涙リポカリンの突然変異タンパク質
本発明は、涙リポカリンまたはそのホモログに由来する新規突然変異タンパク質に関する。より詳細には、本発明は、ヒト涙リポカリンの突然変異タンパク質に関する。本発明はまた、このような突然変異タンパク質をコードしている対応する核酸分子およびその作製方法に関する。本発明は更に、このような突然変異タンパク質を産生する方法に関する。最後に、本発明は、このようなリポカリン突然変異タンパク質を含有する医薬組成物、ならびに突然変異タンパク質の様々な用途を対象にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙リポカリンまたはそのホモログに由来する新規突然変異タンパク質に関する。より詳細には、本発明は、ヒト涙リポカリンの突然変異タンパク質に関する。本発明はまた、このような突然変異タンパク質をコードしている対応する核酸分子およびその作製方法に関する。本発明は更に、このような突然変異タンパク質を産生する方法に関する。最後に、本発明は、このようなリポカリンの突然変異タンパク質を含有する医薬組成物、ならびに突然変異タンパク質の様々な用途を対象にする。
【背景技術】
【0002】
リポカリンタンパク質ファミリーのメンバー(Pervaiz, S.,およびBrew, K. (1987) FASEB J. 1, 209-214)は、一般的に、様々な異なる分子認識特性、すなわち、様々な、主として疎水性分子(例えば、レチノイド、脂肪酸、コレステロール、プロスタグランジン、ビリベルジン、フェロモン、味物質、およびにおい物質など)に結合するそれらの能力、特異的な細胞表面受容体へのそれらの結合、ならびにそれらの高分子複合体の形成によって特徴付けられる、低分子分泌タンパク質である。それらは、以前は主として輸送タンパク質として分類されていたが、現在では、リポカリンは様々な生理的機能を果たすことが明らかである。これらは、レチノール輸送、嗅覚、フェロモンシグナル伝達、およびプロスタグランジンの合成における役割を含む。リポカリンはまた、免疫反応の調節および細胞恒常性の仲介に関与している(例えば、Flower, D. R. (1996) Biochem. J. 318, 1-14およびFlower, D. R.ら(2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 9-24において概説される)。
【0003】
リポカリンは著しく低いレベルの全体での配列保存性を共有し、しばしば20%未満の配列同一性しか有しない。非常に対照的に、それらの全体での折りたたみパターンは高度に保存されている。リポカリン構造の中心部分は、それ自体後ろが閉鎖された単一の8本の逆平行βシートからなり、連続的に水素結合したβバレルを形成する。バレルの一端は、その底面を横切るN末端ペプチドセグメント、ならびにβ鎖を連結する3つのペプチドループによって立体的に閉鎖される。βバレルの他方の末端は溶媒に対して開いており、4つのペプチドループによって形成される標的結合部位を包囲する。他の固定的なリポカリン骨格におけるこのループの多様性が、それぞれ、異なるサイズ、形態、および化学的特性の標的に適合できる様々な異なる結合様式を生じる(例えば、Flower, D. R. (1996),上述; Flower, D. R.ら(2000), 上述、またはSkerra, A. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 337-350において概説される)。
【0004】
現在は涙リポカリン(TLPC)と呼ばれるヒト涙プレアルブミンは、最初はヒト涙液の主要タンパク質として記載された(全タンパク質含量の約3分の1)が、最近はまた、前立腺、鼻粘膜および気管粘膜を含むいくつかの他の分泌組織においても同定されている。相同タンパク質はラット、ブタ、イヌおよびウマで発見されている。涙リポカリンは、比較的不溶性の脂質に対するその高い非選択性のために、およびこのタンパク質ファミリーの他のメンバーとは異なる結合特性のために、特殊なリポカリンメンバーである(Redl, B. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 241-248において概説される)。非常に多くの異なる化学的分類の親油性化合物、例えば、脂肪酸、脂肪族アルコール、リン脂質、糖脂質およびコレステロールなどが、このタンパク質の内因性リガンドである。興味深いことに、他のリポカリンとは対照的に、リガンド(標的)結合の強度は、アルキルアミドおよび脂肪酸の両方に対して炭化水素尾部の長さと相関する。従って、涙リポカリンは最も可溶性の低い脂質と最も強く結合する(Glasgow, B.J.ら(1995) Curr. Eye Res. 14, 363-372; Gasymov, O.K.ら(1999) Biochim. Biophys. Acta 1433, 307-320)。
【0005】
ヒト涙リポカリンの正確な生物学的機能は、今のところ完全には解明されておらず、まだ論争中の問題である。涙液においては、目の粘膜表面から液相に脂質を除去することによる涙液膜の完全性にとって、それが最も重要であると思われる(Gasymov, O.K.ら(1999), 上述、において概説される)。しかし、それは、リポカリンの間で非常に例外的なin vitroでの更なる活性、すなわち、システインプロテイナーゼならびに非特異的エンドヌクレアーゼ活性の阻害を示す(van't Hof, W.ら(1997) J.Biol. Chem. 272, 1837-1841 ; Yusifov, T.N.ら(2000) Biochem. J. 347, 815-819)。最近、涙リポカリンはin vitroにおいていくつかの脂質過酸化生成物に結合できることが実証され、それが潜在的に有害な脂溶性分子の生理的な酸化ストレス誘導性スカベンジャーとして機能するかもしれないという仮説をもたらした(Lechner, M.ら(2001) Biochem. J. 356,129-135)。
【0006】
非共有結合性相互作用によってそれらの対応する標的に選択的に結合するタンパク質は、生命工学、医学、生物分析学、ならびに生物科学および生命科学全般における試薬として重要な役割を担う。抗体、すなわち、免疫グロブリンは、この種のタンパク質の突出した例である。リガンド/標的の認識、結合および/または分離に関連したこれらのタンパク質の多方面での必要性にも関わらず、現在のところ、ほぼ例外なく免疫グロブリンが使用されている。例えばレクチンのような、定義されたリガンド結合特性を有する他のタンパク質の利用は、依然として特別な場合に限定されたままである。
【0007】
かなり最近になって、リポカリンファミリーのメンバーは、定義されたリガンド結合特性を有するタンパク質に関する研究の対象となった。PCT公開番号WO99/16873は、いわゆるAnticalin(登録商標)の種類、すなわち、結合ポケットを包囲する円筒状βバレル構造の末端に配置され、Pieris brassicaeのビリン結合タンパク質のアミノ酸位置28〜45、58〜69、86〜99、および114〜129を含む直鎖状ポリペプチド配列中のそれらのセグメントに対応する4つのペプチドループの領域内に突然変異したアミノ酸位置を有するリポカリンファミリーのポリペプチドを開示する。PCT公開番号WO 00/75308は、ジゴキシゲニンに特異的に結合するビリン結合タンパク質の突然変異タンパク質を開示し、一方、国際特許出願WO 03/029463およびWO 03/029471は、それぞれ、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンおよびアポリポタンパク質Dの突然変異タンパク質に関する。リポカリン変異型のリガンド親和性、特異性、ならびに折りたたみ安定性を更に改善し微調整するために、更なるアミノ酸残基の置換などの、リポカリンファミリーの異なるメンバーを用いた様々なアプローチが提案されている(Skerra, A.(2001) Rev. Mol. Biotechnol. 74, 257-275; Schlehuber, S.,およびSkerra, A. (2002) Biophys.Chem. 96, 213-228)。
【0008】
しかし、様々な用途のために、1分子あたり1より多くの利用可能な結合部位を有する(天然の結合ポケットに加えて改変された更なる(タンパク質)結合部位、または2つの異なる改変された結合部位のいずれかを有する)こともまた有利であり得る。例えば、結合部位Iを介して特定の結合パートナーに結合されうるアダプターまたはリンカー分子としてリポカリン突然変異タンパク質を使用することが考えられる一方、結合部位IIはスクリーニング/選択の目的等に使用される。この目的を達成するための1つの可能性は、同一のまたは異なる結合特異性の2つのリポカリン突然変異タンパク質から成り、ペプチドリンカーによって互いに連結されている融合タンパク質の使用である。「duocalin」とも呼ばれるこのような融合タンパク質は、WO 99/16873に記載され、また、例えば、Schlehuber, S.,およびSkerra, A. (2001), Biol. Chem. 382, 1335-1342によって記載される。
【0009】
最近、高親和性ヒスタミン結合タンパク質が、Rhipicephalus appendiculatusダニの唾液において同定された(Paesen, G.C.ら(1999) Mol. Cell 3, 661-671)。これらのタンパク質は創傷部位でヒスタミンを捕捉し、吸血中の炎症反応を抑制するためにリガンドに対するヒスタミン受容体と競合する。これらのヒスタミン結合タンパク質の結晶構造は、異なる結合親和性を有する2つのヒスタミンへの結合部位を含む新規のリポカリンの折りたたみを示した。それらの一方が典型的なリポカリン結合部位であるそれらの部位は、直角に配置され、非常に強固であり、ヒスタミンの分子特性を特異的に補完する非常に極性のある内部表面を形成している。齧歯類吸血性ダニおよび家畜吸血性ダニにより分泌されるSHBPと呼ばれる関連タンパク質は、2つの異なる結合部位でヒスタミンとセロトニンの両方に結合する(Sangamnatdej, S.ら(2002) Insect Mol. Biol. 11, 79-86)。高親和性結合部位はβバレルの長軸に対して垂直に位置し、他のリポカリンと比較してタンパク質構造にひずみをもたらす。従って、このような結合部位は任意のリポカリンにおいて改変できないように思われる。他方では、結合部位がβバレルの中心部にかなり埋没しているため、リガンドサイズに関して立体的制限があると思われる。
【0010】
従って、単に実用的な実現のためのより多くの選択肢を持つために、異なる結合部位および/または代替的なリポカリン骨格を用いる結合タンパク質の作製の必要性が残っている。
【0011】
従って、特定の標的に対して結合親和性を有する代替的なリポカリン突然変異タンパク質を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
この目的は、独立請求項に記載の特徴を有するリポカリン突然変異タンパク質、ならびにその作製方法によって達成される。
【0013】
1つの実施形態では、このようなリポカリン突然変異タンパク質は、涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であり、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端ペプチド伸長部、ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG(図2参照)中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、ここで、涙リポカリンまたはそのホモログはヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、突然変異タンパク質は検出可能な親和性で特定の標的に結合する。
【0014】
より実例的な表現では、この実施形態は、涙リポカリンの内部リガンド結合部位の閉鎖末端の3つのループ、および/または涙リポカリンのN末端ペプチド伸長部の中のアミノ酸(図1参照)が、測定可能な親和性で特定の標的に結合するリポカリン突然変異タンパク質を得るために突然変異され得るという、本発明者らの発見に基づく。従って、本発明は、抗体様の結合特性を有する構造的に新しい種類のリポカリン突然変異タンパク質を提供する。これは、これらの突然変異タンパク質が、上述のいわゆるAnticalin(登録商標)(リガンド結合部位の開放末端の4つのペプチドループ中のアミノ酸位置が突然変異された、Pieris brassicaeのビリン結合タンパク質等のリポカリンファミリーのタンパク質に由来するリポカリン突然変異タンパク質)の種類のように、特定の特異性を有する新たな結合タンパク質の作製のために同様に使用され得ることを意味する。この理由により、本発明のこれらの新たなリポカリン突然変異タンパク質はまた、Anticalin(登録商標)と呼ばれるこれらのリポカリン突然変異タンパク質に属するとも考えられる。
【0015】
別の実施形態では、本発明の突然変異タンパク質はまた、涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であり、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH(図2参照)中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、涙リポカリンまたはそのホモログはヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、突然変異タンパク質は検出可能な親和性で特定の標的に結合する。従って、この実施形態は、所望の標的に対する結合分子の作製のために、リポカリンのリガンド結合部位の開放末端の4つのループ中のアミノ酸が突然変異され得る、新たな種類の骨格を提供する。
【0016】
更に別の実施形態では、本発明は、涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質に関し、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端ペプチド領域、ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、涙リポカリンまたはそのホモログはヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、突然変異タンパク質は検出可能な親和性で少なくとも1つの特定の標的に結合する。
【0017】
従って、本発明はまた、初めて、2つの結合部位の存在により2つの特定のリガンドに対して結合特異性を持つことができる単量体リポカリン突然変異タンパク質(Anticalin(登録商標))を提供する。このような二重特異性分子は、二重特異性diabodyのような二重特異性抗体分子と機能的に同等であると考えることができる。しかし、二重特異性diabody(または抗体断片全般)と比較して、この新しい種類の二重特異性リポカリン突然変異タンパク質(Anticalin(登録商標))は、1つのポリペプチド鎖のみで構成されるという利点を有する一方、diabodyは互いに非共有結合的に結合した2つのポリペプチド鎖からなる。
【0018】
この新しい種類の結合タンパク質の二重特異性リポカリン突然変異タンパク質は、アダプター分子として使用されうる。例えば、2つの異なる受容体に対して結合親和性を有する場合、このような二重特異性リポカリン分子はこれらの受容体を架橋することができる。このようなリポカリン突然変異タンパク質(Anticalin(登録商標))の例は、第一結合部位が(FasまたはApo 1受容体としても知られる)CD95のようなアポトーシス受容体と結合し、第二結合部位が同一の細胞上で発現される細胞表面受容体と結合できる突然変異タンパク質であろう。このような二重特異性突然変異タンパク質の2細胞間での結合は、CD95アポトーシス受容体および第二の細胞表面受容体標的抗原の相互架橋を引き起こし、効果的に細胞のアポトーシスを誘導することができる(Jung, G.ら(2001) Cancer Res. 61, 1846-1848参照)。しかし、このような二重特異性突然変異タンパク質はまた、1つの特定の標的に対する結合親和性のみを有するかもしれない。このような突然変異タンパク質は、徐々に血流に放出されるべき薬剤のための分子貯蔵庫として有用でありうる。
【0019】
「突然変異誘発」という用語は本明細書において用いられる場合、使用されるリポカリンの特定の配列位置に天然に存在するアミノ酸が、それぞれの天然のポリペプチド配列においてこの特異的な位置に存在しない少なくとも1つのアミノ酸によって置換され得るように、実験条件が選択されることを意味する。「突然変異誘発」という用語はまた、1以上のアミノ酸の欠失または挿入による配列セグメントの長さの(更なる)改変を含む。従って、例えば、選択された配列位置の1つのアミノ酸が一続きの3つのランダム突然変異によって置換され、野生型タンパク質の(それぞれのセグメント)の長さと比較して2アミノ酸残基の挿入を生じることは、本発明の範囲内である。このような挿入または欠失は、本発明において突然変異誘発の対象となり得る任意のペプチドセグメントにおいて、互いに独立に導入されうる。本発明の1つの例示的な実施形態では、いくつかの突然変異の挿入は、選択されたリポカリン骨格のループABに導入される(それぞれ、実施例2および28参照)。「ランダム突然変異誘発」という用語は、あらかじめ決められた単一のアミノ酸(突然変異)は特定の配列位置に存在しないが、少なくとも2つのアミノ酸が、突然変異誘発の際、ある確率で選択された配列位置に組み込まれ得ることを意味する。
【0020】
このような実験条件は、例えば、用いられるそれぞれのリポカリンをコードする核酸に縮重塩基組成を含むコドンを組み込むことによって達成され得る。例えば、コドンNNKまたはNNS(N = アデニン、グアニンもしくはシトシンもしくはチミン; K = グアニンもしくはチミン; S = アデニンもしくはシトシン)の使用は、突然変異誘発の際、20アミノ酸すべてに加えてアンバー終止コドンの組み込みを可能にするが、一方、コドンVVSは、ポリペプチド配列の選択された位置に組み込まれるものからアミノ酸Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、Valを排除するため、組み込まれる可能性のあるアミノ酸の数を12に限定し、コドンNMS(M =アデニンもしくはシトシン)の使用は、例えば、選択された配列位置に組み込まれるものからアミノ酸Arg、Cys、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Valを排除するため、選択された配列位置で可能性のあるアミノ酸の数を11に制限する。この点において、セレノシステインまたはピロリジンのような(通常の20の天然に生じるアミノ酸以外の)他のアミノ酸に対するコドンもまた突然変異タンパク質の核酸に組み込まれ得ることに注意すべきである。Wang, L.,ら (2001) Science 292, 498-500、または Wang, L.,およびSchultz, P.G. (2002) Chem. Comm. l, 1-11に記載されるように、通常は終止コドンとして認識されるUAGのような「人工的な」コドンを、他の特殊なアミノ酸、例えば、o-メチル-L-チロシンまたはp-アミノフェニルアラニンを挿入するために使用することも可能である。
【0021】
「涙リポカリン」という用語は本明細書において使用される場合、ヒト涙リポカリン(SWISS-PROT Data Bank受入番号M90424)に限定されないが、構造的に保存されたリポカリンの折りたたみ、ならびに、ヒト涙リポカリンのアミノ酸配列に関して少なくとも60%の配列相同性または配列同一性を有するすべてのポリペプチドを含むことを意図する。リポカリンの折りたたみという用語は、例えば、上述のFlower, D.R. (1996)において、円筒状に閉鎖された8本の逆平行鎖のβシートで形成された中心モチーフとして立体構造上保存されたβバレルを持ち、バレルの開放末端において、β鎖が結合ポケットを形成するように対になって4つのループによって連結されている、典型的な三次元リポカリン構造を記載するために使用されるように、その通常の意味で用いられる(図2も参照せよ)。
【0022】
本発明において使用される場合、ペプチドループの定義もまた、リポカリンの折りたたみという用語の通常の意味に従い、以下のとおりであり、図2においても説明される。すなわち、ペプチドループ(セグメント)ABは円筒状に閉鎖されたβシートのβ鎖AおよびBを連結し、ペプチドループCDはβ鎖CおよびDを連結し、ペプチドループEFはβ鎖EおよびFを連結し、ペプチドループGHはβ鎖GおよびHを連結し、ペプチドループBCはβ鎖BおよびCを連結し、ペプチドループDEはβ鎖DおよびEを連結し、ペプチドループFGはβ鎖FおよびGを連結する。図2に見られるように、ループAB、CD、EFおよびGHはリポカリンの既知の結合部位を形成する(従って開放末端と呼ばれた)が、一方、本発明において発見されたように、ループBC、DEおよびFGはN末端ペプチド伸長部とともに、βバレルの閉鎖末端に位置する第二の結合部位を形成するために使用され得る。
【0023】
上述に従って、「涙リポカリン」という用語は、約60%以上のアミノ酸配列相同性または配列同一性を有する、他の種由来の、既に同定されたまたはまだ単離されていない構造的ホモログを含む。「相同性」という用語は本明細書において使用される場合、その通常の意味であり、互いに比較される2つのタンパク質の直鎖状アミノ酸配列における同等の位置に、同一のアミノ酸、ならびに、同類置換と見なされるアミノ酸(例えば、グルタミン酸残基のアスパラギン酸残基による置換)を含む。「配列同一性」または「同一性」という用語は本発明において使用される場合、問題の配列と本発明のポリペプチドの配列の相同性アラインメントに従った、これら2つの配列のより長いものにおける残基数について、対になる同一残基の割合を意味する。
【0024】
配列相同性または配列同一性の割合は、本明細書ではプログラムBLASTP、version blastp 2.2.5(2002年11月16日; Altschul, S. F.ら(1997) Nucl. Acids Res. 25, 3389-3402参照)を用いて決定される。相同性の割合は、ペアワイズ比較の参照としてヒト涙リポカリンを用いた、プロペプチド配列を含む全ポリペプチド配列のアラインメントに基づく(マトリックス: BLOSUM 62 ; ギャップコスト: 11.1; 切り捨て値を10-3に設定)。それは、BLASTPプログラムアウトプットでの結果として示される「陽性」(相同アミノ酸)の数を、アラインメントのためにプログラムによって選択されたアミノ酸の総数で除した割合として計算される。これに関して、以下に見られるように、この選択されたアミノ酸の総数は涙リポカリンの長さ(プロペプチドを含む176アミノ酸)とは異なり得ることに注意すべきである。
【0025】
ホモログタンパク質の例は、上述のようなプログラムBLASTPを用いて決定されるように、約70%の配列相同性を有する(プロペプチドを含む場合、125陽性/178位置; 13の「陽性」を含む18残基長のプロペプチドを考慮に入れない場合、112陽性/160であり、同様に約70%の相同性をもたらす)Rattus norvegicusのエブネル(Von Ebner)腺タンパク質1(VEGPタンパク質; SWISS-PROT Data Bank受入番号P20289)、約71%の配列相同性を有する(プロペプチドを含む場合、127陽性/178; 18残基長のプロペプチドを考慮に入れない場合、114陽性/160であり、相同性は同様に約71%であることが決定される)Rattus norvegicusのエブネル腺タンパク質2(VEGタンパク質2; SWISS-PROT Data Bank受入番号P41244)、約74%の配列相同性を有する(プロペプチドを含む場合、131陽性/176位置; 16の「陽性」を含む18残基長のプロペプチドを考慮に入れない場合、115陽性/158であり、約73%の相同性をもたらす)Sus scrofa(ブタ)のエブネル腺タンパク質2(LCN1; SWISS-PROT Data Bank受入番号P53715)、または約70%の配列相同性を有する(122陽性/174位置、もしくは12の陽性を含むプロペプチドを除外した場合110陽性/156 = 約70%の相同性)イヌの主要アレルゲンCan fl前駆体(ALL 1, SWISS-PROT Data Bank受入番号O 18873)である。このような涙リポカリンの構造的ホモログは、例えば、原核生物ならびに真核生物のような、任意の種に由来し得る。真核生物の場合、構造的ホモログは、無脊椎動物ならびに、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、イヌ、ラットもしくはマウス)または鳥類または爬虫類などの脊椎動物に由来し得る。
【0026】
涙リポカリン以外のタンパク質が本発明において使用される場合、涙リポカリンに対して与えられた突然変異される配列位置の定義は、公開されている配列アラインメントまたは当業者に利用可能なアラインメント方法を用いて、他のリポカリンに割り当てることができる。配列アラインメントは、例えば、Redl, B. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 241-248の図1におけるもののように、公開されているアラインメントを用いて、WO 99/16873(その中の図3参照)に説明されるように実施され得る。リポカリンの三次元構造が利用可能な場合、本発明の突然変異誘発の対象となるべきこれらの配列位置の決定のために、構造の重ね合わせもまた使用され得る。多次元核磁気共鳴分光法のような他の構造解析の方法もまた、この目的のために使用され得る。
【0027】
涙リポカリンのホモログはまた、アミノ酸置換が本発明において選択された位置以外の位置に導入された涙リポカリン自体の突然変異タンパク質であり得る。例えば、このような突然変異タンパク質は、タンパク質の溶解性または安定性を増加させるために、βバレルの溶媒に露出した表面の位置が涙リポカリンの野生型配列と比較して突然変異されたタンパク質であり得る。
【0028】
一般的に、「涙リポカリン」という用語は、ヒト涙リポカリン(SWISS-PROT Data Bank受入番号M90424)と比較して60%、70%、80%、85%、90%、もしくは95%以上の配列相同性または配列同一性を有するすべてのタンパク質を含む。
【0029】
本発明の1つの好ましい実施形態では、本明細書に開示されるような突然変異タンパク質はヒト涙リポカリンに由来する。他の好ましい実施形態では、突然変異タンパク質はVEGPタンパク質、VEGタンパク質2、LCN 1、またはALL 1タンパク質に由来する。
【0030】
βバレルの閉鎖末端の結合部位が用いられる場合、本発明の突然変異タンパク質は、通常、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、41〜49、69〜77、および87〜98に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含む。位置7〜14はN末端ペプチド伸長部の一部であり、位置41〜49はBCループに含まれ、位置60〜77はDEループに含まれ、位置87〜98はFGループに含まれる。
【0031】
それらの突然変異タンパク質のより特異的な実施形態では、突然変異は、ヒト涙リポカリンの位置8、9、10、11、12、13、43、45、47、70、72、74、75、90、92、94、および97に相当する配列位置に導入される。通常、このような突然変異タンパク質は、配列位置の5〜10または12〜16または17すべてに突然変異を含む。
【0032】
βバレルの開放末端の結合部位が突然変異誘発を受ける場合、本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含む。位置24〜36はABループに含まれ、位置53〜66はCDループに含まれ、位置69〜77はEFループに含まれ、位置103〜110はGHループに含まれる。本発明の1つの実施形態では、1〜6アミノ酸残基、好ましくは2〜4アミノ酸残基の挿入が、ヒト涙リポカリンの配列位置24〜36に相当する配列位置によって形成されるペプチドセグメント内に導入される。この挿入はこのセグメント内の任意の位置に含まれ得る。1つの例示的な実施形態では、この挿入はヒト涙リポカリンの配列位置24と25の間に導入される。しかし、ここで用いられる結合部位の一部であるペプチドセグメント内の少なくとも2アミノ酸の伸長の導入は、残基24〜26を含むセグメントに限定されず、本明細書において選択された2つの結合部位のうちの1つの形成に関与する任意のセグメントに含まれ得ることにもまた注意すべきである。
【0033】
従って、2つの結合部位を有する突然変異タンパク質は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、41〜49、69〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含み、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に更なる突然変異を含む。
【0034】
この点において、突然変異誘発のために用いられる上記で定義されたセグメント(ループ)の数は変化し得ることに注意すべきである(N末端ペプチド伸長部はセグメントまたはループという用語の意味に含まれる)。例えば協調的な突然変異誘発において、2つの結合部位のそれぞれのこれら4つのセグメントすべてを一斉に突然変異させる必要はない。しかし、特定の標的に対して検出可能な親和性を有する突然変異タンパク質を作製するために、各結合部位の1つ、2つまたは3つのセグメントだけに突然変異を導入することも可能である。従って、1つの改変結合部位のみを有する結合分子が求められる場合、例えば、βバレルの閉鎖末端の2つまたは3つのセグメントだけに突然変異誘発を受けさせることは可能である。この分子がその後、第二の標的への結合親和性を持つことを必要とされる場合、その後、第二結合部位の任意の4つのループ中の配列位置は突然変異され得る。しかし、特定の標的が結合部位の1つのみによって結合される場合でも、両方の結合部位のペプチドループを突然変異することも可能である。
【0035】
本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、突然変異されるセグメントの外側に野生型の(天然の)アミノ酸配列を含みうる。他方で、本明細書において開示されるリポカリン突然変異タンパク質はまた、それらの突然変異が突然変異タンパク質の結合親和性および折りたたみを妨げないかぎり、突然変異誘発を受ける配列位置の外側にもアミノ酸の突然変異を含みうる。このような突然変異は、確立された標準的な方法(Sambrook, J.ら(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)を用いてDNAレベルで非常に容易に達成され得る。考えられるアミノ酸配列の改変は、挿入または欠失ならびにアミノ酸置換である。このような置換は保存的でありうる。すなわち、アミノ酸残基は化学的に類似したアミノ酸残基に置換される。同類置換の例は、以下の群のメンバー間、すなわち、1)アラニン、セリン、およびトレオニン、2)アスパラギン酸およびグルタミン酸、3)アスパラギンおよびグルタミン、4)アルギニンおよびリジン、5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン、ならびに6)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンの間での置換である。他方で、アミノ酸配列に非保存的な改変を導入することも可能である。
【0036】
このようなアミノ酸配列の改変は、特定の制限酵素の切断部位を組み込むことによって突然変異したリポカリン遺伝子またはその一部のサブクローニングを容易にするために、単一アミノ酸位置の指向された突然変異誘発を含む。加えて、これらの突然変異はまた、特定の標的に対するリポカリン突然変異タンパク質の親和性を更に改善するために、組み込むこともできる(実施例17〜19および24参照)。1つの実施形態では、突然変異は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置21、50、51および83に相当する(リポカリン骨格の)少なくとも1つの配列位置に導入される。更に、突然変異は、突然変異タンパク質の特定の性質を調節するために、例えば、必要であれば、折りたたみ安定性または水溶性を改善するために、または凝集傾向を減少させるために導入され得る。
【0037】
本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、検出可能な親和性で、すなわち、好ましくは少なくとも105M-1の親和定数で、所望の標的に結合することができる。より低い親和性は、通常、ELISAなどの一般的な方法によって測定することができず、従って重要性は二次的なものである。1μMの複合体の解離定数に相当する、少なくとも106M-1の親和性で所望の標的に結合するリポカリン突然変異タンパク質が、特に好ましい。突然変異タンパク質の所望の標的に対する結合親和性は、蛍光滴定、競合ELISAまたは表面プラズモン共鳴などの多数の方法によって測定され得る。
【0038】
複合体形成が、結合パートナーの濃度、競合物の存在、バッファー系のイオン強度等の多数の要因に依存することは当業者にとって明白である。選択および濃縮は、一般的に、標的に対して少なくとも105M-1の親和定数を有するリポカリン突然変異タンパク質の単離を可能にする条件下で行われる。
【0039】
しかし、洗浄および溶出ステップは様々なストリンジェンシー下で行われ得る。速度論的性質に関する選択は、同様に可能である。例えば、選択は、標的からの遅い解離、言い換えれば、低いkoff速度を示す突然変異タンパク質と標的の複合体形成を促進する条件下で実施され得る。
【0040】
本発明の涙リポカリン突然変異タンパク質は、特定の標的との複合体形成のために使用されうる。標的は非天然の標的/リガンドでありうる。標的(リガンド)は、免疫学的ハプテン、ステロイドホルモンのようなホルモン、または任意の生体高分子もしくはその断片、例えば、タンパク質もしくはタンパク質ドメイン、ペプチド、オリゴデオキシヌクレオチド、核酸、オリゴ糖もしくは多糖類またはそのコンジュゲートの特徴を示す、遊離型あるいはコンジュゲート型の任意の化合物でありうる。本発明の好ましい実施形態では、標的はタンパク質である。タンパク質は任意の球状の可溶性タンパク質または受容体タンパク質、例えば、細胞シグナル伝達に関与する膜貫通タンパク質、MHC分子などの免疫系の成分、または特定の疾患の指標である細胞表面受容体であり得る。突然変異タンパク質はまた、タンパク質の断片のみに結合することができてもよい。例えば、突然変異タンパク質は、それが細胞膜に固定された受容体の一部である場合、細胞表面受容体のドメインに結合でき、同様に、このドメインが可溶性タンパク質として産生され得る場合、溶液中の同一のドメインに結合できる。しかし、本発明は、このような高分子の標的のみに結合する突然変異タンパク質に限定されるものではない。しかし、突然変異誘発を用いて、ビオチン、フルオレセインまたはジゴキシゲニンなどの(より)低分子量のリガンドに対して特異的な結合親和性を示す涙リポカリンの突然変異タンパク質を得ることもまた可能である。
【0041】
本発明の涙リポカリン突然変異タンパク質は、通常、単量体タンパク質として存在する。しかし、本発明のリポカリン突然変異タンパク質は自発的に二量化またはオリゴマー化する可能性もある。安定な単量体を形成するリポカリン突然変異タンパク質の使用は、タンパク質の取り扱いを容易にするため、一般的に好まれるが、例えば、安定なホモ二量体または多量体を形成するリポカリン突然変異タンパク質の使用もまた、このような多量体が特定の標的に対する親和性および/または結合活性の(更なる)増加を提供し得るので、ここで好まれ得る。更に、リポカリン突然変異タンパク質のオリゴマー形成は、血清半減期を延長しうる。
【0042】
いくつかの用途のために、本発明の突然変異タンパク質を標識された形で使用することは有用である。従って、本発明はまた、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属錯体、金属、および金コロイドからなる群より選択される標識とコンジュゲートされたリポカリン突然変異タンパク質を対象とする。突然変異タンパク質はまた、有機分子ともコンジュゲートされうる。「有機分子」という用語は本明細書において使用される場合、好ましくは、少なくとも2つの炭素原子を含むが、好ましくは7つ以上の回転できる炭素結合を含まず、100〜2000ダルトンの範囲の、好ましくは1000ダルトンの分子量を有し、任意選択で1つまたは2つの金属原子を含む有機分子を意味する。
【0043】
一般的に、リポカリン突然変異タンパク質を、直接または間接的に、検出可能な化合物または化学的、物理的もしくは酵素的な反応におけるシグナルを生じる、任意の適切な化学物質あるいは酵素で標識することが可能である。物理的な反応の例は、放射線放射による蛍光の放射または放射性標識を用いた場合のX線の放射である。アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはβガラクトシダーゼは、発色性反応生成物の生成を触媒する酵素標識の例である。一般的に、(免疫グロブリンのFc部分の糖成分に限定して用いられるものを除く)抗体に通常使用されるすべての標識はまた、本発明の突然変異タンパク質とのコンジュゲーションのために使用され得る。本発明の突然変異タンパク質はまた、例えば、このような薬剤の特定の細胞、組織もしくは器官への標的化送達のために、または周囲の正常細胞に影響を及ぼすことなく細胞、例えば腫瘍細胞を選択的標的化するために、任意の適切な治療効果のある薬剤にコンジュゲートされうる。このような治療効果のある薬剤の例は、放射性核種、毒素、有機低分子、および治療用ペプチド(例えば、細胞表面受容体のアゴニスト/アンタゴニストとして作用するペプチド、または特定の細胞標的上のタンパク質結合部位と競合するペプチドなど)を含む。しかし、本発明のリポカリン突然変異タンパク質はまた、アンチセンス核酸分子、低分子干渉RNA、マイクロRNAまたはリボザイムなどの治療効果のある核酸ともコンジュゲートされうる。このようなコンジュゲートは当技術分野においてよく知られている方法によって産生され得る。
【0044】
本明細書に開示される突然変異タンパク質のいくつかの用途のために、それらを融合タンパク質の形で使用することが有利でありうる。好ましい実施形態では、本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、そのN末端またはそのC末端で、タンパク質、タンパク質ドメイン、またはシグナル配列および/もしくは親和性タグなどのペプチドと融合される。
【0045】
融合パートナーは、本発明のリポカリン突然変異タンパク質に酵素活性または他の分子に対する結合親和性などの新たな性質を付与しうる。適切な融合タンパク質の例は、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、プロテインGのアルブミン結合ドメイン、プロテインA、抗体断片、オリゴマー化ドメイン、同一もしくは異なる結合特異性のリポカリン突然変異タンパク質(その結果、「duocalin」の形成を引き起こす。Schlehuber, S.,およびSkerra, A. (2001), Biol. Chem. 382, 1335-1342参照)、または毒素である。特に、結果として生じる融合タンパク質の両方の「成分」がともに特定の治療標的上に作用できるように、本発明のリポカリン突然変異タンパク質を別個の酵素活性部位と融合することが可能でありうる。リポカリン突然変異タンパク質の結合ドメインは、疾患の原因となる標的に結合し、酵素ドメインがその標的の生物学的機能を止めることを可能にする。2つの本発明の二重特異性リポカリン突然変異タンパク質(すなわち、それらの各々が2つの結合部位を有する)が結合され「duocalin」になる場合、四価の分子が形成される。例えば、duocalinがビオチンに特異的に結合する2つの結合部位を有する1つの突然変異タンパク質のみから作製される場合、ストレプトアビジン(ホモ四量体であり、それぞれの単量体は1つのビオチン分子に結合する)に匹敵する四価の分子(ホモ二量体)が得られる。予想される結合活性効果のために、このような突然変異タンパク質は、ビオチン基の検出を使用する方法における有用な分析ツールになりうる。自発的にホモ二量体または多量体を形成するリポカリン突然変異タンパク質もまた当然、このような目的のために使用され得る。
【0046】
また、組換えタンパク質の容易な検出および/または精製を可能にする、Strep-tag(登録商標)もしくはStlep-tag(登録商標)II(Schmidt, T.G.M.ら(1996) J. Mol. Biol. 255, 753-766)、mycタグ、FLAGタグ、His6タグもしくはHAタグ、またはグルタチオンS-トランスフェラーゼのようなタンパク質などの親和性タグは、好ましい融合パートナーの更なる例である。最後に、緑色蛍光タンパク質(GFP)もしくは黄色蛍光タンパク質(YFP)などの発色特性または蛍光特性を有するタンパク質は、同様に、本発明のリポカリン突然変異タンパク質に適した融合パートナーである。
【0047】
本明細書において使用される場合、「融合タンパク質」という用語はまた、シグナル配列を含む本発明のリポカリン突然変異タンパク質を含む。ポリペプチドのN末端でのシグナル配列は、このポリペプチドを特定の細胞内区画、例えば、E. coliのペリプラズムまたは真核細胞の小胞体に指向させる。多数のシグナル配列が当技術分野において知られている。E. coli のペリプラズムへのポリペプチドの分泌のための好ましいシグナル配列はOmpAシグナル配列である。
【0048】
本発明はまた、本明細書に記載されるように、突然変異タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子(DNAおよびRNA)に関する。遺伝子コードの縮重はあるコドンを同一のアミノ酸を指定する他のコドンに置換することを許容するので、本発明は、本発明の融合タンパク質をコードする特定の核酸分子に限定されず、機能的な融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むすべての核酸分子を含む。
【0049】
本発明の核酸分子の1つの好ましい実施形態では、その配列はヒト涙リポカリンのコード配列に由来する。他の好ましい実施形態では、核酸はVEGPタンパク質、VEGタンパク質2、LCN 1またはALL 1タンパク質に由来する。
【0050】
別の好ましい実施形態では、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸配列は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、43〜49、70〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含み、ヒト涙リポカリンの位置8、9、10、11、12、13、43、45、47、70、72、74、75、90、92、94、および97に相当する配列位置が特に好ましい。
【0051】
更なる好ましい実施形態では、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸配列は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含む。
【0052】
ヒト涙リポカリン突然変異の直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、43〜49、70〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含み、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に更なる突然変異を含む、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸分子もまた好ましい。
【0053】
本明細書に開示されるような発明はまた、実験的突然変異誘発のセグメントの外側に更なる突然変異を含む、TLPC突然変異タンパク質をコードする核酸分子を含む。このような突然変異は、例えばそれらが折りたたみ効率、タンパク質の安定性または突然変異タンパク質のリガンド結合親和性の改善に寄与する場合、しばしば許容され、または有利であることを証明することもできる。
【0054】
本出願において開示される核酸分子は、この核酸分子の発現を可能にするために、調節配列(または複数の調節配列)に「機能しうる形で連結」されうる。
【0055】
DNAのような核酸分子は、それが転写および/もしくは翻訳調節に関する情報を含む配列エレメントを含み、このような配列がポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「機能しうる形で連結」されている場合、「核酸分子を発現できる」または「ヌクレオチド配列の発現を可能にすることができる」と言われる。機能しうる形での連結とは、調節配列エレメントおよび発現されるべき配列が遺伝子発現を可能にするように結合されている連結である。遺伝子発現に必要な調節領域の厳密な性質は種間で異なりうるが、一般的に、これらの領域は、原核生物では、プロモーター自体、すなわち転写の開始を指示するDNAエレメント、ならびにRNAに転写された際に翻訳の開始を指示するDNAエレメントの両方を含むプロモーターを含む。このようなプロモーター領域は、通常、原核生物における-35/-10ボックスおよびシャイン・ダルガーノ エレメントまたは真核生物におけるTATAボックス、CAAT配列および5'キャッピングエレメントなどの、転写および翻訳の開始に関与する5'非コード配列を含む。これらの領域はまた、エンハンサーまたはリプレッサーエレメント、ならびに翻訳シグナルおよび宿主細胞の特定の区画に天然ポリペプチドを標的化するためのリーダー配列を含み得る。
【0056】
加えて、3'非コード配列は転写終止、ポリアデニル化等に関与する調節エレメントを含みうる。しかし、これらの終止配列が特定の宿主細胞において十分機能的でない場合、その後、それらはその細胞において機能的なシグナルに置換されうる。
【0057】
従って、本発明の核酸分子は、調節配列、好ましくはプロモーター配列を含み得る。別の好ましい実施形態では、本発明の核酸分子は、プロモーター配列および転写終止配列を含む。適切な原核生物のプロモーターは、例えば、tetプロモーター、lacUV5プロモーターまたはT7プロモーターである。真核細胞での発現のために有用なプロモーターの例は、SV40プロモーターまたはCMVプロモーターである。
【0058】
本発明の核酸分子はまた、プラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミドもしくは人工染色体などの、ベクターまたは他の任意のクローニングベヒクル内に含まれ得る。好ましい実施形態では、核酸分子はファスミド内に含まれる。ファスミドベクターは、M13もしくはfl、または対象となるcDNAに融合されたその機能部分などのテンペレートファージの遺伝子間領域をコードするベクターを意味する。このようなファージミドベクターおよび適切なヘルパーファージ(例えばM13K07, VCS-M13 またはR408)による細菌性宿主細胞の重複感染後、完全なファージ粒子が産生され、その結果、コードされる異種cDNAの、ファージ表面に提示されるそれに対応するポリペプチドとの物理的な結合を可能にする(例えば、Kay, B.K.ら(1996) Phage Display of Peptides and Proteins-A Laboratory Manual, 第1版、Academic Press, New York NY; Lowman, H.B. (1997) Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struck. 26, 401-424,またはRodi, D.J.,およびMakowski, L. (1999) Curr. Opin. Biotechnol. 10, 87-93において概説される)。
【0059】
このようなクローニングベヒクルは、上述の調節配列および本発明のリポカリン突然変異タンパク質をコードする核酸配列に加えて、発現のために使用される宿主細胞に適合した種に由来する複製および制御配列、ならびに形質転換またはトランスフェクトされた細胞に選択可能な表現型を付与する選択マーカーを含み得る。多数の適切なクローニングベクターが当技術分野において知られており、市販されている。
【0060】
本発明のリポカリン突然変異タンパク質をコードするDNA分子、および特にこのようなリポカリン突然変異タンパク質のコード配列を含むクローニングベクターは、遺伝子を発現することができる宿主細胞に形質転換され得る。形質転換は標準的な技術を用いて実施され得る(Sambrook, J.ら(1989), 上述)。従って、本発明はまた、本明細書に記載されるような核酸分子を含む宿主細胞を対象とする。
【0061】
形質転換された宿主細胞は、本発明の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現に適した条件下で培養される。適切な宿主細胞は、Escherichia coli(E. coli)またはBacillus subtilisなどの原核生物、あるいはSaccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、SF9もしくはHigh5昆虫細胞、不死化哺乳動物細胞株(例えばHeLa細胞もしくはCHO細胞)、または初代培養哺乳動物細胞などの真核生物であり得る。
【0062】
本発明はまた、本発明の突然変異タンパク質またはその融合タンパク質を産生する方法に関し、それは
(a)涙リポカリンまたはそのホモログをコードする核酸分子に(ここで、涙リポカリンまたはそのホモログがヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有する)、2つ以上の異なるコドンでの突然変異誘発を受けさせ、その結果、1つ以上の突然変異タンパク質核酸分子を生じること、
(b)(a)で得られた1つ以上の突然変異タンパク質核酸分子を適切な発現系で発現させること、および、
(c)特定の標的に対して検出可能な結合親和性を有する少なくとも1つの突然変異タンパク質を、選択および/または単離によって濃縮することを含む。
【0063】
本方法の更なる実施形態では、核酸分子は、βバレル構造のいずれかの一端に配置される任意の1つ、2つ、3つまたは4つすべての上述のペプチドセグメントにおいて、2つ以上の異なるコドン(すなわち通常はヌクレオチドトリプレット)で独立に突然変異誘発を受け得る。従って、この置換がコードされるアミノ酸の変化を引き起こすならば、たった1塩基の置換で十分である。
【0064】
本産生方法では、突然変異タンパク質またはその融合タンパク質は、涙リポカリンまたはそのホモログをコードする核酸から得られ、突然変異誘発を受け、(既に上述されたように)組換えDNA技術を用いて適切な細菌性または真核性宿主生物に導入される。
【0065】
例えば、ヒト涙リポカリンのコード配列(Redl, B.ら(1992) J.Biol. Chem. 267, 20282-20287)は、本発明において選択されたペプチドセグメントの突然変異誘発のための開始点となり得る。天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の一端のN末端ペプチド伸長部および3つのペプチドループBC、DE、およびFG中のアミノ酸、ならびに結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH中のアミノ酸の突然変異誘発のために、当業者は、部位指定突然変異誘発のための様々な確立された標準的な方法を自由に行うことができる(Sambrook, J.ら(1989),上述)。一般的に使用される技術は、所望の配列位置に縮重塩基組成を持つ合成オリゴヌクレオチドの混合物を用いた、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)による突然変異の導入である。例えばイノシンのような、塩基対特異性の減少を伴うヌクレオチド構成単位の使用は、選択された配列セグメントへの突然変異の導入のための別の選択肢である。更なる可能性は、いわゆるトリプレット突然変異誘発である。この方法は、それぞれがコード配列への取り込みのために1つのアミノ酸をコードする異なるヌクレオチドトリプレットの混合物を使用する。
【0066】
それぞれのポリペプチドの選択された領域に突然変異を導入するための1つの可能性のある戦略は、そのおのおのが突然変異されるべき対応する配列セグメントの1つに部分的に由来する、4つのオリゴヌクレオチドの使用に基づく(図3参照)。これらのオリゴヌクレオチドを合成する際、当業者は、すべての天然のアミノ酸をコードするコドンが無作為に出現し、最終的にリポカリンペプチドライブラリーの作製を引き起こすように、突然変異されるべきアミノ酸位置に相当するそれらのヌクレオチドトリプレットの合成のための核酸構成単位の混合物を使用することができる。例えば、第一オリゴヌクレオチドは、(突然変異される位置だけでなく)リポカリンポリペプチドの最もN末端の位置で突然変異されるべきペプチドセグメントに対するコード鎖のその配列に相当する。従って、第二オリゴヌクレオチドは、ポリペプチド配列中の次の第二配列セグメントに対する非コード鎖に相当する。第三オリゴヌクレオチドは、順次、対応する第三配列セグメントに対するコード鎖に相当する。最後に、第四オリゴヌクレオチドは、第四配列セグメントに対する非コード鎖に相当する。ポリメラーゼ連鎖反応は、それぞれの第一および第二オリゴヌクレオチドを用いて、ならびに独立して、必要であれば、それぞれの第三および第四オリゴヌクレオチドを用いて実施され得る。
【0067】
これらの反応の両方の増幅産物は、様々な既知の方法によって、突然変異が選択された位置に導入された第一配列セグメントから第四配列セグメントまでの配列を含む単一の核酸へと結合され得る。このために、両方の産物は、例えば、隣接したオリゴヌクレオチド、ならびに第二配列セグメントと第三配列セグメントとの間の配列を提供する1以上のメディエーター核酸分子を用いた、新たなポリメラーゼ連鎖反応を受けることができる。この手順は図3に図解的に示される。突然変異誘発のために使用されるオリゴヌクレオチドの配列の数および配置の選択において、当業者は多数の選択肢を自由に用いることができる。
【0068】
上記で定義された核酸分子は、リポカリンポリペプチドをコードする核酸の欠落している5'配列および3'配列ならびに/またはベクターとライゲーションによって結合され得るものであり、既知の宿主生物にクローニングされ得る。多数の確立された方法がライゲーションおよびクローニングのために利用可能である(Sambrook, J.ら(1989), 上述)。例えば、クローニングベクターの配列内にも存在する制限エンドヌクレアーゼのための認識配列は、合成オリゴヌクレオチドの配列内に設計され得る。これによって、それぞれのPCR産物の増幅および酵素的切断後、結果として生じた断片は対応する認識配列を用いて容易にクローニングされ得る。
【0069】
突然変異誘発のために選択されたタンパク質をコードする遺伝子内のより長い配列セグメントはまた、既知の方法によって、例えば、エラー率を増加させる条件下でのポリメラーゼ連鎖反応の使用、化学的突然変異誘発、または突然変異誘発細菌株の使用によって、ランダム突然変異誘発を受けることもできる。このような方法はまた、リポカリン突然変異タンパク質の標的親和性または特異性の更なる最適化のために使用され得る。実験的突然変異誘発のセグメントの外側に起こりうる突然変異は、例えばそれらがリポカリン突然変異タンパク質の折りたたみ効率または折りたたみの安定性の改善に寄与する場合、しばしば許容され、または有利であることを証明することもできる。
【0070】
突然変異誘発を受けた核酸配列の適切な宿主での発現後、得られたライブラリーから、特定の標的に結合する複数のそれぞれのリポカリン突然変異タンパク質のための遺伝情報を有するクローンが選択され得る。これらのクローンの選択のために、ファージディスプレイ(Kay,B. K.ら(1996)上述; Lowman, H.B. (1997)上述;またはRodi, D. J.,およびMakowski, L. (1999)上述において概説される)、コロニースクリーニング(Pini, A.ら(2002) Comb. Chem. High Throughput Screen. 5, 503-510において概説される)、リボソームディスプレイ(Amstutz, P.ら(2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12,400-405)、またはWilson, D.S.ら(2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98,3750-3755において報告されるようなmRNAディスプレイなどの、よく知られている技術が使用され得る。
【0071】
テンペレートM13ファージを用いたファージディスプレイ法の実施形態(Kay, B.K.ら(1996),上述; Lowman, H.B. (1997) 上述、またはRodi, D.J.,および Makowski, L. (1999),上述において概説される)は、本発明の選択方法の例として挙げられる。しかし、flなどの他のテンペレートファージまたはT7のような溶菌性ファージも同様に使用されうることに注意すべきである。例示的な選択方法のために、N末端にシグナル配列、好ましくはOmpAシグナル配列を含み、C末端にファージキャプシドに組み込まれることを可能にするファージM13のキャプシドタンパク質pIIIまたはその断片を含む融合タンパク質として、突然変異されたリポカリン核酸配列の発現を可能にする、M13ファージミド(上記参照)が作製される。野生型配列の217〜406アミノ酸を含むファージキャプシドタンパク質のC末端断片ΔpIIIは、融合タンパク質の産生のために好んで使用される。位置201のシステイン残基が欠失しているか、または別のアミノ酸によって置換されているpIIIのC末端断片は特に好ましい。
【0072】
融合タンパク質は、その融合タンパク質もしくはその一部の固定化および/または精製を可能にする親和性タグのような更なる成分を含みうる。更に、終止コドンは、リポカリンまたはその突然変異タンパク質をコードする配列領域とファージキャプシド遺伝子またはその断片との間に配置され得るものであり、ここで終止コドン、好ましくはアンバー終止コドンは、少なくとも部分的に、適切なサプレッサー株での翻訳の際、アミノ酸に翻訳される。
【0073】
例えば、ファージミドベクターpTLPC7(図4)は、ヒト涙リポカリン突然変異タンパク質をコードするファージライブラリーの構築に使用され得る。突然変異したペプチドセグメントをコードする本発明の核酸分子は、BstXI制限酵素認識部位を用いてベクターに挿入される。組換えベクターはその後、E.coli XL1-Blueのような適切な宿主株に形質転換される。その結果生じるライブラリーはその後、機能的なファージを産生するために、適切なM13ヘルパーファージを用い、液体培養物において重複感染される。組換えファージミドは、コートタンパク質pIIIまたはその断片との融合物としてその表面にリポカリン突然変異タンパク質を提示するが、融合タンパク質のN末端シグナル配列は通常切断される。一方で、それはまた、ヘルパーファージによって供給される1コピー以上の天然のキャプシドタンパク質pIIIを持ち、そのためにレシピエント、一般的にはFプラスミドまたはF'プラスミドを有する細菌株に感染することができる。感染の間または感染後に、たとえば、アンヒドロテトラサイクリンの添加によって、リポカリン突然変異タンパク質およびキャプシドタンパク質pIIIを含む融合タンパク質の遺伝子発現が誘導され得る。誘導条件は、得られたファージのかなりの割合が少なくとも1つのリポカリン突然変異タンパク質をそれらの表面に提示できるように選択される。ファージを単離するために、ポリエチレングリコールによる沈殿などの、様々な方法が知られている。単離は通常、6〜8時間のインキュベーション期間の後に行われる。
【0074】
単離されたファージはその後、それらを特定の標的とともにインキュベーションすることによる選択の過程を受け、ここで、標的は、所望の結合活性を有する突然変異タンパク質を提示しているそれらのファージの少なくとも一時的な固定化を可能にする形で存在する。いくつかの固定化方法が当技術分野において知られている。例えば、標的は血清アルブミンのような担体タンパク質とコンジュゲートでき、この担体を介してポリスチレンのようなタンパク質結合表面に結合され得る。ELISA法に適したマイクロタイタープレートまたはいわゆる「イムノスティック」が好ましい。代替として、標的のコンジュゲートはまた、ビオチンのような他の結合基とも行われ得る。標的はその後、アビジンまたはストレプトアビジンで被覆されたマイクロタイタープレートまたは常磁性粒子などの、この基と選択的に結合する表面に固定化され得る。
【0075】
例えば、ファージ粒子は表面に固定化されたそれぞれの標的に結合することにより捕捉される。非結合ファージ粒子はその後、くり返し洗浄することにより除去される。結合ファージの溶出のために、遊離の標的(リガンド)分子がコンペティターとしてサンプルに添加され得る。あるいは、溶出はまた、プロテアーゼの添加によって、または穏やかな変性条件下、例えば、酸、塩基、界面活性剤もしくはカオトロピック塩の存在下で達成され得る。好ましい方法は、pH 2.2のバッファーを用いた溶出に続く溶液の中和である。溶出されたファージはその後、別の選択サイクルを受けてもよい。好ましくは、選択は、少なくとも0.1%のクローンがそれぞれの標的に対する検出可能な親和性を有するリポカリン突然変異タンパク質を含むまで続けられる。用いられるライブラリーの複雑性に応じて、この目的のために2〜8サイクルが必要とされる。
【0076】
選択されたリポカリン突然変異タンパク質の機能解析のために、得られたファージミドによってE. coli宿主株を感染させ、ファージミドDNAを標準的な技術(Sambrook, J.ら(1989),上述)を用いて単離する。突然変異された配列断片または完全長リポカリン突然変異タンパク質核酸配列は、任意の適切な発現ベクターにサブクローニングされ得る。得られた組換えリポカリン突然変異タンパク質は、それらの宿主生物または細胞溶解物から、ゲルろ過または親和性クロマトグラフィーなどの当技術分野において既知の様々な方法によって精製され得る。
【0077】
しかし、リポカリン突然変異タンパク質の選択はまた、当技術分野においてよく知られる他の方法を用いても行われ得る。更に、異なる方法を組み合わせることも可能である。例えば、ファージディスプレイによって選択または少なくとも濃縮されたクローンはその後、特定の標的に対して検出可能な結合親和性を有する特定のリポカリン突然変異タンパク質を単離するために、コロニースクリーニングアッセイを受けることができる。加えて、単一のファージライブラリーを作製する代わりに、そのコード核酸配列をくり返しの、任意選択で限定された突然変異誘発によって、所望の標的に対するその親和性または特異性について突然変異タンパク質を最適化するために、類似の方法が適用され得る。
【0078】
一旦、特定の標的に対して親和性を有する突然変異タンパク質が選択されたら、このようにして得られた新しいライブラリーから更に高い親和性の変異型を選択するために、更に、このような突然変異タンパク質に更なる突然変異誘発を受けさせることが可能である。親和性成熟は、合理的設計に基づく部位特異的突然変異またはランダム突然変異によって達成され得る。親和性成熟のための1つの可能性のあるアプローチは、リポカリン突然変異タンパク質の選択された範囲の配列位置全体に渡って点突然変異を引き起こす、エラープローンPCRの使用である(実施例17参照)。エラープローンPCRは、Zaccoloら(1996) J. Mol. Biol. 255, 589-603によって記載されるもののような任意の既知の方法に従って実施され得る。親和性成熟に適したランダム突然変異誘発の他の方法は、Murakami, Hら(2002) Nat. Biotechnol. 20, 76-81によって記載されるようなランダム挿入/欠失(RED)突然変異誘発、またはBittker, J.Aら(2002) Nat. Biotechnol. 20, 1024-1029によって記載されるような非相同的ランダム組換え(NRR)を含む。親和性成熟はまた、ジゴキシゲニンに対して高い親和性を有するビリン結合タンパク質の突然変異タンパク質が得られたWO 00/75308またはSchlehuber, S.ら(2000) J. Mol. Biol. 297, 1105-1120に記載される方法に従って実施され得る。
【0079】
本発明はまた、突然変異タンパク質、突然変異タンパク質の断片、または突然変異タンパク質と別のポリペプチドとの融合タンパク質が、突然変異タンパク質をコードする核酸から遺伝子組換え法を用いて産生される、本発明の突然変異タンパク質を産生する方法に関する。本方法はin vivoで実施することができ、突然変異タンパク質は例えば、細菌性または真核性宿主生物で産生され、その後この宿主生物またはその培養物から単離され得る。例えばin vitro翻訳系の使用によりin vitroでタンパク質を産生することも可能である。
【0080】
突然変異タンパク質をin vivoで産生する場合、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸は、(既に上述したような)組換えDNA技術を用いて適切な細菌性または真核性宿主生物に導入される。このために、宿主細胞は最初に、確立された標準的な方法(Sambrook, J.ら(1989),上述)を用いて、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸配列を含むクローニングベクターを用いて形質転換される。宿主細胞はその後、異種DNAの発現、およびそれにより対応するポリペプチドの合成を可能にする条件下で培養される。続いて、そのポリペプチドが、細胞または培養培地のいずれかから回収される。多くのリポカリンは分子内ジスルフィド結合を含むため、適切なシグナル配列を用いて、ポリペプチドを酸化性のレドックス環境を持つ細胞区画に指向させることが好ましい。このような酸化性環境は、E. coliのようなグラム陰性菌のペリプラズムまたは真核細胞の小胞体の内腔において提供され、通常、正しいジスルフィド結合の形成に適している。しかし、宿主細胞、好ましくはE. coliの細胞質ゾルにおいて本発明の突然変異タンパク質を産生することも可能である。この場合、ポリペプチドは、例えば、封入体の形で産生され、その後in vitroにおいて再生され得る。更なる選択肢は、酸化性の細胞内環境を持つ特定の宿主株の使用であり、それによって細胞質ゾルでの天然型タンパク質の産生を可能にする。
【0081】
しかし、本発明の突然変異タンパク質は、必ずしも遺伝子組換え技術の使用のみによって作製または産生されなくてもよい。むしろ、リポカリン突然変異タンパク質はまた、Merrifield固相ポリペプチド合成のような化学合成によって得ることもできる。例えば、分子モデリングを用いて見込みのある突然変異を同定し、その後、必要とされる(設計された)ポリペプチドをin vitroで合成し、特定の標的に対する結合活性を調べることが可能である。タンパク質の固相および/または液相合成のための方法は、当技術分野においてよく知られている(例えば、Lloyd-Williams, P.ら(1997) Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins. CRC Press, Boca Raton, Fields, G.B., およびColowick, S.P. (1997) Solid-Phase Peptide Synthesis. Academic Press, San Diego,またはBruckdorfer, T.ら(2004) Curr. Pharm. Biotechnol. 5, 29-43において概説される)。
【0082】
本発明はまた、少なくとも1つの本発明の突然変異タンパク質またはその融合タンパク質および製薬上許容されうる賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0083】
本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、タンパク質性薬物のために治療上効果的な任意の腸管外または非腸管外(経腸)経路を介して投与され得る。腸管外への適用方法は、例えば、注射液、輸液もしくはチンキの形態での、皮内、皮下、筋内または静脈内注射および注入法、ならびに、例えばエアロゾル混合物、スプレーもしくは粉末の形態でのエアロゾル導入および吸入を含む。非腸管外への送達法は、例えば、丸剤、錠剤、カプセル、溶液もしくは懸濁液の形態での経口投与、または、例えば坐薬の形態での直腸投与である。本発明の突然変異タンパク質は、必要であれば、従来の無毒な製薬上許容されうる賦形剤または担体、添加剤およびベヒクルを含む処方で、全身的または局所的に投与され得る。
【0084】
本発明の好ましい実施形態では、薬剤は、突然変異タンパク質の分子量が小さいという利点を利用した、最も好ましい適用方法の1つであるエアロゾル導入によって、非経口的に哺乳動物、特にヒトに投与される。
【0085】
従って、本発明の突然変異タンパク質は、製薬上許容されうる成分ならびに確立された調製方法(Gennaro, A.L.およびGennaro, A.R. (2000) Remington: The Science and Practice of Pharmacy,第20版, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA)を用いて組成物に処方され得る。医薬組成物を調製するために、製薬上不活性な無機または有機賦形剤が使用され得る。例えば丸剤、粉末、ゼラチンカプセルまたは坐薬を調製するために、例えば、乳糖、タルク、ステアリン酸およびその塩、脂肪、ろう、固体または液体ポリオール、天然油および硬化油が使用され得る。溶液、懸濁液、乳液、エアロゾル混合物、または使用前に溶液もしくはエアロゾル混合物に再構成するための粉末を製造するために適切な賦形剤は、水、アルコール、グリセロール、ポリオール、およびその適切な混合物ならびに植物油を含む。
【0086】
医薬組成物はまた、例えば、増量剤、結合剤、湿潤剤、潤滑剤、安定剤、保存剤、乳化剤などの添加物、更に、溶媒もしくは可溶化剤、またはデポー(depot)効果を達成するための薬剤を含みうる。後者は、融合タンパク質が、リポソームおよびマイクロカプセルなどの、緩徐性もしくは徐放性の放出または標的化送達システムに組み込まれうることである。
【0087】
処方は、細菌保持フィルターによるろ過を含む多数の方法によって、あるいは、使用直前に滅菌水もしくは他の滅菌媒体に溶解または分散され得る無菌の固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことにより、滅菌され得る。
【0088】
上記の開示から明らかなように、本発明の突然変異タンパク質またはその融合タンパク質もしくはそのコンジュゲートは、多くの用途に使用され得る。一般的に、このような突然変異タンパク質は、Fc部分のグリコシル化に特異的に依存するものを除いて、抗体が用いられるすべての用途に使用され得る。
【0089】
本発明の突然変異タンパク質はまた、事前に選択した部位への化合物の標的化のためにも使用され得る。このような目的のため、複合体形成を可能にするように、突然変異タンパク質を対象となる化合物と接触させる。その後、突然変異タンパク質および対象となる化合物を含む複合体は、事前に選択した部位へ送達される。この用途は、薬剤で治療されるべきと考えられるこのような感染した身体部位または器官に薬剤を(選択的に)送達するために特に適しているが、それに限定されない。
【0090】
本発明の突然変異タンパク質の別の用途は、標的を含むと考えられる検査サンプルと突然変異タンパク質を接触させること、および適切なシグナルによって突然変異タンパク質/標的複合体を検出することを含む、特定の標的または標的分子の結合/検出である。突然変異タンパク質はまた、複合体形成を可能にするために、標的を含むと考えられるサンプルと突然変異タンパク質を接触させること、および突然変異タンパク質/標的複合体をサンプルから分離することを含む、特定の標的の分離のために使用され得る。このような用途において、突然変異タンパク質および標的を含む複合体は、任意の適切な固相上に固定化されうる。
【0091】
検出可能なシグナルは、上記に説明したような標識によって、または、結合すなわち複合体形成自体による物理的特性の変化によって発生し得る。1つの例は、表面プラズモン共鳴、すなわち、結合パートナーの結合の間に、金箔のような表面上に固定化されるものから変化する値である。
【0092】
本明細書において開示される突然変異タンパク質およびその誘導体は、従って、抗体またはその断片と同様の多数の分野において使用され得る。特定の突然変異タンパク質の標的またはこの標的のコンジュゲートもしくは融合タンパク質を固定化または分離することを可能にする、担体への結合のためのこれらの使用に加えて、突然変異タンパク質は酵素、抗体、放射性物質、または生化学的活性もしくは定義された結合特性を有する任意の他のグループによる標識のために使用され得る。そうすることによって、それらのそれぞれの標的またはそのコンジュゲートもしくは融合タンパク質は検出され、あるいはそれらと接触させることができる。例えば、本発明の突然変異タンパク質は、確立した分析法(例えばELISAもしくはウェスタンブロット)または顕微鏡検査もしくは免疫検出法による化学構造の検出のために使用され得る。ここで、検出シグナルは、適切な突然変異タンパク質コンジュゲートもしくは融合タンパク質の使用によって直接的に、または、抗体を介して結合した突然変異タンパク質の免疫化学的検出によって間接的に発生し得る。
【0093】
本発明の突然変異タンパク質に関する多数の可能性のある用途はまた、医学においても存在する。診断および薬物送達におけるそれらの使用に加えて、例えば、組織または腫瘍特異的な細胞表面分子と結合する本発明の突然変異ポリペプチドが作製され得る。このような突然変異タンパク質は、例えば、「腫瘍イメージング」のために、または直接的に癌治療のために、コンジュゲートされた形態で、または融合タンパク質として使用されうる。
【0094】
本明細書に記載される突然変異タンパク質の別の関連した好ましい用途は、標的の検証、すなわち、疾患もしくは障害の発生または進行に関与すると考えられるポリペプチドが、実際にその疾患もしくは障害の何らかの原因になるかどうかの解析である。薬理学的な薬物標的としてタンパク質を評価するためのこの用途は、その天然の立体構造でのタンパク質の表面領域を特異的に認識する、すなわち、天然のエピトープに結合する本発明の突然変異タンパク質の能力を有効に活用する。この点において、この能力はわずかに限られた数の組換え抗体についてしか報告されていないことに注意すべきである。しかし、薬物標的の検証のための本発明の突然変異タンパク質の使用は、標的としてのタンパク質の検出に限定されず、タンパク質ドメイン、ペプチド、核酸分子、有機分子または金属錯体の検出をも含む。
【0095】
本発明は以下の図および実施例によって更に説明される。
【0096】
図1は、成熟ヒト涙リポカリンのポリペプチド配列を示す(SWISS-PROT Data Bank 受入番号 M90424、158アミノ酸、またRedl B. (2000) Biochim. Biophys. Acta,上述を参照)。この点において、以下のように改変されたヒトタンパク質が、以下の実施例においてリポカリン突然変異タンパク質の作製のために使用されたことに注意すべきである。第一に、ヒト涙リポカリンの寄託配列の最初の4つのN末端アミノ酸残基(HHLL)は削除された。第二に、最後の2つのC末端アミノ酸残基(SD)もまた削除された。第三に、配列位置5〜7の野生型配列(ASD)はGGDに変更された。これらの変化は添付の配列表に反映されており、アミノ酸GGDは使用された涙リポカリンの最初の3残基として示される。アミノ酸が置換されるβバレルの開放末端の4つのセグメント(AB、CD、EFおよびGH)は、TLPCの配列の下に二重下線によって示される。βバレルの閉鎖末端に結合部位を形成するために突然変異が導入されるセグメントBC、DEおよびFGならびにN末端ペプチド伸長部は、太字で記され一重下線で示される。実施例において突然変異されるTLPCの配列位置は、更に星印で表示される。
【0097】
図2は、(Flower,D.R. (1996),上述による)リポカリンの折りたたみの特性を模式的に図解する。βバレルを形成する逆平行βシートの8本のβ鎖は矢印で示され、A〜Hと表示される(いくつかのリポカリンにおいて更に存在する、Iと表される9番目のβ鎖もまた図示される)。2本の鎖の水素結合による連結は、それらの間の一対の点線によって示される。連結ループは実線の曲線として示される。βバレルの2つの末端は位相的に区別できる。一方の末端は4つのβヘアピン(ループAB、CD、EFおよびGH)を持ち、リポカリンの既知のリガンド結合部位の開口部はここにあり、開放末端と呼ばれる。βバレルの他方の末端は3つのループ(BC、DEおよびFG)を持ち、それはN末端ポリペプチド領域とともに閉鎖末端を形成し、本発明において第二の結合部位を導入するために使用される。3つの主な折りたたみの構造保存領域(SCR)、SCR1、SCR2およびSCR3を形成する部分は、箱形の囲みで示される。
【0098】
図3は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のくり返しによる、改変TLPCの17の選択されたアミノ酸位置での協調的な突然変異誘発のための戦略を模式的に示す。アミノ酸が突然変異されるべき、N末端付近の配列、ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFGのそれぞれに対して、配列表に示されるようなランダムヌクレオチドを有するオリゴデオキシヌクレオチドが合成された(配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6)。選択された構成のために、全部で3つの可能性のある終止コドンから、アンバー終止コドン、TAGのみが、突然変異されるコドンに許容され、それはE.coli supE株XL1-blue(Bullockら(1987)BioTechniques 5, 376-378)またはTG1(Sambrookら,上述)においてグルタミンとして翻訳される。特定の用途のために、例えば他の細菌株または生物での遺伝子発現のために、このようなナンセンスコドンは、例えば部位指定突然変異誘発によって、グルタミンをコードするコドンに置換され得る。159塩基対を有する核酸断片が、それぞれ配列番号3および配列番号4のプライマーを用いて、鋳型としてpTLPC6プラスミドDNA(配列番号2)を用いて増幅された(PCR番号1、A)。別のPCRでは、123塩基対を有する核酸断片が、それぞれ配列番号5および配列番号6のプライマーを用いて、鋳型としてpTLPC6を用いて増幅された(PCR番号1、B)。両方のPCR産物の混合物は、2つの5'ビオチン化隣接PCRプライマー、すなわち、配列番号7および配列番号8、ならびに配列番号9の仲介プライマーを用いた別の増幅(PCR番号2)における鋳型としての役割を果たし、341塩基対のDNA断片の増幅を引き起こす。17すべての突然変異コドンの混合物を含むこの断片を、次に、2つのBstXI制限酵素認識部位を用いてベクターpTPLC7にクローニングしたが、その特別な配列は特に効率的なライゲーションを可能にする2つの適合しない突出DNA末端を生じた。ライゲーション効率は、常磁性ストレプトアビジン被覆ビーズによる消化されたPCR断片の精製によって改善されうる。アミノ酸置換Glu104Gln、ならびに、ompAシグナル配列のAla-3に対するコドン、Ala21およびHis106に対するコドンにおけるサイレント突然変異は、事前に、pTLPC6の構築の際にBstXI制限酵素認識部位の両方をTLPCコード配列内に導入するために行われた。
【0099】
図4は、OmpAシグナル配列(OmpA)、アミノ酸置換、Ala5Asp、Ser6Gly、Asp7Gly、Cys101Ser、およびGlu104Glnを伴う改変TLPC(TLPC cDNA、Redlら、上述を参照)、およびアミノ酸217〜406を含む末端切断型のM13コートタンパク質pIII(pIII)からなる融合タンパク質をコードするベクターpTLPC7の模式図を示す。遺伝子発現は、テトラサイクリンプロモーター/オペレーター(tetp/o)システムの制御下にある。転写はリポタンパク質転写ターミネーター(tlpp)で終止する。ベクターは更に、複製起点(ori)、線状ファージf1の遺伝子間領域(f1-IG)、β-ラクタマーゼをコードするアンピシリン耐性遺伝子(bla)、およびテトラサイクリンリプレッサー遺伝子(tetR)を含む。SupEアンバーサプレッサー宿主株において部分的にGlnに翻訳されるアンバー終止コドンは、TLPCコード領域と末端切断型ファージコートタンパク質pIIIのコード領域との間に位置する。突然変異された遺伝子カセットのクローニングのために使用されるBstXI制限酵素認識部位および構造遺伝子に隣接している制限酵素認識部位の両方は標識される。pTLPC7のXbaI-HindIII部分の核酸配列は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号1として配列表に示される。この領域の外側のベクター配列は、pASK75の配列と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0100】
図5は、ベクターpTLPC6の模式図を示す。pTLPC6は、OmpAシグナル配列、図1に従った改変TLPC、およびStrep-tag(登録商標)II親和性タグからなる融合タンパク質をコードする。その他の点では、このベクターはpTLPC7と同一である。pTLPC6のXbaI-HindIII部分の核酸配列は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号2として配列表に示される。この領域の外側のベクター配列は、pASK75の配列と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0101】
図6は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のくり返しによる、改変TLPCでの17または19の選択されたアミノ酸位置での協調的な突然変異誘発のための戦略を模式的に示す。ループABのランダム化のために、ランダム化されるループABならびにそれぞれ2および4アミノ酸による伸長をコードしている異なる長さの、3つのフォワードオリゴデオキシヌクレオチド(配列番号26、配列番号27、および配列番号28)が合成され、ループCDのために1つのリバースオリゴデオキシヌクレオチド(配列番号29)が合成された。更に、それぞれペプチドループEFおよびGHのために、2つのオリゴデオキシヌクレオチドの対が合成された(配列番号30および配列番号31)。これらのオリゴヌクレオチドは、その中でアミノ酸が突然変異されるように、配列表に示されたようなランダムヌクレオチドを含んでいる。142、148、および154塩基対を有する3つの核酸断片が、それぞれのプライマー配列番号26、配列番号27、配列番号28および配列番号29を用いて、鋳型としてpTLPC12プラスミドDNA(図7、配列番号23)を用いて増幅された(PCR番号1、A)。別のPCRでは、119塩基対を有する核酸断片が、それぞれ配列番号30および配列番号31のプライマーを用いて、また鋳型としてpTLPC12を用いて増幅された(PCR番号1、B)。PCR番号1B から生じるPCR断片Bの、PCR番号1Aから生じる(ループABの長さの異なる)3つのPCR断片Aのそれぞれとの混合物は、配列番号32の仲介プライマーとともに、配列番号33および配列番号34として示される2つの5'ビオチン化隣接PCRプライマーを用いた別の増幅(PCR番号2)において、鋳型として機能した。このPCRは、(ループABおよび4アミノ酸によって伸長されたループABについて)17個または(2アミノ酸によって伸長されたループABについて)19個のいずれかの突然変異コドンを有する涙リポカリンのほぼ完全な構造遺伝子を含む、336、342、および348塩基対のサイズからなるDNA断片の増幅を引き起こした。その断片を次に、2つのBstXI制限酵素認識部位を用いてベクターpTPLC12にクローニングしたが、その特別な配列は特に効率的なライゲーションを可能にする2つの適合しない突出DNA末端を生じた。ライゲーション効率は、常磁性ストレプトアビジン被覆ビーズによる消化されたPCR断片の精製によって改善されうる。アミノ酸置換Ser14ProおよびLys114Gln、ならびに、Met21、Val110に対するコドン、およびVal116に対するコドンにおけるサイレント突然変異は、事前に、pTLPC12の構築の際に両方のBstXI制限酵素認識部位をTLPCコード配列内に導入するために行われた。
【0102】
図7は、OmpAシグナル配列(OmpA)、T7検出タグ(T7)、アミノ酸置換、Ser14Pro、Lys114Gln、Cys101Ser、およびGlu104Glnを伴う改変TLPC(TLPC cDNA、Redlら、上述を参照)、およびアミノ酸217〜406を含む末端切断型のM13コートタンパク質pIII(pIII)からなる融合タンパク質をコードするベクターpTLPC12の模式図を示す。遺伝子発現は、テトラサイクリンプロモーター/オペレーター(tetp/o)システムの制御下にある。転写はリポタンパク質転写ターミネーター(tlpp)で終止する。ベクターは更に、複製起点(ori)、線状ファージf1の遺伝子間領域(f1-IG)、β-ラクタマーゼをコードするアンピシリン耐性遺伝子(bla)、およびテトラサイクリンリプレッサー遺伝子(tetR)を含む。SupEアンバーサプレッサー宿主株において部分的にGlnに翻訳されるアンバー終止コドンは、TLPCコード領域と末端切断型ファージコートタンパク質pIIIのコード領域との間に位置する。突然変異された遺伝子カセットのクローニングのために使用されるBstXI制限酵素認識部位および構造遺伝子に隣接している制限酵素認識部位の両方は標識される。pTLPC12のXbaI-HindIII部分の核酸配列は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号23として配列表に示される。この領域の外側のベクター配列は、pASK75の配列と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0103】
図8は、発現ベクターpTLPC8の模式図を示す。pTLPC8は、OmpAシグナル配列、(図4)に従った改変涙リポカリンと、それに続くT7検出タグ(T7)およびC末端Strep-tag(登録商標)IIとの融合タンパク質をコードする。pTLPC8の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号24として配列表に示される。その部分は、XbaI制限酵素認識部位で始まり、HindIII制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpASK75と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0104】
図9は、実施例6からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質と規定された標的rhuVEGF165ならびに関係のない標的BSAとの結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S69.4 O13(黒丸)のELISAプレート上に固定化されたrhuVEGF165との結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)BSA(白丸)との突然変異タンパク質の相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にrhuVEGF165と結合したが、関係のない標的(白丸)との有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0105】
図10は、実施例10からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10単量体の、規定された標的hCD22ならびに関係のない標的hIgG1、HSAおよびhCD33-Fcとの結合測定が行われた。固定化されたTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10単量体のhCD22(黒四角)との結合は、突然変異タンパク質のhIgG1(白三角)、HSA(白丸)およびhCD33-Fc(白菱形)との相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD22と結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0106】
図11は、実施例10からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10二量体の、規定された標的hCD22ならびに関係のない標的hIgG1、HSAおよびhCD33-Fcとの結合測定が行われた。固定化されたTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10二量体のhCD22(黒丸)との結合は、突然変異タンパク質のhIgG1(白三角)、HSA(白四角)およびhCD33-Fc(白菱形)との相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD22と結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0107】
図12は、実施例14からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S67.7 C6と規定された標的CD25ならびに関係のない標的である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6(黒丸)の(捕捉 mAbを介してELISAプレート上に固定化された)CD25-Fcとの結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)捕捉 mAb(白丸)との突然変異タンパク質の相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6は濃度依存的にCD25と結合するが、関係のない標的である捕捉 mAb(白丸)に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。対照の結合曲線はこの関係のない標的のみに対して示されるが、検査した他の対照標的に対して同様の結果が得られた。
【0108】
図13は、哺乳動物トランスフェクションベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)の模式図を示す。このベクターは、NCBI受入番号NM_000417 [gi:4557666]によるヒトCD25の完全長cDNA配列をコードする。ヒトCD25の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号10として配列表に示される。その部分は、HindIII制限酵素認識部位で始まり、XhoI制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(Invitrogen)のものと同一である。
【0109】
図14は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞のフルオレセイン標識TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6による染色を示す。発現ベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)(CHO-CD25;上パネル)または親ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(CHO;下パネル)でトランスフェクトされたCHO細胞は、等モル比のフルオレセインで標識したCD25特異的突然変異タンパク質S67.7 C6(左パネル; 実線によるヒストグラム)またはFITC標識CD25特異的mAb(右パネル; 実線によるヒストグラム)とともにインキュベーションされた。並行して、これらの細胞株は、両方とも対照として、等モル比のフルオレセインで標識したpTLPC8によってコードされる組換え野生型TLPC(左パネル; 破線によるヒストグラム)またはFITC標識IgG1(右パネル; 破線によるヒストグラム)とともにインキュベーションされた。CD25特異的突然変異タンパク質S67.7 C6およびCD25特異的mAbの両方は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の有意な染色を示すが、モックトランスフェクションしたCHO細胞株の有意な染色は生じない。対照の野生型TLPCおよびIgG1は、検査された両細胞株への有意な結合を示さない。
【0110】
図15は、pTLPC9の模式図を示す。このベクターは、OmpAシグナル配列、図1に従った改変涙リポカリン、Strep-tag(登録商標)II、およびStreptococcus由来のプロテインGのアルブミン結合ドメイン(abd)(Kraulisら(1996) REBS Lett. 378, 190-194)の融合タンパク質をコードする。非サプレッサーE. coli株を用いた時に、ABDを持たないTLPC突然変異タンパク質の可溶性発現を可能にするために、アンバー終止コドンをStrep-tag(登録商標)IIとC末端のアルブミン結合ドメインとの間に導入した。pTLPC9の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号22として配列表に示される。その部分は、XbaI制限酵素認識部位で始まり、HindIII制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpASK75のものと同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0111】
図16は、実施例21からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体画分と規定された標的CD25ならびに関係のない標的である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体画分(黒丸)の(捕捉 mAbを介してELISAプレート上に固定化された)CD25-Fcへの結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)捕捉 mAb(白丸)との突然変異タンパク質の相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体画分は濃度依存的にCD25と結合するが、関係のない標的である捕捉 mAb(白丸)に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。対照の結合曲線はこの関係のない標的のみに対して示されるが、検査した他の対照標的に対して同様の結果が得られた。
【0112】
図17は、実施例21からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の二量体画分と規定された標的CD25ならびに関係のない標的である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の二量体画分(黒丸)の(捕捉 mAbを介してELISAプレート上に固定化された)CD25-Fcへの結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)捕捉 mAb(白丸)との突然変異タンパク質の相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の二量体画分は濃度依存的にCD25と結合するが、関係のない標的である捕捉 mAb(白丸)に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。対照の結合曲線はこの関係のない標的のみに対して示されるが、検査した他の対照標的に対して同様の結果が得られた。
【0113】
図18は、哺乳動物トランスフェクションベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)の模式図を示す。このベクターは、NCBI受入番号BC_074950 [gi:49902361]によるヒトCD154の完全長cDNA配列をコードする。ヒトCD154の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号11として配列表に示される。その部分は、XhoI制限酵素認識部位で始まり、ApaI制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(Invitrogen)のものと同一である。
【0114】
図19は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞のフルオレセイン標識TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15による染色を示す。発現ベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)(CHO-CD25;上パネル)または発現ベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)(CHO-CD154;下パネル)でトランスフェクトされたCHO細胞は、2倍のモル比のフルオレセインで標識した親和性改善CD25特異的突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15(左パネル; 実線によるヒストグラム)またはFITC標識CD25特異的mAb(右パネル; 実線によるヒストグラム)とともにインキュベーションされた。並行して、これらの細胞株は、両方とも対照として、2倍のモル比のフルオレセインで標識したpTLPC8によってコードされる組換え野生型TLPC(左パネル; 破線によるヒストグラム)またはFITC標識IgG1(右パネル; 破線によるヒストグラム)とともにインキュベーションされた。親和性改善CD25特異的突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15およびCD25特異的mAbの両方は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の有意な染色を示すが、ヒトCD154を発現しているCHO細胞株の有意な染色は生じない。対照の野生型TLPCおよびIgG1は、検査された両細胞株への有意な結合を示さない。
【0115】
図20は、実施例26からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によって、それぞれ、TLPC突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15と、規定された標的CD25ならびに関係のない標的である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片との結合測定が行われた。それぞれTLPC突然変異タンパク質S99.3 H24(黒丸)、S99.3 C13(黒四角)およびS99.4 F15(黒三角)の(捕捉 mAbを介してELISAプレート上に固定化された)CD25-Fcへの結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)捕捉 mAbとそれぞれの突然変異タンパク質との相互作用(それぞれ、白丸、白四角および白三角)と比較された。TLPC突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15は濃度依存的にCD25と結合するが、関係のない標的である捕捉 mAb(白シンボル)に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。対照の結合曲線はこの関係のない標的のみに対して示されるが、検査した他の対照標的に対して同様の結果が得られた。
【0116】
図21は、発現ベクターpTLPC14の模式図を示す。pTLPC14は、OmpAシグナル配列、T7検出タグ(T7)の、(図7)に従った改変涙リポカリンと、それに続くC末端Strep-tag(登録商標)IIとの融合タンパク質をコードする。pTLPC14の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号25として配列表に示される。その部分は、XbaI制限酵素認識部位で始まり、HindIII制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpASK75と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0117】
図22は、実施例30からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によって突然変異タンパク質S100.1 I08のTLPC単量体ならびに二量体画分の、規定された標的hCD33-Fcならびに関係のない標的hCD22との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S100.1 I08のhCD33-Fcとの結合(黒丸; 黒三角)は、hCD22との相互作用(白丸; 白三角)と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD33-Fcと結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0118】
図23は、実施例30からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S101.2 A20の、規定された標的hCD33-Fcならびに関係のない標的hCD22およびhIgG1との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S101.2 A20のhCD33-Fcとの結合(黒丸)は、突然変異タンパク質のhIgG1(白丸)およびhCD22(白三角)との相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD33-Fcと結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0119】
図24は、実施例30からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S101.2 O08の単量体ならびに二量体画分の、規定された標的hCD33-Fcならびに関係のない標的hCD22およびhIgG1との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S101.2 O08のhCD33-Fcへの結合(黒丸; 黒四角)は、突然変異タンパク質のhIgG1(白三角; 白菱形)およびhCD22(白丸; 白四角)との相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD33-Fcと結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0120】
図25は、RU(=応答単位)で測定される結合シグナルを時間に対してプロットする、実施例31からの結合測定のセンサグラムを示す。注入の間に、TLPC突然変異タンパク質S100.1 I08は規定された標的hCD33-Fcと結合する。注入後、その表面は泳動バッファーによって洗浄され、突然変異タンパク質はその標的から解離する。結合速度定数および解離速度定数(konおよびkoff)はBIAevaluation software 3.1を用いて測定された。
【0121】
図26は、RU(=応答単位)で測定される結合シグナルを時間に対してプロットする、実施例31からの結合測定のセンサグラムを示す。注入の間に、TLPC突然変異タンパク質S101.2 A20は規定された標的hCD33-Fcと結合する。注入後、その表面は泳動バッファーによって洗浄され、突然変異タンパク質はその標的から解離する。結合速度定数および解離速度定数(konおよびkoff)はBIAevaluation software 3.1を用いて測定された。
【0122】
図27は、RU(=応答単位)で測定される結合シグナルを時間に対してプロットする、実施例31からの結合測定のセンサグラムを示す。注入の間に、TLPC突然変異タンパク質S101.2 O08は規定された標的hCD33-Fcと結合する。注入後、その表面は泳動バッファーによって洗浄され、突然変異タンパク質はその標的から解離する。結合速度定数および解離速度定数(konおよびkoff)はBIAevaluation software 3.1を用いて測定された。
【実施例】
【0123】
実施例1
100億の独立したTLPC突然変異タンパク質を含むライブラリーの作製
他に示されない限り、例えばSambrookら(上述)に記載されるような、確立された組換え遺伝子法を使用した。
【0124】
高い複雑性を有するTLPCのランダムライブラリーは、図3に従って多段階のPCRを用いた、N末端付近およびペプチドループBC、DE、およびFG内の全部で17の選択されたアミノ酸位置の協調的な突然変異誘発によって作製された。PCR反応は、第一増幅段階の両方(PCR番号1、AおよびB)において100μlの容量で行われ、ここでは鋳型として10 ngのpTLPC6プラスミドDNA(図5、配列番号2)を、従来のホスホロアミダイト法に従って合成された50 pmolの各プライマー対(それぞれ、配列番号3および配列番号4または配列番号5および配列番号6)とともに使用した。加えて、反応混合物は、10μlの10 X Taqバッファー(100 mM Tris/HCl pH 9.0、500 mM KCl、15 mM MgCl2、1% v/v Triton X-100)および2μlのdNTP-Mix(10 mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を含有した。水で容量を合わせた後、5 U Taq DNAポリメラーゼ(5U/μl, Promega)を添加し、加熱される蓋を備えるサーモサイクラー(Eppendorf)において94℃で1分間、62℃で1分間、および72℃で1.5分間の20サイクルを行い、続いて最後の伸長のために60℃で5分間インキュベーションした。所望の増幅産物を、GTQアガロース(Roth)を用いた分取用アガロースゲル電気泳動によって、Jetsorb DNA extraction kit(Genomed)を用いて単離した。
【0125】
次の増幅段階のために、2000μlの混合物を調製し、ここでは、1000 pmolの各アセンブリープライマー配列番号7、配列番号8および20 pmolの仲介プライマー配列番号9の存在下で、約1000 fmolのこれらそれぞれの断片の両方を鋳型として用いた。両アセンブリープライマーは、それらの5'末端に、BstXI切断後のストレプトアビジン被覆常磁性ビーズによるPCR産物の精製を可能にするビオチン基を持っていた。更に、200μlの10 x Taqバッファー、40μlのdNTP-Mix(10 mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、100 u Taq DNAポリメラーゼ(5U/μl, Promega)および水を加え、混合物を2000μlの最終容量にした。混合物を100μlずつに等分し、94℃で1分間、60℃で1分間、72℃で1.5分間の20サイクルでのPCRを行い、続いて60℃で5分間インキュベーションした。E.Z.N.A. Cycle-Pure Kit(PeqLab)を用いてPCR産物を精製した。
【0126】
クローニングの目的のために、TPLC突然変異タンパク質の核酸の形でのライブラリーに相当するこの断片を、まず、製造業者の説明書に従って制限酵素BstXI(Promega)で切断し、その後、上述のような分取用アガロースゲル電気泳動によって精製し、303ヌクレオチドのサイズの二本鎖DNA断片を得た。消化されなかったか、または不完全に消化されたDNA断片は、ストレプトアビジン被覆常磁性ビーズ(Merck)を用いて、それらの5'ビオチンタグによって除去された。
【0127】
したがって、200μlの10 mg/mlの濃度での市販の常磁性粒子の懸濁液を、100μlのTEバッファーで3回洗浄した。次に、その粒子から液を除き、100μlのTEバッファー中の100 pmolのDNA断片とともに室温で15分間混和した。その常磁性粒子を磁石を用いてエッペンドルフ容器の内壁に回収し、精製されたDNA断片を含む上清を以下のライゲーション反応での更なる使用のために回収した。
【0128】
ベクターpTLPC7(図4)のDNAを上述のようにBstXIで切断し、その結果生じた2つの断片のうちより大きいもの(3907 bp)を分取用アガロースゲル電気泳動によって精製した。ライゲーション反応のために、5.99μg(30 pmol)のPCR断片および77.3μg(30 pmol)のベクター断片を、全容量8330μl(50 mM Tris/HCl pH 7.8、10 mM MgCl2、10 mM DTT、1 mM ATP、50μg/ml BSA)中の833 Weiss UnitのT4 DNAリガーゼ(Promega)の存在下で、24時間16℃でインキュベーションした。その後、ライゲーション混合物中のDNAを、208μlの酵母tRNA(10 mg/ml水溶液(Roche))、8330μlの5 M酢酸アンモニウム、および33.3 mlのエタノールを加えることによって沈殿させた。室温で1時間のインキュベーションに続いて、遠心分離(30分間、16000 g、4℃)を行った。沈殿物を5 mlのエタノール(70% v/v、室温)で洗浄し、遠心分離し(10分間、16000 g、4℃)、DNAペレットが光沢のある無色に見えるまで風乾した。最後に、DNAを全容量416.5μlの水に溶解し、200μg/mlの最終濃度にした。
【0129】
エレクトロコンピテントE. coli XL1-Blueの調製(Bullockら、上述)は、TungおよびChow(Trends Genet. 11 (1995), 128-129)ならびにHengen(Trends Biochem. Sci. 21 (1996), 75-76)によって記載された方法に従って行われた。静止期のXL1-Blue一晩培養物を添加することにより、1 l のLB培地を600 nmでOD600 = 0.08の光学密度に調整し、2 lの三角フラスコ中で140 rpm、26℃でインキュベーションした。OD600 = 0.6に達した後、培養物を氷上で30分間冷却し、続いて15分間4000 g、4℃で遠心分離した。細胞を500 mlの氷冷した10% w/vグリセロールで2回洗浄し、最後に2 mlの氷冷したGYT培地(10% w/vグリセロール、0.125% w/v酵母抽出物、0.25% w/vトリプトン)に再懸濁した。その後、細胞を等分し(200μl)、液体窒素で急速冷凍し、-80℃で保存した。
【0130】
Micro Pulser system(BioRad)を、同製造業者からのエレクトロポレーションのためのキュベット(電極間隔2 mm)と併せて使用した。事前に-20℃の温度に冷却したキュベットを用いて、すべてのステップを室温で行った。各10μlのDNA溶液(2μg)を100μlの細胞懸濁液と混合し、氷上で1分間インキュベーションし、事前に冷却したキュベットに移した。エレクトロポレーションを行い(5 ms、12.5 kV/cm)、懸濁液を直ちに2 mlのSOC培地で希釈し、続いて60分間、37℃、140 rpmでインキュベーションした。その後、その培養物を100μg/mlアンピシリンを含む4 lの2 x YT培地(2 YT/Amp)に希釈し、0.26のOD550にした。全量78.61μgのライゲーションされたDNAを用いることにより、42回のエレクトロポレーションの実行で、約1.0 x 1010の形質転換体が得られた。形質転換体は更に、PCT出願WO03/029471の実施例7またはPCT出願WO 99/16873の実施例1に記載されるように、融合タンパク質としてTLPC突然変異タンパク質のライブラリーをコードするファージミドの調製のために使用された。
【0131】
実施例2
100億の独立したTLPC突然変異タンパク質を含むライブラリーの作製
高い複雑性を有する第二のTLPCのランダムライブラリーは、図6に従い多段階のPCRを用いて、リポカリンの開放末端において天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EFならびにGH内の選択されたアミノ酸位置の協調的な突然変異誘発によって作製された。実施例1に記載されているのと同様のPCR戦略を用いるが、PCR A由来の断片の調製のために、2または4アミノ酸の挿入のための6または12の更なるランダムヌクレオチドを含む2つの異なるオリゴデオキシヌクレオチド(配列番号27および配列番号28)を用いて、ループABには、2または4アミノ酸のいずれかの挿入による長さの変異が導入された。4アミノ酸の挿入を有するループABを安定化するために、N末端およびC末端のアンカー位置を、配列番号28のオリゴヌクレオチドによってコードされるアミノ酸置換V24W、D25SおよびM31N、N32Sによって固定した。第一増幅段階(PCR番号1)において、伸長されないループABの増幅のために配列番号26および配列番号29、2アミノ酸による伸長のために配列番号27および配列番号29、4アミノ酸による伸長のために配列番号28および配列番号29のプライマーとともに、pTLPC12プラスミドDNA(図7、配列番号23)を鋳型として使用する以外、実施例1に記載されたものと同一の方法で、PCR反応を行った。このPCRは、(伸長されないループABおよび4アミノ酸によって伸長されたループABについて)17個または(2アミノ酸によって伸長されたループABについて)19個のいずれかの突然変異コドンを有する涙リポカリンのほぼ完全な構造遺伝子を含む、336、342、および348塩基対のサイズからなるDNA断片の増幅を引き起こした。PCR番号1、Bでは、PCR断片Bを増幅するために、配列番号30および配列番号31のオリゴヌクレオチドを用いた。所望の増幅産物を、GTQアガロース(Roth)を用いた分取用アガロースゲル電気泳動によって、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて単離した。
【0132】
次の増幅段階(PCR番号2)におけるPCR断片AおよびBのアセンブリーために、PCR断片Aのそれぞれを、別々の1000μlの混合物中でPCR断片Bと混合し、ここでは、500 pmolの各アセンブリープライマー配列番号33、配列番号34および10 pmolの仲介プライマー配列番号32の存在下で、約500 fmolの両方のこれらそれぞれの断片を鋳型として用いた。PCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。
【0133】
クローニングの目的のために、TPLC突然変異タンパク質の核酸の形でのライブラリーに相当するこの断片を、まず、製造業者の説明書に従って制限酵素BstXI(Promega)で切断し、その後、上述のように精製し、299、305および311ヌクレオチドのサイズの二本鎖DNA断片を得た。消化されなかったか、または不完全に消化されたDNA断片は、実施例1に記載されたように、ストレプトアビジン被覆常磁性ビーズ(Merck)を用いて、それらの5'ビオチンタグによって除去された。
【0134】
上記からのTLPC突然変異タンパク質のその後のライゲーションのために、実施例1に記載されたように、ベクターpTLPC12(図7)のDNAから3944断片を調製し、精製した。ライゲーション反応のために、1.97μg(10 pmol)の各PCR断片および84μg(30 pmol)のベクター断片を、全容量8400μl(50 mM Tris/HCl pH 7.8、10 mM MgCl2、10 mM DTT、1 mM ATP、50μg/ml BSA)中の840 Weiss UnitのT4 DNAリガーゼ(Promega)の存在下で、38時間16℃でインキュベーションした。その後、ライゲーション混合物中のDNAを、210μlの酵母tRNA(10 mg/ml水溶液(Roche))、8400μlの5 M酢酸アンモニウム、および33.6 mlのエタノールを加えることによって沈殿させた。実施例1に従って更なる処理を行い、最後に、DNAを全容量420μlの水に溶解し、200μg/mlの最終濃度にした。
【0135】
エレクトロコンピテントE. coli XL1-Blueの調製および形質転換(Bullockら、上述)は、実施例1に従って行われた。全量85.97μgのライゲーションされたDNAを用いることにより、全42回のエレクトロポレーションの実行で、約0.6 x 1010の形質転換体が得られた。形質転換体は更に、PCT出願WO03/029471の実施例7またはPCT出願WO 99/16873の実施例1での記載に従ったファージミドの調製のために使用された。
【0136】
実施例3
ファージミド提示および高結合能ポリスチロールマルチウェルプレートを用いたVEGFに対するTLPC突然変異タンパク質の選択
TLPC突然変異タンパク質の選択のために、実施例1で得られたライブラリーの2 x 1012〜1 x 1013のファージミドを用いた。簡潔には、ファージミドを遠心分離(21460 x g、4℃、20分間)し、50 mMベンズアミジンを含む1 mlのPBS(4 mM KH2PO4、16 mM Na2HPO4、115 mM NaCl, pH 7.4)に再懸濁した。6% w/vウシ血清アルブミン(BSA; Roth)および0.3%Tween 20を含むPBSをブロッキングバッファーとして用いた。標的タンパク質とのインキュベーションの前に、多重反応性または異常な折りたたみのリポカリン突然変異タンパク質を提示するファージミドの除去のために、ライブラリー由来のファージミドをウシ血清アルブミンでブロッキングしたポリスチロールウェル中で15分間、2回インキュベーションした。昆虫細胞において産生された組換えヒト血管内皮増殖因子(165アミノ酸、rhuVEGF165)(R&D Sytems)を2.5μg/mlの濃度で、ポリスチロールプレート上に被覆した。被覆されブロッキングされたウェル中で、ブロッキングされたファージミドをインキュベーションした後、吸着したファージミドを化学的に溶出した。吸着したファージミドを各ウェル当たり300μlの0.1 M グリシン/HCl pH 2.2で10分間処理し、続いて、それを適当量の0.5 M Trisと混合することにより、各溶出画分のpHの速やかな中和を行った。第二濃縮サイクルからは、混合したファージミド溶液の半分だけをファージミド増幅に用いた。選択の各サイクルの後、投入したファージミド、8回目の洗浄画分および溶出されたファージミドの力価をスポット滴定によって測定した。簡潔には、ファージミドの段階希釈物をE. coli XL1-Blue細胞と混合し、37℃で30分間インキュベーションした。感染細胞の一部をLB/Amp寒天プレート上に「スポット」し、37℃で一晩インキュベーションした。翌日、スポット当たりのコロニーを数え、ファージミド溶液の力価(cfu/ml)を測定した。ファージミド増幅は22℃で行われた。
【0137】
第二濃縮サイクルからは約1 x 1011のファージミドだけを用いたことを除いて、このような方法で、それぞれの前回の濃縮サイクルから増幅されたファージミドの調製物を用いて、更に4回のrhuVEGF165に対する選択が行われた。
【0138】
実施例4
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用によるVEGF結合TLPC突然変異タンパク質の同定
C末端T7検出タグ(Novagen)に続くStrep-tag(登録商標)II親和性タグを備えたTLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、ベクターpTLPC8(図8、配列番号24)を構築した。2つのBstXI切断部位の間にTLPC骨格を含む遺伝子カセットはベクターpTLPC7(図4、配列番号1)からpTLPC8にサブクローニングされた。
【0139】
この目的のために、最後の選択サイクルの結果として溶出された実施例3からのファージミドでの感染によって得られたE. coliクローンの混合物から、Plasmid Miniprep Spin kit(Genomed)を用いて、プラスミドDNAを単離した。そのDNAを制限酵素BstXIで切断し、2つの断片のうちより小さいものを分取用アガロースゲル電気泳動によって精製した。ベクターpTLPC8のDNAを同様にBstXIで切断し、2つの断片のうちより大きいもの(3397 bp)を同様に単離した。
【0140】
ライゲーションのために、それぞれ50 fmolの2つのDNA断片を、全容量20μl(30 mM Tris/HCl pH 7.8、10 mM MgCl2、10 mM DTT、1 mM ATP)中の3 Weiss UnitのT4 DNAリガーゼ(Promega)と混合し、続いて22℃で2時間インキュベーションした。E. coli TG1-F-(そのエピソームを欠失しているE. coli K12 TG1)を、CaCl2法(Sambrookら、上述)によって5μlのこのライゲーション混合物で形質転換し、LB/Amp寒天プレート(直径: 14 cm)に播種した。
【0141】
形質転換後に得られた、TLPC突然変異タンパク質をコードするそれぞれのTLPCプラスミドを持っている単一のE. coliコロニーを、これらの寒天プレートから、自動コロニーピッカー(Genetix)を用いて、平底384ウェルプレート(Greiner)中のウェル当たり70μlの2 x YT/Ampに採取し、37℃で一晩、60%の相対湿度(rH)の加湿インキュベーター(MMM Medcenter)内の卓上振盪機(Buhler)において700rpmで培養した。96ピン複製ヘッド(Genetix)を用いて、培養物を、丸底96ウェルプレート(Nunc)中の100μlの2 x YT/Ampに1: 100希釈し、OD550が約0.6に達するまで、約1時間37℃、60%rHで培養し、続いて3時間22℃、60%rHでインキュベーションした(ともに700rpm)。25μlの60% v/vグリセロールを各ウェルに加えた後、384ウェルプレートを「マスター」プレートとして-80℃で保存した。
【0142】
ウェル当たり20μlの2 x YT 中1.2μg/mlのアンヒドロテトラサイクリン(2 mg/mlのストック溶液を2 x YTで1: 1667に希釈することによって得られた; 最終濃度0.2μg/ml)を細菌培養物に添加し、22℃で一晩、700 rpm、60% rHでインキュベーションすることにより、組換えTLPC突然変異タンパク質を96ウェルプレート中で産生した。その後、40μlの溶解バッファー(400 mMホウ酸ナトリウム, pH 8.0、320 mM NaCl、4 mM EDTA、0.3% w/vリゾチーム)を各ウェルに添加し、プレートを22℃で1時間、700 rpm、60% rHでインキュベーションした。その後のELISA実験における非特異的な結合相互作用を最小限に抑えるために、得られた粗細胞抽出液に、10% w/v BSAおよび0.05 % v/v Tween 20を含む40μl/ウェルのPBS(最終濃度2% w/v BSA)を追加し、22℃で1時間、700 rpm、60% rHでインキュベーションした。
【0143】
結合の検出のために、TLPC突然変異タンパク質を含む粗細胞抽出液を、ELISA実験において、それぞれ、規定された標的タンパク質rhuVEGF165および関係のない対照タンパク質ヒト血清アルブミン(HSA, Sigma)とのそれらの反応性について検査した。そのために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのPBS中2.5μg/mlの濃度のrhuVEGF165溶液または4℃でPBS中10μg/mlの対照タンパク質溶液で一晩被覆した。プレートをウェル当たり0.05 % v/v Tween 20を含む100μlのPBS(PBST/0.05)で5回、自動ELISAプレート洗浄機(Molecular Devices)を用いて洗浄し、最後の洗浄ステップ後、各ウェルに10μlの残存容量の洗浄バッファーを残した。2% w/v BSA を含む100μlのPBST/0.05とともに2時間室温でインキュベーションすることにより、残りの結合部位をブロッキングした。その後、プレートを再度、上述のように5回洗浄した。
【0144】
TLPC突然変異タンパク質と固定化されたタンパク質との間での複合体形成のために、ウェルを上記の10μlの細胞抽出液とともに室温で1時間インキュベーションした。続いて、プレートを再度5回洗浄し、0.5% w/vの乾燥脱脂粉乳(Vitalia)を含むPBST/0.05に1: 5000希釈した10μlの抗T7モノクローナル抗体HRPコンジュゲート(Amersham)を各ウェルに加え、室温で1時間インキュベーションした。プレートを再度5回洗浄し、結合した抗T7モノクローナル抗体HRPコンジュゲートを用いて結合したTPLC突然変異タンパク質を検出するために、10μlの蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)(Pierce)を加えた。室温で45分後、GENiosPlusプレートリーダー(Tecan)において、蛍光を320 nm(±12.5 nm)の波長で励起し、430 nm(±17.5 nm)で測定した。
【0145】
183 TLPC突然変異タンパク質の選択が、関係のない対照タンパク質(HSA)と比較して規定された標的タンパク質(rhuVEGF165)に対して、有意に高い結合シグナルを示し、続いて第二のハイスループットELISAスクリーニング実験を受けた。そのために、これらのクローンを上述の384ウェルのマスタープレートからLB/Amp寒天に移し、37℃で一晩培養した。丸底96ウェルプレート(Nunc)中の100μlの2 x YT/Amp に、これらの寒天プレートから単一コロニーを植菌し、37℃で一晩、700 rpm、60% rHで培養した。その培養物を丸底96ウェルプレート(Nunc)中の100μlの2 x YT/Amp に1: 100希釈し、組換えTLPC突然変異タンパク質の産生ならびに細菌溶解物の調製を上述のように行った。
【0146】
TLPC突然変異タンパク質の標的特異性の検出のために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのPBS中のrhuVEGF165溶液(昆虫細胞、1μg/ml)、または、対照として、Escherichia coliで産生したrhuVEGF165溶液(ReliaTech GmbH, 1μg/ml)、昆虫細胞で産生した組換えマウスVEGF(rmVEGF164)溶液(ReliaTech GmbH, 1μg/ml)、HSA、3% w/v脱脂粉乳およびStrepTactin溶液(IBA, 10μg/ml)、ならびにRNaseA(Fluka, 10μg/ml)およびジゴキシゲニンのコンジュゲートの溶液によって、一晩4℃で被覆した。
【0147】
このコンジュゲートは、製造業者の説明書に従って、RNaseAを2倍のモル比のジゴキシゲニン-3-O-メチル-カルボニル-ε-アミドカプロン酸-N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル(DIG-NHS; Roche)と反応させることによって調製された。製造業者の説明書に従ってHiTrapカラム(Amersham)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより、泳動バッファーとしてPBSを用いて、過剰な反応物質をRNaseAコンジュゲートから除去した。
【0148】
一晩のインキュベーション後、プレートを上述のように洗浄し、上述の条件で2% w/v BSA を含む100μl/ウェルのPBST/0.05を添加することによってブロッキングし、続いて再度プレートを洗浄した。上述の選択されたTLPC突然変異タンパク質のブロッキングされた細菌溶解物10μlを、rhuVEGF165または対照タンパク質のいずれかで被覆したそれぞれのウェルに移し、室温で1時間インキュベーションした。結合したTLPC突然変異タンパク質を、上述のように抗T7モノクローナル抗体HRPコンジュゲートおよび蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)によって検出した。
【0149】
36 TLPC突然変異タンパク質の選択が、rhuVEGF165(昆虫細胞)に対して確認され、更にrhuVEGF165(E. coli)およびrmVEGF164(昆虫細胞)に対する強いシグナルを示したが、関係のない対照タンパク質(HSAまたは粉乳)に対する結合を示さなかった。
【0150】
対照タンパク質と比べて規定された標的rhuVEGF165に最も高い結合シグナルを持つTLPC突然変異タンパク質を、配列解析のために選択した。そのために、4 ml LB/Ampに384ウェルのマスタープレートのそれぞれのウェルからの40μlのグリセロールストックを植菌し、本実施例の最初に記載されたように、その後のプラスミドDNAの単離のために培養した。TLPC遺伝子カセットのDNA配列は、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを使用することにより、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて解明された。
【0151】
配列決定された6クローンの6つの固有配列は、機能的な挿入を有していた。最高の結合値を有するものは、S69.4 O13と命名された。このクローンのヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され(配列表の配列番号12)、pTLPC8によってコードされる改変TLPCおよび野生型Tlpcから逸脱しているそれらのアミノ酸は、それぞれ、表1に示される。実施例6に記載されるように、rhuVEGF165に対するその結合親和性の測定のために、クローンS69.4 O13を選択した。
【表1】
【0152】
実施例5
TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例4において記載された突然変異タンパク質S69.4 O13の調製的産生については、Schlehuber, S.ら(J. Mol. Biol. (2000), 297, 1105-1120)に記載された方法に従った適切な培養容量のLBアンピシリン培地での振盪フラスコ発現によるペリプラズムでの産生のために、この突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC8(図8、配列番号24)を有するE. coli K12株JM83を使用した。
【0153】
より大量の物質が必要とされる場合には、Schiweck, W.,およびSkerra, A.(Proteins (1995) 23, 561-565)に記載された方法に基づく0.75 lまたは10 lのバイオリアクターでの発酵槽培養によるペリプラズムでの産生のために、この突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC8を有するE. coli K12株W3110を使用した。発酵は25℃で行われた。酸素濃度は30%の飽和度に維持された。0.75 lのバイオリアクターでは、撹拌器速度を1500 rpmまでに制御することによって、酸素飽和度を30%に維持した。10 lのリアクターでは、空気および純酸素の供給を自動的に調節しながら、撹拌器速度を480 rpmに維持した。フェッドバッチ期には、50% w/vグルコースを、OD=22.5で17.5 ml/hから始めて50 ml/hまで段階的に供給した。
【0154】
突然変異タンパク質を、ペリプラズム画分から、製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いたStrep-Tactin Superflow(IBA)による一段階のクロマトグラフ法で精製した。
【0155】
製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いて、Superdex75素材(Amersham Pharmacia Biotech)により、ゲルろ過を行った。その単量体画分を集め、更なる解析段階のために使用した。
【0156】
実施例6
ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質のVEGFに対する親和性の測定
TLPC突然変異タンパク質のVEGFに対する親和性を以下のように測定した。簡潔には、実施例5に記載されたように得られた突然変異タンパク質S69.4 O13の希釈系列を、rhuVEGF165および対照タンパク質BSAに対する結合についてELISAアッセイにおいて検査した。
【0157】
この目的のために、黒色のFluotrac 600 マイクロタイタープレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、1μg/mlのrhuVEGF165(昆虫細胞)および10μg/mlのBSA(Roth)によって4℃で一晩被覆し、PBST/0.1中の2% w/v BSAによってブロッキングした。洗浄ステップ、それに続くPBST 中の3% w/v粉乳によるブロッキングステップ、および再度の洗浄ステップ後、適切な濃度範囲にわたるPBST 中の突然変異タンパク質S69.4 O13の希釈系列を、被覆されブロッキングされたウェル中で、室温で1時間インキュベーションした。続いて、結合した突然変異タンパク質を、上述のように抗T7モノクローナル抗体HRPコンジュゲートおよび蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)によって検出した。室温で適切な時間インキュベーションした後、GENiosPlusプレートリーダーにおいて、蛍光を320 nm(±12.5 nm)の波長で励起し、430 nm(±17.5 nm)で測定した。
【0158】
曲線は、コンピュータープログラムKaleidagraph(Synergy software)を用いた非線形最小二乗回帰によって、等式[P・L]=([P]t[L]t)/(KD+[P]t)に従って近似された。これに関して、それぞれ、[P]tは(相対蛍光単位での)固定化された標的の総濃度、[L]tは使用されたTLPC突然変異タンパク質の濃度であり、 [P・L]は(相対蛍光単位、rFUでの)形成された複合体の濃度であり、KDは見かけの解離定数である。
【0159】
結果として得られたrhuVEGF165およびBSAに対する結合曲線を図9に示す。TLPC突然変異タンパク質S69.4 O13と規定された標的タンパク質rhuVEGF165との間の複合体の見かけの解離定数について得られた値は、109±34 nMと同定された(表2)。対照タンパク質BSAに対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表2】
【0160】
実施例7
ファージミド提示およびポリスチロールマルチウェルプレートを用いたヒトhCD22の細胞外ドメインに対するTLPC突然変異タンパク質の選択
TLPC突然変異タンパク質の選択のために、実施例1からのファージミドライブラリーを用いた。TLPC突然変異タンパク質の選択は実施例3に記載されたように行われた。その方法との違いは以下に記載される。すなわち、標的タンパク質とのインキュベーションの前に、多重反応性または異常な折りたたみのリポカリン突然変異タンパク質を提示するファージミドの除去のために、ライブラリーからのファージミドをBSAでブロッキングしたポリスチロールウェル中で2回、各15分間インキュベーションした。hCD22の細胞外ドメイン(Peprotech EC LTD, UK)を5μg/mlの濃度でポリスチロールプレート上に被覆した。最初の溶出ステップでは、吸着したファージミドを各ウェル当たり300μlの0.1 M グリシン/HCl pH2.2で10分間処理し、続いて適当量の0.5 M Trisの添加によって各溶出画分のpHを直ちに中和した。塩基性溶出ステップは、各ウェル当たり300μlの70 mMトリエチルアミンで10分間行われ、続いて適当量の1 M Tris/HCl, pH 7.4の添加によって各溶出画分のpHは直ちに中和された。最後の溶出ステップとして、各ウェルに300μlの対数増殖しているXL1 blue(OD550は約0.5)を移し、30分間37℃でインキュベーションした。第二濃縮サイクルからは、混合したファージミド溶液の半分だけを、実施例3に記載されたようなファージミド増幅に用いた。投入したファージミドおよび溶出されたファージミドの数を測定するために、選択の各サイクルの後、実施例3に従って、選択(panning)に用いられたファージミド、8回目の洗浄画分および溶出されたファージミドのスポット滴定が行われた。
【0161】
第二濃縮サイクルからは約1 x 1011のファージミドだけを用いたことを除いて、このような方法で、それぞれの前回の濃縮サイクルから増幅されたファージミドの調製物を用いて、更に3回のhCD22に対する選択が行われた。
【0162】
実施例8
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用によるhCD22結合TLPC突然変異タンパク質の同定
C末端T7検出タグ(Novagen)ならびにStrep-tag(登録商標)II親和性タグを備えたhCD22結合TLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間にTLPCを含む遺伝子カセットをベクターpTLPC7(図4)からベクターpTLPC8(図8)にサブクローニングした。実施例4に記載されたハイスループットELISAスクリーニング法によって、hCD22結合TLPC突然変異タンパク質を同定した。一次スクリーニングにおいてhCD22に特異的に結合したTLPC突然変異タンパク質は、同様に実施例4において記載されたような二次ハイスループットELISAスクリーニング実験において更に詳細な結合解析のために選択された。
【0163】
TLPC突然変異タンパク質の標的特異性の検出のために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのhCD22溶液(5μg/ml, Peprotech)または、対照として、hCD33-Fc溶液(1μg/ml, R&D Research)、hIgG1溶液(10μg/ml, Jackson ImmunoResearch)、streptactin溶液(10μg/ml, IBA)、ヒト血清アルブミン溶液(HSA, 10μg/ml, Sigma)、ならびにRNaseA(10μg/ml; FlukaからのRNase)のジゴキシンとのコンジュゲートの溶液によって、4℃で一晩被覆した。
【0164】
すべての検査されたTLPC 突然変異タンパク質はhCD22に特異的に結合し、それらのTLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列は、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて決定された。すべての配列決定されたクローンは、クローンS76.1H10と同一の配列を示した。このクローン、S76.1H10のヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、TLPC8(図8)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表3に示される。クローンS76.1H10のヌクレオチド配列はまた、配列番号13として示される。
【表3】
【0165】
実施例9
TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例8から得られた突然変異タンパク質S76.1 H10の調製的産生のために、2つのBstXI切断部位の間の突然変異されたコード領域を、ベクターpTLPC7(図4)から発現プラスミドpTLPC8(図8)にサブクローニングした。従って、得られたプラスミドは、突然変異タンパク質とOmpAシグナル配列およびC末端でのT7タグならびにStrep-tag(登録商標)IIとの融合タンパク質をコードした。
【0166】
E. coli-JM83およびE. coli-W3110の単一コロニーを、それぞれ、TLPC突然変異タンパク質S76.1 H10をコードするプラスミドpTLPC8で形質転換した。振盪フラスコ発現、1 lでの発酵、SA-クロマトグラフィー、およびサイズ排除クロマトグラフィーは、実施例5に記載されたように行われた。突然変異タンパク質S76.1 H10は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)から、それぞれ単量体および二量体タンパク質を含む2つの異なるピークに溶出されることが発見された。両タンパク質画分の結合親和性をELISAで測定した。
【0167】
実施例10
ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質の親和性の測定
実施例9に記載されたように得られた突然変異タンパク質S76.1 H10の希釈系列を、直接被覆されたhCD22および対照タンパク質hCD33-Fc、HSA、hIgG1に対する結合についてELISAアッセイにおいて検査した。
【0168】
この目的のために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのhCD22(5μg/ml, Peprotech)または対照タンパク質hCD33-Fc(1μg/ml, R&D Research)、HSA(10μg/ml, Sigma)、hIgG1(10μg/ml, Jackson ImmunoResearch)によって、4℃で一晩被覆した。
【0169】
再度の洗浄ステップ後、適切な濃度範囲にわたる実施例9で得られた突然変異タンパク質S76.1 H10のPBST での希釈系列を、被覆したhCD22ならびに対照タンパク質hCD33-Fc、HSAおよびhIgG1に添加し、室温で1時間インキュベーションした。続いて、結合した突然変異タンパク質を、それぞれの製造業者の推奨に従ってStreptactin-HRPコンジュゲート(IBA)および蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)(PIERCE)により検出した。室温で適切な時間インキュベーションした後、GENiosPlusプレートリーダーにおいて、蛍光を320 nm(±12.5 nm)の波長で励起し、430 nm(±17.5 nm)で測定した。
【0170】
曲線は、実施例6に記載されたように、コンピュータープログラムKaleidagraph(Synergy software)を用いた非線形最小二乗回帰によって近似された。
【0171】
結果として得られた結合曲線を図10および図11に示す。TLPC突然変異タンパク質と標的タンパク質hCD22との間の複合体、ならびにTLPC突然変異タンパク質と対照タンパク質hCD33-Fc(R&D Systems)、ヒトIgG1(Jackson ImmunoResearch)およびヒト血清アルブミン(HSA, Sigma)との間の複合体の見かけの解離定数について得られた値を表4に要約する。対照タンパク質に対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表4】
【0172】
実施例11
ファージミド提示およびポリスチロールマルチウェルプレートを用いたヒトCD25の細胞外ドメインに対するTLPC突然変異タンパク質の選択
実施例1に記載されたファージミドライブラリーからのCD25特異的突然変異タンパク質の選択、およびELISA実験におけるこれらの突然変異タンパク質のその後の解析のために使用される標的は、R&D systemsから購入された(組換えヒトIL-2 Rアルファ/Fc キメラ)。
【0173】
実施例1に記載されたファージミドライブラリーからのCD25特異的TLPC突然変異タンパク質の選択のために、5回の選択を行い、ここでは、捕捉mAb(マウス抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的; Jackson ImmunoResearch)を5μg/mlの濃度でポリスチロールプレートに被覆した。PBS中の2.5% w/v BSAでブロッキングした後、5μg/mlの濃度のCD25-Fcを添加し、室温で1時間インキュベーションし、CD25特異的ファージミドの濃縮のために使用した。吸着したファージミドを、0.1 Mグリシン/HCl pH 2.2を用いた変性条件下で、実施例3に記載されたように溶出した。
【0174】
実施例12
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用によるCD25結合TLPC突然変異タンパク質の同定
C末端T7検出タグ(Novagen)ならびにC末端Strep-tag(登録商標)II親和性タグを備えたTLPC突然変異タンパク質の分析的産生、およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間の遺伝子カセットをベクターpTLPC7(配列番号1; 図4)からpTLPC8(配列番号24;図8)にサブクローニングした。
【0175】
この目的のために、最後の選択サイクルの結果として溶出された実施例11からのファージミドによる感染によって得られたE. coliクローンの混合物から、プラスミドDNAを単離した。CD25特異的突然変異タンパク質のスクリーニングは、実施例4に記載されたハイスループットELISA法に従って行われた。実施例11に記載されるようにマイクロタイタープレートに固定化した特異的な標的CD25への結合について、粗細胞抽出液を検査した。並行して、それぞれ、10μg/ml, 10μg/mlおよび5μg/mlの濃度で被覆した、関係のないタンパク質HSA、ヒトガンマグロブリン(Jackson ImmunoResearch)および捕捉mAbへの結合について、粗細胞抽出液を検査した。特異的な結合特性を有するクローンを二次ハイスループットELISAアッセイにおいて確認した。このアッセイでは、一次スクリーニングに使用したものと同一のタンパク質、ならびに更なる関係のないタンパク質(それぞれ、10μg/ml、 5μg/mlおよび3%で被覆した BSA、CD 154(組換えヒトsCD40リガンド; Acris ; カタログ番号: PA151XC) およびミルク)への結合について、粗抽出液を検査した。
【0176】
特異的な標的に対して高いシグナルを有し、関係のないタンパク質に対して低いシグナルを有する12クローンを選択し、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて、そのTLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列を決定した。1つの突然変異タンパク質が選択手順の間に濃縮されたことが発見された。このクローン、S67.7 C6のヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、pTLPC8(配列番号24)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表5に示される。S67.7 C6のヌクレオチド配列はまた、配列番号20として示される。
【表5】
【0177】
実施例13
TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例12において記載された突然変異タンパク質S67.7 C6の調製的産生については、この突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC8を有するE. coli K12株W3110を、実施例5に記載されたような発酵槽培養によるペリプラズムでの産生のために使用した。
【0178】
突然変異タンパク質を、ペリプラズム画分から、製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いたStrep-Tactin Superflow素材(IBA)による一段階のクロマトグラフ法で精製した。
【0179】
製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いて、Superdex75素材(Amersham Pharmacia Biotech)により、ゲルろ過を行った。その単量体画分を集め、更なる解析段階のために使用した。
【0180】
実施例14
ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質のCD25に対する親和性の測定
実施例13に記載されたように得られた突然変異タンパク質S67.7 C6の希釈系列を、捕捉されたCD25-Fcならびに対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対する結合についてELISAアッセイで検査した。
【0181】
この目的のために、黒色のFluotrac 600 マイクロタイタープレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、5μg/mlの濃度の捕捉mAb(マウス抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的; Jackson ImmunoResearch)によって室温で1時間または4℃で一晩被覆した。洗浄ステップおよびそれに続くPBST 中の3% w/v粉乳によるブロッキングステップの後、5μg/mlの濃度のCD25-Fcを添加し、室温で1時間インキュベーションした。並行して、関係のないタンパク質である捕捉mAb、HSA、およびFCS(ウシ胎仔血清; Invitrogen)を、それぞれ、5μg/ml, 10μg/mlおよび10μg/mlの濃度で被覆した。更に、ヒトIgG Fc断片(Accurate Chemical)は、5μg/mlで被覆された捕捉mAbによって、5μg/mlの濃度で捕捉された。
【0182】
再度の洗浄ステップの後、適切な濃度範囲にわたるPBST 中の突然変異タンパク質S67.7 C6の希釈系列を、捕捉されたCD25-Fcならびに対照タンパク質である捕捉mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に添加し、室温で1時間インキュベーションした。その後、結合した突然変異タンパク質を、それぞれの製造業者の推奨に従って、Streptactin-HRPコンジュゲート(IBA)および蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)(PIERCE)により検出した。室温で適切な時間インキュベーションした後、GENiosPlusプレートリーダーにおいて、蛍光を320 nm(±12.5 nm)の波長で励起し、430 nm(±17.5 nm)で測定した。
【0183】
曲線は、実施例6に記載されたように、コンピュータープログラムKaleidagraph(Synergy software)を用いた非線形最小二乗回帰によって近似された。
【0184】
結果として得られた捕捉されたCD25-Fcおよび捕捉mAbに対する結合曲線を図12に示す。TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6と規定された標的タンパク質CD25-Fcとの間の複合体の見かけの解離定数について得られた値は、表6に要約される。対照タンパク質である捕捉mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表6】
【0185】
実施例15
ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の作製
ヒトCD25を発現している安定な細胞株の作製のために、CHO-K1細胞(DSMZ, No. ACC 110)を、ヒトCD25(NCBI受入番号NM_000417 [gi:4557666])をコードしている発現ベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)(配列番号10; 図13)で形質転換した。
【0186】
発現ベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)は、以下に記載されるように得られた。ヒトCD25の完全なコード配列を、ヒト末梢血リンパ球のcDNAから配列番号35のフォワードプライマーおよび配列番号36のリバースプライマーを用いたPCRによって増幅した。シグナルペプチドを含む完全長タンパク質をコードするPCR産物を、製造業者の推奨に従ってクローニングベクターpCR-BluntII-TOPO(Invitrogen)にライゲーションした。結果として生じたベクターからXhoI/HindIII制限酵素消化によってCD25 cDNAを切り出し、Sambrookら(上述)に記載されたようなアガロースゲル電気泳動によって単離した。その断片を精製し(Wizard SV Clean Up Kit, Promega)、同一の制限酵素を用いて線状化した発現ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(Invitrogen)にライゲーションした。E. coli XL1-Blueを、結果として生じた発現ベクター(CD25-pcDNA3.1Zeo(+))で形質転換し、EndoFree Plasmid Maxi Kit(Qiagen)を用いて、そのDNAを抽出、精製した。
【0187】
10%(v/v) FCSを含むDMEM Glutamax I培地(Gibco)中で、37℃、5% CO2で培養した400.000個のCHO-K1細胞(DSMZ, No. ACC 110)を3.5 cmプレートに播種し、翌日に4μgのプラスミドDNAおよび10μlのLipofectamine2000(Invitrogen)を用いて製造業者の推奨に従ってトランスフェクトした。細胞はCD25-pcDNA3.1Zeo(+)または対照としてpcDNA3.1Zeo(+)のいずれかによってトランスフェクトされた。1日後、細胞をトリプシン処理し、5枚の9.5 cmプレートに移した。翌日、1 mlの培地当たり200μgのゼオシンを添加することによって選択を開始した。1週間後、ゼオシン耐性クローンを24ウェルプレートに移し、その後、T25培養フラスコ(Greiner)で培養した。いくつかのクローンのCD25発現を実施例16に記載されるようなFACS解析によって解析した。最も高い発現を示すクローンを保持し、ストックを冷凍し、すべての更なるアッセイを継代数30までのこれらの細胞株を用いて行った。
【0188】
実施例16
TLPC突然変異タンパク質のヒトCD25を発現しているCHO細胞株への特異的結合に関する検査
ヒトCD25を発現しているCHO細胞株への特異的結合について、フローサイトメトリーアッセイにおいて、突然変異タンパク質S67.7 C6を検査した。この目的のために、実施例15において記載されたCD25-pcDNA3.1Zeo(+)またはpcDNA3.1Zeo(+)でトランスフェクトしたCHO細胞を、0.2% w/v EDTAを用いて培養フラスコからはがした。約200.000個の細胞を、30μl PBS/2% v/v FCSに再懸濁し、実施例13に記載されたように得られた10μg S67.7 C6とともにインキュベーションし、SchlehuberおよびSkerra(Biol. Chem. (2001) 382, 1335-1342)に記載された方法に基づき等モル比のフルオレセイン(フルオレセイン-5(6)-カルボキシアミドカプロン酸N-スクシンイミジルエステル; Fluka)で標識された。陰性対照として、pTLPC8によってコードされ、等モル比のフルオレセインで標識された10μgの組換え野生型TLPCを用いた。CD25発現はFITC標識抗CD25 mAb(Acris, DM519F)によって、アイソタイプ対照としてFITC標識IgG1(Acris, SM10F)を用いて確認された。氷上で30分間のインキュベーション後、FACS Calibur(BectonDickinson)を用いたフローサイトメトリーによる解析の前に、細胞をPBS/2% v/v FCSで2回洗浄した。
【0189】
CD25特異的突然変異タンパク質S67.7 C6とCD25特異的mAbとの両方は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の有意な染色を示すが、モックトランスフェクションしたCHO細胞株の有意な染色は起こらない。対照である野生型TLPCおよびIgG1は、検査された両細胞株に対して有意な結合を示さない。得られたヒストグラムを図14に示す。
【0190】
実施例17
CD25特異的TLPC突然変異タンパク質の親和性成熟のためのエラープローンPCRライブラリーの作製
実施例12において記載されたCD25特異的突然変異タンパク質S67.7-C06を親和性成熟法のために使用した。そのために、突然変異タンパク質S67.7-C06に基づいてエラープローンPCR法を用いることにより、第二世代ライブラリーを作製した。CD25に関する結合情報を既に刷り込まれているこのライブラリーは、ヌクレオチド類似体8-オキソdGTPおよびdPTP(TEBU-Bio)を用いて、文献(Zaccoloら(1996) J. Mol. Biol. 255,589-603)に記載される方法に従って作製された。エラープローン増幅反応のために、5'ビオチン化オリゴヌクレオチドである配列番号7および配列番号8をヌクレオチド類似体とともに用いた。これらのオリゴデオキシヌクレオチドはBstXI制限酵素認識部位に隣接しているため、増幅は、TLPC突然変異タンパク質の構造遺伝子の大部分を含むBstXI遺伝子カセットの全体に無作為に分布する点突然変異を引き起こす。Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてPCR産物を精製し、クローニングの目的のために、TPLC突然変異タンパク質の核酸の形での親和性成熟ライブラリーに相当するこの断片を、まず、製造業者の説明書に従って制限酵素BstXI(Promega)で切断し、その後、上述のように精製し、303ヌクレオチドのサイズの二本鎖DNA断片を得た。消化されなかったか、または不完全に消化されたDNA断片は、実施例1に記載されたように、ストレプトアビジン被覆常磁性ビーズ(Merck)を用いて、それらの5'ビオチンタグによって除去された。
【0191】
上記からの親和性成熟突然変異タンパク質のその後のライゲーションのために、実施例1に記載されたように、ベクターpTLPC7(図4)のDNAから、3907断片を調製し、精製した。ライゲーション反応のために、3.32μg(15 pmol)のPCR断片および38.7μg(15 pmol)のベクター断片を、全容量4200μl(50 mM Tris/HCl pH 7.8、10 mM MgCl2、10 mM DTT、1 mM ATP、50μg/ml BSA)中の420 Weiss UnitのT4 DNAリガーゼ(Promega)の存在下で、48時間16℃でインキュベーションした。その後、ライゲーション混合物中のDNAを、105μlの酵母tRNA(10 mg/ml水溶液(Roche))、4200μlの5 M酢酸アンモニウム、および16.8 mlのエタノールを加えることによって沈殿させた。実施例1に従って更なる処理を行い、最後に、DNAを全容量210μlの水に溶解し、200μg/mlの最終濃度にした。
【0192】
エレクトロコンピテントE. coli XL1-Blueの調製および形質転換(Bullockら、上述)は、実施例1に従って行われた。全量42μgのライゲーションされたDNAを用いることによって、全21回のエレクトロポレーションの実行で、約2.6 x 109の形質転換体が得られた。形質転換体は更に、PCT出願WO03/029471の実施例7に記載されるようなファージミドの調製のために使用された。
【0193】
実施例18
ファージミド提示およびポリスチロールマルチウェルプレートを用いた親和性改善CD25特異的TLPC突然変異タンパク質の選択
実施例17に記載されたエラープローンPCRライブラリーから、親和性改善されたCD25特異的TLPC突然変異タンパク質を選択するために、実施例3に記載された一般方法に従って2つの異なる戦略(それぞれ選択戦略AおよびB)を用いて3回の選択を行った。その方法との違いは以下に記載される。標的タンパク質とのインキュベーションの前に、多重反応性または異常な折りたたみのリポカリン突然変異タンパク質を提示するファージミドの除去のために、ライブラリー由来のファージミドをBSAでブロッキングしたポリスチロールウェル中で各15分間、2回インキュベーションした。
【0194】
捕捉mAb(マウス抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的; Jackson ImmunoResearch)を5μg/mlの濃度でポリスチロールプレートに被覆した。PBS中の2.5% w/v BSAでブロッキングした後、0.063μg/ml(選択戦略A)または0.016μg/ml(選択戦略B)の濃度のCD25-Fcを添加し、室温で1時間インキュベーションした。吸着したファージミドを、変性条件下および細菌株XL1 blueを用いた競合により、実施例7に記載されたように溶出した。第一、第二および第三の選択サイクルでは、約2 x 1011、1 x 1011および1 x 1010のファージミドを濃縮過程のための投入として使用し、それぞれ、8、10および12回の洗浄サイクルを行った。ファージミドを26℃ではなく22℃でインキュベーションする以外は実施例3に記載されたように、ファージミド増幅を行った。
【0195】
実施例19
コロニースクリーニング法の使用による親和性改善CD25特異的TLPC突然変異タンパク質の同定
Strep-tag(登録商標)IIおよびアルブミン結合ドメイン(ABD)を含む融合タンパク質としてのTLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびコロニースクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間の遺伝子カセットをファージミドベクターpTLPC7(配列番号1; 図4)からpTLPC9(配列番号22; 図15)にサブクローニングした。
【0196】
この目的のために、最後の選択サイクルの結果として溶出された実施例18からの選択戦略Bのファージミドによる感染によって得られたE. coliクローンの混合物から、プラスミドDNAを単離した。遺伝子カセットのスクリーニングベクターpTLPC9へのサブクローニング、およびE. coli K12 TG1-F-細胞の形質転換の後、Schlehuber, S.ら(上述)に記載される方法に基づくフィルターサンドイッチコロニースクリーニング法によって、親和性改善されたCD25特異的突然変異タンパク質のためのスクリーニングを行った。
【0197】
384ウェルのマイクロタイタープレートでの一晩培養物から得られた単一クローンのコレクションを、LB/Amp 寒天プレートの上に置かれた6枚の親水性PVDF膜上に、384ピンヘッド(Genetix)を用いて同一パターンで二連にスポットした。37℃で4時間の培養とそれに続く22℃で2時間の別のインキュベーションステップ後、親水性膜をHSAで被覆した疎水性膜の上に置き、それを次に200μg/lのaTcを含むLB/Amp 寒天プレートの上に置いた。培養プレートを重ねられた両方の膜とともに22℃で一晩インキュベーションした。この間に、それぞれのTLPC突然変異タンパク質は上の膜のコロニーから遊離し、それらのアルブミン結合ドメインを介して下の膜のHSAに固定化された。
【0198】
親和性改善されたCD25特異的突然変異タンパク質の同定のために、疎水性膜を5つの異なる濃度のCD25-Fc(10 nM、3 nM、1 nM、0.3 nMおよび0.1 nM)を用いて並行してスクリーニングした。突然変異タンパク質/CD25-Fc複合体を、それぞれの製造業者の推奨に従って、抗ヒトIgG-Fc-HRPコンジュゲート(ペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的; Jackson ImmunoResearch)およびペルオキシダーゼのための発色DAB基質キット(Vector Laboratories)により検出した。並行して、突然変異タンパク質発現を、それぞれの製造業者の推奨に従って、Streptactin-HRPコンジュゲート(IBA)およびDAB基質キットによりモニターした。
【0199】
最低濃度のCD25-Fcに対して最も高いシグナルを伴う選択戦略B由来の合計9クローンが選択され、それぞれのTLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列は、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて決定された。機能的な挿入を有する8つの固有の突然変異タンパク質が同定された。これらから、1つのクローンを更なる解析のために選択した。このクローン、F92.8 M1.2 E15のヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、pTLPC9(配列番号22)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表7に示される。クローンF92.8 M1.2 E15のヌクレオチド配列はまた、配列番号21として示される。
【表7】
【0200】
表7に見られるように、CD25突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15は、野生型Tlpcと比較して骨格位置23、50、および51にアミノ酸突然変異を有している。
【0201】
実施例20
コロニースクリーニング法によって選択された親和性改善TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例19において記載された突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の調製的産生については、この突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC9を有するE. coli K12株W3110を、実施例5に記載されたような発酵槽培養によるペリプラズムでの産生のために使用した。
【0202】
突然変異タンパク質を、ペリプラズム画分から、製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いたStrep-Tactin Superflow素材(IBA)による一段階のクロマトグラフ法で精製した。
【0203】
製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いて、Superdex75素材(Amersham Pharmacia Biotech)により、ゲルろ過を行った。突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15は、サイズ排除カラムから、それぞれ単量体および二量体タンパク質を含む2つの異なるピークに溶出されることが発見された。単量体および二量体画分を集め、更なる解析段階のために使用した。
【0204】
実施例21
ELISAにおける親和性改善TLPC突然変異タンパク質のCD25に対する親和性の測定
実施例20に記載されたように得られた突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体および二量体画分の希釈系列を、捕捉されたCD25-Fcならびに対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対する結合についてELISAアッセイで検査した。
【0205】
2.5μg/mlのCD25-Fcおよび2.5μg/mlのヒトIgG Fc断片を捕捉のために使用したこと以外は、実施例14に記載されたようにアッセイを行った。
【0206】
結果として得られた、捕捉されたCD25-Fcおよび捕捉 mAbに対する結合曲線を、それぞれ図16および図17に示す。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体または二量体と規定された標的タンパク質CD25-Fcとの間の複合体の見かけの解離定数について得られた値を表8に要約する。対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表8】
【0207】
実施例22
ヒトCD154を発現しているCHO細胞株の作製
ヒトCD154を発現している安定な細胞株の作製のために、CHO-K1細胞(DSMZ, No. ACC 110)を、ヒトCD154(NCBI受入番号BC_074950 [gi:49902361])をコードしている発現ベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)(配列番号11; 図18)でトランスフェクションした。
【0208】
発現ベクターCD154 pcDNA3.1Zeo(+)は以下に記載されるように得られた。本発明者らは、CD154 がサブクローニングされたpLXSNベクター(BD Biosciences Clontech)から、ヒトCD154(NCBI受入番号BC_074950 [gi:49902361])をコードするDNAを得た。完全長cDNAの正確な配列を配列番号38および配列番号39のオリゴヌクレオチドを用いたプラスミドの配列決定によって確認した。ヒトCD154の完全な配列をコードするDNA断片を、このベクターからXhoI/ApaIによる制限酵素消化によって切り出し、Sambrookら(上述)に記載されるようなアガロースゲル電気泳動によって単離した。その断片を精製し(Wizard SV Clean Up Kit, Promega)、同一の制限酵素を用いて線状化した発現ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(Invitrogen)にライゲーションした。XL1-Blue細菌を、結果として生じた発現ベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)で形質転換し、EndoFree Plasmid Maxi Kit(Qiagen)を用いて、そのDNAを抽出、精製した。
【0209】
CHO-K1細胞(DSMZ, No. ACC 110)の培養および発現ベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)でのトランスフェクションは、実施例15に記載された方法に基づいて行われた。いくつかのクローンのCD 154発現を実施例23に記載されるようなFACS解析によって解析した。最も高い発現を示すクローンを、最大継代数30までで、すべての更なるアッセイのために用いた。
【0210】
実施例23
親和性改善TLPC突然変異タンパク質の、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株への特異的結合に関する検査
ヒトCD25を発現しているCHO細胞株への特異的結合について、フローサイトメトリーアッセイにおいて、突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15を検査した。この目的のために、それぞれ実施例15および22において記載されたCD25-pcDNA3.1Zeo(+)またはCD154-pcDNA3.1Zeo(+)でトランスフェクトしたCHO細胞を、0.2% w/v EDTAを用いて培養フラスコからはがした。約200.000個の細胞を、30μl PBS/2% v/v FCSに再懸濁し、実施例20に記載されたように得られた2.5μgの単量体F92.8 M1.2 E15とともにインキュベーションし、SchlehuberおよびSkerra(上述)に記載された方法に基づき2倍のモル比のフルオレセイン(フルオレセイン-5(6)-カルボキシアミドカプロン酸N-スクシンイミジルエステル; Fluka)で標識された。陰性対照として、pTLPC8によってコードされ、2倍のモル比のフルオレセインで標識された2.5μgの組換え野生型TLPCを用いた。CD25発現はFITC標識抗CD25 mAb(Acris, DM519F)によって、アイソタイプ対照としてFITC標識IgG1(Acris, SM10F)を用いて確認された。氷上で30分間のインキュベーション後、FACS Calibur(Becton Dickinson)を用いたフローサイトメトリーによる解析の前に、細胞をPBS/2% v/v FCSで2回洗浄した。
【0211】
親和性改善CD25特異的突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15とCD25特異的mAbとの両方は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の有意な染色を示すが、ヒトCD154を発現しているCHO細胞株の有意な染色は起こらない。対照である野生型TLPCおよびIgG1は、検査された両細胞株に対して有意な結合を示さない。得られたヒストグラムを図19に示す。
【0212】
実施例24
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用による親和性改善CD25結合TLPC突然変異タンパク質の同定
C末端T7検出タグ(Novagen)ならびにC末端Strep-tag(登録商標)II親和性タグを備えた親和性改善TLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間の遺伝子カセットをベクターpTLPC7(図4)からpTLPC8(図8)にサブクローニングした。
【0213】
この目的のために、最後の選択サイクルの結果として溶出された実施例18からのファージミドによる感染によって得られたE. coliクローンの混合物から、プラスミドDNAを単離した。親和性改善されたCD25特異的突然変異タンパク質のスクリーニングは、実施例4に記載されたハイスループットELISA法に従って行われた。異なる濃度(それぞれ、5μg/ml、1μg/ml、0.2μg/ml、0.04μg/mlおよび0.008μg/ml)で捕捉されたCD25-Fcへの結合について、粗細胞抽出液を検査した。並行して、5μg/mlで被覆された捕捉mAbを介して5μg/mlの濃度で捕捉されたヒトIgG Fc断片(Accurate Chemical)への結合について、粗細胞抽出液を検査した。特異的な結合特性を示し、最も低い標的濃度に対して高いシグナルを保持するクローンを、二次ハイスループットELISAにおいて確認した。このアッセイでは、1μg/mlおよび0.1μg/mlで捕捉されるCD25-Fcへの結合について、粗抽出液を検査した。加えて、それぞれ、5μg/ml 、10μg/ml、 5μg/mlおよび10μg/mlで被覆した、関係のないタンパク質である捕捉mAb、HSA、CD154およびヒトガンマグロブリン(Jackson ImmunoResearch)への結合について、粗抽出液を検査した。
【0214】
最低濃度の捕捉されたCD25-Fcで高いシグナルを生じ、関係のないタンパク質に対して低いシグナルを生じる両方の選択戦略由来の合計13クローンが選択され、それぞれのTLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列は、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて決定された。機能的な挿入を有する7つの固有の突然変異タンパク質が同定された。これらから、更なる解析のために3クローンを選択した。これらのクローン、選択戦略Aに由来するS99.3 H24およびS99.3 C13ならびに選択戦略Bに由来するS99.4 F15のヌクレオチド配列は、アミノ酸配列に翻訳され、pTLPC8(配列番号24)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は、表9に示される。クローンS99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15のヌクレオチド配列はまた、それぞれ配列番号17、配列番号18および配列番号19として示される。
【表9】
【0215】
表9に見られるように、親和性成熟から同定されたTlpc突然変異タンパク質は、βバレル構造の閉鎖末端での結合部位における突然変異だけでなく、天然のリポカリン結合ポケットを形成するペプチドセグメントにおける突然変異(ここではABペプチドループの残基28、32)および骨格領域の位置での突然変異(それぞれ、Tlpc配列の位置67、86)も含んでいた。
【0216】
実施例25
ハイスループットELISAスクリーニング法によって選択された親和性改善TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例24において記載された突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15の調製的産生については、これらの突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC8を有するE. coli K12株W3110を、実施例5に記載されたような発酵槽培養によるペリプラズムでの産生のために使用した。
【0217】
突然変異タンパク質を、ペリプラズム画分から、製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いたStrep-Tactin Superflow素材(IBA)による一段階のクロマトグラフ法で精製した。
【0218】
製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いて、Superdex75素材(Amersham Pharmacia Biotech)により、ゲルろ過を行った。単量体画分を集め、更なる解析段階のために使用した。
【0219】
実施例26
ELISAにおける親和性改善TLPC突然変異タンパク質のCD25に対する親和性の測定
実施例25に記載されたように得られた突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15の希釈系列を、捕捉されたCD25-Fcならびに対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対する結合についてELISAアッセイで検査した。
【0220】
2.5μg/mlのCD25-Fcおよび2.5μg/mlのヒトIgG Fc断片を捕捉のために使用したこと以外は、実施例14に記載されたようにアッセイを行った。
【0221】
結果として得られた、捕捉されたCD25-Fcおよび捕捉 mAbに対する結合曲線を、図20に示す。TLPC突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15と規定された標的タンパク質CD25-Fcとの間の複合体の見かけの解離定数について得られた値を表10に要約する。対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表10】
【0222】
実施例27
ファージミド提示、ならびにポリスチロールマルチウェルプレートおよびプロテインA磁気ビーズを用いたヒトCD33-Fcの細胞外ドメインに対するTLPC突然変異タンパク質の選択
TLPC突然変異タンパク質の選択のために、実施例2に記載されたようなファージミドライブラリーを使用した。ポリスチロールマルチウェルプレートを用いたTLPC突然変異タンパク質の選択は実施例3に記載されたように行われた。その方法との違いは実施例7に記載される。標的hCD33-Fc(R&D Research)を1μg/mlの濃度で、直接ポリスチロールプレートに被覆した。
【0223】
TLPC突然変異タンパク質の選択は、基本的に製造業者の説明書に従って、プロテインAビーズ(Dynabeads Protein A, Dynal)を用いて行われた。ファージミドおよび標的のためのブロッキング剤としてBSAを選択した。酸性(0.1 Mグリシン/HCl pH2.2; 室温で10分間; 0.5 M Tris塩基で中和)および/または塩基性(70 mMトリエチルアミン; 室温で10分間; 1M Tris/HCl, ph 7.4で中和)条件下でファージミドを溶出し、続いて実施例7に記載されたように最後の細菌溶出ステップを行った。
【0224】
その方法との違いは、標的タンパク質とともにインキュベーションする前に、多重反応性または異常な折りたたみのリポカリン突然変異タンパク質を提示するファージミドの除去のために、ライブラリーからのファージミドをBSAでブロッキングされた100μlのプロテインAビーズとともに各15分間で2回インキュベーションしたことであり、これ以外は、実施例7に記載される。
【0225】
第二サイクルからは約1・1011のファージミドだけを用いたことを除いて、このような方法で、それぞれの前回の濃縮サイクルから増幅されたファージミドの調製物を用いて、4回のhCD33-Fcに対する選択が行われた。
【0226】
実施例28
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用によるhCD33結合TLPC突然変異タンパク質の同定
N末端T7検出タグ(Novagen)ならびにC末端にStrep-tag(登録商標)II親和性タグを備えたhCD33結合TLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間にTLPCを含む遺伝子カセットをベクターpTLPC12(図7)からベクターpTLPC14(図21)にサブクローニングした。実施例4に記載されたように、ハイスループットELISAスクリーニング法によって、hCD33結合TLPC突然変異タンパク質を同定した。一次スクリーニングにおいてhCD33に特異的に結合したTLPC突然変異タンパク質は、同じ実施例において記載されたように、二次ハイスループットELISAスクリーニング実験において更に詳細な結合解析のために選択された。
【0227】
組換えTLPC突然変異タンパク質の標的特異性の検出のために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのAffiniPureマウス抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体(5μg/ml, Jackson ImmonoResearch)溶液、ならびに、対照として、hCD22(5μg/ml, Peprotech)、hIgG1(10μg/ml, Jackson ImmunoResearch)、streptactin(10μg/ml, IBA)、ヒト血清アルブミン(10μg/ml, Sigma)ならびにRNaseA(10μg/ml; FlukaからのRNase)およびジゴキシゲニンのコンジュゲートによって、一晩4℃で被覆した。標的hCD33-Fcは抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体によって1時間室温で捕捉された。
【0228】
多数のTLPC突然変異タンパク質がhCD33-Fc特異的に結合することが判明し、TLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列は、いくつかのクローンから、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて決定された。
【0229】
ポリスチロールマルチウェル選択から明らかにされたクローンの配列決定は、4つの異なるリポカリン突然変異タンパク質を示した。それらのうち2つを更に解析した。これらのクローンのヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、TLPC14(図21)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表11に示される。S101.2 O08およびS101.2 A20と命名されたこれらのリポカリン突然変異タンパク質のヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号16および配列番号15として示される。
【0230】
プロテインAビーズ選択から選択されたクローンの配列決定は、2つの異なるリポカリン突然変異タンパク質を示した。更なる解析のために選択されたクローンS100.1-I08のヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、TLPC14(図21)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表11に示される。そのヌクレオチド配列はまた、配列番号25として示される。
【表11】
【0231】
+2、+4は、実施例2に記載されたTLPCライブラリーのループ1における2または4アミノ酸の挿入を表す。
【0232】
実施例29
TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例28から得られた抗hCD33突然変異タンパク質S100.1 I08、S101.2 A20およびS101.2 O08の調製的産生のために、2つのBstXI切断部位の間の突然変異されたコード領域を、ベクターpTLPC12(図7)から発現プラスミドpTLPC14(図21)にサブクローニングした。従って、得られたプラスミドは、突然変異タンパク質とOmpAシグナル配列およびN末端でのT7タグならびにC末端でのStrep-tag(登録商標)IIとの融合タンパク質をコードした。
【0233】
E. coli-W3110(発酵)またはE. coli-JM83(振盪フラスコ発現)の単一コロニーを、それぞれ、TLPC突然変異タンパク質S100.1 I08、S101.2 A20またはS101.2 O08をコードするpTLPC14プラスミドで形質転換した。振盪フラスコ発現、1 lでの発酵、SA-クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、実施例5に記載されたように行われた。SECは、クローンS100.1 I08およびS101.2 O08については、二量体および単量体タンパク質画分を示した。単量体および二量体画分の結合親和性を、別々にELISAで測定した。
【0234】
実施例30
ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質の親和性の測定
ELISAにおいて、実施例28から選択されたTLPC突然変異タンパク質の、規定されたタンパク質標的hCD33-Fcならびに関係のない対照タンパク質への結合親和性を測定するために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのhCD33-Fc(1μg/ml)、AffiniPureマウス抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体(5μg/ml, Jackson ImmonoResearch)および、対照として、hIgG1(10μg/ml, Jackson ImmunoResearch)によって一晩4℃で被覆した。標的hCD33-Fc(1μg/ml, R&D Research)およびhCD22-Fc(1μg/ml, Peprotech)は、AffiniPureマウス抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体によって1時間室温で捕捉された。その後、実施例29からのTLPC突然変異タンパク質を用いて、実施例10において記載されたように、ELISAを行った。
【0235】
結果として得られた結合曲線は実施例10において記載されたように近似され、図22〜24に示される。TLPC突然変異タンパク質と標的タンパク質hCD33-Fcとの間の複合体、ならびにTLPC突然変異タンパク質と対照タンパク質hCD22-Fc(R&D Systems)およびHSA(Sigma)との間の複合体の見かけの解離定数について得られた値を、表12に要約する。
【表12】
【0236】
実施例31
BIAcoreにおけるTLPC突然変異タンパク質の親和性の測定
14000応答単位(RU)のAffiniPureマウス抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体(Jackson ImmunoResearch)を、製造業者の推奨に従ってCM5センサーチップ(Biacore)にアミン結合によって結合させた。10μlの0.2 mg/ml hCD33-Fc溶液を2μl/minの流速で注入することにより、3000 RUのhCD33-Fc(R&D research)をこの表面に捕捉させた。HBS(10 mM HEPES, 150 mM NaCl, 2 mM EDTA, 0.005% v/v Tween pH7.4)を泳動バッファーとして用いた。すべてのサンプルをこの泳動バッファー中に希釈した。40μl のサンプルを20μl/minの流速で注入することにより、実施例29において得られたTLPC突然変異タンパク質を、hCD33-Fcが捕捉された表面に添加した。添加したTLPC突然変異タンパク質の溶液は、S101.2 A20およびS101.2 O08についてそれぞれ、10μMおよび6.4μMであった。チップの表面を10 mM HClで再生し、続けて、次のリポカリン突然変異タンパク質を測定する前に、hCD33-Fcを再結合させた。すべての測定はBIAcore X装置で行われた。S100.1 I08の結合親和性を測定するために、2000 RUのhCD33-Fcが上述の表面に捕捉され、添加されたリポカリン突然変異タンパク質溶液は5μMの濃度であった。得られた結合曲線はBiacoreからのBIAevaluation software 3.1を用いて近似され、図25〜27に示される。その結果得られるTLPC突然変異タンパク質の親和性結合定数を表13に要約する。
【表13】
【図面の簡単な説明】
【0237】
【図1】図1は、成熟ヒト涙リポカリンのポリペプチド配列(SWISS-PROT Data Bank 受入番号 M90424)を示す。
【図2】図2は、リポカリンの折りたたみの構造を模式的に示す。
【図3】図3は、核酸レベルでβバレルの閉鎖末端をランダム化した涙リポカリン突然変異タンパク質のライブラリーの作製を模式的に図解する。
【図4】図4は、ファージミドベクターpTLPC7を模式的に示す。
【図5】図5は、ファージミドベクターpTLPC6を模式的に示す。
【図6】図6は、核酸レベルでβバレルの開放末端をランダム化した涙リポカリン突然変異タンパク質のライブラリーの作製を模式的に図解する。
【図7】図7は、ファージミドベクターpTLPC12を模式的に示す。
【図8】図8は、発現ベクターpTLPC8を模式的に示す。
【図9】図9は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S69.4 O13のrhuVEGF165への結合を示す。
【図10】図10は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10単量体のhCD22への結合を示す。
【図11】図11は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10二量体のhCD22への結合を示す。
【図12】図12は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S67.7 C6のヒトCD25への結合を示す。
【図13】図13は、哺乳動物トランスフェクションベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+) を模式的に示す。
【図14】図14は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞のフルオレセイン標識TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6による染色を示す。
【図15】図15は、発現ベクターpTLPC9を模式的に示す。
【図16】図16は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体画分のヒトCD25への結合を示す。
【図17】図17は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の二量体画分のヒトCD25への結合を示す。
【図18】図18は、哺乳動物トランスフェクションベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)を模式的に示す。
【図19】図19は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞のフルオレセイン標識TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15による染色を示す。
【図20】図20は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15それぞれのヒトCD25への結合を示す。
【図21】図21は、発現ベクターpTLPC14を模式的に示す。
【図22】図22は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S100.1 I08単量体および二量体のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図23】図23は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S101.2 A20のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図24】図24は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S101.2 O08単量体および二量体のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図25】図25は、BIAcore実験におけるTLPC突然変異タンパク質S100.1 I08二量体のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図26】図26は、BIAcore実験におけるTLPC突然変異タンパク質S101.2 A20のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図27】図27は、BIAcoreにおけるTLPC突然変異タンパク質S101.2 O08のhCD33-Fcへの結合を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙リポカリンまたはそのホモログに由来する新規突然変異タンパク質に関する。より詳細には、本発明は、ヒト涙リポカリンの突然変異タンパク質に関する。本発明はまた、このような突然変異タンパク質をコードしている対応する核酸分子およびその作製方法に関する。本発明は更に、このような突然変異タンパク質を産生する方法に関する。最後に、本発明は、このようなリポカリンの突然変異タンパク質を含有する医薬組成物、ならびに突然変異タンパク質の様々な用途を対象にする。
【背景技術】
【0002】
リポカリンタンパク質ファミリーのメンバー(Pervaiz, S.,およびBrew, K. (1987) FASEB J. 1, 209-214)は、一般的に、様々な異なる分子認識特性、すなわち、様々な、主として疎水性分子(例えば、レチノイド、脂肪酸、コレステロール、プロスタグランジン、ビリベルジン、フェロモン、味物質、およびにおい物質など)に結合するそれらの能力、特異的な細胞表面受容体へのそれらの結合、ならびにそれらの高分子複合体の形成によって特徴付けられる、低分子分泌タンパク質である。それらは、以前は主として輸送タンパク質として分類されていたが、現在では、リポカリンは様々な生理的機能を果たすことが明らかである。これらは、レチノール輸送、嗅覚、フェロモンシグナル伝達、およびプロスタグランジンの合成における役割を含む。リポカリンはまた、免疫反応の調節および細胞恒常性の仲介に関与している(例えば、Flower, D. R. (1996) Biochem. J. 318, 1-14およびFlower, D. R.ら(2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 9-24において概説される)。
【0003】
リポカリンは著しく低いレベルの全体での配列保存性を共有し、しばしば20%未満の配列同一性しか有しない。非常に対照的に、それらの全体での折りたたみパターンは高度に保存されている。リポカリン構造の中心部分は、それ自体後ろが閉鎖された単一の8本の逆平行βシートからなり、連続的に水素結合したβバレルを形成する。バレルの一端は、その底面を横切るN末端ペプチドセグメント、ならびにβ鎖を連結する3つのペプチドループによって立体的に閉鎖される。βバレルの他方の末端は溶媒に対して開いており、4つのペプチドループによって形成される標的結合部位を包囲する。他の固定的なリポカリン骨格におけるこのループの多様性が、それぞれ、異なるサイズ、形態、および化学的特性の標的に適合できる様々な異なる結合様式を生じる(例えば、Flower, D. R. (1996),上述; Flower, D. R.ら(2000), 上述、またはSkerra, A. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 337-350において概説される)。
【0004】
現在は涙リポカリン(TLPC)と呼ばれるヒト涙プレアルブミンは、最初はヒト涙液の主要タンパク質として記載された(全タンパク質含量の約3分の1)が、最近はまた、前立腺、鼻粘膜および気管粘膜を含むいくつかの他の分泌組織においても同定されている。相同タンパク質はラット、ブタ、イヌおよびウマで発見されている。涙リポカリンは、比較的不溶性の脂質に対するその高い非選択性のために、およびこのタンパク質ファミリーの他のメンバーとは異なる結合特性のために、特殊なリポカリンメンバーである(Redl, B. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 241-248において概説される)。非常に多くの異なる化学的分類の親油性化合物、例えば、脂肪酸、脂肪族アルコール、リン脂質、糖脂質およびコレステロールなどが、このタンパク質の内因性リガンドである。興味深いことに、他のリポカリンとは対照的に、リガンド(標的)結合の強度は、アルキルアミドおよび脂肪酸の両方に対して炭化水素尾部の長さと相関する。従って、涙リポカリンは最も可溶性の低い脂質と最も強く結合する(Glasgow, B.J.ら(1995) Curr. Eye Res. 14, 363-372; Gasymov, O.K.ら(1999) Biochim. Biophys. Acta 1433, 307-320)。
【0005】
ヒト涙リポカリンの正確な生物学的機能は、今のところ完全には解明されておらず、まだ論争中の問題である。涙液においては、目の粘膜表面から液相に脂質を除去することによる涙液膜の完全性にとって、それが最も重要であると思われる(Gasymov, O.K.ら(1999), 上述、において概説される)。しかし、それは、リポカリンの間で非常に例外的なin vitroでの更なる活性、すなわち、システインプロテイナーゼならびに非特異的エンドヌクレアーゼ活性の阻害を示す(van't Hof, W.ら(1997) J.Biol. Chem. 272, 1837-1841 ; Yusifov, T.N.ら(2000) Biochem. J. 347, 815-819)。最近、涙リポカリンはin vitroにおいていくつかの脂質過酸化生成物に結合できることが実証され、それが潜在的に有害な脂溶性分子の生理的な酸化ストレス誘導性スカベンジャーとして機能するかもしれないという仮説をもたらした(Lechner, M.ら(2001) Biochem. J. 356,129-135)。
【0006】
非共有結合性相互作用によってそれらの対応する標的に選択的に結合するタンパク質は、生命工学、医学、生物分析学、ならびに生物科学および生命科学全般における試薬として重要な役割を担う。抗体、すなわち、免疫グロブリンは、この種のタンパク質の突出した例である。リガンド/標的の認識、結合および/または分離に関連したこれらのタンパク質の多方面での必要性にも関わらず、現在のところ、ほぼ例外なく免疫グロブリンが使用されている。例えばレクチンのような、定義されたリガンド結合特性を有する他のタンパク質の利用は、依然として特別な場合に限定されたままである。
【0007】
かなり最近になって、リポカリンファミリーのメンバーは、定義されたリガンド結合特性を有するタンパク質に関する研究の対象となった。PCT公開番号WO99/16873は、いわゆるAnticalin(登録商標)の種類、すなわち、結合ポケットを包囲する円筒状βバレル構造の末端に配置され、Pieris brassicaeのビリン結合タンパク質のアミノ酸位置28〜45、58〜69、86〜99、および114〜129を含む直鎖状ポリペプチド配列中のそれらのセグメントに対応する4つのペプチドループの領域内に突然変異したアミノ酸位置を有するリポカリンファミリーのポリペプチドを開示する。PCT公開番号WO 00/75308は、ジゴキシゲニンに特異的に結合するビリン結合タンパク質の突然変異タンパク質を開示し、一方、国際特許出願WO 03/029463およびWO 03/029471は、それぞれ、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリンおよびアポリポタンパク質Dの突然変異タンパク質に関する。リポカリン変異型のリガンド親和性、特異性、ならびに折りたたみ安定性を更に改善し微調整するために、更なるアミノ酸残基の置換などの、リポカリンファミリーの異なるメンバーを用いた様々なアプローチが提案されている(Skerra, A.(2001) Rev. Mol. Biotechnol. 74, 257-275; Schlehuber, S.,およびSkerra, A. (2002) Biophys.Chem. 96, 213-228)。
【0008】
しかし、様々な用途のために、1分子あたり1より多くの利用可能な結合部位を有する(天然の結合ポケットに加えて改変された更なる(タンパク質)結合部位、または2つの異なる改変された結合部位のいずれかを有する)こともまた有利であり得る。例えば、結合部位Iを介して特定の結合パートナーに結合されうるアダプターまたはリンカー分子としてリポカリン突然変異タンパク質を使用することが考えられる一方、結合部位IIはスクリーニング/選択の目的等に使用される。この目的を達成するための1つの可能性は、同一のまたは異なる結合特異性の2つのリポカリン突然変異タンパク質から成り、ペプチドリンカーによって互いに連結されている融合タンパク質の使用である。「duocalin」とも呼ばれるこのような融合タンパク質は、WO 99/16873に記載され、また、例えば、Schlehuber, S.,およびSkerra, A. (2001), Biol. Chem. 382, 1335-1342によって記載される。
【0009】
最近、高親和性ヒスタミン結合タンパク質が、Rhipicephalus appendiculatusダニの唾液において同定された(Paesen, G.C.ら(1999) Mol. Cell 3, 661-671)。これらのタンパク質は創傷部位でヒスタミンを捕捉し、吸血中の炎症反応を抑制するためにリガンドに対するヒスタミン受容体と競合する。これらのヒスタミン結合タンパク質の結晶構造は、異なる結合親和性を有する2つのヒスタミンへの結合部位を含む新規のリポカリンの折りたたみを示した。それらの一方が典型的なリポカリン結合部位であるそれらの部位は、直角に配置され、非常に強固であり、ヒスタミンの分子特性を特異的に補完する非常に極性のある内部表面を形成している。齧歯類吸血性ダニおよび家畜吸血性ダニにより分泌されるSHBPと呼ばれる関連タンパク質は、2つの異なる結合部位でヒスタミンとセロトニンの両方に結合する(Sangamnatdej, S.ら(2002) Insect Mol. Biol. 11, 79-86)。高親和性結合部位はβバレルの長軸に対して垂直に位置し、他のリポカリンと比較してタンパク質構造にひずみをもたらす。従って、このような結合部位は任意のリポカリンにおいて改変できないように思われる。他方では、結合部位がβバレルの中心部にかなり埋没しているため、リガンドサイズに関して立体的制限があると思われる。
【0010】
従って、単に実用的な実現のためのより多くの選択肢を持つために、異なる結合部位および/または代替的なリポカリン骨格を用いる結合タンパク質の作製の必要性が残っている。
【0011】
従って、特定の標的に対して結合親和性を有する代替的なリポカリン突然変異タンパク質を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
この目的は、独立請求項に記載の特徴を有するリポカリン突然変異タンパク質、ならびにその作製方法によって達成される。
【0013】
1つの実施形態では、このようなリポカリン突然変異タンパク質は、涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であり、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端ペプチド伸長部、ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG(図2参照)中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、ここで、涙リポカリンまたはそのホモログはヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、突然変異タンパク質は検出可能な親和性で特定の標的に結合する。
【0014】
より実例的な表現では、この実施形態は、涙リポカリンの内部リガンド結合部位の閉鎖末端の3つのループ、および/または涙リポカリンのN末端ペプチド伸長部の中のアミノ酸(図1参照)が、測定可能な親和性で特定の標的に結合するリポカリン突然変異タンパク質を得るために突然変異され得るという、本発明者らの発見に基づく。従って、本発明は、抗体様の結合特性を有する構造的に新しい種類のリポカリン突然変異タンパク質を提供する。これは、これらの突然変異タンパク質が、上述のいわゆるAnticalin(登録商標)(リガンド結合部位の開放末端の4つのペプチドループ中のアミノ酸位置が突然変異された、Pieris brassicaeのビリン結合タンパク質等のリポカリンファミリーのタンパク質に由来するリポカリン突然変異タンパク質)の種類のように、特定の特異性を有する新たな結合タンパク質の作製のために同様に使用され得ることを意味する。この理由により、本発明のこれらの新たなリポカリン突然変異タンパク質はまた、Anticalin(登録商標)と呼ばれるこれらのリポカリン突然変異タンパク質に属するとも考えられる。
【0015】
別の実施形態では、本発明の突然変異タンパク質はまた、涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であり、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH(図2参照)中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、涙リポカリンまたはそのホモログはヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、突然変異タンパク質は検出可能な親和性で特定の標的に結合する。従って、この実施形態は、所望の標的に対する結合分子の作製のために、リポカリンのリガンド結合部位の開放末端の4つのループ中のアミノ酸が突然変異され得る、新たな種類の骨格を提供する。
【0016】
更に別の実施形態では、本発明は、涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質に関し、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端ペプチド領域、ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、涙リポカリンまたはそのホモログはヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、突然変異タンパク質は検出可能な親和性で少なくとも1つの特定の標的に結合する。
【0017】
従って、本発明はまた、初めて、2つの結合部位の存在により2つの特定のリガンドに対して結合特異性を持つことができる単量体リポカリン突然変異タンパク質(Anticalin(登録商標))を提供する。このような二重特異性分子は、二重特異性diabodyのような二重特異性抗体分子と機能的に同等であると考えることができる。しかし、二重特異性diabody(または抗体断片全般)と比較して、この新しい種類の二重特異性リポカリン突然変異タンパク質(Anticalin(登録商標))は、1つのポリペプチド鎖のみで構成されるという利点を有する一方、diabodyは互いに非共有結合的に結合した2つのポリペプチド鎖からなる。
【0018】
この新しい種類の結合タンパク質の二重特異性リポカリン突然変異タンパク質は、アダプター分子として使用されうる。例えば、2つの異なる受容体に対して結合親和性を有する場合、このような二重特異性リポカリン分子はこれらの受容体を架橋することができる。このようなリポカリン突然変異タンパク質(Anticalin(登録商標))の例は、第一結合部位が(FasまたはApo 1受容体としても知られる)CD95のようなアポトーシス受容体と結合し、第二結合部位が同一の細胞上で発現される細胞表面受容体と結合できる突然変異タンパク質であろう。このような二重特異性突然変異タンパク質の2細胞間での結合は、CD95アポトーシス受容体および第二の細胞表面受容体標的抗原の相互架橋を引き起こし、効果的に細胞のアポトーシスを誘導することができる(Jung, G.ら(2001) Cancer Res. 61, 1846-1848参照)。しかし、このような二重特異性突然変異タンパク質はまた、1つの特定の標的に対する結合親和性のみを有するかもしれない。このような突然変異タンパク質は、徐々に血流に放出されるべき薬剤のための分子貯蔵庫として有用でありうる。
【0019】
「突然変異誘発」という用語は本明細書において用いられる場合、使用されるリポカリンの特定の配列位置に天然に存在するアミノ酸が、それぞれの天然のポリペプチド配列においてこの特異的な位置に存在しない少なくとも1つのアミノ酸によって置換され得るように、実験条件が選択されることを意味する。「突然変異誘発」という用語はまた、1以上のアミノ酸の欠失または挿入による配列セグメントの長さの(更なる)改変を含む。従って、例えば、選択された配列位置の1つのアミノ酸が一続きの3つのランダム突然変異によって置換され、野生型タンパク質の(それぞれのセグメント)の長さと比較して2アミノ酸残基の挿入を生じることは、本発明の範囲内である。このような挿入または欠失は、本発明において突然変異誘発の対象となり得る任意のペプチドセグメントにおいて、互いに独立に導入されうる。本発明の1つの例示的な実施形態では、いくつかの突然変異の挿入は、選択されたリポカリン骨格のループABに導入される(それぞれ、実施例2および28参照)。「ランダム突然変異誘発」という用語は、あらかじめ決められた単一のアミノ酸(突然変異)は特定の配列位置に存在しないが、少なくとも2つのアミノ酸が、突然変異誘発の際、ある確率で選択された配列位置に組み込まれ得ることを意味する。
【0020】
このような実験条件は、例えば、用いられるそれぞれのリポカリンをコードする核酸に縮重塩基組成を含むコドンを組み込むことによって達成され得る。例えば、コドンNNKまたはNNS(N = アデニン、グアニンもしくはシトシンもしくはチミン; K = グアニンもしくはチミン; S = アデニンもしくはシトシン)の使用は、突然変異誘発の際、20アミノ酸すべてに加えてアンバー終止コドンの組み込みを可能にするが、一方、コドンVVSは、ポリペプチド配列の選択された位置に組み込まれるものからアミノ酸Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、Valを排除するため、組み込まれる可能性のあるアミノ酸の数を12に限定し、コドンNMS(M =アデニンもしくはシトシン)の使用は、例えば、選択された配列位置に組み込まれるものからアミノ酸Arg、Cys、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Valを排除するため、選択された配列位置で可能性のあるアミノ酸の数を11に制限する。この点において、セレノシステインまたはピロリジンのような(通常の20の天然に生じるアミノ酸以外の)他のアミノ酸に対するコドンもまた突然変異タンパク質の核酸に組み込まれ得ることに注意すべきである。Wang, L.,ら (2001) Science 292, 498-500、または Wang, L.,およびSchultz, P.G. (2002) Chem. Comm. l, 1-11に記載されるように、通常は終止コドンとして認識されるUAGのような「人工的な」コドンを、他の特殊なアミノ酸、例えば、o-メチル-L-チロシンまたはp-アミノフェニルアラニンを挿入するために使用することも可能である。
【0021】
「涙リポカリン」という用語は本明細書において使用される場合、ヒト涙リポカリン(SWISS-PROT Data Bank受入番号M90424)に限定されないが、構造的に保存されたリポカリンの折りたたみ、ならびに、ヒト涙リポカリンのアミノ酸配列に関して少なくとも60%の配列相同性または配列同一性を有するすべてのポリペプチドを含むことを意図する。リポカリンの折りたたみという用語は、例えば、上述のFlower, D.R. (1996)において、円筒状に閉鎖された8本の逆平行鎖のβシートで形成された中心モチーフとして立体構造上保存されたβバレルを持ち、バレルの開放末端において、β鎖が結合ポケットを形成するように対になって4つのループによって連結されている、典型的な三次元リポカリン構造を記載するために使用されるように、その通常の意味で用いられる(図2も参照せよ)。
【0022】
本発明において使用される場合、ペプチドループの定義もまた、リポカリンの折りたたみという用語の通常の意味に従い、以下のとおりであり、図2においても説明される。すなわち、ペプチドループ(セグメント)ABは円筒状に閉鎖されたβシートのβ鎖AおよびBを連結し、ペプチドループCDはβ鎖CおよびDを連結し、ペプチドループEFはβ鎖EおよびFを連結し、ペプチドループGHはβ鎖GおよびHを連結し、ペプチドループBCはβ鎖BおよびCを連結し、ペプチドループDEはβ鎖DおよびEを連結し、ペプチドループFGはβ鎖FおよびGを連結する。図2に見られるように、ループAB、CD、EFおよびGHはリポカリンの既知の結合部位を形成する(従って開放末端と呼ばれた)が、一方、本発明において発見されたように、ループBC、DEおよびFGはN末端ペプチド伸長部とともに、βバレルの閉鎖末端に位置する第二の結合部位を形成するために使用され得る。
【0023】
上述に従って、「涙リポカリン」という用語は、約60%以上のアミノ酸配列相同性または配列同一性を有する、他の種由来の、既に同定されたまたはまだ単離されていない構造的ホモログを含む。「相同性」という用語は本明細書において使用される場合、その通常の意味であり、互いに比較される2つのタンパク質の直鎖状アミノ酸配列における同等の位置に、同一のアミノ酸、ならびに、同類置換と見なされるアミノ酸(例えば、グルタミン酸残基のアスパラギン酸残基による置換)を含む。「配列同一性」または「同一性」という用語は本発明において使用される場合、問題の配列と本発明のポリペプチドの配列の相同性アラインメントに従った、これら2つの配列のより長いものにおける残基数について、対になる同一残基の割合を意味する。
【0024】
配列相同性または配列同一性の割合は、本明細書ではプログラムBLASTP、version blastp 2.2.5(2002年11月16日; Altschul, S. F.ら(1997) Nucl. Acids Res. 25, 3389-3402参照)を用いて決定される。相同性の割合は、ペアワイズ比較の参照としてヒト涙リポカリンを用いた、プロペプチド配列を含む全ポリペプチド配列のアラインメントに基づく(マトリックス: BLOSUM 62 ; ギャップコスト: 11.1; 切り捨て値を10-3に設定)。それは、BLASTPプログラムアウトプットでの結果として示される「陽性」(相同アミノ酸)の数を、アラインメントのためにプログラムによって選択されたアミノ酸の総数で除した割合として計算される。これに関して、以下に見られるように、この選択されたアミノ酸の総数は涙リポカリンの長さ(プロペプチドを含む176アミノ酸)とは異なり得ることに注意すべきである。
【0025】
ホモログタンパク質の例は、上述のようなプログラムBLASTPを用いて決定されるように、約70%の配列相同性を有する(プロペプチドを含む場合、125陽性/178位置; 13の「陽性」を含む18残基長のプロペプチドを考慮に入れない場合、112陽性/160であり、同様に約70%の相同性をもたらす)Rattus norvegicusのエブネル(Von Ebner)腺タンパク質1(VEGPタンパク質; SWISS-PROT Data Bank受入番号P20289)、約71%の配列相同性を有する(プロペプチドを含む場合、127陽性/178; 18残基長のプロペプチドを考慮に入れない場合、114陽性/160であり、相同性は同様に約71%であることが決定される)Rattus norvegicusのエブネル腺タンパク質2(VEGタンパク質2; SWISS-PROT Data Bank受入番号P41244)、約74%の配列相同性を有する(プロペプチドを含む場合、131陽性/176位置; 16の「陽性」を含む18残基長のプロペプチドを考慮に入れない場合、115陽性/158であり、約73%の相同性をもたらす)Sus scrofa(ブタ)のエブネル腺タンパク質2(LCN1; SWISS-PROT Data Bank受入番号P53715)、または約70%の配列相同性を有する(122陽性/174位置、もしくは12の陽性を含むプロペプチドを除外した場合110陽性/156 = 約70%の相同性)イヌの主要アレルゲンCan fl前駆体(ALL 1, SWISS-PROT Data Bank受入番号O 18873)である。このような涙リポカリンの構造的ホモログは、例えば、原核生物ならびに真核生物のような、任意の種に由来し得る。真核生物の場合、構造的ホモログは、無脊椎動物ならびに、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、イヌ、ラットもしくはマウス)または鳥類または爬虫類などの脊椎動物に由来し得る。
【0026】
涙リポカリン以外のタンパク質が本発明において使用される場合、涙リポカリンに対して与えられた突然変異される配列位置の定義は、公開されている配列アラインメントまたは当業者に利用可能なアラインメント方法を用いて、他のリポカリンに割り当てることができる。配列アラインメントは、例えば、Redl, B. (2000) Biochim. Biophys. Acta 1482, 241-248の図1におけるもののように、公開されているアラインメントを用いて、WO 99/16873(その中の図3参照)に説明されるように実施され得る。リポカリンの三次元構造が利用可能な場合、本発明の突然変異誘発の対象となるべきこれらの配列位置の決定のために、構造の重ね合わせもまた使用され得る。多次元核磁気共鳴分光法のような他の構造解析の方法もまた、この目的のために使用され得る。
【0027】
涙リポカリンのホモログはまた、アミノ酸置換が本発明において選択された位置以外の位置に導入された涙リポカリン自体の突然変異タンパク質であり得る。例えば、このような突然変異タンパク質は、タンパク質の溶解性または安定性を増加させるために、βバレルの溶媒に露出した表面の位置が涙リポカリンの野生型配列と比較して突然変異されたタンパク質であり得る。
【0028】
一般的に、「涙リポカリン」という用語は、ヒト涙リポカリン(SWISS-PROT Data Bank受入番号M90424)と比較して60%、70%、80%、85%、90%、もしくは95%以上の配列相同性または配列同一性を有するすべてのタンパク質を含む。
【0029】
本発明の1つの好ましい実施形態では、本明細書に開示されるような突然変異タンパク質はヒト涙リポカリンに由来する。他の好ましい実施形態では、突然変異タンパク質はVEGPタンパク質、VEGタンパク質2、LCN 1、またはALL 1タンパク質に由来する。
【0030】
βバレルの閉鎖末端の結合部位が用いられる場合、本発明の突然変異タンパク質は、通常、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、41〜49、69〜77、および87〜98に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含む。位置7〜14はN末端ペプチド伸長部の一部であり、位置41〜49はBCループに含まれ、位置60〜77はDEループに含まれ、位置87〜98はFGループに含まれる。
【0031】
それらの突然変異タンパク質のより特異的な実施形態では、突然変異は、ヒト涙リポカリンの位置8、9、10、11、12、13、43、45、47、70、72、74、75、90、92、94、および97に相当する配列位置に導入される。通常、このような突然変異タンパク質は、配列位置の5〜10または12〜16または17すべてに突然変異を含む。
【0032】
βバレルの開放末端の結合部位が突然変異誘発を受ける場合、本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含む。位置24〜36はABループに含まれ、位置53〜66はCDループに含まれ、位置69〜77はEFループに含まれ、位置103〜110はGHループに含まれる。本発明の1つの実施形態では、1〜6アミノ酸残基、好ましくは2〜4アミノ酸残基の挿入が、ヒト涙リポカリンの配列位置24〜36に相当する配列位置によって形成されるペプチドセグメント内に導入される。この挿入はこのセグメント内の任意の位置に含まれ得る。1つの例示的な実施形態では、この挿入はヒト涙リポカリンの配列位置24と25の間に導入される。しかし、ここで用いられる結合部位の一部であるペプチドセグメント内の少なくとも2アミノ酸の伸長の導入は、残基24〜26を含むセグメントに限定されず、本明細書において選択された2つの結合部位のうちの1つの形成に関与する任意のセグメントに含まれ得ることにもまた注意すべきである。
【0033】
従って、2つの結合部位を有する突然変異タンパク質は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、41〜49、69〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含み、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に更なる突然変異を含む。
【0034】
この点において、突然変異誘発のために用いられる上記で定義されたセグメント(ループ)の数は変化し得ることに注意すべきである(N末端ペプチド伸長部はセグメントまたはループという用語の意味に含まれる)。例えば協調的な突然変異誘発において、2つの結合部位のそれぞれのこれら4つのセグメントすべてを一斉に突然変異させる必要はない。しかし、特定の標的に対して検出可能な親和性を有する突然変異タンパク質を作製するために、各結合部位の1つ、2つまたは3つのセグメントだけに突然変異を導入することも可能である。従って、1つの改変結合部位のみを有する結合分子が求められる場合、例えば、βバレルの閉鎖末端の2つまたは3つのセグメントだけに突然変異誘発を受けさせることは可能である。この分子がその後、第二の標的への結合親和性を持つことを必要とされる場合、その後、第二結合部位の任意の4つのループ中の配列位置は突然変異され得る。しかし、特定の標的が結合部位の1つのみによって結合される場合でも、両方の結合部位のペプチドループを突然変異することも可能である。
【0035】
本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、突然変異されるセグメントの外側に野生型の(天然の)アミノ酸配列を含みうる。他方で、本明細書において開示されるリポカリン突然変異タンパク質はまた、それらの突然変異が突然変異タンパク質の結合親和性および折りたたみを妨げないかぎり、突然変異誘発を受ける配列位置の外側にもアミノ酸の突然変異を含みうる。このような突然変異は、確立された標準的な方法(Sambrook, J.ら(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)を用いてDNAレベルで非常に容易に達成され得る。考えられるアミノ酸配列の改変は、挿入または欠失ならびにアミノ酸置換である。このような置換は保存的でありうる。すなわち、アミノ酸残基は化学的に類似したアミノ酸残基に置換される。同類置換の例は、以下の群のメンバー間、すなわち、1)アラニン、セリン、およびトレオニン、2)アスパラギン酸およびグルタミン酸、3)アスパラギンおよびグルタミン、4)アルギニンおよびリジン、5)イソロイシン、ロイシン、メチオニン、およびバリン、ならびに6)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンの間での置換である。他方で、アミノ酸配列に非保存的な改変を導入することも可能である。
【0036】
このようなアミノ酸配列の改変は、特定の制限酵素の切断部位を組み込むことによって突然変異したリポカリン遺伝子またはその一部のサブクローニングを容易にするために、単一アミノ酸位置の指向された突然変異誘発を含む。加えて、これらの突然変異はまた、特定の標的に対するリポカリン突然変異タンパク質の親和性を更に改善するために、組み込むこともできる(実施例17〜19および24参照)。1つの実施形態では、突然変異は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置21、50、51および83に相当する(リポカリン骨格の)少なくとも1つの配列位置に導入される。更に、突然変異は、突然変異タンパク質の特定の性質を調節するために、例えば、必要であれば、折りたたみ安定性または水溶性を改善するために、または凝集傾向を減少させるために導入され得る。
【0037】
本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、検出可能な親和性で、すなわち、好ましくは少なくとも105M-1の親和定数で、所望の標的に結合することができる。より低い親和性は、通常、ELISAなどの一般的な方法によって測定することができず、従って重要性は二次的なものである。1μMの複合体の解離定数に相当する、少なくとも106M-1の親和性で所望の標的に結合するリポカリン突然変異タンパク質が、特に好ましい。突然変異タンパク質の所望の標的に対する結合親和性は、蛍光滴定、競合ELISAまたは表面プラズモン共鳴などの多数の方法によって測定され得る。
【0038】
複合体形成が、結合パートナーの濃度、競合物の存在、バッファー系のイオン強度等の多数の要因に依存することは当業者にとって明白である。選択および濃縮は、一般的に、標的に対して少なくとも105M-1の親和定数を有するリポカリン突然変異タンパク質の単離を可能にする条件下で行われる。
【0039】
しかし、洗浄および溶出ステップは様々なストリンジェンシー下で行われ得る。速度論的性質に関する選択は、同様に可能である。例えば、選択は、標的からの遅い解離、言い換えれば、低いkoff速度を示す突然変異タンパク質と標的の複合体形成を促進する条件下で実施され得る。
【0040】
本発明の涙リポカリン突然変異タンパク質は、特定の標的との複合体形成のために使用されうる。標的は非天然の標的/リガンドでありうる。標的(リガンド)は、免疫学的ハプテン、ステロイドホルモンのようなホルモン、または任意の生体高分子もしくはその断片、例えば、タンパク質もしくはタンパク質ドメイン、ペプチド、オリゴデオキシヌクレオチド、核酸、オリゴ糖もしくは多糖類またはそのコンジュゲートの特徴を示す、遊離型あるいはコンジュゲート型の任意の化合物でありうる。本発明の好ましい実施形態では、標的はタンパク質である。タンパク質は任意の球状の可溶性タンパク質または受容体タンパク質、例えば、細胞シグナル伝達に関与する膜貫通タンパク質、MHC分子などの免疫系の成分、または特定の疾患の指標である細胞表面受容体であり得る。突然変異タンパク質はまた、タンパク質の断片のみに結合することができてもよい。例えば、突然変異タンパク質は、それが細胞膜に固定された受容体の一部である場合、細胞表面受容体のドメインに結合でき、同様に、このドメインが可溶性タンパク質として産生され得る場合、溶液中の同一のドメインに結合できる。しかし、本発明は、このような高分子の標的のみに結合する突然変異タンパク質に限定されるものではない。しかし、突然変異誘発を用いて、ビオチン、フルオレセインまたはジゴキシゲニンなどの(より)低分子量のリガンドに対して特異的な結合親和性を示す涙リポカリンの突然変異タンパク質を得ることもまた可能である。
【0041】
本発明の涙リポカリン突然変異タンパク質は、通常、単量体タンパク質として存在する。しかし、本発明のリポカリン突然変異タンパク質は自発的に二量化またはオリゴマー化する可能性もある。安定な単量体を形成するリポカリン突然変異タンパク質の使用は、タンパク質の取り扱いを容易にするため、一般的に好まれるが、例えば、安定なホモ二量体または多量体を形成するリポカリン突然変異タンパク質の使用もまた、このような多量体が特定の標的に対する親和性および/または結合活性の(更なる)増加を提供し得るので、ここで好まれ得る。更に、リポカリン突然変異タンパク質のオリゴマー形成は、血清半減期を延長しうる。
【0042】
いくつかの用途のために、本発明の突然変異タンパク質を標識された形で使用することは有用である。従って、本発明はまた、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属錯体、金属、および金コロイドからなる群より選択される標識とコンジュゲートされたリポカリン突然変異タンパク質を対象とする。突然変異タンパク質はまた、有機分子ともコンジュゲートされうる。「有機分子」という用語は本明細書において使用される場合、好ましくは、少なくとも2つの炭素原子を含むが、好ましくは7つ以上の回転できる炭素結合を含まず、100〜2000ダルトンの範囲の、好ましくは1000ダルトンの分子量を有し、任意選択で1つまたは2つの金属原子を含む有機分子を意味する。
【0043】
一般的に、リポカリン突然変異タンパク質を、直接または間接的に、検出可能な化合物または化学的、物理的もしくは酵素的な反応におけるシグナルを生じる、任意の適切な化学物質あるいは酵素で標識することが可能である。物理的な反応の例は、放射線放射による蛍光の放射または放射性標識を用いた場合のX線の放射である。アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはβガラクトシダーゼは、発色性反応生成物の生成を触媒する酵素標識の例である。一般的に、(免疫グロブリンのFc部分の糖成分に限定して用いられるものを除く)抗体に通常使用されるすべての標識はまた、本発明の突然変異タンパク質とのコンジュゲーションのために使用され得る。本発明の突然変異タンパク質はまた、例えば、このような薬剤の特定の細胞、組織もしくは器官への標的化送達のために、または周囲の正常細胞に影響を及ぼすことなく細胞、例えば腫瘍細胞を選択的標的化するために、任意の適切な治療効果のある薬剤にコンジュゲートされうる。このような治療効果のある薬剤の例は、放射性核種、毒素、有機低分子、および治療用ペプチド(例えば、細胞表面受容体のアゴニスト/アンタゴニストとして作用するペプチド、または特定の細胞標的上のタンパク質結合部位と競合するペプチドなど)を含む。しかし、本発明のリポカリン突然変異タンパク質はまた、アンチセンス核酸分子、低分子干渉RNA、マイクロRNAまたはリボザイムなどの治療効果のある核酸ともコンジュゲートされうる。このようなコンジュゲートは当技術分野においてよく知られている方法によって産生され得る。
【0044】
本明細書に開示される突然変異タンパク質のいくつかの用途のために、それらを融合タンパク質の形で使用することが有利でありうる。好ましい実施形態では、本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、そのN末端またはそのC末端で、タンパク質、タンパク質ドメイン、またはシグナル配列および/もしくは親和性タグなどのペプチドと融合される。
【0045】
融合パートナーは、本発明のリポカリン突然変異タンパク質に酵素活性または他の分子に対する結合親和性などの新たな性質を付与しうる。適切な融合タンパク質の例は、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、プロテインGのアルブミン結合ドメイン、プロテインA、抗体断片、オリゴマー化ドメイン、同一もしくは異なる結合特異性のリポカリン突然変異タンパク質(その結果、「duocalin」の形成を引き起こす。Schlehuber, S.,およびSkerra, A. (2001), Biol. Chem. 382, 1335-1342参照)、または毒素である。特に、結果として生じる融合タンパク質の両方の「成分」がともに特定の治療標的上に作用できるように、本発明のリポカリン突然変異タンパク質を別個の酵素活性部位と融合することが可能でありうる。リポカリン突然変異タンパク質の結合ドメインは、疾患の原因となる標的に結合し、酵素ドメインがその標的の生物学的機能を止めることを可能にする。2つの本発明の二重特異性リポカリン突然変異タンパク質(すなわち、それらの各々が2つの結合部位を有する)が結合され「duocalin」になる場合、四価の分子が形成される。例えば、duocalinがビオチンに特異的に結合する2つの結合部位を有する1つの突然変異タンパク質のみから作製される場合、ストレプトアビジン(ホモ四量体であり、それぞれの単量体は1つのビオチン分子に結合する)に匹敵する四価の分子(ホモ二量体)が得られる。予想される結合活性効果のために、このような突然変異タンパク質は、ビオチン基の検出を使用する方法における有用な分析ツールになりうる。自発的にホモ二量体または多量体を形成するリポカリン突然変異タンパク質もまた当然、このような目的のために使用され得る。
【0046】
また、組換えタンパク質の容易な検出および/または精製を可能にする、Strep-tag(登録商標)もしくはStlep-tag(登録商標)II(Schmidt, T.G.M.ら(1996) J. Mol. Biol. 255, 753-766)、mycタグ、FLAGタグ、His6タグもしくはHAタグ、またはグルタチオンS-トランスフェラーゼのようなタンパク質などの親和性タグは、好ましい融合パートナーの更なる例である。最後に、緑色蛍光タンパク質(GFP)もしくは黄色蛍光タンパク質(YFP)などの発色特性または蛍光特性を有するタンパク質は、同様に、本発明のリポカリン突然変異タンパク質に適した融合パートナーである。
【0047】
本明細書において使用される場合、「融合タンパク質」という用語はまた、シグナル配列を含む本発明のリポカリン突然変異タンパク質を含む。ポリペプチドのN末端でのシグナル配列は、このポリペプチドを特定の細胞内区画、例えば、E. coliのペリプラズムまたは真核細胞の小胞体に指向させる。多数のシグナル配列が当技術分野において知られている。E. coli のペリプラズムへのポリペプチドの分泌のための好ましいシグナル配列はOmpAシグナル配列である。
【0048】
本発明はまた、本明細書に記載されるように、突然変異タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子(DNAおよびRNA)に関する。遺伝子コードの縮重はあるコドンを同一のアミノ酸を指定する他のコドンに置換することを許容するので、本発明は、本発明の融合タンパク質をコードする特定の核酸分子に限定されず、機能的な融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むすべての核酸分子を含む。
【0049】
本発明の核酸分子の1つの好ましい実施形態では、その配列はヒト涙リポカリンのコード配列に由来する。他の好ましい実施形態では、核酸はVEGPタンパク質、VEGタンパク質2、LCN 1またはALL 1タンパク質に由来する。
【0050】
別の好ましい実施形態では、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸配列は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、43〜49、70〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含み、ヒト涙リポカリンの位置8、9、10、11、12、13、43、45、47、70、72、74、75、90、92、94、および97に相当する配列位置が特に好ましい。
【0051】
更なる好ましい実施形態では、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸配列は、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含む。
【0052】
ヒト涙リポカリン突然変異の直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、43〜49、70〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に突然変異を含み、ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置に更なる突然変異を含む、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸分子もまた好ましい。
【0053】
本明細書に開示されるような発明はまた、実験的突然変異誘発のセグメントの外側に更なる突然変異を含む、TLPC突然変異タンパク質をコードする核酸分子を含む。このような突然変異は、例えばそれらが折りたたみ効率、タンパク質の安定性または突然変異タンパク質のリガンド結合親和性の改善に寄与する場合、しばしば許容され、または有利であることを証明することもできる。
【0054】
本出願において開示される核酸分子は、この核酸分子の発現を可能にするために、調節配列(または複数の調節配列)に「機能しうる形で連結」されうる。
【0055】
DNAのような核酸分子は、それが転写および/もしくは翻訳調節に関する情報を含む配列エレメントを含み、このような配列がポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に「機能しうる形で連結」されている場合、「核酸分子を発現できる」または「ヌクレオチド配列の発現を可能にすることができる」と言われる。機能しうる形での連結とは、調節配列エレメントおよび発現されるべき配列が遺伝子発現を可能にするように結合されている連結である。遺伝子発現に必要な調節領域の厳密な性質は種間で異なりうるが、一般的に、これらの領域は、原核生物では、プロモーター自体、すなわち転写の開始を指示するDNAエレメント、ならびにRNAに転写された際に翻訳の開始を指示するDNAエレメントの両方を含むプロモーターを含む。このようなプロモーター領域は、通常、原核生物における-35/-10ボックスおよびシャイン・ダルガーノ エレメントまたは真核生物におけるTATAボックス、CAAT配列および5'キャッピングエレメントなどの、転写および翻訳の開始に関与する5'非コード配列を含む。これらの領域はまた、エンハンサーまたはリプレッサーエレメント、ならびに翻訳シグナルおよび宿主細胞の特定の区画に天然ポリペプチドを標的化するためのリーダー配列を含み得る。
【0056】
加えて、3'非コード配列は転写終止、ポリアデニル化等に関与する調節エレメントを含みうる。しかし、これらの終止配列が特定の宿主細胞において十分機能的でない場合、その後、それらはその細胞において機能的なシグナルに置換されうる。
【0057】
従って、本発明の核酸分子は、調節配列、好ましくはプロモーター配列を含み得る。別の好ましい実施形態では、本発明の核酸分子は、プロモーター配列および転写終止配列を含む。適切な原核生物のプロモーターは、例えば、tetプロモーター、lacUV5プロモーターまたはT7プロモーターである。真核細胞での発現のために有用なプロモーターの例は、SV40プロモーターまたはCMVプロモーターである。
【0058】
本発明の核酸分子はまた、プラスミド、ファージミド、ファージ、バキュロウイルス、コスミドもしくは人工染色体などの、ベクターまたは他の任意のクローニングベヒクル内に含まれ得る。好ましい実施形態では、核酸分子はファスミド内に含まれる。ファスミドベクターは、M13もしくはfl、または対象となるcDNAに融合されたその機能部分などのテンペレートファージの遺伝子間領域をコードするベクターを意味する。このようなファージミドベクターおよび適切なヘルパーファージ(例えばM13K07, VCS-M13 またはR408)による細菌性宿主細胞の重複感染後、完全なファージ粒子が産生され、その結果、コードされる異種cDNAの、ファージ表面に提示されるそれに対応するポリペプチドとの物理的な結合を可能にする(例えば、Kay, B.K.ら(1996) Phage Display of Peptides and Proteins-A Laboratory Manual, 第1版、Academic Press, New York NY; Lowman, H.B. (1997) Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struck. 26, 401-424,またはRodi, D.J.,およびMakowski, L. (1999) Curr. Opin. Biotechnol. 10, 87-93において概説される)。
【0059】
このようなクローニングベヒクルは、上述の調節配列および本発明のリポカリン突然変異タンパク質をコードする核酸配列に加えて、発現のために使用される宿主細胞に適合した種に由来する複製および制御配列、ならびに形質転換またはトランスフェクトされた細胞に選択可能な表現型を付与する選択マーカーを含み得る。多数の適切なクローニングベクターが当技術分野において知られており、市販されている。
【0060】
本発明のリポカリン突然変異タンパク質をコードするDNA分子、および特にこのようなリポカリン突然変異タンパク質のコード配列を含むクローニングベクターは、遺伝子を発現することができる宿主細胞に形質転換され得る。形質転換は標準的な技術を用いて実施され得る(Sambrook, J.ら(1989), 上述)。従って、本発明はまた、本明細書に記載されるような核酸分子を含む宿主細胞を対象とする。
【0061】
形質転換された宿主細胞は、本発明の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の発現に適した条件下で培養される。適切な宿主細胞は、Escherichia coli(E. coli)またはBacillus subtilisなどの原核生物、あるいはSaccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、SF9もしくはHigh5昆虫細胞、不死化哺乳動物細胞株(例えばHeLa細胞もしくはCHO細胞)、または初代培養哺乳動物細胞などの真核生物であり得る。
【0062】
本発明はまた、本発明の突然変異タンパク質またはその融合タンパク質を産生する方法に関し、それは
(a)涙リポカリンまたはそのホモログをコードする核酸分子に(ここで、涙リポカリンまたはそのホモログがヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有する)、2つ以上の異なるコドンでの突然変異誘発を受けさせ、その結果、1つ以上の突然変異タンパク質核酸分子を生じること、
(b)(a)で得られた1つ以上の突然変異タンパク質核酸分子を適切な発現系で発現させること、および、
(c)特定の標的に対して検出可能な結合親和性を有する少なくとも1つの突然変異タンパク質を、選択および/または単離によって濃縮することを含む。
【0063】
本方法の更なる実施形態では、核酸分子は、βバレル構造のいずれかの一端に配置される任意の1つ、2つ、3つまたは4つすべての上述のペプチドセグメントにおいて、2つ以上の異なるコドン(すなわち通常はヌクレオチドトリプレット)で独立に突然変異誘発を受け得る。従って、この置換がコードされるアミノ酸の変化を引き起こすならば、たった1塩基の置換で十分である。
【0064】
本産生方法では、突然変異タンパク質またはその融合タンパク質は、涙リポカリンまたはそのホモログをコードする核酸から得られ、突然変異誘発を受け、(既に上述されたように)組換えDNA技術を用いて適切な細菌性または真核性宿主生物に導入される。
【0065】
例えば、ヒト涙リポカリンのコード配列(Redl, B.ら(1992) J.Biol. Chem. 267, 20282-20287)は、本発明において選択されたペプチドセグメントの突然変異誘発のための開始点となり得る。天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の一端のN末端ペプチド伸長部および3つのペプチドループBC、DE、およびFG中のアミノ酸、ならびに結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH中のアミノ酸の突然変異誘発のために、当業者は、部位指定突然変異誘発のための様々な確立された標準的な方法を自由に行うことができる(Sambrook, J.ら(1989),上述)。一般的に使用される技術は、所望の配列位置に縮重塩基組成を持つ合成オリゴヌクレオチドの混合物を用いた、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)による突然変異の導入である。例えばイノシンのような、塩基対特異性の減少を伴うヌクレオチド構成単位の使用は、選択された配列セグメントへの突然変異の導入のための別の選択肢である。更なる可能性は、いわゆるトリプレット突然変異誘発である。この方法は、それぞれがコード配列への取り込みのために1つのアミノ酸をコードする異なるヌクレオチドトリプレットの混合物を使用する。
【0066】
それぞれのポリペプチドの選択された領域に突然変異を導入するための1つの可能性のある戦略は、そのおのおのが突然変異されるべき対応する配列セグメントの1つに部分的に由来する、4つのオリゴヌクレオチドの使用に基づく(図3参照)。これらのオリゴヌクレオチドを合成する際、当業者は、すべての天然のアミノ酸をコードするコドンが無作為に出現し、最終的にリポカリンペプチドライブラリーの作製を引き起こすように、突然変異されるべきアミノ酸位置に相当するそれらのヌクレオチドトリプレットの合成のための核酸構成単位の混合物を使用することができる。例えば、第一オリゴヌクレオチドは、(突然変異される位置だけでなく)リポカリンポリペプチドの最もN末端の位置で突然変異されるべきペプチドセグメントに対するコード鎖のその配列に相当する。従って、第二オリゴヌクレオチドは、ポリペプチド配列中の次の第二配列セグメントに対する非コード鎖に相当する。第三オリゴヌクレオチドは、順次、対応する第三配列セグメントに対するコード鎖に相当する。最後に、第四オリゴヌクレオチドは、第四配列セグメントに対する非コード鎖に相当する。ポリメラーゼ連鎖反応は、それぞれの第一および第二オリゴヌクレオチドを用いて、ならびに独立して、必要であれば、それぞれの第三および第四オリゴヌクレオチドを用いて実施され得る。
【0067】
これらの反応の両方の増幅産物は、様々な既知の方法によって、突然変異が選択された位置に導入された第一配列セグメントから第四配列セグメントまでの配列を含む単一の核酸へと結合され得る。このために、両方の産物は、例えば、隣接したオリゴヌクレオチド、ならびに第二配列セグメントと第三配列セグメントとの間の配列を提供する1以上のメディエーター核酸分子を用いた、新たなポリメラーゼ連鎖反応を受けることができる。この手順は図3に図解的に示される。突然変異誘発のために使用されるオリゴヌクレオチドの配列の数および配置の選択において、当業者は多数の選択肢を自由に用いることができる。
【0068】
上記で定義された核酸分子は、リポカリンポリペプチドをコードする核酸の欠落している5'配列および3'配列ならびに/またはベクターとライゲーションによって結合され得るものであり、既知の宿主生物にクローニングされ得る。多数の確立された方法がライゲーションおよびクローニングのために利用可能である(Sambrook, J.ら(1989), 上述)。例えば、クローニングベクターの配列内にも存在する制限エンドヌクレアーゼのための認識配列は、合成オリゴヌクレオチドの配列内に設計され得る。これによって、それぞれのPCR産物の増幅および酵素的切断後、結果として生じた断片は対応する認識配列を用いて容易にクローニングされ得る。
【0069】
突然変異誘発のために選択されたタンパク質をコードする遺伝子内のより長い配列セグメントはまた、既知の方法によって、例えば、エラー率を増加させる条件下でのポリメラーゼ連鎖反応の使用、化学的突然変異誘発、または突然変異誘発細菌株の使用によって、ランダム突然変異誘発を受けることもできる。このような方法はまた、リポカリン突然変異タンパク質の標的親和性または特異性の更なる最適化のために使用され得る。実験的突然変異誘発のセグメントの外側に起こりうる突然変異は、例えばそれらがリポカリン突然変異タンパク質の折りたたみ効率または折りたたみの安定性の改善に寄与する場合、しばしば許容され、または有利であることを証明することもできる。
【0070】
突然変異誘発を受けた核酸配列の適切な宿主での発現後、得られたライブラリーから、特定の標的に結合する複数のそれぞれのリポカリン突然変異タンパク質のための遺伝情報を有するクローンが選択され得る。これらのクローンの選択のために、ファージディスプレイ(Kay,B. K.ら(1996)上述; Lowman, H.B. (1997)上述;またはRodi, D. J.,およびMakowski, L. (1999)上述において概説される)、コロニースクリーニング(Pini, A.ら(2002) Comb. Chem. High Throughput Screen. 5, 503-510において概説される)、リボソームディスプレイ(Amstutz, P.ら(2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12,400-405)、またはWilson, D.S.ら(2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98,3750-3755において報告されるようなmRNAディスプレイなどの、よく知られている技術が使用され得る。
【0071】
テンペレートM13ファージを用いたファージディスプレイ法の実施形態(Kay, B.K.ら(1996),上述; Lowman, H.B. (1997) 上述、またはRodi, D.J.,および Makowski, L. (1999),上述において概説される)は、本発明の選択方法の例として挙げられる。しかし、flなどの他のテンペレートファージまたはT7のような溶菌性ファージも同様に使用されうることに注意すべきである。例示的な選択方法のために、N末端にシグナル配列、好ましくはOmpAシグナル配列を含み、C末端にファージキャプシドに組み込まれることを可能にするファージM13のキャプシドタンパク質pIIIまたはその断片を含む融合タンパク質として、突然変異されたリポカリン核酸配列の発現を可能にする、M13ファージミド(上記参照)が作製される。野生型配列の217〜406アミノ酸を含むファージキャプシドタンパク質のC末端断片ΔpIIIは、融合タンパク質の産生のために好んで使用される。位置201のシステイン残基が欠失しているか、または別のアミノ酸によって置換されているpIIIのC末端断片は特に好ましい。
【0072】
融合タンパク質は、その融合タンパク質もしくはその一部の固定化および/または精製を可能にする親和性タグのような更なる成分を含みうる。更に、終止コドンは、リポカリンまたはその突然変異タンパク質をコードする配列領域とファージキャプシド遺伝子またはその断片との間に配置され得るものであり、ここで終止コドン、好ましくはアンバー終止コドンは、少なくとも部分的に、適切なサプレッサー株での翻訳の際、アミノ酸に翻訳される。
【0073】
例えば、ファージミドベクターpTLPC7(図4)は、ヒト涙リポカリン突然変異タンパク質をコードするファージライブラリーの構築に使用され得る。突然変異したペプチドセグメントをコードする本発明の核酸分子は、BstXI制限酵素認識部位を用いてベクターに挿入される。組換えベクターはその後、E.coli XL1-Blueのような適切な宿主株に形質転換される。その結果生じるライブラリーはその後、機能的なファージを産生するために、適切なM13ヘルパーファージを用い、液体培養物において重複感染される。組換えファージミドは、コートタンパク質pIIIまたはその断片との融合物としてその表面にリポカリン突然変異タンパク質を提示するが、融合タンパク質のN末端シグナル配列は通常切断される。一方で、それはまた、ヘルパーファージによって供給される1コピー以上の天然のキャプシドタンパク質pIIIを持ち、そのためにレシピエント、一般的にはFプラスミドまたはF'プラスミドを有する細菌株に感染することができる。感染の間または感染後に、たとえば、アンヒドロテトラサイクリンの添加によって、リポカリン突然変異タンパク質およびキャプシドタンパク質pIIIを含む融合タンパク質の遺伝子発現が誘導され得る。誘導条件は、得られたファージのかなりの割合が少なくとも1つのリポカリン突然変異タンパク質をそれらの表面に提示できるように選択される。ファージを単離するために、ポリエチレングリコールによる沈殿などの、様々な方法が知られている。単離は通常、6〜8時間のインキュベーション期間の後に行われる。
【0074】
単離されたファージはその後、それらを特定の標的とともにインキュベーションすることによる選択の過程を受け、ここで、標的は、所望の結合活性を有する突然変異タンパク質を提示しているそれらのファージの少なくとも一時的な固定化を可能にする形で存在する。いくつかの固定化方法が当技術分野において知られている。例えば、標的は血清アルブミンのような担体タンパク質とコンジュゲートでき、この担体を介してポリスチレンのようなタンパク質結合表面に結合され得る。ELISA法に適したマイクロタイタープレートまたはいわゆる「イムノスティック」が好ましい。代替として、標的のコンジュゲートはまた、ビオチンのような他の結合基とも行われ得る。標的はその後、アビジンまたはストレプトアビジンで被覆されたマイクロタイタープレートまたは常磁性粒子などの、この基と選択的に結合する表面に固定化され得る。
【0075】
例えば、ファージ粒子は表面に固定化されたそれぞれの標的に結合することにより捕捉される。非結合ファージ粒子はその後、くり返し洗浄することにより除去される。結合ファージの溶出のために、遊離の標的(リガンド)分子がコンペティターとしてサンプルに添加され得る。あるいは、溶出はまた、プロテアーゼの添加によって、または穏やかな変性条件下、例えば、酸、塩基、界面活性剤もしくはカオトロピック塩の存在下で達成され得る。好ましい方法は、pH 2.2のバッファーを用いた溶出に続く溶液の中和である。溶出されたファージはその後、別の選択サイクルを受けてもよい。好ましくは、選択は、少なくとも0.1%のクローンがそれぞれの標的に対する検出可能な親和性を有するリポカリン突然変異タンパク質を含むまで続けられる。用いられるライブラリーの複雑性に応じて、この目的のために2〜8サイクルが必要とされる。
【0076】
選択されたリポカリン突然変異タンパク質の機能解析のために、得られたファージミドによってE. coli宿主株を感染させ、ファージミドDNAを標準的な技術(Sambrook, J.ら(1989),上述)を用いて単離する。突然変異された配列断片または完全長リポカリン突然変異タンパク質核酸配列は、任意の適切な発現ベクターにサブクローニングされ得る。得られた組換えリポカリン突然変異タンパク質は、それらの宿主生物または細胞溶解物から、ゲルろ過または親和性クロマトグラフィーなどの当技術分野において既知の様々な方法によって精製され得る。
【0077】
しかし、リポカリン突然変異タンパク質の選択はまた、当技術分野においてよく知られる他の方法を用いても行われ得る。更に、異なる方法を組み合わせることも可能である。例えば、ファージディスプレイによって選択または少なくとも濃縮されたクローンはその後、特定の標的に対して検出可能な結合親和性を有する特定のリポカリン突然変異タンパク質を単離するために、コロニースクリーニングアッセイを受けることができる。加えて、単一のファージライブラリーを作製する代わりに、そのコード核酸配列をくり返しの、任意選択で限定された突然変異誘発によって、所望の標的に対するその親和性または特異性について突然変異タンパク質を最適化するために、類似の方法が適用され得る。
【0078】
一旦、特定の標的に対して親和性を有する突然変異タンパク質が選択されたら、このようにして得られた新しいライブラリーから更に高い親和性の変異型を選択するために、更に、このような突然変異タンパク質に更なる突然変異誘発を受けさせることが可能である。親和性成熟は、合理的設計に基づく部位特異的突然変異またはランダム突然変異によって達成され得る。親和性成熟のための1つの可能性のあるアプローチは、リポカリン突然変異タンパク質の選択された範囲の配列位置全体に渡って点突然変異を引き起こす、エラープローンPCRの使用である(実施例17参照)。エラープローンPCRは、Zaccoloら(1996) J. Mol. Biol. 255, 589-603によって記載されるもののような任意の既知の方法に従って実施され得る。親和性成熟に適したランダム突然変異誘発の他の方法は、Murakami, Hら(2002) Nat. Biotechnol. 20, 76-81によって記載されるようなランダム挿入/欠失(RED)突然変異誘発、またはBittker, J.Aら(2002) Nat. Biotechnol. 20, 1024-1029によって記載されるような非相同的ランダム組換え(NRR)を含む。親和性成熟はまた、ジゴキシゲニンに対して高い親和性を有するビリン結合タンパク質の突然変異タンパク質が得られたWO 00/75308またはSchlehuber, S.ら(2000) J. Mol. Biol. 297, 1105-1120に記載される方法に従って実施され得る。
【0079】
本発明はまた、突然変異タンパク質、突然変異タンパク質の断片、または突然変異タンパク質と別のポリペプチドとの融合タンパク質が、突然変異タンパク質をコードする核酸から遺伝子組換え法を用いて産生される、本発明の突然変異タンパク質を産生する方法に関する。本方法はin vivoで実施することができ、突然変異タンパク質は例えば、細菌性または真核性宿主生物で産生され、その後この宿主生物またはその培養物から単離され得る。例えばin vitro翻訳系の使用によりin vitroでタンパク質を産生することも可能である。
【0080】
突然変異タンパク質をin vivoで産生する場合、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸は、(既に上述したような)組換えDNA技術を用いて適切な細菌性または真核性宿主生物に導入される。このために、宿主細胞は最初に、確立された標準的な方法(Sambrook, J.ら(1989),上述)を用いて、本発明の突然変異タンパク質をコードする核酸配列を含むクローニングベクターを用いて形質転換される。宿主細胞はその後、異種DNAの発現、およびそれにより対応するポリペプチドの合成を可能にする条件下で培養される。続いて、そのポリペプチドが、細胞または培養培地のいずれかから回収される。多くのリポカリンは分子内ジスルフィド結合を含むため、適切なシグナル配列を用いて、ポリペプチドを酸化性のレドックス環境を持つ細胞区画に指向させることが好ましい。このような酸化性環境は、E. coliのようなグラム陰性菌のペリプラズムまたは真核細胞の小胞体の内腔において提供され、通常、正しいジスルフィド結合の形成に適している。しかし、宿主細胞、好ましくはE. coliの細胞質ゾルにおいて本発明の突然変異タンパク質を産生することも可能である。この場合、ポリペプチドは、例えば、封入体の形で産生され、その後in vitroにおいて再生され得る。更なる選択肢は、酸化性の細胞内環境を持つ特定の宿主株の使用であり、それによって細胞質ゾルでの天然型タンパク質の産生を可能にする。
【0081】
しかし、本発明の突然変異タンパク質は、必ずしも遺伝子組換え技術の使用のみによって作製または産生されなくてもよい。むしろ、リポカリン突然変異タンパク質はまた、Merrifield固相ポリペプチド合成のような化学合成によって得ることもできる。例えば、分子モデリングを用いて見込みのある突然変異を同定し、その後、必要とされる(設計された)ポリペプチドをin vitroで合成し、特定の標的に対する結合活性を調べることが可能である。タンパク質の固相および/または液相合成のための方法は、当技術分野においてよく知られている(例えば、Lloyd-Williams, P.ら(1997) Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins. CRC Press, Boca Raton, Fields, G.B., およびColowick, S.P. (1997) Solid-Phase Peptide Synthesis. Academic Press, San Diego,またはBruckdorfer, T.ら(2004) Curr. Pharm. Biotechnol. 5, 29-43において概説される)。
【0082】
本発明はまた、少なくとも1つの本発明の突然変異タンパク質またはその融合タンパク質および製薬上許容されうる賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0083】
本発明のリポカリン突然変異タンパク質は、タンパク質性薬物のために治療上効果的な任意の腸管外または非腸管外(経腸)経路を介して投与され得る。腸管外への適用方法は、例えば、注射液、輸液もしくはチンキの形態での、皮内、皮下、筋内または静脈内注射および注入法、ならびに、例えばエアロゾル混合物、スプレーもしくは粉末の形態でのエアロゾル導入および吸入を含む。非腸管外への送達法は、例えば、丸剤、錠剤、カプセル、溶液もしくは懸濁液の形態での経口投与、または、例えば坐薬の形態での直腸投与である。本発明の突然変異タンパク質は、必要であれば、従来の無毒な製薬上許容されうる賦形剤または担体、添加剤およびベヒクルを含む処方で、全身的または局所的に投与され得る。
【0084】
本発明の好ましい実施形態では、薬剤は、突然変異タンパク質の分子量が小さいという利点を利用した、最も好ましい適用方法の1つであるエアロゾル導入によって、非経口的に哺乳動物、特にヒトに投与される。
【0085】
従って、本発明の突然変異タンパク質は、製薬上許容されうる成分ならびに確立された調製方法(Gennaro, A.L.およびGennaro, A.R. (2000) Remington: The Science and Practice of Pharmacy,第20版, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA)を用いて組成物に処方され得る。医薬組成物を調製するために、製薬上不活性な無機または有機賦形剤が使用され得る。例えば丸剤、粉末、ゼラチンカプセルまたは坐薬を調製するために、例えば、乳糖、タルク、ステアリン酸およびその塩、脂肪、ろう、固体または液体ポリオール、天然油および硬化油が使用され得る。溶液、懸濁液、乳液、エアロゾル混合物、または使用前に溶液もしくはエアロゾル混合物に再構成するための粉末を製造するために適切な賦形剤は、水、アルコール、グリセロール、ポリオール、およびその適切な混合物ならびに植物油を含む。
【0086】
医薬組成物はまた、例えば、増量剤、結合剤、湿潤剤、潤滑剤、安定剤、保存剤、乳化剤などの添加物、更に、溶媒もしくは可溶化剤、またはデポー(depot)効果を達成するための薬剤を含みうる。後者は、融合タンパク質が、リポソームおよびマイクロカプセルなどの、緩徐性もしくは徐放性の放出または標的化送達システムに組み込まれうることである。
【0087】
処方は、細菌保持フィルターによるろ過を含む多数の方法によって、あるいは、使用直前に滅菌水もしくは他の滅菌媒体に溶解または分散され得る無菌の固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことにより、滅菌され得る。
【0088】
上記の開示から明らかなように、本発明の突然変異タンパク質またはその融合タンパク質もしくはそのコンジュゲートは、多くの用途に使用され得る。一般的に、このような突然変異タンパク質は、Fc部分のグリコシル化に特異的に依存するものを除いて、抗体が用いられるすべての用途に使用され得る。
【0089】
本発明の突然変異タンパク質はまた、事前に選択した部位への化合物の標的化のためにも使用され得る。このような目的のため、複合体形成を可能にするように、突然変異タンパク質を対象となる化合物と接触させる。その後、突然変異タンパク質および対象となる化合物を含む複合体は、事前に選択した部位へ送達される。この用途は、薬剤で治療されるべきと考えられるこのような感染した身体部位または器官に薬剤を(選択的に)送達するために特に適しているが、それに限定されない。
【0090】
本発明の突然変異タンパク質の別の用途は、標的を含むと考えられる検査サンプルと突然変異タンパク質を接触させること、および適切なシグナルによって突然変異タンパク質/標的複合体を検出することを含む、特定の標的または標的分子の結合/検出である。突然変異タンパク質はまた、複合体形成を可能にするために、標的を含むと考えられるサンプルと突然変異タンパク質を接触させること、および突然変異タンパク質/標的複合体をサンプルから分離することを含む、特定の標的の分離のために使用され得る。このような用途において、突然変異タンパク質および標的を含む複合体は、任意の適切な固相上に固定化されうる。
【0091】
検出可能なシグナルは、上記に説明したような標識によって、または、結合すなわち複合体形成自体による物理的特性の変化によって発生し得る。1つの例は、表面プラズモン共鳴、すなわち、結合パートナーの結合の間に、金箔のような表面上に固定化されるものから変化する値である。
【0092】
本明細書において開示される突然変異タンパク質およびその誘導体は、従って、抗体またはその断片と同様の多数の分野において使用され得る。特定の突然変異タンパク質の標的またはこの標的のコンジュゲートもしくは融合タンパク質を固定化または分離することを可能にする、担体への結合のためのこれらの使用に加えて、突然変異タンパク質は酵素、抗体、放射性物質、または生化学的活性もしくは定義された結合特性を有する任意の他のグループによる標識のために使用され得る。そうすることによって、それらのそれぞれの標的またはそのコンジュゲートもしくは融合タンパク質は検出され、あるいはそれらと接触させることができる。例えば、本発明の突然変異タンパク質は、確立した分析法(例えばELISAもしくはウェスタンブロット)または顕微鏡検査もしくは免疫検出法による化学構造の検出のために使用され得る。ここで、検出シグナルは、適切な突然変異タンパク質コンジュゲートもしくは融合タンパク質の使用によって直接的に、または、抗体を介して結合した突然変異タンパク質の免疫化学的検出によって間接的に発生し得る。
【0093】
本発明の突然変異タンパク質に関する多数の可能性のある用途はまた、医学においても存在する。診断および薬物送達におけるそれらの使用に加えて、例えば、組織または腫瘍特異的な細胞表面分子と結合する本発明の突然変異ポリペプチドが作製され得る。このような突然変異タンパク質は、例えば、「腫瘍イメージング」のために、または直接的に癌治療のために、コンジュゲートされた形態で、または融合タンパク質として使用されうる。
【0094】
本明細書に記載される突然変異タンパク質の別の関連した好ましい用途は、標的の検証、すなわち、疾患もしくは障害の発生または進行に関与すると考えられるポリペプチドが、実際にその疾患もしくは障害の何らかの原因になるかどうかの解析である。薬理学的な薬物標的としてタンパク質を評価するためのこの用途は、その天然の立体構造でのタンパク質の表面領域を特異的に認識する、すなわち、天然のエピトープに結合する本発明の突然変異タンパク質の能力を有効に活用する。この点において、この能力はわずかに限られた数の組換え抗体についてしか報告されていないことに注意すべきである。しかし、薬物標的の検証のための本発明の突然変異タンパク質の使用は、標的としてのタンパク質の検出に限定されず、タンパク質ドメイン、ペプチド、核酸分子、有機分子または金属錯体の検出をも含む。
【0095】
本発明は以下の図および実施例によって更に説明される。
【0096】
図1は、成熟ヒト涙リポカリンのポリペプチド配列を示す(SWISS-PROT Data Bank 受入番号 M90424、158アミノ酸、またRedl B. (2000) Biochim. Biophys. Acta,上述を参照)。この点において、以下のように改変されたヒトタンパク質が、以下の実施例においてリポカリン突然変異タンパク質の作製のために使用されたことに注意すべきである。第一に、ヒト涙リポカリンの寄託配列の最初の4つのN末端アミノ酸残基(HHLL)は削除された。第二に、最後の2つのC末端アミノ酸残基(SD)もまた削除された。第三に、配列位置5〜7の野生型配列(ASD)はGGDに変更された。これらの変化は添付の配列表に反映されており、アミノ酸GGDは使用された涙リポカリンの最初の3残基として示される。アミノ酸が置換されるβバレルの開放末端の4つのセグメント(AB、CD、EFおよびGH)は、TLPCの配列の下に二重下線によって示される。βバレルの閉鎖末端に結合部位を形成するために突然変異が導入されるセグメントBC、DEおよびFGならびにN末端ペプチド伸長部は、太字で記され一重下線で示される。実施例において突然変異されるTLPCの配列位置は、更に星印で表示される。
【0097】
図2は、(Flower,D.R. (1996),上述による)リポカリンの折りたたみの特性を模式的に図解する。βバレルを形成する逆平行βシートの8本のβ鎖は矢印で示され、A〜Hと表示される(いくつかのリポカリンにおいて更に存在する、Iと表される9番目のβ鎖もまた図示される)。2本の鎖の水素結合による連結は、それらの間の一対の点線によって示される。連結ループは実線の曲線として示される。βバレルの2つの末端は位相的に区別できる。一方の末端は4つのβヘアピン(ループAB、CD、EFおよびGH)を持ち、リポカリンの既知のリガンド結合部位の開口部はここにあり、開放末端と呼ばれる。βバレルの他方の末端は3つのループ(BC、DEおよびFG)を持ち、それはN末端ポリペプチド領域とともに閉鎖末端を形成し、本発明において第二の結合部位を導入するために使用される。3つの主な折りたたみの構造保存領域(SCR)、SCR1、SCR2およびSCR3を形成する部分は、箱形の囲みで示される。
【0098】
図3は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のくり返しによる、改変TLPCの17の選択されたアミノ酸位置での協調的な突然変異誘発のための戦略を模式的に示す。アミノ酸が突然変異されるべき、N末端付近の配列、ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFGのそれぞれに対して、配列表に示されるようなランダムヌクレオチドを有するオリゴデオキシヌクレオチドが合成された(配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6)。選択された構成のために、全部で3つの可能性のある終止コドンから、アンバー終止コドン、TAGのみが、突然変異されるコドンに許容され、それはE.coli supE株XL1-blue(Bullockら(1987)BioTechniques 5, 376-378)またはTG1(Sambrookら,上述)においてグルタミンとして翻訳される。特定の用途のために、例えば他の細菌株または生物での遺伝子発現のために、このようなナンセンスコドンは、例えば部位指定突然変異誘発によって、グルタミンをコードするコドンに置換され得る。159塩基対を有する核酸断片が、それぞれ配列番号3および配列番号4のプライマーを用いて、鋳型としてpTLPC6プラスミドDNA(配列番号2)を用いて増幅された(PCR番号1、A)。別のPCRでは、123塩基対を有する核酸断片が、それぞれ配列番号5および配列番号6のプライマーを用いて、鋳型としてpTLPC6を用いて増幅された(PCR番号1、B)。両方のPCR産物の混合物は、2つの5'ビオチン化隣接PCRプライマー、すなわち、配列番号7および配列番号8、ならびに配列番号9の仲介プライマーを用いた別の増幅(PCR番号2)における鋳型としての役割を果たし、341塩基対のDNA断片の増幅を引き起こす。17すべての突然変異コドンの混合物を含むこの断片を、次に、2つのBstXI制限酵素認識部位を用いてベクターpTPLC7にクローニングしたが、その特別な配列は特に効率的なライゲーションを可能にする2つの適合しない突出DNA末端を生じた。ライゲーション効率は、常磁性ストレプトアビジン被覆ビーズによる消化されたPCR断片の精製によって改善されうる。アミノ酸置換Glu104Gln、ならびに、ompAシグナル配列のAla-3に対するコドン、Ala21およびHis106に対するコドンにおけるサイレント突然変異は、事前に、pTLPC6の構築の際にBstXI制限酵素認識部位の両方をTLPCコード配列内に導入するために行われた。
【0099】
図4は、OmpAシグナル配列(OmpA)、アミノ酸置換、Ala5Asp、Ser6Gly、Asp7Gly、Cys101Ser、およびGlu104Glnを伴う改変TLPC(TLPC cDNA、Redlら、上述を参照)、およびアミノ酸217〜406を含む末端切断型のM13コートタンパク質pIII(pIII)からなる融合タンパク質をコードするベクターpTLPC7の模式図を示す。遺伝子発現は、テトラサイクリンプロモーター/オペレーター(tetp/o)システムの制御下にある。転写はリポタンパク質転写ターミネーター(tlpp)で終止する。ベクターは更に、複製起点(ori)、線状ファージf1の遺伝子間領域(f1-IG)、β-ラクタマーゼをコードするアンピシリン耐性遺伝子(bla)、およびテトラサイクリンリプレッサー遺伝子(tetR)を含む。SupEアンバーサプレッサー宿主株において部分的にGlnに翻訳されるアンバー終止コドンは、TLPCコード領域と末端切断型ファージコートタンパク質pIIIのコード領域との間に位置する。突然変異された遺伝子カセットのクローニングのために使用されるBstXI制限酵素認識部位および構造遺伝子に隣接している制限酵素認識部位の両方は標識される。pTLPC7のXbaI-HindIII部分の核酸配列は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号1として配列表に示される。この領域の外側のベクター配列は、pASK75の配列と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0100】
図5は、ベクターpTLPC6の模式図を示す。pTLPC6は、OmpAシグナル配列、図1に従った改変TLPC、およびStrep-tag(登録商標)II親和性タグからなる融合タンパク質をコードする。その他の点では、このベクターはpTLPC7と同一である。pTLPC6のXbaI-HindIII部分の核酸配列は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号2として配列表に示される。この領域の外側のベクター配列は、pASK75の配列と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0101】
図6は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のくり返しによる、改変TLPCでの17または19の選択されたアミノ酸位置での協調的な突然変異誘発のための戦略を模式的に示す。ループABのランダム化のために、ランダム化されるループABならびにそれぞれ2および4アミノ酸による伸長をコードしている異なる長さの、3つのフォワードオリゴデオキシヌクレオチド(配列番号26、配列番号27、および配列番号28)が合成され、ループCDのために1つのリバースオリゴデオキシヌクレオチド(配列番号29)が合成された。更に、それぞれペプチドループEFおよびGHのために、2つのオリゴデオキシヌクレオチドの対が合成された(配列番号30および配列番号31)。これらのオリゴヌクレオチドは、その中でアミノ酸が突然変異されるように、配列表に示されたようなランダムヌクレオチドを含んでいる。142、148、および154塩基対を有する3つの核酸断片が、それぞれのプライマー配列番号26、配列番号27、配列番号28および配列番号29を用いて、鋳型としてpTLPC12プラスミドDNA(図7、配列番号23)を用いて増幅された(PCR番号1、A)。別のPCRでは、119塩基対を有する核酸断片が、それぞれ配列番号30および配列番号31のプライマーを用いて、また鋳型としてpTLPC12を用いて増幅された(PCR番号1、B)。PCR番号1B から生じるPCR断片Bの、PCR番号1Aから生じる(ループABの長さの異なる)3つのPCR断片Aのそれぞれとの混合物は、配列番号32の仲介プライマーとともに、配列番号33および配列番号34として示される2つの5'ビオチン化隣接PCRプライマーを用いた別の増幅(PCR番号2)において、鋳型として機能した。このPCRは、(ループABおよび4アミノ酸によって伸長されたループABについて)17個または(2アミノ酸によって伸長されたループABについて)19個のいずれかの突然変異コドンを有する涙リポカリンのほぼ完全な構造遺伝子を含む、336、342、および348塩基対のサイズからなるDNA断片の増幅を引き起こした。その断片を次に、2つのBstXI制限酵素認識部位を用いてベクターpTPLC12にクローニングしたが、その特別な配列は特に効率的なライゲーションを可能にする2つの適合しない突出DNA末端を生じた。ライゲーション効率は、常磁性ストレプトアビジン被覆ビーズによる消化されたPCR断片の精製によって改善されうる。アミノ酸置換Ser14ProおよびLys114Gln、ならびに、Met21、Val110に対するコドン、およびVal116に対するコドンにおけるサイレント突然変異は、事前に、pTLPC12の構築の際に両方のBstXI制限酵素認識部位をTLPCコード配列内に導入するために行われた。
【0102】
図7は、OmpAシグナル配列(OmpA)、T7検出タグ(T7)、アミノ酸置換、Ser14Pro、Lys114Gln、Cys101Ser、およびGlu104Glnを伴う改変TLPC(TLPC cDNA、Redlら、上述を参照)、およびアミノ酸217〜406を含む末端切断型のM13コートタンパク質pIII(pIII)からなる融合タンパク質をコードするベクターpTLPC12の模式図を示す。遺伝子発現は、テトラサイクリンプロモーター/オペレーター(tetp/o)システムの制御下にある。転写はリポタンパク質転写ターミネーター(tlpp)で終止する。ベクターは更に、複製起点(ori)、線状ファージf1の遺伝子間領域(f1-IG)、β-ラクタマーゼをコードするアンピシリン耐性遺伝子(bla)、およびテトラサイクリンリプレッサー遺伝子(tetR)を含む。SupEアンバーサプレッサー宿主株において部分的にGlnに翻訳されるアンバー終止コドンは、TLPCコード領域と末端切断型ファージコートタンパク質pIIIのコード領域との間に位置する。突然変異された遺伝子カセットのクローニングのために使用されるBstXI制限酵素認識部位および構造遺伝子に隣接している制限酵素認識部位の両方は標識される。pTLPC12のXbaI-HindIII部分の核酸配列は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号23として配列表に示される。この領域の外側のベクター配列は、pASK75の配列と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0103】
図8は、発現ベクターpTLPC8の模式図を示す。pTLPC8は、OmpAシグナル配列、(図4)に従った改変涙リポカリンと、それに続くT7検出タグ(T7)およびC末端Strep-tag(登録商標)IIとの融合タンパク質をコードする。pTLPC8の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号24として配列表に示される。その部分は、XbaI制限酵素認識部位で始まり、HindIII制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpASK75と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0104】
図9は、実施例6からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質と規定された標的rhuVEGF165ならびに関係のない標的BSAとの結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S69.4 O13(黒丸)のELISAプレート上に固定化されたrhuVEGF165との結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)BSA(白丸)との突然変異タンパク質の相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にrhuVEGF165と結合したが、関係のない標的(白丸)との有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0105】
図10は、実施例10からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10単量体の、規定された標的hCD22ならびに関係のない標的hIgG1、HSAおよびhCD33-Fcとの結合測定が行われた。固定化されたTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10単量体のhCD22(黒四角)との結合は、突然変異タンパク質のhIgG1(白三角)、HSA(白丸)およびhCD33-Fc(白菱形)との相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD22と結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0106】
図11は、実施例10からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10二量体の、規定された標的hCD22ならびに関係のない標的hIgG1、HSAおよびhCD33-Fcとの結合測定が行われた。固定化されたTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10二量体のhCD22(黒丸)との結合は、突然変異タンパク質のhIgG1(白三角)、HSA(白四角)およびhCD33-Fc(白菱形)との相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD22と結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0107】
図12は、実施例14からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S67.7 C6と規定された標的CD25ならびに関係のない標的である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6(黒丸)の(捕捉 mAbを介してELISAプレート上に固定化された)CD25-Fcとの結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)捕捉 mAb(白丸)との突然変異タンパク質の相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6は濃度依存的にCD25と結合するが、関係のない標的である捕捉 mAb(白丸)に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。対照の結合曲線はこの関係のない標的のみに対して示されるが、検査した他の対照標的に対して同様の結果が得られた。
【0108】
図13は、哺乳動物トランスフェクションベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)の模式図を示す。このベクターは、NCBI受入番号NM_000417 [gi:4557666]によるヒトCD25の完全長cDNA配列をコードする。ヒトCD25の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号10として配列表に示される。その部分は、HindIII制限酵素認識部位で始まり、XhoI制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(Invitrogen)のものと同一である。
【0109】
図14は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞のフルオレセイン標識TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6による染色を示す。発現ベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)(CHO-CD25;上パネル)または親ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(CHO;下パネル)でトランスフェクトされたCHO細胞は、等モル比のフルオレセインで標識したCD25特異的突然変異タンパク質S67.7 C6(左パネル; 実線によるヒストグラム)またはFITC標識CD25特異的mAb(右パネル; 実線によるヒストグラム)とともにインキュベーションされた。並行して、これらの細胞株は、両方とも対照として、等モル比のフルオレセインで標識したpTLPC8によってコードされる組換え野生型TLPC(左パネル; 破線によるヒストグラム)またはFITC標識IgG1(右パネル; 破線によるヒストグラム)とともにインキュベーションされた。CD25特異的突然変異タンパク質S67.7 C6およびCD25特異的mAbの両方は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の有意な染色を示すが、モックトランスフェクションしたCHO細胞株の有意な染色は生じない。対照の野生型TLPCおよびIgG1は、検査された両細胞株への有意な結合を示さない。
【0110】
図15は、pTLPC9の模式図を示す。このベクターは、OmpAシグナル配列、図1に従った改変涙リポカリン、Strep-tag(登録商標)II、およびStreptococcus由来のプロテインGのアルブミン結合ドメイン(abd)(Kraulisら(1996) REBS Lett. 378, 190-194)の融合タンパク質をコードする。非サプレッサーE. coli株を用いた時に、ABDを持たないTLPC突然変異タンパク質の可溶性発現を可能にするために、アンバー終止コドンをStrep-tag(登録商標)IIとC末端のアルブミン結合ドメインとの間に導入した。pTLPC9の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号22として配列表に示される。その部分は、XbaI制限酵素認識部位で始まり、HindIII制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpASK75のものと同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0111】
図16は、実施例21からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体画分と規定された標的CD25ならびに関係のない標的である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体画分(黒丸)の(捕捉 mAbを介してELISAプレート上に固定化された)CD25-Fcへの結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)捕捉 mAb(白丸)との突然変異タンパク質の相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体画分は濃度依存的にCD25と結合するが、関係のない標的である捕捉 mAb(白丸)に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。対照の結合曲線はこの関係のない標的のみに対して示されるが、検査した他の対照標的に対して同様の結果が得られた。
【0112】
図17は、実施例21からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の二量体画分と規定された標的CD25ならびに関係のない標的である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の二量体画分(黒丸)の(捕捉 mAbを介してELISAプレート上に固定化された)CD25-Fcへの結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)捕捉 mAb(白丸)との突然変異タンパク質の相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の二量体画分は濃度依存的にCD25と結合するが、関係のない標的である捕捉 mAb(白丸)に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。対照の結合曲線はこの関係のない標的のみに対して示されるが、検査した他の対照標的に対して同様の結果が得られた。
【0113】
図18は、哺乳動物トランスフェクションベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)の模式図を示す。このベクターは、NCBI受入番号BC_074950 [gi:49902361]によるヒトCD154の完全長cDNA配列をコードする。ヒトCD154の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号11として配列表に示される。その部分は、XhoI制限酵素認識部位で始まり、ApaI制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(Invitrogen)のものと同一である。
【0114】
図19は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞のフルオレセイン標識TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15による染色を示す。発現ベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)(CHO-CD25;上パネル)または発現ベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)(CHO-CD154;下パネル)でトランスフェクトされたCHO細胞は、2倍のモル比のフルオレセインで標識した親和性改善CD25特異的突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15(左パネル; 実線によるヒストグラム)またはFITC標識CD25特異的mAb(右パネル; 実線によるヒストグラム)とともにインキュベーションされた。並行して、これらの細胞株は、両方とも対照として、2倍のモル比のフルオレセインで標識したpTLPC8によってコードされる組換え野生型TLPC(左パネル; 破線によるヒストグラム)またはFITC標識IgG1(右パネル; 破線によるヒストグラム)とともにインキュベーションされた。親和性改善CD25特異的突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15およびCD25特異的mAbの両方は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の有意な染色を示すが、ヒトCD154を発現しているCHO細胞株の有意な染色は生じない。対照の野生型TLPCおよびIgG1は、検査された両細胞株への有意な結合を示さない。
【0115】
図20は、実施例26からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によって、それぞれ、TLPC突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15と、規定された標的CD25ならびに関係のない標的である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片との結合測定が行われた。それぞれTLPC突然変異タンパク質S99.3 H24(黒丸)、S99.3 C13(黒四角)およびS99.4 F15(黒三角)の(捕捉 mAbを介してELISAプレート上に固定化された)CD25-Fcへの結合は、対照として(同様にELISAプレート上に固定化された)捕捉 mAbとそれぞれの突然変異タンパク質との相互作用(それぞれ、白丸、白四角および白三角)と比較された。TLPC突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15は濃度依存的にCD25と結合するが、関係のない標的である捕捉 mAb(白シンボル)に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。対照の結合曲線はこの関係のない標的のみに対して示されるが、検査した他の対照標的に対して同様の結果が得られた。
【0116】
図21は、発現ベクターpTLPC14の模式図を示す。pTLPC14は、OmpAシグナル配列、T7検出タグ(T7)の、(図7)に従った改変涙リポカリンと、それに続くC末端Strep-tag(登録商標)IIとの融合タンパク質をコードする。pTLPC14の核酸配列の関連部分は、コードされるアミノ酸配列とともに配列番号25として配列表に示される。その部分は、XbaI制限酵素認識部位で始まり、HindIII制限酵素認識部位で終わる。この領域の外側のベクターエレメントは、ベクターpASK75と同一であり、その完全なヌクレオチド配列はドイツ特許公報第DE 44 17 598 A1号において示される。
【0117】
図22は、実施例30からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によって突然変異タンパク質S100.1 I08のTLPC単量体ならびに二量体画分の、規定された標的hCD33-Fcならびに関係のない標的hCD22との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S100.1 I08のhCD33-Fcとの結合(黒丸; 黒三角)は、hCD22との相互作用(白丸; 白三角)と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD33-Fcと結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0118】
図23は、実施例30からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S101.2 A20の、規定された標的hCD33-Fcならびに関係のない標的hCD22およびhIgG1との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S101.2 A20のhCD33-Fcとの結合(黒丸)は、突然変異タンパク質のhIgG1(白丸)およびhCD22(白三角)との相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD33-Fcと結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0119】
図24は、実施例30からのデータのグラフ表示を示し、ここでは、ELISA によってTLPC突然変異タンパク質S101.2 O08の単量体ならびに二量体画分の、規定された標的hCD33-Fcならびに関係のない標的hCD22およびhIgG1との結合測定が行われた。TLPC突然変異タンパク質S101.2 O08のhCD33-Fcへの結合(黒丸; 黒四角)は、突然変異タンパク質のhIgG1(白三角; 白菱形)およびhCD22(白丸; 白四角)との相互作用と比較された。TLPC突然変異タンパク質は濃度依存的にhCD33-Fcと結合するが、関係のない標的に対する有意な結合シグナルは検出できなかった。
【0120】
図25は、RU(=応答単位)で測定される結合シグナルを時間に対してプロットする、実施例31からの結合測定のセンサグラムを示す。注入の間に、TLPC突然変異タンパク質S100.1 I08は規定された標的hCD33-Fcと結合する。注入後、その表面は泳動バッファーによって洗浄され、突然変異タンパク質はその標的から解離する。結合速度定数および解離速度定数(konおよびkoff)はBIAevaluation software 3.1を用いて測定された。
【0121】
図26は、RU(=応答単位)で測定される結合シグナルを時間に対してプロットする、実施例31からの結合測定のセンサグラムを示す。注入の間に、TLPC突然変異タンパク質S101.2 A20は規定された標的hCD33-Fcと結合する。注入後、その表面は泳動バッファーによって洗浄され、突然変異タンパク質はその標的から解離する。結合速度定数および解離速度定数(konおよびkoff)はBIAevaluation software 3.1を用いて測定された。
【0122】
図27は、RU(=応答単位)で測定される結合シグナルを時間に対してプロットする、実施例31からの結合測定のセンサグラムを示す。注入の間に、TLPC突然変異タンパク質S101.2 O08は規定された標的hCD33-Fcと結合する。注入後、その表面は泳動バッファーによって洗浄され、突然変異タンパク質はその標的から解離する。結合速度定数および解離速度定数(konおよびkoff)はBIAevaluation software 3.1を用いて測定された。
【実施例】
【0123】
実施例1
100億の独立したTLPC突然変異タンパク質を含むライブラリーの作製
他に示されない限り、例えばSambrookら(上述)に記載されるような、確立された組換え遺伝子法を使用した。
【0124】
高い複雑性を有するTLPCのランダムライブラリーは、図3に従って多段階のPCRを用いた、N末端付近およびペプチドループBC、DE、およびFG内の全部で17の選択されたアミノ酸位置の協調的な突然変異誘発によって作製された。PCR反応は、第一増幅段階の両方(PCR番号1、AおよびB)において100μlの容量で行われ、ここでは鋳型として10 ngのpTLPC6プラスミドDNA(図5、配列番号2)を、従来のホスホロアミダイト法に従って合成された50 pmolの各プライマー対(それぞれ、配列番号3および配列番号4または配列番号5および配列番号6)とともに使用した。加えて、反応混合物は、10μlの10 X Taqバッファー(100 mM Tris/HCl pH 9.0、500 mM KCl、15 mM MgCl2、1% v/v Triton X-100)および2μlのdNTP-Mix(10 mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を含有した。水で容量を合わせた後、5 U Taq DNAポリメラーゼ(5U/μl, Promega)を添加し、加熱される蓋を備えるサーモサイクラー(Eppendorf)において94℃で1分間、62℃で1分間、および72℃で1.5分間の20サイクルを行い、続いて最後の伸長のために60℃で5分間インキュベーションした。所望の増幅産物を、GTQアガロース(Roth)を用いた分取用アガロースゲル電気泳動によって、Jetsorb DNA extraction kit(Genomed)を用いて単離した。
【0125】
次の増幅段階のために、2000μlの混合物を調製し、ここでは、1000 pmolの各アセンブリープライマー配列番号7、配列番号8および20 pmolの仲介プライマー配列番号9の存在下で、約1000 fmolのこれらそれぞれの断片の両方を鋳型として用いた。両アセンブリープライマーは、それらの5'末端に、BstXI切断後のストレプトアビジン被覆常磁性ビーズによるPCR産物の精製を可能にするビオチン基を持っていた。更に、200μlの10 x Taqバッファー、40μlのdNTP-Mix(10 mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、100 u Taq DNAポリメラーゼ(5U/μl, Promega)および水を加え、混合物を2000μlの最終容量にした。混合物を100μlずつに等分し、94℃で1分間、60℃で1分間、72℃で1.5分間の20サイクルでのPCRを行い、続いて60℃で5分間インキュベーションした。E.Z.N.A. Cycle-Pure Kit(PeqLab)を用いてPCR産物を精製した。
【0126】
クローニングの目的のために、TPLC突然変異タンパク質の核酸の形でのライブラリーに相当するこの断片を、まず、製造業者の説明書に従って制限酵素BstXI(Promega)で切断し、その後、上述のような分取用アガロースゲル電気泳動によって精製し、303ヌクレオチドのサイズの二本鎖DNA断片を得た。消化されなかったか、または不完全に消化されたDNA断片は、ストレプトアビジン被覆常磁性ビーズ(Merck)を用いて、それらの5'ビオチンタグによって除去された。
【0127】
したがって、200μlの10 mg/mlの濃度での市販の常磁性粒子の懸濁液を、100μlのTEバッファーで3回洗浄した。次に、その粒子から液を除き、100μlのTEバッファー中の100 pmolのDNA断片とともに室温で15分間混和した。その常磁性粒子を磁石を用いてエッペンドルフ容器の内壁に回収し、精製されたDNA断片を含む上清を以下のライゲーション反応での更なる使用のために回収した。
【0128】
ベクターpTLPC7(図4)のDNAを上述のようにBstXIで切断し、その結果生じた2つの断片のうちより大きいもの(3907 bp)を分取用アガロースゲル電気泳動によって精製した。ライゲーション反応のために、5.99μg(30 pmol)のPCR断片および77.3μg(30 pmol)のベクター断片を、全容量8330μl(50 mM Tris/HCl pH 7.8、10 mM MgCl2、10 mM DTT、1 mM ATP、50μg/ml BSA)中の833 Weiss UnitのT4 DNAリガーゼ(Promega)の存在下で、24時間16℃でインキュベーションした。その後、ライゲーション混合物中のDNAを、208μlの酵母tRNA(10 mg/ml水溶液(Roche))、8330μlの5 M酢酸アンモニウム、および33.3 mlのエタノールを加えることによって沈殿させた。室温で1時間のインキュベーションに続いて、遠心分離(30分間、16000 g、4℃)を行った。沈殿物を5 mlのエタノール(70% v/v、室温)で洗浄し、遠心分離し(10分間、16000 g、4℃)、DNAペレットが光沢のある無色に見えるまで風乾した。最後に、DNAを全容量416.5μlの水に溶解し、200μg/mlの最終濃度にした。
【0129】
エレクトロコンピテントE. coli XL1-Blueの調製(Bullockら、上述)は、TungおよびChow(Trends Genet. 11 (1995), 128-129)ならびにHengen(Trends Biochem. Sci. 21 (1996), 75-76)によって記載された方法に従って行われた。静止期のXL1-Blue一晩培養物を添加することにより、1 l のLB培地を600 nmでOD600 = 0.08の光学密度に調整し、2 lの三角フラスコ中で140 rpm、26℃でインキュベーションした。OD600 = 0.6に達した後、培養物を氷上で30分間冷却し、続いて15分間4000 g、4℃で遠心分離した。細胞を500 mlの氷冷した10% w/vグリセロールで2回洗浄し、最後に2 mlの氷冷したGYT培地(10% w/vグリセロール、0.125% w/v酵母抽出物、0.25% w/vトリプトン)に再懸濁した。その後、細胞を等分し(200μl)、液体窒素で急速冷凍し、-80℃で保存した。
【0130】
Micro Pulser system(BioRad)を、同製造業者からのエレクトロポレーションのためのキュベット(電極間隔2 mm)と併せて使用した。事前に-20℃の温度に冷却したキュベットを用いて、すべてのステップを室温で行った。各10μlのDNA溶液(2μg)を100μlの細胞懸濁液と混合し、氷上で1分間インキュベーションし、事前に冷却したキュベットに移した。エレクトロポレーションを行い(5 ms、12.5 kV/cm)、懸濁液を直ちに2 mlのSOC培地で希釈し、続いて60分間、37℃、140 rpmでインキュベーションした。その後、その培養物を100μg/mlアンピシリンを含む4 lの2 x YT培地(2 YT/Amp)に希釈し、0.26のOD550にした。全量78.61μgのライゲーションされたDNAを用いることにより、42回のエレクトロポレーションの実行で、約1.0 x 1010の形質転換体が得られた。形質転換体は更に、PCT出願WO03/029471の実施例7またはPCT出願WO 99/16873の実施例1に記載されるように、融合タンパク質としてTLPC突然変異タンパク質のライブラリーをコードするファージミドの調製のために使用された。
【0131】
実施例2
100億の独立したTLPC突然変異タンパク質を含むライブラリーの作製
高い複雑性を有する第二のTLPCのランダムライブラリーは、図6に従い多段階のPCRを用いて、リポカリンの開放末端において天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EFならびにGH内の選択されたアミノ酸位置の協調的な突然変異誘発によって作製された。実施例1に記載されているのと同様のPCR戦略を用いるが、PCR A由来の断片の調製のために、2または4アミノ酸の挿入のための6または12の更なるランダムヌクレオチドを含む2つの異なるオリゴデオキシヌクレオチド(配列番号27および配列番号28)を用いて、ループABには、2または4アミノ酸のいずれかの挿入による長さの変異が導入された。4アミノ酸の挿入を有するループABを安定化するために、N末端およびC末端のアンカー位置を、配列番号28のオリゴヌクレオチドによってコードされるアミノ酸置換V24W、D25SおよびM31N、N32Sによって固定した。第一増幅段階(PCR番号1)において、伸長されないループABの増幅のために配列番号26および配列番号29、2アミノ酸による伸長のために配列番号27および配列番号29、4アミノ酸による伸長のために配列番号28および配列番号29のプライマーとともに、pTLPC12プラスミドDNA(図7、配列番号23)を鋳型として使用する以外、実施例1に記載されたものと同一の方法で、PCR反応を行った。このPCRは、(伸長されないループABおよび4アミノ酸によって伸長されたループABについて)17個または(2アミノ酸によって伸長されたループABについて)19個のいずれかの突然変異コドンを有する涙リポカリンのほぼ完全な構造遺伝子を含む、336、342、および348塩基対のサイズからなるDNA断片の増幅を引き起こした。PCR番号1、Bでは、PCR断片Bを増幅するために、配列番号30および配列番号31のオリゴヌクレオチドを用いた。所望の増幅産物を、GTQアガロース(Roth)を用いた分取用アガロースゲル電気泳動によって、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて単離した。
【0132】
次の増幅段階(PCR番号2)におけるPCR断片AおよびBのアセンブリーために、PCR断片Aのそれぞれを、別々の1000μlの混合物中でPCR断片Bと混合し、ここでは、500 pmolの各アセンブリープライマー配列番号33、配列番号34および10 pmolの仲介プライマー配列番号32の存在下で、約500 fmolの両方のこれらそれぞれの断片を鋳型として用いた。PCR産物をWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製した。
【0133】
クローニングの目的のために、TPLC突然変異タンパク質の核酸の形でのライブラリーに相当するこの断片を、まず、製造業者の説明書に従って制限酵素BstXI(Promega)で切断し、その後、上述のように精製し、299、305および311ヌクレオチドのサイズの二本鎖DNA断片を得た。消化されなかったか、または不完全に消化されたDNA断片は、実施例1に記載されたように、ストレプトアビジン被覆常磁性ビーズ(Merck)を用いて、それらの5'ビオチンタグによって除去された。
【0134】
上記からのTLPC突然変異タンパク質のその後のライゲーションのために、実施例1に記載されたように、ベクターpTLPC12(図7)のDNAから3944断片を調製し、精製した。ライゲーション反応のために、1.97μg(10 pmol)の各PCR断片および84μg(30 pmol)のベクター断片を、全容量8400μl(50 mM Tris/HCl pH 7.8、10 mM MgCl2、10 mM DTT、1 mM ATP、50μg/ml BSA)中の840 Weiss UnitのT4 DNAリガーゼ(Promega)の存在下で、38時間16℃でインキュベーションした。その後、ライゲーション混合物中のDNAを、210μlの酵母tRNA(10 mg/ml水溶液(Roche))、8400μlの5 M酢酸アンモニウム、および33.6 mlのエタノールを加えることによって沈殿させた。実施例1に従って更なる処理を行い、最後に、DNAを全容量420μlの水に溶解し、200μg/mlの最終濃度にした。
【0135】
エレクトロコンピテントE. coli XL1-Blueの調製および形質転換(Bullockら、上述)は、実施例1に従って行われた。全量85.97μgのライゲーションされたDNAを用いることにより、全42回のエレクトロポレーションの実行で、約0.6 x 1010の形質転換体が得られた。形質転換体は更に、PCT出願WO03/029471の実施例7またはPCT出願WO 99/16873の実施例1での記載に従ったファージミドの調製のために使用された。
【0136】
実施例3
ファージミド提示および高結合能ポリスチロールマルチウェルプレートを用いたVEGFに対するTLPC突然変異タンパク質の選択
TLPC突然変異タンパク質の選択のために、実施例1で得られたライブラリーの2 x 1012〜1 x 1013のファージミドを用いた。簡潔には、ファージミドを遠心分離(21460 x g、4℃、20分間)し、50 mMベンズアミジンを含む1 mlのPBS(4 mM KH2PO4、16 mM Na2HPO4、115 mM NaCl, pH 7.4)に再懸濁した。6% w/vウシ血清アルブミン(BSA; Roth)および0.3%Tween 20を含むPBSをブロッキングバッファーとして用いた。標的タンパク質とのインキュベーションの前に、多重反応性または異常な折りたたみのリポカリン突然変異タンパク質を提示するファージミドの除去のために、ライブラリー由来のファージミドをウシ血清アルブミンでブロッキングしたポリスチロールウェル中で15分間、2回インキュベーションした。昆虫細胞において産生された組換えヒト血管内皮増殖因子(165アミノ酸、rhuVEGF165)(R&D Sytems)を2.5μg/mlの濃度で、ポリスチロールプレート上に被覆した。被覆されブロッキングされたウェル中で、ブロッキングされたファージミドをインキュベーションした後、吸着したファージミドを化学的に溶出した。吸着したファージミドを各ウェル当たり300μlの0.1 M グリシン/HCl pH 2.2で10分間処理し、続いて、それを適当量の0.5 M Trisと混合することにより、各溶出画分のpHの速やかな中和を行った。第二濃縮サイクルからは、混合したファージミド溶液の半分だけをファージミド増幅に用いた。選択の各サイクルの後、投入したファージミド、8回目の洗浄画分および溶出されたファージミドの力価をスポット滴定によって測定した。簡潔には、ファージミドの段階希釈物をE. coli XL1-Blue細胞と混合し、37℃で30分間インキュベーションした。感染細胞の一部をLB/Amp寒天プレート上に「スポット」し、37℃で一晩インキュベーションした。翌日、スポット当たりのコロニーを数え、ファージミド溶液の力価(cfu/ml)を測定した。ファージミド増幅は22℃で行われた。
【0137】
第二濃縮サイクルからは約1 x 1011のファージミドだけを用いたことを除いて、このような方法で、それぞれの前回の濃縮サイクルから増幅されたファージミドの調製物を用いて、更に4回のrhuVEGF165に対する選択が行われた。
【0138】
実施例4
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用によるVEGF結合TLPC突然変異タンパク質の同定
C末端T7検出タグ(Novagen)に続くStrep-tag(登録商標)II親和性タグを備えたTLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、ベクターpTLPC8(図8、配列番号24)を構築した。2つのBstXI切断部位の間にTLPC骨格を含む遺伝子カセットはベクターpTLPC7(図4、配列番号1)からpTLPC8にサブクローニングされた。
【0139】
この目的のために、最後の選択サイクルの結果として溶出された実施例3からのファージミドでの感染によって得られたE. coliクローンの混合物から、Plasmid Miniprep Spin kit(Genomed)を用いて、プラスミドDNAを単離した。そのDNAを制限酵素BstXIで切断し、2つの断片のうちより小さいものを分取用アガロースゲル電気泳動によって精製した。ベクターpTLPC8のDNAを同様にBstXIで切断し、2つの断片のうちより大きいもの(3397 bp)を同様に単離した。
【0140】
ライゲーションのために、それぞれ50 fmolの2つのDNA断片を、全容量20μl(30 mM Tris/HCl pH 7.8、10 mM MgCl2、10 mM DTT、1 mM ATP)中の3 Weiss UnitのT4 DNAリガーゼ(Promega)と混合し、続いて22℃で2時間インキュベーションした。E. coli TG1-F-(そのエピソームを欠失しているE. coli K12 TG1)を、CaCl2法(Sambrookら、上述)によって5μlのこのライゲーション混合物で形質転換し、LB/Amp寒天プレート(直径: 14 cm)に播種した。
【0141】
形質転換後に得られた、TLPC突然変異タンパク質をコードするそれぞれのTLPCプラスミドを持っている単一のE. coliコロニーを、これらの寒天プレートから、自動コロニーピッカー(Genetix)を用いて、平底384ウェルプレート(Greiner)中のウェル当たり70μlの2 x YT/Ampに採取し、37℃で一晩、60%の相対湿度(rH)の加湿インキュベーター(MMM Medcenter)内の卓上振盪機(Buhler)において700rpmで培養した。96ピン複製ヘッド(Genetix)を用いて、培養物を、丸底96ウェルプレート(Nunc)中の100μlの2 x YT/Ampに1: 100希釈し、OD550が約0.6に達するまで、約1時間37℃、60%rHで培養し、続いて3時間22℃、60%rHでインキュベーションした(ともに700rpm)。25μlの60% v/vグリセロールを各ウェルに加えた後、384ウェルプレートを「マスター」プレートとして-80℃で保存した。
【0142】
ウェル当たり20μlの2 x YT 中1.2μg/mlのアンヒドロテトラサイクリン(2 mg/mlのストック溶液を2 x YTで1: 1667に希釈することによって得られた; 最終濃度0.2μg/ml)を細菌培養物に添加し、22℃で一晩、700 rpm、60% rHでインキュベーションすることにより、組換えTLPC突然変異タンパク質を96ウェルプレート中で産生した。その後、40μlの溶解バッファー(400 mMホウ酸ナトリウム, pH 8.0、320 mM NaCl、4 mM EDTA、0.3% w/vリゾチーム)を各ウェルに添加し、プレートを22℃で1時間、700 rpm、60% rHでインキュベーションした。その後のELISA実験における非特異的な結合相互作用を最小限に抑えるために、得られた粗細胞抽出液に、10% w/v BSAおよび0.05 % v/v Tween 20を含む40μl/ウェルのPBS(最終濃度2% w/v BSA)を追加し、22℃で1時間、700 rpm、60% rHでインキュベーションした。
【0143】
結合の検出のために、TLPC突然変異タンパク質を含む粗細胞抽出液を、ELISA実験において、それぞれ、規定された標的タンパク質rhuVEGF165および関係のない対照タンパク質ヒト血清アルブミン(HSA, Sigma)とのそれらの反応性について検査した。そのために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのPBS中2.5μg/mlの濃度のrhuVEGF165溶液または4℃でPBS中10μg/mlの対照タンパク質溶液で一晩被覆した。プレートをウェル当たり0.05 % v/v Tween 20を含む100μlのPBS(PBST/0.05)で5回、自動ELISAプレート洗浄機(Molecular Devices)を用いて洗浄し、最後の洗浄ステップ後、各ウェルに10μlの残存容量の洗浄バッファーを残した。2% w/v BSA を含む100μlのPBST/0.05とともに2時間室温でインキュベーションすることにより、残りの結合部位をブロッキングした。その後、プレートを再度、上述のように5回洗浄した。
【0144】
TLPC突然変異タンパク質と固定化されたタンパク質との間での複合体形成のために、ウェルを上記の10μlの細胞抽出液とともに室温で1時間インキュベーションした。続いて、プレートを再度5回洗浄し、0.5% w/vの乾燥脱脂粉乳(Vitalia)を含むPBST/0.05に1: 5000希釈した10μlの抗T7モノクローナル抗体HRPコンジュゲート(Amersham)を各ウェルに加え、室温で1時間インキュベーションした。プレートを再度5回洗浄し、結合した抗T7モノクローナル抗体HRPコンジュゲートを用いて結合したTPLC突然変異タンパク質を検出するために、10μlの蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)(Pierce)を加えた。室温で45分後、GENiosPlusプレートリーダー(Tecan)において、蛍光を320 nm(±12.5 nm)の波長で励起し、430 nm(±17.5 nm)で測定した。
【0145】
183 TLPC突然変異タンパク質の選択が、関係のない対照タンパク質(HSA)と比較して規定された標的タンパク質(rhuVEGF165)に対して、有意に高い結合シグナルを示し、続いて第二のハイスループットELISAスクリーニング実験を受けた。そのために、これらのクローンを上述の384ウェルのマスタープレートからLB/Amp寒天に移し、37℃で一晩培養した。丸底96ウェルプレート(Nunc)中の100μlの2 x YT/Amp に、これらの寒天プレートから単一コロニーを植菌し、37℃で一晩、700 rpm、60% rHで培養した。その培養物を丸底96ウェルプレート(Nunc)中の100μlの2 x YT/Amp に1: 100希釈し、組換えTLPC突然変異タンパク質の産生ならびに細菌溶解物の調製を上述のように行った。
【0146】
TLPC突然変異タンパク質の標的特異性の検出のために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのPBS中のrhuVEGF165溶液(昆虫細胞、1μg/ml)、または、対照として、Escherichia coliで産生したrhuVEGF165溶液(ReliaTech GmbH, 1μg/ml)、昆虫細胞で産生した組換えマウスVEGF(rmVEGF164)溶液(ReliaTech GmbH, 1μg/ml)、HSA、3% w/v脱脂粉乳およびStrepTactin溶液(IBA, 10μg/ml)、ならびにRNaseA(Fluka, 10μg/ml)およびジゴキシゲニンのコンジュゲートの溶液によって、一晩4℃で被覆した。
【0147】
このコンジュゲートは、製造業者の説明書に従って、RNaseAを2倍のモル比のジゴキシゲニン-3-O-メチル-カルボニル-ε-アミドカプロン酸-N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル(DIG-NHS; Roche)と反応させることによって調製された。製造業者の説明書に従ってHiTrapカラム(Amersham)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより、泳動バッファーとしてPBSを用いて、過剰な反応物質をRNaseAコンジュゲートから除去した。
【0148】
一晩のインキュベーション後、プレートを上述のように洗浄し、上述の条件で2% w/v BSA を含む100μl/ウェルのPBST/0.05を添加することによってブロッキングし、続いて再度プレートを洗浄した。上述の選択されたTLPC突然変異タンパク質のブロッキングされた細菌溶解物10μlを、rhuVEGF165または対照タンパク質のいずれかで被覆したそれぞれのウェルに移し、室温で1時間インキュベーションした。結合したTLPC突然変異タンパク質を、上述のように抗T7モノクローナル抗体HRPコンジュゲートおよび蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)によって検出した。
【0149】
36 TLPC突然変異タンパク質の選択が、rhuVEGF165(昆虫細胞)に対して確認され、更にrhuVEGF165(E. coli)およびrmVEGF164(昆虫細胞)に対する強いシグナルを示したが、関係のない対照タンパク質(HSAまたは粉乳)に対する結合を示さなかった。
【0150】
対照タンパク質と比べて規定された標的rhuVEGF165に最も高い結合シグナルを持つTLPC突然変異タンパク質を、配列解析のために選択した。そのために、4 ml LB/Ampに384ウェルのマスタープレートのそれぞれのウェルからの40μlのグリセロールストックを植菌し、本実施例の最初に記載されたように、その後のプラスミドDNAの単離のために培養した。TLPC遺伝子カセットのDNA配列は、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを使用することにより、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて解明された。
【0151】
配列決定された6クローンの6つの固有配列は、機能的な挿入を有していた。最高の結合値を有するものは、S69.4 O13と命名された。このクローンのヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され(配列表の配列番号12)、pTLPC8によってコードされる改変TLPCおよび野生型Tlpcから逸脱しているそれらのアミノ酸は、それぞれ、表1に示される。実施例6に記載されるように、rhuVEGF165に対するその結合親和性の測定のために、クローンS69.4 O13を選択した。
【表1】
【0152】
実施例5
TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例4において記載された突然変異タンパク質S69.4 O13の調製的産生については、Schlehuber, S.ら(J. Mol. Biol. (2000), 297, 1105-1120)に記載された方法に従った適切な培養容量のLBアンピシリン培地での振盪フラスコ発現によるペリプラズムでの産生のために、この突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC8(図8、配列番号24)を有するE. coli K12株JM83を使用した。
【0153】
より大量の物質が必要とされる場合には、Schiweck, W.,およびSkerra, A.(Proteins (1995) 23, 561-565)に記載された方法に基づく0.75 lまたは10 lのバイオリアクターでの発酵槽培養によるペリプラズムでの産生のために、この突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC8を有するE. coli K12株W3110を使用した。発酵は25℃で行われた。酸素濃度は30%の飽和度に維持された。0.75 lのバイオリアクターでは、撹拌器速度を1500 rpmまでに制御することによって、酸素飽和度を30%に維持した。10 lのリアクターでは、空気および純酸素の供給を自動的に調節しながら、撹拌器速度を480 rpmに維持した。フェッドバッチ期には、50% w/vグルコースを、OD=22.5で17.5 ml/hから始めて50 ml/hまで段階的に供給した。
【0154】
突然変異タンパク質を、ペリプラズム画分から、製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いたStrep-Tactin Superflow(IBA)による一段階のクロマトグラフ法で精製した。
【0155】
製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いて、Superdex75素材(Amersham Pharmacia Biotech)により、ゲルろ過を行った。その単量体画分を集め、更なる解析段階のために使用した。
【0156】
実施例6
ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質のVEGFに対する親和性の測定
TLPC突然変異タンパク質のVEGFに対する親和性を以下のように測定した。簡潔には、実施例5に記載されたように得られた突然変異タンパク質S69.4 O13の希釈系列を、rhuVEGF165および対照タンパク質BSAに対する結合についてELISAアッセイにおいて検査した。
【0157】
この目的のために、黒色のFluotrac 600 マイクロタイタープレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、1μg/mlのrhuVEGF165(昆虫細胞)および10μg/mlのBSA(Roth)によって4℃で一晩被覆し、PBST/0.1中の2% w/v BSAによってブロッキングした。洗浄ステップ、それに続くPBST 中の3% w/v粉乳によるブロッキングステップ、および再度の洗浄ステップ後、適切な濃度範囲にわたるPBST 中の突然変異タンパク質S69.4 O13の希釈系列を、被覆されブロッキングされたウェル中で、室温で1時間インキュベーションした。続いて、結合した突然変異タンパク質を、上述のように抗T7モノクローナル抗体HRPコンジュゲートおよび蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)によって検出した。室温で適切な時間インキュベーションした後、GENiosPlusプレートリーダーにおいて、蛍光を320 nm(±12.5 nm)の波長で励起し、430 nm(±17.5 nm)で測定した。
【0158】
曲線は、コンピュータープログラムKaleidagraph(Synergy software)を用いた非線形最小二乗回帰によって、等式[P・L]=([P]t[L]t)/(KD+[P]t)に従って近似された。これに関して、それぞれ、[P]tは(相対蛍光単位での)固定化された標的の総濃度、[L]tは使用されたTLPC突然変異タンパク質の濃度であり、 [P・L]は(相対蛍光単位、rFUでの)形成された複合体の濃度であり、KDは見かけの解離定数である。
【0159】
結果として得られたrhuVEGF165およびBSAに対する結合曲線を図9に示す。TLPC突然変異タンパク質S69.4 O13と規定された標的タンパク質rhuVEGF165との間の複合体の見かけの解離定数について得られた値は、109±34 nMと同定された(表2)。対照タンパク質BSAに対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表2】
【0160】
実施例7
ファージミド提示およびポリスチロールマルチウェルプレートを用いたヒトhCD22の細胞外ドメインに対するTLPC突然変異タンパク質の選択
TLPC突然変異タンパク質の選択のために、実施例1からのファージミドライブラリーを用いた。TLPC突然変異タンパク質の選択は実施例3に記載されたように行われた。その方法との違いは以下に記載される。すなわち、標的タンパク質とのインキュベーションの前に、多重反応性または異常な折りたたみのリポカリン突然変異タンパク質を提示するファージミドの除去のために、ライブラリーからのファージミドをBSAでブロッキングしたポリスチロールウェル中で2回、各15分間インキュベーションした。hCD22の細胞外ドメイン(Peprotech EC LTD, UK)を5μg/mlの濃度でポリスチロールプレート上に被覆した。最初の溶出ステップでは、吸着したファージミドを各ウェル当たり300μlの0.1 M グリシン/HCl pH2.2で10分間処理し、続いて適当量の0.5 M Trisの添加によって各溶出画分のpHを直ちに中和した。塩基性溶出ステップは、各ウェル当たり300μlの70 mMトリエチルアミンで10分間行われ、続いて適当量の1 M Tris/HCl, pH 7.4の添加によって各溶出画分のpHは直ちに中和された。最後の溶出ステップとして、各ウェルに300μlの対数増殖しているXL1 blue(OD550は約0.5)を移し、30分間37℃でインキュベーションした。第二濃縮サイクルからは、混合したファージミド溶液の半分だけを、実施例3に記載されたようなファージミド増幅に用いた。投入したファージミドおよび溶出されたファージミドの数を測定するために、選択の各サイクルの後、実施例3に従って、選択(panning)に用いられたファージミド、8回目の洗浄画分および溶出されたファージミドのスポット滴定が行われた。
【0161】
第二濃縮サイクルからは約1 x 1011のファージミドだけを用いたことを除いて、このような方法で、それぞれの前回の濃縮サイクルから増幅されたファージミドの調製物を用いて、更に3回のhCD22に対する選択が行われた。
【0162】
実施例8
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用によるhCD22結合TLPC突然変異タンパク質の同定
C末端T7検出タグ(Novagen)ならびにStrep-tag(登録商標)II親和性タグを備えたhCD22結合TLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間にTLPCを含む遺伝子カセットをベクターpTLPC7(図4)からベクターpTLPC8(図8)にサブクローニングした。実施例4に記載されたハイスループットELISAスクリーニング法によって、hCD22結合TLPC突然変異タンパク質を同定した。一次スクリーニングにおいてhCD22に特異的に結合したTLPC突然変異タンパク質は、同様に実施例4において記載されたような二次ハイスループットELISAスクリーニング実験において更に詳細な結合解析のために選択された。
【0163】
TLPC突然変異タンパク質の標的特異性の検出のために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのhCD22溶液(5μg/ml, Peprotech)または、対照として、hCD33-Fc溶液(1μg/ml, R&D Research)、hIgG1溶液(10μg/ml, Jackson ImmunoResearch)、streptactin溶液(10μg/ml, IBA)、ヒト血清アルブミン溶液(HSA, 10μg/ml, Sigma)、ならびにRNaseA(10μg/ml; FlukaからのRNase)のジゴキシンとのコンジュゲートの溶液によって、4℃で一晩被覆した。
【0164】
すべての検査されたTLPC 突然変異タンパク質はhCD22に特異的に結合し、それらのTLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列は、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて決定された。すべての配列決定されたクローンは、クローンS76.1H10と同一の配列を示した。このクローン、S76.1H10のヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、TLPC8(図8)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表3に示される。クローンS76.1H10のヌクレオチド配列はまた、配列番号13として示される。
【表3】
【0165】
実施例9
TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例8から得られた突然変異タンパク質S76.1 H10の調製的産生のために、2つのBstXI切断部位の間の突然変異されたコード領域を、ベクターpTLPC7(図4)から発現プラスミドpTLPC8(図8)にサブクローニングした。従って、得られたプラスミドは、突然変異タンパク質とOmpAシグナル配列およびC末端でのT7タグならびにStrep-tag(登録商標)IIとの融合タンパク質をコードした。
【0166】
E. coli-JM83およびE. coli-W3110の単一コロニーを、それぞれ、TLPC突然変異タンパク質S76.1 H10をコードするプラスミドpTLPC8で形質転換した。振盪フラスコ発現、1 lでの発酵、SA-クロマトグラフィー、およびサイズ排除クロマトグラフィーは、実施例5に記載されたように行われた。突然変異タンパク質S76.1 H10は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)から、それぞれ単量体および二量体タンパク質を含む2つの異なるピークに溶出されることが発見された。両タンパク質画分の結合親和性をELISAで測定した。
【0167】
実施例10
ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質の親和性の測定
実施例9に記載されたように得られた突然変異タンパク質S76.1 H10の希釈系列を、直接被覆されたhCD22および対照タンパク質hCD33-Fc、HSA、hIgG1に対する結合についてELISAアッセイにおいて検査した。
【0168】
この目的のために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのhCD22(5μg/ml, Peprotech)または対照タンパク質hCD33-Fc(1μg/ml, R&D Research)、HSA(10μg/ml, Sigma)、hIgG1(10μg/ml, Jackson ImmunoResearch)によって、4℃で一晩被覆した。
【0169】
再度の洗浄ステップ後、適切な濃度範囲にわたる実施例9で得られた突然変異タンパク質S76.1 H10のPBST での希釈系列を、被覆したhCD22ならびに対照タンパク質hCD33-Fc、HSAおよびhIgG1に添加し、室温で1時間インキュベーションした。続いて、結合した突然変異タンパク質を、それぞれの製造業者の推奨に従ってStreptactin-HRPコンジュゲート(IBA)および蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)(PIERCE)により検出した。室温で適切な時間インキュベーションした後、GENiosPlusプレートリーダーにおいて、蛍光を320 nm(±12.5 nm)の波長で励起し、430 nm(±17.5 nm)で測定した。
【0170】
曲線は、実施例6に記載されたように、コンピュータープログラムKaleidagraph(Synergy software)を用いた非線形最小二乗回帰によって近似された。
【0171】
結果として得られた結合曲線を図10および図11に示す。TLPC突然変異タンパク質と標的タンパク質hCD22との間の複合体、ならびにTLPC突然変異タンパク質と対照タンパク質hCD33-Fc(R&D Systems)、ヒトIgG1(Jackson ImmunoResearch)およびヒト血清アルブミン(HSA, Sigma)との間の複合体の見かけの解離定数について得られた値を表4に要約する。対照タンパク質に対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表4】
【0172】
実施例11
ファージミド提示およびポリスチロールマルチウェルプレートを用いたヒトCD25の細胞外ドメインに対するTLPC突然変異タンパク質の選択
実施例1に記載されたファージミドライブラリーからのCD25特異的突然変異タンパク質の選択、およびELISA実験におけるこれらの突然変異タンパク質のその後の解析のために使用される標的は、R&D systemsから購入された(組換えヒトIL-2 Rアルファ/Fc キメラ)。
【0173】
実施例1に記載されたファージミドライブラリーからのCD25特異的TLPC突然変異タンパク質の選択のために、5回の選択を行い、ここでは、捕捉mAb(マウス抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的; Jackson ImmunoResearch)を5μg/mlの濃度でポリスチロールプレートに被覆した。PBS中の2.5% w/v BSAでブロッキングした後、5μg/mlの濃度のCD25-Fcを添加し、室温で1時間インキュベーションし、CD25特異的ファージミドの濃縮のために使用した。吸着したファージミドを、0.1 Mグリシン/HCl pH 2.2を用いた変性条件下で、実施例3に記載されたように溶出した。
【0174】
実施例12
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用によるCD25結合TLPC突然変異タンパク質の同定
C末端T7検出タグ(Novagen)ならびにC末端Strep-tag(登録商標)II親和性タグを備えたTLPC突然変異タンパク質の分析的産生、およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間の遺伝子カセットをベクターpTLPC7(配列番号1; 図4)からpTLPC8(配列番号24;図8)にサブクローニングした。
【0175】
この目的のために、最後の選択サイクルの結果として溶出された実施例11からのファージミドによる感染によって得られたE. coliクローンの混合物から、プラスミドDNAを単離した。CD25特異的突然変異タンパク質のスクリーニングは、実施例4に記載されたハイスループットELISA法に従って行われた。実施例11に記載されるようにマイクロタイタープレートに固定化した特異的な標的CD25への結合について、粗細胞抽出液を検査した。並行して、それぞれ、10μg/ml, 10μg/mlおよび5μg/mlの濃度で被覆した、関係のないタンパク質HSA、ヒトガンマグロブリン(Jackson ImmunoResearch)および捕捉mAbへの結合について、粗細胞抽出液を検査した。特異的な結合特性を有するクローンを二次ハイスループットELISAアッセイにおいて確認した。このアッセイでは、一次スクリーニングに使用したものと同一のタンパク質、ならびに更なる関係のないタンパク質(それぞれ、10μg/ml、 5μg/mlおよび3%で被覆した BSA、CD 154(組換えヒトsCD40リガンド; Acris ; カタログ番号: PA151XC) およびミルク)への結合について、粗抽出液を検査した。
【0176】
特異的な標的に対して高いシグナルを有し、関係のないタンパク質に対して低いシグナルを有する12クローンを選択し、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて、そのTLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列を決定した。1つの突然変異タンパク質が選択手順の間に濃縮されたことが発見された。このクローン、S67.7 C6のヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、pTLPC8(配列番号24)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表5に示される。S67.7 C6のヌクレオチド配列はまた、配列番号20として示される。
【表5】
【0177】
実施例13
TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例12において記載された突然変異タンパク質S67.7 C6の調製的産生については、この突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC8を有するE. coli K12株W3110を、実施例5に記載されたような発酵槽培養によるペリプラズムでの産生のために使用した。
【0178】
突然変異タンパク質を、ペリプラズム画分から、製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いたStrep-Tactin Superflow素材(IBA)による一段階のクロマトグラフ法で精製した。
【0179】
製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いて、Superdex75素材(Amersham Pharmacia Biotech)により、ゲルろ過を行った。その単量体画分を集め、更なる解析段階のために使用した。
【0180】
実施例14
ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質のCD25に対する親和性の測定
実施例13に記載されたように得られた突然変異タンパク質S67.7 C6の希釈系列を、捕捉されたCD25-Fcならびに対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対する結合についてELISAアッセイで検査した。
【0181】
この目的のために、黒色のFluotrac 600 マイクロタイタープレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、5μg/mlの濃度の捕捉mAb(マウス抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的; Jackson ImmunoResearch)によって室温で1時間または4℃で一晩被覆した。洗浄ステップおよびそれに続くPBST 中の3% w/v粉乳によるブロッキングステップの後、5μg/mlの濃度のCD25-Fcを添加し、室温で1時間インキュベーションした。並行して、関係のないタンパク質である捕捉mAb、HSA、およびFCS(ウシ胎仔血清; Invitrogen)を、それぞれ、5μg/ml, 10μg/mlおよび10μg/mlの濃度で被覆した。更に、ヒトIgG Fc断片(Accurate Chemical)は、5μg/mlで被覆された捕捉mAbによって、5μg/mlの濃度で捕捉された。
【0182】
再度の洗浄ステップの後、適切な濃度範囲にわたるPBST 中の突然変異タンパク質S67.7 C6の希釈系列を、捕捉されたCD25-Fcならびに対照タンパク質である捕捉mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に添加し、室温で1時間インキュベーションした。その後、結合した突然変異タンパク質を、それぞれの製造業者の推奨に従って、Streptactin-HRPコンジュゲート(IBA)および蛍光HRP基質QuantaBlu(商標)(PIERCE)により検出した。室温で適切な時間インキュベーションした後、GENiosPlusプレートリーダーにおいて、蛍光を320 nm(±12.5 nm)の波長で励起し、430 nm(±17.5 nm)で測定した。
【0183】
曲線は、実施例6に記載されたように、コンピュータープログラムKaleidagraph(Synergy software)を用いた非線形最小二乗回帰によって近似された。
【0184】
結果として得られた捕捉されたCD25-Fcおよび捕捉mAbに対する結合曲線を図12に示す。TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6と規定された標的タンパク質CD25-Fcとの間の複合体の見かけの解離定数について得られた値は、表6に要約される。対照タンパク質である捕捉mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表6】
【0185】
実施例15
ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の作製
ヒトCD25を発現している安定な細胞株の作製のために、CHO-K1細胞(DSMZ, No. ACC 110)を、ヒトCD25(NCBI受入番号NM_000417 [gi:4557666])をコードしている発現ベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)(配列番号10; 図13)で形質転換した。
【0186】
発現ベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+)は、以下に記載されるように得られた。ヒトCD25の完全なコード配列を、ヒト末梢血リンパ球のcDNAから配列番号35のフォワードプライマーおよび配列番号36のリバースプライマーを用いたPCRによって増幅した。シグナルペプチドを含む完全長タンパク質をコードするPCR産物を、製造業者の推奨に従ってクローニングベクターpCR-BluntII-TOPO(Invitrogen)にライゲーションした。結果として生じたベクターからXhoI/HindIII制限酵素消化によってCD25 cDNAを切り出し、Sambrookら(上述)に記載されたようなアガロースゲル電気泳動によって単離した。その断片を精製し(Wizard SV Clean Up Kit, Promega)、同一の制限酵素を用いて線状化した発現ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(Invitrogen)にライゲーションした。E. coli XL1-Blueを、結果として生じた発現ベクター(CD25-pcDNA3.1Zeo(+))で形質転換し、EndoFree Plasmid Maxi Kit(Qiagen)を用いて、そのDNAを抽出、精製した。
【0187】
10%(v/v) FCSを含むDMEM Glutamax I培地(Gibco)中で、37℃、5% CO2で培養した400.000個のCHO-K1細胞(DSMZ, No. ACC 110)を3.5 cmプレートに播種し、翌日に4μgのプラスミドDNAおよび10μlのLipofectamine2000(Invitrogen)を用いて製造業者の推奨に従ってトランスフェクトした。細胞はCD25-pcDNA3.1Zeo(+)または対照としてpcDNA3.1Zeo(+)のいずれかによってトランスフェクトされた。1日後、細胞をトリプシン処理し、5枚の9.5 cmプレートに移した。翌日、1 mlの培地当たり200μgのゼオシンを添加することによって選択を開始した。1週間後、ゼオシン耐性クローンを24ウェルプレートに移し、その後、T25培養フラスコ(Greiner)で培養した。いくつかのクローンのCD25発現を実施例16に記載されるようなFACS解析によって解析した。最も高い発現を示すクローンを保持し、ストックを冷凍し、すべての更なるアッセイを継代数30までのこれらの細胞株を用いて行った。
【0188】
実施例16
TLPC突然変異タンパク質のヒトCD25を発現しているCHO細胞株への特異的結合に関する検査
ヒトCD25を発現しているCHO細胞株への特異的結合について、フローサイトメトリーアッセイにおいて、突然変異タンパク質S67.7 C6を検査した。この目的のために、実施例15において記載されたCD25-pcDNA3.1Zeo(+)またはpcDNA3.1Zeo(+)でトランスフェクトしたCHO細胞を、0.2% w/v EDTAを用いて培養フラスコからはがした。約200.000個の細胞を、30μl PBS/2% v/v FCSに再懸濁し、実施例13に記載されたように得られた10μg S67.7 C6とともにインキュベーションし、SchlehuberおよびSkerra(Biol. Chem. (2001) 382, 1335-1342)に記載された方法に基づき等モル比のフルオレセイン(フルオレセイン-5(6)-カルボキシアミドカプロン酸N-スクシンイミジルエステル; Fluka)で標識された。陰性対照として、pTLPC8によってコードされ、等モル比のフルオレセインで標識された10μgの組換え野生型TLPCを用いた。CD25発現はFITC標識抗CD25 mAb(Acris, DM519F)によって、アイソタイプ対照としてFITC標識IgG1(Acris, SM10F)を用いて確認された。氷上で30分間のインキュベーション後、FACS Calibur(BectonDickinson)を用いたフローサイトメトリーによる解析の前に、細胞をPBS/2% v/v FCSで2回洗浄した。
【0189】
CD25特異的突然変異タンパク質S67.7 C6とCD25特異的mAbとの両方は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の有意な染色を示すが、モックトランスフェクションしたCHO細胞株の有意な染色は起こらない。対照である野生型TLPCおよびIgG1は、検査された両細胞株に対して有意な結合を示さない。得られたヒストグラムを図14に示す。
【0190】
実施例17
CD25特異的TLPC突然変異タンパク質の親和性成熟のためのエラープローンPCRライブラリーの作製
実施例12において記載されたCD25特異的突然変異タンパク質S67.7-C06を親和性成熟法のために使用した。そのために、突然変異タンパク質S67.7-C06に基づいてエラープローンPCR法を用いることにより、第二世代ライブラリーを作製した。CD25に関する結合情報を既に刷り込まれているこのライブラリーは、ヌクレオチド類似体8-オキソdGTPおよびdPTP(TEBU-Bio)を用いて、文献(Zaccoloら(1996) J. Mol. Biol. 255,589-603)に記載される方法に従って作製された。エラープローン増幅反応のために、5'ビオチン化オリゴヌクレオチドである配列番号7および配列番号8をヌクレオチド類似体とともに用いた。これらのオリゴデオキシヌクレオチドはBstXI制限酵素認識部位に隣接しているため、増幅は、TLPC突然変異タンパク質の構造遺伝子の大部分を含むBstXI遺伝子カセットの全体に無作為に分布する点突然変異を引き起こす。Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてPCR産物を精製し、クローニングの目的のために、TPLC突然変異タンパク質の核酸の形での親和性成熟ライブラリーに相当するこの断片を、まず、製造業者の説明書に従って制限酵素BstXI(Promega)で切断し、その後、上述のように精製し、303ヌクレオチドのサイズの二本鎖DNA断片を得た。消化されなかったか、または不完全に消化されたDNA断片は、実施例1に記載されたように、ストレプトアビジン被覆常磁性ビーズ(Merck)を用いて、それらの5'ビオチンタグによって除去された。
【0191】
上記からの親和性成熟突然変異タンパク質のその後のライゲーションのために、実施例1に記載されたように、ベクターpTLPC7(図4)のDNAから、3907断片を調製し、精製した。ライゲーション反応のために、3.32μg(15 pmol)のPCR断片および38.7μg(15 pmol)のベクター断片を、全容量4200μl(50 mM Tris/HCl pH 7.8、10 mM MgCl2、10 mM DTT、1 mM ATP、50μg/ml BSA)中の420 Weiss UnitのT4 DNAリガーゼ(Promega)の存在下で、48時間16℃でインキュベーションした。その後、ライゲーション混合物中のDNAを、105μlの酵母tRNA(10 mg/ml水溶液(Roche))、4200μlの5 M酢酸アンモニウム、および16.8 mlのエタノールを加えることによって沈殿させた。実施例1に従って更なる処理を行い、最後に、DNAを全容量210μlの水に溶解し、200μg/mlの最終濃度にした。
【0192】
エレクトロコンピテントE. coli XL1-Blueの調製および形質転換(Bullockら、上述)は、実施例1に従って行われた。全量42μgのライゲーションされたDNAを用いることによって、全21回のエレクトロポレーションの実行で、約2.6 x 109の形質転換体が得られた。形質転換体は更に、PCT出願WO03/029471の実施例7に記載されるようなファージミドの調製のために使用された。
【0193】
実施例18
ファージミド提示およびポリスチロールマルチウェルプレートを用いた親和性改善CD25特異的TLPC突然変異タンパク質の選択
実施例17に記載されたエラープローンPCRライブラリーから、親和性改善されたCD25特異的TLPC突然変異タンパク質を選択するために、実施例3に記載された一般方法に従って2つの異なる戦略(それぞれ選択戦略AおよびB)を用いて3回の選択を行った。その方法との違いは以下に記載される。標的タンパク質とのインキュベーションの前に、多重反応性または異常な折りたたみのリポカリン突然変異タンパク質を提示するファージミドの除去のために、ライブラリー由来のファージミドをBSAでブロッキングしたポリスチロールウェル中で各15分間、2回インキュベーションした。
【0194】
捕捉mAb(マウス抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的; Jackson ImmunoResearch)を5μg/mlの濃度でポリスチロールプレートに被覆した。PBS中の2.5% w/v BSAでブロッキングした後、0.063μg/ml(選択戦略A)または0.016μg/ml(選択戦略B)の濃度のCD25-Fcを添加し、室温で1時間インキュベーションした。吸着したファージミドを、変性条件下および細菌株XL1 blueを用いた競合により、実施例7に記載されたように溶出した。第一、第二および第三の選択サイクルでは、約2 x 1011、1 x 1011および1 x 1010のファージミドを濃縮過程のための投入として使用し、それぞれ、8、10および12回の洗浄サイクルを行った。ファージミドを26℃ではなく22℃でインキュベーションする以外は実施例3に記載されたように、ファージミド増幅を行った。
【0195】
実施例19
コロニースクリーニング法の使用による親和性改善CD25特異的TLPC突然変異タンパク質の同定
Strep-tag(登録商標)IIおよびアルブミン結合ドメイン(ABD)を含む融合タンパク質としてのTLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびコロニースクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間の遺伝子カセットをファージミドベクターpTLPC7(配列番号1; 図4)からpTLPC9(配列番号22; 図15)にサブクローニングした。
【0196】
この目的のために、最後の選択サイクルの結果として溶出された実施例18からの選択戦略Bのファージミドによる感染によって得られたE. coliクローンの混合物から、プラスミドDNAを単離した。遺伝子カセットのスクリーニングベクターpTLPC9へのサブクローニング、およびE. coli K12 TG1-F-細胞の形質転換の後、Schlehuber, S.ら(上述)に記載される方法に基づくフィルターサンドイッチコロニースクリーニング法によって、親和性改善されたCD25特異的突然変異タンパク質のためのスクリーニングを行った。
【0197】
384ウェルのマイクロタイタープレートでの一晩培養物から得られた単一クローンのコレクションを、LB/Amp 寒天プレートの上に置かれた6枚の親水性PVDF膜上に、384ピンヘッド(Genetix)を用いて同一パターンで二連にスポットした。37℃で4時間の培養とそれに続く22℃で2時間の別のインキュベーションステップ後、親水性膜をHSAで被覆した疎水性膜の上に置き、それを次に200μg/lのaTcを含むLB/Amp 寒天プレートの上に置いた。培養プレートを重ねられた両方の膜とともに22℃で一晩インキュベーションした。この間に、それぞれのTLPC突然変異タンパク質は上の膜のコロニーから遊離し、それらのアルブミン結合ドメインを介して下の膜のHSAに固定化された。
【0198】
親和性改善されたCD25特異的突然変異タンパク質の同定のために、疎水性膜を5つの異なる濃度のCD25-Fc(10 nM、3 nM、1 nM、0.3 nMおよび0.1 nM)を用いて並行してスクリーニングした。突然変異タンパク質/CD25-Fc複合体を、それぞれの製造業者の推奨に従って、抗ヒトIgG-Fc-HRPコンジュゲート(ペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的; Jackson ImmunoResearch)およびペルオキシダーゼのための発色DAB基質キット(Vector Laboratories)により検出した。並行して、突然変異タンパク質発現を、それぞれの製造業者の推奨に従って、Streptactin-HRPコンジュゲート(IBA)およびDAB基質キットによりモニターした。
【0199】
最低濃度のCD25-Fcに対して最も高いシグナルを伴う選択戦略B由来の合計9クローンが選択され、それぞれのTLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列は、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて決定された。機能的な挿入を有する8つの固有の突然変異タンパク質が同定された。これらから、1つのクローンを更なる解析のために選択した。このクローン、F92.8 M1.2 E15のヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、pTLPC9(配列番号22)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表7に示される。クローンF92.8 M1.2 E15のヌクレオチド配列はまた、配列番号21として示される。
【表7】
【0200】
表7に見られるように、CD25突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15は、野生型Tlpcと比較して骨格位置23、50、および51にアミノ酸突然変異を有している。
【0201】
実施例20
コロニースクリーニング法によって選択された親和性改善TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例19において記載された突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の調製的産生については、この突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC9を有するE. coli K12株W3110を、実施例5に記載されたような発酵槽培養によるペリプラズムでの産生のために使用した。
【0202】
突然変異タンパク質を、ペリプラズム画分から、製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いたStrep-Tactin Superflow素材(IBA)による一段階のクロマトグラフ法で精製した。
【0203】
製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いて、Superdex75素材(Amersham Pharmacia Biotech)により、ゲルろ過を行った。突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15は、サイズ排除カラムから、それぞれ単量体および二量体タンパク質を含む2つの異なるピークに溶出されることが発見された。単量体および二量体画分を集め、更なる解析段階のために使用した。
【0204】
実施例21
ELISAにおける親和性改善TLPC突然変異タンパク質のCD25に対する親和性の測定
実施例20に記載されたように得られた突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体および二量体画分の希釈系列を、捕捉されたCD25-Fcならびに対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対する結合についてELISAアッセイで検査した。
【0205】
2.5μg/mlのCD25-Fcおよび2.5μg/mlのヒトIgG Fc断片を捕捉のために使用したこと以外は、実施例14に記載されたようにアッセイを行った。
【0206】
結果として得られた、捕捉されたCD25-Fcおよび捕捉 mAbに対する結合曲線を、それぞれ図16および図17に示す。TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体または二量体と規定された標的タンパク質CD25-Fcとの間の複合体の見かけの解離定数について得られた値を表8に要約する。対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表8】
【0207】
実施例22
ヒトCD154を発現しているCHO細胞株の作製
ヒトCD154を発現している安定な細胞株の作製のために、CHO-K1細胞(DSMZ, No. ACC 110)を、ヒトCD154(NCBI受入番号BC_074950 [gi:49902361])をコードしている発現ベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)(配列番号11; 図18)でトランスフェクションした。
【0208】
発現ベクターCD154 pcDNA3.1Zeo(+)は以下に記載されるように得られた。本発明者らは、CD154 がサブクローニングされたpLXSNベクター(BD Biosciences Clontech)から、ヒトCD154(NCBI受入番号BC_074950 [gi:49902361])をコードするDNAを得た。完全長cDNAの正確な配列を配列番号38および配列番号39のオリゴヌクレオチドを用いたプラスミドの配列決定によって確認した。ヒトCD154の完全な配列をコードするDNA断片を、このベクターからXhoI/ApaIによる制限酵素消化によって切り出し、Sambrookら(上述)に記載されるようなアガロースゲル電気泳動によって単離した。その断片を精製し(Wizard SV Clean Up Kit, Promega)、同一の制限酵素を用いて線状化した発現ベクターpcDNA3.1Zeo(+)(Invitrogen)にライゲーションした。XL1-Blue細菌を、結果として生じた発現ベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)で形質転換し、EndoFree Plasmid Maxi Kit(Qiagen)を用いて、そのDNAを抽出、精製した。
【0209】
CHO-K1細胞(DSMZ, No. ACC 110)の培養および発現ベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)でのトランスフェクションは、実施例15に記載された方法に基づいて行われた。いくつかのクローンのCD 154発現を実施例23に記載されるようなFACS解析によって解析した。最も高い発現を示すクローンを、最大継代数30までで、すべての更なるアッセイのために用いた。
【0210】
実施例23
親和性改善TLPC突然変異タンパク質の、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株への特異的結合に関する検査
ヒトCD25を発現しているCHO細胞株への特異的結合について、フローサイトメトリーアッセイにおいて、突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15を検査した。この目的のために、それぞれ実施例15および22において記載されたCD25-pcDNA3.1Zeo(+)またはCD154-pcDNA3.1Zeo(+)でトランスフェクトしたCHO細胞を、0.2% w/v EDTAを用いて培養フラスコからはがした。約200.000個の細胞を、30μl PBS/2% v/v FCSに再懸濁し、実施例20に記載されたように得られた2.5μgの単量体F92.8 M1.2 E15とともにインキュベーションし、SchlehuberおよびSkerra(上述)に記載された方法に基づき2倍のモル比のフルオレセイン(フルオレセイン-5(6)-カルボキシアミドカプロン酸N-スクシンイミジルエステル; Fluka)で標識された。陰性対照として、pTLPC8によってコードされ、2倍のモル比のフルオレセインで標識された2.5μgの組換え野生型TLPCを用いた。CD25発現はFITC標識抗CD25 mAb(Acris, DM519F)によって、アイソタイプ対照としてFITC標識IgG1(Acris, SM10F)を用いて確認された。氷上で30分間のインキュベーション後、FACS Calibur(Becton Dickinson)を用いたフローサイトメトリーによる解析の前に、細胞をPBS/2% v/v FCSで2回洗浄した。
【0211】
親和性改善CD25特異的突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15とCD25特異的mAbとの両方は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞株の有意な染色を示すが、ヒトCD154を発現しているCHO細胞株の有意な染色は起こらない。対照である野生型TLPCおよびIgG1は、検査された両細胞株に対して有意な結合を示さない。得られたヒストグラムを図19に示す。
【0212】
実施例24
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用による親和性改善CD25結合TLPC突然変異タンパク質の同定
C末端T7検出タグ(Novagen)ならびにC末端Strep-tag(登録商標)II親和性タグを備えた親和性改善TLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間の遺伝子カセットをベクターpTLPC7(図4)からpTLPC8(図8)にサブクローニングした。
【0213】
この目的のために、最後の選択サイクルの結果として溶出された実施例18からのファージミドによる感染によって得られたE. coliクローンの混合物から、プラスミドDNAを単離した。親和性改善されたCD25特異的突然変異タンパク質のスクリーニングは、実施例4に記載されたハイスループットELISA法に従って行われた。異なる濃度(それぞれ、5μg/ml、1μg/ml、0.2μg/ml、0.04μg/mlおよび0.008μg/ml)で捕捉されたCD25-Fcへの結合について、粗細胞抽出液を検査した。並行して、5μg/mlで被覆された捕捉mAbを介して5μg/mlの濃度で捕捉されたヒトIgG Fc断片(Accurate Chemical)への結合について、粗細胞抽出液を検査した。特異的な結合特性を示し、最も低い標的濃度に対して高いシグナルを保持するクローンを、二次ハイスループットELISAにおいて確認した。このアッセイでは、1μg/mlおよび0.1μg/mlで捕捉されるCD25-Fcへの結合について、粗抽出液を検査した。加えて、それぞれ、5μg/ml 、10μg/ml、 5μg/mlおよび10μg/mlで被覆した、関係のないタンパク質である捕捉mAb、HSA、CD154およびヒトガンマグロブリン(Jackson ImmunoResearch)への結合について、粗抽出液を検査した。
【0214】
最低濃度の捕捉されたCD25-Fcで高いシグナルを生じ、関係のないタンパク質に対して低いシグナルを生じる両方の選択戦略由来の合計13クローンが選択され、それぞれのTLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列は、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて決定された。機能的な挿入を有する7つの固有の突然変異タンパク質が同定された。これらから、更なる解析のために3クローンを選択した。これらのクローン、選択戦略Aに由来するS99.3 H24およびS99.3 C13ならびに選択戦略Bに由来するS99.4 F15のヌクレオチド配列は、アミノ酸配列に翻訳され、pTLPC8(配列番号24)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は、表9に示される。クローンS99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15のヌクレオチド配列はまた、それぞれ配列番号17、配列番号18および配列番号19として示される。
【表9】
【0215】
表9に見られるように、親和性成熟から同定されたTlpc突然変異タンパク質は、βバレル構造の閉鎖末端での結合部位における突然変異だけでなく、天然のリポカリン結合ポケットを形成するペプチドセグメントにおける突然変異(ここではABペプチドループの残基28、32)および骨格領域の位置での突然変異(それぞれ、Tlpc配列の位置67、86)も含んでいた。
【0216】
実施例25
ハイスループットELISAスクリーニング法によって選択された親和性改善TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例24において記載された突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15の調製的産生については、これらの突然変異タンパク質をコードする発現ベクターpTLPC8を有するE. coli K12株W3110を、実施例5に記載されたような発酵槽培養によるペリプラズムでの産生のために使用した。
【0217】
突然変異タンパク質を、ペリプラズム画分から、製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いたStrep-Tactin Superflow素材(IBA)による一段階のクロマトグラフ法で精製した。
【0218】
製造業者の推奨に従って適切なベッド容量のカラムおよび適切な装置を用いて、Superdex75素材(Amersham Pharmacia Biotech)により、ゲルろ過を行った。単量体画分を集め、更なる解析段階のために使用した。
【0219】
実施例26
ELISAにおける親和性改善TLPC突然変異タンパク質のCD25に対する親和性の測定
実施例25に記載されたように得られた突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15の希釈系列を、捕捉されたCD25-Fcならびに対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対する結合についてELISAアッセイで検査した。
【0220】
2.5μg/mlのCD25-Fcおよび2.5μg/mlのヒトIgG Fc断片を捕捉のために使用したこと以外は、実施例14に記載されたようにアッセイを行った。
【0221】
結果として得られた、捕捉されたCD25-Fcおよび捕捉 mAbに対する結合曲線を、図20に示す。TLPC突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15と規定された標的タンパク質CD25-Fcとの間の複合体の見かけの解離定数について得られた値を表10に要約する。対照タンパク質である捕捉 mAb、HSA、FCSおよび捕捉されたヒトIgG Fc断片に対して、測定可能な結合活性は得られなかった。
【表10】
【0222】
実施例27
ファージミド提示、ならびにポリスチロールマルチウェルプレートおよびプロテインA磁気ビーズを用いたヒトCD33-Fcの細胞外ドメインに対するTLPC突然変異タンパク質の選択
TLPC突然変異タンパク質の選択のために、実施例2に記載されたようなファージミドライブラリーを使用した。ポリスチロールマルチウェルプレートを用いたTLPC突然変異タンパク質の選択は実施例3に記載されたように行われた。その方法との違いは実施例7に記載される。標的hCD33-Fc(R&D Research)を1μg/mlの濃度で、直接ポリスチロールプレートに被覆した。
【0223】
TLPC突然変異タンパク質の選択は、基本的に製造業者の説明書に従って、プロテインAビーズ(Dynabeads Protein A, Dynal)を用いて行われた。ファージミドおよび標的のためのブロッキング剤としてBSAを選択した。酸性(0.1 Mグリシン/HCl pH2.2; 室温で10分間; 0.5 M Tris塩基で中和)および/または塩基性(70 mMトリエチルアミン; 室温で10分間; 1M Tris/HCl, ph 7.4で中和)条件下でファージミドを溶出し、続いて実施例7に記載されたように最後の細菌溶出ステップを行った。
【0224】
その方法との違いは、標的タンパク質とともにインキュベーションする前に、多重反応性または異常な折りたたみのリポカリン突然変異タンパク質を提示するファージミドの除去のために、ライブラリーからのファージミドをBSAでブロッキングされた100μlのプロテインAビーズとともに各15分間で2回インキュベーションしたことであり、これ以外は、実施例7に記載される。
【0225】
第二サイクルからは約1・1011のファージミドだけを用いたことを除いて、このような方法で、それぞれの前回の濃縮サイクルから増幅されたファージミドの調製物を用いて、4回のhCD33-Fcに対する選択が行われた。
【0226】
実施例28
ハイスループットELISAスクリーニング法の使用によるhCD33結合TLPC突然変異タンパク質の同定
N末端T7検出タグ(Novagen)ならびにC末端にStrep-tag(登録商標)II親和性タグを備えたhCD33結合TLPC突然変異タンパク質の分析的産生およびハイスループットELISAスクリーニングによるそれらの解析のために、2つのBstXI切断部位の間にTLPCを含む遺伝子カセットをベクターpTLPC12(図7)からベクターpTLPC14(図21)にサブクローニングした。実施例4に記載されたように、ハイスループットELISAスクリーニング法によって、hCD33結合TLPC突然変異タンパク質を同定した。一次スクリーニングにおいてhCD33に特異的に結合したTLPC突然変異タンパク質は、同じ実施例において記載されたように、二次ハイスループットELISAスクリーニング実験において更に詳細な結合解析のために選択された。
【0227】
組換えTLPC突然変異タンパク質の標的特異性の検出のために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのAffiniPureマウス抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体(5μg/ml, Jackson ImmonoResearch)溶液、ならびに、対照として、hCD22(5μg/ml, Peprotech)、hIgG1(10μg/ml, Jackson ImmunoResearch)、streptactin(10μg/ml, IBA)、ヒト血清アルブミン(10μg/ml, Sigma)ならびにRNaseA(10μg/ml; FlukaからのRNase)およびジゴキシゲニンのコンジュゲートによって、一晩4℃で被覆した。標的hCD33-Fcは抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体によって1時間室温で捕捉された。
【0228】
多数のTLPC突然変異タンパク質がhCD33-Fc特異的に結合することが判明し、TLPC遺伝子カセットのヌクレオチド配列は、いくつかのクローンから、プライマーとして配列番号37のオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、製造業者の説明書に従って自動Genetic Analyzer system(Applied Biosystems)で、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いて決定された。
【0229】
ポリスチロールマルチウェル選択から明らかにされたクローンの配列決定は、4つの異なるリポカリン突然変異タンパク質を示した。それらのうち2つを更に解析した。これらのクローンのヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、TLPC14(図21)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表11に示される。S101.2 O08およびS101.2 A20と命名されたこれらのリポカリン突然変異タンパク質のヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号16および配列番号15として示される。
【0230】
プロテインAビーズ選択から選択されたクローンの配列決定は、2つの異なるリポカリン突然変異タンパク質を示した。更なる解析のために選択されたクローンS100.1-I08のヌクレオチド配列はアミノ酸配列に翻訳され、TLPC14(図21)によってコードされる改変TLPCから逸脱しているそれらのアミノ酸は表11に示される。そのヌクレオチド配列はまた、配列番号25として示される。
【表11】
【0231】
+2、+4は、実施例2に記載されたTLPCライブラリーのループ1における2または4アミノ酸の挿入を表す。
【0232】
実施例29
TLPC突然変異タンパク質の産生
実施例28から得られた抗hCD33突然変異タンパク質S100.1 I08、S101.2 A20およびS101.2 O08の調製的産生のために、2つのBstXI切断部位の間の突然変異されたコード領域を、ベクターpTLPC12(図7)から発現プラスミドpTLPC14(図21)にサブクローニングした。従って、得られたプラスミドは、突然変異タンパク質とOmpAシグナル配列およびN末端でのT7タグならびにC末端でのStrep-tag(登録商標)IIとの融合タンパク質をコードした。
【0233】
E. coli-W3110(発酵)またはE. coli-JM83(振盪フラスコ発現)の単一コロニーを、それぞれ、TLPC突然変異タンパク質S100.1 I08、S101.2 A20またはS101.2 O08をコードするpTLPC14プラスミドで形質転換した。振盪フラスコ発現、1 lでの発酵、SA-クロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、実施例5に記載されたように行われた。SECは、クローンS100.1 I08およびS101.2 O08については、二量体および単量体タンパク質画分を示した。単量体および二量体画分の結合親和性を、別々にELISAで測定した。
【0234】
実施例30
ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質の親和性の測定
ELISAにおいて、実施例28から選択されたTLPC突然変異タンパク質の、規定されたタンパク質標的hCD33-Fcならびに関係のない対照タンパク質への結合親和性を測定するために、黒色のFluotrac 600 ELISAプレート(Greiner; 384ウェル)のウェルを、20μlのhCD33-Fc(1μg/ml)、AffiniPureマウス抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体(5μg/ml, Jackson ImmonoResearch)および、対照として、hIgG1(10μg/ml, Jackson ImmunoResearch)によって一晩4℃で被覆した。標的hCD33-Fc(1μg/ml, R&D Research)およびhCD22-Fc(1μg/ml, Peprotech)は、AffiniPureマウス抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体によって1時間室温で捕捉された。その後、実施例29からのTLPC突然変異タンパク質を用いて、実施例10において記載されたように、ELISAを行った。
【0235】
結果として得られた結合曲線は実施例10において記載されたように近似され、図22〜24に示される。TLPC突然変異タンパク質と標的タンパク質hCD33-Fcとの間の複合体、ならびにTLPC突然変異タンパク質と対照タンパク質hCD22-Fc(R&D Systems)およびHSA(Sigma)との間の複合体の見かけの解離定数について得られた値を、表12に要約する。
【表12】
【0236】
実施例31
BIAcoreにおけるTLPC突然変異タンパク質の親和性の測定
14000応答単位(RU)のAffiniPureマウス抗ヒトIgG Fcγ断片特異的抗体(Jackson ImmunoResearch)を、製造業者の推奨に従ってCM5センサーチップ(Biacore)にアミン結合によって結合させた。10μlの0.2 mg/ml hCD33-Fc溶液を2μl/minの流速で注入することにより、3000 RUのhCD33-Fc(R&D research)をこの表面に捕捉させた。HBS(10 mM HEPES, 150 mM NaCl, 2 mM EDTA, 0.005% v/v Tween pH7.4)を泳動バッファーとして用いた。すべてのサンプルをこの泳動バッファー中に希釈した。40μl のサンプルを20μl/minの流速で注入することにより、実施例29において得られたTLPC突然変異タンパク質を、hCD33-Fcが捕捉された表面に添加した。添加したTLPC突然変異タンパク質の溶液は、S101.2 A20およびS101.2 O08についてそれぞれ、10μMおよび6.4μMであった。チップの表面を10 mM HClで再生し、続けて、次のリポカリン突然変異タンパク質を測定する前に、hCD33-Fcを再結合させた。すべての測定はBIAcore X装置で行われた。S100.1 I08の結合親和性を測定するために、2000 RUのhCD33-Fcが上述の表面に捕捉され、添加されたリポカリン突然変異タンパク質溶液は5μMの濃度であった。得られた結合曲線はBiacoreからのBIAevaluation software 3.1を用いて近似され、図25〜27に示される。その結果得られるTLPC突然変異タンパク質の親和性結合定数を表13に要約する。
【表13】
【図面の簡単な説明】
【0237】
【図1】図1は、成熟ヒト涙リポカリンのポリペプチド配列(SWISS-PROT Data Bank 受入番号 M90424)を示す。
【図2】図2は、リポカリンの折りたたみの構造を模式的に示す。
【図3】図3は、核酸レベルでβバレルの閉鎖末端をランダム化した涙リポカリン突然変異タンパク質のライブラリーの作製を模式的に図解する。
【図4】図4は、ファージミドベクターpTLPC7を模式的に示す。
【図5】図5は、ファージミドベクターpTLPC6を模式的に示す。
【図6】図6は、核酸レベルでβバレルの開放末端をランダム化した涙リポカリン突然変異タンパク質のライブラリーの作製を模式的に図解する。
【図7】図7は、ファージミドベクターpTLPC12を模式的に示す。
【図8】図8は、発現ベクターpTLPC8を模式的に示す。
【図9】図9は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S69.4 O13のrhuVEGF165への結合を示す。
【図10】図10は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10単量体のhCD22への結合を示す。
【図11】図11は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S76.1 H10二量体のhCD22への結合を示す。
【図12】図12は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S67.7 C6のヒトCD25への結合を示す。
【図13】図13は、哺乳動物トランスフェクションベクターCD25-pcDNA3.1Zeo(+) を模式的に示す。
【図14】図14は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞のフルオレセイン標識TLPC突然変異タンパク質S67.7 C6による染色を示す。
【図15】図15は、発現ベクターpTLPC9を模式的に示す。
【図16】図16は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の単量体画分のヒトCD25への結合を示す。
【図17】図17は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15の二量体画分のヒトCD25への結合を示す。
【図18】図18は、哺乳動物トランスフェクションベクターCD154-pcDNA3.1Zeo(+)を模式的に示す。
【図19】図19は、ヒトCD25を発現しているCHO細胞のフルオレセイン標識TLPC突然変異タンパク質F92.8 M1.2 E15による染色を示す。
【図20】図20は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S99.3 H24、S99.3 C13およびS99.4 F15それぞれのヒトCD25への結合を示す。
【図21】図21は、発現ベクターpTLPC14を模式的に示す。
【図22】図22は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S100.1 I08単量体および二量体のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図23】図23は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S101.2 A20のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図24】図24は、ELISAにおけるTLPC突然変異タンパク質S101.2 O08単量体および二量体のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図25】図25は、BIAcore実験におけるTLPC突然変異タンパク質S100.1 I08二量体のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図26】図26は、BIAcore実験におけるTLPC突然変異タンパク質S101.2 A20のhCD33-Fcへの結合を示す。
【図27】図27は、BIAcoreにおけるTLPC突然変異タンパク質S101.2 O08のhCD33-Fcへの結合を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であって、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端ペプチド伸長部ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、前記涙リポカリンまたはそのホモログがヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、前記突然変異タンパク質が検出可能な親和性で特定の標的に結合する、突然変異タンパク質。
【請求項2】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンに由来する、請求項1に記載の突然変異タンパク質。
【請求項3】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、43〜49、70〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項1または2に記載の突然変異タンパク質。
【請求項4】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置8、9、10、11、12、13、43、45、47、70、72、74、75、90、92、94、および97に相当する任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質。
【請求項5】
涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であって、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、前記涙リポカリンまたはそのホモログがヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、前記突然変異タンパク質が検出可能な親和性で特定の標的に結合する、突然変異タンパク質。
【請求項6】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンに由来する、請求項5に記載の突然変異タンパク質。
【請求項7】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項5または6に記載の突然変異タンパク質。
【請求項8】
更に、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端ペプチド伸長部ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質。
【請求項9】
ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、43〜49、70〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項8に記載の突然変異タンパク質。
【請求項10】
ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置8、9、10、11、12、13、43、45、47、70、72、74、75、90、92、94、および97に相当する任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項8または9に記載の突然変異タンパク質。
【請求項11】
涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であって、
ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端領域ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、
突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、
前記涙リポカリンまたはそのホモログはヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、
前記突然変異タンパク質が検出可能な親和性で少なくとも1つの特定の標的に結合する、突然変異タンパク質。
【請求項12】
突然変異タンパク質が、有機分子、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属錯体、金属、および金コロイドからなる群より選択される標識とコンジュゲートされる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質。
【請求項13】
突然変異タンパク質がそのN末端またはそのC末端でタンパク質、タンパク質ドメインまたはペプチドと融合される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項15】
ベクター中に含まれる請求項14に記載の核酸分子。
【請求項16】
ファージミドベクター中に含まれる請求項14に記載の核酸分子。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の作製方法であって、
(a)涙リポカリンまたはそのホモログがヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有する前記涙リポカリンまたはそのホモログをコードする核酸分子に、2つ以上の異なるコドンでの突然変異誘発を受けさせること、
(b)(a)で得られた少なくとも1つの突然変異タンパク質核酸分子を適切な発現系で発現させること、および、
(c)特定の標的に対して検出可能な結合親和性を有する少なくとも1つの突然変異タンパク質を、選択および/または単離によって濃縮すること、
を含む方法。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の産生方法であって、突然変異タンパク質、突然変異タンパク質の断片、または突然変異タンパク質と別のポリペプチドとの融合タンパク質を、突然変異タンパク質をコードする核酸から遺伝子組換え法を用いて産生する方法。
【請求項20】
突然変異タンパク質が細菌性または真核性宿主生物で産生され、この宿主生物またはその培養物から単離される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
突然変異タンパク質、突然変異タンパク質の断片、または突然変異タンパク質と別のポリペプチドとの融合タンパク質がペプチド合成によって産生される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の産生方法。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の少なくとも1つを含む医薬組成物。
【請求項23】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の、特定の標的の検出についての使用であって、
(a)前記標的を含むと考えられる検査サンプルと突然変異タンパク質を接触させるステップ、および、
(b)適切なシグナルによって突然変異タンパク質/標的複合体を検出するステップ、
を含む使用。
【請求項24】
特定の標的がタンパク質もしくはタンパク質ドメイン、ペプチド、核酸分子、有機分子、または金属錯体である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
検出が薬理学的な薬物標的としてのタンパク質の検証のために行われる、請求項23または24に記載の使用。
【請求項26】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の、特定の標的の分離についての使用であって、
(a)前記標的を含むと考えられるサンプルと突然変異タンパク質を接触させること、および、
(b)サンプルから突然変異タンパク質/標的複合体を分離すること、
を含む使用。
【請求項27】
突然変異タンパク質/標的複合体が固相上に結合される、請求項23〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の、事前に選択した部位への化合物の標的化のための使用であって、
(a)前記化合物と突然変異タンパク質を接触させること、および、
(b)突然変異タンパク質/化合物複合体を事前に選択した部位へ送達すること、
を含む使用。
【請求項29】
特定の標的との複合体形成のための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の使用。
【請求項1】
涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であって、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端ペプチド伸長部ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、前記涙リポカリンまたはそのホモログがヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、前記突然変異タンパク質が検出可能な親和性で特定の標的に結合する、突然変異タンパク質。
【請求項2】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンに由来する、請求項1に記載の突然変異タンパク質。
【請求項3】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、43〜49、70〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項1または2に記載の突然変異タンパク質。
【請求項4】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置8、9、10、11、12、13、43、45、47、70、72、74、75、90、92、94、および97に相当する任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質。
【請求項5】
涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であって、ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、前記涙リポカリンまたはそのホモログがヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、前記突然変異タンパク質が検出可能な親和性で特定の標的に結合する、突然変異タンパク質。
【請求項6】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンに由来する、請求項5に記載の突然変異タンパク質。
【請求項7】
突然変異タンパク質がヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置24〜36、53〜66、79〜84、および103〜110に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項5または6に記載の突然変異タンパク質。
【請求項8】
更に、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端ペプチド伸長部ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質。
【請求項9】
ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置7〜14、43〜49、70〜77、および87〜97に相当するペプチドセグメント中の任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項8に記載の突然変異タンパク質。
【請求項10】
ヒト涙リポカリンの直鎖状ポリペプチド配列の配列位置8、9、10、11、12、13、43、45、47、70、72、74、75、90、92、94、および97に相当する任意の2つ以上の配列位置にアミノ酸突然変異を含む、請求項8または9に記載の突然変異タンパク質。
【請求項11】
涙リポカリンまたはそのホモログのポリペプチドに由来する突然変異タンパク質であって、
ここで、突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットの反対に位置するβバレル構造の末端に配置されるN末端領域ならびに3つのペプチドループBC、DE、およびFG中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、
突然変異タンパク質は、天然のリポカリン結合ポケットを包囲する4つのペプチドループAB、CD、EF、およびGH中の任意の配列位置に少なくとも2つの突然変異したアミノ酸残基を含み、
前記涙リポカリンまたはそのホモログはヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有し、
前記突然変異タンパク質が検出可能な親和性で少なくとも1つの特定の標的に結合する、突然変異タンパク質。
【請求項12】
突然変異タンパク質が、有機分子、酵素標識、放射性標識、着色標識、蛍光標識、発色標識、発光標識、ハプテン、ジゴキシゲニン、ビオチン、金属錯体、金属、および金コロイドからなる群より選択される標識とコンジュゲートされる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質。
【請求項13】
突然変異タンパク質がそのN末端またはそのC末端でタンパク質、タンパク質ドメインまたはペプチドと融合される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項15】
ベクター中に含まれる請求項14に記載の核酸分子。
【請求項16】
ファージミドベクター中に含まれる請求項14に記載の核酸分子。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の作製方法であって、
(a)涙リポカリンまたはそのホモログがヒト涙リポカリンと少なくとも60%の配列相同性を有する前記涙リポカリンまたはそのホモログをコードする核酸分子に、2つ以上の異なるコドンでの突然変異誘発を受けさせること、
(b)(a)で得られた少なくとも1つの突然変異タンパク質核酸分子を適切な発現系で発現させること、および、
(c)特定の標的に対して検出可能な結合親和性を有する少なくとも1つの突然変異タンパク質を、選択および/または単離によって濃縮すること、
を含む方法。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の産生方法であって、突然変異タンパク質、突然変異タンパク質の断片、または突然変異タンパク質と別のポリペプチドとの融合タンパク質を、突然変異タンパク質をコードする核酸から遺伝子組換え法を用いて産生する方法。
【請求項20】
突然変異タンパク質が細菌性または真核性宿主生物で産生され、この宿主生物またはその培養物から単離される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
突然変異タンパク質、突然変異タンパク質の断片、または突然変異タンパク質と別のポリペプチドとの融合タンパク質がペプチド合成によって産生される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の産生方法。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の少なくとも1つを含む医薬組成物。
【請求項23】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の、特定の標的の検出についての使用であって、
(a)前記標的を含むと考えられる検査サンプルと突然変異タンパク質を接触させるステップ、および、
(b)適切なシグナルによって突然変異タンパク質/標的複合体を検出するステップ、
を含む使用。
【請求項24】
特定の標的がタンパク質もしくはタンパク質ドメイン、ペプチド、核酸分子、有機分子、または金属錯体である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
検出が薬理学的な薬物標的としてのタンパク質の検証のために行われる、請求項23または24に記載の使用。
【請求項26】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の、特定の標的の分離についての使用であって、
(a)前記標的を含むと考えられるサンプルと突然変異タンパク質を接触させること、および、
(b)サンプルから突然変異タンパク質/標的複合体を分離すること、
を含む使用。
【請求項27】
突然変異タンパク質/標的複合体が固相上に結合される、請求項23〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の、事前に選択した部位への化合物の標的化のための使用であって、
(a)前記化合物と突然変異タンパク質を接触させること、および、
(b)突然変異タンパク質/化合物複合体を事前に選択した部位へ送達すること、
を含む使用。
【請求項29】
特定の標的との複合体形成のための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の突然変異タンパク質の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公表番号】特表2007−531503(P2007−531503A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524319(P2006−524319)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009447
【国際公開番号】WO2005/019256
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(504119398)ピエリス プロテオラブ アーゲー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009447
【国際公開番号】WO2005/019256
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(504119398)ピエリス プロテオラブ アーゲー (1)
【Fターム(参考)】
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