説明

消磁域を強調する磁力計

【課題】トルク・センサー用の磁力計を提供する。
【解決手段】磁力計は第2内側および外側コイルから軸方向に間隔を保つ第1内側および外側コイルを含む。内側および外側コイル間には複数の磁性片が介在する。これらの磁性片は磁界の非対称性を検知するために軸方向の明確な部分において内側および外側コイル内に配置されている。内側および外側コイルには交代磁界を発生させる駆動回路が接続されている。本発明の磁力計は人為的に強調された消磁域を発生させてセンサー組立体内のヒステリシスを軽減する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願相互参照】
【0001】
本願は2005年8月12日付け米国仮出願第60/707,927号に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
本発明は広義においてはトルク・センサー用の磁力計に係わる。より具体的には、本発明はトルクに関連する発散磁界を測定するように相対配置された複数のコイルを含む磁力計に係わる。
【0003】
非接触式の力センサーは力が加わるとこれに応答して磁界を発生させる力トランスジューサ素子を含む。発生した磁界は磁力計によって検知される。力トランスジューサ素子は典型的には力が加わるとこれに応答して磁界を発生させる磁気弾性材を含む。磁気弾性材に力が加わると、帯磁域内にせん断応力を発生し、せん断応力は力トランスジューサ素子が発生させる磁界の方向をほぼ円周沿いの方向から螺旋方向にシフトさせる。磁界の螺旋方向へのシフトは磁界の軸方向成分として検知される。磁界の軸方向成分は加わった力に比例し、トルク素子に加わるトルクの正確且つ信頼すべき値を示す。
【0004】
加わる力に伴って発生する磁界、具体的には、この磁界に現れる歪みの軸方向成分の感知は磁力計または磁界センサーを使用することによって達成される。広く使用されている磁界センサーはフラックス・ゲート・センサーであり、磁界を発生することによって、磁気可飽部材コアを磁気飽和させる磁性ワイヤから成るコイルの形に製造される。コイルには、コアを周期的に磁気飽和させる交流が給電される。力トランスジューサが発生させる磁界はコイルによって発生させられる周期的な磁界に重なる。トルク・トランスジューサ・シャフトによる磁界が重なることによって、コイルの磁気飽和に非対称性が現れる。磁気飽和に起因するコイル・インダクタンスの変化に伴って、コイルに対する誘導電圧が発生する。力トランスジューサ素子に加わる力の大きさと方向を検知するために測定されるのがこの電圧である。
【0005】
磁気弾性トルク・トランスジューサ内には多くの場合ヒステリシス効果が観察されるが、ヒステリシス効果の作用下に、トランスジューサから発生するゼロ-トルク磁界は刺激トルクを加え、これを除いた後、その大きさがゼロには戻らない。力が加わった結果として生ずる磁気ヒステリシスの大きさは、この力からトランスジューサ中に磁界が発生した結果としてトランスジューサ素子を通過する磁束の2乗に応じて変化する。
【0006】
従って、本発明の目的は磁力計の作用を介してトランスジューサ中の磁気ヒステリシス効果を減衰させる手段を提供することにある。
【発明の概要】
【0007】
本発明による磁力計の1実施例は第2内側および外側コイルから軸方向に間隔を保って配置された第1内側および外側コイルを含む。内側および外側コイルの間には複数の磁性片が配置されている。これらの磁性片は軸方向の明確な部分において、内側および外側コイル内に配置され、磁界の非対称性と検知する。
【0008】
本発明による磁力計の1実施例は共通の軸を中心に且つ互いに軸方向に間隔を保つように配置されている第1および第2内側コイルを含む。第1外側コイルは第1内側コイルと同心関係に配置され、第2外側コイルもまた第2内側コイルと同心関係に配置されている。第1内側コイルと第1外側コイルの間には複数の第1磁気可飽素子が介在する。これらの磁気可飽素子は軸と平行に配置されている。第2内側コイルと第2外側コイルの間には複数の第2磁気可飽素子が介在する。これらの素子は磁界の存在において飽和状態となる。
【0009】
内側コイルおよび外側コイルには交代磁界を発生させるための駆動回路が接続されている。この交代磁界は複数の第1および第2磁気可飽素子のそれぞれを選択的および二者択一的に磁気飽和させる。内側コイルは第1方向の磁界を発生させ、外側コイルは第1方向とは反対の第2方向の磁界を発生させる。内側および外側コイルによって発生させられる反対方向の磁界は発生する磁界を磁気可飽素子に集中させ、外部磁界を殆ど消去する。
【0010】
磁力計は磁気弾性材を含む受力素子の周りに配置される。磁気弾性材は力が加わるとこれに応答して磁界を発生させる。この磁界が磁気可飽素子に重なることで電圧にアンバランスを発生させ、このアンバランスが内側ノードと外側ノードにおいて測定される。磁気弾性材による磁界の発生に伴って非対称磁界が発生し、これが加わった力を示す電圧信号を発生させる。
【0011】
磁力計の精度はセンサー組立体中に許容できない程度の不正確さを生む恐れがある磁気ヒステリシスによって影響される。本発明の磁力計は人為的に強調された消磁域を発生させるから、トルク・トランスジューサ中のヒステリシスを軽減することになる。このため、トランスジューサが発生させる磁界とは方向が反対の磁界を発生させることにより、磁気可飽素子と磁気弾性トランスジューサの双方に発生する正味磁界、即ち、トランスジューサ内の磁束量を最小限にする。
【0012】
従って、本発明の磁力計はヒステリシスの影響を軽減することにより、トルク・センサーによって得られる測定を全体的に改善し、その精度を高める。
【0013】
本発明の上記およびその他の特徴を添付の図面を参照しながら以下に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1および2に示すトルク・センサー組立体10はトルク・トランスジューサ12を含む。トルク・トランスジューサ12は軸20を中心に配置されたシャフト14を含む。シャフト14は磁気弾性材リング16を支持している。磁気弾性材リング16はこれに力22が加わると、これに応答して磁界18を発生させる。軸20およびトルク・トランスジューサ12の周りにこれらと同心関係にボビン24が配置されている。
【0015】
ボビン24は第1内側コイル36、第1外側コイル38、第2内側コイル40および第2外側コイル42を支持する。第1内側コイル36および第1外側コイル38は第1軸領域26内に配置されている。第2内側コイル40および第2外側コイルは第2軸領域28に配置されている。第1および第2軸領域26、28は軸方向に互いに間隔を保つ関係にある。
【0016】
第1内側コイル36と第1外側コイル38の間には複数の第1磁気可飽素子44が介在する。磁気可飽素子44は長さ:直径の比が極めて高いワイヤから成る。複数の第1磁気可飽素子44はボビン24の周りに軸20と同心関係に等角度セグメントを形成するように配置されている。複数の第2磁気可飽素子46は第2内側コイル40と第2外側コイル42の間に介在する。
【0017】
複数の第2磁気可飽素子46もボビン24の周りに等角度セグメントを形成するように配置された複数のワイヤから成る。ボビン24それ自体は第1フランジ30、第2フランジ32および中間フランジ34を含む。中間フランジ34は第1内側および外側コイル36、38を第2内側および外側コイル40、42から分離させる機能を果す。
【0018】
図3はボビン24の実施例の概略図であり、第2内側および外側コイル組立体40、42に対する第1内側および外側コイル組立体36、38の相対位置を示す。尚、第1内側および外側コイル組立体36、38は、複数の第1磁気可飽素子44が両組立体の間に介在するように配置される。複数の第2磁気可飽素子46は第2内側および外側コイル40、42の間に介在する。第1内側コイル36は第2内側コイル40と電気的に接続して第1方向の第1磁界を発生させる。第2外側コイル42は第1外側コイル38と接続して第1方向とは反対の第2方向の第2磁界を発生させる。互いに方向が反対の磁界はボビン24内に個別にコイルを設ける場合よりははるかに低いインダクダンスを発生させる。
【0019】
図4に概略図で示す本発明のセンサー組立体10の実施例は駆動回路50を示す。駆動回路50は内側コイル組立体36、40および外側コイル組立体38、42を励起するように給電する。駆動回路50はコイル組立体36、38、40、42に交流を給電することにより、互いに方向が反対の所要の磁界を発生させる。交番磁界発生の結果として、複数のインダクター44、46のそれぞれが磁気飽和する。インダクター44、46の磁気飽和は、全く同じ構成の内側コイル36、40および外側コイル38、40が発生させる磁界の方向性により、均一に配分される。これにより、磁気可飽素子を均一且つ対称に磁気飽和させることができる。
【0020】
トルク・トランスジューサ12にトルク22が作用すると、磁気弾性材16が磁界18を発生させる。この磁界18は作用するトルク22の大きさに正比例する。磁気弾性材16が発生させる磁界18は磁気可飽素子44、46に重ねられる。磁界18が磁気可飽素子44、46に重ねられると、非対称磁界飽和が起こる。この非対称磁界飽和は内側ノード64および外側ノード66における電圧を測定することによって検知される。
【0021】
磁力計の上下軸部26、28に対する磁気可飽素子内磁界の非対称性はノード64、66における電圧出力となって現れる。この電圧出力が駆動回路50によって測定される。
【0022】
上下軸部26、28間の共通ノード64、66における電圧を観察すると、励起電流の偶数調波を有する電圧波形である。得られた電圧波形は磁界18の大きさ、従って、シャフトに加わったトルクの大きさを示す位相および大きさ特性を有する。
【0023】
この波形の第2調波部分の振幅位相に関連する信号をフィードバック・ループ60に対する入力として使用する。フィードバック・ループ60は内部増幅器に電流出力を供給し、増幅された電流出力が外側コイル巻線38、42に供給される。その結果、磁界18と同じ、但し方向が反対の磁界が発生する。外側コイル38、42が発生させたこの反対方向の磁界の作用下に、磁気可飽素子44、46正味磁束ゼロの状態で動作することにより、磁力が殆ど残留しないようにトランスジューサ素子12内の磁束を減少させる消磁域を形成する。
【0024】
駆動回路は図示位置52において、内側および外側コイル36、38、40、42の駆動に寄与する駆動クロック入力信号を受信する。内側ノード64および外側ノード66において測定された電圧信号を受信中の復調器58に信号62が入力される。この信号がさらにエラー・インテグレータ56に入力されると、エラー・インテグレータ56はフィードバック回路60を介して第1および第2外側コイル38、42へフィードバックされる出力またはフィードバック信号を形成する。復調器58からの他方の出力はトルク・トランスジューサ12に加わるトルクを示す出力54となる。
【0025】
以上に述べたように、本発明のフラックスゲート磁力計はフィードバック・ループからの電流によって駆動され、トルク・トランスジューサが発生させる磁界とは方向が反対の磁界を発生させる磁気可飽素子44、46を含む。その結果、磁気可飽素子は正味磁束ゼロの状態で動作することになる。この正味磁束ゼロ状態がトルク・トランスジューサの、具体的には磁気弾性材の消磁効果を高めることによって、残留磁束を極力減少させ、磁気ヒステリシスを軽減し、トルク・トランスジューサの精度を高めることになる。
【0026】
本発明の好ましい実施例を以上に説明したが、当業者には明らかなように、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更を加えることができる。従って、本発明の厳密な範囲と内容を定義するのはあくまでも後記する特許請求項である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の磁力計の一部を示す概略図である。
【図2】本発明の磁力計の一部を示す拡大断面図である。
【図3】本発明のコイル組立体の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明の駆動回路の実施例を含むトルク・センサー組立体を回路図を含めて示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁力計組立体において、
共通の軸を中心に且つ互いに軸方向に間隔を保つように配置された第1内側コイルおよび第2内側コイルと;
第1内側コイルの外側にこれと同心関係に配置された第1外側コイルおよび第2内側コイルの外側にこれと同心関係に配置された第2外側コイルと;
共通軸と平行に且つ第1内側コイルと第1外側コイルの間に配置された第1の複数の磁気可飽素子と;
共通軸と平行に且つ第2内側コイルと第2外側コイルの間に配置された第2の複数の磁気可飽素子から成る磁力計組立体。
【請求項2】
第1内側コイルが第2内側コイルと電気的に接続し、第1外側コイルが第2外側コイルと電気的に接続している請求項1に記載の組立体。
【請求項3】
第1内側コイルおよび第2内側コイルが第1方向の磁界を発生させ、第1外側コイルおよび第2外側コイルが第1方向とは反対の第2方向の磁界を発生させる請求項2に記載の組立体。
【請求項4】
第1内側コイル、第1外側コイル、第2内側コイルおよび第2外側コイルが巻着されるボビンを含む請求項2に記載の組立体。
【請求項5】
第1内側および外側コイルを第2内側および外側コイルから分離させる明確な軸部分を含む請求項4に記載の組立体。
【請求項6】
複数の第1および第2磁気可飽素子が断面積と比較して遥かに大きい長さを有するワイヤから成る請求項1に記載の組立体。
【請求項7】
第1および第2内側コイルと第1および第2外側コイルが磁気弾性材の帯磁域を同軸関係に囲んでいる請求項1に記載の組立体。
【請求項8】
第1および第2内側コイルと第1および第2外側コイルを励磁して磁界を発生させることによって複数の第1および第2磁気可飽素子を磁気飽和させる駆動回路を含む請求項1に記載の組立体。
【請求項9】
第1内側コイルと第2内側コイルの間に配置されて両者を電気的に接続する内側ノードおよび第1外側コイルと第2外側コイルの間に配置されて両者電気的に接続する外側ノードを含む請求項8に記載の組立体。
【請求項10】
駆動回路が内側および外側ノードのそれぞれにおける電圧をモニターする手段を含む請求項8に記載の組立体。
【請求項11】
トルク・センサー組立体において、
共通軸を中心に配置された磁気可飽部材を含む受力素子と;
共通軸を中心に且つ軸方向に間隔を保つように配置された第1内側コイルおよび第2内側コイルと、第1内側コイルの外側にこれと同心関係に配置された第1外側コイルおよび第2内側コイルの外側にこれと同心関係に配置された第2外側コイルと、共通軸と平行に且つ第1内側コイルと第1外側コイルの間に配置された複数の第1磁気可飽素子と、共通軸と平行に且つ第2内側コイルと第2外側コイルの間に配置された複数の第2磁気可飽素子を含む磁力計から成るトルク・センサー組立体。
【請求項12】
第1内側コイルと第2内側コイルの間に配置されて両者を電気的に接続する内側ノードおよび第1外側コイルと第2外側コイルの間に配置されて両者電気的に接続する外側ノードを含む請求項11に記載の組立体。
【請求項13】
第1および第2内側コイルと第1および第2外側コイルを励磁して磁界を発生させることによって複数の第1および第2磁気可飽素子を磁気飽和させる駆動回路を含む請求項12に記載の組立体。
【請求項14】
駆動回路が内側および外側ノードのそれぞれにおける電圧を検知する手段を含む請求項13に記載の組立体。
【請求項15】
トルク・センサーでトルクを感知する方法において、
a)加えられた力に応答して磁気弾性材によって第1磁界を発生させ;
b)第1内側コイルと第2内側コイルの間および第1外側コイルと第2外側コイルの間にそれぞれは位置された複数の第1および第2磁気可飽素子を磁気飽和させるレベルの交流を第1内側コイルと第2内側コイルに給電することによって第1方向の磁界を発生させると共に、第1外側コイルと第2外側コイルに給電することによって第1方向とは反対の第2方向の磁界を発生させ;
c)発生した第1方向磁界の、加えられた力の大きさと方向を示す歪みを検知するステップから成るトルク感知方法。
【請求項16】
第1および第2内側コイルと電気的に接続する内側ノードおよび第1および第2外側コイルと電気的に接続する外側ノードにおける電圧を検知し、検知された電圧に基づく大きさおよび方向を判断するステップをも含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
内側および外側ノードのそれぞれにおいて検知された波形の大きさおよび方向を示す信号を第1および第2外側コイル巻線に対して返送することによって、磁気弾性材によって発生させられた第1磁界とは方向が反対の磁界を第1および第2外側コイルによって発生させるステップをも含む請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−52019(P2007−52019A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−218109(P2006−218109)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(595065334)シーメンス ヴィディーオー オートモーティヴ コーポレイション (55)
【氏名又は名称原語表記】Siemens VDO Automotive Corporation
【Fターム(参考)】