説明

消化管障害の治療のための代謝調節型グルタミン酸受容体5(mGLuR5)拮抗剤の使用

本発明は、代謝調節型グルタミン酸受容体5 (mGluR5) 拮抗剤の機能性消化管障害たとえば機能性消化不良の治療のための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性消化不良のような機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorder)の治療のための代謝調節型(metabotropic)グルタミン酸受容体5(mGluR5)拮抗剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性消化管障害例えば機能性消化不良は、Thompson WG, Longstreth GF, Drossman DA, Heaton KW, Irvine EJ, Mueller-Lissner SA. C. Functional Bowel Disorders and Functional Abdominal Pain. In: Drossman DA, Talley NJ, Thompson WG, Whitehead WE, Coraziarri E,編、Rome II: Functional Gastrointestinal Disorders: Diagnosis, Pathophysiology and Treatment. 2版、McLean, VA: Degnon Associates, Inc.; 2000:351-432およびDrossman DA, Corazziari E, Talley NJ, Thompson WG and Whitehead WE. Rome II: A multinational consensus document on Functional Gastrointestinal Disorders. Gut 45(Suppl.2), II1-II81.9-1-1999により定義される。
【0003】
代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluR)は、中枢神経系(CNS)における多数のシナプスの調節および活性に関わるGタンパク質共役受容体である。8個の代謝調節型グルタミン酸受容体 サブタイプが同定されており、配列の類似性に基づき3つのグループに細分される。グループIは、mGluR1およびmGluR5からなる。これらの受容体はホスホリパーゼCを活性化し、ニューロンの興奮性を増加する。mGluR2およびmGluR3からなるグループIIならびにmGluR4、mGluR6、mGluR7およびmGluR8からなるグループIIIは、アデニル酸シクラーゼ活性を阻害することができ、シナプス伝達を減少させる。これらの受容体のいくつかは選択的スプライシングによって生じる各種のイソホームとしても存在する(Chen, C-Y等、Journal of Physiology (2002), 538.3, pp. 773-786; Pin, J-P等、European Journal of Pharmacology (1999), 375, pp. 277-294; Braeuner-Osborne, H等Journal of Medicinal Chemistry (2000), 43, pp. 2609-2645; Schoepp, D.D, Jane D.E. Monn J.A. Neuropharmacology (1999), 38, pp. 1431-1476)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、機能性消化管障害たとえば機能性消化不良の治療の新規な方法を見出すことであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
代謝調節型グルタミン酸受容体5(mGluR5) 拮抗剤は、機能性消化管障害たとえば機能性消化不良の治療に有用である。
【0006】
つまり 本発明は、機能性消化管障害たとえば機能性消化不良の治療用医薬の製造のための代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤の使用に関する。
【0007】
機能性消化不良には、上腹部に集中する痛みまたは不快感が挙げられる。不快感は、上腹部の充満、早い満腹感、膨満感または吐き気により特徴付けられるかこれらと組み合わさることがある。病因学的には、機能性消化不良の患者は、2つのグループに分けられる。
1.不特定の臨床関連性の、特定可能な病態生理的または微生物学的な異常を持つもの(たとえば、ヘリコバクターピロリ胃炎、組織学的十二指腸炎、胆石症、内臓過敏症、 胃十二指腸運動障害)。
2.症状に対して特定可能な説明のできない患者。
【0008】
機能性消化不良は次のように診断できる。
それに先立つ12ヶ月以内に連続的である必要はないが、少なくとも12週間、
1.持続性のまたは再発する消化不良(上腹部に集中する痛みまたは不快感)があり、そして
2.その症状を説明するような器官性疾患の証拠(上部消化管内視鏡検査を含む)が無く、また
3.消化不良が排便によってのみ緩解されるとか便通の頻度または形態の変化の始まりと関連しているという証拠が無いこと。
【0009】
機能性消化不良は、潰瘍様消化不良、 蠕動低下様消化不良および特定化されない(非特異性)消化不良のような特定の症状パターンに基づき、サブセットに分けられる。
【0010】
現在存在する機能性消化不良の治療は、主として経験的でありそして主たる症状の緩解に向けられている。最も一般的に用いられる療法は依然として抗うつ剤を用いる。
【0011】
本発明において、用語「拮抗剤」は完全拮抗剤(full antagonist)、逆作用剤(inverse agonist)、非競合的拮抗剤のみならず、部分的拮抗剤を含むものと理解されるべきで、ここで部分的拮抗剤とは、代謝調節型グルタミン酸受容体5を部分的に、しかして完全ではなく不活性化することのできる化合物であると理解されるべきである。
【0012】
本発明は、機能性消化管障害たとえば機能性消化不良の治療効果を有するあらゆるmGluR5拮抗剤の使用に関する。
【0013】
用語「治療」および/または「療法」は、これに反する特定の指示が無ければ「予防」をも含む。用語「治療的」および「治療的に」はこれに準じて解釈される。
【0014】
用語「治療効果」は、ここにおいて機能性消化管障害たとえば機能性消化不良の治療および/または療法に関連して有利な効果として定義される。
【0015】
代謝調節型グルタミン酸受容体5に対して拮抗剤な親和性を有し、それにより本発明に有用な化合物の一例は、化合物2−メチル−6−(フェニルエチニル)−ピリジン(しばしばMPEPと略称される)である。MPEPはたとえばTocrisから商業的に入手することができ、またはK. Sonogashira等Tetrahedron Lett. (1975), 50, 4467-4470に開示されたような良く知られた方法に従って合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
医薬品製剤化
臨床的使用のため、代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤は、本発明に従い経口投与用の薬品製剤に適宜製剤化される。経腸、非経口または投与の他のあらゆる経路もまた製剤化の技術に精通した人により考案される。このように代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤は少なくと一つの薬学的にまた薬理学的に許容可能な担体またはアジュバントとともに製剤化される。担体は、固体、半固体または液体希釈剤の形態であることができる。
【0017】
本発明による経口医薬品製剤の製造において、製剤化される代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤は、固形の粉末化された成分たとえばラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アミロペクチン、セルロース誘導体、ゼラチンまたはその他の適当な成分、および崩壊剤および潤滑剤、たとえばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマレートナトリウムおよびポリエチレングリコールワックスと混合して製剤化される。この混合物は次いで顆粒とされるかまたは錠剤に圧縮される。
【0018】
ソフトゼラチンカプセルは、本発明の活性化合物または化合物類、植物油、油脂、またはソフトゼラチンカプセルに適当な他の担体の混合物を含有するカプセルで製造することができる。ハードゼラチンカプセルは、活性化合物を固体の粉末化された成分たとえばラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、アミロペクチン、セルロース誘導体またはゼラチンと組み合わせて含有することができる。
【0019】
直腸投与の用量単位は、(i)中性の脂肪基剤と混合された活性物質を含有する座剤の形態で;(ii)植物油、パラフィン油、またはゼラチン直腸カプセルに適当な他の担体との混合物中に活性物質を含有するゼラチン直腸カプセルの形態で;(iii)調製済みミクロ浣腸の形態で;または(iv)投与直前に適当な溶媒中で再構成される乾燥ミクロ浣腸製剤の形態で製造される。
【0020】
経口投与のための液体製剤は、シロップ、懸濁液、たとえば、活性物質および糖または糖アルコールからなる製剤の残りの成分、およびエタノール、水、グリセリン、およびポリエチレングリコールの混合物を含む溶液または懸濁液の形態で製造することができる。必要に応じて、そのような液体製剤は、着色剤、芳香剤、サッカリンおよびカルボキシメチルセルロースまたは他の増粘剤を含むことができる。経口用液体製剤は、使用前に適当な溶媒で再構成される乾燥粉末の形態で製造することができる。
【0021】
非経口投与のための溶液は本発明化合物の薬学的に許容される溶媒中の溶液として製造することができる。これらの溶液は安定化剤および/または緩衝剤を含むことができ、アンプルまたはバイアルの形態で用量単位に分注される。非経口投与のための溶液は使用前に即座に適当な溶媒で再構成される乾燥製剤としても製造することができる。
【0022】
本発明の態様において、代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤は1日1回または2回患者の状態の程度に応じて投与することができる。
【0023】
生物学的評価
方法は以下のとおりである。
機能性消化管障害、特に機能性消化不良のためのモデルとして、インビボ胃膨張モデル(Bayati A, Astin M, Ekman C, Mattsson H. Wistar Kyoto rats have impaired gastric adaptive accommodation in response to gasric distension. Gastroenterology 2003; 124 (4, suppl 1): W1471 (要約))が使用される。
【0024】
胃膨張モデルは、胃の物理運動的な性質、たとえば 基礎的な胃の調子、適応の閾値、適応率、適応容積および最大胃容積の詳細な分析を可能とする。ラットとヒトにおいて同じモデルを用いることにより、胃容積反応はラットの腺性胃においてヒトの 基部胃のそれに非常に似ていることが見出された。さらには、機能性消化不良の患者およびウイスターキョウト(WKY)ラットは、それぞれ健常なヒトおよびスプラーグダウリー(SD)ラットと比較して、障害された胃の適応応答および少ない総胃容積をも持っていることがわかった。さらに、この方法は再現性があり信頼できることが示された。さらに、ここで使われたバロスタット(圧調節)技術は、実験的臨床研究に用いられる他のバロスタット技術と比較して、化合物が胃の平滑筋に直接作用する場合と、その効果が迷走神経の反射機構を介している場合とを区別することができるという利点がある。
【0025】
ラットは、胃に長期亘って埋め込まれた痩孔を備えている。胃のバロスタット実験の間、球形の膨らませることができるプラスチックバッグが痩孔を通して胃の分泌腺部(ラット中で中間から先端部)に挿入される。実験は知覚反応のあるラットで行う。胃の物理運動的な性質の詳細な分析のために、ランプ−アンド−トニック膨張パラダイム(ramp and tonic distension paradigm)の組み合わせを用いた。実験中に集められた圧力および容積データは分析のために蓄積した。動物の最大の胃適応能力を決めるため、バルーンを動物の胃に挿入し、スタート相、ランプ相、トニック相およびエンド相を含む4相プロトコールを実施した。バロスタットシステムは、バルーンに空気をポンプで吹き込み吸い出して圧力を維持する。圧力をバルーンにかけ、それに対応するバルーンの容積変化を、たとえば公知のバロスタットシステム(たとえば、Toma等、Neurogastroenterol. Mot., 8, 19-28, 1996参照)によりずっとモニターした。
【0026】
スタート相においては、最小の膨張圧、例えば1mmHgをバルーンにかけベースライン値を得た。次はランプ相である。この相において、バルーンにかける圧力を一定の圧力増加で直線的に増加し、予め定めた最大値とする。この第2の相に次いでトニック相を行い、ここでは予め定めた最大圧を一定に維持した。最後に圧力を最初の最小膨張圧まで急激に下げる。これはエンド相として知られている。
【0027】
薬剤たとえば化合物がFDの治療に有効であるか否かを決めるため、化合物を投与した後のWKYラットにおける最大胃適応率を計算する。有効な化合物は、動物における最大胃適応率を変化させる化合物である。最大胃適応率は、化合物の投与の前後における最大胃適応率の差を決めることにより計算される。
【0028】
ウイスターキョウトラット(WKY; M&B Denmark)は、実験が午前中に行われるか午後に行われるかにより、各実験の前に約6または18時間絶食させられる。バルーンは、痩孔を通して麻酔 (Forene(登録商標)、 Abbott Scandinavia AB)下で胃中に挿入され、痩孔の引き締めによりその場所に固定される。壁厚約15μmの球形のバルーンは、非膨張最大直径は25mm、最大容積は約7mlであり、外直径1.40mmで長さ約20cmのポリエチレン製カテーテルに結合される。バルーンを挿入後、動物を特別にデザインされたボルマン(Bollmann)ケージに入れる。次いでバルーンからのカテーテルをバロスタットシステムに圧力トランスデューサーを介して結合する。
【0029】
実験後に、バルーンおよび連結ケーブルをイソフルラン麻酔下で取り除き、動物を通常のケージに戻す。
【0030】
WKYラットに用いられるランプおよびトニック膨張は、最小膨張圧力1mmHgで開始しそれを20分継続しベースライン値を得る。次いで、圧力を1mmHg/minの速度で10分間増加して最大圧力10mmHg (ランプ相)とする。ついで、バロスタットは、圧力をその最大圧力に更に10分間維持する(トニック相)。トニック相の後、圧力を1mmHgの最小膨張圧に1秒で落とす。次いで、圧力はこのレベルでさらに20分間維持される。
【0031】
結果
以下にMPEPを用いた場合の結果を示す。
代謝調節型グルタミン酸受容体サブタイプ5(mGlu5) 拮抗剤である2−メチル−6−(フェニルエチニル)−ピリジン(MPEP)をランプ相開始の約2〜5分前に尾の静脈に静脈内投与した。実験は上記のように行った。得られた結果を図1に示した。
【0032】
図1に示した結果は、MPEPはWKYラットにおいて10μmol/kgの用量で、コントロール条件に比較して最大胃容積の増加に加え、トニック相およびランプ相の両方で胃容積の増加を誘導した。増加した最大胃容積は、たぶん観察された適応率の増加によるものである(トニック相の間の容積カーブの傾き)。したがって、MPEPはWKYラットにおいて適応能力を増加したと結論される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】MPEPをWKY雌ラットにランプ相開始の約2〜5分前に尾の静脈内に投与して得られる結果をコントロールと対比して示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤、またはその薬学的に許容し得る塩、またはその光学異性体の、機能性消化管障害の治療用医薬品の製造のための使用。
【請求項2】
機能性消化管障害が機能性消化不良である、請求項1の使用。
【請求項3】
代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤が、2−メチル−6−(フェニルエチニル)−ピリジンである請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤が、2−メチル−6−(フェニルエチニル)−ピリジンの塩酸塩である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
薬学的におよび薬理学的に有効量の代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤またはその薬学的に許容し得る塩またはその光学異性体が、そのような治療を必要とする患者に投与される、機能性消化管障害の治療方法。
【請求項6】
機能性消化管障害が機能性消化不良である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤が、2−メチル−6−(フェニルエチニル)−ピリジンである請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
代謝調節型グルタミン酸受容体5拮抗剤が、2−メチル−6−(フェニルエチニル)−ピリジン塩酸塩である請求項7に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−514741(P2007−514741A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545280(P2006−545280)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001819
【国際公開番号】WO2005/058321
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】