説明

消化液処理方法、有機廃棄物処理方法、消化液処理装置及び有機廃棄物処理装置

【課題】有機廃棄物をメタン発酵した際に発生する消化液を効率よく処理するだけでなく、様々なメリットを有する有機廃棄物処理装置を提供する。
【解決手段】有機廃棄物処理装置を、前処理装置100と、メタン発酵装置200と、消化液貯留槽301と、リン酸含有水貯留槽302と、貯留槽減圧手段303と、残留消化液調整装置300とを備えたものとした。リン酸含有水貯留槽302にマグネシウム化合物20を添加して貯留槽減圧手段303を駆動し、リン酸含有水貯留槽302及び消化液貯留槽301を減圧すると、消化液貯留槽301内の消化液16から発生したアンモニアガス18がリン酸含有水貯留槽302内に導入されてリン酸含有水19と接触し、リン酸マグネシウムアンモニウム22が沈殿する。残留消化液23は、残留消化液調整装置400で中和された後、前処理装置100の希釈水31として戻すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵処理で発生する消化液を処理するための消化液処理方法と、該消化液処理方法を利用した有機廃棄物処理方法と、前記消化液処理方法に好適に用いることのできる消化液処理装置と、該消化液処理装置を利用した有機廃棄物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
消化汚泥や生ゴミなどの有機性廃棄物は、これまで焼却処理や埋立て処理されるのが一般的であった。しかし、近年は、環境を保全するという観点から、環境に対する負荷の少ない方法でこれら有機性廃棄物を処理することが求められるようになってきており、様々な有機廃棄物処理方法が提案されるようになっている。なかでも、メタン菌と呼ばれる嫌気性微生物を用いて有機廃棄物に含まれる有機物を分解させる方法(メタン発酵法)が注目されている。メタン発酵法は、エネルギー源として利用可能なバイオガスを回収することができることから、環境調和型の廃棄物処理方法として大いに注目されている。
【0003】
しかし、メタン発酵法では、有機廃棄物に含まれる全ての有機物が分解されるわけではなく、その発酵過程で廃液(「消化液」と呼ばれる。)が大量に発生する。この消化液には、有機物が高濃度で残留していることに加えて、発酵過程で副生成物として生じたアンモニアや、発酵過程で増殖したメタン菌も高濃度で含まれている。したがって、メタン発酵で生じた消化液は、そのままの状態では河川や下水に放流することができず、消化液の処理は大きな問題となっている。
【0004】
このような実状に鑑みて、これまでには、メタン発酵で発生した消化液に蒸留処理を施すことにより、アンモニア性窒素を濃縮した蒸留液を生成し、該蒸留液にリン溶出材とマグネシウム化合物とを投入してリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を沈殿させて回収する方法も提案されている(例えば、特許文献1)。この方法で回収したMAPは、肥料などとして利用することもできる。
【0005】
しかし、特許文献1に記載された方法では、消化液に蒸留処理を施すために、消化液を加熱する必要があった。このため、エネルギー消費が大きく、大量の消化液を処理するものとして好適に利用できるものとはいえなかった。また、特許文献1に記載された方法は、消化液に含まれるアンモニア性窒素を濃縮した蒸留液からMAPを回収するために、やはり、MAPを回収した後の残留液の処理が問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−126744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、メタン発酵で発生した消化液を、省エネルギーで効率よく処理できるだけでなく、その処理過程で発生する各種回収物を高度化肥料などとして利用することが可能で経済的利用価値の高く、環境に対する負荷を軽減することもできる消化液処理方法を提供することを目的とする。また、この消化液処理方法を利用した有機廃棄物処理方法を提供することも本発明の目的である。さらに、この消化液処理方法に好適に用いることのできる消化液処理装置を提供することも本発明の目的である。さらにまた、この消化液処理装置を利用した有機廃棄物処理装置を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、有機廃棄物をメタン発酵処理する際に発生した消化液を消化液貯留槽に貯留するステップと、外部から供給されるリン酸含有水をリン酸含有水貯留槽に貯留するステップと、リン酸含有水貯留槽に貯留されたリン酸含有水にマグネシウム化合物を添加するステップと、リン酸含有水貯留槽を減圧することにより、リン酸含有水貯留槽とガス流路で接続された消化液貯留槽も減圧し、消化液貯留槽内の消化液から発生したアンモニアガスを前記ガス流路を通じてリン酸含有水貯留槽内に導入してリン酸含有水に接触させ、リン酸含有水中にリン酸マグネシウムアンモニウムを沈殿させるステップと、沈殿したリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を回収するステップと、を経て、消化液を処理することを特徴とする消化液処理方法の提供によって解決される。
【0009】
この消化液処理方法で回収したMAPは、高度化肥料の原料などとして利用するのに好適である。また、この消化液処理方法では、消化液のアンモニアを濃縮するのではなく、消化液からアンモニアを抜く処理を行うため、残留する消化液(残留消化液)の処理も容易である。残留消化液は、後述するように、懸濁物質などを除去して中和すれば、メタン発酵の前処理で使用する希釈水などとして再利用することもできる。さらに、消化液を加熱する必要もないので、省エネルギー化を図ることもできる。さらにまた、環境に対する負荷を軽減することもできる。
【0010】
また、上記課題は、有機廃棄物に希釈水を加えてスラリー状とするステップと、スラリー状とされた有機廃棄物にメタン発酵処理を施すステップと、メタン発酵処理で発生した消化液を消化液貯留槽に貯留するステップと、外部から供給されるリン酸含有水をリン酸含有水貯留槽に貯留するステップと、リン酸含有水貯留槽に貯留されたリン酸含有水にマグネシウム化合物を添加するステップと、リン酸含有水貯留槽を減圧することにより、リン酸含有水貯留槽とガス流路で接続された消化液貯留槽も減圧し、消化液貯留槽内の消化液から発生したアンモニアガスを前記ガス流路を通じてリン酸含有水貯留槽内に導入してリン酸含有水に接触させ、リン酸含有水中にリン酸マグネシウムアンモニウムを沈殿させるステップと、沈殿したリン酸マグネシウムアンモニウムを回収するステップと、アンモニアガスが除去されて消化液貯留槽に残留する残留消化液から懸濁物質を除去して中和するステップと、中和された残留消化液を前記希釈水として戻すステップと、を経て、有機廃棄物を処理することを特徴とする有機廃棄物処理方法の提供によっても解決される。この有機廃棄物処理方法は、上記消化液処理方法を利用したものとなっている。
【0011】
さらに、上記課題は、有機廃棄物をメタン発酵処理する際に発生した消化液を貯留するための消化液貯留槽と、外部から供給されるリン酸含有水を貯留するためのリン酸含有水貯留槽と、リン酸含有水貯留槽の内部ガスを吸引することにより、リン酸含有水貯留槽、及びリン酸含有水貯留槽とガス流路を介して接続された消化液貯留槽を減圧する貯留槽減圧手段とを備え、リン酸含有水貯留槽に貯留されたリン酸含有水にマグネシウム化合物を添加した状態で貯留槽減圧手段を駆動し、リン酸含有水貯留槽及び消化液貯留槽を減圧することにより、消化液貯留槽内の消化液から発生したアンモニアガスをリン酸含有水貯留槽内に導入してリン酸含有水と接触させ、リン酸含有水中にリン酸マグネシウムアンモニウムを沈殿させることができるようにしたことを特徴とする消化液処理装置の提供によっても解決される。この消化液処理装置は、上記消化液処理方法及び上記有機廃棄物処理方法に好適に用いることができるものとなっている。
【0012】
さらにまた、上記課題は、有機廃棄物に希釈水を加えてスラリー状とする前処理装置と、前処理装置でスラリー状とされた有機廃棄物をメタン発酵処理するためのメタン発酵装置と、メタン発酵装置で発生した消化液を貯留するための消化液貯留槽と、外部から供給されるリン酸含有水を貯留するためのリン酸含有水貯留槽と、リン酸含有水貯留槽の内部ガスを吸引することにより、リン酸含有水貯留槽、及びリン酸含有水貯留槽とガス流路を介して接続された消化液貯留槽を減圧する貯留槽減圧手段と、アンモニアガスが除去されて消化液貯留槽に残留する残留消化液から懸濁物質を除去して中和する残留消化液調整装置と、を備え、リン酸含有水貯留槽に貯留されたリン酸含有水にマグネシウム化合物を添加した状態で貯留槽減圧手段を駆動し、リン酸含有水貯留槽及び消化液貯留槽を減圧することにより、消化液貯留槽内の消化液から発生したアンモニアガスをリン酸含有水貯留槽内に導入してリン酸含有水と接触させ、リン酸含有水中にリン酸マグネシウムアンモニウムを沈殿させるとともに、残留消化液調整装置で中和された残留消化液を前記希釈水として前処理装置に戻すことができるようにしたことを特徴とする有機廃棄物処理装置の提供によっても解決される。この有機廃棄物処理装置は、上記消化液処理装置を利用したものとなっており、上記有機廃棄物処理方法に好適に用いることができるものとなっている。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によって、メタン発酵で発生した消化液を、省エネルギーで効率よく処理できるだけでなく、その処理過程で発生する各種回収物を高度化肥料などとして利用することが可能で経済的利用価値の高く、環境に対する負荷を軽減することもできる消化液処理方法を提供することが可能になる。また、この消化液処理方法を利用した有機廃棄物処理方法を提供することも可能になる。さらに、この消化液処理方法に好適に用いることのできる消化液処理装置を提供することも可能になる。さらにまた、この消化液処理装置を利用した有機廃棄物処理装置を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の有機廃棄物処理方法及び有機廃棄物処理装置の好適な実施態様を示したフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.有機廃棄物処理方法及び有機廃棄物処理装置の概要
本発明の有機廃棄物処理方法及び有機廃棄物処理装置の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図1は、本発明の有機廃棄物処理方法及び有機廃棄物処理装置の好適な実施態様を示したフロー図である。本実施態様の有機廃棄物処理装置は、図1に示すように、外部から供給された有機廃棄物10に前処理を施すための前処理装置100と、前処理装置100で前処理が施されてスラリー状となった有機廃棄物13にメタン発酵処理を施すためのメタン発酵装置200と、メタン発酵装置200で生じた消化液16から除去したアンモニア18を原料として肥料22を生成するための消化液処理装置300と、消化液処理装置300でアンモニア18が除去された後の残留消化液23を調整して前処理装置100で再利用できるようにするための残留消化液調整装置400とで構成されている。
【0016】
2.前処理装置
前処理装置100は、図1に示すように、有機廃棄物10を投入するための有機廃棄物投入部101と、有機廃棄物投入部101に投入された有機廃棄物10を細かく粉砕するための有機廃棄物粉砕手段102と、有機廃棄物粉砕手段102で粉砕された有機廃棄物11に希釈水12を注いでスラリー状とするためのスラリー生成槽103とで構成されている。投入する有機廃棄物10は、メタン発酵処理を施すことのできるものであれば特に限定されない。有機廃棄物10としては、家畜や家禽の糞尿などからなる畜産廃棄物や、家庭やレストランなどから廃棄される厨芥や、食品加工工場などから廃棄される食品加工残滓や、下水処理場や工場などで生じる汚泥などが例示される。
【0017】
有機廃棄物粉砕手段102は、有機廃棄物10を細かく粉砕できるものであれば、特に限定されない。本実施態様においては、図1に示すように、シリンダーの前端部に投入された有機廃棄物10をスクリューで粉砕しながら後方へ送るスクリューシリンダーを有機廃棄物粉砕手段102として用いている。一方、スラリー生成槽103は、有機廃棄物粉砕手段102により粉砕された有機廃棄物11と、水道などから供給された希釈水12とを、撹拌羽根で撹拌しながらスラリー状とするものを採用している。
【0018】
スラリー生成槽103へ供給する有機廃棄物11と希釈水12との比は、有機廃棄物11の元々の含水率などによっても異なり、特に限定されない。有機廃棄物11が厨芥などを粉砕したものである場合には、有機廃棄物11の重量(Wとする。)と希釈水12の重量(Wとする。)との和W+Wに対する重量Wの比W/(W+W)は、通常、0.01〜0.3、好ましくは0.05〜0.2とされる。本実施態様において、比W/(W+W)は、0.08としている。後述するように、残留消化液調整装置400で調整された調整水を希釈水31としてスラリー生成槽103に戻す場合には、希釈水31の重量(Wとする。)も加えた比W/(W+W+W)で考える。
【0019】
3.メタン発酵装置
メタン発酵装置200は、前処理装置100でスラリー状とされた有機廃棄物13にメタン発酵処理を施すものとなっている。前処理装置100におけるスラリー生成槽103からメタン発酵装置200へと有機廃棄物13を移送する流路には、有機廃棄物13を移送するためのポンプなどのスラリー移送手段(図示省略)を設けてもよい。メタン発酵装置200の具体的な構成は、従来公知となっている各種メタン発酵装置で使用されているものと同様のものを採用することができる。本実施態様においては、図1に示すように、メタン発酵槽201内に設けた撹拌羽根で有機廃棄物13を撹拌しながらメタン発酵処理を施すものとなっている。メタン発酵槽201の容量は、有機廃棄物処理装置の規模などによっても異なり、特に限定されない。有機廃棄物処理装置を大規模なものとする場合には、メタン発酵槽201の容量(メタン発酵槽201を複数の槽で構成する場合にはその合計の容量)は、通常、5m以上、好ましくは10m以上とされる。本実施態様の有機廃棄物処理装置において、メタン発酵槽201の容量は、18mとしており、有機廃棄物13を400L/日のペースでメタン発酵槽201の内部に供給し、10〜30日間程度滞留させても、遅滞なくメタン発酵処理できるようにしている。
【0020】
メタン発酵槽201の内部には、嫌気条件でメタンを合成するメタン菌が保持された担体(図示省略)が収容されている。このメタン菌によって、有機廃棄物13に含まれる多糖類や脂肪や蛋白質などが分解される。前記メタン菌によって分解された有機廃棄物13は、図1に示すように、バイオガス14(メタンと二酸化炭素のガス状物質)となってメタン発酵槽201の上部から回収される。回収されたバイオガス14は、有機廃棄物処理装置のエネルギー源として、又は他のエネルギー源として利用することができる。
【0021】
一方、バイオガス14が取り出された残りの有機廃棄物13は、図1に示すように、消化液16と、濃縮汚泥15となって、メタン発酵槽201から取り出されることになる。このうち、消化液16は、その化学的酸素要求量(COD)とアンモニア態窒素濃度が非常に高く、そのままでは河川などに排水することができない。本実施態様において、消化液16のCODは19000mg/L程度、アンモニア態窒素濃度は3400mg/L程度となっている。この消化液16は、消化液処理装置300に供給され、後述するような処理が施されることにより、高度化成肥料の原料として、あるいは、スラリー生成槽103における希釈水31として再利用される。残りの濃縮汚泥15は、堆肥として再利用することもできるし、スラリー生成槽103に返送することもできる。
【0022】
4.消化液処理装置
消化液処理装置300は、図1に示すように、メタン発酵装置200で生じた消化液16を貯留するための消化液貯留槽301と、外部から供給されるリン酸含有水19を貯留するためのリン酸含有水貯留槽302と、リン酸含有水貯留槽302の内部ガス21を吸引することにより、リン酸含有水貯留槽302及び消化液貯留槽301の内部圧力を低下させる貯留槽減圧手段303とを備えたものとなっている。消化液貯留槽301とリン酸含有水貯留槽302は、貯留槽減圧手段303の駆動時に密閉できるように、蓋付のもの(密閉容器)を使用している。メタン発酵装置200におけるメタン発酵槽201から消化液16を取り出す流路には、ポンプなどの液体移送手段(図示省略)を設けてもよい。消化液貯留槽301の容量(消化液貯留槽301を複数の槽で構成する場合には合計の容量)は、有機廃棄物処理装置の規模などによっても異なり、特に限定されないが、消化液貯留槽301では、メタン発酵槽201からオーバーフローする消化液16(スラリー生成槽103からメタン発酵槽201へ供給される有機廃棄物13の量と同等)だけ貯留できるようにすればよいので、通常、スラリー生成槽103と同等とされる。
【0023】
消化液貯留槽301に貯留された消化液16には、図1に示すように、pH上昇剤17が添加され、消化液16のpHがアルカリ側(pH7〜14)へと調整される。これにより、消化液16に含まれるアンモニウムイオンのガス化を促進して、消化液貯留槽301からリン酸含有水貯留槽302へと大量のアンモニアガス18が供給されるようにすることが可能になる。したがって、リン酸含有水貯留槽302に貯留されたリン酸含有水19からリン成分が溶出されやすくして、リン酸含有水貯留槽302でリン酸マグネシウムアンモニウム22(以下、「MAP」と表記する。)の結晶化を促進することが可能になる。pH上昇剤17としては、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムなどを例示することができる。
【0024】
pH上昇剤17によって消化液16のpHをどの程度まで調整するかは特に限定されない。しかし、pH調整後(pH上昇剤17の添加後)の消化液16のpHが低すぎると、消化液16に含まれるアンモニウムイオンがガス化しにくくなる。このため、pH調整後の消化液16のpHは、通常、8.0以上とされる。pH調整後の消化液16のpHは、8.5以上であると好ましく、9.0以上であるとより好ましい。本実施態様においては、pH上昇剤17の添加によって、消化液16のpHを7.5から10.5まで高めている。
【0025】
リン酸含有水貯留槽302には、図1に示すように、リン酸含有水19が供給されて貯留される。リン酸含有水貯留槽302の容量(リン酸含有水貯留槽302を複数の槽で構成する場合には合計の容量)は、消化液貯留槽301の容量やリン酸含有水19のリン酸濃度などによっても異なり、特に限定されないが、通常、消化液貯留槽301と同等とされる。
【0026】
リン酸含有水貯留槽302へ供給するリン酸含有水19は、リン酸を所定濃度以上で含有するものであれば特に限定されない。しかし、リン酸含有水19のリン酸濃度が低すぎると、リン酸含有水貯留槽302でMAP22が効率的に析出されなくなるおそれがある。このため、リン酸含有水19のリン酸濃度は、通常、1g/L以上とされる。リン酸含有水19のリン酸濃度は、5g/L以上であると好ましく、10g/L以上であるとより好ましい。一方、リン酸含有水19のリン酸濃度は、通常、500g/L以下とされる。このようなリン酸濃度の産業廃水をリン酸含有水19として利用すると、廃棄物処理の観点からも好ましい。具体的には、動物の骨や肉骨粉を溶かした液や、家畜や家禽の糞尿などを含む畜産廃水や、その他、工場廃水などが例示される。本実施態様においては、肉骨粉を酸で溶かした液(リン酸濃度が約100g/L)をリン酸含有水19として利用している。
【0027】
リン酸含有水貯留槽302に貯留されたリン酸含有水19には、図1に示すように、マグネシウム化合物20が添加される。これにより、リン酸含有水貯留槽302内でMAP22を析出させることが可能になる。マグネシウム化合物20としては、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムなどが例示されるが、取り扱いやすいさなどを考慮すると、炭酸マグネシウムや塩化マグネシウムが好ましい。本実施態様においては、安価な塩化マグネシウムをマグネシウム化合物20として用いている。
【0028】
マグネシウム化合物20の添加量は、特に限定されないが、リン酸含有水19に含まれるリン酸の量に対して少なくしすぎると、リン酸含有水貯留槽302でMAP22が効率的に析出されなくなるおそれがある。一方、マグネシウム化合物20の添加量を多くしすぎてもあまり意味がない。このため、マグネシウム化合物20は、通常、リン酸含有水19に含まれるリン酸の1/20〜1/2(重量比)程度添加される。リン酸含有水19に含まれるリン酸の重量に対するマグネシウム化合物20の重量の比は、1/10〜1/3であると好ましく、1/7〜1/4であるとより好ましい。本実施態様において、前記比は、1/5としている。
【0029】
ところで、消化液処理装置300が肥料の生成を開始すると、リン酸含有水貯留槽302に貯留されるリン酸含有水19の量は徐々に減少していく。減少した分のリン酸含有水17は、新たに外部から継続的又は断続的に供給される。このため、本実施態様の有機廃棄物処理方法及び有機廃棄物処理装置は、有機廃棄物投入部101に投入された有機廃棄物10だけでなく、リン酸含有水貯留槽302に供給されたリン酸含有水19(産業廃水)も処理できるものとなっており、環境に配慮したものとなっている。
【0030】
貯留槽減圧手段303は、リン酸含有水貯留槽302の内部ガス21を吸引できるものであれば特に限定されない。貯留槽減圧手段303としては、各種減圧ポンプ(真空ポンプを含む。)を採用することができる。本実施態様の有機廃棄物処理装置においても、減圧ポンプを貯留槽減圧手段303として用いている。
【0031】
貯留槽減圧手段303としてどの程度の減圧能力を有するものを採用するかは、リン酸含有水貯留槽302の内部圧力を大気圧(101.325kPa)より低くできるのであれば特に限定されない。しかし、貯留槽減圧手段303の減圧能力が低いと、リン酸含有水貯留槽302を十分に減圧できず、消化液貯留槽301からリン酸含有水貯留槽302へとアンモニアガス18が移動してこなくなるおそれがある。このため、貯留槽減圧手段303には、通常、リン酸含有水貯留槽302の内部圧力(絶対圧)を50kPa以下にまで減圧できるものが採用される。貯留槽減圧手段303は、30kPa以下まで減圧できるものであると好ましく、20kPa以下まで減圧できるものであるとより好ましい。
【0032】
一方、減圧能力が高すぎても、貯留槽減圧手段303が高価なものとなるばかりで、有機廃棄物処理装置がコストパフォーマンスに劣るものとなってしまう。消化液貯留槽301からリン酸含有水貯留槽302へアンモニアガス18を移送するという目的からすると、貯留槽減圧手段303は、リン酸含有水貯留槽302を低真空以下(0.1kPa以下)まで減圧できないものであってもよい。貯留槽減圧手段303は、リン酸含有水貯留槽302を1kPa以下まで減圧できるものでも十分で、10kPa以下まで減圧できるものであっても十分である。本実施態様の有機廃棄物処理装置において、貯留槽減圧手段303の到達真空度は、13.3kPaとなっている。貯留槽減圧手段303の吸気能力(吸気量)は、有機廃棄物処理装置の規模などを考慮して適宜調整する。
【0033】
この貯留槽減圧手段303が駆動されてリン酸含有水貯留槽302が減圧されると、消化液貯留槽301に貯留された消化液16から発生したアンモニアガス18が、導管を通じてリン酸含有水貯留槽302内へ導入される。本実施態様においては、消化液16に含まれていたアンモニアの約95%がリン酸含有水貯留槽302内へ導入される。アンモニアガス18は、リン酸含有水19中で放出されて気泡を発し、リン酸含有水貯留槽302のリン酸含有水19は、泡立った状態となる。リン酸含有水貯留槽303の内部で、アンモニアガス18に含まれるアンモニアと、リン酸含有水19に含有されるリン酸と、マグネシウム化合物20に含まれるマグネシウムとが反応して結晶化し、MAP22としてリン酸含有水19中に沈殿する。沈殿したMAP22は、リン酸含有水貯留槽302から取り出され、高度化成肥料(窒素、リン酸、カリウムのうち2種以上を含み、その重量比が30%以上の肥料)の原料として好適に利用することができる。
【0034】
5.残留消化液調整装置
本実施態様の有機廃棄物処理装置において、残留消化液調整装置400は、図1に示すように、消化液処理装置300でアンモニア18が除去されて消化液貯留槽301に残留する残留消化液23から懸濁物質(SS)24を除去するための懸濁物質除去手段401と、懸濁物質除去手段401で懸濁物質24が除去された残留消化液25に空気などの曝気ガス26を供給して曝気し、メタン発酵の阻害物質である炭酸と揮発性脂肪酸(VFA)を除去するための残留消化液曝気槽402と、残留消化液曝気槽402で曝気された残留消化液28を中和するための残留消化液中和槽403で構成されている。残留消化液中和槽403で中和された残留消化液28は、希釈水31として前処理装置100におけるスラリー生成槽103へと戻され、再度、メタン発酵処理に利用される。消化液貯留槽301から懸濁物質除去手段401へと残留消化液23を取り出す流路、懸濁物質除去手段401から残留消化液曝気槽402へと残留消化液25を移送する流路、残留消化液曝気槽402から残留消化液中和槽403へと残留消化液28を移送する流路、及び残留消化液中和槽403からスラリー生成槽103へと希釈水31を移送する流路には、ポンプなどの液体移送手段(図示省略)を設けてもよい。
【0035】
消化液貯留槽301から取り出された残留消化液23は、殆ど(約95%)のアンモニアが除去されているため、そのままの状態では液肥としての利用には適さない。また、残留消化液23のCODも当初の値(約19000mg/L)をほぼ維持しており非常に高いため、そのままの状態では残留消化液23を河川などへ放流することもできない。この点、本実施態様の有機廃棄物処理装置では、大量に発生する残留消化液23を残留消化液調整装置400で調整してメタン発酵に使用するのに適したものへと変化させ、前処理装置100におけるスラリー生成槽103へ希釈水31として再利用することができるものとなっている。このため、残留消化液23の処理費用を抑えたり、環境に対する負荷を軽減したりするだけでなく、水道などから供給する希釈水12の使用量を減らすことも可能となっている。
【0036】
懸濁物質除去手段401は、消化液貯留槽301から取り出された残留消化液23から、グラニュール汚泥などの懸濁物質24を除去できるものであれば特に限定されない。具体的には、多孔質な濾材を使用して懸濁物質24を除去するものや、懸濁物質24を沈殿させて除去するものや、これらを組み合わせたものなどが例示される。本実施態様の有機廃棄物処理装置においては、懸濁物質除去手段401として不織布からなる濾材を使用したものを使用している。
【0037】
残留消化液曝気槽402は、残留消化液25に曝気処理を施すためのものとなっている。残留消化液曝気槽402としては、その内底部に設けたノズルから曝気ガス26を吹き込むものや、その内部に設けたインラインミキサーなどで残留消化液25と曝気ガス26とを乱流混合するものなど、各種の方式のものを採用することができる。残留消化液曝気槽402の容量(残留消化液曝気槽402を複数の槽で構成する場合には合計の容量)は、消化液貯留槽301の容量などによっても異なり、特に限定されないが、通常、消化液貯留槽301と同等とされる。
【0038】
残留消化液曝気槽402に貯留された残留消化液25に吹き込む曝気ガス26の種類は、炭酸ガスを多量に含まないものであれば、特に限定されない。曝気ガス26としては、空気、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが例示される。残留消化液25中で発生させる気泡の寸法は、特に限定されないが、曝気処理をより効果的に行うためには、ある程度小さくしておくと好ましい。曝気ガス26の吹き込み流量は、曝気処理を行う残留消化液25の量や、曝気処理を行う時間などを考慮して適宜決定する。
【0039】
残留消化液曝気槽402へ貯留された残留消化液25は、そのままの状態で曝気処理を行ってもよいが、本実施態様においては、図1に示すように、残留消化液曝気槽402に予めpH降下剤27を添加して残留消化液25のpHを酸性サイド(通常、pH6.0以下)としてから曝気処理を行うようにしている。これにより、残留消化液25から炭酸や揮発性脂肪酸をより効率的に除去することが可能になる。残留消化液曝気槽402に添加するpH降下剤27としては、有機酸などの酸が例示される。残留消化液曝気槽402に貯留された残留消化液25のpHは、4.8以下まで降下させると好ましい。本実施態様においては、消化液貯留槽301でアンモニアが除去された後の残留消化液25のpHは、当初、10.5であったが、残留消化液曝気槽402でpH降下剤27を添加することにより、そのpHを1.0まで低下させている。
【0040】
残留消化液中和槽403は、残留消化液曝気槽402でpHが低下されて移送されてきた残留消化液28を貯留して中和するものとなっている。残留消化液28は、そのpHが6.0〜8.0程度となるまで中和される。本実施態様においては、図1に示すように、残留消化液貯留槽403に貯留された残留消化液28にpH上昇剤29を添加することにより、残留消化液28を中和する。pH上昇剤29としては、上述したpH上昇剤17と同様のものを使用することができる。残留消化液中和槽403では、微量の沈殿物30が沈殿する。沈殿した沈殿物30は、残留消化液中和槽403から取り出してスラリー生成槽103に返送することもできる。残留消化液中和槽403の容量(残留消化液中和槽403を複数の槽で構成する場合には合計の容量)は、残留消化液曝気槽402の容量などによっても異なり、特に限定されないが、通常、残留消化液曝気槽402と同等とされる。
【0041】
6.まとめ
以上のように、本実施態様の有機廃棄物処理方法及び有機廃棄物処理装置は、厨芥などの有機廃棄物10を処理するだけでなく、畜産廃水や工場廃水をリン酸含有水19として使用することもでき、大量多種類の廃棄物や廃水を処理できるものとなっている。また、本実施態様の有機廃棄物処理装置は、メタン発酵処理で大量に発生する消化液16を希釈水31としてメタン発酵処理に再利用することができるものとなっており、消化液16の処理にかかわる各種問題を解決することができるものとなっている。加えて、本実施態様の有機廃棄物処理装置は、その処理過程で生成されるバイオガス14をエネルギー源として、濃縮汚泥15を堆肥又はスラリー生成槽103に投入する原料として、MAP22を高度化成肥料などの肥料として、懸濁物質24を堆肥又はスラリー生成槽103に投入する原料として、沈殿物30をスラリー生成槽103に投入する原料などとして、それぞれ利用することができるものとなっており、経済的な利用価値が高いだけでなく、新たに廃棄物を発生させず、環境に対する負荷を非常に軽減できるものとなっている。
【符号の説明】
【0042】
10 有機廃棄物
11 有機廃棄物
12 希釈水
13 有機廃棄物
14 バイオガス
15 濃縮汚泥
16 消化液
17 pH上昇剤
18 アンモニアガス(アンモニア)
19 リン酸含有水
20 マグネシウム化合物
21 内部ガス
22 肥料(MAP:リン酸マグネシウムアンモニウム)
23 残留消化液
24 懸濁物質
25 残留消化液
26 曝気ガス
27 pH降下剤
28 残留消化液
29 pH上昇剤
30 沈殿物
31 希釈水
100 前処理装置
101 有機廃棄物投入部
102 有機廃棄物粉砕手段
103 スラリー生成槽
200 メタン発酵装置
201 メタン発酵槽
300 消化液処理装置
301 消化液貯留槽
302 リン酸含有水貯留槽
303 貯留槽減圧手段
400 残留消化液調整装置
401 懸濁物質除去手段
402 残留消化液曝気槽
403 残留消化液中和槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機廃棄物をメタン発酵処理する際に発生した消化液を消化液貯留槽に貯留するステップと、
外部から供給されるリン酸含有水をリン酸含有水貯留槽に貯留するステップと、
リン酸含有水貯留槽に貯留されたリン酸含有水にマグネシウム化合物を添加するステップと、
リン酸含有水貯留槽を減圧することにより、リン酸含有水貯留槽とガス流路で接続された消化液貯留槽も減圧し、消化液貯留槽内の消化液から発生したアンモニアガスを前記ガス流路を通じてリン酸含有水貯留槽内に導入してリン酸含有水に接触させ、リン酸含有水中にリン酸マグネシウムアンモニウムを沈殿させるステップと、
沈殿したリン酸マグネシウムアンモニウムを回収するステップと、
を経て、消化液を処理することを特徴とする消化液処理方法。
【請求項2】
有機廃棄物に希釈水を加えてスラリー状とするステップと、
スラリー状とされた有機廃棄物にメタン発酵処理を施すステップと、
メタン発酵処理で発生した消化液を消化液貯留槽に貯留するステップと、
外部から供給されるリン酸含有水をリン酸含有水貯留槽に貯留するステップと、
リン酸含有水貯留槽に貯留されたリン酸含有水にマグネシウム化合物を添加するステップと、
リン酸含有水貯留槽を減圧することにより、リン酸含有水貯留槽とガス流路で接続された消化液貯留槽も減圧し、消化液貯留槽内の消化液から発生したアンモニアガスを前記ガス流路を通じてリン酸含有水貯留槽内に導入してリン酸含有水に接触させ、リン酸含有水中にリン酸マグネシウムアンモニウムを沈殿させるステップと、
沈殿したリン酸マグネシウムアンモニウムを回収するステップと、
アンモニアガスが除去されて消化液貯留槽に残留する残留消化液から懸濁物質を除去して中和するステップと、
中和された残留消化液を前記希釈水として戻すステップと、
を経て、有機廃棄物を処理することを特徴とする有機廃棄物処理方法。
【請求項3】
有機廃棄物をメタン発酵処理する際に発生した消化液を貯留するための消化液貯留槽と、
外部から供給されるリン酸含有水を貯留するためのリン酸含有水貯留槽と、
リン酸含有水貯留槽の内部ガスを吸引することにより、リン酸含有水貯留槽、及びリン酸含有水貯留槽とガス流路を介して接続された消化液貯留槽を減圧する貯留槽減圧手段とを備え、
リン酸含有水貯留槽に貯留されたリン酸含有水にマグネシウム化合物を添加した状態で貯留槽減圧手段を駆動し、リン酸含有水貯留槽及び消化液貯留槽を減圧することにより、消化液貯留槽内の消化液から発生したアンモニアガスをリン酸含有水貯留槽内に導入してリン酸含有水と接触させ、リン酸含有水中にリン酸マグネシウムアンモニウムを沈殿させることができるようにしたことを特徴とする消化液処理装置。
【請求項4】
有機廃棄物に希釈水を加えてスラリー状とする前処理装置と、
前処理装置でスラリー状とされた有機廃棄物をメタン発酵処理するためのメタン発酵装置と、
メタン発酵装置で発生した消化液を貯留するための消化液貯留槽と、
外部から供給されるリン酸含有水を貯留するためのリン酸含有水貯留槽と、
リン酸含有水貯留槽の内部ガスを吸引することにより、リン酸含有水貯留槽、及びリン酸含有水貯留槽とガス流路を介して接続された消化液貯留槽を減圧する貯留槽減圧手段と、
アンモニアガスが除去されて消化液貯留槽に残留する残留消化液から懸濁物質を除去して中和する残留消化液調整装置と、
を備え、
リン酸含有水貯留槽に貯留されたリン酸含有水にマグネシウム化合物を添加した状態で貯留槽減圧手段を駆動し、リン酸含有水貯留槽及び消化液貯留槽を減圧することにより、消化液貯留槽内の消化液から発生したアンモニアガスをリン酸含有水貯留槽内に導入してリン酸含有水と接触させ、リン酸含有水中にリン酸マグネシウムアンモニウムを沈殿させるとともに、
残留消化液調整装置で中和された残留消化液を前記希釈水として前処理装置に戻すことができるようにしたことを特徴とする有機廃棄物処理装置。


【図1】
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【公開番号】特開2011−235228(P2011−235228A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108281(P2010−108281)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(504007006)公協産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】