説明

消去可能な画像形成材料

【課題】 熱消色性能及び発色性の維持に優れた画像形成材料を提供する。
【解決手段】 消去可能な画像形成材料の呈色性化合物中にCVLと、第二の呈色性化合物を微量に添加することにより、耐光性能と熱消色性能を同時に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消去可能な画像形成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境の保護及びCOによる温室効果を抑制するためには森林の保護は絶対条件である。新たな伐採を最低限に維持し、植林を含めた森林再生とのバランスを保つためには現在既に保有している紙資源を如何に効率よく利用していくかが大きな課題となる。
【0003】
現在の紙資源の再利用は、画像形成材料を剥離させる脱墨工程を経た紙繊維を質の悪い紙に漉き直して目的別に使い分ける「リサイクル」であり、これは、脱墨工程のコスト高の問題や廃液の処理による新たな環境汚染の可能性などが指摘されている。
【0004】
一方で、これまでに古くは鉛筆とケシゴム、筆記用具と修正液にあるように、画像の修正によるハードコピーの再利用、即ち「リユース」に関しても実用化がなされてきている。ここで紙質の劣化を極力防ぎ同一の目的に複数回使用する「リユース」は、紙質を落としながら他の目的に使用する「リサイクル」とは異なる概念であり、紙資源の保護の観点からみればより重要な概念であるといえる。それぞれの「リサイクル」の前段階で有効な「リユース」が行われれば新たに必要な紙資源を最小限に抑えることができる。例えば近年、ハードコピー用紙のリユースを目的とした特殊紙であるリライタブルペーパーなどが提案されてきている。リライタブルペーパーの技術を用いると、使用による皺や折れ曲がり等の紙の痛みを気にしなければ100回以上の「リユース」が可能であり、紙資源の利用効率は飛躍的に向上することになる。
【0005】
しかし上述のリライタブルペーパーは、特殊紙を使うために、「リユース」はできても「リサイクル」ができない技術であり、また熱記録以外の記録技術に適用できないという欠点を有していた。
【0006】
これに対し発明者らは、呈色性化合物と顕色剤との相互作用が増大すると発色状態となり、相互作用が減少すると消色状態になることに着目して、呈色性化合物及び顕色剤を含有する組成系に新たに消色材を加えることにより、室温付近の温度で発色状態が安定に存在し、かつ、熱や溶媒による処理で、実用温度において長期に消色状態を固定する画像形成材料や、画像消去プロセス、画像消去装置を開発し、現行技術に代わる有効な紙のリユース技術として提案してきた。
【0007】
発明者らの提案した画像形成材料は、画像の発色・消色状態の安定性が高く、加えて材料的にも安全性が高く、また電子写真用トナー、液体インク、インクリボン、筆記用具全てに対応可能であり、更に大規模消去処理が可能であるという従来の技術にないメリットを有している。
【0008】
更に発明者らは、「紙」の構成要素であるセルロースが消色剤の機能を有することを発見し、紙を被記録媒体に用いる限定用途においては、消去剤を含有しないインクでも、前記の2種の方法で消色可能であることを提案している。
【0009】
例えば、特許文献1には呈色性化合物、顕色剤およびバインダー樹脂を含有する画像形成材料により、鮮明な画像を形成でき、しかも良好に画像を消去できる画像形成材料について開示している。これは、バインダー樹脂が、昇温時に呈色性化合物と顕色剤との平衡が非発色側へ移動し、温度低下時に非発色側に移動した状態を維持できるため、消去可能となる。
【0010】
これらに含有するロイコ染料として知られる呈色性化合物は、ロイコオーラミン類、ジアリールフタリド類、ポリアリールカルビノール類、アシルオーラミン類、アリールオーラミン類、ローダミンBラクタム類、アザフタリド類、スピロピラン類、フルオラン類等の電子供与性有機物が挙げられる。
【0011】
多くのロイコ染料の中でも、特にクリスタルバイオレットラクトン(以下CVLという)は、他のロイコ染料に比較して優れた熱消色性を示す材料である。他のロイコ染料の場合、耐光性能に優れているがCVLに近い熱消色性を示す材料は無い。しかしながら、CVLは光によって容易に分解するという点で問題があった。
【特許文献1】特開2000−284520公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、熱消去性能及び、発色性の維持に優れた画像形成材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明による消去可能な画像形成材料は、呈色性化合物、顕色剤、バインダー樹脂を含有する消去可能な画像記録材料であって、前記呈色性化合物としては下記一般式(1)で表されるフルオラン化合物またはその誘導体と、クリスタルバイオレットラクトンとの少なくとも2種の呈色性化合物を含有していることを特徴とする。
【化1】

【0014】
また、前記クリスタルバイオレットラクトンが前記呈色性化合物中に75%以上含まれることが好ましい。
【0015】
また、前記呈色性化合物中に含有されるフルオラン化合物が2-アニリノ-6-(N-エチル-N- イソペンチルアミノ)-3-メチルフルオラン、又は2-アニリノ-6-(N-エチル-N- イソブチルアミノ)-3-メチルフルオランであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば熱消去性能及び発色性の維持に優れた画像形成材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明者らは、呈色性化合物、顕色剤、バインダー樹脂を含有する消去可能な画像記録材料中における呈色性化合物に、クリスタルバイオレットラクトン(CVL)を用い、その一部に、特定のロイコ染料を添加することによって、CVLが有する消色性能を低下させずに、耐光性能を改善できることを見出した。
【0019】
本実施形態における消去可能な画像形成材料は、呈色性化合物と、顕色剤と、バインダー樹脂とを含有する。この画像形成材料は、呈色性化合物および顕色剤を発色状態でバインダー樹脂に分散させて調製される。この状態においては呈色性化合物と顕色剤とが相互作用しているため発色している。このような画像形成材料を微粒子にすることで電子写真などの方法により紙上に鮮明な画像を形成できる。
【0020】
また、この画像形成材料は加熱により消去(消色)することが可能である。
【0021】
本実施形態における画像形成材料の消色は、加熱時にバインダー樹脂が呈色性化合物と選択的に相溶することにより呈色性化合物と顕色剤とが相互作用しなくなることによる。これは紙の加熱時に、呈色性化合物はバインダー樹脂と相溶するが、顕色剤はバインダー樹脂との親和性が低くなるためである。
【0022】
本実施形態では、呈色性化合物は、CVLと下記の一般式(1)の形で表されるフルオラン化合物またはその誘導体を使用している。特に、黒色系のフルオラン化合物もしくはその誘導体が好ましい。
【化2】

【0023】
フルオラン化合物としては、例えば、2-アニリノ-6-(N,N-ジエチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N,N-ジプロピルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N,N-ジブチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N,N-ジペンチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N,N-ジヘキシルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N,N-ジオクチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N,N-ジイソプロピルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N,N-ジイソブチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N,N-ジイソペンチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-メチル-N-エチルアミノ)- 3- メチル-フルオラン、2-アニリノ-6-(N-メチル-N- イソプロピルアミノ)- 3- メチル-フルオラン、2-アニリノ-6-(N-メチル-N-- イソブチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-メチル-N- イソペンチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-メチル-N- プロピルアミノ)- 3- メチル-フルオラン、2-アニリノ-6-(N-メチル-N-- ブチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-メチル-N-ペンチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-メチル-N-ヘキシルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-メチル-N-オクチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-エチル-N- プロピルアミノ)- 3- メチル-フルオラン、2-アニリノ-6-(N-エチル-N- イソブチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-エチル-N- ペンチルアミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-エチル-N- 2-メチルブチル)アミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-エチル-N- 2-エチルプロピル)アミノ)-3-メチルフルオラン、2-アニリノ-6-(N-エチル-N-ヘキシルアミノ)-3-メチルフルオランなどが挙げられる。フルオラン化合物の誘導体としては、例えば、下記の一般式(2)の形で表されるフルオラン化合物の誘導体、下記一般式(3)で表されるフルオラン化合物の誘導体、あるいは、下記一般(4)で表されるフルオラン化合物の誘導体を使用することができる。
【化3】

【0024】
呈色性化合物中のフルオラン化合物の比率は0.01%以上40%以下が好ましい。呈色性化合物中のフルオラン化合物が40%よりも多いと本実施形態における画像形成材料の消去性能が悪くなる。また、0.01%よりも少ないと呈色性化合物中のフルオラン化合物の分散が十分でなくなり、画像形成材料中でのフルオラン化合物の分布に偏りが生じる可能性がある。
【0025】
また顕色剤は、前述した呈色性化合物と相互作用して呈色性化合物を発色させるものであって、例えば、フェノール類、フェノール金属塩類、カルボン酸金属塩類、ベンゾフェノン類、スルホン酸、スルホン酸塩、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類等が挙げられ、これらを1種または2種以上混合して用いることが可能である。特に、没色子酸、及び没色子酸メチル、没色子酸エチル、没色子酸n-プロピル、没色子酸 i-ブチルなど没色子酸エステル、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸メチルなどジヒドロキシ安息香酸及びソノエステル、2,4-ジヒドロキシアセトフェノン、2,5-ジヒドロキシアセトフェノン、2,6-ジヒドロキシアセトフェノン、3,5-ジヒドロキシアセトフェノン、2,3,4-トリヒドロキシアセトフェノンなどヒドロキシアセトフェノン類、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンなどヒドロキシベンゾフェノン類、2,4’-ビフェノール、4,4’-ビフェノールなどビフェノール類、4-[(4-ヒドロキシフェニル)メチル]-1,2,3-ベンゼントリオール、4-[(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メチル]-1,2,3-ベンゼントリオール、4,6-ビス[(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メチル]-1,2,3-ベンゼントリオール、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)ビス(ベンゼン-1,2,3-トリオール)]、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)ビス(1,2-ベンゼンジオール)]、4,4’,4’’-エチリデントリスフェノール、4,4’-(1-メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレントリス-p-クレゾールなど多価フェノール類等を使用することがより好ましい。最も好適な顕色剤は、没色子酸エチル、没色子酸n-プロピル、没色子酸i−プロピル、没色子酸ブチルなど没色子酸エステルと、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,
3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンなどヒドロキシベンゾフェノン類である。
【0026】
またバインダー樹脂は、画像形成材料作製時に呈色性化合物と顕色剤を発色状態で分散させるものである。一方、加熱時には呈色性化合物と相溶し、顕色剤と親和性を有しない特性をもったものである。
【0027】
例えば、ポリスチレン、ポリスチレン誘導体、及びスチレンの共重合体を使用することが可能である。これらの樹脂の製造に用いられるスチレン系単量体の具体例としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルステレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert--ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロルスチレン及び3,4-ジクロルスチレン等がある。これらのスチレン系単量体は組合せて用いてもよい。
【0028】
スチレン系の単量体と極性基を有する単量体とを共重合させてもよい。極性基を有すると単量体は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、メタアクリロニトリル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジブチル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル及びイソブチルエーテルなどを用いるこが可能である。これらの極性基を有するビニル系単量体は単独であるいは2種以上組合せて用いることができる。
【0029】
共重合体からなる好適なバインダー樹脂としては、スチレン・n-ブチルメタクリレート、スチレン・イソブチルメタクリレート、スチレン・エチルアクリレート、スチレン・n-ブチルアクリレート、スチレン・メチルメタクリレート、スチレン・グリシジルメタクリレート、スチレン・ジメチルアミノエチルメタクリレート、スチレン・ジエチルアミノエチルメタクリレート、スチレン・ジエチルアミノプロピルアクリレート、スチレン・2-エチルヘキシルアクリレート、スチレン・ブチルアクリレート-N-(エトキシメチル)アクリルアミド、スチレン・エチレングリコールメタクリレート、スチレン・4-ヘキサフルオロブチルメタクリレート、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン三元共重合体、アクリロニトリル・スチレン・アクリル酸エステル三元共重合体、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・塩素化ポリスチレン・スチレン三元共重合体、アクリロニトリル・エチレン酢酸ビニル・スチレン三元共重合体、スチレン・p−クロロスチレン共重合体、スチレン・プロピレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・マレイン酸エステル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体等を使用することも可能である。このようなアクリレートモノマーは一種類だけ用いて共重合させてもよいし、二種類以上のモノマーを混合してスチレンと共重合させて用いてもよい。
【0030】
ブタジエン、マレイン酸エステル、クロロプレン等を共重合させた共重合体を用いてもよいが、これらの成分のバインダー樹脂中の重量比率は10%以下であることがより望ましい範囲である。上記したアクリレートモノマーの重合体をポリスチレンと混合して用いることもできる。この場合、ポリアクリレート成分は一種類のホモポリマーが混ざったものでもよいし、あるいは、共重合体でもよい。また、スチレン、あるいは、アクリレートにブタジエン、マレイン酸エステル、クロロプレン等を10%以下の割合で共重合させたものを用いてもよい。
【0031】
また一般に、トナー用樹脂の熱特性は、軟化点、ガラス転移点の値で代表され、軟化点が60〜190℃、ガラス転移点が20〜110℃のもの使用されるが、本実施形態に係る画像形成材料を用いる場合、バインダー樹脂に好適な熱特性は、軟化点は95〜160℃、ガラス転移点は50〜80℃である。軟化点及びガラス転移点が前述の温度よりも高いとトナーの定着温度が高温になり、定着時に消色する恐れがある。軟化点及びガラス転移店が低いとトナーの保存・安定性が悪くなる。軟化点はフローテスタなどにより測定することが可能であり、ガラス転移点はDSC(Differential Scanning Calorimeter:示差走査型熱量計)などで測定される。
【0032】
ここで、軟化点はフローテスタ(島津製作所製CFT−500)を用いて、ノズル:1.0mmφ×10.0mm、荷重:30kg・f 、昇温速度:3℃/min. 、サンプル量:1.0gの条件で、サンプル流出量が半分に達した時の温度(T1/2)、ガラス点移転はDSCで溶融急冷(メルトクエンチ)後、ショルダー値として求めた温度である。ショルダー値とは、比熱の変化の変曲点で、比熱が変わる前後の「始点と終点の中間点」を指す。
【0033】
本実施形態においては、一般にバインダー樹脂に含有される極性基の量は少ない程良い。バインダー樹脂に含有される極性基の量が少ないと、画像形成材料を混練により調整した場合、呈色濃度が高くなる。一方で、加熱時における呈色性化合物とバインダー樹脂との相溶性も同時に高くなる。従って、発色・消色のコントラストが高くなるため、極性基の量の少ないものを用いると良い。
【0034】
発色・消色のコントラストが高いバインダー樹脂としては、例えば、ポリスチレンやポリオレフィンのような非極性樹脂が挙げられる。トナー用樹脂に使用する場合には、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・プロピレン共重合体及びその誘導体がより良い樹脂として挙げられる。
【0035】
本実施形態における画像形成材料をトナーの用途に適用する場合に、呈色性化合物、顕色剤およびバインダー樹脂以外に添加される各種の材料について説明する。
【0036】
まず、トナーの帯電特性を調整するため、添加剤(以下帯電制御剤という)を用いてもよい。帯電制御剤としては、消去した際に帯電制御剤の色が残らないことが良い。そのため、帯電制御剤は無色または透明であることが好ましいが、一般に使われる帯電制御剤のうち、負帯電の材料としてはオリエント化学のE−89(カリックスアレーン誘導体)、日本カーリットのN−1、N−2、N−3(ともにフェノール系化合物)、LR147(ホウ素系化合物)、藤倉化成のFCA−1001N(スチレンースルホン酸系樹脂)などを用いることができる。より好適な化合物として、E−89やLR147が例示される。正帯電の材料としては保土谷化学のTP−302(CAS#116810−46−9)、TP−415(同117342−25−2)、オリエント化学のP−51(4級アミン化合物)、AFP−B(ポリアミンオリゴマー)、藤倉化成のFCA−201PB(スチレンーアクリル四級アンモニウム塩系樹脂)などが挙げられる。
【0037】
また、定着性を制御するためにワックス類などを配合してもよい。本実施形態の画像形成材料に用いるワックス類としては、呈色性化合物を発色することがない成分で構成されていることが好ましい。例えば、高級アルコール、高級ケトン、高級脂肪族エステル等を用いることが好ましく、酸価で規定するならば10mgKOH/g以下が良い。またこれらは、重量平均分子量が10〜10、更には10〜10のものを用いることがより好ましい。重量平均分子量がこのような範囲であれば、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリブチレン、低分子量ポリアルカンなどを用いることも可能である。これらワックス類の添加量は、0.1〜30重量部、更には0.5〜15重量部が好ましい。なお、ヒートロール定着用トナーの場合ヒートロールからの離型性能を付与するために添加されるため、添加量が5重量部以内であることがよく、圧力定着用トナーの場合、画像形成材料の主成分としてこれらのワックスを用いることが可能で、マイクロカプセル構造にする場合芯の部分となる。
【0038】
本実施形態の画像形成材料においては更に、必要に応じて、流動性、保存性、耐ブロッキング性、感光体研磨性等を制御するための外添剤などを配合してもよい。外添剤としては、シリカ微粒子、金属酸化物微粒子、クリーニング助剤等を用いることが可能である。また、シリカ微粒子としては、二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸マグネシウム等があげられる。金属酸化物微粒子としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等があげられる。クリーニング助剤としては、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂微粉末等があげられる。
【0039】
これら外添剤は、疎水化などの表面処理が施されたものであっても良い。疎水化処理は、トナーとして使う場合に行われているもので、負帯電の場合は、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、シリコーンオイルなどの処理剤が使われる。また、正帯電の場合は、アミノシラン系、側鎖にアミンを有するシリコーンオイルなどの処理剤が使われる。外添剤の添加量は、トナー100重量部に対して0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3.0重量部を用いることが良い。また、トナーに使用される一次粒子の平均粒径は、シリカ微粒子では10〜20nmが一般的に用いられ、他に〜100nmの粒子も用いられる。シリカ以外の材料では、粒径が大きくなり、0.05〜3μmの平均粒径を持った粒子が一般的に用いられる。
【0040】
トナーの粒径範囲は、体積平均径が6〜20μm、個数分布における5μm以下の含有量が2〜20個数%、体積分布における5μm以下の含有量が0〜5体積%、体積分布における20μm以上の含有量が0〜5体積%であるもの好ましい。これらの測定は、コールターマルチサイザー(コールター社)を用いて実施される。消去可能なトナーの導電率は、1011〜1016Ωcm、更に1013〜1015Ωが好適である。二成分現像の場合には、鉄粉、フェライト、マグネタイトなどをシリコーンやアクリルなどの樹脂でコートしたキャリアが用いられる。これらのキャリアの導電率は、鉄粉で109Ωcm以下、フェライトで106〜1015Ωcm程度、マグネタイトで1013Ωcm以上の範囲、樹脂に50μm程度に粉砕した磁性粉を分散させたものでは1013Ωcm以上が好適である。導電性の測定は、トナーを20mm径、厚さ1mmの円盤型タブレットに打錠し、1V・1kHzの電位を印加して測定する。
【0041】
消去可能な画像形成材料は、このような呈色性化合物、顕色剤、バインダー樹脂等を混合・分散して作られる。
【0042】
呈色性化合物と顕色剤をバインダー樹脂に混合・分散する方法としては、高速ディゾルバ、ロールミル、ボールミル等の装置で、(消色剤を含む場合には非極性の)溶媒を用いた湿式分散法や、ロール、加圧ニーダー、インターナルミキサー、スクリュー型押し出し機等による溶融混練法などを用いることができる。また、混合手段としては、ボールミル、V型混合機、フォルバーグ、ヘンシェルミキサー等を用いることができる。
【0043】
本発明による消去可能な画像形成材料の耐光性能及び熱消去性能の評価のために行った実験結果を以下に示す。
【実施例1】
【0044】
耐光性能及び熱消去性能の評価のために、呈色性化合物の異なるトナーを5種類準備した。
【0045】
各呈色性化合物はクリスタルバイオレットラクトン(CVL)及び(又は)2-アニリノ-6-(N-エチル-N- イソペンチルアミノ)-3-メチルフルオラン (山田化学製ロイコ染料S-205)からなり、CVLの含有率の多いほうから100wt%、 97.5 wt %、 92.5 wt%、 87.5 wt%、 0 wt %の5種類である。
【0046】
これらの呈色性化合物を用いて、以下のようにして5種類のトナーを作製した。
【0047】
呈色性化合物を4重量部、顕色剤としての没食子酸エチルを2重量部、ワックス成分としてのポリプロピレンワックスを5重量部、バインダー樹脂としてスチレン・ブタジエン共重合体を88重量部、更に帯電制御剤(日本カーリット社のLR−147)を1重量部準備した。
【0048】
これらの混合物をバンバリー型混練機で混練し、更に、混練物を粉砕機により平均粒径11μmの微粉体に加工し、その後、両者に疎水性シリカを全体の1wt%外添して青色の電子写真用トナーを用意した。
【0049】
まず、外添剤添加前のトナーの発色濃度を測定した。トナーの発色濃度は、外添剤添加前のトナー(以下粉体という)を粉体測定専用セルに入れ、ミノルタ製色彩色差計CR300を用いて粉体濃度を測定することにより行った。
【0050】
図1には、呈色性化合物中のCVLの比率に対する発色濃度を示している。S-205は酢酸溶液中で発色させたスペクトルの測定においてCVLより光吸収の大きい呈色性化合物であり、S-205が増加する、即ち呈色性化合物中のCVL量の減少に伴って、粉体の発色濃度は次第に高くなることが図1より分かる。図1に実線で示された粉体濃度の変化は、CVL量及びS-205量に比例配分された場合の粉体濃度の変化を示している。一方、実験結果は実線より粉体濃度が高くなっており、特にCVLにS-205を微量に添加することによって大きな相乗効果が得られることがわかる。従って、CVLへのS-205の微量な添加でより発色濃度が高い方向に改善されているといえ、CVLの呈色性化合物中に占める比率は97.5%以下であることが良い。
【0051】
次に、作製した5種類のトナーを用いてその消去性能を評価した。評価のための実験手順と評価方法は次の通りである。
【0052】
作製した5種類のトナーを東芝テック製MFP(プリマージュ351)により、2種のコピー用紙上に10段階の画像IDを持つ、15mm角の画像を印刷したパターン(以下ベタパターンという)を作成した。これを消去性能の評価のための元画像とした。ここでIDとは反射率の測定値を表し、画像IDとはトナーが紙へ定着した後の画像反射率をさす。
【0053】
加熱消去は、恒温槽を用いて、印刷されたコピー用紙上のベタパターンを130℃で2時間加熱して行った。
【0054】
消去性能は消去率を算出することによって評価した。消去率は次のように算出する。
【0055】
まず、評価用の各コピー用紙に印字された元画像の反射率の測定を行う。この測定値(ID)を元に、加熱消去前の元画像IDから紙の紙IDを差し引いた値[(元画像ID)−(紙のID)]を説明変数に、加熱消去後の残像IDから紙のIDを差し引いた値[(残像ID)−(紙のID)]を目的変数とした回帰係数を評価用の紙毎に算出する。このようにして求められた紙毎の回帰係数の相加平均値を算出し、消去率とした。前述した通り、IDとは反射率の測定値であり、紙のIDとは紙自体を測定して得られた反射率、残像IDとは、加熱消去後に残った画像の反射率を測定した値をいう。
【0056】
消去率は、元画像に対して残像として残る画像の濃さが何分の1にあたるかを示しており、その数値が小さいほど熱消去性能が高いことを意味する。例えば、熱消去率が0.05とは、画像濃度の反射率1.0である画像を加熱消去した時に残る残像濃度の反射率が0.05を示すことを意味する。
【0057】
呈色性化合物中のCVLの比率に対する消去性能を図2に示す。
【0058】
CVLの比率が0%の場合(S-205のみ)は、消去率は比率100%(CVLのみ)と大きな差が生じるが、S-205を微量に添加した組成では、CVL100%以上の熱消去性能を示すことが判る。
【0059】
図2からCVLと同等以上の熱消去性能を示すのは、呈色性化合物中のCVL量範囲が87.5%以上である。
【0060】
更に、作製した5種類のトナーによるベタパターン印刷の元画像を用い、耐光性能を評価するための実験を行った。
【0061】
実験は、加速試験により行った。元画像の印刷されたコピー用紙を照度15000Luxの蛍光灯と同等の光源下におきに、画像IDの経時変化を測定し、光による退色率として耐光性を評価した。退色率は画像保持率から算出される。画像保持率はは元画像のID(反射率の値)と退色後ID(反射率の値)を測定し、画像保持率[(元画像ID−退色後ID)/元画像ID]として算出し、更に、退色率[100−画像保持率](%)で算出することができる。
【0062】
この加速試験において、2時間後の光照射量(30000Lux・h)は、通常のオフィスで5日間放置した量に相当(平均500Luxの照射で一日12時間照射した場合に相当)する。図3に作製した5種類のトナー毎の光照射時間に対する画像保持率を示した。
【0063】
退色率はCVL100%の場合(CVLのみ)の場合、2時間の照射で35%程度の退色率があるのに対し、97%含有率(S-205を2.5%添加)で約27%、87.5%含有率(S-205を12.5%添加)で約20%にとどまり、それぞれ、8%程度、15%程度改善されることが明らかである。
【0064】
S-205の微量添加すると、特にCVL97.5%の場合や92.5%の場合には、光照射時間の短い15000Lux・h程度(通常のオフィス使用で2.5日間の放置に相当)で、85%程度の画像濃度を保持できることも確認できた。
【0065】
消去性能及び耐光性能の両方の観点から、S-205の微量添加により改善効果が見られるのは、呈色性化合物中のCVL量が90%以上の場合であるといえる。
【実施例2】
【0066】
実施例1と同様に、消去可能な画像形成材料の耐光性能及び熱消去性能の評価のために以下のような実験を行った。
【0067】
耐光性能及び熱消去性能の評価のために、呈色性化合物の異なるトナーを6種類準備した。
【0068】
各呈色性化合物はクリスタルバイオレットラクトン(CVL)及び(又は)2-アニリノ-6-(N-エチル-N- イソブチルアミノ)-3-メチルフルオラン(日本曹達製PSD-184)からなり、CVLの含有率の多いほうから100wt%, 94 wt %, 88 wt%, 82 wt%, 75 wt %, 0 wt %の6種類である。
【0069】
これらの呈色性化合物を用いて、以下のようにして5種類のトナーを作製した。
【0070】
呈色性化合物を4.15重量部、顕色剤としての没食子酸エチルを2重量部、ワックス成分としてのポリプロピレンワックスを5重量部、バインダー樹脂としてスチレン・ブタジエン共重合体を87.85重量部、更に帯電制御剤((日本カーリット社のLR−147)を1重量部準備した。
【0071】
これらの混合物を3本ロールで混練し、更に、混練物を粉砕機により平均粒径11μmの微粉体に加工し、その後、両者に疎水性シリカを全体の1wt%外添して青色の電子写真用トナーを用意した。
【0072】
消去性能及び耐光性能に関する試験方法は、耐光性能評価に用いた光源が太陽灯であり、照度を20000Luxにした他は同じ手順を用いている。
【0073】
評価は、消去率、退色率によってそれぞれ行われ、呈色性化合物中のCVL比率に対する消去率を図4に、光照射時間に対する退色率を図5に示した。
【0074】
CVLの比率が0%の場合(PSD-184のみ)は、消去率は比率100%(CVLのみ)と大きな差が生じるが、PSD-184を微量に添加した組成では、CVL100%以上の熱消去性能を示すことが判る。図4からCVLと同等以上の熱消去性能を示すのは、呈色性化合物中のCVL量の範囲が75%以上である。
【0075】
また、CVL100%の場合(CVLのみ)の場合、1.5時間の照射で17%程度の退色率があるのに対し、94%含有率(PSD-184を6%添加)で14%の退色率、88%含有率(PSD-184を12%添加)で6%の退色率にとどまり、それぞれ、3%程度、10%程度改善されることが明らかである。
【0076】
消去性能及び耐光性能の両方の観点から、PSD-184の微量添加により改善効果が見られるのは、呈色性化合物中のCVL量が75%以上の場合であるといえる。また、実施例1と対比すると、消去性能及び耐光性能の改善は、呈色性化合物の含有率、添加する第二の呈色性化合物の種類、トナーの混練プロセスにより変動するといえる。
【0077】
(比較例1)
呈色性化合物に山本化成(株)製 Red40 (3,3-Bis (1-n-butyl -2-methyl -indol-3-yl) phthalide)と山田化学(株)製染料2-アニリノ-6-(N,N-ジペンチルアミノ)-3-メチルフルオランを用い、消去可能な画像形成材料を作製した。トナーの作製方法は、更にバインダー樹脂にポリスチレンバインダーを用い、粒径約10μmに調整した他は実施例1と同様で、呈色性化合物中のRed40の含有率を10wt%と30wt%の2種トナーを作製した。この時トナーの粉体濃度は、10wt%の場合が0.986、30wt%の場合が0.959である。
【0078】
作製した2種類のトナーを用い、実施例1と同様に消去性能試験、耐光性能試験を行った。その結果として実施例1で観察されたような消去性能、及び耐光性能の向上は見られず、CVLの消去性能には及ばなかった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】呈色性化合物の組成と粉体の発色濃度(実施例1)
【図2】呈色性化合物の組成と熱消去性能(実施例1)
【図3】呈色性化合物の組成と耐光性能(実施例1)
【図4】呈色性化合物の組成と熱消去性能(実施例2)
【図5】呈色性化合物の組成と耐光性能(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呈色性化合物、顕色剤、バインダー樹脂を含有する消去可能な画像記録材料であって、
前記呈色性化合物としては下記一般式(1)で表されるフルオラン化合物またはその誘導体と、クリスタルバイオレットラクトンとの少なくとも2種の呈色性化合物を含有していることを特徴とする消去可能な画像形成材料。
【化1】

【請求項2】
前記クリスタルバイオレットラクトンが前記呈色性化合物中に75%以上含まれることを特徴とする請求項1記載の消去可能な画像形成材料。
【請求項3】
前記呈色性化合物中に含有されるフルオラン化合物が2-アニリノ-6-(N-エチル-N- イソペンチルアミノ)-3-メチルフルオラン、又は2-アニリノ-6-(N-エチル-N- イソブチルアミノ)-3-メチルフルオランであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の消去可能な画像形成材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−133549(P2006−133549A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323113(P2004−323113)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】