説明

消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤、当該後加工剤を用いた消臭性・難燃性布帛の製造方法、及び、当該後加工剤を用いて製造される消臭性・難燃性布帛

【課題】消臭性を備えた難燃性布帛、該布帛を製造するための後加工剤及び製法を提供する。
【解決手段】難燃剤、消臭剤、バインダー、架橋剤及び、風合い改良剤が混合分散されてなる水性分散液で、この分散液は、風合い改良剤として、特定の芳香族リン酸エステル系化合物を0.04〜2重量%の濃度で含有する。難燃剤としてはトリフェニルホスフェート等が好ましく、消臭剤としては、酸化亜鉛、シリカ、ゼオライト、ヒドラジン系化合物及びスチレン‐無水マレイン酸加水分解物の混合物が好ましい。本発明の優れた消臭性及び難燃性を有した布帛は、布帛の少なくとも片面に、上記の後加工剤を0.5〜10g/mの乾燥塗布量にてコーティングすることで製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴中防炎加工を行った布帛に消臭性を付与する後加工において使用され、消臭性と難燃性を同時に備えた布帛(消臭性・難燃性布帛)を製造する際に使用される後加工剤、当該後加工剤を用いた消臭性・難燃性布帛の製造方法、及び、当該後加工剤を用いて製造される消臭性・難燃性布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに、ハロゲン化シクロアルカン化合物、特にヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)を用いて染色と同時に防炎処理を行うことにより、布帛に難燃性を付与することが行われてきているが、HBCDは、優れた難燃効果を発揮する一方、生態系への蓄積性が高いという問題点があり、このため、近年、環境保護の点から、ハロゲンを含まないか、あるいは生態系への蓄積性の小さい難燃剤を用いた難燃性布帛が要望されている。
ハロゲンを含む難燃剤の問題点を解決するために、ハロゲンを含まないリン系化合物を用いた処理も検討されてきており、例えば下記の特許文献1及び2が挙げられる。この特許文献1記載の方法では、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)が使用され、特許文献2記載の方法においては、特定のホスフィン酸誘導体が使用されるが、これら化合物を含む処理剤を用いた場合には、一定の難燃性は得られるが、処理後に得られる布帛の風合いが硬くなり、布帛表面に爪等が当たった際にチョークマーク(布帛表面に白い擦り跡が残る現象)が生じるという問題があった。
【0003】
又、最近では、快適空間を目指した多様化の中で、臭いに対する関心が高まっており、布帛に消臭性を付与することも試みられているが、多種多様な臭いについて、単に消臭剤を併用するだけでは、効果のある結果は得られず、難燃剤を用いた染色同時防炎処理を行った後に、後加工でバインダーを介して消臭剤を布帛表面に付着させる消臭処理を行った場合には、後加工によって難燃性の低下が生じるという問題点がある。
従来のように、難燃効果の高いHBCDで浴中防炎を行った場合、難燃性が低下したとしても所望の防炎基準は保たれるが、リン系やブロモ系の難燃剤で浴中防炎を行った場合は、基準ぎりぎりの難燃性しか得られないため、消臭処理により所望の基準を下回るという問題が発生した。
これに対し、消臭剤に単に難燃剤を添加して防炎効果の改善を図ると、今度は、風合いが悪くなり、特に光沢を持つ生地の見た目を損なうという問題が発生した。
このように、これまで、難燃性を低下させずに消臭性を付与し、かつ、風合いを改良させる技法については知られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−328445号公報
【特許文献2】特開2000−154465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術における問題点を解決し、風合いが硬くならずに、布帛、特にポリエステル布帛に対して良好な消臭性と難燃性とを付与することが可能な薬剤(後加工用薬剤)を提供することを課題とする。
本発明者等は種々検討を行なった結果、難燃剤、消臭剤、バインダー、架橋剤及び、難燃性を有した風合い改良剤が混合分散されてなる水性分散液である後加工剤において、布帛の風合いの硬化を防止可能な風合い改良剤として、特定の芳香族リン酸エステル系化合物を特定濃度で使用すると、風合いが硬くならずに、優れた消臭性及び難燃性を有した布帛が製造できることを見い出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決可能な本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤は、浴中防炎加工を行った布帛に消臭性を付与する後加工において使用され、消臭性と難燃性を同時に備えた布帛を製造するための薬剤であって、ハロゲンを含有しない難燃剤、消臭剤、バインダー、架橋剤及び、風合い改良剤が混合分散されてなる水性分散液の形態を有し、しかも、前記風合い改良剤が、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリス(2−エチルヘキシルホスフェート)(TEHP)及び2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート(EHDP)から成るグループより選ばれたものであり、当該風合い改良剤の濃度が0.04〜2重量%であることを特徴とする。
【0007】
又、本発明は、上記の特徴を有した消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤において、当該後加工剤が、消臭剤、バインダー、架橋剤及び風合い改良剤が混合分散された水性分散液である第1液と、難燃剤が分散された水性分散液である第2液とからなり、前記第1液と第2液が使用前には隔離された状態にあり、使用時に混合されることを特徴とするものである。
又、本発明は、上記の特徴を有した消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤において、前記難燃剤が、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、2−ナフチルジフェニルホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、テトラブロモビスフェノールA・エピクロルヒドリン・コポリマー、トリブロモフェノール・テトラブロモビスフェノールA・テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル重縮合物、2,2−ビス〔4−(2,3−ジブロモプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル〕プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、及びビス〔3,5−ジブロモ−4−(2,3−ジブロモプロポキシ)フェニル〕スルホンから成るグループより選ばれたものであることを特徴とするものである。
【0008】
又、本発明は、上記の特徴を有した消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤において、前記消臭剤が、酸化亜鉛、シリカ、ゼオライト、ヒドラジン系化合物及び、スチレン‐無水マレイン酸加水分解物の1種または複数種の混合物であることを特徴とするものでもある。
又、本発明は、上記の特徴を有した消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤において、前記バインダーがポリエステル系樹脂で、前記架橋剤がポリカルボジイミド系架橋剤であることを特徴とするものでもある。
【0009】
更に本発明は、布帛の少なくとも片面に、上記の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤を、0.5〜10g/mの乾燥塗布量にてコーティングすることを特徴とする消臭性を備えた難燃性布帛の製造方法でもある。
又、本発明は、上記の特徴を有した製造方法において、前記布帛が、ポリエステル繊維から構成された布地又は布壁紙であることを特徴とするものでもある。
【0010】
更に本発明は、布帛の少なくとも片面に、上記の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤が、0.5〜10g/mの乾燥塗布量にてコーティングされていることを特徴とする消臭性を備えた難燃性布帛でもある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤は、室内の悪臭成分を吸収し、繊維の風合い、色柄を損なうことがなく、良好な防炎性能を発揮し、光沢のある生地の場合にも、白化がない。又、上記の後加工剤を使用した本発明の消臭性・難燃性布帛の製造方法を用いることによって、風合いが良く、しかも、洗濯を行った場合にも消臭性能が維持される難燃性布帛を低コストで生産効率良く製造することができ、このようにして製造された本発明の消臭性・難燃性布帛は、生態系への蓄積が少なく、環境保護の点からも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤中に含まれる各成分について説明する。
本発明の後加工剤中に含有される風合い改良剤としてのクレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリス(2−エチルヘキシルホスフェート)(TEHP)及び2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート(EHDP)は、布帛にコーティングされた際に難燃性を低下させずに布帛の風合いを維持することが可能な成分であって、その配合濃度は0.04〜2重量%であり、これら芳香族リン酸エステル系化合物の配合濃度が0.04重量%未満では十分な風合い(柔軟性)が得られず、逆に2重量%を超えると製品にシミ状の汚れが発生するので好ましくない。この風合い改良剤のより好ましい濃度は0.1〜2重量%であり、特に好ましい濃度は0.2〜0.6重量%である。尚、本願明細書においては、特にことわりのない限り、固形分換算濃度を示す。
【0013】
一方、本発明では、ハロゲンを含まない難燃剤として、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート及び2−ナフチルジフェニルホスフェートから成るグループより選ばれたものが使用されるが、この難燃剤の好ましい配合濃度は1.0〜3.0重量%である。
ただし、ハロゲンを含む難燃剤であっても、生態系への蓄積性が少ないものであれば配合することも可能であり、このような難燃剤としては、例えばトリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、テトラブロモビスフェノールA・エピクロルヒドリン・コポリマー、トリブロモフェノール・テトラブロモビスフェノールA・テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル重縮合物、2,2−ビス〔4−(2,3−ジブロモプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル〕プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、ビス〔3,5−ジブロモ−4−(2,3−ジブロモプロポキシ)フェニル〕スルホン等が挙げられる。
【0014】
又、本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤中に含まれる消臭剤としては、消臭剤成分同士が相互に直接作用したり、難燃剤の存在により消臭性能が阻害されないように、不活性な無機多孔質粒子からなる担体に担持させたものを使用するのが好ましく、担体としては、シリカ、ゼオライトなどが有用である。本発明において特に好ましい消臭剤は、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、シリカ、ゼオライト、ヒドラジン系化合物及び、スチレン‐無水マレイン酸加水分解物の1種又は複数種の混合物である。
本発明における消臭剤の配合濃度は、上記成分の混合物として0.2〜10重量%が好ましく、0.3〜5重量%が特に好ましく、各成分の濃度としては、酸化亜鉛とシリカとゼオライトの混合物が0.2〜4.0重量%で、ヒドラジン系化合物が0.02〜0.5重量%で、スチレン‐無水マレイン酸加水分解物が0.02〜0.5重量%であることが好ましい。
【0015】
本発明では、硫化水素およびメルカプタン類の臭気に対する消臭効果を発揮させるために、亜鉛又は銅を含む金属化合物、例えば亜鉛または銅の酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩などを添加しても良く、この際、ケイ酸亜鉛、酸化亜鉛などが特に有用である。上記の消臭成分において、吸着剤であるシリカやゼオライトは、種々の臭い種に対して有効である。ヒドラジン系化合物は、アセトアルデヒド類などの吸着のための成分であり、スチレン‐無水マレイン酸加水分解物は、アンモニアの臭気に対する消臭効果を発揮させるための成分である。尚、ヒドラジン系化合物としては、例えば、ヒドラジン系化合物と、長鎖の脂肪族系化合物、或いは、芳香族系化合物との反応により生成される、水に難溶性のヒドラジン誘導体群から選択された1種以上の化合物を有効成分とするものであり、その誘導体としては、ヒドラジン又はセミカルバジド等と、炭素数8〜16の化合物、又はジカルボン酸、或いは芳香族モノ,又はジカルボン酸等との反応生成物、若しくは、ヒドラジン又はセミカルバジド等と、炭素数8〜16の化合物、が挙げられる。
【0016】
本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤におけるバインダーとしては、通常の市販の繊維加工用バインダーがいずれも使用できるが、ポリエステル系樹脂を使用するのが好ましい。又、架橋剤としては、イソシアネート、ブロックイソシアネート、エポキシ樹脂、ポリカルボジイミド系架橋剤が好ましく、この架橋剤は、環境にやさしい水性樹脂用架橋剤であり、耐水性、耐薬品性、耐加水分解性、耐熱性、耐摩耗性の向上に寄与する。
これらの成分の好ましい配合濃度は、上記バインダーが0.05〜2.0重量%、架橋剤が0.02〜0.4重量%である。
【0017】
本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤は、長期間保存性の点から、消臭剤、バインダー、架橋剤及び風合い改良剤が混合分散された水性分散液である第1液と、難燃剤が分散された水性分散液である第2液とからなる2液タイプの製品であることが好ましく、上記第1液と第2液とからなる薬剤の場合、使用前においては第1液と第2液とは隔離された状態で保存され、使用する前に両液は混合される。
【0018】
次に、上記の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤を用いた本発明の消臭性を備えた難燃性布帛の製造方法について説明する。
この製法においては、被処理布帛として、これまでに知られている浴中防炎処理が施された布帛が使用され、このような布帛を製造するための一般的な浴中防炎加工処理としては、例えば、染色剤としての分散染料を2%owf程度含み、防炎剤としてのトリフェニルホスフェートを25%owf含む処理液中に基材布帛を含浸させ、その後、高温・高圧させる処理方法が挙げられる。この浴中防炎加工処理において使用される防炎剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、2−ナフチルジフェニルホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、テトラブロモビスフェノールA・エピクロルヒドリン・コポリマー、トリブロモフェノール・テトラブロモビスフェノールA・テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル重縮合物、2,2−ビス〔4−(2,3−ジブロモプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル〕プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、ビス〔3,5−ジブロモ−4−(2,3−ジブロモプロポキシ)フェニル〕スルホン等が挙げられる。
【0019】
そして、このような浴中防炎処理済み布帛の少なくとも片面に、上記の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤を、固形分換算で0.5〜10.0g/m、好ましくは1.0〜5.0g/mの乾燥塗布量にてコーティングし、乾燥を行うが、この際、後加工剤を布帛に付着させる方法としてパディング法を用いても良い。本発明の製法にて使用される布帛は、ポリエステル繊維から構成された布地又は布壁紙であることが好ましく、処理後に得られる消臭性・難燃性布帛は、その消臭性及び難燃性によりカーテンや壁紙の他、袋や椅子用の生地として好適である。
上記の製法により製造される本発明の消臭性を備えた難燃性布帛にあっては、布帛の少なくとも片面に、上記の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤が、0.5〜10g/mの乾燥塗布量にてコーティングされており、JIS‐L1091,A‐2法に準ずる45°ミクロバーナー法による燃焼試験において良好な難燃性を示し、かつ、種々の悪臭物質(例えば、アンモニア、硫化水素、アセトアルデヒド、トリメチルアミン等)に対する優れた消臭性を示す。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。尚、実施例における性能試験は下記の方法で実施した。
<本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤の組成>
消臭剤:日華化学製キラクルDAL-20
(酸化亜鉛、シリカの混合物) 1.5重量%
東京化成製のセバシン酸ジヒドラジド(ヒドラジン系化合物) 0.4重量%
ゼオン化成製のゼオンクリーンZCL1015A
(スチレンと無水マレイン酸の加水分解物) 0.5重量%
ラサ工業製のシュークレンズKD-411分散体、
(ゼオライト系化合物、固形分濃度30%) 0.6重量%
(固形分換算濃度0.2重量%)
バインダー:ユニオン化成PM−60(ポリエステル系
エマルジョン、固型分濃度30%) 1.0重量%
(固形分換算濃度0.3重量%)
架橋剤:大日精化工業製のレザミンD-52
(ポリカルボジイミド系架橋剤、固型分濃度30%) 0.7重量%
(固形分換算濃度0.21重量%)
風合い改良剤:大八化学工業製クレジルジ2,6−キシレニル
ホスフェートの乳化物、固型分濃度30%) 2.0重量%
(固形分換算濃度0.6重量%)
難燃剤:大八化学工業製トリフェニルホスフェート分散品、
固型分濃度30%) 5.0重量%
(固形分換算濃度1.5重量%)
水: 全体が100.0となる量
【0021】
<測定サンプル生地>
ポリエステル繊維からなる248.5g/mの朱子織物を、分散染料2%owf及び、防炎剤としてのトリフェニルホスフェート25%owfを含む処理液にいれ、130℃で30分染色同時防炎加工を行った布帛(浴中防炎加工布帛)を準備し、この布帛の表面に、上記組成を有した本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤を、3.0g/mの乾燥塗布量となるようにコーティングし、乾燥を行った後、15cm×10cmの大きさに裁断したもの(難燃消臭液にて処理された布帛)を準備した(本発明品1)。
又、上記の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤を70%の濃度に希釈して得られた薬剤を、上記の浴中防炎加工布帛に同様にコーティングし(乾燥塗布量:2.1g/m)、乾燥を行った後、15cm×10cmの大きさに裁断したもの(70%希釈難燃消臭液にて処理された布帛)を準備した(本発明品2)。
一方、対照として、上記の消臭剤成分を含まない以外は同様の組成を有する薬剤を調製し、この薬剤を上記の浴中防炎加工布帛に同様にコーティングし、乾燥後、15cm×10cmの大きさに裁断したものを比較品1として準備した。
尚、燃焼試験においては、上記の難燃剤成分を含まない以外は同様の組成を有する薬剤を調製し、この薬剤を上記の浴中防炎加工布帛に同様にコーティングし、乾燥後、上記の大きさに裁断したものを比較品2として準備した。
【0022】
<消臭試験>
上記の測定サンプル生地をそれぞれ、3リットルの内容積のにおい袋(近江オドエアーサービス製)の中に入れ、測定ガス(アンモニア、硫化水素、アセトアルデヒド)を、上記におい袋の中に2リットル封入する。そして、ガスを封入したにおい袋を20℃の部屋に静置し、所定の時間経過後に検知管(ガステック製)を用いてガス濃度を測定した。
消臭率は、以下の式にて算出した。
消臭率=(C0−C1)/C0 ×100 [%]
C0:0時間(開始時)における濃度
C1:t時間経過後の濃度
【0023】
<洗濯試験>
本発明の薬剤を用いて処理を行った測定サンプル生地(本発明品1及び2)については、洗濯による消臭性及び難燃性の低下の有無を確認するために、当該生地と洗濯用生地をあわせて、浴比が1:35になるように調整し、家庭用洗濯機にJAFFT洗剤を46.2g入れ(水量:35リットル)、洗濯時間60分で洗濯を行い、乾燥させた後に、同様の消臭試験を行った。
【0024】
<燃焼試験>
燃焼試験については、JIS‐L1091,A‐2法に準ずる45°ミクロバーナー法に従って実施した。
【0025】
以下の表1〜表3に、アンモニア、硫化水素、アセトアルデヒドに対する消臭試験の結果を示す。又、上記燃焼試験の結果を表4に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
上記表1〜表4の実験結果に示されるように、本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤をコーティングした布帛は、優れた消臭性及び難燃性を示し、洗濯を行った場合であっても消臭性及び難燃性が低下しないことが確認された。
【0031】
<風合いの評価>
下記の4種類の測定サンプルの風合いについて、JIS L 1096 8.19.1A法(45°カンチレバー法)に準拠して測定した。
(測定サンプル)
本発明品1
比較品1
比較品3(風合い改良剤を含まない処理液にて処理したもの)
その結果を以下の表5に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
上記表5の実験結果に示されるように、本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤をコーティングして得られた布帛はいずれも、良好な風合いを有することが確認された。
【0034】
次に、以下の表6の本発明品1及び比較品4〜9の組成を有した処理液(各成分濃度は固定分換算された数値である)をそれぞれ調製し、前記実施例にて使用した浴中防炎加工布帛に塗布し、得られた各布帛について、防火性、風合い、白ボケ(布の光沢がなくなる現象)、チョークマーク、消臭性、スポットシミ、環境への影響の各項目を以下の評価基準により評価した。
<防炎性>
JIS‐L1091,A‐2法に準ずる45°ミクロバーナー法にて測定
評価基準
○:前述の洗濯試験を行った後で防炎基準を満たす
×:前述の洗濯試験を行った後で防炎基準を満たさない
<風合い>
JIS L 1096 8.19.1A法(45°カンチレバー法)にて測定
評価基準
○:未処理布帛と比較してスケールの差が5%以内
△:未処理布帛と比較してスケールの差が10%以内
×:未処理布帛と比較してスケールの差が10%以上
<白ボケ>
JIS L 0805にて測定
評価基準
○:グレースケールの4.5〜5級の差以内
×:グレースケールの4.5〜5級の差以上
<チョークマーク>
生地を引っ掻いた時に白い傷がつき、その後、擦っても消えない白い筋のことをチョークマークを定義する
評価基準
○:チョークマークが残らない
×:チョークマークが残る
<消臭性>
アンモニア及び硫化水素について前記消臭試験を実施
評価基準
○:消臭効果が認められる
×:消臭効果が認められない
<スポットシミ>
生地に同色場所において、色が濃くなり丸い点のように出る模様をスポットシミと定義する
評価基準
○:丸いシミが発生しない
×:丸いシミが発生する
<生態系への影響を懸念される物質の有無>
評価基準
○:生態系への影響が懸念される物質が含まれていない
×:生態系への影響が懸念される物質が含まれている
上記の評価結果を以下の表6に示す。
【0035】
【表6】

【0036】
上記表6の実験結果に示されるように、本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤をコーティングして得られた布帛(本発明品1)は上記評価項目の全てにおいて良好な結果を示したが、比較品4〜9の場合には、いずれかの項目において良好な結果が得られなかった。すなわち、比較品4は、風合い改良剤が配合されていないために風合いが悪く、比較品5は、風合い改良剤の配合割合が多すぎるためにスポットシミが発生し、比較品6は、難燃剤の配合割合が多すぎるために風合い等に問題が認められ、比較品7は、難燃剤が配合されていないために難燃性が悪く、比較品8は、消臭剤が配合されていないために消臭性がなく、比較例9は、難燃性は良好であるが、風合いと、環境への影響の少なさの点で問題があった。
以上の結果から、本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤を使用することにより、難燃性及び消臭性に優れ、風合いがよく、白化が生じにくく、環境への影響の少ない布帛が製造できることが確認された。
尚、上記表6に示された特徴の他、本発明の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤には、朱子織りの生地に塗布した際、白ボケせず、光沢性を失わず、従来技術と変わらない消臭性能が発揮されるという特徴があり、又、平織りの生地に塗布した際、従来技術では硬くなるのに対し、風合いが柔らかいまま維持でき、消臭性能が発揮されるという特徴があり、どのような布にでも難燃性及び消臭性を付与可能な後加工剤として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴中防炎加工を行った布帛に消臭性を付与する後加工において使用され、消臭性と難燃性を同時に備えた布帛を製造するための後加工剤であって、当該後加工剤が、難燃剤、消臭剤、バインダー、架橋剤及び、風合い改良剤が混合分散されてなる水性分散液の形態を有し、しかも、前記風合い改良剤が、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシルホスフェート)及び2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートから成るグループより選ばれたものであり、当該風合い改良剤の濃度が0.04〜2重量%であることを特徴とする消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤。
【請求項2】
前記後加工剤が、前記消臭剤、バインダー、架橋剤及び風合い改良剤が混合分散された水性分散液である第1液と、前記難燃剤が分散された水性分散液である第2液とからなり、前記第1液と第2液が使用前には隔離された状態にあり、使用時に混合されることを特徴とする請求項1に記載の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤。
【請求項3】
前記難燃剤が、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、2−ナフチルジフェニルホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、テトラブロモビスフェノールA・エピクロルヒドリン・コポリマー、トリブロモフェノール・テトラブロモビスフェノールA・テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル重縮合物、2,2−ビス〔4−(2,3−ジブロモプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル〕プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、及びビス〔3,5−ジブロモ−4−(2,3−ジブロモプロポキシ)フェニル〕スルホンから成るグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤。
【請求項4】
前記消臭剤が、酸化亜鉛、シリカ、ゼオライト、ヒドラジン系化合物及び、スチレン‐無水マレイン酸加水分解物の1種または複数種の混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤。
【請求項5】
前記バインダーがポリエステル系樹脂で、前記架橋剤がポリカルボジイミド系架橋剤でであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤。
【請求項6】
浴中防炎加工を行った布帛の少なくとも片面に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の消臭性・難燃性布帛製造用後加工剤を、0.5〜10g/mの乾燥塗布量にてコーティングすることを特徴とする消臭性を備えた難燃性布帛の製造方法。
【請求項7】
前記布帛が、ポリエステル繊維から構成された布地又は布壁紙であることを特徴とする請求項6に記載の消臭性を備えた難燃性布帛の製造方法。
【請求項8】
布帛の少なくとも片面に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の消臭性・難燃性布帛製造用の後加工薬剤が0.5〜10g/mの乾燥塗布量にてコーティングされていることを特徴とする消臭性を備えた難燃性布帛。

【公開番号】特開2012−72509(P2012−72509A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216410(P2010−216410)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】