に、連続鋳造用モールド1の長手方向に延びる分散防止板6を、吐出孔3を挟んで取り付けたことを特徴とする。この浸漬ノズル2を用い電磁ブレーキ4による静磁場を印加しつつ溶鋼の連続鋳造を行えば、吐出孔3に向かうMHD対向流は2枚の分散防止板6に挟まれた中央の流路を通じて湯面5に向かって上昇し、センター部の凝固界面との接触が生じにくくなる。このためセンター部における表面欠陥発生指数を大幅に低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造のための浸漬ノズル及びこれを用いた連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造は、タンディッシュから供給される溶鋼を浸漬ノズルによって連続鋳造用モールド内に注湯しながら行われる。浸漬ノズルの下方部には吐出孔が設けられており、溶鋼は吐出孔からモールド内に吐出される。
【0003】
ノズル閉塞防止のために、浸漬ノズル内にはアルゴンガス等の不活性ガスが吹き込まれており、その気泡が吐出流に乗ってモールド内に拡散している。また脱酸生成物であるアルミナ等の非金属介在物も吐出流に乗ってモールド内に拡散し、これらの気泡や非金属介在物が凝固界面に付着すると、表面欠陥を発生させる。
【0004】
例えば図1に示すように、モールド1の中央に浸漬ノズル2を配置し、その下方部の両側に形成された吐出孔3から溶鋼を吐出する場合には、図中に太い矢印で示すようにモールド1の長手方向に強い吐出流が発生する。このため、吐出流に乗って気泡や非金属介在物がモールド1の端部に運ばれて凝固界面に到達し易くなる。その結果、図2のグラフに示すように鋳片のエッジ部分における表面欠陥発生率が大きくなる。なお本明細書において用いる表面欠陥発生指数とは、連続鋳造された鋳片を圧延して製造されるコイルにおいて表面に現れる連続鋳造起因の欠陥(おもにスリバー疵)の発生頻度を指数化した値である。
【0005】
また図3に示すように、モールド1内の溶鋼に電磁ブレーキ4により静磁場を作用させ、下向きの吐出流を減衰させることも広く知られている。この場合には気泡や非金属介在物は図1の場合よりも速やかに湯面5に浮上し、凝固界面に付着しにくいので、鋳片全体の表面欠陥発生を抑制することができる。
【0006】
しかし図3、図4に示すように、電磁ブレーキ4を使用すると電磁流体力により浸漬ノズル2の回りにMHD対向流と呼ばれる対向流が発生する。このMHD対向流はモールド1の長手方向の両側で発生し、吐出孔3に向かって流れて浸漬ノズル2の側面で衝突し、モールド1の内壁面に沿う強い上向流となる。このため気泡や非金属介在物が中央部の凝固表面に付着し易くなり、図5のグラフに示すように鋳片のセンター部の表面欠陥発生率が大きくなる。
【0007】
上記したように、電磁ブレーキを用いるとエッジ部の表面欠陥は抑制できるが、センター部における気泡や非金属介在物による表面欠陥を防止することは容易ではない。そこで特許文献1には、浸漬ノズルの吐出孔を上向きにするとともに、吐出孔を囲むように下面が開放された箱を設け、溶鋼流を上昇させてから下降流とすることによって表面欠陥発生を防止する発明が開示されている。しかしこの発明はノズル部分の構造が複雑となり、メンテナンスが容易でない。
【0008】
また特許文献2には、浸漬ノズルの吐出孔よりも上部に制流板を設けて旋回流を形成し、センター部における溶鋼流の滞留を防止する発明が開示されている。しかしこの発明は電磁ブレーキを使用しないことを前提としており、鋳片のエッジ部分における表面欠陥発生率の低減効果は小さいものと考えられる。
【0009】
さらに特許文献3には、浸漬ノズルの吐出孔よりも上部に制流板を設けるとともに、吐出孔の位置を制流板に対して斜めにして強い旋回流を生じさせる発明が開示されている。しかしこの発明では旋回流に乗って気泡や非金属介在物がモールドのエッジ部分に到達し易くなり、鋳片のエッジ部分における表面欠陥発生率の低減効果は小さいものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−266155号公報
【特許文献2】特開昭63−235050号公報
【特許文献3】特開平5−146851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、電磁ブレーキ使用時に発生するMHD対向流による鋳片のセンター部の表面欠陥発生率を効果的に減少させることができ、しかも構造が簡単でメンテナンスも容易な浸漬ノズル及びこれを用いた連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するためになされた本発明の浸漬ノズルは、連続鋳造用モールド内に溶鋼を注湯するノズル本体の両側に、連続鋳造用モールドの長手方向に延びる分散防止板を、吐出孔を挟んで取り付けたことを特徴とするものである。
【0013】
なお上記の浸漬ノズルは、分散防止板の上端高さを吐出孔の上端と湯面との間とし、分散防止板の下端高さを吐出孔の下端とノズル本体の下端との間とすることが好ましく、また分散防止板のノズル本体からの水平方向の突出量を、10mm以上300mm以下とすることが好ましい。また吐出孔の吐出角度を、上向き20°と下向き60°との間とすることが好ましい。
【0014】
さらに本発明の連続鋳造方法は、上記の浸漬ノズルを用い、電磁ブレーキを掛けながら連続鋳造用モールド内に溶鋼を注湯し、ノズル本体に向かう対向流を左右一対の分散防止板により湯面に向けてガイドすることを特徴とするものである。なお、電磁ブレーキにより印加する静磁場を吐出孔位置において500G以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電磁ブレーキ使用時に発生し浸漬ノズルに向かうMHD対向流を、ノズル本体の両側に形成された連続鋳造用モールドの長手方向に延びる分散防止板によってガイドし、湯面に向けて浮上させる。この上向流は主として一対の分散防止板の間を流れるため、気泡や非金属介在物が凝固界面に付着することが防止され、湯面のパウダーにより捕捉される。このため表面欠陥発生率を大幅に低下させることができる。しかも本発明の浸漬ノズルは、構造が比較的簡単であるから製作コスト及びメンテナンスコストが安価である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来技術を示す平面図と正面図である。
【図2】図1の場合の表面欠陥発生指数のグラフである。
【図3】他の従来技術(電磁ブレーキ採用)を示す平面図と正面図である。
【図4】図3の場合の反転流の説明図である。
【図5】図3の場合の表面欠陥発生指数のグラフである。
【図6】本発明の実施形態を示す平面図と正面図である。
【図7】本発明の実施形態における反転流の説明図である。
【図8】分散防止板の寸法説明図である。
【図9】本発明の実施形態における表面欠陥発生指数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図6〜図8は本発明の浸漬ノズルの説明図であり、従来と同様に1は連続鋳造用のモールド、2は浸漬ノズル、3は浸漬ノズル2の下方部両側に形成された吐出孔、4はモールド1内の溶鋼に静磁場を印加する電磁ブレーキ、5は湯面である。
【0018】
本発明では、浸漬ノズル2のノズル本体の両側に分散防止板6が取り付けられている。分散防止板6はノズル本体と同質の耐火物製の平板であり、吐出孔3を挟む両側に配置されている。その方向はモールド1の長手方向であり、この実施形態では2枚の平板が平行に配置されているが、浸漬ノズル2から遠い外側がやや開くように斜めに配置してもよい。ノズル本体への取り付け方は任意であり、例えばモルタルによる接合やセラミック製固定具による固定などを適宜採用することができる。
【0019】
この分散防止板6は吐出孔3に向かうMHD対向流をガイドし、湯面5に向けて浮上させる役割を果たすものであるから、その上下幅Wは少なくとも吐出孔3を覆うことができる幅とする。このため、分散防止板6の上端高さは吐出孔3の上端と湯面5との間とし、分散防止板6の下端高さは吐出孔3の下端とノズル本体の下端との間としておくことが好ましい。なお分散防止板6の上端高さが湯面5を超えると、湯面パウダーとの反応により分散防止板6を形成している耐火物の劣化が進行し易くなるうえ、湯面5よりも上方に突出した露出部分と溶湯内部への浸漬部分との温度差が生ずるので好ましくない。また分散防止板6の下端高さがノズル本体の下端よりも下側になると、浸漬ノズル2の製作やハンドリングが行いにくくなるので好ましくない。
【0020】
分散防止板6のノズル本体からの水平方向の突出量Lは、10mm以上300mm以下とすることが好ましい。突出量Lが10mm未満であるとMHD対向流をガイドする機能が不十分となる。また突出量Lが300mmを超えても整流効果の向上は見られず、製作コストの増加や折損によるトラブルの原因となるおそれがある。分散防止板6の厚さtは特に限定されるものではないが、溶鋼流中でノズル本体と同等の使用寿命を持つように設定すればよく、例えば10mm以上とすればよい。
【0021】
なお、浸漬ノズル2の吐出孔3の吐出角度αは、上向き20°と下向き60°との間とすることが好ましい。吐出角度αが上向き20°を超えると湯面5の沸き上がりが生じて好ましくない。また下向き60°を超えると吐出流の侵入深さが深くなりすぎて浮上しにくくなり、気泡や非金属介在物が凝固界面に付着しやすくなるので好ましくない。特に内部欠陥を助長する。
【0022】
このように構成された分散防止板6付きの浸漬ノズル2を用い、かつ電磁ブレーキ4を用いて溶鋼の連続鋳造を行えば、吐出孔3に向かうMHD対向流は2枚の分散防止板6に挟まれた中央の流路を通じて湯面5に向かって上昇し、センター部の凝固界面との接触が生じにくくなる。このため図9のグラフに示すように、表面欠陥発生指数を大幅に低減することができる。
【0023】
上記したように、本発明は電磁ブレーキ4の使用を前提とするものであり、エッジ部における表面欠陥発生指数の低減は電磁ブレーキ4によるところが大きい。このため電磁ブレーキにより印加する静磁場を500G以上とすることが好ましい。
【実施例】
【0024】
表1に本願発明による実施例を、比較例とともに示す。
短辺250mm、長辺1600mmのモールド1に浸漬ノズル2より溶鋼を注入し、鋳造速度2.5m/minで連続鋳造した。分散防止板の上端位置、下端位置、及び突出量を表1に示した寸法としながら、それぞれの吐出角度を有する浸漬ノズルに取り付け鋳造した。鋳造後のスラブを圧延し、コイル表面に現われた連続鋳造起因の欠陥を検査して、本願発明の効果を確認した。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例1乃至13の結果によると、表面欠陥指標は0.5以下であって、極めて良好な表面品位を達成することができた。浸漬ノズル2の吐出孔3に向かうMHD対向流が2枚の分散防止板6に挟まれた中央の流路を通じて湯面5に向かって上昇し、センター部の凝固界面との接触が生じにくくなったと考えられる。
【0027】
実施例14、15は分散防止板6の垂直方向長さが短く、気泡・介在物の分散を防止する効果が比較的低いものの、表面欠陥指標は1.0以下となり分散防止板6がない比較例と対比すると優位であった。実施例16は、分散防止板6の突出量が2mmと短いが、表面欠陥指標は1.0以下となり分散防止板6がない比較例と対比すると優位であった。実施例17は、分散防止板6の突出量が400mmと長いが、表面欠陥指標は1.0以下となり分散防止板6がない比較例と対比すると優位であった。実施例18は、吐出孔の角度が上向き30°であり、湯面変動が比較的大きくなったが、表面欠陥指標は1.0以下となり分散防止板6がない比較例と対比すると優位であった。
【0028】
実施例19は、吐出孔の角度が下向き70°であり、吐出流が下向きに強くなるため、内部品質に懸念があるものの、表面欠陥指標は1.0以下となり分散防止板6がない比較例と対比すると優位であった。実施例20は、本願請求項に係る浸漬ノズルと電磁攪拌装置を併用した場合であり、電磁攪拌装置による溶鋼メニスカス付近のシェルウォッシング効果とのシナジー効果によって、実施例のなかで最も良好な表面品位となった。
【比較例】
【0029】
実施例と同じ鋳造条件で、分散防止板を有しない浸漬ノズルを用いて鋳造を行った。電磁ブレーキによる静磁場が弱い比較例21、及び22については、モールド1の長手方向に発生した強い吐出流のため、吐出流に乗った気泡や非金属介在物がモールド1の端部に運ばれて、鋳片のエッジ部分における表面品位が低下し、表面欠陥指標は1より大きくなった。電磁ブレーキによる静磁場を強くした比較例23乃至25については、、MHD対向流により巾センターでの表面品位が低下し、表面欠陥指標は1より大きくなった。
【符号の説明】
【0030】
1 モールド
2 浸漬ノズル
3 吐出孔
4 電磁ブレーキ
5 湯面
6 分散防止板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用モールド内に溶鋼を注湯するノズル本体の両側に、連続鋳造用モールドの長手方向に延びる分散防止板を、吐出孔を挟んで取り付けたことを特徴とする浸漬ノズル。
【請求項2】
分散防止板の上端高さを吐出孔の上端と湯面との間とし、分散防止板の下端高さを吐出孔の下端とノズル本体の下端との間としたことを特徴とする請求項1記載の浸漬ノズル。
【請求項3】
分散防止板のノズル本体からの水平方向の突出量を、10mm以上300mm以下としたことを特徴とする請求項1記載の浸漬ノズル。
【請求項4】
吐出孔の吐出角度を、上向き20°と下向き60°との間としたことを特徴とする請求項1記載の浸漬ノズル。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の浸漬ノズルを用い、電磁ブレーキを掛けながら連続鋳造用モールド内に溶鋼を注湯し、ノズル本体に向かう対向流を左右一対の分散防止板により湯面に向けてガイドすることを特徴とする連続鋳造方法。
【請求項6】
電磁ブレーキにより印加する静磁場を吐出孔位置において500G以上とすることを特徴とする請求項5記載の連続鋳造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−136354(P2011−136354A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296859(P2009−296859)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】