説明

消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法

【課題】短絡を伴う消耗電極アーク溶接におけるくびれ検出制御方法において、くびれ検出精度を向上させる。
【解決手段】溶接電源に通常溶接モードとくびれ検出適正化モードを選択する手段CS及び記憶スイッチMSを設け、このくびれ検出適正化モードが選択されているときは、くびれ検出感度であるくびれ検出基準値Vtnを感度の低い値から高い値へと変化させながらテスト溶接を行い、このテスト溶接中の溶接状態が良好であると溶接作業者が判断した時点で前記記憶スイッチMSがオンされるとその時点でのくびれ検出基準値の変化値を記憶くびれ検出基準値Mvtとして記憶し、通常溶接モードが選択されているときは、前記記憶くびれ検出基準値Mvtをくびれ検出基準値Vtnとして設定して実施工溶接を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡期間中の溶滴のくびれ現象を検出して溶接電流を急減させて溶接品質を向上させるための消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は、短絡期間Tsとアーク期間Taとを繰り返す消耗電極アーク溶接における電流・電圧波形及び溶滴移行を示す図である。同図(A)は消耗電極(以下、溶接ワイヤ1という)を通電する溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接ワイヤ1・母材2間に印加する溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)〜(E)は溶滴1aの移行の様子を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0003】
時刻t1〜t3の短絡期間Ts中は溶接ワイヤ1先端の溶滴1aが母材2と短絡した状態にあり、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは次第に増加し、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは短絡状態にあるために数V程度の低い値となる。同図(C)に示すように、時刻t1において溶滴1aが母材2と接触して短絡状態に入る。その後、同図(D)に示すように、溶滴1aを通電する溶接電流Iwによる電磁的ピンチ力によって溶滴1a上部にくびれ1bが発生する。そしてこのくびれ1bが急速に進行して、時刻t3において同図(E)に示すように、溶滴1aは溶接ワイヤ1から溶融池2aへと移行しアーク3が再発生する。
【0004】
上記のくびれ現象が発生すると、数百μs程度の極短時間後に短絡が開放されてアーク3が再発生する。すなわち、このくびれ現象は短絡開放の前兆現象となる。くびれ1bが発生すると、溶接電流Iwの通電路がくびれ部分で狭くなるために、くびれ部分の抵抗値が増大する。この抵抗値の増大は、くびれが進行してくびれ部分がより狭くなるほど大きくなる。したがって、短絡期間Ts中において溶接ワイヤ1・母材2間の抵抗値の変化を検出することでくびれ現象の発生及び進行を検出することができる。この抵抗値の変化は、(溶接電圧Vw)/(溶接電流Iw)によって算出することができる。また、上述したように、くびれ発生時間は極短時間であるために、同図(A)に示すように、この期間中の溶接電流Iwの変化は小さい。このために、抵抗値の変化に代えて溶接電圧Vwの変化によってもくびれ現象の発生を検出することができる。具体的なくびれ検出方法としては、短絡期間Ts中の抵抗値又は溶接電圧値Vwの変化率(微分値)を算出し、この変化率が予め定めたくびれ検出基準値に達したことによってくびれ検出を行う方法がある。また、他の方法として、同図(B)に示すように、短絡期間Ts中のくびれ発生前の安定した短絡電圧値Vsからの電圧上昇値ΔVを算出し、時刻t2においてこの電圧上昇値ΔVが予め定めたくびれ検出基準値Vtnに達したことによってくびれ検出を行う方法がある。以下の説明では、くびれ検出方法が上記の電圧上昇値ΔVによる場合について説明するが、従来から種々提案されている他の方法であっても良い。時刻t3のアーク再発生の検出は、溶接電圧Vwが短絡/アーク判別値Vta以上になったことを判別して簡単に行うことができる。ちなみに、Vw<Vtaの期間が短絡期間Tsとなり、Vw≧Vtaの期間がアーク期間Taとなる。時刻t2〜t3のくびれ発生を検出してからアーク再発生までの時間を、以下くびれ検出期間Tnと呼ぶことにする。時刻t3においてアークが再発生すると、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは急上昇した後になだらかに減少し、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数十V程度のアーク電圧値になる。時刻t3〜t4のアーク期間Ta中は、溶接ワイヤ1先端が溶融されて溶滴1aが形成される。以後、時刻t1〜t4の期間の動作を繰り返す。
【0005】
上述した短絡を伴う溶接では、時刻t3においてアーク3が再発生したときのアーク再発生時電流値Iaが大電流値であると、アーク3から溶融池2aへのアーク力が急峻に大きくなり、大量のスパッタが発生する。すなわち、アーク再発生時電流値Iaの値に略比例してスパッタ発生量が増加する。したがって、スパッタの発生を抑制するためには、このアーク再発生時電流値Iaを小さくする必要がある。このための方法として、上記のくびれ現象の発生を検出して溶接電流Iwを急減させてアーク再発生時電流値Iaを小さくするくびれ検出制御方法を付加した溶接電源が従来から種々提案されている。以下、この従来技術について説明する。
【0006】
図4は、従来技術のくびれ検出制御方法を採用した溶接電源のブロック図である。溶接電源PSは、一般的な消耗電極アーク溶接用の溶接電源である。トランジスタTRは出力に直列に挿入され、それと並列に抵抗器Rが接続されている。電圧検出回路VDは、溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。くびれ検出制御回路NDは、この電圧検出信号Vdを入力として、短絡期間Ts中に上述した電圧上昇値ΔVが予め定めたくびれ検出基準値Vtnに達した時点でHighレベルにセットされ、上記の電圧検出信号Vdの値が予め定めた短絡/アーク判別値Vtaに達した時点でLowレベルにリセットされるくびれ検出信号Ndを出力する。すなわち、このくびれ検出信号Ndは、上述したくびれ検出期間Tnの間Highレベルになる。駆動回路DRは、このくびれ検出信号NdがLowレベルのとき(非くびれ検出時)は上記のトランジスタTRをオン状態にする駆動信号Drを出力する。したがって、上記のトランジスタTRは、上記のくびれ検出信号NdがHighレベルのとき(くびれ検出時)はオフ状態になる。
【0007】
図5は、上記の溶接電源の各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwを示し、同図(B)は溶接電圧Vwを示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndを示し、同図(D)は駆動信号Drを示す。以下、同図を参照して説明する。
【0008】
同図において、時刻t2〜t3のくびれ検出期間Tn以外の期間は、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはLowレベルであるので、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルになる。この結果、トランジスタTRはオン状態になるので、通常の消耗電極アーク溶接用の溶接電源と同一の動作となる。
【0009】
時刻t2において、同図(B)に示すように、短絡期間Ts中に溶接電圧Vwが上昇して電圧上昇値ΔVが予め定めたくびれ検出基準値Vtn以上になったことを検出して溶滴にくびれが発生したと判別すると、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdがHighレベルになる。これに応動して、同図(D)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、トランジスタTRはオフ状態になる。この結果、抵抗器Rが溶接電流Iwの通電路に挿入される。この抵抗器Rの値は短絡負荷(数十mΩ)の10倍以上大きな値に設定されるために、同図(A)に示すように、溶接電源内の直流リアクトル及びケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電されて溶接電流Iwは急激に減少する。時刻t3において、短絡が開放されてアークが再発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwが予め定めた短絡/アーク判別値Vta以上になる。これを検出して、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはLowレベルになり、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルになる。この結果、トランジスタTRはオン状態になり、通常の消耗電極アーク溶接の制御となる。この動作によって、アーク再発生時(時刻t3)のアーク再発生時電流値Iaを小さくすることができ、スパッタの発生を抑制することができる。
【0010】
上述したくびれ検出制御においては、的確にくびれ現象の発生を検出することが、スパッタを大幅に低減して高品質な溶接ができるかの要点となる。したがって、くびれ検出の感度(くびれ検出基準値Vtnの設定)を種々の溶接条件ごとに適正化する必要がある。溶接条件としては、被溶接物の材質、継手、溶接姿勢、ワイヤ突出し長さ、送給速度、溶接速度等多数の条件がある。したがって、くびれ検出制御搭載の溶接電源では、数種類の標準溶接条件を定めて、この標準溶接条件ごとにくびれ検出基準値Vtnを適正化して設定している。しかし、実施工溶接では上記の標準溶接条件とは異なることが多いために、くびれ検出基準値Vtnを実施工溶接時に調整できる手段が必要である。従来技術では、同図に示すように、くびれ検出期間Tn又はアーク再発生時電流Iaをフィードバック制御して目標値になるようにくびれ検出基準値Vtnを自動調整する方法が使用されている。また、溶接電源のパネルにくびれ検出基準値Vtnの調整ツマミを設けたものもある。(従来技術の例としては、特許文献1〜3を参照。)
【0011】
【特許文献1】特開昭59−206159号公報
【特許文献2】特開平1−205875号公報
【特許文献3】特開2006−28万1219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した従来技術におけるくびれ検出期間Tn又はアーク再発生時電流Iaを利用したくびれ検出基準値Vtnの自動調整方法では、溶接条件によってはくびれ検出基準値Vtnが一定値であってもくびれ検出期間Tn及びアーク再発生時電流値Iaが常に変動する場合がある。このような場合には、くびれ検出基準値Vtnの自動調整は適正値に収束しないために、利用することができない、
【0013】
また、上述した調整ツマミを使用した手動による調整方法では、ツマミを調整しながら溶接状態も観察しなくてはならず、くびれ検出基準値Vtnの適正値を見出すのに時間がかかる。さらには、溶接条件が複数ある場合には、それらの溶接条件ごとのくびれ検出基準値Vtnの適正化には対応することができない。
【0014】
そこで、本発明は、溶接条件に応じてくびれ検出基準値を的確かつ迅速に適正化することができる消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法を提供することを目的とする。

上述した課題を解決するために、第1の発明は、消耗電極と母材との間でアーク発生状態と短絡状態とを繰り返す消耗電極アーク溶接にあって、短絡状態からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれ現象を消耗電極・母材間の電圧値又は抵抗値の変化がくびれ検出基準値に達したことによって検出し、このくびれ現象を検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を急減させて低電流値の状態でアークが再発生するように出力制御する消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法において、
通常溶接モードとくびれ検出適正化モードを選択する手段及び記憶スイッチを設け、
このくびれ検出適正化モードが選択されているときは、前記くびれ検出基準値を感度の低い値から高い値へと変化させながらテスト溶接を行い、このテスト溶接中の溶接状態が良好であると溶接作業者が判断した時点で前記記憶スイッチがオンされるとその時点での前記くびれ検出基準値の変化値を記憶くびれ検出基準値として記憶し、
前記通常溶接モードが選択されているときは、前記記憶くびれ検出基準値を前記くびれ検出基準値として設定して実施工溶接を行う、ことを特徴とする消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法である。
【0015】
第2の発明は、前記テスト溶接中の前記くびれ検出基準値の変化を、所定時間ごとにステップ状に行う、ことを特徴とする第1の発明記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法である。
【0016】
第3の発明は、前記テスト溶接中の前記くびれ検出基準値の変化を、所定短絡回数ごとにステップ状に行う、ことを特徴とする第1の発明記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法である。
【0017】
第4の発明は、前記テスト溶接開始時点で既に前記記憶くびれ検出基準値が複数個記憶されているときは、
前記テスト溶接中の前記くびれ検出基準値の変化を、これら記憶くびれ検出基準値を順次切り換えて行う、ことを特徴とする第1の発明記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法である。
【0018】
第5の発明は、前記通常溶接モードが選択されたときに前記記憶くびれ検出基準値が複数個記憶されているときは、
これら記憶くびれ検出基準値の中から選択して実施工時の前記くびれ検出基準値を設定する、ことを特徴とする第1〜第4の発明のいずれか1項に記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、くびれ検出適正化モードにおいて溶接作業者はテスト溶接中に溶接状態が良好になったときに記憶スイッチをオンするだけで、溶接条件に応じたくびれ検出基準値の適正化を容易に行うことができる。このために、溶接条件に応じてくびれ検出制御が有効に動作するので、スパッタの少ない高品質な溶接を行うことができる。
【0020】
さらに、上記第4の発明によれば、テスト溶接を行うときに既に記憶くびれ検出基準値が複数個記憶されているときは、テスト溶接中のくびれ検出基準値の変化をこれら記憶くびれ検出基準値を順次切り換えて行うことによって、くびれ検出基準値の適正値の絞り込みが容易になる。このために、適正化作業の効率が向上する。
【0021】
さらに、上記第5の発明によれば、通常溶接モードが選択されたときに記憶くびれ検出基準値が複数個記憶されているときは、これら記憶くびれ検出基準値の中から選択して実施工時のくびれ検出基準値を設定することによって、くびれ検出基準値の絞り込みが容易になる。このために、適正化作業の効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法を搭載した溶接電源のブロック図である。同図において上述した図4とッ同一のブロックには同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、点線で示す図4とは異なるブロックについて同図を参照して説明する。
【0024】
短絡回数計数回路SDは、電圧検出信号Vdを入力として、その値によって短絡を判別し短絡回数を計数し、その計数値が所定回数の整数倍になるごとに短時間Highレベルに変化する短絡回数計数信号Sdを出力する。モード選択スイッチCSは、通常溶接モードとくびれ検出適正化モードとを選択するためのモード選択信号Csを出力する。通常溶接モードを選択したときは、実施工溶接を行う。他方、くびれ検出適正化モードを選択したときは、後述するように、くびれ検出基準値Vtnを適正化するためのテスト溶接を行う。記憶スイッチMSは、後述するように、テスト溶接中の溶接状態が良好である時点でオンされ、その時点におけるくびれ検出基準値の変化値を記憶するための記憶信号Msを出力する。
【0025】
くびれ検出基準値設定回路VTNは、上記の短絡回数計数信号Sd、モード選択信号Cs及び記憶信号Msを入力として、モード選択信号Csに対応して下記の動作を行い、くびれ検出基準値信号Vtnを出力する。
(1)モード選択信号Csがくびれ検出適正化モードであるとき
図2で後述するように、テスト溶接中に予め選択された変化パターンに従ってくびれ検出感度の低い値(初期くびれ検出基準値Vtn0)から高い値へと変化するくびれ検出基準値信号Vtnを出力する。そして、テスト溶接中に溶接状態が一番良好になったと判断したときは、上記の記憶スイッチMSがオンされて上記の記憶信号Msが入力(Highレベル)される。これに応動して、その瞬間のくびれ検出基準値の変化値を記憶くびれ検出基準値信号Mvtを記憶回路MVTに記憶する。1回のテスト溶接中に記憶スイッチMSが複数回オンされたときは、そのつどくびれ検出基準値の変化値を記憶する。したがって、複数の記憶くびれ検出基準値が記憶されている。また、記憶くびれ検出基準値は、溶接条件に対応した識別番号が付加されて記憶される。
(2)モード選択信号Csが通常溶接モードであるとき
記憶回路MVTに記憶されている溶接条件ごとの複数の記憶くびれ検出基準値の中から所望のものを選択すると、記憶回路MVTから記憶くびれ検出基準値信号Mvtが出力されて、くびれ検出基準値設定回路VTNに設定される。くびれ検出基準値設定回路VTNはこの記憶くびれ検出基準値信号Mvtの値をくびれ検出基準値信号Vtnとして出力する。そして、この適正化されたくびれ検出基準値を使用してくびれ検出制御が行われる。
【0026】
図2は、上述したテスト溶接中におけるくびれ検出基準値の変化パターンを示す図である。同図においては、変化パターン(A)〜(D)の4パターンを例示している。これらのパターンの中から使用するパターンを選択することができる。以下、同図を参照して説明する。
【0027】
同図において、時刻t1からテスト溶接が開始されて、時刻t4で終了する。時刻t2及びt3は、記憶スイッチMSをオンした時点である。
(A)パターン
初期くびれ検出基準値Vtn0から時間経過と共に連続的に減少する。くびれ検出基準値が小さくなるほど感度は高くなる。初期くびれ検出基準値Vtn0は、くびれ検出感度の低い値に予め設定しておく。初期くびれ検出基準値Vtn0及び傾斜は任意に設定することができるようにしても良い。
(B)パターン
くびれ検出基準値を、初期くびれ検出基準値Vtn0から所定時間ごとにステップ状に減少させる。所定時間及びステップ値を任意に設定することができるようにしても良い。
(C)パターン
くびれ検出基準値を、初期くびれ検出基準値Vtn0から所定短絡回数ごとにステップ状に減少させる。上述したように、短絡回数計数信号Sdは所定短絡回数ごとに、短時間Highレベルに変化するので、この信号を利用する。所定短絡回数及びステップ値を任意に設定することができるようにしても良い。
【0028】
同図(A)〜(C)に示すように、時刻t2及びt3に記憶スイッチMSがオンされると。その時点でのくびれ検出基準値の変化値Vtn1、Vtn2が記憶される。テスト溶接を行う際に、複数の記憶くびれ検出基準値Vtn1、Vtn2が存在するときには、同図(D)パターンを選択することができる。
(D)パターン
複数の記憶くびれ検出基準値を、時間経過に伴って順次ステップ状に変化させる。同図(D)では、記憶くびれ検出基準値Vtn1からVtn2に変化する。くびれ検出基準値の適正値を絞り込むときに有効である。
【0029】
以下に、くびれ検出基準値の適正化から実施工溶接までの手順を整理して示す。
(1)モード選択スイッチCSによって「くびれ検出適正化モード」を選択する。
(2)くびれ検出基準値設定回路VTNに内臓されている図2で上述したくびれ検出基準値の変化パターン(A)〜(D)の中から選択する。
(3)テスト溶接を開始するとくびれ検出基準値が選択された変化パターンで自動的に変化する。
(4)溶接作業者はテスト溶接の状態を観察し、良好であるときは記憶スイッチMSをオンする。オンされたときのくびれ検出基準値の変化値が記憶くびれ検出基準値として記憶回路MVTに記憶される。
【0030】
(5)モード選択スイッチCSによって「通常溶接モード」を選択する。
(6)記憶回路MVTに記憶された記憶くびれ検出基準値から最も溶接状態が良好であったものを選択する。この選択された記憶くびれ検出基準値がくびれ検出基準値として設定される。
(7)実施工溶接を行う。くびれ検出基準値が実施工溶接条件に合わせて最適化されているので、スパッタが非常に少ない安定した溶接を行うことができる。
【0031】
上述した実施の形態においては、モード選択スイッチCS及び記憶スイッチMSが溶接電源のパネルに設けられている場合を例示した。しかし、溶接ロボット、ロボット制御装置、溶接電源等から成るロボット溶接システムにあっては、ロボット制御装置に接続されるティーチペンダントにこれらのスイッチを設けても良い。また、テスト溶接中にくびれ検出基準値が変化するごとに警報(音、表示灯の点滅等)を発するようにしても良い。また、本実施の形態は、短絡移行溶接のみに適用されるものではなく、グロビュール移行溶接、短絡を伴うパルスアーク溶接、短絡を伴う交流パルスアーク溶接等にも適用することができる。
【0032】
上述した実施の形態によれば、くびれ検出適正化モードにおいて溶接作業者はテスト溶接中に溶接状態が良好になったときに記憶スイッチをオンするだけで、溶接条件に応じたくびれ検出基準値の適正化を容易に行うことができる。このために、溶接条件に応じてくびれ検出制御が有効に動作するので、スパッタの少ない高品質な溶接を行うことが可能となる。
【0033】
テスト溶接を行うときに既に記憶くびれ検出基準値が複数個記憶されているときは、テスト溶接中のくびれ検出基準値の変化をこれら記憶くびれ検出基準値を順次切り換えて行うことによって、くびれ検出基準値の適正値の絞り込みが容易になる。このために、適正化作業の効率が向上する。
【0034】
さらに、通常溶接モードが選択されたときに記憶くびれ検出基準値が複数個記憶されているときは、これら記憶くびれ検出基準値の中から選択して実施工時のくびれ検出基準値を設定することによって、くびれ検出基準値の絞り込みが容易になる。このために、適正化作業の効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法を搭載した溶接電源のブロック図である。
【図2】図1のくびれ検出基準値設定回路VTNにおけるくびれ検出基準値の変化パターンを示す図である。
【図3】従来技術における消耗電極アーク溶接の電流・電圧波形及び溶滴移行の状態を示す図である。
【図4】従来技術における消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法を搭載した溶接電源のブロック図である。
【図5】図4の各信号のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 溶接ワイヤ
1a 溶滴
1b くびれ
2 母材
2a 溶融池
3 アーク
CS モード選択スイッチ
Cs モード選択信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
Ia アーク再発生時電流
Iw 溶接電流
MS 記憶スイッチ
Ms 記憶信号
MVT 記憶回路
Mvt 記憶くびれ検出基準値信号
ND くびれ検出制御回路
Nd くびれ検出信号
PS 溶接電源
R 抵抗器
SD 短絡回数計数回路
Sd 短絡回数計数信号
Ta アーク期間
Tn くびれ検出期間
TR トランジスタ
Ts 短絡期間
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vs 短絡電圧値
Vta 短絡/アーク判別値
VTN くびれ検出基準値設定回路
Vtn くびれ検出基準値(信号)
Vtn0 初期くびれ検出基準値
Vw 溶接電圧
ΔV 電圧上昇値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極と母材との間でアーク発生状態と短絡状態とを繰り返す消耗電極アーク溶接にあって、短絡状態からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれ現象を消耗電極・母材間の電圧値又は抵抗値の変化がくびれ検出基準値に達したことによって検出し、このくびれ現象を検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を急減させて低電流値の状態でアークが再発生するように出力制御する消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法において、
通常溶接モードとくびれ検出適正化モードを選択する手段及び記憶スイッチを設け、
このくびれ検出適正化モードが選択されているときは、前記くびれ検出基準値を感度の低い値から高い値へと変化させながらテスト溶接を行い、このテスト溶接中の溶接状態が良好であると溶接作業者が判断した時点で前記記憶スイッチがオンされるとその時点での前記くびれ検出基準値の変化値を記憶くびれ検出基準値として記憶し、
前記通常溶接モードが選択されているときは、前記記憶くびれ検出基準値を前記くびれ検出基準値として設定して実施工溶接を行う、ことを特徴とする消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法。
【請求項2】
前記テスト溶接中の前記くびれ検出基準値の変化を、所定時間ごとにステップ状に行う、ことを特徴とする請求項1記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法。
【請求項3】
前記テスト溶接中の前記くびれ検出基準値の変化を、所定短絡回数ごとにステップ状に行う、ことを特徴とする請求項1記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法。
【請求項4】
前記テスト溶接開始時点で既に前記記憶くびれ検出基準値が複数個記憶されているときは、
前記テスト溶接中の前記くびれ検出基準値の変化を、これら記憶くびれ検出基準値を順次切り換えて行う、ことを特徴とする請求項1記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法。
【請求項5】
前記通常溶接モードが選択されたときに前記記憶くびれ検出基準値が複数個記憶されているときは、
これら記憶くびれ検出基準値の中から選択して実施工時の前記くびれ検出基準値を設定する、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate